(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
(非水二次電池用添加剤)
本発明の非水二次電池用添加剤は、下記式(I)で表される化合物(以下、「化合物(I)」ということもある)からなる。
B(OCOR)
3 ・・・(I)
(式(I)中、Bはホウ素原子を表す。Rは、それぞれ独立して、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基、炭素数6〜20のアリール基、又は炭素数6〜20のハロゲン化アリール基(これらアルキル基及びアリール基は、構造内に置換基又はヘテロ原子を有していてもよい)を表す。)
【0009】
このような化合物(I)を添加剤として用いることで、従来の添加剤よりも、非水二次電池のサイクル特性及びレート特性を向上することができる。
本発明の式(I)で表される化合物は構造内にリチウムイオンを含まない。そのため、緻密な皮膜を活物質表面で形成することができ、活物質の保護効果が高まると考えられる。そのため、本発明の化合物(I)は、非水二次電池のサイクル特性及びレート特性を向上させることができる。前記皮膜は、正極の活物質又は負極の活物質の少なくとも一方の活物質の表面に形成されることが好ましい。また、前記皮膜は、負極の活物質の表面に形成されることが好ましい。これにより、リチウムデンドライドの生成の抑制や、充放電の繰り返しの際に、活物質が膨張収縮することに起因する、活物質の崩壊を抑制することが可能となると考えられる。
化合物(I)において、Rは、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基、又は炭素数6〜20のアリール基であることが好ましく、炭素数1〜10のアルキル基、又は炭素数1〜10のハロゲン化アルキル基であることがより好ましく、炭素数1〜3のアルキル基、又は炭素数1〜3のハロゲン化アルキル基であることがさらに好ましい。Rがこれら置換基であれば、非水二次電池のサイクル特性及びレート特性を向上させやすい。
【0010】
化合物(I)の合成方法は、本発明の効果を有する限り特に限定されない。例えば、ホウ酸と、カルボン酸又はカルボン酸無水物とを加熱条件で反応させる方法等が挙げられる。
反応条件としては、反応性の観点から、還流することが好ましい。また、反応時間は、1〜12時間が好ましい。
【0011】
(非水二次電池用電解液)
本発明の非水二次電池用電解液(以下、単に「電解液」ということもある)は、前記非水二次電池用添加剤と、非水二次電池用電解質と、非水溶媒とを含む。
【0012】
<非水二次電池用添加剤>
本発明の電解液に含まれる非水二次電池用添加剤は、前述の化合物(I)である。
化合物(I)を含むことで、本発明の電解液は、サイクル特性及びレート特性に優れる非水二次電池を提供できる。
電解液中の化合物(I)の濃度は、0.001〜1mol/L(以下、「M」と略記する)が好ましく、0.05〜1Mがより好ましく、0.05〜0.5Mがさらに好ましい。添加剤の濃度が上記範囲内であれば、非水二次電池のサイクル特性及びレート特性が向上しやすくなる。
化合物(I)は、1種単独で用いられてもよく、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0013】
<非水二次電池用電解質>
本発明の非水二次電池用電解液に含まれる非水二次電池用電解質(以下、単に「電解質」ということもある)としては、本発明の効果を有する限り特に限定されない。例えば、金属イオンもしくはその塩が挙げられる。その中でも、周期律表第一族又は第二族に属する金属イオンもしくはその塩が好ましい。具体的には、リチウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩などが挙げられる。このうち、非水二次電池の出力の観点からリチウム塩が好ましい。
リチウム塩としては、リチウムイオン二次電池用の電解質として通常用いられるものであれば、本発明の効果を有する限り特に限定されない。具体的には、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)、四フッ化ホウ素リチウム(LiBF
4)、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミドリチウム(LiN(SO
2CF
3)
2)、ビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミドリチウム(LiN(SO
2CF
2CF
3)
2)、過塩素酸リチウム(LiClO
4)、三フッ化メタンスルホン酸リチウム(LiCF
3SO
3)、六フッ化アンチモン酸リチウム(LiSbF
6)、六フッ化ヒ素酸リチウム(LiAsF
6)、テトラフェニルホウ酸リチウム(LiB(C
6H
5)
4)、LiC(SO
2CF
3)
3、LiPF
4(CF
3)
2、LiPF
3(CF
3)
3、LiPF
3(CF
2CF
3)
3、LiPF
3(CF(CF
3)CF
3)
3、LiPF
5(CF(CF
3)CF
3)等が挙げられる。これらの中でも、イオン伝導率の観点から、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)が好ましい。
上記電解質は、1種単独で用いられてもよく、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0014】
電解液中の電解質の濃度は、0.005〜1.5Mが好ましく、0.01〜1.5Mがより好ましく、0.1〜1Mがさらに好ましい。電解質として六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を用いる場合、電解液中の前記LiPF
6の濃度は、0.8〜1.4Mが好ましく、1.0〜1.3Mがより好ましい。
電解質の濃度が前記下限値以上であれば、非水二次電池のサイクル特性が向上しやすい。また、電解液の保存安定性が向上しやすい。電解質の濃度が前記上限値以下であれば、電極表面上での副反応(例えば、電解質の分解反応等)によるガスの発生を抑制しやすくなる。
【0015】
電解液中、化合物(I)/電解質で表されるモル比は、例えば、0.03〜3.1が好ましく、0.02〜0.6がより好ましい。上記モル比が上記下限値以上であれば、サイクル特性、レート特性のさらなる向上を図れる。上記モル比が上記上限値以下であれば、添加材による表面皮膜の厚みとレート特性との両立が図れる。
【0016】
<非水溶媒>
本発明の電解液において、非水溶媒とは、実質的に水を含まない溶媒のことを意味する。「実質的に水を含まない」とは、溶媒中の水の含有量が、100ppm(質量換算)以下であることを意味する。このような非水溶媒としては、例えば、有機溶媒が挙げられる。
有機溶媒としては、化合物(I)及び前述の電解質を溶解できる非プロトン性の溶媒であれば、本発明の効果を有する限り特に限定されない。例えば、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ラクトン類、ニトリル類、アミド類、スルホン類等が使用できる。より具体的には、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジメトキシエタン、アセトニトリル、プロピオニトリル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン、ニトロメタン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン、およびγ−ブチロラクトン等が挙げられる。このうち、リチウムイオン伝導性の観点から、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネートが好ましい。
これら非水溶媒は1種単独で用いられてもよく、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0017】
<その他の成分>
本発明の非水二次電池用電解液は、本発明の効果を損なわない範囲で、上述した添加剤、電解質、及び非水溶媒以外の成分を含んでいてもよい。
具体的には、化合物(I)以外の添加剤、ポリマー、粒子等が挙げられる。
【0018】
本発明の電解液には、本発明の効果を損なわない範囲で、前記化合物(I)以外の添加剤が含まれていてもよい。その他の添加剤としては、例えば、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、プロパンスルトン等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
電解液中にその他の添加剤が含まれる場合、電解液中の添加剤の総量(化合物(I)とその他の添加剤の合計量)は、0.01〜2Mが好ましく、0.02〜0.5Mがより好ましい。添加剤の総量が上記範囲内であれば、サイクル特性とレート特性の両立が図れる。
【0019】
(ポリマー)
本発明の電解液中には、本発明の効果を損なわない範囲でポリマーが含まれていてもよい。電解液中にポリマーが含まれる場合、前記添加剤及び電解質を混合、分散できるものが好ましい。このようなポリマーとしては、例えば、ポリオキシエチレン基を主鎖又は側鎖に有するポリマー、フッ化ビニリデンのホモポリマー又はコポリマー、メタクリル酸エステルのポリマー、ポリアクリロニトリル等が挙げられる。
これらのポリマーは1種単独で用いられてもよく、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0020】
本発明の電解液の製造方法は、本発明の効果を有する限り特に限定されない。例えば、化合物(I)と電解質とを所定量測り取り、これらをエチレンカーボネート等の非水溶媒に添加した後、所定の温度で一定時間攪拌、混合する方法によって製造することができる。
前記各成分の混合方法は、本発明の効果を有する限り特に限定されない。例えば、撹拌子、撹拌翼、ボールミル、スターラー、超音波分散機、超音波ホモジナイザー、自公転ミキサー等を使用する公知の方法を適用すればよい。混合条件は、各種方法に応じて適宜設定すればよく、室温又は加熱条件下で所定時間混合すればよい。例えば、15〜80℃の温度条件で1〜48時間程度混合する方法が挙げられる。
【0021】
(非水二次電池)
本発明の非水二次電池(以下、単に「電池」ということもある)は、正極と、負極と、前述の非水二次電池用電解液とを含む。
本発明の非水二次電池は、前述の化合物(I)を添加剤として含む電解液を用いること以外は、従来のリチウムイオン二次電池と同様の構成とすることができる。例えば、正極、負極、前記電解液、セパレータ、及び容器等を備えた構成とすることができる。
【0022】
<正極>
本発明の電池において、正極の材質は本発明の効果を有する限り特に限定されず、通常、リチウムイオン二次電池の正極に用いられる材質を適宜選択して用いることができる。例えば、コバルト酸リチウム、ニッケル酸リチウム、マンガン酸リチウム、オリビン型リン酸鉄リチウム等の遷移金属酸化物が挙げられる。これら材質は1種単独で用いられてもよく、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
正極を構成する材料として、前記材質以外の任意材料(正極を構成する任意材料)が含まれていてもよい。正極を構成する任意材料としては、例えば、導電助剤、結着材、溶媒等が挙げられる。これら任意材料は1種単独で用いられてもよく、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0023】
<負極>
本発明の電池においては、負極の材質は本発明の効果を有する限り特に限定されず、通常、リチウムイオン二次電池の負極に用いられる材質を適宜選択して用いることができる。例えば、金属リチウム、リチウム合金、リチウムを吸蔵及び放出し得る炭素系材料、金属酸化物等が挙げられる。これら材質は1種単独で用いられてもよく、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
負極を構成する材料として、前記材質以外の任意材料(負極を構成する任意材料)が含まれていてもよい。負極を構成する任意材料としては、例えば、導電助剤、結着材、増粘剤、溶媒等が挙げられる。これら任意材料は1種単独で用いられてもよく、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0024】
<セパレータ>
本発明の電池においては、セパレータの材質は本発明の効果を有する限り特に限定されず、通常、リチウムイオン二次電池のセパレータに用いられる材質を適宜選択して用いることができる。例えば、微多孔性の高分子膜、不織布、ガラスファイバー等が挙げられる。これら材質は1種単独で用いられてもよく、2種以上が組み合わされて用いられてもよい。
【0025】
本発明の電池の形状は、本発明の効果を有する限り特に限定されず、円筒型、角型、コイン型、シート型等、種々のものに調節できる。
【0026】
本発明の電池は、公知の方法に従って製造することができる。例えば、グローブボックス内又は乾燥空気雰囲気下で、前記電解液、正極、負極、セパレータ等を使用して製造することができる。
【0027】
本発明の非水二次電池は、前述の化合物(I)を添加剤として含む電解液を備えているため、サイクル特性及びレート特性に優れる。そのため、本発明の非水二次電池は、携帯電話やノートパソコンの電源として好適に使用できる。
【実施例】
【0028】
次に、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0029】
<非水二次電池用添加剤(化合物(I))の調製>
[製造例1]
ホウ酸100g(1.62mol)と酢酸100g(1.66mol)とを反応容器に測り取って混合した後、115℃の温度で2時間加熱還流した。次に、前記反応容器に無水酢酸545g(5.34mol)を3時間かけて滴下し、前記と同じ温度で1.5時間攪拌した。反応終了後、5℃まで冷却し、析出した結晶をろ過処理にて分離した。得られた結晶をイソプロピルエーテル160gで洗浄した後、乾燥して、120〜123℃の融点を有する無色固体のトリアセチルオキシホウ素(表1の添加剤(I−1))を得た。添加剤(I−1)の収量は198gであり、収率は65質量%であった。
【0030】
[製造例2〜5]
製造例1の酢酸を、下記表1の構造に対応する化合物に変更した以外は全て製造例1と同様の方法にて、添加剤(I−2)〜(I−5)を得た。
【0031】
【表1】
【0032】
<非水二次電池用電解液の調製>
[製造例6]
非水溶媒としてエチレンカーボネート(EC)及びジエチルカーボネート(DEC)の混合溶媒(EC/DEC=3/7(体積比))をサンプル瓶に量り取り、製造例1で得られた添加剤(I−1)を濃度が0.1Mとなるように添加した。その後、電解質としてLiPF
6を濃度が1Mとなるように前記サンプル瓶に添加し、23℃で混合、攪拌することで、電解液(E−1)を得た。
【0033】
[製造例7〜17]
添加剤の種類と濃度を表2に示す通りに変更した以外は、全て製造例6と同様の方法にて電解液(E−2)〜(E−12)を得た。なお、表2中、「−」の記号は添加剤が配合されていないことを意味する。また、LiBOBは、リチウムビス(オキサラト)ボレートを意味する。また、表2中の「溶解性」は、電解液中の添加剤の溶解状態を評価したものである。溶解性評価における「良好」とは、添加剤が全て溶解し、均一な電解液となったことを意味する。また「溶解せず」とは、未溶解分が残り、均一な電解液とならなかったことを意味する。
【0034】
【表2】
【0035】
<非水二次電池の製造>
以下に示す実施例及び比較例におけるリチウムイオン二次電池(シート型のラミネート電池)の作製は、すべてドライボックス内又は真空デシケータ内で行った。
【0036】
[実施例1]
まず、正極活物質を含む固形成分100質量部と、導電助剤としてカーボンブラックを5質量部と、結着材としてポリフッ化ビニリデンを5質量部と、溶媒としてN−メチルピロリドン(NMP)を混合して、固形分45質量%のスラリーを調整した。その後、前記スラリーを、アルミニウム箔に塗布し、予備乾燥後、120℃で真空乾燥した。電極を4kNで加圧プレスし、さらに電極寸法の40mm角に打ち抜き、正極を作製した。
次に、負極活物質を含む固形成分100質量部と、結着材としてスチレンブタジエンゴム1.5質量部と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースナトリウムを1.5質量部と、水溶媒を混合し、固形分50質量%のスラリーを調整した。その後、スラリーを銅箔に塗布し、100℃で乾燥した。電極を2kNで加圧プレスし、さらに電極寸法の42mm角に打ち抜き、負極を作製した。
正極、負極、セパレータを積層し、製造例6で得られた電解液(E−1)を注入し、封止してシート型のラミネート電池を作製した。電池評価を実施したところ、初期放電容量は50mAhであった。
また、得られたラミネート電池のサイクル特性及びレート特性を下記の評価方法に沿って評価した。結果を表3に示す。
【0037】
(サイクル特性の評価)
得られたラミネート電池を、25℃において電流値1Cで4.2Vまで充電した後、電流値1Cで2.7Vまで放電した。この充放電サイクルを繰り返し行い、1000サイクル繰り返した後の容量維持率(%)を下記の数式(1)から算出した。
[(1000サイクル目の放電容量(mAh))÷(1サイクル目の放電容量(mAh))]×100(%) ・・・(1)
【0038】
(レート特性の評価)
得られたラミネート電池を、初充電、容量確認した後、25℃において電流レートを1Cで4.2Vまで充電した後、電流値1Cで2.7Vまで放電した。次いで電流レートを1Cで4.2Vまで充電した後,電流レートを2Cで2.7Vまで放電し、容量を測定して、2Cのときの容量発現率(%)を下記の数式(2)から算出した。
[(2Cでの放電容量(mAh))÷(1Cでの放電容量(mAh))]×100(%) ・・・(2)
【0039】
[実施例2〜9、比較例1〜2]
表3に記載の各電解液を用いて、実施例1と同様の方法でラミネート電池を作製した。
得られたラミネート電池のサイクル特性及びレート特性を、実施例1と同様の方法にて評
価した。結果を表3に示す。
但し、実施例2〜5、7〜9は、参考例である。
【0040】
【表3】
【0041】
表3に示すように、本発明を適用した実施例1〜9は、1000サイクル目での容量維持率がいずれも70%以上であり、サイクル特性に優れていた。また、容量発現率も61%以上であり、レート特性にも優れていた。
一方、添加剤を含まない比較例1と、化合物(I)以外の添加剤を含む比較例2では、容量維持率、及び容量発現率が共に低く、サイクル特性及びレート特性に劣っていた。
以上の結果から、本発明の非水二次電池用添加剤及び前記添加剤を含む非水二次電池用添加剤は、非水二次電池のサイクル特性及びレート特性を、より向上させることができることが分かった。