特許第6956510号(P6956510)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6956510
(24)【登録日】2021年10月7日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】環境制御システムおよび環境制御方法
(51)【国際特許分類】
   F24F 11/62 20180101AFI20211021BHJP
   F24F 11/88 20180101ALI20211021BHJP
【FI】
   F24F11/62
   F24F11/88
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-86101(P2017-86101)
(22)【出願日】2017年4月25日
(65)【公開番号】特開2018-185083(P2018-185083A)
(43)【公開日】2018年11月22日
【審査請求日】2020年2月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118762
【弁理士】
【氏名又は名称】高村 順
(72)【発明者】
【氏名】逸見 憲一
(72)【発明者】
【氏名】白川 奈穗
【審査官】 佐々木 訓
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−228910(JP,A)
【文献】 特開2013−068350(JP,A)
【文献】 特開2012−237481(JP,A)
【文献】 特開2016−169925(JP,A)
【文献】 特開2005−291588(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0180480(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 11/62
F24F 11/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
居室の空調を制御する空気調和機と、
前記居室に存在する居住者の生体情報を取得する生体情報検知部と、
を備え、
前記空気調和機は、
前記居室の環境状態および前記居住者の位置を検知する環境検知部と、
前記居室に対する空調制御を実施する空調部と、
前記生体情報検知部で取得された各居住者の生体情報を用いて前記居室に存在する複数の居住者に優先度を設定し、前記環境状態および前記居住者の生体情報を用いて前記居住者毎に空調制御内容を設定し、前記居住者毎の優先度および空調制御内容を用いて前記空調部の空調制御内容を決定する制御部と、
を備え、
前記空調部が前記制御部で決定された空調制御内容で空調制御を実施することで、時間の経過によって前記複数の居住者のうち空調制御の対象となる居住者の間の優先度の関係は変更される環境制御システム。
【請求項2】
前記制御部は、複数の居住者に対して複数の空調制御内容が設定された場合、優先度の高い居住者に設定された空調制御内容を、前記空調部の空調制御内容とする、
請求項1に記載の環境制御システム。
【請求項3】
前記制御部は、前記生体情報検知部から前記生体情報とともに取得された前記居住者の年齢、身長、体重、および性別のうち少なくとも1つを含む居住者情報を用いて、各居住者の優先度を設定する、
請求項1または2に記載の環境制御システム。
【請求項4】
前記空調部が空調制御を停止中において、
前記生体情報検知部は、前記居住者の生体情報を取得し、
前記環境検知部は、前記環境状態および前記居住者の位置を検知し、
前記制御部は、決定した空調制御内容を実施する場合、前記空調部での空調制御を開始させる、
請求項1から3のいずれか1つに記載の環境制御システム。
【請求項5】
前記空気調和機を第1の空気調和機とする場合に、
前記居室の温度、湿度、および風速の少なくとも1つを制御可能な第2の空気調和機、
を備え、
前記制御部は、前記居住者毎の優先度および空調制御内容を用いて、前記第1の空気調和機および前記第2の空気調和機の空調制御内容を決定する、
請求項1から4のいずれか1つに記載の環境制御システム。
【請求項6】
前記制御部は、前記第1の空気調和機、前記第2の空気調和機、および前記居住者の位置関係から、前記第1の空気調和機、および前記第2の空気調和機の少なくとも1つを用いて空調制御を実施することを決定する、
請求項5に記載の環境制御システム。
【請求項7】
環境検知部が、居室の環境状態および前記居室に存在する居住者の位置を検知する検知ステップと、
生体情報検知部が、前記居住者の生体情報を取得する取得ステップと、
制御部が、前記生体情報検知部で取得された各居住者の生体情報を用いて前記居室に存在する複数の居住者に優先度を設定し、前記環境状態および前記居住者の生体情報を用いて前記居住者毎に空調制御内容を設定し、前記居住者毎の優先度および空調制御内容を用いて空調部の空調制御内容を決定する決定ステップと、
前記空調部が、前記制御部で決定された空調制御内容で前記居室に対する空調制御を実施する空調ステップと、
を含み、
前記空調ステップにおいて前記空調部が前記制御部で決定された空調制御内容で空調制御を実施することで、時間の経過によって前記複数の居住者のうち空調制御の対象となる居住者の間の優先度の関係は変更される環境制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、居住者の生体情報を用いて空調を制御する環境制御システムおよび環境制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、居住者の生体情報を用いて空調を制御するシステムがある。特許文献1には、空気調和機の室内機が、撮像部を備え、居室の形状および大きさを認識するとともに、居室に存在している居住者を認識し、居住者の生体情報を用いて空調を制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−161425号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の技術によれば、居室に複数の居住者が存在している場合、室内機は、各居住者の生体情報および位置情報を用いて、ある居住者がいる場所には低温の空気を送り、別の居住者がいる場所には高温の空気を送る制御をしている。しかしながら、居室は居住者がいる場所毎に仕切られていないため、低温の空気および高温の空気の一方または両方の影響を受ける居室内の他の場所では、却って居住者の快適性を損ねてしまうおそれがある、という問題があった。
【0005】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、居室に複数の居住者が存在している場合において、居室全体での居住者の快適性を向上可能な環境制御システムを得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る環境制御システムは、居室の空調を制御する空気調和機と、居室に存在する居住者の生体情報を取得する生体情報検知部と、を備える。空気調和機は、居室の環境状態および居住者の位置を検知する環境検知部と、居室に対する空調制御を実施する空調部と、生体情報検知部で取得された各居住者の生体情報を用いて居室に存在する複数の居住者に優先度を設定し、環境状態および居住者の生体情報を用いて居住者毎に空調制御内容を設定し、居住者毎の優先度および空調制御内容を用いて空調部の空調制御内容を決定する制御部と、を備える。空調部が制御部で決定された空調制御内容で空調制御を実施することで、時間の経過によって複数の居住者のうち空調制御の対象となる居住者の間の優先度の関係は変更される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、環境制御システムは、居室に複数の居住者が存在している場合において、居室全体での居住者の快適性を向上できる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施の形態1に係る環境制御システムと居室との位置関係を模式的に示す概念図
図2】実施の形態1に係る環境制御システムの構成例を示すブロック図
図3】実施の形態1に係る空気調和機の動作を示すフローチャート
図4】実施の形態1に係る空気調和機の制御部が備える温湿度とWBGT(Wet Bulb Globe Temperature)値で示される暑さ指数との関係を示す情報の一例を示す図
図5】実施の形態1に係る空気調和機の制御部における空調制御内容の設定例を示す図
図6】実施の形態2に係る空気調和機の動作を示すフローチャート
図7】実施の形態3に係る環境制御システムと居室との位置関係を模式的に示す概念図
図8】実施の形態3に係る環境制御システムの構成例を示すブロック図
図9】実施の形態3に係る空気調和機の動作を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施の形態に係る環境制御システムおよび環境制御方法を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0010】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る環境制御システム1と居室との位置関係を模式的に示す概念図である。また、図2は、実施の形態1に係る環境制御システム1の構成例を示すブロック図である。環境制御システム1は、居室の環境すなわち空調を制御する空気調和機2と、空気調和機2が居室の空調を制御する際の指標となる居室に存在する居住者10の生体情報を検知すなわち取得する生体情報検知部3と、を備える。空気調和機2は、空調部4と、風向制御部5と、環境検知部6と、制御部7と、を備える。空気調和機2において、風向制御部5および環境検知部6は、図1に示すように、空気調和機2の筐体外部に露出して設置されている。空気調和機2において、空調部4および制御部7は、空気調和機2の筐体内部に設置されている。
【0011】
居住者10は、図示しないリモコンを用いて、空気調和機2の電源をオンオフする。また、居住者10は、リモコンを用いて、温度設定、風向設定、風量設定、空調設定などの設定情報を入力することにより、リモコンから空気調和機2に設定情報が送信される。空気調和機2では、制御部7が、生体情報検知部3で取得された居住者10の生体情報、環境検知部6で検知された居室の環境状態の情報および居住者10の位置情報、およびリモコンからの設定情報を用いて、居室に対する空調制御内容を決定する。制御部7は、決定した空調制御内容に従って、空調部4および風向制御部5の動作を制御する。具体的に、環境制御システム1の各構成について詳細に説明する。
【0012】
生体情報検知部3は、居住者10の生体情報を検知する。生体情報検知部3は、例えば、生体情報検知部3を保持する居住者10の生体情報として、居住者10の皮膚温度、心拍数、発汗量の少なくとも1つ以上を検知する。なお、生体情報検知部3で取得できる居住者10の生体情報については、これらに限定されるものではない。以降の説明では、生体情報として、居住者10の皮膚温度、心拍数、および発汗量の情報が含まれる場合を例にして説明する。
【0013】
生体情報検知部3は、生体情報を検知するため複数の各種センサを備える。例えば、生体情報検知部3は、温度センサ、赤外線センサなどを用いて居住者10の皮膚温度を検知する。生体情報検知部3は、光センサなどを用いて居住者10の血流量変化から居住者10の心拍数を検知する。生体情報検知部3は、コンデンサの静電容量の変化によるインピーダンスの変化から、居住者10の発汗量を検知する。また、生体情報検知部3は、圧力センサなどを用いて、就寝中の居住者10の体動、心拍数、脳波などの生体信号を検出することも可能である。なお、生体情報検知部3は、居住者10が自身の年齢、身長、体重、性別などの個人情報である居住者情報を登録できる図示しない登録部を備える。生体情報検知部3は、検知した生体情報とともに、登録された居住者情報を空気調和機2に送信する。
【0014】
生体情報検知部3の形態については、例えば、独立した携帯端末状のものであって、居住者10に直接装着する形態、衣服など居住者10が身に着ける製品と一体となった形態、体内に内蔵する形態などがあるが、これらに限定されるものではない。生体情報検知部3については、前述のリモコンの機能を備えていてもよい。
【0015】
空調部4は、居室に対する空調制御を実施する。具体的に、空調部4は、制御部7で決定された空調制御内容に従って、冷房、送風、除湿、暖房など空気調和機2の空調制御の運転モード、および風量の制御を実施する。空調部4は、熱交換器、圧縮機などを備えた構成であるが、一般的な構成であり、詳細な説明については省略する。
【0016】
風向制御部5は、制御部7で決定された空調制御内容に含まれる風向情報に従って、空気調和機2から居室に搬送する気流方向を制御する。風向制御部5は、居室の温湿度を制御するために送風する風の向きすなわち風向を水平方向および垂直方向で制御する部材を備え、水平方向および垂直方向で独立して風向を制御可能である。風向制御部5は、居住者10がリモコンで風向設定をした場合、制御部7の制御に従って風向を変更する。
【0017】
環境検知部6は、居室の環境状態を検知し、居室の環境状態の情報を取得する。また、環境検知部6は、居住者10の位置を検知し、居住者10の位置情報を取得する。居室の環境状態の情報には、居室の温度および湿度の情報が含まれる。環境検知部6は、例えば、物体から放射される赤外線量を異種の金属が接合された複数の受光部で受信し、ゼーベック効果による異種金属間の温度差による起電力を算出して居室の測定領域の表面温度を計測するサーモパイル方式を用いる。これにより、環境検知部6は、居室の温度を検知し、居室内の居住者10の有無を検知し、居室に居住者10が存在していた場合に居住者10が大人か子供かの属性を判定し、居住者10の温度分布を検知することなどが可能である。環境検知部6は、受光部の外側に赤外線通過領域の光を通過するフィルタを備え、可視光を遮断することで、太陽光、浴室の水分などによる測定温度への影響を低減する構成であってよい。また、環境検知部6は、センサなどを用いて居室の湿度を計測する。
【0018】
また、環境検知部6は、スキャニングによる熱画像および実画像から、居室の大きさ、居住者10と空気調和機2との位置関係、居室内での複数の居住者10の位置関係を把握できる機能を備えていてもよい。環境検知部6は、居住者10の肌露出位置によって居住者10の部位を検出することも可能である。また、環境検知部6は、定期的に測定を行うことにより、居室内の居住者10と空気調和機2との位置関係の変化、就寝中の居住者10に発生する寝返りなどの体動についても検知することができる。なお、環境検知部6において、居住者10と空気調和機2との位置関係、居住者10の部位、居住者10の体動、居住者10の体温などを検知する方法については、これらに限定されるものではない。
【0019】
制御部7は、生体情報検知部3で取得された居住者10の生体情報、環境検知部6で検知された居室の環境状態の情報および居住者10の位置情報、居住者10によって設定されたリモコンからの設定温度などの情報を用いて、空調部4および風向制御部5に対する空調制御内容を決定する。詳細には、制御部7は、生体情報検知部3で取得された各居住者10の生体情報を用いて居室に存在する複数の居住者10に優先度を設定する。制御部7は、環境状態および居住者10の生体情報を用いて居住者10毎に空調制御内容を設定する。そして、制御部7は、居住者10毎の優先度および空調制御内容を用いて空調部4および風向制御部5に対する空調制御内容を決定する。前述のように、空調制御内容には、風向制御部5に対する風向情報が含まれるものとする。制御部7は、決定した空調制御内容で空調部4および風向制御部5の動作を制御する。制御部7は、さらに、居室の温度である室温を検知する図示しない室温検知部で検知された室温の情報を用いて、空調部4および風向制御部5の空調制御内容を決定してもよい。
【0020】
また、制御部7は、生体情報検知部3から居住者情報を取得した場合において、居住者10を識別する機能を備えていてもよい。例えば、各生体情報検知部3に固有の識別情報が割り当てられている場合、制御部7は、生体情報検知部3から居住者情報とともに送信されてくる生体情報検知部3の識別情報によって、居住者10を識別することができる。制御部7は、居住者10を識別することによって、各居住者10について、居室に入室および退室した時刻、生体情報の変化、居室での位置の変化などを把握することができる。
【0021】
制御部7は、例えば、マイクロコンピュータなどによって構成される。マイクロコンピュータは、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、不揮発性メモリなどを含む記憶部と、この記憶部に記憶されたプログラムを読み出して演算処理を実行するCPU(Central Processing Unit)などの信号処理部と、信号処理部に対して外部との間で信号を入出力する入出力ポートと、を備える。また、制御部7は、例えば、専用のハードウェアの場合、単一回路、複合回路、プログラム化したプロセッサ、並列プログラム化したプロセッサ、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、FPGA(Field Programmable Gate Array)、またはこれらを組み合わせたものであってもよい。なお、制御部7の構成は、これらに限定されるものではない。
【0022】
つづいて、環境制御システム1の空気調和機2が居室の空調制御を実施する動作について説明する。図3は、実施の形態1に係る空気調和機2の動作を示すフローチャートである。まず、環境制御システム1では、居住者10がリモコンなどを用いて空気調和機2の動作を開始させると、空気調和機2の制御部7が、生体情報検知部3から居住者情報を取得することによって、特定の居住者10が居室に存在していることを認識する(ステップS1)。制御部7は、取得した居住者情報を記録する。制御部7は、居住者情報を内部で保持してもよいし、図2において図示しない記憶部に保持させてもよい。生体情報検知部3は、制御部7から取得要求があった場合に居住者情報を制御部7に送信してもよいし、定期的に居住者情報を制御部7に送信してもよい。
【0023】
空気調和機2の環境検知部6は、居室の環境状態、具体的には、居室内の温度および湿度を検知する。また、環境検知部6は、環境状態とともに、居室に存在する居住者10の位置を検知する。環境検知部6は、検知した環境状態の情報および居住者10の位置情報を制御部7に出力する。制御部7は、環境検知部6から環境状態の情報および居住者10の位置情報を取得する(ステップS2)。制御部7は、取得した環境状態の情報および居住者10の位置情報を記録する。制御部7は、環境状態の情報および居住者10の位置情報を内部で保持してもよいし、図2において図示しない記憶部に保持させてもよい。
【0024】
ここで、制御部7は、例えば、居室内の温湿度とWBGT値で示される暑さ指数との関係を示す情報を備え、環境検知部6から取得した環境状態の情報を参照し、居室内の温熱快適性を評価して記録する。図4は、実施の形態1に係る空気調和機2の制御部7が備える温湿度とWBGT値で示される暑さ指数との関係を示す情報の一例を示す図である。図4の内容については、厚生労働省から発行されている「熱中症を防ごう」というパンフレットの内容と同様のため、詳細な説明については省略する。制御部7は、居室内の温熱快適性を評価する方法について、WBGT値を用いる方法の他、温湿度、気流、着衣、作業量などを含めたPMV(Predicted Mean Vote)値で表される予測平均温冷感を用いてもよいし、これらの方法に限定されるものではない。
【0025】
生体情報検知部3は、居住者10の生体情報を取得する。空気調和機2の制御部7は、生体情報検知部3から居住者10の生体情報を取得する(ステップS3)。制御部7は、取得した生体情報を記録する。制御部7は、生体情報を内部で保持してもよいし、図2において図示しない記憶部に保持させてもよい。生体情報検知部3は、制御部7から取得要求があった場合に生体情報を制御部7に送信してもよいし、定期的に生体情報を制御部7に送信してもよい。
【0026】
制御部7は、ステップS1で取得した居住者10の居住者情報を用いて、居住者10の優先度を設定する(ステップS4)。制御部7は、居室に複数の居住者10が存在している場合は全ての居住者10の優先度を設定する。制御部7は、生体情報検知部3から生体情報とともに居住者情報を取得している。制御部7は、居住者情報として各居住者10の年齢、身長、体重、性別などの情報を取得していることから、これらの情報のうち1つ以上を用いて各居住者10の優先度を設定する。制御部7は、例えば、年齢の高い居住者10ほど優先度を高く設定する。制御部7は、居住者情報を継続して取得している期間によって居住者10の居室滞在時間が分かることから、居室滞在期間の長い居住者10ほど優先度を高く設定してもよい。制御部7は、居住者情報に含まれる各情報を複合的に用いて居住者10の優先度を設定してもよいし、優先度を設定する方法はこれらに限定されるものではない。
【0027】
制御部7は、各居住者10の生体情報を用いて、全ての居住者10について、快適領域にあるか否か、すなわち健康状態に異常があるか否かを判定する(ステップS5)。制御部7は、例えば、健康または快適に居住できる生体情報の閾値を予め記憶しているものとする。閾値とは、生体情報毎に設定されたものであり、例えば、居住者10の皮膚温度:30〜37℃、心拍数:60〜100bpm、発汗量1.0mg/cm2/min以上である。制御部7は、各居住者10について取得された生体情報と閾値とを比較し、生体情報の全ての項目が閾値内の居住者10は快適領域にあると判定し、生体情報の1つ以上の項目で閾値外のものがある居住者10は快適領域を逸脱、すなわち健康状態に異常があると判定する。制御部7は、全ての居住者10について快適領域にあるか否かの判定を行う。
【0028】
快適領域を逸脱した居住者10がいる場合(ステップS5:Yes)、制御部7は、環境状態および居住者10の生体情報を用いて、快適領域を逸脱した居住者10に対する空気調和機2の空調制御内容を設定する(ステップS6)。図5は、実施の形態1に係る空気調和機2の制御部7における空調制御内容の設定例を示す図である。制御部7は、例えば、皮膚温度、心拍数、および発汗量が閾値を超過している居住者10は暑いと感じていると判定し、リモコンなどで設定された設定温度に対して、設定温度を下げ、かつ送風をオフする空調制御内容を設定する。この空調制御内容を第1の空調制御内容とする。また、制御部7は、例えば、発汗量が閾値内であるが皮膚温度および心拍数が閾値より低い居住者10は寒いと感じていると判定し、リモコンなどで設定された設定温度に対して、設定温度を上げる空調制御内容を設定する。この空調制御内容を第2の空調制御内容とする。
【0029】
制御部7は、各居住者10に対する空調制御内容を設定した結果、複数の空調制御内容が含まれているか否かを確認する(ステップS7)。制御部7は、具体的に、複数の居住者10に対する空調制御内容を設定した場合、ある居住者10に対して第1の空調制御内容を設定し、別の居住者10に対して第2の空調制御内容を設定していないか確認する。複数の、ここでは相反する空調制御内容が含まれている場合(ステップS7:Yes)、制御部7は、第1の空調制御内容が設定された居住者10の優先度と、第2の空調制御内容が設定された居住者10の優先度とを比較して、第1の空調制御内容にするか、または第2の空調制御内容にするか、空調制御内容を決定する(ステップS8)。すなわち、制御部7は、複数の居住者10に対して複数の空調制御内容が設定された場合、優先度の高い居住者10に設定された空調制御内容を、空調部4および風向制御部5に対する空調制御内容とする。制御部7は、例えば、各空調制御内容のグループの居住者10の優先度の平均を求めて高い方の空調制御内容を採用してもよいし、各空調制御内容のグループの居住者10の中で最も優先度の高い居住者10同士の優先度を比較して優先度の高い方の空調制御内容を採用してもよい。
【0030】
複数の空調制御内容が含まれていない場合(ステップS7:No)、制御部7は、居住者10に対して設定した空調制御内容に決定、すなわち採用する(ステップS9)。制御部7は、ステップS8またはステップS9の処理の後、採用した空調制御内容を空調部4および風向制御部5に指示する。空調部4および風向制御部5は、制御部7で決定された空調制御内容で居室に対する空調制御を実施する(ステップS10)。
【0031】
快適領域を逸脱した居住者10がいない場合(ステップS5:No)、制御部7は、現在の空調制御内容を維持することを決定する(ステップS11)。
【0032】
なお、制御部7は、ステップS4において、居室に存在している全ての居住者の優先度を設定しているが、これに限定するものではない。制御部7は、ステップS7:Yesの場合、ステップS8の処理の前の段階で該当する居住者の優先度を設定してもよい。この場合、優先度を設定する居住者の数を減らすことができるため、制御部7の処理負荷を低減することができる。
【0033】
環境制御システム1では、空気調和機2の電源がオンの間、ステップS1に戻って上記ステップS1からステップS11までの処理を繰り返し実行する。なお、環境制御システム1では、ステップS10からステップS1に戻る際、ステップS10で実施した空調制御が居室に反映されるまでの時間を考慮して、規定された期間待機してもよい。ステップS8において採用されなかった側の空調制御内容が設定された居住者10については、一時的に、さらに快適領域を逸脱する可能性がある。しかしながら、空気調和機2は、優先度の高い側の空調制御内容を実施した結果、その空調制御内容が設定された居住者10については快適領域内、すなわち生体情報が閾値内になることが期待される。その結果、つぎの処理の流れにおいて、制御部7は、居住者10の優先度から、前回採用されなかった側の空調制御内容を採用することが期待される。空気調和機2は、ステップS1からステップS11の処理を繰り返し実行することで、居室全体での居住者10の快適性を向上させることができる。
【0034】
なお、制御部7は、環境検知部6からの環境状態の情報について、自身で予め保持している暑さ指数またはPMV値との参照結果を用いて、居住者10に異常をきたす可能性は少ないにもかかわらず、生体情報から居住者10が暑いと感じていると判定した場合、例えば、設定温度を現在より下げる制御を行う、または居住者10へ向かい送風を行うなどの制御を行ってもよい。また、制御部7は、例えば、生体情報検知部3からの生体情報によって居住者10の体動が少なく、かつ皮膚温度が高く、熱中症などの緊急の対策を要する場合、別途登録した携帯端末または施設へ報知する機能を備えていてもよい。
【0035】
また、制御部7は、居住者10の生体情報との比較で用いる快適領域の閾値について、皮膚温度、心拍数、発汗量の上限値および下限値のみならず、規定された時間での変化量、例えば、皮膚温度±Δ℃によって判定してもよい。さらに、快適領域については季節によって変化するものであるため、制御部7は、例えば、カレンダーまたは外部からの情報によって季節情報を取得し、快適領域の閾値の範囲を変更してもよい。
【0036】
複数の居住者10が居室に存在している場合、各居住者10が装着している生体情報検知部3は、居住者10の生体情報を制御部7に送信する。このとき、生体情報検知部3は、居住者10の年齢、身長、体重、性別などが登録された居住者情報も制御部7に送信している。ここで、各居住者10の生体情報と比較され、居住者10の健康状態を判定するための快適領域の閾値において、皮膚温度、心拍数、および発汗量は、居住者10の年齢、性別などによって平均値が変化する要素である。そのため、制御部7は、予め年齢別、性別毎など居住者10の属性によって快適領域の閾値を複数保持していてもよい。制御部7は、居住者情報で得られた居住者10の年齢、性別などによって居住者10毎に快適領域の閾値を変更して生体情報と比較して、居住者10の健康状態を判定してもよい。
【0037】
また、制御部7は、快適領域を逸脱した場合の居住者10の生体情報、および異常なしの場合の居住者10の生体情報をステップS1からステップS11までの処理の都度、すなわち定期的に記録している。そのため、制御部7は、例えば、蓄積した生体情報と環境検知部6で検知された環境状態の情報とを関連付け、各居住者10が快適とされる暑さ指数または快適予測値を算出し、更新してもよい。
【0038】
また、生体情報検知部3は居室に存在する居住者10の居住者情報を生体情報とともに空気調和機2へ送信し、制御部7は、居住者10の居住者情報および生体情報を記録し、保持している。そのため、制御部7は、例えば、空気調和機2が空調制御する居室へ新たに居住者10が入室してきた場合にも、ステップS1からステップS3までの処理によって新たな居住者10を認識でき、空調制御を実施することができる。一方、制御部7は、例えば、空気調和機2が空調制御する居室から居住者10が退室していった場合にも、ステップS1からステップS3までの処理、およびこれまでの記録内容によって退室した居住者10を認識でき、空調制御を実施することができる。
【0039】
以上説明したように、本実施の形態によれば、環境制御システム1では、空気調和機2の制御部7は、居室に存在する居住者10に優先度を設定し、居住者10の優先度を用いて空調制御内容を決定することとした。これにより、環境制御システム1は、居室に複数の居住者10が存在している場合において、居室全体での居住者10の快適性を向上することができる。
【0040】
実施の形態2.
実施の形態1では、空気調和機2の電源がオンの間に空調制御処理を行う場合について説明した。実施の形態2では、空気調和機2の電源がオフの間、すなわち空調部4および風向制御部5の動作を停止中も、制御部7において居住者10が快適領域にあるか否かを判定している場合について説明する。
【0041】
環境制御システム1の構成は実施の形態1と同様である。図6は、実施の形態2に係る空気調和機2の動作を示すフローチャートである。ステップS1からステップS11の処理については、実施の形態1の処理と同様のため説明を省略する。環境制御システム1では、空気調和機2の制御部7は、空気調和機2の電源のオンオフによらず、ステップS1からの動作を行っているものとする。また、環境制御システム1では、空調部4および風向制御部5が空調制御を停止中であっても、生体情報検知部3は、居住者10の生体情報を取得し、環境検知部6は、環境状態および居住者10の位置を検知している。
【0042】
制御部7は、ステップS8またはステップS9の処理の後、空気調和機2の電源がオンされているか否かを確認する(ステップS21)。空気調和機2の電源がオンの場合(ステップS21:Yes)、制御部7は、実施の形態1のときと同様、ステップS10の処理を行う。空気調和機2の電源がオフの場合(ステップS21:No)、制御部7は、決定した空調制御内容を実施する場合、空気調和機2の電源をオンさせる、すなわち、空調部4および風向制御部5での空調制御を開始させる(ステップS22)。制御部7は、ステップS22の処理の後、ステップS10の処理を行う。
【0043】
制御部7は、ステップS10またはステップS11の処理の後、元々空気調和機2の電源がオンされていたか否かを確認する(ステップS23)。元々空気調和機2の電源がオンだった場合(ステップS23:Yes)、すなわち、実施の形態1と同様の処理の場合、制御部7は、ステップS1に戻って、上記処理を繰り返し実行する。
【0044】
元々空気調和機2の電源がオフだった場合(ステップS23:No)、すなわち、ステップS22で空気調和機2の電源をオンさせた場合、制御部7は、空気調和機2の電源をオンさせてから規定された時間が経過したか否かを確認する(ステップS24)。実施の形態2では、例えば、居住者10が就寝中の時間帯などを想定しており、空気調和機2の電源がオンの状態が維持される事態を回避するため、規定された時間を設けている。規定された時間経過していない場合(ステップS24:No)、制御部7は、ステップS1に戻って、上記処理を繰り返し実行する。規定された時間経過した場合(ステップS24:Yes)、制御部7は、空気調和機2の電源をオフし(ステップS25)、ステップS1に戻って、上記処理を繰り返し実行する。
【0045】
以上説明したように、本実施の形態によれば、環境制御システム1では、空気調和機2が稼働していない、すなわち空調部4および風向制御部5が停止中の状態においても、制御部7は、居住者10が快適領域にあるか否かを判定し、居住者10が快適領域を逸脱した場合、空調部4および風向制御部5を動作させ、空調制御を行うこととした。これにより、環境制御システム1は、空気調和機2が停止中の居住者10の睡眠時間帯などにおいても、居室全体での居住者10の快適性を向上することができる。
【0046】
実施の形態3.
実施の形態1,2では、環境制御システム1において、空気調和機2の数は1つであった。実施の形態3では、環境制御システムが複数の空気調和機を備える場合について説明する。なお、実施の形態3については、実施の形態1,2に適用可能であるが、ここでは、実施の形態1の場合を例にして具体的に説明する。
【0047】
図7は、実施の形態3に係る環境制御システム1aと居室との位置関係を模式的に示す概念図である。また、図8は、実施の形態3に係る環境制御システム1aの構成例を示すブロック図である。環境制御システム1aは、空気調和機2a,8と、生体情報検知部3と、を備える。空気調和機2aは、空調部4と、風向制御部5と、環境検知部6と、制御部7aと、を備える。制御部7aは実施の形態1,2の制御部7の機能に加えて、空気調和機8の動作を制御する。制御部7aは、居住者10毎の優先度および空調制御内容を用いて、空気調和機2aおよび空気調和機8の空調制御内容を決定する。制御部7aは、空気調和機2aに対する空気調和機8の相対位置の情報を保持しているものとする。なお、空気調和機2aを第1の空気調和機とし、空気調和機8を第2の空気調和機とする。
【0048】
空気調和機8は、空気調和機2aと電気的に接続され、空気調和機2aの制御部7aの制御に従って、居室の温度、湿度、および風速の少なくとも1つ以上を制御する。空気調和機8は、空気調和機2aと同様、空調部4、風向制御部5、環境検知部6、および制御部7aを備える構成であってもよい。
【0049】
つづいて、環境制御システム1aの空気調和機2aおよび空気調和機8が居室の空調制御を実施する動作について説明する。図9は、実施の形態3に係る空気調和機2aの動作を示すフローチャートである。実施の形態3に係る空気調和機2aの動作を示すフローチャートは、図3に示す実施の形態1の空気調和機2のフローチャートと比較して、ステップS6aが異なる。制御部7aは、ステップS6aにおいて、快適領域を逸脱した居住者10に対する空気調和機2aの空調制御内容を決定するとともに、空気調和機8の空調制御内容を決定する。制御部7aは、空気調和機2a、空気調和機8、および居住者10の位置関係から、空気調和機2a、および空気調和機8の少なくとも1つを用いて空調制御を実施することを決定する。制御部7aは、例えば、ある居住者10の生体情報で示される値が快適領域の閾値を逸脱し、居住者10が暑いと感じていると判定して冷却を必要とする場合、該当する居住者10と空気調和機2aとの位置関係、および該当する居住者10と空気調和機8との位置関係から、空気調和機2aおよび空気調和機8での空調制御内容を決定する。制御部7aは、例えば、空気調和機2aよりも空気調和機8の方が該当する居住者10との距離が短い場合、空気調和機2aでは空調制御を実施せず、空気調和機8に空調制御を実施させることを決定する。
【0050】
以上説明したように、本実施の形態によれば、環境制御システム1aは、複数の空気調和機2a,8を備え、空調制御の対象の居住者10との位置関係から各空気調和機2a,8の空調制御内容を決定することとした。これにより、環境制御システム1aは、環境改善が必要な居住者10に対して局所的に空調制御を行うことができるため、複数の居住者10が居室に在室する場合においても、他の居住者10の健康状態の改善および快適な環境状態を維持しつつ、精度よく空調制御を行うことができる。
【0051】
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。
【符号の説明】
【0052】
1,1a 環境制御システム、2,2a,8 空気調和機、3 生体情報検知部、4 空調部、5 風向制御部、6 環境検知部、7,7a 制御部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9