特許第6956824号(P6956824)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6956824生体高分子ユニットおよびウイルスを液体から分離するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6956824
(24)【登録日】2021年10月7日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】生体高分子ユニットおよびウイルスを液体から分離するための方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/56 20060101AFI20211021BHJP
   C12N 7/02 20060101ALI20211021BHJP
   C07K 1/34 20060101ALI20211021BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20211021BHJP
   B01D 71/26 20060101ALI20211021BHJP
   B01D 71/36 20060101ALI20211021BHJP
   B01D 71/64 20060101ALI20211021BHJP
   B01D 71/34 20060101ALI20211021BHJP
   B01D 71/10 20060101ALI20211021BHJP
   B01D 71/12 20060101ALI20211021BHJP
【FI】
   B01D71/56
   C12N7/02
   C07K1/34
   B01D71/68
   B01D71/26
   B01D71/36
   B01D71/64
   B01D71/34
   B01D71/10
   B01D71/12
【請求項の数】8
【外国語出願】
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2020-53549(P2020-53549)
(22)【出願日】2020年3月25日
(62)【分割の表示】特願2017-42388(P2017-42388)の分割
【原出願日】2012年4月28日
(65)【公開番号】特開2020-124706(P2020-124706A)
(43)【公開日】2020年8月20日
【審査請求日】2020年4月24日
(31)【優先権主張番号】102011105525.1
(32)【優先日】2011年6月24日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】507266912
【氏名又は名称】ザトーリウス ステディム ビオテーク ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】トム,フォルクマー
(72)【発明者】
【氏名】ハンスマン,ビョーン
【審査官】 河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−513644(JP,A)
【文献】 特開2005−145852(JP,A)
【文献】 国際公開第03/066669(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/031397(WO,A1)
【文献】 特開2008−094722(JP,A)
【文献】 特開2010−047527(JP,A)
【文献】 特開2001−162146(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/098867(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0326211(US,A1)
【文献】 米国特許第07465397(US,B1)
【文献】 国際公開第2010/109920(WO,A1)
【文献】 特開2006−151840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00 − 19/00
C12N 1/00 − 7/08
B01D 71/00 − 71/82
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体から生体高分子集合体およびパルボウイルスを除去するための装置であって、以下:
(a)生体高分子集合体およびパルボウイルスを含む液体をろ過することのための多孔質のポリアミド含有成形体(その内部および外部表面は、成形体のベース材料と同じ化学的および物理的特性を有する)、ここで生体高分子集合体は吸着によって液体から選択的に枯渇され、一方、パルボウイルスは成体を透過する;および
(b)(a)からの液体をろ過することのための100〜1000kDの分画分子量を有する少なくとも1つの膜、ここで液体中のパルボウイルス含有量は、(a)を透過する前のパルボウイルス含有量に対して、少なくとも99.9%低減される、
を含かつ前記パルボウイルスは凝集していない、前記装置。
【請求項2】
生体高分子集合体が、ペプチド、タンパク質、核酸の二量体、三量体および多量体の群またはそれらの混合物から選択される、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
多孔質のポリアミド含有成形体が、5種以下の異なる繰り返し単位を有する脂肪族および/または芳香族ポリアミドを含む、請求項1または2に記載に記載の装置。
【請求項4】
多孔質のポリアミド含有成形体が、ナイロン−6および/またはナイロン−6,6を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置。
【請求項5】
多孔質のポリアミド含有成形体が、微多孔膜、不織布、織布、モノリス、ゲルまたは粒子床を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の装置。
【請求項6】
(b)における膜が、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエテン、ポリアミド、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、セルロース、セルロース誘導体またはそれらの混合物を含む、請求項1〜5のいずれかに一項記載の装置。
【請求項7】
a)および(b)中の液体のpHが、5〜9である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
液体が、血漿生成物、細胞培養から得られたタンパク質溶液、動物もしくは植物生産物の抽出から得られたタンパク質溶液、または微生物から得られたタンパク質溶液を含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体高分子集合体およびウイルスを液体から除去するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体高分子集合体、例えばタンパク質の集合体、およびウイルスは、しばしば、タンパク質およびペプチド溶液などの生物工学的方法によって得られた液体中の望まれない汚染物質である。公衆衛生当局は、治療的に使用する前に、液体から前記汚染物質を除去することを規定している。
【0003】
タンパク質溶液、例えば、血漿中の免疫グロブリン、あるいは組換えタンパク質または天然タンパク質を含む溶液は、一般的に検出可能な割合の前記タンパク質の二量体およびより高次の集合体を含有する。患者への非経口投与の前に、集合体の枯渇が必要である。一般に、溶液の全タンパク質含有量に対して、合計1%未満の集合体含量が目指されている。サイズ排除ろ過による除去は、使用されるフィルターが前記ろ過中に詰まるため、技術的な観点から有利ではない。代替として、イオン交換などのクロマトグラフィーカラムへ結合する選択的親和性によって、不純物、例えば生体高分子の集合体を除去することができる方法が確立されてきた。
【0004】
治療的に使用されるタンパク質溶液から汚染物質としてのウイルスを枯渇させることに対して、サイズ排除ろ過は、広範な条件下で全てのウイルス種に確実に使用することができる効果的なプロセスであることが知られている。公衆衛生当局は、小型非エンベロープウイルスを枯渇させるためのタンパク質溶液のろ過は、生物源から発生するタンパク質溶液中のウイルス濃度を低減させるための堅牢なステップであると認識している。前記ろ過においては、1つの製造プロセス中に異なって作用する少なくとも2種の堅牢なウイルス枯渇法を有することが必要である。
【0005】
ろ過手法に対する典型的な要件が、タンパク質溶液からのウイルスの効果的排除に当てはまる:分離選択性は、力価、すなわちウイルスの濃度を少なくとも10倍に減少させるべきである。
【0006】
ウイルスの除去に使用されるろ過膜の透水性は最大であるべきである。対照的に、詰まる傾向、すなわち共存成分による妨害による流量の減少、またはろ過膜の細孔の詰まりは最小にすべきである。標的化合物としての治療用タンパク質が同時に必要とする通路のせいで、その液体力学半径は、保持されるウイルスと同等の大きさのオーダーであり、好適な、いわゆるパルボウイルスフィルターの製造は、他の用途のための精密ろ過と比較して複雑である。タンパク質とウイルス間の大きさのわずかな差異は、ろ過する溶液の純度に対する高い要求において、詰まりに関し、精密ろ過と比較してパルボウイルスフィルターを特に敏感にさせる。
【0007】
製品純度に対するこのような高い要求のため、パルボウイルスろ過は、組換えタンパク質または血漿製品を製造するためのプロセスシーケンスにおいて比較的後期に行われる。典型的には、クロマトグラフィー分離および精製工程がろ過に先行する。ウイルスろ過に大いに関連するのは、抽出可能成分(浸出)または粒子が使用されるろ過媒体からろ液へ放出しないという要件である。珪藻土を含むデプスフィルターを使用するとき、かかる汚染物質の放出が優先して起こる。
【0008】
US 7,118,675 B2には、タンパク質集合体およびウイルスをタンパク質溶液から選択的に除去する方法が記載され、ここで、第一工程において、タンパク質溶液は集合体を保持するために1または2以上の層の荷電または表面修飾微多孔膜を介してろ過される。第二工程においては、タンパク質凝集体を含まないろ液が1または2以上の限外ろ過膜を介してろ過され、これによりウイルス含有量が少なくとも10の3乗低減される。
【0009】
この原理的に有効であることが証明されている方法は、処理するタンパク質溶液および除去する集合体に応じて、pHおよびタンパク質溶液の伝導度を個別に調整することを必要とする。これらの前述のパラメータは、これらの部分において、同方法の第一工程に好適な荷電または表面修飾膜の最適な選択に影響を及ぼす。代替として、第一工程において、微多孔膜に加えて、1または2以上の層の微多孔膜を使用することができる。
【0010】
この最適化の問題は、既に“Increasing Parvovirus Filter Throughput of Monoclonal Antibodies Using Ion Exchange Membrane Adsorptive Pre-Filtration”, Bioseparations and Downstream Processing, Biotechnology and Bioengineering, DOI 10.1002/bit.22729, 2010 Wiley Periodicals, Inc.において、A. Brown et alによって確認された。ウイルス含有溶液から生体高分子集合体を除去するために、荷電膜は狭いpH範囲内および低い塩濃度でしか有効に使用することができない。なぜなら高塩濃度で前記膜において、塩イオンの結合と、標的タンパク質としての抗体との間で、望ましくない競争が生じるためである。
【0011】
A. Brown et alは、下流のViresolve(登録商標)パルボウイルスフィルターのろ過容量を増大させる荷電膜プレフィルターの使用を記載している。ここでは、プレフィルターは、モノクローナル抗体の集合体を除去し、抗体のモノマーが標的産物である。
【0012】
ウイルスプレフィルターとしてのスルホン酸リガンドを有する陽イオン交換膜(Mustang(登録商標)S)について、パルボウイルスフィルターのろ過容量は、pH範囲4〜7内で、伝導度は3mS/cm〜25mS/cmで決定した。V50(ろ過の開始に対して50%透過率低下の場合におけるろ過量)として定義される、達成されたろ過容量は、pHおよび伝導度に対する強い依存性を示し、これは使用されるモノクローナル抗体によって、さらに影響を受ける。
【0013】
pH依存性は、タンパク質および集合体の正味の電荷の変化によって説明される。伝導度への依存性は、塩によるプレフィルターの荷電基の遮蔽に起因する。チャイニーズハムスター卵巣細胞から使用するモノクローナル抗体の場合において、最適(スイートスポット)は、pH範囲5〜6内で、伝導度は5mS/cm〜12mS/cmで生じる。スイートスポットの上述した最適化された条件とpHおよび伝導度の準最適な範囲との差異は、V50に関して9倍まで互いに異なる。
【0014】
集合体除去のために荷電膜を使用するとき、「スイートスポット」についてのこれらの最適化された条件は、それぞれのタンパク質に基づいて確認しなければならず、この最適化は、この方法をうまく適用するために多大な努力を要することとなる。
【0015】
EP 1 624 950 B1には、タンパク質溶液からのタンパク質集合体およびウイルスを選択的に除去する方法が記載されており、ここで、第一工程において、集合体が繊維性パッドと珪藻土によって保持され、一方、続く第二工程においてウイルスは少なくとも1つの限外ろ過膜によって保持され、これによりウイルス含量は、少なくとも10の3乗低減される。
【0016】
繊維性パッドは、例えばポリアミド、再生セルロース、ポリ(エーテル)スルホン、ポリイミドまたはPVDFから構成される微多孔膜の1または2以上の層を含有することができ、これらの部分において、集合体の保持を向上するためにUS 5,531,899または5,093,197から知られる荷電粒子で充填されている。例えば、荷電粒子として、ポリオレフィン膜中の表面シラノール基を有するDiphonix陽イオン交換樹脂または粒子をベースとする粒子を使用する。代替として、プレフィルターとして使用される膜はシリカゲル粒子で充填することができる。
【0017】
ここで、荷電粒子が充填された膜の使用は、処理するタンパク質溶液のpHおよび伝導度に関して前述の最適化問題をもたらす。
標的タンパク質を含むろ液への粒子の望ましくない放出に関して、該方法の第一工程における珪藻土の使用は問題となり得る。
【0018】
US 7,465,397 B2には、荷電膜を下流のウイルスフィルターに対するプレフィルターとして同様に使用するさらなる方法が記載されている。この方法において、ウイルスおよびタンパク質集合体は、少なくとも2工程でタンパク質溶液から除去され、第一のろ過段階においては、表面修飾または荷電修飾ポリアミド膜が使用され、一方、下流のウイルス除去用の限外ろ過モジュールは、その表面が修飾されていないポリアミドを含む。
【0019】
US 2009/0326211 A1には、例えば、藻類、真菌、アメーバ、または無機粒子などの大きな微生物学的粒子を、レジオネラ・ニューモフィラまたはウイルスなどの微生物を含有する水サンプルから選択的に除去する方法が開示されている。既に述べた他の文書とは異なり、ここではサイズ排除ろ過の原理に従って除去が達成され、フィルターの材料とはほとんど無関係に、同様の方法で行うことができる。しかしながら、サイズ排除ろ過の原理に従う除去は、処理すべきタンパク質溶液のpHおよび導電率に関して、同様に、既に他の文書について述べた最適化問題を同様に解決しない。
【0020】
US 2009/0326211 A1による方法の第一工程において、粒子は、鋼スクリーン、ガラス繊維、ポリプロペン、ポリエーテルスルホン、ナイロン、PVC、PTFE、ポリエステル、ポリカーボネートまたはポリエステルからなるプレフィルターによって保持され、一方、微生物は、プレフィルターを通過する。微生物を含有するろ液は、続いてより小さな孔径を有するメインフィルターに供給され、これにより微生物が保持される。続いて、微生物は、分析のために、メインフィルター上で溶解され得る。メインフィルターの材料は、プレフィルターにも使用される材料の群から選択される。
【発明の概要】
【0021】
本発明の目的は、上述の従来技術の欠点を克服し、単純でコスト効率の良い方法で生物工学液体から生体高分子集合体およびウイルスを選択的に除去することを可能にする方法を提供することである。前記方法は、ウイルスプレフィルターとしての製造が複雑な荷電膜または表面修飾膜の使用およびろ液に粒子を放出し得る材料の使用を回避させることになるだろう。また、提供する方法は、処理するタンパク質溶液のpHおよび伝導度の広い範囲にわたって、前記集合体およびウイルスの信頼できる選択的除去を許容することになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、モノクローナル抗体のろ過の経過を示すグラフである。
図2図2は、図1と同じろ過のtに対するt/Vのプロットである。
図3図3は、ろ過の経過を示すグラフである。
図4図4は、図3と同じろ過のtに対するt/Vのプロットである。
図5図5は、実施例2および比較例2の両方のヒトIgGタンパク質のろ過の経過を示すグラフである。
図6図6は、微多孔性ポリアミド膜形態の多孔性ポリアミド表面を通るpH=6でのタンパク質溶液のろ過および荷電Sartobind(登録商標)S膜を通るpH=6でのタンパク質溶液のろ過を併せて示したグラフである。
図7図7は、pH=9での図6と同じタンパク質溶液のためのろ過過程を示すグラフである。
図8図8は、ろ過の経過を示すグラフである。
【0023】
本目的は、特許請求の範囲において特徴付けられる本発明の態様によって達成される。
特に、本発明は、以下の工程を含む、液体から生体高分子集合体およびウイルスを除去するための方法を提供する:
【0024】
(a)多孔質のポリアミド含有成形体(その内部および外部表面は、表面で囲まれた成型体マトリックスと同じ化学的および物理的特性を有する)を介して生体高分子集合体およびウイルスを含む液体をろ過すること、ここで生体高分子集合体は吸着によって液体から選択的に枯渇し、一方、ウイルスは成形体を透過する;および
(b)工程(a)からの液体を100〜1000kDの分画分子量を有する少なくとも1つの膜を介してろ過すること、ここで液体中のウイルス含有量は、工程(a)を行う前のウイルス含有量に対して、少なくとも99.9%低減される。
【0025】
本発明によれば、用語「生体高分子集合体」は、特に制限されるものではない。本発明の好ましい態様において、生体高分子集合体は、ペプチド、タンパク質、核酸の二量体、三量体および多量体の群またはそれらの混合物から選択される。
【0026】
本発明によれば、用語「ウイルス」は制限されるものではなく、すなわち該用語は、「エンベロープ(例えばMLV)および小型の非エンベロープウイルス(パルボウイルス)、例えばPPVまたはMVMなど、の両方を包含する。
【0027】
本発明によれば、用語「液体」は、特に制限されるものではない。本発明の好ましい態様において、液体は、血漿生成物、細胞培養からのタンパク質溶液、動物もしくは植物生産物の抽出から得られたタンパク質溶液、または微生物から得られたタンパク質溶液を含む。
【0028】
本発明による方法の工程(a)において、生体高分子集合体は、多孔質のポリアミド含有成形体を介して選択的に除去され、一方、ウイルスと標的化合物が成形体を透過する。本発明によれば、「生体高分子集合体の選択的な除去」は、ろ過後に、液体の生体高分子集合体含有量が、出発時の生体高分子集合体含有量に対して減少していることを意味する。
【0029】
したがって、本発明の第一工程における、この生体高分子集合体の選択的な除去は、本発明の工程(b)におけるウイルス保持膜の孔の詰まりを有利に防ぐことができる。本発明によれば、工程(a)におけるフィルター材料は、多孔形態のポリアミド生来の表面(native surface)である。これに関連して、生来の(native)は、ポリアミド含有成形体の内部および外部表面が、マトリックス(ベース材料)と同じ化学的および物理的特性を有することを意味する。
【0030】
本発明によれば、ポリアミドは、アミド官能基によって互いに共有結合している繰り返し単位から構成されるポリマーを意味すると理解される。モノマー単位は、脂肪族および/または芳香族であることができ、および開環または縮合を介して互いに結合することができる。本発明の好ましい態様において、多孔質のポリアミド含有成形体は、5種以下の異なる繰り返し単位(モノマー)を有する脂肪族および/または芳香族ポリアミドを含む。
【0031】
前述のモノマーのうち、特に好ましいのは、ε−カプロラクタム、1,6−ヘキサン二酸、1,6−ヘキサンジアミンまたはセバシン酸である。特に好ましい態様において、多孔質のポリアミド含有成形体は、5種以下の異なる繰り返し単位を有する脂肪族および/または芳香族ポリアミドからなる。さらに好ましい態様において、脂肪族モノマーユニットのみからなるポリアミドが使用される。本発明による方法の特に好ましい態様において、使用されるポリアミドは、ナイロン−6および/またはナイロン−6,6である。
【0032】
本発明によれば、その成形体自体を含む多孔質のポリアミドは、その形態の点で特に制限されない;例えば、それは繊維の形態で存在することができ、例えば不織布として、織布として、多孔質膜として、モノリスとして、ゲルとして、粒子床などとしてである。本発明によれば、多孔質のポリアミド含有成形体の孔径は、特に制限されるものではない。本発明の好ましい態様において、ポリアミド表面は0.5μmより小さい孔径を有する。さらに好ましい態様において、ポリアミド含有成形体は、微多孔質膜、モノリス、ゲルまたは粒子床を含む。特に好ましい態様において、ポリアミド含有成形体は微多孔膜である。
【0033】
本発明による方法の工程(b)において、工程(a)からの液体は、少なくとも1つのウイルス保持膜を介してろ過する。これに関連して、メンブレンフィルターは、小型ウイルス、例えば、PPV(プラムポックスウイルス、シャルカウイルス)の少なくとも99.9%の枯渇、およびバクテリオファージPP7などのモデルシステムを実現する場合、ウイルス保持型であると考えられる。本発明の好ましい態様において、さらに、エンベロープウイルスの少なくとも99.99%の枯渇が達成される。これに関連して、当業者は、先行技術から知られており、この基準を満たし、さらに標的分子が透過することができる好適なウイルス保持膜を容易に選択するであろう。
【0034】
本発明によれば、膜は100〜1000kDの分画分子量を有する。これに関連して、膜の分画分子量(MWCO)は、その90%が膜を通過できる分子および粒子の公称分画分子量(nominal molecular weight)を指す。この目的のために、当業者は誰もが知っている方法で、膜の透過流速が0.0001cm/sに調整されたゲル浸透クロマトグラフィー法において、種々の分子量のデキストラン混合物のテスト膜からのろ液の分子量分布と非ろ液(unfiltrate)を比較するであろう。
【0035】
本発明の好ましい態様において、工程(b)において使用される膜は、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエテン、ポリアミド、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデン、セルロース、セルロース誘導体またはそれらの混合物を含む。本発明の特に好ましい態様において、膜はポリエーテルスルホン、ポリスルホンまたはそれらの混合物からなる。
【0036】
本発明による方法は、液体の広いpH範囲にわたって有効に使用することができる。本発明の好ましい態様において、工程(a)および(b)中の液体のpHは5〜9である。
【0037】
多孔質のポリアミド含有膜の使用により、本発明による方法は、公知のクロマトグラフィーカラムの使用上、特に利点を有する。本発明による方法の第一工程において生体高分子集合体を選択的に除去することによって、本方法の工程(b)において、ウイルス保持膜の孔の詰まりを有利に回避することができる。
【0038】
驚くべきことに、ウイルス保持膜を通るろ過の前の、生来の表面を有する多孔質のポリアミド含有成形体を介する液体のろ過の場合において、他の材料、例えばポリエーテルスルホンから構成されるプレフィルター、および特に荷電表面あるいは化学的または物理的に膜のマトリックスについて修飾した表面を有する膜から構成されるプレフィルターの使用と比較して、ウイルス保持膜のろ過容量が顕著に増加することが見出された。
【0039】
ウイルスフィルターのろ過容量の増加は、タンパク質集合体の正味電荷とは独立して働き、タンパク質溶液の体積と表面積との比が、ろ過容量に比例的に影響を与える。さらに、ポリアミドの表面効果は、サイズ排除効果と組み合わせることができる。
【0040】
有利なことに、ろ過容量の増加はpH=5〜9の範囲において、液体のpHとは無関係であり、このことにより、本発明による方法と荷電膜または表面修飾膜を使用する当業者に既知の方法とは異なる。さらに、生体高分子集合体の除去用であると記載され、それゆえタンパク質溶液からウイルスを枯渇させる典型的なプロセスにおいての限られた適合性しかない典型的なデプスフィルター材料と比較して、有利なことに、ポリアミド含有成形体の多孔質表面は、有機炭素および粒子の低い放出を示すにすぎない。
【0041】
また、本発明による方法に使用される多孔質のポリアミド表面は、例えば膜の形態で、古典的なクロマトグラフィー媒体と比較して、明らかに、より便利に利用可能である。したがって、有利なことに、本発明による方法による分離は、同量の媒体を使用して、これまでに知られている方法よりも、明らかにより選択的かつ速いだけではなく、また加えて明らかにより費用対効果がよい。
【0042】
ここで、本発明を以下の非限定的な例を参照してより具体的に説明する。

以下の例において、ろ過容量Vmaxは、フィルターが100%詰まった時のろ過容量の漸近値であり、Ho et al., Journal of Colloid and Interface Science 232, 389-399 (2000)(式1):
【数1】
に記載されているように、一定の圧力でのろ過の場合において、tに対するt/Vの商のプロットから、直線の傾きの逆数として得られる。
式中、tはろ過時間、Vはろ過量、Vmaxはろ過容量およびQは定圧ろ過の場合の初期流量を指す。
【0043】
例1:細胞株CHO dg44 ST1−C6からのモノクローナル抗体のタンパク質溶液のろ過
タンパク質溶液中のモノクローナル抗体は、細胞株CHO dg44 ST1−C6由来であり、以下の方法により利用可能にした:
まず、標的タンパク質が産生された細胞培養を用意した。培養は、25Lの培養容量および密度5×10細胞/mLの接種細胞および増殖培地プロCHO5(Lonza BE12-766P)で、Biostat(登録商標) CultiBag RM single-use bioreactor (Sartorius Stedim Biotech GmbH)を使用して、当業者に公知の通常の条件下で行った。
【0044】
9日後の最大細胞密度を達成した後、細胞を回収し、精製を行った。典型的な方法において、細胞懸濁液は、最初にデプスフィルター層および0.2μmの孔径を有するパーティクルフィルターを通ってろ過した。抗体は、プロテインAアフィニティークロマトグラフィーおよびイオン交換クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィー法で、無細胞溶液から単離した。
【0045】
ろ過用のタンパク質溶液を調製するために、クロマトグラフィー工程の後に、精製した溶液を限外ろ過/ダイアフィルトレーションに供した。この目的のために、0.1mのろ過面積と30kDの分画分子量を有するSartocon Slice、Hydrosart(登録商標)30kD MWCO(3051445901E−−SW)ろ過カセットを使用した。緩衝液組成およびタンパク質濃度を変更するこの工程後、リン酸緩衝液、pH6.6(Sigma Aldrich、カタログ番号P8165)および10mMのEDTA(Sigma Aldrich、カタログ番号:E6758)中、10g/Lの濃度を有する抗体の溶液が得られた。
【0046】
モノクローナル抗体のタンパク質溶液は、工程(a)において、微多孔膜(孔径0.2μm、外部面積17.5cm)形態のナイロン6から構成された多孔質のポリアミド表面を通るよう誘導した。続いて、工程(a)からのろ液を、工程(b)において、1barで、1層のウイルス保持膜、Virosart(登録商標)(ポリエーテルスルホン膜、孔径0.02μm、面積5cm、Sartorius Stedim Biotech GmbH)を通してろ過した。
【0047】
図1は、モノクローナル抗体のろ過の経過のグラフを示し、ここで1mの面積に標準化したろ過量がy軸にプロットされ、ろ過時間(分)がx軸にプロットされている。図2は、同じろ過のtに対するt/Vのプロットを示し、これから式1に従って、直線の傾きの逆数により、365L/mのろ過容量Vmaxを決定することが可能である。
【0048】
比較例1:細胞株CHO dg44 ST1−C6からのモノクローナル抗体のタンパク質溶液のろ過
比較例1のろ過は、工程(a)において、ポリエーテルスルホン膜Sartopore(登録商標)2(孔径0.1μm、面積17.5cm、Sartorius Stedim Biotech GmbH)に置き換えて、0.2μmの孔径を有する微多孔ポリアミド膜を使用した例1と同様に行った。工程(b)において、工程(a)からのろ液を通常通り、すなわち1barで、1層のウイルス保持膜、Virosart(登録商標)CPV Minisart(面積5cm、Sartorius Stedim Biotech GmbH)を通して全量ろ過方式でろ過した。
【0049】
図3は、ろ過の経過を示し、y軸に1mの面積に標準化したろ過量およびx軸にろ過時間(分)を有する。図4は、同じろ過のtに対するt/Vのプロットを示し、これから式1に従って、直線の傾きの逆数により、33L/mのろ過容量Vmaxを決定することが可能である。したがって、ろ過容量は例1の工程(a)において多孔質ポリアミド表面を使用したときのろ過容量の10%未満である。
【0050】
例2:ヒトIgGタンパク質の溶液のろ過
ろ過には、リン酸緩衝液、pH6.6(Sigma Aldrich、カタログ番号P8165)、およびEDTA(Sigma Aldrich、カタログ番号E6758)で、10g/Lのタンパク質濃度および10mM EDTAに希釈したヒトIgGタンパク質の溶液(5%強度溶液、SeraCare、カタログ番号HS−475−1L)を使用した。工程(a)において、溶液を、微多孔膜(孔径0.1μm、外部面積7cm)形態のナイロン6から構成された多孔質のポリアミド表面と、外部表面に垂直なろ過によって接触させた。続いて、工程(b)において、工程(a)からのろ液を2barで、2層Virosart(登録商標)CPV Minisartウイルスフィルター(面積5cm、Sartorius Stedim Biotech GmbH)を通して通常通りろ過した。
【0051】
比較例2:ヒトIgGタンパク質の溶液のろ過
比較例2は、例2と同様に行ったが、工程(a)において、例2からの多孔質ポリアミド表面をポリエーテルスルホン膜Sartopore(登録商標)2(孔径0.1μm、面積17.5cm、Sartorius Stedim Biotech GmbH)と置き換えた。
【0052】
図5は、実施例2(記号●)および比較例2(記号○)の両方のヒトIgGタンパク質のろ過の経過を示しており、ここで1mの面積に標準化したろ過量がy軸にプロットされ、ろ過時間(分)がx軸にプロットされている。ポリエーテルスルホン膜を使用したろ過容量は、109L/mである。プレフィルターとしてのポリアミド表面は、217L/mのろ過容量をもたらす。
この媒体の場合において、第一工程におけるポリアミド表面の使用は、微多孔性ポリエーテルスルホン膜の使用に対して、ろ過容量を約2倍増大させる。
【0053】
例3:pH依存性の調査
例1に記載されたとおりにタンパク質溶液を調整し、濃度を10g/Lに調整した。pHをクエン酸(Sigma Aldrich、カタログ番号C2404)およびトリス塩基(2−アミノ−2−(ヒドロキシメチル)プロパン−1,3−ジオール、Sigma Aldrich、カタログ番号T1503)を用いて緩衝液組成を変化させて、pH=6.0および9.0にそれぞれ調整した。
【0054】
2つのタンパク質溶液は、塩化ナトリウム(Sigma Aldrich、カタログ番号S5886)を添加して15mS/cmの均一な伝導度に調整した。両方の溶液を、さらなる精製工程における、異なる孔径の影響を排除するために、Sartopore(登録商標)2ポリエーテルスルホン膜(孔径0.1μm)を通してろ過した。
【0055】
工程(a)において、タンパク質溶液は、荷電Sartobind(商標)S膜(外部領域6cm、Sartorius Stedim Biotech GmbH)または微多孔性ポリアミド膜(孔径0.1μm、外部領域6cm)のいずれかを通してろ過した。工程(b)において、溶液を1層のVirosart(登録商標)CPVパルボウイルスフィルター(外部領域2.5cm、Sartorius Stedim Biotech GmbH)を通して2barの差圧でろ過した。
【0056】
図6には、微多孔性ポリアミド膜形態の多孔性ポリアミド表面を通るpH=6でのタンパク質溶液のろ過(記号●)および荷電Sartobind(登録商標)S膜を通るpH=6でのタンパク質溶液のろ過(記号○)を併せて示す。図7には、pH=9での同じタンパク質溶液のためのろ過過程を示す。両方の図において、1mの面積に標準化したろ過量がy軸にプロットされ、ろ過時間(分)がx軸にプロットされている。
【0057】
ウイルス保持膜を通るろ過の前の第一工程として、Sartobind(登録商標)S膜およびポリアミド膜との差を明確に見ることができる。本明細書において実施した一連のろ過実験は、ポリアミド表面を使用したとき、ウイルス保持膜のろ過容量の増加が、異なるpHレベルの溶液で同程度に生じることを示しており、一方荷電膜を使用する既知の方法は明らかなpH依存性を示す。
【0058】
pH=6において、ウイルスフィルターのろ過容量の点で、ポリアミド表面(Vmax=550L/m)と荷電膜(Vmaxは=200L/m)との間の差はまだ比較的小さい。pH=9において、明らかに大きな差が明確になり、この場合において、荷電膜後のウイルスフィルターのろ過容量は大きく崩れる;荷電膜では、Vmax=8L/mしか達成されない。対照的に、ウイルスフィルター前にポリアミド表面を使用する場合には、Vmax=260L/mが達成される。
【0059】
例4:生体高分子凝集体およびウイルスの枯渇
例4はわずかに変更した形態で例1の繰り返しを示しており、加えて、本発明の方法によるウイルスの枯渇を実証している。
細胞株CHO dg44 ST1−C6由来のモノクローナル抗体のタンパク質溶液を例1に記載したとおり調製した。しかしながら、ろ過媒体として使用する前に、タンパク質溶液をPP7バクテリオファージ、小型の非エンベロープウイルスの認識モデル系、と混合し、10g/Lのタンパク質および4.5×10pfu/mLの(プラーク形成単位)のバクテリオファージを含有する溶液とした。ろ過は、実施例1と同様に2回行ったが、少なくとも2.0barの差圧で行った。
【0060】
使用したプレフィルターは、各場合において、例1からのポリアミドフィルターであった。メインフィルターとして、2種のウイルスフィルターを、200 Virosart(登録商標)CPVウイルスフィルター(No.41(記号●)とNo.44(記号○))のバッチから無作為に選択し、ろ過に使用した。10L/mおよび20L/mの両方で、サンプルを採取し、バクテリオファージの力価をプラークアッセイで決定した。力価測定の結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【0062】
ろ過の経過を図8に示す。式1によるプロットから、メインフィルターNo.41について286L/mのろ過容量およびメインフィルターNo.44について130L/mのろ過容量が得られる。本発明によれば、ろ過の終点での詰まりが少ないため、最大容量への外挿は、特定の変動の範囲と関連する。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8