(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6954173
(24)【登録日】2021年10月4日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】電流ブースト型レギュレータ回路
(51)【国際特許分類】
G05F 1/56 20060101AFI20211018BHJP
H04B 1/04 20060101ALI20211018BHJP
H03F 3/24 20060101ALI20211018BHJP
【FI】
G05F1/56 310N
H04B1/04 A
H03F3/24
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-26946(P2018-26946)
(22)【出願日】2018年2月19日
(65)【公開番号】特開2019-144735(P2019-144735A)
(43)【公開日】2019年8月29日
【審査請求日】2020年12月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】下平 俊也
【審査官】
栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭55−178719(JP,U)
【文献】
特開平09−034569(JP,A)
【文献】
特開平07−239721(JP,A)
【文献】
特開2002−366235(JP,A)
【文献】
米国特許第8072196(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05F 1/56
H04B 1/04
H03F 3/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レギュレータIC(15)を備える電流ブースト型レギュレータ回路(10)であって、
電源(30)に接続される入力端子(T11)と、
負荷(20)に接続される出力端子(T21)と、
前記レギュレータICの電流供給能力を高める電流ブースト用の第1スイッチ(TR1)を有し、前記入力端子と前記出力端子とを接続する第1経路(Ph1)と、
前記入力端子に接続されたレギュレータICと、前記レギュレータICと前記出力端子との間に直列に接続された第2スイッチ(TR2)とを有し、前記第1経路をバイパスする第2経路(Ph2)と、を備え、
前記負荷が消費する電力が予め設定された閾値よりも大きい場合に、前記第1スイッチがオン状態且つ前記第2スイッチがオフ状態になり、
前記負荷が消費する電力が前記閾値よりも小さい場合に、前記第1スイッチがオフ状態且つ前記第2スイッチがオン状態になる、
電流ブースト型レギュレータ回路。
【請求項2】
前記負荷は、送受信機(60)の送信パワーアンプ(20)であり、
前記送受信機の送信時に、前記負荷が前記閾値よりも高くなり、
前記送受信機の受信時に、前記負荷が前記閾値よりも低くなる、
請求項1に記載の電流ブースト型レギュレータ回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電流ブースト型のレギュレータ回路に関する。
【背景技術】
【0002】
負荷に安定した電力を供給するレギュレータ回路には、レギュレータICを用いることが多い。一般に、レギュレータICは、負荷電流が供給リミットを超えたときに、出力を停止させる保護回路を有する。そのため、レギュレータ回路に用いるレギュレータICは、負荷電流が最大となるピーク電流に対してそれを上回る供給能力を有する必要がある。しかしながら、大きなピーク電流に対応しようとすると、レギュレータICのサイズやコストの増大を招くことになる。
【0003】
そこで、電流ブースト用のトランジスタをレギュレータICに外付けして用いるレギュレータ回路がある。このようなレギュレータ回路は、レギュレータICのサイズやコストの増大を抑制しつつ、大電流を安定して供給することができる。しかしながら、外付けトランジスタを流れる電流はレギュレータICの保護回路をバイパスしてしまう。そのため、このようなレギュレータ回路は、レギュレータICの保護機能が作動していない時でも、過大な電流を供給先の回路へ出力する可能性がある。すなわち、このようなレギュレータ回路は、レギュレータICの保護機能を、負荷の保護に有効に利用することができない。そのため、特許文献1に記載のレギュレータ回路のように、レギュレータICの外部に保護回路を形成する必要性が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−34569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、レギュレータICの外部に保護回路を形成すると、保護回路の形成に伴う部品点数やコストの増大を招くことになるため、レギュレータICの外部に保護回路を形成することを回避したいという要望がある。
【0006】
本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、レギュレータICが有する保護機能を有効に利用しつつ、大電流を供給することが可能なレギュレータ回路を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、レギュレータIC(15)を備える電流ブースト型レギュレータ回路(10)であって、入力端子(T11)と、出力端子(T21)と、第1経路(Ph1)と、第2経路(Ph2)と、を備える。入力端子は、電源(30)に接続される。出力端子は、負荷(20)に接続される。第1経路は、レギュレータICの電流供給能力を高める電流ブースト用の第1スイッチ(TR1)を有し、入力端子と出力端子とを接続する。第2経路は、入力端子に接続されたレギュレータICと、レギュレータICと出力端子との間に直列に接続された第2スイッチ(TR2)とを有し、第1経路をバイパスする。負荷が消費する電力が予め設定された閾値よりも大きい場合に、第1スイッチがオン状態且つ第2スイッチがオフ状態になる。負荷が消費する電力が閾値よりも小さい場合に、第1スイッチがオフ状態且つ第2スイッチがオン状態になる。
【0008】
本開示によれば、電流ブースト型レギュレータ回路は、電流ブースト用の第1スイッチを有する第1経路と、レギュレータIC及び第2スイッチを有し、第1経路をバイパスする第2経路と、を備える。そして、負荷の消費電力が比較的大きい場合には、第1スイッチがオン状態且つ第2スイッチがオフ状態にされるため、第1経路を介して比較的大きな出力電流を流すことができる。一方、負荷の消費電力が比較的小さい場合は、第1スイッチがオフ状態且つ第2スイッチがオン状態にされるため、比較的小さい出力電流を、レギュレータICを介して流すことができる。そのため、負荷の消費電力が比較的小さい場合には、レギュレータICの保護機能を有効に利用することができる。したがって、本開示の電流ブースト型レギュレータ回路は、レギュレータICの保護機能を有効に利用しつつ、負荷に大電流を供給することができる。
【0009】
なお、この欄及び特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本開示の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】電流ブースト型レギュレータ回路の全体構成を示す図である。
【
図2】送受信回路から出力される送信及び待機の切替信号を示す図である。
【
図3】送信時及び待機時における第1トランジスタ及び第2トランジスタのオンオフの状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本開示を実施するための形態を説明する。
<1.構成>
本実施形態に係るレギュレータ回路10の構成について、
図1を参照しつつ説明する。レギュレータ回路10は、負荷に安定した電力を供給する電流ブースト型のレギュレータ回路である。本実施形態では、レギュレータ回路10の負荷は、携帯電話などのデジタル方式の無線送受信機60の送信パワーアンプ20を想定している。
【0012】
無線送受信機60は、送信パワーアンプ20と、受信回路40と、送受信回路50と、を備える。送信パワーアンプ20は、送信アンテナを備え、送受信回路50の出力端子に接続されている。送受信回路50の出力端子には、レギュレータ回路10も接続されている。また、送受信回路50の入力端子には、受信アンテナを備えた受信回路40が接続されている。送受信回路50は、受信回路40から入力された受信信号を処理するとともに、待機から送信への切替、及び送信から待機への切替を送信パワーアンプ20及びレギュレータ回路10に指示する。これにより、送信パワーアンプ20及びレギュレータ回路10の待機状態と送信状態とが切替えられる。なお、待機時は、受信回路40による受信時である。
【0013】
レギュレータ回路10は、入力端子T11と、出力端子T21と、入力側グランド端子T12と、出力側グランド端子T22と、第1経路Ph1と、第2経路Ph2と、抵抗器R1,R2,R3,R4と、を備える。
【0014】
入力端子T11は、直流電源30の正極端子に接続される端子である。入力側グランド端子T12は、直流電源30の負極端子に接続される端子である。出力端子T21は、負荷である送信パワーアンプ20の入力端子に接続される端子である。出力側グランド端子T22は、送信パワーアンプ20のグランド端子に接続される端子である。入力側グランド端子T12と出力側グランド端子T22とは接続されている。
【0015】
第1経路Ph1は、電流ブースト用の第1トランジスタTR1を備え、入力端子T11と出力端子T21とを接続するブースト経路である。本実施形態において、第1トランジスタTR1は、npn型バイポーラトランジスタであり、後述する第2経路Ph2に設けられたレギュレータIC15の電流供給能力を高めるために設けられている。
【0016】
第1トランジスタTR1のコレクタ端子は、入力端子T11に接続されており、第1トランジスタTR1のエミッタ端子は、出力端子T21に接続されている。また、第1トランジスタTR1のベース端子は、抵抗器R1を介してレギュレータIC15の出力端子に接続されている。
【0017】
第2経路Ph2は、直列に接続されたレギュレータIC15及び第2トランジスタTR2を備え、第1経路Ph1をバイパスするように、入力端子T11と出力端子T21とを接続するバイパス経路である。本実施形態において、レギュレータIC15はリニアレギュレータであり、第2トランジスタTR2はpnp型バイポーラトランジスタである。
【0018】
レギュレータIC15は、過熱保護回路及び過電流保護回路の保護回路を内蔵するICである。レギュレータIC15は、過熱状態や過電流状態になると保護回路が作動して、出力を停止する。レギュレータIC15の入力端子は、入力端子T11及び第1トランジスタTR1のコレクタ端子に接続されている。レギュレータICのグランド端子は、入力側グランド端子T12及び出力側グランド端子T22に接続されている。
【0019】
第2トランジスタTR2のエミッタ端子は、レギュレータIC15の出力端子に接続されている。詳しくは、第2トランジスタTR2のエミッタ端子は、レギュレータIC15の出力端子と第1トランジスタTR1のベース端子との接続点P1に接続されている。第2トランジスタTR2のコレクタ端子は、出力端子T21に接続されている。詳しくは、第2トランジスタTR2のコレクタ端子は、出力端子T21と第1トランジスタTR1のエミッタ端子との接続点P2に接続されている。第2トランジスタTR2のベース端子は、抵抗器R2を介して送受信回路50の出力端子に接続されている。
【0020】
抵抗器R3と抵抗器R4は直列に接続されている。抵抗器R3は出力端子T21に接続されている。詳しくは、抵抗器R3は、接続点P2よりも出力端子T21側で出力端子T21に接続されている。抵抗器R4は入力側グランド端子T12及び出力側グランド端子T22に接続されている。また、抵抗器R3と抵抗器R4との接続点P3は、レギュレータIC15のフィードバック端子に接続されている。これにより、レギュレータIC15のフィードバック端子には、出力電圧Voを抵抗器R1と抵抗器R2とで分圧した電圧が入力される。そして、レギュレータIC15は、フィードバック端子の入力電圧と基準電圧との差分がゼロになるように帰還ループ制御を行うことにより、レギュレータ回路10の出力電圧Voを一定に保つ。
【0021】
<2.動作>
次に、レギュレータ回路10の動作について、
図2及び
図3を参照して説明する。本実施形態に係る無線送受信機60は、時分割送信、すなわち間欠送信を行う。そのため、送信パワーアンプ20は、送信時には瞬間的に比較的大きな電流を消費するが、待機時すなわち受信時には、送信時と比べて非常に小さい電流しか消費しない。例えば、送信時における送信パワーアンプ20の消費電流は、待機時における送信パワーアンプ20の消費電流の20倍以上となる。そのため、送信パワーアンプ20の送信時には、送信パワーアンプ20の消費電力は、予め設定された電力閾値よりも大きくなり、送信パワーアンプ20の待機時には、送信パワーアンプ20の消費電力は、電力閾値よりも小さくなる。また、送信パワーアンプ20の待機期間に対する送信期間の比率は1%程度である。すなわち、送信パワーアンプ20の送信期間は、待機期間と比べると一瞬である。
【0022】
送受信回路50は、待機時には、
図1の破線で示すように、第2経路Ph2を介して出力電流Ioが流れるように、レギュレータ回路10にTx/Rx切替信号を送信する。また、送受信回路50は、送信時には、
図1の鎖線で示すように、第1経路Ph1を介して出力電流Ioが流れるように、レギュレータ回路10にTx/Rx切替信号を送信する。
【0023】
具体的には、送受信回路50は、
図2に示すように、待機時にはローレベルの信号を送信し、送信時にはハイレベルの信号を送信する。なお、
図2には、Tx/Rxの切替信号を模式的に示した図であり、ローレベルの信号とハイレベルの信号の比率は実際の比率と異なる。
【0024】
送受信回路50からローレベルの信号が出力されると、第2トランジスタTR2のベース端子の電位が下がり、第2トランジスタTR2のエミッタ端子からベース端子へ電流が流れ、第2トランジスタTR2はオン状態となる。その結果、レギュレータIC15の出力端子から出力されるIC電流は、第2トランジスタTR2のエミッタ端子とコレクタ端子の端子間を流れて、出力端子T21から出力される。このとき、レギュレータIC15の出力端子から第1トランジスタTR1のベース端子へ流れるIC電流は抑制されるため、第1トランジスタTR1はオフ状態となる。
【0025】
すなわち、
図3に示すように、送信パワーアンプ20の消費電力が電力閾値よりも低い場合には、第1トランジスタTR1がオフ状態且つ第2トランジスタTR2がオン状態になり、出力電流Ioは第2経路Ph2を流れる。よって、この場合、レギュレータIC15の保護機能が有効に作動する。
【0026】
一方、送受信回路50からハイレベル信号が出力されると、第2トランジスタTR2のベース端子の電位が上がり、第2トランジスタTR2はオフ状態になる。そのため、レギュレータIC15の出力端子から出力されるIC電流は、第1トランジスタTR1のベース端子へ流れ込み、第1トランジスタTR1がオン状態になる。その結果、第1トランジスタTR1によりIC電流が増幅され、増幅されたIC電流である出力電流Ioが、第1トランジスタTR1のエミッタ端子とコレクタ端子との端子間を流れて、出力端子T21から出力される。
【0027】
すなわち、
図3に示すように、送信パワーアンプ20の消費電力が電力閾値よりも高い場合には、第1トランジスタTR1がオン状態且つ第2トランジスタTR2がオフ状態になり、出力電流Ioは第1経路Ph1を流れる。この場合、出力電流IoはレギュレータIC15の保護回路をバイパスするため、レギュレータIC15の保護機能を有効に利用することはできない。しかしながら、レギュレータ回路10の動作期間において、レギュレータIC15の保護機能を有効に利用できない期間は非常に短い。
【0028】
<3.効果>
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)レギュレータ回路10は、電流ブースト用の第1トランジスタTR1を有する第1経路Ph1と、レギュレータIC15及び第2トランジスタTR2を有し、第1経路Ph1をバイパスする第2経路Ph2を備える。そして、送信時には、第1トランジスタTR1がオン状態且つ第2トランジスタTR2がオフ状態にされるため、第1経路Ph1を介して比較的大きな出力電流Ioを流すことができる。一方、待機時には、第1トランジスタTR1がオフ状態且つ第2トランジスタTR2がオン状態にされるため、比較的小さい出力電流IoがレギュレータIC15を介して流れる。そのため、待機時には、レギュレータIC15の保護機能を有効に利用することができる。したがって、レギュレータ回路10は、レギュレータICの保護機能を有効に利用しつつ、送信パワーアンプ20に大電流を供給することができる。
【0029】
(2)レギュレータ回路10の負荷を送信パワーアンプ20としたことにより、出力電流Ioが第1経路Ph1を流れる期間よりも、出力電流Ioが第2経路Ph2を流れる期間の方が圧倒的に長い。そのため、送信時には比較的大きな電流を供給できるとともに、レギュレータ回路の作動期間の大部分においてギュレータICの保護機能を有効に利用することができる。
【0030】
(他の実施形態)
以上、本開示を実施するための形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0031】
(a)上記実施形態では、負荷を送信パワーアンプ20としたが、レギュレータ回路10の負荷は、これに限定されるものではない。レギュレータ回路10の負荷は、消費電力の大きさが変動するものであれば特に限定されるものではないが、消費電力の比較的小さい期間が消費電力の比較的大きい期間よりも十分に長くなる負荷であるとよい。
【0032】
(b)レギュレータ回路10の構成は、電流ブースト用の第1スイッチを備えたブースト経路である第1経路と、レギュレータIC及び第2スイッチを備え、ブースト経路をバイパスするバイパス経路である第2経路とを備えていれば、特に限定されるものではない。また、第1スイッチは、第1経路を接続状態又は遮断状態にできるスイッチであれば特に限定されるものではない。第2スイッチは、第2経路を接続状態又は遮断状態にできるスイッチであれば特に限定されるものではない。
【0033】
(c)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【符号の説明】
【0034】
10…レギュレータ回路、15…レギュレータIC、20…送信パワーアンプ、30…直流電源、Ph1…第1経路、Ph2…第2経路、T11…入力端子、T21…出力端子、TR1…第1トランジスタ、TR2…第2トランジスタ。