特許第6956831号(P6956831)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6956831ビニル芳香族炭化水素系重合体、重合体組成物及び成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6956831
(24)【登録日】2021年10月7日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】ビニル芳香族炭化水素系重合体、重合体組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/48 20060101AFI20211021BHJP
   C08F 12/06 20060101ALI20211021BHJP
【FI】
   C08F4/48
   C08F12/06
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2020-107636(P2020-107636)
(22)【出願日】2020年6月23日
(62)【分割の表示】特願2016-80619(P2016-80619)の分割
【原出願日】2016年4月13日
(65)【公開番号】特開2020-152917(P2020-152917A)
(43)【公開日】2020年9月24日
【審査請求日】2020年7月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】梅山 雅也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 淳
(72)【発明者】
【氏名】飯塚 達也
【審査官】 今井 督
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−203071(JP,A)
【文献】 特開平8−259646(JP,A)
【文献】 特開2015−83694(JP,A)
【文献】 特開平5−339312(JP,A)
【文献】 特表2015−500398(JP,A)
【文献】 特表2002−507241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 4/00− 4/58
C08F 4/72− 4/82
C08F 6/00−246/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二官能性重合開始剤を主成分とする重合開始剤によりビニル芳香族炭化水素を含有する単量体がアニオン重合したアニオン重合体A1と、二官能性カップリング剤により前記アニオン重合体A1がカップリングしたアニオン重合体A2とを含有するビニル芳香族炭化水素系重合体であって、
前記二官能性カップリング剤がジエポキシ化合物であり、
測定温度140℃、一定歪み速度0.1sec−1の条件で測定した一軸伸長粘度の値を基に算出した、式1で示される時間に対する一軸伸長粘度の傾きSが、0.048以上0.060以下であるビニル芳香族炭化水素系重合体。
(式1):S=(LOGη14.0−LOGη7.0)/(14.0−7.0)
(但し式1において、η7.0は伸長開始7.0sec後、η14.0は伸長開始14.0sec後の一軸伸長粘度を示す)
【請求項2】
ゲル・パーミネーション・クロマトグラフィー法により測定され、ポリスチレン換算で求められる分子量曲線において、アニオン重合体A1とアニオン重合体A2との総面積に対し、
前記アニオン重合体A2に由来する面積が40%以上であり、
分子量が50万以上の重合体の面積が15%以上である、請求項1に記載の重合体。
【請求項3】
前記二官能重合開始剤の含有量が、前記重合開始剤の総和に対し、60〜100mol%である、請求項1または2に記載の重合体。
【請求項4】
前記二官能性重合開始剤が、有機リチウム化合物とジビニル芳香族化合物との反応物である、請求項1から3の何れか一項に記載の重合体。
【請求項5】
前記単量体がさらに共役ジエンを含む、請求項1から4の何れか一項に記載の重合体。
【請求項6】
前記二官能性カップリング剤の添加量が、アニオン重合体A1のモル数に対し70〜150mol%である、請求項1から5の何れか一項に記載の重合体。
【請求項7】
ゲル・パーミネーション・クロマトグラフィー法により測定され、ポリスチレン換算で求められる分子量曲線において、アニオン重合体A1とアニオン重合体A2との総面積に対し、前記アニオン重合体A2に由来する面積が50%以上である、請求項1から6の何れか一項に記載の重合体。
【請求項8】
請求項1から7の何れか一項に記載の重合体を含む重合体組成物。
【請求項9】
請求項に記載の重合体組成物を用いた成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はビニル芳香族炭化水素系重合体、重合体組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的にビニル芳香族炭化水素系重合体は、ラジカル重合法、及びアニオン重合法によって製造されている。
【0003】
ラジカル重合法によるビニル芳香族炭化水素重合体の製造では、製造時に副生物としてビニル芳香族炭化水素のオリゴマーが生成されることや、ビニル芳香族炭化水素が単量体のまま残存し易いことがよく知られている。例えば、非特許文献1によれば100℃以上のスチレンの熱重合ではスチレン二量体、スチレン三量体等のオリゴマーの副生を伴い、その量は約1質量%程度になるとされている。また具体的なオリゴマー成分は主として1−フェニル−4−(1’−フェニルエチル)テトラリン、1,2−ジフェニルシクロブタンからなり、その他に2,4−ジフェニル−1−ブテンと2,4,6−トリフェニル−1−ヘキセンが存在するとされている。
【0004】
この様に、現在広く実施されているラジカル重合法によるビニル芳香族炭化水素系重合体は、その製造方法に起因してビニル芳香族炭化水素単量体及びビニル芳香族炭化水素オリゴマー等から成る低分子量体を多く含む。更に、ラジカル重合法によるビニル芳香族炭化水素系重合体は、一般に安定性に劣り、成形加工時の機械的履歴又は熱的履歴によって、重合体中のビニル芳香族炭化水素単量体及びビニル芳香族炭化水素オリゴマー等の低分子量体が増大しやすい。成形加工時に新たに生成する低分子量体も、重合時に生成する低分子量体と同様の問題を来す。例えば電気製品材料、雑貨材料、食品包装材料や食品容器材料に用いた場合、重合体中に含まれる低分子量体が原因となって種々の問題を来すため低減が望まれている。
【0005】
一方、ビニル芳香族炭化水素重合体は、有機リチウムを用いたアニオン重合法によって製造されることも広く知られている。特許文献1には、アニオン重合法によるポリスチレンの製造において、二量体含有量が1ppm、三量体含有量が170ppmであることが記載されており、ラジカル重合法によるビニル芳香族炭化水素重合体の製造よりも副生物である低分子量体の生成が少ないことが知られている。
【0006】
しかし、アニオン重合法で得られるビニル芳香族炭化水素系重合体は狭い分子量分布を示し、成形、加工性が劣り、通常は好ましいものではない。
【0007】
また、大気中の水分や、単量中や溶媒中に含まれる水分の影響により重合開始剤が失活するためアニオン重合法により数平均分子量が50万以上の高分子量重合体を安定的に製造することは困難だと考えられていた。
【0008】
アニオン重合法で得られるビニル芳香族炭化水素系重合体の分子量分布拡大の一つの方策として、アルコール等の添加により、反応性末端を部分失活する技術や、重合開始剤の分割フィード、例えば二段分割フィードの技術が挙げられ、両者とも、結果的に分子量の高い重合体と分子量の低い重合体のブレンド組成として、分子量分布を拡大できる。しかし、この様な方法でもいくつかの問題がある。例えば、得られる重合体は低分子量体を多量に含む組成の重合体となり、この様な重合体は力学特性や耐熱性に劣る等の問題がある。また、製造工程が複雑化して生産性が低下する等の問題も有する。
【0009】
分子量分布を拡大する他の方策として、重合終了後にカップリング剤を添加して、分子量分布の拡大を図る方法が公知である。即ち、予めやや分子量の低い重合体を重合し、それをカップリングして分子量を部分的にジャンプさせ、分子量分布を拡大する方法である。例えば、特許文献2には、二つのリビング末端を有するリビングポリマーの混合物を、少なくとも3つの反応性官能基を有するカップリング剤でカップリングすることにより、高分子量体の重合体を製造する方法が記載されている。
【0010】
成形加工性を改善するために、高分子量体の分子量分布の拡大を達成するためには、3官能性以上の多官能性カップリング剤の使用が必要と考えられてきたが、この様な方法で分子量分布が拡大した場合、重合体は特異的な流動性を示して、シート押出し性や発泡特性において通常好ましくなく、成形、加工性に問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平10−110074号公報
【特許文献2】特表2004−506802号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】Encyclopedia of chemical technology,Kir k-Othmer,Third Edition,John Wily& Sons,21巻,817頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記問題と実状に鑑み、低分子量体が低減され、拡大された分子量分布を有するビニル芳香族炭化水素系重合体、重合体組成物及び成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、様々な重合法を検討した結果、二官能性重合開始剤を用いてアニオン重合体を作製し、さらに二官能性カップリング剤を用いてアニオン重合体をカップリングさせることにより、ビニル芳香族炭化水素系重合体中の低分子量体が低減され、拡大された分子量分布を有するビニル芳香族炭化水素系重合体となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
上記課題を解決する本発明は、以下より構成される。
(1)二官能性重合開始剤を主成分とする重合開始剤によりビニル芳香族炭化水素を含有する単量体がアニオン重合したアニオン重合体A1と、二官能性カップリング剤により前記アニオン重合体A1がカップリングしたアニオン重合体A2とを含有するビニル芳香族炭化水素系重合体であって、
ゲル・パーミネーション・クロマトグラフィー法により測定され、ポリスチレン換算で求められる数平均分子量曲線において、アニオン重合体A1とアニオン重合体A2との総面積に対し、
前記アニオン重合体A2に由来する面積比率が40%以上であり、
数平均分子量が50万以上の重合体の面積比率が15%以上である、重合体。
(2)前記二官能性重合開始剤の含有量が前記重合開始剤の総和に対し、60〜100mol%である、(1)に記載の重合体。
(3)前記二官能性重合開始剤が、有機リチウム化合物とジビニル芳香族化合物との反応物である、(1)または(2)に記載の重合体。
(4)前記二官能性カップリング剤が、ジエポキシ化合物である(1)〜(3)の何れか一つに記載の重合体。
(5)前記単量体がさらに共役ジエンを含む、(1)〜(4)の何れか一つに記載の重合体。
(6)前記二官能性カップリング剤の添加量が、前記アニオン重合体A1に対し70〜150mol%である、(1)〜(5)の何れか一つに記載の重合体。
(7)ゲル・パーミネーション・クロマトグラフィー法により測定され、ポリスチレン換算で求められる数平均分子量曲線において、アニオン重合体A1とアニオン重合体A2との総面積に対し、前記アニオン重合体A2に由来する面積が50%以上である、(1)〜(6)の何れか一つに記載の重合体。
(8)(1)〜(7)の何れか一つに記載の重合体を含む重合体組成物。
(9)(8)に記載の重合体組成物を用いた成形体。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、低分子量体が低減され、拡大された分子量分布を有するビニル芳香族炭化水素系重合体、重合体組成物及び成形体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例5のGPCによる分子量曲線及び分子量曲線の微分値を示している。
図2】実施例4のGPCによる分子量曲線及び分子量曲線の微分値を示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0019】
[第一実施形態]
本発明に係る第一実施形態のビニル芳香族炭化水素系重合体は、二官能性重合開始剤を主成分とする重合開始剤によりビニル芳香族炭化水素を含有する単量体がアニオン重合したアニオン重合体A1と、二官能性カップリング剤により前記アニオン重合体A1がカップリングしたアニオン重合体A2とを含有し、ゲル・パーミネーション・クロマトグラフィー法により測定され、ポリスチレン換算で求められる数平均分子量曲線において、アニオン重合体A1とアニオン重合体A2との総面積に対し、前記アニオン重合体A2に由来する面積が40%以上であり、数平均分子量が50万以上の重合体の面積が15%以上であるビニル芳香族炭化水素系重合体である。
【0020】
<ビニル芳香族炭化水素系重合体>
ビニル芳香族炭化水素系重合体は、二官能性重合開始剤を主成分とする重合開始剤によりビニル芳香族炭化水素を含有する単量体がアニオン重合したアニオン重合体A1と、二官能性カップリング剤により前記アニオン重合体A1がカップリングしたアニオン重合体A2とを含有する。
【0021】
<アニオン重合体A1>
アニオン重合体A1は、ビニル芳香族炭化水素を含有する単量体が、二官能性アニオン重合開始剤を主成分とするアニオン重合開始剤によりアニオン重合した重合体である。
【0022】
本発明のアニオン重合体A1の数平均分子量は7万〜23万であり、8万〜20万がより好ましい。数平均分子量を7万以上とすることで、アニオン重合体A1とアニオン重合体A2との総面積に対する50万以上の面積比率が15%より少なくなることを抑制して、成形性等の改善効果を維持することができる。一方、数平均分子量を23万以下とすることで、数平均分子量が50万以上の面積比率が多く低分子量成分が少ない場合に生じる場合がある押出時のメルトフラクチャーの発生を抑制して、外観を良好に保つことができる。
【0023】
(単量体)
本発明において用いられる単量体は、ビニル芳香族炭化水素を含有する。単独で用いてもよく、アニオン重合可能な他の単量体を添加して共重合させてもよい。
【0024】
ビニル芳香族炭化水素としては、スチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,4−ジメチルスチレン、α−メチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセン等が含まれるが、特に一般的なものとしてはスチレンが挙げられる。
【0025】
アニオン重合可能な他の単量体としては、共役ジエンが挙げられる。共役ジエンには1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン(イソプレン)、2,3−ジメチル−1,3ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン等が含まれるが、特に一般的なものとしては1,3−ブタジエン、イソプレンが挙げられる。
【0026】
(アニオン重合開始剤)
本発明において用いられるアニオン重合開始剤は、二官能性アニオン重合開始剤を主成分とする。ここで、単官能性とは一つの重合部位を有することを意味し、二官能性とは二つの重合部位を有することを意味する。つまり、二官能性アニオン重合開始剤とは二つの重合部位を有する開始剤を意味する。本発明では、アニオン重合開始剤として二官能性アニオン重合開始剤を単独で用いてもよく、単官能性アニオン重合開始剤と併用してもよい。しかしながら、単官能性アニオン重合開始剤は重合部位を一つしか有さないため、単官能性アニオン重合体により重合した重合体の片末端では、カップリングが起こらない。したがって、二官能性アニオン重合開始剤と単官能性アニオン重合開始剤とを併用する場合、二官能性アニオン重合開始剤の含有量が少ないと、単官能性アニオン重合開始剤により重合した重合体の割合が増加することで、直鎖状にポリマーが3本以上カップリングする重合体の割合が減少し、結果としてアニオン重合体A2の割合が減少する。本発明において、二官能性アニオン重合開始剤は重合開始剤の総和に対し、60mol%以上含まれることが好ましく、70mol%以上含まれることがより好ましい。上限値は特に限定されず、100mol%以下、98mol%以下又は95mol%以下とすることができる。
【0027】
二官能性アニオン重合開始剤としては、分子中に2個のリチウム原子が結合した有機リチウム化合物が挙げられ、例えば、1,3−イソプロペニルベンゼンにt−ブチルリチウムを付加させた化合物や、1,3−ジ(1−フェニルエテニル)ベンゼンにsec−ブチルリチウムを付加させた化合物等が使用できる。このように、二官能性アニオン重合開始剤は、ジビニル芳香族化合物と有機リチウム化合物を反応させることにより調製できる。
【0028】
二官能性アニオン重合開始剤の調製方法の具体例としては、炭化水素溶媒中で、有機リチウム化合物とジビニル芳香族化合物とを反応させる方法、有機リチウム化合物と共役ジエン化合物とを反応させた後にジビニル芳香族化合物を反応させる方法、有機リチウム化合物とモノビニル芳香族化合物とを反応させた後にジビニル芳香族化合物を反応させる方法、共役ジエン化合物及び/又はモノビニル芳香族化合物と、ジビニル芳香族化合物との二者又は三者の存在下で有機リチウム化合物を反応させる方法等が挙げられる。特に、炭化水素溶媒中で、有機リチウム化合物とジビニル芳香族化合物とを反応させる方法で調製された二官能アニオン開始剤が好ましい。
【0029】
単官能性アニオン重合開始剤は、分子中に1個以上のリチウム原子が結合した化合物であり、例えばエチルリチウム、n−プロピルリチウム、イソプロピルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、tert−ブチルリチウムのような化合物等が使用できる。
【0030】
アニオン重合開始剤の合計添加量は、本発明の重合体が得られれば制約されず、モノマーの総和1mol%に対し、0.9×10−4〜9.5×10−3mol%であることが好ましく、1.1×10−3〜5.0×10−3mol%であることがより好ましい。重合開始剤の添加量をこの範囲に調整することで、数平均分子量を本発明の範囲に調整し易くなる。
【0031】
<アニオン重合体A2>
アニオン重合体A2は、二官能性カップリング剤によりアニオン重合体A1がカップリングした重合体である。
【0032】
本発明のアニオン重合体A2の数平均分子量は14万〜40万が好ましく、25万〜35万がより好ましい。数平均分子量が14万以上とすることで、成形性を良好に維持することができる。一方、数平均分子量が40万以下とすることで、低分子量成分が少ない場合に生じる場合がある押出時のメルトフラクチャーの発生を抑制し、外観を良好に保つことができる。
【0033】
(二官能性カップリング剤)
二官能性カップリング剤の添加量は、アニオン重合体A1のモル数に対して70〜150mol%とすることができる。70mol%以上とすることで、カップリングしない重合体が多くなることを防いで、アニオン重合体A1とアニオン重合体A2との総面積に対するアニオン重合体A2に由来する面積S2の面積比率が少なくなるのを抑制できる。また、150mol%以下とすることで、アニオン重合末端にカップリング剤がそれぞれ導入されることを防いで、アニオン重合体A2に由来する面積S2の面積比率が少なくなるのを抑制できる。
【0034】
二官能性カップリング剤は公知のものから選ぶことができるが、例えばジハロゲン化合物、ジエポキシ化合物、ジカルボン酸エステル、珪素またはスズのジアルコキシ化合物、珪素またはスズのジハロゲン化合物、等を挙げることができる。中でもジエポキシ化合物が好ましい。ジエポキシ類の例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等のグリコールジグリシジルエーテル類;グリセリンジグリシジルエーテル;水添ビスフェノールAジグリシジルエーテル等の脂環式系ジグリシジルエーテル類;グリシジルフェニルエーテル、ビスフェノールAポリエチレンオキシド付加物ジグリシジルエーテル等の芳香族系ジグリシジルエーテル類、1,7−オクタジエンジエポキシド、1,5−ヘキサジエンジエポキシド、リモネンジエポキシド等が挙げられる。
【0035】
本発明のビニル芳香族炭化水素系重合体は、ゲル・パーミネーション・クロマトグラフィー法により測定され、ポリスチレン換算で求められる数平均分子量曲線において、アニオン重合体A1とアニオン重合体A2との総面積に対し、前記アニオン重合体A2に由来する面積が40%以上であり、数平均分子量が50万以上の重合体の面積が15%以上である。
【0036】
[ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)]
重合体の濃度が1mg/1mLのテトラヒドロフラン(THF)溶液を調製し、GPC測定装置において、40℃のヒートチャンバ中でカラムを安定化させ、この温度におけるカラムに溶媒としてTHFを毎分1mLの流速で流し、THF試料溶液を約100μL注入することで重合体の分子量分布を測定することができる。
【0037】
GPCを用いて、重合体の分子量分布の測定を行う場合、溶出体積(溶出速度×溶出時間)が増大するにしたがって、検出器を通過する溶離液中の重合体の分子量の対数が単調に減少する。すなわち分子量が大きいほど、カラムからの溶出が早い。また信号強度は、検出器を通過する溶離液中における重合体の存在量に比例する。標準ポリスチレンを用いて溶出時間と分子量との関係を表す較正曲線を作成することにより、示差屈折率計によって検出される溶出曲線を、縦軸に信号強度、横軸にポリスチレン換算の分子量の対数を持った曲線(以下、分子量曲線と呼ぶ)に変換することができる。検量線作成用の標準ポリスチレン試料としては、東ソー社製の分子量が10〜10程度のものを用いる。例えば、ベースラインの数値から0.2以上の数値を示す時間をピークの始点とし、最少の分子量を示すピークの後のベースラインの数値から0.2以上の数値を示す時間をピークの終点とすることができる。
【0038】
分子量曲線を微分することで、アニオン重合体A2由来の極大値及び極小値と、アニオン重合体A1由来の極大値及び極小値を得ることができる。アニオン重合体A1由来の極大値が0以上の場合は、アニオン重合体A2由来の極小値からアニオン重合体A1由来の極大値の間にある0を示す点に対応する分子量曲線の点から垂直にベースラインに下した線で分割し、分子量曲線から得られる高分子側の面積をS2、低分子側の面積をS1とする。アニオン重合体A1由来の極大値が0未満の場合は、アニオン重合体A1由来の極大値を示す点に対応する分子量曲線の点から垂直にベースラインに下した線で分割し、高分子側の面積をS2、低分子側の面積をS1とする(図1及び図2)。
【0039】
アニオン重合体A1とアニオン重合体A2との総面積に対し、前記アニオン重合体A2に由来する面積が40%以上であるとは、以下の式Iを満たすことを意味する。
(式I)
S2/(S1+S2)≧0.4
【0040】
アニオン重合体A1とアニオン重合体A2との総面積に対するアニオン重合体A2に由来する面積は、50%以上又は60%以上とすることもできる。上限値は特に限定されず、90%以下、80%以下又は70%以下とすることができる。
【0041】
分子量曲線の始点から50万を示す分子量までの総面積を、数平均分子量が50万以上の重合体の面積とした。アニオン重合体A1とアニオン重合体A2との総面積に対し、数平均分子量が50万以上の重合体の面積が15%以上であるとは、以下の式IIを満たすことを意味する。
(式II)
50万以上の重合体の面積/(S1+S2)≧0.15
【0042】
GPCから得られる分子量曲線中において、数平均分子量が50万以上の重合体の面積比率を15%以上に調節することによって、重合体組成物を成形した際、厚み斑が改善される。数平均分子量が50万以上の重合体の面積は、20%以上、30%以上又は40%以上とすることもできる。一方、数平均分子量が50万以上の重合体の面積比率を80%以下とすることで、反応溶液の粘度が高くなることにより低濃度でしか生産できなくなり生産性が低下することを抑制することができる。数平均分子量が50万以上の重合体の面積比率は、80%以下、70%以下又は60%以下とすることもできる。
【0043】
得られた重合体は、水、アルコール、二酸化炭素などの重合停止剤を、活性末端を不活性化させるのに充分な量を添加することにより、不活性化される。得られた重合体溶液より重合体を回収する方法としては、メタノール等の貧溶媒により析出させる方法、加熱ロール等により溶媒を蒸発させて析出させる方法(ドラムドライヤー法)、濃縮器により溶媒を濃縮した後にベント式押出機で溶媒を除去する方法、溶液を水に分散させ、水蒸気を吹き込んで溶媒を加熱除去して共重合体を回収する方法(スチームストリッピング法)等、任意の方法が使用される。
【0044】
(ランダム化剤)
本発明の重合体の製造において、ランダム化剤を添加することもできる。ランダム化剤の添加量としては、重合体を構成するモノマーの総和100質量部に対し、0.001〜8質量部が好ましい。添加時期は重合反応の開始前でも良い。また、必要に応じて追加添加することもできる。ランダム化剤を前記の添加量で添加することにより、重合速度を改善することができる。ランダム化剤としては、テトラヒドロフラン、テトラメチルエチレンジアミンなどが使用できる。
【0045】
(有機溶媒)
本発明の重合体を製造する際の有機溶剤としてはブタン、ペンタン、ヘキサン、イソペンタン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン等の脂肪族炭化水素、シクロペンタン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素、あるいは、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン等の芳香族炭化水素などが使用できる。
【0046】
[第二実施形態]
本発明に係る第二実施形態のビニル芳香族炭化水素系重合体は、加工の容易さを付与したり、強度の向上のために、予め重合された第二のビニル芳香族炭化水素系重合体や添加剤等を押出機で溶融ブレンドしたり、ペレット状態でドライブレンドして、重合体組成物として用いることもできる。
【0047】
(第二のビニル芳香族炭化水素重合体)
第二のビニル芳香族炭化水素系重合体としては、流動性の改良のための汎用ポリスチレン重合体や強度向上のためのゴム質を含有する耐衝撃性ポリスチレン重合体、メタクリル酸メチル−ブタジエン−スチレン(MBS)重合体等のゴム強化芳香族ビニル系重合体やスチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)等の芳香族ビニル系熱可塑性エラストマーが挙げられる。
【0048】
(添加剤)
添加剤としては、安定剤、滑剤、顔料等が挙げられ、本発明の効果を阻害しない範囲で配合することができる。
【0049】
安定剤としては、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−2−ヒドロキシ−5−メチルベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、2−[1−(2−ヒドロキシ−3,5−ジ−t−ペンチルフェニル)−エチル]−4,6−ジ−ペンチルフェニルアクリレート、n−オクタデシル−3−(4’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤、2,2−メチレンビル(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルフォスファイト、トリスノニルフェニルフォスファイト等の燐系酸化防止剤等が挙げられる。
【0050】
(滑剤)
滑剤としては、メチルフェニルポリシロキサン、脂肪酸、脂肪酸グリセリンエステル、脂肪酸アマイド、炭化水素系ワックス等が挙げられる。
【0051】
(顔料)
顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック等が挙げられる。
【0052】
[第三実施形態]
本発明の重合体組成物は、公知の成形方法により、成形体として用いることができる。具体的な成形方法としては射出成形、押出し成形、中空成形、シートあるいはフィルム成形等が挙げられる。本発明の重合体組成物をシート化したあと、一般的な真空成形、圧空成形やこれらの応用として、シートの片面にプラグを接触させて成形を行うプラグアシスト法、又、シートの両面に一対をなす雄雌型を接触させて成形を行う、いわゆるマッチモールド成形と称される方法等が挙げられるが、これに限定されるものではない。また成形前にシートを加熱軟化させる方法として非接触加熱である赤外線ヒーター等による輻射加熱等、公知のシート加熱方法を適応することができる。また、各種発泡成形技術と組み合わせて、発泡成型体を成型することもできる。
【0053】
本発明の成形体は、その特長、即ち加熱時の剛性、耐熱性、印刷性、成型性、透明性を生かす各種の成形品用途に用いることができる。例えば電気製品材料、雑貨材料、玩具材料、住宅の発泡断熱材、食品容器材料、食品包装材料等のスチレン系重合体の使用が公知の各種用途に好ましく用いることができる。ビニル芳香族炭化水素の単量体、ビニル芳香族炭化水素の低分子量体の含有量が少ないことを生かして、食品と直接接触するような食品容器、食品包装用途に特に好ましく使用できる。例えば各種の食品包装、食品容器、また発泡成形して発泡食品容器、発泡食品包装を好ましく成形できる。
【0054】
食品容器、包装の具体例としては、例えば射出成形、射出中空成形あるいはシート状に二軸延伸加工する等して得られる乳酸飲料容器、プリン容器、ゼリー容器、醤油さし等の食品容器、発泡成形して得られる食品トレー、インスタント麺のどんぶり、弁当箱、飲料、カップ等の食品容器、あるいはシートあるいはフィルム成形して得られる青果物包装、水産物包装等の食品包装が挙げられる。
【0055】
以上、本発明の低分子量体が低減され、拡大された分子量分布を有するビニル芳香族炭化水素系重合体、重合体組成物及び成形体について説明したが、これらは本発明の一実施形態であり、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0056】
以下に、実施例に基づいて、本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0057】
実施例等で用いた各種原料は以下の通りである。
【0058】
(1)単量体
市販のスチレンモノマーをビニル芳香族炭化水素の単量体として使用した。
市販のブタジエンモノマーを購入し、共役ジエンの単量体として使用した。
(2)アニオン重合開始剤
二官能性重合開始剤「1,3−Bis−[9−lithio−1,4,8−trimethyl−1−(2−methyl−butyl)−nona−3,7−dienyl]−benzene」(0.14mmol/mLシクロヘキサン溶液、ロックウッドリチウム社製)を購入し、使用した。以下Bis−Li−DIPBと示す。
単官能性重合開始剤として、n−ブチルリチウム(10質量%シクロヘキサン溶液、(ロックウッドリチウム)社製)を使用した。
(3)二官能性カップリング剤
二官能性カップリング剤として、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル「EX−212L」(ナガセケムテックス社製)及び1,7−オクタジエンジエポキシド(東京化成社製)を使用した。
【0059】
実施例等で作製したビニル芳香族炭化水素系重合体の数平均分子量及び分子量分布は以下の通りに測定した。
GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて標準ポリスチレン換算の数平均分子量を求めた。重合体を1mg/mLの濃度でTHFに溶解させ、THFを溶媒とし、送液速度0.1mL/min、カラムはTSK−GEL MultiporeHXL-M φ7.8×300mm(東ソ−社製)を2本直列に繋いで用いた。ディテクターは示差屈折率計を用いた。
データ処理はシステムインスツルメンツ社製のSIC480データステーションを用い処理を行い、数平均分子量を算出した。
【0060】
[実施例1]
反応容器中に1170gのシクロヘキサンを仕込んだ。次いで、250gのスチレンモノマーを添加し攪拌を行いながら、内温50℃で8.9mLのBis−Li−DIPBを添加し重合させた(モノマーの総和に対し、1.3×10−3mol%の重合開始剤)。重合液を10mLサンプリングした後、30mLの脱水シクロヘキサンに0.371gの1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルを分散させ、添加しカップリングさせた。GPCによりカップリング前後の重合体の分子量測定を実施した。
【0061】
[実施例2]
反応容器中に1170gのシクロヘキサンを仕込んだ。次いで、250gのスチレンモノマーを添加し攪拌を行いながら内温50℃で0.4mLのn−ブチルリチウム(10質量%シクロヘキサン溶液)と13.4mLのBis−Li−DIPBを添加し重合させた(モノマーの総和に対し、2.1×10−3mol%の重合開始剤)。重合液を10mLサンプリングした後、30mLの脱水シクロヘキサンに0.990gの1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルを分散させ、添加しカップリングさせた。GPCによりカップリング前後の重合体の分子量測定を実施した。
【0062】
[実施例3]
反応容器中に1170gのシクロヘキサンを仕込んだ。内温80℃で22.9mLのBis−Li−DIPBを添加した。総量350gのスチレンモノマーと総量50gのブタジエンモノマーをそれぞれ466g/h、66g/hの一定添加速度で両者を同時に添加し、ビニル芳香族炭化水素と共役ジエンのランダム共重合体を重合させた(モノマーの総和に対し、6.7×10−4mol%の重合開始剤)。重合液を10mLサンプリングした後、30mLの脱水シクロヘキサンに0.821gの1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルを分散させ、添加しカップリングさせた。GPCによりカップリング前後の重合体の分子量測定を実施した。
【0063】
[実施例4]
反応容器中に1170gのシクロヘキサンを仕込んだ。次いで、130gのスチレンモノマーを添加し攪拌を行いながら内温50℃で7.8mLのBis−Li−DIPBを添加し重合させた(モノマーの総和に対し、2.1×10−3mol%の重合開始剤)。重合液を10mLサンプリングした後、30mLの脱水シクロヘキサンに0.134gの1,7−オクタジエンジエポキシドに溶解させ、添加しカップリングさせた。GPCによりカップリング前後の重合体の分子量測定を実施した。
【0064】
[実施例5]
反応容器中に1170gのシクロヘキサンを仕込んだ。次いで、250gのスチレンモノマーを添加し攪拌を行いながら、内温50℃で0.4mLのn−ブチルリチウム(10質量%シクロヘキサン溶液)と13.4mLのBis−Li−DIPBを添加し重合させた(モノマーの総和に対し、2.1×10−3mol%の重合開始剤)。重合液を10mLサンプリングした後、30mLの脱水シクロヘキサンに0.495gの1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルを分散させ、添加しカップリングさせた。GPCによりカップリング前後の重合体の分子量測定を実施した。
【0065】
[比較例1]
反応容器中に1170gのシクロヘキサンを仕込んだ。次いで、250gのスチレンモノマーを添加し攪拌を行いながら、内温50℃で0.4mLのn−ブチルリチウム(10質量%シクロヘキサン溶液)と13.4mLのBis−Li−DIPBを添加し重合させた(モノマーの総和に対し、2.1×10−3mol%の重合開始剤)。重合液を10mLサンプリングした後、30mLの脱水シクロヘキサンに0.289gの1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルを分散させ、添加しカップリングさせた。GPCによりカップリング前後の重合体の分子量測定を実施した。
【0066】
[比較例2]
反応容器中に1170gのシクロヘキサンを仕込んだ。次いで、250gのスチレンモノマーを添加し攪拌を行いながら、内温50℃で0.4mLのn−ブチルリチウム(10質量%シクロヘキサン溶液)と13.4mLのBis−Li−DIPBを添加し重合させた(モノマーの総和に対し、2.3×10−3mol%の重合開始剤)。重合液を10mLサンプリングした後、30mLの脱水シクロヘキサンに0.371gの1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルを分散させ、添加しカップリングさせた。GPCによりカップリング前後の重合体の分子量測定を実施した。
【0067】
[比較例3]
反応容器中に1170gのシクロヘキサンを仕込んだ。次いで、250gのスチレンモノマーを添加し攪拌を行いながら、内温50℃で24.6mLのBis−Li−DIPBを添加し重合させた(モノマーの総和に対し、3.5×10−3mol%の重合開始剤)。重合液を10mLサンプリングした後、30mLの脱水シクロヘキサンに1.710gの1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルを分散させ、添加しカップリングさせた。GPCによりカップリング前後の重合体の分子量測定を実施した。
【0068】
[比較例4]
反応容器中に1170gのシクロヘキサンを仕込んだ。次いで、250gのスチレンモノマーを添加し攪拌を行いながら、内温50℃で1.4mLのn−ブチルリチウム(10質量%シクロヘキサン溶液)と8.1mLのBis−Li−DIPBを添加し重合させた(モノマーの総和に対し、1.8×10−3mol%の重合開始剤)。重合液を10mLサンプリングした後、30mLの脱水シクロヘキサンに0.611gの1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルを分散させ、添加しカップリングさせた。GPCによりカップリング前後の重合体の分子量測定を実施した。
【0069】
[比較例5]
反応容器中に1170gのシクロヘキサンを仕込んだ。次いで、250gのスチレンモノマーを添加し攪拌を行いながら、内温50℃で13.8mLのBis−Li−DIPBを添加し重合させた(モノマーの総和に対し、2.2×10−3mol%の重合開始剤)。重合液を10mLサンプリングした後、30mLの脱水シクロヘキサンに1.85gの1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルを分散させ、添加しカップリングさせた。GPCによりカップリング前後の重合体の分子量測定を実施した。
【0070】
実施例等で作製したビニル芳香族炭化水素系重合体のアニオン重合体A1のモル数/カップリング剤のモル数、カップリング前の数平均分子量、カップリング後の数平均分子量、カップリング後の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)、数平均分子量が50万以上の重合体の面積比率、アニオン重合体A1とアニオン重合体A2との総面積に対するアニオン重合体A2の面積比率、使用されたモノマーを表1に記載する。
【0071】
前記実施例1〜5、比較例1〜5で得られた重合液をメタノールに添加することにより、重合体を析出させ、回収し、乾燥した。
【0072】
実施例1〜5、比較例1〜5の重合体30質量%と耐衝撃性ポリスチレン(E640 東洋スチレン社製)70質量%をそれぞれドライブレンドした後、ラボプラストミルμ(東洋精機社製)を使用し、回転数15rpm、ダイス温度210℃でペレット化を行った。
【0073】
<一軸伸長粘度の測定>
[伸長粘度の傾き:S]を算出するための一軸伸長粘度の測定は以下の機器及び条件で測定した。得られたペレットを200℃で溶融させ直径1mmの円柱状にしたものを用いた。
測定機器:東洋精機製作所社製 マイスナー型 メルテンレオメータ
使用オイル:東レ・ダウ コーニングシリコーン株式会社製 SRX310
測定条件:一定歪速度伸長 歪み速度0.1[sec−1]
測定温度:140℃
【0074】
一軸伸長粘度の測定結果は、横軸を測定開始からの伸長時間[sec]、縦軸を一軸伸長粘度η[Pa・sec]の常用対数(LOG)値としてプロットした。そして、伸長開始後7.0secのときと、14.0secのときの一軸伸長粘度をそれぞれη7.0及びη14.0とし、2点間の傾きSを以下の式IIIに従い算出し、表1に「伸長粘度の傾き:S」として示した。
(式III)
S=(LOGη14.0−LOGη7.0)/(14.0−7.0)
この傾きが大きいということは、フィルムの延伸に大きな力を要することを表し、その結果シートが過膨張しづらくなり成形体の肉厚が均一になりやすいことを意味する。表1に示されるように、本発明の重合体組成物の伸長粘土の傾きは、0.048以上が好ましく、0.05以上がより好ましい。
【0075】
<偏肉性の評価>
ペレット化した重合体は加熱プレス法(温度200℃、時間3分間、圧力50kg/cm)により成形し、厚さ1.0mm、300mm角のシ−トを得た。
【0076】
得られたシートを、真空成形機((株)浅野研究所FK−0431−10)を用いて開口部直径65mm、底部直径40mm、高さ80mmのコップに成形した。
【0077】
成形したコップを縦に半分に切断し、10mm間隔で17か所の肉厚を測定した。成形品の偏肉性については、成形品開口部より10mm底部側の箇所の肉厚を基準肉厚として、それに対する最少肉厚で評価した。
良:最少肉厚/基準肉厚≧0.70
可:0.70>最少肉厚/基準肉厚≧0.50
不可:0.50>最少肉厚/基準肉厚、もしくはシートの破裂
【0078】
表1に示されるように、本発明の重合体を含有する重合体組成物を用いて成形される成形体は、肉厚が均一な成形体であることが分かる。
【0079】
【表1】
図1
図2