(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の巻線のうち各巻線は個別の巻線であり、前記個別の巻線はそれぞれ一つの巻線開口を有し、前記複数の巻線は、互いに隣接する個別の巻線の巻線開口同士が重ならない位置に配列される、
請求項1から6のいずれかに記載のスイッチング電源装置。
前記多層プリント基板は、複数の基材層を構成するビルドアップ工法を用いて、前記複数の基材層に形成された前記導体パターンを電気的に接続して前記複数の巻線を構成する、請求項1から8のいずれかに記載のスイッチング電源装置。
前記多層プリント基板を構成する前記複数の基材層のうち、最下層と表層とで挟まれる中間層に形成される前記複数の巻線を構成する前記導体パターンは、2種の導体パターンで構成され、前記2種の導体パターンは積層方向に交互に配置される、
請求項9に記載のスイッチング電源装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
《第1の実施形態》
図1(A)は第1の実施形態に係るスイッチング電源装置が備える平面アレイ巻線101の斜視図である。
図1(B)はその分解斜視図である。
【0013】
平面アレイ巻線101は多層プリント基板10と磁性体シート11,12とを備える。
【0014】
多層プリント基板10には複数の巻線が面に沿って配列されていて、このことで、多層プリント基板10に平面アレイ巻線が構成されている。これら巻線には、後に示すとおり、互いに異なる位相でスイッチングを行う複数のスイッチング回路部を有する電力変換回路に接続される。
【0015】
図1(A)に示すように、多層プリント基板10は、長手方向(X軸方向)と短手方向(Y軸方向)を有する平板状である。巻線L1,L2,L3は、多層プリント基板10の長手方向に沿って配列される。巻線L1,L2,L3が形成された領域は、多層プリント基板10の平板領域に沿って形成されると共に、磁性体シート11,12と互いに平行に形成される。これにより、巻線L1,L2,L3の導体パターンは、磁性体シート11、12までの距離が略同一となり、各導体パターンで形成される磁路の大きさを略同一に構成されている。
【0016】
図1(A)に示すように、多層プリント基板10の上面には磁性体シート11が重ねられ、多層プリント基板10の下面には磁性体シート12が重ねられる。磁性体シート11,12、は軟磁性体からなる磁性体材料を含む部材がシート状に成形されたものである。この磁性体シート11,12は巻線開口を抜ける磁束の磁路として作用する。また、磁気シールド層として作用する。磁性体シート11,12の材料及び構成については後に示す。
【0017】
図2は多層プリント基板10に形成された巻線のパターンについて示す斜視図である。
図3(A)は、この平面アレイ巻線101の各巻線に流れる電流と、生じる磁束の様子を示す斜視図であり、
図3(B)はその断面図である。
図3(A)では磁性体シート11,12の図示を省略している。また、
図3(B)では多層プリント基板10の図示を省略し、且つ導体パターンを一層にまとめて表している。
【0018】
本実施形態の平面アレイ巻線101の多層プリント基板10には複数の巻線L1,L2,L3が形成されている。これら巻線L1,L2,L3のそれぞれの第1端P1は、電力変換回路のスイッチング回路部に接続され、第2端P2は共通の出力部に接続される。各巻線の詳細な構造と電力変換回路については後に示す。
【0019】
巻線L1,L2,L3は、多層プリント基板10に形成された導体パターンで構成され、かつ多層プリント基板10の面に沿って配列されている。
【0020】
また、巻線L1は二つの巻線部L1a,L1bを備え、巻線L2は二つの巻線部L2a,L2bを備え、巻線L3は二つの巻線部L3a,L3bを備える。巻線部L1aは巻線L1の中央導体パターン1と環状導体パターン2とで構成され、巻線部L1bは巻線L1の中央導体パターン1と環状導体パターン3とで構成される。同様に、巻線部L2aは巻線L2の中央導体パターン1と環状導体パターン2とで構成され、巻線部L2bは巻線L2の中央導体パターン1と環状導体パターン3とで構成される。さらに、巻線部L3aは巻線L3の中央導体パターン1と環状導体パターン2とで構成され、巻線部L3bは巻線L3の中央導体パターン1と環状導体パターン3とで構成される。隣接する巻線の巻線開口同士は重ならない位置に配置されている。
【0021】
巻線L1の導体パターン1,2,3は、多層プリント基板10の短手方向(Y軸方向)に沿って延びるように形成されると共に、多層プリント基板10の長手方向(X軸方向)に沿ってそれぞれ配置される。同様に、巻線L2の導体パターン1,2,3は、多層プリント基板10の短手方向(Y軸方向)に沿って延びるように形成されると共に、多層プリント基板10の長手方向(X軸方向)に沿ってそれぞれ配置される。さらに、巻線L3の導体パターン1,2,3は、多層プリント基板10の短手方向(Y軸方向)に沿って延びるように形成されると共に、多層プリント基板10の長手方向(X軸方向)に沿ってそれぞれ配置される。
【0022】
図2に示した各部のサイズ等は例えば次のとおりである。
【0023】
[導体パターン]
厚さ:0.07mm
巻線部の幅CW:10 mm
巻線部の長さCL:14 mm
巻線全体の幅AW:36mm
片方の巻線部同士の間隔D:2mm
巻線部の開口幅W:3.3mm
[磁性体シート]
比透磁率μ’:1000
厚さMT:20μm
図3(A)中の直線の矢印、
図3(B)中のドット記号及びクロス記号は、或る位相(タイミング)における各巻線部に流れる電流の方向を示している。つまり、巻線L1の二つの巻線部L1a,L1bには、旋回方向が互いに逆の電流が流れる。同様に、巻線L2の二つの巻線部L2a,L2bには、旋回方向が互いに逆の電流が流れ、巻線L3の二つの巻線部L3a,L3bには、旋回方向が互いに逆の電流が流れる。
【0024】
また、巻線L1,L2,L3は、上記二つの巻線部のうち片方の巻線部同士が近接する状態で配列されている。具体的には、巻線L1の片方の巻線部L1bと巻線L2の片方の巻線部L2aとが近接し、巻線L2の片方の巻線部L2bと巻線L3の片方の巻線部L3aとが近接している。
【0025】
そして、スイッチング回路の動作により、近接する巻線部のうち並走する部分に流れる電流が同方向になるように、巻線L1,L2,L3が互いに接続されている。
図3(A)に矢印で示す例では、近接する巻線部のうちY軸方向に並走する部分に同方向の電流が流れる。
【0026】
図3(B)に示すように、巻線部の導体パターン1,2,3の周囲に生じる磁束は磁性体シート11,12を、その面方向に沿って通る。つまり、磁性体シート11,12は各巻線の近接位置がそれら巻線の磁路としてそれぞれ作用する。また、磁性体シート11,12は各巻線の巻線開口を通過する磁束を磁性体シート11,12内に閉じ込めるので、磁性体シート11,12は磁気シールド層として作用する。巻線部の導体パターンに電流が流れることにより周囲に発生する磁束による磁束密度を考慮して、巻線部の開口幅Wと磁性体シートの比透磁率μ’と磁性体シートの厚さMTの寸法関係により、磁性体シートの厚さMTは、MT ≧ W /(2μ’)の関係を満たすことが好ましい。例えば、磁性体シートの薄型化を図るには、磁性体シートの厚さMTは、W /(2μ’)に設定される。
【0027】
なお、本実施形態の平面アレイ巻線101では、近接する巻線部を共に鎖交する磁束φmが生じても、その磁束φmによって、上記近接する二つの巻線部に流れる電流は相殺されない。つまり、近接する二つの巻線部同士が磁束を介して磁気結合をしても悪影響を及ぼさない。そのため、隣接する巻線同士の間隔を小さくでき、そのことでアレイ巻線を小形化できる。
図2に示した例では、巻線L1,L2,L3のうち、片方の巻線部同士の間隔Dは、当該間隔Dの方向での巻線部の開口幅Wより小さい。
【0028】
図4は、本実施形態の平面アレイ巻線101のうち、一つの巻線の構造を示す分解平面図である。これはビルドアップ工法でプリント基板を製造する場合の一例である。ここでは、多層プリント基板10の各層に形成された巻線導体パターンのみを表している。
図2に示した各巻線L1,L2,L3のいずれも同じ構成である。
【0029】
図4に表れているように、表層である第1層には中央導体パターン1aと二つの環状導体パターン2a,3aが形成されている。同様に、第2層には中央導体パターン1bと二つの環状導体パターン2b,3bが形成されていて、第3層には中央導体パターン1cと二つの環状導体パターン2c,3cが形成されていて、第4層には中央導体パターン1dと二つの環状導体パターン2d,3dが形成されていて、第5層には中央導体パターン1eと二つの環状導体パターン2e,3eが形成されている。そして、最下層である第6層には中央導体パターン1fと二つの環状導体パターン2f,3fが形成されている。中央導体パターン1a〜1fはいずれも直線状(線分状)であり、環状導体パターン2a〜2f,3a〜3fはいずれも1ターン未満の導体パターンである。
【0030】
ビルドアップ工法には以下の工程が含まれる。
【0031】
絶縁体層形成工程:銅箔付き絶縁体シート(RCC:Resin Coated Copper Foil)を重ね合わせるか、基板上で樹脂を被覆固化させて絶縁体層を形成する。
【0032】
ビア加工工程:基板を構成する1枚の絶縁体層にレーザー加工又はフォトリソグラフィによってビアを穿孔する。
【0033】
デスミア工程:ビア加工工程で発生した樹脂の残渣(スミア)を除去する。
【0034】
ビアめっき工程:絶縁体シートに開けられた穴の内面又は穴の内部全体に無電解めっき法や電気めっき法で導体を形成して配線層間を接続する。
【0035】
例えば、
図4に示す第3層と第4層は、両面銅箔付き絶縁体シート(コア層)のその両面に相当し、第1層、第2層は上記コア層の上面に積層された層であり、第5層、第6層は上記コア層の下面に積層された層である。
【0036】
第1層の環状導体パターン2a,3aの端部と第2層の中央導体パターン1bの端部は第2層のビアVを介して接続されている。また、第2層の環状導体パターン2b,3bの端部と第3層の中央導体パターン1cの端部は第3層のビアVを介して接続されている。同様に、第3層の環状導体パターン2c,3cの端部と第4層の中央導体パターン1dの端部は第4層のビアVを介して接続されていて、第4層の環状導体パターン2d,3dの端部と第5層の中央導体パターン1eの端部は第5層のビアVを介して接続されている。そして、第5層の環状導体パターン2e,3eの端部と第6層の中央導体パターン1fの端部は第6層のビアVを介して接続されている。
【0037】
巻線導体パターンが形成された複数の基材層のうち、最下層と表層とで挟まれる中間層(第2層から第5層)の巻線導体パターンは、2種の巻線導体パターンで構成され、この2種の巻線導体パターンが基材層の積層方向に交互に配置されている。
図4に示す例では、第2層と第4層に第1種の巻線導体パターンが形成されていて、第3層と第5層に第2種の巻線導体パターンが形成されている。
【0038】
第1層の中央導体パターン1aの端部は第1端P1として引き出されていて、第6層の環状導体パターン2f,3fの端部は接続されて第2端P2として引き出されている。
【0039】
図5は、
図4に示した各層の導体パターンを積層した状態を簡易的に表す斜視図である。各層の中央導体パターン1a〜1fの大部分は平面視で重なる。また、各層の一方の環状導体パターン2a〜2fの大部分は平面視で重なり、各層の他方の環状導体パターン3a〜3fの大部分は平面視で重なる。さらに、この例では、第1端P1と第2端P2も平面視で重なる。
【0040】
図4、
図5に示した導体パターンで巻線が構成されていることにより、第1端P1−第2端P2間に電圧が印加されることで、
図3(A)、
図3(B)に示した方向に電流が流れ、磁束が生じる。
【0041】
ここで、磁性体シート11,12の材料及び物性について例示する。
【0042】
図16は、13.56MHz帯に適した3つの磁性体材料の例について、複素比透磁率の周波数特性を示す図である。図中、μ’は複素比透磁率の実部、μ”は複素比透磁率の虚部である。これら3つの磁性体材料は、Ni-Zn-Cuフェライトの焼結体である。
図16において、A,B,Cで示す3つの磁性体材料は、13.56MHz帯において、μ’が110から130程度の高透磁率特性、μ”が1から3程度の低損失特性が得られている。
【0043】
図17は、100kHz帯に適した4つの磁性体材料の例について、複素比透磁率の周波数特性を示す図である。図中、μ’は複素比透磁率の実部、μ”は複素比透磁率の虚部である。これら4つの磁性体材料は、Ni-Zn-Cuフェライトの焼結体である。
図17において、D,E,F,Gで示す4つの磁性体材料は、100kHz帯において、μ’が140から660程度の高透磁率特性、μ”が1から3程度の低損失特性が得られている。
【0044】
スイッチング周波数が1MHz帯から10MHz帯の周波数である場合に、磁性体シート11,12の磁性体材料は、
図16に示したように、10MHz以上の周波数で比透磁率が最大となるNi-Zn-Cu 系の焼結フェライト材であることが好ましい。また、スイッチング周波数が100kHz帯から1MHz帯の周波数である場合に、磁性体シート11,12の磁性体材料は、
図17に示したように、1MHz以上の周波数で比透磁率が最大となるNi-Zn-Cu 系の焼結フェライト材であることが好ましい。
【0045】
図18は、100kHzから数100kHz帯に適した2つの磁性体材料の例について、比透磁率μ’の周波数特性を示す図である。
図18においてJ,Kで示す磁性体材料はシート状に成形されたCo系アモルファス金属である。磁性材料Jは、100kHzから数100kHz帯において、高透磁率特性が得られている。磁性材料Kは、1MHz以下の周波数帯において高透磁率特性が得られている。
【0046】
スイッチング周波数が10kHz帯から10MHz帯の周波数である場合に、磁性体シート11,12の磁性体材料は、
図18に示したように、Co系アモルファス金属であることが好ましい。
【0047】
磁性体シート11,12は、例えば0.05mm以上0.30mm以下の厚さを有する上記焼結体を、あらかじめ数mm角の個片に分割し、基材層と共にシート状に成形したものである。例えば、表面に剥離剤がコーティングされたPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム又は紙シートに、つまり離型紙に、粘着シートを介して上記個片化された磁性体層を貼付し、この磁性体層の表面に保護膜としてのPETフィルムを被覆することで磁性体シート11,12は構成される。この磁性体シート11,12の上記離型紙を剥離し、多層プリント基板10に貼付することで、
図1(A)に示した平面アレイ巻線101が構成される。
【0048】
なお、磁性体シート11,12は、磁性体フェライト粉等の磁性体粉が混合されたシリコーンゴムや樹脂材がシート状に成形されたものであってもよい。
【0049】
以上に示した、本実施形態のスイッチング電源装置によれば、次のような作用効果を奏する。
【0050】
・磁性体シート11,12の高透磁率の作用によって、所定のインダクタンスを有する小型の巻線が形成できる。
【0051】
・磁性体シート11,12が磁路となることで、巻線から発生される磁束の磁路を短くでき、不要輻射が抑制される。
【0052】
・巻線自体は空芯構造であるので、巻線構造が簡素となり、生産性に優れ、低コスト化が図れる。
【0053】
・巻線毎に磁性体コアを設ける必要がなく、連続した磁性体シートとして扱うことにより、個別巻線の磁性体として扱うよりも生産性が高まる。
【0054】
・磁性体シート11,12が多層プリント基板10の厚みよりも薄いため、多層プリント基板に磁性体コアが嵌め込まれた構想のインダクタに比べて、薄型の平面アレイ巻線が得られる。
【0055】
《第2の実施形態》
第2の実施形態では、複数の巻線を構成する導体パターンの形状が第1の実施形態で示したものと異なる、幾つかの巻線について示す。
【0056】
図6は第2の実施形態に係る平面アレイ巻線の一つの巻線の構造を示す分解平面図である。
図4に示した例と同様に、
図6も多層プリント基板10の各層に形成された巻線導体パターンのみを表している。この
図6に示す巻線は、
図4に示した第4層及び第5層が無い。つまり、
図4の第2層及び第4層に形成された第1種の巻線導体パターンと、
図4の第3層及び第5層に形成された第2種の巻線導体パターンとをそれぞれ1層ずつ備えている。
【0057】
このように、導体パターンの積層数は適宜定められる。
【0058】
図4、
図6において、第2層と第3層は積層方向への繰り返し周期の最小単位である。第2層と第3層の繰り返し回数が「0回」であれば、つまり、表層と最下層の2層で巻線が構成される。第2層と第3層の繰り返し回数が「1回」であれば、
図6に示した4層で巻線が構成され、第2層と第3層の繰り返し回数が「2回」であれば、
図5に示したように6層で巻線が構成される。第2層と第3層の繰り返し回数は「3回」以上であってもよい。
【0059】
図7は第2の実施形態の別の平面アレイ巻線の一つの巻線構造を示す分解平面図である。これは貫通ビア工法で多層プリント基板を製造する場合の一例である。
図6に示した例と同様に、多層プリント基板の各層に形成された巻線導体パターンのみを表している。
【0060】
図7に表れているように、表層である第1層には中央導体パターン1aと二つの環状導体パターン2a,3aが形成されている。同様に、第2層には中央導体パターン1bと二つの環状導体パターン2b,3bが形成されていて、第3層には中央導体パターン1cと二つの環状導体パターン2c,3cが形成されていて、第4層には中央導体パターン1dと二つの環状導体パターン2d,3dが形成されていて、第5層には中央導体パターン1eと二つの環状導体パターン2e,3eが形成されている。そして、最下層である第6層には中央導体パターン1fと二つの環状導体パターン2f,3fが形成されている。
【0061】
図7中の複数の丸いパターンはそれぞれ貫通ビアである。第1層の中央導体パターン1aの端部と第2層の環状導体パターン2b,3bの端部はビアを介して接続されている。また、第2層の中央導体パターン1bの端部と第3層の環状導体パターン2c,3cの端部はビアを介して接続されている。同様に、第3層の中央導体パターン1cの端部と第4層の環状導体パターン2d,3dの端部はビアを介して接続されていて、第4層の中央導体パターン1dの端部と第5層の環状導体パターン2e,3eの端部はビアを介して接続されている。そして、第5層の中央導体パターン1eの端部と第6層の環状導体パターン2f,3fの端部はビアを介して接続されている。
【0062】
第1層の環状導体パターン2a,3aは接続されて第1端P1として引き出されていて、第6層の中央導体パターン1fの端部は第2端P2として引き出されている。
【0063】
以上に示したようにして、貫通ビア工法による多層プリント基板に平面アレイ巻線を形成してもよい。
【0064】
《第3の実施形態》
第3の実施形態では、導体パターンが第1、第2の実施形態で示したものとは異なる平面アレイ巻線の例を示す。
【0065】
図8(A)は第3の実施形態に係るスイッチング電源装置が備える平面アレイ巻線102の斜視図である。
図8(B)はその分解斜視図である。
図9は多層プリント基板10に形成された巻線のパターンについて示す斜視図である。
図10(A)はこの平面アレイ巻線102の各巻線に流れる電流と、生じる磁束の様子を示す斜視図であり、
図10(B)はその断面図である。
図10(A)では磁性体シート11,12の図示を省略している。また、
図10(B)では多層プリント基板10の図示を省略し、且つ導体パターンを一層にまとめて表している。
【0066】
図8(A)、
図8(B)に示す平面アレイ巻線102は、多層プリント基板10に形成された複数の個別の巻線L11,L12,L13を備える。これら巻線L11,L12,L13のそれぞれの第1端P1は、電力変換回路のスイッチング回路部に接続され、第2端P2は共通の出力部に接続される。巻線L11,L12,L13は、多層プリント基板10に形成された導体パターンで構成され、かつ多層プリント基板10の面に沿って配列されている。巻線L11,L12,L13はそれぞれ一つの巻線開口を有する。隣接する巻線の巻線開口同士は重ならない位置に配置されている。磁性体シート11,12には、巻線L11と巻線L12との間に対応する位置、巻線L12と巻線L13との間に対応する位置にそれぞれスリットSLが形成されている。このスリットSLは、本発明に係る「スリット状の磁性体非形成部」に相当する。
【0067】
図9に示した各部のサイズ等は例えば次のとおりである。
【0068】
[導体パターン]
厚み:0.07mm
巻線部の幅CW:10 mm
巻線部の長さCL:10 mm
巻線全体の幅AW:36mm
巻線部同士の間隔D:2mm
[磁性体シート]
比透磁率:1000
厚さ:20μm
図10(A)中の直線の矢印、
図10(B)中のドット記号及びクロス記号は、或る位相(タイミング)における各巻線部に流れる電流の方向を示している。
【0069】
本実施形態で示したように、平面アレイ巻線を構成する各巻線は、それぞれが一つの巻回軸を有する導体パターンで構成されていてもよい。
【0070】
また、本実施形態で示したように、磁性体シート11,12にスリットSLを設けることによって、隣接する巻線間の不要結合を抑制できる。
【0071】
《第4の実施形態》
第4の実施形態では、以上に示した平面アレイ巻線を備えるスイッチング電源装置の例を示す。
【0072】
図11は本実施形態に係るスイッチング電源装置111の回路図である。このスイッチング電源装置111は、巻線L1,L2が形成された平面アレイ巻線と、電力変換回路20と、を備える。電力変換回路20のスイッチング回路部21a,21bは、それぞれハイサイドのMOS-FETとローサイドのMOS-FETとで構成されている。巻線L1の第1端はスイッチング回路部21aの出力部に接続されていて、第2端は共通の出力部Poに接続されている。巻線L2の第1端はスイッチング回路部21bの出力部に接続されていて、第2端は共通の出力部Poに接続されている出力部Poには平滑コンデンサCoが接続されている。
【0073】
前記スイッチング回路部21aのMOS-FETのゲート・ソース間には駆動回路22aが接続されていて、前記スイッチング回路部21bのMOS-FETのゲート・ソース間には駆動回路22bが接続されている。
【0074】
駆動回路22a,22bにはスイッチング制御回路23が接続されている。このスイッチング制御回路23は駆動回路22a,22bに対して、位相差180度の2相の駆動信号を出力する。
【0075】
図12は、
図11に示したスイッチング電源装置の各部の電圧・電流の波形図である。
図12において、電圧Vinは入力電圧である。電流i1はスイッチング回路部21aに流れる入力電流であり、電流i2はスイッチング回路部21bに流れる入力電流である。また、電流iL1は巻線L1に流れる電流であり、電流iL2は巻線L2に流れる電流である。電圧Voutは、出力部Poの出力電圧である。
【0076】
入力電流i1,i2の電流波形の位相差は180度であり、巻線L1,L2に流れる電流の波形の位相差も180度である。
図11、
図12に示した例では、二つの巻線を用いた2相のスイッチング電源装置であるので、1スイッチング周期に2組のスイッチング動作が行われ、2回の巻線電流における励磁電流の波形が確認できる。
【0077】
図13は、四つの巻線L1,L2,L3,L4が形成された平面アレイ巻線と、電力変換回路20と、を備える、第4の実施形態に係る別のスイッチング電源装置112の回路図である。電力変換回路20のスイッチング回路部21a,21b,21c,21dは、それぞれハイサイドのMOS-FETとローサイドのMOS-FETとで構成されている。巻線L1,L2,L3,L4のそれぞれの第1端はスイッチング回路部21a,21b,21c,21dの出力部にそれぞれ接続されていて、第2端は共通の出力部Poに接続されている。
【0078】
スイッチング回路部21a,21b,21c,21dには図外の駆動回路がそれぞれ接続されていて、各駆動回路にスイッチング制御回路23の駆動回路に出力部(PWM1,PWM2,PWM3,PWM4)が接続されている。このスイッチング制御回路23は駆動回路に対して、位相差90度の四相の駆動信号を出力部(PWM1,PWM2,PWM3,PWM4)から出力する。
【0079】
このように4相のスイッチング電源装置であれば、スイッチング回路部21a,21b,21c,21dに流れる入力電流波形の位相差は90度であり、巻線L1,L2,L3,L4に流れる電流の波形の位相差も90度である。したがって、1スイッチング周期に4組のスイッチング動作が行われ、4回の巻線電流における励磁電流の波形が確認できる。
【0080】
図13に示したスイッチング制御回路23は、マルチフェーズのPWMコントローラであり、負荷の軽重に応じて、複数のスイッチング回路部21a〜21dのうち、用いるスイッチング回路部の数を制御することもできる。つまり、最軽負荷時には単相で動作し、最重負荷時には4相で動作し、その中程度の負荷時には2相又は3相で動作する。
【0081】
図14は、並列制御を行うスイッチング回路部の数を負荷の大きさに応じて変更した場合の、出力電流に対する出力電圧の関係を示す図である。この例では、最も軽負荷時の並列数は単一(単相制御)であり、最も重負荷時の並列数は20(20相制御)である。
【0082】
図14の例では、出力電圧Voutが1.8Vを下回らない範囲で並列数を最小数としている。ここで、オンデューティ比をD、入力電圧をVin、並列数をN、スイッチング回路部及び巻線の抵抗成分をr 、出力電流をI で表すと、
Vout=D・Vin−( r / N ) I
の関係が成り立つ。したがって、負荷の軽重に応じて並列数Nを制御することでほぼ一定の出力電圧Voutが得られる。つまり、負荷の軽重に応じて並列数Nを変更して、不要なスイッチング回路部を停止させ、スイッチング回路部の数を減らすことにより、スイッチング損失やスイッチング回路部の駆動損失を低減して、電力変換回路の高効率化を図ることができる。
【0083】
次に、本実施形態のスイッチング電源装置の回路基板上の構成の例について示す。
図15は多層プリント基板10に形成されたスイッチング電源装置の平面図である。多層プリント基板10の上下面には、多層プリント基板10と実質的に同サイズの磁性体シートが配置されるが、
図15では、その磁性体シートを除いた状態で図示している。
【0084】
多層プリント基板10には巻線L1,L2,L3,L4,L5,L6が形成されている。これら巻線L1,L2,L3で一つの平面アレイ巻線が構成されていて、巻線L4,L5,L6でもう一つの平面アレイ巻線が構成されている。これら巻線L1,L2,L3,L4,L5,L6の導体パターンは簡略化して図示している。これら複数の巻線を備える平面アレイ巻線の構成は
図2等に示したとおりである。二つの平面アレイ巻線の間にはスイッチング回路部21及び駆動回路22が設けられている。スイッチング回路部21の構成は、
図11、
図13に示したスイッチング回路部21a〜21dに示したとおりである。駆動回路22の構成は
図11に示した駆動回路22a,22bに示したとおりである。スイッチング回路部21及び駆動回路22の近傍にはスイッチング制御回路23が設けられている。
【0085】
このように、隣接する巻線間距離を小さくして、基板上の限られたスペースに複数の巻線が配列された平面アレイ巻線を備えるスイッチング電源装置を構成できる。
【0086】
以上に示した、本実施形態のスイッチング電源装置によれば、次のような作用効果を奏する。
【0087】
・複数の巻線が発生する磁束が最大磁束密度となる位置及び時刻が周期的に変化することにより、見かけ上の動作周波数が高周波化されて、平滑用キャパシタ及び各巻線を小型化できる。また高速負荷応答に優れる。
【0088】
・複数の巻線が発生する磁束が最大磁束密度となる位置及び時刻が周期的に変化することにより、磁性体シート11,12の磁気飽和を抑制できる。
【0089】
・複数の巻線が発生する磁束が最大磁束密度となる位置及び時刻が周期的に変化することにより、巻線及び磁性体シート11,12の発熱部位が分散され、発熱のピークを抑制できる。
【0090】
・巻線部の導体パターンに電流が流れることにより周囲に発生する磁束による磁束密度を考慮して、巻線部の開口幅Wと磁性体シートの比透磁率μ’と磁性体シートの厚さMTの寸法関係により、磁性体シートの厚さMTは、MT ≧ W /(2μ’)の関係を満たすことにより薄型化、小型化を図ることができる。特に、磁性体シートの厚さMTをおよそW /(2μ’)と設定することでインダクタの薄型化を図ることができ、スイッチング電源装置の薄型化を図ることができる。
【0091】
最後に、上述の実施形態の説明は、すべての点で例示であって、制限的なものではない。当業者にとって変形及び変更が適宜可能である。本発明の範囲は、上述の実施形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。さらに、本発明の範囲には、特許請求の範囲内と均等の範囲内での実施形態からの変更が含まれる。
【0092】
例えば、以上に示した各実施形態では、多層プリント基板10の上下の両面に磁性体シート11,12を設けた例を示したが、磁性体シート11,12のうち、一方のみを設けてもよい。
【0093】
また、以上に示した各実施形態では、多層プリント基板10と同サイズの磁性体シート11,12を設ける例を示したが、磁性体シート11,12は多層プリント基板10の巻線形成領域だけを覆うサイズであってもよい。