【実施例1】
【0010】
図1は、本発明が適用された車両10の概略構成を説明する図であると共に、車両10における各種制御の為の制御系統の要部を説明する図である。
図1において、車両10は、エンジン12と、駆動輪14と、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられた動力伝達装置16とを備えている。動力伝達装置16は、車体に取り付けられる非回転部材としてのケース18(
図2参照)内に配設されたトルクコンバータ20および自動変速機22と、自動変速機22の出力回転部材である変速機出力ギヤ24がリングギヤ26aに連結された差動歯車装置26と、差動歯車装置26に連結された一対の車軸28等とを備えている。自動変速機22において、エンジン12から出力される動力は、クランク軸12a(
図2参照)からトルクコンバータ20、自動変速機22、差動歯車装置26、及び車軸28等を順次介して駆動輪14へ伝達される。また、トルクコンバータ20は、自動変速機22とエンジン12との間の動力伝達経路に設けられている。
【0011】
エンジン12は、車両10の動力源であり、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関である。
【0012】
図2は、トルクコンバータ20や自動変速機22の一例を説明する骨子図である。なお、トルクコンバータ20や自動変速機22等は、自動変速機22の入力回転部材であるタービン軸30の軸心RCに対して略対称的に構成されており、
図2ではその軸心RCの下半分が省略されている。
【0013】
トルクコンバータ20は、エンジン12に連結された入力部材に対応するポンプ翼車20p、および出力部材に対応するタービン軸20に連結されたタービン翼車20tを備えている。ポンプ翼車20pには、自動変速機22を変速制御したり、後述する前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1の各々の作動を切り替えたり、動力伝達装置16の各部に潤滑油を供給したりするための作動油圧をエンジン12により回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ33が連結されている。また、トルクコンバータ20には、ポンプ翼車20pとタービン翼車20tとの間を断接可能なロックアップクラッチ32が設けられている。
【0014】
自動変速機22は、エンジン12から駆動輪14までの動力伝達経路の一部を構成し、複数の油圧式摩擦係合装置(第1クラッチC1〜第4クラッチC4、第1ブレーキB1、第2ブレーキB2)およびワンウェイクラッチF1の何れかが選択的に係合されることによりギヤ比(変速比)が異なる複数のギヤ段(変速段)が形成される有段式の自動変速機として機能する遊星歯車式多段変速機である。例えば、車両によく用いられる所謂クラッチツゥクラッチ変速を行う有段変速機である。自動変速機22は、ダブルピニオン型の第1遊星歯車装置58と、ラビニヨ型に構成されているシングルピニオン型の第2遊星歯車装置60およびダブルピニオン型の第3遊星歯車装置62とを同軸線上(軸心RC上)に有し、タービン軸30の回転を変速して変速機出力ギヤ24から出力する。
【0015】
第1遊星歯車装置58は、外歯歯車である第1サンギヤS1と、第1サンギヤS1と同心円上に配置される内歯歯車である第1リングギヤR1と、第1サンギヤS1および第1リングギヤR1と噛み合う、一対の歯車対からなる第1ピニオンギヤP1と、その第1ピニオンギヤP1を自転および公転可能に支持する第1キャリヤCA1とを有している。
【0016】
第2遊星歯車装置60は、外歯歯車である第2サンギヤS2と、第2サンギヤS2と同心円上に配置される内歯歯車である第2リングギヤR2と、第2サンギヤS2および第2リングギヤR2と噛み合う第2ピニオンギヤP2と、その第2ピニオンギヤP2を自転および公転可能に支持する第2キャリヤCA2とを有している。
【0017】
第3遊星歯車装置62は、外歯歯車である第3サンギヤS3と、第3サンギヤS3と同心円上に配置される内歯歯車である第3リングギヤR3と、その第3サンギヤS3および第3リングギヤR3と噛み合う、一対の歯車対からなる第3ピニオンギヤP3と、その第3ピニオンギヤP3を自転および公転可能に支持する第3キャリヤCA3とを有している。
【0018】
上記第1クラッチC1,第2クラッチC2,第3クラッチC3,第4クラッチC4、および第1ブレーキB1,第2ブレーキB2(以下、特に区別しない場合は単に油圧式摩擦係合装置或いは係合要素という)は、油圧アクチュエータにより押圧される湿式多板型のクラッチやブレーキ、油圧アクチュエータによって引き締められるバンドブレーキなどにより構成される。
【0019】
これら油圧式摩擦係合装置の係合と解放とが制御されることで、
図3の係合作動表に示すように、運転者のアクセル操作や車速V等に応じて前進8段、後進1段の各ギヤ段が形成される。
図3の「1st」-「8th」は前進ギヤ段としての第1変速段−第8変速段を意味し、「Rev」は後進ギヤ段としての後進変速段を意味しており、各変速段に対応する自動変速機22のギヤ比γ(=タービン軸回転速度Nt/変速機出力ギヤ回転速度Nout)は、第1遊星歯車装置58、第2遊星歯車装置60、及び第3遊星歯車装置62の各歯車比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)によって適宜定められる。なお変速機出力ギヤ回転速度Noutは、車速Vに対応している。
【0020】
図4に示すように、トルクコンバータ20は、エンジン12のクランク軸12aと動力伝達可能に連結され、軸心RC回りに回転するように配設された入力部材に対応するポンプ翼車20pと、タービン軸30に動力伝達可能に連結された出力部材に対応するタービン翼車20tとを備えている。ロックアップクラッチ32は、良く知られているように、第1摩擦板38と第2摩擦板40とを滑らせて差回転が発生する機構を有し、油圧制御回路54によって制御されることによって摩擦係合される油圧式の摩擦クラッチである。トルクコンバータ20には、
図4に示すように、オイルポンプ33から出力された作動油が供給される作動油供給ポート20aおよび作動油供給ポート20aから供給された作動油を流出させる作動油流出ポート20bを有する主油室20cが形成されている。また、トルクコンバータ20の主油室20c内には、ロックアップクラッチ32と、ロックアップ係合圧P
LUPONが供給される制御油室20dと、トルクコンバータイン圧P
TCINが供給されるフロント側油室20eと、フロント側油室20eと連通しフロント側油室20eからの作動油で満たされてその作動油を作動油流出ポート20bから流出させるリヤ側油室20gとが設けられている。
【0021】
ロックアップクラッチ32は、制御油室20d内のロックアップオン圧P
LupON(kPa)と、フロント側油室20e内のトルクコンバータイン圧P
TCin(kPa)および作動油流出ポート20bから出力されるトルクコンバータアウト圧P
TCout(kPa)の平均値((P
TCin+P
TCout)/2)すなわちロックアップ係合差圧Pc(=P
LupON−(P
TCin+P
TCout)/2)に基づいて、伝達トルクが制御される。なお、上記したロックアップ係合差圧(ロックアップ差圧)Pc=P
LupON−(P
TCin+P
TCout)/2の式は、予め実験等によって決定された実験式であり、トルクコンバータイン圧P
TCin(kPa)とトルクコンバータアウト圧P
TCout(kPa)との平均値((P
TCin+P
TCout)/2)は背圧とも呼ばれる。また、上記式において、トルクコンバータイン圧P
TCinとトルクコンバータアウト圧P
TCoutは、エンジン回転速度Ne(rpm)、タービン回転速度Nt(rpm)、それらの差回転速度(エンジン回転速度−タービン回転速度)Ns(rpm)、第2ライン油圧Psec(kPa)、作動油温Toil(℃)、エンジン12の出力トルクTe(Nm)(以降、エンジンの出力トルクをエンジントルクという)等により変化する。なお、上記トルクコンバータアウト圧P
TCoutは、エンジン回転速度Ne、タービン回転速度Nt、作動油温Toil等が変化してトルクコンバータ20のリヤ側油室20g内の遠心油圧が変化することによって、変化する。
【0022】
ロックアップクラッチ32は、電子制御装置(制御装置)56によって油圧制御回路54を介してロックアップ係合差圧Pcが制御されることで、例えば、ロックアップ係合差圧Pcが負とされてロックアップクラッチ32が解放される所謂ロックアップ解放状態(ロックアップオフ)と、ロックアップ係合差圧Pcが零以上とされてロックアップクラッチ32が滑りを伴って半係合が開始される、すなわちイナーシャ開始時点から生じる、ロックアップスリップ状態(スリップ状態)と、ロックアップ係合差圧Pcが最大値とされてロックアップクラッチ32が完全係合される所謂ロックアップ状態(ロックアップオン)とのうちの何れかの作動状態に切り替えられる。上記のロックアップスリップ状態の制御は、フレックスロックアップ制御に対応している。また完全ロックアップ制御は、上記のロックアップクラッチ32が完全係合される制御に対応している。また、トルクコンバータ20は、ロックアップクラッチ32がロックアップ状態、ロックアップスリップ状態、ロックアップ解放状態であっても、フロント側油室20eとリヤ側油室20gとが同室すなわちフロント側油室20eとリヤ側油室20gとが常時相互に連通しており、作動油供給ポート20aから供給される作動油によってロックアップクラッチ32が好適に冷却される。
【0023】
図4に示すように、油圧制御回路54には、ロックアップコントロールバルブ64と、オイルポンプ33から発生する油圧を元圧としてリリーフ形の第1ライン圧調圧弁67により調圧された第1ライン油圧PLを、ロックアップ係合圧P
SLUに調圧するリニアソレノイドバルブSLUと、第1ライン油圧PLを元圧としてモジュレータ油圧P
MODを一定値に調圧するモジュレータバルブ66とが備えられている。上記油圧制御回路54には、前記油圧式摩擦係合装置の図示しない各油圧アクチュエータの作動を制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL6(
図1参照)が備えられている。なお、
図4では、上記リニアソレノイドバルブSLUの元圧として第1ライン圧PLが用いられていたが、その第1ライン圧PLに替えてモジュレータ油圧P
MODが用いられていても良い。
【0024】
また、
図4に示すように、ロックアップコントロールバルブ64は、ロックアップ係合圧P
SLUが所定値を超えるとOFF位置からON位置へ切り替えられる型式の2位置切換弁であって、ON位置では、第1油路L1を閉路し、第2油路L2を第3油路L3へ接続し、第1油路L1を排出油路EXへ接続し、第4油路L4をクーラー68へ接続し、且つ第5油路L5を第6油路L6へ接続する。上記第1油路L1は、トルクコンバータ20の作動油流出ポート20bから出力されたトルクコンバータアウト圧P
TCoutが導かれる油路である。上記第2油路L2は、リニアソレノイドバルブSLUによって調圧されたロックアップ係合圧P
SLUが導かれる油路である。上記第3油路L3は、トルクコンバータ20の制御油室20dに供給されるロックアップオン圧P
LupONが導かれる油路である。上記第4油路L4は、第1ライン圧調圧弁67からリリーフされた油圧を元圧として第2ライン圧調圧弁69により調圧された第2ライン油圧Psecが導かれる油路である。上記第5油路L5は、モジュレータバルブ66によって一定値に調圧されたモジュレータ油圧P
MODが導かれる油路である。上記第6油路L6は、トルクコンバータ20のフロント側油室20eに供給されるトルクコンバータイン圧P
TCinが導かれる油路である。
【0025】
また、ロックアップコントロールバルブ64は、
図4に示すように、OFF位置では、第1油路L1を第3油路L3へ接続し、第2油路L2を閉路し、第1油路L1をクーラー68へ接続し、第4油路L4を第6油路L6へ接続し、且つ第5油路L5を閉路する。上記ロックアップコントロールバルブ64は、スプール弁子をOFF位置側へ付勢するスプリング64aと、スプール弁子をON位置側へ付勢するためにロックアップ係合圧P
SLUを受け入れる油室64bとを備えている。ロックアップコントロールバルブ64では、ロックアップ係合圧P
SLUが比較的小さく設定された所定値より小さい場合には、スプリング64aの付勢力によってスプール弁子がOFF位置に保持される。また、ロックアップコントロールバルブ64では、ロックアップ係合圧P
SLUが前記所定値より大きい場合には、スプリング64aの付勢力に抗してスプール弁子がON位置に保持される。なお、
図4のロックアップコントロールバルブ64では、実線はスプール弁子がON位置であるときの流路を示し、破線はスプール弁子がOFF位置であるときの流路を示している。
【0026】
上記のように構成された油圧制御回路54により、ロックアップコントロールバルブ64からトルクコンバータ20における制御油室20dおよびフロント側油室20eへ供給される油圧が切換えられることで、ロックアップクラッチ32の作動状態が切り替えられる。先ず、ロックアップクラッチ32がスリップ状態乃至ロックアップオンとされた場合を説明する。ロックアップコントロールバルブ64において、電子制御装置56から出力される指令信号によって前記所定値より大きくされたロックアップ係合圧P
SLUが供給されると、ロックアップコントロールバルブ64がON位置に切り替えられ、ロックアップ係合圧P
SLUがトルクコンバータ20の制御油室20dへ供給されると共に、ロックアップコントロールバルブ64に供給されたモジュレータ油圧P
MODがトルクコンバータ20のフロント側油室20eへ供給される。すなわち、ロックアップ係合圧P
SLUがロックアップオン圧P
LupONとして制御油室20dに供給され、モジュレータ油圧P
MODがトルクコンバータイン圧P
TCinとしてフロント側油室20eに供給される。なお、ロックアップコントロールバルブ64がON位置に切り替えられると、ロックアップオン圧P
LupONと、トルクコンバータイン圧P
TCinと、トルクコンバータアウト圧P
TCoutとの大きさの関係は、ロックアップオン圧P
LupON>トルクコンバータイン圧P
TCin>トルクコンバータアウト圧P
TCoutとなる。これによって、トルクコンバータ20の制御油室20dのロックアップオン圧(係合圧)P
LupONがリニアソレノイドバルブSLUにより調圧されることにより、ロックアップ係合差圧(P
LupON−(P
TCin+P
TCout)/2)Pcが調圧されて、ロックアップクラッチ32の作動状態がスリップ状態乃至ロックアップオン(完全係合)の範囲で切り替えられる。
【0027】
次に、ロックアップクラッチ32がロックアップオフとされた場合を説明する。ロックアップコントロールバルブ64において、ロックアップ係合圧P
SLUが前記所定値より小さい場合には、ロックアップコントロールバルブ64がスプリング64aの付勢力によりOFF位置に切り替えられ、トルクコンバータ20の作動油流出ポート20bから出力されたトルクコンバータアウト圧P
TCoutがトルクコンバータ20の制御油室20dへ供給されると共に、第2ライン油圧Psecがトルクコンバータ20のフロント側油室20eへ供給される。すなわち、トルクコンバータアウト圧P
TCoutがロックアップオン圧P
LupONとして制御油室20dに供給され、第2ライン油圧Psecがトルクコンバータイン圧P
TCinとしてフロント側油室20eに供給される。なお、ロックアップコントロールバルブ64がOFF位置に切り替えられると、上記ロックアップオン圧P
LupONと、トルクコンバータイン圧P
TCinと、トルクコンバータアウト圧P
TCoutとの大きさの関係は、トルクコンバータイン圧P
TCin>トルクコンバータアウト圧P
TCout>ロックアップオン圧P
LupONとなる。これによって、ロックアップクラッチ32の作動状態がロックアップオフに切り替えられる。
【0028】
図5は、ロックアップクラッチ32を係合させる図示されていないピストンの挙動を模式的に示すタイムチャートの一例であり、ロックアップ係合差圧Pcがロックアップクラッチ32の係合中の移動によって生じる、背圧(P
TCin+P
TCout)/2の変動によって影響を受けることを示している。
図5において、簡略化するためトルクコンバータイン圧P
TCinを背圧を代表するものとし、ロックアップ係合差圧Pcを(P
LupON−P
TCin)として示している。t0時点において、ロックアップクラッチ32の係合が開始され、リニアソレノイドバルブSLUの指示圧(指示油圧)SluがP6に設定されている。この油圧P6は、ロックアップクラッチ32の係合を早めるために実施される、一時的に油圧を高めるファーストフィルである。t1時点において、ロックアップ係合差圧Pcすなわちロックアップオン圧P
LupONとトルクコンバータ圧P
TCinとの差異はP1に達し、ロックアップクラッチ32の係合が開始されている。t2時点において、リニアソレノイドバルブSLUの指示圧SluはP5に減少され、ファーストフィルは終了している。また、トルクコンバータ圧P
TCinは、P4に上昇している。一方、ロックアップオン圧P
LupONがP5に上昇されておりロックアップ係合差圧PcはP1に維持されている。t3時点において、ファーストフィルの影響は、ほぼ見られなくなりt4時点までほぼ一定値である、ロックアップオン圧P
LupONはP4を、トルクコンバータ圧P
TCinはP3を、またロックアップ係合差圧PcはP1をそれぞれ示している。t4時点において、ロックアップクラッチ32の係合が完了すると、t5時点において、ロックアップオン圧P
LupONはリニアソレノイドバルブSLUの指示圧SluであるP5を、トルクコンバータ圧P
TCinは設定されているP2を、またロックアップ係合差圧PcはP3をそれぞれ示している。
図5に示されるように、ロックアップ係合差圧Pcは、ロックアップクラッチ32の係合中、背圧の上昇の影響を受けロックアップクラッチ32の係合後、所定の油圧となる。
【0029】
上記のトルクコンバータ20においては、前述のようにロックアップクラッチ32が差動油によって好適に冷却されるため、たとえばロックアップクラッチ32の第1摩擦板38と第2摩擦板40とを複数の摩擦板からなる多板として、フレックスロックアップ制御の領域を拡大することが可能となる。しかしながら、フレックスロックアップ制御の領域を拡大することによって、ロックアップクラッチ32のフレックスロックアップ制御中に自動変速機22の変速が実施されることが増加し、完全ロックアップもしくはフレックスロックアップ制御中に自動変速機22の変速が実施された場合の変速完了時のショック抑制すなわちドライバビリティの向上とロックアップクラッチのスリップが大きいことによる燃費増加の抑制の必要性がより大きくなっている。なお、トルクコンバータ20は、ロックアップクラッチ32の作動状態がロックアップオン圧P
LupONと、トルクコンバータイン圧P
TCinと、トルクコンバータアウト圧P
TCoutとによって制御されるものであったが、特にこれに限らない。たとえば、通常のトルクコンバータすなわちロックアップクラッチ32の作動状態が、ロックアップオン圧P
LupONとロックアップイン圧P
TCinとの差圧のみで制御される構造を有する通常のトルクコンバータであっても、同様に燃費の改善と変速時に発生するショックの低減の必要性が残っている。
【0030】
図6は、従来から実施されているアップシフト変速中におけるロックアップクラッチ32の差回転速度Nsを油圧制御の目標差回転速度Nstに近づけることによって燃費と変速時に発生するショックとの改善する制御の一例を示したものである。この例においては、目標差回転速度Nstは、t1時点からt2時点までは差回転速度N12が維持され、t2時点からt3時点までは差回転速度N15が維持されるように設定されている。リニアソレノイドバルブSLUの指示圧SluとしてSlu1、Slu2、Slu3が示されており、たとえば実線で示されている指示圧Slu1に対応して、エンジン回転速度Neは実線で示されるNe1の変化を示し、タービン回転速度Ntとの差である差回転速度Nsは同じく実線で示されるNs1を示している。指示圧Slu1は、t0時点においてロックアップクラッチ32が完全ロックアップする指示油圧P5となっておりt1時点から指示油圧が減少されt2時点に近づく時点においてソレノイドバルブSLUの指示圧SluはP3に減少している。これに伴ってエンジン回転速度Neとタービン回転速度Ntとの回転差N11が生じており、ロックアップクラッチ32のスリップが生じている。t2時点においてソレノイドバルブSLUの指示圧SluはP1に減少し、t2時点以降においてエンジン回転速度Ne1とタービン回転速度Ntとの差であるNs1が目標差回転Nstに近づいている。t3時点以降は、完全ロックアップに向けてソレノイドバルブSLUの指示圧Sluが上昇している。指示圧Slu3は、t0時点からt2時点まで、指示油圧P2となっており、t2時点まで差回転速度Nsは、N13を示している。t2時点からt3時点においては、Slu1と同じ指示油圧P1であり、差回転Ns3は、目標差回転Nstに近づいている。t3時点以降は点線で示されている所定の差回転を維持する油圧が設定されている。指示圧Slu2についてはSlu1とSlu3との中間の状態を示している。実際のロックアップクラッチの制御においては、自動変速機22の変速開始前のロックアップクラッチ32の差回転速度Nsの状態等に応じて、適切な指示圧Sluを選択することで差回転速度Nsを所定の設定である目標差回転Nstに近づける制御が行われる。上記の制御においては、例えば走行モードすなわちスポーツモード、ノーマルモード、エコモードといった走行モードの差異であったり、ダウンシフトとアップシフトとの変速方向の差異およびギヤ段の変速が複数段におよぶ多重変速における変速比ステップの差異を区別して制御するものでないため、燃費の改善と変速時に発生するショックの低減に関して改善する必要が生じていた。
【0031】
図1に戻り、車両10は、走行に関わる各部を制御する制御装置を含む電子制御装置90を備えている。電子制御装置56は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。
【0032】
電子制御装置56には、車両10が備える操作スイッチからの出力および各種センサにより検出される各種入力信号が供給されるようになっている。例えば、運転者の運転モード選択スイッチ46の操作に基づいて出力される運転モード選択信号SWON、スロットル弁開度センサ70により検出されるスロットル弁開度θth(%)を表す信号、車速センサ72により検出される車速V(km/h)を表す信号、油温センサ74により検出される作動油の油温Toil(℃)を表す信号、アクセル開度センサ76により検出されるアクセルペダルの操作量を表す信号Acc(%)、エンジン回転速度センサ78により検出されるエンジン回転速度Ne(rpm)、タービン回転速度センサ80により検出されるタービン回転速度Nt(rpm)等、が電子制御装置56に入力される。また、電子制御装置56からは、自動変速機22の変速に関する油圧制御の為の変速指示圧Sat、エンジン12の制御に関する図示されていないスロットル、点火コイルの点火時期、燃料噴射量、バルブタイミング等の指示信号Se、ロックアップクラッチ32の作動状態の切替制御のためのロックアップ指示圧(指示圧)Slu等が出力される。なお、上記ロックアップ指示圧Sluは、ロックアップ係合圧P
SLUを調圧するリニアソレノイドバルブSLUを駆動する為の指示信号であり、油圧制御回路54のリニアソレノイドバルブSLUへ出力される。
【0033】
車両10が備える操作スイッチである運転モード選択スイッチ46は、動力性能を引き出しつつ燃費の良い状態で運転可能なように走行を行なうための予め定められたノーマルモードと、そのノーマルモードと比較して燃費性能よりも動力性能を優先した状態で運転が可能なように走行を行なうための予め定められたスポーツモード(すなわちパワーモード)と、そのノーマルモードと比較して動力性能よりも燃費性能を優先した状態で運転可能なように走行を行うための予め定められたエコモードとを有しており、ノーマルモードとスポーツモードとエコモードとの間で運転モードを切り替えることが可能である。運転モード選択スイッチ46は、例えば運転席の近傍に配設されている。この運転モード選択スイッチ46は、例えばシーソー型スイッチであって、運転者が所望する運転モードでの車両走行を選択可能とするものであり、スポーツモードスイッチ42或いはエコモードスイッチ44が運転者により押されることで、スポーツモード或いはエコモードが選択(設定)される。また、スポーツモードスイッチ42及びエコモードスイッチ44が何れも押されていない場合には、ノーマルモードが選択(設定)される。
【0034】
図1に示す電子制御装置56は、その制御機能の要部として、変速手段100とスリップ制御装置に対応するスリップ制御手段102を備えている。変速手段100は、破線で囲まれた変速判定手段104、走行モード判定手段106、変速制御手段108、変速ギヤ段判定手段110、目標変速時間算出手段112とから構成されている。また、スリップ制御手段102は、点線で囲まれたロックアップクラッチ判定手段114、ロックアップクラッチ制御値判定手段116、ロックアップクラッチ制御手段118とから構成されている。
【0035】
ロックアップクラッチ判定手段114は、車両の運転状態が予め定められた所定の制御領域内になったときに、例えばロックアップクラッチ32を完全係合させてポンプ翼車20Pとタービン翼車20tとを直結状態とする完全ロックアップ制御や、ロックアップクラッチ32を半係合(スリップ)させてポンプ翼車20Pとタービン翼車20tとを半直結状態とするフレックスロックアップ制御等の実行を判断する。完全ロックアップ制御およびフレックスロックアップ制御等の実施が判断される運転領域は、例えばアクセル開度と車速との関係として予め設定されている。ロックアップクラッチ判定手段114は、完全ロックアップ制御もしくはフレックスロックアップ制御の実施を判断した場合、ロックアップクラッチ制御手段118に完全ロックアップ制御もしくはフレックスロックアップ制御の実施の指示を出すとともに、変速判定手段104に完全ロックアップ制御もしくはフレックスロックアップ制御の実施中であることを変速手段100に伝達する。ロックアップクラッチ制御手段118は、ロックアップクラッチ判定手段114の指示に基づいてロックアップクラッチ32を制御する。
【0036】
変速判定手段104は、完全ロックアップ制御もしくはフレックスロックアップ制御の実施中であること、および、たとえば車速Vおよびアクセル開度Accを変数として予め記憶された関係(マップ、変速線図)から実際の車速Vおよびアクセル開度Accに基づいて変速制御の開始であることを判断する。完全ロックアップ制御もしくはフレックスロックアップ制御の実施中における自動変速機22の変速の開始が判断されると、変速ギヤ段判定手段110は、判断された変速が、通常のアップシフトすなわちN段から(N+1)段への隣接する変速段への変速、もしくは通常のダウンシフトすなわちN段から(N−1)段への隣接する変速段への変速であるかを判断する。通常のアップシフトおよび通常のダウンシフト以外の変速には、例えば複数段の変速が同時に実施される多重シフト等が含まれる。
【0037】
変速ギヤ段判定手段110は、変速によって切り換えられる変速後の変速段が何であるかをさらに判断する。なお多重シフトの場合には、変速によって切り換えられる変速後の変速段と何段の変速段を含む変速であるのかとを判断する。走行モード判定手段106は、選択されている走行モードが、スポーツモード、ノーマルモード、エコモードの何れであるかを判断する。
【0038】
目標変速時間算出手段112は、スポーツモード、ノーマルモード、エコモード等からなる走行モードと、変速の種類、例えば通常のアップシフト、通常のダウンシフト、それ以外すなわち多重シフト等の変速方向や変速ステップの大きさを反映する変速前および変速後の変速段とに基づいて自動変速機22の変速時間すなわち目標変速時間ttを算出する。なお目標変速時間ttは、変速によって切り換えられる変速比の変化幅すなわち変速によるエンジン回転速度Neの変化幅と、運転者の選択に基づく走行モード等とに対応して予め設定され記憶されているマップに基づいて決定される。目標変速時間ttは、スポーツモードにおいて、例えばノーマルモードにおける走行よりも短い時間の目標変速時間ttとして早い加速応答すなわちダイレクト感を優先した設定となっている。ノーマルモードにおいては、例えば変速ショックの抑制と加速応答とをバランスよく両立させた設定となっている。また、目標変速時間ttの制御においては、トルク相時間、イナーシャ相時間、目標回転速度等を調整することで制御を実施する。
【0039】
ロックアップクラッチ制御値判定手段116は、算出された目標変速時間ttに対応するロックアップクラッチ32の制御値、すなわち目標差回転速度Nstもしくは目標差回転Nstを達成するためのロックアップクラッチ32に供給される差動油の指示圧Slu等を予め定められた関係(マップ)に基づいて判定する。なおこれらの制御値は、特に一定値である必要はなく、ロックアップクラッチ32の制御値の開始からの経過時間に伴って設定値が例えば段階的に変化するものとしても良い。上記の目標変速時間ttは、走行モード、実行される変速の種類に基づいて算出されており、目標変速時間ttは、これらの走行モード、実行される変速の種類を反映するように予め設定されている。またロックアップクラッチ制御値判定手段116によって判定される制御値も、これらの走行モード、実行される変速の種類を反映したものとなるように設定されている。ロックアップクラッチ制御手段118は、算出された制御値に基づいて、ロックアップクラッチ32の制御を行う。自動変速機22の変速制御は、ロックアップクラッチ32の制御と平行して実行されており、変速制御手段108は、自動変速機22の変速制御を完了する。なお、自動変速機22の変速制御において、たとえばイナーシャ相の開始後にイナーシャ相時間を補正することによってイナーシャ相の終了時における変速ショックを更に軽減することも可能である。
【0040】
図7は、電子制御装置56による、自動変速機22の変速中におけるロックアップクラッチ32のスリップ制御を説明したフローチャートである。ロックアップクラッチ判定手段114とロックアップクラッチ制御手段118との機能に対応するステップ(以下ステップを省略する)S10において、ロックアップクラッチ32が完全ロックアップ状態もしくはフレックスロックアップ制御の実施が判断され、完全ロックアップ状態もしくはフレックスロックアップ制御が実施される。S10判定が否定された場合、S10からの判定が繰り返される。S10判定が肯定された場合、すなわち完全ロックアップもしくはフレックスロックアップ制御の実施中である場合、変速判定手段104の機能に対応するS20において、自動変速機22の変速が開始されたか否かが判定される。S20の判定が否定された場合、S10からの判定が繰り返される。S20の判定が肯定されると、変速ギヤ段判定手段110の機能に対応するS30において、通常のアップシフトであるか否かが判定される。この判定が否定されると、変速ギヤ段判定手段110の機能に対応するS40において、通常のダウンシフトであるか否かが判定される。このS40判定が否定されると、変速ギヤ段判定手段110の機能に対応するS50において、その他の変速である例えば多重シフトであると判定される。
【0041】
S30の判定が肯定され、自動変速機22の変速が隣接する変速段へのアップシフトであると判定されると、変速ギヤ段判定手段110の機能に対応するS60において、変速によって切り換えられる変速後のギヤ段が判定される。さらに走行モード判定手段106の機能に対応するS90において、選択されている走行モードが、スポーツモード、ノーマルモード、エコモード等の何れのモードであるかが判定される。目標変速時間算出手段112の機能に対応するS120において、目標変速時間ttが決定される。ロックアップクラッチ制御値判定手段116とロックアップクラッチ制御手段118との機能に対応するS150において、ロックアップクラッチ32の制御値、すなわち目標差回転Nstが判定され、目標差回転Nstに近づけるように制御が行われる。なお、前記制御値として目標差回転Nstに代わって目標差回転Nstを達成するためのロックアップクラッチ32に供給される差動油の指示圧Sluが用いられても良い。変速制御手段108の機能に対応するS160において、自動変速機22の変速が継続され、その後変速が完了する。
【0042】
S40の判定に戻り、S40の判定が肯定された場合すなわち自動変速機22の変速が通常のダウンシフトであると判定された場合、通常のアップシフトと判定された場合に行なわれるステップS60、S90、S120と同様にS70における変速ギヤ段の判定、S100における走行モードの判定、S130における目標変速時間の決定が行なわれたた後、上記のS150におけるロックアップ制御の目標差回転もしくは油圧の判定とその値に基づく制御の実行、S160における自動変速機22の変速の実行と完了がおこなわれる。また、S40の判定が否定された場合、変速ギヤ段判定手段110の機能に対応するS50において、その他の変速である例えば多重シフトであると判定される。その後は、通常のアップシフトと判定された場合に行なわれるステップS60、S90、S120と同様にS80における変速ギヤ段の判定、S110における走行モードの判定、S140における目標変速時間の決定が行なわれたた後、上記のS150におけるロックアップ制御の目標差回転もしくは油圧の判定とその値に基づく制御の実行、S160における自動変速機22の変速の実行と完了がおこなわれる。
【0043】
本実施例によれば、ロックアップクラッチ32の完全ロックアップ制御もしくはフレックスロックアップ制御の実施中に自動変速機22の変速が開始された場合に、変速によって切り換えられる変速前および変速後の変速段と車両の走行モードとの少なくとも一方に基づいて変速に要する目標変速時間ttを算出し、目標変速時間ttに基づいてロックアップクラッチ32のポンプ翼車20pとタービン翼車20tとの目標差回転Nstを設定することによって、スポーツモード、ノーマルモード、エコモードといった走行モードとアップシフト、ダウンシフト、多重変速といった変速の違いにおけるスリップ制御への要求の違いを反映することが可能となる。この自動変速機22の変速とロックアップクラッチ32のロックアップフレックス制御とを協調した制御によって、変速完了時のショックの軽減によるドライバビリティの向上と燃費の向上との両立を適切に実施することができる。
【0044】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0045】
走行モードと自動変速機22の切り換えられる変速段に基づいて変速の目標時間ttの設定を行なうものであったが、例えばエンジンの点火遅角、すなわちエンジン12の点火時期を調整することによってエンジントルクを制御することが難しい、例えば冷却水温の低下時などにおいて、変速の目標時間ttを通常より長く調整するものでも良い。すなわち変速の目標時間ttは、特に走行モードと切り換えられる変速段とに基づくだけでなく、変速の目標時間ttを調整することによって何らかの差異が得られるものであれば、それを盛り込むことが出来る。
【0046】
また、前述の実施例の自動変速機22では、8速のギヤ段が用いられていたが、特に8速に限らず、例えばこれより低いギヤ段数、もしくはこれより高いギヤ段数であるたとえば10速のギヤ段数が用いられても良いし、無段変速機であっても良い。
【0047】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。