特許第6954769号(P6954769)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6954769-窒化ジルコニウム粉末及びその製造方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6954769
(24)【登録日】2021年10月4日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】窒化ジルコニウム粉末及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/076 20060101AFI20211018BHJP
   C09D 17/00 20060101ALI20211018BHJP
【FI】
   C01B21/076 G
   C09D17/00
【請求項の数】5
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-114111(P2017-114111)
(22)【出願日】2017年6月9日
(65)【公開番号】特開2018-203599(P2018-203599A)
(43)【公開日】2018年12月27日
【審査請求日】2020年5月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【弁理士】
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】影山 謙介
(72)【発明者】
【氏名】小西 隆史
【審査官】 小野 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−186407(JP,A)
【文献】 特開2009−091205(JP,A)
【文献】 特開平04−006102(JP,A)
【文献】 特開2017−222559(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/076
C09D 17/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジルコニウム、窒素及び酸素を主成分とし、ジルコニウム濃度が73〜82質量%、窒素濃度が7〜12質量%、酸素濃度が15質量%以下であって、粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて、370nmの光透過率Xが少なくとも12%であり、550nmの光透過率Yが12%以下であって、前記370nmの光透過率Xに対する前記550nmの光透過率Yの比(X/Y)が1.4以上であることを特徴とする窒化ジルコニウム粉末。
【請求項2】
二酸化ジルコニウム粉末と、金属マグネシウム粉末と、酸化マグネシウム粉末とを、金属マグネシウムが酸化ジルコニウム粉末の2.0〜6.0倍モルの割合になるように混合し、窒素ガスと不活性ガスの混合ガスの雰囲気下又は窒素ガス雰囲気下で650〜900℃の温度で焼成するか、或いは不活性ガス雰囲気に続いて窒素ガス単体の雰囲気下でそれぞれ650〜900℃の温度で焼成することにより、前記二酸化ジルコニウム粉末を還元して窒化ジルコニウム粉末を製造する請求項1記載の窒化ジルコニウム粉末の製造方法。
【請求項3】
アルゴンと窒素の混合ガス雰囲気下又は窒素ガス雰囲気下、プラズマ電源の陽極上に平均粒子径が30μm以下の金属ジルコニウム材料を配置し、前記金属ジルコニウム材料に前記プラズマ電源の陰極管からアルゴンと窒素の混合プラズマを当てて、ジルコニウムナノ粒子蒸気を発生させ、前記ナノ粒子を回収することにより、窒化ジルコニウム粉末を製造する請求項1記載の窒化ジルコニウム粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項1記載の窒化ジルコニウム粉末を黒色顔料として含む黒色感光性組成物。
【請求項5】
請求項4記載の黒色感光性組成物を用いて黒色パターニング膜を形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁性の黒色顔料として好適に用いられる窒化ジルコニウム粉末及びその製造方法に関する。更に詳しくは、黒色顔料として黒色パターニング膜を形成するときに高解像度のパターニング膜を形成するとともに形成したパターニング膜が高い遮光性能を有する窒化ジルコニウム粉末及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の黒色顔料は、感光性樹脂に分散されて黒色感光性組成物に調製され、この組成物を基板に塗布してフォトレジスト膜を形成し、フォトリソグラフィー法でフォトレジスト膜に露光してパターニング膜を形成することで、液晶ディスプレイのカラーフィルター等の画像形成素子のブラックマトリックスに用いられる。従来の黒色顔料としてのカーボンブラックは導電性があるため、絶縁性が要求される用途には向かない。
【0003】
従来、絶縁性の高い黒色顔料として、特定の組成のチタンブラックとも称されるチタン酸窒化物からなる黒色粉末と、Y23、ZrO2、Al23、SiO2、TiO2、V25を少なくとも1種からなる絶縁粉末とを含有する高抵抗黒色粉末が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。この黒色粉末によれば、黒色膜にしたときに、抵抗値が高く、遮光性に優れるので、カラーフィルターのブラックマトリックスとして好適であるとされている。
【0004】
また、絶縁性の黒色顔料であって窒化ジルコニウムを含むものとして、X線回折プロファイルにおいて、低次酸化ジルコニウムのピークと窒化ジルコニウムのピークを有し、比表面積が10〜60m2/gであることを特徴とする微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。この微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体は、二酸化ジルコニウム又は水酸化ジルコニウムと、酸化マグネシウムと、金属マグネシウムとの混合物を、窒素ガス又は窒素ガスを含む不活性ガス気流中、650〜800℃で焼成する工程を経て製造される。上記微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体は、黒色系で電気伝導性の低い微粒子材料として使用でき、カーボンブラックなどが使用されているテレビなどのディスプレイ用のブラックマトリクスなどへ、より電気伝導性の低い微粒子黒色顔料として使用することができるとされ、また上記製造方法によれば、上記微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を工業的規模で製造(量産)することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−266045号公報(請求項1、段落[0002]、段落[0010])
【特許文献2】特開2009−091205号公報(請求項1、請求項2、段落[0015]、段落[0016])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に示されるチタンブラックと称される黒色粉末、並びに特許文献2に示される微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体は、黒色顔料として用いる場合、より高い遮光性を得るために顔料濃度を高くして黒色感光性組成物を調製し、この組成物を基板に塗布してフォトレジスト膜を形成し、フォトリソグラフィー法でフォトレジスト膜に露光して黒色パターニング膜を形成するときにフォトレジスト膜中の黒色顔料が紫外線であるi線(波長365nm)も遮蔽してしまうため、紫外線がフォトレジスト膜の底部まで届かず、底部にアンダーカットが発生し、高解像度のパターニング膜を形成することができない問題があった。
【0007】
本発明の目的は、黒色顔料として黒色パターニング膜を形成するときに高解像度のパターニング膜を形成するとともに形成したパターニング膜が高い遮光性能を有する窒化ジルコニウム粉末及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、ジルコニウム、窒素及び酸素を主成分とし、ジルコニウム濃度が73〜82質量%、窒素濃度が7〜12質量%、酸素濃度が15質量%以下であって、粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて、370nmの光透過率Xが少なくとも12%であり、550nmの光透過率Yが12%以下であって、前記370nmの光透過率Xに対する前記550nmの光透過率Yの比(X/Y)が1.4以上であることを特徴とする窒化ジルコニウム粉末である。
【0009】
本発明の第2の観点は、二酸化ジルコニウム粉末と、金属マグネシウム粉末と、酸化マグネシウム粉末とを、金属マグネシウムが酸化ジルコニウム粉末の2.0〜6.0倍モルの割合になるように混合し、窒素ガスと不活性ガスの混合ガスの雰囲気下又は窒素ガス雰囲気下で650〜900℃の温度で焼成するか、或いは不活性ガス雰囲気に続いて窒素ガス単体の雰囲気下でそれぞれ650〜900℃の温度で焼成することにより、前記二酸化ジルコニウム粉末を還元して窒化ジルコニウム粉末を製造する第1の観点の窒化ジルコニウム粉末の製造方法である。
【0010】
本発明の第3の観点は、アルゴンと窒素の混合ガス雰囲気下又は窒素ガス雰囲気下、プラズマ電源の陽極上に平均粒子径が30μm以下の金属ジルコニウム材料を配置し、前記金属ジルコニウム材料に前記プラズマ電源の陰極管からアルゴンと窒素の混合プラズマを当てて、ジルコニウムナノ粒子蒸気を発生させ、前記ナノ粒子を回収することにより、窒化ジルコニウム粉末を製造する第1の観点の窒化ジルコニウム粉末の製造方法である。
【0011】
本発明の第4の観点は、第1の観点の窒化ジルコニウム粉末を黒色顔料として含む黒色感光性組成物である。
【0012】
本発明の第5の観点は、第4の観点の黒色感光性組成物を用いて黒色パターニング膜を形成する方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の第1の観点の窒化ジルコニウム粉末は、ジルコニウム濃度が73〜82質量%、窒素濃度が7〜12質量%、酸素濃度が15質量%以下であるため、この粉末によりパターニング膜を形成したときにパターニング膜の遮光性が低下しない。また粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて、370nmの光透過率Xが少なくとも12%であり、550nmの光透過率Yが12%以下である特徴を有し、また370nmの光透過率Xに対する550nmの光透過率Yの比(X/Y)が1.4以上である特徴を有する。この比(X/Y)が1.4以上であることにより、紫外線をより一層透過する特長がある。この結果、黒色顔料として黒色パターニング膜を形成するときに高解像度のパターニング膜を形成することができ、しかも形成したパターニング膜は高い遮光性能を有するようになる。
【0014】
本発明の第2の観点の窒化ジルコニウム粉末の製造方法では、窒素ガスと不活性ガスの混合ガスの雰囲気下又は窒素ガス雰囲気下、或いは不活性ガス雰囲気に続いて窒素ガス単体の雰囲気下で焼成することにより、還元反応がより促進され、反応効率がより高まって、より少ない金属マグネシウム量でも窒化ジルコニウム粉末のみを製造することができる。
【0015】
本発明の第3の観点の窒化ジルコニウム粉末の製造方法では、平均粒子径が30μm以下である金属ジルコニウム材料(+)にアルゴンと窒素の混合プラズマ(−)を当てて、ジルコニウムナノ粒子蒸気を発生させ、このナノ粒子を回収することにより、微細でかつ純度の高い窒化ジルコニウムが得られる優れた効果がある。
【0016】
本発明の第4の観点の黒色感光性組成物によれば、黒色顔料として窒化ジルコニウム粉末のみであるため、この組成物を用いて黒色パターニング膜を形成すれば、高解像度のパターニング膜を形成することができ、しかも形成したパターニング膜が高い遮光性能を有するようになる。
【0017】
本発明の第5の観点の黒色パターニング膜の形成方法によれば、高解像度のパターニング膜を形成することができ、しかも形成したパターニング膜が高い遮光性能を有するようになる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例1と比較例1、2で得られた窒化ジルコニウム粉末の分散液を粉末濃度50ppmに希釈した分散液における光透過率を示す分光曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0020】
<第1の実施形態>
〔ZrO2、金属Mg及びMgOを出発原料として焼成によりZrNを製造する方法〕
本発明の第1の実施形態は、二酸化ジルコニウム(ZrO2 )、金属マグネシウム(金属Mg)及び酸化マグネシウム(MgO)の各粉末を出発原料として用い、特定の雰囲気下、特定の温度と時間で焼成することにより、ジルコニウム、窒素及び酸素が特定の濃度範囲にある窒化ジルコニウム(ZrN)粉末を製造する方法である。
【0021】
〔二酸化ジルコニウム粉末〕
本実施形態の二酸化ジルコニウム粉末としては、例えば、単斜晶系二酸化ジルコニウム、立方晶系二酸化ジルコニウム、イットリウム安定化二酸化ジルコニウム等の二酸化ジルコニウムの粉末がいずれも使用可能であるが、窒化ジルコニウム粉末の生成率が高くなる観点から、単斜晶系二酸化ジルコニウム粉末が好ましい。
【0022】
〔金属マグネシウム粉末]
金属マグネシウム粉末は、粒子径が小さすぎると、反応が急激に進行して操作上危険性が高くなるので、粒子径が篩のメッシュパスで100〜1000μmの粒状のものが好ましく、特に200〜500μmの粒状のものが好ましい。ただし、金属マグネシウムは、すべて上記粒子径範囲内になくても、その80質量%以上、特に90質量%以上が上記範囲内にあればよい。
【0023】
二酸化ジルコニウム粉末に対する金属マグネシウム粉末の添加量の多寡は、二酸化ジルコニウムの還元力に影響を与える。金属マグネシウムの量が少なすぎると、還元不足で目的とする窒化ジルコニウム粉末が得られにくくなり、多すぎると、過剰な金属マグネシウムにより反応温度が急激に上昇し、粉末の粒成長を引き起こす恐れがあるとともに不経済となる。金属マグネシウム粉末は、その粒子径の大きさによって、金属マグネシウムが二酸化ジルコニウムの2.0〜6.0倍モルの割合になるように、金属マグネシウム粉末を二酸化ジルコニウム粉末に添加して混合する。2.0倍モル未満では、二酸化ジルコニウムの還元力が不足し、6.0倍モルを超えると、過剰な金属マグネシウムにより反応温度が急激に上昇し、粉末の粒成長を引き起こす恐れがあるとともに不経済となる。好ましくは3.0〜5.0倍モルである。
【0024】
〔酸化マグネシウム粉末〕
酸化マグネシウム粉末は、焼成時に金属マグネシウムの還元力を緩和して、窒化ジルコニウム粉末の焼結及び粒成長を防止する。酸化マグネシウム粉末は、その粒子径の大きさによって、酸化マグネシウムが二酸化ジルコニウムの0.3〜3.0倍モルの割合になるように、二酸化ジルコニウムに添加して混合する。0.3倍モル未満では窒化ジルコニウム粉末の焼結防止にならず、3.0倍モルを超えると、焼成後の酸洗浄時に要する酸性溶液の使用量が増加する不具合がある。好ましくは0.4〜2.0倍モルである。酸化マグネシウム粉末は、比表面積の測定値から球形換算した平均一次粒子径1000nm以下であることが好ましく、粉末の取扱い易さから、平均一次粒子径500nm以下で10nm以上であることが好ましい。なお、酸化マグネシウムのみではなく、窒化マグネシウムも窒化ジルコニウムの焼結予防に有効であるため、酸化マグネシウムに一部窒化マグネシウムを混合して使用することも可能である。
【0025】
〔金属マグネシウム粉末による還元反応〕
本実施形態の窒化ジルコニウム粉末を生成させるための金属マグネシウムによる還元反応時の温度は、650〜900℃、好ましくは700〜800℃である。650℃は金属マグネシウムの溶融温度であり、温度がそれより低いと、二酸化ジルコニウムの還元反応が十分に生じない。また、温度を900℃より高くしても、その効果は増加せず、熱エネルギーの無駄になるとともに粒子の焼結が進行し好ましくない。また還元反応時間は10〜90分が好ましく、15〜60分が更に好ましい。
【0026】
上記還元反応を行う際の反応容器は、反応時に原料や生成物が飛び散らないように、蓋を有するものが好ましい。これは、金属マグネシウムの溶融が開始されると、還元反応が急激に進行し、それに伴って温度が上昇して、容器内部の気体が膨張し、それによって、容器の内部のものが外部に飛び散るおそれがあるからである。
【0027】
〔金属マグネシウム粉末による還元反応時の雰囲気ガス〕
本実施形態の上記還元反応時の雰囲気ガスは、窒素ガスとの不活性ガスの混合ガス又は窒素ガス単体である。不活性ガスとしてはアルゴン、ヘリウム、ネオン、クリプトン、キセノン等が挙げられる。これらの中でアルゴンが最も好ましい。混合ガスの場合、上記還元反応中、窒素ガスと不活性ガスを併用するか、又は最初に不活性ガス雰囲気で還元反応させて続いて窒素ガス単体の雰囲気で還元反応させてもよい。上記還元反応は上記混合ガスの気流中で行われる。この混合ガスは、金属マグネシウムや還元生成物と酸素との接触を防ぎ、それらの酸化を防ぐとともに、窒素をジルコニウムと反応させ、窒化ジルコニウムを生成させる役割を有する。
【0028】
〔焼成後の反応物の処理〕
二酸化ジルコニウム粉末と、金属マグネシウム粉末と、酸化マグネシウム粉末との混合物を上記混合ガスの雰囲気下又は窒素ガス雰囲気下、或いは不活性ガス雰囲気に続いて窒素ガス単体の雰囲気下で焼成することにより得られた反応物は、反応容器から取り出し、最終的には室温まで冷却した後、塩酸水溶液などの酸溶液で洗浄して、金属マグネシウムの酸化によって生じた酸化マグネシウムや生成物の焼結防止のため反応当初から含まれていた酸化マグネシウムを除去する。この酸洗浄に関しては、pH0.5以上、特にpH1.0以上、温度は90℃以下で行うのが好ましい。これは酸性度が強すぎる、又は温度が高すぎると窒化ジルコニウムが酸化してしまうおそれがあるためである。そして、その酸洗浄後、アンモニア水などでpHを5〜6に調整した後、濾過又は遠心分離により固形分を分離し、その固形分を乾燥した後、粉砕して窒化ジルコニウム粉末を得る。
【0029】
<第2の実施形態>
〔金属Zrを出発原料としてナノ粒子プラズマ合成法によりZrNを製造する方法〕
本発明の第2の実施形態は、高周波熱プラズマ法による窒化ジルコニウムナノ粒子の製造である。熱プラズマ装置は、原料(主に金属粉末)供給機、高周波電源、プラズマトーチ、反応ガス(本発明では窒素ガス)雰囲気下のチャンバー及び製品回収用バグフィルターからなり、原料はキャリーガスにより原料供給機からプラズマ炎に投入され、数千度の高温によりガス化する。トーチの下方より導入される冷却ガスにより一瞬で冷却、凝縮され均一かつ高純度のナノ粒子が得られる。本手法は金属ナノ粒子、金属酸化物、金属窒化物ナノ粒子を得る方法として一般的となっているが、現時点では窒化ジルコニウムを高窒化度、高純度で得る手段としては未確立であった。しかしながら、本発明では原料である金属ジルコニウムの粒子径に着目し、平均粒子径が30μm以下の金属ジルコニウムを使用することで、高い純度の窒化ジルコニウム粒子が得られることを見出した。一方、原料であるジルコニウム粉末の粒子径が30μmを超えると溶解及びガス化が不十分となり、窒化されない金属ジルコニウム粒子のまま回収され、十分な特性を発現する窒化ジルコニウム粒子が得られない。
【0030】
<第1及び第2の実施形態で得られた窒化ジルコニウム粉末の特性>
第1及び第2の実施形態で得られた窒化ジルコニウム粉末は、ジルコニウム、窒素及び酸素を主成分とし、ジルコニウム濃度が73〜82質量%、窒素濃度が7〜12質量%、酸素濃度が15質量%以下である。ジルコニウム濃度が73質量%未満であると、酸化物の割合が多く、この粉末によりパターニング膜を形成したときにパターニング膜の可視光域での遮光性が低下する。またジルコニウム濃度が82質量%を超えると、金属成分が残存し遮光性が低下するとともに常温で酸化しやすく、取り扱いが難しくなる。好ましいジルコニウム濃度は74〜80質量%である。また窒素濃度が7質量%未満であると、黒色度が不足するため、この粉末によりパターニング膜を形成したときにパターニング膜の遮光性が低下する。また窒素濃度が12質量%を超えると、常温で酸化しやすくなる不具合を生じる。好ましい窒素濃度は8〜11質量%である。更に酸素濃度が15質量%を超えると、着色力が小さく、この粉末によりパターニング膜を形成したときにパターニング膜の遮光性が低下する。好ましい酸素濃度は13質量%以下である。
【0031】
また第1及び第2の実施形態で得られた窒化ジルコニウム粉末は、BET値より測定される比表面積が15〜70m2/gであることが好ましい。窒化ジルコニウム粉末の上記比表面積が15m2/g未満では、黒色レジストとしたときに、長期保管時に顔料が沈降し易く、70m2/gを超えると、黒色顔料としてパターニング膜を形成したときに、遮光性が不足し易い。20〜65m2/gがより好ましい。上記比表面積値から次の式(1)により球状に見なした平均粒子径を算出することができる。このBET比表面積値から算出される平均粒子径は10〜50nmが好ましい。式(1)中、Lは平均粒子径(μm)、ρは粉末の密度(g/cm3)、Sは粉末の比表面積値(m2/g)である。
L=6/(ρ×S) (1)
【0032】
窒化ジルコニウム粉末は、粉末濃度50ppmの分散液透過スペクトルにおいて、370nmの光透過率Xが少なくとも12%、すなわち、12%以上であり、550nmの光透過率Yが12%以下である。光透過率Xが12%未満では、黒色顔料としてパターニング膜を形成するときにフォトレジスト膜の底部まで露光されず、パターニング膜のアンダーカットが発生する。また光透過率Yが12%を超えると、形成したパターニング膜の遮光性が不足し高いOD値が得られない。好ましい光透過率Xは14%以上であり、好ましい光透過率Yは8%以下である。上記光透過率Xと光透過率Yの二律背反的な特性を考慮して、本実施形態の窒化ジルコニウム粉末は、370nmの光透過率Xに対する550nmの光透過率Yの比(X/Y)が1.4以上、好ましくは2.0以上である。即ち、X/Yが1.4以上であることにより、紫外線透過の効果があり、パターニング膜のアンダーカットを発生しないことが優先される。
【0033】
〔窒化ジルコニウム粉末を黒色顔料として用いたパターニング膜の形成方法〕
上記窒化ジルコニウム粉末を黒色顔料として用いた、ブラックマトリックスに代表されるパターニング膜の形成方法について述べる。先ず、上記窒化ジルコニウム粉末を感光性樹脂に分散して黒色感光性組成物に調製する。次いでこの黒色感光性組成物を基板上に塗布した後、プリベークを行って溶剤を蒸発させて、フォトレジスト膜を形成する。次にこのフォトレジスト膜にフォトマスクを介して所定のパターン形状に露光したのち、アルカリ現像液を用いて現像して、フォトレジスト膜の未露光部を溶解除去し、その後好ましくはポストベークを行うことにより、所定の黒色パターニング膜が形成される。
【0034】
形成されたパターニング膜の遮光性(透過率の減衰)を表す指標として光学濃度、即ちOD(Optical Density)値が知られている。本実施形態の窒化ジルコニウム粉末を用いて形成されたパターニング膜は高いOD値を有する。ここでOD値は、光がパターニング膜を通過する際に吸収される度合を対数で表示したものであって、次の式(2)で定義される。式(2)中、Iは透過光量、I0は入射光量である。
OD値=−log10(I/I0) (2)
【0035】
上記基板としては、例えば、ガラス、シリコン、ポリカーボネート、ポリエステル、芳香族ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリイミド等を挙げることができる。また上記基板には、所望により、シランカップリング剤等による薬品処理、プラズマ処理、イオンプレーティング、スパッタリング、気相反応法、真空蒸着等の適宜の前処理を施しておくこともできる。黒色感光性組成物を基板に塗布する際には、回転塗布、流延塗布、ロール塗布等の適宜の塗布法を採用することができる。塗布厚さは、乾燥後の膜厚として、通常、0.1〜10μm、好ましくは0.2〜7.0μm、更に好ましくは0.5〜6.0μmである。パターニング膜を形成する際に使用される放射線としては、本実施形態では、波長が250〜370nmの範囲にある放射線が好ましい。放射線の照射エネルギー量は、好ましくは10〜10,000J/m2 である。また上記アルカリ現像液としては、例えば、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、コリン、1,8−ジアザビシクロ−[5.4.0]−7−ウンデセン、1,5−ジアザビシクロ−[4.3.0]−5−ノネン等の水溶液が好ましい。上記アルカリ現像液には、例えばメタノール、エタノール等の水溶性有機溶剤や界面活性剤等を適量添加することもできる。なお、アルカリ現像後は、通常、水洗する。現像処理法としては、シャワー現像法、スプレー現像法、ディップ(浸漬)現像法、パドル(液盛り)現像法等を適用することができ、現像条件は、常温で5〜300秒が好ましい。このようにして形成されたパターニング膜は、高精細の液晶、有機EL用ブラックマトリックス材、イメージセンサー用遮光材光学部材用遮光材、遮光フィルター、IRカットフィルター等に好適に用いられる。
【実施例】
【0036】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0037】
<実施例1>
BET法により測定される比表面積から算出される平均一次粒子径が50nmの単斜晶系二酸化ジルコニウム粉末7.4gに、平均一次粒子径が100μmの金属マグネシウム粉末7.3gと平均一次粒子径が20nmの酸化マグネシウム粉末3.6gを添加し、石英製ガラス管に黒鉛のボートを内装した反応装置により均一に混合した。このとき金属マグネシウムの添加量は二酸化ジルコニウムの5.0倍モル、酸化マグネシウムの添加量は二酸化ジルコニウムの1.5倍モルであった。反応ガスを窒素ガスとアルゴンガスの混合ガスにして、これらの体積%の割合(N2:Ar)が90%:10%の混合ガスの雰囲気とした。上記混合物をこの混合ガスの雰囲気下、700℃の温度で60分間焼成して焼成物を得た。この焼成物を、1リットルの水に分散し、5%塩酸を徐々に添加して、pHを1以上で、温度を100℃以下に保ちながら洗浄した後、25%アンモニア水にてpH7〜8に調整し、濾過した。その濾過固形分を水中に400g/リットルに再分散し、もう一度、前記と同様に酸洗浄、アンモニア水でのpH調整をした後、濾過した。このように酸洗浄−アンモニア水によるpH調整を2回繰り返した後、濾過物をイオン交換水に固形分換算で500g/リットルで分散させ、60℃での加熱攪拌とpH7への調整をした後、吸引濾過装置で濾過し、更に等量のイオン交換水で洗浄し、設定温度が120℃の熱風乾燥機にて乾燥することにより、窒化ジルコニウム粉末を得た。
【0038】
<実施例2>
実施例1と同一の金属マグネシウム粉末を2.0g(二酸化ジルコニウムの2.0倍モル)に変更し、反応温度を900℃、窒素とアルゴンの体積比率を5%:95%にしたこと以外は実施例1と同様にして窒化ジルコニウム粉末を作製した。
【0039】
<実施例3>
実施例1と同一の金属マグネシウム粉末を5.8g(二酸化ジルコニウムの4.0倍モル)に変更し、酸化マグネシウムの代わりに窒化マグネシウムを酸化ジルコニウムの2.0倍モル加えることに変更した。反応ガスを窒素100%とし、反応温度650℃、反応時間30分とした。これ以外は実施例1と同様にして窒化ジルコニウム粉末を作製した。
【0040】
<実施例4>
反応ガス雰囲気を最初にアルゴンガス雰囲気(Ar:100%)で還元反応させ、続いて窒素ガス雰囲気(N2:100%)で30分間還元反応させた。これ以外は実施例1と同様にして窒化ジルコニウム粉末を作製した。
【0041】
<実施例5>
高周波誘導熱プラズマナノ粒子合成装置(日本電子製TP40020NPS)に原料の金属ジルコニウム粉末(純度99%、平均粒径30μm)を投入し、アルゴンと窒素の混合プラズマ(ガス比50:50)により原料を揮発させ、急冷ガスに窒素を使用し装置下部チャンバーに生成物を回収することにより、窒化ジルコニウムナノ粉末を得た。
【0042】
<比較例1>
特許文献2の実施例1に示された方法に準じた方法で、微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を得た。即ち、平均一次粒子径が19nmの二酸化ジルコニウム粉末7.2gと、平均一次粒子径が20nmの微粒子酸化マグネシウム3.3gを混合粉砕して混合粉体Aを得た。この混合粉体0.5gに平均一次粒子径が150μmの金属マグネシウム粉末2.1gを加えて混合し混合粉体Bを得た。このとき金属マグネシウムと酸化マグネシウムの添加量はそれぞれ二酸化ジルコニウムの1.4倍モル、1.4倍モルであった。この混合粉体Bを窒素ガスの雰囲気下、700℃の温度で60分間焼成した。以下、実施例1と同様にして、微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を得た。
【0043】
<比較例2>
特許文献1の実施例1に示されるチタンブラックの黒色粉末を用意した。即ち、平均一次粒子径160nmの酸化チタン粉末をアンモニアガスの雰囲気下、850℃の温度で180分間焼成して70nmのチタン酸窒化物(TiO0.30.9)を得た後、このチタン酸窒化物と平均一次粒子径10nmのAl23からなる絶縁粉末とを、チタン酸窒化物100質量部に対して5.0質量部添加し混合して黒色粉末を作製した。
【0044】
<比較例3>
反応温度を600℃とした以外は実施例1と同じ条件で窒化ジルコニウム粉末を作製した。
【0045】
<比較例4>
実施例1と同一の金属マグネシウム粉末を1.5g(二酸化ジルコニウムの1.5倍モル)に変更し、反応ガスを窒素100%とした。これ以外は、実施例1と同様にして窒化ジルコニウム粉末を作製した。
【0046】
<比較例5>
反応ガスを窒素とアルゴンと酸素の混合ガス(体積比率88%:10%:2%)とした以外は実施例1と同じ条件で窒化ジルコニウム粉末を作製した。
【0047】
<比較例6>
原料の金属ジルコニウ粉末の平均粒子径が40μmであること以外は、実施例5と同じ条件でプラズマ合成により窒化ジルコニウム粉末を作製した。
【0048】
実施例1〜5及び比較例1〜6の各製造方法、金属マグネシウムと窒化マグネシウム又は酸化マグネシウム(以下、Mg源という。)の添加量に対する二酸化ジルコニウムのモル比、添加物の種類と割合、雰囲気ガスである反応ガスの種類とその体積%の割合、焼成温度と焼成時間を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
<比較試験と評価その1>
実施例1〜5、比較例3〜6で得られた窒化ジルコニウム粉末、比較例1で得られた微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体、及び比較例2で用意した黒色粉末をそれぞれ試料として、以下に詳述する方法で、(1) 平均粒子径、(2) ジルコニウム、窒素及び酸素の各濃度、(3) 粉末濃度50ppmの分散液における分光曲線、(4) 370nmの光透過率X及び550nmの光透過率Y、及び(5) X/Yを測定又は算出した。それぞれの測定結果又は算出結果を表2に示す。表2において、「TiB」はチタンブラックを意味する。また全ての試料について、(6) X線回折プロファイルを測定した。この測定結果を表3に示す。表3において、「Zr22」は低次酸窒化ジルコニウムを意味する。
【0051】
(1) 平均粒子径: 全ての試料について、比表面積測定装置(柴田化学社製、SA−1100)を用いて、窒素吸着によるBET1点法により比表面積値を測定した。これらの比表面積値から前述した式(1)により、各試料を球状に見なした平均粒子径を算出した。
【0052】
(2) ジルコニウム、窒素及び酸素の各濃度:ジルコニウム濃度は誘導結合プラズマ発光分析装置(Thermo Fisher Scientific社製、iCAP6500Duo)を用いて測定した。窒素濃度及び酸素濃度は酸素・窒素分析装置(LECO社製、ON736)を用いて測定した。
【0053】
(3) 粉末濃度50ppmの分散液における分光曲線: 実施例1〜5と比較例1〜6の各試料について、これらの試料を循環式横型ビーズミル(メディア:ジルコニア)に各別に入れ、アミン系分散剤を添加して、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGM−AC)溶剤中での分散処理を行った。得られた11種類の分散液を10万倍に希釈し粉末濃度を50ppmに調整した。この希釈した分散液における各試料の光透過率を日立ハイテクフィールディング((株)(UH−4150)を用い、波長240nmから1300nmの範囲で測定し、i線(365nm)近傍の波長370nmと、波長550nmにおける各光透過率(%)を求めた。図1には、実施例1と比較例1、2の3つの分光曲線を示す。
【0054】
(4) 370nmの光透過率X及び550nmの光透過率Y: 実施例1〜5と比較例1〜6の各試料の分光曲線から、それぞれの光透過率X及びYを読み取った。
【0055】
(5) X/Y: 実施例1〜5と比較例1〜6の各試料の分光曲線から読み取られた光透過率Xと光透過率YよりX/Yを算出した。
【0056】
(6) X線回折プロファイル:実施例1〜5と比較例1〜6の試料について、X線回折装置(リガク社製、型番MiniflexII)により、CuKα線を用いて印加電圧45kV,印加電流40mAの条件にて、θ−2θ法でX線回折プロファイルからX線回折分析を行った。そのX線回折プロファイルから、窒化ジルコニウムのピーク(2θ=33.95°、39.3°)、二酸化ジルコニウムのピーク(2θ=30.2°)、低次酸化ジルコニウムのピーク、低次酸窒化ジルコニウムのピーク(2θ=30.5°、35.3°)及びジルコニウムメタルのピーク(2θ=35.6°)の有無を調べた。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
表2から明らかなように、比較例1及び比較例2の試料は分光透過曲線における370nmの透過率がそれぞれ24.1%、8.7%であって、550nmの透過率がそれぞれ20.8%、10.0%であった。これに対して、実施例1の試料の分光透過曲線における370nmの透過率は26.0%と比較例1、2より高く、また550nmの透過率が7.3%と比較例1、2より低かった。また370nmの光透過率Xに対する550nmの光透過率Yの比(X/Y)に関して、表2から明らかなように、比較例1、2、5、6は、本発明の要件を満たさないため、いずれも1.4未満であった。比較例3、4は1.4以上ではあるが550nmの光透過率が12%以上と高かった。これに対して実施例1〜5は本発明の要件を満たしており、370nmの光透過率Xに対する550nmの光透過率Yの比(X/Y)はすべて1.4以上であった。以上のことから、実施例1〜5の試料は、可視光の遮光性能が高いことに加え、紫外線を透過するためパターニングに有利であることが判った。
【0060】
表3から明らかなように、比較例1、3、4及び5の試料は、X線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピーク(2θ=33.95°、39.3°)のみならず、低次酸窒化ジルコニウムのピーク(2θ=30.5°、35.3°)を有した。比較例5の試料は更に酸化ジルコニウムのピークも認められた。比較例6の試料はジルコニウムメタルのピーク(2θ=35.6°)が認められた。これに対して実施例1〜5及び比較例2の試料は、X線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピークを有する一方、二酸化ジルコニウムのピークも低次酸化ジルコニウムのピークも低次酸窒化ジルコニウムのピークも有しなかった。
【0061】
<比較試験と評価その2>
実施例1〜5、比較例1〜6で得られた試料を光透過率の測定に用いた分散液にアクリル樹脂を、質量比で黒色顔料:樹脂=6:4となる割合で添加し混合して黒色感光性組成物を調製した。この組成物をガラス基板上に焼成後の膜厚が1μmになるようにスピンコートし、250℃の温度で60分間焼成して被膜を形成した。この被膜の紫外線(中心波長370nm)および可視光(中心波長560nm)のOD値を前述した式(2)に基づき、マクベス社製の品名D200の濃度計(densitometer)を用いて、測定した。その結果を表3に示す。表3において、紫外線の透過性を示す尺度として、紫外線(UV)の370nmのOD値が2.5以下を「優」とし、2.5を超え3.0以下を「良」とし、3.0を超える場合を「不良」とした。また可視光の遮光性を示す尺度として、可視光の560nmのOD値が4.0を超える場合を「優」とし、3.2以上4.0以下を「良」とし、3.2未満を「不良」とした。
【0062】
表3から明らかなように、紫外線の透過性及び可視光の遮光性を示す尺度としてのOD値に関して、比較例1の試料は二酸化ジルコニウムの還元が不十分のため、可視光の560nmOD値が低く「不良」であった。また比較例2のチタンブラック試料は紫外線透過性能が十分でないため、UVの370nmOD値が高く「不良」であった。
【0063】
また比較例3及び4の試料は窒化度が不十分であったため、可視光の560nmOD値が低く「不良」であった。また比較例5の試料は酸化ジルコニウムが含まれていたため、可視光の560nmOD値が低く「不良」であった。比較例6では金属ジルコニウムが含まれていたためUVの370nmOD値が高く、また560nmOD値が低く「不良」であった。
【0064】
これに対して、実施例1〜5の試料は、本発明の要件を満たしているため、紫外線(UV)の370nmOD値は、「優」又は「良」であり、また可視光の560nmのOD値も「優」又は「良」であった。このことから、実施例1〜5の試料は、可視光の遮光性能が高いことに加え、紫外線を透過するためパターニングに有利であることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明の窒化ジルコニウム粉末は、高精細の液晶、有機EL用ブラックマトリックス材、イメージセンサー用遮光材光学部材用遮光材、遮光フィルター、IRカットフィルター等に利用することができる。
図1