(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記コラムの前面の温度を測定する前側温度センサと、前記コラムの後面の温度を測定する後側温度センサとを備え、前記コラムの前面と後面の温度差が、前記コラムの平均温度と前記熱交換流体の温度の温度差より小さい場合には、前記熱交換流体の温度をベース温度に設定し、
前記コラムの前面と後面の温度差が、前記コラムの平均温度と前記熱交換流体の温度の温度差より大きい場合には、前記熱交換流体の温度を前記コラムの温度調整が迅速に行われるように温度差を大きくする補正を行う請求項1に記載された工作機械の温度調整装置。
過去の外気温度の変化の履歴に基づいて現在の外気温度から先の外気温度の温度変化の傾きを予測して、前記後側熱交換パッドに供給する熱交換流体の温度と流量を設定するようにした請求項1または2に記載された工作機械の温度調整装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1に記載の発明では、コラムの前後方向の倒れを抑制することや冷却の制御手段等については記載されておらず、熱伝達率が低いためにコラムの前後面の冷却効率が悪かった。しかも、冷却液とコラムの温度差が小さくなると熱の除去に長時間を要するという欠点があった。また、外気温度によるコラム3の倒れの防止について記載されていない。
また、特許文献2に記載の発明は貫通孔を流れる冷却液がコラムの下側から上側に流れ、しかも前後を縫うように蛇行して流れるため、コラムの上側で前後面共に温度が高くなり、逆台形状に熱膨張するためにコラムの主軸側が倒れる前倒れ状態に傾斜してしまう欠点があった。また、コラム後面側の温度が上昇した場合にコラムが前倒れになるが、コラム後面の冷却を行おうとしても前面側にも等しく冷却液が流れるためにコラム後面側の冷却と傾斜の抑制が困難であり、緩やかなコラム全体の冷却しかできなかった。
【0007】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、コラムの熱変形を効率的に抑制できるようにした工作機械の温度調整装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る工作機械の温度調整装置は、前面に工具を備えたコラムをベースに設置した工作機械の温度調整装置において、ベースの温度をベース温度として測定するベース温度センサと、コラムの工具を設けた前面に取り付けられていて内部に熱交換流体を流す流体流路を形成した前側熱交換パッドと、コラムの前面に対向する後面に取り付けられていて内部に熱交換流体を流す流体流路を形成した後側熱交換パッドと、ベース温度に基づいて熱交換流体の温度を設定する流体温度設定手段と、温度設定された熱交換流体を後側熱交換パッドと前側熱交換パッドに供給する温調装置と
、外気温度を測定する外気温度センサと、外気温度センサで測定した過去の外気温度と現在の外気温度との温度差を検出して後側熱交換パッドと前側熱交換パッドに供給する熱交換流体の流量比を調整する流体流量設定手段とを備え、後側熱交換パッドに供給する流体温度設定手段で温度設定された熱交換流体を増減調整することで、コラムの前面及び後面の温度を均一化させるようにしたことを特徴とする。
本発明は、工作機械周囲の外気温度の影響を受けてコラムが前後方向に倒れを生じることがあり、コラム後面は特に外気温度の影響を受け易いが、流体温度設定手段でベース温度に基づいて熱交換流体の温度を設定し、その温度の熱交換流体を温調装置から後側熱交換パッドと前側熱交換パッドに供給することでコラムの前面及び後面の温度を均一化させることができて倒れを防止できる。
また、過去の外気温度と現在の外気温度との温度差を検出して、流体流量設定手段によって後側熱交換パッドと前側熱交換パッドに供給する熱交換流体の流量比を調整して設定することで、コラムの後面の温度がベース温度に近づくように調整できるためコラムの倒れを防止することができる。
【0010】
また、コラムの後面の温度を測定する後側温度センサと、コラムの前面の温度を測定する前側温度センサとを備えており、コラムの前面と後面の温度差(δTm)が、コラムの平均温度と熱交換流体の温度の温度差(δTd)より小さい場合には、
前記熱交換流体の温度をベース温度に設定し、前記コラムの前面と後面の温度差が、前記コラムの平均温度と前記熱交換流体の温度の温度差より大きい場合には、前記熱交換流体の温度を前記コラムの温度調整が迅速に行われるように温度差を大きくする補正を行うことが好ましい。
コラムの前面と後面の温度差(δTm)が、コラムの平均温度と熱交換流体の温度の温度差(δTd)より小さいとコラムと熱交換流体との間で温度調整能力が小さく温度調整に長時間を要するが、熱交換流体の温度をベース温度との温度差を広げるようシフトさせることで、短時間で効率的にコラムの温度を調整できる。
【0011】
また、過去の外気温度の変化の履歴に基づいて現在の外気温度から先の外気温度の温度変化の傾きを予測して、後側熱交換パッドに供給する熱交換流体の温度と流量を設定するようにしてもよい。
外気温度の変化の履歴に基づいて現在より先の時刻の温度変化の傾きを予測することで、遅れを生じることなくコラムの温度を調整することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る工作機械の温度調整装置によれば、ベース温度に基づいて設定された熱交換流体を後側熱交換パッドと前側熱交換パッドに供給することで、コラムの前面及び後面の温度を調整して倒れを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態による工作機械とその温度調整装置について添付図面により説明する。
まず、第一実施形態による工作機械1とその温度調整装置5について
図1に基づいて説明する。
図1に示す工作機械1はベース2の一端部に門型のコラム3が立設されて略L字型を有している。コラム3において、主軸13側の面を前面(前部)3aといい、前面3aに対向する面を後面(後部)3bというものとする。コラム3には、コラム3の前面3aと後面3bの温度を調整して倒れを防止するための温度調整装置5が設置されている。
次に、
図2及び
図3に基づいて工作機械1について説明する。ここで、工作機械1において垂直軸をY軸とし、Y軸に直交する水平面内において横方向をX軸、X軸に直交する縦方向をZ軸とする。ベース2にはワークを把持するためのテーブル22及びパレット23aが設けられている。
【0015】
コラム3にはY軸方向に直交する方向に一対のX軸ガイドレール8が上下に分かれて平行に配設され、X軸ガイドレール8に沿って左右方向(X軸方向)に移動可能に例えば門型のサドル9が配設されている。サドル9にはY軸方向に1対のY軸ガイドレール10が配設され、Y軸ガイドレール10に沿って上下方向(Y軸方向)に昇降可能な主軸頭11が設けられている。主軸頭11には図示しない工具を保持する主軸13がZ軸方向に突出し、主軸13には主軸モータが連結されている。
【0016】
サドル9には、Y軸ガイドレール10と平行にY軸ボールネジ15が立設され、Y軸ボールネジ15の一端部、例えば上端部にはY軸駆動源としてY軸サーボモータMyが連結されている。Y軸ボールネジ15はサドル9に螺合状態に保持され、Y軸サーボモータMyの正逆回転駆動によって主軸頭11を主軸13と一体に昇降可能としている。Y軸サーボモータMyはコラム3よりも上方に突出して設置されている。
サドル9にはX軸ガイドレール8と平行にX軸ボールネジ18が設けられ、X軸ボールネジ18の一端部にはX軸駆動源としてX軸サーボモータMxが連結されている。X軸ボールネジ18はコラム3に螺合状態に保持され、X軸サーボモータMxの正逆回転駆動によってサドル9をX軸ガイドレール8に沿って主軸13と一体にX軸方向に移動可能としている。
【0017】
ベース2にはX軸方向に直交する方向に一対のZ軸ガイドレール19が配設されている。ベース2にはAPC(オートパレットチェンジャ)装置21が取り付けられ、旋回可能なAPC装置21によってテーブル22の上部に支持されている二つのパレット23a、23aが交換可能とされている。テーブル22はZ軸ガイドレール19に沿って前後方向(Z軸方向)に移動可能とされている。加工位置にあるパレット23aには加工対象物である図示しないワークが固定され、主軸13に保持された工具で切削加工に供される。
なお、加工位置にあるパレット23aを支持するテーブル22は、Z軸ボールネジ20を介してZ軸駆動源としてZ軸サーボモータ(図示せず)に連結されており、Z軸サーボモータを正逆回転させることで、Z軸ガイドレール19に沿ってZ軸方向に前後動可能としている。
【0018】
図2及び
図3において、門型のコラム3の各支柱部分の前面3aには前側熱交換パッド24が装着され、後面3bには後側熱交換パッド25が装着されている。前側熱交換パッド24と後側熱交換パッド25は内部を流れる熱交換流体としての冷却液によってコラム3の前面3a、後面3bで熱交換して前面3a、後面3bの温度を均一化するよう制御する。なお、コラム3が鋳物製である場合には前面3a、後面3bである鋳物の鋳肌(黒皮)の熱伝導率が低い。そのため、鋳肌面を切削してコラム3の母材面を直接、前側熱交換パッド24及び後側熱交換パッド25の冷却液と熱交換させることが好ましい。
各熱交換パッド24、25は
図4に示すように例えば略薄板状に形成され、
図4(a)に示す内部の水平断面において、縁部の四辺に外壁26aが形成されて内部空間が封止され、内部空間内には略U字状の仕切り壁26bが形成されている。仕切り壁26bで仕切られた内部空間は例えば冷却液の流体流路28を形成している。
【0019】
そして、外壁26aの一方の短辺が取り付け下部26aaとされ、他方の短辺が取り付け上部26abとされている。仕切り壁26bのU字部が取り付け下部26aa側にあり、取り付け下部26aa側に冷却液の供給口28a、仕切り壁26bのU字部の内側に排出口28bが形成されている。そのため、熱交換パッド24,25の供給口28aから流入する冷却液は仕切り壁26bに沿って流体流路28を略U字状に流れて排出口28bから外部に排出される。
なお、冷却液として例えば熱交換用オイルや水、その他の適宜の熱伝導性の高い液体を使用できる。流体流路28の経路はU字状に限定されるものではなく、冷却や加温を効率よく行うことのできる適宜の形状、例えば蛇腹状を採用できる。供給口28aと排出口28bは前側熱交換パッド24及び後側熱交換パッド25の適宜位置に形成できる。
なお、コラム3の外面において、熱交換パッド24,25を装着しない側面や上面等の他の面に断熱板を取り付ければさらに効果的に熱交換できる。
【0020】
外気温度の変化によってコラム3のZ軸方向の倒れが生じるとワークの加工精度に悪影響を及ぼす。即ち、外気温度が高温に上昇する際にはコラム3の後面が伸びてコラム3が前倒れに傾斜し、外気温度が低温に下降する際にはコラム3の後面が縮んで後ろ倒れに傾斜する。そのため、コラム3の倒れを効率的に抑制することが重要である。
コラム3のZ軸方向の熱変位の抑制に関し、室温を直に測定すると温度の変動が激しくなる場合があるため、コラム3内の前面3a近傍に前側温度センサ31、後面3b近傍に後側温度センサ32を設置した。また、ベース2の内部(または外部)にはベース2の温度を測定するベース温度センサ33が設置されている。ベース2の温度は、高さ方向に温度変位を生じ易いコラム3と比較して安定しているため、ベース2内の温度を温度制御の目標温度として基準ベース温度に設定した。
また、コラム3の上面外側に外気温度を測定する外気温度センサ34を設置した。外気温度センサ34は工作機械1の外部であれば他の適宜位置に設置してもよいが、上下方向に温度変動を生じ易いコラム3の上面やその近傍に設置することがコラム3の温度制御のために好ましい。
【0021】
次に工作機械1の温度調整装置5について
図1を中心に説明する。
工作機械1にはNC装置35が例えば外部に設置され、NC装置35には温調装置インターフェース36、バルブインターフェース37、温度センサインターフェース38が設置されている。温調装置インターフェース36は温調装置コントローラ39に接続されている。
温調装置コントローラ39は、ベース温度センサ33で測定した基準ベース温度と同じ温度に冷却液の温度を初期設定するものとする。そして、コラム3における後側温度センサ32で測定した後側温度と前側温度センサ31で測定した前側温度との温度差δTm、後側温度及び前側温度の平均温度である中立温度と冷却液温度との温度差δTdを演算し、δTmの絶対値|δTm|がδTdの絶対値|δTd|より大きい場合に、初期設定された基準ベース温度よりも|δTm|分、高い温度か低い温度にシフトする。温調装置コントローラ39は流体温度設定手段を構成する。
温調装置コントローラ39で設定された冷却液の温度に基づいて、温調装置43により前側及び後側熱交換パッド24、25に供給する冷却液の温度を調整する。
【0022】
温調装置43から後側熱交換パッド25の供給口28aに冷却液を供給する後側供給流路45aが設置され、後側供給流路45aは分岐して前側熱交換パッド24の供給口28aに冷却液を供給する前側供給流路45bが設置されている。そして、後側熱交換パッド25の排出口28bと前側熱交換パッド24の排出口28bから排出された熱交換後の冷却液は後側戻り流路46aと前側戻り流路46bを介して温調装置43に戻される。後側戻り流路46aと前側戻り流路46bは互いに合流することが好ましい。そして、温調装置43では温調装置コントローラ39からの温度設定信号により冷却液を再度熱交換することで循環させている。
後側供給流路45aには後側熱交換パッド25に供給する冷却液の流量を手動または自動で制御する流量可変バルブ47が設置されている。前側供給流路45bには前側熱交換パッド24に供給する冷却液の流量を制御する絞り48が設置されている。温調装置43から供給される冷却液は定量であり、流量可変バルブ47によって後側熱交換パッド25と前側熱交換パッド24に供給する冷却液の流量比を調整することができる。
【0023】
バルブインターフェース37に接続されたバルブ開度調整手段41は流量可変バルブ47に接続されている。バルブ開度調整手段41は、外気温度センサ34で測定した過去の外気温度と現在の外気温度との温度差に基づいて後側熱交換パッド25に供給する冷却液の流量を設定するものであり、流体流量設定手段を構成している。
バルブ開度調整手段41は流量可変バルブ47を例えば流量が大、中、小の三段階に変化できるように設定しているが、二段階や四段階以上に設定してもよい。或いは流量可変バルブ47の開度を無段階に調整できるようにしてもよい。
【0024】
また、温度センサインターフェース38は温度測定手段42に接続されている。温度測定手段42は、前側温度センサ31、後側温度センサ32、ベース温度センサ33、外気温度センサ34にそれぞれ接続されている。温度測定手段42は、前側温度センサ31、後側温度センサ32、ベース温度センサ33、外気温度センサ34で測定された温度データを温度測定手段42及びNC装置35で演算処理して温調装置コントローラ39とバルブ開度調整手段41とに出力する。
また、後側戻り流路46aと後側供給流路45aはそれぞれの温度データが温調装置コントローラ39に出力されることで、温調装置43から供給される冷却液が設定したベース基準温度またはシフト温度になるようにフィードバック制御される。
【0025】
本第一実施形態による工作機械1の温度調整装置5は上述した構成を備えており、次に冷却液の温度調整方法と流量制御方法について
図5及び
図6に示すフローチャートに沿って説明する。
温度調整装置5において、温調装置コントローラ39と温調装置43で設定する冷却液の温度調整方法について
図5により説明する。まず、温度測定手段42により、前側温度センサ31、後側温度センサ32、ベース温度センサ33、外気温度センサ34によって各部の現在温度を測定する(S101)。次に温度測定手段42でコラム3の後面3bの後面温度と前面3aの前面温度との差分を「δTm」として演算する。
また、コラム3の後面温度と前面温度との平均温度である中立温度と冷却液の温度との差分を「δTd」として演算する(S102)。冷却液の温度とは図示しない冷却装置から吐出する冷却液の出口温度であり、基本的に基準ベース温度に設定される。そして、δTmとδTdの絶対値の差温(|δTm|−|δTd|)を演算し、|δTm|の方が大きいか小さいかを判別する(S103)。
【0026】
|δTm|の方が小さい場合には、コラム3の前面3aと後面3bの温度差が小さい(例えば1℃以下)。|δTm|の方が大きい場合には、コラム3の前面3aと後面3bの温度差が大きい(例えば1℃超え)。
そして、|δTm|の方が小さい場合には、コラム3の後面3bと前面3aの温度差が小さく冷却液の温度が相対的に大きいため、温調装置43から吐出される冷却液の温度を基準ベース温度に設定する(S104)。そして、所定間隔、例えば1〜10分程度の間隔を開けて次の冷却水の温度を設定し(S105)、上述した処理を繰り返す。
【0027】
また、|δTm|の方が大きい場合には、温度の差分δTdがプラス(正)かマイナス(負)かを判別し(S106)、いずれの場合でも、冷却液の温度とコラム3の後面3bの温度差が小さいといえるため、コラム3の温度の迅速な調整が困難であるといえる。そのため、冷却液の温度をコラム3の温度調整が迅速に行われるように温度差を大きくする補正を行う(シフトという)必要があり、次のように冷却液の温度シフトにつなげる。
即ち、差分δTdがプラスである場合はコラム3の温度が冷却液の温度よりわずかに高い場合であり、温調装置43から吐出する冷却液の温度を基準ベース温度よりも|δTm|分、低い温度に設定する(S107)。これにより、冷却液の熱交換能力をアップさせることができ、より低い温度に設定してコラム3の前面3a及び後面3bを冷やし易くする。
差分δTdがマイナスである場合はコラム3の温度が冷却液の温度よりわずかに低い場合であり、温調装置43から吐出する冷却液の温度を基準ベース温度よりも|δTm|分、高い温度に設定する(S108)。これにより、冷却液の熱交換能力をアップさせるため、より高い温度に設定してコラム3の前後面を暖めることができる。
【0028】
次に、上述のように温調装置コントローラ39で温度調整された冷却液の流量制御方法について
図6に示すフローチャートに沿って説明する。
温度調整装置5において、温度測定手段42により、前側温度センサ31、後側温度センサ32、ベース温度センサ33、外気温度センサ34によって各部の温度を測定する。この場合、各部の温度測定はバラつくことがあるため、例えば10〜60秒程度の時間測定してその平均値をとるものとする(S201)。次に、外気温度センサ34により適宜の過去の時刻(例えば8分前)のコラム3上面の外気温度をメモリから読み込むと共に平均化した現在の時刻の温度を読み込む(S202)。
【0029】
そして、現在の外気温度と過去の外気温度とを比較する(S203)。ここで、電源を投入した直後では、前回の稼働時に測定した外気温度の測定時刻から長時間を経過している。目安として10分を超える場合には、前側熱交換パッド24と後側熱交換パッド25の冷却液流量を同一にしてS201に戻る(S204)。即ち、稼働初期で稼働時間不足のために冷却液の流量制御を行わない。
過去の外気温度の測定時刻から現在の測定時刻まで10分以内であれば稼働初期から所定時間が経過した定常状態であると判断し、ベース2の基準となる現在のベース温度(以下、基準ベース温度という)と外気温度との差を算出する(S205)。
外気温度と基準ベース温度との差から、上述したように温調装置コントローラ39で冷却液の温度を設定し、温調装置43に出力する。温調装置43からは設定温度で一定流量の冷却液が吐出される。
【0030】
そして、外気温度と基準ベース温度との差から現在の外気温度の方が高いか低いかを判断する(S206)。外気温度が基準ベース温度より高い場合には次のステップS107において、バルブ開度調整手段41で現在の外気温度と過去の外気温度との差から外気温度が下降状態にあるか上昇状態にあるかを判断する(S207)。
下降状態にある場合には、外気温度が基準ベース温度より高く外気温度が下降中であるため、コラム3は前よりも冷えており、コラム3が後ろに倒れるおそれがある。そのため、流量可変バルブ47の開度を小さく絞って後側熱交換パッド25の冷却液を減少させ、前側熱交換パッド24に供給する冷却液を増大させる(S208)。この時刻、冷却液の温度、バルブ開度の各データをメモリに保存して、S201に戻る(S209)。
【0031】
一方、現在の外気温度と過去の外気温度との差がない場合には、前側熱交換パッド24と後側熱交換パッド25への冷却液の流量を等しくする(S210)。現在の外気温度が過去の外気温度より上昇中である場合には、コラム3は前よりも温まっており、コラム3が前側に倒れるおそれがある。そのため、流量可変バルブ47の開度を大きく開いて後側熱交換パッド25の冷却液を増大させる(S211)。
【0032】
また、S206で外気温度が基準ベース温度より低い場合には温度の高い冷却液によってコラム3を温める制御を行う。
即ち、Sステップ212において、バルブ開度調整手段41で現在の外気温度と過去の外気温度との差から下降状態にあるか上昇状態にあるかを判断する(S212)。外気温が下降状態にある場合には、外気温度が基準ベース温度より低く外気温度が下降中であるため、コラム3の後面3bは前面3aよりも低温であり、コラム3が後側に倒れるおそれがある。そのため、流量可変バルブ47の開度を大きく開いて後側熱交換パッド25に供給する温かい冷却液を増大させて(S213)、コラム3の後面3bを加温する。
【0033】
現在の外気温度と過去の外気温度との差がない場合には、前側熱交換パッド24と後側熱交換パッド25への冷却液の流量を等しくする(S214)。現在の外気温度が過去の外気温度より上昇中である場合には、コラム3は前よりも高温であり、コラム3が前側に倒れるおそれがある。そのため、流量可変バルブ47の開度を小さく絞り、後側熱交換パッド25に供給する温かい冷却液を減少させる(S215)。これによって、前側熱交換パッド24に供給する温かい冷却液が増大し、コラム3の後面3bから熱が流出することを抑え、コラム3の前後面の加温を調整する。
このようにして、コラム3の倒れを確実に防止することができる。
【0034】
上述のように本実施形態による工作機械1の温度調整装置5によれば、コラム3の前面3aと後面3bに前側熱交換パッド24と後側熱交換パッド25をそれぞれ装着して、温調装置43から各熱交換パッド24、25に供給される冷却液の温度を基本的に基準ベース温度に設定し且つ温度差が所定値より小さい場合にシフトしてより大きく設定する。しかも、冷却液の流量を外気温度の過去の履歴と現在の温度により制御する。これにより、コラム3の熱変形を効率よく抑制することができる。
【0035】
なお、本発明による工作機械1の温度調整装置5は、上述した実施形態によるものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜の変更や置換等が可能である。以下に、本発明の他の実施形態や変形例について説明するが、上述した実施形態による工作機械1の温度調整装置5と同一または同様な部材、部品等には同一の符号を用いて説明する。
【0036】
上述した第一実施形態による温度調整装置5では、冷却液の流量制御に際し、外気温度の時間変化を過去と現在の外気温度の差から単位時間当たりの温度変化の傾きとして制御した。しかしながら、制御要素として現在から過去(例えば8分前等)の外気温度の履歴を用いており、しかもバラつきや外乱を除去して安定した温度を得るために例えば10〜60秒程度の各測定値を平均化した外気温度を用いている。その分、処理に遅れがでる欠点がある。しかも、工作機械1の大きさや熱交換パッド24、25の大きさによって処理時間の遅れが異なる。
そこで、第二実施形態による工作機械1の温度調整装置5では、過去の外気温度の傾きの変化により、温度上昇始めと終わり、温度下降の始めと終わりを検出し、現在より先の時刻を予測して早めに冷却液の流量制御を行えるように予測制御を行い、先の時刻の流量制御を行うこととした。これによって冷却液の熱交換の遅れを抑制できる。
【0037】
即ち、
図7に示すように、過去の時間経過に対する外気温度の変化を測定し、外気温度の変化特性を曲線状にプロットし、外気温度傾きデータを予め作成した。現在の外気温度を測定して、外気温度の変化曲線から先の時刻の単位時間当たりの温度変化の傾き角度を予測する。外気温度傾きデータの変化曲線に対して、時間の経過に沿った外気温度変化の傾きθi(i=1,2,3、…、…)を求めておく。
即ち、一例として、
図7において、時間の経過に沿って外気温度の変化がない状態の傾きθ1、外気温度が上昇し始めた状態の傾きθ2、外気温度の上昇が大きい状態の傾きθ3、外気温度の上昇が大きい状態から緩んできた状態の傾きθ4、外気温度が下降し始めた状態の傾きθ5、外気温度の下降が大きい状態の傾きθ6、外気温度の下降が大きい状態から緩んできた状態の傾きθ7に分類する。
なお、外気温度傾きデータは直近のものが好ましく、外気温度センサで測定した外気温度を
図7のグラフに加えて順次データを更新する。
【0038】
外気温度の変化が上記7種の分類のいずれに該当するかは工作機械1の大きさ等によって異なるため、予め実験等によって定めて置く。例えば
図8の表に示すように、1時間当たりの外気温度が、傾きθ1では0.6℃(±0.6℃/h=0.01℃/min)以下、傾きθ2では0.6℃(+0.01℃/min)超え、傾きθ3では3.0℃(+0.05℃/min)超え、傾きθ4では1.2℃(−0.02℃/min)超え、傾きθ5では−0.6℃(−0.01℃/min)超え、傾きθ6では−3.0℃(−0.05℃/min)超え、傾きθ7では−1.2℃(+0.02℃/min)超えで変化したものとする。
そのため、外気温度センサ34で測定した現在の外気温度が
図7に示す履歴のいずれに該当するかを検知して、その先の時刻の温度の傾きがθ1〜θ7のいずれの状態になるかを予測し、先の外気温度に基づく冷却液の温度を設定する。なお、
図7に示す外気温度傾きデータに±αの範囲の許容誤差範囲を設定すると、一層、先の時刻の温度の傾きθiの選択が容易になる。
【0039】
そして、第一実施形態における
図5のフローチャートに示すように、予測した先の時刻の冷却液の温度及びコラム中立温度の差δTdとコラム3の前後面の温度差δTmとの絶対値の差温について、|δTm|の方が大きい場合には冷却液の熱交換の能力が小さくなるので、先の時刻の温度設定をオフセットして温度差を広げるものとする。例えば、傾きθ1では、基準ベース温度と同じ温度の冷却液を吐出するためオフセット=0℃とする。傾きθ2では、基準ベース温度より1℃低温の冷却液を吐出するため、オフセット=−1℃ということになる。
また、コラム3の後側熱交換パッド25に供給する先の時刻の冷却液の流量は第一実施形態の
図6に示すフローチャートに沿って行う。
本第二実施形態による工作機械1の温度調整装置5によれば、現在の外気温度と
図7及び
図8に示す外気温度傾きデータとに基づく予測制御によって現在より先の時刻の冷却液の流量制御を行えるため、熱交換の遅れを抑制できる。
【0040】
また、外気温度傾きデータの設定時間の範囲は適宜に設定できる。例えば数時間、1日、1週間等、或いは1年等に設定することができる。
また、上述した実施形態では、温調装置コントローラ39で冷却液の温度制御を行い、バルブ開度調整手段41で流量制御を行うようにしたが、
図7のフローチャートに示すように流量制御は必ずしも行わなくてもよい。例えば温度制御した冷却液について、前側温度センサ31と後側温度センサ32の温度が等しくなるように流量可変バルブ47の開閉制御を自動または手動で行って、前側熱交換パッド24と後側熱交換パッド25に供給される冷却液を分配するようにしてもよい。