(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
安全弁におけるノズル又はジスクであり、少なくともシール面は、鏡面を有するステンレス鋼上に20nm以上の鉄酸化物が予め形成されていることを特徴とするノズル又はジスク。
安全弁におけるノズル又はジスクであり、少なくともシール面は、鏡面を有するステンレス鋼上にクロム酸化物を主成分とする酸化物が予め形成されていることを特徴とするノズル又はジスク。
前記ステンレス鋼は、Cr含有量が20重量%未満のオーステナイト系ステンレス又はフェライト系ステンレスである請求項1又は2記載のノズル又はジスク又は請求項3又は4記載の機器。
安全弁におけるノズル又はジスクであり、少なくともシール面は、鏡面を有するステンレス鋼上Cr、Co,Ni、Al、Ti若しくは合金又はその酸化物若しくは窒化物よりなる皮膜が予め形成されていることを特徴とするノズル又はジスク。
【背景技術】
【0002】
安全弁は、主にガスを貯蔵するタンクや発電ボイラ設備、化学プラントの配管など圧力がかかる箇所に設置されており、機器の爆発や破損を防ぐ役割を担っている。
安全弁は、バルブの入口側の圧力が予め設定した圧力以上になったときに自動的に弁体が開き、流体を排出するものである。代表的な安全弁の構造図を
図1に示す。
【0003】
通常、安全弁は圧力容器、配管等の上部に配置されている。流体を閉止する弁座は金属製のノズルとジスクによって構成されており、そのシール面はラッピングによって鏡面状態まで研磨されている。
弁座にはたらく流体閉止力は、上方に配置しているばねによって与えられている。そのばね力は、安全弁が指定された圧力(設定圧力)に対応して作動する様に調整されている。プラント運転中に圧力容器・配管等の流体圧が設定圧力まで上昇した時、流体圧によってジスクにはたらく上方向の力がばねカに打ち勝ち、安全弁が動作する。この時ジスクが上方に動作するので、流体はノズルとジスクの間を通り、二次側(横方向)に流れる。これによって圧力容器・配管の内部圧力の上昇を防止するのが本来の安全弁の機能である。
【0004】
この安全弁を水蒸気サ一ビスで使用する揚合について以下に記述する。
流体中に(ハロゲンの様な)特別に腐食性のある成分が存在しない、水蒸気に代表される様な高温酸化性サービスにおいて、直接流体に接触する部材であるノズルとジスクは、一般的に18Cr−8Ni系のオーステナイト系ステンレス鋼が使われることが多い。
水蒸気に代表される様な高温酸化性流体に使用される配管部材では、配管内部に酸化スケールが発生することはよく知られている。配管部材の主要構成部材であるステンレス鋼の場合で言えば、生成する酸化膜はFe
20
3,Fe
30
4を主体とする鉄系酸化物であることが幾つかの論文で報告されている(非特許文献1〜非特許文献4)
【0005】
これらの論文は、流体温度、流体組成(空気酸化と水蒸気酸化)、構成材料の化学成分、表面仕上げ(結晶粒度)等により、酸化の状態が異なることも報じている。
しかし、その研究範囲は火力発電所のボイラ過熱器管からの酸化スケールの剥離による各種の弊害を対策しようとするものであり、以下に述べる本発明の様な安全弁の内部に発生する問題を解決しようとするものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、安全弁におけるシール性の向上が求められ、シール性を高めるためにノズルとジスクの接触部分であるシール面は鏡面仕上げされる。ただ、鏡面仕上げをした場合には安全弁が作動する圧力が変化する可能性があることが分った。
本発明は、高温の水蒸気雰囲気に長期間曝し続けた場合であっても安全弁が作動する設定圧力に変動が無い、安全弁並びにそれに用いるノズル及びジスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に係る発明は、安全弁におけるノズル又はジスクであり、少なくともシール面は、鏡面を有するステンレス鋼上に20nm以上の鉄酸化物が予め形成されていることを特徴とするノズル又はジスクである。
請求項2に係る発明は、安全弁におけるノズル又はジスクであり、少なくともシール面は、鏡面を有するステンレス鋼上にクロム酸化物を主成分とする酸化物が予め形成されていることを特徴とするノズル又はジスクである。
請求項3に係る発明は、スチームその他の酸化雰囲気下で使用される調節弁、減圧
弁であり、酸化被膜成長によって機能低下する弁座部、ガイド
部は、鏡面を有するステンレス鋼上に20nm以上の鉄酸化物が予め形成されていることを特徴とする機器である。
請求項4に係る発明は、スチームその他の酸化雰囲気下で使用される調節弁、減圧
弁であり、酸化被膜成長によって機能低下する弁座部、ガイド
部は、鏡面を有するステンレス鋼上にクロム酸化物を主成分とする酸化物が予め形成されていることを特徴とする機器である。
請求項5に係る発明は、前記ステンレス鋼は、Cr含有量が20重量%未満のオーステナイト系ステンレス又はフェライト系ステンレスである請求項1又は2記載のノズル又はジスク又は請求項3又は4記載の機器である。
請求項6に係る発明は、安全弁におけるノズル又はジスクの少なくともシール面は、酸化雰囲気内において鉄酸化物を成長させない材料からなることを特徴とするノズル又はジスクである。
請求項7に係る発明は、請求項1ないし6のいずれか1項記載のノズル又はジスクのいずれか一方又は両方を用いた安全弁である。
請求項8に係る発明は、前記安全弁は、過熱水蒸気その他の高温酸化性流体で使用される請求項7記載の安全弁である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の作用・効果を、本発明をなすに際して得た知見とともに説明する。
水蒸気環境に曝される前のオーステナイト系ステンレス鋼製のシール面(弁座)は、ラッピングで鏡面状態にまで研磨され、表面には極薄い自然酸化膜しか無い状態になっている。これを高温酸化性雰囲気に所定時間暴露することにより、酸素が内部に侵入して合金成分と直接反応し、酸化膜が厚く成長する。
【0011】
このノズル側の成長した酸化膜とジスク側の成長した酸化膜の接触部分を増やしながら酸化膜を共有していく。この酸化膜の共有部分があたかも接着剤の様なはたらきをすることによって、固着力という形で弁座にはたらくばね力に付加されることになってしまう。そして、この固着力分だけ設定圧力が増加するという現象になる。
これを更にもう一度作動させると、設定圧は元の値に戻る。これは、一度作動させることにより、固着状態が解除され、作動を妨げる固着力=0になるため設定圧は元に戻ることになる。
【0012】
前述したとおり、安全弁は予め設定した圧力で流体を二次側に逃がす機能が必要であるが、固着現象が発生すると、設定圧力が上昇するという保安上の問題が起こることになる。
実際の運用においては、運転立ち上げ時に実流体で作動検査を行うとか、微小な異物が噛み込んで弁座の接触面積が減少する。運搬やプラントの運転時の振動で弁座が傾く、メンテナンス時の再研磨のレベルが低いことにより弁座シール面が粗い等、固着しない方向の要因が多々存在し問題を覆い隠しているケースも多く存在する。
しかし、理想的な平滑シール面を創製し、弁座が完全に密着する安全弁は、この固着問題は最大化することになる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の形態)
請求項1に係る発明の形態では、安全弁におけるノズル又はジスクであり、少なくともシール面は、鏡面を有するステンレス鋼上に20nm以上の鉄酸化物が予め形成されている。
ここにおいてステンレス鋼としては、Cr含有量が20重量%未満のステンレスが好適である。Crが20%以上の場合には後述するように鉄酸化物を予め形成しなくとも固着力の低減効果を有している。
【0015】
本発明におけるステンレス鋼としては、以下のもろもろのステンレス鋼を用いることができる。
オーステナイト系
SUS201;:Ni(3.5-5.5%)、Cr(16-18%)、Mn(5.5-
7%)、N(0.25%以下)
SUS202::Ni(4-6%)、Cr (17-19%)、Mn(7.5-10%)、N(0.25%以下)
SUS301:Ni(6-8%)、Cr(16-18%)
SUS302:Ni(8-10%)、Cr(17-19%)
SUS303:Ni(8-10%)、Cr(17-19%)、Mo(0.60%以下の添加ができる)
SUS304:Ni(8-10.5
%)、Cr(18-20%)
SUS305:Ni(10.5-13%)、Cr(17-19%)
SUS316:Ni(10-14%)、Cr(16-18%)、Mo(2-3%)
SUS317:Ni(11-15%)、Cr(18-20%)、Mo(3-4%)
【0016】
マルテンサイト系
SUS403:Cr(11.5-13%)
SUS420:Cr(12-14%)
SUS630:Ni(3-5%)、Cr(15-17.5%)、Cu(3-5%)、Nb(0.15-0.45%)
フェライト系
SUS405:Cr(11.5-14.5%)、Al(0.1-0.3%)
SUS430:Cr(16-18%)
SUS430LX:Cr(16-19%)、TiまたはNb(0.1-1.0%)
【0017】
本発明においては、鉄酸化物の厚さは20nm以上とする。20nm以上とすることにより固着力の軽減効果が生じる。鉄酸化物の形成は、ステンレス鋼を大気雰囲気中で安全弁の使用流体温度以上の温度で所定時間加熱することにより行うことが好ましい。加熱温度は200℃〜500℃が好ましい。250℃から450℃がより好ましい。
図2に示すように250℃以上において鉄酸化物固着面圧が急激に上昇し、この上昇は前述した通り鉄酸化物の形成に基づくものと考えられるため250℃以上で加熱することが好ましい。加熱時間は、厚さを考慮して適宜選択すればよい。たとえば5〜6時間が好ましい。
【0018】
(第2の形態)
請求項5に係る発明は、前記酸化雰囲気内において鉄酸化物を成長させない材料を用いる。かかる材料としてCr含入量20重量%以上のオーステナイト系ステンレスが用いられる。
Cr含入量20重量%以上のオーステナイト系ステンレスを高温水蒸気に暴露しても鉄酸化物が形成されないことを確認した。すなわち、この材料を250℃以上の水蒸気に暴露した場合、FeリッチではなくCrリッチの酸化物が形成され、かつ、Crリッチな酸化物の育成によっては固着力の上昇を招かないことを確認した。
【0019】
20重量%以上のCr含有ステンレスとしては、例えば、次の材料が列挙される。
SUS309S:Ni(12.00~15.00),Cr(22.00~24.00)
SUS310S:Ni(19.00~22.00),Cr(24.00~26.00)
SUS317J2:Ni(12.00~16.00),Cr(23.00~26.00)
SUS329J1:Ni(3-6)、Cr(23-28)、Mo(1-3)
【0020】
(第3の形態)
本形態は、Cr含有量20重量%未満のオーステナイト系ステンレスにおいて少なくともシール面に鉄酸化物ではなくクロム酸化物を形成する形態である。
クロム酸化物を主成分とする酸化物の形成は、例えば、特許文献1あるいは非特許文献5に記載の方法により行えばよい。
【0021】
例えば、ステンレス鋼を電解研磨後、ベーキングを行うことにより母材表面から水分を除去し、次いで、不純物の含有量が1ppb以下の酸化性ガス雰囲気中において、400℃以上の温度で加熱することにより母材表面にクロム酸化物を主成分とする酸化物を形成することができる。
また、ステンレス鋼表面にスパッタリング、溶射その他の方法によりCr膜を形成し、次いでベーキング後酸化性ガス雰囲気中例えば、400℃以上の温度で加熱をすることにより皮膜としてクロム酸化物を主成分とする酸化物を形成してもよい。
クロム酸化物を主成分とする酸化物の厚さは、特に限定しないが、シール性及び固着力の発生抑制効果の観点から5nm以上が好ましく10nm以上がより好ましい。
【0022】
(第4の形態)
鉄酸化物を形成しない材料として非鉄系耐熱合金を用いる。例えば、ニッケル基合金、コバルト基合金、チタン合金又はアルミ合金が上げられる。
ニッケル基合金としては、Nb,Taなどの化合物の析出により硬化する析出硬化型合金(例えばインコネル718)やMoを含むことにより固溶強化がなされる固溶型合金(例えばハステロイC)などが好ましい。
これら合金は、高温腐食性環境下においても酸化されにくくまた酸化物が生じても固着力の上昇をもたらす酸化物ではない。
コバルト基合金としえは、例えばステライトが好ましい。この材料も酸化されにくいとともにその酸化物は固着力の上昇をもたらす酸化物ではない。
【0023】
(第5の形態)
上述の形態は、酸化物の形成であり、また、熱処理による母材との反応により形成する例である。
一方、本形態は、少なくともシール面を酸化物以外の皮膜により被覆する形態である。また、母材との反応による方法以外の方法により表面に皮膜を形成してもよい。
例えば、ステンレス鋼の少なくともシール面を、鏡面に仕上げ、Cr、Co,Ni、Al、Ti若しくは合金又はその酸化物若しくは窒化物をスパッタリング、溶射、めっきなどにより形成してもよい。Al(Al
20
3,AIN)、Ti(TiO、TiN)、Ti−Al−N等の皮膜についても同様の効果が期待できる。
【0024】
(鏡面)
弁体及び弁座のシール面は、シール性を高めるために鏡面に仕上げる。表面租度としては、Rmax(JIS B 0601:2001におけるRz)で10nm以下が好ましい。本発明の固着力の発生防止効果は、3nm〜10nmの範囲にある場合に特に有効である。
【0025】
(安全弁)
ノズル又はジスクのいずれか一方のみに本発明の弁座、弁体を用いれば固着力の抑制効果は生じる。従って、交換が困難な弁座は従来のままのものを用い、交換が容易な弁体のみを本発明に係る弁体に交換することも可能である。
(他の機器)
本発明は、スチーム(過熱蒸気)その他の酸化雰囲気下で使用される機器についても適用される。弁としては安全弁以外に例えば、調節弁、減圧弁であっても適用される。
また、弁以外の機器であっても適用される。部材同士が接触状態で酸化雰囲気下に保持され、適宜接触面が離反ないし移動するような部位を有する部材を組合わせて構成される機器についても適用される。かかる部材としては例えば、弁座部、ガイド部などがあげられる。
【実施例】
【0026】
(参考例)
鏡面に仕上げたオーステナイト系ステンレス鋼SUS304製の弁座・弁体からなる安全弁を飽和水蒸気に曝した。暴露温度は140℃〜300℃の範囲で変化させて行った。暴露時間は19時間である。
水蒸気温度と固着面圧(単位面積当たりの固着荷重)を調査した結果を
図2に示す。
図2において横軸の試験温度は、流体である水蒸気温度である。すなわち、安全弁の弁体と弁座が暴露された温度である。一定の温度以上では固着が発生していることが判る。
【0027】
図3に研磨直後と水蒸気暴露試験後の深さ方向分布を示す。横軸のスパッタ時間は、スパッタ速度6nm/minの速度で表面からスパッタを行った時間である。従って、横軸の時間に6を掛けた値が深さ(nm)となる(以下同様である。)。研磨直後は6nmであった酸化膜が60nm以上に成長していることが判る。
図3に示す通り、水蒸気暴露試験後のオーステナイト系ステンレス鋼弁座表面は鉄主体の酸化膜になっており、弁座に固着力が発生している。
(実施例1)
【0028】
これと異なる各種材質で水蒸気暴露試験を行った結果を
図4に示す。
なお、図面において、304はSUS304、310はSUS310、IN718はインコネル718(登録商標)、HC276はハステロイC276(登録商標)、ST6はステライト6(登録)、ST12はステライト12(登録商標)である。これらの材料は、オーステナイト系ステンレス鋼で固着した条件で固着は発生していない。
【0029】
その中のCo−Cr合金であるステライトの研磨直後と水蒸気暴露試験後の深さ方向分布を
図5に示す。研磨直後に3nmであった酸化膜が水蒸気暴露試験後は30nm以上に成長していることが判る。オーステナイト系ステンレス鋼と同様に酸化膜の成長は認められるが、固着は発生していない。すなわち、注目すべきは、同じ酸化物であってもCo酸化物やクロム酸化物の場合は鉄酸化物とは全く異なることである。固着力以上の結果から弁座シール面の最表面にFe系酸化膜を生成、成長させないことが固着防止対策として有効であると言える。
(実施例2)
【0030】
飽和水蒸気環境下で大きな固着力が発生するCr18%.Ni8%オーステナイト系ステンレス鋼SUS304に対して425℃×6時間の加熱処理を行い、予め酸化物膜を成長させた。酸化物の成長は、ノズル及びジスクの両方共行った。予め酸化膜を成長させておいたノズルとジスクを組み合わせた安全弁について、285℃の高温水蒸気暴露試験を行った。その結果は
図7に示す。
図7において、「304_G/304_G」で表記する試料が本実施例に係る試料である。
本例では固着は発生しない結果が得られた。
(実施例3)
【0031】
固着防止効果のある金属材料をCVD、スパッタリング等により弁座シール面に保護膜として形成する。有効な金属成分としては、Cr,Ti,Alが挙げられる。ここでは片側に窒化クロムをオーステナイト系ステンレス側表面に形成した場合の265℃水蒸気暴露試験を行った。
ただ、本例では、ノズルにのみ保護膜を形成した。ジスクについては未処理である。
その結果を
図7に示す。
図7における「304_CrN/304」が、本例に係る試料である。保護膜を形成しない場合に比べて固着力が1/3以下に抑制された結果が得られている。
(実施例4−1)
【0032】
本実施例では、Cr20重量%以上のオーステナイト系ステンレスを用いた。
Cr20%以上のオーステナイト系ステンレス鋼をそのまま用いることにより水蒸気暴露状態での酸化膜の組成が変わり、Fe系酸化膜の最表面での成長を抑制することができた。
図6にCr20%以上のオーステナイト系ステンレス鋼の研磨直後と水蒸気暴露試験後の深さ方向分布を示す。
図3のCrl8%オーステナイト系ステンレス鋼の深さ方向分布と比較して、最表面付近がCrリッチになっており、酸化膜の成長が抑制されていることが判る。
本例の評価試験結果は
図7に示す。
図7における「310S/310S」が本実施例に係る試料である。250℃の高温水蒸気暴露試験では固着しない結果を生んでいる。
(実施例4−2)
【0033】
本例では、Cr20重量%以上のオーステナイト系ステンレスとしてSUS310Sを用いた。本例では、組宛前にステンレス表面にクロム酸化物の膜を形成する処理を行った。
すなわち、電解研磨後、ベーキングを行うことにより母材表面から水分を除去し、次いで、不純物の含有量が1ppb以下の酸化性ガス雰囲気中において、400℃以上の温度で加熱した。これにより母材表面にクロム酸化物を主成分とする酸化物を形成した。なお、この酸化物は不動態膜であり、本明細書、図面においては「G+F」で表している。
この試料につき高温水蒸気暴露試験を行った。その結果を
図7に示す。
図7において「310S_G+F/304」が本実施例に係る試料である。本試料は、ノズルに処理を行った材料を用い、ジスクは未処理のSUS304オーステナイト系ステンレスを用いた。
(実施例5)
【0034】
本例は、Cr20重量%未満であるSUS304を用いた。本例では、実施例4−2と同様の手法により不動態膜を形成した。
すなわち、表面に、鉄酸化物を含まないクロム酸化物層を形成した。
この試料につき高温水蒸気暴露試験を行った。その結果を
図7に示す。
図7において「304_G+F/304_G+F」が本実施例に係る試料である。なお、本試料は、ノズル及びジスクに処理を行った。
本例では、280℃〜290℃℃の暴露試験でも固着力はほとんど発生しなかった。
通常のCr18%オーステナイト系ステンレス鋼であっても、熱処理によって最表面にCr203膜を析出させることができる。Al含有ステンレス鋼においては、Al203を析出させることも有効である。
(実施例6)
【0035】
Ni合金Ni−Mo合金,Co−Cr系合金等のFe含有量の少ない耐酸化材料を用いた例を
図7に示す。この場合でも固着力が発生しないという結果を生んでいる。これらの材料でも酸化膜は成長しているが、膜間の接着力は発生していない。(Fe酸化膜の場合とは異なっている。)
以上の実施例の水蒸気暴露試験における固着評価結果を
図7に集約した。
Crl8%オーステナイト系ステンレス鋼研磨品は200℃以上の飽和水蒸気環境で固着が発生する。
高級耐酸化材料、およびオーステナイト系ステンレス鋼であっても予め鉄酸化物を形成したものは弁座固着の温度範囲を拡大することができた。
(実施例7)
【0036】
図8の左側の8個の試料は、本発明の固着防止処理を安全弁構成部材であるノズルとジクスの片側にだけ施工した場合の水蒸気暴露試験結果である。
図8の左8個の結果に示される様に片側だけの対策であっても一定の効果が得られている。
これは、ある一定期間使用した安全弁に弁座固着防止を施そうとする場合に、部品交換が困難なノズルを再利用して、ジスク側だけを交換するという行為で処置できることになり、実際のメンテナンス上、非常に有益な結果となる。