特許第6954095号(P6954095)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6954095
(24)【登録日】2021年10月4日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】弁装置の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16K 31/04 20060101AFI20211018BHJP
   F01P 7/14 20060101ALI20211018BHJP
   F01P 7/16 20060101ALI20211018BHJP
【FI】
   F16K31/04 B
   F01P7/14 J
   F01P7/16 504A
   F01P7/16 504E
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-246016(P2017-246016)
(22)【出願日】2017年12月22日
(65)【公開番号】特開2019-113095(P2019-113095A)
(43)【公開日】2019年7月11日
【審査請求日】2020年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋輔
【審査官】 谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−078341(JP,A)
【文献】 特開2012−026288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 31/04
F01P 7/14
F01P 7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部空間(100)を有し、前記内部空間と外部とを連通する複数のハウジング側開口(101,1601,1701,1801)を有する弁ハウジング(10,15,16,17,18)と、
前記弁ハウジングに回転可能に収容され、複数の前記ハウジング側開口と前記内部空間とを連通または遮断可能な弁部材(20)と、
外部から供給される電力によって前記弁部材を回転可能な駆動力を出力する駆動部(153)と、
前記弁部材の実回転角度を検出可能な回転角検出部(152)と、
を備える弁装置(3)の駆動を制御する弁装置の制御装置であって、
前記回転角検出部が検出する実回転角度、及び、前記弁部材の目標回転角度に基づいて、前記駆動部のオン時間またはオフ時間の比率を表す指令デューティ比(Rcd)を演算する指令デューティ演算部(31)と、
前記実回転角度、及び、前記駆動部に入力された実デューティ比(Rpd)に基づいて、前記弁部材のストレス(Tqv)を演算するストレス演算部(32)と、
前記ストレス演算部が演算する前記ストレスに基づいて前記弁装置の寿命を演算する寿命演算部(33)と、
前記指令デューティ演算部が演算する指令デューティ比、及び、前記ストレス演算部が演算する前記ストレスに基づいて、新たな実デューティ比(Rpd1)を演算する実デューティ演算部(35)と、
を備え
前記実デューティ演算部は、前記寿命演算部が演算する前記弁装置の寿命に基づいて実デューティ比を演算する弁装置の制御装置。
【請求項2】
内部空間(100)を有し、前記内部空間と外部とを連通する複数のハウジング側開口(101,1601,1701,1801)を有する弁ハウジング(10,15,16,17,18)と、
前記弁ハウジングに回転可能に収容され、複数の前記ハウジング側開口と前記内部空間とを連通または遮断可能な弁部材(20)と、
外部から供給される電力によって前記弁部材を回転可能な駆動力を出力する駆動部(153)と、
前記弁部材の実回転角度を検出可能な回転角検出部(152)と、
を備える弁装置(3)の駆動を制御する弁装置の制御装置であって、
前記回転角検出部が検出する実回転角度、及び、前記弁部材の目標回転角度に基づいて、前記駆動部のオン時間またはオフ時間の比率を表す指令デューティ比(Rcd)を演算する指令デューティ演算部(31)と、
前記実回転角度、及び、前記駆動部に入力された実デューティ比(Rpd)に基づいて、前記弁部材のストレス(Tqv)を演算するストレス演算部(32)と、
前記ストレス演算部が演算する前記ストレスに基づいて前記弁装置の寿命を演算する寿命演算部(33)と、
前記寿命演算部が演算する前記弁装置の寿命、及び、前記弁装置の使用履歴に基づいて、上限デューティ比(Ruld1)を演算する上限値演算部(34)と、
前記指令デューティ演算部が演算する指令デューティ比、及び、前記ストレス演算部が演算する前記ストレスに基づいて、新たな実デューティ比(Rpd1)を演算する実デューティ演算部(35)と、
を備え
前記実デューティ演算部は、前記上限値演算部が演算する前記上限デューティ比に基づいて実デューティ比を演算する弁装置の制御装置。
【請求項3】
前記上限値演算部は、前記寿命演算部が演算する前記弁装置の寿命、及び、前記弁装置の使用時間に基づいて前記弁装置の推定故障率(Ref)を演算し、当該推定故障率に基づいて前記上限デューティ比を演算する請求項に記載の弁装置の制御装置。
【請求項4】
前記寿命演算部は、前記ストレス演算部が演算する前記ストレスに基づいて蓄積係数(Ca)を演算し、当該蓄積係数の合計(ΣCa)から前記弁装置の故障率(Rf)を演算する請求項1〜3のいずれか一項に記載の弁装置の制御装置。
【請求項5】
前記寿命演算部は、前記ストレスの下限値(LTqv)に比べ大きい前記ストレスに基づいて前記弁装置の寿命を演算する請求項1〜4のいずれか一項に記載の弁装置の制御装置。
【請求項6】
前記ストレス演算部は、前記実回転角度に基づいて前記弁部材の回転速度を演算し、当該回転速度から前記ストレスである前記弁部材の摺動抵抗を演算する請求項1〜のいずれか一項の記載の弁装置の制御装置。
【請求項7】
前記ストレス演算部が演算する前記ストレスの積算値が所定の上限値(LΣCa)以上となるとき前記ストレスの積算値が所定の上限値以上となったことを外部に知らせる警報部(36)をさらに備える請求項1〜のいずれか一項に記載の弁装置の制御装置。
【請求項8】
前記ストレス演算部は、実デューティ比が前の時刻での実デューティ比から変化した直後、一定時間、前記弁部材の前記ストレスの演算を停止する請求項1〜のいずれか一項に記載の弁装置の制御装置。
【請求項9】
前記弁装置と、
請求項1〜のいずれか一項に記載の弁装置の制御装置と、
を備える流体制御システム。
【請求項10】
前記弁部材は、樹脂から形成されている請求項に記載の流体制御システム。
【請求項11】
前記駆動部は、直流モータである請求項または10に記載の弁装置の流体制御システム。
【請求項12】
前記弁部材は、前記弁ハウジングの内壁(162,172,182)に摺動可能に設けられ、
前記弁部材の摺動抵抗は、一定である請求項9〜11のいずれか一項に記載の流体制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弁装置の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、流体の流通を制御可能な弁装置に関して、当該弁装置の弁部材の回転を制御する弁装置の制御装置が知られている。例えば、特許文献1には、弁部材の回転角を検出する検出部を有する弁装置、並びに、検出部から得られる回転角の検出値と回転角の指令値との差に基づき電動モータへの電圧印加のオンオフの期間比率を示すデューティ比を算出するとともにデューティ比を所定の上限値以下に規制するデューティ比算出部、及び、デューティ比が上限値を所定の期間持続したか否かを判定する判定部を有する制御部を備える弁装置の制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017−78341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の弁装置の制御装置では、当該制御装置を実使用する前にデューティ比に対して所定の上限値を設定している。しかしながら、実使用時における弁部材を収容する弁ハウジングと弁部材との間への異物の噛み込みや流体の凍結などイレギュラーな事象の発生回数を予測することは困難である。このため、実使用する前に所定の上限値の大きさを最適な値に設定することはできないため、例えば、イレギュラーな事象を考慮し上限値を低めに設定してしまうと、弁部材の性能を十分に発揮することができないおそれがある。
【0005】
本発明は、上述の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、故障を防止しつつ良好な応答性を維持することが可能な弁装置の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、内部空間(100)を有し内部空間と外部とを連通する複数のハウジング側開口(101,1601,1701,1801)を有する弁ハウジング(10,15,16,17,18)と、弁ハウジングに回転可能に収容され複数のハウジング側開口と内部空間とを連通または遮断可能な弁部材(20)と、外部から供給される電力によって弁部材を回転可能な駆動力を出力する駆動部(153)と、弁部材の実回転角度を検出可能な回転角検出部(152)と、を備える弁装置(3)の駆動を制御する弁装置の制御装置であって、指令デューティ演算部(31)、ストレス演算部(32)、寿命演算部(33)、及び、実デューティ演算部(35)を備える。
【0007】
指令デューティ演算部は、回転角検出部が検出する実回転角度、及び、弁部材の目標回転角度に基づいて、駆動部のオン時間またはオフ時間の比率を表す指令デューティ比(Rcd)を演算する。
【0008】
ストレス演算部は、実回転角度、及び、駆動部に入力された実デューティ比(Rpd)に基づいて、弁部材のストレス(Tqv)を演算する。寿命演算部は、ストレス演算部が演算する前記ストレスに基づいて弁装置の寿命を演算する。
【0009】
実デューティ演算部は、指令デューティ演算部が演算する指令デューティ比、及び、ストレス演算部が演算するストレスに基づいて、新たな実デューティ比を演算する。本発明の第1の態様では、実デューティ演算部は、寿命演算部が演算する弁装置の寿命に基づいて実デューティ比を演算する。
【0010】
本発明の弁装置の制御装置は、弁部材のストレスを演算するストレス演算部及び駆動部に出力される実デューティ比を演算する実デューティ演算部を備えている。ストレス演算部は、実回転角度、及び、駆動部に入力された実デューティ比に基づいて弁部材のストレスを演算する。弁装置では、通常、駆動部に入力された実デューティ比によって実回転角度が決定される。しかしながら、異物の噛み込みや流体の凍結などのような弁部材が回転不具合となる事象が発生していると、駆動部に入力された実デューティ比と実回転角度とが対応しなくなる。そこで、ストレス演算部では、駆動部に入力された実デューティ比と実回転角度との関係から、例えば、弁部材の回転を妨げるよう弁部材に作用する負荷トルクなどの弁部材のストレスを演算する。実デューティ演算部は、デューティ演算部が演算する指令デューティ比、及び、ストレス演算部が演算するストレスに基づいて駆動部に新たに入力される実デューティ比を演算する。駆動部は、当該実デューティ比に基づいて弁部材を駆動する。これにより、本発明の弁装置の制御装置は、実使用時における弁装置のストレスの大きさに応じて適時演算される実デューティ比に基づいて弁部材を駆動するため、弁装置が故障するような過度のストレスが作用する駆動を防止することができる。したがって、弁装置の故障を確実に防止することができる。
【0011】
また、従来、弁装置の故障を防止することを優先する場合、実使用前から実デューティ比の上限値を比較的低く設定することによっても弁装置の故障を防止することは可能である。しかしながら、実デューティ比の上限値を比較的低く設定すると弁装置の応答性が低下する。本発明の弁装置の制御装置では、実デューティ演算部は、指令デューティ演算部が演算する指令デューティ比にストレス演算部が演算するストレスを加味することによって弁装置が故障しない程度の新たな実デューティ比を演算し、弁部材を駆動する。これにより、弁装置は、良好な応答性を維持することができる。
【0012】
このように、本発明の弁装置の制御装置は、ストレス演算部において弁装置のストレスの大きさを演算し当該演算結果に基づいて実デューティ比を設定することによって、弁装置の故障を防止しつつ良好な応答性を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態による弁装置の制御装置が適用される弁装置の断面図である。
図2図1のII−II線断面図である。
図3】一実施形態による弁装置の制御装置が適用される冷却システムの模式図である。
図4】一実施形態による弁装置の制御装置のブロック図である。
図5】一実施形態による弁装置の制御装置が備えるストレス演算部のブロック図である。
図6】一実施形態による弁装置の制御装置が備えるモータの特性図である。
図7】一実施形態による弁装置の制御装置が備える寿命演算部のブロック図である。
図8】一実施形態による弁装置の制御装置が備える上限値演算部のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
(一実施形態)
一実施形態による「流体制御システム」としての流体制御システム5は、「弁装置の制御装置」としての制御部1、及び、「弁装置」としての流体制御弁3を備える。流体制御システム5は、エンジン91を冷却する冷却システム90に適用される。
【0016】
最初に、流体制御システム5が適用される冷却システム90について、図3に基づいて説明する。流体制御システム5は、エンジン91が有するシリンダヘッド911に設けられている。流体制御弁3には、エンジン91が有するシリンダブロック912及びシリンダヘッド911内を流れる冷却水が流入する。流体制御弁3に流入する冷却水は、ラジエータ92、オイルクーラ93、及び、空調用熱交換器94に供給される。ラジエータ92、オイルクーラ93、及び、空調用熱交換器94に供給された冷却水は、ウォーターポンプ95に戻され加圧された後、再びエンジン91の冷却に利用される。
【0017】
流体制御システム5は、図4に示すように、制御部1、流体制御弁3、エンジン回転数センサ51、水温センサ52、電圧計53などを備える。
【0018】
制御部1は、流体制御弁3、及び、車両の各種センサと電気的に接続している。制御部1は、エンジン回転数センサ51、水温センサ52、電圧計53などが出力する車両の状態を表す信号に基づいて流体制御弁3の駆動を制御する。制御部1の構成及び作用の詳細は、後述する。
【0019】
流体制御弁3は、図1,2に示すように、「弁ハウジング」としての第一ハウジング10、軸受14、「弁ハウジング」としての第二ハウジング15、「弁ハウジング」としてのラジエータ配管16、「弁ハウジング」としてのオイルクーラ用配管17、「弁ハウジング」としての空調用配管18、弁部材20、及び、シャフト25を備える。
【0020】
第一ハウジング10は、略有底筒状に形成されている樹脂からなる部材である。第一ハウジング10は、弁部材20を収容可能な略柱状の「内部空間」としての弁部材収容空間100を有する。第一ハウジング10は、「ハウジング側開口」としての挿入孔101を有する。挿入孔101は、弁部材収容空間100に連通しエンジン91から弁部材収容空間100に冷却水が流入するときの流入口となる。また、第一ハウジング10は、弁部材収容空間100の径外方向に三つの挿入孔11,12,13を有する。挿入孔11は、ラジエータ配管16を挿入可能である。挿入孔12は、オイルクーラ用配管17を挿入可能である。挿入孔13は、空調用配管18を挿入可能である。
【0021】
ハウジング底部104は、略中央に貫通孔105を有する。貫通孔105には、シャフト25の他方の端部252が挿通されている。貫通孔105の内壁には軸受部106が設けられている。軸受部106は、シャフト25の他方の端部252を回転可能に支持する。
【0022】
軸受14は、挿入孔101に設けられている。軸受14は、シャフト25の一方の端部251を回転可能に支持する軸受部140を有する。
【0023】
第二ハウジング15は、第一ハウジング10の挿入孔101が形成される側とは反対側に設けられる。第二ハウジング15は、コネクタ151を有する。また、第二ハウジング15は、第一ハウジング10との間に「回転角検出部」としての回転角センサ152、及び、シャフト25と「駆動部」としてのモータ153(図4参照)とを連結する複数のギアを収容可能な収容室150を形成する。
【0024】
コネクタ151は、回転角センサ152及びモータ153と電気的に接続する端子154を有する。端子154は、制御部1と電気的に接続している。コネクタ151は、回転角センサ152が出力する信号を制御部1に出力するとともに、モータ153に供給される電力を外部から受電可能である。
【0025】
回転角センサ152は、シャフト25の他方の端部252の近傍に設けられる。回転角センサ152は、弁部材20と一体に回転可能なシャフト25の「実回転角度」としての回転角度に応じた信号を出力可能である。
【0026】
モータ153は、いわゆる、直流モータであって、制御部1が出力する実デューティ比Rpdに基づいて駆動トルクを出力可能に設けられている。モータ153が出力する駆動トルクは、収容室150に収容されているギアを介してシャフト25に伝達される。
【0027】
シャフト25は、金属から略棒状に形成され、一方の端部251、及び、他方の端部252を有する。一方の端部251は、軸受14に挿入され、軸受部140に回転可能に支持されている。他方の端部252は、ハウジング底部104に挿入され、軸受部106に回転可能に支持されている。
【0028】
ラジエータ配管16は、ラジエータ用通路160を有するよう略筒状に形成され第一ハウジング10の開口部111に固定されているラジエータ用パイプ161、「弁ハウジングの内壁」としてのシート162、スリーブ163、及び、ばね164を有する。シート162は、ラジエータ用パイプ161とは別体に設けられている、例えば、PTFEから形成されている略環状の部材である。シート162は、ハウジング側開口1601を有する。シート162は、弁部材20の外壁に摺動可能に設けられる。
【0029】
スリーブ163は、ラジエータ用パイプ161とシート162との間に設けられる略筒状の部材である。スリーブ163は、ラジエータ用パイプ161側の端部がラジエータ用通路160に挿入されている。スリーブ163は、シート162を支持している。
【0030】
ばね164は、ラジエータ用パイプ161とシート162とが離間する方向にシート162を付勢する。これにより、シート162は、弁部材20の外壁に摺動し、弁部材20内及びスリーブ163内と挿入孔11との液密が維持される。
【0031】
オイルクーラ用配管17は、オイルクーラ用通路170を有するよう略筒状に形成され第一ハウジング10の開口部121に固定されているオイルクーラ用パイプ171、「弁ハウジングの内壁」としてのシート172、スリーブ173、及び、ばね174を有する。シート172は、オイルクーラ用パイプ171とは別体に設けられている、例えば、PTFEから形成されている略環状の部材である。シート172は、ハウジング側開口1701を有する。シート172は、弁部材20の外壁に摺動可能に設けられる。
【0032】
スリーブ173は、オイルクーラ用パイプ171とシート172との間に設けられる略筒状の部材である。スリーブ173は、オイルクーラ用パイプ171側の端部がオイルクーラ用通路170に挿入されている。スリーブ173は、シート172を支持している。
【0033】
ばね174は、オイルクーラ用パイプ171とシート172とが離間する方向にシート172を付勢する。これにより、シート172は、弁部材20の外壁に摺動し、弁部材20内及びスリーブ173内と挿入孔12との液密が維持される。
【0034】
空調用配管18は、空調用通路180を有するよう略筒状に形成され第一ハウジング10の開口部131に固定されている空調用パイプ181、「弁ハウジングの内壁」としてのシート182、スリーブ183、及び、ばね184を有する。シート182は、空調用パイプ181とは別体に設けられている、例えば、PTFEから形成されている略環状の部材である。シート182は、ハウジング側開口1801を有する。シート182は、弁部材20の外壁に摺動可能に設けられる。
【0035】
スリーブ183は、空調用パイプ181とシート182との間に設けられる略筒状の部材である。スリーブ183は、空調用パイプ181側の端部が空調用通路180に挿入されている。スリーブ183は、シート182を支持している。
【0036】
ばね184は、空調用パイプ181とシート182とが離間する方向にシート182を付勢する。これにより、シート182は、弁部材20の外壁に摺動し、弁部材20内及びスリーブ183内と挿入孔13の液密が維持される。
【0037】
弁部材20は、樹脂から略有底筒状に形成され、弁部材収容空間100に収容されている。弁部材20の中心軸上には、シャフト25の回転軸RA25が位置する。弁部材20は、弁部材底部21、及び、筒部22を有する。弁部材20は、内部に弁部材底部21と筒部22とによって形成される空間200を有する。
【0038】
弁部材底部21は、弁部材収容空間100のハウジング底部104に対向する位置に設けられている。略中心にシャフト25を挿通可能な貫通孔211を有する。貫通孔211にシャフト25が挿通されると、弁部材20とシャフト25とは相対移動不能となり、一体となって回転可能となる。
【0039】
筒部22は、弁部材底部21からハウジング底部104とは反対の方向に延びるよう形成される。筒部22は、空間200と筒部22の外側とを連通する弁部材側開口221,222,223,224を有する。弁部材側開口221,222は、筒部22の弁部材底部21側に形成されている。弁部材側開口221,222は、弁部材20の回転角度に応じてラジエータ用通路160に連通可能なよう形成されている。弁部材側開口223は、弁部材20の回転角度に応じてオイルクーラ用通路170に連通可能なよう形成されている。弁部材側開口224は、弁部材20の回転に合わせて空調用通路180に連通可能なよう形成されている。
【0040】
エンジン回転数センサ51は、エンジン91の回転数を検出し、当該回転数に応じた回転数信号Nrを電気的に接続している制御部1に出力する(図4参照)。水温センサ52は、エンジン91の冷却水の温度を検出し、当該水温に応じた水温信号Twを電気的に接続している制御部1に出力する(図4参照)。電圧計53は、図示しないバッテリの電圧を検出し、当該電圧に応じた電圧信号Evを電気的に接続している制御部1に出力する(図4参照)。
【0041】
一実施形態による制御部1は、その構成及び各部における演算処理の内容に特徴がある。ここでは、図4〜8に基づいて、制御部1の構成及び各部の演算処理の内容について説明する。
【0042】
制御部1は、マイコン等を含んでいる。マイコンは、演算手段としてのCPU、記憶手段としてのROMおよびRAM等を有する小型のコンピュータである。マイコンは、ROMに格納された各種プログラムに従い、CPUによって種々の処理を実行する。制御部1における処理は、ROM等の実体的なメモリ装置に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理であってもよいし、専用の電子回路によるハードウェア処理であってもよい。制御部1は、図4に示すように、指令デューティ演算部31、ストレス演算部32、寿命演算部33、上限値演算部34、実デューティ演算部35、及び、警報部36を有する。
【0043】
指令デューティ演算部31は、エンジン回転数センサ51、水温センサ52、電圧計53、及び、回転角センサ152と電気的に接続している。指令デューティ演算部31には、エンジン回転数センサ51が出力するエンジン91の回転数に応じた回転数信号Nr、水温センサ52が出力する水温に応じた水温信号Tw、電圧計53が出力するバッテリの電圧に応じた電圧信号Ev、及び、回転角センサ152が出力する弁部材20の実回転角度に応じた回転角信号Arが入力される。また、指令デューティ演算部31には、エンジン91を搭載する車両の図示しないECUが出力する弁部材20の目標回転角度に応じた信号Aarが入力される。指令デューティ演算部31は、回転数信号Nr、水温信号Tw、電圧信号Ev、回転角信号Ar、及び、目標回転角度に応じた信号Aarに基づいて、モータ153のオン時間またはオフ時間の比率を表すデューティ比を演算する。指令デューティ演算部31は、演算したデューティ比(以下、「指令デューティ比」という)Rcdとしての指令デューティ比Rcd1に応じた指令デューティ比信号SRcd1を実デューティ演算部35に出力する。
【0044】
ストレス演算部32は、水温センサ52、電圧計53、回転角センサ152、及び、実デューティ演算部35の出力端Op35と電気的に接続している。ストレス演算部32における演算処理の内容を図5,6に基づいて説明する。図5は、ストレス演算部32における弁部材負荷トルクTqvの演算方法を説明するブロック図である。図6は、モータ153におけるモータ負荷トルクTqmと回転数Rnとの関係を示す特性図である。
【0045】
ストレス演算部32は、回転角センサ152が出力する回転角信号Arに基づいて現在の弁部材20の位置Pvpを演算する。また、ストレス演算部32では、現在より前の時刻での弁部材20の位置Pvfを記憶している。そこで、ストレス演算部32は、図5に示すように、現在の弁部材20の位置Pvpと現在より前の時刻での弁部材20の位置Pvfとの差分から弁部材20の回転速度Svを演算する。ストレス演算部32は、演算された弁部材20の回転速度Svに基づいてシャフト25とモータ153とを連結する複数のギアのギア比Rgを加味し、モータ153の回転速度Smを演算する。
【0046】
また、ストレス演算部32には、水温センサ52が出力する水温信号Tw、電圧計53が出力する電圧信号Ev、及び、実デューティ演算部35の出力端Op35から入力される実デューティ比Rpdに応じた信号(以下、「実デューティ信号」という)SRpdが入力される。電圧信号Evと実デューティ信号SRpdとからは、モータ153に入力された実電圧Eaを演算することが可能である。
【0047】
ストレス演算部32では、演算されたモータ153の回転速度Sm、水温信号Tw、及び、実電圧Eaに基づいて、モータ特性マップmap1を用いて任意の時刻におけるモータ153のモータ負荷トルクTqm1を演算する。この演算方法について、図6に基づいて説明する。
【0048】
図6に示す特性図では、横軸にモータ負荷トルクTqmをとり、縦軸に回転数Rnをとっている。モータ負荷トルクTqmと回転数Rnとの関係は、水温信号Twから演算可能なエンジン91の冷却水の温度または実電圧Eaによって変化する。したがって、図6には、ある水温及びある実電圧におけるモータ負荷トルクTqmと回転数Rnとの関係の一例として、実線L1を示している。ストレス演算部32には、図6の実線L1を含め流体制御弁3を使用する状況において想定される水温及び実電圧におけるモータ負荷トルクTqmと回転数Rnとの関係に関するデータが事前に入力されている。
【0049】
ストレス演算部32は、入力される水温信号Tw、電圧信号Ev、及び、実デューティ比Rpdの大きさに応じた信号によって図6の特性図上のモータ負荷トルクTqmと回転数Rnとの関係を一つに決定する。例えば、ストレス演算部32は、ここでは実線L1に決定する。次に、モータ153の回転速度Smに基づいて演算される回転数Rnを縦軸にプロットする。例えば、ここでは回転数Rn1とする。ストレス演算部32は、図6に示す特性図上において、回転数Rn1に対応するモータ負荷トルクTqm1を演算する(図6の点線L11,L12)。
【0050】
図5に戻り、ストレス演算部32では、演算されたモータ負荷トルクTqm1に基づいてシャフト25とモータ153とを連結する複数のギアのギア比Rgを加味し、シャフト25及び弁部材20の弁部材負荷トルクTqv1を演算する。ストレス演算部32は、弁部材負荷トルクTqv1の大きさに応じた信号STqv1を寿命演算部33に出力する。
【0051】
本実施形態のストレス演算部32は、実デューティ比Rpdが前の時刻での実デューティ比Rpdから変化した直後、例えば、弁部材20の回転が安定するまでの一定時間の間、モータ負荷トルクTqmの演算を停止する。
【0052】
寿命演算部33では、ストレス演算部32が出力する弁部材負荷トルクTqv1に基づいて流体制御弁3の寿命を演算する。この演算方法の詳細について、図7に基づいて説明する。
【0053】
寿命演算部33は、事前に、「弁部材のストレス」及び「弁部材の摺動抵抗」としての弁部材負荷トルクTqvと蓄積係数Caとの関係を示す疲労特性マップmap2を有している。ここで、蓄積係数Caとは、図7の疲労特性マップmap2に示すように、弁部材負荷トルクTqvが大きくなるに従って大きくなる値であって、シャフト25及び弁部材20に蓄積されるダメージの大きさを数値で表したものである。本実施形態では、弁部材負荷トルクTqvが大きいほど蓄積係数Caが増加する度合いが大きくなるよう設定されている。また、本実施形態では、弁部材負荷トルクTqvに「ストレスの下限値」としての下限値LTqvが設定されている。寿命演算部33に入力される弁部材負荷トルクTqvが下限値LTqvを下回る場合、蓄積係数Caは0として扱う。寿命演算部33では、疲労特性マップmap2に基づいて、弁部材負荷トルクTqv1に対応する蓄積係数Ca1を演算する。
【0054】
寿命演算部33では、演算された蓄積係数Ca1と、前の時刻までに積算された通算蓄積係数(ΣCa−Ca1)とを足し合わせ、現時点での「蓄積係数の合計」としての通算蓄積係数ΣCa1を演算する。
【0055】
また、寿命演算部33は、事前に、通算蓄積係数ΣCaと故障率Rfとの関係を示す強度設計マップmap3を有している。ここで、故障率Rfとは、図7の強度設計マップmap3に示すように、通算蓄積係数ΣCaが大きくなるに従って大きくなる値であって、現時点での流体制御弁3の故障率、すなわち、故障の程度を示している。本実施形態では、通算蓄積係数ΣCaが大きいほど故障率Rfが増加する度合いが大きくなるよう設定されている。寿命演算部33では、強度設計マップmap3に基づいて、通算蓄積係数ΣCa1に対応する故障率Rf1を演算する。寿命演算部33は、故障率Rf1の大きさに応じた信号SRf1を上限値演算部34に出力する。
【0056】
上限値演算部34は、寿命演算部33が演算する流体制御弁3の故障率Rf、及び、流体制御弁3の「使用履歴」としての使用時間Tuに基づいて上限デューティ比Ruldを演算する。この演算方法の詳細について、図8に基づいて説明する。
【0057】
上限値演算部34は、事前に、故障率Rfと推定故障率Refとの関係を示す疲労特性マップmap4を有している。ここで、推定故障率Refとは、図8の疲労特性マップmap4に示すように、故障率Rfが大きくなるに従って大きくなる値であって、故障率Rfに基づいて流体制御弁3を搭載する車両が一生分走行したときの故障率を推測した値である。
【0058】
故障率Rfに対する推定故障率Refの変化率は、流体制御弁3の使用時間の長さによって異なる。具体的には、流体制御弁3の使用時間が比較的長いときの推定故障率Refの変化率は、流体制御弁3の使用時間が比較的短いときの推定故障率Refの変化率に比べ大きい。疲労特性マップmap4には、流体制御弁3の使用時間が比較的長いときの故障率Rfと推定故障率Refとの関係を実線L2で示し、流体制御弁3の使用時間が比較的短いときの故障率Rfと推定故障率Refとの関係を点線L3で示す。上限値演算部34では、流体制御弁3の使用時間に基づいて疲労特性マップmap4を設定する。上限値演算部34では、当該設定された疲労特性マップmap4に基づいて、故障率Rf1に対応する推定故障率Ref1を演算する。
【0059】
また、上限値演算部34は、事前に、推定故障率Refと上限デューティ比Ruldとの関係を示す上限デューティマップmap5を有している。推定故障率Refが大きいと弁部材20の駆動によって流体制御弁3が使用不可能な状態となる可能性が高いため、デューティ比を小さくする必要がある。したがって、図8の上限デューティマップmap5は、推定故障率Refが大きくなると、上限デューティ比Ruldが小さくなるよう設定されている。上限値演算部34では、上限デューティマップmap5に基づいて、推定故障率Ref1に対応する上限デューティ比Ruld1を演算する。上限値演算部34は、上限デューティ比Ruld1の大きさに応じた信号SRuld1を実デューティ演算部35に出力する。
【0060】
実デューティ演算部35は、指令デューティ演算部31が出力する指令デューティ比Rcd1と上限値演算部34が出力する上限デューティ比Ruld1とに基づいて、「新たな実デューティ比」としての実デューティ比Rpd1を演算する。例えば、指令デューティ比Rcd1の大きさが上限デューティ比Ruld1の大きさに比べ小さい場合、実デューティ比Rpd1は、指令デューティ比Rcd1となる。一方、指令デューティ比Rcd1の大きさが上限デューティ比Ruld1の大きさに比べ大きい場合、実デューティ比Rpd1は、上限デューティ比Ruld1となる。
【0061】
実デューティ演算部35は、指令デューティ比Rcd1と上限デューティ比Ruld1との比較によって決定された実デューティ比Rpd1をモータ153に出力する。モータ153は、外部から供給される電力と実デューティ比Rpd1とに基づいて弁部材20を駆動する。
【0062】
警報部36は、寿命演算部33と電気的に接続している。警報部36には通算蓄積係数ΣCaの上限値LΣCaが設定されている(図7のmap3参照)。警報部36は、寿命演算部33が演算する通算蓄積係数ΣCaの値が上限値LΣCa以上になると、外部に警報を出力する。
【0063】
一実施形態による制御部1は、ストレス演算部32及び実デューティ演算部35を備えている。ストレス演算部32は、シャフト25の回転角度やモータ153に出力された実デューティ比Rpdなどに基づいて、弁部材負荷トルクTqvを流体制御弁3のストレスとして演算する。流体制御弁3では、通常、モータ153に出力された実デューティ比Rpdによってシャフト25の回転角度が決定される。しかしながら、流体制御弁3に弁部材20が回転不具合となる事象が発生していると、モータ153に出力された実デューティ比Rpdと弁部材20の実回転角度とが対応しなくなる。そこで、ストレス演算部32では、モータ153に出力された実デューティ比Rdpとシャフト25の回転角度との関係から弁部材20のストレスとしての弁部材負荷トルクTqvを演算する。
【0064】
実デューティ演算部35は、指令デューティ演算部31が演算する指令デューティ比Rcd、及び、ストレス演算部32が演算する弁部材負荷トルクTqvに基づいてモータ153に出力する実デューティ比Rpdを演算する。モータ153は、当該実デューティ比Rpdに基づいて弁部材20を駆動する。これにより、本実施形態では、実使用時における流体制御弁3のストレスの大きさに応じて適時演算される実デューティ比Rpdに基づいて弁部材20を駆動することができる。例えば、流体制御弁3の実使用時において、第一ハウジング10と弁部材20との間への異物の噛み込みや流体に水を使った場合の当該水の凍結などが発生した場合、弁部材20の回転を妨げる力が作用するため弁部材負荷トルクTqvは変化する。制御部1では、流体制御弁3の状態に対応する弁部材負荷トルクTqvの変化に基づいて実デューティ比Rpdを演算するため、流体制御弁3が使用不可能となるような過度のストレスが発生する弁部材20の駆動を防止することができる。したがって、一実施形態は、流体制御弁3の故障を確実に防止することができる。
【0065】
また、従来、流体制御弁の故障を確実に防止することを優先とする場合、市場に出荷される前の制御部に設定されている実デューティ比の上限値を比較的低く設定することは可能である。しかしながら、実デューティ比の上限値を比較的低く設定すると、流体制御弁の応答性が低下するため、流体制御弁の特性を十分に発揮することができない。このため、例えば、一実施形態のように流体制御弁によってエンジンの冷却水の流れを制御する場合、エンジンの始動時に効率的に暖機をするためには冷却システムの耐圧近傍まで冷却水の流れを止めるよう閉弁することが望ましい。しかしながら、応答性が悪いと早めに開弁する必要があり、効率的にエンジンの暖機を行うことができない。
【0066】
一実施形態による制御部1では、弁部材負荷トルクTqvの大きさに応じて上限デューティ比Ruldが演算されるため、弁部材負荷トルクTqvが比較的少ないときには上限デューティ比Ruldを比較的大きく設定することができる。これにより、流体制御弁3は、良好な応答性を比較的長い期間維持することができる。
【0067】
このように、一実施形態による制御部1は、流体制御弁3のストレスの大きさをストレス演算部32によって演算し当該演算結果に基づいて実デューティ比Rpdを設定することによって、流体制御弁3の故障を防止しつつ良好な応答性を維持することができる。
【0068】
また、一実施形態による制御部1は、寿命演算部33を備えている。寿命演算部33は、ストレス演算部32が演算する弁部材負荷トルクTqv及び疲労特性マップmap2に基づいて蓄積係数Caを演算する。寿命演算部33では、演算された蓄積係数Caを積算した通算蓄積係数ΣCaを演算し、当該通算蓄積係数ΣCaから流体制御弁3の現時点での故障率である故障率Rfを演算する。これにより、制御部1は、流体制御弁3に蓄積されるストレスの合計から流体制御弁3の寿命予測を行うことができる。したがって、制御部1は、流体制御弁3の故障を確実に防止することができる。
【0069】
また、一実施形態による制御部1は、上限値演算部34を備えている。上限値演算部34は、寿命演算部33が演算する流体制御弁3の故障率Rf、及び、流体制御弁3の使用時間Tuに基づいて上限デューティ比Ruldを演算する。これにより、実デューティ演算部35では、指令デューティ演算部31が出力する指令デューティ比Rcdと上限値演算部34が出力する上限デューティ比Ruldとに基づいて、実デューティ比Rpdを演算することができる。したがって、実デューティ演算部35では、二つの数値を比較する比較的単純な演算によって、モータ153に出力される実デューティ比Rpdを決定することができる。したがって、制御部1は、流体制御弁3の故障を確実に防止することができる。
【0070】
一実施形態による制御部1には、寿命演算部33における蓄積係数Caの演算において、弁部材負荷トルクTqvの下限値LTqvが設定されている。本実施形態では、寿命演算部33に入力される弁部材負荷トルクTqvが下限値LTqvを下回る場合、蓄積係数Caは0とする。これにより、信号のノイズに基づいて演算されるトルクによって通算蓄積係数ΣCaが誤積算されることを防止できるため、演算負荷を低減するだけでなく蓄積係数Caの精度を向上することができる。したがって、制御部1は、応答性をさらに向上することができる。
【0071】
一実施形態による制御部1は、寿命演算部33が演算する通算蓄積係数ΣCaの値が事前に設定されている上限値LΣCaを超えると、外部に警報を出力する警報部36を備える。これにより、流体制御弁3が故障する前に部品の交換等を行うことができるため、車両が走行不能になるなどの深刻なトラブルを未然に回避することができる。
【0072】
一実施形態による制御部1では、ストレス演算部32は、実デューティ比Rpdが前の時刻での実デューティ比Rpdから変化した直後、一定時間の間、モータ負荷トルクTqmの演算を停止する。実デューティ演算部35が実デューティ比Rpdを出力すると、バッテリの電圧と実デューティ比Rpdとの積に応じた電圧がモータ153に印加される。駆動する弁部材20の回転速度Svは、モータ153に印加される電圧と一次遅れの関係にあるため、弁部材20の回転数が安定するまである程度の時間を要する。制御部1では、実デューティ比Rpdが前の時刻での実デューティ比Rpdから変化した直後、一定時間の間、モータ負荷トルクTqmの演算を停止することによって、モータ負荷トルクTqmの演算ミスを防止する。これにより、通算蓄積係数ΣCaの精度を向上することができるため、流体制御弁3の故障を確実に防止しつつ応答性をさらに向上することができる。
【0073】
一実施形態による流体制御システム5は、直流駆動のモータ153を備えている。直流駆動のモータ153では、電圧信号Ev及び実デューティ比Rpdの大きさに応じた実デューティ信号SRpdによって図6に示す特性図上のモータ負荷トルクTqmと回転数Rnとの関係を一意に決定することができる。これにより、図6に示す特性図に演算されるモータ負荷トルクTqm1の精度を向上することができる。したがって、流体制御システム5は、比較的高精度のモータ負荷トルクTqm1に基づいて上限デューティ比Ruldを演算することができるため、流体制御弁3の故障を防止しつつ応答性を向上することができる。
【0074】
また、一実施形態による流体制御システム5が備える弁部材20は、樹脂から形成されている。樹脂材料には、疲労限度がないため、実使用時において故障しやすいため、デューティ比を抑制し破損を防止する必要がある。流体制御システム5では、疲労特性マップmap2や強度設計マップmap3など材料の特性に関連する情報に基づいて上限デューティ比Ruldを演算することができる。したがって、流体制御システム5は、弁部材20の材料特性に合わせて上限デューティ比Ruldを演算し、弁部材20の破損を防止することができる。
【0075】
また、一実施形態による流体制御システム5では、弁部材20は、モータ153が出力する駆動力のみによって駆動する。第一ハウジング10内で回転する弁部材20に作用する摺動抵抗は、シート162,172,182となり、弁部材20の回転方向によって摺動抵抗が変化しない。これにより、流体制御システム5では、弁部材20の回転角度によらず摺動トルクが一定となるため、モータ負荷トルクTqmの精度を向上することができる。したがって、流体制御システム5は、応答性をさらに向上することができる。
【0076】
(その他の実施形態)
上述の実施形態では、制御部は、寿命演算部及び上限値演算部を備えるとした。しかしながら、これらはなくてもよい。寿命演算部及び上限値演算部を備えない場合、ストレス演算部において演算される弁部材負荷トルクに基づいてデューティ演算部が新たな実デューティ比を演算してもよい。また、上限値演算部を備えない場合、ストレス演算部において演算される弁部材負荷トルクに基づいて寿命演算部が流体制御弁の寿命を演算し、当該寿命に基づいてデューティ演算部が新たな実デューティ比を演算してもよい。また、寿命演算部を備えない場合、ストレス演算部において演算される弁部材負荷トルクに基づいて上限値演算部が上限デューティ比を決定し、当該上限デューティ比に基づいて新たな実デューティ比を演算してもよい。
【0077】
上述の実施形態では、「弁ハウジング」は、「ハウジング側開口」を四つ有するとした。しかしながら、ハウジング側開口の数は二つ以上であればよい。
【0078】
上述の実施形態では、電圧信号と実デューティ信号とからモータに入力された実電圧を演算するとした。しかしながら、演算する値は電流でもよい。
【0079】
上述の上限値演算部では、流体制御弁の故障率及び使用時間に基づいて推定故障率を演算するとした。しかしながら、推定故障率の演算方法はこれに限定されない。使用時間に代えて、「使用履歴」として車両の走行距離やスタータの始動回数、水温の履歴などを用いてもよい。また、故障率のみから推定故障率を演算してもよい。
【0080】
上述の実施形態では、上限値演算部における故障率と推定故障率との関係を示す疲労特性マップにおいて、故障率に対する推定故障率変化率は、流体制御弁の使用時間の長さによって異なるため、複数の故障率と推定故障率との関係を有するとした。しかしながら、故障率と推定故障率との関係は、ひとつであってもよい。
【0081】
上述の実施形態では、モータは、直流駆動のモータであるとした。しかしながら、モータは、直流駆動のモータに限定されない。
【0082】
上述の実施形態では、弁部材は、モータが出力する駆動力のみによって駆動するとした。しかしながら、弁部材を駆動する駆動トルクを出力する構成は他にあってもよい。例えば、常時閉弁状態するよう付勢部材を備える弁装置であってもよい。
【0083】
上述の実施形態では、弁部材は樹脂から形成されるとした。しかしながら、弁部材を形成する材料はこれに限定されない。
【0084】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲の種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0085】
1・・・制御部(弁装置の制御装置)
3・・・流体制御弁(弁装置)
20・・・弁部材
152・・・回転角センサ(回転角検出部)
153・・・モータ(駆動部)
31・・・指令デューティ演算部
32・・・ストレス演算部
35・・・実デューティ演算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8