特許第6956616号(P6956616)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6956616ロープテスタ,ワイヤロープ解析装置およびその制御プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6956616
(24)【登録日】2021年10月7日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】ロープテスタ,ワイヤロープ解析装置およびその制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/82 20060101AFI20211021BHJP
【FI】
   G01N27/82
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-237676(P2017-237676)
(22)【出願日】2017年12月12日
(65)【公開番号】特開2019-105507(P2019-105507A)
(43)【公開日】2019年6月27日
【審査請求日】2020年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001830
【氏名又は名称】東京UIT国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】橋目 佑太
(72)【発明者】
【氏名】糸井 宏明
(72)【発明者】
【氏名】古川 一平
(72)【発明者】
【氏名】中本 洋平
【審査官】 田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】 登録実用新案第3156764(JP,U)
【文献】 国際公開第2013/145823(WO,A1)
【文献】 特開2001−041933(JP,A)
【文献】 特開平11−230946(JP,A)
【文献】 特開2011−105495(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第105293242(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/72−27/9093
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁力を発生する磁化器,および磁化器によって発生した磁力によって磁化される,所定速度で移動するワイヤロープから生じる磁気変化を検出する検出器を含む磁化検出器,上記ワイヤロープの移動方向に上記磁化検出器との間に所定間隔をあけて設けられ,上記ワイヤロープを撮影する撮影装置,ならびに上記磁化検出器および上記撮影装置に接続され,上記磁化検出器から出力される出力信号を所定時間間隔ごとに時系列に記憶手段に記録する第1の記録手段,および上記撮影装置から出力される画像データを撮影順番を含めて記憶手段に記録する第2の記録手段を備え,上記磁化検出器によって検出される磁気変化に基づいて上記ワイヤロープの欠陥箇所を検出し,上記欠陥箇所が上記撮影装置の設置箇所に至るタイミングに上記撮影装置を駆動する駆動信号を出力する制御器を備える,ワイヤロープを検査するためのロープテスタによって記録される上記磁化検出器からの出力信号および上記撮影装置からの画像データが与えられるワイヤロープ解析装置であって,
横軸をワイヤロープ位置,縦軸を磁化検出器から出力される出力信号とするグラフを表示するグラフ表示手段,および
上記グラフ表示手段によって表示される磁化検出器からの出力信号を表すグラフのうち上記欠陥箇所を表すグラフに対応づけて,上記画像データによって表される一または複数のワイヤロープのサムネイル画像をグラフ上に表示するワイヤロープ画像表示手段を備えている,
ワイヤロープ解析装置。
【請求項2】
上記制御器が,上記ワイヤロープの所定の移動速度,および上記磁化検出器と上記撮像装置の間の所定間隔を表す距離の入力を受け付ける入力部,ならびに
上記入力部から受け付けられる移動速度と所定間隔を表す距離とを用いて,上記駆動信号を出力すべきタイミングを規定する遅延時間を算出する遅延時間算出手段を備えている,
請求項1に記載のワイヤロープ解析装置。
【請求項3】
上記制御器は,上記磁気検出器から出力される出力信号が第1の閾値を超える場合に上記ワイヤロープの欠陥箇所を検出するものである,
請求項1または2に記載のワイヤロープ解析装置。
【請求項4】
上記第1の閾値以上の第2の閾値を上記グラフ中に表示する閾値表示手段,および上記第2の閾値を入力する閾値入力手段をさらに備え,
上記ワイヤロープ画像表示手段は,上記第2の閾値を超える出力信号を表すグラフに対応づけて,上記磁化検出器から出力される出力信号が上記第2の閾値を超えることで撮影された画像データによって表されるワイヤロープ画像を表示する,
請求項3に記載のワイヤロープ解析装置。
【請求項5】
磁力を発生する磁化器,および磁化器によって発生した磁力によって磁化される,所定速度で移動するワイヤロープから生じる磁気変化を検出する検出器を含む磁化検出器,上記ワイヤロープの移動方向に上記磁化検出器との間に所定間隔をあけて設けられ,上記ワイヤロープを撮影する撮影装置,ならびに上記磁化検出器および上記撮影装置に接続され,上記磁化検出器から出力される出力信号を所定時間間隔ごとに時系列に記憶手段に記録する第1の記録手段,および上記撮影装置から出力される画像データを撮影順番を含めて記憶手段に記録する第2の記録手段を備え,上記磁化検出器によって検出される磁気変化に基づいて上記ワイヤロープの欠陥箇所を検出し,上記欠陥箇所が上記撮影装置の設置箇所に至るタイミングに上記撮影装置を駆動する駆動信号を出力する制御器を備える,ワイヤロープを検査するためのロープテスタによって記録される上記磁化検出器からの出力信号および上記撮影装置からの画像データが与えられるワイヤロープ解析装置を制御するプログラムであって,
横軸をワイヤロープ位置,縦軸を磁化検出器から出力される出力信号とするグラフを表示装置に表示し,
表示される磁化検出器からの出力信号を表すグラフのうち上記欠陥箇所を表すグラフに対応づけて,上記画像データによって表される一または複数のワイヤロープのサムネイル画像をグラフ上に表示するように,上記ワイヤロープ解析装置を制御する,
ワイヤロープ解析装置を制御するプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はワイヤロープを検査するロープテスタに関する。またこの発明はワイヤロープ解析装置およびその制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤロープは定期的に検査しなければならない。たとえばエレベータ用ワイヤロープの検査では,エレベータが設置されているビル等に検査員が派遣され,現場において検査員によってエレベータ用ワイヤロープが検査される。
【0003】
特許文献1は,エレベータ用ワイヤロープを撮像した映像信号を用いて,素線に所定の大きさまたは所定長さの摩耗足が所定数あるか否かを検出する検査装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−12903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
映像信号を用いて摩耗足が発生している箇所を事前に特定することができれば,その後の作業員による検査がスムーズになる。しかしながら,特許文献1では,画像処理(パターン認識)によって摩耗足があるか否かが検出されるので,ワイヤロープが汚れていると映像が不明瞭となり,画像処理に基づく摩耗足の検出が難しくなる可能性が大きい。特許文献1は映像を明瞭にするためにワイヤロープを洗浄することも記載するが,これではワイヤロープの撮像するたびに,撮像に先立ってワイヤロープを洗浄し,さらにそれを終えた後にグリース等を塗布することが必要になるので,作業負担が増大してしまう。
【0006】
この発明は,作業負担を増大させることなく,ワイヤロープの状況を事前に把握できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明によるロープテスタは,所定速度で移動するワイヤロープを検査するためのものであって,磁力を発生する磁化器,および磁化器によって発生した磁力によって磁化される上記ワイヤロープから生じる磁気変化を検出する検出器を含む磁化検出器,上記ワイヤロープの移動方向に上記磁化検出器との間に所定間隔をあけて設けられ,上記ワイヤロープを撮影する撮影装置,ならびに上記磁化検出器および上記撮影装置に接続され,上記磁化検出器によって検出される磁気変化に基づいて上記ワイヤロープの欠陥箇所を検出し,上記欠陥箇所が上記撮影装置の設置箇所に至るタイミングに上記撮影装置を駆動する駆動信号を出力する制御器を備えている。
【0008】
磁化検出器はたとえば磁気変化に基づく電圧値を表す出力信号を出力することができ,欠陥箇所の出力信号(電圧値)は欠陥のない箇所の出力信号(電圧値)よりも大きな値となる。制御器は典型的には所定の閾値を超える出力信号を判定することによって欠陥箇所を検出する。
【0009】
この発明によると,磁化検出器によって検出される磁気変化に基づいて所定速度で移動するワイヤロープの欠陥箇所が検出され,その欠陥箇所が撮影装置によって撮影される。撮影装置はワイヤロープの移動方向に磁化検出器との間に所定間隔をあけて設けられているので,ワイヤロープの欠陥箇所は,はじめに磁化検出器を通り,所定時間経過後に撮影装置に至る。制御器によって,上記欠陥箇所が上記撮影装置の設置箇所に至るタイミングで上記撮影装置が駆動されるので,上記磁化検出器によって検出される欠陥箇所を撮影装置によって正しく撮影することができる。磁化検出器によって検出される欠陥箇所をピンポイントに撮影した画像が取得されるから,ワイヤロープの状況を正しくかつ詳しく把握することができる。
【0010】
一実施態様では,上記制御器が,上記ワイヤロープの所定の移動速度,および上記磁化検出器と上記撮像装置の間の所定間隔を表す距離の入力を受け付ける入力部,ならびに上記入力部から受け付けられる移動速度と所定間隔を表す距離とを用いて,上記駆動信号を出力すべきタイミングを規定する遅延時間を算出する遅延時間算出手段を備えている。上記磁化検出器による欠陥検出のタイミングから算出される遅延時間を経過したタイミングに,制御装置から撮像装置の駆動信号が出力される。入力されるワイヤロープの移動速度および磁化検出器と撮像装置の間の所定間隔を表す距離に基づいて遅延時間が算出されるので,ワイヤロープの移動速度および磁化検出器と撮像装置の間の所定間隔を表す距離が異なっても(たとえばエレベータ用ワイヤロープの移動速度は,エレベータごとに異なる),欠陥箇所をピンポイントに正しく撮影するための遅延時間を算出することができる。
【0011】
もっとも,磁化検出器と撮影装置の間の距離が固定距離であれば,ワイヤロープの移動速度のみを入力部に入力すれば十分であるのは言うまでもない。磁化検出器と撮影装置の間の固定距離を表すデータは,たとえばあらかじめ記憶装置に記憶させておけばよい。
【0012】
好ましくは,上記制御器が,上記磁化検出器から出力される出力信号を所定時間間隔ごとに時系列に記憶手段に記録する第1の記録手段,および上記撮影装置から出力される画像データを撮影順番を含めて記憶手段に記録する第2の記録手段を備えている。画像データの撮影順番の記録は,記憶手段における画像データの記録順番に基づくものであってもよいし,ファイル名,ヘッダ情報等に順番を表すデータを付随させることに基づくものであってもよい。第1の記録手段によって記憶手段に記録される磁化検出器から出力される出力信号および第2の記録手段によって記憶手段に記録される画像データの両方を,ワイヤロープの状況把握に利用することができる。
【0013】
この発明は,上記ロープテスタによって記録される上記磁化検出器からの出力信号および上記撮影装置からの画像データが与えられるワイヤロープ解析装置も提供する。この発明によるワイヤロープ解析装置は,横軸をワイヤロープ位置,縦軸を磁化検出器から出力される出力信号とするグラフを表示するグラフ表示手段,ならびに上記グラフ表示手段によって表示される出力信号を表すグラフのうち上記欠陥箇所を表すグラフに対応づけて,上記画像データによって表されるワイヤロープ画像を表示するワイヤロープ画像表示手段を備えている。
【0014】
磁化検出器から出力される出力信号は所定時間間隔ごとに時系列に記憶手段に記憶され,またワイヤロープは所定速度で移動するので,出力信号のそれぞれをグラフの横軸(ワイヤロープ位置)に対応づけることができる。
【0015】
記憶手段に記録される画像データは欠陥箇所をピンポイントに撮影することによって作成されるものであり,また上記撮影装置から出力される画像データは撮影順番を含めて記憶手段に記録されるので,出力信号のグラフに含まれる欠陥箇所を表すグラフのそれぞれに画像データを正しく対応づけることができる(欠陥箇所を表すグラフのそれぞれについて,検査開始箇所から検査終了箇所に向けて,古い順番に画像データを対応づければよい)。出力信号のグラフからワイヤロープにおける欠陥箇所および程度(出力信号の大きさ)が把握されるのみならず,その外観も画像確認することができる。磁化検出器のみを用いた場合には把握しにくいたとえば断線間隔,断線本数といった,より具体的なワイヤロープの状況を詳細に確認することができる。
【0016】
この発明は,上述したワイヤロープ解析装置を制御するプログラムも提供する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ロープテスタ・システムの全体構成を示す斜視図である。
図2】磁化検出器および画像撮影ユニットを側方から概略的に示すブロック図である。
図3】ロープテスタ・システムの動作の流れを示すフローチャートである。
図4】ロープテスタ・システムにおいて画面表示される検査結果画面を示す。
【実施例】
【0018】
図1はロープテスタの全体構成を示す斜視図である。図2はロープテスタを構成する,以下に説明する磁化検出器および画像撮影ユニットを,側方から概略的に示すブロック図である。図2においては磁化検出器の内部構造が示されている。
【0019】
ロープテスタは,磁化検出器10,画像撮影ユニット20,制御器30,およびコンピュータ装置40を備えている。
【0020】
磁化検出器10は,検査対象であるエレベータ用ワイヤロープ1の一部を磁化してエレベータ用ワイヤロープ1の一部を含む磁気回路を形成するとともに,エレベータ用ワイヤロープ1に欠陥が存在することによって生じる磁気抵抗の変化を,磁束または磁束の変化を用いて観察するものである。
【0021】
図1を参照して,磁化検出器10は,横断面が概略半円形の,一方向にのびるワイヤロープ通過凹部11を備えている。ワイヤロープ通過凹部11内に断面円形のワイヤロープ1が通される。磁化検出器10(ワイヤロープ通過凹部11)の長手方向の長さは,たとえば 160mm程度である。
【0022】
図2を参照して,ワイヤロープ通過凹部11の下方に,直方体状のヨーク12と,上記ヨーク12の上面の両側部に固定された1対の磁石13,14と,上記1対の磁石13,14の間に配置され,磁石13,14のそれぞれと間隔をあけて上記ヨーク12の上面に固定されたコイルベース15と,上記コイルベース15の上面に固定された検出コイル16が設けられている。検出コイル16はワイヤロープ1の外周面の大部分を検査するために,ワイヤロープ通過凹部11に沿うようにU字形に湾曲している。磁石13,14,ヨーク12,および磁石13,14によって挟まれる範囲のワイヤロープ1の一部によって,磁気回路が構成される。
【0023】
ワイヤロープ1に損傷(欠損)があると,損傷箇所においてワイヤロープ1の断面積が減少し,磁気回路における磁気抵抗が増加する。磁気抵抗の増加は上述した磁気回路における磁束を減少させる。磁気回路を流れる磁束は検出コイル16と鎖交するので,磁束の変化にしたがって検出コイル16には起電力が生じる。検出コイル16から出力される電圧信号に基づいて,ワイヤロープ1に発生している損傷を定量的に評価することができる。
【0024】
また,ワイヤロープ1に鉄粉の堆積などの異物が付着していると,その箇所においても磁束が変化し,検出コイル16に起電力が生じる。鉄粉が堆積している箇所は断面積が増えるので,上述した損傷がワイヤロープ1に存在する場合に生じる起電力と極性の異なる起電力が検出コイル16に生じることになる。検出コイル16から出力される電圧信号は,ワイヤロープ1に付着している異物検出にも用いることができる。
【0025】
以下の説明において,ワイヤロープ1の損傷(欠損)およびワイヤロープ1への異物付着を,包括的に「欠陥」と呼ぶ。
【0026】
画像撮影ユニット20は,台座23上に固定されたデジタルカメラ21および照明源22を備えている。デジタルカメラ21および照明源22はいずれもワイヤロープ1の方向を向いており,照明源22によって明るくされたワイヤロープ1の表面をデジタルカメラ21によって撮影することができる。
【0027】
磁化検出器10と画像撮影ユニット20との間にはアタッチメント2が設けられており,このアタッチメント2を介して磁化検出器10と画像撮影ユニット20を一体化することができる。
【0028】
上述した磁化検出器10,デジタルカメラ21および照明源22と,以下に説明するコンピュータ装置40とが,信号線によって制御器30に接続されている。
【0029】
制御器30は,CPU(Central Processing Unit ),メモリ,ハードディスク,通信インターフェース(いずれも図示略)等を備えるもので,磁化検出器10(検出コイル16)から出力される電圧信号の受信および記録,上記デジタルカメラ21への電源供給および駆動(撮影指示),デジタルカメラ21から出力される画像データの受信および記録,照明源22への電源供給,コンピュータ装置40へのデータ送信を行う。
【0030】
制御器30が備えるメモリに,磁化検出器10(検出コイル16)から出力される電圧信号,デジタルカメラ21から送信される画像データ,オペレータによって設定される設定データ(測定日時,ワイヤロープ1の移動速度(ロープスピード),ワイヤロープ1の直径,ゲイン設定値,欠陥判定のための閾値(判定レベル),検出コイル16とデジタルカメラ21の間の距離など)が記録される。設定データの入力に制御器30が備える入力装置(入力ボタン)31が用いられる。さらに,制御器30は着脱自体のメモリカードを装着するためのインターフェース(図示略)も備えており,制御器30のメモリに記憶されたデータをメモリカードに記録(転送)することもできる。
【0031】
さらに,以下に詳細に説明するように,制御器30は,検出コイル16から出力される電圧信号を用いて欠陥の存在が判定された(電圧信号が閾値を超えた)ときに,警告を出力(ランプ点灯,ブザー鳴動など)することもできる。
【0032】
コンピュータ装置40はCPU(Central Processing Unit ),メモリ,ハードディスク,通信装置,入力装置,表示装置等を備えるもので,制御器30から信号線を通じて送信されるデータ,または制御器30においてメモリカードに記録されるデータを用いてワイヤロープ1の解析を行うプログラムがインストールされている。コンピュータ装置40における解析プログラムによる処理(表示画面)の詳細は後述する。
【0033】
図3は,制御器30,磁化検出器10(検出コイル16),およびデジタルカメラ21の動作の流れを示すフローチャートである。
【0034】
ワイヤロープ1は一般に複数本のストランドを撚り合わせてつくられており,その表面にらせん状の凹凸が存在するので,構造上,その断面積が長手方向に一定ではない。このため磁化検出器10(検出コイル16)からは常に出力信号(電圧信号)が出力される。磁化検出器10からの出力信号は,上述したように信号線を通じて制御器30に与えられる(ステップ58,51)。
【0035】
制御器30において受信された磁化検出器10からの出力信号は,制御器30において所定時間間隔ごとにたとえば1ミリ秒ごとにサンプリングされ,サンプリング値(電圧値を表すデジタルデータ)がメモリに記録される(ステップ52)。一般には磁化検出器10からの出力信号は,制御器30においてあらかじめ設定されるゲインを用いて増幅され,増幅後の出力信号がサンプリングされる。
【0036】
制御器30は,メモリに記録された電圧値(サンプリング値)のそれぞれを,あらかじめ定められる閾値と比較する(ステップ53)。閾値以下であれば,制御器30は特段の処理を実行しない(ステップ53でNO)。
【0037】
ワイヤロープ1に生じている損傷の程度が大きければ大きいほど,磁化検出器10からは大きな出力信号(電圧値)が出力される。また,ワイヤロープ1に損傷は発生していないものの,ワイヤロープ1の表面にゴミが付着している,たとえばワイヤロープ1やワイヤロープ1がかけられるシーブからの鉄粉がワイヤロープ1の表面に堆積していると,この場合にも上述した磁気回路における磁気抵抗が変動し,磁化検出器10から出力される出力信号は変動する。閾値を超える電圧値が検知された場合,制御器30は,その検知タイミングから所定の遅延時間(以下に詳述する)をカウントし,遅延時間を経過したタイミングに,デジタルカメラ21に駆動信号(撮影指示信号)を送信する(ステップ53でYES ,ステップ54,55)。
【0038】
デジタルカメラ21は制御器30からの撮影指示を常時待機しており(ステップ59,ステップ60でNO),制御器30からの撮影指示信号を受信したタイミングで撮影を実行する(ステップ60でYES ,ステップ61)。撮影によって取得されたワイヤロープ1の一部分を表す画像データは,信号線を通じてデジタルカメラ21から制御器30に送信される(ステップ62)。
【0039】
制御器30は,デジタルカメラ21から送信された画像データを受信すると,受信した画像データをメモリに記録(保存)する(ステップ56,57)。画像データは任意のファイル形式(jpeg,gif,rawなど)でメモリに記録することができる。
【0040】
メモリに記憶される画像ファイルのそれぞれには,撮影順番を特定するデータを付随させることができる。たとえば,制御器30の計時機能を利用してメモリに記録される画像ファイルのファイル名に撮影時刻を含ませることで撮影順番を特定するデータを付随してもよいし,連続する番号をメモリに記録される画像ファイルのファイル名に含ませてもよい。画像ファイルのファイル名に代えて画像ファイルのヘッダ情報中に撮影順番を特定するデータを記録してもよい。
【0041】
もっとも,メモリに記録される画像ファイルの記録順番を用いることでも,メモリに記憶される画像ファイルの撮影順番を特定することは可能である。たとえば先入れ先出し(FIFO)構造を保持するように画像ファイルのそれぞれをメモリに記録すればよい。
【0042】
上述した遅延時間について図2を参照して説明する。
【0043】
図2に示すように,ロープテスタでは,ワイヤロープ1が移動する方向を基準にして,ワイヤロープ1の移動方向の先方に画像撮影ユニット20が設けられ,後方に磁化検出器10が設けられている。固定的に設置されたロープテスタ・システムを用いて移動するワイヤロープ1が連続的に検査されるので,ワイヤロープ1の欠陥箇所は,はじめに検出コイル16を通過し,次にデジタルカメラ21の設置箇所を通過することになる。
【0044】
ワイヤロープ1の移動速度をy(m/min),検出コイル16とデジタルカメラ21の間の距離をx(mm)とする。ワイヤロープ1の欠陥箇所が移動する速度はワイヤロープ1の移動速度と等しいので,欠陥箇所の移動速度は,単位をmm/sとすれば次式によって表される。
【0045】
y(m/min)=1000/60・y(mm/s)・・・式1
【0046】
ワイヤロープ1の欠陥箇所が検出コイル16を通過してt(s)後にデジタルカメラ21の直上に移動するとすれば,次式が成り立つ。
【0047】
1000/60・y・t=x
t=(x/y)・(60/1000)・・・式2
【0048】
たとえば,検出コイル16とデジタルカメラ21の間の距離x=100mm,ワイヤロープ1の移動速度y=16(m/min)とすると,以下の値が算出される。
【0049】
t=(100/16)・(60/1000)=0.375(s)
【0050】
すなわち,ワイヤロープ1の欠陥箇所が検出コイル16を通った後, 0.375(s)後に,その欠陥箇所はデジタルカメラ21が設置されている位置に到達する。制御器30は,設定されるワイヤロープ1の移動速度yおよび検出コイル16とデジタルカメラ21の間の距離xを用いて上述した遅延時間を算出する(あらかじめ算出してメモリに記録する)。算出された遅延時間がデジタルカメラ21に駆動信号を送信するタイミング制御に用いられる。たとえば制御器30が備えるCPUのクロック信号を用いることで,制御器30は,欠陥検出(閾値を超える出力信号の検出)から所定の遅延時間の経過後にデジタルカメラ21に駆動信号を出力することができる。
【0051】
図4は,コンピュータ装置40の表示装置の画面を示すもので,コンピュータ装置40にインストールされている解析プログラムによって表示される画面例を示している。
【0052】
制御器30のメモリに記録された所定時間ごとの磁化検出器10(検出コイル16)からの出力信号(電圧値),およびデジタルカメラ21によって撮影されたワイヤロープ1を表す画像データを含む画像ファイルは,信号線を通じてまたは可搬のメモリカードを介して,コンピュータ装置40に与えられる。ワイヤロープ1を検査したときの測定日時,ワイヤロープ1の移動速度(ロープスピード),ロープ径,ゲイン設定値,および判定レベル(閾値)を表すデータも,信号線を通じてまたは可搬のメモリカードを介して,コンピュータ装置40に与えられる。
【0053】
コンピュータ装置40において解析プログラムが起動されると,図4に示す解析ウインドウ70がコンピュータ装置40の表示装置の表示画面上に表示される。
【0054】
解析ウインドウ70の右側に,測定日時表示欄74a,ロープスピード表示欄74b,ロープ径表示欄74c,ゲイン設定値表示欄74d,および判定レベル表示欄74eが設けられている。初期状態においては,これらの表示欄74a〜74eには制御器30に設定された設定値が表示される。
【0055】
解析ウインドウ70の左側には,横軸をワイヤロープ1の位置(m),縦軸を電圧値(V)とする2つの出力信号グラフ表示欄71,72が上下二段に表示される。
【0056】
出力信号グラフ表示欄71,72には,上述した磁化検出器10(検出コイル16)から出力される出力信号(電圧値)を表すグラフが,縦向きの直線の長さによって示される。上述したように,磁化検出器10からの出力信号は所定時間間隔ごとたとえば1ミリ秒ごとに順番(時系列)にサンプリングされる。またワイヤロープ1の移動速度(ロープスピード)は既知である。したがって,サンプリングされた多数の出力信号(多数の電圧値)のそれぞれを,ワイヤロープ1の位置(検査開始位置を 0.0mとしたときの検査開始位置からの距離)と対応づけることができ,これによって横軸をワイヤロープ1の位置(m),縦軸を電圧値(v)とする出力信号グラフが,解析プログラムによって作成される。
【0057】
上段の出力信号グラフ表示欄71には,ワイヤロープ1の全検査長にわたる出力信号がグラフ表示される。図4に示す例ではワイヤロープ1の全検査長が150.8mであり,上段の出力信号グラフ表示欄71の横軸には,検査開始位置(0.0m)から全検査長である150.8mまでの範囲が示されている。他方,下段の出力信号グラフ表示欄72は,上段の出力信号グラフ表示欄71の横軸の一部の範囲を拡大して示すもので,上段の出力信号グラフ表示欄71の下方に表示される矩形のスライダ78を,入力装置(マウス等)を用いて左右に動かすことによって拡大範囲を選択することができる。拡大率(拡大幅)は可変であり,解析ウインドウ70の下方の中央部分に表示される拡大率入力欄77に拡大率が入力される。拡大率の大きさに応じて矩形のスライダ78の横幅が伸縮する。
【0058】
出力信号グラフ表示欄71,72にはまた,閾値(判定レベル)を示す線73が,色を異ならせて(たとえば赤色で)表示され,この閾値線73を超える電圧値の出力信号を表すグラフの先端がマークされる(たとえば赤色の丸印がグラフ先端に示される)。
【0059】
解析ウインドウ70の右側に設けられている判定ボタン75がクリックされると,閾値を越える電圧値の出力信号が検出されたワイヤロープ1の位置,すなわち欠陥位置が,リスト表示欄76に一覧に表示される。リスト表示欄76には,検出された欠陥箇所ごとに,連続する番号と,検査開始位置からの距離と,一つ前の欠陥箇所からの距離とが表示される。
【0060】
出力信号グラフ表示欄71,72にはさらに,閾値線73を越える電圧値の出力信号を表すグラフのそれぞれに対応するサムネイル画像80が表示される。このサムネイル画像80が,閾値を超える出力信号が検出されたときにデジタルカメラ21によって撮影されたワイヤロープ1の一部の画像である。デジタルカメラ21から出力される画像データからサムネイル画像80を表す画像データを作成する処理はコンピュータ装置40(解析プログラム)によって行われる。もちろん,デジタルカメラ21または制御器30においてサムネイル画像データを作成してもよい。
【0061】
ワイヤロープ1はその検査開始位置から検査終了位置に向けて検査されるので,出力信号グラフ表示欄71,72に表示される多数の出力信号のグラフは,左から右に時系列に並べられたものである。また,上述したように,デジタルカメラ21によってワイヤロープ1が撮影されるのは,磁化検出器10(検出コイル16)からの出力信号に基づいて欠陥が検出された(閾値を超える電圧値が検出された)ときであり,さらに画像ファイルのそれぞれは上述したようにその撮影順番を特定するデータを含む。したがって,閾値を超える出力信号のグラフのそれぞれについて,左から右に並ぶ順番に,画像ファイルをその撮影順番の古いものから対応づけることで,閾値線73を越える電圧値の出力信号を表すグラフのそれぞれと,その電圧値の出力信号が検出された欠陥箇所のワイヤロープ1の画像80とを,正確に対応づけることができる。
【0062】
サムネイル画像80がクリックされたときに,クリックされたサムネイル画像80の作成に用いられたオリジナルの画像データに基づく画像を表示画面に表示してもよい(拡大表示)。これによって,欠陥箇所の外観を,表示画面上で詳細に確認することができる。また,欠陥が損傷によるものであるか,または異物付着によるものであるかも確実に判定することができる。さらに,磁化検出器10を用いた検査結果(グラフ表示)に加えて欠陥箇所の外観画像を確認することができるので,磁化検出器10のみを用いた場合には把握しにくいたとえば断線間隔,断線本数といった,より具体的なワイヤロープ1の状況を詳細に確認することができる。これによって,現場において欠陥箇所を探すワイヤロープ1の範囲,または現場で慎重に検査すべきワイヤロープ1の範囲を大幅に狭めることができ,効率のよい現場検査を実現することができ,現場検査における欠陥の見落としも大幅に少なくすることができる。
【0063】
解析ウインドウ70の右側の判定レベル表示欄74eに表示される閾値を表す数値は,別の数値に代えることができる。より大きな数値を判定レベル表示欄74eに入力すると,出力信号グラフ表示欄71,72の閾値線73が上方に移動する。新たに入力された閾値を超える電圧値の出力信号を表すグラフの先端がマークされ,かつサムネイル画像80が対応づけられて表示されるので,表示されるサムネイル画像80の数は少なくなる。欠陥の程度が大きいと考えられる箇所のサムネイル画像80のみを,出力信号グラフ表示欄71,72に表示させることができる。
【0064】
判定レベル表示欄74eの数値(閾値)をより小さい数値に代えることもできる。閾値を小さくすることによってはじめて閾値を超えることになった出力信号を表すグラフについては,撮影が行われていないので,サムネイル画像80を対応づけて表示することができないのは言うまでもない。もっとも,制御器30において設定される閾値を小さい値に設定しておくことで,より多くの箇所のワイヤロープ1が撮影されることになるのは言うまでもない。
【0065】
上述した実施例では1本のワイヤロープ1を検査するためのロープテスタを示したが,磁化検出器10および画像撮影ユニット20を並列に複数並べることで,複数本のワイヤロープ1を同時に検査することもできる。この場合には,解析ウインドウ70には,複数本のワイヤロープ1のそれぞれについての出力信号グラフ表示欄71,72が表示される(ワイヤロープ1ごとの解析ウインドウ70が作成される)。
【0066】
また上述した実施例では,1つのデジタルカメラ21を用いてワイヤロープ1を一方向から撮影する構成を示したが,複数のデジタルカメラ21を用いてワイヤロープ1の同一箇所を異なる方向から撮影してもよい。ワイヤロープ1の周方向のより広い範囲,または周方向の全範囲を,画像確認することができる。
【符号の説明】
【0067】
1 ワイヤロープ
10 磁化検出器
20 撮影ユニット
21 デジタルカメラ(撮影装置)
30 制御器
31 入力装置(入力部)
40 コンピュータ装置(ワイヤロープ解析装置)
図1
図2
図3
図4