【実施例】
【0012】
以下、本発明の一実施例に係る車両の制御装置について図面を用いて説明する。
【0013】
図1において、車両10は、エンジン20と、自動変速機30と、車輪12と、姿勢制御装置40と、車両10を総合的に制御する制御部50とを含んで構成される。
【0014】
エンジン20には、複数の気筒が形成されている。本実施例において、エンジン20は、各気筒に対して、吸気行程、圧縮行程、膨張行程および排気行程からなる一連の4行程を行うように構成されている。
【0015】
自動変速機30は、エンジン20から伝達された回転を変速し、変速後の回転を図示しないドライブシャフトを介して車輪12に伝達するようになっている。自動変速機30は、遊星歯車機構を用いて段階的に変速を行うようにした、いわゆるステップATからなる。
【0016】
自動変速機30は、
図2に示すように、エンジン20の回転が入力されるインプットシャフト35と、遊星歯車機構に回転を伝達する従動シャフト36と、クラッチ37とを備えている。
【0017】
クラッチ37は湿式多板式のクラッチからなり、インプットシャフト35と連結された摩擦係合要素35Aと、従動シャフト36と連結された摩擦係合要素36Aとを備えている。クラッチ37は、いわゆるフォワードクラッチであり、シフトレンジがDレンジに操作されている場合は係合され、シフトレンジがNレンジに操作されている場合は開放される。クラッチ37は湿式多板式であるため、摩擦係合要素35A、36Aの間をオイルが流通している。自動変速機30は、クラッチ37と同様の構造の複数のクラッチを備えており、クラッチの係合又は開放の組み合わせを変えることによって、自動変速機30における動力伝達経路を切替え、変速段を変更する。
【0018】
図1、
図2において、制御部50は、エンジン20を制御するエンジンコントローラ50Aと、自動変速機30を制御するトランスミッションコントローラ50Bとを有している。
【0019】
エンジンコントローラ50A及びトランスミッションコントローラ50Bは、それぞれCPU(Central Processing Unit)と、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)と、バックアップ用のデータなどを保存するフラッシュメモリと、入力ポートと、出力ポートとを備えたコンピュータユニット(ECU: Electronic Control Unit)によって構成されている。
【0020】
コンピュータユニットのROMには、各種定数や各種マップ等とともに、当該コンピュータユニットを機能させるためのプログラムが格納されており、CPUがRAMを作業領域としてROMに格納されたプログラムを実行する。
【0021】
制御部50において、エンジン回転数、アクセル開度、スロットル開度、エンジントルク及びエアコン信号が、エンジンコントローラ50AからCAN通信によりトランスミッションコントローラ50Bに送信される。なお、本実施例ではエンジンコントローラ50Aとトランスミッションコントローラ50Bとに機能が分割されているが、これらのコントローラを1つに統合してもよい。
【0022】
エンジン20にはエンジン回転数センサ27が設けられており、このエンジン回転数センサ27は、図示しないクランク軸の回転位置に基づいて、エンジン20の発生するエンジン回転数を検出し、検出信号を制御部50のエンジンコントローラ50Aに送信する。
【0023】
エンジン20にはスロットル開度センサ28が設けられており、このスロットル開度センサ28は、図示しないスロットルバルブの開度を検出し、検出信号を制御部50のエンジンコントローラ50Aに送信する。
【0024】
自動変速機30のクラッチ37は、制御部50のトランスミッションコントローラ50Bがシフトレンジに応じて制御することで、係合及び開放される。クラッチ37が係合されることによって、インプットシャフト35の回転が従動シャフト36に伝達され、従動シャフト36がインプットシャフト35と一体回転する。また、クラッチ37が開放されることによって、インプットシャフト35と従動シャフト36とが切り離され、自動変速機30がニュートラル状態になる。
【0025】
車両10には車速センサ15が設けられており、車速センサ15は、車速を検出して検出信号を制御部50に送信する。
【0026】
また、車両10にはアクセル開度センサ16が設けられており、アクセル開度センサ16は、図示しないアクセルペダルの踏込み量を検出し、検出信号をアクセル開度として制御部50に送信する。
【0027】
また、車両10にはシフトレンジ操作部17が設けられており、シフトレンジ操作部17は、ドライバが自動変速機30に対してシフトレンジの切替え操作を行うためのものである。
【0028】
姿勢制御装置40は、車両10の横滑り等が発生した場合に車輪12に制動力を作用させ、車両10の姿勢を制御する装置である。姿勢制御装置40は、横滑り防止装置、ESC(Electronic Stability Control)またはESP(Electronic Stability Program)とも呼ばれる。姿勢制御装置40は、横滑り等の発生時だけでなく、制御部50からのブレーキ要求によっても車輪12に制動力を作用させる。
【0029】
本実施例において、エンジン20は本発明における原動機を構成し、車速センサ15は本発明における車速検出部を構成する。また、制御部50は本発明における油温取得部を構成し、姿勢制御装置40は本発明における制動力作用部を構成する。
【0030】
ここで、クラッチ37を流通するオイルは、低温環境下では粘度が高くなる。このため、シフトレンジがDレンジ又はRレンジからNレンジに操作された直後は、摩擦係合要素35A、36Bの距離が十分に離隔するまでオイルの粘性によって引き摺りが発生しており、クラッチ37が完全に開放されない。したがって、低温環境下ではクラッチ37の開放動作が遅延することがある。
【0031】
また、オイルの油温が低くオイルの粘度が高い場合、係合状態の摩擦係合要素35A、36Aを開放させるために油圧回路のバルブを開いてオイルを排出した際に、オイルの排出速度が遅いため、クラッチ37の開放動作が遅延することがある。
【0032】
このような事情から、低温環境下でオイルの粘度が高い状況では、ドライバがシフトレンジ操作部17でシフトレンジを走行レンジ(例えば、Dレンジ又はRレンジ)から非走行レンジ(例えば、Nレンジ)に切替え、ブレーキペダルから足を離した際に、車両10が意図せず動き出すことが起こりうる。
【0033】
そこで、本実施例では、制御部50は、オイルの粘度が高いために車両10が意図せず動き出すことが想定される状況では、車輪12に制動力を作用させるようにしている。
【0034】
制御部50は、オイルの油温が所定油温未満、かつ車両10が停止していることを車速センサ15が検出している状態で、走行レンジから非走行レンジへの切替え操作がシフトレンジ操作部17により行われた場合、車輪12に制動力を作用させるよう姿勢制御装置40を制御する停車中制動動作を実施する。
【0035】
ここで、制御部50は、クラッチ37の摩擦係合要素35A、36Aの間を流通するオイルの油温を検出又は推定する油温取得部としても機能する。例えば、制御部50は、自動変速機30内の既存の油温センサまたは新たに設けた油温センサによってオイルの油温を検出することができる。又は制御部50は、車両状態等に基づいてオイルの油温を推定する。
【0036】
また、制御部50は、油温が所定油温未満、かつ車両が所定車速未満で走行していることを車速センサ15が検出している状態で、走行レンジから非走行レンジへの切替え操作がシフトレンジ操作部17により行われた場合、車輪12に制動力を作用させ、車速が0に近づくに連れて制動力が漸次大きくなるよう姿勢制御装置40を制御する走行中制動動作を実施する。
【0037】
以上のように構成された車両10の制御部50による停車中制動動作について、
図3に示すフローチャートを参照して説明する。この動作は、システムの起動中は短い周期で繰り返し実施される。
【0038】
図3において、制御部50は、ステップS1で自動変速機30のクラッチ37の油温が閾値以下であるか否かを判別する。制御部50は、ステップS1で油温が閾値より大きい場合は今回の動作を終了し、油温が閾値以下である場合は、ステップS2で車速Vが0[km/h]であるか否かを判別する。すなわち、制御部50は車両10が停車しているか否かを判別する。
【0039】
制御部50は、ステップS2で車速が0[km/h]ではない場合は今回の動作を終了し、車速が0[km/h]である場合、ステップS3でDレンジ又はRレンジからNレンジへのシフト操作が行われたか否かを判別する。
【0040】
制御部50は、ステップS3でNレンジへのシフト操作が行われていない場合は今回の動作を終了し、Nレンジへのシフト操作が行われた場合はステップS4でブレーキを作動させる。
【0041】
ステップS4では、制御部50は、車輪12に制動力を作用させるよう姿勢制御装置40を制御する。そして、所定時間T1後に制動力を解除する。所定時間T1は、車両10の動き出しを防止するための十分な時間に設定されている。
【0042】
次いで、
図4のタイミングチャートを参照し、
図3の停車中制動動作が実施される際の車両状態の推移を説明する。
図4において、縦軸は車速、シフトレンジ(図中、シフト位置と記す)及び制動力を表わし、横軸は時間を表わしている。なお、
図4の制動力の"ON"は、車輪12に制動力を作用させるよう制御部50が姿勢制御装置40を制御していることを表わす。したがって、ドライバの制動操作による制動力は
図4には表わされていない。
【0043】
図4に示すように、時刻t0において、ドライバの制動操作によって車速が低下しており、シフトレンジはDレンジに設定されており、制動力はOFFにされている。
【0044】
その後、時刻t1で車速が0になって車両10が停車する。その後、時刻t2でドライバによりシフトレンジがNレンジに切替えられたため、時刻t3で制動力がONにされる。
【0045】
次に、制御部50による走行中制動動作について、
図5に示すフローチャートを参照して説明する。この動作は、システムの起動中は短い周期で繰り返し実施される。
【0046】
図5において、制御部50は、ステップS11で自動変速機30のクラッチ37の油温が閾値以下であるか否かを判別する。制御部50は、ステップS11で油温が閾値より大きい場合は今回の動作を終了し、油温が閾値以下である場合は、ステップS12で車速Vが所定車速Vth[km/h]未満であるか否かを判別する。
【0047】
制御部50は、ステップS12で車速が所定車速Vth[km/h]未満ではない場合は今回の動作を終了し、車速が0[km/h]未満である場合、ステップS13でDレンジ又はRレンジからNレンジへのシフト操作が行われたか否かを判別する。
【0048】
制御部50は、ステップS13でNレンジへのシフト操作が行われていない場合は今回の動作を終了し、Nレンジへのシフト操作が行われた場合はステップS14でブレーキを作動させる。ステップS14において、制御部50は、車輪12に制動力を作用させるよう姿勢制御装置40を制御する。そして、所定時間T2後に制動力を解除する。所定時間T2は、車両10の停車後の動き出しを防止するための十分な時間に設定されている。
【0049】
次いで、
図6のタイミングチャートを参照し、
図5の走行中制動動作が実施される際の車両状態の推移を説明する。
図6において、縦軸は車速、シフトレンジ(図中、シフト位置と記す)及び制動力を表わし、横軸は時間を表わしている。なお、
図6の制動力の"ON"は、車輪12に制動力を作用させるよう制御部50が姿勢制御装置40を制御していることを表わす。したがって、ドライバの制動操作による制動力は
図6には表わされていない。
【0050】
図6に示すように、時刻t10において、ドライバの制動操作によって車速が低下しており、シフトレンジはDレンジに設定されており、制動力はOFFにされている。その後、時刻t11でドライバによりシフトレンジがNレンジに切替えられる。
【0051】
その後、時刻t12で車速が所定車速Vthまで低下したため、制動力がONにされ、車速が低下するに連れて制動力が漸次大きくされる。その後、時刻t13で車速が0になって車両10が停車する。
【0052】
以上のように、本実施例において、制御部50は、自動変速機30のオイルの油温が所定油温未満、かつ車両10が停止していることを車速センサ15が検出している状態で、走行レンジから非走行レンジへの切替え操作がシフトレンジ操作部17により行われた場合、車輪12に制動力を作用させるよう姿勢制御装置40を制御する。
【0053】
このように、本実施例では、オイルの油温が所定油温未満、かつ車両が停止していることを車速センサ15が検出している状態で、走行レンジから非走行レンジへの切替え操作が行われた場合、ドライバのブレーキ操作力が十分でないときであっても、車輪12に制動力を作用させるよう制御部50が姿勢制御装置40を制御するので、車両10が意図せず動き出すことを防止できる。
【0054】
また、本実施例では、制御部50の制御によって車両10の意図しない動き出しを防止するようになっているため、自動変速機30に別途のクラッチを設ける等の構造変更を行う必要がない。
【0055】
この結果、構造を変更することなく車両10の意図しない動き出しを防止できる。
【0056】
また、本実施例において、制御部50は、油温が所定油温未満、かつ車両が所定車速未満で走行していることを車速センサ15が検出している状態で、走行レンジから非走行レンジへの切替え操作がシフトレンジ操作部17により行われた場合、車輪12に制動力を作用させ、車速が0に近づくに連れて制動力が漸次大きくなるよう姿勢制御装置40を制御する。
【0057】
これにより、車両10の減速走行中に、ドライバが減速後に停車する意図を持ってシフトレンジ操作部17により走行レンジから非走行レンジに切替えた場合、車速が0に低下する前から車輪12に制動力が作用するため、車速が0になった後にドライバがブレーキペダルから足を離した際に、車両10の動き出しを防止する十分な制動力を車輪12に作用させることができる。このため、車両10が停止後に意図せず動き出すことを防止できる。
【0058】
この結果、構造を変更することなく車両10の意図しない動き出しを防止できる。これに加え、本実施例では、車速が0に近づくに連れて制動力が漸次大きくなるので、制動開始時及び制動中にドライバに違和感や不快感を与えることを防止できる。
【0059】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。