【文献】
mAbs,2014年12月18日,vol. 7, issue. 1,p. 120-128
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患の予防および/または治療に用いられる医薬組成物であって、該疾患が、血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患である、請求項2に記載の組成物。
血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患が、血友病A、後天性血友病、フォンビルブランド病又は血液凝固第VIII因子および/もしくは活性化血液凝固第VIII因子に対するインヒビターが出現している疾患である、請求項3に記載の組成物。
血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子、ならびに血液凝固第X因子に対する二重特異性抗体の血液凝固第VIII因子様活性を増強する方法であって、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合している二重特異性抗体の定常領域の少なくとも1つのアミノ酸残基を改変する、前記方法:
ここで、前記改変はCH3領域及び/又はヒンジ領域における改変であり、かつ、該CH3領域における改変がEUナンバリング434位におけるTyr(Y)への改変であり、該ヒンジ領域における改変はEUナンバリング216位〜230位をAAACとする改変である。
血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子、ならびに血液凝固第X因子に対する二重特異性抗体の製造方法であって、(a) 定常領域の少なくとも1つのアミノ酸残基を改変することで改変前の配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合している二重特異性抗体に比べ血液凝固第VIII因子様活性が増強されるように、該アミノ酸残基を含む抗体をコードする核酸を改変し、(b)宿主細胞を該核酸が発現するように培養し、(c)宿主細胞培養物から抗体を回収することを含む方法:
ここで、前記アミノ酸残基の改変はCH3領域及び/又はヒンジ領域における改変であり、かつ、該CH3領域における改変がEUナンバリング434位におけるTyr(Y)への改変であり、該ヒンジ領域における改変はEUナンバリング216位〜230位をAAACとする改変である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記のような状況に鑑みてなされたものであり、増強された活性を有する抗体、そのような抗体を有効成分として含有する医薬組成物、それらの製造方法及び抗体の活性を高める方法等を提供することを目的とする。より具体的にはACE910よりも高いFVIII様活性を有する二重特異性抗体を作製するための定常領域部位の変異、および、同変異を有する抗FIXa/FX二重特異性抗体、当該抗体を有効成分として含む医薬組成物、または当該医薬組成物による血友病Aの治療方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく、定常領域の様々な部位を改変したACE910変異体を作製したところ、ACE910よりも高いFVIII様活性を有する二重特異性抗体を見出すことに成功した。また、FVIII様活性を高める変異の同定、その変異を用いたFVIII様活性を高める方法を見出すことにも成功した。本発明はこのような知見に基づくものであり、以下〔1〕から〔15〕に関する。
〔1〕改変された血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子、ならびに血液凝固第X因子に対する二重特異性抗体であって、当該抗体の定常領域に少なくとも1つのアミノ酸残基の改変を含み、当該改変前の抗体である配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合している二重特異性抗体に比べ高い血液凝固第VIII因子様活性を有する、前記抗体。
〔2〕前記改変はCH3領域及び/又はヒンジ領域における改変である、〔1〕に記載の抗体。
〔3〕CH3領域における改変がEUナンバリング434位における改変である、〔2〕に記載の抗体。
〔4〕EUナンバリング434位における改変はTyr(Y)への改変である、〔3〕に記載の抗体。
〔5〕ヒンジ領域における改変はEUナンバリング216位〜230位をAAACとする改変である、〔2〕に記載の抗体。
〔6〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の抗体、および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
〔7〕出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患の予防および/または治療に用いられる医薬組成物であって、該疾患が、血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患である、〔6〕に記載の組成物。
〔8〕血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患が、血友病A、後天性血友病、フォンビルブランド病又は血液凝固第VIII因子および/もしくは活性化血液凝固第VIII因子に対するインヒビターが出現している疾患である、〔7〕に記載の組成物。
〔9〕少なくとも〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の二重特異性抗体を含む、出血、出血を伴う疾患もしくは出血に起因する疾患を予防および/または治療する方法に用いるためのキット。
〔10〕血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子、ならびに血液凝固第X因子に対する二重特異性抗体の血液凝固第VIII因子様活性を増強する方法であって、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合している二重特異性抗体の定常領域の少なくとも1つのアミノ酸残基を改変する、前記方法。
〔11〕前記改変はCH3領域及び/又はヒンジ領域における少なくとも1つのアミノ酸残基の改変である、〔10〕に記載の方法。
〔12〕CH3領域における改変がEUナンバリングによる434位における改変である、〔11〕に記載の方法。
〔13〕434位における改変はTyr(Y)への改変である、〔12〕に記載の方法。
〔14〕ヒンジ領域における改変はEUナンバリング216位〜230位をAAACとする改変である、〔11〕に記載の方法。
〔15〕血液凝固第IX因子および/または活性化血液凝固第IX因子、ならびに血液凝固第X因子に対する二重特異性抗体の製造方法であって、(a) 定常領域の少なくとも1つのアミノ酸残基を改変することで改変前の配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合している二重特異性抗体に比べ血液凝固第VIII因子様活性が増強されるように、該アミノ酸残基を含む抗体をコードする核酸を改変し、(b)宿主細胞を該核酸が発現するように培養し、(c)宿主細胞培養物から抗体を回収することを含む方法。
〔16〕〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の抗体を投与する工程を含む、出血、出血を伴う疾患、または出血に起因する疾患を予防および/または治療する方法。
〔17〕出血、出血を伴う疾患、または出血に起因する疾患の予防および/または治療において使用するための、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の抗体。
〔18〕出血、出血を伴う疾患、または出血に起因する疾患の予防剤および/または治療剤の製造における、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の抗体の使用。
〔19〕前記疾患が、血液凝固第VIII因子および/または活性化血液凝固第VIII因子の活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患であり、好ましくは、血友病A、後天性血友病、フォンビルブランド病又は血液凝固第VIII因子および/もしくは活性化血液凝固第VIII因子に対するインヒビターが出現している疾患である、〔16〕に記載の方法または〔17〕に記載の使用のための抗体または〔18〕に記載の使用。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、ACE910よりも高いFVIII様活性を有する二重特異性抗体が提供された。また、FVIII様活性を高める変異、その変異を用いたFVIII様活性を高める方法が提供された。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一つの実施態様は、改変された定常領域を含む抗体であって、当該定常領域に少なくとも1つのアミノ酸残基の変異を含み、当該改変前の抗体に比べ高い活性を有する抗体に関する。
【0013】
本発明における「定常領域を含む抗体」とは定常領域を含む抗体であれば特に限定されるものではなく、IgG型であってもよく、二重特異性抗体であってもよい。
【0014】
本発明の一つの実施態様としての定常領域とは、好ましくは抗体定常領域であり、より好ましくはIgG1、IgG2、IgG3、IgG4型の抗体定常領域であり、さらにより好ましくはヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4型の抗体定常領域である。また本発明の別の一つの実施態様としての定常領域とは、好ましくは重鎖定常領域であり、より好ましくはIgG1、IgG2、IgG3、IgG4型の重鎖定常領域であり、さらにより好ましくはヒトIgG1、IgG2、IgG3、IgG4型の重鎖定常領域である。ヒトIgG1定常領域、ヒトIgG2定常領域、ヒトIgG3定常領域およびヒトIgG4定常領域のアミノ酸配列は公知である。ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、ヒトIgG4抗体の定常領域としては、遺伝子多型による複数のアロタイプ配列がSequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242に記載されているが、本発明においてはそのいずれであっても良い。なお本発明のアミノ酸が改変された定常領域は、本発明のアミノ酸変異を含むものである限り、他のアミノ酸変異や修飾を含んでもよい。
【0015】
Fc領域は、抗体重鎖の定常領域に由来するアミノ酸配列を含む。Fc領域は、EUナンバリングで表されるおよそ216位のアミノ酸における、パパイン切断部位のヒンジ領域のN末端から、当該ヒンジ、CH2およびCH3ドメインを含める抗体の重鎖定常領域の部分である。
【0016】
「ヒンジ領域」という用語は、野生型抗体重鎖においてCH1ドメインおよびCH2ドメインを連結する、例えばKabatのEU番号方式によれば216位あたりから230位あたりまでの、またはKabatのEU番号方式によれば226位あたりから230位あたりまでの、抗体重鎖ポリペプチド部分を意味する。他のIgGサブクラスのヒンジ領域は、IgG1サブクラス配列のヒンジ領域システイン残基と整列させることによって決定することができる。
【0017】
本発明におけるポリペプチドとは、通常、10アミノ酸程度以上の長さを有するペプチド、およびタンパク質を指す。また、通常、生物由来のポリペプチドであるが、特に限定されず、例えば、人工的に設計された配列からなるポリペプチドであってもよい。また、天然ポリペプチド、あるいは合成ポリペプチド、組換えポリペプチド等のいずれであってもよい。さらに、上記のポリペプチドの断片もまた、本発明のポリペプチドに含まれる。
【0018】
EUナンバリングおよびKabatナンバリング
本発明で使用されている方法によると、抗体のCDRとFRに割り当てられるアミノ酸位置はKabatにしたがって規定される(Sequences of Proteins of Immunological Interest(National Institute of Health, Bethesda, Md., 1987年および1991年)。本明細書において、抗原結合分子が抗体または抗原結合断片である場合、可変領域のアミノ酸はKabatナンバリングにしたがい、定常領域のアミノ酸はKabatのアミノ酸位置に準じたEUナンバリングにしたがって表される。
【0019】
本発明の一つの実施態様としての「アミノ酸残基の改変」は当該改変前の抗体に比べ活性を高める改変であれば特に限定されず、好ましくはCH3領域又はヒンジ領域における改変である。特に好ましくはEUナンバリング434位における改変であり、より好ましくはEUナンバリング434位をAsn(N)からTyr(Y)にする改変である。また特に好ましくはヒンジ領域における改変であり、より好ましくはEUナンバリング216位〜230位をAAACとする改変である。尚、EUナンバリング216位〜230位の一部を改変することにより、EUナンバリング216位〜230位をAAACとする改変も本発明に含まれる。また、上記変異を含む限り、その他の変異が含まれていてもよい。
【0020】
本発明の一つの実施態様としての「改変」又は「改変する」とは、元のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換すること、元のアミノ酸残基を欠失させること、新たなアミノ酸残基を付加すること、これらの組み合わせ等を指す。また、「変異」とは元のアミノ酸残基の他のアミノ酸残基への置換、元のアミノ酸残基の欠失、新たなアミノ酸残基の付加、これらの組み合わせ等を指す。尚、本明細書において、「改変」と「変異」は同義で用いられる。
【0021】
本発明の一つの実施態様としての「活性」とは、例えば抗体の抗原への結合力、抗体が抗原に結合することにより生じる生物学的作用などをいうがこれに限定されない。抗体が血液凝固第IX因子(FIX)および/または活性化血液凝固第IX因子(FIXa)、ならびに血液凝固第X因子(FX)に対する二重特異性抗体である場合、例えば活性とは血液凝固第FVIII因子(FVIII)様活性である。
改変前の抗体に比べ高い活性を有するとは、例えば前記二重特異性抗体のFVIII様活性の場合、改変後の二重特異性抗体のFVIII様活性が改変前の二重特異性抗体のFVIII様活性に比べて高いことをいう。
【0022】
FVIII
FVIIIは血液凝固に関与する一連の分子の1つであり、トロンビンやFXaにより活性化を受けると補因子活性を呈し、FIXaによるFX活性化反応を促進する。
【0023】
FVIII様活性
本発明のFVIII様活性は、FVIII機能代替活性、FVIIIの機能を代替する活性、FXa産生促進活性、FXa産生を促進する活性と言い換えることもできる。本発明において「FVIII機能代替」、「FVIIIの機能を代替する」とは、FIXaによるFXの活性化を促進する(FIXaによるFXa産生を促進する)ことを意味する。また、より具体的には、本発明において「FVIIIの機能を代替する」とは、FIXおよび/またはFIXaならびにFXを認識し、FIXaによるFXの活性化を促進する(FIXaによるFXa産生を促進する)ことを意味する。FXa産生促進活性は、例えば、FIXa、FX、合成基質S-2222(FXaの合成基質)、リン脂質から成る測定系で評価することができる。このような測定系は、血友病A症例における疾患の重症度および臨床症状と相関性を示す(Rosen S, Andersson M, Blomba¨ck M et al. Clinical applications of a chromogenic substrate method for determination of FVIII activity. Thromb Haemost 1985; 54: 811-23)。
【0024】
本発明の一つの実施態様において、抗体は特に限定されるものではないが、好ましくはFVIIIの機能を代替する活性を有するFIXおよび/またはFIXa、ならびにFXに対する二重特異性抗体を例示することができる。このような抗体は、例えばWO2005/035756、WO2006/109592、WO2012/067176などに記載の方法に従って取得することができる。本発明の抗体にはこれらの文献に記載の抗体が含まれる。
好ましい二重特異性抗体として、特許文献(WO 2012/067176)に記載の二重特異性抗体であるACE910 (emicizumab)(Q499-z121/J327-z119/L404-k)(配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるH鎖(Q鎖)と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるH鎖(J鎖)と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合している二重特異性抗体)を挙げることができる。当該抗体のL鎖は、いわゆる共通L鎖である。尚、本明細書において、ACE910はACE910-Aとも記載される。
【0025】
本発明の一つの実施態様は、改変されたFIXおよび/またはFIXa、ならびにFXに対する二重特異性抗体であって、当該抗体の定常領域に少なくとも1つのアミノ酸残基の改変を含み、当該改変前の抗体である配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合している二重特異性抗体に比べ高いFVIII様活性を有する抗体である。
【0026】
本発明の特定の一つの実施態様は、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合している、FIXおよび/またはFIXa、ならびにFXに対する二重特異性抗体であって、EUナンバリング434位がTyr(Y)である抗体である。
【0027】
また、別の本発明の特定の一つの実施態様は、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合している、FIXおよび/またはFIXa、ならびにFXに対する二重特異性抗体であって、EUナンバリング216位〜230位がAAACである抗体である。
【0028】
「抗体」という用語は、最も広い意味で使用され、所望の活性を示す限り、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、二量体、多量体、多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、抗体誘導体及び抗体修飾物であってもよい(Miller K et al. J Immunol. 2003, 170(9), 4854-61)。抗体は、マウス抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体であってもよく、または他の種由来であっても、人工的に合成したものであってもよい。本明細書中に開示される抗体は、免疫グロブリン分子の任意のタイプ(例えば、IgG、IgE、IgM、IgDおよびIgA)、クラス(例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1およびIgA2)またはサブクラスであり得る。免疫グロブリンは、任意の種(例えば、ヒト、マウスまたはウサギ)由来であり得る。尚、「抗体」、「免疫グロブリン」及び「イムノグロブリン」なる用語は互換性をもって広義な意味で使われる。
【0029】
「抗体誘導体」とは抗体の一部、好ましくは抗体の可変領域、または少なくとも抗体の抗原結合領域を含む。抗体誘導体には、例えばFab、Fab'、F(ab')2、Fv断片、線状抗体、一本鎖抗体(scFv)、sc(Fv)
2、Fab
3、ドメイン抗体 (dAb)(国際公開第2004/058821号、国際公開第2003/002609号)、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、ミニボディ及び抗体誘導体から形成される多重特異性抗体が含まれるが、それらに限定されるわけではない。ここで、「Fab」は一本の軽鎖、ならびに一本の重鎖のCH1領域および可変領域から構成される。また、「Fv」は最小の抗体誘導体であり、完全な抗原認識領域と抗原結合領域を含む。また抗体誘導体は例えばIgG抗体のFcとの融合体であってもよい。例えば、米国特許第5641870号明細書、実施例2;Zapata G et al. Protein Eng.1995, 8(10), 1057-1062 ; Olafsen T et al. Protein Eng. Design & Sel. 2004, 17(4):315-323 ; Holliger P et al. Nat. Biotechnol. 2005, 23(9);1126-36;Fischer N et al. Pathobiology. 2007, 74(1):3-14 ; Shen J et al. J Immunol Methods. 2007, 318, 65-74 ; Wu et al. Nat Biotechnol. 2007, 25(11), 1290-7を参照できる。
【0030】
抗体修飾物としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を挙げることができる。本発明の抗体には、これらの抗体修飾物も包含される。本発明の抗体修飾物においては、結合される物質は限定されない。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野において既に確立されている。
【0031】
「二重特異性」抗体は、異なるエピトープを認識する可変領域を同一の抗体分子内に有する抗体をいう。二重特異性抗体は2つ以上の異なる抗原を認識する抗体であってもよいし、同一抗原上の異なる2つ以上のエピトープを認識する抗体であってもよい。二重特異性抗体には、wholeの抗体だけでなく抗体誘導体が含まれていてもよい。本発明の抗体には、二重特異性抗体も含まれる。なお、本明細書において、抗FIXa/FX二重特異性抗体は、FIXa及びFXに結合する二重特異性抗体と同義で用いられる。
【0032】
遺伝子組換え抗体の作成方法
抗体としては、遺伝子組換え技術を用いて産生した組換え型抗体を用いることができる。組換え型抗体は、それをコードするDNAをハイブリドーマ、または抗体を産生する感作リンパ球等の抗体産生細胞からクローニングし、ベクターに組み込んで、これを宿主(宿主細胞)に導入し産生させることにより得ることができる。
抗体は、ヒト抗体、マウス抗体、ラット抗体など、その由来は限定されない。またキメラ抗体やヒト化抗体などの遺伝子改変抗体でもよい。
ヒト抗体の取得方法は既に知られており、例えば、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物を目的の抗原で免疫することで目的のヒト抗体を取得することができる(国際特許出願公開番号WO 93/12227, WO 92/03918,WO 94/02602, WO 94/25585,WO 96/34096, WO 96/33735参照)。
遺伝子改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。具体的には、たとえばキメラ抗体は、免疫動物の抗体のH鎖、およびL鎖の可変領域と、ヒト抗体のH鎖およびL鎖の定常領域からなる抗体である。免疫動物由来の抗体の可変領域をコードするDNAを、ヒト抗体の定常領域をコードするDNAと連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることによって、キメラ抗体を得ることができる。
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される改変抗体である。ヒト化抗体は、免疫動物由来の抗体のCDRを、ヒト抗体の相補性決定領域へ移植することによって構築される。その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP 239400、国際特許出願公開番号WO 96/02576、Sato K et al, Cancer Research 1993, 53: 851-856、国際特許出願公開番号WO 99/51743参照)。
二重特異性抗体(bispecific抗体)は、二種の異なる抗原に対して特異性を有する抗体である。
二重特異性抗体はIgGタイプのものに限られないが、例えばIgGタイプ二重特異性抗体はIgG抗体を産生するハイブリドーマ二種を融合することによって生じるhybrid hybridoma(quadroma)によって分泌させることが出来る(Milstein C et al. Nature 1983, 305: 537-540)。また目的の二種のIgGを構成するL鎖及びH鎖の遺伝子、合計4種の遺伝子を細胞に導入することによって共発現させることによって分泌させることが出来る。
この際H鎖のCH3領域に適当なアミノ酸置換を施すことによってH鎖についてヘテロな組合せのIgGを優先的に分泌させることも出来る(Ridgway JB et al. Protein Engineering 1996, 9: 617-621、Merchant AM et al. Nature Biotechnology 1998, 16: 677-681、WO2006/106905、Davis JH et al. Protein Eng Des Sel. 2010, 4: 195-202.)。
また、L鎖に関しては、H鎖可変領域に比べてL鎖可変領域の多様性が低いことから、両H鎖に結合能を与え得る共通のL鎖が得られることが期待され、本発明の抗体は、共通のL鎖を有する抗体であってもよい。この共通L鎖と両H鎖遺伝子を細胞に導入することによってIgGを発現させることで効率の良い二重特異性IgGの発現が可能となる。
【0033】
抗体の製造方法
本発明の抗体は当業者に公知の方法により製造することができる。具体的には、目的とする抗体をコードするDNAを発現ベクターへ組み込む。その際、発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させる。その際には、適当な宿主と発現ベクターの組み合わせを使用することができる。
【0034】
抗体を生産する目的においてベクターを使用する場合には、特に、発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、例えば、宿主をJM109、DH5α、HB101、XL1-Blueなどの大腸菌とした場合においては、大腸菌で効率よく発現できるようなプロモーター、例えば、lacZプロモーターなどを持っていることが不可欠である。
また、ベクターには、ポリペプチド分泌のためのシグナル配列が含まれていてもよい。
宿主細胞へのベクターの導入は、例えば塩化カルシウム法、エレクトロポレーション法を用いて行うことができる。
【0035】
大腸菌発現ベクターの他、本発明の抗体を製造するためのベクターとしては、例えば、哺乳動物由来の発現ベクター(例えば、pcDNA3(Invitrogen社製)や、pEGF-BOS (Nucleic Acids. Res.1990, 18(17),p5322)、pEF、pCDM8)、昆虫細胞由来の発現ベクター(例えば「Bac-to-BAC baculovirus expression system」(GIBCO BRL社製)、pBacPAK8)が挙げられる。
【0036】
CHO細胞、COS細胞、NIH3T3細胞等の動物細胞での発現を目的とした場合には、細胞内で発現させるために必要なプロモーター、例えばSV40プロモーター(Mulliganら, Nature (1979) 277, 108)などを持っていることが不可欠であり、形質転換細胞を選抜するための遺伝子を有すればさらに好ましい。形質転換細胞を選抜するための遺伝子としては、例えば、薬剤(ネオマイシン、G418など)により判別できるような薬剤耐性遺伝子がある。
さらに、遺伝子を安定的に発現させ、かつ、細胞内での遺伝子のコピー数の増幅を目的とする場合には、核酸合成経路を欠損したCHO細胞にそれを相補するDHFR遺伝子を有するベクター(例えば、pCHOIなど)を導入し、メトトレキセート(MTX)により増幅させる方法が挙げられ、また、遺伝子の一過性の発現を目的とする場合には、SV40 T抗原を発現する遺伝子を染色体上に持つCOS細胞を用いてSV40の複製起点を持つベクター(pcDなど)で形質転換する方法が挙げられる。
【0037】
これにより得られた本発明の抗体は、宿主細胞内または細胞外(培地など)から単離し、実質的に純粋で均一な抗体として精製することができる。抗体の分離、精製は、通常の抗体の精製で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。例えば、クロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、溶媒沈殿、溶媒抽出、蒸留、免疫沈降、SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動法、透析、再結晶等を適宜選択、組み合わせれば抗体を分離、精製することができる。
【0038】
クロマトグラフィーとしては、例えばアフィニティークロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー、ゲル濾過、逆相クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー等が挙げられる(Strategies for Protein Purification and Characterization: A Laboratory Course Manual. Ed Daniel R. Marshak et al., Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1996)。これらのクロマトグラフィーは、液相クロマトグラフィー、例えばHPLC、FPLC等の液相クロマトグラフィーを用いて行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、Protein Aカラム、Protein Gカラムが挙げられる。例えば、Protein Aを用いたカラムとして、Hyper D, POROS, Sepharose FF(GE Amersham Biosciences)等が挙げられる。本発明は、これらの精製方法を用い、高度に精製された抗体も包含する。
【0039】
得られた抗体は、均一にまで精製することができる。抗体の分離、精製は通常の蛋白質で使用されている分離、精製方法を使用すればよい。例えばアフィニティークロマトグラフィー等のクロマトグラフィーカラム、フィルター、限外濾過、塩析、透析、SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動、等電点電気泳動等を適宜選択、組合せれば、抗体を分離、精製することができる(Antibodies : A Laboratory Manual. Ed Harlow and David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory, 1988)が、これらに限定されるものではない。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、Protein Aカラム、Protein Gカラムなどが挙げられる。
【0040】
本発明では、本発明に記載の抗体および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供する。例えば、本発明の抗体がFVIII様活性を有するFIXおよび/またはFIXa、ならびにFXに対する二重特異性抗体である場合、例えば、出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患の予防および/または治療のための医薬品(医薬組成物)もしくは薬剤となることが期待される。
【0041】
本発明において、出血、出血を伴う疾患、もしくは出血に起因する疾患とは、好ましくはFVIIIおよび/またはFVIIIaの活性の低下ないし欠損によって発症および/または進展する疾患である。このような疾患としては、例えば上記の血友病A、FVIII/FVIIIaに対するインヒビターが出現している疾患、後天性血友病、フォンビルブランド病等を挙げることができるが、これら疾患に特に制限されない。
【0042】
本発明の別の一つの実施態様は、少なくとも本発明の抗体もしくは組成物を含む、上記疾患の予防および/又は治療する方法に用いるためのキットである。該キットには、その他、注射筒、注射針、薬学的に許容される媒体、アルコール綿布、絆創膏、または使用方法を記載した指示書等をパッケージしておくこともできる。
【0043】
また本発明の別の一つの実施態様は、本発明の抗体または組成物の、出血、出血を伴う疾患もしくは出血に起因する疾患の予防および/または治療剤の製造における使用に関する。
【0044】
また本発明の別の一つの実施態様は、本発明の抗体または組成物を投与する工程を含む、出血、出血を伴う疾患もしくは出血に起因する疾患を予防および/または治療する方法に関する。
【0045】
また本発明の別の一つの実施態様は、出血、出血を伴う疾患もしくは出血に起因する疾患の予防および/または治療において用いるための、本発明の抗体または組成物に関する。
【0046】
治療または予防目的で使用される本発明の抗体を有効成分として含む医薬組成物は、必要に応じて、それらに対して不活性な適当な薬学的に許容される担体、媒体等と混和して製剤化することができる。例えば、滅菌水や生理食塩水、安定剤、賦形剤、酸化防止剤(アスコルビン酸等)、緩衝剤(リン酸、クエン酸、ヒスチジン、他の有機酸等)、防腐剤、界面活性剤(PEG、Tween等)、キレート剤(EDTA等)、結合剤等を挙げることができる。また、その他の低分子量のポリペプチド、血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリン等の蛋白質、グリシン、グルタミン、アスパラギン、グルタミン酸、アスパラギン酸、メチオニン、アルギニン及びリシン等のアミノ酸、多糖及び単糖等の糖類や炭水化物、マンニトールやソルビトール等の糖アルコールを含んでいてもよい。注射用の水溶液とする場合には、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウムが挙げられ、適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、PEG等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポロキサマー188、HCO-50)等と併用してもよい。また、製剤中にヒアルロニダーゼ(hyaluronidase)を混合することによって、より大きな液量を皮下投与することも可能である(Expert Opin Drug Deliv. 2007 Jul;4(4):427-40.)。
また、必要に応じ本発明の抗体をマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入したり、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とすることもできる("Remington's Pharmaceutical Science 16th edition", Oslo Ed. (1980)等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、本発明の抗体に適用し得る(Langer et al., J.Biomed.Mater.Res. 15: 267-277 (1981); Langer, Chemtech. 12: 98-105 (1982);米国特許第3,773,919号;欧州特許出願公開(EP)第58,481号; Sidman et al., Biopolymers 22: 547-556 (1983);EP第133,988号)。
【0047】
本発明の医薬組成物の投与量は、剤型の種類、投与方法、患者の年齢や体重、患者の症状、疾患の種類や進行の程度等を考慮して、最終的には医師の判断により適宜決定されるものであるが、例えば前記二重特異性抗体の場合、1投与当たり約0.001〜約1000mg/kgである。好ましくは、約0.01 mg/kg〜約100 mg/kgである。投与間隔は、例えば前記二重特異性抗体の場合、少なくとも1日以上である。好ましくは、1週間、2週間、4週間、1カ月、3カ月、6カ月である。これらの投与量は患者の体重や年齢、投与方法などにより変動するが、当業者であれば適当な投与量を適宜選択することが可能である。投与期間も、患者の治癒経過等に応じて適宜決定することが好ましい。
【0048】
本発明の医薬組成物は、経口、非経口投与のいずれかによって患者に投与することができる。好ましくは非経口投与である。係る投与方法としては具体的には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などが挙げられる。
【0049】
本発明の医薬組成物は顆粒剤、散剤、錠剤、カプセル剤、溶剤、乳剤、あるいは懸濁剤等の経口剤、注射剤等とすることが出来る。
【0050】
また本発明は、本発明の抗体をコードする遺伝子あるいは核酸を提供する。また、本発明の抗体をコードする遺伝子あるいは核酸を遺伝子治療用ベクターに組込み、遺伝子治療を行うことも考えられる。
【0051】
本発明の別の一つの実施態様は、定常領域を含む抗体の活性を増強する方法であって、定常領域の少なくとも1つのアミノ酸残基を改変する方法に関する。好ましくはCH3領域又はヒンジ領域の少なくとも1つのアミノ酸残基を改変する方法が好ましい。特に好ましくはEUナンバリング434位を改変する方法であり、より好ましくはEUナンバリング434位のAsn(N)をTyr(Y)に改変する方法である。また特に好ましくはヒンジ領域を改変する方法であり、より好ましくはEUナンバリング216位〜230位をAAAC(配列番号:28)と改変する方法である。尚、EUナンバリング216位〜230位の一部を改変することで、EUナンバリング216位〜230位がAAACとなるように改変する方法も本発明に含まれる。また、上記改変を含む限り、その他の改変が含まれていてもよい。
【0052】
本発明の別の一つの実施態様は、FIXおよび/またはFIXa、ならびにFXに対する二重特異性抗体のFVIII様活性を増強する方法であって、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合している二重特異性抗体の定常領域の少なくとも1つのアミノ酸残基を改変する方法である。
【0053】
本発明の別の特定の一つの実施態様は、FIXおよび/またはFIXa、ならびにFXに対する二重特異性抗体のFVIII様活性を増強する方法であって、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合している二重特異性抗体のEUナンバリング434位のアミノ酸残基をTyr(Y)に改変する方法である。
【0054】
本発明の別の特定の一つの実施態様は、FIXおよび/またはFIXa、ならびにFXに対する二重特異性抗体のFVIII様活性を増強する方法であって、配列番号:1に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合し、配列番号:2に記載のアミノ酸配列からなるH鎖と配列番号:3に記載のアミノ酸配列からなるL鎖が会合している二重特異性抗体のEUナンバリングEUナンバリング216位〜230位のアミノ酸残基をAAACに改変する方法である。
【0055】
本発明の別の一つの実施態様は、定常領域を含む抗体の製造方法であって、(a) 定常領域の少なくとも1つのアミノ酸残基を改変することで改変前の抗体に比べ活性が増強されるように、該アミノ酸残基を含む抗体をコードする核酸を改変し、(b)宿主細胞を該核酸が発現するように培養し、(c)宿主細胞培養物から抗体を回収することを含む方法である。
【0056】
本明細書において用いる場合、「・・・を含む(comprising)」との表現により表される態様は、「本質的に・・・からなる(essentially consisting of)」との表現により表される態様、ならびに「・・・からなる(consisting of)」との表現により表される態様を包含する。
【0057】
本明細書において明示的に引用される全ての特許および参考文献の内容は全て本明細書に参照として取り込まれる。
本発明は、以下の実施例によってさらに例示されるが、下記の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
[実施例1]
抗FIXa/FX二重特異性抗体であるACE910はヒトIgG4アイソタイプを有する抗体である(J Thromb Haemost. 2014 Feb;12(2):206-213.)。ACE910(以下ACE910-Aとも記載する)は3種類の4本の鎖からなり、それぞれFIXaに対する重鎖をQ鎖、FXに対する重鎖をJ鎖、共通軽鎖をL鎖とする。ACE910-A(Q、J、L:配列番号1、2、3)(WO 2012/067176)をコントロール抗体として使用した。
Knobs into holes(Nat Biotechnol. 1998 Jul;16(7):677-81.)を用い、ヒトIgG1、2、4型のACE910を作製した。すなわち、ACE910-B-IgG1(Q、J、L:配列番号4、5、3)、ACE910-B-IgG2(Q、J、L:配列番号6、7、3)、および、ACE910-B-IgG4(Q、J、L:配列番号8、9、3)を作製し、ヒトIgGのアイソタイプの及ぼすFVIII様活性への影響を評価した。
ACE910は共通L鎖(WO2006/109592を参照して作製)とCH3/CH3界面制御(WO2006/106905を参照して作製)を用いた抗FIXa/FX二重特異性抗体であるが、二重特異性抗体を製造する方法は他にも報告されている(Drug Discov. Today. 2015 Jul;20(7):838-47.、WO2015/046467、WO2011/117329、WO2013/065708)。これらの方法を用いて、ACE910-Aの可変領域配列を有する二重特異性抗体を作製し、二重特異性抗体を製造する方法の及ぼすFVIII様活性への影響を評価した。具体的には、以下、ACE910-B-IgG4(Q、J、L:配列番号8、9、3)、ACE910-D1(重鎖Q、J:配列番号12、13)(軽鎖L1、L2:配列番号14、15)(WO2011/117329を参照して作製)、ACE910-D2(重鎖Q、J:配列番号16、17)(軽鎖L1、L2:配列番号18、19)(WO2011/117329を参照して作製)、ACE910-E(重鎖Q、J:配列番号20、21)(軽鎖L1、L2:配列番号22、23)(WO2013/065708を参照して作製)を作製し、FVIII様活性を評価した。
【0059】
これらの遺伝子全合成等の当業者公知の方法により行い、各種ACE910 variantを作製した。抗体の発現はHEK293FS (Invitrogen)を用い、精製はrecombinant protein A (GE healthcare)を用いて行い、当業者公知の方法により二重特異性抗体を調製した。
精製された二重特異性抗体のFVIII様活性(FXa産生促進活性)は、以下の方法で測定した。反応はすべて室温で行われた。0.1%牛血清アルブミンを含むトリス緩衝生理食塩水(以下、TBSBと称す)で希釈した抗体溶液5μLを、150 ng/mLのHuman Factor IXa beta (Enzyme Research Laboratories) 5μLと混合した後、384穴plate中にて室温で30分インキュベーションした。この混合液中の酵素反応は、24.7μg/mLのHuman Factor X (Enzyme Research Laboratories) 5μLを添加して開始させ、4分後、0.5 M EDTA 5μLを添加して停止させた。発色反応は、発色基質溶液5μLを添加することによって、開始させた。30分間の発色反応後、405 nmの吸光度変化はSpectraMax 340PC384 (Molecular Devices) を用いて測定した。
【0060】
ACE910-B-IgG1およびACE910-B-IgG4の活性を比較した結果を
図1に示した。ヒトIgG1アイソタイプであっても高いFVIII様活性を有することが確認された。これまでの報告では、FVIII様活性を有する抗FIXa/FX二重特異性抗体はヒトIgG4アイソタイプでなければ高い活性を示さなかった(特許文献1,2,3,4および非特許文献7)。本試験の結果から、ヒトIgG1であっても高いFVIII様活性を有する抗FIXa/FX二重特異性抗体が見いだされた。
【0061】
ACE910-B-IgG4およびACE910-D1、ACE910-D2、ACE910-Eの活性を比較した結果を
図2に示した。これらのACE910 variantの活性はACE910-Aとほぼ同等であることが確認され、ACE910の可変領域のFVIII様活性は二重特異性抗体を製造する方法の影響を受けないことが見いだされた。
【0062】
[実施例2]
ACE910-A(Q、J、L:配列番号1、2、3)と同一の可変領域配列を有するヒトIgG4二重特異性抗体であるACE910-B-IgG4(Q、J、L:配列番号8、9、3)あるいはACE910-C(Q、J、L:配列番号10、11、3)(WO2015/046467を参照して作製)に対して、PCRあるいは遺伝子全合成等の当業者公知の方法により、変異を導入し、各種ACE910 variantを作製した。抗体の発現および精製は実施例1の方法に従って実施した。導入した変異は以下の表1(ヒンジ領域以外への変異導入)および表2(ヒンジ領域への変異導入)にまとめた。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
表1および表2に示した各種ACE910 variantのうち、親抗体であるACE910-Aと比較してFVIII様活性が上昇したのは、T08(Q、J、L:配列番号24、25、3)およびT46P(Q、J、L:配列番号26、27、3)であった。その他のACE910 variantはACE910と同等あるいは以下のFVIII様活性であった。ACE910、T08およびT46PのFVIII様活性を
図3、
図4に示す。