(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6956581
(24)【登録日】2021年10月7日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】列車制御システム
(51)【国際特許分類】
B61L 23/14 20060101AFI20211021BHJP
B60L 15/40 20060101ALI20211021BHJP
【FI】
B61L23/14 Z
B60L15/40 F
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-195349(P2017-195349)
(22)【出願日】2017年10月5日
(65)【公開番号】特開2019-64565(P2019-64565A)
(43)【公開日】2019年4月25日
【審査請求日】2020年3月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】516327044
【氏名又は名称】奥谷 民雄
(74)【代理人】
【識別番号】100077539
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 義仁
(72)【発明者】
【氏名】奥谷 民雄
【審査官】
冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−087343(JP,A)
【文献】
特開2016−055690(JP,A)
【文献】
特開2001−287644(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 23/14
B60L 15/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の軌道回路と、
各軌道回路に制御情報を供給する地上装置と、
列車に搭載された車上装置と
を備える列車制御システムにおいて、
軌道回路毎に、当該軌道回路に対応する区間の一部からなる短小軌道回路区間に対して前記地上装置から供給される制御情報を送信する送信装置を設け、
前記車上装置は、軌道回路毎に前記列車が前記短小軌道回路区間を通過するときに前記制御情報を受信し、該受信した制御情報に基づき、対応する軌道回路における速度パターンを生成し、該生成した速度パターンに従い列車の速度を指示することを特徴とする列車制御システム。
【請求項2】
前記短小軌道回路区間は、前記軌道回路の始端部分又は終端部分に設定され、
前記車上装置は、前記短小軌道回路区間が前記軌道回路の始端部分に設定される場合は、前記対応する軌道回路における速度パターンとして、当該軌道回路における速度パターンを生成し、前記短小軌道回路区間が前記軌道回路の終端部分に設定される場合は、前記対応する軌道回路における速度パターンとして、当該軌道回路の内方に隣接する軌道回路における速度パターンを生成する、請求項1の列車制御システム。
【請求項3】
前記短小軌道回路区間は、少なくとも1つの軌道回路において、該軌道回路の途中に設定され、
前記車上装置は、前記軌道回路の途中に設定された前記短小軌道回路区間に対応する前記送信装置から受信した制御情報に基づき、前記対応する軌道回路における速度パターンとして、当該軌道回路の途中から始まる速度パターンを生成する、請求項1の列車制御システム。
【請求項4】
前記送信装置は、前記短小軌道回路区間において前記制御情報に応答して軌道回路を短絡する共振回路を含む、請求項1乃至3のいずれかの列車制御システム。
【請求項5】
前記制御情報は、生成すべき前記速度パターンの初期速度と終了速度及び前記対応する軌道回路の区間長を規定する情報を含む、請求項1乃至4のいずれかの列車制御システム。
【請求項6】
前記制御情報は、更に、当該軌道回路に対応する軌道の勾配を示す情報を含む、請求項5の列車制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道回路を情報伝送路として使用する列車制御システムに関し、特に、軌道回路に対応する区間の一部である短小軌道回路区間を情報伝送路として使用する列車制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道軌道を走行する列車の速度を自動制御するためのATS(automatic train stop)装置において、地上装置から車上装置に制御情報を送信するための方式として、軌道に沿う複数の定位置にトランスポンダ(送信コイル)を配置する方式(例えば特許文献1)と、軌道回路上に制御情報を送信する方式(例えば特許文献2)が知られている。前者の方式は、対象とする鉄道区間の全域にわたって多数のトランスポンダを配置する必要があるため、コストがかかり、また、列車が緊急停止した場合に停止位置に対応してトランスポンダが配置されていないことがあり得るものであり、その場合制御困難となる。
【0003】
これに対して、後者の方式は、1つの軌道回路の一端(始端又は終端)に設置した送信器を介して該軌道回路の始端から終端までの全範囲で列車に対して連続的に制御情報を送信するので、前者の方式のような不都合がない。しかし、後者の方式においては、軌道回路を伝送路とするので、軌道回路の漏れコンダクタンスによる信号減衰や、軌道回路を流れる帰線電流によるノイズ、列車の電気モータ制御に伴う妨害等を考慮した伝送信号出力とする必要がある。そのため、軌道回路の長さや信号伝送用の周波数に制約があり、また、耐妨害性能を確保するために必要十分な電力/電流で信号伝送を行う必要がある。例えば、列車密度が比較的に高い線区においては1軌道回路の長さが300乃至400m程度とされるが、それだけの長さに見合った電力で信号伝送を行う必要がある。また、列車密度が比較的に低い(あるいは駅間距離が長い)線区においては1軌道回路の長さが1000m以上となることもあり、その場合も、それだけの長さに見合ったより高い電力で信号伝送を行う必要がある。また、特に長大軌道回路(例えば1000m以上)においては、伝送信号の損失のために1kHz未満の低周波しか使用することができず(損失は周波数に反比例するため)、伝送することができる情報量が極めて少ないものとなる。したがって、1軌道回路の距離が長い過疎地の鉄道においては、高度なATS技術を適用することができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−1145760号公報
【特許文献2】特開2005−82054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、軌道回路を情報伝送路として使用する列車制御システムを、小電力で耐妨害性能を確保することができる、低コストな構成で、提供し、かつ、長い軌道回路であっても信号伝送用周波数を高くして伝送できる情報量を増すことができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、複数の軌道回路と、各軌道回路に制御情報を供給する地上装置と、列車に搭載された車上装置とを備える列車制御システムにおいて、軌道回路毎に、当該軌道回路に対応する区間の一部からなる短小軌道回路区間に対して前記地上装置から供給される制御情報を送信する送信装置を設け、前記車上装置は、軌道回路毎に
前記列車が前記短小軌道回路区間
を通過するときに前記制御情報を受信し、前記制御情報を受信し、該受信した制御情報に基づき、対応する軌道回路における速度パターンを生成し、生成した速度パターンに従い列車の速度を指示することを特徴とする。
【0007】
本発明によれば、軌道回路毎に、当該軌道回路に対応する区間の一部からなる短小軌道回路区間に対して前記地上装置から供給される制御情報を送信する送信装置を設けるので、該送信装置から発生される制御情報伝送用の信号電流は短小軌道回路区間において耐妨害性能を確保しうるような電流量であればよく、従って、軌道回路全域にわたって必要な電流量を確保することが要求された従来装置に比べて、かなり小電力の構成で済ますことができる。また、車上装置においては、当該短小軌道回路区間において受信した制御情報に基づき、対応する軌道回路における速度パターンを生成し、該生成した速度パターンに従い列車の速度を指示するので、短小軌道回路区間においてのみ制御情報を受信する構成であっても、軌道回路に対応する区間の全体にわたる速度制御を行うことができる。従って、本発明によれば、軌道回路を情報伝送路として使用する列車制御システムにおいて、小電力で耐妨害性能を確保することができる低コストな構成を提供することができる。また、長い軌道回路であっても、制御情報を伝送する距離は短小軌道回路区間の部分のみであるので、信号伝送用周波数を高くすることができ、制御情報の伝送量を増すことができる。したがって、1軌道回路の距離が長い過疎地の鉄道においても、簡便かつ容易に制御情報の伝送量を増すことができるので、高度なATS技術を適用することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に係る列車制御システムの一実施例を示すブロック図。
【
図2】同実施例によって行われる列車の速度制御の一例(速度パターンの生成例)を示すグラフ。
【
図3】本発明に係る列車制御システムの変形例を示すブロック図。
【
図4】同変形例によって行われる列車の速度制御の一例(速度パターンの生成例)を示すグラフ。
【
図5】短小軌道回路区間が軌道回路の途中に設定される例を示すブロック図。
【
図6】短小軌道回路区間に対応して信号伝送専用の添え線を配置する実施例を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施例に係る列車制御システムが適用される鉄道線区の全域にわたって、列車1が走行するレール2a,2bを利用して複数の公知の軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・が連続的に形成される。
図1は、一例として、軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・が複軌条式軌道回路からなる例を示しており、レール2a,2bにおいて各軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・の境界にレール絶縁3が設けられている。また、公知のように、各軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・の境界部において信号機が設けられ、かつ、該軌道回路上の列車の有無を検知して該信号機を閉塞制御するための送信器及び受信器が各軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・において設けられるが、これら公知の機器については、便宜上図示を省略する。
【0010】
本発明は、各軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・において、当該軌道回路に対応する区間の一部からなる短小軌道回路区間SRを設定することを特徴としている。
図1の例では、列車1の進行方向は矢印Fで示す方向であり、各軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・に対応する区間の始端部分に短小軌道回路区間SRが設定される。各軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・の長さは、公知のように、例えば列車密度が比較的に高い線区においては300乃至400m程度であり、また、列車密度が比較的に低い線区においては1000m以上となることもあり、線区の設計に従い任意に定まる。これに対して、本発明に従う短小軌道回路区間SRの長さは、対応する軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・の長さにかかわりなく、当該軌道回路に対応する区間の一部を成す比較的短い一定距離(例えば100m程度)であってよい。
【0011】
各短小軌道回路区間SRには、地上装置4から供給される制御情報を当該短小軌道回路区間SR上に送信する送信装置6が設けられる。地上装置4は、中央管理所に設置され、デジタル符号化された制御情報を、制御ライン7を介して、遠隔の各軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・のコントローラ5に与える。各軌道回路RC1,RC2,・・・のコントローラ5は、制御ライン7上の制御情報に含まれる区間ID(軌道回路ID)に基づき、対応する軌道回路に対して与えられた制御情報を取り込み、該取り込んだ制御情報に応じたデジタル符号化された伝送信号を所定搬送周波数(例えば5乃至20kHz程度の帯域から選ばれた適宜の周波数、あるいは更に高い数10乃至100kHz程度の帯域から選ばれた適宜の周波数)で変調して生成する。コントローラ5から生成された伝送信号(制御情報)は、対応する送信装置6に与えられる。
図1の例では、送信装置6は、送信器6aと直列共振回路6bとを含む。概ね、短小軌道回路区間SRの開始端に送信器6aが配置され、終了端に直列共振回路6bが配置される。送信器6aは、インピーダンスボンドからなり、該伝送信号(制御情報)を短小軌道回路区間SRのレール2a,2bに供給する。直列共振回路6bは、短小軌道回路区間SRのレール2a,2b間に接続され、その共振周波数は前記伝送信号の搬送周波数に設定される。直列共振回路6bは共振周波数でインピーダンス最小となるので、前記伝送信号(制御情報)に関してレール2a,2b間が直列共振回路6bによって短絡され(すなわち軌道回路が短絡される)、これにより、該伝送信号(制御情報)を伝送する回路ループLPが短小軌道回路区間SRのレール2a,2bを通して形成される。したがって、短小軌道回路区間SRに対応するレール2a,2bの部分も送信装置6の一部をなしている。
【0012】
列車1には車上装置8が搭載される。列車1が短小軌道回路区間SRを通過するとき、該列車1の該車上装置8は、アンテナ若しくは受信コイルを介してレール2a,2bを流れる前記所定搬送周波数の伝送信号(制御情報)を受信/検出し、該伝送信号(制御情報)に含まれるデジタル符号を取得してデコードする。そして、車上装置8は、該デコードしたデジタル符号に含まれる制御情報に基づき、対応する軌道回路(RC0,RC1,RC2,・・・のいずれか1)における速度パターンを生成し、生成した速度パターンに従い列車1の速度を指示する。この速度指示の仕方は、列車1の運転席パネルに指示速度を表示することで運転者に指示速度で運転するよう促すやり方、あるいは、列車1の速度を自動的に指示速度に制御する又は自動停止させるやり方(すなわちATS)等、任意のやり方を採用してよい。なお、ATSを行う場合は、地上主体型あるいは車上主体型のいずれの制御方式を採用してもよい。
【0013】
上記実施例によれば、1軌道回路に対応する区間の一部からなる短小軌道回路区間SRに地上装置4から与えられる制御情報を送信する送信装置6を設けるので、該送信装置6から発生される制御情報伝送用の信号電流は短小軌道回路区間SRにおいて耐妨害性能を確保しうるような電流量であればよい。従って、短小軌道回路区間SRにおける制御情報用の伝送信号生成に要する電力は、1軌道回路(例えばRC1)全域にわたって必要な電流量を確保する場合に比べて、かなり小電力の構成で済ますことができる。また、車上装置8においては、当該短小軌道回路区間SRにおいて受信した制御情報に基づき、対応する軌道回路(例えばRC1)における速度パターンを生成し、生成した速度パターンに従い列車1の速度を指示するので、短小軌道回路区間SRにおいてのみ制御情報を受信する構成であっても、1軌道回路(例えばRC1)に対応する区間の全体にわたる速度制御/指示を行うことができる。また、信号伝送距離(短小軌道回路区間SR)が短いので、制御情報伝送用の搬送周波数は比較的高くすることができ(5乃至20kHz程度、あるいは更に高い数10乃至100kHz程度)、高度なデジタルATSの応用に適している。したがって、1軌道回路の距離が長い鉄道(例えば過疎地の鉄道あるいは長距離鉄道)においても、高度なデジタルATSを低コストに採用することができる。特に、従来のデジタルATSでは、制御情報伝送用の搬送周波数は最も高くても20kHz程度であったが、本発明によれば、短小軌道回路区間SRの範囲で伝送信号を流せばよいので、それよりも高い数10乃至100kHz程度の搬送周波数とすることができ、さらには100kHz以上の搬送周波数とすることも可能であり、多情報伝送が可能となる。
【0014】
次に、地上装置4から車上装置8に対して与えられる制御情報に含まれる情報の一例を示すと、(1)軌道回路を特定する区間ID(軌道回路ID)、(2)当該軌道回路に対応する区間の初期の速度(初期速度)、(3)当該軌道回路に対応する区間の初期速度を維持する距離を指示する初期速度距離、(4)当該軌道回路に対応する区間の終了時の速度(終了速度)、(5)当該軌道回路に対応する区間長(区間の全長距離)、(6)当該軌道回路に対応する区間の勾配、などを含んでいてもよい。上記(2)の初期速度、上記(3)の初期速度距離、上記(4)の終了速度は、可変値であり、当該軌道回路における信号現示あるいは当該線区における運行状況等に応じて、地上装置4によってあるいは更に上位の装置(例えば連動装置)によってそれらの各値が決定される。なお、上記(5)の全長距離、上記(6)の勾配は、当該軌道回路に対応する区間に固有の固定値であるから、車上装置8内のメモリに予め保存しておいてもよく、その場合は、制御情報に含まれていなくてよい。なお、上記(6)の勾配は、車上装置8において当該列車の走行距離を算出するときの換算変数として使用する。さらに、制御情報は、停止すべき信号機までの距離や、信号現示を示す情報など、その他必要な情報を適宜含んでいてよい。
【0015】
次に、車上装置8が具備するコンピュータによる前記速度パターンの生成例及び該速度パターンに基づく速度制御/指示について、
図2を参照して説明する。
図2は、軌道回路RC1に対応する閉塞区間の信号現示がG(緑)、その内方の軌道回路RC2に対応する閉塞区間の信号現示がY(黄)の場合において、軌道回路RC1のために生成される速度パターンを主に示している。列車1が該軌道回路RC1の始端部分に設定された短小軌道回路区間SRを通過する過程で、車上装置8が前記制御情報を取得する。取得した制御情報は、車上装置8内のメモリに一時保存され、該一時保存した制御情報に基づき速度パターンが生成される。地上主体型の制御方式の場合、該取得した制御情報には、上記(2)の初期速度V1s、上記(3)の初期速度距離CD1、上記(4)の終了速度V1eが含まれていてよい。例えば、初期速度V1sは、直前の軌道回路(その信号現示はG)の終了速度と同値に設定されるようになっており、列車1は短小軌道回路区間SRを走行中の現在速度を維持する。車上装置8は、前記コンピュータにより本発明に係るアプリケーションプログラムを実行することにより、該軌道回路RC1の始端から前記初期速度距離CD1の終わりまでの間は初期速度V1sを維持するような速度パターンを作成し、初期速度距離CD1の終わりから該軌道回路RC1の終端までの間は初期速度V1sから終了速度V1eに連続的に移行するような速度パターンを作成するようにしてよい。また、車上装置8が該軌道回路RC1の始端部分で前記制御情報を取得したときから、車上装置8は、現在速度に基づいて走行距離の算出を開始し、該算出した走行距離を、列車1が該軌道回路RC1の区間の現在の走行位置を示すデータとして使用する。そして、車上装置8は、作成した速度パターンに従い、現在の走行位置が初期速度距離CD1の終端に達するまでは、初期速度V1sを維持するよう速度を指示し、現在の走行位置が初期速度距離CD1の終端に達したら、速度V1sから終了速度V1eまで連続的に変化するよう速度を指示する。なお、
図2において、CD2は、次の軌道回路RC2の初期速度距離を例示する。
【0016】
上記実施例では、短小軌道回路区間SRが軌道回路に対応する区間の始端部分に設定されているが、これに限らず、
図3に示すように、軌道回路に対応する区間の終端部分に短小軌道回路区間SRを設定してもよい。この場合、各短小軌道回路区間SRに対応して設けられるコントローラ5及び送信装置6の構成は、
図1と同様であるが、各コントローラ5が取得する制御情報は、該短小軌道回路区間SRが設けられている軌道回路(例えばRC0)に関するものではなく、その次の、つまり内方に隣接する軌道回路(例えばRC1)に関するものである。したがって、車上装置8は、或る軌道回路(例えばRC0)の終端部分に設定された短小軌道回路区間SRを通過中に、その次のつまり内方に隣接する軌道回路(例えばRC1)に関する制御情報を受信し、該受信した制御情報に基づき、該内方に隣接する軌道回路(例えばRC1)における速度パターンを、該制御情報に対応する軌道回路における速度パターンとして作成する。
【0017】
図4は、
図3の実施例において、車上装置8が具備するコンピュータによる前記速度パターンの生成例及び該速度パターンに基づく速度制御/指示の例を示すグラフである。例えば、列車1が該軌道回路RC0の終端部分に設定された短小軌道回路区間SRを通過する過程で、車上装置8が前記制御情報を取得する。取得した制御情報は、車上装置8内のメモリに一時保存され、該一時保存した制御情報に基づき、当該軌道回路RC0の内方に隣接する軌道回路RC1における速度パターンが生成される。該制御情報に基づく速度パターンの生成の仕方は、
図2を参照して説明したやり方と同様であってよい。
【0018】
例えば、単線区間において本発明を実施する場合、上り又は下りの一方に関する短小軌道回路区間SRの配置は
図3に示すようになり、上り又は下りの他方に関する短小軌道回路区間SRの配置は図
1に示すようになる。したがって、単線区間において本発明を実施する場合、軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・と短小軌道回路区間SRとの対応関係が、列車1の走行方向に応じて、
図3又は図
1に示すように切り換わる。
【0019】
短小軌道回路区間SRは軌道回路に対応する区間の途中に設定されてもよい。
図5は、短小軌道回路区間SRが軌道回路RC1に対応する区間の途中に設定される例を示している。例えば、軌道レール2a,2bがカーブをなしている場所など、該場所に対して地上装置4から格別の指示を与える必要がある場所に対応して、短小軌道回路区間SRを設定してよい。前述と同様に、短小軌道回路区間SRに対応して、コントローラ5と送信装置6が設けられ、地上装置4から制御ライン7を介して該短小軌道回路区間SRに関連する制御情報が与えられ、コントローラ5により受信される。送信装置6は、前述と同様に、送信器6aと直列共振回路6bからなるものであってよい。ただし、軌道回路の途中においてはレール絶縁が設けられないので、設定した短小軌道回路区間SR外への伝送信号の漏れを防ぐために、送信器6aの側の短小軌道回路区間SRの一端において、レール2a,2bの間に直列共振回路6cを接続する。この直列共振回路6cの共振周波数は、直列共振回路6bと同様に、伝送信号の搬送周波数である。この場合、列車1の車上装置8は、軌道回路RC1の途中に設定された短小軌道回路区間SRに対応する送信装置6から受信した制御情報に基づき、当該軌道回路RC1の途中から始まる速度パターンを作成する。
【0020】
1軌道回路に対応する区間の途中に設定される短小軌道回路区間SRは、すべての軌道回路ではなく、必要な少なくとも1つの軌道回路に対応する区間において設定されればよい。1つの軌道回路に対応して複数の短小軌道回路区間SRが設定されることがあり得るが、その場合、前記制御情報に含まれる軌道回路IDは、1軌道回路内の複数の短小軌道回路区間SRのそれぞれを識別しうるIDとするのは勿論である。
【0021】
また、上記実施例では、例えば、地上装置4から供給された制御情報に含まれる前記(2)の初期速度V1s、前記(3)の初期速度距離CD1、前記(4)の終了速度V1e等の情報に基づき、車上装置8が具備するコンピュータのリアルタイム処理により各軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・における速度パターンをそれぞれ作成している。しかし、車上装置8が速度パターンを生成するための手法はこれに限らず、任意の構成を採用してよい。例えば、車上主体型の制御方式の場合、車上装置8が具備する記憶装置において列車1が走行する線区全体にわたる各閉塞区間(各軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・の区間)についての距離及び勾配等の情報と信号現示に応じた速度パターンとをそれぞれ予め記憶しておき、地上装置4から各軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・(又は各短小軌道回路区間SR)のコントローラ5に対して供給される前記制御情報には少なくとも前記(1)の軌道回路IDが含まれるようにする。そして、列車1が或る1軌道回路の短小軌道回路区間SRを通過する過程で車上装置8が送信装置6からの制御情報を受信すると、該受信した制御情報に含まれる軌道回路IDに対応する軌道回路(RC0,RC1,RC2,・・・のいずれか)の速度パターンを前記記憶装置から読み出すことにより、該速度パターンが生成されるようにする。この場合は、地上装置4から供給される制御情報内には、前記(2)の初期速度V1s、前記(3)の初期速度距離CD1、前記(4)の終了速度V1e等の情報が含まれていなくてもよい。
【0022】
上記各実施例においては、各短小軌道回路区間SRに対応するレール2a,2bの部分に制御情報伝送用の信号が流される構成であったが、これに限らず、短小軌道回路区間SRに対応して信号伝送専用の添え線を配置し、該添え線に制御情報伝送用の信号が流されるように構成してもよい。
図6は、短小軌道回路区間SRに対応する範囲の各レール2a,2bの部分に沿って信号伝送専用の添え線6dを配置する実施例を示す。添え線6dは、短小軌道回路区間SRに対応する範囲の各レール2a,2bの部分に沿って配置され、かつ、全体として1ループをなすように接続された導線からなる。この添え線6dのループは短小軌道回路区間SRの略中央部分で交差することにより、該短小軌道回路区間SRに対応する範囲のレール2a,2bの部分を2分した各レール部分に、第1ループ部分LP1と第2ループ部分LP2が対応づけられるようにしている。これにより、個々のレール2a,2bに対しては、第1ループ部分LP1と第2ループ部分LP2における信号の流れが逆向きとなり、レール2a,2bと添え線6dとの間の相互の電磁誘導成分が相殺される。したがって、レール2a,2bを流れる帰線電流及び/又はその他の制御信号電流と、添え線6dを流れる制御情報伝送用の信号電流との間に、相互電磁誘導による悪影響が生じないようになっている。各短小軌道回路区間SRにおける添え線6dのループに対して、それに対応するコントローラ5から生成された伝送信号(制御情報)が供給される。こうして、短小軌道回路区間SRにおける添え線6dのループを伝送信号(制御情報)が流れ、列車1が該短小軌道回路区間SRを通過するとき、該添え線6dを流れる該伝送信号(制御情報)が車上装置8によって受信される。したがって、
図6の実施例においては、短小軌道回路区間SRに対応して配置された添え線6dのループが送信装置6として機能する。
【0023】
なお、上記各実施例においては、軌道回路RC0,RC1,RC2,・・・が複軌条式軌道回路からなるものとして説明したが、これに限らず、単軌条式軌道回路からなっていてもよい。
【符号の説明】
【0024】
1 列車
2a,2b レール
3 レール絶縁
RC0,RC1,RC2,・・・ 軌道回路
SR 短小軌道回路区間
4 地上装置
5 コントローラ
6 送信装置
6a 送信器
6b,6c 直列共振回路
6d 添え線
7 制御ライン
8 車上装置