(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6954667
(24)【登録日】2021年10月4日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】皮膚の粘弾性特性の測定方法および皮膚の粘弾性特性の測定装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/00 20060101AFI20211018BHJP
G01N 3/00 20060101ALI20211018BHJP
G01N 3/40 20060101ALI20211018BHJP
G01N 19/00 20060101ALI20211018BHJP
【FI】
A61B5/00 101N
G01N3/00 KZDM
G01N3/40 E
G01N19/00 A
G01N19/00 E
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-190318(P2019-190318)
(22)【出願日】2019年10月17日
(65)【公開番号】特開2021-65249(P2021-65249A)
(43)【公開日】2021年4月30日
【審査請求日】2020年7月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】317019889
【氏名又は名称】吉田 哲男
(72)【発明者】
【氏名】吉田 哲男
【審査官】
高松 大
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2005/100951(WO,A1)
【文献】
特開平07−116125(JP,A)
【文献】
特開2004−283547(JP,A)
【文献】
特開2012−130580(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00
G01N 3/00
G01N 3/40
G01N 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚の表面に、略半球状の圧子を瞬時に所定の量だけ押し込んで保持する手段と、前記圧
子を皮膚の表面に押し込んだ直後からの経過時間に対する前記圧子が皮膚から受ける反発
力を測定する手段と、前記経過時間に対する前記反発力の測定データを用いて、皮膚の粘
弾性特性を3素子型標準線形固体モデルの応力緩和関数で近似した場合のパラメータを求める手段と、これらのパラメータから、前記皮膚の複素弾性率の周波数特性を求める手段と、上記一連の手段により得られた皮膚の粘弾性特性を用いて、皮膚のかたさおよび皮膚のハリを数値化して表示する手段により構成される皮膚の粘弾性特性の測定方法において、
前記圧子が皮膚から受ける反発力を測定する手段として、同一仕様の2個の積層型圧電素
子を支持板に近接して接合し、一方の積層型圧電素子に先端が略半球状の柱状の圧子を接合するとともに、前記2個の積層型圧電素子を電気的に差動接続した圧力センサを用いることを特徴とする皮膚の粘弾性特性の測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の皮膚の粘弾性特性の測定方法を実施する皮膚の粘弾性特性の測定装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に皮膚など、比較的柔らかい物体の粘弾性特性を測定することが可能で、ハンディー型としても使用可能な粘弾性特性の測定方法およびこの測定方法を実施する皮膚の粘弾性特性の測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
物体の粘弾性特性は、物体の有する弾性的な性質と粘性的な性質を同時に表す特性で、物体に変形を加えた時の応力が時間の経過とともに減少するいわゆる応力緩和特性は、物体の粘弾性特性を表す典型的な特性である。
粘弾性特性の解析では、一般に、物体の弾性的な性質を貯蔵弾性率と呼び複素弾性率の実数部で表し、物体の粘性的な性質を損失弾性率と呼び複素弾性率の虚数部で表した、複素弾性率が用いられている。
皮膚は、表皮、真皮からなる多層構造となっており、各層の粘弾性特性が大きく異なることに加え、部位によって各層の厚さや各層の構造が異なるために、同じ人の同じ部位を測定した場合でも、測定圧子のサイズ、押込み深さ、測定周波数などの測定条件によって、得られる粘弾性特性が大きく異なることが知られている。
【0003】
非特許文献1には、「ヒトの皮膚は,非常に薄く弾性の高い角質細胞層の内部に弾性の高い真皮や皮下組織が配されている.ヒトの皮膚の多層構造を最も単純化し,最表層の角質層と深部の皮下組織によって構成される2層構造とした従来研究により,角質層の縦弾性係数が約7.2×10
-1MPa,皮下組織の縦弾性係数が約3.4×10
-2MPaであることが知られている.」と記載されている。
【0004】
また、従来の皮膚の評価は、主に「弾力」、「かたさ」、「ハリ」、「滑らかさ」など感応的な性質で評価が行われていたが、特許文献1の中で、皮膚の力学的特性、特に、皮膚のかたさと皮膚のハリをそれぞれ、「皮膚のかたさ= 弾性値」、「皮膚のハリ=弾性値/粘性値」として評価する方法が開示されている。つまり 、皮膚のかたさと皮膚のハリがそれぞれ、「皮膚の硬さ=貯蔵弾性率」、「皮膚のハリ=貯蔵弾性率/損失弾性率」で表されることを示しており、この方法は、皮膚の普遍的な評価基準として有効と思われる。しかしながら、貯蔵弾性率や損失弾性率、すなわち皮膚の複素弾性率を測定しようとした場合、従来の動的粘弾性測定装置は、装置が大型で、被測定試料を固定する必要があるため、人の身体の任意の部位の測定を行うのは困難であり、ハンディー型のプローブで複雑な皮膚の粘弾性特性の測定が可能な測定装置が望まれている。
【0005】
以下、従来、皮膚などの生体、食品、ゴム製品など、比較的柔らかい物体の粘弾性特性の測定において広く実施されている、動的粘弾性特性測定法、応力緩和測定法、および接触インピーダンス法について、その概要と、これらの測定方法を皮膚の粘弾性特性の測定に用いる場合の課題について説明する。
【0006】
動的粘弾性測定法は、物体に角周波数ωの振動歪みγ
0(ω)を与え、そのときの歪みγと応力σの振幅比および位相差δから物体の粘弾性特性である複素弾性率E*(ω)= E’(ω)+ j E’’(ω)を測定する方法であり、E’(ω)、E’’(ω)はそれぞれ、貯蔵弾性率、損失弾性率と呼ばれ、角周波数ωの関数である。動的粘弾性測定法は、1Hz以下の低い周波数から数100Hzまでの高い周波数の領域で、液体から固体までの物体の粘弾性特性の測定に広く使用されている。
【0007】
特許文献2には、動的粘弾性測定法による皮膚の粘弾性特性の測定方法として、皮膚の測定部位に回転あるいは直線方向の周期的力を付与し、この周期的力の波形と皮膚からの応力の波形とにより皮膚の力学的性質を測定する方法が開示されており、得られた測定データから、皮膚の粘性、弾性、周期的力の波形と皮膚からの応力の波形位相差(tanδ)、最大応力/最大振幅、応力-歪リサージュの面積、などから、皮膚の力学的性質を知る方法が示されている。
【0008】
また、非特許文献2には、
図1が開示され、「ヒト各部位(前腕屈側、手掌、手甲、額、頬、腹、背)の皮膚粘弾性の典型的な測定例が示されている。測定周波数は2Hz、振幅は2mmで、粘弾性リサージュ図(ヒステリシス曲線)は部位によって異なった形状を示し、感覚値と良く一致した。」と説明されている。つまり、皮膚を周期的に振動する圧子で所定量押込み、そのときの変位と反発力を測定し、その振幅比と位相差を測定する動的粘弾性測定法により、押込み量と加振周波数を適切に選べば、皮膚の各部の粘弾性特性を測定できることが示されている。
図1では、押込み量2mm、押込み周波数2Hzの条件で測定されているが、測定周波数は、
図1のヒステリシス曲線の面積が最大となる周波数、すなわち被測定粘弾性体の損失が極大値を示す周波数に選ぶことが望ましく、具体的には、各測定部位に対して、動的粘弾性測定法により、周波数を変化させて求めた損失弾性率E’’(ω)が極大値を示す周波数を選ぶのが最も適していると考えられる。
【0009】
また、特許文献3には、電磁コイルと前記永久磁石により発生した電磁力を、接触圧子を介して粘弾性体表面に印加して変形を与え、位置センサで前記接触圧子の位置を検出することにより、前記粘弾性体表面の変形過程及び電磁力を除去した後の粘弾性体表面の回復過程を測定する粘弾性体表面の力学特性測定装置が開示されており、具体的には、「接触圧子を被測定粘弾性体表面に当て、接触圧子の押圧を短時間でゼロから所定の目標値まで上げていき、所与の休止時間の後に突然ゼロまで下げ、接触圧子の押圧を除去した後の被検体表面の歪み量と時間の関係を測定することにより、数値解析により粘弾性体の弾性率と粘性率を算出する」と記載されているが、得られた測定データから具体的にどのような手順で、被検体の弾性率と粘性率を求めるのかが明らかになっていない。
【0010】
また、接触インピーダンス法は、圧電振動子や磁歪振動子の共振振動の腹の位置に半球状の接触子を装着して構成したセンサ振動子の無負荷状態における共振周波数frと共振抵抗Rに対して、一定の荷重で接触子を物体に押し付けたときの共振周波数f
rと共振抵抗Rの変化量△frと△Rから、その物体の粘弾性特性を測定する方法であり、特許文献4には、所定の周波数の振動が与えられる接触子と、接触子が人の肌面に接触されたときに、接触子の周波数の変化を測定する発振回路と、接触子が人の肌面に所定の圧力により押圧されたときに、肌面から受ける反力を測定する歪センサと、発振回路および歪センサによる肌面から受ける反力の測定結果に基づいて肌面の特性を測定する肌特性測定部とを有し、肌の表面弾力および肌の内部硬さの双方を同時にしかも肌面上の同一部位において測定することが可能な肌特性測定装置1が開示されているが、特許文献4に開示されている肌特性測定装置では、人の皮膚や食品などの粘弾性的な特性を、単に硬さ、あるいは弾力として測定しており、皮膚の粘弾性特性は測定されていない。
【0011】
さらに、接触インピーダンス法では、一般に、共振周波数が数10kHzから数100kHzの振動子が用いられるが、粘弾性体の複素弾性率は測定周波数によって大きく変化するため、接触インピーダンス法により得られた測定データには、常に測定周波数が測定条件となり、測定データに普遍性が欠けるという問題がある。
【0012】
図2は、粘弾性体に一定の歪を加えたときの経過時間に対する応力の変化を示す応力緩和特性のグラフを表しており、一般に応力緩和特性の測定では、
図2の特性を
図3に示す3 素子型標準線形固体モデルを利用して近似する方法が良く知られている。この場合、
図2 、
図3において、E
e、E
1は、それぞれ永久弾性率、緩和弾性率と呼ばれ、
図2のτは、緩和時間と呼ばれる。
図2の応力緩和特性は数式1の応力緩和関数で表され、
図3の3素子型標準線形固体モデルのη
tは粘性率で、緩和弾性率E
1と緩和時間τと数式2の関係がある。
【0013】
【数1】
【0014】
【数2】
【0015】
粘弾性体の応力緩和特性が数式1で表される場合、この粘弾性体の貯蔵弾性率E’(ω)と、損失弾性率E’(ω)は、それぞれ、数式3、数式4で与えられる。つまり、数式1の応力緩和関数のパラメータE
e、E
1、τが得られれば、動的粘弾性測定法によって得られるのと同じ複素弾性率E*(ω)を得ることができ、特許文献2、および非特許文献2に示されている、皮膚の粘性、弾性、位相差(tanδ)、最大応力/最大振幅、応力-歪リサージュの面積に対応する特性値などを求めることができ、皮膚の粘弾性特性を含む力学的性質を知ることができる。また、前述したヒステリシス曲線の面積が極大となる周波数f
0と緩和時間τとの間には数式5の関係があるため、緩和時間τが求められれば、数式6より、ヒステリシス曲線の面積が極大となる周波数f
0を求めることができる。
【0016】
【数3】
【0017】
【数4】
【0018】
【数5】
【0019】
【数6】
【0020】
上記に示した動的粘弾性測定法では、励振駆動力発生装置、振動変位センサ、圧力センサが必要で、装置が複雑で大型になる上に、駆動周波、駆動力、および振動幅制御のための回路や変位センサ出力と圧力センサ出力の間の位相検出回路などが必要となり、コストが高くなりことに加え、これらの回路や装置をハンディー型のプローブに内蔵するのが困難である。
【0021】
また、従来の応力緩和特性測定法では、永久弾性率E
eを正しく測定するために長い時間を必要とするため、測定時間が長くなることに加え、皮膚の粘弾性特性などの現実の粘弾性体の応力緩和特性を、広い経過時間領域で
図2および
図3に示した、3素子型標準線形固体モデルで近似させることが困難なことから、短時間の測定データから皮膚の粘弾性特性を評価するために有効な数式1の応力緩和関数の各パラメータを近似する方法が求められている。また、応力緩和特性測定法においても、小形でハンディー型のプローブに内蔵するのが可能な圧力センサが求められている。
【0022】
また、従来の応力緩和特性測定法では、歪ゲージ方式、静電容量方式、差動トランス方式などの圧力センサが用いられているが、これらは、直流的な圧力の測定が可能であるという利点があるが、歪ゲージ方式の圧力センサを肌弾力センサとして用いる場合、歪ゲージを感圧基板に接着する必要があり、接着により特性のばらつきを生ずると言う問題がある。さらに、この感圧基板に先端に半球状圧子を有する柱状圧子接合する必要もあり構造が複雑になる。
また、静電容量型圧力センサは、マイクロマシン技術により製作されるため、超小型のセンサが得られるが、これを肌弾力センサとして利用する場合、圧力センサと前記半球状圧子を接合するのが難しいと言う問題がる。
また、差動トランス方式の圧力センサを肌弾力センサとして用いる場合、位置検出用の差動トランスと荷重印加用のコイルバネを組み合わせる必要があり、ハンディー型のプローブを構成するためには大きすぎると言う問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開平1−115342号公報
【特許文献2】特開昭61−181436号公報
【特許文献3】特開2004−85548号公報
【特許文献4】特開2011−130805号公報
【非特許文献】
【0024】
【非特許文献1】白土寛和、他;「肌質感を呈する人工皮膚の開発」: 日本機械学会論文集(C 編)73 巻726 号, pp541-546(2007-2)
【非特許文献2】梅屋潤一郎;「皮膚の粘弾性測定装置の開発とレオロジー的解析」; 日本レオロジー学会論文誌 Vol.23 No.4 pp197-206(1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
本発明では、ハンディー型のプローブへの搭載が容易な、構造が簡単で小型の圧力センサを提供するとともに、この圧力センサを用いて得られた皮膚の応力緩和特性の測定データから、長くても2秒以内で、3素子型標準線形固体モデルで近似させた応力緩和関数のパラメータを求め、これらのパラメータから、動的粘弾性測定法により得られる特性と同じ複素弾性率を求めることが可能な、皮膚の粘弾性特性測定方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明によれば、 皮膚の表面に、略半球状の圧子を瞬時に所定の量だけ押し込んで保持する手段と、前記圧子を皮膚の表面に押し込んだ直後からの経過時間に対する前記圧子が皮膚から受ける反発力を測定する手段と、前記経過時間に対する前記反発力の測定データを用いて、皮膚の粘弾性特性を3素子型標準線形固体モデルの応力緩和関数で近似した場合のパラメータを求める手段と、これらのパラメータから、前記皮膚の複素弾性率、損失係数tanδなどの周波数特性を求める手段と、上記一連の手段により得られた皮膚の粘弾性特性を用いて、皮膚の弾力および皮膚のハリなどを数値化して表示する手段により構成される皮膚の粘弾性特性の測定方法において、
前記圧子が皮膚から受ける反発力を測定する手段として、同一仕様の2個の積層型圧電素子を支持板に近接して接合し、一方の積層型圧電素子に略半球状の柱状圧子を接合するとともに、前記2個の積層型圧電素子を電気的に差動接続した圧力センサを用いることを特徴とする皮膚の粘弾性特性の測定方法が得られる。
【0027】
また、本発明によれば、皮膚の表面に、略半球状の圧子を瞬時に所定の量だけ押し込んで保持する手段と、前記圧子を皮膚の表面に押し込んだ直後からの経過時間に対する前記圧子が皮膚から受ける反発力を測定する手段と、前記経過時間に対する前記反発力の測定データを用いて、皮膚の粘弾性特性を3素子型標準線形固体モデルの応力緩和関数で近似した場合のパラメータを求める手段と、これらのパラメータから、前記皮膚の複素弾性率、損失係数tanδなどの周波数特性を求める手段と、上記一連の手段により得られた皮膚の粘弾性特性を用いて、皮膚の弾力および皮膚のハリなどを数値化して表示する手段により構成される皮膚の粘弾性特性の測定方法において、
前記圧子が皮膚から受ける反発力を測定する手段として、同一仕様の2個の積層型圧電素子を支持板に近接して接合し、一方の積層型圧電素子に略半球状の柱状圧子を接合するとともに、前記2個の積層型圧電素子を電気的に差動接続した圧力センサを用いることを特徴とする皮膚の粘弾性特性の測定方法を実施する皮膚の粘弾性特性の測定装置が得られる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、ハンディー型のプローブへの搭載が容易な、構造が簡単で小型化が容易な積層型圧電素子方式の圧力センサを用いて、動的粘弾性測定法により得られるのと同じ複素弾性率E*(ω)と同じ特性の測定が可能で、長くても2秒以内の皮膚の応力緩和特性の測定データから、3素子型標準線形固体モデルで近似させた応力緩和関数のパラメータを求めることができ、得られたパラメータを用いて、皮膚の粘弾性特性の測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図2】は、粘弾性体に一定の歪を加えたときの経過時間に対する応力の変化を示す 応力緩和特性のグラフである
【
図3】は、応力緩和特性の解析に用いられる3素子型標準線形固体モデルの等価回路である
【
図4】は、本発明の皮膚の粘弾性特性の測定方法に用いられる圧電方式の圧力センサの構造例を示す断面図である
【
図5】は、
図4に示した圧力センサ1で用いられる積層型圧電素子2および3の構造例である
【
図6】は、本発明の皮膚の粘弾性特性測定方法に用いられる圧電方式の圧力センサの検出回路の構成例である
【
図7】は、本発明の皮膚の粘弾性特性の測定方法に用いる前記圧力センサを測定プローブの先端に組み込んだ場合の構造例を示す断面図である
【
図8】は、本発明の皮膚の粘弾性特性測装置に用いられる圧力センサを用いた皮膚の粘弾性測定プローブの構造例を示す断面図である
【
図10】は、修正指数関数のパラメータを計算するための部分和を求める表である
【
図11】は、応力緩和特性の測定データに修正指数関数のパラメータ推定法を適用し て得られた計算例である
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、皮膚の粘弾性特性の測定方法であって、同一仕様の2個の積層型圧電素子を支持板に近接して接合し、一方の積層型圧電素子に略半球状の柱状圧子を接合し、皮膚の表面に、前記圧子を瞬時に所定の量だけ押し込んで保持したときに、前記皮膚から受ける反発力が、前記圧子が接合された積層型圧電素子の積層方向に印加されるように構成するとともに、前記2個の積層型圧電素子を電気的に差動接続して圧力センサを構成し、前記圧子を皮膚の表面に押し込んだ直後からの経過時間に対する前記反発力を前記圧力センサにより測定し、経過時間に対する前記反発力の測定データを用いて、皮膚の粘弾性特性を3素子型標準線形固体モデルの応力緩和関数で近似した場合のパラメータを求め、得られたパラメータから、皮膚の複素弾性率、損失係数tanδなどの周波数特性を求め、皮膚の弾力および皮膚のハリなどを数値化して表示することが可能な皮膚の粘弾性特性の測定方法およびこの測定方法を実施する皮膚の粘弾性特性の測定装置である。
【0031】
図4は、本発明の皮膚の粘弾性特性の測定方法に用いられる圧力センサ1の構造例を示す断面図であり、同一仕様の積層型圧電素子2と4が支持板4の表裏両面のほぼ中央部にそれぞれ、積層面と支持板4の主面を平行に対向して接合され、一方の積層型圧電素子2の支持板4との接合面と対向する面に、先端部の形状が略半球状の円柱状圧子5が接合され、前記支持板4の両端が支持枠6接合されている。皮膚から受ける反発力は円柱状圧子5を介して積層型圧電素子2の積層方向に印加されるように構成されている。他方の積層型圧電素子3は、補正用積層型圧電素子で、皮膚から受ける反発力を検出するために用いられる積層型圧電素子2とできるだけ近接した位置に装着され、主に周囲温度の変化などの環境条件による積層型圧電素子2の特性変化を補正するために用いられる。
【0032】
図5は、
図4に示した圧力センサ1で用いられる積層型圧電素子2および3の構造例であり、電極膜7が形成された圧電セラミックシート8を複数層積層して焼結した後で、所定の寸法に切り出し、互いに一層おきの電極膜7を、それぞれ接続電極9と10により接続して2端子素子としている。このようにして得られる積層型圧電素子は、静電容量Csの値が大きくなるという特徴を有しており、同様な技術によりセラミック材料として高い誘電率を有する材料を用いた場合に得られる積層型セラミックコンデンサは、小型で大容量のコンデンサとして広く用いられている。
【0033】
一般に、圧力センサとしては、歪ゲージ方式の圧力センサや静電容量変化型圧力センサなど、直流的な圧力の検出が可能な圧力センサが広く利用されているが、これ等の圧力センサよりも構造が簡単な圧力センサとして圧電方式の圧力センサが良く知られている。しかし、圧電方式の圧力センサを使用した場合、印加された圧力によって発生した電荷が、負荷抵抗を介して放電されてしまうため、原理的に交流的な圧力変化に対する圧力センサとして、主に振動センサとして使用されている。
しかしながら、圧電方式の圧力センサにおいても、圧電素子として積層型圧電素子を用いて静電容量C
sを大きくし、FETやオペアンプを用いて実効的な負荷抵抗R
Lの値を大きくすれば、静電容量C
sと負荷抵抗R
Lの積で与えられる放電時定数τ
eの値を、容易に数秒〜10秒にすることができ、このままでも、異なる皮膚の粘弾性特性を反発力の大きさの違いと緩和時間τの違いとして測定することができるが、さらに、圧電方式の圧力センサの出力電圧が、発生する反発力と圧力センサの放電時定数τ
eを含む感度特性の積で与えられるので、あらかじめ、圧力センサの放電時定数τ
eを含む感度特性を把握し、得られた圧力センサの出力電圧に対して補正を加えることにより、応力緩和特性を正しく測定することができる。
【0034】
本発明では、センサ素子として積層型圧電素子を用いることに加え、2個の積層型圧電素子を支持板に近接して配置し、一方の積層型圧電素子に略半球状の柱状圧子を接合し、この積層型圧電素子に皮膚からの反発力が印加されるように構成している。このようにすること、 圧力センサとして積層型圧電素子を用いた場合でも、負荷抵抗を数10MΩ以上にすることにより、1Hz以下の低周波の圧力を検出することができる。
【0035】
しかしながら、負荷抵抗を大きくした場合、誘導ノイズの影響を受けやすくなり、誘導ノイズは、リード線や増幅回路に対して同相に発生することが多く、これを防ぐために、差動増幅回路が用いている。
図6は、本発明の皮膚の粘弾性特性の測定方法の測定プローブに用いられる圧電方式の圧力センサにおける検出回路構成例であり、皮膚から受ける反発力が積層型圧電素子2と補正用積層型圧電素子3の出力が2個のオペアンプからなるボルテージフォロア11、12に接続され、ボルテージフォロア11、12の出力は差動アンプ13に接続されている。
図6の回路構成とすることにより、ボルテージフォロア11、12により、積層型圧電素子2,3それぞれの負荷抵抗を容易に数10MΩ以上にすることが可能となり、放電時定数τ
eの値を、容易に、5秒以上にすることが可能になり、補正用積層型圧電素子3の出力と検出用積層型圧電素子2の出力を差動アンプ13に接続することにより、周囲温度変化などの環境変化による特性変動を補正することが可能になり、同時に、誘導ノイズを除去することができる。
【0036】
図7は、前記圧力センサを測定プローブの先端に組み込んだ場合の構造例を示す断面図である。前記圧力センサ1は、先端に開口部14を有する圧力センサホルダ15に、前記圧力センサ1の円柱状圧子5の先端部を前記開口部14より、プローブ先端の端面16から所定の量だけ突出させるように固定されている。圧力センサホルダ15の端面16は平らに加工されているため、測定プローブを皮膚に垂直に当接した場合、前記円柱状圧子5の突出量だけ皮膚を押し込むことになり、測定プローブを通常の速さで皮膚に当接することにより、近似的に瞬時に皮膚に前記円柱状圧子5を押し込むことができる。
【0037】
図8は、本発明の皮膚の粘弾性特性の測装方法に用いられる圧力センサを用いた皮膚の粘弾性測定プローブ17の構造例を示す断面図であり、
図8(a)は、測定の待機状態で、前記円柱状圧子5の先端が測定プローブの圧力センサホルダ15の端面16から凹んでおり、
図8(b)は、測定時の状態で、前記円柱状圧子5の先端が測定プローブの圧力センサホルダ15の端面16から所定の量だけ突出している。
図8では、前記圧力センサ1を直動式の電磁ソレノイド18の可動軸19に接合し、待機時は前記前記円柱状圧子5をセンサホルダ15の端面16から凹ませるようにコイルバネ20が作用し、測定時には、前記電磁ソレノイド18に通電することにより、
図8(b)に示すように可動軸19が下方向に移動し、前記円柱状圧子5の先端部が圧力センサホルダ15の端面16から所定の量だけ突出する。測定プローブを皮膚に垂直に当接した状態で、前記電磁ソレノイド18を駆動させることにより、プローブをより正しい位置で保持した状態で、前記円柱状圧子5を突出させることが可能となり、高精度の測定が可能となる。
【0038】
本発明では、先端が略半球状の円柱状圧子を所定の量だけ皮膚に押込み、押込み直後からの経過時間に対する皮膚からの反発力の変化を測定し、この測定データから皮膚の粘弾性特性を求めている。 反発力は皮膚の弾性率に比例するので、得られた測定データは、
図2に示すような応力緩和特性を示すことになる。
図2の応力緩和特性の測定データから、短時間で数式1の応力緩和関数のパラメータEe、E
1、τを求める方法の一つとして、「修正指数関数のパラメータ推定法」について説明する。 修正指数関数は、一般に数式7で表される関数で、tは0、1、2・・という値をとる時間変 数で、a<0、0<b<1のとき、
図9に示す関数となり、修正指数関数の3個の未知パラメータK 、a、bは、応力緩和特性の測定データから以下の手順1および手順2により求めることがで きる。修正指数関数の3個パラメータK、a、bが得られれば、手順3により、数式1の応力緩和関数のパラメータEe、E
1、τを求めることができる。
【0040】
(手順1)
図10に示すように、計測値をn個ずつの3つの組に分け、それぞれの組のデータの値の和を、部分和S
1、S
2、S
3とする。
(手順2)
図10の部分和S
1、S
2 、S
3を用いて、数式8、数式9、数式10から、修正指数関数 のパラメータb、a、Kを求める。
【0044】
(手順3) 数式1と数式5を比較して、数式11、数式12、数式13により、数式1の応力緩和関数のパラメータを求める。
【0048】
ただし、数式13の△tは、数式7において、0、1、2・・という値をとる時間変数tを実時間に変換するための係数で、
図2の応力緩和特性データを取得する測定時間ピッチである。
【0049】
図11は、皮膚に近い弾性率のシリコ−ンゴム製の試料を用いて測定した応力緩和特性の測定データに修正指数関数のパラメータ推定法を適用した場合の計算例であり、3つの図は、それぞれ、1つのグルーブのデータ数nを、n=5、n=10、n=20とした場合の計算例を実測値と比較して示している。それぞれの図のタイトルには、nの値と計算に用いたデータ数と測定時間ピッチの積で与えられる測定に要する時間を示しており、n=5、n=10、n=20とした場合のそれぞれの所要時間が、それぞれ、約0.3秒、0.6秒、1.2秒であることを示している。さらに、それぞれの図中には、得られた数式1の応力緩和関数のパラメータE
e、E
1、τを示している。
図11において、E
e、E
1、の単位はPaで、時刻tの単位sは秒である。
【0050】
前述したように、緩和時間τがわかれば、ヒステリシス曲線の面積が極大となる周波数f
0 を求めることができるので、それぞれの条件で得られた緩和時間τの推定値から求めたn= 5、n=10、n=20とした場合のf
0の推定値は、それぞれ、1.6Hz、0.8Hz、0.4Hzとなる。つまり、
図11からわかるように、修正指数関数を用いた近似法では、1つのグループのデータ数nにより近似精度の良い経過時間領域が変化するとともに、得られた数式1の応力緩和関数のパラメータE
e、E
1、τの値も変化している。しかし、本来、皮膚の粘弾性特性などの現実の粘弾性体の応力緩和特性は、広い経過時間領域で
図2および
図3に示した、「3素子型標準線形固体モデル」で近似させることが困難であるので、本発明の修正指数関数によるパラメータ推定法を適用することにより、1つのグループのデータ数nによる近似精度および近似限界などが明らかになり、測定対象を皮膚などに限定するとともに、1つのグループのデータ数nを適切に選ぶことにより、皮膚の粘弾性特性に関する有効なデータを得ることができる。
【0051】
例えば、
図1に示されているデータによれば、加振周波数2Hzで印加歪みと発生応力との間のヒステリシスが大きくなっており、この周波数付近で損失弾性率E’’(ω)が極大値を示していることがわかる。f
0=2Hzとすると、数式6の関係から緩和時間τは約0.08秒となる。つまり、この場合は、τ≒0.1秒付近の近似精度が高い近似条件が適していると考えられる。
図11に示したシリコンゴムサンプルの場合では、n=5のときτ=0.1秒となっており、
図11からも、経過時間0.3秒付近まで、実測値と計算値が良く一致していることがわかる 。
【0052】
以上、本発明において、応力緩和特性の測定データから、3素子型標準線形固体モデルの応力緩和関数のパラメータを推定する方法として、(a)修正指数関数のパラメータ推定法を用いる場合方法について説明したが、他の方法、例えば一般的な最小二乗法などを適用して求めても良い。
【0053】
また、本発明は主に皮膚の粘弾性特性の測定に使用されるが、本発明の粘弾性特性の測定方法をゴムや食品などの比較的柔らかい物体の粘弾性特性の測定に使用しても良いことは言うまでもないことである。
【0054】
また、本発明の圧電方式の圧力センサの説明では、先端が略半球状の円柱状圧子を用いた場合について説明したが、柱状部分の形状は、正方形断面の角柱であっても良い。
【符号の説明】
【0055】
1:圧力センサ
2,3:積層型圧電素子
4:支持板
5:先端が略半球状の円柱状圧子
6:支持枠
7:電極膜
8:圧電セラミックシート
9,10:接続電極
11,12:ボルテージフォロア
13:差動アンプ
14:開口部
15:圧力センサホルダ
16:圧力センサホルダ15の端面
17:測定プローブ
18:電磁ソレノイド
19:可動軸
20:コイルバネ