特許第6954435号(P6954435)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6954435
(24)【登録日】2021年10月4日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】ワッシャ付ネジ
(51)【国際特許分類】
   F16B 43/00 20060101AFI20211018BHJP
   F16B 35/00 20060101ALI20211018BHJP
【FI】
   F16B43/00 Z
   F16B35/00 K
   F16B35/00 X
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2020-175768(P2020-175768)
(22)【出願日】2020年10月20日
(62)【分割の表示】特願2016-163686(P2016-163686)の分割
【原出願日】2016年8月24日
(65)【公開番号】特開2021-11952(P2021-11952A)
(43)【公開日】2021年2月4日
【審査請求日】2020年10月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 祐也
(72)【発明者】
【氏名】岩田 秀一
(72)【発明者】
【氏名】浅田 順
(72)【発明者】
【氏名】藤原 武
(72)【発明者】
【氏名】井口 智史
(72)【発明者】
【氏名】高松 啓三
(72)【発明者】
【氏名】内山 秀俊
【審査官】 杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5853997(JP,B2)
【文献】 特開2009−052679(JP,A)
【文献】 特開平06−307423(JP,A)
【文献】 実開昭57−132811(JP,U)
【文献】 特開2010−138726(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 43/00
F16B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネジ溝が形成されている軸部と頭部との間に円筒部が設けられているネジ本体と、
前記頭部に隣接するように前記円筒部に挿通されている金属ワッシャと、
前記円筒部に挿通されており、前記金属ワッシャの軸部側に位置するゴムワッシャと、
記頭部の座面に設けられており、外周へいくほど前記金属ワッシャから離れるように傾斜している傾斜面と、を備えており、
前記ネジ本体の軸線に直交する平面と前記傾斜面との角度が5度から10度の間である、ワッシャ付ネジ。
【請求項2】
前記座面は、前記ネジ本体の軸線に直交する平坦面と、前記平坦面の外周側に続く前記傾斜面とを備えている、請求項1に記載のワッシャ付ネジ。
【請求項3】
前記座面は、前記頭部に設けられたフランジの前記軸部側のフランジ面である、請求項2に記載のワッシャ付ネジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、金属ワッシャとゴムワッシャが付いたネジを開示する。本明細書における「ネジ」には、頭部が多角形のボルトが含まれる。
【背景技術】
【0002】
回路基板を固定するのに、金属ワッシャとゴムワッシャを伴うネジが用いられることがある(例えば、特許文献1)。金属ワッシャは、ネジ本体の頭部に隣接するように軸部に挿通されており、さらにゴムワッシャが軸部に挿通されている。特許文献1のワッシャ付ネジは、ゴムワッシャの弾性力で回路基板を押さえ付ける。回路基板の熱変形も、ゴムワッシャの弾性力で吸収することができる。特許文献1のワッシャ付ネジは、ゴムワッシャの孔の内周面に、ネジ本体の軸部に接する突起が設けられており、金属ワッシャとゴムワッシャが脱落しないようになっている。金属ワッシャは、ネジ本体を締め付ける際のゴムワッシャの頭部側の反力を広い面積で受けるために備えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5853997号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属ワッシャが頭部の座面と触れるワッシャ付ネジでは、ワッシャ付ネジを締め付けるときに金属ワッシャと座面が摺動し、金属ワッシャ又は座面の表層がはがれる虞がある。特に、ネジ本体を固定対象物に締め付けている間、ゴムワッシャの反力で金属ワッシャが座面と強く摺動する。金属ワッシャと座面の少なくとも一方にメッキが施されている場合、摺動によりメッキがはがれて異物となるおそれがある。回路基板を固定するワッシャ付ネジの場合、剥離したメッキ(異物)は回路基板上で短絡を生じさせるおそれがある。本明細書が開示する技術は、異物が発生し難いワッシャ付ネジを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示するワッシャ付ネジのネジ本体には、ネジ溝が形成されている軸部と頭部との間に円筒部が設けられている。金属ワッシャは、頭部に隣接するように円筒部に挿通されている。ゴムワッシャは、円筒部に挿通されており、金属ワッシャの軸部側に位置する。そして、頭部の座面が、外周へいくほど金属ワッシャから離れるように傾斜している傾斜面を備えている。すなわち、上記構造のワッシャ付ネジでは、ネジ本体の対象物への締め付け開始前は、金属ワッシャと座面の傾斜面との間に隙間ができる。隙間は、外周へいくほど大きくなる。発明者らの検討によると、金属ワッシャが変形しており、ネジ本体の締め付け開始直後から金属ワッシャと座面が偏って当接したまま摺動すると、異物が生じ易いことが判明した。先に述べたように、ゴムワッシャの反力も、座面と金属ワッシャの強い摺動をもたらし、異物を発生し易くしてしまう。上記したワッシャ付ネジでは、ネジ本体の締め付け開始初期に座面と金属ワッシャとの偏った摺動が低減され、異物発生の可能性を低減することができる。また、ネジ締め付けの際、外周へいくほど金属ワッシャと座面の相対速度が大きくなり、異物発生の可能性が高まる。上記のワッシャ付ネジでは、外周へいくほど、金属ワッシャと座面との隙間が大きくなるので、相対速度の増加に伴う異物発生の可能性の増大を相殺する。
【0006】
座面は、ネジ本体の軸線に直交する平坦面と、平坦面の外周側に続く傾斜面とを備えているとよい。内周ほど、金属ワッシャと座面の相対速度は小さくなり、異物発生の可能性は小さい。傾斜面の内周側に、軸線に直交する平坦面を設けることで、金属ワッシャの外周側が座面と強く摺動する前に、金属ワッシャの座面対向面をネジ本体の軸線に対して直交にすることができる。このことは、金属ワッシャと座面の特に外周側における局所的な摺動を低減するのに寄与する。
【0007】
ネジ本体の頭部にフランジが設けられている場合がある。その場合、そのフランジの軸部側のフランジ面が、頭部の座面に相当する。フランジを備えることで、頭部と金属ワッシャの当接面の面積を大きくすることができる。このことは、金属ワッシャと座面が当接したときの面圧を小さくする。面圧が小さくなれば、異物発生の可能性も小さくなる。
【0008】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ネジ軸線に沿ってカットしたワッシャ付ネジの断面図である。
図2】ワッシャ付ネジの分解断面図である。
図3図2の符号IIIが示す破線矩形内の図の拡大図である。
図4】傾斜面の変形例を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照して実施例のワッシャ付ネジ2を説明する。図1に、ネジ軸線CL(中心線CL)に沿ってカットしたワッシャ付ネジ2の断面図を示す。図2に、ワッシャ付ネジ2の分解断面図を示す。図3は、図2において符号IIIが示す破線矩形の内部の拡大図である。
【0011】
ワッシャ付ネジ2は、ネジ本体10と、金属ワッシャ20と、ゴムワッシャ30を備えている。ネジ本体10は、頭部12と、円筒部14と、ネジ溝が形成されている軸部15で構成されている。金属ワッシャ20は、平ワッシャであり、例えば鉄で作られている。
【0012】
円筒部14は、頭部12と軸部15の間に設けられている。円筒部14の直径は、フランジ13の直径よりも小さく、しかし、軸部15の直径よりも大きい。この円筒部14に、金属ワッシャ20とゴムワッシャ30が挿通される。金属ワッシャ20が頭部側に位置し、ゴムワッシャ30が軸部側に位置する。
【0013】
ネジ本体10の頭部12には、ドライバが嵌合する溝16と、フランジ13が設けられている。フランジ13の軸部側のフランジ面は、ネジ本体10の座面19に相当する。この座面19(フランジ面)は、ワッシャ付ネジ2を対象物に締め付けたとき、金属ワッシャ20を通じて加わるゴムワッシャ30の頭部側の反力を受ける。広い座面19(フランジ面)でゴムワッシャ30の反力を受けることで、金属ワッシャ20の変形が抑えられる。
【0014】
図1図2では、座面19は平坦に描かれているが、座面19は、軸線CLに直交する平坦面と、平坦面の外側に続く傾斜面を有している。座面19の平坦面と傾斜面は、図3を参照して後述する。
【0015】
円筒部14には、その周を一巡する溝18が設けられている。溝18にゴムワッシャ30の内側のリブ30aが嵌合する。ゴムワッシャ30が円筒部14の溝18に嵌合することで、ゴムワッシャ30のネジ本体10から脱落が防止される。ゴムワッシャ30が円筒部14に係止されることで、金属ワッシャ20も脱落しない。
【0016】
図3に示されているように、ネジ本体10の座面19は、円筒部14に近い側の平坦面19aと、平坦面19aの外側に続く傾斜面19bを備えている。平坦面19aは、先に述べたように、ネジ本体10の軸線CLと直交する平面である。傾斜面19bは、軸線側から外周にいくにつれて金属ワッシャ20から離れるように傾斜している。
【0017】
傾斜面19bの利点を述べる。ワッシャ付ネジ2は、対象物に締め付ける際、金属ワッシャ20と座面19が摺動する。ワッシャ付ネジ2は、ゴムワッシャ30を備えているため、ゴムワッシャ30の反力が金属ワッシャ20を座面19に押し付ける。それゆえ、金属ワッシャ20は座面19と強く摺動する。金属ワッシャ20が反っていたり、表面にかすかな凹凸が存在すると、金属ワッシャ20と座面19が局所的に強く摺動する。そうすると、金属ワッシャ20と座面19のいずれかの表層が剥離するおそれがある。特に、金属ワッシャ20と座面19の少なくとも一方の表面にメッキが施されていると、メッキが剥離するおそれがある。ワッシャ付ネジ2が回路基板の固定に用いられる場合、金属ワッシャ20又は座面19から剥離したメッキ片等の異物は、回路基板に悪影響を及ぼす可能性がある。座面19の傾斜面19bは、金属ワッシャ20と座面19の局所的な摺動を低減し、異物の発生を抑制する効果がある。
【0018】
金属ワッシャ20と座面19の相対速度は、座面19の外周ほど大きい。また、金属ワッシャ20が反っていた場合に、金属ワッシャ20の面外変形の大きさも、外周ほど大きい。相対速度が大きいほど、あるいは、金属ワッシャ20の面外変形が大きいほど、異物発生の可能性が高くなる。傾斜面19bは、外周へいくほど金属ワッシャ20との間の隙間が大きくなるので、相対速度の増加あるいは面外変形に伴う異物発生の可能性の増大を相殺する効果がある。
【0019】
傾斜面19bの内周側に設けた平坦面19aも、異物発生の防止に貢献する。ワッシャ付ネジ2を対象物に締め付けていくと、傾斜面19bが金属ワッシャ20と強く摺動する前に、平坦面19aが金属ワッシャ20と接触する。金属ワッシャ20の表面の内周側が平坦面19aと接触すると、金属ワッシャ20の姿勢が、ネジ軸線CLに対して直交する方向に整えられる。また、金属ワッシャ20の内周側が平坦面19aに押されると、金属ワッシャ20の面外変形が矯正される。このことによって、相対速度の大きい外周側で金属ワッシャ20と傾斜面19bとの局所的な摺動が抑えられる。また、内周側は、金属ワッシャ20の面外変形の大きさが外周側よりも小さい。面外変形の小さい内周側で先に金属ワッシャ20と平坦面19aが摺動しても、外周側と比較すると、異物発生の可能性は小さい。そして、ネジ本体10を締め付けていくうちに、ゴムワッシャ30の反力が内周側の平坦面19aと金属ワッシャ20の間の静止摩擦係数を超えると、金属ワッシャ20と座面19(ネジ本体10)は一緒に回転するようになり、外周側での相対速度がゼロになる。そうすると、異物発生はほぼ抑えられる。
【0020】
軸線CLの直交方向に対する傾斜面19bの傾斜角Angは、5度から10度の間が好ましい。ただし、傾斜角Angは、ゴムワッシャ30の反力の大きさや、傾斜面19bの面積などを勘案して定められる。
【0021】
平坦面19aの外縁(即ち、図3の符号Pが示す箇所)は、ネジ本体10を固定対象物に締め付ける際、金属ワッシャ20に対して(即ちゴムワッシャ30に対して)十分に荷重を加えられるように定められる。より詳しくは、平坦面19aの外縁の位置は、傾斜面19bが金属ワッシャ20と強く摺動する前に、金属ワッシャ20に対して(即ちゴムワッシャ30に対して)十分に荷重を加えられるように定められる。
【0022】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。平坦面19aと傾斜面19bの境界(図3の符号Pが示す箇所)は、鋭く変化していてもよいし、丸みを帯びていてもよい。丸みを帯びている方が、異物発生防止には好適である。
【0023】
図3に示したように、ネジ本体10の座面19には、傾斜面19bの内側に平坦面19aを備えている。上記したように、平坦面19aにも、異物発生を抑制する効果が期待できるが、平坦面19aを設けず、座面19の全体が傾斜面になっていてもよい。座面全体が傾斜面になっている変形例を図4に示す。図4の例では、ネジ本体110の座面119(フランジ113の円筒部14の側のフランジ面)の全体が、外周へいくほど金属ワッシャから離れるように傾斜している傾斜面119bとなっている。
【0024】
実施例のワッシャ付ネジ2は、回路基板を固定するのに適している。ゴムワッシャ30が、その弾性力で回路基板を押さえ付けるので、回路基板を傷付けることなく、しっかりと回路基板を固定することができる。また、上記したように、金属ワッシャ20と座面19の摺動による異物発生を抑制することも、回路基板の固定に好適である。ただし、本明細書が開示するワッシャ付ネジは、回路基板を固定するものに限られない。
【0025】
また、実施例のワッシャ付ネジ2は、頭部にドライバ嵌合用の溝16を備えているタイプのネジである。本明細書における「ネジ」には、頭部が多角形のボルトを含む。即ち、本明細書が開示する技術は、ボルトに適用することも好適である。
【0026】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0027】
2:ワッシャ付ネジ
10、110:ネジ本体
12:頭部
13、113:フランジ
14:円筒部
15:軸部
16:溝
18:溝
19、119:座面
19a:平坦面
19b、119b:傾斜面
20:金属ワッシャ
30:ゴムワッシャ
CL:ネジ軸線
図1
図2
図3
図4