(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
都市ガス、水道用のパイプラインや各種埋設配管の役割はその重要度を増してきている。これらの配管材として、ポリエチレン被覆鋼管が用いられる。ポリエチレン被覆鋼管は、鋼管の外表面にポリエチレン樹脂を被覆して、耐食性及び耐薬品性等の耐久性を向上した鋼管である。ポリエチレン被覆鋼管はたとえば、JIS G3469(2010)に定義されている。
【0003】
ポリエチレン被覆鋼管の内表面は、塗膜が形成されない場合と、塗膜が形成される場合とがある。塗膜が形成されなければ、鋼管製造後、現地で接合するまでの保管期間等に鋼管内表面からさびが発生しやすい。また、発生したさびが鋼管の接合後に剥離すると、鋼管内に拡散し、固化する可能性がある。即ち、鋼管の接合後においてさびの除去が必要になる場合がある。このため、多くの場合、ポリエチレン被覆鋼管の内表面上には、耐食性の向上を目的として塗膜が形成される。塗膜は、ポリエチレン被覆鋼管の内表面にブラスト処理が施された後に形成される場合が多い。ブラスト処理により、活性な表面を露出させるとともにアンカー効果が発揮され、塗膜の密着性が高まるためである。
【0004】
ポリエチレン被覆鋼管の内表面に形成される塗膜は、従来エポキシ樹脂塗膜が広く用いられてきた。エポキシ樹脂塗膜は、腐食の原因となる水分及び酸素と、ポリエチレン被覆鋼管の内表面(原管の内表面)との接触を物理的に遮断し、高い耐食性を与える。
【0005】
一般的には、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管に対して、原管の内表面にアンカー効果を目的としたブラスト処理を施した後、エポキシ樹脂塗料組成物が塗装される。エポキシ樹脂塗料組成物を硬化させることにより上述のエポキシ樹脂塗膜が得られる。これにより、内表面にエポキシ樹脂塗膜が形成されたガス導管用ポリエチレン被覆鋼管において高い耐食性が得られる。
【0006】
ところで、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の接合には、一般に溶接が用いられる。溶接は、燃焼防止のためガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の外表面のポリエチレンを一部剥離させて、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の外部から行う。一方、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の内表面の塗膜ははがすことが困難なため、通常は内表面の塗膜を残した状態で溶接を行なう。
【0007】
ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の内表面の塗膜は、溶接時に燃焼及び熱分解しにくいことが好ましい。しかしながら、ポリエチレン被覆鋼管の内表面にたとえば、従来広く用いられたエポキシ樹脂塗膜が形成された場合、溶接時にエポキシ樹脂塗膜中のエポキシ樹脂等の有機成分が燃焼することで、熱分解ガス及び熱分解物を発生し、溶接作業者の健康に悪影響を与える可能性がある。さらに、エポキシ樹脂等の熱分解物は、ガス導管内にも拡散し、その内部で固化する可能性がある。
【0008】
以上の理由から、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の内表面に適した塗膜が検討されている。例えば、特許文献1〜3は、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の内表面にエポキシ樹脂とは異なる塗膜を形成する。
【0009】
特開2013−173340号公報(特許文献1)に記載されたポリエチレン被覆鋼管は、外面にポリエチレン樹脂の被覆層を有するポリエチレン被覆鋼管であって、該ポリエチレン被覆鋼管は内面に塗装膜を有し、該塗装膜が、塗料固形分中100重量部に対し、アルキルシリケートを80重量部以上95重量部以下含有する塗料の硬化塗膜であることを特徴とする。これにより、溶接時に内面塗装の部分から発生する、フィルターや弁などの詰まりなどの原因となる熱分解生成物の発生量を減少させることができる、と特許文献1に記載されている。
【0010】
特開2015−168117号公報(特許文献2)に記載されたポリエチレン被覆鋼管は、外面にポリエチレン樹脂からなる被覆層を有するポリエチレン被覆鋼管であって、亜鉛末を40〜70質量%、モリブデン酸化合物を1〜10質量%、溶剤膠漆シリカを10〜20質量%、およびアルキルシリケートを10〜40質量%含有する塗膜を内面に有する。これにより、外面に入熱量が高い溶接等を施しても、内面から発生するミスト等の生成量が極めて少ないポリエチレン被覆鋼管が提供できる、と特許文献2に記載されている。
【0011】
特開2016−175315号公報(特許文献3)に記載されたガス用塗覆装鋼管は、塗料固形分としてアルキルシリケート及び/又は変性アルキルシリケートを5〜50質量%、コロダイルシリカを3〜40質量%、亜鉛末を30〜70質量%含む塗料の硬化塗膜を内面に有する。これにより、内面塗装膜を除去しなくても良好に溶接でき、溶接熱によるミスト発生を抑制でき、かつ、良好な耐食性を有するガス用塗覆装鋼管が得られる、と特許文献3に記載されている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して、本実施形態を詳しく説明する。図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0022】
本発明者らは、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管について種々検討を行った。その結果、以下の知見を得た。
【0023】
本発明者らは、初めに、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の耐食性について検討した。従来の多くのガス導管用ポリエチレン被覆鋼管では、内表面にエポキシ樹脂塗膜が形成されていた。これにより、配管が完了した後においても、高い耐食性が得られた。
【0024】
しかしながら、近年のガスの品質改善により、ガスの水分含有量は低減され、さらに、ガスが還元性に改質されている。つまり、配管が完了した後の使用環境では、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の内面に要求される耐食性の程度が、たとえば水道用ポリエチレン被覆鋼管と比較して低い。一方で、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の内面に対して耐食性が要求されないわけではない。製造後から輸送、保管を経て配管が完了するまでの間に赤錆等の明確な腐食が生じない程度に耐食性が要求される。
【0025】
このような耐食性を得る上で、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の原管の内表面上に亜鉛末を含む塗膜を形成することで、亜鉛の犠牲防食の効果が得られる。これにより、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の内面の耐食性が高まる。
【0026】
本発明者らは次に、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の溶接時の熱分解物の抑制効果について検討した。ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の接合方法は、溶接が一般的である。したがって、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の原管の内表面上に形成される塗膜は、溶接時に燃焼及び熱分解しにくいことが好ましい。アルキルシリケート縮合物は、空気中の水分によって加水分解縮合し、塗膜を形成する。この塗膜は、シロキサン系結合剤を有する。シロキサン系結合剤を有する塗膜は、従来のエポキシ樹脂塗膜と比較して、溶接時に燃焼及び熱分解しにくい。そのため、ポリエチレン被覆鋼管の内表面に形成する塗膜を、シロキサン系結合剤を含有する塗膜とすれば、熱分解物の抑制効果が高まる。そこで、シロキサン系結合剤及び亜鉛末を含有する塗膜を、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の内表面上に形成する。本明細書において、シロキサン系結合剤とは、シロキサン結合(Si−O)を有する化合物であり、具体的には、アルキルシリケート縮合物が加水分解縮合することで得られる化合物が挙げられる。上述の塗膜は、溶接による熱分解物を発生する有機成分を実質的に含有しないことが好ましい。ここで、実質的に含有しないとは、たとえば3質量%以下をいう。
【0027】
本発明者らはさらに、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管のガスの輸送効率について検討した。その結果、従来のように、アンカー効果を得るためにブラスト処理してブラスト面を形成し、その上に塗膜を形成した場合、ガスの輸送効率が低下する可能性があることが分かった。そこで、この原因について調査した結果、本発明者らは、次の知見を得た。
【0028】
アンカー効果を目的としたブラスト処理により形成されたブラスト面は、表面粗さが大きい。原管の内表面にアンカー効果を目的としてブラスト処理すれば、原管の内表面の粗さが大きくなる。原管の内表面の粗さが大きければ、その上に形成された塗膜の表面粗さが大きくなる。塗膜の表面粗さが大きければ、管壁の粗さが大きくなる。管壁の粗さが大きく、管壁の表面積が大きければ、ガスの圧力損失が大きくなる。その結果、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の内部を流れるガスの圧力損失が大きくなり、ガスの輸送効率が低下する。
【0029】
そこで、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の塗膜形成前の内表面の粗さを小さくする。これにより、その上に形成した塗膜の表面粗さが平滑化し、ガスの輸送効率が高まる。
【0030】
しかしながら、ガスの輸送効率を高めるため、従来と異なり、原管の内表面の粗さを抑える場合、アンカー効果が得にくくなる為、原管の内表面に対する塗膜の密着性が低下してしまう。そこで、塗膜の密着性を高めるための被膜を、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の原管の内表面と塗膜との間にさらに形成する。具体的には、化成処理によってリン酸塩被膜を形成して、リン酸塩被膜上に塗膜を形成する。これにより、塗膜の密着性を高める。また、リン酸塩被膜は、有機物の被膜と比較して熱分解物の抑制効果が高い。これにより、塗膜の密着性を高めるとともに、熱分解物の抑制効果を高める。
【0031】
ここで、リン酸塩被膜上に塗膜を形成しても、依然としてブラスト面上に従来のエポキシ樹脂塗膜を形成する場合よりも耐食性が低い可能性がある。しかしながら、水道用ポリエチレン被覆鋼管の場合は、配管完了後、使用中継続して高い耐食性が要求されるのに対して、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の場合は、配管が完了して、水分含有量の低いガスが流れれば、高い耐食性は要求されない。したがって、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の場合、リン酸塩被膜上に塗膜を形成すれば、要求された耐食性が十分に確保できる。さらに、塗膜の下にリン酸塩被膜を形成することによって、アンカー効果を目的としたブラスト処理を省略でき、内表面の粗さを小さくできる。これにより、ガス導管用として重要な、ガスの輸送効率を高めることができることが分かった。
【0032】
また、化成処理によってリン酸塩被膜を形成すればさらに、原管の表面の腐食を抑制できる。そのため、ブラスト処理と異なり、化成処理後に次の表面処理又は塗膜の形成を行うまでの時間的な制限が軽減される。その結果、生産効率を高めることができる。
【0033】
以上の知見に基づいて完成した本実施形態のガス導管用ポリエチレン被覆鋼管は、原管と、リン酸塩被膜と、塗膜と、ポリエチレン樹脂被膜とを備える。リン酸塩被膜は、原管の内表面上に配置される。塗膜は、リン酸塩被膜上に配置される。塗膜は、シロキサン系結合剤及び亜鉛末を含有する。塗膜の表面粗さRzは30.0μm未満である。ポリエチレン樹脂被膜は、原管の外表面上に配置される。
【0034】
本実施形態のガス導管用ポリエチレン被覆鋼管は、ガス輸送に適した耐食性を有し、溶接時の熱分解物の発生が抑制され、さらに、ガスの輸送効率に優れる。
【0035】
好ましくは、上記原管の内表面はブラスト面でない。
【0036】
好ましくは、上記亜鉛末は、鱗片状亜鉛末を含有する。この場合、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の耐食性がさらに高まる。
【0037】
好ましくは、リン酸塩被膜は、リン酸亜鉛カルシウム被膜である。
【0038】
好ましくは、塗膜の厚さは25μm以下である。この場合、溶接による熱分解物の発生をさらに抑制できる。
【0039】
本実施形態のガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の製造方法は、準備工程と、化成処理工程と、塗料組成物塗装工程と、塗料組成物硬化工程と、ポリエチレン被覆工程とを備える。準備工程では、原管を準備する。化成処理工程では、原管の内表面を化成処理して、原管の内表面上にリン酸塩被膜を形成する。塗料組成物塗装工程では、リン酸塩被膜上に、アルキルシリケート縮合物及び亜鉛末を含有する塗料組成物を塗装する。塗料組成物硬化工程では、塗装した塗料組成物を硬化させる。ポリエチレン被覆工程では、原管の外表面上に、ポリエチレン樹脂を含む被膜を形成する。
【0040】
本実施形態のガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の製造方法は、製造時の作業内容の制約が少ない。そのため、生産効率に優れる。
【0041】
好ましくは、上記製造方法において、原管の内表面にブラスト処理は実施しない。この場合、生産効率がさらに高まる。
【0042】
以下に、本実施形態のガス導管用ポリエチレン被覆鋼管について詳述する。
【0043】
[ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管]
図1は、本実施形態のガス導管用ポリエチレン被覆鋼管の一例の断面図である。
図1を参照して、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管100は、原管1と、ポリエチレン樹脂被膜10と、リン酸塩被膜11と、塗膜12とを備える。原管1は、外表面2及び内表面3を有する。ポリエチレン樹脂被膜10は、原管1の外表面2上に配置される。リン酸塩被膜11は、原管1の内表面3上に配置される。塗膜12は、リン酸塩被膜11上に配置される。
【0044】
原管1は、周知の鋼管を用いることができる。鋼管はたとえば、炭素鋼、合金鋼又はステンレス鋼からなる群から選択される1種からなる鋼管である。鋼管はたとえば、JIS G3452(2014)及びJIS G3454(2012)等に規定されている鋼管である。
【0045】
本明細書において、ブラスト面とは、ブラスト処理された表面をいう。ブラスト処理後にたとえば、脱脂、酸洗、洗浄等の処理を行った表面もブラスト面に含む。原管1の内表面3はブラスト面であってもよい。たとえば、製管条件の都合で原管1の内表面3にスケールが厚く形成されてしまう場合等には、ブラスト処理が行われる場合もある。しかしながら、好ましくは、原管1の内表面3はブラスト面でない。つまり、好ましくは、原管1の内表面3は、ブラスト処理されていない内表面3である。この場合、原管1の内表面3の粗さを安定的に小さくできる。
【0046】
[リン酸塩被膜]
リン酸塩被膜11は、原管1の内表面3上に配置される。リン酸塩被膜11は、周知のリン酸塩被膜である。リン酸塩被膜11はたとえば、リン酸亜鉛、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸鉄及びリン酸マンガンからなる群から選択される1種又は2種以上を含む。好ましくは、リン酸塩被膜11は、リン酸亜鉛カルシウム被膜である。リン酸亜鉛カルシウム被膜は、ショルツァイト(CaZn
2(PO
4)
2・2H
2O)、ホパイト(Zn
3(PO
4)
2・4H
2O)及びフォスフォフィライト(Zn
2Fe(PO
4)
2・4H
2O)の複合体である。リン酸塩被膜11には不純物が含有される場合がある。ここで、不純物とは、リン酸塩以外の物質で、ガス交換用ポリエチレン被覆鋼管100の製造中にリン酸塩被膜11に含有され、本発明の効果に影響を与えない範囲の含有量で含まれる物質を含む。
【0047】
[リン酸塩被膜の同定方法]
たとえば、リン酸塩被膜11は、次の方法で同定する。ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管100を軸方向に垂直に切断する。切断により露出したリン酸塩被膜11の断面に対してX線回折測定を行う。X線回折測定及びリン酸塩被膜11の同定は、JIS K3151(1996)に準拠した方法で行う。
【0048】
リン酸塩被膜11の被膜重量の下限は特に制限されない。しかしながら、リン酸塩被膜11の被膜重量が3g/m
2以上であれば、塗膜12の密着性が安定的に高まる。したがって、好ましいリン酸塩被膜11の被膜重量の下限は3g/m
2である。リン酸塩被膜11の被膜重量の上限は特に制限されない。しかしながら、リン酸塩被膜11の被膜重量が6g/m
2を超えると、かえって塗膜12の密着性が損なわれることがある。したがって、好ましいリン酸塩被膜11の被膜重量の上限は6g/m
2である、さらに好ましくは、5g/m
2である。
【0049】
[リン酸塩被膜の被膜重量の測定方法]
たとえば、リン酸塩被膜11の被膜重量は次の方法で測定する。初めに、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管100を切断して原管1の内表面3を含む試験片(幅2cm×長さ5cm)を準備する。試験片を75±2℃の50g/Lの三酸化クロム水溶液に浸漬する。これにより、リン酸塩被膜11を溶解する。溶解前後の試験片の重量を測定する。溶解前後の試験片の重量が変わらなくなるまで溶解を繰り返す。次に、原管1の内表面3から剥離した塗膜12を回収する。塗膜12の重量を測定する。溶解前の試験片の重量から、溶解後の試験片の重量及び測定した塗膜12の重量を差し引く。これにより、リン酸塩被膜11の重量を算出する。得られたリン酸塩被膜11の重量を、試験片の内表面3に相当する面積で除する。得られた値を、リン酸塩被膜11の被膜重量(g/m
2)とする。なお、塗膜形成前の鋼管を入手可能な場合は、その鋼管でリン酸塩被膜の重量を測定すればよい。
【0050】
[塗膜]
塗膜12は、リン酸塩被膜11上に配置される。塗膜12は、シロキサン系結合剤及び亜鉛末を含有する。シロキサン系結合剤とは、シロキサン結合を有する化合物であり、具体的には、アルキルシリケート縮合物が加水分解縮合することで得られる化合物が挙げられる。塗膜12は、シロキサン系結合剤を含有するため、溶接時の熱分解物の抑制効果に優れる。また、塗膜12が亜鉛末を含有すれば、犠牲防食によりガス導管用ポリエチレン被覆鋼管100の耐食性が高まる。塗膜12中の亜鉛末の含有量は、好ましくは30〜90質量%、より好ましくは40〜80質量%である。
【0051】
[亜鉛末]
亜鉛末は、金属亜鉛の粉末、又は、亜鉛を主成分とする合金(例:亜鉛とアルミニウム、マグネシウムおよび錫から選択される少なくとも1種との合金)の粉末である。
【0052】
[亜鉛末の形状]
亜鉛末の形状はどのような形状であってもよく、制限されない。亜鉛末の形状はたとえば、球状や鱗片状等である。亜鉛末は、鱗片状の亜鉛末(鱗片状亜鉛末)を含有することが好ましい。鱗片状亜鉛末とは、平均長さと平均厚さとの比で示されるアスペクト比(平均長さ/平均厚さ)が、10〜150の亜鉛末をいう。亜鉛末のアスペクト比は、好ましくは20〜100である。鱗片状亜鉛末は、球状の亜鉛末(球状亜鉛末)と比較して比表面積が大きいため、犠牲防食の効果が高い。さらに、鱗片状亜鉛末を含有する塗膜12は、亜鉛末同士の接触を密に保つことができる。そのため、塗膜12を薄膜化し易く、また、犠牲防食の効果を得られ易い。また、鱗片状亜鉛末を含有する塗膜12は、水及び酸素の遮蔽効果を得られ易い。つまり、亜鉛末が鱗片状亜鉛末を含有すれば、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管100の耐食性がさらに高まる。亜鉛末が鱗片状亜鉛末を含有する場合、鱗片状亜鉛末は、亜鉛末の含有量の合計100質量%に対して、15〜90質量%であることが好ましく、15〜70質量%であることがより好ましい。亜鉛末は、球状亜鉛末を含まなくてもよい。
【0053】
[その他の成分]
塗膜12は、シロキサン系結合剤及び亜鉛末以外のその他の成分を、本発明の目的・効果を損なわない範囲で適宜含有してもよい。その他の成分とは、たとえば、導電性顔料、防錆顔料(亜鉛末を除く)、モリブデン化合物及び沈降防止剤等が挙げられる。導電性顔料はたとえば、酸化亜鉛及び炭素粉末からなる群から選択される1種又は2種である。防錆顔料はたとえば、リン酸亜鉛アルミニウム化合物、亜リン酸亜鉛カルシウム化合物、亜リン酸亜鉛ストロンチウム化合物、トリポリリン酸アルミニウム化合物及びシアナミド亜鉛系化合物からなる群から選択される1種又は2種以上である。モリブデン化合物はたとえば、金属モリブデン、モリブデン酸化物及びモリブデン酸の金属塩からなる群から選択される1種又は2種以上である。沈降防止剤はたとえば、有機ベントナイト系沈降防止剤、酸化ポリエチレン系沈降防止剤、ヒュームドシリカ系沈降防止剤及びアマイド系沈降防止剤からなる群から選択される1種又は2種以上である。
【0054】
[塗膜の同定方法]
[シロキサン結合の同定]
たとえば、塗膜12中のシロキサン結合は次の方法で同定する。塗膜12に対して、赤外分光を測定する。測定には、株式会社島津製作所製、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)IRTracer−100(商品名)を用いる。測定チャートから、Si−O−Si骨格振動に由来する、1010〜1090cm
−1のピークを同定する。これにより、シロキサン結合を有する化合物が含まれていることを同定する。
【0055】
[亜鉛末の同定]
たとえば、塗膜12中の亜鉛末は次の方法で同定する。塗膜12を含むガス導管用ポリエチレン被覆鋼管100の一部を切断し、試験片とする。試験片の塗膜12の表面又は断面に対して、株式会社日立ハイテクノロジーズ製走査型電子顕微鏡(SEM)(TM−3000)を用いて表面観察を行う。その後、株式会社日立ハイテクノロジーズ製エネルギー分散型X線分光法(EDX)(Quantax70)により元素分析を行い、亜鉛を含有する粒子が塗膜12に含まれていることを同定する。また、元素分析の結果から、Si、O、C、H及びZnに対するZnの含有量を算出する。得られたZn含有量を質量%に換算して、塗膜12中の亜鉛末の含有量(質量%)とする。
【0056】
[鱗片状亜鉛末のアスペクト比の測定方法]
たとえば、鱗片状亜鉛末のアスペクト比は次の方法で求める。鱗片状亜鉛末を、株式会社日立ハイテクノロジーズ製走査型電子顕微鏡(SEM)(TM−3000)を用いて観察する。観察倍率は、鱗片状亜鉛末の平均長さに応じた倍率を選択する。50個の鱗片状亜鉛末を観察する。1個の鱗片状亜鉛末において、外周が囲う面積が最大の面を主面とし、主面に対して垂直方向から観察した最大径を測定する。50個の鱗片状亜鉛末の最大径の平均値を平均長さとする。また、主面に対して水平方向から観察した場合の、外周上の2点を結び重心を通る最短の距離を厚さとする。50個の鱗片状亜鉛末の厚さの平均値を平均厚さとする。鱗片状亜鉛末の平均長さと平均厚さとからアスペクト比(平均長さ/平均厚さ)を求める。なお、塗料組成物を入手可能な場合は、塗料組成物から亜鉛末を分離して鱗片状亜鉛末のアスペクト比を測定する。
【0057】
[塗膜の厚さ(乾燥膜厚)]
塗膜12の厚さは25μm以下である。塗膜12は、従来のエポキシ樹脂塗膜等と比較して、溶接時に発生する熱分解物の発生が少ない。加えて、塗膜12が薄ければ、溶接による熱分解物の発生をさらに抑制できる。したがって、塗膜12は薄いことが好ましい。好ましくは、塗膜12の厚さは20μm以下であり、さらに好ましくは15μm以下である。特に、塗膜12が鱗片状亜鉛末を含有する場合、塗膜12の厚さ(乾燥膜厚)が10μm以下であっても、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管100の耐食性を安定的に高めることができる。塗膜12の厚さの下限は耐食性が確保される程度であればよい。塗膜12の厚さの下限はたとえば、5μmである。
【0058】
[塗膜の厚さの測定方法]
たとえば、塗膜12の厚さ(乾燥膜厚)は次の方法で測定する。塗膜12表面に対して、渦電流位相式膜厚計を用いて測定を行う。膜厚計は、株式会社フィッシャー・インストルメンツ製PHASCOPE(商標)PMP10を用いる。測定は、鋼管の内周に対して90°ピッチで4箇所行う。また測定値のばらつきが大きかったり、厚さとして薄目の値(例えば10μm以下)が得られる場合は、塗膜12の断面を顕微鏡観察して測定してもよい。
【0059】
[塗膜の表面粗さ]
塗膜12の表面粗さRzは、30.0μm未満である。塗膜12の表面粗さを小さくするには、製造工程において、リン酸塩被膜11の表面粗さを小さくすればよい。後述の製造方法で説明するとおり、リン酸塩被膜11の表面粗さは小さい。そのため、リン酸塩被膜11上に塗膜12を塗装した後の表面粗さも小さくなる。つまり、塗膜12の表面粗さが小さくなる。これにより、ガスの圧力損失が小さくなり、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管100のガスの輸送効率が高まる。塗膜12の表面粗さは、小さい程好ましい。したがって、好ましい塗膜12の表面粗さRzの上限は、25μmであり、さらに好ましくは、20μmである。塗膜12の表面粗さRzの下限は特に限定されない。塗膜12の表面粗さRzの下限はたとえば、1μmである。
【0060】
[塗膜の表面粗さの測定方法]
たとえば、塗膜12の表面粗さは、次の方法で測定する。塗膜12表面に対して、JIS B0601(2013)に準拠した方法で最大高さ粗さRzを測定する。測定機器は、表面粗さ形状測定器ハンディーサーフE−35A(株式会社東京精密製)を用いる。カットオフ値は2.5mm、評価長さは12.5mm、測定レンジは80μmとする。測定は鋼管の内周に対して90°ピッチで4カ所行う。各々の測定は鋼管の軸方向に沿って行う。4カ所の測定結果の平均値を、塗膜12の表面粗さRzとする。
【0061】
[ポリエチレン樹脂被膜]
ポリエチレン樹脂被膜10は、原管1の外表面2上に配置される。たとえば、ポリエチレン樹脂被膜10は、原管1の外表面2上に直接配置されてもよいし、たとえば、原管1の外表面2にリン酸塩処理等の化成処理を行って化成処理被膜を形成し、この化成処理被膜上に形成されてもよい。ポリエチレン樹脂被膜10は、周知のポリエチレン樹脂被膜である。ポリエチレン樹脂被膜10は、エチレンを主体とした重合体の他に、滑剤、酸化防止剤及び顔料等を含有してもよい。ポリエチレン樹脂被膜10はたとえば、JIS G3469(2010)に記載されたポリエチレン樹脂被膜である。ポリエチレン樹脂被膜10の厚さの下限はたとえば0.4mmである。ポリエチレン樹脂被膜10の厚さの上限はたとえば5.0mmである。
【0062】
[製造方法]
本実施形態のガス導管用ポリエチレン被覆鋼管100の製造方法は、準備工程と、化成処理工程と、塗料組成物塗装工程と、塗料組成物硬化工程と、ポリエチレン被覆工程とを備える。
【0063】
[準備工程]
準備工程では、原管1を準備する。原管1の内表面3にスケールが過度に厚く形成されている恐れがある場合等は、準備工程において、内表面3にスケールの除去を目的としたブラスト処理を行ってもよい。準備工程では、内表面3及び/又は外表面2に対して酸洗、脱脂及び洗浄等の処理をしてもよい。
【0064】
[化成処理工程]
化成処理工程では、原管1の内表面3を化成処理して、原管1の内表面3上にリン酸塩被膜11を形成する。このとき、原管1の内表面3だけでなく同時に原管1の外表面2に化成処理をしてもよい(その場合は、原管1の外表面2上にもリン酸塩被膜が形成される)。化成処理は市販の化成処理液等を用いて周知の方法で実施する。化成処理後に水洗等を実施してもよい。
【0065】
[化成処理工程後の表面粗さ(リン酸塩被膜の表面粗さ)]
化成処理工程後において、リン酸塩被膜11の表面粗さRzは30μm未満であることが好ましい。リン酸塩被膜11の表面4の粗さが小さければ、リン酸塩被膜11の上に形成される塗膜12の表面粗さが小さくなる。そのため、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管100の内部の管壁の粗さが小さくなる。その結果、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管100の内部を流れるガスの圧力損失が小さくなり、ガスの輸送効率が高まる。リン酸塩被膜11の表面粗さRzは小さい程好ましい。したがって、好ましくは、リン酸塩被膜11の表面粗さRzは25μm以下であり、さらに好ましくは20μm以下である。リン酸塩被膜11の表面粗さRzの下限は特に限定されないが、たとえば1μmである。本明細書において、リン酸塩被膜11の表面粗さとは、リン酸塩被膜11を形成した後の鋼管の内表面の粗さである。
【0066】
[リン酸塩被膜の表面粗さRzの測定方法]
たとえば、リン酸塩被膜11の表面粗さRzは、次の方法で測定する。まず、リン酸塩被膜11の表面を含む試験片を準備する。次にこの試験片のリン酸塩被膜11の表面に対して、JIS B0601(2013)に準拠した方法で最大高さ粗さRzを測定する。測定機器は、表面粗さ形状測定器ハンディーサーフE−35A(株式会社東京精密製)を用いる。カットオフ値は2.5mm、評価長さは12.5mm、測定レンジは80μmとする。測定は鋼管の内周に対して90°ピッチで4カ所行う。各々の測定は鋼管の軸方向に沿って行う。4カ所の測定結果の平均値を、リン酸塩被膜11の表面粗さRzとする。
【0067】
本実施形態の製造方法では、アンカー効果を目的としたブラスト処理の代わりにリン酸塩被膜11を形成して、塗膜12の密着性を高める。そのため、リン酸塩被膜11の表面粗さは小さい。
【0068】
さらに、ブラスト処理の場合は、ブラスト処理の直後から原管1の内表面3の腐食が進む。そのため、ブラスト処理後、数時間以内に次の表面処理を行う必要があった。一方で、本実施形態の製造方法では、化成処理によりリン酸塩被膜11を形成する。そのため、原管1の内表面3の耐食性が高まる。化成処理後は数日以内に次の表面処理を行えばよい。これにより、化成処理の場合は、ブラスト処理の場合と比較して、製造時の作業内容の制約が軽減する。その結果、生産効率が高まる。
【0069】
好ましくは、本実施形態の製造方法において、化成処理工程の前に、原管1の内表面3にブラスト処理は実施しない。ブラスト処理は、アンカー効果の付与を目的としたブラスト処理であっても、スケールの除去を目的としたブラスト処理であっても、実施しないことが好ましい。これにより、原管1の内表面3の粗さを安定的に小さくできる。本実施形態の製造方法において、原管1の内表面3に対しては、一切ブラスト処理が行われないことが好ましい。この場合、生産効率がさらに高まる。
【0070】
[塗料組成物塗装工程]
塗料組成物塗装工程では、リン酸塩被膜11上に塗料組成物を塗装する。初めに、塗料組成物を準備する。塗料組成物は、アルキルシリケート縮合物及び亜鉛末を含有する。
【0071】
アルキルシリケート縮合物とは、アルキルシリケートが部分的に加水分解縮合して生成した物質の総称である。たとえば、アルキルシリケート縮合物は、アルキルシリケートと塩酸等の酸と、水とを混合することで得られる。アルキルシリケートとはたとえば、テトラメチルオルトシリケート、テトラエチルオルトシリケート、テトラ−n−プロピルオルトシリケート、テトラ−i−プロピルオルトシリケート、テトラ−n−ブチルオルトシリケート、テトラ−sec−ブチルオルトシリケート、メチルポリシリケート及びエチルポリシリケートからなる群から選択される1種又は2種以上である。
【0072】
亜鉛末は、上述の亜鉛末を制限なく使用できる。また、亜鉛末は市販のものを使用できる。鱗片状亜鉛末はたとえば、ECKART GmbH社製、STANDART(商標) Zinc flake AT、STANDART(商標) Zinc flake GTT、STANDART(商標) Zinc flake TV、STANDART(商標) Zinc flake G、STAPA(商標) 4 ZnAl7、及び、STAPA(商標) 4 ZnSn30等が挙げられる。球状亜鉛末はたとえば、本荘ケミカル株式会社製、F−2000(商品名)等が挙げられる。塗料組成物中の亜鉛末の含有量は、塗料組成物の硬化後に塗膜中に所望の亜鉛末の含有量が得られるように適宜調整すればよい。塗料組成物中の亜鉛末の含有量はたとえば、塗料組成物100質量部に対して、10〜90質量部である。
【0073】
塗料組成物は、アルキルシリケート縮合物及び亜鉛末に加え、その他の成分を含有してもよい。その他の成分とはたとえば、上述の塗膜12に含有されるその他の成分である。塗料組成物はさらに、有機溶剤を含有してもよい。有機溶剤はたとえば、アルコール系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、芳香族系溶剤及びグリコール系溶剤からなる群から選択される1種又は2種以上である。
【0074】
アルキルシリケート縮合物と亜鉛末とを混合して塗料組成物を得る。次に、得られた塗料組成物を、リン酸塩被膜11上に塗装する。塗装の方法は適宜設定できる。塗装の方法はたとえばスプレー、刷毛塗り等が挙げられる。スプレー塗装の場合、先端に噴射口の付いた棒を、鋼管の内部に装入する。そして、噴射口から塗料組成物を鋼管内部に噴射する。この時、鋼管又は噴射口のついた棒を回転させながら噴射するのが好ましい。鋼管及び噴射口の付いた棒を逆方向に回転させてもよい。鋼管又は噴射口のついた棒の回転数、塗料組成物の噴射量は、塗膜12の厚さ(乾燥膜厚)に応じて適宜調整できる。
【0075】
[塗料組成物硬化工程]
塗料組成物硬化工程では、塗装した塗料組成物を乾燥させることにより、硬化させる。乾燥は、大気雰囲気中で塗装した塗料組成物を保持することによって行う。塗料組成物中の有機溶剤等の蒸発、及び、アルキルシリケート縮合物がさらに加水分解縮合することにより、塗料組成物が硬化する。乾燥温度は、通常5〜40℃、好ましくは10〜30℃であり、乾燥時間はたとえば、5時間以下である。これにより、塗膜12が得られる。
【0076】
[ポリエチレン被覆工程]
ポリエチレン被覆工程では、原管1の外表面2上にポリエチレン樹脂被膜10を形成する。ポリエチレン樹脂被膜10の形成は、周知の方法で実施できる。たとえば、原管1の外表面2を予熱し、接着剤又は粘着剤を塗布する。続いて、押出し機で、加熱又は溶融したポリエチレンを原管1の外表面2に被せる。必要に応じて、ポリエチレン樹脂被膜10を2層以上としても良い。
【0077】
ポリエチレン被覆工程は、原管1の外表面2上にリン酸塩被膜11を形成した後に実施されてもよい。この場合、原管1の外表面2に錆が発生しない範囲で実施する。また、原管1の外表面2上をブラスト処理後、数時間以内に実施してもよい。ポリエチレン被覆工程はたとえば、塗料組成物塗装工程の前に実施してもよい。ポリエチレン被覆工程はたとえば、塗料組成物硬化工程の後に実施してもよい。
【0078】
以上の工程により、本実施形態のガス導管用ポリエチレン被覆鋼管100が製造できる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例を説明する。
【0080】
[準備工程]
原管に相当する素材として鋼板及び鋼管を準備した(なお、本発明は、鋼管を対象とするものであるが、上述した粗さや耐食性の効果は、素材が鋼板を用いた評価試験でも理解可能であるため、実験の便宜上、一部は鋼板を用いた)。鋼板は、JIS G3101(2015)に規定される一般構造用圧延鋼材SS400であった。鋼板は70mm×150mm×2.3mmの鋼板であった。鋼管は、JIS G3452(2014)に規定される配管用炭素鋼鋼管SGPであった。鋼管は、肉厚5mm×直径165.2mmの鋼管であった。各試験番号の鋼板又は鋼管の表面又は内表面に表1に示すとおりブラスト処理又は化成処理を実施した。試験番号1では、ブラスト処理を実施した。試験番号2〜5では、ブラスト処理を行わなかった。試験番号2〜5では酸洗によりスケールを除去した後、化成処理を実施した。
【0081】
[化成処理工程]
試験番号2〜5の鋼板又は鋼管に対して化成処理を実施した。化成処理液は、市販のリン酸亜鉛カルシウム処理液(日本パーカライジング株式会社製)を使用した。鋼板又は鋼管を化成処理液に5分間浸漬した。化成処理液の条件(たとえば温度や酸度)は、メーカ推奨条件を参考にして、健全で所定の付着量が得られるよう調整した。得られたリン酸亜鉛カルシウム処理被膜は、いわゆるスケやムラのない緻密な被膜であり、被膜重量は約5g/m
2であった。なお試験番号1では、化成処理を実施しなかった。
【0082】
【表1】
【0083】
[表面粗さRzの測定]
各試験番号の鋼板又は鋼管の表面又は内表面にブラスト処理又は化成処理をした後に、表面粗さRz(鋼管に対しては内表面粗さRz)を測定した。表面粗さは、上述の塗膜の表面粗さRzの測定方法と同様に測定した。さらに、各試験番号の鋼板又は鋼管に塗膜を形成した後にも同様に表面粗さ(鋼管に対しては内表面粗さ)を測定し、塗膜の表面粗さRzを得た。結果を表1に示す。
【0084】
[塗料組成物塗装工程]
以下の手順により、アルキルシリケート縮合物のアルコール溶液と亜鉛末ペーストとをそれぞれ調製した。以下の記載において、特に言及しない限り、「部」は「質量部」を示す。
【0085】
〔調製例1〕 アルキルシリケート縮合物のアルコール溶液の調製
エチルシリケート40(コルコート株式会社製)31.5部、工業用エタノール10.4部、脱イオン水5部、および35質量%塩酸0.1部を容器に仕込み、50℃で3時間攪拌した後、イソプロピルアルコール53部を加えて、アルキルシリケート縮合物のアルコール溶液を調製した。
【0086】
〔調製例2−1〕 亜鉛末ペースト1の調製
沈降防止剤として1.3部のTIXOGEL MPZ(商品名;BYK Additives GmbH製)と、有機溶剤として6.3部のキシレン、3.1部の酢酸ブチルおよび4.1部のイソブチルアルコールとをポリエチレン製容器に仕込み、ガラスビーズを加えてペイントシェーカーにて3時間振とうした。次いで、鱗片状亜鉛末として10部のSTANDART(商標) Zinc flake GTT及び球状亜鉛末として10部のF−2000(商品名;本荘ケミカル株式会社製)を加えて、さらに5分間振とうして亜鉛末を分散させた。その後、80メッシュの網を用いてガラスビーズを除去して亜鉛末ペースト1を調製した。
【0087】
〔調製例2−2〕亜鉛末ペースト2の調製
沈降防止剤として2.1部のTIXOGEL MPZと、有機溶剤として10.6部のキシレン、5.3部の酢酸ブチル及び7.0部のイソブチルアルコールとをポリエチレン製容器に仕込み、ガラスビーズを加えてペイントシェーカーにて3時間振とうした。次いで、球状亜鉛末として34部のF−2000を加えて、さらに5分間振とうして亜鉛末を分散させた。その後、80メッシュの網を用いてガラスビーズを除去して亜鉛末ペースト2を調製した。
【0088】
100質量部のアルキルシリケート縮合物のアルコール溶液と34.8質量部の亜鉛末ペースト1とを混合することで塗料組成物1を調製した。100質量部のアルキルシリケート縮合物のアルコール溶液と59質量部の亜鉛末ペースト2とを混合することで塗料組成物2を調製した。
【0089】
試験番号1〜5の鋼板又は鋼管に、塗料組成物1又は塗料組成物2を塗装した。鋼管に対しては、上述の方法でスプレー塗装した。鋼板に対しても、同様の条件でスプレー塗装した。試験番号1については、ブラスト処理した後4時間以内に塗料組成物を塗装した。試験番号2〜5については、化成処理した3日後に塗料組成物を塗装した。
【0090】
[塗料組成物硬化工程]
各試験番号の鋼板又は鋼管を常温で7日間保持した。これにより、塗料組成物を乾燥させることにより硬化させて、塗膜を形成した。
【0091】
[塗膜の厚さ(乾燥膜厚)の測定]
各試験番号の鋼板又は鋼管に対して、上述の方法で塗膜の厚さ(乾燥膜厚)を測定した。結果を表1に示す。
【0092】
[耐食性試験]
各試験番号の鋼板及び鋼管に対して耐食性試験を実施した。耐食性は、屋外暴露試験により評価した。試験番号1及び2では、鋼板の塗膜を処理した面を、南方向に向けて45°上に傾けた状態で6か月間屋外に暴露した。その後、ASTM D610(2012)に規定する外観を評価した。試験番号3〜5では、鋼管を6か月間屋外に暴露した。その後同様に外観を評価した。結果を表1に示す。表1中、「○」であれば、ガス導管用ポリエチレン被覆鋼管として実用上問題のない耐食性を有する。なお、表1中「○」及び「×」はそれぞれ以下の基準で判断した。
○ : ASTM D610(2012)の評価基準による評価結果が8〜10である。
× : ASTM D610(2012)の評価基準による評価結果が7以下である。
【0093】
[評価結果]
表1を参照して、試験番号2〜5は、鋼板表面又は鋼管の内表面上にリン酸塩被膜を備えた。試験番号2〜5は、アンカー効果を目的としたブラスト処理を実施しなかった。そのため、塗膜の表面粗さRzが30.0μm未満となり、ガスの輸送効率に優れると言える。また、塗膜はシロキサン系結合剤を含有したため、有機物を主成分とするエポキシ樹脂塗膜等と比較して、溶接時の熱分解物の発生が抑制される。さらに、試験番号2〜5では、塗膜を備えたため、屋外暴露試験後に発錆が観測されず、ガス輸送に適した耐食性を示した。
【0094】
試験番号2〜5ではさらに、化成処理した3日後に塗料組成物塗装工程を実施しており、優れた生産効率を示した。
【0095】
一方、試験番号1では、塗膜の密着性を高めるため、アンカー効果を目的としたブラスト処理を実施した。そのため、鋼管の内表面の粗さRzが62.7μmであった。その結果、塗膜の表面粗さRzが68.7μmとなり、表面が粗く、ガスの輸送効率が低いと言える。
【0096】
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。