特許第6954597号(P6954597)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社プロスパインの特許一覧

<>
  • 特許6954597-磁気式浮上搬送装置 図000002
  • 特許6954597-磁気式浮上搬送装置 図000003
  • 特許6954597-磁気式浮上搬送装置 図000004
  • 特許6954597-磁気式浮上搬送装置 図000005
  • 特許6954597-磁気式浮上搬送装置 図000006
  • 特許6954597-磁気式浮上搬送装置 図000007
  • 特許6954597-磁気式浮上搬送装置 図000008
  • 特許6954597-磁気式浮上搬送装置 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6954597
(24)【登録日】2021年10月4日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】磁気式浮上搬送装置
(51)【国際特許分類】
   B65G 54/02 20060101AFI20211018BHJP
   H01L 21/677 20060101ALI20211018BHJP
   B65G 49/00 20060101ALI20211018BHJP
   F16C 32/04 20060101ALI20211018BHJP
【FI】
   B65G54/02
   H01L21/68 A
   B65G49/00 A
   F16C32/04 Z
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-103313(P2017-103313)
(22)【出願日】2017年5月25日
(65)【公開番号】特開2018-197163(P2018-197163A)
(43)【公開日】2018年12月13日
【審査請求日】2020年3月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】303049418
【氏名又は名称】株式会社プロスパイン
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 勝
(72)【発明者】
【氏名】大沼 学
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄真
(72)【発明者】
【氏名】大石 悠平
【審査官】 板澤 敏明
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−125984(JP,A)
【文献】 特開平01−168038(JP,A)
【文献】 特開平03−223021(JP,A)
【文献】 特開2013−021036(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 54/00−54/02
H01L 21/68
B65G 49/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
清浄環境中で使用される搬送装置であって、基台と、磁力で前記基台から浮上保持される搬送台を有する磁気式浮上機構と、非接触にて前記搬送台を移動させる磁気式送り機構を有する磁気式浮上搬送装置において、前記磁気式浮上機構は前記搬送台を上方に付勢する第1の磁石対と前記搬送台を下方に付勢する第2の磁石対よりなり、前記第1の磁石対および前記第2の磁石対はそれぞれ、互いに反発する前記搬送台側の磁石と前記基台側の磁石により構成され、前記第1の磁石対および前記第2の磁石対の前記搬送台側の前記磁石および前記基台側の前記磁石はいずれも複数の磁石片を前記搬送台の移動方向に並べて構成されており、前記第1の磁石対および前記第2の磁石対の少なくともどちらか一方の磁石対の、それぞれの前記基台側の前記磁石片と前記搬送台側の前記磁石片の搬送台移動方向の長さが異なることを特徴とする、磁気式浮上搬送装置
【請求項2】
前記第1の磁石対を構成する前記搬送台側の前記複数の磁石片および前記基台側の前記複数の磁石片の少なくともどちらか一方の前記複数の磁石片は、前記搬送台の移動方向と交差する端面が移動方向に対し傾斜していることを特徴とする、請求項1に記載された磁気式浮上搬送装置。
【請求項3】
前記第2の磁石対を構成する前記搬送台側の前記複数の磁石片および前記基台側の前記複数の磁石片の少なくともどちらか一方の前記複数の磁石片は、前記搬送台の移動方向と交差する端面が移動方向に対し傾斜していることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載された磁気式浮上搬送装置。
【請求項4】
前記第1の磁石対を前記搬送台移動方向と直交する方向の幅の両端部側にそれぞれ設け、2つの前記第1の磁石対の前記基台側の前記磁石の搬送台移動方向と直交する方向の幅間隔と、2つの前記第1の磁石対の前記搬送台側の前記磁石の搬送台移動方向と直交する方向の幅間隔が異なり、幅間隔が狭いほうの2つの前記磁石が、幅間隔が広いほうの2つの前記磁石の間にあることを特徴とする、請求項1から請求項のいずれかに記載された磁気式浮上搬送装置。
【請求項5】
前記第2の磁石対を前記搬送台移動方向と直交する方向の幅の両端部側にそれぞれ設け、2つの前記第2の磁石対の前記基台側の前記磁石の搬送台移動方向と直交する方向の幅間隔と、2つの前記第2の磁石対の前記搬送台側の前記磁石の搬送台移動方向と直交する方向の幅間隔が異なり、幅間隔が狭いほうの2つの前記磁石が、幅間隔が広いほうの2つの前記磁石の間にあることを特徴とする、請求項1から請求項のいずれかに記載された磁気式浮上搬送装置。
【請求項6】
前記磁気式送り機構は、前記搬送台の移動方向と直交する回転軸を有する円筒状のピニオン磁石と、複数個の磁石片が前記搬送台の移動方向に並べられたラック磁石よりなり、前記複数個の磁石片よりなる前記ラック磁石の前記搬送台の移動方向の長さは、前記第1の磁石対の前記搬送台側の前記磁石の前記搬送台の移動方向の長さより短いことを特徴とする、請求項1から請求項のいずれかに記載された磁気式浮上搬送装置。
【請求項7】
前記第1の磁石対を前記搬送台搬送方向と直交する方向の幅の両端部側にそれぞれ設け、前記搬送台を移動させる前記磁気式送り機構を、前記搬送台の幅の両端部側に設けた前記第1の磁石対より前記搬送台の幅の中央寄りに配置したことを特徴とする、請求項1から請求項のいずれかに記載された磁気式浮上搬送装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造装置や食品製造装置等の、清浄環境中で使用される搬送装置に関
し、特に磁力を利用して搬送台を非接触にて浮上搬送することを特徴とした磁気式浮上搬
送装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、半導体製造装置では半導体ウエハなどの物品を真空容器中で移動させる搬送装
置が使用される。このような半導体製造装置で使用される搬送装置では、真空容器内の清
浄度を維持するため、搬送台の移動による発塵を極限まで低減させる必要があり、発塵を
低下させるためには搬送台を非接触にて浮上保持させ移動させることが有効である。
【0003】
磁力を応用して搬送台を非接触にて浮上保持し移動させる磁気式浮上搬送装置の例とし
て、特許文献1では図7に示すような磁気式浮上搬送装置が提示されている。この特許文
献1の磁気式浮上搬送装置は、容器910の中に永久磁石912を取付けた浮上体911
を配置し、容器910の外部に電磁石917を取付けた可動の案内子915と案内子91
5を移動させるための駆動機構916とを設け、永久磁石912と電磁石917の磁気相
互作用により浮上体911が案内子915の移動に追従するようにしている。
また、案内子915には位置センサ919を取り付け、図示しない制御手段により電磁
石917の励磁電流を制御して永久磁石912と電磁石917によって浮上体911を浮
上させる。これにより非接触にて浮上保持すると共に、非接触にて移動可能とした磁気浮
上搬送装置が示されている。
【0004】
しかしながらこのような磁気浮上搬送装置では電磁石および位置センサと制御手段が必
要で、装置が大掛かりとなり複雑化するとともに高価になるという課題があった。
【0005】
このような課題を解決する方法として特許文献2では、図8に示すように、部品を載置
する載置台970と、載置台970を支持する支持部971と、支持部971の下方に設
けられた浮力を得るための第一の磁石手段973aを有する浮力受け部973と、支持部
971あるいは支持部971の下方に設けられた吸引される第二の磁石手段972aを有
する被牽引部972と、第一の磁石手段973a、第二の磁石手段972aに対向して配
置された第三の磁石手段961d、第四の磁石手段963とを備え、第一の磁石手段97
3a、第三の磁石手段961dによる磁力によって載置台970を浮上させると共に、第
二の磁石手段972aを吸引しながら第四の磁石手段963を移動させることによって載
置台970を移動可能に構成した部品搬送装置が示されている。
【0006】
特許文献2によれば、載置台970は第一の磁石手段973aと第三の磁石手段961
dの間に働く磁力により浮上するので電磁石や制御手段は不要で、磁気浮上搬送装置を簡
略な構造で構成できる。
【0007】
以上のように、特許文献2に示されている磁気浮上搬送装置は、電磁石や制御手段を用
いずに永久磁石のみで磁気浮上搬送を実現できる優れた構造である。しかしながら、浮力
受け部973に設けられた第1の磁石手段973aと、筐体の外側において移動可能に設
けられた牽引車に設けられた第3の磁石手段961dの磁力により部品を載置する載置台
970を浮上させる構造となっているため、筐体内の清浄度を維持するには、第1の磁石
手段973aと第3の磁石手段961dが筐体の壁部をはさんで対向する構造とする必要
があった。このため筐体の構造が複雑となり筐体の断面構造を磁気浮上搬送装置にあわせ
て都度設計、製作しなければならない、と言う課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開昭63−133803号公報
【特許文献2】特開2003−168716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、永久磁石のみで構成され、筐体に
容易に組み込み可能な磁気浮上搬送装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の磁気式浮上搬送装置における請求項1に係る発明は、
清浄環境中で使用される搬送装置であって、基台と、磁力で前記基台から浮上保持される
搬送台を有する磁気式浮上機構と、非接触にて前記搬送台を移動させる磁気式送り機構を
有する磁気式浮上搬送装置において、
前記磁気式浮上機構は前記搬送台を上方に付勢する第1の磁石対と前記搬送台を下方に付
勢する第2の磁石対よりなり、前記第1の磁石対および前記第2の磁石対はそれぞれ、互
いに反発する前記搬送台側の磁石と前記基台側の磁石により構成され、
前記第1の磁石対および前記第2の磁石対の前記搬送台側の前記磁石および前記基台側の
前記磁石はいずれも複数の磁石片を前記搬送台の移動方向に並べて構成されていることを
特徴とする。
【0011】
本発明によれば、搬送台を上方に付勢する第1の磁石対と下方に付勢する第2の磁石対
を設けることにより、重さの異なる被搬送物が搬送台に乗せられた場合でも搬送台の浮上
量の変動を小さく抑えることができるので、永久磁石のみで磁気浮上機構が構成できる。
また、搬送台を上方に付勢する第1の磁石対を構成する磁石および搬送台を下方に付勢
する第2の磁石対を構成する磁石の全てを独立した磁石としたので、磁石の仕様を個別に
調整し所望の浮上特性を実現することが可能となると共に、第1の磁石対を構成する磁石
と第2の磁石対を構成する磁石に温度特性が異なる磁石を用いることにより、温度変化に
よる浮上特性の変化を小さくすることが可能となる。
また、第1の磁石対および第2の磁石対を構成する磁石を搬送台の移動方向に並べた磁
石片としたので、搬送距離が長くなっても磁石片の使用数を増やすだけで対応できる。ま
た、第1の磁石対および第2の磁石対を構成する搬送台側磁石と基台側磁石を筐体壁等で
隔離する必要がないので、磁気浮上機構全体を筐体内に入れることが可能となる。
これらにより、用途や企画に応じた大きさの磁気浮上機構を容易に製作でき、磁気浮上
機構全体を筐体内に入れられるので、筐体に容易に組み込み可能な磁気浮上機構が提供で
きる。
【0012】
また、本発明の請求項2に係る発明は、前記第1の磁石対を構成する前記搬送台側の前
記複数の磁石片および前記基台側の前記複数の磁石片の少なくともどちらか一方の前記複
数の磁石片は、前記搬送台の移動方向と交差する端面が移動方向に対し傾斜していること
を特徴とする。
【0013】
搬送台を上方に付勢する第1の磁石対の、搬送台側の複数の磁石片および基台側の複数
の磁石片の少なくともどちらか一方の複数の磁石片の、移動方向と交差する端面を移動方
向に対し傾斜させ、相手側の磁石と対向する面の形状が略平行四辺形状となる形状とした
。これにより、搬送台が移動してすれ違う時の浮上力変動等が小さくなるので、浮上特性
および搬送特性がより安定した磁気式浮上搬送装置を提供することができる。
【0014】
また、本発明の請求項3に係る発明は、前記第2の磁石対を構成する前記搬送台側の前
記複数の磁石片および前記基台側の前記複数の磁石片の少なくともどちらか一方の前記複
数の磁石片は、前記搬送台の移動方向と交差する端面が移動方向に対し傾斜していること
を特徴とする。
【0015】
搬送台を下方に付勢する第2の磁石対の、搬送台側の複数の磁石片および基台側の複数
の磁石片の少なくともどちらか一方の複数の磁石片の、移動方向と交差する端面を移動方
向に対し傾斜させ、相手側の磁石と対向する面の形状が略平行四辺形状となる形状とした
。これにより、搬送台が移動してすれ違う時の浮上力変動等が小さくなるので、浮上特性
および搬送特性がより安定した磁気式浮上搬送装置を提供することができる。
【0016】
また、本発明における請求項4に係る発明は、前記第1の磁石対および前記第2の磁石
対の少なくともどちらか一方の磁石対の、それぞれの前記基台側の前記磁石片と前記搬送
台側の前記磁石片の搬送台移動方向の長さが異なることを特徴とする。
【0017】
本発明では、第1の磁石対および第2の磁石対の少なくともどちらか一方の磁石対の、
対向する基台側磁石片と搬送台側磁石片の長さが異なるので、搬送台が移動した際に複数
の磁石片の端面が同時にすれ違うことがないので、磁石片が切り替わる時の浮上力変動お
よびコギング力が分散して発生するので、浮上特性および搬送特性がより安定した磁気式
浮上搬送装置を提供することができる。
【0018】
また、本発明における請求項5に係る発明は、前記第1の磁石対を前記搬送台移動方向
と直交する方向の幅の両端部側にそれぞれ設け、2つの前記第1の磁石対の前記基台側の
前記磁石の搬送台移動方向と直交する方向の幅間隔と、2つの前記第1の磁石対の前記搬
送台側の前記磁石の搬送台移動方向と直交する方向の幅間隔が異なり、幅間隔が狭いほう
の2つの前記磁石が、幅間隔が広いほうの2つの前記磁石の間にあることを特徴とする。
【0019】
本発明では、搬送台を上方に付勢する第1の磁石対を搬送台の幅方向両端部側にそれぞ
れ設け、例えば基台側の2つの磁石の幅間隔が搬送台側の2つの磁石の幅間隔より広く、
幅間隔の広い基台側の2つの磁石の間に幅間隔の狭い搬送台側の2つの磁石が入り込む構
成とした。
これにより、何らかの外力等により搬送台が幅方向にずれるように付勢された場合に、
この付勢力が搬送台側磁石と基台側磁石の反発力により低減されるので、より安定した磁
気式浮上搬送装置を提供することができる。
【0020】
また、本発明における請求項6に係る発明は、前記第2の磁石対を前記搬送台移動方向
と直交する方向の幅の両端部側にそれぞれ設け、2つの前記第2の磁石対の前記基台側の
前記磁石の搬送台移動方向と直交する方向の幅間隔と、2つの前記第2の磁石対の前記搬
送台側の前記磁石の搬送台移動方向と直交する方向の幅間隔が異なり、幅間隔が狭いほう
の2つの前記磁石が、幅間隔が広いほうの2つの前記磁石の間にあることを特徴とする。
【0021】
本発明では、搬送台を下方に付勢する第2の磁石対を搬送台の幅方向両端部側にそれぞ
れ設け、例えば基台側の2つの磁石の幅間隔が搬送台側の2つの磁石の幅間隔より広く、
幅間隔の広い基台側の2つの磁石の間に幅間隔の狭い搬送台側の2つの磁石が入り込む構
成とした。
これにより、何らかの外力等により搬送台が幅方向にずれるように付勢された場合に、
この付勢力が搬送台側磁石と基台側磁石の反発力により低減されるので、より安定した磁
気式浮上搬送装置を提供することができる。
【0022】
また、本発明における請求項7に係る発明は、前記磁気式送り機構は、前記搬送台の移
動方向と直交する回転軸を有する円筒状のピニオン磁石と、複数個の磁石片が前記搬送台
の移動方向に並べられたラック磁石よりなり、前記複数個の磁石片よりなる前記ラック磁
石の前記搬送台の移動方向の長さは、前記第1の磁石対の前記搬送台側の前記磁石の前記
搬送台の移動方向の長さより短いことを特徴とする。
【0023】
本発明では、磁気式送り機構を構成するラック磁石の搬送台移動方向の長さを、第1の
磁石対の搬送台側の磁石の搬送台移動方向の長さより短くしたので、搬送台が移動方向に
傾斜した場合、第1の磁石対の搬送台側磁石と基台側磁石の反発力により、傾斜が低減す
る方向に搬送台が付勢される。
これにより、搬送台が移動方向に傾斜した場合でも搬送台の吸着を避け傾斜を低減させ
ることが可能となり、より安定した磁気式浮上搬送装置を提供することができる。
【0024】
また、本発明における請求項8に係る発明は、前記第1の磁石対を前記搬送台搬送方向と直交する方向の幅の両端部側にそれぞれ設け、前記搬送台を移動させる前記磁気式送り機構を、前記搬送台の幅の両端部側に設けた前記第1の磁石対より前記搬送台の幅の中央寄りに配置したことを特徴とする。
【0025】
本発明では
基台側磁石および搬送台側の磁石からなる第1の磁石対は反発力により搬送台を上方に付勢する。これに対し、ラック磁石とピニオン磁石からなる磁気式送り機構では、ラック磁石とピニオン磁石間の吸引力により搬送台を下方に付勢する。
何らかの理由で搬送台が傾斜した場合、搬送台は幅の略中央を中心に回転し、幅の両端部の一方は上方に移動し他方は下方に移動する。下方に移動した端部側の第1の磁石対の基台側磁石と搬送台側の磁石は近接し、搬送台をより強く上方に付勢し搬送台の傾斜を低減させる様な力が働く。これに対し磁気式送り機構はラック磁石とピニオン磁石の距離が近づくと吸引力が増加して搬送台の傾斜を増加させる様な力が発生する。
本発明では磁気式送り機構を搬送台の幅の両端部側に設けた2つの第1の磁石対の間に配置したので、搬送台が傾斜した場合、傾斜によりラック磁石とピニオン磁石の距離が近づく量より搬送台の幅の端部側に設けた第1の磁石対の基台側磁石と搬送台側の磁石が近接する量のほうが必ず大きくなるので、磁気式送り機構による搬送台の傾斜を増加させる力より第1の磁石対による搬送台の傾斜を低減させる力のほうが大きくなり搬送台は水平に戻される。
これにより、搬送台が幅方向に傾斜した場合でも搬送台の吸着を避け傾斜を低減させることが可能となり、より安定した磁気式浮上搬送装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0026】
以上により、本発明による磁気式浮上搬送装置では、
搬送台を上方に付勢する第1の磁石対と下方に付勢する第2の磁石対を設けることによ
り、永久磁石のみで磁気浮上機構が構成でき、
磁石対の磁石を移動方向に並べた磁石片としたので、搬送距離が長くなっても磁石片の
使用数を増やすだけで用途や企画に応じた大きさの磁気浮上機構を容易に製作でき、
搬送台側磁石と基台側磁石を筐体壁で分離する必要がないので、筐体に容易に組み込み
可能な磁気浮上機構を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本発明の実施例の構成を示す図で、(a)は平面図、(b)は正面図である 。
図2】本実施例の構成を示す斜視図である。
図3】本実施例の構成を示す断面図で、(a)は磁気浮上機構の構成を示す図1( b)中のA−A位置の断面図、(b)は磁気式送り機構の構成を示す図1(b)中の B−B位置の断面図である。
図4】第1の磁石対の磁石片の端面形状による効果を示す図で、(a)は磁石片の 形状を示す平面図、(b)は端面形状の変更による反発力の変化を示すグラフ、(c )は端面形状の変更によるコギング力の変化を示すグラフである。
図5】磁石対の磁石の配置を説明する正面図で、(a)は通常時、(b)はずれ発 生時である。
図6】第1の磁石対と第2の磁石対による付勢力の解析結果を示すグラフである。
図7】特許文献1による磁気浮上搬送装置の構成を示す図である。
図8】特許文献2による磁気浮上搬送装置の構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明に係る磁気式浮上搬送装置の実施例を、図1から図5を参照に、詳細に説明する

はじめに、本実施例による磁気式浮上搬送装置の外観および概略構造を、図1および図
2を参照に説明する。なお、本実施例の説明中では図2中に方向指示矢印記号にて示す、
Xの方向を「移動方向X」、Yの方向を「幅方向Y」、Zの方向を「高さ方向Z」と記述
する。
【0029】
本実施例による磁気式浮上搬送装置は、図1および図2に示すように、略板状の基台1
0と、同じく略板状で、被搬送物を載置し基台10から浮上して保持され、基台10の長
手方向、すなわち移動方向Xに搬送される搬送台20、搬送台20を非接触で搬送する磁
気式送り機構50などより構成される。
【0030】
磁気式浮上搬送装置の幅方向の両端部側にはそれぞれ、搬送台20を上方に付勢する第
1の磁石対30と搬送台を下方に付勢する第2の磁石対40が設けられている。また、幅
方向Yの両端部側に設けられた2つの第1の磁石対30および第2の磁石対40より中央
よりの位置に、ラック磁石51およびピニオン磁石52よりなる磁気式送り機構50が設
けられている。
【0031】
搬送台20を上方に付勢する第1の磁石対30は、図3(a)に示すように、台座81
を介して基台10の上面側に取り付けられた基台側磁石31と搬送台20の下面側に取り
付けられた搬送台側磁石32よりなる。基台側磁石31と搬送台側磁石32は互いに反発
するような極性の配置としてあるので、第1の磁石対30の搬送台側磁石32は第1の磁
石対30の基台側磁石31により上方に付勢される。
【0032】
また、搬送台20を下方に付勢する第2の磁石対40は、基台10の上面の両側端に固
定された側板82の上面に固定された天板83の下面に取付けられた基台側磁石41と搬
送台20の上面側に取り付けられた搬送台側磁石42よりなる。基台側磁石41と搬送台
側磁石42は互いに反発するような極性の配置としてあるので、第2の磁石対40の搬送
台側磁石42は天板83の下面に取付けられた第2の磁石対40の基台側磁石41により
下方に付勢される。
【0033】
第1の磁石対30および第2の磁石対40のそれぞれの基台側磁石31,41および搬
送台側磁石32,42は、図3(a)に示すように、それぞれ複数の磁石片31a,41
a,32a,42aが移動方向Xに複数個並べられており、第1の磁石対30および第2
の磁石対40のそれぞれの基台側磁石31,41は基台10の移動方向Xの長さの略全長
にわたり並べられている。同様に第1の磁石対30および第2の磁石対40のそれぞれの
搬送台側磁石32,42は搬送台20の移動方向Xの長さの略全長にわたり並べられてい
る。
【0034】
上記のように本発明による磁気浮上搬送装置では、第1の磁石対30および第2の磁石
対40を構成する磁石を、移動方向Xに並べた複数個の磁石片としたので、用途目的等に
より搬送距離が変更されても磁石片の使用数を増減するだけで対応でき、柔軟な修正対応
が可能となる。
【0035】
また、本発明による磁気浮上搬送装置搬送台では、図3(b)に示すように、搬送台2
0の下面に移動方向Xに並べられた複数個の磁石片51aよりなるラック磁石51と、移
動方向Xと直交する幅方向Yと平行な向きの回転軸を有し、移動方向Xに複数個配置され
たピニオン磁石52よりなる磁気式送り機構50により、搬送台20を非接触で移動させ
る。
【0036】
ラック磁石51は隣接する個々の磁石片51aの極性が互いに異なるように並べられる
。また略円筒状のピニオン磁石52の円筒形状側面部は円周方向に並ぶ複数の領域に分割
され、隣接する領域が互いに異なる極性となるように着磁されている。
【0037】
ラック磁石51とピニオン磁石52はギャップを介して対向しており、複数のピニオン
磁石52が図示しない回転手段により回転させられると、ラック磁石51とピニオン磁石
52の磁気的な吸引力によりラック磁石51は移動方向Xに移動し、ラック磁石51が取
り付けられている搬送台20が非接触で移動させられる。
【0038】
なお、本発明による磁気浮上搬送装置では物品を置載して搬送する搬送台を浮上させる
磁気式浮上機構を、搬送台を上方に付勢する第1の磁石対30と搬送台を下方に付勢する
第2の磁石対40を有する構成とした。
【0039】
搬送台を上方および下方の両方向に付勢して搬送台を浮上させる構造は、図8に概略の
構成を示した特許文献2にも記載されており、浮力受け部973が第1の磁石手段973
aと第3の磁石手段961dの反発力で上方に付勢されるとともにガイド部961の上部
下面961eと浮力受け部の上面973bの反発力で下方に付勢される構成が示されてい
る。しかしながら上部下面961eと浮力受け部の上面973bの反発力による下方への
付勢の機能および効果は特許文献2には記載されていない。
【0040】
本発明による磁気浮上搬送装置でも搬送台20を上方に付勢するとともに下方にも付勢
する構成としており、本発明におけるこの構成の機能および効果を以下に記述する。
【0041】
この構成の第1の機能は、上方への付勢により搬送台を浮上させ、下方への付勢により
搬送台20が上昇しすぎて天板83等と接触することを回避することである。
【0042】
しかしながら、より重要なこの構成の第2の機能は、搬送台20の浮上特性の調整であ
る。搬送台20を上方および下方の両方向に付勢する構成とした場合の、第1の磁石対3
0および第2の磁石対40の付勢力の特性および結果として得られる搬送台20の浮上特
性の解析結果を、図6を参照して説明する。
【0043】
図6は第1の磁石対30および第2の磁石対40の大きさ、磁石間距離等の寸法仕様を
仮に設定して解析した結果で、横軸が第1の磁石対30の基台側磁石31と搬送台側磁石
32の磁石間距離で、縦軸は発生する付勢力である。付勢力は、図6のグラフ中に破線で
記入した第1の磁石対30に発生する搬送台20を上方に付勢する「上方付勢力」と、図
6のグラフ中に一点鎖線で記入した第2の磁石対40に発生する搬送台20を下方に付勢
する「下方付勢力」および、図6のグラフ中に実線で記入した上方付勢力と下方付勢力を
足し合せた「総合付勢力」を求めた。総合付勢力は第1の磁石対30および第2の磁石対
40により搬送台20が実際に受ける付勢力である。
【0044】
なお、本解析では解析対象である複数の磁石および搬送台,基台等の自重は考慮してい
ない。また、第2の磁石対40に発生する下方付勢力は搬送台20を下方に付勢するため
マイナスの値となる。
【0045】
図6のグラフに記載のように、第1の磁石対30に発生する上方付勢力は、磁石間距離
が10mmの時に約10kN発生し、磁石間距離が6mmの時には約15kN発生する。
同様に第2の磁石対40に発生する下方付勢力は、磁石間距離が10mmの時に約−7k
N発生し、磁石間距離が6mmの時には約−5kN発生する。この結果、上方付勢力と下
方付勢力を足し合せた総合付勢力は、磁石間距離が10mmの時に約3.4kN、磁石間
距離が6mmの時には9.5kNの上向きの付勢力となる。
【0046】
上記の「総合付勢力」の解析結果は、搬送台20を下向きに3.4kNで押すと磁石間
距離が10mmの位置で釣り合い、9.5kNで押すと磁石間距離が6mmで釣り合う、
という事を意味している。この釣り合い挙動から、搬送台20を下向きに4.8kNで押
すと磁石間距離は9mmとなる。
以上より、搬送台20にかかる力が3.4kNから4.8kNに変化、すなわち1.4
kN増えた場合、磁石間距離は10mmから9mmに、すなわち1mmだけ減少する。
【0047】
ところで、単に搬送台20を浮上させるのであれば第1の磁石対30による上方への付
勢のみでも良い。そこで、例えば第1の磁石対30の磁気特性を調整し、具体的には磁力
を弱くし、磁石間距離が10mmの時の付勢力が総合付勢力と同じ3.4kNになる様に
した場合の上方への付勢力を求めた。この結果を図6に「算出_上方付勢力」として2点
鎖線で記入した。
【0048】
この、磁石対を第1の磁石対のみとして磁気特性を調整した「算出_上方付勢力」では
図6のグラフに記載のように、搬送台20を下向きに3.4kNで押すと磁石間距離が
10mmの位置で釣り合い、4.8kNで押すと磁石間距離が6mmで釣り合う。
従って、搬送台20にかかる力が3.4kNから4.8kNに変化、すなわち1.4k
N増えた場合、磁石間距離は10mmから6mmに、すなわち4mm減少する。
【0049】
以上のことから、図6に示す磁石対の寸法仕様を仮設定した解析結果では、搬送台20
にかかる力が1.4kN増えた場合、搬送台20を上方に付勢する磁石対のみで浮上させ
ると磁石間距離が4mm変化するが、搬送台を上方に付勢する第1の磁石対30と下方に
付勢する第2の磁石対40を設けると磁石間距離の変化量は1mmに抑えられる。
【0050】
このように、搬送台20を上方に付勢する第1の磁石対30と下方に付勢する第2の磁
石対40を設け、搬送台20への上方の付勢力を下方への付勢力により一部相殺させるこ
とにより、重さの異なる被搬送物が搬送台20に乗せられた場合でも搬送台20の浮上量
の変動を小さく抑えることができるという効果が得られ、この結果 永久磁石のみで安定
して浮上保持できる磁気浮上機構を構成することが可能となる。
【0051】
なお、上記の付勢力の挙動特性は磁石対の寸法仕様を特定の値に仮設定した場合の特性
値で、磁石対の寸法仕様等を種々に調整することにより付勢力の挙動を所要の特性に合わ
せることが可能である。
【0052】
特に、本発明による磁気浮上搬送装置では、搬送台20を上方に付勢する第1の磁石対
30の磁石と、搬送台20を下方に付勢する第2の磁石対40の磁石の全てを独立した磁
石としたので、各磁石の大きさや磁石間の距離等を個別に変更して、上方の付勢力および
下方の付勢力を調整し、搬送台の浮上特性を所望の仕様に調整することが可能である。
【0053】
なお、磁石による吸引力,反発力は温度により変化することが知られており、一般的に
は温度が高くなると吸引力および反発力は低下する。このため本発明による磁気浮上搬送
装置でも、環境温度の変化等により使用している磁石の温度が上昇すると、搬送台20を
上方に付勢する第1の磁石対30の反発力および搬送台20を下方に付勢する第2の磁石
対40の反発力はどちらも低下する。
【0054】
浮上保持される搬送台20は、第1の磁石対30による上方への付勢力と、第2の磁石
対40による下方への付勢力と、搬送台20の自重および載置された被搬送物の重量によ
る下方への付勢により、浮上量が決まる。これらの付勢力のうち第1の磁石対30による
上方への付勢力と第2の磁石対40による下方への付勢力はどちらも温度上昇により低下
するため、両方向の付勢力によるバランスは概略保たれる。しかしながら搬送台20の自
重および載置された被搬送物の重量による下方への付勢力は温度上昇では変化しないので
、結果として温度上昇により搬送台20の浮上量は低下する。
【0055】
しかしながら、本発明による磁気浮上搬送装置では、搬送台20を上方に付勢する第1
の磁石対30の磁石と、搬送台20を下方に付勢する第2の磁石対40の磁石の全てを独
立した磁石としてあるので、第1の磁石対30を構成する磁石に温度上昇による吸引力、
反発力の低下率が小さい材種を選定し、第2の磁石対40を構成する磁石を温度上昇によ
る吸引力、反発力の低下率が大きい材種を選定することが可能である。これにより、温度
上昇にともなう第1の磁石対30による上方への付勢力の低下が抑えられ、第2の磁石対
40による下方への付勢力の低下が大きくなるので、搬送台20の自重および被搬送物の
重量による下方への付勢力とあいまって、両方向の付勢力によるバランスを調整すること
が可能となり、温度変化による浮上特性の変化を小さくすることが可能となる。
【0056】
また、本発明による磁気浮上搬送装置では、第1の磁石対30および第2の磁石対40
のおのおのに関し、おのおのの磁石対を構成する基台側磁石の磁石片31a,41aおよ
び搬送台側磁石の磁石片32a,42aの、少なくともどちらか一方は、図4(a)に示
すように、移動方向Xと交差する端面が移動方向Xに対し傾斜した形状、すなわち相手側
の磁石片と対向する面が略平行四辺形状となる形状とした。なお、前記の「移動方向Xと
交差する端面」を以降「移動方向端面」と記載する。
【0057】
一般的に、磁石片を並べて構成された2つの磁石を反発するように対向させて配置した
場合、磁石が移動し一方側の磁石片の移動方向端面の上方を他方側の磁石片の移動方向端
面が通過するとき、すなわち双方の磁石片の移動方向端面がすれ違うときに、図4(b)
に示すように磁石対の反発力が変動する。また同時に、図4(c)に示すような、コギン
グ力と呼ばれる移動方向Xの力が、双方の磁石片の移動方向端面を離間させる方向に発生
する。
【0058】
図4(b)、図4(c)のグラフでは、横軸は磁石片の移動量を示し、横軸の中央位置
は双方の磁石片の移動方向端面がすれ違う位置である。なお、移動方向端面が傾斜してい
る場合は、斜面の中央がすれ違う位置である。
【0059】
磁石片が単純な直方形で、相手側の磁石と対向する面が単純な長方形の場合、磁石対に
生じる反発力の変動およびコギング力は、それぞれ図4(b),図4(c)に「両磁石端
面傾斜なし」として破線で記した曲線となり、双方の磁石片の移動方向端面がすれ違う際
の反発力の変化は大きく、またコギング力の変化も大きい。
【0060】
これに対し、例えば基台側磁石31の磁石片31aの移動方向端面を傾斜させ、相手側
の磁石片と対向する面が略平行四辺形状となる形状とした場合、「片磁石端面傾斜あり」
として実線で記した曲線となり、反発力の変化量は減少し変化する範囲は広くなる。同様
にコギング力の変化量も減少しコギング力の正負極値が発生する位置間隔は広くなる。
【0061】
また、基台側磁石31および搬送台側磁石32の、両方の磁石片31a,32aの移動
方向端面を傾斜させた場合の「両磁石端面傾斜あり」として一点鎖線で記した曲線では、
反発力の変化量は減少し変化する範囲はさらに広くなる。同様にコギング力の変化量もさ
らに減少し、コギング力の正負極値間の間隔はより広くなる。
【0062】
本発明による磁気浮上搬送装置では、搬送台側磁石32の複数の磁石片32aおよび基
台側磁石31の複数の磁石片31aの少なくともどちらか一方の磁石片の移動方向端面を
傾斜させたので、搬送台が移動して両方の磁石片の移動方向端面がすれ違うときの浮上力
の変動およびコギング力を小さくでき、浮上特性および搬送特性がより安定した磁気式浮
上搬送装置を提供することができる。
【0063】
また、本発明による磁気浮上搬送装置では、図4(a)に示すように、例えば、第1の
磁石対30の、基台側磁石31の磁石片31aの移動方向Xの長さL1と搬送側磁石32
の磁石片32aの移動方向Xの長さL2を異なる長さとしている。
【0064】
もし、基台側磁石31の磁石片31aと搬送側磁石32の磁石片32aの長さを同一と
すると、搬送台20の移動した際、ある特定の位置で、全ての基台側磁石31の磁石片3
1aの移動方向端面と全ての搬送側磁石32の磁石片32aの移動方向端面が同時にすれ
違い、この特定の位置で大きな浮上力の変動およびコギング力が発生する。
【0065】
これに対し、基台側磁石31の磁石片31aと搬送側磁石32の磁石片32aを異なる
長さにすると、搬送台20が移動し、ある特定の磁石片31aの移動方向端面とある特定
の磁石片32aの移動方向端面がすれ違った瞬間には、ある特定の磁石片31aと隣接す
る磁石片31aの移動方向端面、およびある特定の磁石片32aと隣接する磁石片32a
の移動方向端面は一致しない。
【0066】
搬送台20が、更に磁石片31aの長さL1と磁石片32aの長さL2の差の距離を移
動すると、特定の磁石片31aと隣接する磁石片31aの移動方向端面と特定の磁石片3
2aと隣接する磁石片32aの移動方向端面がすれ違う。以降、搬送台20が磁石片31
aの長さL1と磁石片32aの長さL2の差の距離を移動する都度、さらに隣の磁石片3
1a,32aが順次すれ違う。
【0067】
以上より、本発明による磁気浮上搬送装置では、基台側磁石31の磁石片31aと搬送
側磁石32の磁石片32aを異なる長さにしたので、移動方向Xに並んだ基台側磁石31
および搬送側磁石32の双方の複数の磁石片31a,32aの端面は順次すれ違い、磁石
片31a,32aの移動方向側端面のすれ違いによる浮上力の変動およびコギング力は分
散して発生し大きな変動とならない。これにより、浮上特性および搬送特性がより安定し
た磁気式浮上搬送装置を提供することができる。
【0068】
なお、上記では第1の磁石対30を例に説明したが、第2の磁石対40の磁石片41a
,42aの長さに関しても同様な効果が得られる。また、第1の磁石対30と第2の磁石
対40の両方の磁石対に対し、基台側磁石31,41の磁石片31a,41aと搬送側磁
石32,42の磁石片32a,42aの長さを異なる長さとしてもよい。
【0069】
また、本発明による磁気浮上搬送装置では、図5(a)に示すように、2つの第1の磁
石対30を搬送台20の幅方向Yの両端部側にそれぞれ設け、例えば、2つの第1の磁石
対30を構成する2つの基台側磁石31の幅間隔を2つの搬送台側磁石32の幅間隔より
広くし、幅間隔が狭い2つの搬送台側磁石32は2つとも幅間隔が広い2つの基台側磁石
31の間にある構成とした。
図5(a)、図5(b)は、基台側磁石31の幅間隔と搬送台側磁石32の幅間隔の関
係を説明する磁気浮上搬送装置の正面図であるが、両端部側での基台側磁石31と搬送台
側磁石32の配置状態を明瞭にするため、幅中央部付近を記載せず幅両端部側を拡大して
記している。
【0070】
搬送台20が基台10の幅の中央にある場合、すなわち幅方向Yのずれがない場合、幅
間隔が広い2つの基台側磁石31の間に幅間隔が狭い2つの搬送台側磁石32を配置させ
たので、図5(a)に示すように、磁気浮上搬送装置の左側(以降「一方側」と記載する
。)の第1の磁石対30と、磁気浮上搬送装置の右側(以降「他方側」と記載する)の第
1の磁石対30を構成するそれぞれの基台側磁石31と搬送台側磁石32は幅方向Yにわ
ずかにずれて対向し、基台側磁石31と搬送台側磁石32には反発力が生じる。
【0071】
このとき、搬送台20は幅の中央にあるので、一方側の第1の磁石対30の基台側磁石
31と搬送台側磁石32の距離と、他方側の第1の磁石対30の基台側磁石31と搬送台
側磁石32の距離は等しい。従って、一方側の第1の磁石対30の基台側磁石31と搬送
台側磁石32に発生する搬送台20を他方側に付勢する反発力F1と、他方側の第1の磁
石対30の基台側磁石31と搬送台側磁石32に発生する搬送台20を一方側に付勢する
反発力F2は等しい。
【0072】
搬送台20は一方側の第1の磁石対30の搬送台側磁石32が受ける反発力F1と他方
側の第1の磁石対30の搬送台側磁石32が受ける反発力F2により幅方向Yに付勢され
るが、一方側第1の磁石対30に発生する反発力F1と他方側の第1の磁石対30に発生
する反発力F2は等しいので、搬送台20を幅方向Yに付勢する力は生じない。
【0073】
これに対し、搬送台20を幅方向Yにずらすような力、すなわち幅方向力をうけて、例
えば図5(b)に示すように、一方側への幅方向力FYにより搬送台20が一方側にずれ
た場合、一方側の第1の磁石対30の基台側磁石31と搬送台側磁石32の距離は減少し
、他方側の第1の磁石対30の基台側磁石31と搬送台側磁石32の距離は増加する。
2つの磁石に生じる反発力は磁石間の距離の二乗に反比例するので、磁石間距離が減少
した一方側の第1の磁石対30に発生する反発力F3は増加する。これに対し磁石間距離
が増加した他方側の第1の磁石対30に発生する反発力F4は減少するので、反発力F3
は反発力F4より大きくなる。
【0074】
図5(b)のような、搬送台20が一方側にずれた状態では、搬送台20を一方側に移
動させようとする反発力F4より、搬送台20を他方側に移動させようとする反発力F3
の方が大きいので、搬送台20は他方側に付勢され搬送台20を一方側にずらそうとする
幅方向力FYはこれに相殺されて減少する。
【0075】
以上より、搬送台20の幅方向Yの両端部側に2つの第1の磁石対30をそれぞれ設け
、2つの第1の磁石対30を構成する2つの基台側磁石31の間隔を2つの搬送台側磁石
32の間隔より広くし、間隔が狭い2つの搬送台側磁石32は2つとも幅間隔が広い2つ
の基台側磁石31の間にあるという構成にすることにより、搬送台20が幅方向Yにずら
されるような力を受けた場合、2つの第1の磁石対30の反発力により搬送台20を幅方
向Yにずらす力が低減させられるので、より安定した磁気式浮上搬送装置を提供すること
ができる。
【0076】
なお、上記では2つの基台側磁石31の間隔が2つの搬送台側磁石32の間隔より広い
場合を例に説明したが、基台側磁石31の間隔が搬送台側磁石32の間隔より狭い場合で
も同様な効果が得られる。
【0077】
また、上記では第1の磁石対30を例に説明したが、第2の磁石対40でも同様な効果
が得られ、更には第1の磁石対30と第2の磁石対40の両方に対して適用してもよい。
【0078】
ただし、上記のいずれの場合、すなわち基台側磁石31の間隔の方が広い場合でも狭い
場合でも、または第1の磁石対30の場合でも第2の磁石対40の場合でも、搬送台20
が大きくずれて、幅の狭いほうの磁石が幅の広いほうの磁石より外側までずれると、第1
の磁石対30または第2の磁石対40に生じる反発力では搬送台20を元の位置には戻す
ような付勢力は生じず、搬送台20の幅方向の安定性が損なわれる。
【0079】
この状況を避けるため、本発明による磁気浮上搬送装置では、搬送台20の側面に対向
する向きにガイドローラ84を設け、搬送台20の大きなずれを機械的に規制する構造と
した。ただし、ガイドローラ84は搬送台20が大きくずれた場合のみに動作し、搬送台
20がずれていない場合および搬送台20のずれが小さい場合は動作しないので、ガイド
ローラ84からの発塵は最小限に抑えられる。
【0080】
また、大きな幅方向力によりガイドローラ84と搬送台20が接触した場合でも、2つ
の基台側磁石の幅間隔と2つの搬送台側磁石の幅間隔に差を設け、幅間隔が狭い方の2つ
の磁石を2つとも幅間隔が広い方の磁石の間にある構成としたので、幅方向力が2つの磁
石対の反発力により低減させられ、ガイドローラ84からの発塵は、より最小限に抑えら
れる。
【0081】
なお、ガイドローラ84に代えて、またはガイドローラ84と併用して、ガイドローラ
84の配置位置と搬送台20の側面に、互いに反発する極性の磁石をそれぞれ設け、磁石
対の反発力により搬送台20の大きなずれを規制してもよい。
【0082】
また、本発明による磁気浮上搬送装置では、図3(a)、図3(b)に示すように、ラ
ック磁石51の移動方向Xの全長L4は、第1の磁石対30の搬送台側磁石32の移動方
向Xの全長L3より短い構成とした。
【0083】
もし、偶発的に搬送台20の移動方向の一方側端と他方側端の浮上高さが異なる状態に
なった場合、すなわち搬送台20が移動方向に対して傾斜した場合、傾斜によりラック磁
石51とピニオン磁石52は近接する。また、同時に第1の磁石対30の基台側磁石31
と搬送台側磁石32も近接する。この傾斜による磁石間の近接は、同じ傾斜量でも磁石の
全長が長いほうがより大きくなる。
【0084】
本発明による磁気浮上搬送装置では、ラック磁石51の全長L4を第1の磁石対30の
搬送台側磁石32の全長L3をより短くしたので、搬送台20が傾斜した場合、移動方向
Xの全長がより長い第1の磁石対30の基台側磁石31と搬送台側磁石32のほうが、ラ
ック磁石51とピニオン磁石52より大きく近づく。したがって搬送台20の移動方向X
に対する傾斜が大きくなった場合でも、第1の磁石対30の基台側磁石31と搬送台側磁
石32が先に接触し、ラック磁石51とピニオン磁石52は接触しない。
【0085】
第1の磁石対30では基台側磁石31と搬送台側磁石32は互いに反発するので、基台
側磁石31と搬送台側磁石32が接触しても基台側磁石31と搬送台側磁石32は吸着せ
ず反発し、この反発力により搬送台20は傾斜が低減する方向に付勢される。
【0086】
以上により、本発明による磁気浮上搬送装置では、ラック磁石51の全長L4を第1の
磁石対30の搬送台側磁石32の全長L3をより短くしたので、搬送台20が移動方向X
に対して傾斜した場合でもラック磁石51とピニオン磁石52の吸着を避け搬送台20の
傾斜を低減させることが可能となり、より安定した磁気式浮上搬送装置を提供することが
できる。
【0087】
以上、実施例により本発明の詳細を記載したが、本発明は実施例に記載された事項に限
定されるものではなく、本発明の分野における通常の知識を有する者であれば想到し得る
各種変形、修正を含む、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更があっても本発明に含
まれる。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明により、永久磁石のみで構成され筐体に容易に組み込み可能な磁気浮上搬送装置
の提供が可能となる。
【符号の説明】
【0089】
10 基台
20 搬送台
30 第1の磁石対
31 基台側磁石
31a 磁石片
32 搬送台側磁石
32a 磁石片
40 第2の磁石対
41 基台側磁石
41a 磁石片
42 搬送台側磁石
42a 磁石片
50 磁気式送り機構
51 ラック磁石
51a 磁石片
52 ピニオン磁石
81 台座
82 側板
83 天板
910 容器
911 浮上体
912 永久磁石
915 案内子
916 駆動機構
917 電磁石
919 位置センサ
961 ガイド部
961d 第3の磁石手段
961e 上部下面
963 第4の磁石手段
970 載置部
971 支持部
972 被牽引部
972a 第2の磁石手段
973 浮力受け部
973a 第1の磁石手段
973b 上面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8