特許第6954711号(P6954711)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6954711
(24)【登録日】2021年10月4日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】真正膵臓前駆細胞の単離
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0775 20100101AFI20211018BHJP
   C12N 5/077 20100101ALI20211018BHJP
【FI】
   C12N5/0775
   C12N5/077
【請求項の数】16
【全頁数】61
(21)【出願番号】特願2017-555508(P2017-555508)
(86)(22)【出願日】2016年4月21日
(65)【公表番号】特表2018-512886(P2018-512886A)
(43)【公表日】2018年5月24日
(86)【国際出願番号】EP2016058920
(87)【国際公開番号】WO2016170069
(87)【国際公開日】20161027
【審査請求日】2019年3月4日
(31)【優先権主張番号】15164999.3
(32)【優先日】2015年4月24日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】516376341
【氏名又は名称】ユニバーシティ オブ コペンハーゲン
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100211199
【弁理士】
【氏名又は名称】原田 さやか
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】アメリ, ジャクリーン
(72)【発明者】
【氏名】センブ, ヘンリック
【審査官】 長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0263896(US,A1)
【文献】 国際公開第03/087349(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0309769(US,A1)
【文献】 STEM CELLS, 2013, Vol.31, p.2432-2442
【文献】 PLOS ONE, 2014, Vol.9, No.12, e115421, p.1-21
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/0775
C12N 5/077
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真正膵臓前駆細胞が富化された集団を単離するための方法であって、
i)少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団を提供し、ここでの該真正膵臓前駆細胞はPDX1及びNKX6−1を発現する工程と;
ii)前記細胞集団を、PDX1NKX6−1細胞に特異的な第3のマーカーに結合する第3のリガンドに曝露させて、前記細胞集団から前記第3のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1NKX6−1細胞について前記細胞集団を富化させる工程とを具備し、
前記第3のマーカーがGP2であり、
それによって真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を得る方法。
【請求項2】
前記細胞集団を、PDX1細胞に特異的な第1のマーカーに結合する第1のリガンドに曝露させて、前記細胞集団から前記第1のリガンドに結合しない細胞を選択し、それによりPDX1細胞について前記細胞集団を富化させること、及び/又はPDX1細胞に特異的な第2のマーカーに結合する第2のリガンドに曝露させて、前記細胞集団から前記第2のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1細胞について前記細胞集団を富化させることをさらに具備する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を製造する方法であって、前記富化された細胞集団は少なくとも70%の真正膵臓前駆細胞を含み、
i)少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団を提供し、ここでの該真正膵臓前駆細胞はPDX1及びNKX6−1を発現する工程と;
ii)前記細胞集団を、PDX1NKX6−1細胞に特異的な第3のマーカーに結合する第3のリガンドに曝露させて、前記細胞集団から前記第3のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1NKX6−1細胞について前記細胞集団を富化させる工程とを具備し、
前記第3のマーカーがGP2であり、
それによって真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を得る方法。
【請求項4】
前記細胞集団を、PDX1細胞に特異的な第1のマーカーに結合する第1のリガンドに曝露させて、前記細胞集団から前記第1のリガンドに結合しない細胞を選択し、それによりPDX1細胞について前記細胞集団を富化させること、及び/又はPDX1細胞に特異的な第2のマーカーに結合する第2のリガンドに曝露させて、前記細胞集団から前記第2のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1細胞について前記細胞集団を富化させることをさらに具備する、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記第3のリガンドはGP2に対して向けられる抗体又はその断片である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記第1のマーカーがCD49dである、請求項2又は4に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のリガンドは、CD49dに対して向けられる抗体又はその断片である、請求項2又は4に記載の方法。
【請求項8】
前記第2のマーカーは、FOLR1、CDH1/ECAD、F3/CD142、PDX1、FOXA2、EPCAM、HES1及びGATA4からなる群から選択される、請求項2又は4に記載の方法。
【請求項9】
前記第2のリガンドは、FOLR1、CDH1/ECAD、F3/CD142、PDX1、FOXA2、EPCAM、HES1及びGATA4からなる群から選択される標的に対して向けられる抗体又はその断片である、請求項2又は4に記載の方法。
【請求項10】
前記第2のリガンドはFOLR1に対して向けられる抗体又はその断片である、請求項2又は4に記載の方法。
【請求項11】
記第1のリガンドはCD49dに対して向けられる抗体又はその断片であり、また前記第3のリガンドはGP2に対して向けられる抗体又はその断片である、請求項2又は4に記載の方法。
【請求項12】
記第1のリガンドはCD49dに対して向けられる抗体又はその断片であり、前記第2のリガンドはFOLR1に対して向けられる抗体又はその断片であり、また前記第3のリガンドはGP2に対して向けられる抗体又はその断片である、請求項2又は4に記載の方法。
【請求項13】
記真正膵臓前駆細胞は、ヒト万能性幹細胞のような分化できる細胞に由来する、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
記分化できる細胞は、ヒトiPS細胞(hIPSC)、ヒトES細胞(hESC)及びナイーブヒト幹細胞(NhSC)からなる群から選択される、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
記分化できる細胞は、個体から単離された細胞に由来する、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
前記真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団の少なくとも一部のインスリン産生細胞への分化を誘導する工程、及び該インスリン産生細胞を単離する工程から選択される工程を更に含む、請求項1〜15のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は真正膵臓前駆細胞を単離するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インスリン依存性糖尿病の細胞療法による治療は、ヒト膵島と同様に機能でき、機能できると思われる膵臓細胞の無制限数の産生によって促進される。従って、ヒト胚性幹(hES)細胞に由来するこれら膵臓細胞型を産生すること、及びそのような細胞を精製するための信頼できる方法が必要とされている。例えば、ヒト胚性幹細胞(hESC)に由来するインスリン産生β細胞の使用は、ドナー膵臓由来の細胞を利用する現在の細胞療法を凌駕する大幅な改善を提供する。現在、ドナー膵臓由来の細胞を利用した1型または2型糖尿病のような真性糖尿病に対する細胞療法は、移植に必要な高品質の膵島細胞の不足によって制限される。例えば、一人の1型糖尿病患者のための細胞療法には、約8×10個の膵島細胞を必要とする(Shapiro et al, 2000, N Engl J Med 343:230−238;Shapiro et al, 2001a, Best Pract Res Clin Endocrinol Metab 15:241− 264;Shapiro et al, 2001b, British Medical Journal 322:861)。従って、移植を成功させるのに十分な島細胞を得るためには、少なくとも二つ健康なドナー器官が必要とされる。
【0003】
従って、胚性幹(ES)細胞は、初期胚における万能性細胞生物学及び分化の基礎をなすメカニズム研究のための強力なモデルシステムを代表すると共に、哺乳動物の遺伝子操作のための機会を提供し、またその結果としての商業的、医学的及び農業的応用を提供する。更に、ES細胞の適切な増殖及び分化は、潜在的に、細胞損傷または機能不全に起因した疾患を治療するための移植に適した、無限の細胞源を生成するために使用することができる。初期原始外胚葉様(EPL)細胞、インビボまたはインビトロで誘導されたICM/胚盤葉、インビボまたはインビトロで誘導された原始外胚葉、原始生殖細胞(EG細胞)、奇形癌細胞(EC細胞)、及び脱分化または核移植により誘導された万能性細胞を含む、他の万能性細胞及び万能性細胞株もまた使用することができる。
従って、真正膵臓前駆細胞の単離方法が必要とされている。
【発明の概要】
【0004】
本発明は、PDX1及びNKX6.1を発現する真正膵臓前駆細胞を単離するための方法を提供する。該方法は、PDX1及び/またはNKX6.1発現細胞に特異的なマーカーの使用、またはPDX1を発現しない細胞に特異的なマーカーの使用に基づいている。そのような方法によって得られる細胞集団、ならびに代謝障害を治療するためのそれらの使用もまた提供される。
【図面の簡単な説明】
【0005】
図1A】ヒトPDX1遺伝子座へのeGFPのターゲッティング。緑色蛍光タンパク質をコードする遺伝子(eGFP)を、hPS細胞株HUES−4におけるPDX1遺伝子の5’非翻訳領域(UTR)に挿入した。BDプライマーはWTアレルを増幅し、ACプライマーは全てのトランスジェニッククローンを増幅し、またADプライマーは標的アレル(3’HA)を増幅する。
図1B】ヒトPDX1遺伝子座へのeGFPのターゲッティング。Neo/F及びEx3/Rプライマー(断片サイズ5,1kb)を用いた4つの個々のクローン(レーン1及び4:遺伝子ターゲティングについて陽性のクローン;レーン2)についての、4つのターゲッティング事象の代表的なPCRスクリーニングを示す。PDX1遺伝子座に組み込まれたレポーターカセットを含むPDXI eGFP BACを陽性対照(BAC)として使用した。
図1C】ヒトPDX1遺伝子座へのeGFPのターゲッティング。3つの異なるhPS細胞株において得られた相対的なターゲッティング効率を示す表。
図1D】ヒトPDX1遺伝子座へのeGFPのターゲッティング。13日目における標的PDX1−eGFP hES細胞株の、蛍光画像及び対応する位相コントラスト画像が示されている。スケールバー=100μm。
図1E】ヒトPDX1遺伝子座へのeGFPのターゲッティング。16日目における内因性PDX1発現(赤色)のGFP(緑色)との共局在を示す、PDX1−GFP標的細胞株の免疫蛍光画像。スケールバー=50μm。
図1F】ヒトPDX1遺伝子座へのeGFPのターゲッティング。17日目におけるPDX1−eGFP+細胞集団の免疫蛍光分析。有意な数のGFP+/PDX1+細胞がNKX6−1及びSOX9を同時発現した。大部分のPDX1+細胞もまた、ECAD及びHES1を発現した(データは示さず)。スケールバー=50μm。
図2A】インビトロで分化されたPDX1−eGFP hPSCの分析。hPSCを2つの異なる分化プロトコルに従って分化させ、PDX1及びNKX6−1を発現する膵臓前駆細胞(プロトコルA(PE))、またはPDX1を発現するがNKX6−1を欠く後部前腸細胞(プロトコルB(PFG))の何れかを得た。
図2B】インビトロで分化されたPDX1−eGFP hPSCの分析。膵臓内胚葉(PE)を生成する「プロトコルA」と呼ばれる分化プロトコルを描写する概略図。
図2C】インビトロで分化されたPDX1−eGFP hPSCの分析。プロトコルAに従って処理したhPSCにおける、17日目のeGFP+及びeGFP−画分のFACS単離。
図2D】インビトロで分化されたPDX1−eGFP hPSCの分析。選別したeGFP+及びeGFP−細胞の遺伝子発現分析は、プロトコルAで得たeGFP+細胞における膵臓内胚葉マーカー(重要ものはPDX1及びNKX6−1)の顕著な富化を示した。データは平均発現±SEM(n=5)として示す。グラフは、17日目において対照試料(eGFP−細胞)で検出されたものと比較して倍の増加を表す。対照試料は任意に1の値に設定した。
図2E】インビトロで分化されたPDX1−eGFP hPSCの分析。後部前腸細胞を生成する「プロトコルB」と称する分化プロトコルを描写する概略図。
図2F】インビトロで分化されたPDX1−eGFP hPSCの分析。プロトコルBに従って分化されたeGFP+及びeGFP−細胞(17日目)のFACS単離。
図2G】インビトロで分化されたPDX1−eGFP hPSCの分析。選別されたeGFP+及びeGFP−細胞の遺伝子発現分析により、PDX1、ECAD、HNF6及びSOX9のような後部前腸のマーカーはeGFP+細胞において富化されたのに対して、NKX6−1及びMNX1は何れもが、プロトコルBにより得られたeGFP+細胞において有意にアップレギュレートされないことが示された。データは平均発現±SEM(n=2〜4)として示されている。グラフは、17日目において対照試料(eGFP−細胞)で検出されたものと比較して倍の増加を表している。対照試料は任意に1の値に設定された。
図3A】インビトロで誘導されたPDX1+/NKX6−1+膵臓前駆細胞(PPC)対PDX1+/NKX6−1−細胞(PFG)の遺伝子発現プロファイルを比較するために、マイクロアレイ分析を行った。膵臓前駆細胞(PDX1+/NKX6−1+)、後部前腸細胞(PDX1+/NKX6−1−)、及びGFP−細胞において示差的に発現される遺伝子の階層的クラスタリング。
図3B】インビトロで誘導されたPDX1+/NKX6−1+膵臓前駆細胞(PPC)対PDX1+/NKX6−1−細胞(PFG)の遺伝子発現プロファイルを比較するために、マイクロアレイ分析を行った。17日目に、PPC対GFP−、PPC対PFG、及びPFG対GFP−細胞においてアップレギュレートされた遺伝子の分布を示すベン図(Venn Diagram)。
図3C】インビトロで誘導されたPDX1+/NKX6−1+膵臓前駆細胞(PPC)対PDX1+/NKX6−1−細胞(PFG)の遺伝子発現プロファイルを比較するために、マイクロアレイ分析を行った。Aにおいて描写された3つの比較分析で示差的に発現された遺伝子の階層的クラスタリング(平均発現レベルが示されている)。バーは、関連遺伝子を有するサブクラスタを示す:合計で9個の異なるサブクラスタが作成された。サブクラスタ3aは、新規細胞表面マーカーCD49d(ITGA4)を含むGFP−細胞集団に富む遺伝子を示すのに対して、サブクラス5は、これも新規細胞表面マーカーGP2を含んだ膵臓前駆細胞(GFP+細胞画分)に富む遺伝子を示す。サブクラス6は、CDH1(ECAD)、EPCAM、F3(CD142)及び新規細胞表面マーカーFOLR1のようなNKX6−1発現(F2GFP+及びGFP+細胞)に関係なく、PDX1+細胞において富化された遺伝子を示す。
図3D】インビトロで誘導されたPDX1+/NKX6−1+膵臓前駆細胞(PPC)対PDX1+/NKX6−1−細胞(PFG)の遺伝子発現プロファイルを比較するために、マイクロアレイ分析を行った。PDX1+/NKX6−1+膵臓前駆細胞における遺伝子の富化を示す遺伝子オントロジ(GO)分析。代表的なGOカテゴリーが示され、−log(p値)に対してプロットされる。
図4A】hPSC由来PDX1+膵臓内胚葉で発現した新規細胞表面マーカー。GFP+及びGFP画分の原形質膜または細胞外領域に局在する遺伝子の富化を示すヒートマップ。矢印は、異なる細胞集団において富化された選択された細胞表面マーカーを示す。
図4B】hPSC由来PDX1+膵臓内胚葉で発現した新規細胞表面マーカー。GFP+及びGFP画分の原形質膜または細胞外領域に局在する遺伝子の富化を示すヒートマップ。矢印は、異なる細胞集団において富化された選択された細胞表面マーカーを示す。MEFs(d17)上で培養した分化したhPSCに対して実施された選択された細胞表面マーカーGP2及びCD49d(ITGA4)のフローサイトメトリー分析は、GP2がGFP+細胞で高度に発現されたのに対して、CD49dはGFP−細胞において富化されたことを確認した。より詳細に言えば、d17において大部分のGFP−細胞(70〜72%)はCD49dを発現したが、64〜76%のGFP+細胞はGP2を共発現した。重要なことに、GFP−細胞の僅かな画分(3〜7%)のみがGP2を発現し、GFP+細胞は基本的にほとんど(1〜2%)CD49dを発現しなかった。
図4C】hPSC由来PDX1+膵臓内胚葉で発現した新規細胞表面マーカー。GFP+及びGFP画分の原形質膜または細胞外領域に局在する遺伝子の富化を示すヒートマップ。矢印は、異なる細胞集団において富化された選択された細胞表面マーカーを示す。選別された細胞集団の遺伝子発現分析は、GP2+/CD49d−選別細胞集団において、膵臓内胚葉マーカー及び新規細胞表面マーカーが高度に富化されたことを示した。
図4D】hPSC由来PDX1+膵臓内胚葉で発現した新規細胞表面マーカー。GFP+及びGFP画分の原形質膜または細胞外領域に局在する遺伝子の富化を示すヒートマップ。矢印は、異なる細胞集団において富化された選択された細胞表面マーカーを示す。GP2及びCD49dの発現を、フィーダーフリー系で培養した遺伝子的にタグ付けされていない細胞株HUES−4においてフローサイトメトリーにより分析した。
図4E】hPSC由来PDX1+膵臓内胚葉で発現した新規細胞表面マーカー。GFP+及びGFP画分の原形質膜または細胞外領域に局在する遺伝子の富化を示すヒートマップ。矢印は、異なる細胞集団において富化された選択された細胞表面マーカーを示す。GP2+CD49d−、CD49d+GP2−及びGP2−CD49d−細胞画分を選別し、遺伝子発現パターンを分析した。膵臓内胚葉マーカー、例えばPDX1、SOX9、MNX1、NKX6−1、並びに新規細胞表面マーカーGP2及びFOLR1は、GP2+CD49d−細胞画分において有意に富化された。GP2−CD49d−細胞画分中の残りのPDX1+細胞は、低レベルのNKX6−1のみを発現し、GP2がPDX1+/NKX6−1+細胞について特異的に富化することを確認する。
図4F】hPSC由来PDX1+膵臓内胚葉で発現した新規細胞表面マーカー。GFP+及びGFP画分の原形質膜または細胞外領域に局在する遺伝子の富化を示すヒートマップ。矢印は、異なる細胞集団において富化された選択された細胞表面マーカーを示す。非造血細胞及び非内皮細胞(CD45−CD31−)に対してゲーティングされた、ヒト胎児膵臓(9.1WD)におけるGP2及びCD49d発現のフローサイトメトリー分析。
図4G】hPSC由来PDX1+膵臓内胚葉で発現した新規細胞表面マーカー。GFP+及びGFP画分の原形質膜または細胞外領域に局在する遺伝子の富化を示すヒートマップ。矢印は、異なる細胞集団において富化された選択された細胞表面マーカーを示す。FACS選別されたGP2+及びCD49d+(CD45−CD31−に対してゲーティングされたもの)細胞集団におけるPDX1及びNKX6−1発現のqPCR分析は、GP2+対CD49d+細胞において、PDX1及びNKX6−の有意な富化を示した。結果は、対照遺伝子HprtまたはGapdhの発現に対して任意単位(AU)で提示される。P=0.023、及び**P=0.010。ND=非検出。
図4H】hPSC由来PDX1+膵臓内胚葉で発現した新規細胞表面マーカー。GFP+及びGFP画分の原形質膜または細胞外領域に局在する遺伝子の富化を示すヒートマップ。矢印は、異なる細胞集団において富化された選択された細胞表面マーカーを示す。8.7WDでのGP2+(CD45−/CD31−)及びCD45+/CD31+細胞におけるPDX1及びNKX6−1発現のフローサイトメトリー分析。91%のGP2+(PDX1+)細胞がNKX6.1を共発現した。CD45+CD31+細胞を、PDX1及びNKX6−1発現のネガティブ対照として使用した。FACSプロットは、3つの独立した実験の代表である。この結果は、GP2がPDX1及びNKX6.1を同時発現する膵臓前駆細胞を特異的にマークすることを示す我々の以前の所見を裏付けている。
図5A】分化したhPSCにおけるFOLR1発現の特徴付け。MEF上で培養されたPDXeG細胞株における、CD49dと組み合わせたマーカーFOLR1のFACS分析。
図5B】分化したhPSCにおけるFOLR1発現の特徴付け。FOLR1−/+CD49d+、CD49d−/FOLR1+、及びGFP+/FOLR1−細胞分画を選別し、遺伝子発現パターンを分析した。
図5C】分化したhPSCにおけるFOLR1発現の特徴付け。フィーダーフリー系で培養した遺伝子的にタグ付けされていない細胞株HUES4における、FOLR1及びCD49dのFACS分析。
図5D】分化したhPSCにおけるFOLR1発現の特徴付け。qPCR分析は、FOLR1−Cd49d+、FOLR1−Cd49d−、及びFOLR1+Cd49d−細胞に対しても実施された。PDX1、SOX9、MNX1、及びNKX6−1のような膵臓内胚葉マーカー及び新規な細胞表面マーカーのGP2及びFOLR1は、FOLR1+CD49d−細胞画分において有意に富化された。データは、平均発現±SEMとして示されている。グラフは、17日目に対照試料(eGFP−細胞)で検出されたものと比較して倍の増加を表す。FOLR1はPDX1+/NKX6−1+及びPDX1/NKX6−1−細胞の両方で発現するので、それはPPC類のマーキングにおいてGP2のように特異的/効果的ではなく、結果的に、FOLR1−CD49d−細胞画分は依然としてPDX1、NKX6−1発現細胞を含んでいる。
図6A】独立の以前に公表された分化プロトコルを用いたGP2の検証。Rezania et al., 2013.により公表された分化プロトコルの若干改変されたバージョンに従い、hPSC由来の膵臓前駆細胞を誘導するためのスキーム。
図6B】独立の以前に公表された分化プロトコルを用いたGP2の検証。PDXeG細胞株を用い、GFP及びGP2の発現に基づいて分化したhPSCを選別し、qPCRにより分析した。
図6C】独立の以前に公表された分化プロトコルを用いたGP2の検証。選別された集団のqPCR分析:GP2−GFP−細胞、GP2−GFP+細胞、及びGP2+GFP+細胞は、PDX1及びNKX6−1発現細胞が、GP2−GFP+細胞と比較してGP2+GFP+細胞画分において有意に富化されていることを示した。このデータにより、GP2を使用して、PDX1及びNKX6−1を同時発現するヒト膵臓前駆細胞を、異種細胞培養物から単離し得ることが確認される。
図7A】膵臓前駆細胞の精製のための、以前に公表された細胞表面マーカーの特徴付け。MEF上で培養されたPDXeGレポーター細胞株における、以前に同定された細胞表面マーカーCD142及びCD200のフローサイトメトリー分析。GFP+及びGFP−細胞の大部分がCD142及びCD200で染色され、これらマーカーは異種細胞培養物中でPDX1+/NKX6−1+細胞を認識するのに十分に特異的ではないことを示している。
図7B】膵臓前駆細胞の精製のための、以前に公表された細胞表面マーカーの特徴付け。遺伝子的にタグ付けされていない細胞株(HUES4)が、フィーダーフリーの培養系において、Rezaniaら(2013)により公表された分化プロトコルの僅かに改変されたバージョンに従って分化され、CD49d、CD142、及びCD200と組み合わせてGP2で染色された。
図7C】膵臓前駆細胞の精製のための、以前に公表された細胞表面マーカーの特徴付け。異なる選別された集団(GP2−、GP2+、CD142+、及びCD200+)のqPCR分析により、GP2+細胞において、PDX1及びNKX6−1の有意な富化を確認した。これらの結果は、GP2が、以前に公表されたマーカーCD142及びCD200と比較して、PDX1+/NKX6−1+膵臓前駆細胞を標識化することにおいて優れていることを示している。
図8A】精製されたGP2+/CD49d−PPCの、グルコース応答性インスリン発現細胞への分化。細胞表面マーカーCD49d及びGP2で解離及び染色される膵臓前駆細胞へのhPSCの分化を示す概略図。
図8B】精製されたGP2+/CD49d−PPCの、グルコース応答性インスリン発現細胞への分化。再プレーティングされたFACS選別したGP2+/CD49d−膵臓前駆細胞を、インスリン発現細胞へと分化させるために適用された分化プロトコルを示す表。For:フォルスコリン(10μM)、Alki:Alk5阻害剤(4.5μM)、Nic:ニコチンアミド(10mM)、Rocki:Rock阻害剤(10−15μM))、DF12:DMEM/F−12、B27:B27サプリメント。
図8C】精製されたGP2+/CD49d−PPCの、グルコース応答性インスリン発現細胞への分化。分化したhPCSの、18日目におけるGP2及びCD49d染色を示すFACSプロット。
図8D】精製されたGP2+/CD49d−PPCの、グルコース応答性インスリン発現細胞への分化。遺伝子的にタグ付けされていない細胞株HUES4から単離された分化したGP2+(CD49d−)PPC細胞及びGP2low(CD49d−)細胞は、GP2+(CD49d−)細胞において、Cペプチド+細胞の有意な富化を示す。
図8E】精製されたGP2+/CD49d−PPCの、グルコース応答性インスリン発現細胞への分化。インスリン発現細胞に分化された、精製及び再プレーティングされたGP2+(CD49d−)膵臓前駆細胞(遺伝子的にタグ付けされていない細胞株HUES4から単離された)の免疫蛍光分析。
図8F】精製されたGP2+/CD49d−PPCの、グルコース応答性インスリン発現細胞への分化。18日目の、Gp2low対GP2+細胞におけるCPEP発現細胞の割合。
図8G】精製されたGP2+/CD49d−PPCの、グルコース応答性インスリン発現細胞への分化。分化したGP2+(CD49d−)細胞において、静的グルコース刺激インスリン分泌アッセイ(GSIS)により、ヒトCペプチドの放出を測定した。結果は、高濃度のグルコースでの刺激がCペプチドの統計的に有意な増加をもたらすことを示し、主要なトリガー経路(K−ATPチャンネル依存性)がGP2+PPC−由来β細胞において機能することを示した。
図9A】CDKNIのノックダウンは、増殖するGP2+PPCの有意な増加をもたらす。細胞周期の種々の段階を示す概略図。これらのデータは、初期膵臓前駆細胞におけるCDKN1αノックダウンが、インビトロ培養の際のGP2+hPPCのプールを拡大するために利用され得るとの証拠を提供する。
図9B】CDKNIのノックダウンは、増殖するGP2+PPCの有意な増加をもたらす。11日目からの分化したhPSCを、対照及びCDKN1 siRNAでトランスフェクトした。トランスフェクションの72時間後に試料を採取し、ウエスタンブロット分析により分析した。これらのデータは、初期膵臓前駆細胞におけるCDKN1αノックダウンが、インビトロ培養の際のGP2+hPPCのプールを拡大するために利用され得るとの証拠を提供する。
図9C】CDKNIのノックダウンは、増殖するGP2+PPCの有意な増加をもたらす。未熟GP2+膵臓前駆細胞からなるhPSCにおけるCDKN1αのノックダウンは、14日目までにG2/M期の細胞数の有意な増加をもたらす。この増加は、G0/G1細胞の数の減少と相関しており、p21のレベルを低下させることにより、細胞のG0/G1から増殖状態(G2/M)への移行が促進されることを示唆する。これらのデータは、初期膵臓前駆細胞におけるCDKN1αノックダウンが、インビトロ培養の際のGP2+hPPCのプールを拡大するために利用され得るとの証拠を提供する。
図9D】CDKNIのノックダウンは、増殖するGP2+PPCの有意な増加をもたらす。未熟GP2+膵臓前駆細胞からなるhPSCにおけるCDKN1αのノックダウンは、14日目までにG2/M期の細胞数の有意な増加をもたらす。この増加は、G0/G1細胞の数の減少と相関しており、p21のレベルを低下させることにより、細胞のG0/G1から増殖状態(G2/M)への移行が促進されることを示唆する。これらのデータは、初期膵臓前駆細胞におけるCDKN1αノックダウンが、インビトロ培養の際のGP2+hPPCのプールを拡大するために利用され得るとの証拠を提供する。
図9E】CDKNIのノックダウンは、増殖するGP2+PPCの有意な増加をもたらす。未熟GP2+膵臓前駆細胞からなるhPSCにおけるCDKN1αのノックダウンは、14日目までにG2/M期の細胞数の有意な増加をもたらす。この増加は、G0/G1細胞の数の減少と相関しており、p21のレベルを低下させることにより、細胞のG0/G1から増殖状態(G2/M)への移行が促進されることを示唆する。これらのデータは、初期膵臓前駆細胞におけるCDKN1αノックダウンが、インビトロ培養の際のGP2+hPPCのプールを拡大するために利用され得るとの証拠を提供する。
図9F】CDKNIのノックダウンは、増殖するGP2+PPCの有意な増加をもたらす。より成熟したGP2+膵臓前駆細胞がhPSC培養物中に存在するときに、p21が後の時点(17日目)でノックダウンされれば、増殖効果は消失する。これらのデータは、初期膵臓前駆細胞におけるCDKN1αノックダウンが、インビトロ培養の際のGP2+hPPCのプールを拡大するために利用され得るとの証拠を提供する。
図9G】CDKNIのノックダウンは、増殖するGP2+PPCの有意な増加をもたらす。より成熟したGP2+膵臓前駆細胞がhPSC培養物中に存在するときに、p21が後の時点(17日目)でノックダウンされれば、増殖効果は消失する。これらのデータは、初期膵臓前駆細胞におけるCDKN1αノックダウンが、インビトロ培養の際のGP2+hPPCのプールを拡大するために利用され得るとの証拠を提供する。
図9H】CDKNIのノックダウンは、増殖するGP2+PPCの有意な増加をもたらす。より成熟したGP2+膵臓前駆細胞がhPSC培養物中に存在するときに、p21が後の時点(17日目)でノックダウンされれば、増殖効果は消失する。これらのデータは、初期膵臓前駆細胞におけるCDKN1αノックダウンが、インビトロ培養の際のGP2+hPPCのプールを拡大するために利用され得るとの証拠を提供する。
図9I】CDKNIのノックダウンは、増殖するGP2+PPCの有意な増加をもたらす。14日目からsiRNAで処理されたhPSCの免疫蛍光分析は、CDKN1aのノックダウンから72時間後の、Ki67+細胞の有意なアップレギュレーションを明らかにする。これらのデータは、初期膵臓前駆細胞におけるCDKN1αノックダウンが、インビトロ培養の際のGP2+hPPCのプールを拡大するために利用され得るとの証拠を提供する。
図10】インスリン産生細胞へのhESCの分化の中間段階を示す概略図。新規な細胞表面マーカーであるGP2、FOLR1及びCD49dは、PE期において膵臓前駆細胞を単離するために使用することができる。これらの膵臓前駆細胞は、腺房、腺管、及び膵臓を含む内分泌細胞へと分化する能力を有する。
【発明を実施するための形態】
【0006】
本発明は、特許請求の範囲に規定された通りである。
【0007】
本発明者らは、真の膵臓前駆細胞の単離に有用な新規マーカーを同定した。
【0008】
正常β細胞と機能特性を共有するhPSC由来のグルコース応答性インスリン産生細胞を生成する最近の成功(Pagliuca et al., 2014, Rezania et al., 2014)によって、I型糖尿病の細胞ベースの治療の実施は手の届く現実となった。このアプローチの治療上の成功は、hPSC誘導体の生産をスケールアップする能力に依存する。臓器修復及び疾患回復に必要とされる機能的細胞の数は、患者当たり10のオーダーと推計された(Pagliuca et al.,2014,Kempf et al.,2016)。従って、分化戦略は、工業規模での量産に適合させる必要がある。現在のところ、グルコース応答性インスリン産生細胞の生成には、腫瘍形成傾向を有する未分化のhPSCを開始細胞集団として使用する、面倒で複雑な多段階プロトコルが必要とされる。β細胞の生成のためにより多くの成熟細胞が使用される戦略を確立することにより、細胞治療に使用する最終細胞調製物の腫瘍誘発細胞による潜在的な汚染が防止され、より安全で再現性のある製造手順が達成され得る。しかし、膵臓分化における後期ステージの細胞集団を精製するために使用され得るステージ特異的表面マーカーが不足している。
【0009】
正常な胚発生の際に、転写因子である膵臓十二指腸ホメオボックス1(PDX1)及びNK6ホメオボックス1(NKX6−1)の共発現により認識される高度に増殖性のヒト及びマウスの膵臓前駆細胞は、膵臓上皮の適切な増殖を担っており、外分泌細胞、腺管細胞、及び内分泌細胞を含む全ての膵臓細胞型を生じる。結局、膵臓前駆細胞は、β細胞のようなホルモン産生内分泌細胞の生成のための理想的な開始集団として役立つ可能性がある。更に、以前の刊行物は、膵臓前駆細胞の富化が移植時の奇形腫形成のリスクを低下させるという見解を支持している。hPPCの単離は、組織特異的細胞表面分子を使用して得ることができ、実際に、hPSC由来の膵臓細胞集団のためのマーカー(膵臓前駆細胞についてはCD142、内分泌細胞についてはCD200/CD318)が報告されている(Kelly 2011)。しかしながら、著者が指摘しているように、膵臓前駆細胞マーカーCD142が富化された集団は専ら膵臓前駆細胞で構成されているわけではないので、この分子の特異性には疑問が残る。従って、前駆細胞集団を富化するための、新しいより特異的なマーカーの必要性は依然として満たされるべく残されている。
【0010】
組織特異的レポーター細胞株の作製は、膵臓特異的細胞表面マーカーを同定するプロセスを支援することができるであろう。従って、hPSCからの純粋なPDX1+膵臓前駆細胞の単離を可能にするために、遺伝子ターゲッティングによって、PDX1−eGFPレポーター細胞株(PDXeG)を樹立した。遺伝子ツールとしてPDXeGレポーター細胞株を使用することにより、PDX1+細胞の異なる亜集団を単離して、hPPCの単離のための新規な細胞表面マーカーの同定を可能にするゲノムワイドな発現解析を行うことができた。より詳細に言えば、前腸内胚葉細胞から真の膵臓前駆細胞を分離することを可能にする3つの新規な細胞表面マーカー:即ち、PDX1+/NKX6−1+hPPCの単離のためのマーカーとしての糖タンパク質2(ザイモジェン顆粒膜)(GP2)、PDX1−細胞画分を標識するネガティブ選別マーカーとしてのインテグリンアルファ−4(ITGA4またはCD49d)、及び最後に第3のマーカー、即ち、PDX1+/NKX6−1−細胞を認識する葉酸受容体1(成人)(FOLR1)を同定した。
【0011】
これらのマーカーの特異性は、ヒト胎児膵組織を用いて実証された。更に、簡略化され且つ定義された分化戦略を用いて、GP2+/CD49d−膵臓前駆細胞は、内分泌細胞に成熟し、且つグルコース応答性のインスリン産生細胞に分化する能力を保持することを示す。最後に、siRNAスクリーニング、マイクロアレイにより同定された候補遺伝子のターゲッティングを行い、hPPCの増殖に関与する新しい遺伝子を見出した。要するに、本発明者らは、I)hPPCの単離のための新規な細胞表面マーカーと、II)単離されたhPPCからグルコース応答性インスリン産生細胞を得るための簡略化された明確な分化戦略と、III)hPPCがインビトロでどのように増殖されるかについての新規な洞察を提供し、hPPCの更に深い特徴付けを可能にするだけでなく、糖尿病の更なる細胞置換療法のためにこれら前駆細胞を増殖させるための新規な戦略の開発促進を可能にする。
【0012】
従って、第1の態様において、本発明は、真正膵臓前駆細胞が富化された集団を単離するための方法を提供し、該方法は
i)少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団を提供し、ここでの該真正膵臓前駆細胞はPDX1及びNKX6−1を発現する工程と;
ii)前記細胞集団を、
a)PDX1−細胞に特異的な第1のマーカーに結合する第1のリガンドに曝露させて、前記細胞集団から前記第1のリガンドに結合しない細胞を選択し、それによりPDX1+細胞について前記細胞集団を富化させ;
及び/または
b)PDX1+細胞に特異的な第2のマーカーに結合する第2のリガンドに曝露させて、前記第2のリガンドに結合しない細胞から前記第2のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+細胞について前記細胞集団を富化させ;
及び/または
c)PDX1+NKX6−1+細胞に特異的な第3のマーカーに結合する第3のリガンドに曝露させて、前記第3のリガンドに結合しない細胞から前記第3のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+NKX6−1+細胞について前記細胞集団を富化させる工程を具備し、
それによって真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を得るものである。
【0013】
更なる態様において、本発明は、真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を生成するための方法に関し、前記富化された細胞集団は、少なくとも70%真正膵臓前駆細胞を含む。
【0014】
更に別の態様において、本発明は、少なくとも70%の真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団に関する。
【0015】
更に別の態様において、本発明は、本明細書に開示される方法により得ることができる、真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団に関する。
【0016】
更に別の態様において、本発明は、それを必要とする個体の代謝障害の治療のための、本明細書に開示された方法により得ることができる、真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団に関する。
【0017】
更に別の態様において、本発明は、それを必要とする個体において代謝障害を治療する方法であって、本明細書に記載の細胞集団を提供する工程を含む方法に関する。
【0018】
定義
<抗体>.「抗体」の用語は、血清の機能的成分を表し、しばしば分子の集合(抗体または免疫グロブリン)または1分子(抗体分子または免疫グロブリン分子)の何れかを意味する。抗体分子は、特異的な抗原決定基(抗原または抗原性エピトープ)に結合するかまたは特異的抗原決定基(抗原または抗原エピトープ)と反応することができ、これは次に免疫学的エフェクター機構の誘導を導き得る。個々の抗体分子は、通常は単一特異性とみなされ、抗体分子の組成は、モノクローナル(即ち、同一の抗体分子からなる)か、またはポリクローナル(即ち、同じ抗原または別個の異なる抗原上の同一または異なるエピトープと反応する異なる抗体分子からなる)である。各抗体分子は、それが対応する抗原に特異的に結合することを可能にするユニークな構造を有し、全ての天然抗体分子は、2つの同一の軽鎖及び2つの同一の重鎖の同じ全体的基本構造を有する。抗体は、集合的に免疫グロブリンとしても知られている。本明細書中で使用される抗体(複数可)には、最も広い意味で使用され、またそのままの抗体、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト化抗体及び一本鎖抗体、並びに抗体の結合性断片、例えばFab、F(ab’)、Fv断片またはscFv断片、並びに二量体IgA分子または五価IgMのような多量体形態が含まれる。
【0019】
<抗原>.抗原は、少なくとも1つのエピトープを含む分子である。抗原は、例えばポリペプチド、多糖類、タンパク質、リポタンパク質または糖タンパク質であり得る。
【0020】
<真正膵臓前駆細胞>.「真正膵臓前駆細胞」または「真の膵臓前駆細胞」の用語は、本明細書では、腺房、腺管、及びインスリン産生細胞のような内分泌系統を含む、全ての膵臓系統に分化することができる細胞を言う。
【0021】
<胚体内胚葉>.本明細書で使用するとき、「胚体内胚葉」または「DE」とは、腸管の細胞または腸管由来の器官に分化できる多分化能細胞を言う。特定の実施形態によれば、胚体内胚葉細胞及びそれに由来する細胞は哺乳動物細胞であり、好ましい実施形態では、胚体内胚葉細胞はヒト細胞である。幾つかの実施形態において、胚体内胚葉細胞は、一定のマーカーを発現し、または有意に発現しない。幾つかの実施形態においては、SOX17、CXCR4、MIXLl、GATA4、FOXA2、GSC、FGF17、VWF、CALCR、FOXQl、CMKORl、CER及びCRIPlから選択される1以上のマーカーが胚体内胚葉細胞で発現される。他の実施形態において、OCT4、HNF4A、α−フェトプロテイン(AFP)、トロンボモジュリン(TM)、SPARC及びSOX7は、胚体内胚葉細胞において有意には発現されない。胚体内胚葉細胞はPDX−1を発現しない。
【0022】
<分化細胞可能なまたは分化した細胞>.本明細書で使用するとき、「分化可能な細胞」または「分化した細胞」または「hES由来の細胞」との語句は、以下に詳細に定義するように、万能性、多能性、少能性または単能性の細胞を指称することができる。一定の実施形態において、前記分化可能な細胞は、万能性の分化可能な細胞である。より具体的な実施形態において、前記万能性の分化可能な細胞は、胚性幹細胞、ICM/表皮細胞、原始外胚葉細胞、始原生殖細胞、及び奇形癌細胞からなる群から選択される。1つの特定の実施形態において、前記分化可能な細胞は、哺乳動物の胚性幹細胞である。更に特定の実施形態において、前記分化可能な細胞はヒト胚性幹細胞である。一定の実施形態はまた、前記細胞が本明細書で定義するように分化可能であるという条件で、動物内の任意の供給源由来の分化可能な細胞を想定する。例えば、前記分化可能な細胞は、胚もしくはその中の任意の始原胚層、胎盤もしくは絨毛組織、またはより成熟した組織、例えば限定するものではないが脂肪、骨髄、神経組織、乳房組織、肝臓組織、膵臓、上皮、呼吸器、性腺及び筋肉組織を含む成人幹細胞から採取することができる。特定の実施形態において、前記分化可能な細胞は胚性幹細胞である。他の特定の実施形態において、前記分化可能な細胞は成体幹細胞である。更に他の特定の実施形態において、前記幹細胞は、胎盤由来または絨毛由来の幹細胞である。
【0023】
<分化>.本明細書で使用する「分化」の用語は、それが由来する細胞型よりも更に分化した細胞型の産生を意味する。従って、この用語は、部分的及び最終的に分化した細胞型を包含する。同様に、「hESCから産生された」「hESCから誘導された」「hESCから分化された」「hES由来細胞」及び同等の表現は、hESCからのインビトロ及びインビボでの分化した細胞型の産生を言う。
【0024】
<胚性>.本明細書中で使用される場合、「胚性」とは、単一の接合体で始まり、発生した配偶子細胞以外の分化万能性細胞または分化全能性細胞をもはや含まない多細胞構造で終わる、生物の発生段階の範囲をいう。配偶子融合により誘導される胚に加えて、「胚」の用語は体細胞核移植により誘導される胚を意味する。
【0025】
<発現レベル>.本明細書中で使用されるとき、「発現レベル」の用語は、転写物(mRNA)のレベル、または特定の遺伝子もしくはタンパク質のタンパク質レベルをそれぞれ指称することができる。従って、発現レベルは、転写レベルまたはタンパク質レベルを決定することによって、当該分野で既知の方法により決定することができる。転写レベルは、限定されるものではないが、ノーザンブロット、RT−PCRまたはマイクロアレイに基づく方法のような方法により、転写物の量を定量することによって測定することができる。タンパク質レベルは、ウエスタンブロット及び免疫染色のような方法により測定できるが、これらに限定されない。
【0026】
<ヒト胚性幹細胞>.ヒト胚性幹細胞は、ヒト胚の未分化の内細胞塊に由来する。これらの細胞は万能性であり、3つの一次胚葉の全ての誘導体、即ち外胚葉、内胚葉及び中胚葉に分化することができる(Thomson et al.,1998)。本明細書中で使用するとき、「ヒト万能性幹細胞」(hPS)の用語は、任意の供給源に由来し得、適切な条件下で、3種の胚層(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)の全ての誘導体である異なる細胞型のヒト子孫を産生できる細胞を意味する。hPS細胞は、8〜12週齢のSCIDマウスにおいて奇形腫を形成する能力、及び/または組織培養において3つの胚葉全ての同定可能な細胞を形成する能力を有し得る。ヒト万能性幹細胞の定義には、文献において屡々ヒト胚性幹(hES)細胞と称されるヒト胚盤胞由来幹(hBS)細胞(Thomson et al. (1998), Heins et.al. (2004)参照)、並びに誘導万能性幹細胞(例えば、Yu et al. (2007) Science 318:5858;Takahashi et al. (2007) Cell 131 (5):861参照)が含まれる。本明細書に記載の種々の方法及び他の実施形態は、種々の供給源からのhPS細胞(hPSC)を必要とし、または利用し得る。例えば、使用に適したhPS細胞は、発生中の胚から得ることができる。それに加えて、または代替的に、適切なhPS細胞は、胚の破壊を必要としない方法(Chung et al. 2008)によって、樹立された細胞株及び/またはヒト誘導万能性幹(hiPS)細胞から得ることができる。
【0027】
本明細書中で使用するとき、「hiPS細胞」とはヒト誘導万能性幹細胞を言う。本明細書で使用する「胚盤胞由来幹細胞」の用語はBS細胞と呼ばれ、ヒト形態は「hBS細胞」と称される。文献では、該細胞は胚性幹細胞、より具体的にはヒト胚性幹細胞(hESC)と呼ばれることが多い。従って、本発明において使用される万能性幹細胞は、例えばWO03/055992及びWO2007/042225に記載されているように胚盤胞から調製された胚性幹細胞であってよく、または市販のhBS細胞または細胞株であってもよい。しかし、本発明においては、任意のヒト万能性幹細胞を使用できることが更に想定され、これにはYu, et al., 2007, Takahashi et al. 2007及びYu et al 2009に開示されたように、OCT4、SOX2、NANOG及びLIN28のような特定の転写因子で成体細胞を処理することにより万能性細胞に再プログラムされる、分化した成体細胞が含まれる。
【0028】
<不活性化>:本明細書では、「不活性化」という用語は、細胞内の所与のタンパク質の機能の不活性化に関連して使用され、機能の喪失を得るための細胞の操作を意味する。不活性化は、当技術分野で知られているように、例えばタンパク質の機能を阻害できる阻害剤を使用することによって達成することができる。不活性化は、当該タンパク質をコードする遺伝子の突然変異または欠失によっても達成され得る。当業者に知られているように、例えばsiRNAを使用することによるサイレンシングを用いて不活性化を達成することもできる。不活性化は、一時的または永続的であってよい。不活性化は、可逆的または不可逆的であってよい。例えば、細胞集団を阻害剤と共にインキュベーションすることは、阻害剤が有効または存在する限り、典型的には一時的な不活性化をもたらす。環境から該阻害剤を除去することは、一般的に、不活性化の軽減をもたらす。同様に、siRNAは、典型的には、それらが発現または存在する限りでのサイレンシング効果を有するのみである。他方、遺伝子の欠失または突然変異は典型的には永続的な不活性化をもたらすが、当業者は、欠失または突然変異の影響を逆転させる方法(例えば遺伝子編集方法による)を知るであろう。
【0029】
<誘導万能性幹細胞>:誘導万能性幹細胞(またはiPSC)は、再プログラミングによって成体細胞から直接得ることができる(Takashashi et al., 2006)。iPSCはタンパク質によって誘導され、従って、タンパク質誘導万能性幹細胞(piPSC)と呼ばれる
【0030】
<リガンド>.本明細書で使用するとき、「リガンド」とは、細胞上のマーカーまたは標的もしくは受容体もしくは膜タンパク質、または試料または溶液中の可溶性検体に対して、特異的に結合または交差反応する部分または結合パートナーをいう。細胞上の標的にはマーカーが含まれるが、これに限定されない。そのようなリガンドの例には、限定されるものではないが、細胞抗原に結合する抗体、可溶性抗原に結合する抗体、既に細胞もしくは可溶性抗原に結合した抗体に結合する抗原;可溶性の糖鎖または糖タンパク質もしくは糖脂質の一部である糖鎖部分に結合するレクチン;またはそのような抗体及び抗原の結合できる機能的断片;細胞標的または可溶性分析物の標的核酸配列に十分に相補的で、該標的配列または分析物配列に結合する核酸配列、既に前記細胞マーカーもしくは標的もしくは可溶性分析物に結合したリガンド核酸配列に対して十分相補的な核酸配列、またはビオチンもしくはアビジンのような化学的またはタンパク質的化合物が含まれる。リガンドは、アッセイフォーマット、例えば抗体親和性クロマトグラフィーによって指示されるように、可溶性であることができ、または捕捉媒体上に固定化される(即ち、ビーズに合成的に共有結合される)ことができる。本明細書で定義されるように、リガンドには、1以上の特異的な細胞マーカーまたは標的または可溶性分析物を検出し、及びこれと反応する種々の物質が含まれるが、これらに限定されない。
【0031】
<マーカー>.本明細書中で使用するとき、「マーカー」、「エピトープ」、「標的」、「受容体」またはその均等物は、観察または検出され得る任意の分子を指称することができる。例えば、マーカーには、特定の遺伝子の転写物のような核酸、膜タンパク質のような遺伝子のポリペプチド産物、非遺伝子産物であるポリペプチド、糖タンパク質、糖鎖、糖脂質、脂質、リポタンパク質、または小分子(例えば、10,000amu未満の分子量を有する分子)が含まれ得るが、これらに限定されない。「細胞表面マーカー」は、細胞表面に存在するマーカーである。
【0032】
<多能性細胞>.本明細書中で使用するとき、「多能性」または「多能性細胞」とは、限られた数の他の特定の細胞型を生じ得る細胞型を言う。多能性細胞は、1以上の胚性細胞の運命に関与しており、従って、万能性細胞とは対照的に、3つの胚葉系統の各々、並びに胚体外細胞を生じることはできない。
【0033】
<ナイーブ幹細胞及びプライミングされた幹細胞>.幾つかのタイプの細胞に分化できるが、既にある程度は予め決定されているプライミング幹細胞とは異なり、ナイーブ幹細胞は任意の種類の細胞へと発生する能力を有している。ナイーブ幹細胞はマウスに存在することが知られているが、ヒトナイーブ幹細胞は最近になって記載されていたに過ぎない(Takashima et al., 2014)。ナイーブ幹細胞は、ERKシグナリングなしで連続的に自己複製することができ、表現型的に安定で、核型的に手付かずで完全である。それらはインビトロで分化し、インビボで奇形腫を形成する。代謝は、ESCにおけると同様に、ミトコンドリア呼吸の活性化で再プログラミングされる。ヒト細胞の万能性状態は、Takashima et al., 2014に記載されているように、NANOG及びKLF2の2つの成分の短期発現により再設定できる。ナイーブPSCは、胚盤胞の内部細胞塊と多くの特性を共有しているのに対して、プライミングされたPSCは、より進んだ原腸形成期の胚の胚盤葉上層細胞に似ている。マウスでは、ナイーブ状態は胚性幹細胞(mESC)によって表され、プライミングされた状態は上胚幹細胞(EpiSC)によって表される。ヒトにおいては、胚盤胞由来のESCは、最近までmESCのヒト同等物とみなされてきた。しかし、理論に束縛されるものではないが、平坦な形態、増殖因子に対する依存性、またはX染色体不活性化のような複数の特性に基づけば、hESC(及びヒト誘導万能性幹細胞(hiPSC)はmESCによりもマウスEpiSCに近く、従って万能性のナイーブな状態よりもプライミングされた状態に対応している可能性が高い(Tesar et al. 2007;Stadtfeld and Hochedlinger 2010)。
【0034】
<天然に存在する抗体>.「天然に存在する抗体」の用語は、抗原を認識して結合することができ、ジスルフィド結合によって相互連結された2つの同一の重鎖(H)及び2つの同一の軽鎖(L)を含むヘテロ四量体糖タンパク質を言う。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではVと略記する)及び重鎖定常領域(本明細書ではCHと略記する)を含む。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではVと略記する)及び軽鎖定常領域(本明細書ではCと略記する)を含む。V及びV領域は更に、フレームワーク領域(FR)と称するより保存された領域が点在した、相補性決定領域(CDR)と称する超可変領域に細分化することができる。抗体は、幾つかの同一のヘテロ四量体を含み得る。
【0035】
<膵臓前駆細胞または多能性膵臓前駆細胞>.前駆細胞は、特定のタイプの細胞に分化することをコミットされた細胞である。従って、膵臓前駆細胞は多能性であり、分化して膵臓の全ての細胞型を生じさせることができる。
【0036】
<部分的に成熟した細胞>.本明細書中で使用するとき、「部分的に成熟した細胞」とは、当該表現型の少なくとも1つの特徴、例えば、同じ器官または組織由来の成熟細胞の形態またはタンパク質発現を示す細胞をいう。幾つかの実施形態は、例えばβ細胞のような膵臓型細胞などの分化可能細胞を産生できる、任意の動物由来の分化可能細胞を使用することを想定している。分化可能な細胞が採取される動物は、脊椎動物もしくは無脊椎動物、哺乳動物もしくは非哺乳動物、ヒトもしくは非ヒトであることができる。動物供給源の例には、霊長類、齧歯類、イヌ、ネコ、ウマ、ウシ及びブタが含まれるが、これらに限定されない。
【0037】
<万能性細胞>.「万能性」とは、細胞が3つの胚葉系統のそれぞれを生じさせることができることを意味する。しかしながら、万能性細胞は、生物全体を生産することはできない可能性がある。特定の実施形態では、出発材料として使用される万能性細胞は、ヒト胚性幹細胞を含む幹細胞である。万能性細胞は、発達の異なる段階の胚から細胞を外植することにより誘導することができる。PSC(万能性幹細胞)は、それが胚発生の際の何れの段階にあるかに応じて、2つの異なる状態、即ち、ナイーブな状態及びプライミングされた状態に分類することができる。
【0038】
<幹細胞>.幹細胞は、特殊化された細胞に分化することができ、また分割してより多くの幹細胞を産生できる未分化細胞である。幹細胞の用語には、胚性幹細胞、成体幹細胞、ナイーブ幹細胞及び誘導万能性幹細胞が含まれる。幹細胞は、自己再生前駆細胞、非再生前駆細胞、及び末梢分化細胞を含む子孫細胞を産生するために、単一細胞レベルにおいて自己複製及び分化の両方を行うそれらの能力によって定義される。幹細胞はまた、インビトロにおいて、複数の胚葉(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)から種々の細胞系統の機能的細胞に分化する能力、並びに移植後に複数の胚葉の組織を生じさせる能力、及び胚盤胞への注射後には全部ではないにしろ、実質的に殆どの組織に寄与する能力を特徴とする。幹細胞は、その発生能により、(1)全能性、即ち全ての胚性及び胚体外性細胞型を生じさせることを意味する;(2)万能性、即ち全ての胚細胞型を生じさせることを意味する;(3)多能性、即ち細胞系統の或るサブセットを生じることができるが、特定の組織、器官または生理学的系の範囲内では全部のサブセットを生じることができることを意味する(例えば造血幹細胞(HSC)は、HSC(自己再生)、少能性前駆細胞に限定された血液細胞、及び血液の正常な成分である全ての細胞型及び要素(例えば血小板)を生じることができる);(4)少能性、即ち多能性幹細胞よりも更に限定された細胞系統のサブセットを生じさせ得ることを意味する;(5)単能性、即ち単一の細胞系統を生じることができることを意味する(例えば、精子形成幹細胞)に分類される。
【0039】
<全能性幹細胞>:この用語は、3つの胚葉系統及び胚外系統の全部のような、任意の及び全てのタイプのヒト細胞を生じさせる可能性を有する細胞を指す。それは機能的生物全体を生じることができる。
【0040】
本開示において、任意の遺伝子またはタンパク質の名称は、任意の種の遺伝子またはタンパク質を指すことができる。例えば、PDX1またはPdx1は互換的に使用され、マウスPdx1またはヒトPDX1または別の種のPdx1の何れかを意味することができる。
【0041】
本開示において、遺伝子またはタンパク質名の後の「−」記号は、当該遺伝子またはタンパク質が発現されないことを意味し、遺伝子またはタンパク質名の後の「+」記号は、当該遺伝子またはタンパク質が発現されることを意味する。従って、PDX1−またはPDX1−細胞は、PDX1を発現しない細胞であり、PDX1+またはPDX1+細胞は、PDX1を発現する細胞である。
【0042】
<真正膵臓前駆細胞の単離方法>
本開示の目的は、真正膵臓前駆細胞が富化された集団を単離するための方法を提供することであって、該方法は、
i)少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団を提供し、ここでの該真正膵臓前駆細胞はPDX1及びNKX6−1を発現する工程と;
ii)前記細胞集団を、
a)PDX1−細胞に特異的な第1のマーカーに結合する第1のリガンドに曝露させて、前記細胞集団から前記第1のリガンドに結合しない細胞を選択し、それによりPDX1+細胞について前記細胞集団を富化させ;
及び/または
b)PDX1+細胞に特異的な第2のマーカーに結合する第2のリガンドに曝露させて、前記第2のリガンドに結合しない細胞から前記第2のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+細胞について前記細胞集団を富化させ;
及び/または
c)PDX1+NKX6−1+細胞に特異的な第3のマーカーに結合する第3のリガンドに曝露させて、前記第3のリガンドに結合しない細胞から前記第3のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+NKX6−1+細胞について前記細胞集団を富化させる工程を具備し、
それによって真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を得るものである。
【0043】
<真正膵臓前駆細胞>
膵臓では、幾つかの異なるタイプの膵臓細胞が見出され得る。膵臓細胞には、例えば、多能性膵臓前駆細胞、腺管/腺房前駆細胞、完全に分化した腺房/外分泌細胞、腺管/内分泌前駆細胞、内分泌前駆細胞、初期内分泌細胞、及び/または完全に分化した内分泌細胞が含まれる。内分泌細胞へと向かうhPSCの異なる段階を図10に示す。PDX1及びNKX6−1を発現する膵臓内胚葉前駆細胞は、腺房細胞、腺管細胞または内分泌細胞に分化する能力を有する。「真正膵臓前駆細胞」または「真の膵臓前駆細胞」の用語は、本明細書では、腺房細胞、腺管細胞及びインスリン産生細胞のような内分泌細胞を含む全ての膵臓系統に分化することができる細胞を言う。
【0044】
膵臓の早期内分泌細胞は、膵臓内分泌ホルモン(インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン及び膵臓ポリペプチド)の1つの発現を開始したが、成人膵臓のランゲルハンス島に見出される完全に成熟した膵臓内分泌細胞の全ての特徴は共有していない細胞である。これらの細胞は、Ngn3を消失させたが、グルコースに対する応答性のような成人膵臓のランゲルハンス島に見出される完全に分化した膵臓内分泌細胞の特徴の全部を共有してはおらず、膵臓内分泌ホルモン(インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵臓ポリペプチド、及びグレリン)の一つについては陽性である内分泌細胞であり得る。
【0045】
膵臓内分泌細胞または膵臓ホルモン産生細胞は、次のホルモン、即ち、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵臓ポリペプチド及びグレリンの少なくとも1つを発現できる細胞である。
【0046】
「膵臓の完全に分化した内分泌細胞」(「完全に分化した内分泌細胞」、「膵臓成熟内分泌細胞」、「膵臓内分泌細胞」または「膵臓成人内分泌細胞」とも呼ばれる)は、成人膵臓のランゲルハンス島に見られる完全に分化した膵臓内分泌細胞の全ての特徴を共有する細胞である。
【0047】
本明細書に開示される方法は、膵臓内胚葉段階で膵臓前駆細胞を単離するために使用することができる。これらの細胞は、例えばβ細胞及び/またはインスリン産生細胞のような膵臓ホルモン産生細胞へと更に分化する能力を有し得る。このインスリン産生細胞は、グルコースに対して応答性であり得る。しかしながら、本方法により得られた細胞は、任意のタイプの膵臓細胞へと分化することができる。
【0048】
<マーカー及びリガンド>
インスリンプロモーター因子1としても知られるPDX1(膵臓及び十二指腸ホメオボックス1)は、膵臓の発達及びβ細胞の成熟に必要な転写因子である。胚発生において、PDX1は胚体内胚葉の後部前腸領域における細胞集団によって発現され、PDX1+上皮細胞は膵臓芽の発生を生じさせ、最終的には膵臓の全部―その外分泌細胞集団、内分泌細胞集団及び腺管細胞集団―の発生を生じさせる(図11)。Pdx1は、β細胞の成熟にも必要であり:発生するβ細胞はPDX1、NKX6−1及びインスリンを同時発現し、β細胞の成熟に必要なスイッチであるMafBのサイレンシング及びMafAの発現をもたらすプロセスのためにも必要である。PDX1+膵臓前駆細胞はまた、Hlxb9、Hnf6、Ptfla及びNkx6−1(ホメオボックスタンパク質Nkx−6.1)を同時発現し、またこれら前駆細胞は最初の膵芽を形成し、更に増殖し得る。膵臓内分泌細胞は、PDX1及びNKX6−1(PDX1+NKX6−1+細胞)を発現する。
【0049】
本方法は、PDX1を発現しない細胞(PDX1−細胞)に特異的な表面マーカーの同定に基づく一方、他のマーカーはPDX1を発現する細胞(PDX1+)に特異的であると同定され、更に他のマーカーはPDX1及びNKX6−1を発現する細胞に特異的なものとして同定された。そのようなマーカーに結合できる分子は、本明細書では「リガンド」と称し、真の膵臓前駆細胞を単離するために使用することができる。
【0050】
従って、真正膵臓前駆細胞が富化された集団を単離するための本方法は、
i)少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団を提供し、ここでの該真正膵臓前駆細胞はPDX1及びNKX6−1を発現する工程と;
ii)前記細胞集団を、
a)PDX1−細胞に特異的な第1のマーカーに結合する第1のリガンドに曝露させて、前記細胞集団から前記第1のリガンドに結合しない細胞を選択し、それによりPDX1+細胞について前記細胞集団を富化させ;
及び/または
b)PDX1+細胞に特異的な第2のマーカーに結合する第2のリガンドに曝露させて、前記第2のリガンドに結合しない細胞から前記第2のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+細胞について前記細胞集団を富化させ;
及び/または
c)PDX1+NKX6−1+細胞に特異的な第3のマーカーに結合する第3のリガンドに曝露させて、前記第3のリガンドに結合しない細胞から前記第3のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+NKX6−1+細胞について前記細胞集団を富化させる工程を具備し、
それによって真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を得るものである。
【0051】
細胞集団は、第1及び/または第2及び/または第3のリガンドの何れかに対して同時に、または後続の工程において曝露され得ること、及びこれらのステップが任意の順序で実施され得ることが理解されるであろう。幾つかの実施形態において、前記細胞集団は、第1、第2または第3のリガンドのうちの1つだけに曝露される。他の実施形態において、前記細胞集団は、第1、第2または第3のリガンドのうちの2つまたは3つに曝露される。幾つかの実施形態において、前記細胞集団は、第1、第2及び第3のリガンドに同時に曝露される。幾つかの実施形態において、前記細胞集団は、別々の工程で第1リガンド及び第2リガンドに曝露される。他の実施形態において、前記細胞集団は、別々の工程で第1リガンド及び第3リガンドに曝露される。他の実施形態において、前記細胞集団は、第1のリガンド及び第2または第3のリガンドに同時に曝露される。他の実施形態において、前記細胞集団は第1のリガンドに曝露され、別の工程で第2及び第3のリガンドに同時に曝露される。他の実施形態では、前記細胞集団は、第1及び第2または第3リガンドに同時に曝露される。他の実施形態において、前記細胞集団は、第1及び第2のリガンドに同時に曝露され、別の工程で第3のリガンドに曝露される。他の実施形態において、前記細胞集団は、第1及び第3のリガンドに同時に曝露され、別の工程で第2のリガンドに曝露される。
【0052】
<開始細胞集団>
第1の工程においては、少なくとも一つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団が提供され、ここでの真正膵臓前駆細胞はPDX1及びNKX6−1を発現する。
【0053】
幾つかの実施形態において、前記開始細胞集団は、少なくとも5%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも10%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも15%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも20%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも25%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも30%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも35%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも40%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも45%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも50%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも55%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも60%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも65%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも70%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも75%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも80%の真正膵臓前駆細胞を含んでいる。
【0054】
前記富化された集団に含まれる真正前駆細胞の画分を決定するためには、免疫染色またはフローサイトメトリー法などの当分野で既知の方法を用いることができるが、これらに限定されない。
【0055】
理論に拘泥するものではないが、前記開始細胞集団における真正膵臓前駆細胞の割合は、GP2の発現によって推定することができる。従って、幾つかの実施形態において、開始細胞集団は、GP2を発現する少なくとも5%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも10%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも15%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも20%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも25%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも30%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも35%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも40%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも45%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも50%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも55%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも60%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも65%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも70%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも75%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも80%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも85%の細胞を含む。GP2発現は、当該分野で公知の方法、例えば免疫染色法、フローサイトメトリー法、または転写レベルの定量測定によって決定することができる。
【0056】
同様に、理論に拘泥するものではないが、開始細胞集団におけるPDX1+NKX6−1+細胞の割合は、GP2の発現によって推定することができる。従って、幾つかの実施形態において、開始細胞集団は、GP2を発現する少なくとも5%の細胞、GP2を発現する少なくとも10%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも15%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも20%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも25%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも30%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも35%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも40%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも45%の細胞、GP2を発現する少なくとも50%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも55%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも60%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも65%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも70%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも75%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも80%の細胞、例えばGP2を発現する少なくとも85%の細胞を含む。GP2発現は、当該分野で公知の方法、例えば免疫染色法、フローサイトメトリー法、または転写レベルの定量測定によって決定することができる。
【0057】
幾つかの実施形態において、前記細胞集団は、限定されるものではないが哺乳動物、例えばヒトのような個体から誘導または単離され得る。
【0058】
幾つかの実施形態において、前記細胞は、万能性幹細胞のような分化可能な細胞、例えばヒト万能性幹細胞(hPSC)に由来する。hPSCには、ヒト誘導万能性幹細胞(hiPSC)、ヒト胚性幹細胞(hESC)及びナイーブなヒト幹細胞(NhSC)が含まれる。
【0059】
一実施形態において、膵臓細胞を含む細胞集団は、胎児膵臓を含む膵臓から得られる。本発明の幾つかの態様において、PDX1及びNKX6−1を発現する少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団は、胎児膵臓または成人膵臓を含む膵臓から得られる。一態様において、前記膵臓はヒトのような哺乳動物由来である。
【0060】
別の実施形態において、膵臓細胞を含む前記細胞集団は体細胞集団である。幾つかの実施形態において、PDX1及びNKX6−1を発現する少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団は、体細胞集団から得られる。本発明の更なる態様において、前記体細胞集団は、胚様幹細胞(ESC、例えば万能性細胞、またはヒトESCの場合はhESC)に脱分化するように誘導されている。そのような脱分化した細胞はまた、誘導万能性幹細胞(IPSC、或いはヒトIPSCについてはhIPSC)と呼ばれる。
【0061】
更に別の実施形態では、前記少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団は、ESCまたはhESCである。一実施形態において、前記少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団は、ESCまたはhESCから得られる。幾つかの実施形態において、前記少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団は、例えばESC様細胞のような万能性細胞の集団である。
【0062】
幾つかの実施形態において、前記少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団の分化は、当該分野で既知の方法によって誘導される。例えば、分化は、胚様体及び/または単層細胞培養物、またはそれらの組み合わせにおいて誘導され得る。
【0063】
本発明の一態様において、前記少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団は、哺乳動物起源である。本発明の1つの態様において、前記少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団はヒト由来である。本発明の幾つかの態様において、細胞集団は、膵臓内分泌系統に分化している。
【0064】
本発明の一態様において、前記膵臓細胞を含む細胞集団は、1以上の供与された膵臓から得られる。本明細書に記載の方法は、供与された膵臓の年齢に依存しない。従って、胚から成人までの年齢範囲のドナーから単離された膵臓材料を使用することができる。
【0065】
ドナーから膵臓を採取したら、典型的には、それは様々な方法を用いて培養するために、個々の細胞または小細胞群を生じるように処理される。そのような方法の1つは、採取された膵臓組織を洗浄し、酵素消化のために調製することを必要とする。酵素処理は、採取した組織の実質がより小さな単位の膵臓細胞材料に解離されるように、結合組織を消化するために使用される。採取した膵臓組織は、採取された器官の全体構造から膵臓細胞材料、基礎構造及び個々の膵臓細胞を分離するために、1以上の酵素で処理される。コラゲナーゼ、DNAse、リパーゼ調製物及び他の酵素は、本明細書に開示された方法での使用が想定される。
【0066】
単離された原料物質は、本方法を実施する前に、1以上の所望の細胞集団を富化するために更に処理することができる。幾つかの態様において、未分画の膵臓組織は、一旦培養のために解離されると、それ以上分離することなく本発明の培養方法に直接使用することもできる。しかしながら、未分画の膵臓組織は、一旦培養のために解離されると、更に分離することなく本発明の培養方法において直接使用することができ、中間細胞集団を生じるであろう。一実施形態において、前記単離された膵臓細胞材料は、密度勾配(例えば、ナイコデンツ、フィコール、またはパーコール)を介した遠心分離によって精製される。ドナー源から採取された細胞の混合物は、典型的には不均一であり、従って、アルファ細胞、β細胞、デルタ細胞、腺管細胞、腺房細胞、通性前駆細胞、及び他の膵臓細胞型を含むであろう。
【0067】
典型的な精製手順は、単離された細胞材料の多くの層またはインターフェースへの分離をもたらす。典型的には、2つのインターフェースが形成される。上側のインターフェースは島細胞に富んでおり、典型的には10〜100%の島細胞を懸濁液中に含んでいる。
【0068】
第2のインターフェースは、典型的には、島細胞、腺房細胞及び腺管細胞を含む細胞の混合集団である。最下層は勾配の底部に形成されたペレットである。この層は、典型的には主に腺房細胞、幾つかのトラップされた島細胞、及び一部の腺管細胞を含む。線管ツリー成分(Ductal tree component)は、更なる操作のために別々に収集することができる。
【0069】
更なる操作のために選択される画分の細胞構成成分は、選択される勾配の画分及び各単離の最終結果に依存して変化するであろう。膵島細胞が所望の細胞型である場合、単離された画分内の膵島細胞の適切に富化された集団は、少なくとも10%〜100%の膵島細胞を含むであろう。他の膵臓細胞型及び濃度もまた、富化の後に採取することができる。例えば、本明細書に記載した培養方法は、使用した精製勾配に依存して、前記第二のインターフェースから、前記ペレットから、または他の画分から単離された細胞と共に用いることができる。
いる。
【0070】
一実施形態において、中間の膵臓細胞培養物が、島細胞に富む(上部)画分から生成される。しかしながら、これに加えて、膵島細胞、腺房細胞及び腺管細胞、または腺管ツリー構成要素、腺房細胞、及び幾つかのトラップされた膵島細胞の混合細胞集団をそれぞれ含む、より不均一な第2のインターフェース及び底部層画分もまた、培養に用いることができる。両方の層が、本明細書に記載の富化された真正膵臓前駆細胞集団を生じさせることができる細胞を含有するが、各層は、開示された方法での使用に特別な利点を有し得る。
【0071】
一実施形態において、前記細胞集団は幹細胞の集団である。別の実施形態において、前記細胞集団は、膵臓内分泌系統に分化した幹細胞集団である。一実施形態において、前記細胞集団は、胚の破壊を伴わずに得られる幹細胞の集団である。胚を破壊することなく幹細胞を得るための方法は、当該分野で知られている(Chung et al., 2008)。
【0072】
幹細胞から膵臓細胞を得るためのプロトコルは、限定されるものではないが、D’Amour, K.A. et al. (2006);Jiang, J. et al. (2007);及びKroon, E. et al. (2008), Rezania et al (2012, 2014), Felicia W. Pagliuca et al (2014)に記載されたプロトコルによって例示される。
【0073】
体細胞から、またはES様細胞のような万能性細胞に脱分化するように誘導された体細胞から膵臓細胞を得るためのプロトコルは、限定されるものではないが、Aoi, T. et al. (2008), Jiang, J. et al. (2007), Takahashi, K. et al. (2007),Takahashi and Yamanaka (2006), and Wernig, M. et al. (2007)に記載されたプロトコルによって例示される。他のプロトコルは、D’Amour, K.A. et al. (2006)、またはKroon, E. et al. (2008)によって記述されている。
【0074】
分化は、特殊化されていない(「コミットされていない」)またはそれほど特殊化されていない細胞が、例えば神経細胞または筋肉細胞のような特殊化された細胞の特徴を獲得するプロセスである。分化された細胞または分化誘導された細胞とは、前記系統の細胞内でより特殊化された(「コミットされた」)地位を獲得した細胞である。分化のプロセスに適用される場合、「コミットされた」の用語は、分化経路において、正常な環境下では特定の細胞型または細胞型のサブセットにまで分化し続け、また正常な環境下では異なる細胞型への分化、またはより低い分化細胞型への逆戻りができない点にまで分化が進んだ細胞を意味する。脱分化とは、細胞が細胞系統内の特殊化の程度が低い(またはコミットされた)地位に戻る過程をいう。本明細書で用いるとき、細胞の系統とは細胞の遺伝性、即ち、それが何れの細胞から来たものか、及びそれが如何なる細胞を生じるのかを定義する。細胞の系統は、該細胞を発生及び分化の遺伝的スキーム内に置く。系統特異的マーカーとは、興味ある系統の細胞の表現型に特異的に関連する特性を意味し、コミットされていない細胞の興味ある系統へ分化を評価するために使用することができる。
【0075】
幾つかの態様において、本明細書で使用される「分化する」または「分化」とは、細胞が未成熟状態から未成熟度が低い状態へと進行する過程を意味する。別の態様において、本明細書で使用される「分化する」または「分化」とは、細胞が未分化状態から分化状態に、または未成熟状態から成熟状態へと進行する過程をいう。例えば、未分化の膵臓細胞は増殖して、PDX1のような特徴的マーカーを発現することができる。初期の未分化胚性膵細胞は増殖して、PDX1のような特徴的マーカーを発現することができる。一実施形態では、成熟または分化した膵臓細胞は増殖せず、高レベルの膵内分泌ホルモンを分泌する。幾つかの実施形態において、成熟または分化した膵臓細胞は増殖せず、高レベルの膵内分泌ホルモンまたは消化酵素を分泌する。一実施形態において、例えば、成熟β細胞はインスリンを高レベルで分泌する。幾つかの実施形態において、例えば、成熟β細胞はグルコースに応答して高レベルでインスリンを分泌する。細胞の相互作用及び成熟における変化は、細胞が未分化細胞のマーカーを失うか、または分化細胞のマーカーを獲得するに伴って生じる。一実施形態において、単一のマーカーの消失または獲得は、細胞が「成熟または分化した」ことを示すことができる。幾つかの実施形態において、単一マーカーの消失または獲得は、細胞が「成熟または完全に分化した」ことを示すことができる。「分化因子」の用語は、インスリン産生β細胞をも含む成熟内分泌細胞への分化を増強するために、膵臓細胞に添加される化合物を言う。例示的な分化因子には、肝細胞成長因子、ケラチノサイト成長因子、エキセンディン−4、塩基性線維芽細胞増殖因子、インスリン様成長因子−1、神経成長因子、表皮成長因子、血小板由来成長因子、及びグルカゴン様ペプチド1が含まれる。一実施形態において、前記細胞の分化には、1以上の分化因子を含む培地で細胞を培養することが含まれる。
【0076】
幾つかの実施形態では、少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団を分析して、出発集団の細胞の少なくとも1つが、膵臓内分泌系統に特徴的で、且つNGN3、NEUROD、ISL1、PDX1、NKX6.1、NKX2.2、MAFA、MAFB、ARX、BRN4、PAX4及びPAX6、GLUT2、INS、GCG、SST、膵臓ポリペプチド(PP)からなる群から選択されるマーカーを発現するかどうかを同定する。幾つかの実施形態において、前記膵臓内分泌系統に特徴的なマーカーは、PDX1及びNKX6−1からなる群から選択される。一実施形態において、膵臓内分泌細胞は以下のホルモン、即ち、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及びPPの少なくとも1つを発現することができる。幾つかの実施形態において、膵臓内分泌細胞は以下のホルモン、即ち、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、PP及びグレリンの少なくとも1つを発現することができる。本発明における使用に適切なものは、膵臓内分泌系統に特徴的なマーカーの少なくとも1つを発現する細胞である。本発明の1態様において、膵臓内分泌系統に特徴的なマーカーを発現する細胞は、膵臓内分泌細胞である。膵臓内分泌細胞は、膵臓ホルモン発現細胞であってよい。或いは、前記膵臓内分泌細胞は、膵臓ホルモン分泌細胞であってよい。
【0077】
一実施形態において、前記膵臓内分泌細胞は、前記β細胞系統に特徴的なマーカーを発現する細胞である。β細胞系統に特徴的なマーカーを発現する細胞はPDX1を発現し、更に、次の転写因子、即ちNGN3、NKX2−2、NKX6−1、NEUROD、ISL1、FOXA2、MAFA、PAX4、及びPAX6の少なくとも1つを発現してもよい。一実施形態では、β細胞系統に特徴的なマーカーを発現する細胞はβ細胞である。一実施形態において、前記膵臓内分泌細胞は、マーカーNKX6−1を発現する細胞である。本発明の別の態様において、前記膵臓内分泌細胞は、マーカーPDX1を発現する細胞である。本発明の更なる態様において前記、膵臓内分泌細胞は、マーカーNKX6−1及びPDX1を発現する細胞である。
【0078】
PDX1は、膵臓の発生に関与するホメオドメインの転写因子である。Pax−4はβ細胞特異的因子であり、Pax−6は膵島細胞(特異的)転写因子である;両方とも膵島発生に関与している。Hnf−3β(FoxA2としても知られている)は、転写因子の肝臓核因子ファミリーに属し、高度に保存されたDNA結合ドメイン及び2つの短いカルボキシ末端ドメインを特徴とする。NeuroDは、神経新生に関与する塩基性ヘリックス−ループ−ヘリックス(bHLH)転写因子である。Ngn3は、塩基性ループ−ヘリックス−ループ転写因子のニューロゲニンファミリーのメンバーである。本明細書中で使用されるNKX2−2及びNKX6−1は、Nkx転写因子ファミリーのメンバーである。島−1またはISL−1は、LIM/ホメオドメインファミリーの転写因子であり、発生中の膵臓で発現される。MAFAは、膵臓で発現される転写因子であり、インスリンの生合成及び分泌に関与する遺伝子の発現を制御する。NKX6−1及びPDX1は、成人の膵臓(例えば、腺房、腺管及び内分泌細胞)に見られる全ての細胞型に発生し得る初期の膵臓多能性細胞において、PTF1αと同時発現される。この細胞集団内には、一時的にNGN3をも発現する細胞が見出される。ある細胞がNGN3を発現し、または発現していると、それは内分泌系統の一部となり、後でランゲルハンス島を形成する内分泌細胞(一つのタイプはインスリン産生β細胞である)が生じる。NGN3が存在しない場合、膵臓発生の際に内分泌細胞は形成されない。発生の進行に伴い、NKX6−1及びPDX1は、膵臓のより中心のドメインに同時発現され、次いでこれらはPTF1aを発現しなくなり、NKX6−1及びPDX1陽性細胞がもはや腺房細胞を生じなくなる。このNKX6−1及びPDX1陽性の細胞集団内では、かなりの数の細胞が一過性にNGN3を同時発現し、発生初期のように内分泌系統についてそれらをマーキングする。
【0079】
一実施形態において、真正膵臓前駆細胞は分化できる細胞から誘導される。特定の実施形態において、前記分化できる細胞はヒト万能性幹細胞である。幾つかの実施形態において、前記分化できる細胞は、ヒトiPS細胞(hIPSC)、ヒトES細胞(hESC)及びナイーブヒト幹細胞(NhSC)からなる群から選択される。
【0080】
分化できる細胞は、個体から単離された細胞から誘導され得る。
【0081】
P21とも呼ばれるCDKN1a及びP16とも呼ばれるCDKN2aは、細胞周期特異的遺伝子である。CDKN1a(サイクリン依存性キナーゼ阻害剤1またはCDK相互作用タンパク質1)は、CDK2及びCDK1の複合体を阻害するサイクリン依存性キナーゼ阻害剤である。従って、CDKN1はG1期及びS期における細胞周期進行のレギュレーターとして機能する。CDKN2a(サイクリン依存性キナーゼ阻害剤2A、多発腫瘍抑制剤1)は腫瘍抑制タンパク質である。それは、G1期からS期への細胞の進行を減速させることにより細胞周期調節において重要な役割を果たし、従って、癌の予防に関与する腫瘍抑制因子として作用する。
【0082】
本発明者らは、驚くべきことに、開始細胞集団におけるCDKN1aまたはCDKN2aの不活性化が、特に開始細胞集団がPDX1発現膵臓前駆細胞である場合には、G2/M期に対応する複製状態における細胞集団の侵入を容易にすることを見出した。出発細胞集団におけるCDKN1aまたはCDKN2aの不活性化はまた、S期における細胞集団の侵入を促進し得る。従って、CDKN1aまたはCDKN2aの不活性化は、増殖された膵臓前駆細胞から成熟β細胞を得るために有用であり得る。
【0083】
幾つかの実施形態において、出発細胞集団におけるCDKN1a及び/またはCDKN2aの発現は不活性化される。幾つかの実施形態において、出発細胞集団はPDX1を発現する膵臓前駆細胞の集団である。開始細胞集団は、上記の集団の何れであってもよい。当業者は、CDKN1a及び/またはCDKN2aの発現を不活性化する方法を知っている。これは例えば、公知の遺伝子編集法により、対応する遺伝子を突然変異または欠損させることによって行うことができる。或いは、CDKN1a及び/またはCDKN2aの発現を防止するために、siRNAなどのサイレンシング手段を使用してもよい。或いは、CDKN1a及び/またはCDKN2aの正確な機能を阻害する阻害剤を使用してもよい。
【0084】
<リガンド>
少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団が与えられた後に、前記集団は、PDX1−細胞に特異的な第1のマーカーに結合する第1のリガンドに暴露され、前記第1のリガンドに結合しない細胞が選択される。このネガティブ分離は、PDX1+細胞に富んだ細胞集団をもたらす。該細胞集団を、PDX1+細胞に特異的なマーカーに結合する第二のリガンド及び/またはPDX1+NKX6−1+細胞に特異的な第3のマーカーに結合する第三のリガンドに曝露させて、第2及び/または第3のリガンドに結合する細胞が選択される。第1のリガンド並びに第2及び/または第3のリガンドの各々への暴露は、同時にまたは別々の工程で行えることが理解されるであろう。
【0085】
従って、一実施形態において、前記細胞集団は、PDX1−細胞に特異的な第1のマーカーに結合する第1のリガンドに曝露される。第1のリガンドに結合しない細胞が選択された後、PDX1+細胞に富化した細胞集団を、PDX1+細胞に特異的なマーカーに結合する第二のリガンド及び/またはPDX1+NKX6−1+細胞に特異的な第3のマーカーに結合する第三のリガンドに暴露させて、第2及び/または第3のリガンドに結合する細胞が選択される。
【0086】
別の実施形態において、前記細胞集団は、第1のリガンド、第2のリガンド及び/または第3のリガンドに同時に暴露され、第1のリガンドには結合しないが、第2及び/または第3のリガンドに結合する細胞が選択される。
【0087】
本明細書中に開示されるリガンドの各々は、マーカー、即ちPDX1+細胞、PDX1−細胞またはPDX1+NKX6−1+細胞に特異的なマーカーに対して特異的に結合または交差反応する部分である。「リガンド」または「リガンド(複数)」の用語は、第1、第2または第3のリガンドの何れかを指す一般的な用語として使用される。
【0088】
前記リガンドは、抗体またはその断片であってよく、ここでの抗体またはその断片は、ある種の細胞に特異的なマーカーを認識及び結合することができる。該抗体は、モノクローナルまたはポリクローナルであり得る。従って、幾つかの実施形態において、前記第1、第2及び第3のリガンドの少なくとも1つは、モノクローナル抗体もしくはポリクローナル抗体またはその断片である。他の実施形態において、前記第1、第2及び第3のリガンドの少なくとも2つはモノクローナル抗体もしくはポリクローナル抗体またはその断片である。他の実施形態において、前記第1、第2及び第3のリガンドは、モノクローナル抗体もしくはポリクローナル抗体またはその断片である。
【0089】
幾つかの実施形態において、前記リガンドが結合するマーカーは細胞表面マーカーである。
【0090】
本明細書中に記載の実施形態で使用されるリガンド及び/または抗体は、幾つかの実施形態においては、検出可能な標識と連結され得る。従って、本明細書中で使用される場合、用語「標識」または「検出可能な標識」とは、例えば、放射性、蛍光性、発光性、化学発光性、生物学的もしくは酵素的なタグ、または当該分野で標準的に使用される標識を意味する。本明細書に記載する一定の実施形態において有用な成分への結合のための検出可能なラベルは、診断アッセイ技術の当業者に既知で、且つ容易に入手可能な多くの組成物の中から容易に選択することができる。幾つかの実施形態において、前記標識は、直接的または間接的に検出可能な信号を与えることができる、単独で、または他の分子またはタンパク質と協働して作用する小さな化学分子であることができる。好ましい実施形態において、前記マーカーまたは標的は、アッセイにおいて使用される種々のリガンドまたは競合する分析物と関連付けられる。本明細書に記載の試薬、リガンド、競合する検体、または捕捉媒体は、使用される特定の検出可能な標識または標識系によって限定されない。幾つかの場合、前記検出可能な標識は、細胞表面またはビーズの屈折率を含むことができる。検出可能な標識は、核酸、抗体のようなポリペプチド、または小分子に接合され得るか、或いは結合され得るものである。例えば、本明細書中に記載されるオリゴヌクレオチドは、合成の後に、ビオチン化dNTPまたはrNTPを組み込むこと、または幾つかの同様の手段(例えば、ビオチンのタンパク質誘導体をRNAに光架橋する)に続いて、標識されたストレプトアビジン(例えば、フィコエリトリンに結合されたストレプトアビジン)または同等のものを付加することにより、標識することができる。或いは、蛍光標識されたオリゴヌクレオチドプローブが使用される場合、フルオレセイン、リサミン、フィコエリトリン、ローダミン、Cy2、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、FluorX、及びその他を核酸に結合させることができる。抗体のようなポリペプチドに接合できる検出可能な標識の非限定的な例には、放射性標識、例えばH、11C、14C、18F、32P、35S、64Cu、76Br、86Y、99Tc、111In、123I、125I、または177Lu、酵素、例えば西洋ワサビペルオキシダーゼ、発蛍光団、発色団、化学発光剤、キレート錯体、染料、金コロイドまたはラテックス粒子が含まれる。
【0091】
一実施形態において、特定の標識は、レーザーによる励起に際して特定波長の検出可能なシグナルを放出することにより検出を可能にする。フィコビリンタンパク質、タンデム色素、一定の蛍光タンパク質、小化学分子、及び他の手段により検出可能な特定の分子は全て、フローサイトメトリー分析のための標識と考えることができる。例えば、「蛍光プローブ及び研究用化学品のハンドブック」(Handbook of Fluorescent Probes and Research Chemicals, 6th Ed., R. P. Haugland, Molecular Probes, Inc., Eugene, Oreg. (1996))に列挙されている標識を参照されたい。例えばビリプロテインとの接合により直接標識された抗体分子のようなリガンドは、各々が概ねフルオレセインに匹敵した吸光度及び量子収率備えた34個もの関連発色団を有することができる。明細書に記載の特定の実施形態において有用なビリプロテインの例は、フィコシアニン、アロフィコシアニン(APC)、アロフィコシアニンB、フィコエリトリン、好ましくはR−フィコエリトリンである。フィコエリトリン(PE)は、現在入手可能な最も明るい蛍光染料の1つである。
【0092】
本明細書に記載の一定の方法の構成要素に直接的に接合でき、或いは、当該方法に追加の数の標識されたリガンドを加えるためにビリプロテインまたはタンデム色素と共に使用できる更に他の標識には、励起時に550nm未満の波長で発光する小分子が含まれる。従って、本明細書中で使用するとき、「小分子」標識またはその均等物は、ビリプロテインの発光と重複しないそのような分子を意味する。そのようなマーカーの一例は、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)である。追加の色を提供するために、この方法で使用できる更に他の標識は、緑色蛍光タンパク質(GFP)及び青色蛍光タンパク質(BFP)として知られるタンパク質である。また、一定の実施形態では、紫外光による励起の際に発光する標識が有用である。
【0093】
検出可能な標識はまた、基質と相互作用して検出可能なシグナルを生成する酵素;または抗体結合もしくは適切に標識されたリガンドへの結合により検出可能なタンパク質であることができる。アッセイにおいて比色シグナルを明らかにするために様々な酵素系が作用し、例えば、グルコースオキシダーゼ、西洋ワサビペルオキシダーゼ(FIRP)またはアルカリホスファターゼ(AP)、及びヘキソキナーゼは、ATP、グルコース及びNAD+と反応してNADHを生成するグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼと組み合わせて用いられ、該NADHの生成は340nm波長での増加した吸光度として検出される。着色ラテックス微小粒子のような更に別の標識は、それにより染料が包埋され、阻害剤配列またはリガンドとの接合体を形成し、生じる複合体の存在を示す視覚的信号を与えるものであり、一定の実施形態に記載の幾つかのアッセイのために適用することができる。使用できる他の標識系には、ナノ粒子または量子ドットが含まれる。従って、本明細書に記載の方法には、任意の数の従来使用されている追加の標識システムを適合させることができる。当業者は、標識系の選択及び/または実施にはルーチンの実験のみが含まれることを理解する。上記の標識及びマーカーは、既知の供給源から商業的に入手することができる。
【0094】
本明細書中で使用される場合、「固体マトリックス」または「固相捕獲媒体」は、その細胞集団サンプルからの分離を可能にする任意のマトリックスまたは培地、例えば生理学的適合性のビーズをいう。このようなマトリックスまたは媒体の特徴には、屈折率、サイズ、光散乱強度、または独特の蛍光的特徴を提供する蛍光検出色素を坦持することが含まれる。このようなビーズは、当技術分野では慣用的に入手可能である。例えば、固相捕捉媒体の1つのサブセットには、サイズが約0.2〜約5.0μm(即ち、コロイドサイズ)のポリスチレンビーズ等の安定なコロイド粒子が含まれる。このようなポリスチレン基質またはビーズは、市販のビーズのように、アルデヒド及び/または硫酸官能基を含むことができる。
【0095】
<第1のリガンド>
真正膵臓前駆細胞が富化された集団を単離する本発明の方法は、
i)少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団を提供し、ここでの該真正膵臓前駆細胞はPDX1及びNKX6−1を発現する工程と;
ii)前記細胞集団を、
a)PDX1−細胞に特異的な第1のマーカーに結合する第1のリガンドに曝露させて、前記細胞集団から前記第1のリガンドに結合しない細胞を選択し、それによりPDX1+細胞について前記細胞集団を富化させ;
及び/または
b)PDX1+細胞に特異的な第2のマーカーに結合する第2のリガンドに曝露させて、前記第2のリガンドに結合しない細胞から前記第2のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+細胞について前記細胞集団を富化させ;
及び/または
c)PDX1+NKX6−1+細胞に特異的な第3のマーカーに結合する第3のリガンドに曝露させて、前記第3のリガンドに結合しない細胞から前記第3のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+NKX6−1+細胞について前記細胞集団を富化させる工程を具備し、
それによって真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を得るものである。
【0096】
従って、少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団であって、該真正膵臓前駆細胞がPDX1及びNKX6−1を発現する細胞集団を提供した後に、該細胞集団を、PDX1−細胞に特異的な第1のマーカーに結合する第1のリガンドに曝露して、前記第1のリガンドに結合しない細胞が選択され、それによってPDX1発現細胞(PDX1+)を富化させる。
【0097】
前記第1のリガンドは、上記で述べたリガンドであってよい。幾つかの実施形態において、前記第1のリガンドは、細胞表面マーカーを認識して結合できるリガンドである。幾つかの実施形態において、前記細胞表面マーカーはCD49dである。幾つかの実施形態において、前記第1のリガンドは、CD49dに対するモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体またはその断片である。前記第1のリガンドは、上記で詳述したように、例えば、第1のリガンドに結合しない細胞の選択を容易にするために、標識に接合することができる。
【0098】
第前記1のリガンドに結合しない細胞の選択は、フローサイトメトリーのような当該分野で公知の方法によって実施することができる。従って、幾つかの実施形態において、前記第1のマーカーの発現は、フローサイトメトリーによって検出され得る。
【0099】
<第2のリガンド>
当該方法は、更に、前記開始集団(または上記で述べた第1のリガンドでの選択後の、PDX1を発現しない細胞)をPDX1+細胞に特異的な第2のマーカーに結合する第2のリガンドに曝露し、前記第2のリガンドに結合しない細胞から前記第2のリガンドに結合する細胞を選択することを含み、それによってPDX1+細胞が富化された細胞集団を得る。その結果として、真正膵臓前駆細胞が富化された集団が得られる。該富化された集団は、特に、後部前腸PDX1+細胞について富化され得る。
【0100】
前記第2のリガンドは、上記で述べたリガンドであることができる。幾つかの実施形態において、前記第2のリガンドは、細胞表面マーカーを認識して結合できるリガンドである。幾つかの実施形態において、前記第2のリガンドは、FOLR1、CDH1/ECAD、F3/CD142、PDX1、FOXA2、EPCAM、HES1及びGATA4からなる群から選択される第2の標的を認識し、結合することができる。幾つかの実施形態において、前記第二のリガンドは。FOLR1、CDH1/ECAD、F3/CD142、PDX1、FOXA2、EPCAM、HES1、及びGATA4からなる群から選択される第二の標的に対して向けられるモノクローナル抗体もしくはポリクローナル抗体、またはその断片である。前記第2のリガンドは、上記で詳述したように、例えば前記第2のリガンドに結合する細胞の選択を容易にするために、標識に接合させることができる。好ましい実施形態において、前記第2のリガンドはFOLR1を認識して結合することができる。
【0101】
前記第2のリガンドに結合する細胞の選択は、フローサイトメトリーのような当該分野で公知の方法によって実施することができる。従って、幾つかの実施形態において、前記第2のマーカーの発現はフローサイトメトリーによって検出され得る。
【0102】
細胞集団の前記第2のリガンドへの曝露は、前記第1のリガンドへの曝露及び任意に前記第3のリガンドへの曝露と同時に起こり得るか、または別個の工程で起こり得る。
【0103】
<第3のリガンド>
当該方法は、PDX1及びNKX6−1の両方を発現する真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を得るために、前記細胞集団を、PDX1+NKX6−1+細胞に特異的な第3のマーカーに結合する第3のリガンドに曝露する工程を含み、該第3のリガンドに結合する細胞を選択する工程を含んでよい。前記第2のリガンドへの曝露の代わりに、前記第3のリガンドへの曝露を行ってもよい。幾つかの実施形態において、前記細胞集団は前記第1及び前記第3のリガンドに暴露され、該リガンドへの暴露は同時にまたは別々の工程で生じることができる。他の実施形態において、前記細胞集団は、前記第1、第2及び第3のリガンドに曝露され、ここでの前記リガンドへの暴露は同時または別々の工程で生じることができる。その結果として、真正膵臓前駆細胞が富化された集団が得られる。
【0104】
前記第3のリガンドは、上記で述べたリガンドであってよい。幾つかの実施形態において、前記第3のリガンドは、細胞表面マーカーを認識して結合できるリガンドである。幾つかの実施形態において、前記第3のリガンドは第3の標的を認識して結合することができ、ここでの前記第3の標的はGP2、SCN9A、MPZ、NAALADL2、KCNIP1、CALB1、SOX9、NKX6−2及びNKX6−1からなる群から選択される。好ましい実施形態において、前記第3の標的はGP2である。幾つかの実施形態において、前記第3のリガンドは、GP2、SCN9A、MPZ、NAALADL2、KCNIP1、CALB1、SOX9、NKX6.2及びNKX6−1からなる群から選択される第3の標的に対して向けられるモノクローナル抗体もしくはポリクローナル抗体またはその断片である。好ましい実施形態において、前記第3のリガンドは、GP2に対して向けられるモノクローナル抗体もしくはポリクローナル抗体またはその断片である。第3のリガンドは、上記で述べたように、例えば前記第3のリガンドに結合する細胞の選択を容易にするために標識に接合されてよい。
【0105】
第3のリガンドに結合する細胞の選択は、フローサイトメトリーのような当該分野で既知の方法により行うことができる。従って、幾つかの実施形態において、前記第3のマーカーの発現は、フローサイトメトリーによって検出され得る。
【0106】
従って、幾つかの実施形態において、真正膵臓前駆細胞が富化された集団を単離するための本方法は、
i)少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団を提供し、ここでの該真正膵臓前駆細胞はPDX1及びNKX6−1を発現する工程と;
ii)前記細胞集団を、
a)PDX1−細胞に特異的な第1のマーカーに結合する第1のリガンドに曝露させて、前記細胞集団から前記第1のリガンドに結合しない細胞を選択し、それによりPDX1+細胞について前記細胞集団を富化させ;
及び/または
b)PDX1+細胞に特異的な第2のマーカーに結合する第2のリガンドに曝露させて、前記第2のリガンドに結合しない細胞から前記第2のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+細胞について前記細胞集団を富化させ;
及び/または
c)PDX1+NKX6−1+細胞に特異的な第3のマーカーに結合する第3のリガンドに曝露させて、前記第3のリガンドに結合しない細胞から前記第3のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+NKX6−1+細胞について前記細胞集団を富化させる工程を具備し、ここで、
・前記第1のリガンドはCD49dを認識してこれに結合し、
・前記第2のリガンドはFOLR1、CDH1/ECAD、F3/CD142、PDX1、FOXA2、EPCAM、HES1、及びGATA4からなる群から選択される第2のマーカーを認識してこれに結合し、
・前記第3のリガンドは、GP2、SCN9A、MPZ、NAALADL2、KCNIP1、CALB1、SOX9、NKX6.2及びNKX6−1からなる群から選択される第3のマーカーを認識してこれに結合し、
それによって真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を得るものである。
【0107】
幾つかの実施形態において、真正膵臓前駆細胞が富化された集団を単離するための本方法は、
i)少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団を提供し、ここでの該真正膵臓前駆細胞はPDX1及びNKX6−1を発現する工程と;
ii)前記細胞集団を、
a)PDX1−細胞に特異的な第1のマーカーに結合する第1のリガンドに曝露させて、前記細胞集団から前記第1のリガンドに結合しない細胞を選択し、それによりPDX1+細胞について前記細胞集団を富化させ;
及び
b)PDX1+NKX6−1+細胞に特異的な第3のマーカーに結合する第3のリガンドに曝露させて、前記第3のリガンドに結合しない細胞から前記第3のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+NKX6−1+細胞について前記細胞集団を富化させる工程を具備し、ここで、
・前記第1のリガンドはCD49dを認識してこれに結合し、
・前記第3のリガンドは、GP2、SCN9A、MPZ、NAALADL2、KCNIP1、CALB1、SOX9、NKX6.2及びNKX6−1からなる群から選択される第3のマーカーを認識してこれに結合し、
それによって真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を得るものである。
【0108】
こうして、幾つかの実施形態において、真正膵臓前駆細胞が富化された集団を単離するための本方法は、
i)少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団を提供し、ここでの該真正膵臓前駆細胞はPDX1及びNKX6−1を発現する工程と;
ii)前記細胞集団を、
a)PDX1−細胞に特異的な第1のマーカーに結合する第1のリガンドに曝露させて、前記細胞集団から前記第1のリガンドに結合しない細胞を選択し、それによりPDX1+細胞について前記細胞集団を富化させ;
及び
b)PDX1+細胞に特異的な第2のマーカーに結合する第2のリガンドに曝露させて、前記第2のリガンドに結合しない細胞から前記第2のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+細胞について前記細胞集団を富化させる工程を具備し、ここで、
・前記第1のリガンドはCD49dを認識してこれに結合し、
・前記第2のリガンドはFOLR1、CDH1/ECAD、F3/CD142、PDX1、FOXA2、EPCAM、HES1、及びGATA4からなる群から選択される第2のマーカーを認識してこれに結合し、
それによって真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を得るものである。
【0109】
こうして、幾つかの実施形態において、真正膵臓前駆細胞が富化された集団を単離するための本方法は、
i)少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団を提供し、ここでの該真正膵臓前駆細胞はPDX1及びNKX6−1を発現する工程と;
ii)前記細胞集団を、
a)PDX1−細胞に特異的な第1のマーカーに結合する第1のリガンドに曝露させて、前記細胞集団から前記第1のリガンドに結合しない細胞を選択し、それによりPDX1+細胞について前記細胞集団を富化させ;
b)PDX1+細胞に特異的な第2のマーカーに結合する第2のリガンドに曝露させて、前記第2のリガンドに結合しない細胞から前記第2のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+細胞について前記細胞集団を富化させ;
及び
c)PDX1+NKX6−1+細胞に特異的な第3のマーカーに結合する第3のリガンドに曝露させて、前記第3のリガンドに結合しない細胞から前記第3のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+NKX6−1+細胞について前記細胞集団を富化させる工程を具備し、ここで、
・前記第1のリガンドはCD49dを認識してこれに結合し、
・前記第2のリガンドはFOLR1を認識してこれに結合し、
・前記第3のリガンドはGP2を認識してこれに結合し、
それによって真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を得るものである。
【0110】
幾つかの実施形態において、真正膵臓前駆細胞が富化された集団を単離するための本方法は、
i)少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団を提供し、ここでの該真正膵臓前駆細胞はPDX1及びNKX6−1を発現する工程と;
ii)前記細胞集団を、
a)PDX1−細胞に特異的な第1のマーカーに結合する第1のリガンドに曝露させて、前記細胞集団から前記第1のリガンドに結合しない細胞を選択し、それによりPDX1+細胞について前記細胞集団を富化させ;
及び
b)PDX1+細胞に特異的な第2のマーカーに結合する第2のリガンドに曝露させて、前記第2のリガンドに結合しない細胞から前記第2のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+細胞について前記細胞集団を富化させる工程を具備し、ここで、
・前記第1のリガンドはCD49dを認識してこれに結合し、
・前記第2のリガンドはFOLR1を認識してこれに結合し、
それによって真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を得るものである。
【0111】
幾つかの実施形態において、真正膵臓前駆細胞が富化された集団を単離するための本方法は、
i)少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団を提供し、ここでの該真正膵臓前駆細胞はPDX1及びNKX6−1を発現する工程と;
ii)前記細胞集団を、PDX1+NKX6−1+細胞に特異的な第3のマーカーに結合する第3のリガンドに曝露させて、前記第3のリガンドに結合しない細胞から前記第3のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+NKX6−1+細胞について前記細胞集団を富化させる工程を具備し、ここで、
・前記第3のリガンドは、GP2を認識してこれに結合し、
それによって真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を得るものである。
【0112】
幾つかの実施形態において、真正膵臓前駆細胞が富化された集団を単離するための本方法は、
i)少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団を提供し、ここでの該真正膵臓前駆細胞はPDX1及びNKX6−1を発現する工程と;
ii)前記細胞集団を、PDX1+NKX6−1+細胞に特異的な第3のマーカーに結合する第3のリガンドに曝露させて、前記第3のリガンドに結合しない細胞から前記第3のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+NKX6−1+細胞について前記細胞集団を富化させる工程を具備し、ここで、
前記第3のリガンドは、GP2を認識してこれに結合し、
それによって真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を得るものである。
【0113】
幾つかの実施形態において、真正膵臓前駆細胞が富化された集団を単離するための本方法は、
i)少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団を提供し、ここでの該真正膵臓前駆細胞はPDX1及びNKX6−1を発現する工程と;
ii)前記細胞集団を、
a)PDX1+細胞に特異的な第2のマーカーに結合する第2のリガンドに曝露させて、前記第2のリガンドに結合しない細胞から前記第2のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+細胞について前記細胞集団を富化させ;
及び
b)PDX1+NKX6−1+細胞に特異的な第3のマーカーに結合する第3のリガンドに曝露させて、前記第3のリガンドに結合しない細胞から前記第3のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+NKX6−1+細胞について前記細胞集団を富化させる工程を具備し、ここで、
・前記第2のリガンドはFOLR1を認識してこれに結合し、
・前記第3のリガンドは、GP2を認識してこれに結合し、
それによって真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を得るものである。
【0114】
インスリン産生β細胞のようなホルモン産生β細胞を生成させるための方法には、フローサイトメトリーまたは他の類似の方法によって単離し、且つフォルスコリン、Alk5阻害剤、ノギン、ニコチンアミドで処理したGP2陽性細胞を選別することが含まれることが理解されるであろう。ROCK阻害剤が、選別後に24〜48時間添加され得る。
【0115】
<真正膵臓前駆細胞集団>
本発明の方法は、真正膵臓前駆細胞が富化された集団を提供する。
【0116】
一実施形態において、真正膵臓前駆細胞が濃縮された前記細胞集団の少なくとも1つの細胞は、更に分化する能力を有する。真正膵臓前駆細胞が富化された前記細胞集団の少なくとも1つの細胞は、膵臓ホルモン産生細胞へと更に分化する能力を有し得る。幾つかの実施形態において、前記膵臓ホルモン産生細胞の少なくとも1つは、インスリン産生細胞である。幾つかの実施形態において、前記膵臓ホルモン産生細胞の少なくとも1つは、グルコースに対して応答性である。幾つかの実施形態において、前記膵臓ホルモン産生細胞の少なくとも1つはインスリン産生細胞であり、これはまたグルコースに対して反応性である。幾つかの実施形態において、真正膵臓前駆細胞が富化された前記細胞集団の少なくとも1つの細胞は、インスリンを産生する膵島細胞を生じさせることができる。
【0117】
幾つかの実施形態において、前記膵臓ホルモン産生細胞の少なくとも1つは、Yap1阻害剤の不存在下でインキュベートされた細胞集団と比較して、インスリン、Cペプチド、Insm−1、Isl−1、MafA及びMafBのうち少なくとも1つの増大した発現を有している。一実施形態において、前記膵臓ホルモン産生細胞は成熟β細胞である。
【0118】
インスリン産生β細胞のようなホルモン産生β細胞を得るための別の方法は、本方法によって単離された細胞を、ベルテポルフィンのようなYap1阻害剤で処理する工程を含んでいる。このような方法は、同日付けで出願された「インスリン産生細胞の生産方法」(発明者Anant Mamidi及びHenrik Semb、出願人:コペンハーゲン大学)と題された同時係属中の特許出願に記載されている。
【0119】
YAP1(Yes−associated protein 1)は、発達、成長、修復、及びホメオスタシスに関与するHippoシグナリング経路下流の核エフェクターである。ベルテポルフィンは、Yap1活性を阻害できる小分子である。
【0120】
分化可能な少なくとも1つの細胞を含む膵臓前駆細胞集団が上記のように提供された後、該細胞集団は、Yap1阻害剤の存在下でインキュベートすることができる。幾つかの実施形態において、該Yap1阻害剤はベルテポルフィンである。
【0121】
幾つかの実施形態において、前記細胞集団は、0.1〜10μgmLの濃度、例えば0.2〜9μg/mL、例えば0.3〜8μg/mL、例えば0.4〜7μg/mL、例えば0.5〜6μg/mL、例えば0.6〜5μg/mL、例えば0.7〜4μg/mL、例えば0.8〜3μg/mL、例えば0.9〜2μg/mL、例えば1μg/mLの濃度のベルテポルフィンの存在下でインキュベートされる。一実施形態において、細胞集団は、1μgmLのベルテポルフィンの存在下でインキュベートされる。
【0122】
幾つかの実施形態において、前記細胞集団は、少なくとも3日間、例えば少なくとも4日間、例えば少なくとも5日間、例えば少なくとも6日間、例えば少なくとも7日間、例えば少なくとも8日間、例えば少なくとも9日間、例えば少なくとも10日間、ベルテポルフィンの存在下でインキュベートされる。幾つかの実施形態において、ベルテポルフィンの存在下でのインキュベーションは、5日間に亘って行われる。
【0123】
幾つかの実施形態では、CDKN1a及び/またはCDKN2aは、出発細胞集団において不活性化される。一実施形態では、CDKN1aが不活性化される。別の実施形態では、CDKN2aが不活性化される。別の実施形態では、CDKN1a及びCDKN2aの両方が不活性化される。別の実施形態では、CDKNIa及びCDKN2が、連続的に不活性化される。即ち、CDKNIa及びCDKN2aの一方が第1段階で不活性化され、CDKNIa及びCDKN2aの他方が第2段階で不活性化される。第1段階と第2の段階は、時間的に重なり合うか、または独立している。
【0124】
<真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を生成する方法>
真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を生成するための方法もまた開示され、前記付加された細胞集団は少なくとも70%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも75%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも80%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも85%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも90%の真正膵臓前駆細胞を含んでいる。一実施形態において、当該方法は上記で述べた通りである。
【0125】
従って、幾つかの実施形態において、前記方法は、少なくとも70%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも71%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも72%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも73%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも74%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも75%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも76%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも77%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも78%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも79%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも80%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも81%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも82%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも83%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも84%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも85%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも86%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも87%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも88%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも89%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも90%の真正膵臓前駆細胞を含んだ、真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を製造するためのものである。
【0126】
前記富化された集団に含まれる真正前駆細胞の割合を決定するためには、当該技術において既知の方法、例えば免疫染色及び/またはフローサイトメトリー法を用いることができるが、これらに限定されない。
【0127】
<真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団>
本明細書にはまた、少なくとも70%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも75%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも80%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも85%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも90%の真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団が開示される。幾つかの実施形態において、当該細胞集団は、上記の方法の何れかによって得ることができる。
【0128】
従って、幾つかの実施形態において、前記真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団は、少なくとも70%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも71%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも72%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも73%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも74%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも75%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも76%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも77%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも78%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも79%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも80%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも81%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも82%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも83%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも84%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも85%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも86%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも87%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも88%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも89%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも90%の真正膵臓前駆細胞を含んでいる。
【0129】
前記富化された集団に含まれる真正前駆細胞の割合を決定するためには、当該技術において既知の方法、例えば免疫染色及び/またはフローサイトメトリー法を用いることができるが、これらに限定されない。
【0130】
<代謝障害の治療>
本明細書では、それを必要とする個体における代謝障害の治療のための、本明細書に開示された方法の何れかにより得られる真正膵臓前駆細胞を含んだ細胞集団もまた開示される。
【0131】
本明細書に記載の細胞集団は、代謝障害の治療のために使用することができる。真正膵臓前駆細胞を含むこのような細胞集団は、例えばβ細胞前駆体に富む細胞集団を単離できるように、記載された真正前駆細胞について富化することができる。これは、上記で述べたようにして、例えば、上記に詳述したリガンド結合性マーカーの使用及びフローサイトメトリーによる単離によって行うことができる。これらの単離された細胞は、使用前には保存することができ、または直ちに使用することもできる。該細胞は、更に分化させることができる。所望の特性を備えた細胞集団が得られたら、該細胞は、それを必要とする個体に移植される。一例として、このような細胞ベースの療法は、糖尿病を患っている個体におけるインスリン産生β細胞の移植するために有用であり、それによってインビボでのインスリン産生を回復させることができる。開始細胞集団が患者自身から誘導されるならば、移植された細胞の拒絶のような有害な免疫反応のリスクを低減することができる。インスリン産生β細胞を患者に移植する代わりに、本明細書に記載の方法により得られる細胞のような、真正膵臓前駆細胞を移植することもできる。
【0132】
本明細書で使用する「代謝障害」の用語は、内分泌疾患、栄養障害及び代謝性疾患を指すものと解釈される。好ましくは、該障害は膵臓障害に関連する。代謝障害の例は、1型糖尿病及び2型糖尿病を含む真性糖尿病である。
【0133】
一般に糖尿病と呼ばれる真正糖尿病は、長期に亘って血糖レベルが高い一群の代謝性疾患である。1型糖尿病、2型糖尿病及び妊娠糖尿病を含む幾つかのタイプの糖尿病が存在する。1型糖尿病は、膵臓におけるランゲルハンス島のインスリン産生β細胞の喪失を特徴とし、インスリン欠乏症をもたらす。2型糖尿病はインスリン抵抗性を特徴とし、比較的低いインスリン分泌と組み合わされ得る。インスリンに対する身体組織の反応性の欠如には、インスリン受容体が関与すると考えられている。2型糖尿病に似ている妊娠糖尿病は、全ての妊娠の約2〜10%で生じる。糖尿病のタイプはまた、インスリン依存性真性糖尿病、非インスリン依存性真性糖尿病、栄養失調関連真性糖尿病、または不特定真性糖尿病に分類することができる。
【0134】
本明細書中に開示される方法は、真正膵臓駆細胞が富化された細胞集団を得るために使用することができる。従って、幾つかの実施形態では、それを必要とする個体において代謝障害を治療するための細胞集団が提供される。幾つかの実施形態において、前記代謝障害は、インスリン依存性真性糖尿病、非インスリン依存性真性糖尿病、栄養失調関連真性糖尿病または不特定の真性糖尿病のような真性糖尿病からなる群から選択される。
【0135】
幾つかの実施形態において、代謝障害の治療のための細胞集団は上記の方法によって得られる:即ち、
・真正膵臓前駆細胞がPDX1及びNKX6−1を発現する場合に、少なくとも一つの該真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団を、PDX1+NKX6−1+細胞に特異的な第3のマーカーに結合する第3のリガンドに暴露し、前記第3のリガンドに結合しない細胞から前記第3のリガンドに結合する細胞を選択することにより、前記細胞集団をPDX1+NKX6−1+細胞について富化し;ここでの前記第3のリガンドはGP2を認識してこれに結合する方法;または
・真正膵臓前駆細胞がPDX1及びNKX6−1を発現する場合に、少なくとも一つの該真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団を、PDX1+細胞に特異的な第2のマーカーに結合する第2のリガンドに暴露し、前記第2のリガンドに結合しない細胞から前記第2のリガンドに結合する細胞を選択することにより、前記細胞集団をPDX1+細胞について富化し;またPDX1+NKX6−1+細胞に特異的な第3のマーカーに結合する第3のリガンドに暴露し、前記第3のリガンドに結合しない細胞から前記第3のリガンドに結合する細胞を選択することにより、前記細胞集団をPDX1+NKX6−1+細胞について富化し、ここで前記第2のリガンドはFOLR1を認識してこれに結合し、また前記第3のリガンドはGP2を認識してこれに結合する方法;または
・真正膵臓前駆細胞がPDX1及びNKX6−1を発現する場合に、少なくとも一つの該真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団を、PDX1−細胞に特異的な第1のマーカーに結合する第1のリガンドに暴露し、前記細胞集団から前記第1のリガンドに結合しない細胞を選択することにより、前記細胞集団をPDX1+細胞について富化し;またPDX1+細胞に特異的な第2のマーカーに結合する第2のリガンドに暴露し、前記第2のリガンドに結合しない細胞から前記第2のリガンドに結合する細胞を選択することにより、前記細胞集団をPDX1+細胞について富化し;また、PDX1+NKX6−1+細胞に特異的な第3のマーカーに結合する第3のリガンドに暴露し、前記第3のリガンドに結合しない細胞から前記第3のリガンドに結合する細胞を選択することにより、前記細胞集団をPDX1+NKX6−1+細胞について富化し、ここで前記第1のリガンドはCD49dを認識してこれに結合し、前記第2のリガンドはFOLR1を認識してこれに結合し、また前記第3のリガンドはGP2を認識してこれに結合する方法;または
・本明細書の何処かに記載した任意の方法である
【0136】
一つの態様では、それを必要とする個体における代謝障害の治療方法であって、本明細書に記載の方法により得られる真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を提供する工程を含む方法が提供される。
【0137】
幾つかの実施形態において、本方法は、前記富化された細胞集団の少なくとも一部を、前記代謝障害に罹患している個体に移植する工程を含む。
【0138】
幾つかの実施形態において、前記富化された細胞集団は、移植に先立って更に分化され得る。従って、同日付で提出された「インスリン産生細胞の製造方法」と題する同時係属中の特許出願(発明者Anant Mamidi and Henrik Semb、出願人:コペンハーゲン大学)に記載されているように、真正膵臓前駆細胞は更に、移植前にインスリン産生細胞に分化されてよく、または移植前に成熟インスリン産生β細胞に分化されてよい。他の実施形態において、前記富化された細胞集団は、膵島内に見出される内分泌細胞へと更に分化される。幾つかの実施形態において、前記富化された細胞集団は、MafAの増大した発現を有するインスリン産生β細胞へと更に分化される。好ましくは、前記インスリン産生β細胞は、成熟した及び/またはインスリン応答性のものである。
【0139】
前記富化された細胞集団を更に分化させるための方法は、当業者に利用可能である(Rezania et al., 2014)。一実施形態において、この方法は、分化できる少なくとも1つの細胞を含む膵臓前駆細胞集団を提供する工程と;前記細胞集団をYap1阻害剤の存在下でインキュベートする工程を含み;それによってインスリン産生β細胞が富化されたな細胞集団を得るものである。一実施形態において、前記Yap1阻害剤はベルテポルフィンである。
【0140】
分化可能な少なくとも1つの細胞を含む膵臓前駆細胞集団が上記のように提供された後、該細胞集団はYap1阻害剤の存在下でインキュベートすることができる。幾つかの実施形態において、該Yap1阻害剤はベルテポルフィンである。
【0141】
幾つかの実施形態において、前記細胞集団は、0.1〜10μg/mLの濃度、例えば0.2〜9μg/mL、例えば0.3〜8μg/mL、例えば0.4〜7μg/mL、例えば0.5〜6μg/mL、例えば0.6〜5μg/mL、例えば0.7〜4μg/mL、例えば0.8〜3μg/mL、例えば0.9〜2μg/mL、例えば1μg/mLの濃度のベルテポルフィンの存在下でインキュベートする。一実施形態では、前記細胞集団を、1μg/mLのベルテポルフィンの存在下でインキュベートする。
【0142】
幾つかの実施形態において、前記細胞集団は少なくとも3日間、例えば少なくとも4日間、例えば少なくとも5日間、例えば少なくとも6日間、例えば少なくとも7日間、例えば少なくとも8日間、例えば少なくとも9日間、例えば少なくとも10日間、ベルテポルフィンの存在下でインキュベートされる。幾つかの実施形態において、前記ベルテポルフィンの存在下でのインキュベーションは5日間行われる。
【0143】
幾つかの実施形態では、このように更に分化された細胞を単離することができる。幾つかの実施形態において、この単離された細胞、または更に分化した細胞を含む細胞集団は、前記代謝障害に罹患している個体に移植される。
【0144】
<実施例>
実施例1
序論
糖尿病の治癒には、既に破壊されたβ細胞塊の修復と共に、β細胞の自己免疫的破壊の予防が必要である。治療は、インスリン産生細胞の再生または移植の何れかであろう。その固有の万能性及び理論的に無制限の供給のために、ヒト胚性幹細胞(hESC)はβ細胞置換療法の魅力的な供給源となっている。この戦略は、移植後の奇形腫形成のリスクを克服することに依存する。精製されたhESC誘導体の移植は、腫瘍原性のリスクを最小限に抑えることができるであろう。この研究において、ターゲッティングされるPDX1−eGFPレポーター細胞株を開発することにより、hESC由来PDX1+膵臓前駆細胞の深い分析を行った。本発明者らは、hESC由来PDX1+β細胞前駆体の単離のための、新規な細胞表面マーカーを同定した。具体的には、膵臓前駆体に対応するGFP+画分におけるGP2及びFOLR1の富化、及びGFP−画分におけるCD49dの富化を示す。これら新規な細胞表面マーカーを組み合わせるか、またはそれらを個別に使用することにより、インビトロでの分化の際に誘導された異種細胞集団から、真のβ細胞前駆体を単離することができる。これらの新規抗体は、精製された膵臓前駆細胞からのインスリン産生細胞の生成、並びに糖尿病細胞補充療法のための純粋な膵臓前駆細胞集団の更なる培養及び移植を容易にするだけでなく、ヒト膵臓発生の更なる研究を可能にする。機能的なグルコース応答性インスリン分泌細胞は、インビトロ分化戦略によってはこれまで得られていないが、糖尿病マウスモデルでは、膵臓前駆細胞及びインビトロで誘導されたインスリン発現細胞を移植することによって原理の証明が得られており、ここでは前記の前駆細胞/未熟のインスリン+細胞が、マウスにおいて糖尿病を逆転させる能力を有するグルコース応答性インスリン産生細胞へと分化及び成熟する(Kroon et al. 2008, Rezania et al. 2014)。この概念は、幹細胞由来β細胞の無限の供給源を提供するので、糖尿病に罹患した患者の治療のための魅力的なモデルになっている。しかし、このビジョンが実現できるようになる前に、2つの大きな懸念/障害を取り除かなければならない:即ち、(1)異種細胞集団の移植によって奇形腫形成が生じる、及び(2)移植細胞は、その後の免疫拒絶を回避するために保護されなければならないことである。移植前の膵臓前駆細胞の精製は、奇形腫形成のリスクを低減できることが示され/確立されている。この富化は、組織特異的レポーター細胞株または細胞表面マーカーの使用によって得ることができる。膵臓前駆細胞の単離のために利用可能なヒトレポーター細胞株の欠如が、膵臓特異的細胞表面マーカーの同定を妨げてきた。ヒト細胞表面マーカーの同定に関連した幾つかの僅かな刊行物では、初代ヒト膵臓または膵島画分を材料源として利用している。2011年に、Kellyらは、市販の抗体のフローサイトメトリーに基づくスクリーニングを行うことによって、膵臓前駆細胞及び内分泌細胞を同定するための3つの表面マーカーを報告した。CD142は、PDX1+/NKX6−1+細胞の細胞表面マーカーとして同定され、またCD200またはCD318は内分泌細胞の表面マーカーとして同定された。別のグループ(Jiang et al 2011)は、追加のマーカーCD24が、PDX1+前駆細胞の新規マーカーであるべきことを報告した。しかし、CD24は、未分化hESC及び初期内胚葉から膵臓内胚葉への分化過程においてその発現が検出されたため、PDX1+前駆細胞の適切なマーカーではないことが後で示された(Naujok and Lenzen、2012)。Kellyらによって行われた抗体スクリーニングでは、CD24の広範な発現パターンも観察された。実際に、これら公表された細胞表面マーカーの発現パターンを我々のスクリーニングで調べたところ、マーカーCD24、CD200について、GFP+及びGFP−細胞画分の間の有意な発現変化を観察することはできなかった。加えて、代わりにCD318が、GFP−細胞において有意に富化された。CD142/F3は、転写レベルではGFP+細胞において(GFP−細胞と比較して)比較的富化されたが、CD142抗体による染色では、GFP+及びGFP−細胞集団の両方においてCD142発現が示された。これらの観察は、組織特異的レポーター細胞株を使用せずに特定の細胞表面マーカーを同定することの困難さを強調/例示している。
【0145】
hESCからの純粋なPDX1+膵臓前駆細胞の単離を可能にするために、遺伝子ターゲッティングによってPDX1レポーター細胞株を樹立した。これはマウスES細胞では達成されているが(Holland et al.,2006)、hESCではこれまで公表されていない。更に、このレポーター細胞株は、hESC由来の膵臓前駆細胞の単離及び更なる特徴付けを可能にするだけでなく、ヒト膵臓前駆細胞の発生を研究するための新規なツールでもある。
【0146】
本研究では、PDX1+/NKX6−1+膵臓前駆細胞の単離のための新規細胞表面マーカーとしてGP2を、PDX1−細胞画分の細胞表面マーカーとしてCD49dを同定し、ネガティブ選択を可能にした。追加の細胞表面マーカーであるFOLR1もまた同定された。GP2とは対照的に、このマーカーはより広範な染色パターンを有し、PDX1+/NKX6−1−前駆細胞をも標識する。
【0147】
これらのマーカーは、以前に公表されたマーカーとは対照的に、異種細胞培養体からの膵臓前駆細胞の富化を可能にし、また他の遺伝子的にタグ付けされていないヒトES細胞株からのPDX1+β細胞前駆体の単離を可能にするので、糖尿病治療法の開発にとって極めて価値がある。
【0148】
実施例2:ヒトPDX1遺伝子座へのeGFPのターゲッティング
hESCにおける膵臓内胚葉形成をモニターするために、膵臓発生及びβ細胞機能に不可欠な転写因子である膵臓十二指腸ホメオボックス1(PDX1)を、細菌人工染色体(BAC)組換えを用いてターゲッティングした(図1A)。ヒトPDX1遺伝子を含むBACを、http://genome.ucsc.eduのゲノムブラウザを用いて同定した。eGFP−loxp−Sv40−Neo−loxpレポーターカセットを、PDX1開始コドンの上流に直接挿入した。ターゲティングベクターを細菌プラスミド中に回収し、ネオマイシンカセットをCREリコンビナーゼにより切り出して、12.5kb及び3.5kbの相同性アームを含む最終ターゲティングベクターを作製した。特に、Neoカセットの切除は、eGFP発現を得るために決定的に重要であった。HUES−4細胞株を線状化ターゲティングベクターと共にエレクトロポレーションし、薬剤耐性コロニーが現れるまでG418で2週間処理した。353個のクローンのスクリーニングにより、4つの正しくターゲッティングされたクローンが得られた(図1B及び1C)。ターゲッティングされたクローンにおけるPDX1−eGFPの発現を確認するために、以前に発表された分化プロトコル(Ameri et al.,2010)の改変版を使用した(図1C)。hESCを、アクチビンA及びWnt3a(MEF上で培養したhESC上で使用)またはChir(「DEF−CSTM」培地、Cellectis幹細胞、Cellartis ABで培養したhESC上で使用)に暴露して、最終的な内胚葉誘導を促した(ステージ1)。このステージの後に、レチノイド酸(RA)を3日間(ステージ2)、次いでFGF2(場合によってはノギンで)を残りの日数の間に添加して、後部前腸及び膵臓前駆細胞を誘導した(ステージ3)。13日目の標的PDX1−eGFP hES細胞株の蛍光及び対応する位相差画像を図1Dに示す。17日目に、細胞の50〜70%がPDX1−eGFPを規則的に発現する。クローンPDXeGIの免疫染色は、eGFPがPDX1と共に高度に共局在していることを示した(図1E)。これらの結果は、レポーター細胞系PDX1−eGFPが、hESC分化の際のPDX1発現をモニターするために使用できることを確認する。ステージ3細胞(d17)の免疫染色により、タンパク質レベルにおいて、膵臓前駆細胞におけるNKX6−1、ECAD、HES1及びSOX9の発現が確認された(図2F
【0149】
実施例3:インビトロで分化したPDX1−eGFP hESCの分析
以前に発表した分化プロトコル(Ameri et al., 2010)を改変し、それを実施例2に記載のPDX1−eGFPレポーター細胞株と組み合わせることにより、PDX1及びNKX6−1を同時発現し(プロトコルA(PE))、またはPDX1のみを発現しながらNKX6−1を発現しない(プロトコルB(PFG))異なる亜集団をFACS選別することができた(図2A、2B及び2D)。FACS選別したeGFP+及びeGFP−細胞集団の遺伝子発現プロファイルを評価するために、様々な膵臓関連遺伝子のmRNAレベルをqPCRにより定量した(図2C及び2F)。PDX1、NKX6−1、ECAD、MNX1、HNF6、及びSOX9の発現は全て、eGFP−細胞vs.プロトコルA(PE)で得られたeGFP+細胞において有意にアップレギュレートされた(図2D)。しかし、プロトコルB(PFG)で得られたeGFP+細胞では、MNX1も、より重要なことには、NKX6−1も有意にアップレギュレートされなかった(図2G)。これらの結果は、プロトコルA(PE)で得られたeGFP+細胞は膵臓前駆細胞であるが、プロトコルB(PFG)で得られたeGFP+細胞は後部前腸(内胚葉)細胞であることを示唆する。ステージ3細胞(d17)の免疫染色により、タンパク質レベルで、膵臓前駆細胞におけるNKX6−1、ECAD、HES1及びSOX9の発現が確認された(図2F)。
【0150】
実施例4:インビトロで誘導されたPDX1+/NKX6−1+膵臓前駆細胞vs.PDX1+/NKX6−1−細胞の遺伝子発現プロファイルを比較するために、マイクロアレイ分析を実施した。
膵臓前駆細胞を富化させるために役立つ特定の細胞表面マーカーを同定するために、PDX1+前腸内胚葉(PFG)及びPDX1+/NKX6−1+膵臓内胚葉(PPC)に対応する、2つの異なるPDX1+亜集団の遺伝子発現パターンを比較するマイクロアレイ分析を実施した。詳細に言えば、PDX1+/NKX6−1細胞(PFG+と称する)を、PDX1+/NKX6−1+細胞(PPCと称する)及び対応するGFP−細胞と比較した(図3A)。また、PDX1+/NKX6−1−細胞(F2 GFP+)、PDX1+/NKX6−1+細胞(RFN GFP+)、及び対応するPDX1−/GFP−細胞(RFN GFP−)の遺伝子発現パターンを比較した。分析を単純化するために、0.005未満のp値及び1.4を超える倍数変化を有する遺伝子のみを、更なる分析のために選択した。これらのカットオフ値は、PDX1及びNKX6−1の発現値に基づいて決定した。これら遺伝子の階層的クラスタリングにより、各群において異なる遺伝子が富化されることが明らかになった。詳細に言えば、PPC細胞vs.PFG細胞においては382個の遺伝子がアップレギュレート/富化され、PPC+vs.GFP−細胞においては698個の遺伝子がアップレギュレートされた。更に興味深いことに、PPC細胞(PDX1及びNKX6−1の発現を特徴とする膵臓前駆細胞)では115個の遺伝子が特異的にアップレギュレートされたが、PFG及びGFP−細胞ではダウンレギュレートされた(図3B)。各群の全ての反復の平均発現に対して階層的クラスタリングを適用することにより、9個の異なるサブクラスが作成された(図3C)。
【0151】
実施例5:hESC由来のPDX1+膵臓内胚葉において発現される新規な細胞表面マーカー。
サブクラスタ3a、5及び6において列挙された遺伝子の中で、新規な細胞表面マーカー、即ち、GFP−細胞において富化されたインテグリンアルファ4(ITGA4またはCD49d)(サブクラスタ3a)、NKX6−1発現とは無関係にPDX1+細胞を認識するフォリック受容体1(FOLR1)(サブクラスタ6)、及びPDX1+/NKX6−1+膵臓前駆細胞に特異的に富化された糖タンパク質2(チモーゲン顆粒膜)(GP2)(サブクラスタ5)を同定した。GP2、FOLR1、及びCD49dは、PDXeG細胞由来のPPCを精製するために、フローサイトメトリーによって検証された(図4A)。候補遺伝子をフローサイトメトリーにより検証して、hESC由来膵臓前駆細胞の精製のための細胞表面マーカーを同定した。市販抗体の入手可能性に基づいて、糖タンパク質2(チモーゲン顆粒膜)(GP2)、葉酸受容体1(成人)(FOLR1)及びCD49d(ITGA4)を選択し、フローサイトメトリーにより分析した。図4Aは、GFP+及びGFP−画分において、原形質膜または細胞外領域に局在した遺伝子の富化を示す。図4B及び図5Aは、MEF上で培養された分化されたhESC(17日目)に対して行われた、選択された細胞表面マーカーGP2、CD49d(ITGA4)、及びFOLR1のフローサイトメトリー分析を示しており、GP2及びFOLR1がGFP+細胞において高度に発現されたのに対して、CD49dはGFP−細胞において富化されたことが確認される。より具体的言えば、17日目のGFP−細胞の大部分(70〜72%、約71%)がCD49dを発現したのに対して、64〜76%(約76%)のGFP+細胞がGP2を共発現した。重要なことに、GFP−細胞の僅かな部分(3〜7%、約3%)のみがGP2を発現し、また基本的にGFP+細胞でCD49dを発現したものは殆どなかった(1〜2%、約1%)。FOLR1及びCD49dを用いた同時染色は、CD49dについて同じ染色パターンを示し、17日目のGFP−細胞の70〜73%(約70%)がCD49dを発現したのに対して、GFP+細胞の41〜62%(約62%)がFOLR1を発現した(図5A)。
【0152】
選別された細胞集団の遺伝子発現分析は、膵臓内胚葉マーカー及び新規の細胞表面マーカーが、GP2+/CD49d−及びFOLR1+/CD49d−選別された細胞集団において高度に濃縮されていることを示した(図4C及びD)。
【0153】
GP2発現に依存した細胞集団における遺伝子発現(図4C)の相対値を表1に示す。
【表1】
【0154】
FOLR1発現に依存した細胞集団における遺伝子発現(図4D)の相対値を表2に示す。
【表2】
【0155】
全体として、これらのデータは、CD49dがGFP−細胞において排他的に発現され、GP2がGFP+細胞の大部分をマーキングすることを示す。しかしながら、GP2とは対照的に、FOLR1はGFP+細胞のマイナーな部分をマーキングし、GP2を、PDX1+膵臓前駆細胞を認識するためのより特異的なマーカーにしている。
【0156】
実施例6:フィーダーフリー系で培養された遺伝子的にタグ付けされていない細胞株における新規細胞表面マーカーの特徴付け。
同定した細胞表面マーカーが遺伝子改変されていない細胞株でも使用できるかどうかを調査し、新たに同定されたマーカーを検証するために、フィーダーフリーの条件で培養した遺伝子改変されていない細胞株HUES4細胞を使用して、CD49d、GP2、及びFOLR1の発現をフローサイトメトリーにより特徴付けした。またHUES−4細胞系を用いて、PDX1−eGFP細胞株を生成させた(図4C及び5C)。一般に、我々の分化プロトコルは、MEF上での培養と比較して、規定されたフィーダーフリー培養系において高い効率で働き、その結果、非常に少ないCD49d+細胞が観察される。
【0157】
以下の亜集団を、17日目から、分化したhESCにおいてqPCRにより選別し、特徴付けした:CD49d+/GP2、GP2−/CD49d−、及びGP2+/CD49d−(図4D)。膵臓マーカーのPDX1、NKX6−1、SOX9、HNF6、FOXA2、MNX1は全て、CD49d+/GP2−及びGP2−/CD49d−細胞と比較して、GP2+/CD49d−細胞において有意に富化された。重要なこととして、GP2−CD49d−細胞ではPDX1が依然として検出されていたが、これらの細胞はNKX6−1及びGP2の低い発現を有しており、これらの細胞がPDX1+後部前腸細胞であることを示した。更に、GP2発現の欠如は、FOLR1がGP2−/CD49d−細胞において依然として発現されるとの所見と併せて、FOLR1がより広範に発現するのに対してGP2は膵臓前駆細胞を特異的に標識することを示している。CD49d+/FOLR1−、FOLR1−/CD49d−、及びFOLR1+CD49d−亜集団の遺伝子発現分析(図5D)により、FOLR1+/CD49d−細胞では全ての膵臓マーカーが実際に富化されたのに対して、FOLR1−CD49d−細胞は、依然としてPDX1、NKX6−1発現細胞を含んでおり、膵臓前駆細胞を認識/標識することにおいて、FOLR1はGP2よりも幾分低い特異性を有することが示された。
【0158】
従って、これらのデータによって、GP2及びFOLR1は、それらが規定されたフィーダーフリー培養系において、またはMEF上で誘導されたかどうかとは無関係に、hESC由来のPDX1+/NKX6−1+細胞を特異的にマーキングすることが示される。全体的に、我々のデータは、GP2がhPSC由来のPDX1+/NKX6−1+PPCを特異的にマーキングするのに対して、FOLR1はNKX6−1発現を欠くhPPC及びhPFCの両方を認識することを示している。
【0159】
FOLR1の発現(図5D)に依存した細胞集団における遺伝子発現の相対値を表3に示す。
【表3】
【0160】
GP2の発現(図5C)に依存した細胞集団における遺伝子発現の相対値を表4に示す。
【表4】
【0161】
実施例7:ヒト胎児膵臓における新規細胞表面マーカーGP2及びCD49dの検証。
GP2及びCD49dマーカーを検証するために、及びGP2もまたインビボで役割を果たすかどうかを検証するために、9.1WDのヒト胎児膵臓を使用して、GP2及びCD49dの発現を調べた。ヒト胎児膵臓のフローサイトメトリー分析を行った。hPSCに匹敵して、ヒト胎児膵臓ではGP2発現とCD49d発現の間に重複は存在しなかった(図4E)。PDX1及びNKX6−1の発現を、FACS選別されたGP2+及びCD49d+細胞集団において分析した。PDX1及びNKX6−1は、GP2+細胞において有意に富化され、対照として使用されたCD45+/CD31+造血細胞及び内皮細胞での発現は検出されなかった(図4G)。
【0162】
全体的に、これらの結果は、GP2+細胞が、hESC及びヒト胎児膵臓の両方において、PDX1及びNKX6−1発現を特徴とする膵臓前駆細胞をマーキングし、GP2はインビトロのhPSC及びインビボのヒト胎児膵臓の両方からPPCを単離するために利用できることを示す。
【0163】
実施例8:独立かつ以前に公表された分化プロトコルを用いたGP2の検証。
我々の知見を裏付けるために、PDXeG細胞株を、Rezania et al. 2013により公表された従来の分化プロトコルの僅かに改変したバージョンに従って分化させ(図6A)、異なる亜集団をGP2及びGFP発現に基づいて選別した(図6B)。我々のプロトコルで観察されたのとは対照的に、Rezaniaのプロトコルは、GFP+/GP2−細胞及びGFP+/GP2+細胞からなる異種細胞集団を生じる(図6B)。遺伝子発現解析により、GP2+GFP+細胞は、PPC関連遺伝子PDX1、NKX6−1、SOX9、GP2及びPTF1aについて有意に富化されたが、GP2−GFP−細胞は高レベルのCD49dを発現した(図6C)。FOLR1の最高レベルはGP2−GFP+細胞で観察されたが、FOLR1もまた、GP2+/GFP+及びGP2−/GFP−細胞で発現された(図6C)。総合すると、これらの知見は上記に示したデータと共に、培養系または分化プロトコルとは独立して、不均一な分化培養からPDX1+/NKX6−1+hPPCを単離するために利用できる。
【0164】
実施例9:膵臓前駆細胞の精製のために現在利用可能な細胞表面マーカーの特徴付け。
最後に、MEF上で培養され、「プロトコルPE」に従って分化されたPDXeGレポーター細胞株を用いて、以前に報告された細胞表面マーカーCD142、CD200(Kelly et al., 2011)の発現パターンを調べた(図7A)。GFP+及びGFP−細胞の大部分はCD142及びCD200で染色され、これらの表面マーカーは膵臓前駆細胞集団を忠実にはマーキングしないことを示している。Rezania et al. 2013により公表された独立したフィーダーフリーの分化プロトコルを、遺伝子改変されていない細胞株HUES4と組み合わせて適用することにより、以前に公表したCD142及びCD200と並行して、新規な細胞表面マーカーの特異性を評価した。これらの結果は、GP2が、PDX1+/NKX6−1+PPCを標識することにおいて優れていることを明瞭に示している(図7B、C)。
【0165】
MEF上で培養されたPDXeGレポーター細胞株(図7A)で以前に同定された細胞表面マーカーCD142及びCD200のフローサイトメトリー分析は、GFP+及びGFP−細胞の大部分が、CD142及びCD200で染色されることを示した。従って、これらのマーカーは、異種幹細胞培養物においてPDX1+/NKX6−1+細胞を認識するために十分に特異的ではない。
【0166】
総合すると、これらの知見により、前記新規な細胞表面マーカーGP2、Cd49d、及びFOLR1は、hESC由来の膵臓前駆細胞を単離するために使用できること、また以前に公表されたCD200及びCD142は、膵臓前駆細胞の認識においてGP2またはFOLR1ほど特異的ではないことが示される。
【0167】
実施例10:精製GP2+/CD49d−PPCのインスリン発現細胞への分化/精製GP2+hPPCのβ細胞系統への系統的潜在能力。
単離されたGP2+/CD49d−膵臓前駆細胞がインスリン発現細胞に分化する能力を有することを示すために、これらの細胞をFACS選別後に再プレーティングした(図8A)。この再プレーティング実験は、遺伝子的にタグ付けされていない細胞株HUES4を用いて行った(図8)。精製したPPCを、フィブロネクチンでコーティングしたプレート上に再プレーティングし、フォルスコリン、ALKi、ノギン及びニコチンアミドの存在下で更に分化させた。最初の24〜48時間は、選別後の生存率を高めるためにRock阻害剤を添加した(図8B)。これらの培養物中には非常に少数のCD49d+細胞が出現するので、GP2+及び限られた数のGP2低発現細胞を選別した(図8C)。
【0168】
分化したGP2+(Cd49d−)細胞は、GP2low(CD49d−)細胞と比較してCPEP+細胞の有意な富化を示した(図8D)が、これはCPEP+細胞/DAPI領域の定量によっても確認された(図8F)。
【0169】
分化したGP2+/CD49d−細胞の免疫蛍光分析を図8Eに示す。最後に、GP2+PPC由来の細胞に対するグルコース刺激インスリン分泌分析により、これらの細胞もグルコース応答性であることが確認された(図5G)。従って、我々の改変されたプロトコルを使用することにより、GP2+PPCは、グルコース応答性モノホルモンCペプチド(CPEP)+細胞へと分化させることができる。
【0170】
実施例11:CDKN1aサイレンシングは、GP2+ヒト膵臓前駆細胞の増殖を促進する。
我々のマイクロアレイ分析に基づいて、PDX1+/NKX6−1+PPCが富化された遺伝子類の中に、幾つかの細胞周期特異的な遺伝子、特にCDKNIα及びCDKN2αを見出した。これらの遺伝子が、膵臓前駆細胞の増殖を制御する細胞周期機構における重要な(関与する)標的であるかどうかを調べるために、異なる時点の膵臓前駆細胞において、選択された標的のsiRNA媒介ノックダウンを行った。実際、初期膵臓前駆細胞におけるCDKN1αのノックダウン(図9B)は、G2/M期における増殖性膵臓前駆細胞の数を有意に上昇させた(>60%の増加が観察された、データは示さず)(図9C−E)。成熟GP2+膵臓前駆細胞においてCDKN1αノックダウンが実施された場合には、この増殖効果は存在しなかった(図9F−H)。予想した通り、Ki67による免疫蛍光染色により、CDKN1aがノックダウンされた初期膵臓前駆細胞において、Ki67+細胞の顕著な増加が確認された(図9I)。
【0171】
<参考文献>
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【0172】
<付記項目>
1.真正膵臓前駆細胞が富化された集団を単離するための方法であって、
i)少なくとも1つの真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団を提供し、ここでの該真正膵臓前駆細胞はPDX1及びNKX6−1を発現する工程と;
ii)前記細胞集団を、
a)PDX1−細胞に特異的な第1のマーカーに結合する第1のリガンドに曝露させて、前記細胞集団から前記第1のリガンドに結合しない細胞を選択し、それによりPDX1+細胞について前記細胞集団を富化させ;
及び/または
b)PDX1+細胞に特異的な第2のマーカーに結合する第2のリガンドに曝露させて、前記第2のリガンドに結合しない細胞から前記第2のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+細胞について前記細胞集団を富化させ;
及び/または
c)PDX1+NKX6−1+細胞に特異的な第3のマーカーに結合する第3のリガンドに曝露させて、前記第3のリガンドに結合しない細胞から前記第3のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+NKX6−1+細胞について前記細胞集団を富化させる工程を具備し、
それによって真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を得る前記方法。
2.項目1に記載の方法であって、前記第1、第2及び第3のリガンドのうち少なくとも一つは、抗体またはその断片である前記方法。
3.先行する項目の何れか1項に記載の方法であって、前記抗体がモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体である前記方法。
4.先行する項目の何れか1項に記載の方法であって、前記第1、第2及び第3のリガンドのうちの少なくとも一つは、前記真正膵臓前駆細胞の細胞表面マーカーに結合する前記方法。
5.先行する項目の何れか1項に記載の方法であって、前記第1、第2及び第3のリガンドのうちの少なくとも一つは、標識に接合される前記方法。
6.先行する項目の何れか1項に記載の方法であって、前記第1、第2及び第3のマーカーのうちの少なくとも一つの発現が、フローサイトメトリーにより検出される前記方法。
7.先行する項目の何れか1項に記載の方法であって、前記細胞はフローサイトメトリーにより除去または選択される前記方法。
8.先行する項目の何れか1項に記載の方法であって、前記第1のリガンドは、CD49dに対して向けられる抗体またはその断片である前記方法。
9.先行する項目の何れか1項に記載の方法であって、前記第2のリガンドは、FOLR1、CDH1/ECAD、F3/CD142、PDX1、FOXA2、EPCAM、HES1及びGATA4からなる群から選択される標的に対して向けられる抗体またはその断片である前記方法。
10.先行する項目の何れか1項に記載の方法であって、前記第2のリガンドは、FOLR1に対して向けられる抗体またはその断片である前記方法。
11.先行する項目の何れか1項に記載の方法であって、前記第3のリガンドは、GP2、SCN9A、MPZ、NAALADL2、KCNIP1、CALB1、SOX9、NKX6−2及びNKX6−1からなる群から選択される標的に対して向けられる抗体またはその断片である前記方法。
12.先行する項目の何れか1項に記載の方法であって、前記第3のリガンドは、GP2に対して向けられる抗体またはその断片である前記方法。
13.先行する項目の何れか1項に記載の方法であって、前記第1のリガンドはCD49dに対して向けられる抗体またはその断片であり、また前記第3のリガンドはGP2に対して向けられる抗体またはその断片である前記方法。
14.先行する項目の何れか1項に記載の方法であって、前記第1のリガンドはCD49dに対して向けられる抗体またはその断片であり、前記第2のリガンドはFOLR1に対して向けられる抗体またはその断片であり、また前記第3のリガンドはGP2に対して向けられる抗体またはその断片である前記方法。
15.先行する項目の何れか1項に記載の方法であって、前記真正膵臓前駆細胞は、ヒト万能性幹細胞のような分化できる細胞に由来する前記方法。
16.先行する項目の何れか1項に記載の方法であって、前記分化できる細胞は、ヒトiPS細胞(hIPSC)、ヒトES細胞(hESC)及びナイーブなヒト幹細胞(NhSC)からなる群から選択される前記方法。
17.先行する項目の何れか1項に記載の方法であって、前記分化できる細胞は、個体から単離された細胞に由来する前記方法。
18.先行する項目の何れか1項に記載の方法であって、真正膵臓前駆細胞が富化された前記細胞集団の少なくとも一つの細胞は、更に分化する能力を有する前記方法。
19.先行する項目の何れか1項に記載の方法であって、真正膵臓前駆細胞が富化された前記細胞集団の少なくとも一つの細胞は、膵臓ホルモン産生細胞へと更に分化する能力を有する前記方法。
20.先行する項目の何れか1項に記載の方法であって、前記膵臓ホルモン産生細胞の少なくとも一つの細胞は、インスリン産生細胞及び/またはグルコースに対して反応性である前記方法。
21.先行する項目の何れか1項に記載の方法であって、前記膵臓ホルモン産生細胞の少なくとも一つの細胞は、インスリン産生島細胞を生じることができる前記方法。
22.真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団を製造する方法であって、前記富化された細胞集団は少なくとも70%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも75%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも80%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも85%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも90%の真正膵臓前駆細胞を含む前記方法。
23.項目22の方法であって、
i)真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団を提供し、ここでの該真正膵臓前駆細胞はPDX1及びNKX6−1を発現する工程と;
ii)前記細胞集団を、
a)PDX1−細胞に特異的な第1のマーカーに結合する第1のリガンドに曝露させて、前記細胞集団から前記第1のリガンドに結合しない細胞を選択し、それによりPDX1+細胞について前記細胞集団を富化させ;
及び/または
b)PDX1+細胞に特異的な第2のマーカーに結合する第2のリガンドに曝露させて、前記第2のリガンドに結合しない細胞から前記第2のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+細胞について前記細胞集団を富化させ;
及び/または
c)PDX1+NKX6−1+細胞に特異的な第3のマーカーに結合する第3のリガンドに曝露させて、前記第3のリガンドに結合しない細胞から前記第3のリガンドに結合する細胞を選択し、それによりPDX1+NKX6−1+細胞について前記細胞集団を富化させる工程を具備する前記方法。
24.項目22または23の方法であって、前記第1のリガンドはCD49dに対して向けられる抗体またはその断片であり、前記第2のリガンドはFOLR1に対して向けられる抗体またはその断片であり、前記第3のリガンドはGP2に対して向けられる抗体またはその断片である前記方法。
25.少なくとも50%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも75%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも80%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも85%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも90%の真正膵臓前駆細胞を含んだ細胞集団。
26.項目1〜21の何れか1項の方法により得られる真正膵臓前駆細胞を含んだ細胞集団。
27.項目26に記載の細胞集団であって、該細胞集団は少なくとも50%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも75%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも80%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも85%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも90%の真正膵臓前駆細胞を含む前記細胞集団。
28.それを必要としている個体における代謝性障害の治療のための、項目1〜21の何れか1項の方法により得られる真正膵臓前駆細胞を含む細胞集団。
29.請求項28に記載のそれを必要としている個体における代謝性障害の治療のための細胞集団であって、該細胞集団は少なくとも50%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも75%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも80%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも85%の真正膵臓前駆細胞、例えば少なくとも90%の真正膵臓前駆細胞を含む前記細胞集団。
30.それを必要としている個体における代謝性障害の治療のための、項目25〜29の何れか1項に記載の真正膵臓前駆細胞が富化された細胞集団。
31.項目30の細胞集団であって、前記代謝性障害は、インスリン依存性真性糖尿病、非インスリン依存性真性糖尿病、栄養失調関連真正糖尿病、1型糖尿病、2型糖尿病または不特定真性糖尿病のような真正糖尿病である前記細胞集団。
32.それを必要としている個体における代謝性障害の治療方法であって、項目25〜29の何れか1項に記載の細胞集団を提供する工程を含む方法。
33.項目32に記載の方法であって、更に、前記細胞集団の少なくとも一部を前記個体に移植する工程を含む方法。
34.項目32〜33の何れか1項に記載の方法であって、更に、前記細胞集団の少なくとも一部のインスリン産生細胞への分化を誘導する工程、及び任意に、該インスリン産生細胞を単離する工程を含む方法。
35.項目32〜34の何れか1項に記載の方法であって、前記細胞集団の少なくとも一部のインスリン産生β細胞への分化を誘導する工程が、前記細胞集団の少なくとも一部をYap1存在下でインキュベートし、それによりインスリン産生β細胞が富化された細胞集団を得る工程を含む前記方法。
36.項目35に記載の方法であって、前記Yap1阻害剤がベルテポルフィンである前記方法。
37.項32〜36の何れか1項に記載の方法であって、前記インスリン産生β細胞は、Yap1阻害剤の非存在下でインキュベートされた細胞と比較して、lnsm−1、lsl−1、MafA及びMafBのうち少なくとも1つの増大した発現を有する前記方法。
38.項目32〜37の何れか1項に記載の方法であって、前記インスリン産生β細胞は、前記細胞集団がYap1阻害剤の非存在下でインキュベートされたときに得られた細胞におけるインスリン領域と比較して、増大したインスリン領域を有する前記方法。
39.項目32〜36の何れか1項に記載の方法であって、該方法は更に、前記インスリン産生細胞を前記個体に移植する工程を含む前記方法。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図2G
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C-1】
図4C-2】
図4D
図4E-1】
図4E-2】
図4F
図4G
図4H
図5
図5B-1】
図5B-2】
図5C
図5D-1】
図5D-2】
図6A
図6B
図6C-1】
図6C-2】
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B
図8C
図8D
図8E
図8F
図8G
図9A
図9B
図9C
図9D
図9E
図9F
図9G
図9H
図9I
図10