(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
導電性が異なる複数種類の物質が混在し、かつ導電性が相対的に低い物質の投影面積が、導電性が相対的に高い物質の投影面積よりも大きい混合物の各物質を静電気力の利用により選別する静電選別方法であって、
所定の傾斜方向に沿って傾けて配置された平面電極と、当該平面電極と選別空間を挟んで対向するようにして前記平面電極の上方に配置された対向電極との間に電圧を印加して前記選別空間に静電場を形成する手順と、
前記静電場が形成されている選別空間に対して、前記傾斜方向の上側でかつ当該傾斜方向を横切るように設定された搬送方向の上流側から前記混合物を供給する手順と、
前記選別空間に供給された混合物に対して、前記搬送方向下流側に向かう搬送力と、前記傾斜方向上向きの風力とを付与する手順と、
前記選別空間内にて前記傾斜方向の下側と前記搬送方向の下流側とにそれぞれ分かれるように移動した物質のそれぞれを回収する手順と、
を含む静電選別方法。
導電性が異なる複数種類の物質が混在し、かつ導電性が相対的に低い物質の投影面積が、導電性が相対的に高い物質の投影面積よりも大きい混合物の各物質を静電気力の利用により選別する静電選別装置であって、
所定の傾斜方向に沿って傾けて配置された平面電極と、
前記平面電極と選別空間を挟んで対向するようにして前記平面電極の上方に配置された対向電極と、
前記平面電極と前記対向電極との間に電圧を印加して前記選別空間に静電場を形成する静電場形成手段と、
前記静電場が形成されている選別空間に対して前記傾斜方向の上側でかつ前記傾斜方向を横切るように設定された搬送方向の上流側から前記混合物を供給する混合物供給手段と、
前記選別空間に供給された混合物に対して、前記搬送方向下流側に向かう搬送力を付与する搬送力付与手段と、
前記選別空間に供給された混合物に対して、前記傾斜方向上向きの風力を作用させる風力付与手段と、
前記選別空間内にて前記傾斜方向の下側と前記搬送方向の下流側とにそれぞれ分かれるように移動した物質のそれぞれを回収する回収手段と、
を備えた静電選別装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した静電選別装置においては、粒状、球状、塊状といった転がりやすい形状の絶縁体が混合物に含まれていることがある。その場合、絶縁体と平面電極との間に十分な摩擦力が作用せず、絶縁体が平面電極を転がり落ちることにより導体に紛れて回収されるおそれがある。そのような状況下では、混合物中の各物質を高い精度で選別することは困難である。
【0005】
そこで、本発明は、混合物中に含まれている物質の形状に関わりなく、各物質を高い精度で選別して回収することが可能な静電選別方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る静電選別方法は、導電性が異なる複数種類の物質が混在し、かつ導電性が相対的に低い物質の投影面積が、導電性が相対的に高い物質の投影面積よりも大きい混合物の各物質を静電気力の利用により選別する静電選別方法であって、所定の傾斜方向(y方向)に沿って傾けて配置された平面電極(2)と、当該平面電極と選別空間(SP)を挟んで対向するようにして前記平面電極の上方に配置された対向電極(3)との間に電圧を印加して前記選別空間に静電場を形成する手順と、前記静電場が形成されている選別空間に対して、前記傾斜方向の上側でかつ当該傾斜方向を横切るように設定された搬送方向(x方向)の上流側から前記混合物を供給する手順と、前記選別空間に供給された混合物に対して、前記搬送方向下流側に向かう搬送力と、前記傾斜方向上向きの風力とを付与する手順と、前記選別
空間内にて前記傾斜方向の下側と前記搬送方向の下流側とにそれぞれ分かれるように移動した物質のそれぞれを回収する手順と、を含むものである。
【0007】
また、本発明の一態様に係る静電選別装置(1)は、導電性が異なる複数種類の物質が混在し、かつ導電性が相対的に低い物質の投影面積が、導電性が相対的に高い物質の投影面積よりも大きい混合物の各物質を静電気力の利用により選別する静電選別装置であって、所定の傾斜方向(y方向)に沿って傾けて配置された平面電極(2)と、前記平面電極と選別空間(SP)を挟んで対向するようにして前記平面電極の上方に配置された対向電極(3)と、前記平面電極と前記対向電極との間に電圧を印加して前記選別空間に静電場を形成する静電場形成手段(6)と、前記静電場が形成されている選別空間に対して前記傾斜方向の上側でかつ前記傾斜方向を横切るように設定された搬送方向(x方向)の上流側から前記混合物を供給する混合物供給手段(5)と、前記選別空間に供給された混合物に対して、前記搬送方向下流側に向かう搬送力を付与する搬送力付与手段(9)と、前記選別空間に供給された混合物に対して、前記傾斜方向上向きの風力を作用させる風力付与手段(10)と、前記選別
空間内にて前記傾斜方向の下側と前記搬送方向の下流側とにそれぞれ分かれるように移動した物質のそれぞれを回収する回収手段(11)と、を備えたものである。
【0008】
上記態様の静電選別方法及び装置によれば、選別空間に混合物を供給した場合、導電性が相対的に高い物質(以下、その一例として導電性物質と表現することがある。)は平面電極に接して同一極性に帯電し、それにより平面電極から反発する方向の静電気力を受ける。そのため、導電性物質は平面電極の傾斜に沿って比較的速やかに落下する。一方、導電性が相対的に低い物質(以下、その一例として非導電性物質と表現することがある。)にはそのような静電気力が作用せず、非導電性物質は搬送力の影響をより大きく受けて搬送方向下流側に搬送される。さらに、傾斜方向上向きに作用する風力は物質の平面電極に沿った落下を抑える抵抗力として作用するが、その影響は、投影面積が大きい非導電性物質においてより大きくなる。そのため、平面電極の傾斜に沿った落下を抑える抵抗力は非導電性物質においてより大きく作用する。したがって、仮に非導電性物質が粒状、あるいは球状といった転がり易い形状を帯びていたとしても、非導電性物質の傾斜方向に沿った落下を抑えつつ、その非導電性物質を搬送方向下流側に向けて移動させることができる。それにより、混合物中に含まれる物質を平面電極上にて互いに分かれるように移動させ、高い精度でそれらの物質を選別し、回収することができる。
【0009】
なお、上記態様の静電選別方法における各手順は、それらの記載順序に従って順次実行されるべきものではない。選別空間に混合物が供給される段階において、選別空間に静電場が形成され、かつ混合物に搬送力及び風力が付与されていれば足り、物質の回収は選別空間内にて混合物中の各物質の移動に合わせて適時に行われるものであればよい。
【0010】
上記態様の静電選別方法においては、前記選別空間への供給に先行して、前記混合物に含まれる各物質を前記平面電極とは反対の極性に帯電させる手順をさらに含んでもよい。また、上記態様の静電選別装置においては、前記選別空間に供給される混合物に含まれる各物質を前記平面電極とは反対の極性に帯電させる帯電手段(7)をさらに備えてもよい。これらの態様によれば、導電性が相対的に低い非導電性物質が平面電極と反対極性に帯電した状態で選別空間内を移動するので、その非導電性物質に対して平面電極に吸い付く方向の静電気力が作用する。そのため、非導電性物質をより確実に搬送方向下流側へと移動させることができる。
【0011】
前記付与する手順では、前記平面電極を振動させて前記混合物に前記搬送力を付与してもよい。また、前記搬送力付与手段は、前記平面電極を振動させて前記混合物に前記搬送力を付与してもよい。これらの態様によれば、平面電極から混合物に直接的かつ継続的に搬送力を与えて非導電性物質を搬送方向下流側に向けて確実に移動させることができる。
【0012】
なお、以上の説明では本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記したが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【発明の効果】
【0013】
以上に説明したように、本発明によれば、混合物中に含まれている各物質に作用する静電気力、重力及び搬送力の状態の相違を利用して、導電性が相対的に高い物質を平面電極の傾斜方向に沿って比較的速やかに落下させる一方で、導電性が相対的に低い物質は平面電極を横切る搬送方向に沿って下流側へと移動させることにより、混合物中の物質を選別することがでる。しかも、混合物に風力を作用させることにより、導電性が相対的に低くかつ投影面積が相対的に大きい物質の傾斜方向に沿った落下を抑える抵抗力を生じさせ、それらの物質が導電性がより高い物質に紛れて回収されるおそれを低減することができる。したがって、混合物中の各物質をそれらの形状に関わりなく高い精度で選別して回収することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して本発明の一形態に係る静電選別装置を説明する。
図1に示すように、静電選別装置1は、平面電極の一例としての下部電極(図中にハッチングで示す。)2と、その下部電極2と選別空間SPを介して対向するようにして下部電極2の上方に配置された対向電極の一例としての上部電極3とを備えている。下部電極2は全体に亘って厚さ一定の矩形平板状に形成されている。上部電極3も下部電極2と同形同大の矩形平板状に形成されている。下部電極2はその一方の長辺(図示例では手前側の長辺)を水平面HP上に置いたと仮定したとき、その一方の長辺を軸として水平面HPに対し、所定の傾斜角θだけ傾けられている。それにより、下部電極2はその短辺方向を傾斜方向として傾けて設置されている。なお、下部電極2は、その長辺方向において傾けられていない。ただし、下部電極2は長辺方向においても傾斜が付されてもよい。例えば
図1の右方に向かって下り勾配を描くように下部電極2が傾けられてもよい。
【0016】
上部電極3は下部電極2の四隅に配置された支持部材4を介して下部電極2と平行に組み合わされている。したがって、上部電極3の傾斜角は下部電極2のそれと等しく、選別空間SPの電極2、3と直交する方向における幅(すなわち、電極2、3間の隙間量)は電極2、3の全域に亘って一定である。電極2、3の外周上において、選別空間SPは支持部材4の位置を除いて閉鎖されることなく外部と通じるように開放されている。なお、以下では、
図2に示したように、静電選別装置1が設置される水平面HPを基準として、下部電極2の長辺方向をX方向、水平面HPに沿ってX方向と直交する方向をY方向、水平面HPに直交する方向をZ方向とそれぞれ定義し、下部電極2の表面を基準として長辺方向をx方向(X方向と一致する。)、短辺方向をy方向、下部電極2の表面(x−y平面)に直交する方向をz方向とそれぞれ定義する。各方向の正負は、図中の矢印が指し示す側を正側とする。y方向が傾斜方向に相当し、x方向が搬送方向に相当する。y方向の正側が傾斜方向の下側、y方向の負側が傾斜方向の上側であり、x方向の正側が搬送方向下流側、x方向の負側が搬送方向上流側である。
【0017】
図1に戻って、選別空間SPに対して傾斜方向の上側でかつ搬送方向上流側の位置には、選別対象の混合物を選別空間SPに供給する混合物供給手段の一例としてのフィーダ5が設けられている。フィーダ5は下部電極2の傾斜方向と同一方向に傾けられた搬送面5aを有する樋型の形状である。ただし、搬送面5aは、搬送方向下流側に向かって下り勾配を描くようにも傾けられている。それにより、フィーダ5から選別空間SPには、混合物が搬送方向に沿って投入される。なお、混合物は、廃棄された電線を破砕して、銅線とプラスチック製の被覆材とを剥離させることによって得られるものであって、その中には導電性が相対的に高い物質の一例としての導体である銅片CFと、導電性が相対的に低い物質の一例としての絶縁体であるプラスチック片PFとが混在する。銅片CF及びプラスチック片PFのそれぞれは、短く破砕された粒状、球状、塊状あるいは切片状といった破砕物が取り得る各種の形状を有している。ただし、プラスチック片PFは破砕過程で切開されるため、その投影面積は銅片CFのそれよりも大きい(
図4参照)。ここでいう投影面積は、銅片CF及びプラスチック片PFのそれぞれに対して一定方向から平行光を照射したときに生じる影の面積として定義することができる。
【0018】
静電選別装置1には、下部電極2と上部電極3との間に電圧を印加して選別空間SPに静電場を形成する静電場形成手段の一例としての高電圧電源6が設けられている。高電圧電源6は直流電源であり、その負極側は上部電極3に接続されている。高電圧電源6の正極側は接地され、下部電極2も同じく接地されている。したがって、高電圧電源6からの電圧の印加により、下部電極2を正極、上部電極3を負極とする静電場が選別空間SPに形成される。フィーダ5の近傍、一例として搬送面5aの上方には、帯電手段の一例としてのコロナ帯電器7が設けられている。コロナ帯電器7は、搬送面5aに沿って延びるように設けられている。高電圧電源8の負極側と接続されている。高電圧電源8の正極側は接地されている。コロナ帯電器7に負極の電圧が印加されることによりフィーダ5の搬送面5aの周囲にコロナ放電現象が生じ、それにより、フィーダ5に供給された混合物中に含まれている銅片CF及びプラスチック片PFのそれぞれが下部電極2と反対の極性である負極側に帯電する。なお、電極2、3用の高電圧電源6とコロナ帯電器7の高電圧電源8とは共用化されてもよい。
【0019】
静電選別装置1にはさらに搬送力付与手段の一例としての加振器9が設けられている。加振器9は、下部電極2上に導かれた混合物に搬送方向下流側の搬送力が付与されるように下部電極2を振動させる。振動の方向は、x−z平面と平行な方向でかつx方向正側に対して反時計方向に角度α(ただし90°未満)で傾いた方向に設定されている。つまり、選別空間SPを傾斜方向に沿って観察したときに、下部電極2の振動方向は搬送方向上流側(フィーダ5の側)が下、搬送方向下流側が上となるように斜めに傾いた方向に設定されている。なお、搬送方向は下部電極2の長辺方向、つまり傾斜方向と直交する方向と一致させる例に限らず、下部電極2の表面に沿って傾斜方向(y方向)を斜めに横切る方向に設定されてもよい。加振器9は、例えば下部電極2を傾斜状態で支持する構造体の一部に組み込まれることにより下部電極2を加振するように設けることができる。
【0020】
選別空間SPのy方向下端側には、風力付与手段の一例としての送風機10が設けられている。送風機10は選別空間SPに対して傾斜方向上向きの空気流(図中に白抜き矢印で例示)を生じさせる。送風機10が生成する空気流により、選別空間SPに供給される混合物には下部電極2の傾斜方向上向きの風力が付与される。風力は、一例として搬送方向の位置に関わりなく一定に設定される。ただし、搬送方向の位置に応じて風力に差が生じるように風力の分布が設定されてもよい。風力分布については後に詳しく説明する。
【0021】
下部電極2の周囲には回収手段の一例としての回収容器11が設けられている。回収容器11は、下部電極2の下側の長辺に沿って配置された第1回収部11Aと、下部電極2の搬送方向下流側の短辺に沿って配置された第2回収部11Bとを備えている。第1回収部11Aは、搬送方向に沿って複数(一例として6個)の回収区画C1、C2…C6に区分されている。第2回収部11Bは、傾斜方向に沿って複数(一例として5個)の回収区画C7、C8…C10に区分されている。これらの回収区画C1〜C10は、いずれも上方が開口した箱形形状である。複数の回収区画C1〜C10が設けられることにより、選別空間SPから落下する物質を落下位置に応じて区別して回収することができる。
【0022】
次に、静電選別装置1を用いた選別の手順を説明する。銅片CFとプラスチック片PFとを選別するにあたっては、下部電極2と上部電極3との間に高電圧電源6から電圧を印加して選別空間SPに静電場を形成する。また、コロナ帯電器7に高電圧電源8から電圧を印加してフィーダ5の搬送面5aの周囲にコロナ放電現象を生じさせる。さらに、加振器9を起動して下部電極2を振動させるとともに、送風機10を起動して選別空間SPに空気流を生じさせる。以上の状態において混合物をフィーダ5に投入し、フィーダ5から選別空間SPに混合物を供給する。そして、選別空間SPから落下する各物質を回収容器11にて回収する。
【0023】
以上の手順によれば、混合物中に含まれる銅片CF及びプラスチック片PFのそれぞれが搬送面5aを移動する間に負に帯電し、選別空間SPへと供給される。選別空間SPにおいて、導体である銅片CFは下部電極2に接触して負の電荷を失うと同時に、誘導帯電により下部電極2と同一の正極側に帯電する。そのため、銅片CFには下部電極2から離れる方向の静電気力が作用する。その結果、銅片CFは下部電極2に沿って滑落し、回収容器11の第1回収部11Aのうち、搬送方向上流側の回収区画(一例として回収区画C1〜C3程度の範囲)に落下して回収される。一方、プラスチック片PFは絶縁体であるためにフィーダ5にて帯電した負の電荷を失わない。そのため、プラスチック片PFには下部電極2に引き寄せられる方向の静電気力が作用する。下部電極2に引き寄せられたプラスチック片PFには、下部電極2の振動に伴って搬送方向下流側に向かう搬送力が作用する。
【0024】
さらに、送風機10からの送風により、選別空間SPに投入された銅片CF及びプラスチック片PFのそれぞれには傾斜方向上向きの風力が作用する。その風力は、銅片CF及びプラスチック片PFの下部電極2の傾斜方向に沿った落下を抑制する抵抗力として働く。しかしながら、プラスチック片CFは、銅片CFに比してより大きな投影面積を有しているため、風力に基づく抵抗力は銅片CFに比してプラスチック片PFにより大きく作用する。したがって、銅片CFが下部電極2上をその傾斜方向に沿って速やかに落下するのに対して、プラスチック片PFは下部電極2上に比較的長い時間に亘って留められ、銅片CFから分かれるようにして下部電極2上を搬送方向下流側に搬送される。それにより、プラスチック片PFは、回収容器11の第2回収部11Bの回収区画C7〜C10、あるいは第1回収部11Aの搬送方向下流側の回収区画(一例として右端の回収区画C6程度の範囲)に落下して回収される。したがって、銅片CFとプラスチック片PFとを高精度に選別して回収することができる。
【0025】
選別空間SPにおける銅片CF及びプラスチック片PFの運動を数式により表現すれば以下の通りである。なお、選別空間SPに位置する銅片CF又はプラスチック片PFに働く力の関係は
図2に示した通りである。まず、銅片CF及びプラスチック片PFの運動方程式は下式(1)で表現することができる。
【0026】
【数1】
ここで、mは銅片CF又はプラスチック片PFの質量、gは重力加速度、Fx、Fyは銅片CF又はプラスチック片PFに作用する摩擦力のx方向及びy方向の成分、Fvは、送風機10からの送風に基づき銅片CF又はプラスチック片PFに作用する抵抗力、Fcは銅片CF又はプラスチック片PFに作用する静電気力、Nは銅片CF又はプラスチック片PFに作用するz方向の垂直抗力、θは下部電極2の水平面HPに対する傾斜角をそれぞれ示している。抵抗力Fv及び静電気力Fcはいずれもz方向、すなわち下部電極2の表面に対する法線方向である。
【0027】
銅片CFに作用する静電気力Fcは下式(2)で、プラスチック片PFに作用する静電気力Fcは下式(3)でそれぞれ表現される。
【0028】
【数2】
ここで、r
C及びr
pは銅片CF及びプラスチック片PFを概ね球状の粒子とみなしたときの粒子半径、ε
0は真空の誘電率(≒8.85×10-12F/m)、Eは電極2、3間に発生する電界強度、qは銅片CF又はプラスチック片PFの帯電量である。
【0029】
銅片CF又はプラスチック片PFに作用する抵抗力Fvは下式(4)で表現される。
【0030】
【数3】
ここで、ρは選別空間SPにおける空気密度、Uは送風機10から選別空間SPに導入される空気流の速度(風速)、Aは銅片CF又はプラスチック片PFの投影面積、C
Dは銅片CF又はプラスチック片PFの空気抵抗係数である。
【0031】
投影面積Aは銅片CFよりもプラスチック片PFの方が大きいため、(4)式から明らかなように、下部電極2の傾斜方向上向き作用する抵抗力Fvは銅片CFよりもプラスチック片PFの方が大きい。そのため、(1)式のy方向に関する運動方程式に着目すれば、下部電極2の傾斜方向に関してプラスチック片PFは銅片CFよりも落下し難い。言い換えれば、プラスチック片PFを下部電極2の傾斜方向下側に落下させようとする力は銅片CFのそれよりも小さい。そのため、下部電極2に沿って落下する銅片CFに対して、プラスチック片PFは搬送方向下流側に分かれるように搬送されることが数式からも確認することができる。
【0032】
図3A〜
図3Cは、選別空間SPにおける風力分布の具体例を示している。各図においては、風力の方向を白抜き矢印の方向で示し、風力の大小を白抜き矢印の長さで示している。矢印の先端を結ぶ一点鎖線は風力の大小の変化を示しており、y方向の上側ほど風力が大きいことを示している。
図3Aの例では、選別空間SPにおける風力の方向が下部電極2の傾斜方向(y方向)と平行であり、かつ風力の大きさは搬送方向(x方向)の位置に関わりなく一定に設定されている。この例ではプラスチック片PFの落下を抑える抵抗力が搬送方向の位置に関わりなく均等に作用する。ただし、風力分布はそのような例に限らない。例えば、
図3Bに示すように、搬送方向の上流側よりも下流側で風力が小さくなるように、搬送方向の位置に応じて風力の大きさが差別化されてもよい。この例では、銅片CFが落下する搬送方向上流側の領域でプラスチック片PFにより大きな抵抗力が作用し、それによりプラスチック片PFが銅片CFに紛れて回収されるおそれを低減することができる。風力の大きさは、搬送方向下流側に向かうに従って線形的に減少するよう変化させてもよいし、搬送方向下流側に向かうに従って減少量が徐々に大きくなるように変化させてもよい。選別空間SPを搬送方向に横切る途中で風力が最大となるように風力を変化させてもよい。
【0033】
図3A及び
図3Bでは、風力の向きを傾斜方向と平行に設定しているが、
図3Cに示すように、風力の方向は、傾斜方向に対して搬送方向下流側に斜めに傾いた方向に設定されてもよい。
図3Cの例によれば、風力の傾斜方向と平行な成分によりプラスチック片PFの落下を抑えつつ、風力の搬送方向と平行な成分をプラスチック片PFの搬送力の一部として利用することができる。なお、
図3Cの例においても、風力を搬送方向の位置に関わりなく一定としてもよいし、搬送方向の位置に応じて風力を変化させてもよい。いずれにせよ、銅片CFが落下する領域にてプラスチック片PFの落下を抑制する効果が十分かつ確実に得られるように風力の向き及び大きさを設定すればよい。
【0034】
次に、実験例を説明する。上述した形態に係る静電選別装置を製作し、廃棄電線を破砕して得られた混合物を試料として、これを実際に選別して銅片及びプラスチック片のそれぞれの選別精度を評価した。選別資料の画像を
図4に示す。同図の(a)が銅片、(b)がプラスチック片である。試料中に含まれている銅片は5g、プラスチック片は15gである。銅片の線径は0.106〜0.297mm、質量は0.1〜9.7mg、プラスチック片の粒径は1.39〜3.47mm、質量は0.3〜10.8mgであった。その他の条件は下記の通りである。また、比較例として、送風機10による風力の付与を省略した以外は同一条件で同一試料を選別空間に供給して銅片とプラスチック片との選別精度を評価した。
【0035】
下部電極と上部電極との間に印加する電圧 : −5KV
下部電極と上部電極との間の隙間量 : 37.7mm
コロナ帯電器に印加する電圧 : −15KV
下部電極の傾斜角θ : 11.5°
選別空間における風速 : 2.07m/s
なお、風速は選別空間の傾斜方向下端側の開口部における計測値である。空気流の方向は傾斜方向と平行でかつ風速は搬送方向の位置に関わりなく概ね一定に設定した。
【0036】
選別精度は、回収容器の各回収区画における銅線及びプラスチック片の回収率及び純度によって評価した。回収率及び純度は下式(5)及び(6)で与えられる値である。式(5)、(6)において、目的物は回収率を求める対象の銅片又はプラスチック片である。それらの式において、分母の全質量は、選別空間SPに投入された銅片又はプラスチック片の総質量であり、分子の指定区画内の目的物の質量とは、回収容器11の区画C1〜C10のうち、指定された区画内に回収された銅片又はプラスチック片のそれぞれの質量を測定した値である。
【0038】
実験例及び比較例における区画ごとの銅片の回収率を
図5に、実験例及び比較例における区画ごとのプラスチック片の回収率を
図6にそれぞれ示す。なお、
図5及び
図6は、回収容器11の区間C1〜C10のそれぞれを一区間ごとに指定区間として設定して、区間ごとの銅片又はプラスチック片の回収率を求めた結果である。横軸の回収位置における「1〜10」は、
図1における回収容器11の区画C1〜C10に添えられた数字を示している。また、「OT」は回収容器外を意味し、これに対応する比率は、回収容器外に落下した銅片又はプラスチック片の質量が全質量に占める比率を式(5)に従って求めた値である。
【0039】
図5から明らかなように、銅片については、実験例及び比較例のいずれにおいても搬送方向上流側の区画C1及びC2にて回収率が高く、それ以外の区画C3〜C10では回収率が明らかに低下する。しかし、実験例と比較例とを対比した場合、搬送方向で最も上流側にある区画C1の回収率に着目すれば実験例が比較例よりも明らかに高く、区画C2では比較例の方が回収率が高い。そして、区画C3以降では実験例の回収率が比較例のそれよりも明らかに低い。したがって、実験例においては、比較例よりも区画C1、C2に銅片が集中して回収されていることが確認できる。なお、回収容器外に落下した銅片の比率は実験例の方が比較例のそれよりも高い。その原因は、選別空間に投入された初期の段階で風力によって銅片とプラスチック片との選別が促進される結果、静電気力の影響で銅片が選別空間から落下し易くなって、区画C1よりも搬送方向上流側に落下する銅片が多くなることによるものと推定される。
【0040】
一方、
図6から明らかなように、プラスチック片については、実験例及び比較例のいずれにおいても搬送方向下流側の区画C7〜C9にて回収率が高く、搬送方向上流側の区画では回収率が明らかに低下する。しかし、実験例と比較例とを対比した場合、比較例では区画C1〜C6でもプラスチック片が少なからず回収されているのに対して、実験例ではそれらの区画C1〜C4にてプラスチック片が回収されないか、回収されたとしても僅かであり、区画C5、C6における回収率も比較例のそれに比して明らかに低い。したがって、実験例においては、プラスチック片が搬送方向下流側の区画C7〜C9にて集中的に回収されていることが確認できる。
【0041】
表1は、実験例において、搬送方向上流側の区間C1〜C3を指定区間に設定して銅片の回収率及び純度を求めるとともに、搬送方向下流側の区間C6〜C10を指定区間に設定してプラスチック片の回収率及び純度を求めた結果を示している。表2は、指定区間を上記の通り設定したときの比較例における銅片及びプラスチック片のそれぞれの回収率及び純度を示している。
【0043】
表1から明らかなように、実験例では銅片の回収率が89.7%、純度が99.6%、プラスチック片の回収率が97.5%、純度が99.4%であった。これに対して、比較例では銅片の回収率が97.0%、純度が92.9%、プラスチック片の回収率が79.2%、純度が100%であった。表1、2の比較から明らかなように、混合物に風力を付与した実験例では、区間C1〜C3における銅片の純度、及び区間C6〜C10におけるプラスチック片の回収率が比較例のそれらよりも顕著に改善されている。したがって、本発明によれば、銅片及びプラスチック片を高精度で選別して回収できることが確認された。なお、実験例では、区間C1〜C3における銅片の回収率が比較例のそれよりも低下しているが、これは回収容器の区間C1よりも搬送方向上流側に落下する銅片が増えた影響と推定される。風力の作用でプラスチック片の搬送方向上流側における落下が確実に阻止されていることを考慮すれば、回収容器を搬送方向上流側に拡張すれば銅片の回収率を改善することは可能と解される。
【0044】
本発明は上述した形態に限定されることなく、適宜の変更又は変形が施された形態にて実施することが可能である。例えば、平面電極及び対向電極は、上述した下部電極2及び上部電極3のような矩形平板状の例に限定されない。平面電極は、選別空間にて混合物中の物質を互いに分かれるように移動させて互いに異なる位置で回収するに十分な広さの平面を有している限り、その形状及び大きさは適宜に変更可能である。対向電極は平面電極と同形同大に形成される例に限らず、平面電極に対して反対極性の電圧が印加されることにより選別空間に静電場を形成することができる限り、対向電極の形状は適宜に変更可能である。例えば対向電極として、平面電極と平行に配置された格子状、網状といった電極が配置されてもよい。
【0045】
混合物供給手段は、選別空間に向かって下り勾配を描くように傾けられたフィーダに限らず、ベルトコンベア、ホッパその他の各種の供給装置が混合物供給手段として用いられてもよい。混合物に対する搬送力付与手段は、平面電極を振動させる例に限らない。例えば、導体にて構成されたベルトを水平面に対して所定の傾斜方向に傾けて配置し、そのベルトの上面側を搬送方向下流側に向けて走行させることにより、ベルトを平面電極及び搬送力付与手段として機能させてもよい。風力付与手段は、平面電極の傾斜方向下側から送風するように配置される例に限らない。平面電極の傾斜方向上流側から空気を吸引するように送風機又は吸引機を配置することにより、選別空間内の混合物に対して傾斜方向上向きの風力を付与するように風力付与手段が設けられてもよい。
【0046】
回収手段としての回収容器は、必ずしも選別対象の物質ごとに複数区画に区分された回収部を配置する例に限られない。選別対象の銅片が専ら落下する位置、及びプラスチック片が専ら落下する位置のそれぞれに単位区画の回収容器が回収手段として設けられてもよい。あるいは、回収容器に代えて、選別空間から排出される物質を吸引する吸引器が回収手段として設けられてもよい。
【0047】
選別空間に供給されるべき混合物に対する帯電手段は、コロナ放電を利用する例に限られず、各種の帯電装置が帯電手段として用いられてよい。なお、帯電手段は、選別状況によっては適宜に省略されてもよい。すなわち、上述した静電選別方法及び装置は、混合物中に含まれる物質のうち、導電性の高い物質が誘導帯電して平面電極から反発する方向の静電気力を受けることにより平面電極の傾斜方向に沿って落下し易くなる一方、導電性が低くかつ投影面積が相対的に大きい物質が風力により落下を阻止されつつ搬送力により搬送方向下流側に搬送され易くなることを利用して混合物中の物質を選別するものである。選別空間に供給される前の段階で混合物を平面電極と反対の極性に帯電させた場合には、導電性が低い物質に対して平面電極に吸い付く方向の静電力が確実に作用して搬送力の影響がより大きく現れるが、そのような静電力が小さくても、例えば物質の落下を十分に阻止できるように風力を設定し、あるいは平面電極の傾斜角を平面電極と物質との間の摩擦角以下に設定するといった手段を講じることにより、選別空間内の静電場と、各物質に作用する静電気力及び風力の影響で選別精度を向上させることが可能である。
【0048】
選別対象の混合物は、電線を破砕して得られた銅片とプラスチック片との混合物に限られない。導電性が異なる複数種類の物質が混在し、かつ導電性が相対的に低い物質の投影面積が、導電性が相対的に高い物質の投影面積よりも大きいという事情が存在する混合物であれば、本発明の静電選別方法及び装置により精度よく選別することが可能である。混合物に含まれる物質は2種類に限らず、銅片のような良導体と、プラスチック片のような絶縁体と、それらの中間的な導電性を有する他の物質とを含む混合物であっても、導電性が相対的に低い物質の投影面積が導電性が相対的に高い物質の投影面積よりも大きいという条件が満たされていれば、各物質に作用する静電力、搬送力及び風力の差を利用してそれらの物質を選別空間内で互いに分かれるように移動させて物質ごとに回収することが可能である。