(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6954916
(24)【登録日】2021年10月4日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】付加製造装置
(51)【国際特許分類】
B29C 64/259 20170101AFI20211018BHJP
B29C 64/124 20170101ALI20211018BHJP
B29C 64/264 20170101ALI20211018BHJP
B29C 64/30 20170101ALI20211018BHJP
B29C 64/245 20170101ALI20211018BHJP
B29C 64/364 20170101ALI20211018BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20211018BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20211018BHJP
【FI】
B29C64/259
B29C64/124
B29C64/264
B29C64/30
B29C64/245
B29C64/364
B33Y30/00
B33Y10/00
【請求項の数】13
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-548250(P2018-548250)
(86)(22)【出願日】2016年12月2日
(65)【公表番号】特表2018-535864(P2018-535864A)
(43)【公表日】2018年12月6日
(86)【国際出願番号】CH2016000152
(87)【国際公開番号】WO2017091913
(87)【国際公開日】20170608
【審査請求日】2019年11月26日
(31)【優先権主張番号】01771/15
(32)【優先日】2015年12月4日
(33)【優先権主張国】CH
(73)【特許権者】
【識別番号】518196435
【氏名又は名称】コーブクス・アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】シュミット,マルコ
【審査官】
▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭62−035966(JP,A)
【文献】
特開2002−036373(JP,A)
【文献】
特開2007−145021(JP,A)
【文献】
特開平07−060843(JP,A)
【文献】
特開2001−096629(JP,A)
【文献】
特開2002−036372(JP,A)
【文献】
特開平04−156325(JP,A)
【文献】
特開平05−318604(JP,A)
【文献】
特表平05−503257(JP,A)
【文献】
特開平05−237942(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00−64/40
B33Y 10/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合可能な液体(23、43)から三次元の物体(26、46)を層状に製造するための付加製造装置であって、
前記液体(23、43)を収容するための、底面(28、48)を備える槽(22、42)と、
前記物体(26、46)を積み上げる台であり、前記槽(22、42)に対して上下に移動可能である担体プラットフォーム(25、45)と、
第1及び第2の面(53、55)を備え、前記液体(23、43)を前記第1の面(53)で重合させて物体層(30、50)にする部分である構造要素(31、51)と、
放射線透過性の前記構造要素(31、51)の前記第2の面(55)を照射する放射線源(24、44)と、を備え、
前記構造要素(51)は前記担体プラットフォーム(45)の上方に配置されており、前記構造要素(51)と前記槽(42)との間の間隔は相互に対して変更可能である装置において、
前記製造装置(41)は異なる液体を充填した少なくとも2つの槽を備え、第1の液体(43)を充填した前記槽(42)は第2の液体を充填した別の槽と交換可能であり、
前記担体プラットフォーム(45)と前記構造要素(51)は、共通のサポート(52)に支持されており、前記サポート(52)は前記槽(42)の内と外に移動可能であることを特徴とする装置(21、41)。
【請求項2】
前記担体プラットフォーム(45)は、少なくとも垂直方向へ移動可能に前記サポート(52)に支持されており、このことから、前記担体プラットフォーム(45)と前記構造要素(51)との間の前記間隔は変更可能であることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記放射線源(44)は、少なくとも垂直方向へ移動可能に前記サポート(52)に支持されていることを特徴とする、請求項1又は請求項2のいずれかに記載の装置。
【請求項4】
前記重合可能な液体(43)の均質化及び温度調整を担う温度制御可能な均質化ユニット(57)は、前記底面(48)の裏側に配置されていることを特徴とする、請求項1から請求項3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記均質化ユニットは、磁気攪拌機(57)であることを特徴とする、請求項4に記載の装置。
【請求項6】
前記構造要素(51)は、分離膜(61)を含むことを特徴とする、請求項1から請求項5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
前記分離膜(61)は、パーフルオロエチレンプロピレン(FEP)から製造されていることを特徴とする、請求項6に記載の装置。
【請求項8】
前記分離膜(61)は、気体透過性であることを特徴とする、請求項6に記載の装置。
【請求項9】
前記構造要素(51)は、担体プレート(63)を含むことを特徴とする、請求項1から請求項8のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
前記担体プレート(63)は、薄膜コーティング(65)を有することを特徴とする、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
重合可能な液体(23、43)から三次元の物体(26、46)を層状に製造するための付加製造装置であって、
前記液体(23、43)を収容するための、底面(28、48)を備える槽(22、42)と、
前記物体(26、46)を積み上げる台であり、前記槽(22、42)に対して上下に移動可能である担体プラットフォーム(25、45)と、
第1及び第2の面(53、55)を備え、前記液体(23、43)を前記第1の面(53)で重合させて物体層(30、50)にする部分である構造要素(31、51)と、
放射線透過性の前記構造要素(31、51)の前記第2の面(55)を照射する放射線源(24、44)と、を備え、
前記構造要素(51)は前記担体プラットフォーム(45)の上方に配置されており、前記構造要素(51)と前記槽(42)との間の間隔は相互に対して変更可能である装置において、
前記底面(48)の前記裏側に前記重合可能な液体(43)の温度を調整するための温度制御ユニット(57)が配置され、
前記担体プラットフォーム(45)と前記構造要素(51)は、共通のサポート(52)に支持されており、前記サポート(52)は前記槽(42)の内と外に移動可能であることを特徴とする装置(21、41)。
【請求項12】
前記構造要素(51)に対する前記槽(42)の高さを調整して、前記構造要素(51)を、前記槽(42)に形成される液面(49)の上方、前記液面(49)上又は前記液体(43)中に位置決めするように構成されていることを特徴とする、請求項1から請求項11のいずれかに記載の装置(21、41)。
【請求項13】
前記構造要素(51)の前記第1の面(53)に負圧又は保護ガス雰囲気を発生させるように構成されていることを特徴とする、請求項1から請求項12のいずれかに記載の装置(21、41)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前提部分に基づき重合可能(架橋可能)な液体から三次元の物体を層状に製造するための付加製造装置、ならびに請求項13の前提部分に基づき重合可能な液体から三次元の物体を層状に製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
付加製造装置分野における従来技術は、現在、2種類の装置とそれに関連する製造方法によって形成される。
【0003】
いわゆるトップダウン方式の場合、付加製造装置は、紫外線硬化樹脂が供給されている槽を有している。層状に構築される物体は樹脂の液面に一層ごとに積み上げられ、このとき、樹脂の表面には、構築しようとする層の形に紫外線光源が照射される。これにより、層は樹脂表面において望ましい形に硬化する。物体は作製プラットフォーム上に構築され、このときプラットフォームは、物体が層ごとに完全に積み上げられるまで、樹脂の表面から遠ざかっていく。このトップダウン方式には、摩耗部品がないという利点がある。しかしながら、樹脂表面には表面張力があるために、トップダウン方式で製造される物体の形状精度は制限される。樹脂の表面が規定された表面にならないことから、必然的に各層の表面も比較的不正確である。
【0004】
物体の形状精度を改善するため、いわゆるボトムアップ方式が開発された。この場合、構築しようとする物体の層は、樹脂表面ではなく、樹脂槽の底面に積み上げられる。物体は、プラットフォームが樹脂槽の底面から上方へ移動することで構築されるので、トップダウン方式と比べ少ない量の樹脂が槽内にあれば十分である。層を積み上げるため、底面と物体との間にいつでも樹脂が流れ込むように、底面は樹脂で覆われている必要がある。紫外線光源は底面の下に配置されるので、底面は紫外線に対して透過性である必要がある。
【0005】
硬化した各層を底面から剥がすためには、底面に分離層を装備する必要がある。この分離層は、硬化した各物体層の規定された表面となる。これにより、ボトムアップ方式で製造された物体は、高い寸法精度を有している。しかし、硬化した層を剥離する度に、分離層に機械的な負荷がかかるため、この分離層は摩耗部品と見なされ、常に新しい分離層と交換する必要が生じる。もう1つの欠点として、単純な樹脂しか作製材料として使用できない点がある。なぜなら、この装置内では樹脂と充填材を均質化できず、また高い粘性を備える樹脂を処理できないからである。
【0006】
欧州特許第0467100A1号では、透明なバリアプレートと物体テーブルとの間に三次元の物体が層状になっている付加製造装置を開示している。物体テーブルは、硬化する液体を充填した反応体の中に位置決めされている。プレートは液体の表面に位置決めされている。このプレートに上から放射線を当てることにより、液体はプレートの裏面で直接硬化され、規定の外部輪郭を持つ層になる。振動装置を使ってプレートに振動を加えると、三次元の物体の硬化層からプレートを取り外すことができる。次に、物体テーブルが次の物体層の厚みだけ下げられ、これによってプレートと最上部の硬化層との間に液体が流れ込む。次の層は、三次元の物体が完成するまで硬化される。この装置により、硬化した物体層を保護しながらプレートから取り外すことが可能になる。これにより、細部に忠実で、正確な物体を製造することが可能になる。しかしながら、放射線下で硬化可能なさまざまな液体を交換する作業は、実際に可能ではあっても、非常に手間がかかる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許第0467100A1号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
説明した従来技術の欠点から、本発明の課題は、上述の欠点を有しない業界標準の付加製造装置を開発することである。もう1つの目的は、素材又は作製材料としてのさまざまな機能材料を大量に処理できる付加製造装置を提案し、さまざまな素材を迅速に交換できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、重合可能な液体から三次元の物体を層状に製造する付加製造装置において、この製造装置が異なる液体を充填した少なくとも2つの槽を備え、第1の液体を充填した槽が第2の液体を充填した別の槽と交換可能であることによって解決される。槽には液体しか入っていないので、槽は、別の液体が入った別の槽と迅速かつ清潔に交換することができる。従って、液体の交換では、槽又は容器を空にし、洗浄及び再充填するという手間のかかる作業は行われず、単に2つの容器を交換するだけでよい。戻された容器又は槽は密閉できるので、必要に応じて保管することができる。従って、充填材の有無にかかわらず、幅広い種類の重合可能な液体が利用可能になる。アジテーターの取外し及び清掃を不要にするため、各容器にアジテーターが装備されていてよい。構造要素に対して槽の位置を変更できることから、この装置は非常に柔軟性があり、さまざまな種類の重合可能又は架橋可能な液体に適合し、また製造するさまざまな三次元の物体にも対応可能である。構造要素は、プリントのプロセス中に槽又は液体の上部、すなわち液面上又は液体中に配置することができる。
【0010】
本発明の特に好ましい実施形態では、担体プラットフォームと構造要素が共通のサポートに支持されており、このサポートは槽の内と外に移動可能である。サポートの上昇により、同時に、すべての取付け部品も槽から取り出される。槽は、その中の重合可能な液体と一緒にホルダーから簡単に取り外すことができる。従って、取付け部品を槽から取り外す時間のかかる作業を省略できる。同様に、別の液体の入った別の槽も、専用のホルダーに簡単にセットできる。物体の付加製造を開始するには、サポートを槽の中に入れるだけで済む。サポートの槽内への移動は、これによって液体が混ぜられるため、液体の追加的な均質化が不要になるという利点もある。
【0011】
本発明のもう1つの好ましい実施形態では、担体プラットフォームが少なくとも垂直方向へ移動可能にサポートに支持されており、このことから、担体プラットフォームと構造要素との間の間隔は変更可能である。従って、サポートには、層状に物体を構築するために必要な線形の移動装置も含まれている。サポートは、担体プラットフォーム及び構造要素と共にユニットを形成しており、このユニットは唯一の垂直運動によって槽の内外へ移動が可能である。
【0012】
放射線源は、少なくとも垂直方向へ移動可能にサポートに支持されているのが有利であると判明した。構造要素に対して放射線源が移動可能であることにより、物体層形成のテンプレートとして用いる画像の解像度を迅速に設定し、調整することが可能になる。
【0013】
本発明は、有利には、重合可能な液体の均質化及び温度調整を担う温度制御可能な均質化ユニットが底面の裏側に配置されていることを特徴としている。従って、液体の処理温度を液体の特性に個別に合わせることができる。特に、液体の粘性は、液体が層に対して特に良く重合できる値に調整可能である。また、ホモジナイザーによって充填材を均質に液体の中に分配できることにより、充填材及び/又は高粘性を有する液体の加工も可能である。従来技術の装置では加工できないか、又は加工が非常に難しい機能材料も処理することができる。例えば、セラミック製、金属製又は鉱物製充填材を有する液体を処理することも考えられる。
【0014】
均質化ユニットが磁気攪拌機である場合は有利であることが判明した。磁気攪拌機は広く普及している実験器具の1つであるため、コストが安く、完成されている。この磁気攪拌機には、加熱可能又は冷却可能なプレートと、いわゆるアジテーターとが含まれている。アジテーターを液体内に挿入し、磁力によって回転させる。槽はプレート上にセットされるので、製品交換のためにいつでも取外し可能である。ホモジナイザーとしては、液体への超音波作用、機械的に動く攪拌機又は容器の運動も考えられる。
【0015】
本発明は、有利には、槽が上下に移動可能であることを特徴としている。これにより、3つの生産モードを実現することができる。一方で、構造要素は、槽のポジションによって液面の上方に配置することができる。従って、層構築は液体の外で行われる。他方では、構造要素が液面上に来るように槽を位置決めすることもできる。これにより、層構築は液体の内部で行われる。槽はまた、構造要素が液体内にあるように位置決めすることも可能である。従って、製造モードは、重合可能な液体のさまざまな特性に合わせることができる。槽はまた、その移動性により、とりわけ簡単に装置から取り外すことができる。
【0016】
有利には、構造要素が槽の外部又は内部に配置可能である。もっとも有利であるのは、これらの配置が、槽の垂直方向への移動性によって達成されることである。また、構造要素を垂直方向に移動可能にすることも考えられるであろう。これにより、上述した生産モードを実現できる。
【0017】
もう1つの実施形態では、構造要素が分離膜を有している。好ましくは、この分離膜は、硬化した重合物体層が簡単に剥がれる非粘着性材料から製造されている。
【0018】
分離膜がパーフルオロエチレンプロピレン(FEP)から製造されている場合は特に好ましい。なぜなら、この材料は、多くの紫外線硬化樹脂で非粘着的に作用するからである。有利には分離膜が気体透過性であり、それによって、構造要素の最初の面に抑制材料を提供できる。そのような抑制材料は、分離膜から漏れ出ることで液体の適切な重合化を可能にする。
【0019】
構造要素が担体プレートを有している場合は有利であることが判明した。担体プレートは、構造要素の安定化に働くため、構造要素を装置内に独立して、安定的に配置することができる。分離膜は担体プレートに張着されていてよい。好ましくは、担体プレートが、ガラス又はプラスチックなどの透明な材料から製造されている。
【0020】
有利には、非粘着コーティングは、薄膜コーティングとして実現されていてよい。薄膜技術から、優れた非粘着特性を有する多数の材料が知られている。
【0021】
もう1つの好ましい実施形態では、構造要素に振動を加えることができる。この振動により、重合した物体層は構造要素から簡単に剥がれるようになる。振動はまた、構造要素に付着する気泡を解消する場合にも有用である。
【0022】
槽に対する構造要素の設定角度を調整できる場合は有利であることが判明した。構造要素の第1の面に物体が移動する場合、第1の面から気泡を押し出すために、この構造要素が斜めに設定されている場合は有利である。この構造要素は、別の物体層を構築している間は水平に戻すことができる。
【0023】
本発明のもう1つの態様は、請求項12の前提部分に基づく付加製造装置に関する。この装置では、底面の裏側に重合可能な液体の温度を調整するための温度制御ユニットが配置されている。この装置は、従属請求項2〜4及び6〜11の特徴とも組み合わせることができる。
【0024】
本発明のもう1つの態様は、請求項13の前提部分に基づき重合可能な液体から三次元の物体を層状に製造するための装置に関する。本発明に基づき、槽は構造要素の下部に配置され、担体プラットフォームは、物体を層状に構築している間、槽の底面方向に移動する。この配置により、高い精密さと寸法精度を持つ物体の製造が可能となり、重合可能な液体を清潔に取り扱うことができ、さらには多くのさまざまな機能材料を物体の構築に使用することが可能となる。
【0025】
特に好ましい実施形態では、重合可能な液体の最適なプロセスパラメータを設定するために、槽内の液体を均質化し、プロセス温度に設定して、構造空間温度を調整する。構造空間とは、ハウジングによって境界され、光源以外の装置のコンポーネントが配置されている空間を意味する。プロセスパラメータの設定は、ホモジナイザー、特に磁気攪拌機によって行うことができる。磁気攪拌機のアジテーターは槽の底面で攪拌可能である。なぜなら、物体は槽上の担体プラットフォームの上方で構築されるため、アジテーターの進路の邪魔にならないからである。温度も、加熱又は冷却可能なマンシェットで槽を取り囲むことによって調整できる。従って、重合可能な液体の使用及び選択は、単相樹脂に制限されない。充填材を含む多相機能材料又は高粘度の樹脂も加工可能である。
【0026】
重合可能な液体を交換するため、槽を別の重合可能な液体の入った別の槽と交換する場合は特に有利であることが判明した。槽又は容器を空にし、清掃して、別の液体を充填する必要はなく、密閉して保管するだけで済む。従って、製造変更も非常に迅速かつ簡単に行うことができる。製品ポートフォリオの規模が大きい場合には、重合可能な液体を充填した容器又は槽を大量に倉庫に保管しておくことが可能である。もちろん、容器のサイズ及び充填容量は、必要に応じて変更できる。
【0027】
もう1つの好ましい実施形態では、槽を別の槽と交換するために、担体プラットフォームと構造要素を支持しているサポートを槽から出して、別の槽の中に入れる。これにより、サポートの唯一の並進運動によって、槽をホルダーから取り外せるようになり、その際、その他の取付け部品をホルダーから取り除く必要はない。
【0028】
本発明は、好ましくは、構造要素に対する槽の高さを物体製造中に調整して、構造要素を、槽に形成される液面の上方、液面上又は液体中に位置決めすることも特徴としている。従って、すでに上述したように、3種類の製造モードを選択することができる。物体層は、槽の垂直運動により、重合可能な液体の外部又は内部に構築される。これにより、柔軟性がさらに向上し、プリントプロセスを使用液体に最適に適合させることが可能になる。
【0029】
有利には、構造要素の第1の面に負圧又は保護ガス雰囲気を発生させる。従って、構造要素の望ましくない気泡を効果的に押し出すか、又は解消することができる。これにより、製造プロセス中は、常に、クリーンな構造要素が提供される。
【0030】
以下に、図を用いて本発明の実施例を説明しながら、その他の利点及び特徴を示す。図は縮尺に合致していない。
【発明を実施するための形態】
【0032】
図1及び
図2には、従来技術から知られている、三次元の物体を層状に製造するための2種類の付加製造装置が示されている。
図1による装置には符号1が付けられ、
図2による装置には符号21が付けられている。
【0033】
図1に示されている方式は、トップダウン方式と呼ばれる。この方式を実施するための装置1は、重合可能な液体3が供給されている槽2を有している。好ましくは、液体は紫外線照射下で硬化する樹脂である。放射線源として露光源4が設けられており、これは通常DLPビーマーを用いる。液体3の内部に配置されている担体プラットフォーム5の上に、三次元の物体6が層状に構築される。担体プラットフォーム5は底面8の方向7へ移動する。このとき、液体3は物体6と液体の表面9との間に層10として流れ込む。流れ込んだ層10は、表面9に当たる光の領域に従って、放射線影響下で硬化する。完成した物体6は液体3から取り出される。層10は表面9で硬化するため、規定された構築層は存在しない。そのことから、物体6が構築される際の精度は制限される。
【0034】
図2に示されている方式は、ボトムアッププリント方式と呼ばれる。この方式は、全体が符号21で示されている装置を使って実施される。露光源24は下から槽22の底面28に光線を放射する。底面28には構造要素31が配置されており、ここに物体26の層30が積み上げられる。物体26は、構造要素31と担体プラットフォーム25との間に層状に積み上げられる。層30が硬化又は重合されると、担体プラットフォームは方向27へ上方に移動する。構造要素31と物体26との間にスペースが生じるため、この中に重合可能な液体23が流れ込む。構造要素31で硬化した層30は、構造要素31から持ち上げて取り外す必要がある。これにより、構造要素31が消耗するため、これは摩耗部品として見なされ、特定のインターバルで交換する必要がある。
【0035】
図3に示されている付加製造装置は、全体が符号41で示されている。基本的に、この装置は上述の従来技術と同様のコンポーネントを有している。しかしながら、驚くべきことには、コンポーネントの新しい組み合わせと配置によって多数の利点が生じている。
【0036】
槽42又は容器42には、重合可能な液体43が供給されている。槽42の中には担体プラットフォーム45が垂直方向に移動可能に配置されている。このことは、方向矢印47で明確に示されている。担体プラットフォーム45上には物体46が層状に積み上げられる。
図3で示されているように、担体プラットフォーム45も槽42から外へ出ることができる。従来技術とは反対に、構造要素51は、担体プラットフォーム45の上方に配置され、槽の底面48には取り付けられていない。構造要素51は、第1及び第2の面53、55を有している。液体43は、第1の面53で物体の層50に重合される。第2の面55には、構造要素51を通過し、第1の面53で直接液体43を硬化させる光源44の光が当たる。好ましくは、光源44は、低価格の大量生産製品であり、装置41のあらゆる要件を満たしているDPLビーマーである。装置41の要素は、好ましくは、ハウジング54によって境界されているサポート52に配置されており、このサポートについては次の段落で詳しく説明する。
【0037】
担体プラットフォーム45と構造要素51は、好ましくは、共通のサポート52に支持されている。サポート52は、
図3に図示されているように長方形になっている。サポート52は、例えば成形物から作られたフレームであってよく、フレームには、担体プラットフォーム45及び構造要素51の他にも、例えばDLPビーマー44など、製造装置41のその他の要素を配置することができる。サポート52は、担体プラットフォーム45と構造要素51と共に、槽42に対して矢印47に沿って移動可能である。サポート52は、槽42の中に入ることができ、槽42から完全に出ることができる。サポート52が槽42の外へ出ている場合、槽42は取付け部品から解放されているので、第2の液体の入った別の槽と迅速に交換できる。槽42を別の槽と交換するためには、サポート52が矢印47の方向に上昇するか、又は槽42の外に出るだけでよい。別の槽が専用のホルダーに配置されている場合、サポート52が別の槽の中に進入するとすぐに、装置は作動準備状態に戻る。
【0038】
担体プラットフォーム45は、移動可能にサポート52に支持されている。これにより、担体プラットフォーム45と構造要素51との間の間隔を変更することができる。担体プラットフォーム45が連続的に下へ移動することにより、三次元の物体46は担体プラットフォーム45と構造要素51との間で付加的に構築される。このことは、
図3の第1の移動矢印62で明確に示されている。物体46が完成すると、サポート52に取り付けられている担体プラットフォーム47は構造要素51の方向に移動し、それによって別の物体が付加的に層状に構築される。担体プラットフォーム45は移動可能なサポート52に移動可能に配置されているため、槽42はサポート52の移動によってすべての取付け部品から解放される。
【0039】
好ましくは、DLPビーマー44も垂直方向に移動可能にサポート52に配置されている。このことは、第2の移動矢印72で明確に示されている。DLPビーマー44が移動できることにより、構造要素51に投影される画像の解像度を迅速に変更し、調整することが可能になる。
【0040】
底面48は構造要素51から解放されており、構造要素51は槽42から独立して装置内に配置されているので、底面48の部分にできる空間は磁気攪拌機57の配置に利用できる。従って、装置41では、均質化する必要のある重合可能な液体43も加工することができる。充填材59を含む機能材料も使用できる。高粘度の樹脂も使用可能である。磁気攪拌機57は、加熱又は冷却できるプレート58を有しており、このプレート58の上に槽42を置くことができる。プロセスの温度調整には、冷却又は加熱可能なマンシェットで槽42を取り囲むことも考えられる。さらに、構造空間56の温度も調整することができる。加工しようとする重合可能な液体43に合わせてプロセス温度を正確に調整できることから、多数の液体43を完全に均質化し、最適な処理温度に調整することが可能になる。構造要素51の上方に第2の面55を取り囲むホルダーハウジング60が設けられていてもよく、このハウジング60は、構造空間56に対して閉じられており、構築プロセスを最適化するための調整可能なレンズを備えている。
【0041】
担体プラットフォーム45だけなく、槽42もまた、矢印47に沿って上方及び下方に移動可能である。これにより、構造要素51を、物体46のプリント中に液体表面49又は液面の上方に配置しておくことができる。層を積み上げるために液体43が塗布された物体46は、担体プラットフォーム45によって液体から持ち上げられ、層50の硬化のために構造要素51まで送られる。別の層50を付加するには、再び層42の液体リザーバーの中に物体を浸漬しなければならない。
【0042】
しかしながら、物体のプリントに必要であれば、表面49の上又は液体43の中に構造要素51を配置してもよい。従って、層構築は液体43の中で行われ、層構築のための別の液体がすぐに槽42から流れ込む。
【0043】
構造要素51が槽42から分離していることで生じるもう1つの利点は、槽42を液体43と攪拌機も含めて装置41から取り外し、別の液体及び攪拌機を備える別の槽又は容器を装置41の中にセットできるという点である。従って、製品の交換を短時間で実施することができる。使用された槽42は、好ましくは、蓋で密閉可能である。
【0044】
構造要素51は、分離膜61から構成されてよい(
図4)。プリントした層50を特に保護しながら簡単に分離膜から剥がせるように、分離膜61は非粘着性材料から製造されている。特に適しているのは、例えばパーフルオロエチレンプロピレンなどである。硬化させる液体に応じて、非粘着性分離膜の材料を適合させることができる。構造要素51は槽42から分離しているため、構造要素51も迅速に別の構造要素と交換できる。構造要素51は、分離膜61の他に、例えばガラス製の担体プレート63も有してよい(
図4)。これにより、構造要素51の静的特性が改善される。また、分離膜61は簡単に担体プレート63に固定又は張着もしくは交換することができる。
【0045】
優れた非粘着特性を得るために、担体プレート63は薄膜65でコーティングされていてよい(
図5)。薄膜の厚さは、通常、10μmよりも小さい。物体層50の取り外しを容易にし、付着している気泡を解消するために、構造要素51は振動するように実施されていてもよい。使用される重合可能な液体が、層構築時に抑制ガスを必要とする場合は、透過性膜67を構造要素51に設けることができる(
図6)。
【0046】
構造要素51又は物体46の最上層に付着する気泡を取り除くため、物体46を構造要素51まで送る際に、構造要素51を層42に対して斜めに調整することができる。望ましくない気泡を除去するため、構造要素51の第1の面53を負圧下に置くか、又は保護ガスを加えることもできる。好ましくは負圧を加えられる範囲は、負圧領域と呼ばれる点線の領域69によって示されている。この領域は、ハウジング内部の残りの容積に対して密閉可能である。負圧領域は、好ましくは、サポート52が槽42の中に入ることによって密閉される。負圧領域69の容積はハウジング54の容積に比べ小さいことから、負圧を迅速に発生させることができる。好ましくは、負圧領域が担体プラットフォーム45及び構造要素51及び特に構造要素51の第1の面53を取り囲んでいる。これにより、構造要素51の第1の面53に負圧又は保護ガス雰囲気を生じさせることができる。
【符号の説明】
【0047】
1 トップダウンプリント装置
2 槽
3 重合可能な液体
4 露光源
5 担体プラットフォーム
6 三次元物体
7 方向矢印
8 槽の底面
9 液体の表面
10 物体の層
21 ボトムアッププリント装置
22 槽
23 重合可能な液体
24 光源
25 担体プラットフォーム
26 三次元物体
27 方向矢印
28 槽の底面
30 物体の層
31 構造要素
41 付加製造装置
42 槽、容器
43 重合可能な液体
44 光源
45 担体プラットフォーム
46 三次元物体
47 方向矢印
48 槽の底面
49 液体表面
50 物体の層
51 構造要素
52 サポート
53 構造要素の第1の面
54 ハウジング
55 構造要素の第2の面
56 構造空間
57 磁気攪拌機
58 プレート
59 充填材
60 構造ハウジング
61 分離膜
62 第1の移動矢印
63 担体プレート
65 薄膜
67 透明膜
69 負圧領域
72 第2の移動矢印