(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フィラーが、アルミナ、シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、珪灰石、石英、黒鉛、粘土、およびタルクからなる群から選択される材料から作られることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の中または高電圧機器。
前記機器が、ガス絶縁された電気変圧器、電気を送電もしくは分配するためのガス絶縁線路、ネットワーク内の他の機器類への接続のための要素、または接続器/断路器であることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の中または高電圧機器。
【背景技術】
【0004】
中または高電圧サブステーション機器において、電気絶縁、および必要な場合にはアークの消弧は、典型的には、前記機器の内部に封じ込められたガスによって行われる。
【0005】
現状では、六フッ化硫黄(SF
6)が最も頻繁に用いられるガスである。このガスは、比較的高い誘電強度、良好な熱伝導性、および低い誘電損失を示す。これは化学的に不活性、ヒトおよび動物にとって非毒性であり、アークによって解離した後に、速やかにかつほぼ完全に再結合する。加えて、これは不燃性であり、その価格は控え目である。
【0006】
しかしながら、SF
6は、(100年についてCO
2に対して相対的に)23,500という地球温暖化係数(GWP)と、3200年という大気中滞留時間とを示すという重大な不都合を有し、これは、強い温室効果を有するガスの中にそれを位置づけている。そのため、SF
6は京都議定書(1997年)によって排出が制限される必要があるガスのリストに包含されている。
【0007】
SF
6の排出を制限するための最良のやり方は、前記ガスの使用を制限することにあり、これは製造者らにSF
6の代替物を探索させた。
【0008】
この目標のために、高または中電圧機器の分野における応用にとって十分である電気絶縁特性を見せる新たなガスが開発された。より詳細には、このガスは2つの分子の混合物であり、その1つは大多数として存在し、第2のものはより小量で存在するヘプタフルオロイソブチロニトリルである。このガス混合物は、1に等しいGWPを有する二酸化炭素(CO
2)などの非常に低いGWPを有するかまたは窒素(N
2)もしくは空気などのゼロのGWPを有するホストガスまたは希釈ガスとの溶体として、SF
6よりも低いGWPを見せるSF
6の代替物に基づくという利点を有する。
【0009】
特許文献1は、高または中電圧機器において、固体絶縁体と併用される絶縁ガスとしてのかかる混合物の使用を記載している。特許文献2は具体的な絶縁ガスを記載しており、すなわちヘプタフルオロイソブチロニトリルと二酸化炭素と酸素とを含み、酸素は、1%および25%の間に含まれるモルパーセンテージで前記ガス媒体中に存在する。
【0010】
両方の文書において、絶縁層の厚さは、前記層が存在するときには、平均電界(U/d)対最大電界Emaxの比として定義される電界利用率ηに応じる(η=U/(Emax*d))。それゆえに、層は、0.3に近い、すなわち0.2および0.4の間に含まれる利用率では厚く、層は、0.9に迫る、すなわち0.5を上回る、特に0.6を上回る利用率では薄いかまたは細い。加えて、厚い層は1ミリメートル(mm)および10mmの間に含まれる層として定義され、一方で、薄いかまたは細い層は1mmを下回り、特に500マイクロメートル(μm)を下回り、典型的には60μmおよび100μmの間に含まれる。
【0011】
そのため、上記に鑑みて、本発明者は、機器のサイズまたはその中のガスの圧力を有意に増大させることなしに、その絶縁および消弧能力の観点から機器の特徴をSF
6のものに近く維持しながら、ヘプタフルオロイソブチロニトリルを含むガス媒体を絶縁ガスとして用いる高または中電圧機器のためのハイブリッド絶縁システムをさらに改善することを探求した。
【0012】
加えて、本発明者は、機器の運転温度範囲を同等のSF
6機器のものに近く維持することと、外部の加熱器手段なしにそうすることとを探求した。
【0013】
さらに、産業スケールでの使用に適合した製造または購入コストを有するヘプタフルオロイソブチロニトリルを含むガス媒体を絶縁ガスとして用いる、高または中電圧機器のための改善されたハイブリッド絶縁システムを提供することを探求した。
【0014】
さらに、SF
6によって絶縁された同等の機器のものに近いサイズおよび圧力を有し、外部の熱源の追加なしに最低利用温度において液化を見せない、前記改善された絶縁システムに基づく中または高電圧機器を提供することを探求した。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0016】
設定された目的および他のものは、低い環境影響を有する中または高電圧機器を得ることを可能にする具体的なハイブリッド絶縁システムの使用を提案する本発明によって達成される。
【0017】
実際には、本発明において実装されるハイブリッド絶縁システムは、固体絶縁体なしのシステムの破壊電界を上回る電界にさらされる伝導性部品上に薄層として塗布される特に低い比誘電率の固体絶縁体との組み合わせとして、中または高電圧機器における電気絶縁および/またはアーク消弧のためのガスとしての中性ガスとの混合物としてヘプタフルオロイソブチロニトリルを含むガス媒体に基づく。実際には、本発明の中または高電圧機器は、いずれかの固体誘電層によってカバーされていないいくつかの電気部品を見せ、電気部品のいずれも、特許文献1において定義されているような厚い固体誘電層によってカバーされない。加えて、固体誘電層の組成は特別である。なぜなら、前記層は、フィラーを任意に含有するポリエポキシド樹脂、フィラーを任意に含有するポリウレタン樹脂、または酸化アルミニウムを含む材料から作られるからである。
【0018】
本発明は、封止エンクロージャを包含する中または高電圧機器を提供し、その中には、固体誘電層によって覆われた電気部品と、電気絶縁および/または前記エンクロージャ内で生ずるアークを消弧するためのガス媒体とが設けられている。ガス媒体は、希釈ガスとの混合物としてヘプタフルオロイソブチロニトリルを含み、前記エンクロージャ内の固体誘電層の厚さは1mmを下回り、前記固体誘電層は、フィラーを任意に含有するポリエポキシド樹脂、フィラーを任意に含有するポリウレタン樹脂、または酸化アルミニウムを含む材料から作られる。
【0019】
実際には、本発明者の研究によって、その中のガス絶縁がヘプタフルオロイソブチロニトリルによって提供される中または高電圧機器が、絶縁ガスとしてSF
6を含有する機器と比較して、電気部品の表面の粗さに敏感であることを見出した。そこで本発明者は、それらの電気部品上に薄層を積層することによって表面粗さを低減することを提案した。この薄層は、フィラーを任意に含有するポリエポキシドもしくはポリウレタン樹脂または酸化アルミニウムに基づく材料から作られる。
【0020】
典型的には、かかる材料の薄層によってカバーされる電気部品は粗鋳造部品(rough cast components)である。
【0021】
加えて、本発明者は、1mmを上回る厚さの固体誘電層を廃させながら、特許文献1に開示されている性能に匹敵する性能が得られ得るということを示している。これは中または高電圧機器のコストの低減と同義である。
【0022】
第1の実施形態において、本発明の高または中電圧機器の封止エンクロージャ内に置かれた電気部品上に存在する固体誘電層は、好ましくは少なくとも1つのフィラーを含有するポリエポキシド樹脂または好ましくは少なくとも1つのフィラーを含有するポリウレタン樹脂を含むかまたはそれからなる材料から作られ、前記層は、10および500μmの間に含まれる厚さを有する。
【0023】
この実施形態において、用いられる固体誘電層のポリエポキシド樹脂は、ポリエポキシド−ポリシロキサン樹脂またはポリエポキシド−ポリエステル樹脂を含むかまたはそれからなり得る。
【0024】
ポリエポキシド樹脂またはポリウレタン樹脂が少なくとも1つのフィラーを包含するときに、前記フィラーはナノ粒子などの粒子の形態で存在する。有利には、このフィラーは、アルミナ、シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、珪灰石、石英、黒鉛、粘土、およびタルクからなる群から選択される材料から作られる。
【0025】
第2の実施形態において、本発明の高または中電圧機器の封止エンクロージャ内に置かれた電気部品上に存在する固体誘電層は、酸化アルミニウムを含む材料から作られ、前記層は、10および100μmの間に含まれる厚さを有する。
【0026】
有利には、本発明の中または高電圧機器の封止エンクロージャ内にある電気部品の表面に存在する固体誘電層は、薄膜または粉末の形態で存在する。
【0027】
本発明の中または高電圧機器の封止エンクロージャ内のガス絶縁体は、ヘプタフルオロイソブチロニトリルによって希釈剤との混合物として提供される。後者は、有利には二酸化炭素、窒素、酸素、空気、およびその混合物から選択される。
【0028】
有利には、本発明の中または高電圧機器は、ガス絶縁された電気変圧器、電気を送電もしくは分配するためのガス絶縁線路、ネットワーク内の他の機器類への接続のための要素、または接続器/断路器である。
【0029】
本発明は、上記に定義されている、すなわちフィラーを任意に含有するポリエポキシド樹脂、フィラーを任意に含有するポリウレタン樹脂、または酸化アルミニウムを含む材料から作られる1mmを下回る厚さの固体絶縁層によってカバーされた電気部品を有する中または高電圧機器における、電気絶縁および/またはアーク消弧のためのガスとしての、上で定義されている希釈ガスとの混合物としてのヘプタフルオロイソブチロニトリルの使用にもまた関する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、中または高電圧機器におけるハイブリッド絶縁システムの使用に基づき、低い環境影響を有し、ヘプタフルオロイソブチロニトリルを含むガス混合物を、固体絶縁体なしのシステムの破壊電界を上回る電界にさらされる伝導性部品上に薄層として塗布される低い比誘電率を有する固体絶縁体と組み合わせる。
【0031】
本明細書において、用語「中電圧」は従来受け入れられている意味で用いられる。すなわち用語「中電圧」は、交流(AC)では1000ボルト(V)を上回り、直流(DC)では1500Vを上回るが、ACでは52,000VまたはDCでは75,000Vを超えない電圧を言う。
【0032】
本明細書において、用語「高電圧」は従来受け入れられている意味で用いられる。すなわち用語「高電圧」は、厳密にACでは52,000ボルトを上回り、DCでは75,000Vを上回る電圧を言う。
【0033】
中または高電圧機器は、中空の体積を画定する縦の外筐体またはエンクロージャと、前記筐体内に配置された1つ以上の電気部品とを主に含む。
【0034】
筐体の内部体積は、気密に密閉され、電気絶縁およびアーク消弧のガスを充填され、これは本発明においてはヘプタフルオロイソブチロニトリルと希釈ガスとを含む。
【0035】
本発明において、機器の気密エンクロージャ内にある電気部品の全てまたはいくつかは、それらの表面上の誘電体層を見せる。
【0036】
実際には、総体的な誘電強度を改善するために、ヘプタフルオロイソブチロニトリルと希釈ガスとを含むガス混合物が、固体絶縁体なしのシステムの破壊電界を上回る電界にさらされる伝導性部品上に薄い絶縁層として塗布される固体絶縁体との組み合わせとして、ハイブリッド絶縁システムに用いられる。
【0037】
この絶縁層によってカバーされる伝導性部品は粗鋳造である。換言すると、それらの部品は粗く、絶縁層が積層される前にそれらの表面品質を改変するための研磨型のいずれかの処理を受けていない。
【0038】
本発明に用いられる固体絶縁層は低い比誘電率を見せる。用語「低い比誘電率」は、6を下回るかまたはそれに等しい比誘電率を言う。ε
rと表現されるその比誘電率(dielectric constant)としてもまた公知の材料の比誘電率(relative permittivity)は、次式(I)および(II)によって定義され得る無次元量であるということに注意すべきである:
ε
r=ε/ε
0 (I)
ε=(e*C)/Sかつε
0=1/(36π*10
9) (II)
式中:
・ εは材料の絶対誘電率に対応する(メートルあたりのファラド(F/m)で表される);
・ ε
0は真空の誘電率に対応する(F/mで表される);
・ Cは、決定されるべき誘電率の材料の層をそれらの間に置いた2つの平行電極を含む平板キャパシタのキャパシタンス(ファラド(F)で表される)に対応し、前記層は、試験片に相当する;
・ eは平板キャパシタの2つの平行電極間の距離(メートル(m)で表される)に対応し、これは、この場合においては試験片の厚さに対応する;
・ Sは、平板キャパシタを構成する各電極の表面積(平方メートル(m
2)で表される)に対応する。
【0039】
本発明において、キャパシタンスは、IEC規格60250−ed1.0のように、すなわち、材料によって構成された試験片に取り付けられた50mmおよび54mmの間に含まれる直径の2つの円形電極を含むキャパシタを用いることによって決定され、前記電極は、ガード機器によって伝導性塗料をスプレーすることによって得られる。試験片は、100mm×100mmの寸法および3mmの厚さを有する。そのため、上記で挙げられている距離eに対応するキャパシタの電極間の距離は3mmである。
【0040】
加えて、キャパシタンスは、500ボルトRMSの励起レベル、50ヘルツ(Hz)という周波数、23℃という温度、および50%という相対湿度において決定される。上記で挙げられている電圧は1minの長さでかけられる。
【0041】
用語「薄い固体絶縁体/誘電体層」は、本発明においては、電気部品または伝導性部品上に積層または塗布される誘電体材料が、積層される伝導性部品または伝導性部品の部分にかかわらず、1mmを下回る、特に750μmを下回るかまたはそれに等しい、特に500μmを下回るかまたはそれに等しい厚さを有するということを意味すると理解されるべきである。換言すると、本発明の機器のエンクロージャ内の伝導性部品のいずれも、1mmを上回るかまたはそれに等しい厚さを有する誘電体層を持たない。層の厚さは、機器を構成する要素の調整の間に決定される。
【0042】
本発明において、絶縁層は、固体絶縁体なしのシステムの破壊電界を上回る電界にさらされる伝導性部品上に薄層として塗布される。より具体的には、薄い誘電体層は、典型的には、伝導性部品上の電界の利用率が0.2を上回るかまたはそれに等しく、特に0.3を上回るかまたはそれに等しい場所に積層される。電界の利用率ηは平均電界(U/d)対最大電界Emaxの比として定義されるということが思い起こされるべきである(η=U/(Emax*d))。
【0043】
本発明において実装される固体絶縁層は、単一の誘電体材料または複数の異なる誘電体材料を含み得る。加えて、絶縁層の組成、すなわち層が含む誘電体材料(単数または複数)の性質は、その上に固体絶縁層が積層される伝導性部品または伝導性部品の部分に応じて異なり得る。
【0044】
しかしながら、本発明において、絶縁層の材料(単数または複数)は、フィラーを任意に含有するポリエポキシド樹脂、フィラーを任意に含有するポリウレタン樹脂、または酸化アルミニウムを包含する。
【0045】
第1の実施形態において、本発明の高または中電圧機器の封止エンクロージャ内に置かれた電気部品上に存在する固体誘電層は、好ましくは少なくとも1つのフィラーを含有するポリエポキシド樹脂または好ましくは少なくとも1つのフィラーを含有するポリウレタン樹脂を含むかまたはそれからなる材料から作られ、前記層は、10〜500μmの厚さを有する。
【0046】
本発明において、用語「ポリエポキシド樹脂」は、典型的にはポリアミンなどのアミン、ポリアミドなどのアミド、カルボン酸、または無水酸である1つ以上の硬化剤との、オキシラン官能基(エポキシ官能基ともまた呼ばれる)を含む同一のもしくは異なるモノマーおよび/または同一のもしくは異なるオリゴマーの反応から得られる熱硬化樹脂を言う。文献中では、ポリエポキシド樹脂は「エポキシ樹脂」またはさらには「エポキシド樹脂」ともまた言われる。
【0047】
当業者には、ポリエポキシド樹脂前駆体として使用可能であるエポキシ官能基を有する種々のモノマーまたはオリゴマーが公知である。かかるモノマーまたはオリゴマーは、特に、特許文献3および特許文献4に記載されているエポキシド化樹脂に対応する。
【0048】
ポリエポキシド樹脂が得られる組成物は、エポキシ官能基を有する1つ以上の異なるモノマーおよび/または1つ以上の異なるオリゴマー、ならびに1つ以上の硬化剤に加えて、少なくとも1つの他の要素、例えばポリシロキサン、ポリエステル、またはかかるポリマーの前駆体を含有し得る。それらの場面において、ポリエポキシド樹脂はポリエポキシド−ポリシロキサン樹脂またはポリエポキシド−ポリエステル樹脂であろう。特許文献4は、本発明に使用可能なポリエポキシド−ポリシロキサン樹脂の数例を記載している。
【0049】
本発明による使用のためのポリエポキシド樹脂の例としては、Ameronによって販売されているAmercoat385(登録商標)、Amercoat4093(登録商標)、PSX700(登録商標)、およびNuklad105(登録商標)が挙げられ得る。
【0050】
用語「ポリウレタン樹脂」は、イソシアネートをポリオールと反応させることによって作製されるウレタンポリマーに関する。
【0051】
本発明の機器の電気部品上に積層されるポリエポキシドまたはポリウレタン樹脂は、フィラーなしまたはフィラー入りであり得る。それがフィラー入りであるときには、フィラーは粒子の形態であり得る。本発明において実装される粒子は、種々の形状、例えば回転楕円形状、楕円形状、六角形形状、棒形状、または星形構成であり得る。それらの粒子の平均粒径分布は、典型的には10nm〜1μm、特に20〜900nmである。そのため、それらはナノ粒子と言われ得る。
【0052】
当業者に公知のいずれかのフィラーが本発明に用いられ得る。しかしながら、このフィラーは、いずれかの伝導性塵埃を発生することを避けるために、電気伝導性ではない。有利には、このフィラーは、アルミナ、シリカ、酸化チタン、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、珪灰石、石英、黒鉛、粘土、およびタルクからなる群から選択される材料から作られる。
【0053】
当業者には、本発明の機器の伝導性部品上に、フィラー入りまたはフィラーなしのポリエポキシドもしくはポリウレタン樹脂またはかかる樹脂の前駆体組成物を積層または塗布することを可能にする種々の技術が公知である。積層または塗布技術の例としては、圧縮空気ありもしくはなしのエアスプレー、空気式もしくは静電式ガンによるスプレー、ディッピング、またはカチオン電着(もしくはカチオン電気泳動)が挙げられ得る。
【0054】
第2の実施形態において、本発明の高または中電圧機器の封止エンクロージャ内に置かれた電気部品上に存在する固体誘電層は、酸化アルミニウム(Al
2O
3もしくはアルミナ)を含む材料から作られるか、またはAl
2O
3から作られ、前記層は、10〜100μmの厚さを有する。
【0055】
有利には、この固体誘電層は、アルミニウムから作られるかまたはアルミニウムの合金を含有する電気部品を電解酸化またはカチオン酸化にさらすことによって作製される。酸化アルミニウムの層を積層することによってアルミニウム表面またはアルミニウム合金表面を不動態化するためのこの技術は当業者には周知であり、その者には、かかる処理による使用のための不動態化浴の種々の型、例えば硫酸浴または硫酸・シュウ酸浴は公知である。
【0056】
有利には、本発明の中または高電圧機器の封止エンクロージャ内にある電気部品の表面に存在する固体誘電層は、薄膜または粉末の形態で存在する。
【0057】
実際には、樹脂または前記樹脂の前駆体組成、および用いられる塗布またはカチオン酸化技術に応じて、得られる積層物は粉末状または薄膜形成積層物の形態であり得る。
【0058】
用語「薄膜形成積層物」は、ひとたびそれが電気部品の表面に塗布されると薄膜を作り出す積層物を言い、薄膜の形成は、積層された組成物中の共存する溶媒の蒸発からおよび/または前記組成物中における化学的変換(この変換は、重合反応、重縮合反応、重付加反応、酸化反応、もしくは加硫反応でもまたあり得る)からもたらされ得る。
【0059】
本発明の機器において、ガス絶縁体は、ヘプタフルオロイソブチロニトリルを包含するガス混合物を実装する。
【0060】
式(III)のヘプタフルオロイソブチロニトリル:(CF
3)
2CFCN(III)はi−C
3F
7CNともまた言われ、CASレジストリ番号:42532−60−5を有する2,3,3,3−テトラフルオロ−2−トリフルオロメチルプロパンニトリルに対応し、1013ヘクトパスカル(hPa)において−4.7℃の沸点を見せる(沸点はASTMのD1120−94「エンジン冷却液の沸点の標準試験法」を用いて計測される)。
【0061】
SF
6に対して相対的に正規化された式(III)のヘプタフルオロイソブチロニトリルの相対的な誘電強度は2.2であり、前記誘電強度は、0.1cm離間された2.54センチメートル(cm)の直径を有する2つのスチール電極間において、DC電圧によって、大気圧で計測される。
【0062】
それゆえに、非毒性、非腐食性、不燃性であり、SF
6のものと比較して低いGWPを見せる上で定義されている式(III)のヘプタフルオロイソブチロニトリルは、それが希釈ガスとの組み合わせとして中または高電圧機器における絶縁ガスおよび/またはアーク消弧ガスとしてのSF
6に取って代わることを可能にするために好適な電気絶縁またはアーク消弧特性を授けられている。
【0063】
本発明に用いられる混合物はヘプタフルオロイソブチロニトリルと希釈ガスとを含む。希釈ガスは「混合ガス」または「キャリアガス」としてもまた公知である。
【0064】
本発明においては、上で定義されている式(III)のヘプタフルオロイソブチロニトリルは、次の4つの基準を満たすガスから選択される希釈ガスとの混合物として用いられる:
(1)機器の最低利用温度よりも低い、非常に低い沸点を見せること;
(2)二酸化炭素の誘電強度を計測するために用いられるものと同一である試験条件(すなわち、同じ機器、同じ幾何学的構成、同じ操作パラメータなど)において、二酸化炭素のものを上回るかまたはそれに等しい誘電強度を見せること;
(3)ヒトおよび動物にとって毒性を持たないこと;ならびに
(4)ヘプタフルオロイソブチロニトリルのものよりも低いGWPを見せ、その結果、希釈ガスによってヘプタフルオロイソブチロニトリルを希釈することが、ヘプタフルオロイソブチロニトリルの環境影響を下げる効果をもまた有すること。なぜなら、ガス混合物のGWPは、対応するGWPによって乗算されたそれを作る物質のそれぞれの重量分率の合計から導出される重み付きの平均であるからである。
【0065】
特に、本発明による使用のための希釈ガスは、非常に低い、またはさらにはゼロであるGWPを有する中性ガスである。それゆえに、典型的には、希釈ガスは、1に等しいGWPを有する二酸化炭素、0に等しいGWPを有する窒素、酸素、もしくは空気、有利には乾燥空気、またはその混合物である。より具体的には、本発明に使用可能な希釈ガスは二酸化炭素、窒素、酸素、空気、有利には乾燥空気、およびその混合物から選択される。
【0066】
有利には、上で定義されているヘプタフルオロイソブチロニトリルは、ヘプタフルオロイソブチロニトリル/希釈ガス混合物中において、式(IV)によって決定されるモルパーセンテージMの80%以上であるモルパーセンテージ(M
he)で存在する:
M=(P
he/P
混合物)×100 (IV)
式中、P
混合物は、20℃における機器内の混合物の全圧に相当し、P
heは、機器の最低利用温度において上で定義されているヘプタフルオロイソブチロニトリルが見せる飽和蒸気圧と20℃において同等である同じ単位で表される分圧に相当する。
【0067】
圧力P
heについて、これは式(V)によって概算される:
P
he=(SVP
he×293)/(T
min+273) (V)
式中、SVP
heは、セルシウス度で表される機器の最低利用温度T
minにおける上で定義されているヘプタフルオロイソブチロニトリルの飽和蒸気圧に相当する。
【0068】
それゆえに、ガス媒体の誘電特性は可能な限り高く、SF
6のものに近い。
【0069】
有利には、本発明において、最低利用温度T
minは0℃、−5℃、−10℃、−15℃、−20℃、−25℃、−30℃、−35℃、−40℃、−45℃、および−50℃から選択され、特にそれは0℃、−5℃、−10℃、−15℃、−20℃、−25℃、−30℃、−35℃、および−40℃から選択される。
【0070】
第1の実施形態において、機器は中または高電圧機器であり、その中の混合物のいくらかを液体状態で有することは絶縁性を低減させない。このケースにおいては、その中のヘプタフルオロイソブチロニトリルがモルパーセンテージMを上回るモルパーセンテージM
heで存在する混合物を用いることが可能である。このケースにおいては、ヘプタフルオロイソブチロニトリルのモルパーセンテージは、上記で定義されているモルパーセンテージMの典型的には95%および130%の間、尚良好には97%および120%の間、理想的には99%および110%の間に含まれる。かかる状況において、機器の誘電強度は、ガスが最低運転温度において液化を見せない分圧において、ガス混合物としてのヘプタフルオロイソブチロニトリルによって試験されるべきである。その結果、前記機器の誘電強度がその温度範囲の全体に渡って有効になる。
【0071】
第2の実施形態において、機器は、その中の絶縁が液体相の存在によって影響され得る中または高電圧機器である。この実施形態においては、ヘプタフルオロイソブチロニトリルと希釈ガスとの混合物が機器の利用温度の範囲全体に渡って専らまたはほぼ専らガス状態であることが望ましい。そのため、ヘプタフルオロイソブチロニトリルは、それが最低利用温度において液化相を見せないように、モルパーセンテージMの100%を超えないモルパーセンテージ(M
he)で混合物中に存在することが有利である。かかる状況において、ヘプタフルオロイソブチロニトリルのモルパーセンテージは、上で定義されているモルパーセンテージMの有利には95%〜100%、特に98%〜100%である。
【0072】
具体例として、本発明に用いられるガス混合物はヘプタフルオロイソブチロニトリルおよび二酸化炭素のみを含有し得、そのため、それらの2つの化合物のみによって構成され得る。このケースにおいては、ガス混合物は、2から15モル%のヘプタフルオロイソブチロニトリルおよび85から98モル%の二酸化炭素、特に4から10モル%のヘプタフルオロイソブチロニトリルおよび90から96モル%の二酸化炭素を含む。
【0073】
変形においては、このガス混合物はヘプタフルオロイソブチロニトリルおよび二酸化炭素に加えて少なくとも1つの他の要素を含有し得る。この他の要素は、高または中電圧電気機器を絶縁するために通常用いられるいずれかの化合物であり得る。有利には、かかる化合物は、窒素、酸素、空気、有利には乾燥空気、およびその混合物から選択される。典型的には、この他の要素は酸素である。
【0074】
この変形において、ガス混合物は、2から15モル%のヘプタフルオロイソブチロニトリル、70から97モル%の二酸化炭素、および1から15モル%の上で定義されている少なくとも1つの他の要素、特に1から15モル%の酸素を含む。特に、ガス混合物は、4から10モル%のヘプタフルオロイソブチロニトリル、80から94モル%の二酸化炭素、および2から10モル%の上で定義されている少なくとも1つの他の要素、特に2から10モル%の酸素を含む。
【0075】
有利には、ヘプタフルオロイソブチロニトリルは、機器の利用温度にかかわらず、機器内において全くガス形態で存在する。そのため、機器内のヘプタフルオロイソブチロニトリルの圧力は、前記機器の最も低い利用温度においてヘプタフルオロイソブチロニトリルが見せる飽和蒸気圧(SVP)に応じて選択されることが好都合である。
【0076】
しかしながら、機器のガスの充填は通常は常温においてなされるので、機器に充填するための参照されるヘプタフルオロイソブチロニトリルの圧力は、前記機器の最も低い利用温度においてヘプタフルオロイソブチロニトリルが見せるSVPに、充填温度、例えば20℃において対応する圧力である。
【0077】
例として、下の表Iは、0℃、−5℃、−10℃、−15℃、−20℃、−25℃、−30℃、および−40℃の温度においてヘプタフルオロイソブチロニトリルが見せるヘクトパスカルで表されSVP
i−C3F7CNと表記される飽和蒸気圧を、それらの飽和蒸気圧に20℃において対応するヘクトパスカルで表されP
i−C3F7CNと表記される圧力と一緒に示す。
【表1】
表I:i−C3F7CNの飽和蒸気圧
【0078】
本発明に従うと、機器は、第1に、ガス絶縁された電気変圧器、例えば電力用変圧器または計測用変圧器であり得る。
【0079】
これは、電気を送電もしくは分配するための架空もしくは地中ガス絶縁線路、またはバスバーのセットでもあり得る。
【0080】
ネットワーク内の他の機器類への接続のための要素、例えば架空線路または隔壁ブッシングでもあり得る。
【0081】
最後に、これは例えば遮断器、スイッチ、断路器、スイッチをヒューズと組み合わせたユニット、接地スイッチ、またはコンタクタなどの接続器/断路器(開閉装置ともまた呼ばれる)でもまたあり得る。
<塗布および充填の例>
【0082】
機器に依存して、電気絶縁および/またはアーク消弧のための媒体の充填のための推奨される圧力は様々である。しかしながら、これは典型的には数bar(すなわち、数千ヘクトパスカル)である。
【0083】
推奨される充填圧力レベルを得ることを可能にするため、ヘプタフルオロイソブチロニトリルを二酸化炭素との混合物として用いる。
【0084】
それゆえに、例えば、第1に−30℃の最低温度で用いられるために、第2に9.2bar(すなわち9200hPa)まで充填されるために設計された機器に、0.368bar(すなわち368hPa)のヘプタフルオロイソブチロニトリルおよび8.832bar(すなわち8832hPa)の二酸化炭素を充填する。
【0085】
かかる機器は、特に、CO
2/i−C
3F
7CNを充填され−30℃での使用のために設計されたアルストムからの420kVのGIB機器である。−30℃という最低利用温度を有するこの機器では、ヘプタフルオロイソブチロニトリルは、20℃において計測したときに0.368bara(bars absolute)という圧力であるべきである。ガス混合物の最終的な特性を得るために、追加のCO
2が追加されるべきである。ヘプタフルオロイソブチロニトリルの分圧は20℃において計測して0.368baraであり、ガスの全圧は5baraであるので、それゆえに、i−C
3F
7CNのモル比は0.368/5、すなわち約7.4%である。
【0086】
充填の間のガス混合物の組成を決定するために、機器の推奨される充填圧力におけるヘプタフルオロイソブチロニトリルのモルパーセンテージMを決定し、このパーセンテージは、機器のエンクロージャ内に液体がないことを保証するためにヘプタフルオロイソブチロニトリル/CO
2混合物が含有し得るヘプタフルオロイソブチロニトリルの最大割合に相当する。モルパーセンテージMは式M=(P
he/P
混合物)×100によって与えられ、P
heは、(典型的には20℃のオーダーの)充填温度において、機器の最低利用温度T
minにおけるヘプタフルオロイソブチロニトリルの飽和蒸気圧SVPと同等である圧力に相当する(P
he=(SVP
he×293)/(273+T
min))。
【0087】
それから、充填のためのモルパーセンテージM
heをMに応じて選択する。いくつかの状況においては、いずれかの液体の存在を避けるために、M
heがMを超えないということが必須である。
【0088】
しかしながら、場合によっては、例えば中電圧では、または液体相の存在によって影響されない絶縁を有するいくつかの高電圧機器では、低いまたは非常に低い温度において小量の液体を有することが可能である。このケースにおいては、M
heはMの110%またはさらには130%に達し得る。加えて、ヘプタフルオロイソブチロニトリルは中性ガスよりも良好な誘電強度を有するので、ヘプタフルオロイソブチロニトリルの充填を最適化することが望ましい:そのため、Mの80%を上回るかまたはそれに等しい、より好ましくはMの95%を上回るかまたはそれに等しい、尚より好ましくはMの98%を上回るかまたはそれに等しい、例えばMの99%に等しいようにM
heを選択することが好ましい。
【0089】
機器は、ヘプタフルオロイソブチロニトリルと二酸化炭素との間の比をコントロールすることを可能にするガスミキサーの手段によって充填され、この比は、精密質量流量計を用いることによって充填の間は一定に保たれ、圧力では約7.4%に等しい。
<固体絶縁体との併用>
【0090】
低い温度におけるその性能を損ねることなく、または圧力の全量を増大させることなしに、SF
6との誘電性の同等性を得るために、上述したガス混合物を、低い比誘電率を有する固体絶縁体との組み合わせとして用いる。この固体絶縁体は、固体絶縁体なしのシステムの破壊電界を上回る電界にさらされる伝導性部品上に塗布される。
【0091】
本発明においては、3種類の固体絶縁体を試験した:
100μmの厚さを有するDIN−EN−ISO12944D5Mに従うエポキシド型の熱硬化樹脂の粉末コーティング;
約50μmの厚さを有する、酸浴に通電することによるハード・アノダイジングによって得られる酸化アルミニウムコーティング;および
100〜400μmの厚さを有する白色エポキシド塗料。
【0092】
これらの3つのコーティングを、筐体と、粗鋳造によって、具体的にはコーティングを積層する前の研磨型の追加の表面処理なしの砂型鋳造によって得られたアルミニウム部品とに塗布した。
【0093】
雷インパルスによる誘電強度は、コーティングされていない粗鋳造部品では650kVである。上述した3つのコーティングによってコーティングされた部品は、50kVのオーダーのそれらの雷インパルス強度の改善、すなわち粗鋳造部品に対して相対的に7.6%の改善を示す。比較して、粗鋳造でないバリ取りされた部品は、25kVの雷インパルスによる誘電強度の改善を見せる。
【0094】
表面処理のポジティブな影響は、部品の表面が粗鋳造であり実質的な粗さを見せるときに特に顕著である。それゆえに、本発明の表面処理、すなわち固体コーティングの積層は、部品を平滑化することに寄与する。研磨された低い粗さの部品では、コーティングの追加は総体的な誘電強度を有意に改善しない。