特許第6954798号(P6954798)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社栗本鐵工所の特許一覧

<>
  • 特許6954798-管更生用積層体および管更生用部材 図000002
  • 特許6954798-管更生用積層体および管更生用部材 図000003
  • 特許6954798-管更生用積層体および管更生用部材 図000004
  • 特許6954798-管更生用積層体および管更生用部材 図000005
  • 特許6954798-管更生用積層体および管更生用部材 図000006
  • 特許6954798-管更生用積層体および管更生用部材 図000007
  • 特許6954798-管更生用積層体および管更生用部材 図000008
  • 特許6954798-管更生用積層体および管更生用部材 図000009
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6954798
(24)【登録日】2021年10月4日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】管更生用積層体および管更生用部材
(51)【国際特許分類】
   F16L 1/00 20060101AFI20211018BHJP
   B29C 63/34 20060101ALI20211018BHJP
   B32B 5/28 20060101ALI20211018BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20211018BHJP
   B32B 3/04 20060101ALI20211018BHJP
   F16L 55/162 20060101ALI20211018BHJP
【FI】
   F16L1/00 J
   B29C63/34
   B32B5/28 A
   B32B1/08 Z
   B32B3/04
   F16L55/162
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-198326(P2017-198326)
(22)【出願日】2017年10月12日
(65)【公開番号】特開2019-74099(P2019-74099A)
(43)【公開日】2019年5月16日
【審査請求日】2020年7月31日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 集会名 平成29年度 農業農村工学会大会講演会 公開日 平成29年8月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000142595
【氏名又は名称】株式会社栗本鐵工所
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】平田 真樹子
(72)【発明者】
【氏名】硲 昌也
(72)【発明者】
【氏名】藤本 光伸
(72)【発明者】
【氏名】竹田 誠
(72)【発明者】
【氏名】北川 武
(72)【発明者】
【氏名】霜村 潤
【審査官】 柳本 幸雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開平01−132859(JP,A)
【文献】 特開2017−154356(JP,A)
【文献】 特開2014−034127(JP,A)
【文献】 実開平02−041924(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16L 1/00
B29C 63/34
B32B 5/28
B32B 1/08
B32B 3/04
F16L 55/162
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の素材からなる第一の層(14)と、
第二の素材からなり、前記第一の層(14)に積層された第二の層(15)と、
を有するシート状の積層体であって、
この積層体には、熱硬化性樹脂が予め含浸されており、
この積層体の一辺側の表面端部、および、前記一辺側と対向する他辺側の裏面端部に、前記第二の層(15)が露出した露出領域を有し、
前記露出領域における層の厚さが、前記露出領域以外の領域における前記積層体の層の厚さよりも薄い管更生用積層体を使用し、
前記管更生用積層体の前記一辺側の表面および前記他辺側の裏面に露出した前記第二の層(15)同士を接合して筒状にしたインナーライナー(11)を備えた管更生用部材であって、
既設管(P)内に挿入して拡径させることで、前記一辺側の前記第一の層(14)と前記他辺側の前記第一の層(14)との間でオーバーラップさせて段差を生じた仮止めの接合が外れ、前記一辺側の表面に露出した前記第二の層(15)と、前記他辺側の裏面に露出した前記第二の層(15)同士が前記熱硬化性樹脂によって接合した状態となり、前記インナーライナー(11)の結合部におけるオーバーラップ量(w1、w2)の変化に伴って、前記結合部における前記段差が解消して平坦な状態となることを特徴とする管更生用部材。
【請求項2】
第一の素材からなる第一の層(14)と、
第二の素材からなり、前記第一の層(14)に積層された第二の層(15)と、
を有するシート状の積層体であって、
この積層体には、熱硬化性樹脂が予め含浸されており、
この積層体の一辺側の表面端部、および、前記一辺側と対向する他辺側の裏面端部に、前記第二の層(15)が露出した露出領域を有し、
前記露出領域における層の厚さが、前記露出領域以外の領域における前記積層体の層の厚さよりも薄い管更生用積層体を使用し、
前記管更生用積層体の前記一辺側の表面および前記他辺側の裏面に露出した前記第二の層(15)同士を接合して筒状にしたインナーライナー(11)を備えた管更生用部材であって、
既設管(P)内に挿入して拡径させることで、前記一辺側の前記第二の層(15)と前記他辺側の前記第二の層(15)との間でオーバーラップさせて厚みの不均一を生じた仮止めの接合が外れ、前記一辺側の表面に露出した前記第二の層(15)と、前記他辺側の裏面に露出した前記第二の層(15)同士が前記熱硬化性樹脂によって接合した状態となり、前記インナーライナー(11)の結合部におけるオーバーラップ量(w3、w4)の変化に伴って、前記第一の層(14)の厚み分だけ、オーバーラップさせた前記結合部の前記厚みの不均一が低減されることを特徴とする管更生用部材。
【請求項3】
前記露出領域以外の領域において、前記第二の層(15)の表裏面に前記第一の層(14)が積層された前記管更生用積層体を有する請求項1または2に記載の管更生用部材。
【請求項4】
前記インナーライナー(11)の外側に、前記管更生用積層体の前記一辺側の表面および前記他辺側の裏面に露出した前記第二の層(15)同士を接合して筒状にしたアウターライナー(12)をさらに備えた請求項1から3のいずれか1項に記載の管更生用部材。
【請求項5】
前記インナーライナー(11)の前記一辺側と前記他辺側を接合した接合部と、前記アウターライナー(12)の前記一辺側と前記他辺側を接合した接合部とが、環状の周方向の対称位置にある請求項に記載の管更生用部材。
【請求項6】
前記インナーライナー(11)の内側に、このインナーライナー(11)を内側から支持する筒状の補強部材(13)をさらに備えた請求項1から5のいずれか1項に記載の管更生用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、上水・農水用水路などの既設管の内面補修に用いられる管更生用積層体および管更生用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
上水・農水用水路などとして地中に埋設されたコンクリート管、金属管などの既設管が経年劣化したときに、この既設管を掘り起こすことなく、その内面を補修する工法が実用化されている。この工法の一つとして、現場硬化型更生工法と呼ばれるものがある。この工法においては、予め熱硬化性樹脂を含浸させた更生用部材(ライニング材)が使用される。
【0003】
この工法に使用される更生用部材として、例えば、特許文献1に示すものがある。このライニング材は、被覆層と、熱硬化性樹脂を含浸した樹脂含浸層とを有する。樹脂含浸層は、不織布と補強材を積層したシート状基材である。このシート状基材は、その幅方向の端部同士をホットメルトなどの接合手段によって接合して筒状とされる。そして、その施工時に、経年劣化した既設管の内部にこのライニング材を設け、その内部に蒸気などの流体圧を供給して管体内で拡径させる。すると、樹脂を含浸させた層が既設管の内面に密着して硬化し、この既設管の内面がライニング材で被覆される(特許文献1の段落0023〜0046、図3など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−208828号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の構成においては、ライニング材を管体内で拡径させたときに、シート状基材の端部同士が重ね合わさるように接合されている。このため、接合箇所における基材の厚みが、接合箇所以外の箇所における基材の厚みより大きくなり、この厚みの不均一に起因して、既設管の通水特性に悪影響を与える虞があった。さらに、その接合箇所で応力集中が生じ、この応力集中に起因して接合箇所で剥離が生じて、更生管の強度が低下する虞もあった。
【0006】
そこで、この発明は、管更生用部材の厚み均一性を向上して、良好な通水特性を確保するとともに、厚み不均一に起因する応力集中によって、更生管の強度が低下するのを防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、この発明は、第一の素材からなる第一の層と、第二の素材からなり、前記第一の層に積層された第二の層と、を有するシート状の積層体であって、この積層体には、熱硬化性樹脂が予め含浸されており、この積層体の一辺側の表面端部、および、前記一辺側と対向する他辺側の裏面端部に、前記第二の層が露出した露出領域を有し、前記露出領域における層の厚さが、前記露出領域以外の領域における前記積層体の層の厚さよりも薄い管更生用積層体を構成した。
【0008】
このようにすると、この積層体を筒状とする際に、層の厚さが薄い前記露出領域の部分同士が接合されることになり、この接合に伴う接合箇所における厚みの増大を極力防止することができる。このため、管更生用部材の厚み均一性を向上して、良好な通水特性を確保することができる。また、同種の素材同士(ここでは、第二の素材同士)が接合されることになり、剥離を防止するのに十分な接合強度を確保することができる。
【0009】
前記構成においては、前記露出領域以外の領域において、前記第二の層の表裏面に前記第一の層が積層されている構成とするのが好ましい。このようにすると、層構成がその厚さ方向に対称となって汎用性が高まるため、作業性の向上を図ることができる。
【0010】
前記各構成においては、前記第一の素材が不織布で、前記第二の素材が強化繊維を有している構成とするのが好ましい。このようにすると、不織布の層による柔軟性と、強化繊維を有する層による強度とを両立することができ、この管更生用積層体を用いた作業を容易に行うことができるとともに、強度に対する十分な信頼性を確保することができる。
【0011】
前記第二の素材が強化繊維を有している構成においては、その強化繊維がノンクリンプファブリックであるのが好ましい。このノンクリンプファブリックは、層状の混繊糸が一方向性を保つように構成されており、一般的な織物と異なり経糸と緯糸の交差に伴うクリンプが生じない。このため、高い強度と弾力性を有し、積層体の厚みを増すことなく、十分な強度を確保することができる。
【0012】
前記各構成に係る管更生用積層体は、この管更生用積層体の前記一辺側の表面および前記他辺側の裏面に露出した前記第二の層同士を接合して筒状にしたインナーライナーを備えた管更生用部材に適用できる。このように、この管更生用積層体を管更生用部材としてのインナーライナーに適用することにより、上記において説明したように、筒状としたインナーライナーの周方向の厚み均一性を向上して、良好な通水特性を確保することができるとともに、筒状としたインナーライナーの接合部の十分な接合強度を確保して、このインナーライナーの剥離を防止することができる。
【0013】
この構成においては、前記インナーライナーの外側に、前記管更生用積層体の前記一辺側の表面および前記他辺側の裏面に露出した前記第二の層同士を接合して筒状にしたアウターライナーをさらに備えた構成とするのが好ましい。このように、インナーライナーの外側にアウターライナーを設けることにより、この管更生用部材の強度をさらに高めることができる。
【0014】
インナーライナーとアウターライナーを備えた構成においては、前記インナーライナーの前記一辺側と前記他辺側を接合した接合部と、前記アウターライナーの前記一辺側と前記他辺側を接合した接合部とが、環状の周方向の対称位置にある構成とするのが好ましい。このようにすると、管更生用部材を既設管の内面に密着させたときに、その密着に伴って各ライナーに作用する力が、その周方向の対称位置に分散して作用するため、各ライナーの接合部において剥離が生じるのを一層防止することができる。
【0015】
前記の各管更生用部材においては、前記インナーライナーの内側に、このインナーライナーを内側から支持する筒状の補強部材をさらに備えた構成とするのが好ましい。このように、補強部材を設けることにより、この管更生用部材の強度をさらに高めて、自立管としての強度を確保することができる。
【発明の効果】
【0016】
この発明では、第一の素材からなる第一の層と、第二の素材からなり、前記第一の層に積層された第二の層と、を有するシート状の積層体であって、この積層体には、熱硬化性樹脂が予め含浸されており、この積層体の一辺側の表面端部、および、前記一辺側と対向する他辺側の裏面端部に、前記第二の層が露出した露出領域を有する管更生用積層体を構成し、さらに、この管更生用積層体からなるインナーライナーを有し、前記露出領域における層の厚さが、前記露出領域以外の領域における前記積層体の層の厚さよりも薄い管更生用部材を構成した。
【0017】
これにより、この積層体を筒状とする際に、前記露出領域の層が薄い部分同士が接合されることになり、この接合に伴う接合箇所における厚みの増大を極力防止することができる。このため、管更生用部材の厚み均一性を向上して、良好な通水特性を確保するとともに、厚み不均一に起因する応力集中によって、更生管の強度が低下するのを防止することができる。また、同種の素材同士(ここでは、第二の素材同士)が接合されることになり、剥離を防止するのに十分な接合強度を確保することができ、剥離に伴う不具合を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】この発明に係る管更生用積層体を用いた管更生用部材の一実施形態を示す断面図
図2】管更生用積層体の側面図
図3】インナーライナーおよびアウターライナーの接合部を示す側面図であって、(a)は管更生用部材の拡径前、(b)は管更生用部材の拡径後
図4】管更生用積層体の他例の側面図
図5】インナーライナーおよびアウターライナーの接合部を示す側面図であって、(a)は管更生用部材の拡径前、(b)は管更生用部材の拡径後
図6】補強部材の側面図
図7】管更生用部材を設けた既設管の断面図であって、(a)は管更生用部材の拡径前、(b)は管更生用部材の拡径後
図8】管更生用部材の拡径後における接合部を示す要部の断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
この発明に係る管更生用積層体を用いた管更生用部材10の一実施形態を図1に示す。この管更生用部材10は、上水用水路などとして地中に埋設されたコンクリート管、金属管などの既設管Pが経年劣化したときに、その内面を補修する更生用部材として用いられる。この管更生用部材10は、インナーライナー11、アウターライナー12、および、補強部材13を主要な構成要素としている。
【0020】
管更生用部材10の厚さは、この管更生用部材10を適用する既設管Pの呼び径や、その流量などに対応して適宜決めることができるが、数ミリメートルから数センチメートルとするのが好ましい。なお、インナーライナー11、アウターライナー12、および、補強部材13の実際の厚みは、施工後のそれらの外径と比較して十分小さいが、以下の各図においては、管更生用部材10を見やすくするためにその厚みを強調して描いている。
【0021】
アウターライナー12は、インナーライナー11の外側に設けられている。また、補強部材13は、インナーライナー11の内側に設けられており、このインナーライナー11を補強している。
【0022】
インナーライナー11およびアウターライナー12は、図2に示すように、第一の層14と第二の層15が積層された積層体である管更生用積層体から構成される。この管更生用積層体は、矩形シート状の外形を有している。
【0023】
この管更生用積層体は、その表裏面側に第一の層14を有し、厚さ方向中心に第二の層15を有する。そして、この積層体の一辺側(図2の左端側)の表面端部、および、前記一辺側と対向する他辺側(図2の右端側)の裏面端部に、第二の層15が露出した露出領域を有する。露出領域における層の厚さは、この露出領域以外の領域における前記積層体の層の厚さよりも薄くなっている。この実施形態においては、露出領域における層の厚さは、この露出領域以外の領域における積層体の層の厚さの約半分である(図2参照)。
【0024】
積層体には、熱硬化性樹脂が予め含浸されている。この熱硬化性樹脂の種類は特に限定されず、不飽和ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ビニルエステル系樹脂、メラミン樹脂などを広く採用することができる。
【0025】
第一の層14は、第一の素材からなる。本実施形態では、第一の素材として、ポリエチレン(PET)を用いた不織布を採用している。
【0026】
第二の層15は、第二の素材からなる。本実施形態では、第二の素材として、ガラス繊維からなる強化繊維を採用している。
【0027】
この強化繊維は、ノンクリンプファブリックである。ノンクリンプファブリックは、一般的な織物のように、経糸と緯糸が交差している構造とは異なり、層状の混繊糸が一方向性を保つことにより、経糸と緯糸の交差に伴うクリンプ(うねり)が生じないように構成されている。このため、高い強度と弾力性を有し、積層体の厚みを増すことなく、十分な強度を確保することができる。
【0028】
この積層体は、次のようにして構成される。まず、第一の素材と第二の素材を積層し、ニードルパンチ加工で両素材を一体化する。この一体化した積層体を2枚(以下、表面側層A、裏面側層Bという。)用意し、表面側層Aの第二の層15(第二の素材からなる層)と、表裏反転した裏面側層Bの第二の層15(第二の素材からなる層)を対向させ、表面側層Aと裏面側層Bを対向面に沿って少しずらした状態で、この第二の層15同士を接着する。これにより、裏面側層Bの一辺側の表面端部、および、表面側層Aの他辺側の裏面端部に、第二の層15が露出した露出領域を有し、前記露出領域以外の領域において、第二の層15の表裏面に第一の層14が積層されている管更生用積層体が形成される(図2参照)。
【0029】
図3(a)に示すように、この管更生用積層体の一辺側の第一の層14と、他辺側の第一の層14をオーバーラップさせて接合し、筒状のインナーライナー11およびアウターライナー12を構成する。このオーバーラップ量はw1である。このように、前記一辺側と前記他辺側を所定量w1だけオーバーラップさせることにより、拡径前におけるインナーライナー11およびアウターライナー12の外径を小さくして、既設管Pに設置しやすくしている。図1に示す管更生用部材10においては、インナーライナー11の下端部、アウターライナー12の上端部が接合部となっている。
【0030】
前記一辺側と前記他辺側の接合は、接着剤を使用したり、糸で縫い付けたりすることによって行うことができるが、その方法は特に限定されない。また、例えば、インナーライナー11の接合は、筒状の軸方向に所定間隔を空けたスポット状に行う一方で、アウターライナー12の接合は線状に行うなど、両ライナー11、12の接合状態を変えることによって、接合強度を異ならせてもよい。この接合強度は、管更生用部材10の取り扱い時や施工時の剥離を確実に防止しつつ、この管更生用部材10の拡径時には、第二の層15同士をオーバーラップさせた結合部が、互いにスムーズにスライドできる程度の強度(仮止め程度の強度)とされる。
【0031】
既設管P内に挿入した管更生用部材10(図7(a)参照)を拡径させ、各ライナー11、12に周方向の力(図3(a)中の矢印参照)が作用すると、一辺側の第一の層14と、他辺側の第一の層14との間の接合(仮止め)が外れ、両層14、14が相対的にスライドする。そして、図3(b)に示すように、一辺側の表面に露出した第二の層15と、他辺側の裏面に露出した第二の層15同士が、熱硬化性樹脂によって接合した状態となる。このとき、結合部におけるオーバーラップ量は、拡径前のw1からw2に変化する。
【0032】
このように、拡径時において、一辺側の第二の層15と他辺側の第二の層15同士が接合することにより、インナーライナー11およびアウターライナー12の結合部における段差(図3(a)参照)が解消して平坦な状態となる。このため、既設管Pの良好な通水特性を確保することができる。
【0033】
なお、上記のように表面側層Aと裏面側層Bを少しずらして接着した構成とする代わりに、図4に示すように、第一の層14(第一の素材からなる層)と第二の層15(第二の素材からなる層)を積層した上で、第一の層14の両端の所定箇所を切断した構成とすることもできる。これにより、積層体の一辺側の表面端部、および、他辺側の裏面端部に、第二の層15が露出した露出領域を有し、前記露出領域以外の領域において、第二の層15の裏面に第一の層14が積層されている管更生用積層体が形成される。
【0034】
図5(a)に示すように、この管更生用積層体の一辺側の第二の層15と、他辺側の第二の層15をオーバーラップさせて接合(仮止め)し、筒状のインナーライナー11およびアウターライナー12を構成する。このオーバーラップ量はw3である。
【0035】
既設管P内に挿入した管更生用部材10(図7(a)参照)を拡径させ、各ライナー11、12に周方向の力(図5(a)中の矢印参照)が作用すると、一辺側の第二の層15と、他辺側の第二の層15との間の接合(仮止め)が外れ、両層15、15が相対的にスライドする。そして、図5(b)に示すように、一辺側の表面に露出した第二の層15と、他辺側の裏面に露出した第二の層15同士が、熱硬化性樹脂によって接合した状態となる。このとき、結合部におけるオーバーラップ量は、拡径前のw3からw4に変化する。
【0036】
図4に示す管更生用積層体を用いると、上記のスライドに伴って、第一の層14の厚み分だけ、オーバーラップさせた結合部の厚みの不均一が低減され、良好な通水特性が確保される。さらに、厚み不均一部における応力集中に起因して結合部が剥離し、更生管の強度が低下するのを防止することができる。
【0037】
図1に示すように、インナーライナー11の前記一辺側と前記他辺側を接合した接合部と、アウターライナー12の前記一辺側と前記他辺側を接合した接合部とは、環状の周方向の対称位置となっている。このようにすると、管更生用部材10を既設管Pの内面に密着させたときに、その密着に伴って各ライナー11、12に作用する力が、その周方向の対称位置に分散して作用する。このため、各ライナー11、12の接合部において、剥離が生じるのを確実に防止することができる。
【0038】
補強部材13は、図6に示すように、ガラスニットからなる2枚の矩形状シート13a、13bを重ね合わせ、各矩形状シート13a、13bの両端同士を接合して筒状としたものである。この接合は、接着剤の使用や溶着などによって行うことができるが、その接合方法は特に限定されない。
【0039】
この補強部材13を設けた管更生用部材10と、補強部材13を設けていない管更生用部材10を用いて曲げ試験を行ったところ、補強部材13を設けていない管更生用部材10は、所定荷重以上の荷重によって結合部に剥離が生じた一方で、補強部材13を設けた管更生用部材10では、その所定荷重を越える荷重を負荷しても、結合部に剥離が生じないことが確認できた。
【0040】
なお、図1などには図示されていないが、アウターライナー12の外側、および、補強部材13の内側に、硬化前の樹脂材を通さない不透過性のフィルムを設けられている。このフィルムを設けることにより、施工中に管更生用部材10の外部に熱硬化性樹脂が漏れ出す不具合を防止することができる。このフィルムの素材として、ポリエチレン、ナイロンなどの熱可塑性樹脂を採用するのが好ましいが、他の種類の樹脂を採用することもできる。
【0041】
この管更生用部材10の施工に際しては、図7(a)に示すように、まず、補修を行う既設管Pの中に、拡径前の管更生用部材10を設置する。そして、この管更生用部材10の内側に、熱風や高温水蒸気などを送り込み、その熱と管更生用部材10の内側からの加圧によって、図7(b)、図8に示すように、この管更生用部材10を拡径させるとともに熱硬化性樹脂を硬化させて、既設管Pの内面に管更生用部材10を密着させる。
【0042】
上記において説明した管更生用積層体および管更生用部材10は全ての点で例示であって、管更生用部材10の厚み均一性を向上して、良好な通水特性を確保するとともに、厚み不均一に起因する応力集中によって、更生管の強度が低下するのを防止する、というこの発明の課題を解決し得る限りにおいて、その構成を適宜変更することができる。
【0043】
例えば、上記の実施形態においては、インナーライナー11とアウターライナー12の両ライナー11、12を採用した構成について説明したが、インナーライナー11のみを有する構成とすることもできる。また、インナーライナー11とアウターライナー12のみで十分な強度を確保できるのであれば、補強部材13を省略することも可能である。また、各ライナー11、12の各層の層構成や使用する素材も上記に限定されず、例えば、第一の層14および第二の層15以外の第三の層を追加するなど、適宜変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 管更生用部材
11 インナーライナー
12 アウターライナー
13 補強部材
13a、13b 矩形状シート
14 第一の層
15 第二の層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8