(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6956906
(24)【登録日】2021年10月7日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】繊維シート及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08J 9/00 20060101AFI20211021BHJP
C08K 3/00 20180101ALI20211021BHJP
C08K 5/544 20060101ALI20211021BHJP
C08L 23/10 20060101ALI20211021BHJP
D04H 13/00 20060101ALI20211021BHJP
【FI】
C08J9/00 ACER
C08K3/00
C08K5/544
C08L23/10
D04H13/00
【請求項の数】15
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2020-565697(P2020-565697)
(86)(22)【出願日】2019年12月25日
(86)【国際出願番号】JP2019050930
(87)【国際公開番号】WO2020145152
(87)【国際公開日】20200716
【審査請求日】2021年5月14日
(31)【優先権主張番号】特願2019-1866(P2019-1866)
(32)【優先日】2019年1月9日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 健一
【審査官】
河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−8873(JP,A)
【文献】
特開2003−312155(JP,A)
【文献】
特開2013−166804(JP,A)
【文献】
特開2018−95874(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2016/0376436(US,A1)
【文献】
特開2016−160267(JP,A)
【文献】
特開2014−224240(JP,A)
【文献】
特開2012−7156(JP,A)
【文献】
特開2012−193224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J9/00− 9/42
C08K3/00− 13/08
C08L1/00−101/14
D04H1/00− 18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を含み且つ一方向に沿って延びる複数の幹繊維と、該熱可塑性樹脂と同種の熱可塑性樹脂を含み且つ該幹繊維間に延在するとともに該幹繊維よりも細径のフィブリル繊維とを有し、
複数の前記幹繊維は、一の幹繊維と該幹繊維から分岐した他の幹繊維とを含むとともに、該幹繊維間に空隙を有し、
前記幹繊維に複数の無機粒子が保持されており、
前記無機粒子は、該無機粒子の一部又は全部が前記幹繊維から露出するように配置されており、
前記無機粒子の含有量が、10質量%以上70質量%以下である、繊維シート。
【請求項2】
前記フィブリル繊維は、その繊維径が250nm以下であり、
前記幹繊維は、その繊維径が250nm超である、請求項1に記載の繊維シート。
【請求項3】
空孔体積率が50%以上98%以下である、請求項1または2に記載の繊維シート。
【請求項4】
前記フィブリル繊維は、少なくとも一本の前記幹繊維から分岐するように形成されている、請求項1ないし3のいずれか一項に記載の繊維シート。
【請求項5】
前記無機粒子は、酸化亜鉛、炭酸カルシウム及び活性炭のうち一種以上である、請求項1ないし4のいずれか一項に記載の繊維シート。
【請求項6】
前記熱可塑性樹脂がポリプロピレンであり、且つポリプロピレンのβ晶核剤を含む、請求項1ないし5のいずれか一項に記載の繊維シート。
【請求項7】
前記無機粒子の平均粒子径が50nm以上8μm以下である、請求項1ないし6のいずれか一項に記載の繊維シート。
【請求項8】
前記幹繊維の繊維径に対する前記無機粒子の平均粒子径の比率が、0.1以上10以下である、請求項1ないし7のいずれか一項に記載の繊維シート。
【請求項9】
前記フィブリル繊維の繊維径に対する前記無機粒子の平均粒子径の比率が0.1以上10以下である、請求項1ないし8のいずれか一項に記載の繊維シート。
【請求項10】
清掃用である、請求項1ないし9のいずれか一項に記載の繊維シート。
【請求項11】
請求項1ないし10のいずれか一項に記載の繊維シートの製造方法であって、
熱可塑性樹脂の融点をM(℃)としたときに、熱可塑性樹脂及び無機粒子を含む樹脂シートを(M−40)℃以上(M−15)℃以下に加熱して、該シートの面積が2.5倍以上10倍以下になるように一軸延伸する、繊維シートの製造方法。
【請求項12】
前記無機粒子の分散剤を更に含む前記樹脂シートを一軸延伸する、請求項11に記載の繊維シートの製造方法。
【請求項13】
JIS K 7210に準じて測定されたメルトフローレートが2g/10min以上である前記熱可塑性樹脂を用いる、請求項11又は12に記載の繊維シートの製造方法。
【請求項14】
3mm/秒以上1000mm/秒以下である延伸速度で前記樹脂シートを一軸延伸する、請求項11ないし13のいずれか一項に記載の繊維シートの製造方法。
【請求項15】
前記熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを用い、且つポリプロピレンのβ晶核剤を含む前記樹脂シートを一軸延伸する、請求項11ないし14のいずれか一項に記載の繊維シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維シート及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
無機粒子を含有する多孔質のフィルムが、さまざまな用途に使用されている。例えば特許文献1には、熱可塑性樹脂30〜80重量%、並びに二種の表面処理剤により表面処理された無機及び/又は有機微細粉末を70〜20重量%含有する多孔性樹脂フィルムが記載されている。このフィルムは、水性インクを用いる印刷用途や、水系溶媒を用いる用途に利用可能であることが同文献に記載されている。
【0003】
また、特許文献2には、高分子と無機粒子とを含む組成物から構成され、微小孔の平均孔径が0.01〜10μmであり、空孔率が30〜85%である多数の微小孔が存在する多孔質膜が記載されている。この多孔質膜は、電子ペーパー用フィルム、光電極、電磁波制御材等に使用可能であることが同文献に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−181423号公報
【特許文献2】特開2012−167181号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明は、繊維シートに関する。
一実施形態では、前記繊維シートは、熱可塑性樹脂を含み且つ一方向に沿って延びる複数の幹繊維と、該熱可塑性樹脂と同種の熱可塑性樹脂を含み且つ該幹繊維間に延在するとともに該幹繊維よりも細径のフィブリル繊維とを有する。
一実施形態では、複数の前記幹繊維は、一の幹繊維と該幹繊維から分岐した他の幹繊維とを含むとともに、該幹繊維間に空隙を有する。
一実施形態では、前記幹繊維に複数の無機粒子が保持されている。
【0006】
また本発明は、前記繊維シートの製造方法に関する。
一実施形態では、熱可塑性樹脂及び無機粒子を含む樹脂シートを一軸延伸する工程を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本発明の繊維シートの一実施形態におけるシート面の走査電子顕微鏡像である。
【
図2】
図2(a)ないし(c)は、実施例の繊維シートにおけるシート面の走査電子顕微鏡像である。
【
図3】
図3(a)及び(b)は、実施例及び比較例の繊維シートにおけるシート面の走査電子顕微鏡像である。
【
図4】
図4(a)ないし(c)は、比較例の繊維シートにおけるシート面の走査電子顕微鏡像である。
【
図5】
図5(a)は、実施例1及び比較例4の繊維シートにおける油性汚れの吸着性の結果を示すグラフであり、
図5(b)は、シートの浸漬前後における油脂含有乳化液と繊維シートとの状態を示す写真である。
【
図6】
図6は、実施例及び比較例の繊維シートを用いたときの、油性汚れの吸着性評価における清掃対象面の写真である。
【
図7】
図7(a)及び(b)は、実施例のシート面の走査電子顕微鏡像であり、
図7(c)及び(d)は、
図7(a)及び(b)のシート面におけるフィブリル繊維の形成部分を拡大したときの走査電子顕微鏡像である。
【0008】
皮脂等の油性汚れを除去するための繊維シートとして、熱可塑性樹脂からなる極細繊維を含むシートが知られている。このシートは一般に、熱可塑性樹脂を含み、且つ分割割繊された分割型複合繊維から得られる極細繊維をシート化させて製造されるところ、この製造方法は工程が複雑であり、経済的な観点から有利とはいえない。特許文献1及び特許文献2に記載の多孔質フィルムは、その製造方法自体は複雑なものではないが、これらの文献には清掃用途、並びに油性汚れの吸着保持及び除去性能に関して何ら考慮されておらず、仮にこれらの文献に記載の多孔質フィルムを油性汚れの除去に用いた場合であっても、油性汚れの除去性能は十分なものとはいえない。
【0009】
本発明は、上述した課題を解決し得る繊維シートに関する。以下、本発明の繊維シートをその好ましい実施形態に基づき説明する。本発明の繊維シートは、清掃、清拭、ろ過及び吸着等の用途に用いられるシートであり、例えば、床面、壁面、天井及び柱等の建物の清掃、建具や備品の清掃、物品の拭き取り、皮膚及び頭皮等の身体、身体に係る器具並びに衣類の清拭、水などの液体や空気等の気体中に分散した油性汚れのろ過及び吸着による清浄等に用いられる。
【0010】
本発明の繊維シートは、複数の幹繊維と、該幹繊維よりも細径のフィブリル繊維とを有しており、幹繊維及びフィブリル繊維はともに熱可塑性樹脂を含んでいる。本明細書におけるフィブリル繊維は、その繊維径が250nm以下であるものを指し、繊維径が250nm超であるものは幹繊維とする。
図1に示すように、繊維シート1は、一方向に沿って延びる幹繊維2を複数有している。複数の幹繊維2は、それらのうちの任意の一本の幹繊維2aに着目したときに、前記幹繊維2aと、前記幹繊維2aから分岐した他の幹繊維2bとを含んでいる。幹繊維2aは他の幹繊維から分岐した構造となっており、幹繊維2どうしが一部接合した接合点2pを有している。各幹繊維2a,2bの太さは、接合点2pが形成されている部位の太さよりも細くなっている。幹繊維2の太さは、他の幹繊維2と同じであるか、又は異なっている。幹繊維2の断面形状は、真円形、楕円形等の円形状、三角形、四角形、五角形等の多角形状、板状又はこれらの組み合わせであり得る。幹繊維2は、これらの形状の組み合わせを一本の幹繊維2に有していてもよく、各幹繊維2がそれぞれ上述した形状のいずれかとなっていてもよい。
【0011】
各幹繊維2a,2bの間には、熱可塑性樹脂が存在しない空隙がシート面方向及び厚み方向に貫通して三次元的に存在し、これとともに該空隙が連通して、繊維シート1における微細な空孔を形成している。この空孔は、一般に開空孔となっている。
【0012】
繊維シート1は、幹繊維2よりも細径のフィブリル繊維3を複数有する。フィブリル繊維3は、幹繊維2,2どうしの間に延在しており、少なくとも一本の幹繊維2から分岐するように形成されている。フィブリル繊維3の形成態様としては、例えば(i)一本の幹繊維2から分岐し、フィブリル繊維3の一端は幹繊維2に結合した固定端であり、フィブリル繊維3の他端は他の繊維と結合していない自由端であるか、又は(ii)一本の幹繊維2から分岐し、フィブリル繊維3の一端は幹繊維2と結合し、フィブリル繊維3の他端は該幹繊維2と同一の若しくは異なる幹繊維2に結合するか、若しくは他のフィブリル繊維3に結合した固定端である態様が挙げられる。これらのうち、油性汚れの吸着保持及び除去性能を高める観点から、フィブリル繊維3は、上述した(ii)の態様で存在していることが好ましい。
【0013】
フィブリル繊維3は、幹繊維2から枝分かれするように形成されたものであり、フィブリル繊維3は幹繊維2と同種の熱可塑性樹脂を含み、好ましくは幹繊維2及びフィブリル繊維3はともに同一の熱可塑性樹脂を含んで形成されている。フィブリル繊維3の太さは、他のフィブリル繊維3と同じであるか、又は異なっている。フィブリル繊維3の断面形状は、真円形、楕円形等の円形状、三角形、四角形、五角形等の多角形状、板状又はこれらの組み合わせであり得る。フィブリル繊維3は、これらの形状の組み合わせを一本の幹繊維2に有していてもよく、各フィブリル繊維3がそれぞれ上述した形状のいずれかとなっていてもよい。
【0014】
幹繊維2どうしの間に加えて、幹繊維2とフィブリル繊維3との間、及びフィブリル繊維3どうしの間にはそれぞれ、熱可塑性樹脂が存在しない空隙がシート面方向及び厚み方向に貫通して三次元的に存在している。これによって、繊維どうしが網目状に配された三次元的なマトリックスを形成するとともに、繊維間に形成された空隙が連通して、繊維シート1における微細な空孔を形成している。この空孔は、一般に開空孔となっている。
【0015】
幹繊維2及びフィブリル繊維3を構成する熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、分岐状低密度ポリエチレン(LDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン−プロピレン共重合体、ポリブテン等のポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニルやポリスチレン等のビニル系樹脂、ポリアクリル酸やポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂、ポリパーフルオロエチレン等のフッ素樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、シートの成形性を高める観点から、ポリオレフィン樹脂を含むことが好ましく、ポリプロピレンを含むことが更に好ましい。
【0016】
繊維シートは、幹繊維2及びフィブリル繊維3に加えて、無機粒子を含む。
図1に示すように、繊維シート1は、幹繊維2に複数の無機粒子5が保持されている。無機粒子5は、繊維シート1の面方向に分散して配置されており、該無機粒子5の一部又は全部が幹繊維2から露出するように配置されている。無機粒子5の一部が露出している場合には、該粒子5の残部は繊維中に包埋されている。無機粒子は、繊維シートの製造時に該シートを多孔質にする作用を有するとともに、該シートの使用時に油脂や皮脂等の油性汚れを吸着保持するために用いられる。
【0017】
繊維シートに含まれる無機粒子としては、例えば、石膏、タルク、クレー、カオリン、シリカ、マイカ、ゼオライト、珪藻土などの鉱物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム等の金属炭酸塩、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化チタン等の金属酸化物、硫酸ナトリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩、リン酸カルシウム等の金属リン酸塩、水酸化アルミニウム等の金属水酸化物、活性炭、カーボンブラック等の炭素粒子、アルミニウム粉、鉄粉、銅粉などの金属粉等の各粒子が挙げられる。これらは一種を単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。無機粒子の形状は、球状、塊状、繊維状又は不定形等であり得る。
【0018】
これらのうち、取扱い性、シート成形性及び油性汚れの吸着性能を高める観点から、無機粒子は、酸と反応し得る物質からなる粒子であることが好ましく、酸化亜鉛、炭酸カルシウム及び活性炭のうち一種以上であることが更に好ましく、酸化亜鉛からなることが一層好ましい。特に、無機粒子として酸化亜鉛を用いることによって、油性汚れの一種である皮脂の構成成分である脂肪酸と、酸化亜鉛とを化学反応させて、該脂肪酸塩をその金属塩の状態で繊維シート側に効果的に吸着保持させることができる。その結果、本発明の繊維シートは皮脂汚れの除去性能に特に優れたものとなる。これに加えて、皮脂等の油性汚れが吸着した繊維シートを用いて皮膚などの清拭対象面を連続して清拭した場合であっても、吸着された皮脂が清拭対象面に再度付着しにくくなるという利点もある。
【0019】
以上の構成を有する本発明の繊維シートによれば、幹繊維と、幹繊維よりも細径のフィブリル繊維とを有し、且つ繊維間に空隙からなる微細な空孔が三次元的に形成されているので、シートの毛管力を高くすることができ、高い毛管力によって、清掃対象面や流体中に存在する油脂や皮脂等の油性汚れをシート側に吸着できるようになる。また、本発明の繊維シートは、熱可塑性樹脂と無機粒子とを含むので、熱可塑性樹脂と油性汚れとの間、及び無機粒子と油性汚れとの間に疎水性相互作用がより強く発生する。その結果、本発明の繊維シートは、油脂や皮脂等の油性汚れを強く吸着保持でき、油性汚れの除去性能が高いものとなる。
【0020】
詳細には、毛管力は以下の式(A)によって表されるところ、本発明の繊維シートは幹繊維とフィブリル繊維との間に微細な空孔が多数形成されているので、以下の式(A)における毛管半径が小さい構造となっている。その結果、シートの毛管力が高くなり、油性汚れの優れた吸着保持性能を発現するとともに、清掃対象面や流体中からの油性汚れの除去性能が高いものとなる。
P=(2γ×cosθ)/r ・・・(A)
(式中、Pは繊維集合体の毛管力[N/m
2]であり、γは液の表面張力[N/m]であり、θは繊維と液体との接触角[rad]であり、rは毛管半径(空孔の半径)[m]である。)
【0021】
特に、フィブリル繊維3の好適な存在態様である、上述の(ii)一本の幹繊維2から分岐し、フィブリル繊維3の一端は幹繊維2と結合し、フィブリル繊維3の他端は該幹繊維2と同一の若しくは異なる幹繊維2に結合するか、若しくは他のフィブリル繊維3に結合した固定端である態様として主に存在している場合、幹繊維とフィブリル繊維との間に微細な空孔が十分に形成されているので、上述した(i)の態様のように、フィブリル繊維3が自由端を有する状態で主に存在している場合と比較して、微細な空孔の形成に起因した高い毛管力が生じやすくなる。その結果、繊維シートは、油性汚れの吸着保持性能に優れ、また、清掃対象面や流体中からの油性汚れの除去性能が高いものとなる。
この点は、例えば繊維シートを皮脂除去シートとして用いたときに、皮膚などの清拭対象面を連続して清拭した場合であっても、吸着された皮脂が皮膚に再度付着してしまうことを低減できる点で有利である。
【0022】
本発明の繊維シートは、幹繊維とフィブリル繊維とが網目状の三次元的なマトリックスを形成し、これとともに各繊維間に空隙が形成されているものである。本発明の繊維シートは、その空孔体積率が、50%以上であることが好ましく、60%以上であることが更に好ましく、また、98%以下であることが好ましく、95%以下であることが更に好ましい。このような構成になっていることによって、シートの毛管力が一層高いものとなるので、油脂や皮脂等の油性汚れを強力に吸着保持でき、油性汚れの除去性能が更に高いものとなる。繊維シートの空孔体積率は、例えば以下の方法で測定することができる。
【0023】
同様の観点から、繊維シートに形成されている空孔の細孔径は、10nm以上であることが好ましく、50nm以上であることが更に好ましく、また、50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることが更に好ましい。繊維シートの細孔径は、例えば以下の方法で測定することができる。
【0024】
また同様の観点から、繊維シートに形成されている空孔の累積細孔容積は、0.8mL/g以上であることが好ましく、1.0mL/g以上であることが更に好ましく、また、20mL/g以下であることが好ましく、10mL/g以下であることが更に好ましい。繊維シートの累積細孔容積は、例えば以下の方法で測定することができる。
【0025】
繊維シートの空孔体積率、細孔径及び累積細孔容積は、JIS R 1655に規定される水銀注入法に準じて、以下の方法で測定することができる。詳細には、測定対象のシートから2〜3gの測定サンプルを切り出し、該測定サンプルを入れた測定セルを水銀ポロシメーター(オートポアIV9520、マイクロメリティックス社製)にセットし、該測定サンプルの細孔容積を測定する。次いで、下記の式(1)に従って換算した換算細孔径D
0と、細孔容積との関係をプロットする。
D
0=−4γcosθ/P ・・・(1)
(γ:水銀の表面張力、θ:接触角、P:圧力)
【0026】
前記測定は22℃、65%RH環境下にて行う。水銀の表面張力γは480dyn/cm、接触角θは140°、水銀の注入圧力Pは0psia以上60000psia以下の範囲とする。この測定条件で得られる換算細孔径D
0の分布曲線に基づいて、0.0018μm以上100μm以下の範囲に亘る換算細孔径の累積合計値を累積細孔容積(mL/g)とし、分布曲線における細孔径の中央値を本発明の細孔径(μm)とする。空孔体積率(%)は、以下の式(2)から算出された値とする。
空孔体積率(%)=100×((無機粒子含有熱可塑性樹脂の密度[g/cm
3])−(繊維シートの密度[g/cm
3]))/(無機粒子含有熱可塑性樹脂の密度[g/cm
3]) ・・・(2)
【0027】
特に、上述した好適な範囲の空孔を形成しやすくして、幹繊維とフィブリル繊維とを有する繊維シートの製造効率を高める観点から、本発明の繊維シートは、熱可塑性樹脂及び無機粒子を含む樹脂シートを一軸延伸して得られたものであることが好ましい。
図1中、符号Xで示す方向は、樹脂シートの延伸方向である。
【0028】
同様の観点から、繊維シートに含まれる熱可塑性樹脂は、JIS K 7210に準じて測定されたメルトフローレートが、2g/min以上であることが好ましく、5g/10min以上であることがより好ましく、8g/10min以上であることが更に好ましく、また、100g/10min以下であることが好ましく、80g/10min以下であることが更に好ましい。メルトフローレートはJIS K 7210に準じて、ポリオレフィン樹脂の種類に応じて加熱及び荷重負荷を行って測定することができる。例えば、熱可塑性樹脂として、ポリオレフィン樹脂であるポリプロピレンを用いた場合は、温度190℃、荷重21.18Nの条件下に測定される。
【0029】
シートの毛管力を高めて、油性汚れの除去効率を更に高める観点から、本発明の繊維シートは、繊維シートを構成する全繊維のうち、直径が500nm以下である繊維の本数が、構成繊維の全ての本数に対して、50%以上であることが好ましく、60%以上であることが更に好ましく、また、95%以下であることが好ましく、90%以下であることが更に好ましい。繊維の直径及び本数は、測定対象のシートを走査型電子顕微鏡を用いて観察し、観察した100本以上の繊維において、各繊維の延びる方向と直交する方向の最大の長さを直径と定義して、直径が500nm以下である本数を測定する。次いで、観察した繊維の全本数に基づいて、直径が500nm以下である繊維の割合を算出する。
【0030】
シート強度の向上及び油性汚れの除去効率の向上を両立する観点から、幹繊維2の繊維径W1は、300nm以上であることが好ましく、400nm以上であることが更に好ましく、また、5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることが更に好ましい。フィブリル繊維3の繊維径W2は、幹繊維の繊維径W1よりも細いことを条件として、10nm以上であることが好ましく、50nm以上であることが更に好ましく、また、250nm以下であることが好ましく、200nm以下であることが更に好ましい。各繊維径は、上述した繊維の直径と同義であり、上述した方法と同様に測定することができる。
【0031】
得られるシートの強度確保や成形性向上の観点から、無機粒子はその平均粒子径W3が50nm以上であることが好ましく、100nm以上であることが更に好ましく、また8μm以下であることが好ましく、5μm以下であることが更に好ましい。また、無機粒子はその最大粒子径が20μm以下であることが好ましく、15μm以下であることが更に好ましい。無機粒子の粒径は、例えば、シート面に観察される50個の無機粒子を走査型電子顕微鏡で観察したときに、各無機粒子の最大径(フェレ径)を測定し、その平均値を平均粒子径とする。無機粒子の最大粒子径は、平均粒子径の算出の際に測定対象となった無機粒子の最大径(フェレ径)とする。
【0032】
幹繊維2の繊維径W1(μm)に対する無機粒子の平均粒子径W3(μm)の比率(W3/W1)は、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることが更に好ましく、また、10以下であることが好ましく、5以下であることが更に好ましい。また、フィブリル繊維3の繊維径W2(μm)に対する無機粒子の平均粒子径W3(μm)の比率(W3/W2)は、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることが更に好ましく、また、10以下であることが好ましく、5以下であることが更に好ましい。各繊維の繊維径と、無機粒子の平均粒子径とが上述の関係になっていることによって、油性汚れを一層効果的に除去することができる。
【0033】
油性汚れの除去効率を高める観点から、無機粒子のブレーン比表面積が、20000cm
2/g以上であることが好ましく、20500cm
2/g以上であることが更に好ましく、また、22000cm
2/g以下であることが好ましい。無機粒子のブレーン比表面積は、例えばブレーン空気透過粉末度測定装置を用いて、JIS R 5201に準じて測定することができる。
【0034】
シートの強度と油性汚れの除去性能とを高いレベルで両立させる観点から、繊維シートにおける熱可塑性樹脂の含有量は、30質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることが更に好ましく、また、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることが好ましい。
【0035】
同様の観点から、繊維シートにおける無機粒子の含有量は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることが更に好ましく、また、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることが好ましい。
【0036】
無機粒子の分散性を高めてシート全体に微細な空孔を多く形成させ、油性汚れの除去性能を更に高める観点から、本発明の繊維シートは、無機粒子の分散剤を含むことが好ましい。無機粒子の分散剤としては、例えばシリコーン油、脂肪酸、マレイン酸変性ポリプロピレン、マレイン酸変性ポリエチレン等が挙げられる。これらは一種を単独で又は複数組み合わせて用いることができる。これらのうち、無機粒子の分散性を優れたものとする観点から、無機粒子の分散剤として、シリコーン油を含むことが一層好ましい。無機粒子の分散剤は、幹繊維2及びフィブリル繊維3に含まれている。特に、無機粒子として酸化亜鉛の粒子を用い、且つ分散剤としてシリコーン油を用いることによって、シート全体に微細な空孔を多く且つ均一に形成させることができ、油性汚れの吸着保持性能及び除去性能を更に向上させることができる点で有利である。
【0037】
分散剤としてシリコーン油を用いる場合、シリコーン油としては、例えばジメチルポリシロキサン、ジメチルシクロポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン及び高級アルコール変性オルガノポリシロキサン等を用いることができる。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。これらのうち、繊維シートの原料となる熱可塑性樹脂との相溶性を高めて、無機粒子の分散性を更に高める観点から、メチルハイドロジェンポリシロキサンを少なくとも用いることが更に好ましい。
【0038】
繊維シートが無機粒子の分散剤を含む場合、繊維シートにおける無機粒子の分散剤の含有量は、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、2質量%以上であることが更に好ましく、4質量%以上であることが一層好ましく、また、30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることが更に好ましく、17質量%以下であることが一層好ましい。分散剤が上述した含有量であることによって、繊維シートの製造時に繊維シートを均一に多孔質にすることができるとともに、該シートの使用時に油性汚れをムラなく吸着保持することができる。
【0039】
繊維シートが無機粒子の分散剤を含む場合、無機粒子としては予め分散剤で表面処理した処理品を用いてもよい。無機粒子の表面を分散剤で処理する場合には、該表面を疎水化する分散剤を用いることが好ましい。このような分散剤としては、例えば上述した分散剤を適宜用いることができる。
【0040】
本発明の繊維シートは、その用途に応じて、添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば樹脂可塑剤、樹脂結晶核剤、架橋剤、帯電防止剤、顔料、酸化防止剤等を用いることができる。繊維シートにおける添加剤の含有量は、0.001質量%以上10質量%以下とすることができる。
【0041】
本発明の繊維シートに含まれる熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを用いる場合、シート全体に微細な空孔を多く且つ均一に形成させて、油性汚れの吸着保持性能及び除去性能をより一層向上させる観点から、樹脂結晶核剤を含むことが好ましく、ポリプロピレン樹脂の結晶構造をβ晶としやすくするために用いられる、ポリプロピレンのβ晶核剤を含むことが更に好ましい。β晶核剤等の樹脂結晶核剤を含むことによって、ポリプロピレン等の熱可塑性樹脂の物性を変化させて、繊維シートの製造時にフィブリル繊維3の形成効率を高めて、繊維シートの製造時に繊維シートを均一に多孔質にすることができる。またこれに伴って、幹繊維2とフィブリル繊維3との間の微細な空孔をシート全体に効率よく形成させることができる。その結果、製造される繊維シートの油性汚れの吸着保持性能及び除去性能をより一層向上させることができる。樹脂結晶核剤を用いて繊維シートが製造される場合、樹脂結晶核剤は、幹繊維2及びフィブリル繊維3に含まれている。
【0042】
熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを用いる場合、本発明に好適に用いられるβ晶核剤としては、例えば、2-N,6-N-ジシクロヘキシルナフタレン-2,6-ジカルボキシアミド、キナクリドン、N,N'-ジフェニルヘキサンジアミド、1-N,4-N-ジシクロヘキシルベンゼン-1,4-ジカルボキシアミド、N-[4-(シクロヘキサンカルボニルアミノ)フェニル]シクロヘキサンカルボキシアミド、N-(4-ベンズアミドシクロヘキシル)ベンズアミド、N-(5-ベンズアミドナフタレン-1-イル)ベンズアミド、N-[4-(シクロヘキサンカルボニルアミノ)シクロヘキシル]シクロヘキサンカルボキシアミド、4-(シクロヘキサンカルボニルアミノ)-N-シクロヘキシルベンズアミド、及びN-(5-アニリノペンチル)ベンズアミド等が挙げられる。これらは単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0043】
繊維シートにおける樹脂結晶核剤の含有量は、使用する熱可塑性樹脂に対して、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下とすることができる。樹脂結晶核剤としてβ晶核剤を用いる場合においても、β晶核剤の含有量は上述の範囲とすることができる。
【0044】
以上は、本発明の繊維シートに関する説明であったところ、以下に本発明の繊維シートの好適な製造方法を説明する。繊維シートの製造方法は、熱可塑性樹脂及び無機粒子を含む樹脂シートを一軸延伸する工程を有する。
【0045】
まず、熱可塑性樹脂及び無機粒子を含む樹脂組成物を成形して樹脂シートとする。樹脂組成物は、例えば熱可塑性樹脂及び無機粒子を一軸又は二軸押出機で加熱混練して、溶融状態の混合物として得ることができる。加熱混練における加熱温度は、熱可塑性樹脂の種類に応じて設定すればよく、例えばポリオレフィン樹脂であれば、120℃以上210℃以下とすることができる。樹脂組成物における熱可塑性樹脂及び無機粒子の含有量は、それぞれ上述した含有量の範囲となるように適宜調整すればよい。
【0046】
樹脂組成物における無機粒子の分散性を高めて、より細径のフィブリル繊維を形成させる観点から、無機粒子の分散剤を含む樹脂組成物を用いることが好ましく、該分散剤としてシリコーン油を用いることが更に好ましい。また必要に応じて、フィブリル繊維をシート全体に形成させ、得られる繊維シートを均一に多孔質にする等の目的で、上述したβ晶核剤等の樹脂結晶核剤等の添加剤を樹脂組成物に添加してもよい。樹脂組成物における無機粒子の分散剤の含有量、及び樹脂結晶核剤等の添加剤の含有量は、上述した含有量の範囲となるように適宜調整すればよい。
【0047】
次に、上述した成分を含む溶融状態の樹脂組成物を成形して、樹脂組成物からなる樹脂シートを得る。樹脂シートは、熱可塑性樹脂及び無機粒子を含む樹脂組成物から形成されるので、樹脂組成物と樹脂シートとは、その組成が実質的に同一のものである。したがって、樹脂シートは、熱可塑性樹脂及び無機粒子を含むものである。
【0048】
樹脂組成物のメルトフローレートは、シートの製造効率向上の観点から、2g/10min以上であることが好ましく、5g/10min以上であることがより好ましい。またその上限は、500g/10min以下であることが好ましく、100g/10min以下であることがより好ましい。
【0049】
溶融状態の樹脂組成物をシート状に成形する成形装置としては、例えば、Tダイ成形装置やインフレーション成形装置等の公知の成形装置を用いることができる。成形時の加熱温度は、少なくとも樹脂組成物が溶融可能な温度であれば特に制限されないが、成形の簡便性及び樹脂組成物中の成分の熱分解防止の観点から、原料となる熱可塑性樹脂の融点をM(℃)としたときに、(M+20)℃以上(M+60)℃以下であることが好ましい。樹脂組成物が複数の樹脂から構成されている場合には、構成樹脂のうち最も高い融点を樹脂組成物の融点Mとする。溶融状態の樹脂組成物をシート状に成形する際は、成形体を自然冷却させてもよく、必要に応じて冷却手段を用いて急冷させてもよい。
【0050】
次いで、上述の工程を経て得られた樹脂シートを一軸延伸する。一軸延伸を行うことによって、樹脂組成物に含まれる熱可塑性樹脂と無機粒子との界面剥離を発生させ、シートを多孔質化させることができる。その結果、熱可塑性樹脂を含む繊維どうしが三次元的なマトリックスを形成して、シート内に微細な空孔を有する網目状の繊維シートを得ることができる。このように製造された繊維シートは、熱可塑性樹脂及び無機粒子を含み、好ましくは無機粒子の分散剤及び樹脂結晶核剤等の添加剤の少なくとも一種を更に含む樹脂シートを延伸したものであるので、繊維シートと樹脂シートとは、その組成が実質的に同一のものである。
【0051】
樹脂シートを一軸延伸する方法としては、例えばロール法やテンター法等が用いられる。また一軸延伸は、樹脂シートを加熱して行うことが好ましい。加熱処理を行う場合、原料となる熱可塑性樹脂の融点をM(℃)としたときに、樹脂シートを好ましくは(M−40)℃以上、更に好ましくは(M−35)℃以上、また、好ましくは(M−15)℃以下、更に好ましくは(M−20)℃以下に加熱して行う。樹脂シートに熱可塑性樹脂を複数含む場合、樹脂のうち最も高い融点を有する熱可塑性樹脂の融点を融点Mとする。
【0052】
具体的には、熱可塑性樹脂としてポリプロピレン(融点M:165℃)を用いた場合には、樹脂シートを好ましくは125℃以上、更に好ましくは130℃以上、また、好ましくは150℃以下、更に好ましくは145℃以下に加熱して行う。また、熱可塑性樹脂としてポリエチレン(融点M:122℃)を用いた場合には、樹脂シートを好ましくは82℃以上、更に好ましくは87℃以上、また、好ましくは107℃以下、更に好ましくは102℃以下に加熱して行う。このような加熱温度で行うことによって、樹脂シートを均一に延伸しつつ、樹脂シートに界面剥離を発生させて、幹繊維とフィブリル繊維と空隙とを有する繊維シートを首尾よく形成することができる。樹脂シートの加熱方法は特に制限はなく、例えば樹脂シートを加熱したロールに接触させる方法や、樹脂シートを熱風又はヒーター等によって加熱する方法等が挙げられる。
【0053】
熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを用い、且つ樹脂結晶核剤、好ましくはポリプロピレンのβ晶核剤を含む樹脂シートは、ポリプロピレンがβ晶の結晶構造として存在しやすくなっている。β晶の結晶構造は、ポリプロピレンが安定的に取り得るα晶の結晶構造と比較して、融点が低く、軟化した物性を有するものとなる。このような樹脂シートを一軸延伸すると、樹脂シートがムラなく均一に延伸されやすくなるので、幹繊維とフィブリル繊維とを有する三次元的なマトリックスがシート全体に均一に形成され、シート内に微細な空孔を有する網目状の繊維シートを容易に製造することができる。また、得られる繊維シートは、油性汚れの吸着保持性能及び除去性能がより一層向上したものとなる。
【0054】
一軸延伸時のシートの破断を防ぎつつ、幹繊維とフィブリル繊維と空隙とを有する繊維シートを首尾よく形成する観点から、一軸延伸における樹脂シートの延伸速度は、3mm/秒以上であることが好ましく、5mm/秒以上であることが更に好ましく、1000mm/秒以下であることが好ましく、500mm/秒以下であることが更に好ましい。
【0055】
一軸延伸法によって延伸処理される樹脂シートは、延伸倍率が高くなるように延伸処理することが好ましい。具体的には、一軸延伸における延伸倍率として、樹脂シートの面積が2.5倍以上となるように延伸処理することが好ましく、3倍以上となるように延伸処理することがより好ましく、3.5倍以上となるように延伸処理することが更に好ましく、またその上限は、シートの面積を10倍以下となるように延伸処理することが好ましく、8倍以下となるように延伸処理することがより好ましく、7倍以下となるように延伸処理することが更に好ましい。このような延伸倍率となるように延伸処理を行うことによって、好ましくは延伸倍率を高くすることによって、樹脂シートに界面剥離を発生させて、細径のフィブリル繊維と繊維間の空隙とが形成された繊維シートを首尾よく製造することができる。樹脂シートの延伸倍率は、上述した加熱温度及び延伸速度を適宜調整することによって達成することができる。
【0056】
樹脂シートの延伸処理において、得られる繊維シートの強度と油性汚れの高い除去性能とを両立させる観点から、繊維シートの坪量が5g/m
2以上となるように一軸延伸することが好ましく、10g/m
2以上となるように一軸延伸することが更に好ましく、また1000g/m
2以下となるように一軸延伸することが好ましく、800g/m
2以下となるように一軸延伸することが更に好ましい。繊維シートの坪量は、一軸延伸に供されるシートの延伸倍率を上述の範囲にすることによって達成することができる。
【0057】
以上の工程を経て製造された繊維シートは、熱可塑性樹脂と無機粒子と、好ましくは分散剤と、また好ましくはβ晶核剤等の樹脂結晶核剤とを含み、微細な空孔が複数形成されたものとなる。繊維シートは、これをそのまま乾式の態様で使用してもよく、必要に応じて洗浄液等を含浸させた湿式の態様で使用してもよい。いずれの場合であっても、本発明の繊維シートは、その構成繊維である幹繊維とフィブリル繊維とが三次元的なマトリックスを形成しているので、毛管力が高く、油脂や皮脂等の油性汚れの吸着保持性能及び除去性能に優れたものとなる。特に、繊維シートは、油汚れが付着した物品の清掃や、顔、頭皮、腕、脚、関節、腋下などの皮膚の清拭、油脂が分散した液体や気体といった流体の清浄等に好適に用いられ、皮脂吸着シートとして好適なものである。
【0058】
繊維シートに洗浄液を含浸させた湿式の態様で繊維シートを用いる場合、含浸させる洗浄液としては、例えば、水単独で用いてもよく、また水を主体として、必要に応じて、界面活性剤、アルコール、塩、ビタミン、pH調整剤、保湿剤、防腐剤、湿潤剤、粘度調整剤、及び香料等の成分を含有した水溶液を用いることができる。油性汚れの吸着保持性能及び除去性能を高める観点から、界面活性剤を含む水溶液であることが好ましい。
【0059】
洗浄液に用いられる界面活性剤は、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤及び陰イオン性界面活性剤のいずれでも構わないが、油性汚れの吸着保持性能及び除去性能の向上と肌への刺激の抑制とを両立する観点から、例えばポリエチレングリコール脂肪酸エステル等の非イオン界面活性剤を用いることが好ましい。
【0060】
特に、無機粒子として酸化亜鉛の粒子を用いた繊維シートに、界面活性剤を含む水溶液を含浸させた湿式の態様で用いる場合、皮脂等の油性汚れを界面活性剤によって乳化させて清掃対象面から除去しつつ、乳化した油性汚れを無機粒子と反応させて吸着保持させることができるので、油性汚れの吸着保持性能及び除去性能を一層高めることができる。また、皮脂吸着シートとして用いる場合には、皮脂の構成成分である脂肪酸を皮膚から効率良く除去することができるので、脂肪酸に起因する皮膚トラブルを低減することができるという利点もある。
【0061】
洗浄液における界面活性剤の含有量は、油性汚れの吸着保持性能及び除去性能の向上と肌への刺激の抑制とを両立する観点から、好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、更に好ましくは3質量%以下とすることができる。
【0062】
以上、本発明をその実施形態に基づいて説明したが、本発明は、前記実施形態に制限されない。例えば、前記実施形態においては、本発明の繊維シートの好適な製造方法として樹脂シートの一軸延伸を例示したが、繊維シートの製造方法はこれに限定されない。
【0063】
また、前記実施形態では、本発明の繊維シートを単独で使用することを主に説明したが、本発明の効果を損なわない範囲において、他のシートや、ワイパーなどの清掃用具と組み合わせて用いてもよい。
【0064】
上述した本発明の実施形態に関し、更に以下の繊維シート及びその製造方法を開示する。
<1>
熱可塑性樹脂を含み且つ一方向に沿って延びる複数の幹繊維と、該熱可塑性樹脂と同種の熱可塑性樹脂を含み且つ該幹繊維間に延在するとともに該幹繊維よりも細径のフィブリル繊維とを有し、
複数の前記幹繊維は、一の幹繊維と該幹繊維から分岐した他の幹繊維とを含むとともに、該幹繊維間に空隙を有し、
前記幹繊維に複数の無機粒子が保持されている、繊維シート。
【0065】
<2>
前記フィブリル繊維は、その繊維径が250nm以下であり、
前記幹繊維は、その繊維径が250nm超である、前記<1>に記載の繊維シート。
<3>
前記幹繊維の繊維径は、300nm以上であることが好ましく、400nm以上であることが更に好ましく、また、5μm以下であることが好ましく、1μm以下であることが更に好ましい、前記<1>又は<2>に記載の繊維シート。
<4>
前記フィブリル繊維の繊維径は、10nm以上であることが好ましく、50nm以上であることが更に好ましく、また、250nm以下であることが好ましく、200nm以下であることが更に好ましい、前記<1>ないし<3>のいずれか一に記載の繊維シート。
<5>
前記空隙がシート面方向及び厚み方向に貫通して三次元的に存在している、前記<1>ないし<4>のいずれか一に記載の繊維シート。
【0066】
<6>
空孔体積率が50%以上98%以下である、前記<1>ないし<5>のいずれか一に記載の繊維シート。
<7>
前記フィブリル繊維は、少なくとも一本の前記幹繊維から分岐するように形成されている、前記<1>ないし<6>のいずれか一に記載の繊維シート。
<8>
前記フィブリル繊維は、一本の前記幹繊維から分岐し、該フィブリル繊維の一端は該幹繊維に結合した固定端であり、該フィブリル繊維の他端は他の繊維と結合していない自由端である、前記<7>に記載の繊維シート。
<9>
前記フィブリル繊維は、一本の前記幹繊維から分岐し、該フィブリル繊維の一端は該幹繊維と結合し、該フィブリル繊維の他端は、該幹繊維と同一の又は異なる幹繊維に結合した固定端である、前記<7>に記載の繊維シート。
【0067】
<10>
前記フィブリル繊維は、一本の前記幹繊維から分岐し、該フィブリル繊維の一端は前記幹繊維と結合し、該フィブリル繊維の他端は他のフィブリル繊維に結合した固定端である、前記<7>に記載の繊維シート。
<11>
直径が500nm以下である繊維の本数が、構成繊維のすべての本数に対して50%以上である、前記<1>ないし<10>のいずれか一に記載の繊維シート。
<12>
前記無機粒子は、酸化亜鉛、炭酸カルシウム及び活性炭のうち一種以上である、前記<1>ないし<11>のいずれか一に記載の繊維シート。
【0068】
<13>
無機粒子が酸化亜鉛からなる、前記<1>ないし<12>のいずれか一に記載の繊維シート。
<14>
熱可塑性樹脂及び無機粒子を含む樹脂シートを一軸延伸して得られたものである、前記<1>ないし<13>のいずれか一に記載の繊維シート。
<15>
前記無機粒子はシートの面方向に分散して配置されている、前記<1>ないし<14>のいずれか一に記載の繊維シート。
<16>
前記無機粒子は、該無機粒子の一部又は全部が前記幹繊維から露出するように配置されている、前記<1>ないし<15>のいずれか一に記載の繊維シート。
【0069】
<17>
前記無機粒子の含有量は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることが更に好ましく、また、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることが好ましい、前記<1>ないし<16>のいずれか一に記載の繊維シート。
<18>
前記無機粒子の分散剤を含む、前記<1>ないし<17>のいずれか一に記載の繊維シート。
<19>
前記熱可塑性樹脂がポリプロピレンであり、且つポリプロピレンのβ晶核剤を含む、前記<1>ないし<18>のいずれか一に記載の繊維シート。
<20>
前記β晶核剤は、2-N,6-N-ジシクロヘキシルナフタレン-2,6-ジカルボキシアミド、キナクリドン、N,N'-ジフェニルヘキサンジアミド、1-N,4-N-ジシクロヘキシルベンゼン-1,4-ジカルボキシアミド、N-[4-(シクロヘキサンカルボニルアミノ)フェニル]シクロヘキサンカルボキシアミド、N-(4-ベンズアミドシクロヘキシル)ベンズアミド、N-(5-ベンズアミドナフタレン-1-イル)ベンズアミド、N-[4-(シクロヘキサンカルボニルアミノ)シクロヘキシル]シクロヘキサンカルボキシアミド、4-(シクロヘキサンカルボニルアミノ)-N-シクロヘキシルベンズアミド及びN-(5-アニリノペンチル)ベンズアミドの少なくとも一種である、前記<19>に記載の繊維シート。
<21>
前記β晶核剤の含有量は、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である、前記<19>又は<20>に記載の繊維シート。
【0070】
<22>
前記<1>ないし<21>のいずれか一に記載の繊維シートの製造方法であって、
熱可塑性樹脂の融点をM(℃)としたときに、熱可塑性樹脂及び無機粒子を含む樹脂シートを(M−40)℃以上(M−15)℃以下に加熱して、該シートの面積が2.5倍以上10倍以下になるように一軸延伸する、繊維シートの製造方法。
<23>
前記無機粒子の分散剤を更に含む前記樹脂シートを一軸延伸する、前記<22>に記載の繊維シートの製造方法。
<24>
前記分散剤として、シリコーン油、脂肪酸、マレイン酸変性ポリプロピレン及びマレイン酸変性ポリエチレンから選ばれる少なくとも一種を用いる、前記<23>に記載の繊維シートの製造方法。
<25>
前記分散剤としてシリコーン油を用いる、前記<23>又は<24>に記載の繊維シートの製造方法。
<26>
JIS K 7210に準じて測定されたメルトフローレートが、好ましくは2g/10min以上である前記熱可塑性樹脂を用いる、前記<22>ないし<25>のいずれか一に記載の繊維シートの製造方法。
<27>
好ましくは3mm/秒以上、更に好ましくは5mm/秒以上であり、好ましくは1000mm/秒以下、更に好ましくは500mm/秒以下である延伸速度で前記樹脂シートを一軸延伸する、前記<22>ないし<26>のいずれか一に記載の繊維シートの製造方法。
【0071】
<28>
前記熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを用い、ポリプロピレンのβ晶核剤を含む前記樹脂シートを一軸延伸する、前記<22>ないし<27>のいずれか一に記載の繊維シートの製造方法。
<29>
前記β晶核剤として、2-N,6-N-ジシクロヘキシルナフタレン-2,6-ジカルボキシアミド、キナクリドン、N,N'-ジフェニルヘキサンジアミド、1-N,4-N-ジシクロヘキシルベンゼン-1,4-ジカルボキシアミド、N-[4-(シクロヘキサンカルボニルアミノ)フェニル]シクロヘキサンカルボキシアミド、N-(4-ベンズアミドシクロヘキシル)ベンズアミド、N-(5-ベンズアミドナフタレン-1-イル)ベンズアミド、N-[4-(シクロヘキサンカルボニルアミノ)シクロヘキシル]シクロヘキサンカルボキシアミド、4-(シクロヘキサンカルボニルアミノ)-N-シクロヘキシルベンズアミド及びN-(5-アニリノペンチル)ベンズアミドの少なくとも一種を用いる、前記<28>に記載の繊維シートの製造方法。
<30>
前記β晶核剤の含有量として、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、更に好ましくは0.01質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、更に好ましくは1質量%以下含む前記樹脂シートを用いる、前記<28>又は<29>に記載の繊維シートの製造方法。
【実施例】
【0072】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明の範囲はかかる実施例に制限されるものではない。
図2ないし
図4中、符号Xは、樹脂シートの一軸延伸方向を示す。
【0073】
〔実施例1〕
熱可塑性樹脂としてポリプロピレン(融点:165℃、メルトフローレート:60g/10min)を用い、無機粒子として平均粒子径が1μmの球状の酸化亜鉛を用い、無機粒子の分散剤としてシリコーン油(メチルハイドロジェンポリシロキサン)を用い、二軸押出機によってこれらを加熱混練して樹脂組成物を得た。本実施例の樹脂組成物には、樹脂結晶核剤としてβ晶核剤(2-N,6-N-ジシクロヘキシルナフタレン-2,6-ジカルボキシアミド、新日本理化社製、エヌジェスターNU−100)を含有させた。
得られた樹脂組成物をTダイ押出成形装置を用いて成形して樹脂シートを得た。樹脂シートは、熱可塑性樹脂を49.98質量%、無機粒子を36.98質量%、及び分散剤を12.99質量%含み、更にβ晶核剤を0.05質量%含むものであった。
次いで、得られた樹脂シートを、該樹脂シートの面積が3倍の延伸倍率となるように一軸延伸して、200g/m
2の坪量を有する繊維シートを製造した。一軸延伸の条件は、加熱温度を130℃とし、延伸速度を5mm/秒とした。
【0074】
得られた繊維シートの空孔体積率は66%、直径が500nm以下である繊維の本数の割合は95%、細孔径は1.6μm、累積細孔容積は1.86mL/gであった。本実施例のシート面の走査電子顕微鏡像(5000倍拡大像)を
図2(a)に示す。
【0075】
〔実施例2〕
一軸延伸処理における加熱温度を140℃としたほかは、実施例1と同様に繊維シートを製造した。得られた繊維シートの坪量は200g/m
2、空孔体積率は71%、直径が500nm以下である繊維の本数の割合は90%、細孔径は1.5μm、累積細孔容積は1.99mL/gであった。本実施例のシート面の走査電子顕微鏡像(5000倍拡大像)を
図2(b)に示す。
【0076】
〔実施例3〕
一軸延伸処理において、樹脂シートの面積が7倍の延伸倍率となるように一軸延伸したほかは、実施例1と同様に繊維シートを製造した。得られた繊維シートの坪量は85g/m
2、空孔体積率は82%、直径が500nm以下である繊維の本数の割合は95%、細孔径は1.5μm、累積細孔容積は1.99mL/gであった。本実施例のシート面の走査電子顕微鏡像(5000倍拡大像)を
図2(c)に示す。
【0077】
〔実施例4〕
熱可塑性樹脂としてポリエチレン(融点:122℃、メルトフローレート:2.4g/10min)を用い、一軸延伸処理における加熱温度を90℃としたほかは、実施例1と同様に繊維シートを製造した。得られた繊維シートの坪量は90g/m
2、空孔体積率は65%、直径が500nm以下である繊維の本数の割合は70%、細孔径は1.7μm、累積細孔容積は1.65mL/gであった。本実施例のシート面の走査電子顕微鏡像(5000倍拡大像)を
図3(a)に示す。本実施例では樹脂結晶核剤を用いなかった。
【0078】
〔比較例1〕
一軸延伸処理における加熱温度を120℃としたほかは、実施例1と同様に繊維シートの製造を試みた。しかし、本比較例では、延伸対象となる樹脂シートの破断が起こり、幹繊維とフィブリル繊維とを含む繊維シートは製造できなかった。したがって、本比較例のシート面の走査電子顕微鏡像は撮像せず、後述する油性汚れの保持性の評価を行わなかった。
【0079】
〔比較例2〕
一軸延伸処理における加熱温度を150℃としたほかは、実施例1と同様に繊維シートを製造した。得られた繊維シートの坪量は200g/m
2、空孔体積率は30%、直径が500nm以下である繊維の本数の割合は0%、細孔径は5μm、累積細孔容積は0.2mL/gであった。本比較例のシート面の走査電子顕微鏡像(5000倍拡大像)を
図3(b)に示す。
【0080】
〔比較例3〕
本比較例では、メルトブローン不織布(タピルス株式会社製)を繊維シートとして用いた。本比較例のシートの坪量は100g/m
2、空孔体積率は95%、直径が500nm以下である繊維の本数の割合は0%、細孔径は7.1μm、累積細孔容積は8.08mL/gであった。本比較例のシート面の走査電子顕微鏡像(5000倍拡大像)を
図4(a)に示す。
【0081】
〔比較例4〕
本比較例では、あぶらとりフィルム(スリーエムジャパン株式会社製)を繊維シートとして用いた。本比較例のシートの坪量は30g/m
2、空孔体積率は20%、直径が500nm以下である繊維の本数の割合は0%、細孔径は0.17μm、累積細孔容積は0.69mL/gであった。本比較例のシート面の走査電子顕微鏡像(5000倍拡大像)を
図4(b)に示す。
【0082】
〔比較例5〕
本比較例では、透湿フィルム(花王株式会社製)を繊維シートとして用いた。本比較例では、一軸延伸の条件として、加熱温度を80℃とし、延伸倍率が1.9倍になるように延伸処理したほかは、実施例1と同様に繊維シートを製造した。本比較例のシートの坪量は18g/m
2、空孔体積率は20%、直径が500nm以下である繊維の本数の割合は0%、細孔径は4μm、累積細孔容積は0.52mL/gであった。本比較例のシート面の走査電子顕微鏡像(5000倍拡大像)を
図4(c)に示す。
【0083】
〔油性汚れの吸着性の評価〕
実施例1の繊維シートと比較例4の繊維シートとをそれぞれ、赤色に着色したO/W型のモデル油脂含有乳化液に浸漬し、モデル油脂の吸着率を経時的に評価した。モデル油脂としてオレイン酸を用い、これを前記乳化液に50mg含有させた。吸着率(%)は、繊維シートに吸着されたオレイン酸をガスクロマトグラフィーによって定量評価し、その定量値を前記乳化液に含まれるオレイン酸質量に対する質量百分率と定義する。吸着率の経時的な変化と、浸漬前後での乳化液及びシートの状態とを併せて
図5(a)及び(b)に示す。
【0084】
〔油性汚れの保持性の評価〕
実施例及び比較例の繊維シートに、油性汚れとしてモデル皮脂(オレイン酸)を5g吸着させ、皮脂が吸着した繊維シートを得た。このシートを油性汚れが付着していない清掃対象面に付着させて、該シート上に50gのおもりを乗せて5秒間静置した。その後、おもり及びシートを取り除き、清掃対象面における皮脂の付着の有無を評価した。本評価は、油性汚れが清掃対象面に付着していることが目視で確認できる場合には保持性が悪い(表1中、「なし」と示す。)と評価し、油性汚れが目視で確認できない場合には保持性が良い(表1中、「あり」と示す。)と評価した。結果を表1及び
図6に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1及び
図2ないし
図6に示すように、細径のフィブリル繊維及び繊維間の空隙からなる微細な空孔が存在する実施例の繊維シートは、細径繊維や空隙の少ない比較例の繊維シートと比較して、油脂や皮脂等の油性汚れの吸着保持性能及び除去性能に優れたものとなる。
【0087】
以下に示す実施例は、熱可塑性樹脂としてポリプロピレンを用いたときに、樹脂結晶核剤であるβ晶核剤の有無によるフィブリル繊維の形成効率を評価したものである。
図7中、符号Xは、樹脂シートの一軸延伸方向を示す。
【0088】
〔実施例5〕
実施例1で用いたものと同一のポリプロピレン、酸化亜鉛及びシリコーン油を用い、二軸押出機によってこれらを加熱混練して樹脂組成物を得た。本実施例の樹脂組成物には、β晶核剤等の樹脂結晶核剤を非含有とした。そして、得られた樹脂組成物をTダイ押出成形装置を用いて成形して樹脂シートを得た。樹脂シートは、熱可塑性樹脂を50質量%、無機粒子を37質量%、及び分散剤を13質量%含むものであった。次いで、得られた樹脂シートを、実施例1と同様の延伸倍率及び延伸条件にて一軸延伸して、200g/m
2の坪量を有する繊維シートを製造した。
【0089】
〔繊維シートにおけるフィブリル化率〕
実施例1及び実施例5の繊維シートのシート面を、走査電子顕微鏡を用いて倍率250倍にて観察し、観察視野における走査電子顕微鏡像の画像データを得た。実施例5及び実施例6の走査電子顕微鏡像をそれぞれ
図7(a)及び(b)に示す。
次いで、走査電子顕微鏡像の画像データを、ImageJなどの画像処理ソフトウェアを用いて、フィブリル繊維が形成されている領域と、フィブリル繊維が存在しない領域との明度境界に閾値を設定し、明度を二値化する。一般的に、白色と黒色とで二値化した場合、フィブリル繊維が形成されている領域は白色となり、フィブリル繊維が存在しない領域は黒色となる。このときの観察視野の面積に対する白色領域の面積割合の百分率(%)を算出し、これをフィブリル化率とした。フィブリル化率が高いほど、延伸ムラが無く、シート面全体にフィブリル繊維が形成されているものであることを示す。
【0090】
その結果、β晶核剤を非含有とした実施例5の繊維シートは、
図7(a)に示されるように、フィブリル繊維が存在していない領域NAと、フィブリル繊維が形成されている領域PAとがそれぞれ存在していた。実施例5の繊維シートにおけるフィブリル化率は42%であった。
また、β晶核剤を含有させた実施例1の繊維シートは、
図7(b)に示されるように、フィブリル繊維が形成されている領域PAが多く形成されていた。実施例6の繊維シートにおけるフィブリル化率は82%であった。
なお、実施例1及び5のフィブリル繊維が形成されている領域PAについて、走査電子顕微鏡を用いて倍率5000倍にて観察すると、
図7(c)及び(d)に示すように、いずれの実施例も幹繊維とフィブリル繊維とが形成されていることが判る。
【0091】
〔油性汚れの保持性の評価〕
実施例5の繊維シートについて、上述の方法と同様に油性汚れの保持性の評価を行った。その結果、実施例5の繊維シートは、油性汚れの保持性は実施例1と同等に良好なものであったが、実施例1と比較して保持可能な油性汚れの量は少なかった。
【0092】
以上のとおり、β晶核剤を含有させた実施例1の繊維シートは、β晶核剤を含有していない実施例5のものと比較して、フィブリル化率を高くすることができ、これに起因して油性汚れの保持量が高くなることが判る。したがって、本発明によれば、β晶核剤を含有させることによって、フィブリル化率が高く、且つ油脂や皮脂等の油性汚れの吸着保持性能及び除去性能に優れた繊維シートを容易に製造できることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明によれば、油性汚れの吸着保持性能及び除去性能が高い繊維シートが提供される。