(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
実際の電子顕微鏡の活用形態において、その装置の持つ最大出力が常に求められるわけではなく、多くの場合、限定的な条件で利用されている。例えば、走査電子顕微鏡においては加速電圧が最大30kVという仕様の製品が多いが、必ずしもその最大加速電圧で使用されるわけではなく、15kVや5kVなど低い加速電圧で運用されることが多い。これは、加速電圧を低く抑えることにより、試料に対する電子線の侵入距離が小さくなり、表面近傍の情報を得たり微小な物体を検出したりする性能が向上するからである。また、電子線照射による試料破壊の程度を抑えるために低加速電圧にする場合もある。低加速電圧の場合、電子線のエネルギーは低いため、その分必要となる磁界レンズの強さは弱くしなければならない。加速電圧をUとした場合、磁界レンズのコイルに流す電流は一般にU
1/2に比例する。上記の従来の磁界レンズでは、低加速電圧で運用する場合であっても、磁界レンズの最大起磁力に応じた熱電力消費量が維持されるように補助コイルに供給する電流が制御されるため、低加速電圧で日常的に運用する場合に必要以上の無駄な電力を消費していることになる。
【0005】
電磁コイルの発熱量を一定にして安定化させているとはいえ、コイル部分は周辺部材よりも温度は高いはずである。よって、装置電源がオフの状態(コイル温度が周辺部材や大気と近い温度の状態)から、装置を始動させてコイルに電流を流すと、ジュール熱でコイル温度は上昇し、やがてコイルと周辺部材との間で温度は平衡に達し、それ以降は熱的安定となる。その平衡に達するまではコイルや周辺部材の温度は上昇し、その間はドリフトが発生する。そのため、最初の装置始動時はドリフトが許容量以下に収まるまでいわゆるドリフト待ちをしなければならない。ドリフト待ちの時間は数分から数10分或いはそれ以上であり、平衡に達したときの温度が高いほど、ドリフト待ちの時間は長くなる。上述したように、従来の磁界レンズでは、必要以上の無駄な電力を消費しており、必要以上に大きな発熱量になっている。すなわち、コイル及び周辺部材の温度を必要以上に高くしてしまっており、最初の装置始動時に必要以上のドリフト待ちを強いられていることになる。
【0006】
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、本発明のいくつかの態様によれば、必要以上の電力消費を抑え、装置始動時の熱平衡に達するまでの時間を短くすることが可能な荷電粒子線装置及び荷電粒子線装置の制御方法を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る荷電粒子線装置は、一対のコイルからなる電磁コイルを有する磁界レンズを備えた荷電粒子線装置であって、ユーザの操作に基づいて、前記磁界レンズの最大起磁力を規定する最大電流値を設定する設定部と、前記電磁コイルで消費される熱電力が、設定された最大電流値に応じた熱電力で一定となるように、設定された最大電流値に応じた電流範囲内で前記一対のコイルのそれぞれに供給する電流を制御する電流制御部とを含
み、前記設定部は、予め用意された加速電圧の上限の複数の選択肢の中からユーザの操作により指定された加速電圧の上限に基づいて、前記最大電流値を設定する。
(2)本発明に係る荷電粒子線装置は、一対のコイルからなる電磁コイルを有する磁界レンズを備えた荷電粒子線装置であって、ユーザの操作に基づいて、前記磁界レンズの最大起磁力を規定する最大電流値を設定する設定部と、前記電磁コイルで消費される熱電力が、設定された最大電流値に応じた熱電力で一定となるように、設定された最大電流値に応じた電流範囲内で前記一対のコイルのそれぞれに供給する電流を制御する電流制御部とを含み、前記設定部は、予め用意された観察倍率の制限値の複数の選択肢の中からユーザの操作により指定された観察倍率の制限値に基づいて、前記最大電流値を設定する。
(3)本発明に係る荷電粒子線装置は、一対のコイルからなる電磁コイルを有する磁界レンズを備えた荷電粒子線装置であって、ユーザの操作に基づいて、前記磁界レンズの最大起磁力を規定する最大電流値を設定する設定部と、前記電磁コイルで消費される熱電力が、設定された最大電流値に応じた熱電力で一定となるように、設定された最大電流値に応じた電流範囲内で前記一対のコイルのそれぞれに供給する電流を制御する電流制御部とを含み、前記設定部は、予め用意された電子ビーム径の制限値の複数の選択肢の中からユーザの操作により指定された電子ビーム径の制限値に基づいて、前記最大電流値を設定する。
【0008】
また、本発明に係る荷電粒子線装置の制御方法は、一対のコイルからなる電磁コイルを有する磁界レンズを備えた荷電粒子線装置の制御方法であって、ユーザの操作に基づいて、前記磁界レンズの最大起磁力を規定する最大電流値を設定する設定ステップと、前記電磁コイルで消費される熱電力が、設定された最大電流値に応じた熱電力で一定となるように、設定された最大電流値に応じた電流範囲内で前記一対のコイルのそれぞれに供給する電流を制御する電流制御ステップとを含
み、前記設定ステップでは、予め用意された加速電圧の上限の複数の選択肢の中からユーザの操作により指定された加速電圧の上限に基づいて、前記最大電流値を設定する。
また、本発明に係る荷電粒子線装置の制御方法は、一対のコイルからなる電磁コイルを有する磁界レンズを備えた荷電粒子線装置の制御方法であって、ユーザの操作に基づいて、前記磁界レンズの最大起磁力を規定する最大電流値を設定する設定ステップと、前記電磁コイルで消費される熱電力が、設定された最大電流値に応じた熱電力で一定となるように、設定された最大電流値に応じた電流範囲内で前記一対のコイルのそれぞれに供給する電流を制御する電流制御ステップとを含み、前記設定ステップでは、予め用意された観察倍率の制限値の複数の選択肢の中からユーザの操作により指定された観察倍率の制限値に基づいて、前記最大電流値を設定する。
また、本発明に係る荷電粒子線装置の制御方法は、一対のコイルからなる電磁コイルを有する磁界レンズを備えた荷電粒子線装置の制御方法であって、ユーザの操作に基づいて、前記磁界レンズの最大起磁力を規定する最大電流値を設定する設定ステップと、前記電磁コイルで消費される熱電力が、設定された最大電流値に応じた熱電力で一定となるように、設定された最大電流値に応じた電流範囲内で前記一対のコイルのそれぞれに供給する電流を制御する電流制御ステップとを含み、前記設定ステップでは、予め用意された電子
ビーム径の制限値の複数の選択肢の中からユーザの操作により指定された電子ビーム径の制限値に基づいて、前記最大電流値を設定する。
【0009】
本発明によれば、ユーザが最大電流値を設定できるように構成し、設定された最大電流値に応じた熱電力消費量を維持するように、設定された最大電流値に応じた電流範囲内で一対のコイルに供給する電流を制御することで、必要以上の電力消費を抑え、装置始動時の熱平衡に達するまでの時間を短くすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態について図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0013】
図1は、本実施形態に係る荷電粒子線装置の構成の一例を模式的に示す図である。ここでは、荷電粒子線装置が、走査電子顕微鏡(SEM)の構成を有する場合について説明するが、本発明に係る荷電粒子線装置は、透過電子顕微鏡(TEM)の構成を有していてもよいし、走査透過電子顕微鏡(STEM)の構成を有していてもよい。なお本実施形態の荷電粒子線装置は
図1の構成要素(各部)の一部を省略した構成としてもよい。
【0014】
荷電粒子線装置1は、荷電粒子線装置本体10と、処理部100と、操作部110と、表示部120と、記憶部130とを含む。
【0015】
荷電粒子線装置本体10は、電子源11と、集束レンズ12と、偏向器13と、対物レンズ14と、試料ステージ15と、電子検出器16とを備える。
【0016】
電子源11は、電子線を発生させる。電子源11は、例えば、陰極から放出された電子
を陽極で加速し電子線を放出する電子銃である。
【0017】
集束レンズ12(コンデンサレンズ)は、電子源11から放出された電子線を集束させて電子プローブを形成するためのレンズである。集束レンズ12によって、電子プローブの径(電子ビーム径)やプローブ電流(照射電流量)を制御することができる。対物レンズ14は、試料Sの直前に配置された電子プローブを形成するためのレンズである。集束レンズ12と対物レンズ14は磁界レンズであり、集束レンズ12と対物レンズ14の少なくとも一方は、一対のコイルからなる電磁コイルを有して構成される。
【0018】
偏向器13(走査コイル)は、集束レンズ12と対物レンズ14とによって形成された電子プローブ(電子線)を偏向させる。偏向器13は、電子プローブを、試料S上で走査するために用いられる。また、偏向器13は、試料Sの任意の位置に電子プローブを移動させて、当該位置を電子プローブで照射するためにも用いられる。
【0019】
試料ステージ15は、試料Sを保持し、試料Sを水平方向や垂直方向に移動させ、また、試料Sを垂直軸回りに回転させる。試料ステージ15は、試料Sを移動・回転させるための駆動機構を有している。
【0020】
電子検出器16は、電子プローブが試料Sに照射(走査)されることにより試料Sから放出された二次電子や反射電子を検出する。電子検出器16の出力信号(二次電子や反射電子の強度信号)は、増幅器20によって増幅された後、処理部100に供給される。
【0021】
操作部110は、ユーザが操作情報を入力するためのものであり、入力された操作情報を処理部100に出力する。操作部110の機能は、キーボード、マウス、ボタン、タッチパネル、タッチパッドなどのハードウェアにより実現することができる。
【0022】
表示部120は、処理部100で生成された画像を出力するものであり、その機能は、操作部110としても機能するタッチパネルや、LCD、CRTなどにより実現できる。
【0023】
記憶部130は、処理部100の各部としてコンピュータを機能させるためのプログラムや各種データを記憶するとともに、処理部100のワーク領域として機能し、その機能はハードディスク、RAMなどにより実現できる。
【0024】
処理部100は、荷電粒子線装置本体10(電子源11、集束レンズ12、偏向器13、対物レンズ14、試料ステージ15)を制御する処理や、増幅器20によって増幅された検出信号を走査信号に同期させて画像化し試料Sの走査電子顕微鏡像を取得する処理、表示制御等の処理を行う。処理部100の機能は、各種プロセッサ(CPU、DSP等)などのハードウェアや、プログラムにより実現できる。処理部100は、設定部101、電流制御部102を含む。
【0025】
設定部101は、ユーザの操作(操作部110で入力された操作情報)に基づいて、対物レンズ14(磁界レンズ)の最大起磁力を規定する最大電流値を設定する。また、設定部101は、ユーザの操作により指定された加速電圧の上限に基づいて前記最大電流値を設定してもよい。処理部100は、ユーザが最大電流値や加速電圧の上限を指定するための設定画面を表示部120に表示させる。
【0026】
電流制御部102は、荷電粒子線装置本体10に備わる磁界レンズ(集束レンズ12及び/又は対物レンズ14)の電源を制御して、磁界レンズの電磁コイルで消費される熱電力が、設定部101で設定された最大電流値に応じた熱電力で一定となるように、設定部101で設定された最大電流値に応じた電流範囲内で電磁コイルを構成する一対のコイル
のそれぞれに供給する電流を制御する。
【0027】
図2は、荷電粒子線装置本体10に備わる磁界レンズの構成の一例を模式的に示す断面図である。磁界レンズは、それぞれ導線ワイヤを巻いて作成した一対のコイル30a,30bからなる電磁コイル30と、電磁コイル30を冷却するための冷却板31と、電磁コイル30を囲むように配置されたヨーク32とを含んで構成されている。
図2に示すように、磁界レンズは回転対称の形状となっており、回転対称軸を光軸OAとしてその近傍を電子線が通るように構成されている。ヨーク32は、鉄などの透磁率の高い材料で作成され、光軸OAに面する部分には切欠き(レンズギャップ)が設けられている。コイル30aには電源33aから電流が供給され、コイル30bには電源33bから電流が供給される。電源33a,33bはそれぞれバイポーラ電源であり、電源33a,33bの出力は、電流制御部102によって制御される。なお、ここでは、電源33a,33bの両方がバイポーラ電源である場合について説明するが、電源33a,33bのいずれか一方がバイポーラ電源であればよい。電磁コイル30(一対のコイル30a,30b)に電流を供給することで発生した磁力線はヨーク32を流れ、ヨーク32の切欠き部分から磁力線が漏洩して磁場が発生し、光軸OA近傍を通る電子線に対してレンズ効果を及ぼす。
【0028】
一対のコイル30a,30bがそれぞれ同じ巻き数nで作成されているものとし、コイル30a,30bの抵抗値をrとする。コイル30aに供給される電流値をi
1、コイル30bに供給される電流値をi
2とすると、コイル30aの起磁力J
1は、J
1=n×i
1で表され、コイル30bの起磁力J
2は、J
2=n×i
2で表される。また、電磁コイル30に供給される電流値をiとすると、磁界レンズの起磁力Jは、J=n×iで表される。
【0029】
ここで、磁界レンズの最大の起磁力をJ
maxとしたとき、J
max=n×i
maxとなる電流値i
maxを最大電流値と定義する。最大起磁力J
maxを得るために必要な電流値i
1,i
2は、最大電流値i
maxを用いて、
i
1=i
2=i
max/2
で表される。このとき、コイル30a,30bで消費される熱電力P
1,P
2(コイル30a,30bで発生するジュール熱)は、
P
1=r×i
12=r×(i
max/2)
2=r×i
max2/4
P
2=r×i
22=r×(i
max/2)
2=r×i
max2/4
で表され、電磁コイル30で消費される熱電力Pは、
P=r×i
max2/4+r×i
max2/4=r×i
max2/2
となる。電流制御部102は、電磁コイル30で消費される熱電力Pがr×i
max2/2(最大電流値i
maxに応じた熱電力)で一定となるように、コイル30a,30bのそれぞれに供給する電流値i
1,i
2を制御する。具体的には、必要とする磁界レンズの起磁力Jから求められる電流値i(i=J/n)と、最大電流値i
maxから、以下の式(1)により電流値i
1,i
2を求める。
【0030】
【数1】
式(1)に基づく電流制御を行うことで、電磁コイル30で消費される熱電力Pを一定値(r×i
max2/2)に維持しつつ、コイル30a,30bのそれぞれに供給する電流値i
1,i
2を最大電流値i
maxに応じた電流範囲(電流値i
1を−i
max/2〜
i
max/√2の範囲、電流値i
2を−i
max/√2〜i
max/2の範囲)で制御して、磁界レンズの起磁力Jを−J
max〜J
maxの範囲で可変とすることができる。
【0031】
図3は、磁界レンズの起磁力Jと一対のコイル30a,30bの起磁力J
1,J
2との関係をプロットしたグラフである。
図3に示すグラフの横軸は磁界レンズの起磁力Jを最大起磁力J
maxで正規化した値を示し、縦軸はコイル30a,30bの起磁力J
1,J
2を最大起磁力J
maxで正規化した値を示している。
図3に示すように、コイル30a,30bの起磁力J
1,J
2が楕円の軌跡を描くように電流制御することで、電磁コイル30で消費される熱電力Pを一定値に維持することができる。例えば、必要な磁界レンズの起磁力J(正規化された起磁力J/J
max)が図中Aで示す値である場合、コイル30aの起磁力J
1(正規化された起磁力J
1/J
max)が図中Bで示す値となるように電流値i
1を制御するとともに、コイル30bの起磁力J
2(正規化された起磁力J
2/J
max)が図中Cで示す値となるように電流値i
2を制御する。なお、磁界レンズの起磁力Jを0〜J
maxの範囲で可変とする場合、コイル30aの起磁力J
1を負の値とする必要がなくなるため、コイル30bの電源33bのみをバイポーラ電源とし、コイル30aの電源33aをユニポーラ電源とすればよい。
【0032】
本実施形態に係る荷電粒子線装置1は、最大電流値i
maxをユーザが設定できるように構成されている。例えば、表示部120に表示された設定画面において、ユーザが任意の最大電流値i
maxを入力して設定できるようにしてもよいし、予め用意された最大電流値i
maxの複数の選択肢をユーザに提示し、これら複数の選択肢の中からユーザによって選択された最大電流値i
maxを設定するようにしてもよい。
【0033】
また、設定画面において、予め用意された加速電圧の上限の複数の選択肢(例えば、30kV、15kV、5kV、2kV)をユーザに提示し、これら複数の選択肢の中からユーザによって選択(指定)された加速電圧の上限に基づいて最大電流値i
maxを設定するようにしてもよい。例えば、予め、複数の加速電圧の上限毎の最大電流値i
maxをテーブル情報として記憶部130に記憶しておき、設定部101が、当該テーブル情報を参照して、ユーザによって選択された加速電圧の上限に対応付けられた最大電流値i
maxを設定する。加速電圧の上限に対応する最大電流値i
maxは、磁界レンズの荷電粒子線装置における役割(本実施形態では、対物レンズであるか集束レンズであるか)や磁界レンズの機械的構造によって決まるが、加速電圧の上限が低いほど、対応する最大電流値i
maxは低くなる。加速電圧の上限の複数の選択肢をユーザに提示する際には、
図4に示すような、加速電圧の上限毎の制御カーブ(磁界レンズの起磁力Jと一対のコイル30a,30bの起磁力J
1,J
2との関係をプロットしたカーブ)を表示部120に表示するようにしてもよい。この例では、加速電圧の上限の複数の選択肢として、30kV、15kV、5kVの制御カーブを提示している。なお、加速電圧に代えて電子ビーム径に制限を加えた複数の選択肢をユーザに提示し、ユーザによって選択された電子ビーム径の制限値に基づいて最大電流値i
maxを設定するようにしてもよい。また、荷電粒子線装置が透過電子顕微鏡である場合には、観察倍率に制限を加えた複数の選択肢をユーザに提示し、ユーザによって選択された観察倍率の制限値に基づいて最大電流値i
maxを設定するようにしてもよい。
【0034】
電流制御部102は、設定部101によって設定された最大電流値i
maxと、観察条件(加速電圧など)に応じて求められる必要な起磁力Jに基づく電流値iとを用いて、式(1)に基づいてコイル30a,30bのそれぞれに供給する電流値i
1,i
2を算出する。なお、ユーザによって指定された加速電圧の上限に基づき最大電流値i
maxを設定した場合、実際の操作時に、指定された加速電圧の上限を超えた値に加速電圧を設定することを禁止することが装置の安定稼働の観点から好ましいが、それよりも操作の多様性を重視する場合には上限を超えた設定を許容するというオプションを用意するようにしても
よい。
【0035】
本実施形態によれば、ユーザが最大電流値i
maxを設定できるように構成し、設定された最大電流値i
maxに応じた熱電力消費量(r×i
max2/2)を維持するように、設定された最大電流値i
maxに応じた電流範囲(−i
max/√2〜i
max/√2)で一対のコイル30a,30bに供給する電流値i
1,i
2を制御することで、必要以上の電力消費を抑え、装置始動時の熱平衡に達するまでの時間を短くすることができる。すなわち、ユーザは、低加速電圧で荷電粒子線装置を運用する場合等、磁界レンズに大きな起磁力を必要としない場合に、最大電流値i
max(例えば、最大電流値i
maxを規定する加速電圧の上限)として低い値を設定することで、電磁コイルの熱電力消費量を低く抑えて無駄な電力消費をなくすことができ、また、電磁コイル及びその周辺部材の温度上昇を低く抑えることができるため、電磁コイル及び周辺部材が熱平衡に達してドリフトが十分に小さくなるまでの待ち時間を短くすることができる。上述した電流制御は、荷電粒子線装置に備わる複数の磁界レンズの一部について行うようにしてもよいし、荷電粒子線装置に備わる全ての磁界レンズについて行うようにしてもよい。
【0036】
上記例では、電磁コイルを構成する一対のコイルとして、2つのコイルを別々に作成して組み合わせたものを用いる場合について説明したが、電磁コイルを構成する一対のコイルとして、2本の導線ワイヤを同時に並列で巻いて(バイファイラ巻きで)作成したコイルを用いてもよい。
【0037】
なお、本発明は、上述の実施の形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。