特許第6954150号(P6954150)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6954150
(24)【登録日】2021年10月4日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】交流電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 21/14 20160101AFI20211018BHJP
   B60L 9/18 20060101ALN20211018BHJP
【FI】
   H02P21/14
   !B60L9/18 J
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2018-8954(P2018-8954)
(22)【出願日】2018年1月23日
(65)【公開番号】特開2019-129575(P2019-129575A)
(43)【公開日】2019年8月1日
【審査請求日】2020年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】小川 崇
(72)【発明者】
【氏名】西山 征輝
(72)【発明者】
【氏名】松野 光晴
【審査官】 佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−268599(JP,A)
【文献】 特開2012−105422(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 4/00
H02P 21/00−25/03
H02P 25/04
H02P 25/08−31/00
B60L 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石式の交流電動機(80)の通電を制御する制御装置であって、
前記交流電動機に対するトルク指令に基づいて電圧指令値(Vd*、Vq*)を演算する電圧指令演算部(24)と、
前記電圧指令値に基づいて直流電力を交流電力に変換し、前記交流電動機に供給する電力変換器(62)と、
前記交流電動機の永久磁石が減磁していない基準状態での磁束を基準磁束と定義すると、前記永久磁石の実磁束の前記基準磁束に対する差分である磁束変化量(Δφ)を推定する磁束変化量推定部(30)と、
前記磁束変化量推定部により推定された磁束変化量推定値が負の診断閾値(Δφ_diag)を下回ったとき、前記永久磁石が減磁していると判定する減磁判定部(40)と、
を備え、
前記磁束変化量推定部は、
前記電圧指令値に追従して前記交流電動機に印加されるd軸実電圧(Vd_real)及びq軸実電圧(Vq_real)を推定し、又は検出値を取得する実電圧推定部(31)と、
前記交流電動機の電気角速度及び電流に基づいて、前記基準状態で前記交流電動機に印加されるd軸基準電圧(Vd_std)及びq軸基準電圧(Vq_std)を演算する基準電圧演算部(32)と、
前記d軸実電圧に対する前記d軸基準電圧の比を前記q軸実電圧に乗じた値と前記q軸基準電圧との差分に基づいて、基本磁束変化量推定値(Δφ_b)を演算する磁束変化量推定値演算部(33)と、
前記交流電動機の減磁発生時における特性変化に応じて、前記減磁判定部に入力される前記磁束変化量推定値を前記診断閾値に対して相対的に変化させる磁束変化量推定値補正部(35)と、
を有する交流電動機の制御装置。
【請求項2】
前記磁束変化量推定値補正部は、前記交流電動機の動作状態減磁発生時における特性変化に応じた補正値を演算し、当該補正値により前記基本磁束変化量推定値を補正した磁束変化量推定値を前記減磁判定部に出力するものであり、
前記永久磁石が減磁していない正常状態での前記交流電動機の特性が反映され、前記交流電動機のトルクもしくは電流、又は電気角速度に基づいて、前記d軸実電圧と前記d軸基準電圧とが一致するように前記基本磁束変化量推定値を補正する第1マップ値(Δφ_map1)を算出する第1補正マップ(36)と、
前記永久磁石が正常状態から不可逆減磁状態に至る段階の前記交流電動機の特性が反映され、前記交流電動機のトルクもしくは電流、又は電気角速度に基づいて、前記d軸実電圧と前記d軸基準電圧とが一致するように前記基本磁束変化量推定値を補正する第2マップ値(Δφ_map2)を算出する一つ以上の第2補正マップ(37)と、
前記診断閾値より大きい負の値に設定された一つ以上のマップ切替閾値(Δφ_mapx)と前記基本磁束変化量推定値とを比較し、前記基本磁束変化量推定値が前記マップ切替閾値より大きい場合、前記第1補正マップを用い、前記基本磁束変化量推定値が前記マップ切替閾値以下の場合、前記第2補正マップを用いるように切り替えるマップ切替部(38)と、
前記マップ切替部により選択された補正マップのマップ値を用いて前記基本磁束変化量推定値を補正する補正演算器(39)と、
を含む請求項1に記載の交流電動機の制御装置。
【請求項3】
前記診断閾値は、前記交流電動機のトルクもしくは電流、又は電気角速度に応じて変化するように設定されている請求項1に記載の交流電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石式の交流電動機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
永久磁石式モータは高温領域で不可逆減磁特性によりトルクの出力が低下するため、従来、モータの減磁を判定する装置が知られている。例えば特許文献1に開示されたモータ駆動装置は、制御中のモータの電流および回転数から、モータに減磁が発生していないときのq軸電圧の操作量を基準値とし、基準値と制御における実際値との比較に基づいて減磁量を推定する。すなわち、このモータ駆動装置は、実際のq軸の電圧操作量Vq1が、減磁が生じていない場合のq軸の電圧操作量Vqcより小さいとき、減磁が生じていると判断し、モータの動作制限を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4223880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、永久磁石が減磁していない基準状態での磁束を基準磁束と定義し、永久磁石の磁束の基準磁束に対する差分を磁束変化量と定義する。また、基準状態で交流電動機に印加されるdq軸電圧をd軸基準電圧及びq軸基準電圧と定義する。特許文献1の従来技術は、q軸実電圧とq軸基準電圧との差分に基づいて磁束変化量を推定するものである。
【0005】
特許文献1の従来技術では、磁束変化量の推定にq軸電圧のみを用い、d軸電圧を用いていない。そのため、電圧センサ等の検出誤差の影響を受けやすく、制御装置が認識したq軸電圧の変化が減磁によるものか、センサ誤差によるものかを判別することが難しい。その結果、磁束変化量の推定精度が低下し、減磁診断の信頼性の確保が難しくなる。
【0006】
また、特許文献1の従来技術では、減磁した交流電動機について、磁束の変化以外に、電圧方程式における機器定数であるインダクタンス等の特性変化を考慮していない。そのため、推定精度がさらに低下し、減磁の判定を誤る可能性がある。
【0007】
本発明はこのような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、磁束変化量の推定精度を向上させ、さらに、減磁発生時における交流電動機の特性変化を考慮して適切に減磁を判定する交流電動機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による交流電動機の制御装置は、永久磁石式の交流電動機(80)の通電を制御する制御装置であって、電圧指令演算部(24)と、電力変換器(62)と、磁束変化量推定部(30)と、減磁判定部(40)と、を備える。電圧指令演算部は、交流電動機に対するトルク指令に基づいて電圧指令値(Vd*、Vq*)を演算する。電力変換器は、電圧指令値に基づいて直流電力を交流電力に変換し、交流電動機に供給する。
【0009】
交流電動機の永久磁石が減磁していない基準状態での磁束を基準磁束と定義する。磁束変化量推定部は、永久磁石の実磁束の基準磁束に対する差分である磁束変化量(Δφ)を推定する。減磁判定部は、磁束変化量推定部により推定された磁束変化量推定値が負の診断閾値(Δφ_diag)を下回ったとき、永久磁石が減磁していると判定する。
【0010】
磁束変化量推定部は、実電圧推定部(31)と、基準電圧演算部(32)と、磁束変化量推定値演算部(33)と、磁束変化量推定値補正部(35)と、を有する。実電圧推定部は、電圧指令値に追従して交流電動機に印加されるd軸実電圧(Vd_real)及びq軸実電圧(Vq_real)を推定し、又は検出値を取得する。基準電圧演算部は、交流電動機の電気角速度及び電流に基づいて、基準状態で交流電動機に印加されるd軸基準電圧(Vd_std)及びq軸基準電圧(Vq_std)を演算する。
【0011】
磁束変化量推定値演算部は、d軸実電圧に対するd軸基準電圧の比をq軸実電圧に乗じた値とq軸基準電圧との差分に基づいて、基本磁束変化量推定値(Δφ_b)を演算する。磁束変化量推定値補正部は、交流電動機の減磁発生時における特性変化に応じて、減磁判定部に入力される磁束変化量推定値を診断閾値に対して相対的に変化させる。
【0012】
本発明の磁束変化量推定値演算部は、q軸電圧に加えてd軸電圧の情報を用いて基本磁束変化量推定値を演算するため、従来技術に対し、センサ誤差等による推定誤差への影響を小さくし、磁束変化量の推定精度を向上させることができる。また本発明は、磁束変化量推定値補正部により磁束変化量推定値を診断閾値に対して相対的に変化させることで、減磁発生時における交流電動機の特性変化を考慮して、適切に減磁を判定することができる。
【0013】
好ましくは、磁束変化量推定値補正部は、交流電動機の減磁発生時における特性変化に応じた補正値を演算し、当該補正値により基本磁束変化量推定値を補正した磁束変化量推定値を減磁判定部に出力するものである。この場合、磁束変化量推定値補正部は、第1補正マップ(36)と、一つ以上の第2補正マップ(37)と、マップ切替部(38)と、補正演算器(39)と、を含む。第1補正マップは、永久磁石が減磁していない正常状態での交流電動機の特性が反映される。一つ以上の第2補正マップは、永久磁石が正常状態から不可逆減磁状態に至る段階の交流電動機の特性が反映される。第1補正マップ及び第2補正マップは、交流電動機のトルクもしくは電流、又は電気角速度に基づいて、d軸実電圧とd軸基準電圧とが一致するように基本磁束変化量推定値を補正するマップ値(Δφ_map1、Δφ_map2)を算出する。
【0014】
マップ切替部は、診断閾値より大きい負の値に設定され減磁発生兆候が反映された一つ以上のマップ切替閾値(Δφ_mapx)と基本磁束変化量推定値とを比較する。マップ切替部は、基本磁束変化量推定値がマップ切替閾値より大きい場合、第1補正マップを用い、基本磁束変化量推定値がマップ切替閾値以下の場合、第2補正マップを用いるように切り替える。補正演算器は、マップ切替部により選択された補正マップのマップ値を用いて基本磁束変化量推定値を補正する。この構成では診断閾値が一定値に設定され、磁束変化量の値に応じて補正マップを切り替えることで磁束変化量推定値を補正する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】各実施形態のMG制御装置が適用されるMG駆動システムの全体構成図。
図2】各実施形態によるMG制御装置の制御ブロック図。
図3】従来技術に基づく磁束変化量の推定を説明する図。
図4】第1実施形態による磁束変化量推定部の制御ブロック図。
図5】VdVq方式及びVq方式による磁束変化量の推定を説明する図。
図6】第1実施形態による磁束変化量推定演算及び減磁判定のフローチャート。
図7】第1実施形態による補正前後の磁束変化量推定値を示す図。
図8】第2実施形態による磁束変化量推定値と診断閾値との関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、交流電動機の制御装置の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態の交流電動機の制御装置は、ハイブリッド自動車や電気自動車の動力源であるモータジェネレータ(以下「MG」)を駆動するシステムにおいて、永久磁石式の交流電動機であるMGの通電を制御する装置である。実施形態の「MG」及び「MG制御装置」は、「交流電動機」及び「交流電動機の制御装置」に相当する。
【0017】
(第1実施形態)
図1を参照し、MG駆動システム90の全体構成について説明する。図1においてMG制御装置20は、主な構成のみを記す。MG制御装置20は、電圧指令演算部24、磁束変化量推定部30、減磁判定部40、変調器61及びインバータ62等を備える。MG80は、永久磁石式同期型三相交流電動機である。基本的にはIPMSM(埋込永久磁石型同期モータ)を想定するがSPMSM(表面永久磁石型同期モータ)であってもよい。本実施形態のMG80は、ハイブリッド自動車の駆動輪を駆動するトルクを発生する電動機としての機能、及び、エンジンや駆動輪から伝達されるトルクを発電によってエネルギー回収する発電機としての機能を兼ね備える。
【0018】
電流センサ70は、MG80の三相巻線81、82、83のうち二相又は三相に流れる相電流Iu、Iv、Iwを検出する。なお、二相の電流を検出する構成では、他の一相の電流は、キルヒホッフの法則により算出される。回転角センサ85は、レゾルバ等の回転角センサであり、MG80の電気角θを検出する。
【0019】
「電力変換器」としてのインバータ62は、上下アームの6つのスイッチング素子63−68がブリッジ接続されている。詳しくは、スイッチング素子63、64、65は、それぞれU相、V相、W相の上アームのスイッチング素子であり、スイッチング素子66、67、68は、それぞれU相、V相、W相の下アームのスイッチング素子である。スイッチング素子63−68は、例えばIGBTで構成され、低電位側から高電位側へ向かう電流を許容する還流ダイオードが並列に接続されている。IGBT及び還流ダイオードは、パワーカードの形態で構成されてもよい。
【0020】
平滑コンデンサ15は、インバータ62の入力部に設けられ、バッテリ10から入力される直流電圧Vdcを平滑化する。なお、バッテリ10とインバータ62との間に昇圧コンバータが設けられてもよい。インバータ62は、MG制御装置20から指令されるスイッチングパルス(図中「SWパルス」)信号に従ってスイッチング素子63−68が動作することで、直流電力を三相交流電力に変換する。そして、インバータ62は、三相電圧Vu、Vv、VwをMG80の各相巻線81、82、83に印加する。
【0021】
MG制御装置20の電圧指令演算部24及び変調器61は、マイコン等により構成され、図示しないCPU、ROM、I/O、及び、これらの構成を接続するバスライン等を内部に備えている。マイコンは、ROM等の実体的なメモリ装置(すなわち、読み出し可能非一時的有形記録媒体)に予め記憶されたプログラムをCPUで実行することによるソフトウェア処理や、専用の電子回路によるハードウェア処理による制御を実行する。
【0022】
電圧指令演算部24は、統合ECU50からのトルク指令Trq*、並びに、電流センサ70及び回転角センサ85からフィードバックされる相電流Iu、Iv、Iw、電気角θの情報に基づいて、MG80に印加する電圧指令値Vd*、Vq*を演算する。変調器61は、直流電圧Vdc、電圧指令値Vd*、Vq*、電気角θ等に基づいてスイッチングパルス信号を生成し、インバータ62のスイッチング素子63−68に指令する。
【0023】
磁束変化量推定部30はMG80の永久磁石の磁束変化量Δφを推定する。磁束変化量推定部30の詳細な構成は後述する。減磁判定部40は、磁束変化量推定部30により推定された磁束変化量推定値Δφが負の診断閾値を下回ったとき、永久磁石が減磁していると判定する。減磁判定部40は、減磁を判定すると、車両の統合ECU50に故障情報を通知する。故障情報を受信した統合ECU50は、メータECU等の表示装置55に対し故障情報の表示を要求する。なお、図1では、磁束変化量推定部30及び減磁判定部40への入力パラメータの図示を省略する。
【0024】
MG制御装置20の構成について、図2を参照して説明する。図2では、電流フィードバック制御により電圧指令値を演算する構成を例示するが、トルクフィードバック制御により電圧指令値を演算する方式に適用されてもよい。MG制御装置20は、一般的な電流フィードバック制御の構成として、電圧指令演算部24、dq変換部29、変調器61、インバータ62、角速度演算部86等を含む。また、MG制御装置20は、本実施形態に特有の構成として磁束変化量推定部30を含む。なお、回転座標系のdq座標を用いるベクトル制御は周知技術であり、MG制御装置20の制御演算に用いられる電圧、電流は、特にことわらない限り、dq軸の電圧、電流を表すものとする。
【0025】
電圧指令演算部24は、電流指令演算部21、電流偏差算出部22、制御器23を含む。電流指令演算部21は、トルク指令Trq*に基づいて、電流指令値Id*、Iq*を演算する。電流偏差算出部22は、電流指令値Id*、Iq*と、dq変換部29からフィードバックされた電流検出値Id、Iqとの電流偏差を算出する。制御器23は、電流偏差を0に近づけるように、PI制御により、電圧指令値Vd*、Vq*を演算する。dq変換部29は、電気角θに基づいて3相電流値Iu、Iv、Iwをdq軸電流値Id、Iqにdq変換し、電流偏差算出部22にフィードバックする。
【0026】
変調器61は、直流電圧Vdc、電圧指令値Vd*、Vq*、電気角θ等に基づいてスイッチングパルス信号を生成し、インバータ62に出力する。変調器61は、変調率やMG80の回転数−トルク特性に応じて、PWM制御による三相変調又は二相変調方式、パルスパターン方式、矩形波制御方式等の変調方式を切り替える。インバータ62は、変調器61から出力されるスイッチングパルス信号に従ってスイッチング素子63−68が動作することでバッテリ10の直流電力を交流電力に変換し、MG80に供給する。
【0027】
MG80の永久磁石が減磁していない基準状態での磁束を「基準磁束」と定義すると、磁束変化量推定部30は、基準磁束に対する永久磁石の実磁束の差分である「磁束変化量Δφ」を推定する。減磁の場合には、実磁束が基準磁束よりも小さくなるため、磁束変化量Δφは負の値となる。減磁判定部40は、磁束変化量推定部30により推定された磁束変化量推定値が負の診断閾値を下回ったとき、永久磁石が減磁していると判定する。
【0028】
図2において磁束変化量推定部30には各種のパラメータが入力される。基本的には、実線で示すように、電圧指令値Vd*、Vq*、電流検出値Id、Iq、及び、角速度演算部86で電気角θが時間微分された電気角速度ωが入力される。なお、電流検出値Id、Iqに代えて、破線で示す電流指令値Id*、Iq*が入力されてもよい。また、電気角速度ω[rad/s]は係数を乗ずることで回転数[rpm]に換算されるため、本実施形態では回転数にも同じ記号ωを用いて「回転数ω」と記す。また回転数ωは、随時、電気角速度ωに読み替えて解釈されるものとする。
【0029】
次に、本実施形態の磁束変化量推定部30の構成を説明する前に、特許文献1(特許第4223880号公報)の従来技術による「Vq方式」の磁束変化量推定演算について説明する。一般に、MG80に印加される電圧と電流との関係は、巻線抵抗R、dq軸インダクタンスLd、Lq、磁石磁束φを用いた式(1)の電圧方程式で表される。
【0030】
【数1】
【0031】
式(1)のq軸電圧方程式を磁束φについて整理すると、式(2)が得られる。
【0032】
【数2】
【0033】
ここで、基準磁束をφstd、永久磁石の実磁束をφrealと記す。また、MG80が基準状態にあるとき、すなわち、磁石磁束が基準磁束φstdであるときにMG80に印加される電圧を「基準電圧」と定義し、そのd軸成分及びq軸成分をVd_std、Vq_stdと表す。これに対しMG80に実際に印加される電圧を「実電圧」といい、そのd軸成分及びq軸成分をVd_real、Vq_realと表す。式(1)のq軸電圧方程式をq軸基準電圧Vq_std及びq軸実電圧Vq_realについて適用すると、式(3.1)、(3.2)のようになる。
【0034】
【数3】
【0035】
ここで、従来技術のVq方式の演算と、本実施形態が採用するVdVq方式の演算とを比較するにあたり、VdVq方式の演算による磁束変化量推定値を「第1磁束変化量推定値Δφ1」、Vq方式の演算による磁束変化量推定値を「第2磁束変化量推定値Δφ2」と定義する。式(3.1)、(3.2)により、第2磁束変化量推定値Δφ2は式(4)で表される。また、式(4)の分子、すなわち、q軸実電圧Vq_realとq軸基準電圧Vq_stdとの差分を「第2q軸電圧変化量ΔVq2」と定義する。
【0036】
【数4】
【0037】
図3において、式(3.1)及び式(4)の関係は、Vd−Vq座標上に図示される。実線の太線矢印で示す部分が式(3.1)を反映し、合成ベクトルの終点のq軸成分はq軸基準電圧Vq_stdである。また、ブロック矢印で示す部分が式(4)を反映する。なお、電気角速度ωを乗じる前の「電圧×時間」次元のベクトルは破線矢印で表される。
【0038】
ところで、Vq方式の磁束変化量の推定ではq軸電圧のみを用い、d軸電圧を用いていない。そのため、電圧センサ等の検出誤差の影響を受けやすく、制御装置が認識したq軸電圧の変化が減磁によるものか、センサ誤差によるものかを判別することが難しい。その結果、磁束変化量の推定精度が低下し、減磁診断の信頼性の確保が難しくなる。そこで、本実施形態の磁束変化量推定部30は、推定誤差への影響を小さくするため、q軸電圧に加えてd軸電圧の情報を用いる「VdVq方式」の磁束変化量推定演算を採用する。
【0039】
本実施形態では、VdVq方式の演算を採用することで、磁束変化量Δφの推定精度を向上させることができる。しかし、q軸電圧の電圧方程式(1)の「ω×Ld×Id」の項について、減磁発生時にd軸自己インダクタンスLdが変化することは考慮されていない。そのため、q軸電圧Vqの変化だけに注目していると、減磁判定の誤判定を招くおそれがある。なお、巻線抵抗Rの変化は、回転数ωの低い領域を除いて影響が小さいため、それほど考慮しなくてもよい。
【0040】
そこで本実施形態では、d軸実電圧Vd_realとd軸基準電圧Vd_stdとが一致するように基本磁束変化量推定値Δφ_bを補正する補正マップが、正常状態と、正常状態から不可逆減磁状態に至る段階とに応じてそれぞれ用意される。そして、磁束変化量Δφの低下レベルに応じて補正マップを切り替えることで、適切に減磁を判定することを目的とするものである。続いて、その詳細な構成について説明する。
【0041】
図4を参照し、磁束変化量推定部30の構成を説明する。磁束変化量推定部30は、実電圧推定部31、基準電圧演算部32、磁束変化量推定値演算部33、及び、磁束変化量推定値補正部35を有する。磁束変化量推定値補正部35は、第1補正マップ36、第2補正マップ37、マップ切替部38、及び、補正演算器39を含む。
【0042】
実電圧推定部31は、電圧指令値Vd*、Vq*に追従してMG80に印加されるd軸実電圧Vd_real及びq軸実電圧Vq_realを推定し、又は検出値を取得する。具体的に実電圧推定部31は、電圧指令値Vd*、Vq*を適宜補正した値を実電圧Vd_real、Vq_realとして扱ってもよい。図2図3における実電圧推定部31への入力図示は、この構成を想定したものである。或いは、実電圧推定部31は、電圧センサから実電圧Vd_real、Vq_realの検出値を取得してもよい。
【0043】
基準電圧演算部32は、MG80の電気角速度ω及び電流Id、Iq(又は電流指令値Id*、Iq*)に基づいて、式(1)の電圧方程式により、d軸基準電圧Vd_std及びq軸基準電圧Vq_stdを演算する。ただし、基準電圧は固定の値である必要はなく、巻線抵抗やインダクタンス、磁石等の温度特性を考慮し、MG80各部の温度に応じて可変に設定されてもよい。また、基準電圧演算部32は、不可逆減磁が起きていない状況において、動作点や温度等に応じた電圧値を学習し、MG特性の個体差に応じて基準電圧を可変に設定してもよい。また、式(1)に代えて鎖交磁束λq、λdを含む式(5)を用いてもよい。
【0044】
【数5】
【0045】
実電圧推定部31が推定した実電圧Vd_real、Vq_real、及び、基準電圧演算部32が演算した基準電圧Vd_std、Vq_stdは、磁束変化量推定値演算部33に出力される。磁束変化量推定値演算部33は、VdVq方式の式(6)に基づき、「基本磁束変化量推定値Δφ_b」を演算する。
【0046】
上述のようにVq方式との比較の都合上、ここでは、基本磁束変化量推定値Δφ_bを「第1磁束変化量推定値Δφ1」として説明する。式(6)の分子では、「d軸実電圧に対するd軸基準電圧の比(Vd_std/Vd_real)をq軸実電圧Vq_realに乗じた値」とq軸基準電圧Vq_stdとの差分が演算される。この式(6)の分子の第1項を「q軸実電圧補正値」と定義し、[Vq]の記号で表す。また、q軸実電圧補正値[Vq]とq軸基準電圧Vq_stdとの差分を「第1q軸電圧変化量ΔVq1」と定義する。
【0047】
【数6】
【0048】
ここで図5を参照し、Vq方式及びVdVq方式の磁束変化量の推定演算を比較する。Vd−Vq座標上で、d軸基準電圧Vd_stdとq軸基準電圧Vq_stdとの交点をA、d軸実電圧Vd_realとq軸実電圧Vq_realとの交点をBと記す。また、d軸基準電圧Vd_stdとq軸実電圧補正値[Vq]との交点をCと記す。点Cは、座標原点と点Bとを結ぶ直線を、d軸基準電圧Vd_stdまで延長した線上の点である。
【0049】
Vq方式の第2q軸電圧変化量ΔVq2は、d軸電圧Vdの値が異なる点Aから点Bまでのq軸電圧変化量に相当し、「減磁発生による磁束低下量に対応する量」と「センサ誤差等により制御で誤認識される量」とが合計された量と考えられる。
【0050】
一方、VdVq方式の第1q軸電圧変化量ΔVq1は、共通のd軸基準電圧Vd_stdを通る点Aから点Cまでのq軸電圧変化量に相当し、第2q軸電圧変化量ΔVq2に比べ、センサ誤差等による誤認識量が低減する。したがって、「減磁発生による磁束低下量に対応する量」がより精度良く反映された量となる。以上のように磁束変化量推定値演算部33は、VdVq方式の式(6)に基づき、「基本磁束変化量推定値Δφ_b」を演算する。
【0051】
次に、磁束変化量推定値補正部35は、MG80の減磁発生時における特性変化に応じて、減磁判定部40に入力される磁束変化量推定値Δφを診断閾値Δφ_diagに対して相対的に変化させる。特に第1実施形態では、磁束変化量推定値補正部35は、固定された診断閾値Δφ_diagに対し、基本磁束変化量推定値Δφ_bを補正した磁束変化量推定値Δφを演算する。
【0052】
第1補正マップ36及び第2補正マップ37には、入力パラメータとしてトルク指令値Trq*もしくはdq軸電流指令値Id*、Iq*、及び回転数ωが入力される。トルク指令値Trq*は、dq軸電流と相関があるため、適宜換算可能である。なお、トルク指令値Trq*に代えてトルク検出値が入力されてもよく、電流指令値Id*、Iq*に代えて電流検出値Id、Iqが入力されてもよい。
【0053】
第1補正マップ36は、永久磁石が減磁していない正常状態でのMG80の特性が反映される。第1補正マップ36は、上記の入力パラメータに基づいて、d軸実電圧Vd_realとd軸基準電圧Vd_stdとが一致するように基本磁束変化量推定値Δφ_bを補正する第1マップ値Δφ_map1を算出する。
【0054】
第2補正マップ37は、永久磁石が正常状態から不可逆減磁状態に至る段階のMG80の特性が反映される。第2補正マップ37は、第1補正マップ36と同様に、上記の入力パラメータに基づいて、d軸実電圧Vd_realとd軸基準電圧Vd_stdとが一致するように基本磁束変化量推定値Δφ_bを補正する第2マップ値Δφ_map2を算出する。
【0055】
マップ切替部38は、診断閾値Δφ_diagより大きい負の値に設定された一つ以上のマップ切替閾値Δφ_mapxと基本磁束変化量推定値Δφ_bとを比較する。マップ切替部38は、基本磁束変化量推定値Δφ_bがマップ切替閾値Δφ_mapxより大きい場合、第1補正マップ36を用い、基本磁束変化量推定値Δφ_bがマップ切替閾値Δφ_mapx以下の場合、第2補正マップ37を用いるように切り替える。マップ切替閾値Δφ_mapxの意義については、図7を参照して後述する。補正演算器39は、マップ切替部38により選択された補正マップのマップ値を基本磁束変化量推定値Δφ_bに加算して補正し、補正後の磁束変化量推定値Δφを減磁判定部40に出力する。
【0056】
なお、図4では、第1補正マップ36及び第2補正マップ37が常にマップ値Δφ_map1、Δφ_map2を演算した上で、それらのいずれかが選択されるように示されている。しかし、その構成に限らず、先にマップ切替部38がいずれかのマップ値を用いるかを決定してから、いずれか一方の補正マップにより第1マップ値Δφ_map1又は第2マップ値Δφ_map2を算出するようにしてもよい。
【0057】
次に図6のフローチャートを参照し、本実施形態による磁束変化量推定演算及び減磁判定処理について説明する。フローチャートの説明で、記号「S」はステップを意味する。S11で基準電圧演算部32は、電圧方程式(1)に基づき基準電圧Vd_std、Vq_stdを演算する。S12で実電圧推定部31は、実電圧Vd_real、Vq_realを演算する。
【0058】
S21で演算切替部35は、VdVq方式の式(6)により、基本磁束変化量推定値Δφ_bを演算する。S30でマップ切替部38は、基本磁束変化量推定値Δφ_bがマップ切替閾値Δφ_mapx以下であるか否か判断する。
【0059】
基本磁束変化量推定値Δφ_bがマップ切替閾値Δφ_mapxより大きい場合、S30でNOと判断され、S31に移行する。S31では、補正演算器39にて基本磁束変化量推定値Δφ_bに第1マップ値Δφ_map1が加算された値が磁束変化量推定値Δφとして出力される。
【0060】
基本磁束変化量推定値Δφ_bがマップ切替閾値Δφ_mapx以下の場合、S30でYESと判断され、S32に移行する。S32では、補正演算器39にて基本磁束変化量推定値Δφ_bに第2マップ値Δφ_map2が加算された値が磁束変化量推定値Δφとして出力される。
【0061】
ここで、S30〜S32に関して図7を参照する。図7の縦軸は磁束変化量Δφであり、例えば[mWb]の単位で表される。縦軸の「0」は、永久磁石が理想的に減磁していない状態を示す。減磁を判定する診断閾値Δφ_diagは、磁束変化量Δφの負の値として設定される。また、マップ切替閾値Δφ_mapxは、診断閾値Δφ_diagより大きい値に設定される。例えば診断閾値Δφ_diagは−40[mWb]に設定され、マップ切替閾値Δφ_mapxは−25[mWb]に設定される。
【0062】
マップ切替閾値Δφ_mapxより大きい領域は、センサ誤差等の影響による磁束変化量Δφの推定誤差のため、実際には減磁していない正常状態であるにもかかわらず見かけの磁束変化量Δφが低下する領域である。第1補正マップ36は、この正常状態でのMG80の特性が反映される。一方、マップ切替閾値Δφ_mapx以下の領域は、実際に減磁が発生していると推認される領域である。第2補正マップ37は、この正常状態から不可逆減磁状態に至る段階のMG80の特性が反映される。つまり、マップ切替閾値Δφ_mapxは、減磁発生兆候を判断する値としての意義を有する。
【0063】
図7の横軸は、MG80のトルク(単位は例えば[Nm])又は回転数(単位は例えば[rpm])であり、正転方向を正、逆転方向を負として表す。第1実施形態の診断閾値Δφ_diagは、トルク又は回転数に対して一定値に設定される。トルク又は回転数と磁束変化量Δφとの関係に注目すると、(*1)に示すように、正常状態では、第1補正マップ36により補正された磁束変化量推定値Δφは0[mWb]の近傍の値となる。したがって、減磁と誤判定される可能性は低い。
【0064】
しかし、第1補正マップ36では、減磁発生時におけるインダクタンス等のMG特性が反映されていない。そのため、(*2)に示すように、実際に減磁が発生すると、トルク又は回転数に対する依存性が現れる。図7の例では、第1補正マップ36により補正された磁束変化量推定値Δφは、トルク又は回転数が0のときを最小値として、トルク又は回転数の絶対値が増大するにつれ大きくなる(すなわち0に近づく)カーブ状となる。すると、トルク又は回転数の絶対値が「a」のとき、磁束変化量推定値Δφが診断閾値Δφ_diagを上回るため、実際には減磁しているにもかかわらず、減磁していないと誤判定される可能性がある。
【0065】
それに対し、第2補正マップ37により補正された磁束変化量推定値Δφは、(*3)に示すように、トルク又は回転数に対する依存性が解消される。その結果、トルク又は回転数の影響を受けることなく、診断閾値Δφ_diagとの比較に基づいて適切に減磁が判定される。
【0066】
S40で減磁判定部40は、磁束変化量推定値Δφが負の診断閾値Δφ_diag以下であるか判断する。S40でYESのとき、S41で減磁異常カウンタがアップされ、S40でNOのとき、S42で減磁異常カウンタがリセットされる。減磁異常カウンタが異常判定閾値N_thに達しない場合、S43でNOと判定され、S11の前に戻って、再び磁束変化量推定値Δφが演算される。
【0067】
減磁異常カウンタが異常判定閾値N_thに達すると、S43でYESと判定され、S44で減磁異常が確定する。このように減磁異常を確定することで、少なくとも不可逆減磁異常でない場合に、一時的な可逆減磁や推定演算の誤差により不可逆減磁異常と誤判定することを防止することができる。ただし、誤判定の可能性が低い場合等には、異常判定閾値N_thを1回に設定すること等により、S40でYESと判断されたらすぐに減磁異常を確定するようにしてもよい。
【0068】
減磁異常が確定すると、S50でMG制御装置20は、インバータ62のスイッチング動作を停止すると共に、統括ECU50へ故障情報を通知する。統括ECU50は、メータECU等の表示装置55に対し故障情報の表示を要求する。また、ハイブリッド自動車に適用される場合、例えば統括ECU50は、エンジンでの退避走行に切り替える。
【0069】
このように本実施形態のMG制御装置20は、磁束変化量推定値演算部33により、q軸電圧に加えてd軸電圧の情報を用いて基本磁束変化量推定値Δφ_bを推定する。したがって、センサ誤差等による推定誤差への影響を小さくし、磁束変化量Δφの推定精度を向上させることができる。
【0070】
また、磁束変化量推定値補正部35は、d軸実電圧とd軸基準電圧とが一致するように基本磁束変化量推定値Δφ_bを補正するマップ値を算出する補正マップを、永久磁石が正常状態から不可逆減磁状態に至る段階に応じて切り替える。これにより、本実施形態のMG制御装置20は、減磁発生時における交流電動機の特性変化を考慮して適切に減磁を判定することができる。
【0071】
(第2実施形態)
次に第2実施形態について、第1実施形態の図7に対応する図8を参照して説明する。第2実施形態は第1実施形態に対し、磁束変化量推定値補正部35により、「減磁判定部40に入力される基本磁束変化量推定値Δφ_bを診断閾値Δφ_diag診断閾値に対して相対的に変化させる」構成が異なる。すなわち、第2実施形態では、補正マップ等により基本磁束変化量推定値Δφ_bを直接補正するのでなく、診断閾値Δφ_diagを可変とすることで、基本磁束変化量推定値Δφ_bを相対的かつ間接的に補正する。
【0072】
図8に示すように、診断閾値Δφ_diagは、トルク又は回転数が0のときを最小値として、トルク又は回転数の絶対値が増大するにつれ大きくなる(すなわち0に近づく)カーブ状に設定されている。つまり、第1実施形態で第1補正マップ36を用いたときの磁束変化量推定値Δφのカーブにほぼ沿って診断閾値Δφ_diagが設定されている。そのため、トルク又は回転数の絶対値が「a」のときにおいても磁束変化量推定値Δφが診断閾値Δφ_diagを下回っており、減磁していると判定される。
【0073】
ここで、第2実施形態における診断閾値Δφ_diagは、トルク又は回転数以外に、トルクと相関のある電流Id、Iqに応じて変化するように設定されてもよい。このように、磁束変化量推定値補正部35がMG80の動作状態に応じて診断閾値Δφ_diagを可変に設定する構成によっても、MG制御装置20は、減磁発生時におけるMG80の特性変化を考慮して適切に減磁を判定することができる。
【0074】
(その他の実施形態)
(a)第1実施形態において、第2補正マップ37は一つに限らず、永久磁石が正常状態から不可逆減磁状態に至る段階毎に二つ以上規定されてもよい。その場合、各第2補正マップ37の適用範囲を切り替えるマップ切替閾値Δφ_mapxがさらに一つ以上設定される。永久磁石が不可逆減磁状態に至るまでの複数の段階で第2補正マップ37を切り替えることにより、減磁の発生兆候をより正確に把握することができる。
【0075】
(b)第1記実施形態の磁束変化量推定値補正部35は、補正マップを参照する構成に限らず、数式演算により基本磁束変化量推定値Δφ_bを補正してもよい。また、補正演算は、磁束変化量推定値補正部35に対して補正値が加算される演算に限らず、補正比率が乗算される演算や、それらを組み合わせた演算としてもよい。
【0076】
(c)本発明による交流電動機の制御装置は、ハイブリッド自動車や電気自動車のMGに限らず、あらゆる分野の永久磁石式の交流電動機に適用可能である。また、交流電動機の相の数は、三相に限らず何相でもよい。
【0077】
以上、本発明は、上記実施形態になんら限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の形態で実施可能である。
【符号の説明】
【0078】
20・・・MG制御装置(交流電動機の制御装置)、
24・・・電圧指令演算部、
30・・・磁束変化量推定部、
31・・・実電圧推定部、
32・・・基準電圧演算部、
33・・・磁束変化量推定値演算部、
35・・・磁束変化量推定値補正部、
40・・・減磁判定部、
62・・・インバータ(電力変換器)、
80・・・MG(交流電動機)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8