特許第6953934号(P6953934)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6953934ゴルフボール用樹脂組成物およびゴルフボール
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  • 特許6953934-ゴルフボール用樹脂組成物およびゴルフボール 図000007
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6953934
(24)【登録日】2021年10月4日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】ゴルフボール用樹脂組成物およびゴルフボール
(51)【国際特許分類】
   A63B 37/00 20060101AFI20211018BHJP
   C08L 23/26 20060101ALI20211018BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20211018BHJP
   C08L 53/02 20060101ALI20211018BHJP
【FI】
   A63B37/00 412
   C08L23/26
   C08L77/00
   C08L53/02
   A63B37/00 316
【請求項の数】10
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-175460(P2017-175460)
(22)【出願日】2017年9月13日
(65)【公開番号】特開2019-52204(P2019-52204A)
(43)【公開日】2019年4月4日
【審査請求日】2020年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125184
【弁理士】
【氏名又は名称】二口 治
(74)【代理人】
【識別番号】100188488
【弁理士】
【氏名又は名称】原谷 英之
(72)【発明者】
【氏名】重光 貴裕
【審査官】 中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−102628(JP,A)
【文献】 特開平09−225065(JP,A)
【文献】 特開2008−266389(JP,A)
【文献】 特開2012−111915(JP,A)
【文献】 特開平11−128401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A63B 37/00
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂成分として、(A)アイオノマー樹脂、ポリアミド、および、スチレン系エラストマーよりなる群から選択される少なくとも1種の成分と、(B)重量平均分子量が5,000〜80,000の酸変性ポリオレフィンのみを含有し、(A)成分として、少なくともアイオノマー樹脂を含有することを特徴とするゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項2】
樹脂成分として、(A)アイオノマー樹脂、ポリアミド、および、スチレン系エラストマーよりなる群から選択される少なくとも1種の成分と、(B)重量平均分子量が5,000〜80,000の酸変性ポリオレフィンとを含有し、(A)成分として、少なくともアイオノマー樹脂を含有することを特徴とするゴルフボール用樹脂組成物(ただし、樹脂成分として、ポリエチレン、および、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体の部分ケン化物のいずれも含有しない)
【請求項3】
前記酸変性ポリオレフィンは、式(I)で表される構造を有するものである請求項1または2に記載のゴルフボール用樹脂組成物。
【化1】
[式(I)中、Rは、炭素数が1以上の炭化水素基。nは、1以上の整数。]
【請求項4】
式(I)中、Rは、分岐構造を有するものである請求項に記載のゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項5】
前記酸変性ポリオレフィンは、酸変性ポリプロピレンである請求項1〜4のいずれか一項に記載のゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項6】
酸変性ポリオレフィンは、マレイン酸変性ポリオレフィンである請求項1〜5のいずれか一項に記載のゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項7】
ゴルフボール用樹脂組成物中の(B)成分の含有量は、(A)成分100質量部に対して、0.1質量部〜10質量部である請求項1〜6のいずれか一項に記載のゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項8】
(A)成分として、アイオノマー樹脂およびポリアミドを含有する請求項1〜7のいずれか一項に記載のゴルフボール用樹脂組成物。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載のゴルフボール用樹脂組成物から形成された構成部材を有するゴルフボール。
【請求項10】
コアと、前記コアを被覆する少なくとも一層の中間層と、前記中間層を被覆するカバーとを有するゴルフボールであって、前記中間層の少なくとも一層が、請求項1〜8のいずれか一項に記載のゴルフボール用樹脂組成物から形成されていることを特徴とするゴルフボール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴルフボール用材料およびゴルフボールに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴルフボールの構造としては、例えば、コアとカバーとを有するツーピースゴルフボール、コアと前記コアを被覆する一層の中間層と、前記中間層を被覆するカバーとを有するスリーピースゴルフボール、コアと前記コアを被覆する少なくとも二以上の中間層と、前記中間層を被覆するカバーとを有するマルチピースゴルフボールが挙げられる。ゴルフボールの各層を構成する材料として、アイオノマー樹脂が使用されている。アイオノマー樹脂は、剛性が高く、ゴルフボールの構成部材として使用すると、飛距離の大きいゴルフボールが得られる。そのため、アイオノマー樹脂は、ゴルフボールの中間層やカバーの材料として広く使用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アイオノマー樹脂と、エチレン・不飽和カルボン酸エステル共重合体の部分ケン化物と、無水マレイン酸基を有するポリマーと、の溶融混合物であることを特徴とするゴルフボール用樹脂組成物が開示されています。
【0004】
特許文献2には、(A)アイオノマー樹脂90〜10重量%、及び(B)エチレンと炭素数4以上のα−オレフィンとを共重合して得られ、比重が0.86〜0.92であり、かつ重量平均分子量(Mw)を数平均分子量(Mn)で除した値が2.5以下であるコポリマー10〜90重量%からなる樹脂組成物に、前記(A)成分及び(B)成分の合計量100重量部に対して、(C)極性基を有するポリオレフィン0.5〜20重量部を配合してなることを特徴とするゴルフボール用カバー材が開示されています。
【0005】
特許文献3には、(a)アイオノマー樹脂、(b)ポリエチレン、及び(d)低分子量ポリエチレンワックスの加熱混合物を主成分とすることを特徴とするゴルフボール用カバー材が開示されています。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−225065号公報
【特許文献2】特開平11−57071号公報
【特許文献3】特開2009−178602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ゴルフボールには、飛距離が大きいことが求められている。例えば、カバーや中間層を形成するゴルフボール用樹脂組成物の硬度を高くすることで、ドライバーショットのスピン量が低減し、飛距離が大きくなる。また、硬度が高いゴルフボール用樹脂組成物を使用することにより、得られるゴルフボールの反発性も大きくなる。しかし、カバーや中間層を形成するゴルフボール用樹脂組成物の硬度を高くすると、ゴルフボールの耐久性が低下する。本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、硬度および反発性を実質的に低下させることなく、耐久性を向上させることができるゴルフボール用樹脂組成物およびこれを用いたゴルフボールを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、(A)アイオノマー樹脂、ポリアミド、および、スチレン系エラストマーよりなる群から選択される少なくとも1種の成分と、(B)重量平均分子量が5,000〜80,000の酸変性ポリオレフィンとを含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、硬度および反発性を実質的に低下させることなく、耐久性を向上させることができるゴルフボール用樹脂組成物を提供できる。また、本発明のゴルフボールは、反発性および耐久性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係るゴルフボールが示された一部切り欠き断面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、(A)アイオノマー樹脂、ポリアミド、および、スチレン系エラストマーよりなる群から選択される少なくとも1種の成分と、(B)重量平均分子量が5,000〜80,000の酸変性ポリオレフィンとを含有することを特徴とする。
【0012】
まず、(A)成分のうち、(A1)アイオノマー樹脂について説明する。
前記アイオノマー樹脂としては、オレフィンと、炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂;オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂;または、これらの混合物を挙げることができる。
【0013】
前記アイオノマー樹脂は、熱可塑性であることが好ましい。
【0014】
なお、本発明において、「オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂」を単に「二元系アイオノマー樹脂」と称し、「オレフィンと炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸とα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物からなるアイオノマー樹脂」を単に「三元系アイオノマー樹脂」と称する場合がある。
【0015】
前記オレフィンとしては、炭素数が2〜8個のオレフィンが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等を挙げることができ、特にエチレンであることが好ましい。前記炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等が挙げられ、特にアクリル酸またはメタクリル酸が好ましい。また、α,β−不飽和カルボン酸エステルとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸等のメチル、エチル、プロピル、n−ブチル、イソブチルエステル等が用いられ、特にアクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルが好ましい。
【0016】
前記二元系アイオノマー樹脂としては、エチレン−(メタ)アクリル酸二元共重合体の金属イオン中和物が好ましい。前記三元系アイオノマー樹脂としては、エチレンと(メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸エステルとの三元共重合体の金属イオン中和物が好ましい。ここで、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸および/またはメタクリル酸を意味する。
【0017】
前記二元系アイオノマー樹脂中の炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸成分の含有率は、15質量%以上が好ましく、16質量%以上がより好ましく、17質量%以上がさらに好ましく、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましい。炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸成分の含有率が、15質量%以上であれば、得られる構成部材を所望の硬度にしやすくなるからである。また、炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸成分の含有率が、30質量%以下であれば、得られる構成部材の硬度が高くなり過ぎず、耐久性と打球感が良好になるからである。
【0018】
前記二元系アイオノマー樹脂のカルボキシ基の中和度は、15モル%以上が好ましく、20モル%以上が好ましく、100モル%以下が好ましい。中和度が15モル%以上であれば、得られるゴルフボールの反発性および耐久性が良好になる。なお、前記二元系アイオノマー樹脂のカルボキシ基の中和度は、下記式で求めることができる。また、理論上のアイオノマー樹脂中のカルボキシ基の中和度が100モル%を超えるように金属成分を含有する場合がある。
【0019】
二元系アイオノマー樹脂の中和度(モル%)=100×二元系アイオノマー樹脂中の中和されているカルボキシ基のモル数/二元系アイオノマー樹脂中のカルボキシ基の総モル数
【0020】
前記二元系アイオノマー樹脂のカルボキシ基の少なくとも一部を中和する金属イオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの1価の金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属イオン;アルミニウムなどの3価の金属イオン;錫、ジルコニウムなどのその他のイオンが挙げられる。
【0021】
前記二元系アイオノマー樹脂の具体例を商品名で例示すると、三井・デュポンポリケミカル(株)から市販されている「ハイミラン(Himilan)(登録商標)(例えば、ハイミラン1555(Na)、ハイミラン1557(Zn)、ハイミラン1605(Na)、ハイミラン1706(Zn)、ハイミラン1707(Na)、ハイミランAM7311(Mg)、ハイミランAM7329(Zn)など」が挙げられる。
【0022】
さらにデュポン社から市販されている「サーリン(Surlyn)(登録商標)(例えば、サーリン8945(Na)、サーリン9945(Zn)、サーリン8140(Na)、サーリン8150(Na)、サーリン9120(Zn)、サーリン9150(Zn)、サーリン6910(Mg)、サーリン6120(Mg)、サーリン7930(Li)、サーリン7940(Li)、サーリンAD8546(Li))」などが挙げられる。
【0023】
またエクソンモービル化学(株)から市販されているアイオノマー樹脂としては、「アイオテック(Iotek)(登録商標)(例えば、アイオテック8000(Na)、アイオテック8030(Na)、アイオテック7010(Zn)、アイオテック7030(Zn))」などが挙げられる。
【0024】
前記二元系アイオノマー樹脂は、例示のものをそれぞれ単独または2種以上の混合物として用いてもよい。前記商品名の後の括弧内に記載したNa、Zn、Li、Mgなどは、これらの中和金属イオンの金属種を示している。
【0025】
前記二元系アイオノマー樹脂の曲げ剛性率は、140MPa以上が好ましく、より好ましくは150MPa以上、さらに好ましくは160MPa以上であり、550MPa以下が好ましく、より好ましくは500MPa以下、さらに好ましくは450MPa以下である。前記二元系アイオノマー樹脂の曲げ剛性率が低すぎると、ゴルフボールのスピン量が増加して飛距離が低下する傾向があり、曲げ剛性率が高すぎると、ゴルフボールの耐久性が低下する場合がある。
【0026】
前記二元系アイオノマー樹脂のメルトフローレイト(190℃、2.16kg荷重)は、0.1g/10min以上が好ましく、より好ましくは0.5g/10min以上、さらに好ましくは1.0g/10min以上であり、30g/10min以下が好ましく、より好ましくは20g/10min以下、さらに好ましくは15g/10min以下である。前記二元系アイオノマー樹脂のメルトフローレイト(190℃、2.16kg荷重)が0.1g/10min以上であれば、ゴルフボール用樹脂組成物の流動性が良好になり、例えば、薄い層の成形が可能となる。また、前記二元系アイオノマー樹脂のメルトフローレイト(190℃、2.16kg荷重)が30g/10min以下であれば、得られるゴルフボールの耐久性がより良好となる。
【0027】
前記三元系アイオノマー樹脂中の炭素数3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸成分の含有率は、2質量%以上が好ましく、より好ましくは3質量%以上であり、30質量%以下が好ましく、より好ましくは25質量%以下である。
【0028】
前記三元系アイオノマー樹脂のカルボキシ基の中和度は、20モル%以上が好ましく、より好ましくは30モル%以上であり、100モル%以下が好ましい。中和度が15モル%以上であれば、得られるゴルフボールの反発性および耐久性が良好になる。なお、アイオノマー樹脂のカルボキシ基の中和度は、下記式で求めることができる。また、理論上のアイオノマー樹脂中のカルボキシ基の中和度が100モル%を超えるように金属成分を含有する場合がある。
アイオノマー樹脂の中和度(モル%)=100×アイオノマー樹脂中の中和されているカルボキシ基のモル数/アイオノマー樹脂中のカルボキシ基の総モル数
【0029】
前記三元系アイオノマー樹脂のカルボキシ基の少なくとも一部を中和する金属イオンとしては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどの1価の金属イオン;マグネシウム、カルシウム、亜鉛、バリウム、カドミウムなどの2価の金属イオン;アルミニウムなどの3価の金属イオン;錫、ジルコニウムなどのその他のイオンが挙げられる。
【0030】
前記三元系アイオノマー樹脂の具体例を商品名で例示すると、三井デュポンポリケミカル(株)から市販されている「ハイミラン(Himilan)(登録商標)(例えば、ハイミランAM7327(Zn)、ハイミラン1855(Zn)、ハイミラン1856(Na)、ハイミランAM7331(Na)など)」が挙げられる。さらにデュポン社から市販されている三元系アイオノマー樹脂としては、「サーリン6320(Mg)、サーリン8120(Na)、サーリン8320(Na)、サーリン9320(Zn)、サーリン9320W(Zn)、HPF1000(Mg)、HPF2000(Mg)など)」が挙げられる。またエクソンモービル化学(株)から市販されている三元系アイオノマー樹脂としては、「アイオテック7510(Zn)、アイオテック7520(Zn)など)」が挙げられる。なお、商品名の後の括弧内に記載したNa、Zn、Mgなどは、中和金属イオンの種類を示している。前記三元系アイオノマー樹脂は、単独または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
前記三元系アイオノマー樹脂の曲げ剛性率は、10MPa以上が好ましく、より好ましくは11MPa以上、さらに好ましくは12MPa以上であり、100MPa以下が好ましく、より好ましくは97MPa以下、さらに好ましくは95MPa以下である。前記三元系アイオノマー樹脂の曲げ剛性率が低すぎると、ゴルフボールのスピン量が増加して飛距離が低下する傾向があり、曲げ剛性率が高すぎると、ゴルフボールの耐久性が低下する場合がある。
【0032】
前記三元系アイオノマー樹脂のメルトフローレイト(190℃、2.16kg荷重)は、0.1g/10min以上が好ましく、より好ましくは0.3g/10min以上、さらに好ましくは0.5g/10min以上であり、20g/10min以下が好ましく、より好ましくは15g/10min以下、さらに好ましくは10g/10min以下である。前記三元系アイオノマー樹脂のメルトフローレイト(190℃、2.16kg荷重)が0.1g/10min以上であれば、ゴルフボール用樹脂組成物の流動性が良好となり、薄い層の成形が容易になる。また、前記三元系アイオノマー樹脂のメルトフローレイト(190℃、2.16kg荷重)が20g/10min以下であれば、得られるゴルフボールの耐久性がより良好となる。
【0033】
前記三元系アイオノマー樹脂のスラブ硬度は、ショアD硬度で20以上が好ましく、より好ましくは25以上、さらに好ましくは30以上であり、70以下が好ましく、より好ましくは65以下、さらに好ましくは60以下である。前記スラブ硬度が、ショアD硬度で20以上であれば、得られる構成部材が、柔らかく成り過ぎず、ゴルフボールの反発性が良好になる。また、前記スラブ硬度が、ショアD硬度で70以下であれば、得られる構成部材が硬くなりすぎず、ゴルフボールの耐久性がより良好となる。
【0034】
(A2)ポリアミド
次に、(A)成分として使用する(A2)ポリアミドについて説明する。前記ポリアミドとしては、分子の主鎖中にアミド結合(−NH−CO−)を複数有するものであれば特に限定されず、例えば、ラクタムを開環重合させたり、ジアミン成分とジカルボン酸成分とを反応させたりすることによって、アミド結合が分子内に形成された生成物が挙げられる。
【0035】
前記ポリアミドは、熱可塑性であることが好ましい。
【0036】
前記ポリアミドとしては、例えば、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミド9T、ポリアミドM5T、ポリアミド612などの脂肪族系ポリアミド;ポリ−p−フェニレンテレフタルアミド、ポリ−m−フェニレンイソフタルアミドなどの芳香族系ポリアミドが挙げられる。これらは単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド11、ポリアミド12などの脂肪族系ポリアミドが好適である。
【0037】
前記ポリアミドの具体例を商品名で示すと、例えば、アルケマ社から市販されている「リルサン(登録商標)B(例えば、リルサンBESN TL、リルサンBESN P20 TL、リルサンBESN P40 TL、リルサンMB3610、リルサンBMF O、リルサンBMN O、リルサンBMN O TLD、リルサンBMN BK TLD、リルサンBMN P20 D、リルサンBMN P40 Dなど)」などが挙げられる。
【0038】
本発明で使用するポリアミドは、ポリアミドエラストマーを含んでもよい。ポリアミドエラストマーは、ポリアミド成分からなるハードセグメント部分とソフトセグメント部分とを有する。ポリアミドエラストマーのソフトセグメント部分としては、例えば、ポリエーテルエステル成分又はポリエーテル成分を挙げることができる。前記ポリアミドエラストマーとしては、例えば、ポリアミド成分(ハードセグメント成分)と、ポリオキシアルキレングリコール及びジカルボン酸からなるポリエーテルエステル成分(ソフトセグメント成分)との反応で得られるポリエーテルエステルアミド;ポリアミド成分(ハードセグメント成分)と、ポリオキシアルキレングリコールの両末端をアミノ化又はカルボキシル化したものとジカルボン酸又はジアミンとからなるポリエーテル(ソフトセグメント成分)との反応で得られるポリエーテルアミドが例示される。
【0039】
前記ポリアミドエラストマーとして、例えば、アルケマ社製の「ペバックス(登録商標)2533」、「ペバックス3533」、「ペバックス4033」、「ペバックス5533」などを挙げることができる。
【0040】
(A)成分として使用する(A3)スチレン系エラストマーについて説明する。
スチレン系エラストマーとしては、スチレンブロックを含有するエラストマーを好適に使用できる。前記スチレンブロック含有エラストマーは、ハードセグメントとしてのポリスチレンブロックと、ソフトセグメントとを備えている。典型的なソフトセグメントは、ジエンブロックである。ジエンブロックの構成成分としては、ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン及び2,3−ジメチル−1,3−ブタジエンが例示される。ブタジエン及びイソプレンが好ましい。2以上の構成成分が併用されてもよい。
【0041】
前記スチレン系エラストマーは、熱可塑性であることが好ましい。
【0042】
スチレンブロック含有エラストマーには、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−イソプレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SIBS)、SBSの水添物、SISの水添物及びSIBSの水添物が含まれる。SBSの水添物としては、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SEBS)が挙げられる。SISの水添物としては、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)が挙げられる。SIBSの水添物としては、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)が挙げられる。
【0043】
前記スチレンブロック含有エラストマーにおけるスチレン成分の含有率は10質量%以上が好ましく、12質量%以上がより好ましく、15質量%以上が特に好ましい。得られるゴルフボールの打球感の観点から、この含有率は50質量%以下が好ましく、47質量%以下がより好ましく、45質量%以下が特に好ましい。
【0044】
前記スチレンブロック含有エラストマーには、SBS、SIS、SIBS、SEBS、SEPS及びSEEPS、並びに、これらの水添物からなる群から選択された1種又は2種以上と、ポリオレフィンとのアロイが含まれる。このアロイ中のオレフィン成分は、アイオノマー樹脂との相溶性向上に寄与すると推測される。このアロイが用いられることにより、ゴルフボールの反発性能が向上する。好ましくは、炭素数が2以上10以下のオレフィンが用いられる。好適なオレフィンとしては、エチレン、プロピレン、ブテン及びペンテンが例示される。エチレン及びプロピレンが特に好ましい。
【0045】
ポリマーアロイの具体例としては、三菱化学社製「ラバロンT3221C」、「ラバロンT3339C」、「ラバロンSJ4400N」、「ラバロンSJ5400N」、「ラバロンSJ6400N」、「ラバロンSJ7400N」、「ラバロンSJ8400N」、「ラバロンSJ9400N」及び「ラバロンSR04」が挙げられる。スチレンブロック含有熱可塑性エラストマーの他の具体例としては、ダイセル化学工業社製「エポフレンドA1010」が挙げられる。
【0046】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、(A)成分として、(A1)アイオノマー樹脂、(A2)ポリアミド、および、(A3)スチレン系エラストマーよりなる群から選択される少なくとも1種の成分を含有する。具体的には、本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、(A)成分として、(A1)アイオノマー樹脂、(A2)ポリアミド、または、(A3)スチレン系エラストマーのいずれか1種を含有する態様;(A1)アイオノマー樹脂と(A2)ポリアミドとを含有する態様;(A1)アイオノマー樹脂と(A3)スチレン系エラストマーとを含有する態様;(A2)ポリアミドと(A3)スチレン系エラストマーとを含有する態様;(A1)アイオノマー樹脂と(A2)ポリアミドと(A3)スチレン系エラストマーとを含有する態様を挙げることができる。
【0047】
(A)成分として、(A1)アイオノマー樹脂と(A2)ポリアミドとを含有する態様では、(A1)アイオノマー樹脂と(A2)ポリアミドとの含有比率は、質量比((A1)/(A2))で、1/99以上が好ましく、2/98以上がより好ましく、5/95以上がさらに好ましく、60/40以上が特に好ましく、95/5以下が好ましく、90/10以下がより好ましく、80/20以下がさらに好ましい。(A1)成分と(A2)成分との質量比が前記範囲内であれば、得られるゴルフボールの反発性と耐久性が優れるからである。
【0048】
次に、本発明で使用する(B)酸変性ポリオレフィンについて説明する。酸変性ポリオレフィンは、ポリオレフィン骨格に酸性基が導入されたポリオレフィンである。
【0049】
酸変性ポリオレフィンは、1種または2種以上のオレフィンをモノマーとして合成されるものであれば、特に限定されない。酸変性ポリオレフィンを構成するオレフィンとしては、炭素数が2〜8個のオレフィンが好ましく、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン等を挙げることができる。前記ポリオレフィンとしては、ポリエチレンまたはポリプロピレンを主骨格とするものが好ましく、ポリプロピレンを主骨格とするものがより好ましい。
【0050】
前記酸変性ポリレフィンは、式(I)で表される構造を有するものであることが好ましい。
【化1】
式(I)中、Rは、炭素数が1以上の炭化水素基である。Rとしては、炭素数が1以上の炭化水素基が好ましく、炭素数が2以上の炭化水素基がより好ましく、炭素数が10以下の炭化水素基がさらに好ましく、炭素数が7以下の炭化水素基がより好ましく、炭素数が5以下の炭化水素基がさらに好ましい。式(I)中、nは、1以上の整数である。
【0051】
前記炭化水素基としては、アルキレン基が好ましい。前記アルキレン基としては、
メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、オクタデシレン基などを挙げることができる。
【0052】
また、Rは、直鎖構造、分岐鎖構造のいずれであってもよいが、分岐鎖構造を有することが好ましい。Rとしては、例えば、メチルメチレン基が好適である。
【0053】
酸変性ポリオレフィンの酸性基としては、例えば、カルボキシ基、リン酸基、または、スルホン酸基などが挙げられる。酸性基をポリオレフィン骨格へ導入する方法としては、例えば、オレフィンと酸性基を有するモノマーとを共重合する方法、ポリオレフィン骨格に、酸性基を有するモノマーをグラフト重合する方法などが挙げられる。
【0054】
カルボキシ基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸等のα、β−不飽和カルボン酸;(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルに、コハク酸、マレイン酸、フタル酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸などの多塩基酸、それらの酸ハロゲン化物、酸無水物を反応させたモノマーを挙げることができる。
【0055】
リン酸基を有するモノマーとしては、リン酸2−(メタクリロイルオキシ)エチル、メタクリル酸3−クロロ−2−(ホスホノオキシ)プロピル、リン酸2−(メタクリロイルオキシ)プロピル、メタクリル酸2−(フェノキシホスホニルオキシ)エチル、アシッドホスホオキシポリオキシエチレングリコールモノメタクリレート、アシッドホスホオキシポリオキシプロピレングリコールモノメタクリレートなどを挙げることができる。
【0056】
スルホン酸基を有するモノマーとしては、例えば、(メタ)アリルスルホン酸、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリルアミドアルキルスルホン酸、アリルオキシヒドロキシプロパンスルホン酸、あるいはそれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種を挙げることができる。より具体的には、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシプロピルスルホン酸、3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシブチルスルホン酸およびこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等を例示することができる。
【0057】
本発明では、酸変性ポリオレフィンとして、無水カルボン酸変性ポリオレフィンを使用することが好ましく、無水マレイン酸変性ポリオレフィンを使用することがより好ましく、無水マレイン酸ポリエチレンおよび/または無水マレイン酸変性ポリプロピレンを使用することがさらに好ましい。
【0058】
前記酸変性ポリオフィンの重量平均分子量としては、例えば、5,000以上が好ましく、6,000以上がより好ましく、7,000以上がさらに好ましく、80,000以下が好ましく、75,000以下がより好ましく、70,000以下がさらに好ましい。酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量が前記範囲内であれば、ゴルフボールの反発性を低下させずに耐久性を向上させることができるからである。
【0059】
前記酸変性ポリオレフィンの酸価は、0.5mgKOH/g以上が好ましく、1.0mgKOH/g以上がより好ましく、2.0mgKOH/g以上がさらに好ましく、200mgKOH/g以下が好ましく、175mgKOH/g以下がより好ましく、150mgKOH/g以下がさらに好ましい。酸価が前記範囲内であれば、ベースポリマーとの相容性が良くなり、分散が良好となるからである。
【0060】
前記酸変性ポリオレフィンの溶融粘度(mPa・s、160℃〜180℃)は、50以上が好ましく、75以上がより好ましく、100以上がさらに好ましく、30,000以下が好ましく、25,000以下がより好ましく、20,000以下がさらに好ましい。溶融粘度が、前記範囲内であれば、ベースポリマーとの相容性が良くなり、分散が良好となるからである。
【0061】
ゴルフボール用樹脂組成物中の(B)酸変性ポリオレフィンの含有量は、(A)成分100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、0.2質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上がさらに好ましく、10質量部以下が好ましく、9質量部以下がより好ましく、8質量部以下がさらに好ましい。(B)酸変性ポリオレフィンの含有量が、前記範囲内であれば、ゴルフボールの反発性の低下が抑えられ、かつ耐久性がより向上するからである。
【0062】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、樹脂成分として、(A)成分と(B)成分以外の樹脂成分を含有しても良い。この場合、(A)成分と(B)成分との合計含有率は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましい。本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、樹脂成分として、(A)成分と(B)成分のみを含有することも好ましい。
【0063】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物のスラブ硬度は、ショアD硬度で、20以上が好ましく、25以上がより好ましく、30以上がさらに好ましく、90以下が好ましく、85以下がより好ましい。ゴルフボール用樹脂組成物のスラブ硬度が、20以上であれば、得られる構成部材が柔らかく成り過ぎず、ゴルフボールの反発性が良好になる。また、ゴルフボール用樹脂組成物のスラブ硬度が、ショアD硬度で90以下であれば、得られる構成部材が硬くなりすぎず、ゴルフボールの打球感がより良好となる。
【0064】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、さらに、白色顔料(例えば、酸化チタン)、青色顔料などの顔料成分、重量調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料または蛍光増白剤などの添加剤を含有することができる。前記重量調整剤としては、例えば、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タングステン粉末、モリブデン粉末などの無機充填剤を挙げることができる。
【0065】
前記白色顔料(例えば、酸化チタン)の含有量は、(A)成分100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、10質量部以下が好ましく、8質量部以下がより好ましい。白色顔料の含有量を0.5質量部以上とすることによって、得られるゴルフボール構成部材に隠蔽性を付与することができる。また、白色顔料の含有量が10質量部超になると、得られるゴルフボール構成部材の耐久性が低下する場合があるからである。
【0066】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、例えば、(A)成分、(B)成分、および必要に応じてその他の添加剤などを、ドライブレンドすることにより得られる。また、ドライブレンドした混合物を、押出してペレット化してもよい。ドライブレンドには、例えば、ペレット状の原料を配合できる混合機を用いるのが好ましく、より好ましくはタンブラー型混合機を用いる。押出は、一軸押出機、二軸押出機、二軸一軸押出機など公知の押出機を使用することができる。
【0067】
本発明のゴルフボールは、本発明のゴルフボール用樹脂組成物から形成された構成部材を有するゴルフボールであれば、特に限定されない。例えば、単層コアと、前記コアを被覆するように配設されたカバーとを有するツーピースゴルフボール;コアと前記コアを被覆するように配設された単層の中間層と、前記中間層を被覆するように配設されたカバーとを有するスリーピースゴルフボール;または、コアと前記コアを被覆するように配設された一以上の中間層と、前記中間層を被覆するように配設されたカバーを有するマルチピースゴルフボール(前記スリーピースゴルフボールを含む)を構成するいずれかの構成部材が前記ゴルフボール用樹脂組成物から形成されているゴルフボールを挙げることができる。これらの中でも、単層コアと、前記コアを被覆するように配設されたカバーとを有するツーピースゴルフボールにおいて、カバーが、本発明のゴルフボール用樹脂組成物から形成されている態様、および、コアと前記コアを被覆するように配設された一以上の中間層と、前記中間層を被覆するように配設されたカバーを有するマルチピースゴルフボールにおいて、中間層の少なくとも一層が、本発明のゴルフボール用樹脂組成物から形成されている態様が好ましい。
【0068】
以下、本発明のゴルフボールを、コアと前記コアを被覆するように配設された一以上の中間層と、前記中間層を被覆するように配設されたカバーとを有するゴルフボール(スリーピースゴルフボールを含む)であって、前記中間層の少なくとも一層が、本発明のゴルフボール用樹脂組成物から形成されている好ましい態様に基づいて、詳述するが、本発明は、斯かる態様に限定されない。
【0069】
前記好ましい態様において、本発明のゴルフボールのコアの構造としては、単層コア、多層コアのいずれであってもよい。
【0070】
前記コアは、従来公知のゴム組成物(以下、単に「コア用ゴム組成物」という場合がある)から成形することができ、例えば、基材ゴム、架橋開始剤、共架橋剤および充填剤を含むゴム組成物を加熱プレスして成形することができる。
【0071】
前記基材ゴムとしては、天然ゴムおよび/または合成ゴムを使用することができ、例えば、ポリブタジエンゴム、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンポリブタジエンゴム、エチレン−プロピレン−ジエンゴム(EPDM)などを使用できる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、特に、反発に有利なシス−1,4−結合を、40質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上有するハイシスポリブタジエンが好適である。
【0072】
前記架橋開始剤は、基材ゴム成分を架橋するために配合されるものである。前記架橋開始剤としては、有機過酸化物が好適である。具体的には、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t―ブチルパーオキシ)ヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどの有機過酸化物が挙げられる。これらの有機過酸化物は、単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でもジクミルパーオキサイドが好ましく用いられる。架橋開始剤の含有量は、基材ゴム100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であり、3質量部以下が好ましく、より好ましくは2質量部以下である。0.2質量部未満では、コアが柔らかくなりすぎて、ゴルフボールの反発性が低下する傾向があり、3質量部を超えると、適切な硬さにするために、共架橋剤の使用量を減少する必要があり、ゴルフボールの反発性が不足したり、耐久性が悪くなるおそれがある。
【0073】
前記共架橋剤としては、基材ゴム分子鎖にグラフト重合することによって、ゴム分子を架橋する作用を有するものであれば、特に限定されず、例えば、炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸またはその金属塩を使用することができ、好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸、またはこれらの金属塩である。前記金属塩を構成する金属としては、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ナトリウムなどを挙げることができ、得られるゴルフボールの反発性が高くなるということから、亜鉛塩を使用することが好ましい。共架橋剤の使用量は、基材ゴム100質量部に対して、好ましくは10質量部以上、より好ましくは20質量部以上であり、好ましくは50質量部以下、より好ましくは40質量部である。共架橋剤の使用量が10質量部未満では、適当な硬さとするために架橋開始剤の量を増加しなければならず、反発性が低下する傾向がある。一方、共架橋剤の使用量が50質量部を超えると、コアが硬くなりすぎて、打球感が低下するおそれがある。
【0074】
また、前記コア用ゴム組成物は、さらに、有機硫黄化合物を含有してもよい。前記有機硫黄化合物としては、ジフェニルジスルフィド類(例えば、ジフェニルジスルフィド、ビス(ペンタブロモフェニル)ペルスルフィド)、チオフェノール類、または、チオナフトール類(例えば、2−チオナフトール)に属する化合物を好適に使用することができる。有機硫黄化合物の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上が好ましく、より好ましくは0.3質量部以上であって、5.0質量部以下が好ましく、より好ましくは3.0質量部以下である。
【0075】
前記コア用ゴム組成物は、さらにカルボン酸および/またはその金属塩を含有してもよい。カルボン酸および/またはその金属塩としては、炭素数が1〜30のカルボン酸および/またはその塩が好ましい。前記カルボン酸としては、脂肪族カルボン酸(脂肪酸)、芳香族カルボン酸(安息香酸など)のいずれも使用できる。脂肪酸としては、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸のいずれも使用できるが、飽和脂肪酸が好ましい。飽和脂肪酸としては、例えば、カプリル酸(オクタン酸)、ペラルゴン酸(ノナン酸)、カプリン酸(デカン酸)、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸が挙げられる。金属塩の金属としては、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム、ナトリウムが好ましく、より好ましくは亜鉛である。なお、脂肪酸および/またはその金属塩には、前記共架橋剤として使用する炭素数が3〜8個のα,β−不飽和カルボン酸および/またはその金属塩は含まれないものとする。
【0076】
前記脂肪酸および/またはその金属塩の配合量は、基材ゴム100質量部に対して、1質量部以上、40質量部以下である。なお、共架橋剤として使用されるアクリル酸亜鉛の表面は、ゴムへの分散性を向上するためにステアリン酸またはステアリン酸亜鉛で処理されている場合がある。このようなステアリン酸またはステアリン酸亜鉛で表面処理されたアクリル酸亜鉛を使用する場合、表面処理剤であるステアリン酸またはステアリン酸亜鉛の量が脂肪酸および/またはその金属塩の含有量に含まれるものとする。
【0077】
前記コア用ゴム組成物は、必要に応じて、顔料、重量調整などのための充填剤、老化防止剤、しゃく解剤、軟化剤などの添加剤を含有してもよい。
【0078】
コア用ゴム組成物に用いる充填剤としては、主として最終製品として得られるゴルフボールの重量を調整するための重量調整剤として配合されるものであり、必要に応じて配合すれば良い。前記充填剤としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化マグネシウム、タングステン粉末、モリブデン粉末などの無機充填剤を挙げることができる。前記充填剤として特に好ましいのは、酸化亜鉛である。酸化亜鉛は、加硫助剤として機能して、コア全体の硬度を高めるものと考えられる。前記充填剤の含有量は、基材ゴム100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは1質量部以上であって、30質量部以下が好ましく、25質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。充填剤の含有量が0.5質量部未満では、重量調整が難しくなり、30質量部を超えるとゴム成分の重量分率が小さくなり反発性が低下する傾向があるからである。
【0079】
前記老化防止剤の含有量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上、1質量部以下であることが好ましい。また、しゃく解剤の含有量は、基材ゴム100質量部に対して、0.1質量部以上、5質量部以下であることが好ましい。
【0080】
前記コア用ゴム組成物の加熱プレス成形の条件は、ゴム組成に応じて適宜設定すればよいが、通常、130〜200℃で10〜60分間加熱するか、或いは、130〜150℃で20〜40分間加熱した後、160〜180℃で5〜15分間の2段階で加熱することが好ましい。
【0081】
本発明のゴルフボールのコアの形状としては、球状であることが好ましい。コアの形状が球状でない場合には、中間層やカバーの厚みが不均一になる。その結果、部分的に中間層やカバー性能が低下する場合があるからである。
【0082】
本発明のゴルフボールのコアの直径は、34.8mm以上が好ましく、より好ましくは36.8mm以上、さらに好ましくは38.8mm以上であり、42.2mm以下が好ましく、41.8mm以下がより好ましく、さらに好ましくは41.2mm以下であり、最も好ましくは40.8mm以下である。コアの直径が34.8mm以上であれば、カバーの厚みが厚くなり過ぎず、反発性がより良好となる。一方、コアの直径が42.2mm以下であれば、カバーが薄くなり過ぎず、カバーの機能がより発揮される。
【0083】
前記コアは、直径34.8mm〜42.2mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮変形量(圧縮方向にコアが縮む量)が、2.0mm以上が好ましく、2.8mm以上がより好ましく、6.0mm以下が好ましく、5.0mm以下がより好ましい。圧縮変形量が、2.0mm以上であれば打球感がより良好となり、6.0mm以下であれば、反発性がより良好となる。
【0084】
中間層を形成する方法としては、特に限定されないが、例えば、中間層用組成物を予め半球殻状のハーフシェルに成形し、それを2枚用いて球体を包み、加圧成形する方法、または、中間層用組成物を直接球体上に射出成形して球体を包み込む方法などを挙げることができる。
【0085】
本発明のゴルフボール用樹脂組成物を球体上に射出成形して中間層を成形する場合、成形用上下金型としては、半球状キャビティを有しているものを使用することが好ましい。射出成形による中間層の成形は、ホールドピンを突き出し、被覆球体を投入してホールドさせた後、加熱溶融されたゴルフボール用樹脂組成物を注入して、冷却することにより中間層を成形することができる。
【0086】
圧縮成形法により中間層を成形する場合、ハーフシェルの成形は、圧縮成形法または射出成形法のいずれの方法によっても行うことができるが、圧縮成形法が好適である。本発明のゴルフボール用樹脂組成物を圧縮成形してハーフシェルに成形する条件としては、例えば、1MPa以上、20MPa以下の圧力で、ゴルフボール用樹脂組成物の流動開始温度に対して、−20℃以上、+70℃以下の成形温度を挙げることができる。前記成形条件とすることによって、均一な厚みをもつハーフシェルを成形できる。ハーフシェルを用いて中間層を成形する方法としては、例えば、球体を2枚のハーフシェルで被覆して圧縮成形する方法を挙げることができる。ハーフシェルを圧縮成形して中間層に成形する条件としては、例えば、0.5MPa以上、25MPa以下の成形圧力で、ゴルフボール用樹脂組成物の流動開始温度に対して、−20℃以上、+70℃以下の成形温度を挙げることができる。前記成形条件とすることによって、均一な厚みを有する中間層を成形できる。
【0087】
なお、成形温度とは、型締めから型開きの間に、下型の凹部の表面が到達する最高温度を意味する。またゴルフボール用材料の流動開始温度は、島津製作所の「フローテスター CFT−500」を用いて、ペレット状の熱可塑性樹脂組成物を、プランジャー面積:1cm、DIE LENGTH:1mm、DIE DIA:1mm、荷重:588.399N、開始温度:30℃、昇温速度:3℃/分の条件で測定することができる。
【0088】
本発明のゴルフボールの中間層の厚みは、0.3mm以上が好ましく、より好ましくは0.4mm以上、さらに好ましくは0.5mm以上であり、2.5mm以下が好ましく、より好ましくは2.4mm以下、さらに好ましくは2.3mm以下である。複数の中間層の場合は、複数の中間層の合計厚みが上記範囲であることが好ましい。
【0089】
本発明のゴルフボールの中間層のスラブ硬度は、ショアD硬度で30以上が好ましく、より好ましくは35以上、さらに好ましくは40以上であり、90以下が好ましく、より好ましくは85以下であり、さらに好ましくは80以下である。中間層のスラブ硬度がショアD硬度で30以上であれば、ゴルフボールの外剛内柔構造の度合を大きくすることに寄与するため、高打出角、低スピンとなり高飛距離化が達成される。一方、中間層のスラブ硬度が90以下であれば、優れた打球感が得られる。ここで、中間層のスラブ硬度とは、中間層用組成物をシート状に成形して測定した硬度であり、後述する測定方法により測定する。
【0090】
次に、本発明のゴルフボールに用いられるカバーについて説明する。本発明のゴルフボールのカバーは、カバー用組成物を用いて、前述した中間層を形成する方法と同様の方法により得られる。
【0091】
前記カバー用組成物が含有する樹脂成分としては、例えば、アイオノマー樹脂、BASFジャパン(株)から商品名「エラストラン(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリウレタンエラストマー、アルケマ(株)から商品名「ペバックス(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリアミドエラストマー、東レ・デュポン(株)から商品名「ハイトレル(登録商標)」で市販されている熱可塑性ポリエステルエラストマー、三菱化学(株)から商品名「ラバロン(登録商標)」で市販されている熱可塑性スチレンエラストマーなどが挙げられる。カバー用組成物としては、例えば、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを使用することが好ましい。アプローチショットのスピン量が高いゴルフボールが得られるからである。
【0092】
前記カバー用組成物は、上述した樹脂成分のほか、白色顔料(例えば、酸化チタン)、青色顔料、赤色顔料などの顔料成分、酸化亜鉛、炭酸カルシウムや硫酸バリウムなどの重量調整剤、分散剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光材料または蛍光増白剤などを、カバーの性能を損なわない範囲で含有してもよい。
【0093】
前記白色顔料(例えば、酸化チタン)の含有量は、カバーを構成する樹脂成分100質量部に対して、0.5質量部以上が好ましく、より好ましくは1質量部以上であり、10質量部以下が好ましく、より好ましくは8質量部以下である。白色顔料の含有量を0.5質量部以上とすることによって、カバーに隠蔽性を付与することができる。また、白色顔料の含有量が10質量部超になると、得られるカバーの耐久性が低下する場合があるからである。
【0094】
前記カバー用組成物のスラブ硬度は、所望のゴルフボールの性能に応じて適宜設定することが好ましい。例えば、飛距離を重視するディスタンス系のゴルフボールの場合、カバー用組成物のスラブ硬度は、ショアD硬度で50以上が好ましく、55以上がより好ましく、80以下が好ましく、70以下がより好ましい。カバー用組成物のスラブ硬度を50以上にすることにより、ドライバーショットおよびアイアンショットにおいて、高打出角で低スピンのゴルフボールが得られ、飛距離が大きくなる。また、カバー用組成物のスラブ硬度を80以下とすることにより、耐久性に優れたゴルフボールが得られる。また、コントロール性を重視するスピン系のゴルフボールの場合、カバー用組成物のスラブ硬度は、ショアD硬度で、50未満が好ましく、20以上が好ましく、25以上がより好ましい。カバー用組成物のスラブ硬度が、ショアD硬度で50未満であれば、アプローチショットのスピン量が高くなる。また、スラブ硬度を20以上とすることにより、耐擦過傷性が向上する。
【0095】
前記カバーの厚みは、4.0mm以下が好ましく、より好ましくは3.0mm以下、さらに好ましくは2.0mm以下である。カバーの厚みが4.0mm以下であれば、得られるゴルフボールの反発性や打球感がより良好となる。前記カバーの厚みは、0.3mm以上が好ましく、0.5mm以上がより好ましく、さらに好ましくは0.8mm以上、特に好ましくは1.0mm以上である。カバーの厚みが0.3mm未満では、カバーの耐久性や耐摩耗性が低下する場合がある。
【0096】
カバーを成形する際には、通常、表面にディンプルと呼ばれるくぼみが形成される。ディンプルの総数は、200個以上500個以下が好ましい。ディンプルの総数が200個未満では、ディンプルの効果が得られにくい。また、ディンプルの総数が500個を超えると、個々のディンプルのサイズが小さくなり、ディンプルの効果が得られにくい。形成されるディンプルの形状(平面視形状)は、特に限定されるものではなく、円形;略三角形、略四角形、略五角形、略六角形などの多角形;その他不定形状;を単独で使用してもよいし、2種以上を組合せて使用してもよい。
【0097】
カバーが成形されたゴルフボールは、金型から取り出し、必要に応じて、バリ取り、洗浄、サンドブラストなどの表面処理を行うことが好ましい。また、所望により、塗膜やマークを形成することもできる。前記塗膜の膜厚は、特に限定されないが、5μm以上が好ましく、7μm以上がより好ましく、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下がさらに好ましい。膜厚が5μm未満になると継続的な使用により塗膜が摩耗消失しやすくなり、膜厚が50μmを超えるとディンプルの効果が低下してゴルフボールの飛行性能が低下するからである。
【0098】
本発明のゴルフボールの直径は、40mmから45mmが好ましい。米国ゴルフ協会(USGA)の規格が満たされるとの観点から、直径は42.67mm以上が特に好ましい。空気抵抗抑制の観点から、直径は44mm以下がより好ましく、42.80mm以下が特に好ましい。また、ゴルフボールの質量は、40g以上50g以下が好ましい。大きな慣性が得られるとの観点から、質量は44g以上がより好ましく、45.00g以上が特に好ましい。USGAの規格が満たされるとの観点から、質量は45.93g以下が特に好ましい。
【0099】
本発明のゴルフボールは、直径40mm〜45mmの場合、初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときの圧縮変形量(圧縮方向にゴルフボールの縮む量)は、2.0mm以上であることが好ましく、より好ましくは2.4mm以上であり、さらに好ましくは2.5mm以上であり、最も好ましくは2.8mm以上であり、5.0mm以下であることが好ましく、より好ましくは4.5mm以下である。前記圧縮変形量が2.0mm以上のゴルフボールは、硬くなり過ぎず、打球感が良い。一方、圧縮変形量を5.0mm以下にすることにより、反発性が高くなる。
【0100】
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフボール1が示された一部切り欠き断面図である。ゴルフボール1は、球状コア2と、球状コア2を被覆する中間層3と、前記中間層3を被覆するカバー4とを有する。このカバー4の表面には、多数のディンプル41が形成されている。このゴルフボールの表面のうち、ディンプル41以外の部分は、ランド42である。そして、前記中間層3が本発明のゴルフボール用樹脂組成物から形成されている。
【0101】
以上、本発明のゴルフボール用樹脂組成物を中間層に用いる態様について説明したが、本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、カバー用組成物として用いることもできる。
【実施例】
【0102】
以下、本発明を実施例によって詳細に説明するが、本発明は、下記実施例によって限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の変更、実施の態様は、いずれも本発明の範囲内に含まれる。
【0103】
[評価方法]
(1)酸変性ポリオレフィンの重量平均分子量
後述するGPC測定による。
<GPC測定条件>
[1]装置 :Waters150−CV[Waters(株)製]
[2]カラム :PLgel 10.MIXED−B
[ポリマーラボラトリーズ(株)製]
[3]溶離液 :o−ジクロロベンゼン
[4]基準物質:ポリスチレン
[5]注入条件:サンプル濃度3mg/ml、カラム温度135℃
【0104】
(2)コア硬度(ショアD硬度)
コアの表面部において測定した硬度をコア表面硬度とした。また、コアを半球状に切断し、切断面の中心において硬度を測定した。なお、表面硬度は、コア表面の4点で硬度を測定して、これらを平均することにより算出した。硬度は、自動硬度計(H.バーレイス社製、デジテストII)を用いて測定した。検出器は、「Shore D」を用いた。
【0105】
(3)スラブ硬度(ショアD硬度)
ゴルフボール用樹脂組成物(中間層用組成物、カバー用組成物)を用いて、射出成形により、厚み約2mmのシートを作製し、23℃で2週間保存した。このシートを、測定基板などの影響が出ないように3枚以上重ねた状態で、自動硬度計(H.バーレイス社製、デジテストII)を用いて硬度を測定した。検出器は、「Shore D」を用いた。
【0106】
(4)圧縮変形量(mm)
コアまたはゴルフボールに初期荷重98Nを負荷した状態から終荷重1275Nを負荷したときまでの圧縮方向の変形量(圧縮方向にゴルフボールが縮む量)を測定した。
【0107】
(5)反発係数
各ゴルフボールに198.4gの金属製円筒物を40m/秒の速度で衝突させ、衝突前後の前記円筒物およびゴルフボールの速度を測定し、それぞれの速度および質量から各ゴルフボールの反発係数を算出した。測定は各ゴルフボールについて12個ずつ行って、その平均値をそのゴルフボールの反発係数とした。なお、反発係数は、ゴルフボールNo.2〜No.12については、ゴルフボールNo.1の反発係数を100として、指数化した値で示した。ゴルフボールNo.14〜26については、ゴルフボールNo.13の反発係数を100として、指数化した値で示した。
【0108】
(6)耐久性
各ゴルフボールを12個ずつ、エアガンを用いて金属板に45m/秒の速度で衝突させて、ゴルフボールが壊れるまでの繰返し回数を測定した。
なお、耐久性は、ゴルフボールNo.2〜No.12については、ゴルフボールNo.1の耐久性を100として、指数化した値で示した。ゴルフボールNo.14〜26については、ゴルフボールNo.13の耐久性を100として、指数化した値で示した。
【0109】
[ツーピースゴルフボールNo.1〜No.12の作製]
(1)コアの作製
表1に示す配合のコア用ゴム組成物No.Aを混練ロールにより混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で170℃、20分間加熱プレスすることにより、直径39.8mmの球状コアを得た。
【0110】
【表1】
【0111】
ポリブタジエンゴム:JSR(株)製、「BR730(ハイシスポリブタジエン)」
アクリル酸亜鉛:日触テクノファインケミカル社製、「ZN−DA90S」
酸化亜鉛:東邦亜鉛社製、「銀嶺R」
硫酸バリウム:堺化学社製、「硫酸バリウムBD」
ジクミルパーオキサイド:日油社製、「パークミル(登録商標)D(ジクミルパーオキサイド)」
ジフェニルジスルフィド:住友精化社製、ジフェニルジスルフィド
【0112】
(2)カバーの作製
表2に示した配合材料を、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状のカバー用組成物を調製した。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は、押出機のダイの位置で160〜230℃に加熱された。球状コア上に前記カバー用組成物を射出成形することにより、コアを被覆するカバー(厚さ1.5mm)を形成した。カバー用組成物は、射出装置のシリンダー部分で200℃〜260℃に加熱され、15MPaの圧力で型締めした金型に射出され、30秒間冷却して型開きしてカバーが形成されたゴルフボールを取り出した。
【0113】
【表2】
【0114】
サーリン8150:デュポン社製、ナトリウムイオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂、酸含有率16質量%以上
サーリン9150:デュポン社製、亜鉛イオン中和エチレン−メタクリル酸共重合体アイオノマー樹脂、酸含有率16質量%以上
ハイワックス1105A:無水マレイン酸変性ポリエチレン、酸価60mgKOH/g、溶融粘度150mPa・s(140℃)
ハイワックスNP0555A:無水マレイン酸変性ポリプロピレン、酸価45mgKOH/g、溶融粘度500mPa・s(180℃)
ユーメックス100TS:無水カルボン酸変性ポリプロピレン、酸価3.5mgKOH/g、溶融粘度120mPa・s(160℃)
ユーメックス5500:無水カルボン酸変性ポリプロピレン、酸価17mgKOH/g、溶融粘度6200mPa・s(160℃)
ユーメックス1001:無水カルボン酸変性ポリプロピレン、酸価26mgKOH/g、溶融粘度15000mPa・s(160℃)
ユーメックス1010:無水カルボン酸変性ポリプロピレン、酸価52mgKOH/g、溶融粘度6000mPa・s(160℃)
エラストランXNY80A:BASFジャパン社製、熱可塑性ポリウレタンエラストマー(ショアA硬度80)
【0115】
[スリーピースゴルフボールNo.13〜26の作製]
(1)コアの作製
表1に示した配合のコア用ゴム組成物No.Bを混練ロールにより混練し、半球状キャビティを有する上下金型内で170℃、20分間加熱プレスすることにより、直径39.7mmの球状コアを得た。
【0116】
(2)中間層用組成物およびカバー用組成物の調製
表3に示した配合材料を、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状の中間層用組成物を調製した。押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は、押出機のダイの位置で160〜230℃に加熱された。
【0117】
【表3】
【0118】
ポリアミド610:東レ社製、アミランCM2001
【0119】
(3)中間層の作製
球状コア上に前記中間層用組成物を射出成形することにより、コアを被覆する中間層(厚さ1.0mm)を形成した。中間層用組成物は、射出装置のシリンダー部分で200℃〜260℃に加熱され、15MPaの圧力で型締めした金型に射出され、30秒間冷却して型開きして中間層が形成された球体を取り出した。
【0120】
(4)カバーの作製
BASFジャパン社製熱可塑性ポリウレタンエラストマー(エラストランXNY82A)100質量部に、酸化チタン(石原産業社製A220)4質量部を加えて、二軸混練型押出機によりミキシングして、ペレット状のカバー用組成物を調製した。カバー用組成物の押出条件は、スクリュー径45mm、スクリュー回転数200rpm、スクリューL/D=35であり、配合物は、押出機のダイの位置で160〜230℃に加熱された。
【0121】
カバー成形時には、ホールドピンを突き出し、中間層が形成された球体を投入後ホールドさせ、80トンの圧力で型締めした金型に260℃に加熱したカバー用組成物を0.3秒で注入し、30秒間冷却して型開きしてゴルフボールを取り出した。得られたゴルフボール本体の表面をサンドブラスト処理して、マーキングを施した後、クリアーペイントを塗布し、40℃のオーブンで塗料を乾燥させ、直径42.7mm、質量45.4gのゴルフボールを得た。
【0122】
得られた試験用ゴルフボールについて評価した結果を表2,3に示した。本発明のゴルフボール用樹脂組成物は、ゴルフボールの反発性を実質的に低下させることなく、耐久性を向上させることができる。本発明のゴルフボールは、反発性および耐久性に優れることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明のゴルフボールは、反発性および耐久性に優れるものである。
図1