特許第6954211号(P6954211)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6954211金属成形板、塗装金属成形板および成形方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6954211
(24)【登録日】2021年10月4日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】金属成形板、塗装金属成形板および成形方法
(51)【国際特許分類】
   B21D 22/20 20060101AFI20211018BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20211018BHJP
   C22C 38/14 20060101ALN20211018BHJP
【FI】
   B21D22/20 E
   B21D22/20 G
   !C22C38/00 301T
   !C22C38/14
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-68141(P2018-68141)
(22)【出願日】2018年3月30日
(65)【公開番号】特開2019-177396(P2019-177396A)
(43)【公開日】2019年10月17日
【審査請求日】2020年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久保 雅寛
【審査官】 石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2017/98983(WO,A1)
【文献】 国際公開第2018/30500(WO,A1)
【文献】 特開2009−173973(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2017/314091(US,A1)
【文献】 特開2004−315927(JP,A)
【文献】 特開平8−138826(JP,A)
【文献】 特開2014−189817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 22/20
C22C 38/00
C22C 38/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
意匠面に稜線部を有し、前記稜線部の板厚最小部における、前記稜線部の延在方向に対する直交方向断面の前記稜線部の凹側表面の曲率半径が5mm以下である金属成形板であって、
前記意匠面のうち板厚が最大となる箇所の表面における、結晶粒の平均アスペクト比が、2.0以上3.0未満であり、
前記稜線部の板厚最小部の凸側表面における、前記稜線部の延在方向に対する直交方向と結晶粒の短軸の最頻方向との成す角度が±15°以内であり、
前記稜線部の板厚最小部の凸側表面における、算術平均表面粗さSaが1.0μm以下である金属成形板。
【請求項2】
前記稜線部の板厚最小部における、前記稜線部の凹側表面の曲率半径をRとし、板厚をtとしたとき、R/tが5以下である請求項1に記載の金属成形板。
【請求項3】
前記金属成形板が、鋼製である請求項1又は請求項2に記載の金属成形板。
【請求項4】
前記金属成形板が、アルミニウム合金製である請求項1又は請求項2に記載の金属成形板。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の金属成形板と、前記金属成形板の表面のうち、少なくとも前記稜線部の凸側の表面に設けられた塗装層と、を有する塗装金属成形板。
【請求項6】
表面の結晶粒の平均アスペクト比が2.0以上3.0未満の金属板をプレス成形し、意匠面に稜線部を有し、前記稜線部の板厚最小部における、前記稜線部の延在方向に対する直交方向断面の前記稜線部の凹側表面の曲率半径が5mm以下である金属成形板を得る成形方法であって、
前記金属板の表面における、結晶粒の短軸の最頻方向を特定する工程と、
前記金属板をプレス成形したとき、前記稜線部の板厚最小部における前記稜線部の延在方向に対する直交方向を特定する工程と、
前記稜線部の延在方向に対する直交方向と前記結晶粒の短軸の最頻方向との成す角度が±15°以内となるように、前記金属板をブランキングする工程と、
ブランキングされた金属板に対して、前記角度が±15°以内となるプレス成形を実施する工程と、
を有する成形方法。
【請求項7】
前記金属板が、鋼製である請求項6に記載の成形方法。
【請求項8】
前記金属板が、アルミニウム合金製である請求項6に記載の成形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属成形板、塗装金属成形板および成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車、航空機、船舶、建築材料、家電製品等の分野では、ユーザーのニーズに答えるため、デザイン性が重視されるようになってきている。その為、特に、外装部材の形状は複雑化する傾向にある。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルミニウム合金板の圧延方向と、成形加工における最大成形方向とのなす角度が、±30°以内となるようにして、前記アルミニウム合金板を金型内に設置し、成形加工を施すアルミニウム合金板の成形方法が開示されている。特許文献1では、この成形方法により、成形時のリジングマークの発生を抑制できると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−36421号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、外装部材として、複雑な形状の金属成形板を金属板から成形するには、金属板に大きなひずみを与えることが必要である。一方で、加工量の増加に従い金属成形板表面に微細な凹凸が生じやすく、表面荒れとなって外観上の美観を損ねるという問題がある。
特に、意匠性を高めるために、曲率半径が小さい稜線部を意匠面に有する金属成形板を成形により成形する場合、稜線部の凸側表面に凹凸が発達し、表面荒れとなって外観上の美観を損ね易い。
【0006】
そこで、本発明の課題は、稜線部の凸部表面の表面荒れの発生が抑制された金属成形板を提供することである。
他の本発明の課題は、稜線部の凸部表面の表面荒れの発生が抑制された塗装金属成形板を提供することである。
他の本発明の課題は、稜線部の凸部表面の表面荒れの発生が抑制された金属成形板が得られる成形方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
【0008】
<1>
意匠面に稜線部を有し、前記稜線部の板厚最小部における、前記稜線部の延在方向に対する直交方向断面の前記稜線部の凹側表面の曲率半径が5mm以下である金属成形板であって、
前記意匠面のうち板厚が最大となる箇所の表面における、結晶粒の平均アスペクト比が、2.0以上3.0未満であり、
前記稜線部の板厚最小部の凸側表面における、前記稜線部の延在方向に対する直交方向と結晶粒の短軸の最頻方向との成す角度が±15°以内であり、
前記稜線部の板厚最小部の凸側表面における、算術平均表面粗さSaが1.0μm以下である金属成形板。
<2>
前記稜線部の板厚最小部における、前記稜線部の凹側表面の曲率半径をRとし、板厚をtとしたとき、R/tが5以下である<1>に記載の金属成形板。
<3>
前記金属成形板が、鋼製である<1>又は<2>に記載の金属成形板。
<4>
前記金属成形板が、アルミニウム合金製である<1>又は<2>に記載の金属成形板。
<5>
<1>〜<4>のいずれか1項に記載の金属成形板と、前記金属成形板の表面のうち、少なくとも前記稜線部の凸側の表面に設けられた塗装層と、を有する塗装金属成形板。
<6>
表面の結晶粒の平均アスペクト比が2.0以上3.0未満の金属板をプレス成形し、意匠面に稜線部を有し、前記稜線部の板厚最小部における、前記稜線部の延在方向に対する直交方向断面の前記稜線部の凹側表面の曲率半径が5mm以下である金属成形板を得る成形方法であって、
前記金属板の表面における、結晶粒の短軸の最頻方向を特定する工程と、
前記金属板をプレス成形したとき、前記稜線部の板厚最小部における前記稜線部の延在方向に対する直交方向を特定する工程と、
前記稜線部の延在方向に対する直交方向と前記結晶粒の短軸の最頻方向との成す角度が±15°以内となるように、前記金属板をブランキングする工程と、
ブランキングされた金属板に対して、前記角度が±15°以内となるプレス成形を実施する工程と、
を有する成形方法。
<7>
前記金属板が、鋼製である<6>に記載の成形方法。
<8>
前記金属板が、アルミニウム合金製である<6>に記載の成形方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、稜線部の凸部表面の表面荒れの発生が抑制された金属成形板を提供できる。
本発明によれば、稜線部の凸部表面の表面荒れの発生が抑制された塗装金属成形板を提供できる。
本発明によれば、稜線部の凸部表面の表面荒れの発生が抑制された金属成形板が得られる成形方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態に係る金属成形板の一例を示す概略斜視図である。
図2】本実施形態に係る金属成形板の稜線部の板厚最小部の一例を示す拡大概略断面図である。
図3】本実施形態に係る塗装金属成形板の一例を示す概略斜視図である。
図4】本実施形態に係る成形方法を説明するための模式図である。
図5】本実施形態に係る成形方法を説明するための模式図である。
図6】本実施形態に係る成形方法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。
なお、本明細書において、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
また、「意匠面」とは、金属成形板を構成する面のうち、外部に露出し、美観の対象となり得る面をいう。
また、「稜線部の板厚最小部における稜線部の延在方向」とは、稜線部のある意匠面を平面視したとき、稜線部の板厚最小部において、稜線部が延びる方向を意味する。例えば、稜線部の頂点が直線を描く箇所に、稜線部の板厚最小部が有する場合、「稜線部の板厚最小部における稜線部の延在方向」とは、当該直線が延びる方向を意味する。一方、稜線部の頂点が曲線を描く箇所に、稜線部の板厚最小部が有する場合、「稜線部の板厚最小部における稜線部の延在方向」とは、当該曲線に対する稜線部の板厚最小部における接線が延びる方向を意味する。
また、「稜線部の延在方向に対する直交方向」を「稜線部の直交方向」とも称する。
【0012】
本実施形態に係る成形方法は、表面の結晶粒の平均アスペクト比が2.0以上3.0未満の金属板をプレス成形し、意匠面に稜線部を有し、稜線部の板厚最小部における、稜線部の延在方向に対する直交方向断面の稜線部の凹側表面の曲率半径が5mm以下である金属成形板を得る成形法である。
【0013】
そして、本実施形態に係る成形方法は、金属板の表面における、結晶粒の短軸の最頻方向を特定する工程(第一工程)と、金属板をプレス成形したとき、稜線部の板厚最小部における稜線部の延在方向に対する直交方向を特定する工程(第二工程)と、稜線部の延在方向に対する直交方向と結晶粒の短軸の最頻方向との成す角度が±15°以内となるように、金属板をブランキングする工程(第三工程)と、ブランキングされた金属板に対して、前記角度が±15°以内となるプレス成形を実施する工程(第四工程)と、を有する。
【0014】
ここで、例えば、頂面に稜線部を有するパンチを使用して、金属板に対してプレス成形を実施すると、意匠面に稜線部を有する金属成形板が得られる。
【0015】
しかし、意匠性を高めるために、断面の曲率半径の小さい稜線部をプレス成形すると、稜線部の相当塑性ひずみ(以下「加工量」とも称する)が大きくなる。
具体的には、稜線部の板厚最小部における、稜線部の直交方向断面の稜線部の凹側表面の曲率半径が5mm以下となるプレス成形を実施すると、稜線部の相当塑性ひずみが大きくなる。
このような曲率半径の小さい稜線部を有する金属成形板は、稜線部の凸側表面に表面荒れが現れる。特に、稜線部のうち、稜線部の板厚最小部は、相当塑性ひずみが大きく、稜線部の凸側表面に表面荒れが顕著に現れる。
【0016】
それに対して、本実施形態に係る成形方法では、上記工程を経ることにより、稜線部の凸部表面の表面荒れの発生が抑制された金属成形板が得られる。そして、本実施形態に係る成形方法は、次の知見により見出された。
【0017】
発明者らは、成形対象である金属板の表面の結晶粒の形状に着目し、結晶粒の形状と稜線部の凸側表面の表面荒れとの関係について検討した。その結果、発明者らは、次の知見を得た。
【0018】
金属板の表面の結晶粒が延びた形状を有している場合(つまり、金属板の表面の結晶粒の平均アスペクト比が2.0以上3.0未満である場合)、結晶粒の長軸方向とプレス成形したときの面内の主ひずみ方向が一致すると、表面荒れは生じ易くなる。これは、主ひずみ方向に沿った結晶粒の長さが長く(つまり、主ひずみ方向に沿った見かけの平均結晶粒径が大きく)、結晶粒が変形し、凹凸が発達するためと考えられる。
【0019】
一方、結晶粒の短軸方向とプレス成形したときの面内の主ひずみ方向が一致すると、表面荒れは生じ難くなる。これは、主ひずみ方向に沿った結晶粒の長さが短く(つまり、主ひずみ方向に沿った見かけの平均結晶粒径が小さく)、結晶粒が変形し難くなるためと考えられる。
【0020】
ここで、意匠面に稜線部を有する金属成形板をプレス成形するとき、稜線部を有する金属板に平面ひずみ引張変形が生じて稜線部が成形される。つまり、稜線部の直交方向が主ひずみ方向となる。
【0021】
そのため、金属板に対して、稜線部の直交方向と結晶粒の短軸の最頻方向との成す角度が±15°以内となるプレス成形を実施すると、結晶粒の短軸方向とプレス成形したときの面内の主ひずみ方向が一致する頻度が高くなり、稜線部の凸部表面の表面荒れが発生し難くなる。
【0022】
このプレス成形を実現するためには、金属板の表面における、結晶粒の短軸の最頻方向と共に、金属板をプレス成形したとき、稜線部の板厚最小部における稜線部の直交方向を特定する。その上で、稜線部の直交方向と結晶粒の短軸の最頻方向との成す角度が±15°以内となるように、金属板をブランキングする。
そして、ブランキングした金属板に対して、上記角度が±15°以内となるプレス成形を実施すれば、意匠性を高めるために、断面の曲率半径の小さい稜線部をプレス成形しても、稜線部の凸部表面の表面荒れが抑制される。
【0023】
以上の知見により、本実施形態に係る成形方法は、稜線部の凸部表面の表面荒れの発生が抑制される成形方法であることが見出された。
【0024】
以下、図面を参照しつつ、本実施形態に係る成形方法の詳細について説明する。
【0025】
<金属成形板>
まず、本実施形態に係る成形方法により得られる金属成形板(以下「本実施形態に係る金属成形板」と称する)について説明する。
【0026】
本実施形態に係る金属成形板10は、図1に示すように、意匠面11の一部又は全部となる膨出部13に稜線部12を有する金属成形板である。具体的には、例えば、金属成形板10は、稜線部12を有する天板部14と、天板部14に周囲に隣接する縦壁部16と、縦壁部16に周囲に隣接するフランジ18と、を有する略ハット側の成形板である。つまり、膨出部13は、天板部14と縦壁部16とで構成されている。なお、フランジ18は、一部又は全部が除去されていてもよい。
【0027】
なお、金属成形板10の形状は、板面に稜線部12を有していれば、上記構成に限られず、目的に応じた種々の形状(ドーム形状等)を採用できる。
【0028】
稜線部12は、金属成形板10の平面視で、天板部14に直線状に設けられている。また、稜線部12は、稜線部12の直交方向から見た金属成形板10の側面視で、凸状に湾曲した流線状に設けられている。
【0029】
ここで、稜線部12は、例えば、金属成形板10の縁(例えば、稜線部12の直交方向上にあるフランジ18Aの縁)から10mm以上離れた箇所に配置されている。つまり、稜線部12は、例えば、天板部14と縦壁部16との境界となる稜線部12の延在方向に沿った肩部14A(又は縦壁部16A)よりも内側に設けられている。なお、稜線部12は、稜線部12の延在方向と交わる肩部14B(又は縦壁部16B)を通り抜けて、稜線部12の延在方向上にあるフランジ18Bまで伸びていてもよい。
【0030】
なお、稜線部12は、上記態様に限られず、平面視で、直線状であってもよいし、流線状であってもよい。また、側面視で、稜線部12は、直線状であってもよいし、流線状であってもよい。
【0031】
稜線部12は、稜線部12の板厚最小部12Aにおける、稜線部12の直交方向断面の稜線部12の凹側表面の曲率半径が5mm以下(意匠性の観点では4mm以下)となっている(図2参照:図中R1は曲率半径を示す)。ただし、稜線部12の凸側表面の抑制しきれない表面荒れの観点から、曲率半径の下限値は、1mm以上とすることがよい。
【0032】
ここで、稜線部12の板厚最小部12A、及び稜線部12の板厚最小部12Aにおける曲率半径は、次の通り測定する。まず、稜線部12の凹側表面における3次元形状を、3次元形状測定器により測定する。次に、コンピュータのCADソフト(例えば3DCAD Solidworks等)により、稜線部12の平行方向に沿って、稜線部12の直交方向断面を連続的に取得し、稜線部12で最も板厚が小さい箇所を特定する。この特定箇所を稜線部12の板厚最小部12Aとする。そして、特定箇所の曲率半径を、稜線部12の板厚最小部12Aにおける曲率半径とする。
【0033】
意匠面11のうち板厚が最大となる箇所の表面における、結晶粒の平均アスペクト比は、2.0以上3.0未満(好ましくは2.15以上2.9未満)となっている。
【0034】
意匠面11のうち板厚が最大となる箇所の板厚は、プレス成形前の金属板の板厚と見なすことができる。
つまり、金属成形板10は、表面の結晶粒の平均アスペクト比が2.0以上3.0未満の金属板をプレス成形した成形板と見なすことができる。
【0035】
稜線部12の板厚最小部12Aの凸側表面における、稜線部12の直交方向と結晶粒の短軸の最頻方向との成す角度は±15°以内(好ましくは±10°以内)となっている。
つまり、金属成形板10は、稜線部12の板厚最小部12Aにおける稜線部12の直交方向と結晶粒の短軸の最頻方向との成す角度が±15°以内となるように、金属板をプレス成形した成形板とみなすことができる。
なお、図1中、D2は稜線部12の直交方向を示す。
【0036】
ここで、金属成形板10の表面における、結晶粒の平均アスペクト比、および結晶粒の短軸の最頻方向は、次の方法により測定する。
測定対象の金属成形板10の表面(以下「観察面」とも称する)を有する試料を採取する。
次に、試料の観察面を研磨及びナイタールエッチングし、観察面の粒界を腐食させて発現させる。
次に光学顕微鏡により、試料の観察面のうち、200μm×200μmの四方の領域を500倍率で観察する。
次に、観察した結晶粒において、最大長さを長軸長さとし、長軸に直交する方向に沿った長さの最大長さを短軸長さとする。測定した長軸長さ及び短軸長さから、アスペクト比(=長軸長さ/短軸長さ)を算出する。そして、観察面で観察される結晶粒の各アスペクト比の算術平均を平均アスペクト比とする。
【0037】
また、観察面で観察される結晶粒の各短軸方向を求める。そして、最も多い結晶粒が有する短軸方向を、結晶粒の短軸の最頻方向とする。
【0038】
稜線部12の板厚最小部12Aの凸側表面における、算術平均表面粗さSaは、1.0μm以下(好ましくは0.8μm以下)となっている。つまり、稜線部12の凸側表面の表面荒れが低減されている。
【0039】
稜線部12の凸側表面の算術平均表面粗さSaは、ISO−25178に準じて測定する。具体的には、算術平均表面粗さSaは、稜線部12の凸側の頂点を中心とし、「稜線部12の板厚最小部12Aにおける稜線部12の延在方向に沿った2mm」×「稜線部12の板厚最小部12Aにおける稜線部12の直交方向に沿った2mm」の四方領域(図1及び図2参照:図中Tは四方領域を示し、Sは稜線部12の凸側の頂点)を3箇所測定した算術平均値とする。
なお、表面形状のカットオフ条件は、S−フィルター=0.8μm、L−フィルター=2.5mmとする。
【0040】
以上説明した本実施形態に係る金属成形板10は、表面の結晶粒の平均アスペクト比が、2.0以上3.0未満の金属板に対して、稜線部12の板厚最小部における稜線部12の凹側表面の曲率半径、および、稜線部の板厚最小部の凸側表面における稜線部12の直交方向と結晶粒の短軸の最頻方向との成す角度が、上記範囲となるプレス成形が施された金属成形板である。そして、金属成形板10は、上記条件でプレス成形されていても、稜線部12の板厚最小部12Aの凸側表面における、算術平均表面粗さSaが1.0μm以下となっている。すなわち、稜線部の凸部表面の表面荒れの発生が抑制された金属成形板となっている。
【0041】
以下、本実施形態に係る金属成形板10の好適な態様について説明する。
【0042】
金属成形板10は、稜線部12の板厚最小部12Aにおける、稜線部12の凹側表面の曲率半径をR(mm)とし、板厚をt(mm)としたとき、R/tが5以下であることが好ましい。
【0043】
金属成形板10において、R/tが5より大きい場合,表面に付与される相当塑性ひずみが小さく、表面あれが顕在化し難くなるためである.なお、R/tの下限値は、1である。R/tが1未満の場合,表面に付与される相当塑性ひずみが大きく、曲げ割れが生じることがある。割れ抑制の観点から、例えば、1以上とする。
【0044】
金属成形板10は、bcc構造(体心立方格子構造)を有する金属成形板が代表として挙げられる。bcc構造を有する金属成形板としては、α−Fe、Li、Na、K、β−Ti、V、Cr、Ta、W等の金属成形板が挙げられる。これらの中でも、鋼製の金属成形板(フェライト系鋼板、ベイナイト単相組織としたベイナイト鋼板、マルテンサイト単相組織としたマルテンサイト鋼板等の金属成形板)が好ましく、フェライト系鋼板がより好ましい。フェライト系鋼板には、金属組織のフェライト分率が100%の鋼板以外に、マルテンサイト、ベイナイト等が存在する鋼板(DP鋼板)も含まれる。
【0045】
ここで、鋼製の金属成形板のフェライト分率は、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。金属組織のフェライト分率が70%以上とすることで、硬質相と軟質相であるフェライトと硬度差により凹凸の発達が生じ難くなる。その結果、金属成形板の表面荒れの発生が抑制される。
なお、フェライト分率は、次に示す方法により測定できる。鋼製の金属成形板の表面を研磨後、ナイタール溶液に浸漬することで、フェライト組織を現出させ、光学顕微鏡で組織写真を撮影する。その後、前記組織写真の全域の面積に対するフェライト組織の面積を算出する。
【0046】
金属成形板10のうち、鋼製の金属成形板としては、質量%で、C:0.00050〜0.0080%、Si:0.005〜1.0%、Mn:1.50%以下、P:0.100%以下、S:0.010%以下、Al:0.00050〜0.10%、N:0.0040%以下、Ti:0.0010〜0.10%、Nb:0.0010〜0.10%、及び、B:0〜0.0030%、を含有し、残部がFe及び不純物である化学組成を有する成形板が例示できる。
【0047】
金属成形板10は、γ−Fe(オーステナイト系ステンレス鋼)、アルミニウム、アルミニウム合金チタン合金、マグネシウム合金、銅、ニッケル、黄銅、白銅等の金属製の金属成形板であってもよい。これらの中でも、金属成形板10は、fcc構造(体心立方格子構造)を有する金属板(特に、アルミニウム合金製の金属成形板)がよい。
【0048】
<塗装金属成形板>
以下、本実施形態に係る金属成形板の表面を塗装した塗装金属成形板(以下「本実施形態に係る塗装金属成形板」と称する)について説明する。
【0049】
本実施形態に係る塗装金属成形板100は、例えば、図3に示すように、本実施形態に係る金属成形板10と、金属成形板10の表面のうち、少なくとも稜線部12の凸側の表面に設けられた塗装層20と、を有する。
【0050】
塗装層20の形成方法は、特に制限はなく、電着塗装処理などの周知の塗装処理が挙げられる。
塗装層20は、単層であってもよいし、複層(例えば、下塗り塗装層、中塗り塗装層、上塗り塗装層等を有する複層)であってもよい。
【0051】
本実施形態に係る塗装金属成形板100は、上記本実施形態に係る金属成形板10の表面を塗装した塗装品であるため、同様に、稜線部の凸部表面の表面荒れの発生が抑制された塗装金属成形板である。
【0052】
<成形方法>
次に、本実施形態に係る成形方法について説明する。
本実施形態に係る成形方法は、表面の結晶粒の平均アスペクト比が2.0以上3.0未満の金属板をプレス成形し、金属成形板を得る成形方法である。
【0053】
(第一工程)
第一工程では、表面の結晶粒の平均アスペクト比が2.0以上3.0未満の金属板の表面における、結晶粒の短軸の最頻方向を特定する(図4参照)。
なお、図4中、Stは金属板、Crは結晶粒、D1は結晶粒の短軸の最頻方向を示す。図4中の(A)は、金属板の表面の部分拡大図(SEM写真の模式図)である。
【0054】
具体的には、成形対象の金属板に対して、表面の結晶粒の平均アスペクト比と共に、結晶粒の短軸の最頻方向を測定する。
【0055】
なお、金属成形板における、結晶粒の平均アスペクト比および結晶粒の短軸の最頻方向は、金属成形板と同じ方法で測定する。ただし、採取する試料は、金属板の縁から20mm以上離れた表面(観察面)を有する試料とする。
【0056】
(第二工程〜第三工程)
第二工程では、金属板をプレス成形したとき、稜線部の板厚最小部における稜線部の直交方向を特定する。そして、第三工程は、稜線部の直交方向と結晶粒の短軸の最頻方向との成す角度が±15°以内となるように、金属板をブランキングする。
【0057】
具体的には、例えば、成形シミュレーションにより、金属板をブランキングする領域において、ブランキングされた金属板をプレス成形したとき、稜線部となる領域、稜線部の板厚最小部となる領域、稜線部の板厚最小部における稜線部の直交方向を特定する。
これらを特定した上で、稜線部の直交方向と結晶粒の短軸の最頻方向との成す角度が±15°以内となるように、金属板をブランキングする領域を決定する(図5参照)。そして、金属板をブランキングする(図6参照)。
【0058】
なお、図5図6中、Stは金属板、St1は金属板をブランキングする領域、St2はブランキングされた金属板、P1は稜線部となる領域、P2は稜線部の板厚最小部となる領域、D1は結晶粒の短軸の最頻方向、D2は稜線部の板厚最小部における稜線部の直交方向を示す。
【0059】
(第四工程)
第四工程では、ブランキングされた金属板に対して、稜線部の直交方向と結晶粒の短軸の最頻方向との成す角度が±15°以内となるプレス成形を実施する。
プレス成形の種類は、特に制限はなく、意匠面に稜線部を有する金属成形板が得られる成形方法(例えば、張り出し成形及び絞り張り出し成形等)であればよい。
この成形により、目的とする金属成形板が得られる(図1参照)。
【0060】
以上説明した本実施形態に係る成形方法では、ブランキングした金属板に対して、稜線部の直交方向と結晶粒の短軸の最頻方向との成す角度が±15°以内となるプレス成形を実施するため、意匠性を高めるために、断面の曲率半径の小さい稜線部をプレス成形しても、稜線部の凸部表面の表面荒れが発生される。
よって、本実施形態に係る成形方法は、稜線部の凸部表面の表面荒れの発生が抑制される成形方法である
【実施例】
【0061】
以下、本発明を、実施例を挙げてさらに具体的に説明する。ただし、これら各実施例は、本発明を制限するものではない。
【0062】
(実施例1)
C:0.038、Si:0.012、Mn:0.19、P:0.020、S:0.003、Al:0.041、N:0.003、Ti:0.001、Nb:0.001、B:0.0001を含み、残部がFe及び不純物からなり、板厚0.75mmの鋼板を準備した。この鋼板の表面の「平均アスペクト比」は2.17であり、鋼板の圧延方向に対する「結晶粒の短軸の最頻方向」は40°であった。
【0063】
次に、図1に示す形状の成形板を成形するために、矩形鋼板をブランキングした。ただし、予め、図1に示す形状の成形板を成形するにあたり、成形シミュレーションにより、鋼板をブランキングする領域において、ブランキングされた鋼板をプレス成形したとき、稜線部となる領域、稜線部の板厚最小部となる領域、稜線部の板厚最小部における稜線部の直交方向を特定した。そして、稜線部の直交方向と結晶粒の短軸の最頻方向との成す角度が0°となるように、鋼板をブランキングする領域を決定し、板厚tが0.6mmの鋼板をブランキングした。
【0064】
そして、稜線部12の板厚最小部12Aにおける稜線部12の凹側表面の曲率半径Rが3mmとなるプレス成形を実施し、図1に示す形状の成形板を得た。
【0065】
(実施例2〜6、比較例1〜5)
表1に示す「平均アスペクト比」および「結晶粒の短軸の最頻方向」をブランキング前の鋼板(ブランキング前の鋼板)を準備した。
次に、「稜線部の直交方向と結晶粒の短軸の最頻方向との成す角度が表1に示す角度となるように、鋼板をブランキングする領域を決定し、鋼板をブランキングした。
そして、ブランキングした鋼板に対して、稜線部の直交方向と結晶粒の短軸の最頻方向との成す角度、並びに、稜線部12の板厚最小部12Aにおける稜線部12の凹側表面の曲率半径Rおよび板厚tが表1に示す値となるプレス成形を実施した。
このように、これら条件以外は、実施例1と同様にして、図1に示す形状の成形板を得た。
【0066】
(評価)
得られた鋼成形板について、稜線部の板厚最小部の凸側表面における、算術平均表面粗さSaを既述の方法に従って測定した。
【0067】
その結果を表1に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
上記結果から、実施例の成形方法により得られた鋼成形板は、比較例1〜5に比べ、稜線部の板厚最小部における稜線部の凸側表面の算術平均表面粗さSaが低く、稜線部の凸部表面の表面荒れの発生が抑制された鋼成形板となっていることがわかる。
【符号の説明】
【0070】
10 金属成形板
11 意匠面
11A 金属板の縁部
11B 金属板の縁部
12 金属成形板の稜線部
12A 金属成形板の稜線部の板厚最小部
14 金属成形板の天板部
14A 稜線部の延在方向に沿った金属成形板の肩部
14B 稜線部の延在方向と交わる金属成形板の肩部
16 金属成形板の縦壁部
16A 稜線部の延在方向に沿った金属成形板の縦壁部
16B 稜線部の延在方向と交わる金属成形板の縦壁部
18 金属成形板のフランジ
18A 稜線部の直交方向上にある金属成形板のフランジ
18B 稜線部の延在方向上にある金属成形板のフランジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6