(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6954985
(24)【登録日】2021年10月4日
(45)【発行日】2021年10月27日
(54)【発明の名称】調節可能な人間工学に基づく椅子
(51)【国際特許分類】
A47C 3/026 20060101AFI20211018BHJP
A47C 7/02 20060101ALI20211018BHJP
【FI】
A47C3/026
A47C7/02 A
【請求項の数】11
【外国語出願】
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-238001(P2019-238001)
(22)【出願日】2019年12月27日
(65)【公開番号】特開2020-108780(P2020-108780A)
(43)【公開日】2020年7月16日
【審査請求日】2020年3月18日
(31)【優先権主張番号】16/240,073
(32)【優先日】2019年1月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591162952
【氏名又は名称】ハワース、インク.
【氏名又は名称原語表記】HAWORTH INCORPORATED
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100147555
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100160705
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100174942
【弁理士】
【氏名又は名称】平方 伸治
(72)【発明者】
【氏名】ピーター ジェイ.ベイヤー
(72)【発明者】
【氏名】カイル アール.フリート
(72)【発明者】
【氏名】テレサ エー.ベリンジャー
【審査官】
松江 雅人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−043146(JP,A)
【文献】
特開平06−261819(JP,A)
【文献】
特開2015−173678(JP,A)
【文献】
特開平10−179644(JP,A)
【文献】
特開2003−052754(JP,A)
【文献】
特開2017−185204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 7/02,3/026
A61G 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
土台と、
前記土台から上向きに延びる高さ調節可能な支柱と、
後座部と前座部とを含む座部組立体と、
前記支柱を前記座部組立体に接続するリンクシステムであって、前記リンクシステムが、仕事用椅子としての役目をするための概ね水平な第1の位置と、上昇着席支持体としての役目をするためのより上向きかつ前方に傾斜した第2の位置と、の間で前記座部組立体を回動するように適合された、リンクシステムと、
リクライン機構と背もたれ支持体とを含む背もたれ構造であって、前記背もたれ支持体が、前記第1及び第2の位置において使用者の背中を支持するために前記座部組立体から上向きに延び、前記リクライン機構が、前記座部組立体の後部分に接続され、前記背もたれ支持体が、前記リクライン機構に対して回転する、背もたれ構造と、
を備え、
前記リンクシステムが、標準的着座の第1の姿勢位置と、より上昇した着座の第2の姿勢位置と、の間の連続運動経路で関節式に運動する支持アームを含み、
前記座部組立体が、前記前座部と前記後座部との間に、相互に対して滑動可能なフィンガ状の突出物の噛み合わせ構造によって形成されたブリッジを含む、
オフィス用の椅子。
【請求項2】
前記土台が、非ロック式キャスタを有する複数の支持アームを含む、請求項1に記載の椅子。
【請求項3】
前記前座部と前記後座部との間の前記ブリッジが、前記使用者の坐骨結節の前方6インチ(15.24cm)の距離に位置付けられる、請求項1に記載の椅子。
【請求項4】
前記座部組立体の前記第1の位置において、前記前座部及び後座部が、相互に3.5度の後向き傾斜で一列であるように両方とも概ね水平向きである、請求項1に記載の椅子。
【請求項5】
前記第2の位置において、前記後座部が5度前方傾斜する、請求項1に記載の椅子。
【請求項6】
前記第2の位置において、前記前座部が、前記後座部に対して40度の角度にある、請求項1に記載の椅子。
【請求項7】
前記第2の位置において、前記後座部の少なくとも一部分が、前記第1の位置においてより5インチ(12.7cm)高い、請求項1に記載の椅子。
【請求項8】
前記後座部が、坐骨結節ポケットを形成する凹面部分を含み、前記第2の位置において、前記坐骨結節ポケットが、前記高さ調節可能支柱の中心とほぼ垂直方向に一列である、請求項1に記載の椅子。
【請求項9】
前記リンクシステムの支持アームが、前記後座部に接続された少なくとも1つの後支持アームと、前記前座部に接続された少なくとも1つの前支持アームとを含み、前記支持アームが、各々、前記第1の位置と第2の位置との間において弓状運動で移動する上端部を有する、請求項1に記載の椅子。
【請求項10】
土台と、
前記土台から上向きに延びる高さ調節可能な支柱と、
前記支柱上に支持された座部組立体であって、前記座部組立体が、前座面と後座面とを含み、前記前座面が、前記後座面に回動可能に接続され、前記座部組立体が、低下位置と上昇位置との間で移動可能であり、前記低下位置において、前記前座面及び前記後座面が、着座平面おいて概ね整列し、前記上昇位置において、前記後座面が、前記低下位置における位置より上昇し、前記前座面が、前記後座面に対して下向き角度で回動する、座部組立体と、
前記後座面に接続された背もたれ構造であって、前記背もたれ構造が、前記座部組立体から上向きに延びる背中支持体と、リクライン機構と、を含み、前記背もたれ構造が、前記後座面と一緒に前記低下位置と前記上昇位置との間で移動し、前記背中支持体が前記後座面に対して前記リクライン機構の周りで回動する、背もたれ構造と、
を備え、
前記低下位置から前記上昇位置への前記後座面の角度の変化が、8〜10度であり、前記後座面に対する前記前座面の角度の変化が40度であり、それによって、使用者の大腿−胴体角度が121〜135度でありかつ前記使用者の上後腸骨棘(PSIS)が前記使用者の上前腸骨棘(ASIS)より高い位置にあるように使用者の中立的姿勢を促進し、
前記座部組立体が、前記前座面と前記後座面との間に、相互に対して滑動可能なフィンガ状の突出物の噛み合わせ構造によって形成されるブリッジを含む、
オフィス用の椅子。
【請求項11】
前記前座面と前記後座面との間の前記ブリッジが、前記使用者の坐骨結節の前方6インチ(15.24cm)の距離に位置付けられる、請求項10に記載の椅子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、椅子、特に上昇人間工学的位置で人間工学的座位支持を与え、標準直立姿勢と上昇人間工学的位置との間を調節できるように構成された椅子に関する。
【背景技術】
【0002】
就業日のほとんどを机の前で過ごす人に人間工学的な改良を提供するオフィス用の椅子の様々な設計が開発されてきた。概略的に、オフィス用の椅子は、直立着座姿勢の人を支持するように設計され、背もたれを横たえるための、又は、シートパンの角度を水平の前方へ(「前方傾斜」として知られる)に調節するための、又は、個人の好みに合わせてシートパンの角度を調節するための、機能を有する。ほとんどのオフィス用の椅子は、様々な身長及びサイズの人及び/又は使用される机の高さに対処するように、椅子の座部を上下に移動するための高さ調節も含む。
【0003】
スツール、止り木タイプのスツール及び椅子、並びに、広範囲の高さ調節機能を有するその他の椅子は、座位又は立位で働くための機能を使用者にあたえるために使用されてきた。スツール、止り木タイプのスツール及び椅子は、高さ調節可能なテーブルを使用するときに上昇着席の選択肢を与えるが、多数の欠点も有する。まず、高い位置にあるスツール、並びに、止り木タイプのスツール及び椅子には、安定性の懸念があり、複雑なキャスタロック機構、重りとなる土台及びリクラインの制限がしばしば必要である。次に、スツールには、支持のために足をフットリングに置く必要があり、その結果大腿とふくらはぎとの角度が90度未満になって、血流を制限する可能性があるなど、人間工学的懸念がある。
【0004】
スツール、止り木タイプのスツール及び椅子の不利点に留意すると、労働者には、その作業面において完全に座るか立つかの選択肢が残る。これらの姿勢はどちらも、「静的」姿勢として分類され、筋肉は緊張するが、動いていない(筋肉の緊張に運動が伴う動的姿勢と異なる)。静的作業姿勢は、例えば、筋肉が固定姿勢において力を加えるときに、その筋肉への血液供給が減少するので、疲労を生じることが知られている。
【0005】
静的姿勢とは対照的に、着座姿勢における動き又は姿勢間の動きを含む動的姿勢は、適切な血流を促し、様々な健康的な生物学的機能の適切な維持を保証する。運動は、筋肉の血液循環に寄与する。更に、運動は、人間工学的に脊椎にとって有益である、何故ならば、脊椎の動きは、時間経過に伴い脊椎への負荷を変化させて、脊椎に養分を与えるからである。脊椎の負荷及び負荷解除は、浸透により流体が円板を出入りできるようにするので、円板への栄養的な援助を改良する。静的姿勢によるなど運動の不足は、最終的には、下部椎骨内に筋肉疲労を生じて、結果として不快を生じる可能性がある。
【0006】
「中立的」着座姿勢の促進は、身体へのストレス及び中程度の圧力の両方を減少でき、長期間的に快適な作業状況を与えることができる。各関節は、身体の他の部分との間の整列を意味する中立的姿勢を有し、中立的姿勢において、この関節の筋骨格ストレスは最小限に抑えられ、その強度は最大限になる。関節に対するストレスの最小化は、その姿勢での身体の快適さを増す。その中立的姿勢からの関節の変化は、その身体部分の強度を低下させ(時には著しく)、同時に新しい姿勢での身体の快適さを減じる可能性がある。
【0007】
具体的に脊椎に関して、中立的姿勢とは、3つの部位(頸椎、胸椎及び腰椎)の全てが整列することを意味する。脊椎の形状は、骨盤の向きに基づいている。骨盤の中立的位置は、骨盤及び脊椎の両方について(具体的には背下部又は腰部)理想的な整列を可能にする。骨盤の向きが変わるとき、腰椎の湾曲も変わる。したがって、骨盤が、伝統的な固定された90〜100°の直立姿勢で座れるようにするために後方に回転するとき、脊椎の自然の前弯湾曲は、平坦化し、後弯として知られる逆の脊椎湾曲を有する可能性がある。股関節屈曲が制限されている人の場合、更に腰椎を屈曲することによって補正する可能性がある。腰椎がこの後弯状態にあるとき、腰椎の円板を不均等に圧迫し(腰部椎間板の後方突出さえ生じる可能性がある)、この脊椎圧迫は、背中及び脚の痛みの両方を生じる可能性がある。
【0008】
中立的姿勢の脊椎で座るとき、人の質量中心は、概ね、正常なBMI範囲の人の場合坐骨結節のすぐ上にある。伝統的な直立着座姿勢において、使用者の体重の約70〜75%は、シートクッションによって支持される。その結果、大腿及び臀部と座席との間の境界面における圧力は2.25psi(0.0155MPa)を超えて、毛細血管の封入を生じる。座った姿勢は、血液灌流を制限し、頻繁にもじもじしたり、間欠的に体重移動したくなったりする。骨盤が前方に回転する場合、体重は前方へ移動し、その結果、より多くの体重が脚によって支持される。
【0009】
初期の研究によれば、バランスの取れた筋肉弛緩が生じる腰椎の概ね中立的位置は、胴体と大腿との間の角度が約121〜135度の範囲である。現在のほとんどの椅子は、大腿−胴体角度が約98〜100度の直立姿勢の使用者を支持するように設計される。これを越えると、これらの椅子は、ある程度の付加的な背もたれリクラインを与えて、大腿−胴体角度を120度まで増大するが、より不活発な姿勢にしかならない。このリクライン作用は、大腿−胴体角度を増大することによって身体に対しては有利に感じられる動きを使用者に誘発するが、これは、机から引き離すことによるものであり、仕事の流れの継続を容易にしない。いくつかの研究は、レクライン位置において、腹部の重量は、胴体−大腿角度の開放が腰部彎曲を実際には増大すると予測されるとしても、腰椎の湾曲の減少(平坦化)を生じる可能性もあることを示している。
【0010】
図14を参照して、脊椎に対する骨盤の整列も重要である。人が中立的姿勢であるとき、上後腸骨棘(SPIS)104は、上前腸骨棘(ASIS)106より僅かに高い位置にある。中立的姿勢として知られる(すべての体重が使用者の足及び脚に掛かると言う不利な点があるが)立位姿勢において、矢状面(水平で図示)110で計測したときに、約9.9度の骨盤の平均下向き傾斜(骨盤角度108とも呼ばれる)を有する。座位に移動するときに骨盤が後方に回転すると、PSISとASISとの間の関係は変化して、ASISは、PSISと一直線になるか又はこれより高くなる可能性もある。
【0011】
要約すると、研究の結果、動的姿勢の増大及びより中立的な姿勢で使用者が過ごす時間量の増大は、使用者の筋骨格のストレスをより小さくでき、その結果、疲労を小さくし使用者の人間工学的体感を増す。より中立的な姿勢は、大腿−胴体角度が約121〜135度であり、かつ骨盤角度が、上後腸骨棘(PSIS)が上前腸骨棘(ASIS)より高い位置にあるような角度であるとき得られる(但し、骨盤がもはや中立的姿勢にあると考えられないほど高くない)。適切な人間工学を理解する製造者は、引き続き、このような健康的で人間工学に基づく姿勢を促進し最大限に高める着座法を開発する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、標準的直立姿勢と上昇人間工学的位置との間で調節できるオフィス用の椅子を提供する。これは、更に、1つの姿勢から別の姿勢への移行において活動的で動的な運動を促進する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
1つの実施形態において、椅子は、土台と、土台から上向きに延びる高さ調節可能な支柱と、後座部と前座部とを含む座部組立体と、支柱を座部組立体に接続するリンクシステムと、を含む。リンクシステムは、仕事用椅子としての役目をするための概ね水平な第1の位置と、上昇座位支持体としての役目をするより上向きかつ前方に傾斜した第2の位置と、の間で座部組立体を回動するように適合される。椅子は、リクライン機構と背もたれ支持体とを含む仕事用椅子タイプの背もたれ構造を更に含むことができ、背もたれ支持体は、第1及び第2の位置において使用者の背中を支持するために座部組立体から上向きに延び、リクライン機構は、座部組立体の後部に接続され、背もたれ支持体はリクライン機構に対して回転する。
【0014】
1つの実施形態において、座部組立体の低下位置において、前及び後座部は、相互に一列であるように両方とも概ね水平向きである。椅子が上昇位置にあるとき、後座部は、僅かに前方に傾斜し、低下位置におけるより高い位置にあり、前座部は、後座部に対して下向き角度で延びることができる。この上昇位置において、後座部の前方傾斜は、使用者の骨盤の前方回転を促し、後座部の前方傾斜と前座部の下向き角度の組合せは、使用者の大腿に対するストレスを減少して、大腿−胴体角度を中立的姿勢まで開くように促進する。
【0015】
椅子の後座部は、後座部が僅かに前方に傾斜しているときでも使用者を保持し支持するために作用する坐骨結節ポケットを形成する凹面部分を含むことができる。上昇位置において、坐骨結節ポケットは、後座部に座る使用者に安定性を与えるために、ほぼ垂直に、高さ調節可能な支柱の中心と一列である。椅子はまた、前座部と後座部との間に、相互に対して滑動可能なフィンガ状の突出物の噛み合わせ構造によって形成されたブリッジも含むことができる。ブリッジは、使用者の坐骨結節の前方約6インチ(約15.24cm)の距離に位置できる。
【0016】
1つの実施形態において、土台は、非ロック式キャスタを有する複数の支持アームを含む。いくつかの事例において、キャスタは、椅子が低下位置と上昇姿勢位置との間で関節式に移動するとき使用中ではない椅子が不意に位置変えしないようにする特性を含むことができる。以下で更に詳しく論じるように、上昇人間工学的位置における座部組立体の構造は、充分な支持を使用者に与えて、床上での使用者の足の支えと一緒にロック式キャスタを使用する必要がない。上昇位置への座部の移動のためには、使用者が、足首関節を自然に回転させてかつキャスタの大きな移動なしに、(動的姿勢において)椅子から立ち上がる必要があるかも知れない。
【0017】
本発明のこれらの並びにその他の目的、利点及び特徴は、現在の実施形態の説明および図面を参照することによって、充分に理解できるはずである。
【0018】
本発明の実施形態について詳しく説明する前に、本発明が、以下の説明において示す又は図面に図解する作動の詳細又は構成要素の構成及び構造の詳細に限定されないことが分かるはずである。本発明は、他の様々な実施形態で実現でき、本明細書において明白に開示しない別の様式で実施または実行できる。また、本明細書において使用する語句及び用語は、説明のためであって、限定的とはみなされるべきではないことが分かるはずである。「含む(including)」及び「備える(comprising)」並びにその変形は、その前に列記される項目及びその同等物並びに付加的項目及びその同等物を包括するものとする。更に、様々な実施形態の説明において一覧を使用する場合がある。特に明示しない限り、一覧の使用は本発明を構成要素の具体的な順番又は数に限定するものとは解釈されるべきではない。また、一覧の使用は、列挙されるステップ若しくは構成要素と又はこれに組み合わせできる任意の付加的ステップ若しくは構成要素を本発明の範囲から除外するものと解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の1つの実施形態に従った椅子の前方斜視図である。
【
図2】上昇人間工学的位置にある椅子の前方斜視図である。
【
図3】1つの実施形態に従った椅子の側面図である。
【
図4】上昇人間工学的位置にある椅子の側面図である。
【
図5】1つの実施形態に従った椅子の前面図である。
【
図6】上昇人間工学的位置に基づく椅子の前面図である。
【
図7】1つの実施形態に従った椅子の後方斜視図である。
【
図8】上昇人間工学的位置にある椅子の後方斜視図である。
【
図9】1つの実施形態に従った椅子の後面図である。
【
図10】上昇人間工学的位置にある椅子の後面図である。
【
図11】座部の椅子張り材料を取り除いた状態の、1つの実施形態に従った椅子の前方斜視図である。
【
図12】上昇人間工学的位置にある椅子の前方斜視図である。
【
図13】背中支持体が直立及びリクライン位置にある、1つの実施形態に従った椅子の側面図である。
【
図14】使用者の腰椎及び骨盤の側面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図において、本発明の1つの実施形態に従ったオフィス用の椅子を、全体を10として示す。椅子10は、土台12と、土台12から上向きに延びる支柱14と、支柱14上に支持される座部組立体16と、座部組立体16から上向きに述べる背もたれ18と、を含む。リンク機構20は、座部組立体16を支柱14又は土台12に作動的に接続して、概ね水平の低下位置から、以下でさらに詳しく説明する上昇人間工学的位置への座部組立体16の移動を可能にする。
【0021】
土台12は、オフィス用の椅子10のための床係合面を形成する。1つの実施形態において、土台12は、円筒形ハブ22と、ハブ22から半径方向外向きに延びる5本の支持アーム24と、を含む(他のタイプ及び異なる数の支持体も可能であるが)。支持アーム24は、各々キャスタ26を含んでよく、1つの実施形態において、キャスタは非ロック式キャスタ26であってもよい。非ロック式キャスタは、標準的非ロック式キャスタ、及び速度及び回転量を制限して、例えば使用者が低下あるいは上昇姿勢位置で椅子に座るとき椅子10の不注意の位置変え又は転がりを防止する助けとなるキャスタを含むことができる。別の実施形態において、図示しないが、キャスタ26は、使用者がキャスタの転がりを防止しそれによって床面に沿った椅子10の移動を防止するためにキャスタをロックできるように、選択的にロック可能とすることができる。
【0022】
支柱14は、土台12から上向きに延びる。図示する実施形態において、支柱14は、下部分28と、下部分28に固定された上部分30とを含む。下部分28は、概ね円筒形であり、土台12のハブ22内に嵌るサイズを有する。ハブ22は、ハブ22内で支柱14の下部分28を滑動することによって、使用者が支柱14を上下して、床面に対する座部組立体16の高さを上下するために作動できる、概ね従来の高さ調節機構を含むことができる。1つの実施形態において、起動レバー27が、使用者がレバー27を引っ張ることによって高さ調節機構を起動できるように、高さ調節機構に接続される。下部分28は、座部組立体16の旋回を可能にするためにハブ22内で回転できる。図示する実施形態において、支柱14の上部分30は、下部分28に固定されるが、下部分28の上端部32から所定の角度で延びる。特に、図示する実施形態において、上部分30は、概ね垂直の下部分28から約30度の角度で上向きに延び、上部分30は、以下でさらに詳しく説明するように、座部組立体の前端部へ向かって前方に延びる。このようにして、上部分30は、座部組立体16及びリンク機構20の支持体として作用する。図示する実施形態において、上部分30はY字形であり、狭い第1端部31から延びて第2端部33まで広がって、第1アーム35及び第2アーム37を有するヨークを形成する。
【0023】
座部組立体16は、支柱14の上方に支持され、
図3に示す概ね水平の低下位置と、
図4に示す上昇人間工学的位置と、の間で移動できる。1つの実施形態において、座部組立体16は、前部分34と後部分36とを含む。座部組立体16は、前部分34及び後部分36の両方に連続して広がる椅子張りクッション35を含む。前部分34の椅子張り材料35は上面38を含み、後部分36の椅子張り材料35は上面40を含む。前部分34及び後部分36は、相互に対して回動でき、図示する実施形態において、前部分34は、後部分36に対して下向きに回動できる。以下で更に詳しく説明するように、前部分34は、座部組立体16が
図2、4、6、8、20及び12に示すように上昇位置に上げられたとき、後部分に対して下向きに回動する。
図1、3、5、7、9及び11に示すような低下位置のとき、前部分34及び後部分36の上面38、40は、概ね共通平面において整列する。
図3に示すように、この平面は、水平から後向き約3.5度など水平から後向きに僅かに傾斜して、後部分36の後縁42を前部分36の前縁44より僅かに低くできる。別の実施形態において、座部組立体の傾斜角度は、後向きに3.5度より大きい又は小さい角度など別の角度又は完全に水平又は僅かに前向きの傾斜とすることができる。
【0024】
図2、4、6、8及び10を参照すると、座部組立体16が人間工学的上昇位置のとき、座部組立体16の両方の部分は、その低下位置から上昇でき、前部分34は、後部分36に対して下向きに傾斜する。1つの実施形態において、後部分36は、その低下位置から約4〜8インチ(約10.16〜20.32cm)上昇し、特定の実施形態において、後部分はその低下位置から約5インチ(約12.7cm)上昇して、支柱14の下部分28の上方に概ね整列される。さらに、後部分36は、その低下位置に対して前方に傾斜する。1つの実施形態において、座部の後部分は、低下位置から上昇位置まで移動したときその傾斜角度を約8.5度変化する。1つの実施形態において、後部分36は、後部分36が、約3.5度僅かに後向きに傾斜する低下位置から約5度前方に傾斜する上昇位置まで傾斜角度を約8.5度変化するように、座部組立体が上昇位置のとき、水平に対して前方に約5度傾斜する。
【0025】
前部分34の移動は、中立的姿勢を助長するために設定されるように上昇位置へ移動するとき、後部分36の移動とは異なる。1つの実施形態において、座部組立体16が上昇位置へ移動するとき、前部分34の動きは、前部分34の前縁44を側方に通過する軸線48の周りで回動するような動きである。前部分の後縁50は、その低下位置から上昇する。したがって、上昇位置において、前部分34は、後部分36から下向きに傾斜する。1つの実施形態において、前部分34と後部分36との間の角度は、使用者の大腿−胴体角度を広げられるようにすることによって使用者の大腿に対するストレスを軽減し人間工学的姿勢を助長するために前部分34が後部分36から低下するように約40度に設定される。
【0026】
図11〜12を参照すると、座部組立体16は、椅子張りクッションを取り除いてシートパン52を露出して示されている。図示する実施形態において、シートパン52は、低下及び上昇位置の両方の椅子10に使用するように設計されている。シートパン52は、座部組立体の前部分34と関連付けられる前部分54と、座部組立体16の後部分36と関連付けられる後部分56と、を含む。前部分54は、座部組立体16の前部分34が上述のように後部分36に対して回動できるようにするために、後部分56に対して回動又は屈曲するように構成される。1つの実施形態において、シートパンの前部分54及び後部分56は、前部分54と後部分56との間の側方軸線58の周りで回動する(同様に、座部組立体16の前部分34及び後部分36は、回動点92と概ね整列する側方軸線58の周りで回動する)。側方回動軸線58の場所は、使用者の大腿と坐骨結節との間の所望の距離など所望の場所で座部組立体16の屈曲を促すように選択できる。1つの実施形態において、側方軸線58は、側方回転軸線58が使用者の坐骨結節の前方約6インチ(約15.24cm)に位置して、大部分の使用者にとって快適であるように、ポケット60の前方約6インチ(約15.24cm)に位置する。
【0027】
図11及び12に示すように、シートパンの後部分56の少なくとも一部分は、使用者の坐骨結節を受け入れるためのくぼみ又は「ポケット」60を形成する凹面とすることができる。1つの実施形態において、ポケット60は、ポケット60のエリアにおけるシートパン52の可撓性を増すために、シートパン52を貫通する一連のスロット62を備えることができる。
図11及び12に示す別の実施形態において、シートパン52は、スロットの場所におけるシートパンの可撓性を増大して使用者の大腿の裏部へのストレスを軽減するように作用する一連のスロット53を、シートパン52の前部分54に含む。これらのスロット53のサイズ及び場所は、所望の場所におけるストレスを軽減するように設定できる。図示する実施形態において、スロット53は、中央グループ55、左側グループ57及び右側グループ59を含む。
【0028】
シートパン52の回動又は屈曲のために様々な方法を使用できるが、図示する実施形態は、使用者へのストレスを減少しながら屈曲を可能にする1つの方法を示す。
図11及び12に示すように、この実施形態において、シートパン52の前部分54と後部分56は、協働してその間にブリッジ64を形成する。特に、前部分54の後縁66は、外向きに延びる一連の離間した可撓性フィンガ68を含む。同様に、後部分56の前縁70は、別の一連の離間した可撓性フィンガ72を含む。フィンガ68、72は、相互にロックして、フィンガ68は、フィンガ72の間のギャップの中まで及び後部分の前縁70の下へ延び、フィンガ72は、フィンガ68の間のギャップの中まで及び前部分54の後縁66の下へ延びる。
図12に示すように、フィンガ68、72の各々は、座部組立体16が上昇位置に移動するとき、対向する隣のフィンガ68、72に対して屈曲し滑動して、側方軸線58の場所においてブリッジ64に円滑な丸みのある面を与える。1つの実施形態において、ブリッジ64は、シートパン52の側縁76、78において、シートパン52の前部分54と後部分56とを相互接続するヒンジ74を含む。ブリッジ64の湾曲量及びブリッジ64の可撓度などのブリッジの特性は、フィンガ68、72の特性を変動させることによって制御できる。
【0029】
椅子10は、低下位置と上昇人間工学的位置との間での座部組立体16の移動を可能にするために、支柱14(又は別の実施形態において、土台12)を座部組立体16に接続するための機構を含む。図示する実施形態において、この機構は、支柱14と座部組立体16との間に接続されたリンク機構20である。図示するように、リンク機構20は、1対の第1リンクアーム80と、1対の第2リンクアーム82と、アシスト装置83と、を含む。第1の対のリンクアーム80及び第2のリンクアーム82は、一緒に4本バーリンク装置を形成する。第1対のリンクアーム80は、上部支柱30の中心部から座部組立体16の後部分36の後縁42まで延びる。リンクアーム80の前端部84は、支柱14に対して回動し、リンクアーム80の後端部86は、座部組立体16に対して回動する。第2対のリンクアーム82は、上部支柱30の前縁33と、前部分34の前縁44と、の間に延びる。第2リンクアーム82は、各々、回動可能に支柱14に接続され(かつ、回動軸線48と整列し)た前端部90と、回動可能に座部組立体16に接続された後端部92と、を含む。図示する実施形態において、これらの第2リンクアーム82は、シートパン52の側面76、78と一体的であるが、これらは代替的に、座部組立体16と別個であってもよい。1つの実施形態において、第2リンクアーム82は、第1リンクアーム80より短い。アーム80、82は、一緒に、概ね水平の第1の位置と上向きに傾斜する第2の位置との間で回動できる。リンクアームの回動時に、リンクアームの後端部86、92は、低下位置から上昇人間工学的位置へ座部組立体16を駆動する連続弓状運動で移動する。リンクアーム80、82の長さ及び場所は、両方の位置において所望の位置付けを座部組立体に与えるように設定される。
図3及び4は、リンクアーム82の前端部90、リンクアーム82の後端部92、リンクアーム80の前端部84及びリンクアーム80の後端部86の場所を象徴的に(十字線で)示す。これら4つの十字線の場所は、4本バーリンク装置20の回動点を形成する。椅子の2つの姿勢位置の間での回動点86及び92の相対的移動は、
図3及び4から分かる。
【0030】
アシスト装置83は、椅子10の一部分と座部組立体16との間に取り付けられ、リンクアーム80、82及び座部組立体16の上昇人間工学的位置への移動を支援するように作動できる。1つの実施形態において、アシスト装置83は、上部支柱30と座部組立体16の前部分34との間に取り付けられるガスアシストシリンダ94である。シリンダ94は、伸びて座部組立体16を上昇位置へ駆動するために作動できるピストン95を含む。起動レバー96は、シリンダ94に接続され、ピストン95を作動するために使用者が引っ張ることができる。1つの実施形態において、アシスト装置83は、使用されていない椅子10を低下位置から上昇位置へ動かすためには充分であるが、使用中の椅子10を動かすには不充分な力を与えられる。その結果、使用者は、椅子10を上昇位置へ動かすために起動するとき、静的姿勢から動的姿勢に変化しなければならない。代替的実施形態において、アシスト装置83は、座部組立体16の移動を支援するための油圧シリンダ、電気駆動装置又は別の機構とすることができる。
【0031】
図13を見ると、背もたれ18は、座部組立体16から上向きに延びる。図示するように、背もたれ18は、座部組立体16の後部分36の後縁42に接続される。その結果、背もたれ18は、後部分が低下位置と上昇人間工学的位置との間で移動するときに、後部分36と一緒に移動する。1つの実施形態において、背もたれ18は、リクライン機構を含み、
図13に示すように、破断線で示す直立位置から実線で示すリクライン位置へリクラインできる。リクライン機構は、座部組立体の低下位置及び上昇位置の両方において、使用者によって操作可能とすることができる。
【0032】
図3及び4は、使用者の姿勢を図解するために椅子10に座っている使用者99を示す概略図であり、
図3に示す椅子10の低下位置と
図4に示す椅子10の上昇人間工学的位置との間の使用者の姿勢の変化を示す。上昇人間工学的位置における座部組立体16の位置は、使用者99を中立的姿勢に位置付けるように事前に設定される。特に、後部分36の上面40の前方傾斜、及び座部組立体16の前部分34と後部分36の上面38、40の間の角度は、中立的姿勢を助長するように事前に設定される。前部分34と後部分36との相対的角度及び位置は、使用者99の中立的姿勢を助長する。
図3及び4は、基準として肩関節の中心を使用して、胴体の側方中線に沿って見た身体の中心垂直基準線98を示す。基準として膝関節の中心を使用して大腿骨の側方中線に整列する大腿100の中線も示す。2本の中線の間の角度102は、大腿−胴体角度であり、上述のように、中立的姿勢の重要な目安である。
図3に示すように、椅子10の低下位置(標準的仕事用椅子の通常の位置)において、大腿−胴体角度102は、約90〜100度である。
図4に示すように、椅子10が、上昇人間工学的位置に移動したとき、大腿−胴体角度102は、中立的姿勢として許容される範囲内にあり、使用者に関連する利点を与える約128度まで増大される。これは、概略的に、後部分36の上面40の前方傾斜と、後部分36に対する座部組立体前部分34の下向き角度と、の組合せに起因する。後部分36の前方傾斜は、骨盤を前方に回転させて、使用者の上後腸骨棘(PSIS)を使用者の上前腸骨棘(ASIS)より高く維持するように作用する。座部組立体前部分34の下向き角度は、使用者の大腿に対するストレスを軽減するように作用し、大腿−胴体角度102を広げられるようにする。重要なことは、上昇人間工学的位置は、使用者を作業面から引き離すことなく、中立的姿勢を助長する。更に、座部組立体後部分36の上面40(及び坐骨ポケット60)は、椅子10が上昇位置にあっても、使用者の主要な体重を支持して、立つことによって生じるストレス及び疲労を減少する。また、上昇人間工学的位置において、座部組立体16の後部分36は、概ね、支柱の下部分28の上方で整列され、土台の中心の上方に使用者の重心を整列して、上昇位置において椅子の安定を維持する。
【0033】
1つの実施形態に従った椅子10の操作は、(a)キャスタ26を使用して所望の位置まで(オフィス環境において、所望の位置は概ね作業面に隣接する)椅子10を転がすステップ、(b)椅子を低下位置にして椅子10に座るステップであって、座部組立体16の前部分34及び後部分36の上面38、40が概ね整列して、平面的な座面を形成する、ステップ、(c)高さ調節機構を作動するためにレバー27を引っ張ることによって、座部組立体16の高さを所望の位置に調節するステップ、及び、(d)椅子が上昇人間工学的位置へ動けるようにするために使用者が僅かに立ち上がりながらアシストシリンダ94を起動するために起動レバー96を引っ張ることによって低下位置から上昇人間工学的位置まで座部組立体16を動かし、それによって使用者が静的姿勢から動的姿勢へ変化させるステップ、の1つ又はそれ以上を含む。上昇人間工学的位置において、使用者は、使用者が座部組立体16の後部分36の上面40に座れるように、上昇位置に座部組立体16をロックするためにレバー96を解除できる。1つの実施形態において、座部組立体16は、上昇人間工学的位置の中立的姿勢を助長して、使用者が椅子を人間工学的に劣る位置に位置付けるのを防止するために、低下位置及び設定された上昇人間工学的位置のみにロックする。但し、代替的実施形態において、椅子10は、使用者が低下位置と上昇位置との間の任意の位置に椅子10をロックするためにレバーを解除できるように構成できる。
【0034】
以上の説明は、本発明の現在の実施形態の説明である。均等の原理を含めて特許法の原則に従って解釈される特許請求の範囲において規定される本発明の主旨及び広義の形態から逸脱することなく、様々な改変および変更を加えることができる。本開示は、例示のためのものであり、本発明の全ての実施形態の網羅的説明として又はこれらの実施形態に関連して図示又は説明する具体的要素に特許請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。例えば、限定的でなく、説明する本発明の個別の要素は、実質的に同様の機能性を提供する又は適切な作動を提供する別の要素と交換できる。これは、例えば、当業者に現在知られているような現在既知の代替要素、及び、開発により当業者が代替物として認識するような将来開発される代替要素を含む。更に、開示する実施形態は、まとめて説明され協力してひとまとめの利点を提供するような複数の特徴を含む。本発明は、特許請求の範囲に明白に示される範囲を除いて、これらの特徴を全て含む又は明示される利点を全て提供する実施形態のみに限定されない。様々な実施形態の特徴は、他の実施形態の特徴と組み合わせて使用できる。「垂直」、「水平」、「頂部」、「底部」、「前」、「後」、「上」、「下」、「内側」、「内向き」、「外側」、「外向き」、「前向き」及び「後向き」などの方向用語は、図に示す実施形態の向きに基づいて本発明を説明する助けとして使用される。方向用語の使用は、本発明を具体的な向きに限定するものと解釈すべきではない。例えば単数(定)冠詞を使用して単数でクレーム要素に言及するとき、これは、要素を単数に限定するものとして解釈されるべきではない。