(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
白金又は白金合金を含む触媒金属粒子及び前記触媒金属粒子を担持している担体粒子を含む燃料電池用電極触媒であって、前記担体粒子は、直径2nm以下の累積細孔容積が0.09cc/g以下で、かつBET比表面積が900m2/g超の炭素質材料である、燃料電池用電極触媒。
直径が2nm以下の前記触媒金属粒子の個数の割合が、前記触媒金属粒子の全個数に対して、23%以下である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の燃料電池用電極触媒。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の燃料電池用電極触媒は、白金又は白金合金を含む触媒金属粒子及び触媒金属粒子を担持している担体粒子を含む。その担体粒子は、直径2nm以下の累積細孔容積が0.10cc/g以下で、かつBET比表面積が900m
2/g超の炭素質材料である。
【0010】
特許文献12は、直径6nm以下の累積細孔容積を低くし、かつBET比表面積を適度な範囲にした担体粒子を用いることによって、触媒金属粒子の分散性を高めることができ、それにより燃料電池の出力を向上させることができると開示している。特に、特許文献12は、BET比表面積が900m
2/g超の担体粒子を用いた場合、担体粒子の細孔内に触媒金属粒子が埋没することによって、有効に機能する触媒金属粒子が減少し、出力が低下すると開示している。
【0011】
しかしながら、本発明者らは、担体粒子としてBET比表面積が900m
2/g超の炭素質材料を用いた場合であっても、その直径2nm以下の累積細孔容積が0.10cc/g以下である場合には、初期活性が高く、かつその活性を長期間維持できる燃料電池用電極触媒が得られることを見出した。
【0012】
理論に拘束されないが、本発明の燃料電池用電極触媒は、BET比表面積が900m
2/g超の炭素質材料を担体粒子として用いることによって、触媒金属粒子の凝集を防止することができ、それにより比較的小さい粒径の触媒金属粒子を高分散の状態で担体粒子に担持することができる。また、炭素質材料の直径2nm以下の累積細孔容積を0.10cc/g以下とすることによって、細孔内に触媒金属粒子が埋没することが抑制でき、かつ直径2nm以下の触媒金属粒子の割合を低下させることができる。直径2nm以下の触媒金属粒子は、強度が弱い結晶面が多く、触媒活性も低いという傾向があり、触媒の劣化起点にもなるため、このような触媒金属粒子を減らしつつ、直径2nmより大きく比較的小さい粒径の触媒金属粒子を増加させた本発明の燃料電池用電極触媒は、初期活性が高く、かつその活性を長期間維持できたと考えられる。
【0013】
〈担体粒子〉
本発明で使用される担体粒子は、直径2nm以下の累積細孔容積が0.10cc/g以下で、かつBET比表面積が900m
2/g以上の炭素質材料である。一般的には、BET比表面積が高い炭素質材料には、直径の小さな細孔が多く存在するため、直径2nm以下の累積細孔容積が0.10cc/g以下で、かつBET比表面積が900m
2/g以上である炭素質材料は、非常に小さな細孔(直径2nm以下の細孔)は少ないが、比較的小さな細孔(例えば直径2nm〜6nm又は直径2nm〜10nmの細孔)が多い炭素質材料であるといえる。
【0014】
本明細書において、累積細孔容積は、ガス吸着量測定装置(島津製作所社製「Tri−Star3000」)により、吸着質として窒素ガスを使用し、測定温度77.4KにてBJH法により測定した値である。
【0015】
本発明で使用される担体粒子の炭素質材料の直径2nm以下の累積細孔容積は、0.20cc/g以下、0.10cc/g以下、又は0.08cc/g以下であってもよく、0.01cc/g以上、0.03cc/g以上、0.05cc/g以上、0.06cc/g以上、0.08cc/g以上であってもよい。例えば、直径2nm以下の累積細孔容積は、0.01cc/g以上0.20cc/g以下、又は0.03cc/g以上0.10cc/g以下であってもよい。
【0016】
本発明で使用される担体粒子の炭素質材料は、直径2nm以下の累積細孔容積が上記のように低いことが好ましいが、直径6nm以下の累積細孔容積は比較的高いことが好ましい。例えば、その炭素質材料の直径6nm以下の累積細孔容積は、0.25cc/g以上、0.30cc/g以上、0.40cc/g以上、0.50cc/g以上、0.60cc/g以上、0.80cc/g以上であってもよく、1.20cc/g以下、1.00cc/g以下、0.90cc/g以下又は0.80cc/g以下であってもよい。例えば、直径6nm以下の累積細孔容積は、0.25cc/g以上1.20cc/g以下、又は0.50cc/g以上1.00cc/g以下であってもよい。
【0017】
その炭素質材料の直径10nm以下の累積細孔容積は、0.50cc/g以上、0.60cc/g以上、0.70cc/g以上、0.80cc/g以上、0.90cc/g以上であってもよく、1.50cc/g以下、1.30cc/g以下、1.10cc/g以下、1.00cc/g以下、0.90cc/g以下又は0.80cc/g以下であってもよい。例えば、直径10nm以下の累積細孔容積は、0.50cc/g以上1.50cc/g以下、又は0.70cc/g以上1.00cc/g以下であってもよい。
【0018】
その炭素質材料の全累積細孔容積は、0.80cc/g以上、0.90cc/g以上、1.00cc/g以上、1.10cc/g以上、1.20cc/g以上であってもよく、2.00cc/g以下、1.50cc/g以下、1.30cc/g以下又は1.20cc/g以下であってもよい。例えば、その全累積細孔容積は、0.80cc/g以上2.00cc/g以下で、又は1.00cc/g以上1.50cc/g以下であってもよい。
【0019】
その炭素質材料の全累積細孔容積に対する直径2nm以下の累積細孔容積の割合は、0.20以下、0.10以下、0.08以下、又は0.06以下であってもよく、0.01以上、0.03以上、0.05以上、又は0.06以上であってもよい。また、その炭素質材料の全累積細孔容積に対する直径6nm以下の累積細孔容積の割合は、0.80以下、0.70以下、又は0.60以下であってもよく、0.40以上、0.50以上、又は0.60以上であってもよい。例えば、その割合は、0.01以上0.50以下、又は0.02以上0.10以下であってもよい。
【0020】
炭素質材料のBET比表面積は、900m
2/g以上、950m
2/g以上、1000m
2/g以上、又は1100m
2/g以上であってもよく、2500m
2/g以下、2000m
2/g以下、1800m
2/g以下、1500m
2/g以下、1200m
2/g以下、又は1000m
2/g以下であってもよい。このような範囲である場合には、得られる白金合金の粒径が、適度な大きさであり、かつ比較的均一となることが分かった。BET比表面積は、JIS K6217−2に従って測定することができる。例えば、そのBET比表面積は、900m
2/g以上1500m
2/g以下、又は900m
2/g以上1200m
2/g以下であってもよい。
【0021】
炭素質材料の種類は、上記のような細孔容積及びBET比表面積であれば特に限定されないが、例えば、黒鉛、活性炭、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、中実カーボン、中空カーボン、樹状カーボン、及びこれらの組合せが挙げられる。中実カーボン及び中空カーボンとしては、特許文献8に記載のようなカーボンを挙げることができ、樹状カーボンとしては、特許文献9〜11に記載のようなカーボンを挙げることができる。また、特許文献13に記載のような炭素多孔体を使用してもよい。
【0022】
担体粒子の平均粒径は、好ましくは、30μm以下、20μm以下、又は10μm以下であってもよく、0.1μm以上、0.5μm以上、1.0μm以上、5.0μm以上、又は10μm以上であってもよい。例えば、その平均粒径は、0.1μm以上30μm以下、又は1.0μm以上10μm以下であってもよい。この場合、平均粒径は、電子顕微鏡によって任意の位置で撮影した多数の写真に基づいて、個数平均の等価直径から計算することができる。なお、等価直径とは、その面の外周長さと等しい外周長さを有する正円の直径をいう。
【0023】
上記のような担体粒子は、例えば炭素質材料がカーボンブラックである場合、原料のカーボンブラックに賦活処理を行って、BET比表面積が非常に高いカーボンブラックを得た後に、さらに不活性ガス中で熱処理を行うことによって、直径2nm以下の累積細孔容積の割合を低下させることによって得ることができる。なお、賦活処理が終わった後のカーボンブラックのBET比表面積は、この熱処理によって通常低下する。このような熱処理は、従来からカーボンブラックの結晶性を発達させるためにも行われており、例えば不活性ガス中、1500〜2100℃での熱処理を挙げることができる。また、原料のカーボンブラック及び賦活処理については、本分野について周知のものを採用することができる。
【0024】
〈触媒金属粒子〉
本発明で使用される触媒金属粒子は、白金又は白金合金を含み、好ましくは白金又は白金合金の粒子、特に好ましくは白金合金の粒子である。触媒金属粒子の平均粒径は、2.8〜3.8nmの範囲であることが好ましい。
【0025】
触媒金属粒子の平均粒径は、2.8nm以上、2.9nm以上、3.0nm以上、3.2nm以上、又は3.4nm以上であってもよく、4.0nm以下、3.8nm以下、3.6nm以下、3.5nm以下、又は3.4nm以下であってもよい。また、触媒金属粒子の粒径の標準偏差は、1.50nm以下、1.35nm以下、1.25nm以下、1.20nm以下、1.15nm以下、1.10nm以下、又は1.05nm以下であってもよく、0.10nm以上、0.30nm以上、0.50nm以上、0.80nm以上、0.90nm以上、又は0.95nm以上であってもよい。触媒金属粒子の粒径がこのような範囲である場合には、電極触媒の初期活性が高く、かつその活性を長期間維持できる傾向にある。例えば、その触媒金属粒子の平均粒径は、2.8nm以上4.0nm以下、又は2.9nm以上3.6nm以下であってもよい。
【0026】
触媒金属粒子の平均粒径はX線回折の測定ピークから、解析ソフトJADEを用いて算出する。この場合、平均粒径は、個数平均の平均粒径となる。触媒金属粒子の粒径の標準偏差は、X線小角散乱法によって解析ソフトを用いて算出することができる。解析ソフトとしては、例えば、nano−solver(株式会社リガク製)等を挙げることができる。
【0027】
触媒金属粒子に白金合金が含まれる場合、白金合金の種類は、燃料電池用電極触媒として機能するのであれば、特に限定されない。例えば、白金合金は、鉄、クロム、ニッケル、コバルト、テルビウム、イットリウム、ガドリニウム、ルテニウム及びこれらの組合せからなる群より選択される金属と、白金との合金であってもよく、好ましくは、ニッケル、コバルト、テルビウム、イットリウム、ガドリニウム、ルテニウム及びこれらの組合せからなる群より選択される金属と、白金との合金であり、特に好ましくは白金とコバルトとの合金である。
【0028】
白金と、白金合金を形成する金属とのモル比は、1以上:1、2以上:1、4以上:1、5以上:1、又は10以上:1であってもよく、100以下:1、50以下:1、30以下:1、20以下:1、又は10以下:1であってもよい。例えば、白金とコバルトとの合金のモル比は、4:1〜11:1の範囲であってもよい。
【0029】
本発明の燃料電池用電極触媒における触媒金属粒子の含有量は、担体粒子と触媒金属粒子との合計重量を基準として、10重量%以上、20重量%以上、30重量%以上、35重量%以上、40重量%以上、又は45重量%以上であってもよく、70重量%以下、60重量%以下、55重量%以下、50重量%以下、45重量%以下、40重量%以下、又は35重量%以下であってもよい。
【0030】
《燃料電池》
本発明の燃料電池は、上記の電極触媒を含む。この燃料電池は、上記の電極触媒及びアイオノマーを基材上に含む電極と、電解質、特に高分子電解質とを含んでもよい。
【0031】
アイオノマーの種類としては、例えば、Du Pont社製のNafion(商標)DE2020、DE2021、DE520、DE521、DE1020及びDE1021、並びに旭化成ケミカルズ(株)製のAciplex(商標)SS700C/20、SS900/10及びSS1100/5等を挙げることができる。
【0032】
燃料電池の種類としては、固体高分子形燃料電池(PEFC)、リン酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体酸化物形燃料電池(SOFC)、アルカリ電解質形燃料電池(AFC)、直接形燃料電池(DFC)等を挙げることができる。特に限定するものではないが、燃料電池は固体高分子形燃料電池であることが好ましい。
【0033】
上記電極触媒を含む電極はカソードとして使用してもよいし、アノードとして使用してもよいし、カソード及びアノードの両方として使用してもよい。
【0034】
燃料電池は、セパレータを更に含んでいてもよい。一対の電極(カソード及びアノード)と電解質膜とからなる膜電極接合体(MEA)を一対のセパレータで挟持した単セルを積み重ね、セルスタックを構成することにより、高い電力を得ることができる。燃料電池は、さらにガス拡散層等を有していてもよい。
【0035】
図1に、上記の電極を含むアノード電極層(20)及びカソード電極層(30)を、プロトン伝導性を有する電解質膜(10)の両面に有する膜電極接合体(100)を示す。また、
図1にこの膜電極接合体(10)、アノード側ガス流路(21)、アノード側ガス拡散層(22)、アノード側セパレータ(23)、カソード側ガス流路(31)、カソード側ガス拡散層(32)、及びカソード側セパレータ(33)を単セルとして具備する、燃料電池(200)も示す。
【0036】
《燃料電池用電極触媒の製造方法》
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法は、触媒金属粒子を構成する金属を担持した担体粒子を、熱処理をすることを含む。本発明の方法によって得られる燃料電池用電極触媒は、上記の燃料電池用電極触媒であってもよく、触媒金属粒子及び担体粒子は、上記の燃料電池用電極触媒に関して説明したものを使用することができる。
【0037】
《担持工程》
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法は、触媒金属粒子を担体粒子に担持する工程を含んでもよい。触媒金属粒子を担体粒子に担持する工程は、白金酸塩溶液を担体粒子と接触させること、還元剤によって白金酸塩を還元することを含んでもよい。白金酸塩溶液としては、例えばジニトロジアンミン白金硝酸溶液を挙げることができる。
【0038】
白金酸塩溶液を担体粒子と接触させる工程では、担体粒子を水系溶媒に分散させて、白金酸塩溶液と混合することができ、この場合、水系溶媒を酸性にすることによって白金酸塩溶液の混合の際に発生しうる沈殿の発生を抑制してもよい。
【0039】
還元剤としては、特に限定されないが、アルコール、例えばエタノールを使用することができる。還元工程においては、還元剤を添加した後に、加熱処理を行うことができる。加熱処理の条件は、還元剤の種類によって異なるが、例えばエタノールを還元剤として使用する場合には、60℃〜90℃の温度で、1時間〜3時間程度加熱することができる。
【0040】
還元工程のあとに、白金粒子及び担体粒子を分散液から分離して、例えばろ過によって分離して、白金粒子及びそれを担持した担体粒子を得てもよい。白金粒子及びそれを担持した担体粒子を分離した後、洗浄及び/又は乾燥を行ってもよい。
【0041】
触媒金属粒子として、白金合金を使用する場合には、白金粒子及びそれを担持した担体粒子をさらに水系溶媒に分散させて、白金合金を形成する金属の酸塩溶液と接触させることを含んでもよい。例えば、白金合金を形成する金属がコバルトである場合、その酸塩溶液としては、硝酸コバルト溶液を用いることができる。この場合、還元剤によってその金属の酸塩を還元し、白金合金を形成する金属と白金とを一定程度合金化することができる。還元工程のあとに、白金合金粒子及び担体粒子を分散液から分離して、例えばろ過によって分離して、白金合金粒子及びそれを担持した担体粒子を得てもよい。白金合金粒子及びそれを担持した担体粒子を分離した後、洗浄及び/又は乾燥を行ってもよい。
【0042】
〈熱処理工程〉
このようにして触媒金属粒子を担体粒子に担持させたあと、触媒金属粒子及びそれを担持した担体粒子を、熱処理を行い、例えば830℃以上の温度で0.2時間以上2時間以内で熱処理を行ってもよい。この熱処理は、比較的短時間でかつ高温で行うことが触媒金属粒子の粒径分布の観点から好ましい。
【0043】
熱処理は、830℃以上、850℃以上、880℃以上、900℃以上、又は930℃以上の温度であってもよく、その最高温度は、1100℃以下、1050℃以下、1000℃以下、980℃以下、950℃以下、930℃以下、900℃以下、又は880℃以下であってもよい。
【0044】
830℃以上で行われる熱処理の時間は、2時間以内、1.8時間以内、1.5時間以内、1.2時間以内、1.0時間以内、0.8時間以内、又は0.5時間以内であってもよい。この熱処理では、880℃以上で行われる熱処理の時間が、1.5時間以内、1.2時間以内、1.0時間以内、0.8時間以内、又は0.5時間以内であってもよく、920℃以上で行われる熱処理の時間が、1.0時間以内、0.8時間以内、又は0.5時間以内であってもよい。また、これらの熱処理は、0.2時間以上、0.3時間以上、0.5時間以上、0.8時間以上、1.0時間以上、又は1.5時間以上行ってもよい。このような熱処理を長時間行うと触媒金属粒子の粒径分布が不均一化する傾向があることが分かった。
【0045】
熱処理は、例えば、830℃以上880℃以下の温度で2時間以内又は1.8時間以内行うか、880℃超920℃以下の温度で1.5時間以内又は1.2時間以内で行うか、920℃超980℃以下の温度で0.8時間以内又は0.5時間以内で行ってもよい。例えば、880〜980℃の温度で1.5時間以内、1.0時間以内又は0.5時間以内で行ってもよい。
【0046】
熱処理時の昇温速度及び冷却速度は、熱処理が十分に行える範囲であれば、特に限定されない。例えば、昇温速度は、3℃/分以上、5℃/分以上、10℃/分以上、又は15℃/分以上であってもよく、30℃/分以下、20℃/分以下、又は15℃/分以下であってもよい。冷却速度は、10℃/分以上、20℃/分以上、30℃/分以上、又は50℃/分以上であってもよく、80℃/分以下、50℃/分以下、又は30℃/分以下であってもよい。
【0047】
熱処理時の雰囲気は、炭素質材料が酸化しないように、不活性雰囲気下又は還元雰囲気下で行われることが好ましい。
【0048】
〈酸処理工程〉
本発明の燃料電池用電極触媒の製造方法は、さらに酸処理工程を含むことができる。
【0049】
酸処理工程では、中実カーボン担体に担持されたPtCo合金を好ましくは70〜90℃、より好ましくは75〜85℃で酸処理する。このような温度で酸処理することによって、反応に寄与しないCoを十分に除去することができる。これにより、Coの溶出を抑制することができる。
【0050】
酸処理工程において使用する酸としては、例えば、無機酸(硝酸、リン酸、過マンガン酸、硫酸、塩酸等)、有機酸(酢酸、マロン酸、シュウ酸、ギ酸、クエン酸、乳酸等)を挙げることができる。
【0051】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明をするが、本発明はこれによって限定されるものではない。
【実施例】
【0052】
《製造例》
〈実施例1〉
特許文献9〜11に記載のような樹状カーボンブラック(BET比表面積1300m
2/g、直径2nm以下の累積細孔容積が0.15cc/g)を不活性ガス中で、2000℃で0.5時間加熱処理を行った後に、空気中で、480℃で5時間賦活処理をすることによって、直径2nm以下の累積細孔容積が0.09cc/gで、かつBET比表面積が1180m
2/gであるカーボンブラックを得た。
【0053】
このカーボンブラック粉末0.6グラムを、1リットルの0.1Nの硝酸水溶液に分散させた。この分散液に、白金の担持率が40重量%となるように、白金量0.4グラムを含むジニトロジアンミン白金硝酸溶液を加え、還元剤として99.5%のエタノール27グラムをさらに加え、十分に馴染ませた。そして、エタノールを還元剤として、60℃〜90℃で1〜3時間加熱を行った。この還元処理後の分散液を、ろ液の廃液の電導率が50μS/cm以下になるまで繰返しろ過洗浄を行った。ろ過洗浄して得られた粉末ケーキを、80℃で15時間以上送風乾燥し、白金担持カーボンを得た。
【0054】
白金担持カーボンを、カーボン量に対して80倍の純水に分散させ、硝酸コバルト水溶液を滴下投入した。この硝酸コバルト水溶液は、市販の硝酸コバルト6水和物を純水に溶解させて調製されており、白金:コバルトのモル比が7:1となるように使用された。硝酸コバルト水溶液を投入した後、さらに純水に溶解した水素化ホウ素ナトリウムをコバルトモル量の1〜6倍滴下投入し、1〜20時間程度撹拌した。その分散液を、ろ液の廃液の電導率が5μS/cm以下になるまで繰返しろ過洗浄を行った。ろ過洗浄して得られた粉末ケーキを、80℃で15時間以上送風乾燥し、白金合金担持カーボンを得た。
【0055】
このようにして得た白金合金担持カーボンを、アルゴン雰囲気中で、900℃1時間の条件で熱処理をした。これにより、実施例1の燃料電池用電極触媒を得た。
【0056】
〈実施例2及び比較例1〜4〉
カーボンブラックについて行った熱処理の条件を変更することによって、表1に記載のような累積細孔容積及びBET比表面積を有するカーボンブラックを準備し、これらを使用したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2及び比較例1〜4の燃料電池用電極触媒を得た。
【0057】
〈実施例3〉
特許文献13に記載のような炭素多孔体を得るために、水酸化リチウム水和物を0.04mol/Lとなるように純水に溶解させ、テレフタル酸100mol等量及び水酸化カルシウム90mol等量を加えて混合した。この混合物を密閉状態で48時間放置して複合塩を得た後に、100℃で乾燥させてカーボンブラック前駆体を得た。この前駆体を、600℃、5時間で熱処理した後に、純水に懸濁し、撹拌しながら塩酸を添加して、pHを3以下とした。その後、ろ過して得られた残渣を100℃で乾燥した。その乾燥した残渣を、真空中で2000℃、1時間熱処理をして、その後、空気中で、450℃、1時間熱処理をして、炭素多孔体である炭素質材料を得た。
【0058】
このようにして得られた炭素質材料を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3の燃料電池用電極触媒を得た。
【0059】
《評価》
【0060】
〈BET比表面積〉
担体粒子のBET比表面積は、JIS K6217−2に従って、島津製作所社製Tri−Star3000を用いて測定した。
【0061】
〈累積細孔容積〉
累積細孔容積は、ガス吸着量測定装置(島津製作所社製「Tri−Star3000」)により、吸着質として窒素ガスを使用し、測定温度77.4KにてBJH法により測定した値である。
【0062】
〈粒径測定〉
調製した触媒金属粒子の平均粒径は、X線回折のPt(220)面の測定ピークから、解析ソフトJADEを用いて算出した。また、TEM測定の画像解析から、2nm以下の触媒金属粒子の割合を求めた。
【0063】
〈初期触媒活性〉
実施例及び比較例で製造した電極触媒を有機溶媒に分散させ、分散液をテフロン(商標)シートへ塗布して電極を形成した。電極をそれぞれ高分子電解質膜を介してホットプレスによって貼り合わせ、その両側に拡散層を配置して固体高分子形燃料電池用の単セルを作製した。
【0064】
セル温度を80℃、両電極の相対湿度を100%とし、スモール単セル評価装置システム(株式会社東陽テクニカ製)を用いて、サイクリックボルタンメトリー(CV)及びIV測定を行った。
【0065】
IV測定については、0.01〜1.0A/cm
2の範囲で任意に電流を制御した。0.86V時のPt質量当たりの電流値を、初期触媒活性と定義した。
【0066】
〈活性維持率〉
初期触媒活性を試験した燃料電池セルについて、2000回の充放電を繰り返した後に、再度IV測定を行った。初期触媒活性の電流値に対する充放電試験後の電流値に対する割合(%)を計算し、その値を活性維持率と定義した。
【0067】
《結果》
結果を以下の表に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
表1から、直径2nm以下の累積細孔容積が0.10cc/g以下で、かつBET比表面積が900m
2/g超のカーボンブラックを含む触媒を用いた実施例1〜3が、高い初期活性と活性維持率とを両立できていることが分かる。