特許第6953984号(P6953984)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6953984
(24)【登録日】2021年10月4日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】イヤホンおよびイヤホンの信号処理方法
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/10 20060101AFI20211018BHJP
   G10K 11/178 20060101ALI20211018BHJP
【FI】
   H04R1/10 104
   G10K11/178 120
   H04R1/10 101B
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-198264(P2017-198264)
(22)【出願日】2017年10月12日
(65)【公開番号】特開2019-75602(P2019-75602A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2020年8月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004075
【氏名又は名称】ヤマハ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125689
【弁理士】
【氏名又は名称】大林 章
(74)【代理人】
【識別番号】100128598
【弁理士】
【氏名又は名称】高田 聖一
(74)【代理人】
【識別番号】100121108
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 太朗
(72)【発明者】
【氏名】小長井 裕介
(72)【発明者】
【氏名】増井 英喜
(72)【発明者】
【氏名】山川 高史
【審査官】 西村 純
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−230045(JP,A)
【文献】 特表2015−537465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/00−31/00
G10K 11/178
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザーの外耳道に挿入されるイヤーピースを含む筐体と、
前記筐体に設けられ、前記外耳道の外側における周辺音を収音する第1マイクと、
前記筐体に設けられ、前記外耳道内の音を収音する第2マイクと、
前記筐体に設けられ、前記外耳道に向けて放音するスピーカーと、
前記第1マイクの収音に基づく第1信号に対して低域の音量を高域の音量よりも相対的に高める低域ブースターと、
前記第2マイクの収音に基づく第2信号の逆相信号を生成する逆相信号生成回路と、
前記低域ブースターの出力信号と、目的音を示す目的信号と、前記逆相信号とを加算して前記スピーカーに向けて出力する加算器と、
を含むイヤホン。
【請求項2】
前記第1信号に所定の周波数以上の高域を持ち上げるイコライザーを備え、
前記イコライザーの出力信号が前記低域ブースターに入力される
ことを特徴とする請求項1に記載のイヤホン。
【請求項3】
前記低域ブースターに入力される信号または前記低域ブースターから出力される信号と前記目的信号とを加算した信号に、前記スピーカーから前記第2マイクまでの音の伝達経路を模した特性を付与するフィルターと、
前記第2マイクの収音信号から前記フィルターの出力信号を減じ、前記第2信号として逆相信号生成回路に供給する減算器と、
を有する請求項1または2に記載のイヤホン。
【請求項4】
ユーザーの外耳道に挿入されるイヤーピースを含む筐体と、
前記筐体に設けられ、前記外耳道の外側における周辺音を収音する第1マイクと、
前記筐体に設けられ、前記外耳道内の音を収音する第2マイクと、
前記筐体に設けられ、前記外耳道に向けて放音するスピーカーと、
を有するイヤホンの信号処理方法であって、
前記第1マイクの収音に基づく第1信号に対して低域の音量を高域の音量よりも相対的に高め、
前記第2マイクの収音に基づく第2信号の逆相信号を生成し、
前記低域を高めた信号と、目的音を示す目的信号と、前記逆相信号とを加算して前記スピーカーに向けて出力する
イヤホンの信号処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばイヤホンおよびイヤホンの信号処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イヤホンにおいて、ヒアスルーの機能を持たせたい、という要望がある。ヒアスルーとは、ユーザーがイヤホンを装用していても、あたかもイヤホンが非装用であるかのように周辺音を聴くことができる機能をいう。
一方、ユーザーの外耳道が閉塞されるようにイヤホンが装用されると、当該ユーザーは、音楽プレーヤなどの外部端末から供給される目的の音(以下、「目的音」と称呼する)を、こもりがちに、具体的には低域側が強調された状態で知覚してしまう。
このため近年では、上記こもりを低減しつつ、ヒアスルーの機能を実現するための技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2015−537465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記技術では、こもりが低減されるものの、ユーザーがイヤホンを装用した状態では、周辺音、時に他者と会話したときに当該他者や自身の音声が不自然に聴こえる、という問題が指摘された。
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、装用時において、こもりが低減されるとともに、周辺音を自然な感じで聴くことのできる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明の一態様に係るイヤホンは、ユーザーの外耳道に挿入されるイヤーピースを含む筐体と、前記筐体に設けられ、前記外耳道の外側における周辺音を収音する第1マイクと、前記筐体に設けられ、前記外耳道内の音を収音する第2マイクと、前記筐体に設けられ、前記外耳道に向けて放音するスピーカーと、前記第1マイクの収音に基づく第1信号に対して低域の音量を高域の音量よりも相対的に高める低域ブースターと、前記第2マイクの収音に基づく第2信号の逆相信号を生成する逆相信号生成回路と、前記低域ブースターの出力信号と、目的音を示す目的信号と、前記逆相信号とを加算して前記スピーカーに向けて出力する加算器と、を含む。
この一態様に係るイヤホンによれば、装用時において、こもりを低減するとともに、周辺音を自然な感じで聴かせることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】第1実施形態に係るイヤホンの構成を示すブロック図である。
図2】イヤホンの構造を示す図である。
図3】イヤホンの装用状態を示す図である。
図4】イヤホンの装用状態における音の伝達を示す図である。
図5】イヤホンにおけるイコライザー(1)の特性を説明するための図である。
図6】イヤホンにおける低域ブースターの特性説明するための図である。
図7】第2実施形態に係るイヤホンの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0008】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態に係るイヤホン10aの構成を示すブロック図である。この図に示されるように、イヤホン10aは、マイク110、150、アンプ112、134、152、ADC114、154、イコライザー116、126、低域ブースター120、AIF122、加算器128、130、フィルター129、DAC132、スピーカー140、減算器156、および、逆相信号生成回路158を含む。なお、イヤホン10aがユーザーに装用されたとき、スピーカー140の放音方向が、当該ユーザーの外耳道に向かう方向に配置され、マイク150は、スピーカー140の放音方向であって、外耳道と音響結合された空間に配置される。
【0009】
マイク110(第1マイク)は、イヤホン10aを装用するユーザーの周辺音を収音する。アンプ112は、マイク110により収音された信号(第1信号)を増幅し、ADC(Analog to Digital Converter)114は、アンプ112による増幅された信号をデジタル信号に変換する。
イコライザー116は、ADC114の出力信号に補正処理を、例えば高域を持ち上げる処理を施し、当該処理を施した信号を低域ブースター120および加算器128における第1入力端にそれぞれ供給する。なお、イコライザー116は、イコライザー126と区別するために図1において「イコライザー(1)」と表記されている。
低域ブースター120は、イコライザー116により補正処理された信号に、低域の音量を持ち上げる処理を施し、当該処理を施した信号を、加算器130の第1入力端に供給する。
【0010】
AIF(Audio InterFace)122は、ユーザーに聴かせる音(目的音)の信号を、外部端末200から無線により受信するインターフェイスである。なお、目的音は、例えば外部端末200で再生された音楽信号などである。また、AIF122は、目的音の信号を無線ではなく有線で受信する構成としても良い。
イコライザー126は、AIF122で受信された目的音の信号に、ユーザーにより設定または選択された周波数特性を付与するなど、音質を整える処理を施し、当該処理を施した信号を、加算器128の第2入力端および加算器130の第2入力端にそれぞれ供給する。なお、イコライザー126は、イコライザー116と区別するために図1において「イコライザー(2)」と表記されている。
【0011】
加算器130は、第1入力端、第2入力端および第3入力端のそれぞれに供給された信号同士を加算して、DAC(Digital to Analog Converter)132に供給する。DAC132は、加算器130によって加算された信号をアナログに変換し、アンプ134は、DAC132により変換された信号を増幅する。スピーカー140は、アンプ134により増幅された信号を空気の振動、すなわち音に変換して出力する。
【0012】
マイク150(第2マイク)は、スピーカー140の近傍に設けられて、当該スピーカー140から出力された音など、ユーザーの外耳道内における音を収音する。ここで、スピーカー140からマイク150に至るまでの伝達特性をCと表すことにする。アンプ152は、マイク150により収音された信号(第2信号)を増幅し、ADC154は、アンプ152により増幅された信号をデジタル信号に変換して、減算器156に供給する。
【0013】
一方、加算器128は、第1入力端および第2入力端のそれぞれに供給された信号同士を加算して、当該加算信号をフィルター129に供給し、フィルター129は、畳み込み演算などによって当該加算信号に伝達関数Cを付与して、減算器156に供給する。このため、フィルター129の出力信号は、イコライザー116、126により補正処理された信号同士の加算信号、すなわち、マイク110で収音された周辺音と目的音を調整した音とを加算した音の信号が、仮にスピーカー140から発せられた場合に、マイク150で収音されるであろう外耳道での音を模擬した信号となる。
減算器156は、ADC154によるデジタル信号から、フィルター129による出力信号を減算して、逆相信号生成回路158に供給する。
【0014】
逆相信号生成回路158は、端的にいえば、ANC(Active Noise Control)フィルターであり、減算器156による減算信号の位相を反転させた関係にあって、音量(振幅)がほぼ等しい逆相信号を生成する。換言すれば、逆相信号生成回路158は、減算器156による減算信号を誤差信号とした場合に、当該誤差信号を最小とするような逆相信号を生成する。
【0015】
図2は、イヤホン10aの構造を示す図である。
この図に示されるようにイヤホン10aは、カナル型であり、ハウジング(筐体)160およびイヤーピース180を含む。
ハウジング160は、概略筒状である。ハウジング160の内部空間には、スピーカー140、マイク110および150が設けられる。詳細には、ハウジング160の内部空間において、スピーカー140は、放音面が外耳道に向かう方向に取り付けられ、マイク150は、スピーカー140よりも外耳道寄り(図において右側)に取り付けられる。なお、ハウジング160には、装用時において、スピーカー140よりも外耳道寄りの内部空間を、外部と通気させる通気孔168が1または複数設けられる。
一方、マイク110は、ハウジング160の内部空間においてスピーカー140を基準としてみたときに、マイク150と反対側に設けられる。
【0016】
イヤーピース180は、ポリビニルやスポンジなどの弾力性を有する素材により、開口部186で開口する中空の砲弾形に成形されて、ハウジング160の外耳道側に対し着脱自在となっている。イヤーピース180がハウジング160に取り付けられた状態では、開口部186がハウジング160の内部空間に連通する。
【0017】
なお、図1で示したイヤホン10aの構成する要素のうち、マイク110、150およびスピーカー140以外の要素については、ハウジング160の内部空間、例えばマイク110の近傍に設けられるが、図2では省略されている。
【0018】
図3は、イヤホン10aの装用状態を示す図であり、詳細には、イヤホン10aがユーザーWの右耳に装用された状態を示す図である。この図に示されるように、イヤホン10aのイヤーピース180が外耳道314に挿入される。詳細には、開口部186が鼓膜312に向かう方向に、イヤーピース180が外耳道314に挿入される一方で、ハウジング160の一部が外耳道314から露出した状態となる。
【0019】
次に、イヤホン10aの動作の概要について、イコライザー116および低域ブースター120を考慮しない状態で説明する。
図3に示されるようにイヤホン10aがユーザーWに装用された場合、マイク110で収音された周辺音の信号と、外部端末200から供給された目的音の信号とは、加算器130によって加算されて、スピーカー140によって発音される。スピーカー140から発せられた音は、外耳道314を介して鼓膜312に達し、ユーザーWに知覚される。
【0020】
一方、イヤホン10aが装用されると、外耳道314はイヤーピース180で閉塞される。このため、マイク150は、イヤーピース180の開口部186を介して、当該閉塞された外耳道314で発生している音を収音することになる。
なお、外耳道314で発生している音には、スピーカー140から発せられた音の成分だけでなく、スピーカー140で発せられた音以外に起因する音の成分(単に「ノイズ」という場合がある)が含まれる。このうち、スピーカー140から発せられた音の成分とは、具体的には、マイク110で収音された周辺音と、外部端末200から供給された目的音とである。ノイズとは、マイク150で収音されるが、スピーカー140で発せられた音以外に起因した音の成分である。
【0021】
減算器156では、マイク150で収音された信号から、マイク110で収音された周辺音に基づく信号と、外部端末200から供給される目的音に基づく信号との加算信号に伝達関数Cを付与した信号の成分が減算される。このため、逆相信号生成回路158に入力される誤差信号は、スピーカー140で発せられた音以外のノイズの成分を示すことになる。
加算器130によって、周辺音の信号と、目的音の信号と、逆相信号生成回路158による逆相信号とが加算されて、スピーカー140から発せられると、外耳道314におけるノイズは、当該逆相信号に基づく音の成分によって打ち消される(キャンセルされる)。このため、ユーザーWは、ノイズが抑えられた状態で周辺音と目的音とを知覚することができる。
【0022】
以上がイヤホン10aの動作概要であるが、実際には、イコライザー116や低域ブースター120を考慮しない場合、周辺音、具体的には他者と会話したときに当該他者や自身の音声が不自然に聴こえる場合がある。特に、イヤーピース180や通気孔168の通気量等によって密閉性が低い場合に、不自然に聴こえる傾向がある。
【0023】
カナル型のイヤホン10aがユーザーWに装用されると、イヤーピース180で閉塞されるので、外耳道314は一種の密閉空間となる。このため、当該外耳道では、数100Hz以下の低域が増幅されることになり、当該低域の音量が大きくなって、ユーザーは、こもりとして知覚する。ユーザーがこもりを知覚すると、特に会話時に自身が発生する音声が不自然に聴こえるので(フィードバックして聴く自声が変調をきたしているので)、発声が困難になる。
こもりは、外耳道314の密閉性が高いほど、強調される傾向にあるので、本実施形態に係るイヤホン10aでは、通気孔168の孔径および数の調整や、イヤーピース180の素材の選定などにより、こもりを低く抑えている。
【0024】
イヤホン10aにおける音の伝達について検討する。イヤホン10aが図3に示されるように装用された場合に、マイク110および150は、次のような経路で伝達した音をそれぞれ収音する。
【0025】
図4は、イヤホン10aの装用状態における音の伝達経路を説明するための図である。
経路(a)は、マイク110が音源Xからの周辺音を直接収音する経路である。なお、音源Xには、イヤホン10aを装用するユーザーWが発した声のうち、空気を伝搬した成分、および、およびユーザーW以外の他者が発した声が含まれる。マイク150は、主に経路(b)および(c)で伝達した音を収音する。詳細には、経路(b)は、音源Xからの周辺音のうち、通気孔168や、イヤーピース180とユーザーWの皮膚との隙間などを介して、外耳道314に位置するマイク150に到達する経路である。経路(b’)は、音源Xからの周辺音のうち、ユーザーWの皮膚や骨などを介して、マイク150に到達する経路である。なお、経路(b)と経路(b’)とを厳密に区別する必要はないので、以降において経路(b)は、経路(b’)を含むものとして説明する。経路(c)は、外耳道314においてスピーカー140から発せられた音をマイク150が収音する経路である。
なお、イヤホン10aの装用時に、マイク150は閉塞された外耳道314に位置するので、当該マイク150により収音される音は、鼓膜312の振動によりユーザーWが知覚する音とほぼ等しい。
【0026】
図4において、音源Xからの周辺音は、経路(a)および経路(c)の2経路(マイク110およびスピーカー140を介した経路)と、経路(b)とでユーザーWの鼓膜312およびマイク150にそれぞれ到達する。
マイク110が収音した周辺音の周波数特性、すなわち経路(a)で収音された音の周波数特性が、図5において実線で示されるように正規化された音量0dBでフラットである場合、経路(b)で鼓膜312に到達した周辺音の周波数特性は、図5において点線で示されるように、高域側で減衰する。
【0027】
ユーザーWは、イヤホン10aを装用した場合、音源Xからの周辺音を、経路(a、c)と、経路(b)との双方を経由した音の合算で知覚するので、このままでは、経路(a、c)側で高域が減衰した分だけ、音源Xからの周辺音が不自然に聴こえてしまうことになる。
そこで、イコライザー116は、マイク110が経路(a)にて周辺音を収音した信号の高域側を持ち上げる処理を施す。当該処理により、スピーカー140から経路(c)にて鼓膜312に到達する音の高域側が持ち上げられるので、経路(b)を経由した音と合算されると、結果的に音量0dBでほぼフラットになり、ユーザーWに、周辺音Xを自然な感じで知覚させることができる。
なお、ここで説明したイコライザー116の処理については、低域ブースター120が存在せず、逆相信号生成回路158によるノイズキャンセルが動作していないものとしている。
【0028】
そこで次に、逆相信号生成回路158によるノイズキャンセルが動作している場合について検討する。
本実施形態において、逆相信号生成回路158は、入力である誤差信号が最小となるように逆相信号を生成する。マイク150の収音信号には、スピーカー140から発せられる音、すなわち、経路(c)で伝達した音の成分のみならず、経路(b)で伝達した音の成分が含まれる。逆相信号生成回路158に入力される誤差信号は、経路(c)で伝達する音の成分が減算器156によって予め除かれているので、ほぼ経路(b)で伝達した音の成分を表していることになる。
【0029】
音源Xから経路(b)でマイク150に到達したときの音の周波数特性は、上述したように高域側で減衰するので、相対的にいえば、低域側が強調されていることになる。このような低域側が強調された信号が誤差信号として逆相信号生成回路158に入力されると、逆相信号は、逆に低域を抑圧するような信号となる。すなわち、当該逆相信号が、同じ音源Xからの周辺音をマイク110で収音した信号に加算されると、当該加算信号の低域側が減衰してしまう。
【0030】
このため、ノイズキャンセルが動作している場合に、ユーザーW自身や他者が発した声などの周辺音は、スピーカー140から低域側が減衰された状態で発せられるので、ユーザーWに知覚される周辺音が不自然になってしまう。
【0031】
マイク110の収音信号が、逆相信号と加算されたときに、低域側が減衰してしまうのであれば、逆相信号との加算前に、マイク110の収音信号の低域側を予め持ち上げておけば、加算による低域側の減衰が補償されることになる。そこで本実施形態では、低域ブースター120が、当該低域ノイズキャンセルが動作している場合に、マイク110の収音信号の低域側を持ち上げる処理を実行する。
【0032】
具体的には、低域ブースター120が存在しない場合に、イコライザー116の出力信号が、逆相信号との加算によって図6の点線で示されるように低域側で減衰する場合、低域ブースター120は、低域側を高域側よりも相対的に持ち上げるように処理して、逆相信号と加算したときに、結果的に、同図の実線で示されるようにフラットな特性にする。
このような低域ブースター120を有するイヤホン10aによれば、ノイズキャンセルが動作している場合に、マイク110の収音信号が逆相信号と加算されても、低域側が減衰することなく、フラットな特性に近づくので、ユーザーWに自然な周辺音を知覚させることが可能となる。
【0033】
第1実施形態に係るイヤホン10aでは、加算器128の第1入力端に、イコライザー116により補正処理された信号が供給される構成としたが、低域ブースター120からの出力信号が供給される構成としても良い。その他、線形性が維持される範囲でイヤホン10aの変更が可能である。
【0034】
<第2実施形態>
第1実施形態では、逆相信号生成回路158に供給する誤差信号から、ユーザーWに聴かせるべき周辺音および目的音を加算した音の信号に伝達特性Cを付与した信号を減じて、ノイズキャンセルの対象から周辺音および目的音の加算音を除く構成とした。
この構成では、フィルター129では、畳み込み演算のように複雑な処理が必要となるだけでなく、加算器128および減算器156も必要となる。そこで、このような複雑な処理等を必要としない第2実施形態について説明する。
【0035】
図7は、第2実施形態に係るイヤホン10bの構成を示すブロック図である。この図に示されるように、イヤホン10bは、イヤホン10aと比較して、加算器128、フィルター129および減算器156を有さず、ADC154によるデジタル信号がそのまま逆相信号生成回路158に供給される構成となっている。
【0036】
イヤホン10bでは、周辺音および目的音を加算した音もノイズキャンセルの対象になるので、ユーザーWに知覚される周辺音および目的音の品質は、第1実施形態と比較して低下する。
しかしながら、イヤホン10bにおいても、イコライザー116および低域ブースター120を有するので、ユーザーWに自然な周辺音を知覚させることが可能となる。また、イヤホン10bは、イヤホン10aと比較して、処理が簡略化されるので、回路スペースや、電池消費量などの面において有利となる。
【0037】
<応用例・変形例>
なお、第1実施形態(第2実施形態)では、右耳に装用されるイヤホン10a(10b)を例にとって説明したが、左耳に装用されても良い。
また、同じ構成のイヤホン10a(10b)を2個用意して、右耳に一方を、左耳に他方をそれぞれ装用させるとともに、左耳用に装用されるイヤホン10a(10b)にステレオの左信号が、右耳用に装用されるイヤホン10a(10b)にステレオの右信号が、それぞれ外部端末200から供給される構成としても良い。
【0038】
外部端末200に、目的音を示す信号をイヤホン10aに供給する機能とは別の機能を持たせても良い。例えば、外部端末200に、イコライザー126の周波数特性を調整・設定する機能を持たせても良いし、複数の周波数特性をプリセットさせておき、ユーザーWによりいずれかの特性が選択されたときに、選択された特性がイコライザー126にセットされる構成としても良い。
【0039】
<付記>
上述した第1実施形態および第2実施形態等から、例えば以下のような態様が把握される。
【0040】
<態様1>
本発明の好適な態様1に係るイヤホンは、ユーザーの外耳道に挿入されるイヤーピースを含む筐体と、前記筐体に設けられ、前記外耳道の外側における周辺音を収音する第1マイクと、前記筐体に設けられ、前記外耳道内の音を収音する第2マイクと、前記筐体に設けられ、前記外耳道に向けて放音するスピーカーと、前記第1マイクの収音に基づく第1信号に対して低域の音量を高域の音量よりも相対的に高める低域ブースターと、前記第2マイクの収音に基づく第2信号の逆相信号を生成する逆相信号生成回路と、前記低域ブースターの出力信号と、目的音を示す目的信号と、前記逆相信号とを加算して前記スピーカーに向けて出力する加算器と、を含む。
態様1に係るイヤホンによれば、装用時において、こもりを低減するとともに、周辺音を自然な感じでユーザーに聴かせることが可能となる。
【0041】
<態様2>
態様2に係るイヤホンは、態様1に係るイヤホンにおいて、前記第1信号に所定の周波数以上の高域を持ち上げるイコライザーを備え、前記イコライザーの出力信号が前記低域ブースターに入力される。
態様2に係るイヤホンによれば、周辺音がより自然な感じでユーザーに聴かせることが可能となる。
【0042】
<態様3>
態様3に係るイヤホンは、態様1または2に係るイヤホンにおいて、前記低域ブースターに入力される信号または前記低域ブースターから出力される信号と前記目的信号とを加算した信号に、前記スピーカーから前記第2マイクまでの音の伝達経路を模した特性を付与するフィルターと、前記第2マイクの収音信号から前記フィルターの出力信号を減じ、前記第2信号として逆相信号生成回路に供給する減算器と、を有する。
態様3に係るイヤホンによれば、ユーザーに知覚される周辺音および目的音の品質を高めることができる。
【0043】
<態様4>
態様4に係るイヤホンの信号処理方法は、ユーザーの外耳道に挿入されるイヤーピースを含む筐体と、前記筐体に設けられ、前記外耳道の外側における周辺音を収音する第1マイクと、前記筐体に設けられ、前記外耳道内の音を収音する第2マイクと、前記筐体に設けられ、前記外耳道に向けて放音するスピーカーと、を有するイヤホンの信号処理方法であって、前記第1マイクの収音に基づく第1信号に対して低域の音量を高域の音量よりも相対的に高め、前記第2マイクの収音に基づく第2信号の逆相信号を生成し、前記低域を高めた信号と、目的音を示す目的信号と、前記逆相信号とを加算して前記スピーカーに向けて出力する。
態様4に係るイヤホンの信号処理方法によれば、装用時において、こもりを低減するとともに、周辺音を自然な感じでユーザーに聴かせることが可能となる。
【符号の説明】
【0044】
10a、10b…イヤホン、110…マイク(第1マイク)、116…イコライザー、120…低域ブースター、128、130…加算器、129…フィルター、140…スピーカー、150…マイク(第2マイク)、156…減算器、158…逆相信号生成回路、200…外部端末。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7