(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記乗込率範囲は、乗客が少ない閑散状態を示す範囲と、前記閑散状態よりも乗客が多い普通状態を示す範囲と、前記普通状態よりも乗客が多い混雑状態を示す範囲と、前記混雑状態よりも乗客が多い過負荷状態を示す範囲とに区分される、
請求項1に記載の乗客コンベア。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0009】
(実施の形態1)
1.構成
図1は、実施の形態1におけるエスカレータの概略側面図である。エスカレータ1は、乗客コンベアの一例である。
【0010】
エスカレータ1は、エスカレータ本体10、モータ20、インバータ30、制御装置40などを有する。
【0011】
エスカレータ本体10は、建築物の2つの階床F1、F2間に架け渡された状態で設置される。エスカレータ本体10は、無端状に連結された複数の踏段11と、左右一対の無端状のハンドレール12と、モータ20の動力を踏段11及びハンドレール12に伝達する動力伝達機構と、乗り口5及び降り口6の床面をそれぞれ構成するフロアプレート19等を有する。複数の踏段11及びハンドレール12は、インバータ30から供給される電力により駆動されるモータ20の動力により循環駆動される。モータ20は駆動部の一例である。本実施の形態のエスカレータ1では、階床F1に乗り口5が設けられ、階床F2に降り口6が設けられているものとして説明するが、本発明では階床F2に乗り口5が設けられ、階床F1に降り口が設けられていてもよい。
【0012】
制御装置40は、インバータ30の動作を制御することで、モータ20の駆動を制御し、もって、踏段11の駆動、つまりエスカレータ1の運転を制御する。
【0013】
図2は、実施の形態1におけるエスカレータ1のエスカレータ本体10の動力伝達機構等の概略構成を示した図である。
【0014】
動力伝達機構のうち踏段11を駆動する機構は、モータ20の駆動軸にブレーキ21を介して連結された減速機22と、減速機22の出力軸により回転駆動される駆動スプロケット23と、駆動スプロケット23によりメインドライブチェーン24を介して回転駆動される従動スプロケット25とを有する。また、動力伝達機構は、従動スプロケット25に同期して回転駆動されるメインドライブスプロケット26と、メインドライブスプロケット26により踏段ドライブチェーン27を介して回転駆動される被ドライブスプロケット28とを備える。モータ20が駆動されると、その動力が、ブレーキ21、減速機22、駆動スプロケット23、メインドライブチェーン24、従動スプロケット25を介して、メインドライブスプロケット26に伝達され、これにより、メインドライブスプロケット26が回転駆動されるとともに、メインドライブスプロケット26とメイン従動スプロケットとの間に掛け渡された踏段ドライブチェーン27に連結された踏段11が循環駆動される。
【0015】
ブレーキ21は、所謂メカブレーキであり、モータ20の駆動軸により回転駆動される回転部材と、ブレーキシューと、回転部材へのブレーキシューの圧接及び離反を行わせる電磁ソレノイドと、電磁ソレノイドへの通電を制御するドライバとを有する。電磁ソレノイドは、非通電時に、ブレーキシューを回転部材に圧接させ、通電時に、ブレーキシューを回転部材から離間させる。ドライバは、制御装置40からブレーキ締結信号を受信していないときは電磁ソレノイドに通電し、制御装置40からブレーキ締結信号を受信したときは電磁ソレノイドへの通電を停止する。この構成によれば、ドライバがブレーキ締結信号を受信すると、電磁ソレノイドが非通電状態になってブレーキシューが回転部材に圧接され、ブレーキ21が締結状態となる。これにより、モータ20の駆動力が減速機22側に伝達されなくなって、踏段11の循環駆動を停止させることができる。一方、ドライバがブレーキ締結信号を受信していないときには、電磁ソレノイドが通電状態となってブレーキシューが回転部材から離間し、ブレーキ21が解放状態となる。これにより、モータ20の駆動力を減速機22側に伝達して、踏段11を循環駆動させることができる。なお、ブレーキシューが回転部材に接触し始めて圧接が完了するまでには若干の遅延があるため、ブレーキ締結信号が出力されてから、踏段11が完全に停止するまでには、その遅延の分の若干量だけ踏段11が移動することとなる。
【0016】
エスカレータ1は、さらに、速度/方向検出装置110及び安全装置監視装置120を備える。
【0017】
安全装置監視装置120は、動力伝達機構を構成する上述したチェーンやスプロケットなどの各種の部材の異常を検出する安全装置を監視し、安全装置から異常が発生したことを示す信号が出力されたときに、異常検知信号を制御装置40に出力する。
【0018】
図3は、実施の形態1におけるエスカレータ1の速度/方向検出装置110の概略構造を示した図である。
【0019】
速度/方向検出装置110は、第1検出部111と、第2検出部112とを有する。第1検出部111及び第2検出部112は、メインドライブスプロケット26の外周に形成された複数の歯26aの列に対向するように配置されている。
【0020】
図4は、実施の形態1におけるエスカレータ1の速度/方向検出装置110から出力される駆動状態信号を説明した図である。
【0021】
第1検出部111は、エスカレータ1の運転中、複数の歯26aの先端の接近、離反に同期して、HIGHとLOWを繰り返す駆動状態信号P1を出力する。第2検出部112は、エスカレータ1の運転中、複数の歯26aの先端の接近、離反に同期して、HIGHとLOWを繰り返す駆動状態信号P2を出力する。第1検出部111及び第2検出部112は、複数の歯26aの先端の接近、離反を例えば電磁的あるいは光学的に検知する。ここで、第1検出部111及び第2検出部112は、駆動状態信号P1と駆動状態信号P2の位相が1/4周期分だけずれるように、第1検出部111及び第2検出部112の一方が歯26aの頂点に対向しているときに、他方が歯26aの頂点から谷側にずれた位置に対向するように配置されている。より詳しくは、UP運転時において駆動状態信号P1がHIGHに立ち上がったときに駆動状態信号P2がLOWとなるように、かつDOWN運転時において駆動状態信号P1がHIGHに立ち上がったときに駆動状態信号P2がHIGHとなるように、第1検出部111及び第2検出部112の位置関係が設定されている。
【0022】
この構成に基づいて、制御装置40は、駆動状態信号P1がHIGHに立ち上がったときに、駆動状態信号P2がLOWであれば、現在のエスカレータ1の運転方向(踏段11の移動方向)がUP方向(上昇方向)であると判断する。また、制御装置40は、駆動状態信号P1がHIGHに立ち上がったときに、駆動状態信号P2がHIGHであれば、現在のエスカレータ1の運転方向(踏段11の移動方向)がDOWN方向(下降方向)であると判断する。
【0023】
制御装置40は、駆動状態信号P1がHIGHに立ち上がったときに、駆動状態信号P2がLOWである状態から、駆動状態信号P1がHIGHに立ち上がったときに、駆動状態信号P2がHIGHである状態に変化したとき、エスカレータ1の運転方向(踏段11の移動方向)がUP方向(上昇方向)からDOWN方向(下降方向)に変化したと判断する。つまり、エスカレータ1の運転方向(踏段11の移動方向)が逆転したと判断する。そして、逆転発生時における後述する停止制御を行う。なお、エスカレータ1がUP運転を行っているときに、第2検出部112が故障して駆動状態信号P2がHIGHのままになると、その後に駆動状態信号P1がHIGHに立ち上がったときに駆動状態信号P2がHIGHである状態が発生し、エスカレータ1の運転方向(踏段11の移動方向)が逆転したと誤って判断されてしまう。しかし、安全増しの観点から、制御装置40は、実際に逆転が発生したときと同様の制御を行う。
【0024】
制御装置40は、駆動状態信号P1、P2の少なくとも一方がLOWのままで変化しないとき、及び、駆動状態信号P1がHIGHのままで変化しないとき、速度/方向検出装置110が故障したと判断する。そして、速度/方向検出装置110の故障時における後述する停止制御を行う。
【0025】
制御装置40は、駆動状態信号P1がHIGHとLOWを繰り返す周期Tdに基づいて、エスカレータ1の運転中、一定時間(例えば1秒)間隔で、エスカレータの運転速度(踏段11の駆動速度)を求める。
【0026】
図5は、実施の形態1におけるエスカレータ1の制御システムの電気的構成を示したブロック図である。エスカレータ1は、さらに電源電圧監視装置130を備える。電源電圧監視装置130は、インバータ30に入力される商用電力などの交流電力の電圧を監視し、停電などにより交流電力の電圧が例えば0Vとなったときに停電信号を出力する。
【0027】
制御装置40は、インバータ30からトルク状態信号MO1、MO2、インバータ故障信号、電圧不足信号を入力し、速度/方向検出装置110から駆動状態信号P1、P2を入力し、安全装置監視装置120から異常検知信号を入力し、電源電圧監視装置130から停電信号を入力する。制御装置40は、入力したトルク状態信号MO1、MO2、停電信号、インバータ故障信号、駆動状態信号P1、P2、電圧不足信号、異常検知信号に基づいて、インバータ30の動作を制御するインバータ制御信号を生成してインバータ30に出力するとともに、ブレーキ21の締結を指示するブレーキ締結信号を生成してブレーキ21に出力する。
【0028】
インバータ30は、制御装置40からインバータ制御信号を入力し、入力したインバータ制御信号に基づいて、モータ20に交流電力を供給する。具体的に、インバータ30は、インバータ制御信号に基づいて、モータ20への交流電力の供給及び停止を行うとともに、モータ20に供給する交流電力の周波数を変更する。また、インバータ30は、現在のモータ20のトルク状態を示すトルク状態信号MO1、MO2を制御装置40に出力する。トルク状態信号MO1、MO2については後に詳述する。また、インバータ30は、インバータ30の故障が発生したときに、インバータ故障信号を制御装置40に出力する。インバータ30の故障とは、例えば電力変換部32の異常により、モータ20に対する交流電力(回生電力)の授受ができなくなる故障である。
【0029】
モータ20は、インバータ30から供給される交流電力の周波数に応じた回転数で動作する。これにより、踏段11の駆動速度が、インバータ30から供給される交流電力の周波数に応じて変更される。モータ20は、例えば誘導電動機により構成される。
【0030】
図6は、実施の形態1におけるエスカレータ1の制御装置40の電気的構成を示したブロック図である。
【0031】
制御装置40は、制御部41と記憶部42と入出力インタフェース43とを有する。制御装置40は、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)を利用して構成される。
【0032】
記憶部42は、例えばフラッシュメモリにより構成され、プログラムや種々のデータを格納している。プログラムには、本実施の形態の制御装置40における各種機能を実現するためのプログラムが含まれている。
【0033】
制御部41は、例えばCPU、MPUなどにより構成され、記憶部42からプログラム及びデータを読み出し、読み出したプログラム及びデータに基づく演算処理を行う。これにより、制御装置40における各種の機能が実現される。
【0034】
入出力インタフェース43は、制御装置40に接続される各種装置との間で信号を入出力するためのインタフェースであり、信号形式の変換などを行う。
【0035】
なお、制御装置40は、汎用的なコンピュータを利用して構成されてもよい。また、制御装置40は、電子回路やリレーシーケンス回路などのハードウェアのみにより構成されてもよい。
【0036】
図7は、実施の形態1におけるエスカレータ1のインバータ30の電気的構成を示したブロック図である。
【0037】
インバータ30は、コントローラ31、電力変換部32、出力電流検出器33、及び操作部34を有する。コントローラ31は、例えばプログラマブルロジックコントローラ(PLC)などにより構成され、制御部、記憶部、及び入出力インタフェースを有する。電力変換部32は、トランジスタなどのスイッチング素子を備え、商用電力などの交流電力を入力し、制御部からの指令に応じてスイッチング素子を動作させることにより、交流電力の周波数を変換して出力する。出力電流検出器33は、電力変換部32から出力される交流電力の出力電流値を示す電流値信号をコントローラ31に出力する。操作部34は、インバータ30の動作などに関する種々のパラメータの設定操作を受け付ける。コントローラ31は、出力電流検出器33から出力される電流値信号が示す出力電流値と、モータ20の特性(モータ定格出力等)とに基づいて、運転方向に応じたモータ20の出力トルクの現在値を推定する。出力トルクの現在値は、モータ20の出力トルクに関する公知の演算式などを利用して、コントローラ31が演算により推定してもよいし、コントローラ31の記憶部などに、出力電流値と出力トルクとの関係を運転方向毎に規定したテーブルを予め記憶させておき、当該テーブルを参照して出力トルクを推定してもよい。モータ20の特性については、例えば予め操作部34を用いて設定し、コントローラ31の記憶部に記憶させておく。
【0038】
電力変換部32には、回生抵抗50が接続されており、モータ20の減速時に発生する回生電力を回生抵抗50に通電して消費させる。電力変換部32は、回生電力の回生抵抗50への通電時期などを制御することで、モータ20を所定の減速度で減速させることができる。これにより、踏段11の駆動を停止させる際の減速時間や速度などを制御できる。
【0039】
図8は、実施の形態1におけるエスカレータ1の乗込率及びエスカレータ利用状態の推定方法を説明した図である。
【0040】
モータ20の出力トルクと乗込率との間には、
図8に示すような関係がある。すなわち、UP運転(上昇運転)においては、乗込率が高いほど出力トルクが大きくなる。これに対し、DOWN運転(下降運転)においては、乗込率が高いほど出力トルクが小さくなる。この関係に基づいて、現在の出力トルクから現在の乗込率を推定することが可能である。本実施の形態では、この関係を利用して、現在の出力トルクから現在の乗込率を推定し、推定した乗込率に応じて踏段11の駆動速度を制御する。なお、乗込率とは、エスカレータ1の踏段11に乗っている全利用者の数を全踏段数で除算した値に100を乗じた値である。
【0041】
より具体的に、インバータ30のコントローラ31は、検出した出力電流値に基づいてモータ20の出力トルクを推定し、推定した出力トルクが属するトルク範囲を特定し、特定したトルク範囲を示す信号を出力する。トルク範囲は、UP運転では、出力トルクがLv0以上でLv1未満の第1範囲と、Lv1以上でLv2未満の第2範囲と、Lv2以上でLv3未満の第3範囲と、Lv3以上の第4範囲とに分類される。なお、Lv0、Lv1、Lv2、Lv3は、Lv0<Lv1<Lv2<Lv3の大小関係を有する。これに対し、DOWN運転では、トルク範囲は、出力トルクがLv0以下でLv4よりも大きい第5範囲と、Lv4以下でLv5よりも大きい第6範囲と、Lv5以下でLv6よりも大きい第7範囲と、Lv6以下の第8範囲とに分類される。なお、Lv0、Lv4、Lv5、Lv6は、Lv0>Lv4>Lv5>Lv6の大小関係を有する。
【0042】
ここで、上記のLv0〜Lv6は、エスカレータ1の利用状態を判断可能なように設定されている。具体的に、上記のLv0は、乗込率0(%)のときつまり利用者が乗っていないとき(踏段11のみを駆動するとき)に出力される出力トルク値に設定され、Lv1、Lv4は、乗込率r1(%)に相当する人数の利用者を輸送する際に出力される出力トルク値に設定され、Lv2、Lv5は、乗込率r2(%)に相当する人数の利用者を輸送する際に出力される出力トルク値に設定され、Lv3、Lv6は、乗込率r3(%)に相当する人数の利用者を輸送する際に出力される出力トルク値に設定される。
【0043】
以下では、r1(%)=10%、r2(%)=46.5%、r3(%)=80%とした例を説明する。乗込率が0(%)以上で10%(r1(%))未満である状態は、エスカレータの利用者が相対的に少ない状態であり、このエスカレータ利用状態を「閑散状態」という。乗込率が10%(r1(%))以上で46.5%(r2(%))未満である状態は、エスカレータの利用者数が中程度の状態であり、このエスカレータ利用状態を「普通状態」という。乗込率が46.5%(r2(%))以上で80%(r3(%))未満である状態は、エスカレータの利用者が相対的に多く、混雑している状態であり、このエスカレータ利用状態を「混雑状態」という。乗込率が80%(r3(%))以上である状態は、エスカレータの利用者が相対的にさらに多く、非常に混雑している状態であり、このエスカレータ利用状態を「過負荷状態」という。
【0044】
ここで、利用者が少ない時間帯では、乗込率が10%以下となることが多い。これに基づいて、「閑散状態」の閾値であるr1(%)を上記のように10%としている。これにより、閑散状態を適切に認識できる。なお、乗込率が10%のときの乗客数は、例えば一般的なビルにおいて隣接する階床間に設けられるエスカレータの場合には2〜3人程度である。
【0045】
コントローラ31は、エスカレータ1の運転中、現在の出力トルク値が属するトルク範囲を示すトルク状態信号MO1、MO2を生成し、制御装置40に出力する。コントローラ31は、出力トルクが第1範囲及び第5範囲にあるとき、トルク状態信号M1をLOW、トルク状態信号M2をLOWとし、出力トルクが第2範囲及び第6範囲にあるとき、トルク状態信号MO1をLOW、トルク状態信号MO2をHIGHとし、出力トルクが第3範囲及び第7範囲にあるとき、トルク状態信号MO1をHIGH、トルク状態信号MO2をLOWとし、出力トルクが第4範囲及び第8範囲にあるとき、トルク状態信号MO1をHIGH、トルク状態信号MO2をHIGHとする。
【0046】
なお、コントローラ31は、出力トルク値が第1範囲から第2範囲に遷移し、または第2範囲から第3範囲に遷移し、または第3範囲から第4範囲に遷移し、または第5範囲から第6範囲に遷移し、または第6範囲から第7範囲に遷移し、または第7範囲から第8範囲に遷移した場合、その状態が所定時間(例えば1、2秒程度)継続したことを条件として、遷移後の範囲に対応するトルク状態信号MO1、MO2を出力する。これに対し、コントローラ31は、出力トルク値が第2範囲から第1範囲に遷移し、または第3範囲から第2範囲に遷移し、または第4範囲から第3範囲に遷移し、または第5範囲から第4範囲に遷移し、または第6範囲から第5範囲に遷移し、または第7範囲から第6範囲に遷移し、または第8範囲から第7範囲に遷移した場合には、即座に遷移後の範囲に対応するトルク状態信号MO1、MO2を出力する。
【0047】
制御装置40は、インバータ30から出力されたトルク状態信号M1がLOWで、トルク状態信号M2がLOWであるとき、現在のエスカレータ利用状態が「閑散状態」にあると判断し、インバータ30から出力されたトルク状態信号M1がLOWで、トルク状態信号M2がHIGHであるとき、現在のエスカレータ利用状態が「普通状態」にあると判断し、インバータ30から出力されたトルク状態信号M1がHIGHで、トルク状態信号M2がLOWであるとき、現在のエスカレータ利用状態が「混雑状態」にあると判断し、インバータ30から出力されたトルク状態信号M1がHIGHで、トルク状態信号M2がHIGHであるとき、現在のエスカレータ利用状態が「過負荷状態」にあると判断する。
【0048】
制御装置40は、上述のように判断した現在のエスカレータ利用状態やエスカレータ駆動状態などに基づいて、エスカレータ1の運転を制御する。例えば、制御装置40は、現在のエスカレータ利用状態が「過負荷状態」にあると判断した場合、エスカレータ管理のために、ビル管理室のエスカレータ監視盤などに過負荷警報信号を出力する(図示せず)。また、制御装置40は、安全装置が動作したり、速度/方向検出装置110の故障が発生したり、停電が発生したり、インバータ故障が発生したりしたときに、踏段11の駆動を停止させる制御を行う。以下において踏段11の駆動停止の制御に関して詳しく説明する。
【0049】
2.動作
2.1 ソフトストップ制御
図9は、実施の形態1におけるエスカレータ1のソフトストップ制御を説明した図である。
【0050】
制御装置40は、電源有時にエスカレータの停止条件が成立してエスカレータ1の運転を停止させるときや、停電やインバータ故障などによりエスカレータ1の運転を停止させる場合に、踏段11が適切な距離で緩やかに停止するように、減速方法やブレーキ締結タイミングを制御する。例えば、制御装置40は、
図9に示すような、制御内容を定義した制御内容テーブルを記憶部42に格納しており、電源有時にエスカレータ1の停止条件が成立したときや、停電やインバータ故障を検知したときに、制御内容テーブルを参照して、エスカレータ1の運転方向や乗込率に応じ、減速方法やブレーキ締結タイミングを制御する。このような制御を本実施の形態では、以下適宜、ソフトストップ制御という。以下において詳しく説明する。
【0051】
2.1.1 電源有時
図10は、電源有時におけるソフトストップ制御を説明した図である。
【0052】
制御装置40は、電源有時にエスカレータ1の運転停止条件が成立したとき、例えば、安全装置監視装置120から異常検知信号を受信した場合、または速度/方向検出装置110の故障を検知した場合、現在のエスカレータ1の運転方向及び乗込率に関係なく、インバータ30に、インバータ制御によりモータ20の回転速度を制御して1.6秒間でエスカレータ1の運転速度(踏段11の駆動速度)を30m/minから0m/minに低下させること(インバータ減速)を指示するインバータ制御信号を出力する。制御装置40は、エスカレータ1の運転速度(踏段11の駆動速度)が3m/minにまで低下したときに、ブレーキ21にブレーキ締結信号を出力する。0m/minのときにブレーキ締結信号を出力すると、ブレーキ21が完全に締結するまでの間に、特にUP運転時において逆走が生じる可能性があるため、0m/minとなる前の3m/minのときにブレーキ締結信号を出力して、逆走を防止するものである。本実施の形態では、上記1.6秒間で踏段11が停止するまでの移動距離(停止距離)が450mmとなるようにインバータ減速を行う。この1.6秒及び450mmは、30m/minで駆動されている踏段11を停止させる際に、踏段11に乗っている乗客が速度変化で倒れない程度の緩やかな停止が得られる時間及び距離である。このような制御により、電源有時に安全装置監視装置120から異常検知信号を受信したり、速度/方向検出装置110の故障を検知したりしたような場合において、踏段11を1.6秒間で450mm程度の停止距離で緩やかに停止させることができる。
【0053】
2.1.2 停電発生時
(1)UP運転時
現在の運転方向がUP方向であるときに、停電が発生した場合には、モータ20で回生電力が発生しないため、移動中の踏段11を乗客の重量を利用してフリーランで自然減速させる。ここで、フリーランでの自然減速の程度は、乗客数が少ないほど、つまり乗込率が小さいほど小さくなる。したがって、停止距離は、乗込率が小さいほど長くなる。エスカレータ1に乗っている乗客の安全などを考慮すると、乗込率に関係なく電源有時の450mmと同程度の停止距離で踏段11が停止することが望ましい。本願発明者は、これを実現するために、種々の検討及び実験などを行い、以下の構成の知見を得た。
【0054】
具体的に、本実施の形態のエスカレータ1では、制御装置40は、電源電圧監視装置130から停電信号を受信したときに、つまり停電発生時において、現在の運転方向がUP方向である場合、乗込率に応じた減速制御を行う。
【0055】
図11は、停電発生時、UP方向、乗込率が10%以下のときにおけるソフトストップ制御を説明した図である。
図12は、停電発生時、UP方向、乗込率が10%よりも大きく46.5%以下のときにおけるソフトストップ制御を説明した図である。
図13は、停電発生時、UP方向、乗込率が46.5%よりも大きいときにおけるソフトストップ制御を説明した図である。
【0056】
まず、
図12を参照して、乗込率が10%よりも大きく46.5%以下のとき(エスカレータ利用状態が「普通状態」のとき)におけるソフトストップ制御について説明する。制御装置40は、乗込率が10%よりも大きく46.5%以下のとき、現在のエスカレータ1の駆動速度を監視し、駆動速度が16m/min以下となったときに、ブレーキ締結信号をブレーキ21に出力して、ブレーキ21の締結を行わせる。これにより、乗込率が10%の場合、停電検知から約450mmの停止距離で踏段11を停止させることができる。乗込率が46.5%に近づくと停止距離が450mmよりも短くなるが、乗客の重量による自然な減速によりスムーズな停止が得られるため、停止距離が450mmよりも小さくなることを許容する。なお、制御装置40及びインバータ30は、停電の検知動作をms単位の非常に短い周期で実行しており、停電検知は停電発生とほぼ同時となる。16m/minという駆動速度は、ブレーキ21の締結を開始しても、乗客が倒れにくい速度である。
【0057】
図11に示すように、乗込率が10%以下のとき(エスカレータ利用状態が「閑散状態」のとき)は、乗込率が10%よりも大きく46.5%以下のとき(エスカレータ利用状態が「普通状態」のとき)と比べ、自然減速の程度が小さいため、「普通状態」のときと同じ制御を行っても、自然減速によって駆動速度が16m/minに低下するまでの時間が長くなり、停止距離が450mmよりも長くなってしまう。そのため、乗込率が10%以下のときは、制御装置40は、停電検知から0.5秒後にブレーキ締結信号をブレーキ21に出力して、ブレーキ21の締結を行わせる。これにより、停電検知から約450mmの停止距離で踏段11を緩やかに停止させることができる。
【0058】
図13に示すように、乗込率が46.5%よりも大きいとき(エスカレータ利用状態が「混雑状態」のとき)は、乗込率が10%よりも大きく46.5%以下のとき(エスカレータ利用状態が「普通状態」のとき)と比べ、自然減速の程度が大きいため、駆動速度が16m/min以下のときにブレーキ21を作動させなくても、停止距離を450mmよりも短くできる。そのため、制御装置40は、駆動速度が3m/minに低下したときに、ブレーキ締結信号をブレーキ21に出力して、ブレーキ21の締結を行わせる。駆動速度が3m/min以下のときにブレーキ締結信号を出力するのは、前述したように逆走を防止するためである。この構成によれば、乗込率が46.5%程度の場合には、停電検知から約450mmの停止距離で踏段11を停止させることができる。乗込率が100%に近づくと停止距離が450mmよりも短くなるが、例えば乗込率が80%のときで停止距離が約180mm程度になるが、乗客の重量による自然な減速によりスムーズな停止が得られるため、停止距離が450mmよりも小さくなることを許容する。
【0059】
(2)DOWN運転時
図14は、停電発生時、DOWN方向、乗込率が0〜100%のときにおけるソフトストップ制御を説明した図である。
【0060】
現在の運転方向がDOWN方向であるときに、停電が発生した場合には、モータ20で回生電力が発生する。そのため、電源有時と同様に、インバータ制御による減速が可能である。そのため、本実施の形態では、停電が発生したときに、制御装置40は、インバータ30に、インバータ制御によりモータ20の回転速度を制御して1.6秒間でエスカレータ1の運転速度(踏段11の駆動速度)を30m/minから0m/minに低下させること(インバータ減速)を指示するインバータ制御信号を出力する。また、制御装置40は、エスカレータ1の運転速度(踏段11の駆動速度)が3m/minにまで低下したときに、ブレーキ21にブレーキ締結信号を出力する。このような制御により、電源有時と同様に、450mm程度の停止距離で踏段11を緩やかに停止させることができる。なお、乗込率が10%以下のときには、回生電力の不足によりインバータ30の直流中間回路で電圧不足が発生し、インバータ30が電圧不足信号を出力することがある。この場合、以下の制御を行う。
【0061】
図15は、停電発生時、DOWN方向、乗込率が10%以下で、かつインバータ30が電圧不足信号を出力したときにおけるソフトストップ制御を説明した図である。
【0062】
乗込率が10%以下のときに、停電検知から0.5秒以内に電圧不足信号を受信した後は、インバータ減速が行われていないので、つまりフリーラン自然減速状態となるので、制御装置40は停電検知から0.5秒後にブレーキ21にブレーキ締結信号を出力する。このような制御により、電源有時と同様に450mm程度の停止距離で踏段11を緩やかに停止させることができる。
【0063】
2.1.3 インバータ故障時
(1)UP運転時
現在の運転方向がUP方向であるときに、インバータ故障が発生した場合、インバータ30がモータ20に交流電力を供給できないため、制御装置40は、停電発生時と同様の制御を行う。
【0064】
具体的に、制御装置40は、インバータ30からインバータ故障信号を受信したときに、現在の運転方向がUP方向である場合、乗込率に応じた減速制御を行う。
【0065】
図16は、インバータ故障時、UP方向、乗込率が10%以下のときにおけるソフトストップ制御を説明した図である。
図17は、インバータ故障時、UP方向、乗込率が10%よりも大きく46.5%以下のときにおけるソフトストップ制御を説明した図である。
図18は、インバータ故障時、UP方向、乗込率が46.5%よりも大きいときにおけるソフトストップ制御を説明した図である。
【0066】
図16に示すように、乗込率が10%以下のとき(エスカレータ利用状態が「閑散状態」のとき)には、制御装置40は、フリーランによる自然減速を行わせ、インバータ故障の検知から0.5秒後に、ブレーキ締結信号をブレーキ21に出力して、ブレーキ21の締結を行わせる。なお、制御装置40及びインバータ30は、インバータ故障の検知動作をms単位の非常に短い周期で実行しており、そのため、インバータ故障の検知はインバータ故障の発生とほぼ同時となる。これにより、インバータ故障の検知から約450mmの停止距離で踏段11を緩やかに停止させることができる。
【0067】
図17に示すように、乗込率が10%よりも大きく46.5%以下のとき(エスカレータ利用状態が「普通状態」のとき)には、制御装置40は、フリーランによる自然減速を行わせ、駆動速度が16m/min以下となったときに、ブレーキ締結信号をブレーキ21に出力して、ブレーキ21の締結を行わせる。これにより、乗込率が10%の場合、インバータ故障の検知から約450mmの停止距離で踏段11を停止させることができる。乗込率が46.5%に近づくと停止距離が450mmよりも短くなるが、乗客の重量による自然な減速によりスムーズな停止が得られるため、停止距離が450mmよりも小さくなることを許容する。
【0068】
図18に示すように、乗込率が46.5%よりも大きいとき(エスカレータ利用状態が「混雑状態」のとき)には、制御装置40は、フリーランによる自然減速を行わせ、駆動速度が3m/min以下のときに、ブレーキ締結信号をブレーキ21に出力して、ブレーキ21の締結を行わせる。この場合、乗込率が46.5%程度の場合には、インバータ検知から約450mmの停止距離で踏段11を停止させることができる。乗込率が100%に近づくと停止距離が450mmよりも短くなるが、例えば乗込率が80%のときで停止距離が約180mm程度になるが、乗客の重量による自然な減速によりスムーズな停止が得られるため、停止距離が450mmよりも小さくなることを許容する。
【0069】
(2)DOWN運転時
インバータ故障時には、停電時とは異なり、現在の運転方向がDOWN方向であっても、回生電力によるインバータ制御による減速を行うことができない。そのため、制御装置40は、以下の制御を行う。
【0070】
図19は、インバータ故障時、DOWN方向、乗込率が10%以下のときにおけるソフトストップ制御を説明した図である。
図20は、インバータ故障時、DOWN方向、乗込率が10%よりも大きいときにおけるソフトストップ制御を説明した図である。
【0071】
図19に示すように、乗込率が10%以下のとき(エスカレータ利用状態が「閑散状態」のとき)には、制御装置40は、フリーランによる自然減速を行わせ、インバータ故障の検知から0.5秒後に、ブレーキ締結信号をブレーキ21に出力して、ブレーキ21の締結を行わせる。これにより、インバータ故障の検知から約450mmの停止距離で踏段11を緩やかに停止させることができる。
【0072】
図20に示すように、乗込率が10%よりも大きいときには、制御装置40は、DOWN運転中である踏段11が、乗客の重量により加速するのを防止するため、インバータ故障の検知と同時に、ブレーキ締結信号をブレーキ21に出力して、ブレーキ21の締結を行わせる。この構成によれば、乗込率が80%程度の場合には、踏段11の停止距離は450mm程度となり、乗込率が10%に近づいていくと、停止距離が450mmよりも短くなるが、例えば、乗込率が80%のときで停止距離が約250mm程度になるが、乗客の重量による自然な減速によりスムーズな停止が得られるため、停止距離が450mmよりも小さくなることを許容する。
【0073】
2.2 ソフトストップ制御における安全増し
2.2.1 ブレーキ締結タイミングの安全増し
上述したソフトストップ制御では、踏段11の移動速度が所定の速度に低下したときにブレーキ21の締結を行わせる場合がある。しかし、踏段11の移動速度が所定の速度に低下するまでの時間は、乗込率だけでなく駆動機構の状態によっても変化する。そのため、所定の速度に低下するまでの時間が想定よりも長くなり、踏段11の停止距離が長くなる虞がある。これに対処するため、本実施の形態では以下の構成を採用している。
【0074】
図21は、ブレーキ締結タイミングの安全増し制御を説明した図である。
【0075】
(1)電源有時
電源有時に関しては、
図9で示したようにブレーキ締結タイミング(第1タイミング)として3m/min検知が設定されているが、さらに、安全増しのためのブレーキ締結タイミング(第2タイミング)として、
図21に示すように、運転停止条件の成立から1.8秒後という条件を設けている。これにより、制御装置40は、3m/min検知という条件と、1.8秒経過という条件とのいずれか一方が成立したときに、ブレーキ締結信号をブレーキ21に出力して、ブレーキ21の締結を行わせる。これにより、駆動速度が、1.8秒以内に3m/minに低下しなかったときは、1.8秒経過時にブレーキ21が締結されることとなる。そのため、駆動速度の低下が想定よりも遅くなった場合でも、適切にブレーキ21の締結を行わせて、踏段11の停止距離が450mmを大きく超えるのを抑制できる。
【0076】
(2)停電時
停電時に関しては、
図9で示したようにブレーキ締結タイミング(第1タイミング)として16m/minまたは3m/min検知が設定されているが、さらに、安全増しのためのブレーキ締結タイミング(第2タイミング)として、
図21に示すように、停電検知から1.8秒後という条件を設けている。これにより、制御装置40は、16m/minまたは3m/min検知という条件と、1.8秒経過という条件とのいずれか一方が成立したときに、ブレーキ締結信号をブレーキ21に出力して、ブレーキ21の締結を行わせる。これにより、駆動速度が、1.8秒以内に16m/minまたは3m/minに低下しなかったときは、1.8秒経過時にブレーキ21が締結されることとなる。そのため、駆動速度の低下が想定よりも遅くなった場合でも、適切にブレーキ21の締結を行わせて、踏段11の停止距離が450mmを大きく超えるのを抑制できる。
【0077】
(3)インバータ故障時
インバータ故障時に関しては、
図9で示したようにブレーキ締結タイミング(第1タイミング)として16m/min検知または3m/min検知が設定されているが、さらに、安全増しのためのブレーキ締結タイミング(第2タイミング)として、
図21に示すように、インバータ故障の検知から1.2秒後または0.7秒後という条件を設けている。これにより、第1タイミングとして16m/min検知が条件となっている場合には、制御装置40は、16m/min検知という条件と、1.2秒経過という条件とのいずれか一方が成立したときに、ブレーキ締結信号をブレーキ21に出力して、ブレーキ21の締結を行わせる。これにより、駆動速度が、1.2秒以内に16m/minに低下しなかったときは、1.2秒経過時にブレーキ21が締結されることとなる。そのため、駆動速度の低下が想定よりも遅くなった場合でも、適切にブレーキ21の締結を行わせて、踏段11の停止距離が450mmを大きく超えるのを抑制できる。また、第1タイミングとして0.7m/min検知が条件となっている場合には、制御装置40は、3m/min検知という条件と、0.7秒経過という条件とのいずれか一方が成立したときに、ブレーキ締結信号をブレーキ21に出力して、ブレーキ21の締結を行わせる。これにより、駆動速度が、0.7秒以内に3m/minに低下しなかったときは、0.7秒経過時にブレーキ21が締結されることとなる。そのため、駆動速度の低下が想定よりも遅くなった場合でも、適切にブレーキ21の締結を行わせて、踏段11の停止距離が450mmを大きく超えるのを抑制できる。
【0078】
2.2.2 増速検知時または逆転検知時の安全増し
上述したソフトストップ制御では、踏段11の移動速度が所定の速度に低下したときにブレーキ21の締結を行わせる場合がある。しかし、DOWN運転中において乗客が非常に多い場合には、踏段11の速度が所定の速度に低下する前に増速に転じる虞がある。また、UP運転中において乗客が非常に多い場合には、ブレーキ21の微小な締結遅れが生じただけでも、UP方向からDOWN方向に運転方向が逆転する虞がある。これに対処するため、本実施の形態では以下の構成を採用している。
【0079】
図22は、実施の形態1におけるエスカレータ1の異常発生時における運転停止制御を説明した図である。
【0080】
(1)減速開始後に増速検知時
制御装置40は、踏段11の停止に向けて踏段11が減速中に、速度/方向検出装置110からの信号P1、P2に基づいて踏段11の駆動速度が増速し始めたことを検知した場合、増速検知と同時にブレーキ締結信号をブレーキ21に出力して、ブレーキ21の締結を行わせる。これにより、例えばDOWN運転中において、減速開始後に増速が発生した場合でも、速やかに踏段11の駆動を停止させて、乗客の安全を適切に確保することができる。
【0081】
(2)逆転検知時
制御装置40は、踏段11の停止に向けて踏段11が駆動されているときに、速度/方向検出装置110からの信号P1、P2に基づいて踏段11の移動方向が逆転したことを検知した場合、逆転検知と同時にブレーキ締結信号をブレーキ21に出力して、ブレーキ21の締結を行わせる。これにより、例えばUP運転中において、減速開始後に踏段11の移動方向がDOWN方向に逆転した場合でも、速やかに踏段11の駆動を停止させて、乗客の安全を適切に確保することができる。
【0082】
(実施の形態についてのまとめ)
1.停電時、インバータ故障時などのソフトストップ制御
(1)実施の形態1のエスカレータ1(乗客コンベアの一例)は、
無端状に連結された踏段11と、
踏段11を駆動するモータ20と、
外部から電力を入力し、モータ20に駆動用の電力を供給するインバータ30と、
モータ20の駆動軸の回転を機械的に停止させるブレーキ21と、
ブレーキ21の作動を制御する制御装置40と、を備え、
制御装置40は、踏段11の駆動中に停電またはインバータ30の故障を検知すると、踏段11の駆動方向と、インバータ30の出力電流値に基づいて推定される乗込率とに応じたタイミングで、ブレーキ21を作動させる。
【0083】
この構成によれば、踏段11の駆動中に停電またはインバータ30の故障を検知すると、踏段11の駆動方向と、インバータ30の出力電流値に基づいて推定される乗込率とに応じたタイミングで、ブレーキ21が作動される。そのため、踏段11の駆動中に停電またはインバータ30の故障が発生した場合に、踏段11を滑らかにかつ適切な距離で停止させることができる。
【0084】
(2)実施の形態1のエスカレータ1において、
踏段11の駆動速度を検出する速度/方向検出装置110(速度検出装置の一例)をさらに備え、
制御装置40は、
踏段11をUP方向(上昇方向)に駆動中に停電を検知した際に、乗込率が第1所定乗込率(例えば10%)以下であるときは、停電検知から第1所定時間(例えば0.5秒)後にブレーキ21を作動させ、
踏段11をUP方向に駆動中に停電を検知した際に、乗込率が第1所定乗込率よりも大きく、かつ第1所定乗込率よりも大きい第2所定乗込率(例えば46.5%)以下であるときは、踏段11の駆動速度が定格速度(例えば30m/min)から第1所定速度(例えば16m/min)に低下したときにブレーキ21を作動させ、
踏段11をUP方向に駆動中に停電を検知した際に、乗込率が第2所定乗込率よりも大きいときは、踏段11の駆動速度が定格速度から第1所定速度以下の第2所定速度(例えば3m/min)に低下したときにブレーキ21を作動させる。
【0085】
この構成によれば、踏段11をUP方向に駆動中に停電を検知した際に、乗込率に応じて、踏段11を滑らかにかつ適切な距離で停止させることができる。
【0086】
(3)実施の形態1のエスカレータ1は、
踏段11の駆動速度を検出する速度/方向検出装置110(速度検出装置の一例)をさらに備え、
制御装置40は、
踏段11をDOWN方向(下降方向)に駆動中に停電を検知した場合、モータ20の回生電力を利用して踏段11の駆動速度を所定時間(例えば1.6秒)で所定速度(例えば0m/min)に低下させるように、インバータ30にモータ20の駆動を制御させ、
踏段11の駆動速度が定格速度(例えば30m/min)から第3所定速度(例えば3m/min)に低下したときにブレーキ21を作動させる。
【0087】
この構成によれば、踏段11をDOWN方向に駆動中に停電を検知した場合に、モータ20の回生電力を利用して踏段11を滑らかにかつ適切な距離で停止させることができる。
【0088】
(4)実施の形態1のエスカレータ1において、
制御装置40は、回生電力の不足が発生した場合、停電検知から第1所定時間後にブレーキ21を作動させる。
【0089】
この構成によれば、回生電力の不足が発生した場合でも、踏段11を滑らかにかつ適切な距離で停止させることができる。
【0090】
(5)実施の形態1のエスカレータ1は、
踏段11の駆動速度を検出する速度/方向検出装置110(速度検出装置の一例)をさらに備え、
制御装置40は、
踏段11をUP方向に駆動中にインバータ30の故障を検知した際に、乗込率が第1所定乗込率(例えば10%)以下であるときは、故障検知から第1所定時間(例えば0.5秒)後にブレーキ21を作動させ、
踏段11をUP方向に駆動中にインバータ30の故障を検知した際に、乗込率が第1所定乗込率よりも大きく、かつ第1所定乗込率よりも大きい第2所定乗込率(例えば46.5%)以下であるときは、踏段11の駆動速度が定格速度(例えば30m/min)から第1所定速度(例えば16m/min)に低下したときにブレーキ21を作動させ、
踏段11をUP方向に駆動中にインバータ30の故障を検知した際に、乗込率が第2所定乗込率よりも大きいときは、踏段11の駆動速度が定格速度から第1所定速度以下の第2所定速度(例えば3m/min)に低下したときにブレーキ21を作動させる。
【0091】
この構成によれば、踏段11をUP方向に駆動中にインバータ30の故障を検知した際に、乗込率に応じて、踏段11を滑らかにかつ適切な距離で停止させることができる。
【0092】
(6)実施の形態1のエスカレータ1において、
制御装置40は、
踏段11をDOWN方向に駆動中にインバータ30の故障を検知した際に、乗込率が第1所定乗込率(例えば10%)以下であるときは、故障検知から第1所定時間(例えば0.5秒)後にブレーキ21を作動させ、
踏段11をDOWN方向に駆動中にインバータ30の故障を検知した際に、乗込率が第1所定乗込率よりも大きいときは、故障検知と同時にブレーキ21を作動させる。
【0093】
この構成によれば、踏段11をUP方向に駆動中にインバータ30の故障を検知した際に、乗込率に応じて、踏段11を滑らかにかつ適切な距離で停止させることができる。
【0094】
(7)実施の形態1のエスカレータ1において、
乗込率が第1所定乗込率(例えば10%)以下であることは、エスカレータ利用状態(乗客コンベアの利用状態)が閑散状態にあることを示す。
【0095】
この構成によれば、エスカレータ利用状態が閑散状態にある中で停電またはインバータ30の故障が発生した際に、踏段11を滑らかにかつ適切な距離で停止させることができる。
【0096】
(8)実施の形態1のエスカレータ1において、
乗込率が第1所定乗込率(例えば10%)よりも大きく、かつ第1所定乗込率よりも大きい第2所定乗込率(例えば46.5%)以下であることは、エスカレータ利用状態(乗客コンベアの利用状態)が閑散状態よりも乗客が多い普通状態にあることを示す。
【0097】
この構成によれば、エスカレータ利用状態が普通状態にある中で停電またはインバータ30の故障が発生した際に、踏段11を滑らかにかつ適切な距離で停止させることができる。
【0098】
(9)実施の形態1のエスカレータ1において、
乗込率が第2所定乗込率(例えば46.5%)よりも大きいことは、エスカレータ利用状態(乗客コンベアの利用状態)が混雑状態または過負荷状態にあることを示す。
【0099】
この構成によれば、エスカレータ利用状態が混雑状態にある中で停電またはインバータ30の故障が発生した際に、踏段11を滑らかにかつ適切な距離で停止させることができる。
【0100】
2.ソフトストップ制御の安全増し
(1)実施の形態1のエスカレータ1(乗客コンベアの一例)は、
無端状に連結された踏段11と、
踏段11を駆動するモータ20と、
モータ20の駆動軸の回転を機械的に停止させるブレーキ21と、
踏段11の駆動速度を検出するための速度/方向検出装置110(速度検出装置の一例)と、
ブレーキ21の作動を制御する制御装置40と、を備え、
制御装置40は、
踏段11の駆動を停止させる所定条件が成立して踏段11の駆動速度を低下させる際、踏段11の駆動速度と、所定条件の成立からの経過時間とを監視し、
踏段11の駆動速度が所定速度(例えば16m/minまたは3m/min)まで低下した第1タイミングと、所定条件の成立から所定時間(1.2秒または0.7秒)が経過した第2タイミングと、のうち先に成立したほうのタイミングでブレーキ21を作動させる。
【0101】
この構成によれば、踏段11の駆動速度を低下させる際、踏段11の駆動速度が所定速度まで低下した第1タイミングと、所定条件の成立から所定時間が経過した第2タイミングと、のうち先に成立したほうのタイミングでブレーキ21が作動される。そのため、駆動速度の低下が遅れた場合でも、所定時間が経過すると必ずブレーキ21が作動する。そのため、踏段11を緩やかに停止させるように構成した場合でも、適切な距離で踏段11を停止させることができる。
【0102】
(2)実施の形態1のエスカレータ1において、
制御装置40は、所定条件が成立して踏段11の駆動速度を低下させる途中で、踏段11の駆動速度が低下から上昇に転じた場合、即時にブレーキ21を作動させる。
【0103】
この構成によれば、所定条件が成立して踏段11の駆動速度を低下させる途中で、踏段11の駆動速度が低下から上昇に転じた場合において、踏段11を確実に停止させることができる。
【0104】
(3)実施の形態1のエスカレータ1において、
踏段11の移動方向を検出する速度/方向検出装置110(移動方向検出装置の一例)をさらに備え、
制御装置40は、踏段11の駆動中に、踏段11の移動方向が逆転した場合、即時にブレーキ21を作動させる。
【0105】
この構成によれば、踏段11の駆動中に、踏段11の移動方向が逆転した場合、即時にブレーキ21が作動される。そのため、踏段11を確実に停止させることができる。
【0106】
(4)実施の形態1のエスカレータ1において、
外部から電力を入力し、モータ20に駆動用の電力を供給するインバータ30をさらに備え、
制御装置40は、踏段11の駆動方向と、インバータ30の出力電流値に基づいて推定される乗込率とに応じて、第1タイミング及び第2タイミングを設定する。
【0107】
この構成によれば、踏段11の駆動方向と、インバータ30の出力電流値に基づいて推定される乗込率とに応じて適切に第1タイミング及び第2タイミングが設定される。
【0108】
(5)実施の形態1のエスカレータ1において、
所定条件は、踏段11のUP方向(上昇方向)への駆動中に停電が発生し、停電発生時における乗込率が所定乗込率よりも大きいことである。
【0109】
この構成によれば、踏段11のUP方向への駆動中に停電が発生し、停電発生時における乗込率が所定乗込率よりも大きい場合において、第1タイミングと第2タイミングとのうち先に成立したほうのタイミングでブレーキ21が作動される。
【0110】
(6)実施の形態1のエスカレータ1において、
所定条件は、踏段11のDOWN方向(下降方向)への駆動中に停電が発生したことである。
【0111】
この構成によれば、踏段11のDOWN方向への駆動中に停電が発生した場合において、第1タイミングと第2タイミングとのうち先に成立したほうのタイミングでブレーキ21が作動される。
【0112】
(7)実施の形態1のエスカレータ1において、
所定条件は、踏段11のUP方向への駆動中にインバータ30の故障が発生し、かつ故障発生時における乗込率が所定乗込率(例えば10%)よりも大きいことである。
【0113】
この構成によれば、踏段11のUP方向への駆動中にインバータ30の故障が発生し、かつ故障発生時における乗込率が所定乗込率よりも大きい場合において、第1タイミングと第2タイミングとのうち先に成立したほうのタイミングでブレーキ21が作動される。
【0114】
3.センサレスでの乗込率の推定
(1)実施の形態1のエスカレータ1(乗客コンベアの一例)は、
無端状に連結された踏段11と、
踏段11を駆動するモータ20と、
外部から電力を入力し、モータ20に駆動用の電力を供給するインバータ30と、
制御装置40と、を備え、
インバータ30は、
モータ20の出力電流値に基づいてモータ20の現在の出力トルクを推定し、
推定された出力トルクが属するトルク範囲を示す信号を出力し、
制御装置40は、インバータ30から出力される信号が示すトルク範囲に基づいて、当該エスカレータ1の現在の乗込率が属する乗込率範囲を推定する。
【0115】
この構成によれば、インバータ30から、モータ20に供給中の電力の電流値に基づいて推定された現在の出力トルクが属するトルク範囲を示す信号に基づいて、当該エスカレータ1の現在の乗込率が属する乗込率範囲、つまり当該エスカレータ1の現在の混雑程度を精度よく推定することができる。したがって、乗客量を検出するセンサを設けることなく、コンベアの現在の混雑程度を精度よく推定することができる。
【0116】
(2)実施の形態1のエスカレータ1において、
乗込率範囲は、乗客が少ない閑散状態を示す範囲(例えば10%以下の範囲)と、閑散状態よりも乗客が多い普通状態を示す範囲(例えば10%よりも大きく46.5%以下の範囲)と、普通状態よりも乗客が多い混雑状態を示す範囲(例えば46.5%よりも大きく80%以下の範囲)と、混雑状態よりも乗客が多い過負荷状態を示す範囲(例えば80%よりも大きい範囲)とに区分される。
【0117】
この構成によれば、エスカレータ1が、閑散状態、普通状態、混雑状態、過負荷状態のうちのいずれの状態にあるかを推定することができる。
【0118】
(その他の実施の形態)
(A)
上記の実施の形態では、エスカレータの運転速度(踏段11の駆動速度)が、30m/min(一般的な定格速度)である場合について説明した。しかし、本発明ではこれに限られない。本発明は、エスカレータの運転速度(踏段11の駆動速度)が20m/min(遅めの定格速度)の場合にも適用可能である。この場合、ブレーキ21の締結タイミングについては、
図23に示すように、20m/minに適したタイミングとすればよい。なお、
図23において、30m/minの場合と相違する部分に網がけを施している。なお、
図21を用いて説明した安全増しのためのブレーキ締結タイミング(第2タイミング)についてはそのまま適用できる。
【0119】
(B)
上記の実施の形態では、制御装置40は、記憶部42に格納されている制御内容テーブルを参照して、エスカレータ1の運転方向や乗込率に応じたソフトストップ制御を行う。しかし、本発明においては、ソフトストップ制御は、例えば、上記制御内容テーブルに記載された内容を、フローチャートに沿って運転方向や乗込率に応じて場合分けしながら実行するようにしてもよい。
【0120】
(C)
上記の実施の形態では、速度及び運転方向の検出を速度/方向検出装置110により行う。しかし、本発明では、速度及び運転方向の検出を、公知の速度検出装置や運転方向検出装置により行ってもよい。