特許第6954976号(P6954976)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6954976レーザー切断性に優れる高耐酸化Ni−Cr−Al合金とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6954976
(24)【登録日】2021年10月4日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】レーザー切断性に優れる高耐酸化Ni−Cr−Al合金とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/05 20060101AFI20211018BHJP
   C22F 1/10 20060101ALI20211018BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20211018BHJP
【FI】
   C22C19/05 Z
   C22F1/10 H
   !C22F1/00 623
   !C22F1/00 640B
   !C22F1/00 682
   !C22F1/00 683
   !C22F1/00 684C
   !C22F1/00 685Z
   !C22F1/00 691
   !C22F1/00 691B
   !C22F1/00 691C
   !C22F1/00 692A
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-209634(P2019-209634)
(22)【出願日】2019年11月20日
(65)【公開番号】特開2021-80525(P2021-80525A)
(43)【公開日】2021年5月27日
【審査請求日】2021年1月28日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000232793
【氏名又は名称】日本冶金工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】平田 茂
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 隆之
【審査官】 川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−040443(JP,A)
【文献】 特開平06−264169(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/00−19/07
C22F 1/00− 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下質量%にて、
C:0.005〜0.050%、
Si:0.02〜0.45%、
Mn:0.10〜0.80%、
P:≦0.035%、
S:0.0001〜0.0015%、
Ni:57.0〜63.0%、
Cr:20.0〜25.0%、
Al:1.10〜1.80%、
Ti:0.10〜0.45%、
N:0.001〜0.020%、
B:0.0010〜0.0035%、および
La、Ce、Y、Ndのうちいずれか1種以上を0.001〜0.010%
から成り、さらに式(1)を満足し、
0.08×Cr − 101×B > 1.40 …(1)
残部がFeおよび不可避な不純物からなり、
粒界酸化深さが10μm以下であることを特徴とするNi−Cr−Al合金。
【請求項2】
Mg:0.002〜0.020%、O:≦20ppmで、かつ、V:0.02〜0.20%、Nb:0.02〜0.20%のいずれか1種あるいは2種を含有することを特徴とする請求項1に記載のNi−Cr−Al合金。
【請求項3】
請求項1または2に記載の合金の帯、板の製造方法であって、請求項1または2に記載の組成を有する合金を常法により板もしくは帯とし、これの軟化、炭化物などの固溶化を目的に行う熱処理を、熱処理温度:1050〜1250℃、燃焼ガス雰囲気中で、酸素濃度2.0〜4.5%の範囲として行い、水冷し、その後酸洗し表面の酸化スケールを除去し、粒界酸化深さを10μm以下とすることを特徴とするNi−Cr−Al合金の帯、板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い歩留まりで部材を切断採取でき、軽微な手入れ、もしくは手入れ無しで次工程へと進むことができる、レーザー切断性、耐酸化性に優れるNi−Cr−Al合金に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Cr、Alを多量に含有するNi合金は、耐酸化性に優れるため、高温で厳しい酸化が生じる環境で使われている。高温で運転される装置は、大きな板から切断、曲げなどの加工を経て、溶接、ロウ付け、機械的な締結などの方法で組み立てられるが、最近、高価である当該合金板から歩留りよく部材を採取するためにレーザー切断が採用されている。
【0003】
レーザー切断機は、NC(数値制御)を付属し曲線を含む切断を自動で行うものが一般的である。類似する切断方法としては、ウォータージェット、プラズマ切断があるが、前者は切断速度が遅く生産性が低い、後者は切断幅が大きく歩留りが悪く、入熱も大きく酸化が生じるだけでなく切断面の凹凸も大きく、切断後の手入れ、例えば機械加工などが追加で必要になる。これに対し、レーザー切断は、切断速度が速く、切断幅も小さく歩留り良好で入熱も小さい。このため切断面の酸化も限定的で、切断面の平滑性も高く、そのまま使用できるレベルにあり、高価なNi合金を歩留り良く切断するのに適した方法である。
【0004】
しかしながら、Cr、Alを多量に含有するNi合金をレーザー切断したところ、スパッタの発生が非常に多く、追加手入れが必要となった。また、レーザーが入射する側である上縁部から繋がる切断面が乱れ、不均一な凹凸も散発していた。これら問題を解決したレーザー切断性に優れる合金が求められている。
【0005】
レーザー切断性を改善した先行技術としては、例えば、特許文献1では、鋼材表面に薄い密着性の良い酸化スケールを形成、これの組成を制御することでレーザー切断性を向上させたものが提案されている。密着性の良い薄いスケールとすることで切断中に発生する不良、具体的には、切断面の凹凸状の部分的な切断不良を防止している。
【0006】
この技術の他には、特許文献2にCu、Ni、Mo、Nb、V、Ti、B、REM(Rare Earth Metal、希土類)、Ca、Mgの1種または2種以上を最大でも2%以下を目安に含有し、熱間圧延後、ガス雰囲気とした炉中で徐冷することでレーザー切断に適した酸化スケールとした鋼板が提案されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1および2は、いずれも鋼板に関するもので、本発明で対象としている合金元素の添加量が多く、Niをベースとする合金に関するものではない。さらに、Ni合金は鋼とは異なり、酸化スケールを除去した状態でレーザー切断されるため、表面状態が異なり参考となるものではない。
【0008】
酸化スケールを除去した状態、例えば、酸洗したステンレス鋼についての提案としては、特許文献3にレーザー切断により生じるドロスと呼ばれる切断くずの発生に対しSi量を制御することでこれを抑制する技術が示されている。しかしながら、本発明とは化学組成が大きく違うため、参考となるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−221640号公報
【特許文献2】特開2013−248629号公報
【特許文献3】特開2000−309856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上述べたように、従来技術は、鋼を対象とし、酸化スケールが存在する状態で行うものがほとんどであり、酸化スケールの無い状態でのレーザー切断性を改善する方策は示されていない。さらに、Ni合金について、レーザー切断性を改善した先行技術は見当たらない。
【0011】
本発明は、レーザー切断性に関する上記問題点を解決するためのものであり、その目的は、レーザー切断性を改善することであり、切断面のスパッタの発生、切断面の均一性を向上させ、追加での手入れを極力少なくすることができるCr、Alを多量に含有するNi合金を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、これら状況を鑑み、問題を解決するべく鋭意検討を行った。レーザー切断した合金断面において散発している切断面の不均一部を観察したところ、Alの酸化物が粒界に存在し、これが酸洗により脱落すると溝となり、この部分でレーザーの乱れが生じ、断面の不均一、スパッタが発生するものと推定された。対象としている合金は耐酸化性を向上させるためAl量が添加してあるが、この一部が焼鈍工程でAl酸化物として表層の粒界に発生していたことを突き止め、焼鈍工程での粒界酸化を抑制するため、合金成分を以下の範囲に制御することが良いことを明確にした。
【0013】
すなわち、レーザー切断性に優れる高耐酸化Ni−Cr−Al合金は、以下質量%にて、C:0.005〜0.050%、Si:0.02〜0.45%、Mn:0.10〜0.80%、P:≦0.035%、S:0.0001〜0.0015%、Ni:57.0〜63.0%、Cr:20.0〜25.0%、Al:1.10〜1.80%、Ti:0.10〜0.45%、N:0.001〜0.020%、B:0.0010〜0.0035%、およびLa、Ce、Y、Ndのうちいずれか1種以上を0.001〜0.010%から成り、さらに式(1)を満足し、
0.08×%Cr − 101×%B > 1.40 …(1)
残部がFeおよび不可避な不純物からなり、粒界酸化深さが10μm以下であることを特徴とする。

【0014】
本発明においては、上記合金はさらに、Mg:0.002〜0.020%、O:≦20ppmで、かつ、V:0.02〜0.20%、Nb:0.02〜0.20%のいずれか1種あるいは2種を含有することを好ましい態様としている。
【0015】
本発明のレーザー切断性に優れる高耐酸化Ni−Cr−Al合金の帯、板の製造方法は、上記組成を有する合金を常法により板もしくは帯とし、これの軟化、炭化物などの固溶化を目的に行う熱処理を、熱処理温度:1050〜1250℃、燃焼ガス雰囲気中で、酸素濃度2.0〜4.5%の範囲として行い、焼鈍し、水冷し、その後酸洗し表面の酸化スケールを除去し、粒界酸化深さを10μm以下とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の成分含有量と製造方法を採用することにより、Cr、Alを多量に含有するNi合金において、レーザー切断面のスパッタの発生、切断面の均一性を向上させ、追加での手入れを極力少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明のNi−Cr−Al合金板の表面観察およびSEM−EDS分析結果を示す図である。
図2】60Ni−22Cr−1.1Al合金における粒界酸化深さにおよぼすLa添加の影響を示すグラフである。
図3】60Ni−Cr−1.1Al合金における粒界酸化深さにおよぼすCr、B添加の影響を示すグラフである。
図4】粒界酸化深さにおよぼすCr量、B量の影響を示すグラフである。
図5】粒界酸化深さによるスパッタ個数の変化を示すグラフである。
図6】粒界酸化深さによる切断面乱れ個数の変化を示すグラフである。
図7】スパッタ個数を評価するために切断方法 (白色が評価対象)を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
発明者らは、これら状況を鑑み、問題を解決するべく鋭意検討を行った。まず、最初に当該合金をレーザー切断した断面の観察を行った。散発している切断面の不均一部を観察したところ、起点は上縁部つまりレーザー照射した表面にある様な形態、分布となっていた。合金表面における何らかの不均一が、そのまま断面の形態に影響を及ぼしていた。スパッタの発生もよく観察すると、発生は散発で、完全には一致していないものの、切断面の乱れとある程度一致していた。そこで、切断する板表面をSEMにて観察したところ、酸洗により形成された溝部、いわゆる酸洗粒界溝に似た形態で深くえぐられていた。この部分をSEM−EDSで分析し、図1に示す。図1(a)中、四角形で囲った範囲のそれぞれ元素の分析結果が図1(b)である。図に示すように、Alが検出されたことから、Alの酸化物が粒界に存在していると考えた。これが酸洗により脱落すると溝となり、この部分でレーザーの乱れが生じ、断面の不均一、スパッタが発生するものと推定される。
【0019】
対象としている合金は耐酸化性を向上させるためAlが添加してある。これの一部がAl酸化物として表層の粒界に発生したと考えたが、製造工程中での発生タイミングは不明であった。このため、酸洗前、後の板断面の観察を行った。その結果、焼鈍後の板において粒界でAlの酸化が生じていることを確認した。これより、焼鈍工程でAlの粒界酸化が生じていることが判った。つまり、防止策としては焼鈍工程での粒界酸化を抑制すると良いことになる。
【0020】
Alの粒界酸化を抑制する元素の添加を検討することとした。60Ni−22Cr−1.2Al合金をベースに種々添加元素、その量を変化させて実験室溶解(20kg)を行った。選択した元素は、Si、Mn、Cr、Al、Ti、B、La、Ceとした。これらを20mmt×100mmw×Lとなる様に鍛造、表面をシェーパーにより研削し15mmtとした。これに1250℃×3hrの加熱保持した後、シェーパーによって12mmtとし酸化の影響を完全に除去、四段圧延機により冷間圧延を行い5mmtとした。脱脂後、これに1175℃×5minの固溶化熱処理を施し、硝酸とフッ酸の混酸で酸洗したものを評価に供した。
【0021】
固溶化熱処理は、大気雰囲気ではなく、都市ガス(13A)をバーナーで燃焼させた雰囲気中で行った。酸素濃度は2.7%であった。粒界酸化の深さは、板断面を埋め込み鏡面まで研磨したものについて、SEMで粒界酸化の深さを測定することで評価した。長さ30mmの範囲に生じている粒界酸化の中で深いもの10点を選び、その平均値で評価した。
【0022】
その結果、Al、La、Ce、Cr、Ti、Bの含有量によりAlの粒界酸化深さが変化することが判った。Si、Ti、REMの添加は粒界酸化を軽減する傾向があり、特にREMの効果は明瞭であった。REMのうち特に顕著であったLaが粒界酸化深さに及ぼす影響を図2に示す。図2より、0.001%以上添加すると粒界深さを効果的に低減できることが判った。
【0023】
Bについて2種類の濃度範囲とし、それぞれにおいてCrを変化させて検討した結果を図3に示す。図3に示す様に、Bは粒界酸化を助長する傾向が確認され、B含有量が多いとCrの改善効果が小さくなることが判った。
【0024】
これより、粒界酸化におよぼすCr量とB量の関係を求めたのが図4である。粒界酸化を10μm程度の軽いものとするには、Cr添加量に見合ったB量とすることが必要であり、その関係は、次式となることを明らかにした。
0.08×Cr − 101×B > 1.40 …(1)
【0025】
同じく実験室溶解材で酸洗した5mmt板を用い、これをレーザー切断し、スパッタの発生数、上縁部からの切断面の乱れ、切断面の均一性を評価した。レーザー切断は、小池酸素工業製のCOレーザー(商品名:LASERTEX、定格出力:4.0kw)を用い、切断速度1400mm/min、ガス圧0.7MPa、出力0.7kWとして作業し、これで1つの組成について3回切断を行い、これらを評価に供した。
【0026】
スパッタ個数については顕微鏡で切断上面側を倍率10倍で観察し、100mm×50mmの範囲を観察、スパッタの個数を数え評価した。粒界酸化深さによるスパッタ個数の変化を図5に示す。粒界酸化が浅くなるに従って、スパッタ個数が減少し切断性が向上することが判る。粒界酸化深さが10μm以下となるとスパッタ個数は5個以下となりかなり良化する。
【0027】
また、上縁部からの切断面の乱れは、切断面上面側から縁部を撮影し、切断線からのずれが生じている、つまり乱れている個数を数え評価し、図6に示す。図6に示す様に、これも粒界酸化深さが浅くなることで良化する。
【0028】
切断面の均一性は、レーザー3D顕微鏡(キーエンス製、商品名:VR−3000)を用い、切断面5mmt×100mm長さについて評価し、板厚すべてに渡り、平均より100μm程度高くなっている部分、低くなっている部分の個数で評価した。これも図5と同じ傾向であり、粒界酸化深さが小さくなることで良化することを確認した。
【0029】
これより、粒界酸化深さが低減するに従い、切断時のスパッタ発生が減り、切断面の品質が向上することを確認した。
【0030】
次に、本発明における各元素の成分組成の限定理由を説明する。以下、%は質量%である。
C:0.005〜0.050%
CはF.C.C相を安定化させるために有効な元素であり、室温、高温での強度を確保するためにも重要な元素である。このため、少なくとも0.005%の添加は必要である。しかしながら、過度に含むと固溶限を超え、熱処理を施しても多量の炭化物が残存してしまう。また、溶接、固溶化熱処理時の冷却時などにCr炭化物の析出が容易となり、耐酸化性に有効なCr量を低減させてしまう。このため上限を0.050%とする。含有量の好ましい下限は0.007%で、より好ましい下限は0.009%、好ましい上限は0.045%で、より好ましい上限は0.040%である。
【0031】
Si:0.02〜0.45%
Siは、脱酸作用を有する重要な元素であり、酸化スケールの剥離を抑制し耐酸化性改善する効果を有し、さらにAlの粒界酸化を抑制する効果がある。また、レーザー切断により生じる湯の流動性を確保するのに効果があり必須な元素である。このため、少なくとも0.02%の添加は必要である。しかしながら、Siを過剰に含有すると熱間加工性の著しい低下が生じる。このため、Siの含有量の上限は0.45%とした。含有量の好ましい下限は0.04%で、より好ましい下限は0.06%、好ましい上限は0.43%で、より好ましい上限は0.40%である。
【0032】
Mn:0.10〜0.80%
Mnは脱酸剤として添加される元素であり、F.C.C.相を安定にすることで、高温強度、高温クリープ強度の確保に寄与する。このためMnは0.10%以上含有させる必要がある。しかしながら、過度な添加は耐酸化性を劣化させる。従って Mnの含有量は0.10〜0.80%とした。含有量の好ましい下限は0.12%で、より好ましい下限は0.15%、好ましい上限は0.75%で、より好ましい上限は0.70%である。
【0033】
P:≦0.035%
Pは不純物として鋼中に不可避的に混入する元素である。結晶粒界に偏析し熱間加工性を悪くするため、できる限り低減することが必要である。従って、Pの含有量は≦0.035%とする。好ましい範囲は、≦0.030%で、より好ましい範囲は≦0.025%である。
【0034】
S:0.0001〜0.0015%
Sは、鋼中に不可避的に混入する不純物元素であり、熱間加工性を低下させ、割れを発生させる。そのためS含有量は極力少ない方が良く、上限値は0.0015%が望ましい。但しSは溶融時の湯の流動性を高めることから溶接、レーザー切断を行う場合には必要な元素でもある。湯の流動性を確保するためには、0.0001%以上含有することが好ましい。含有量の好ましい下限は0.0002%で、より好ましい下限は0.0003%、好ましい上限は0.0014%で、より好ましい上限は0.0013%である。
【0035】
Ni:57.0〜63.0%
NiはF.C.C.相を安定化する元素であり、耐酸化性を確保し、高温強度、高温クリープ強度を向上させる重要な元素である。このため、57.0%以上の添加が必要である。しかしながらNiの含有量が63.0%を上回ると熱間変形抵抗の増大、コスト増を招く。よってNiの含有量は57.0〜63.0%とした。含有量の好ましい下限は57.2%で、より好ましい下限は57.5%、好ましい上限は62.8%で、より好ましい上限は62.5%である。
【0036】
Cr:20.0〜25.0%
Crは耐酸化性を向上させる重要な元素であり、本発明合金が想定する厳しい酸化が生じる環境で使用するために不可欠な元素である。さらに、Alの粒界酸化防止し、レーザー切断性を改善する効果を有する。しかし過度なCrの含有はF.C.C.相の安定度を低下させ、Cr炭化物の析出を促進し、かえって耐酸化性を劣化させる。このためCrの含有量は20.0〜25.0%とした。含有量の好ましい下限は20.5%で、より好ましい下限は21.0%、好ましい上限は24.5%で、より好ましい上限は24.0%である。
【0037】
Al:1.10〜1.80%
Alは脱酸剤として添加される成分である。またCaO−SiO−Al−MgO系スラグの共存下で、脱酸により脱硫を促し、熱間加工性に悪影響を及ぼすSを低減させるのに重要な元素である。また、耐酸化性を改善する必須の元素であり、Alの粒界酸化を抑制し、レーザー切断性を改善する重要な役割がある。このため、少なくとも1.10%以上の添加が必要である。しかしながら、過剰に含有するとAl窒化物を形成し高温クリープ強度を劣化させ、F.C.C相の安定度を低下させる。さらに、熱間加工性を著しく低下させる。従ってAlの含有量は、1.10〜1.80%とする。含有量の好ましい下限は1.15%で、より好ましい下限は1.20%、好ましい上限は1.75%で、より好ましい上限は1.70%である。
【0038】
Ti:0.10〜0.45%
Tiは脱酸剤として添加される成分である。Ti窒化物を形成し凝固組織を微細化し、これより粒界のP、S濃度を低下させ、熱間加工性を向上させる元素である。さらに、Al、Crとともに、粒界酸化を抑制し、レーザー切断性を向上させるのに必須な元素である。このため、少なくとも0.10%以上の添加が必要である。しかし過剰に含有するとTi窒化物が多量生成し、表面欠陥の原因となり、さらに、Ti窒化物/母相の界面でボイド発生が促進されクリープ特性の劣化を招く。従ってTiの含有量は、0.45%を上限とする。含有量の好ましい下限は0.12%で、より好ましい下限は0.15%、好ましい上限は0.43%で、より好ましい上限は0.40%である。
【0039】
N:0.001〜0.020%
NはF.C.C.相を安定化する元素であり、室温、高温の強度、いずれも向上させるのに有効な元素である。少なくとも0.001%の添加は必要である。但しNの含有量が過剰になると炭窒化物が多量に析出し、高温クリープ強度を低下させる。また、室温の強度が高くなりすぎると曲げ加工性が低下する。従って0.020%を越えてはならない。含有量の好ましい下限は0.002%で、より好ましい下限は0.003%、好ましい上限は0.015%で、より好ましい上限は0.010%である。
【0040】
B:0.0010〜0.0035%
Bは、熱間加工性を良化させる元素であり、高温でのクリープ強度を向上させる効果もあり本発明合金に必須である。しかしながら、一定量以上含有するとCrの改善効果を低減させ、Alの粒界酸化を促進、レーザー切断性を劣化させる。ごく微量の含有であれば問題はないので、その含有量を0.0010〜0.0035%とする必要がある。含有量の好ましい下限は、0.0012%、より好ましい下限は0.0014%、好ましい上限は0.0033%で、より好ましい上限は0.0030%である。
【0041】
La、Ce、Y、Nd:いずれか1種以上を0.001〜0.010%
これら元素は、一般的にREMは、熱間加工性を良化させるために添加される元素であり、本発明ではAlの粒界酸化を抑制し、レーザー切断性を良化させる重要な元素である。このため、必須な元素である。しかしながら、溶湯へ添加する場合の歩留りが悪く、多量に添加しようとすると著しいコスト増を招く。一定量以上添加すると介在物の増加を招き、高温クリープ特性の劣化、レーザー切断面の品質劣化を招く。従って、添加量は0.001〜0.010%とする。含有量の好ましい下限は、0.002%、より好ましい下限は0.003%、好ましい上限は0.009%で、より好ましい上限は0.008%である。
【0042】
Alの粒界酸化を低減する添加元素の効果としては、La>Ce>Y>Ndの順であり、La、Ceの効果が大きい。好ましい組み合わせは、La、Ceのいずれかを含む複合添加であり、より好ましい添加は、Laのみ、Ceのみ単独添加、もしくはLa+Ceの複合添加である。
【0043】
0.08×Cr − 101×B > 1.40
本発明では、CrはAlの粒界酸化を抑制する有用な元素であり。これに対し、BはCr効果を低減させる低減すべき元素であるが、熱間加工性が悪いNi−Cr−Al合金での添加は必須である。Crの改善効果を確実に得るためには、Cr、Bの添加量が上式で1.40を超える様にそれぞれ添加量を制御する必要がある。好ましくは、1.45を超える範囲であり、より好ましくは1.55を越える範囲である。
【0044】
Mg:0.002〜0.020%
Mgは、適量の添加により熱間加工性を良化させる元素である。このため、必要に応じて0.002%以上添加される。しかしながら、Mgを一定量以上に含有すると介在物が増加し耐食性、クリープ特性が劣化する。さらに、熱間加工性を著しく劣化させてしまう。従って上限は0.020%とする。含有量の好ましい下限は0.003%で、より好ましい下限は0.004%、好ましい上限は0.018%で、より好ましい上限は0.016%である。
【0045】
O:≦20ppm
Oは、溶解時に鋼中に不可避的に混入する不純物元素であり、熱間加工性を悪化させる元素である。このため、Si、Ti、Al、REMなどの元素を溶湯中に添加、脱酸し、低減すべき元素である。さらに、酸素量が多くなり、介在物量が増えるとクリープ特性が悪化するため、酸素量は十分低減する必要がある。これにより、上限を20ppmとする。含有量の好ましい上限は18ppmで、より好ましい上限は15ppmである。
【0046】
V:0.02〜0.20%、Nb:0.02〜0.20%
V、Nbは炭化物あるいは炭窒化物を形成し結晶粒径を微細化する元素である。これより粒界酸洗溝を増加させ、結果として粒界に生じるAl酸化物の分布を均質化することができる。このため、少なくとも0.02%以上の添加が必要である。しかし過剰に含有するとこれら元素の炭化物あるいは炭窒化物が過剰に生成、硬さを大きくし加工性を劣化させる。さらに、900℃を超える様な温度ではクリープ特性の劣化を招く。従ってV、Nbの含有量は、0.20%を上限とする。含有量の好ましい下限は0.03%で、より好ましい下限は0.04%、好ましい上限は0.18%で、より好ましい上限は0.15%である。
【0047】
酸素濃度:2.0〜4.5%
酸化スケールの形成には、温度、保持時間以外に雰囲気も影響をおよぼす。酸素濃度が低い場合、スケールの形成が十分でなく、Alの酸化が主体となり、Crの効果が十分に発揮されない。このため粒界酸化が生じ易くなる。よって、酸素濃度は2.0%以上とすべきである。これに対し、酸素濃度が高くなると、酸化量が多くなり、酸化スケールのロスが多くなり歩留り低下を招く。よって、4.5%を上限とする。好ましい範囲は、2.0〜4.0%、より好ましい範囲は、2.0〜3.5%である。
【0048】
熱処理温度:1050〜1250℃
熱処理は、熱間、冷間の加工により硬化したものを軟化するため、析出している炭化物などを固溶化するために実施するが、燃焼ガス雰囲気中で実施すると酸化スケールを形成し、その直下に粒界酸化が形成される。軟質化、炭化物の固溶を実現するには、少なくとも1050℃以上での熱処理が必要である。しかしながら、粒界酸化の深さは熱処理温度が高いもの方が深くなるので、1250℃を越える様な温度で処理すると深い粒界酸化が散在することが避けられない。よって、熱処理の温度は1050〜1250℃とする。好ましくは、1050〜1200℃、より好ましく1075〜1175℃の範囲である。
【0049】
熱処理の条件としては、上記温度以外に保持時間がある。材料の軟化、炭化物の固溶を達成するためには、少なくとも1min以上の保持時間を確保するのが良い。酸化スケールのロスを考えると保持時間は長くとも90min以内とするのが適当である。好ましい範囲は、1〜60min、より好ましい範囲は、1〜45minである。
【実施例】
【0050】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明する。但し本発明はその趣旨を超えない限り、これらの例に限定されるものではない。
【0051】
[1.サンプル製造]
まず、鉄屑、ステンレス屑、フェロクロムなどの原料を、60トンの電気炉で溶解した。その後、AOD工程において、酸素およびアルゴンを吹精し、脱炭精錬した。その後、生石灰、蛍石、Al、Siを投入して脱硫、脱酸を行った。その後に連続鋳造機にて造塊し、表1に示す化学組成のスラブ(発明例1〜16、比較例1〜8、サイズ/200mmt×1250mm×6500mm)を得た。表1において---と表示しているものは、意図的な添加はなく、かつ分析を実施していないことを示す。
【0052】
その後、上記スラブを1200〜1250℃に加熱、80〜100min均熱保持した後、熱間圧延し、板厚5mm×1250mm×Lの熱延帯を得た。その後、連続焼鈍ラインにて1100〜1150℃の熱処理を施し、水冷、酸洗したものから、5mmt×1250mm×500mmの板を採取し、これで評価した。また、酸素濃度は2.5〜4.0%範囲であった。
【0053】
【表1】
【0054】
[2.粒界酸化の深さ(μm)]
粒界酸化の深さは、上記板の断面を埋め込み、鏡面まで研磨したものについて、SEMで粒界酸化の深さを測定することで評価した。長さ30mmの範囲に生じている粒界酸化の中で深いもの10点を選び、その平均値で評価し、表1に併記した。
【0055】
[3.スパッタ個数]
スパッタ個数については、5mmt×500mm×500mmの板について、図7(a)のように始点から一周をジグザクに切断し、スパッタが発生し易い状態で評価した。こうして切り抜いた図7(b)の切断片の切断上面側を目視で全周を観察、スパッタの個数を数え評価し、表1に併記した。スパッタの発生個数が5個以下のものを◎、6個から15個以下であるものを〇、16個から25個であるものを△、26個以上であるものを×とした。
【0056】
[4.切断面の乱れ個数]
上縁部からの切断面の乱れは、上記切断したジグザク切断片の長辺(A−B)について、切断面の上面側から縁部を上面から目視観察し、350m長さの切断線からのずれ、本発明で乱れと称しているものの個数を数え評価し、表1に併記した。乱れの発生個数が2個以下のものを◎、3個から5個以下であるものを〇、6個以上であるものを×とした。
【0057】
[5.切断面の均一性]
切断面の均一性は、レーザー3D顕微鏡(キーエンス製、商品名:VR−3000)を用い、切断した斜めの部分(B−C)について評価した。評価長さは185mmとなる。平均より100μm程度高くなっている部分、低くなっている部分の個数で評価し、表1に併記した。不良とした個数が1個以下のものを◎、2個から4個以下であるものを〇、5個以上であるものを×とした。
【0058】
表1に示す様に本発明の組成範囲を満足している発明例1〜16は優れたレーザー切断性を有していることが判る。いずれも粒界酸化深さは10μm以下であることを確認している。
【0059】
これに対し、本発明範囲から、Cr、B、Al、Ti、REMの含有量が外れている比較例1、3〜8は、スパッタの発生が多く、切断面の品質も劣っており、本発明合金が想定する用途には適用が難しい。
【0060】
特に、比較例3は、B量が本発明範囲を超えて含有している。このため、レーザー切断性が特に悪かった。
【0061】
また、式(1)が1.40以下となっている比較例7、Si、S量が本発明範囲外である比較例8も満足のいくレーザー切断面が得られていない。
【0062】
比較例2はLaを含有しており、粒界酸化は抑制されスパッタの発生は少なく良好であるが、切断面の均一性が低く満足のいく品質ではなかった。これは、上限値を超えるLa添加により、介在物が増えているためである。
【0063】
[6.熱処理条件の検討]
また、発明例4について、熱処理条件を種々変化させ評価した結果を表2に示す。酸素濃度、熱処理温度が本発明範囲外となっているものは、レーザー切断性が劣っていることが判る。
【0064】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7