【実施例】
【0036】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0037】
<実施例1>
BET法により測定される比表面積から算出される平均一次粒子径が50nmの単斜晶系二酸化ジルコニウム粉末7.4gに、平均一次粒子径が100μmの金属マグネシウム粉末7.3gと平均一次粒子径が20nmの酸化マグネシウム粉末3.6gを添加し、石英製ガラス管に黒鉛のボートを内装した反応装置により均一に混合した。このとき金属マグネシウムの添加量は二酸化ジルコニウムの5.0倍モル、酸化マグネシウムの添加量は二酸化ジルコニウムの1.5倍モルであった。反応ガスを窒素ガスとアルゴンガスの混合ガスにして、これらの体積%の割合(N
2:Ar)が90%:10%の混合ガスの雰囲気とした。上記混合物をこの混合ガスの雰囲気下、700℃の温度で60分間焼成して焼成物を得た。この焼成物を、1リットルの水に分散し、5%塩酸を徐々に添加して、pHを1以上で、温度を100℃以下に保ちながら洗浄した後、25%アンモニア水にてpH7〜8に調整し、濾過した。その濾過固形分を水中に400g/リットルに再分散し、もう一度、前記と同様に酸洗浄、アンモニア水でのpH調整をした後、濾過した。このように酸洗浄−アンモニア水によるpH調整を2回繰り返した後、濾過物をイオン交換水に固形分換算で500g/リットルで分散させ、60℃での加熱攪拌とpH7への調整をした後、吸引濾過装置で濾過し、更に等量のイオン交換水で洗浄し、設定温度が120℃の熱風乾燥機にて乾燥することにより、窒化ジルコニウム粉末を得た。
【0038】
<実施例2>
実施例1と同一の金属マグネシウム粉末を2.0g(二酸化ジルコニウムの2.0倍モル)に変更し、反応温度を900℃、窒素とアルゴンの体積比率を5%:95%にしたこと以外は実施例1と同様にして窒化ジルコニウム粉末を作製した。
【0039】
<実施例3>
実施例1と同一の金属マグネシウム粉末を5.8g(二酸化ジルコニウムの4.0倍モル)に変更し、酸化マグネシウムの代わりに窒化マグネシウムを酸化ジルコニウムの2.0倍モル加えることに変更した。反応ガスを窒素100%とし、反応温度650℃、反応時間30分とした。これ以外は実施例1と同様にして窒化ジルコニウム粉末を作製した。
【0040】
<実施例4>
反応ガス雰囲気を最初にアルゴンガス雰囲気(Ar:100%)で還元反応させ、続いて窒素ガス雰囲気(N
2:100%)で30分間還元反応させた。これ以外は実施例1と同様にして窒化ジルコニウム粉末を作製した。
【0041】
<実施例5>
高周波誘導熱プラズマナノ粒子合成装置(日本電子製TP40020NPS)に原料の金属ジルコニウム粉末(純度99%、平均粒径30μm)を投入し、アルゴンと窒素の混合プラズマ(ガス比50:50)により原料を揮発させ、急冷ガスに窒素を使用し装置下部チャンバーに生成物を回収することにより、窒化ジルコニウムナノ粉末を得た。
【0042】
<比較例1>
特許文献2の実施例1に示された方法に準じた方法で、微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を得た。即ち、平均一次粒子径が19nmの二酸化ジルコニウム粉末7.2gと、平均一次粒子径が20nmの微粒子酸化マグネシウム3.3gを混合粉砕して混合粉体Aを得た。この混合粉体0.5gに平均一次粒子径が150μmの金属マグネシウム粉末2.1gを加えて混合し混合粉体Bを得た。このとき金属マグネシウムと酸化マグネシウムの添加量はそれぞれ二酸化ジルコニウムの1.4倍モル、1.4倍モルであった。この混合粉体Bを窒素ガスの雰囲気下、700℃の温度で60分間焼成した。以下、実施例1と同様にして、微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体を得た。
【0043】
<比較例2>
特許文献1の実施例1に示されるチタンブラックの黒色粉末を用意した。即ち、平均一次粒子径160nmの酸化チタン粉末をアンモニアガスの雰囲気下、850℃の温度で180分間焼成して70nmのチタン酸窒化物(TiO
0.3N
0.9)を得た後、このチタン酸窒化物と平均一次粒子径10nmのAl
2O
3からなる絶縁粉末とを、チタン酸窒化物100質量部に対して5.0質量部添加し混合して黒色粉末を作製した。
【0044】
<比較例3>
反応温度を600℃とした以外は実施例1と同じ条件で窒化ジルコニウム粉末を作製した。
【0045】
<比較例4>
実施例1と同一の金属マグネシウム粉末を1.5g(二酸化ジルコニウムの1.5倍モル)に変更し、反応ガスを窒素100%とした。これ以外は、実施例1と同様にして窒化ジルコニウム粉末を作製した。
【0046】
<比較例5>
反応ガスを窒素とアルゴンと酸素の混合ガス(体積比率88%:10%:2%)とした以外は実施例1と同じ条件で窒化ジルコニウム粉末を作製した。
【0047】
<比較例6>
原料の金属ジルコニウ粉末の平均粒子径が40μmであること以外は、実施例5と同じ条件でプラズマ合成により窒化ジルコニウム粉末を作製した。
【0048】
実施例1〜5及び比較例1〜6の各製造方法、金属マグネシウムと窒化マグネシウム又は酸化マグネシウム(以下、Mg源という。)の添加量に対する二酸化ジルコニウムのモル比、添加物の種類と割合、雰囲気ガスである反応ガスの種類とその体積%の割合、焼成温度と焼成時間を表1に示す。
【0049】
【表1】
【0050】
<比較試験と評価その1>
実施例1〜5、比較例3〜6で得られた窒化ジルコニウム粉末、比較例1で得られた微粒子低次酸化ジルコニウム・窒化ジルコニウム複合体、及び比較例2で用意した黒色粉末をそれぞれ試料として、以下に詳述する方法で、(1) 平均粒子径、(2) ジルコニウム、窒素及び酸素の各濃度、(3) 粉末濃度50ppmの分散液における分光曲線、(4) 370nmの光透過率X及び550nmの光透過率Y、及び(5) X/Yを測定又は算出した。それぞれの測定結果又は算出結果を表2に示す。表2において、「TiB」はチタンブラックを意味する。また全ての試料について、(6) X線回折プロファイルを測定した。この測定結果を表3に示す。表3において、「Zr
2N
2O」は低次酸窒化ジルコニウムを意味する。
【0051】
(1) 平均粒子径: 全ての試料について、比表面積測定装置(柴田化学社製、SA−1100)を用いて、窒素吸着によるBET1点法により比表面積値を測定した。これらの比表面積値から前述した式(1)により、各試料を球状に見なした平均粒子径を算出した。
【0052】
(2) ジルコニウム、窒素及び酸素の各濃度:ジルコニウム濃度は誘導結合プラズマ発光分析装置(Thermo Fisher Scientific社製、iCAP6500Duo)を用いて測定した。窒素濃度及び酸素濃度は酸素・窒素分析装置(LECO社製、ON736)を用いて測定した。
【0053】
(3) 粉末濃度50ppmの分散液における分光曲線: 実施例1〜5と比較例1〜6の各試料について、これらの試料を循環式横型ビーズミル(メディア:ジルコニア)に各別に入れ、アミン系分散剤を添加して、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGM−AC)溶剤中での分散処理を行った。得られた11種類の分散液を10万倍に希釈し粉末濃度を50ppmに調整した。この希釈した分散液における各試料の光透過率を日立ハイテクフィールディング((株)(UH−4150)を用い、波長240nmから1300nmの範囲で測定し、i線(365nm)近傍の波長370nmと、波長550nmにおける各光透過率(%)を求めた。
図1には、実施例1と比較例1、2の3つの分光曲線を示す。
【0054】
(4) 370nmの光透過率X及び550nmの光透過率Y: 実施例1〜5と比較例1〜6の各試料の分光曲線から、それぞれの光透過率X及びYを読み取った。
【0055】
(5) X/Y: 実施例1〜5と比較例1〜6の各試料の分光曲線から読み取られた光透過率Xと光透過率YよりX/Yを算出した。
【0056】
(6) X線回折プロファイル:実施例1〜5と比較例1〜6の試料について、X線回折装置(リガク社製、型番MiniflexII)により、CuKα線を用いて印加電圧45kV,印加電流40mAの条件にて、θ−2θ法でX線回折プロファイルからX線回折分析を行った。そのX線回折プロファイルから、窒化ジルコニウムのピーク(2θ=33.95°、39.3°)、二酸化ジルコニウムのピーク(2θ=30.2°)、低次酸化ジルコニウムのピーク、低次酸窒化ジルコニウムのピーク(2θ=30.5°、35.3°)及びジルコニウムメタルのピーク(2θ=35.6°)の有無を調べた。
【0057】
【表2】
【0058】
【表3】
【0059】
表2から明らかなように、比較例1及び比較例2の試料は分光透過曲線における370nmの透過率がそれぞれ24.1%、8.7%であって、550nmの透過率がそれぞれ20.8%、10.0%であった。これに対して、実施例1の試料の分光透過曲線における370nmの透過率は26.0%と比較例1、2より高く、また550nmの透過率が7.3%と比較例1、2より低かった。また370nmの光透過率Xに対する550nmの光透過率Yの比(X/Y)に関して、表2から明らかなように、比較例1、2、5、6は、本発明の要件を満たさないため、いずれも1.4未満であった。比較例3、4は1.4以上ではあるが550nmの光透過率が12%以上と高かった。これに対して実施例1〜5は本発明の要件を満たしており、370nmの光透過率Xに対する550nmの光透過率Yの比(X/Y)はすべて1.4以上であった。以上のことから、実施例1〜5の試料は、可視光の遮光性能が高いことに加え、紫外線を透過するためパターニングに有利であることが判った。
【0060】
表3から明らかなように、比較例1、3、4及び5の試料は、X線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピーク(2θ=33.95°、39.3°)のみならず、低次酸窒化ジルコニウムのピーク(2θ=30.5°、35.3°)を有した。比較例5の試料は更に酸化ジルコニウムのピークも認められた。比較例6の試料はジルコニウムメタルのピーク(2θ=35.6°)が認められた。これに対して実施例1〜5及び比較例2の試料は、X線回折プロファイルにおいて、窒化ジルコニウムのピークを有する一方、二酸化ジルコニウムのピークも低次酸化ジルコニウムのピークも低次酸窒化ジルコニウムのピークも有しなかった。
【0061】
<比較試験と評価その2>
実施例1〜5、比較例1〜6で得られた試料を光透過率の測定に用いた分散液にアクリル樹脂を、質量比で黒色顔料:樹脂=6:4となる割合で添加し混合して黒色感光性組成物を調製した。この組成物をガラス基板上に焼成後の膜厚が1μmになるようにスピンコートし、250℃の温度で60分間焼成して被膜を形成した。この被膜の紫外線(中心波長370nm)および可視光(中心波長560nm)のOD値を前述した式(2)に基づき、マクベス社製の品名D200の濃度計(densitometer)を用いて、測定した。その結果を表3に示す。表3において、紫外線の透過性を示す尺度として、紫外線(UV)の370nmのOD値が
2.5以下を「優」とし、
2.5を超え
3.0以下を「良」とし、
3.0を超える場合を「不良」とした。また可視光の遮光性を示す尺度として、可視光の560nmのOD値が
4.0を超える場合を「優」とし、
3.2以上
4.0以下を「良」とし、
3.2未満を「不良」とした。
【0062】
表3から明らかなように、紫外線の透過性及び可視光の遮光性を示す尺度としてのOD値に関して、比較例1の試料は二酸化ジルコニウムの還元が不十分のため、可視光の560nmOD値が低く「不良」であった。また比較例2のチタンブラック試料は紫外線透過性能が十分でないため、UVの370nmOD値が高く「不良」であった。
【0063】
また比較例3
及び4の試料は窒化度が不十分であったため、可視光の560nmOD値が低く「不良」であった。また比較例5の試料は酸化ジルコニウムが含まれていたため、可視光の560nmOD値が低く「不良」であった。比較例6では金属ジルコニウムが含まれていたためUVの370nmOD値が高く、また560nmOD値が低く「不良」であった。
【0064】
これに対して、実施例1〜5の試料は、本発明の要件を満たしているため、紫外線(UV)の370nmOD値は、「優」又は「良」であり、また可視光の560nmのOD値も「優」又は「良」であった。このことから、実施例1〜5の試料は、可視光の遮光性能が高いことに加え、紫外線を透過するためパターニングに有利であることが判った。