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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6956957
(24)【登録日】2021年10月8日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】脱毛防止剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/352 20060101AFI20211021BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20211021BHJP
   A61K 8/49 20060101ALI20211021BHJP
   A61Q 7/00 20060101ALI20211021BHJP
   A23L 33/10 20160101ALI20211021BHJP
【FI】
   A61K31/352
   A61P17/14
   A61K8/49
   A61Q7/00
   A23L33/10
【請求項の数】1
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-177334(P2017-177334)
(22)【出願日】2017年9月15日
(65)【公開番号】特開2018-52928(P2018-52928A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2020年6月18日
(31)【優先権主張番号】特願2016-185294(P2016-185294)
(32)【優先日】2016年9月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(73)【特許権者】
【識別番号】591155884
【氏名又は名称】株式会社東洋発酵
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤田 隆司
(72)【発明者】
【氏名】岡田 利孝
【審査官】 古閑 一実
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−176931(JP,A)
【文献】 特許第5318339(JP,B2)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0231291(US,A1)
【文献】 米国特許第06017893(US,A)
【文献】 特開2015−181351(JP,A)
【文献】 特開2009−269832(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第2004−0009776(KR,A)
【文献】 韓国公開特許第2010−0013429(KR,A)
【文献】 J. Acupunct. Meridian Stud.,2012年,Vol.5, No.6,p.319-322
【文献】 Biochem. Pharm.,2002年,Vol.63,p.1165-1176
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 35/00−35/768
A61K 36/00−36/9068
A61P 1/00−43/00
A61K 8/00− 8/99
A61Q 1/00−90/00
A23L 31/00−33/29
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)〜()で表されるヒドロキシイソフラボン及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を含む脱毛防止剤。
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱毛防止剤に関する。
【背景技術】
【0002】
最終糖化産物(advanced glycation end-products; AGEs)はグルコースなどの還元糖とタンパク質との間の非酵素的糖化反応(グリケーション)の後期段階で生成する構造体の総称であり、生体内に存在することが近年明らかになってきている。AGEsは糖尿病合併症である糖尿病網膜症、糖尿病腎症、及び糖尿病神経障害の発症並びに進展に直接関与するものとして研究が進められている。近年ではアルツハイマー病などの神経変性疾患、悪性腫瘍の増殖及び転移などにも関与することが明らかとなり、新たな分野の研究が展開されている。しかしながら、糖尿病の初期に抜け毛が生じやすくなることが知られているが、タンパク質の糖化との関係については未だ明らかにされていない。
【0003】
Nε-(carboxymethyl)lysine (CML)は生体内で最も多いAGEであり、加齢に伴い皮膚コラーゲンで増加することから、肌の老化(しわ、たるみなど)の主たる要因であると考えられている。
【0004】
イソフラボンは、多くの論文において、NF-κB活性抑制、炎症性サイトカインの産生抑制などの抗炎症作用を有することなど、多岐にわたる病態に対して有益に作用することが報告されている(非特許文献1)。一方で、イソフラボンは、サプリメントとして国内に流通しており、これらの商品には多量摂取を避けることなどの表示がされているが、具体的な有害作用についてはあまり知られていない。
【0005】
最近のイソフラボンに関する報告では、抗腫瘍効果及びがんの転移抑制を示すことも述べられており、その作用点はミトコンドリアのNADH: ubiquinone oxidoreductase (Complex I)の直接阻害である(非特許文献2)。言い換えると、Complex Iは正常細胞でも存在し、生命活動に不可欠な機構であるから、これを阻害することは有害作用を十分に予見することができる。最近の報告では、イソフラボンの成分である、ゲニスタインが肝機能に障害を与えること、ダイゼインが脾臓に障害を与えることが述べられ、高用量イソフラボンの有害作用について報告がある(非特許文献3、4)。
【0006】
また、イソフラボンが抗炎症作用を有していることから、喘息に対する有益な効果があるのか、臨床試験が実施されている(非特許文献5)。その結果、イソフラボンは抗炎症効果を示さない成績が示されており、従来の抗炎症作用を主体とするイソフラボンの効果は極めて懐疑的であり、再検証されるべき課題として挙げられる。
【0007】
特許文献1では、高濃度にイソフラボンを含む原料を発酵させることで、ヒドロキシイソフラボンを効率的に製造することができること、得られたヒドロキシイソフラボンは優れた抗グリケーション作用を奏することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第第5318339号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Yu J, Bi X, Yu B, Chen D. Isoflavones: Anti-Inflammatory Benefit and Possible Caveats. Nutrients. 2016 Jun 10;8(6). pii: E361. doi: 10.3390/nu8060361.
【非特許文献2】Lim SC, Carey KT, McKenzie M. Anti-cancer analogues ME-143 and ME-344 exert toxicity by directly inhibiting mitochondrial NADH: ubiquinone oxidoreductase (Complex I). Am J Cancer Res. 2015 Jan 15;5(2):689-701.
【非特許文献3】Singh P, Sharma S, Rath SK. Genistein induces deleterious effects during its acute exposure in Swiss mice. Biomed Res Int. 2014;2014:619617. doi: 10.1155/2014/619617.
【非特許文献4】Xiao Y, Mao X, Yu B, He J, Yu J, Zheng P, Huang Z, Chen D. Potential risk of isoflavones: toxicological study of daidzein supplementation in piglets. J Agric Food Chem. 2015 Apr 29;63(16):4228-35. doi: 10.1021/acs.jafc.5b0067
【非特許文献5】Smith LJ, Kalhan R, Wise RA, Sugar EA, Lima JJ, Irvin CG, Dozor AJ, Holbrook JT. Effect of a soy isoflavone supplement on lung function and clinical outcomes in patients with poorly controlled asthma: a randomized clinical trial. JAMA. 2015 May 26;313(20):2033-43. doi: 10.1001/jama.2015.5024
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、未発酵のイソフラボンと比べて優れた作用を奏する、脱毛防止剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ヒドロキシイソフラボンを含む発酵イソフラボンは、未発酵のイソフラボンと比べて顕著に優れた脱毛防止作用を示し、更に炎症作用及び環境ホルモン様作用を示さないという知見を得た。
【0012】
本発明は、これら知見に基づき、更に検討を重ねて完成されたものであり、次の脱毛防止剤を提供するものである。
【0013】
(I) 脱毛防止剤
(I-1) 下記式(1)〜(5)で表されるヒドロキシイソフラボン及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とする脱毛防止剤。
【0014】
【化1】
【0015】
【化2】
【0016】
【化3】
【0017】
【化4】
【0018】
【化5】
【0019】
(I-2) イソフラボン含有組成物の発酵物を有効成分とする、(I-1)に記載の脱毛防止剤。
【発明の効果】
【0020】
ヒドロキシイソフラボン及びこれを含む発酵イソフラボンは、未発酵のイソフラボンと比べて、顕著に優れた脱毛防止作用を有するので、脱毛防止剤の有効成分として有用である。その上、ヒドロキシイソフラボン及びこれを含む発酵イソフラボンは、炎症作用及び環境ホルモン様作用を示さないため安全性において優れている。
【0021】
また、ヒドロキシイソフラボン及びこれを含む発酵イソフラボンは、天然由来成分であるので安全性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】調製したCMLのクオリティーチェックの結果を示す写真である。(A)調製したBSA及びCMLを図に示した質量分ポリアクリルアミドゲルにアプライし、SDS-PAGEにより展開した。電気泳動後、ゲルを固定液(7%酢酸 20%メタノール)で固定し、2.5%CBB染色液(7%酢酸 50%メタノール)で30分間染色を行った。さらに固定液で振とうしながら脱色を行った。その後、ゲルドライヤーでゲルを乾燥させ、スキャンしたイメージを取得した。(B) SDS-PAGEの後、抗CML抗体と60分反応させ、HRP標識した2次抗体を更に60分反応させた。
図2】Wound assayの結果を示すグラフである。マウス髭由来毛乳頭細胞(DPCs)を継代し、3継代目まで細胞を殖やして用いた。1μg/ml CMLを加えた培地で培養し、実験開始前と24時間培養後の位相差顕微鏡像を撮影し、傷の回復した距離を細胞の運動性として評価した(n=12)。図に示した濃度の発酵又は未発酵イソフラボンは、CMLと同時に添加した。同じような成績は独立する2回の追試験により再現性が認められた。データは平均値±標準誤差で示している。
図3】レポーターアッセイの結果を示すグラフである。NF-κB-luc (Agilent tech., Santa Clara, CA)を安定強発現するATDC5を樹立し、これを実験方法の項で述べたように培養後、ONE-Glo systemを用いたルシフェラーゼアッセイを行い、発光強度を検出した(n=6)。DMSO、20μg/mlの濃度の発酵又は未発酵イソフラボンは、対照群BSA又はCMLと同時に添加した。同じような成績は独立する2回の追試験により再現性が認められた。データは平均値±標準誤差で示している。*:P<0.01, vsコントロール、#:P<0.01, vs CML
図4】急性毒性試験の結果を示す写真である。対照、発酵又は未発酵イソフラボンを投与したマウスの肝臓、腎臓、精嚢、胃十二指腸の写真である。
図5】毛包形成に対する影響を示す写真である。(A, B) HE染色像、(C, D) DAPI染色像、(E, F)抗CML抗体による検出結果。左列:BSA、右列:CML。BSAによっては、HE染色により濃い紫色の塊で示され、DAPI染色では青色蛍光の塊で示される毛球部の核の凝集(A,C)が矢印で示したように観察されたが、CMLによっては同様の組織像は観察されなかった(B, D)。皮内注射した部位は矢頭で示し、摘出した組織部にCMLが残存していることを、抗CML抗体反応としてとらえた(E, F)。
図6】毛球部における核の凝集の定量化の結果を示す写真である。(A, B)DAPI染色像、(C, D)画像取得後、画像解析ソフトImage Jによって、2値化した像。左列:BSA、右列:CML。
図7】毛球部における核の凝集の定量化の結果を示すグラフである。画像を2値化した後、毛包部の黒色密度を核の凝集量として評価した。マウスにBSA又はCMLを皮内注射し、エタノール、発酵又は未発酵イソフラボンを外用塗布した。1匹ずつのマウスでの検討結果を3回実施し、それらの組織のうち、1匹から6視野計測した(n=18)。データは平均値±標準誤差で示している。
図8】血管透過性試験の結果を示す写真である。マウスにBSA、CML又はCELを皮内注射し、エタノール、発酵又は未発酵イソフラボンを外用塗布した。尾静注により1%Evans blue溶液100μlをマウスに投与し、10分後に写真を撮影して血管透過性の亢進を観察した。
図9】脱毛試験の結果を示す写真である。マウスにBSA又はCMLを皮内注射し、エタノール、発酵又は未発酵イソフラボンを外用塗布した。(左上)抜毛後14日目のマウス、(左下)脱毛後の脱毛テープ、(右)脱毛テープに付着した毛の光学顕微鏡写真
図10】脱毛試験の結果を示す写真及びグラフである。マウスにBSA及びCMLを皮内注射した(n=6)。(A) BSL及びCMLを注射した時のマウス、(B, C)抜毛後11日目のマウス、(D)脱毛テープに付着した毛の太さを示すグラフ(データは平均値±標準誤差、***P<0.001)、(E, F)脱毛テープに付着した毛の光学顕微鏡写真(E:BSL、F:CML)、(G, H)脱毛テープに付着した毛の走査型電子顕微鏡写真(G:BSL、H:CML)
図11】脱毛試験の結果を示すグラフである。脱毛テープに付着した毛の本数を示す(データは平均値±標準誤差、***P<0.001)。
図12】脱毛試験の結果を示すグラフである。脱毛テープに付着した毛の太さを示す。
図13】レポーターアッセイの結果を示すグラフである。NF-κB-luc (Agilent tech., Santa Clara, CA)を安定強発現するATDC5を樹立し、これを実験方法の項で述べたように培養後、ONE-Glo systemを用いたルシフェラーゼアッセイを行い、発光強度を検出した(n=6)。DMSO、20μg/mlの濃度のダイジン、ダイゼイン、ゲニステイン、ゲニスチン、8-OHダイゼイン、8-OHゲニステイン、8-OHグリシテイン、発酵又は未発酵イソフラボンは、対照群BSA又はCMLと同時に添加した。同じような成績は独立する2回の追試験により再現性が認められた。データは平均値±標準誤差で示している。
図14】性ホルモン作用試験の結果を示すグラフである。n=6 同じような成績は独立する2回の追試験により再現性が認められた。データは平均値±標準誤差で示している。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0024】
なお、本明細書において「含む(comprise)」とは、「本質的にからなる(essentially consist of)」という意味と、「からなる(consist of)」という意味をも包含する。
【0025】
本発明の脱毛防止剤は、下記式(1)〜(5)で表されるヒドロキシイソフラボン及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分とすることを特徴とする。
【0026】
【化6】
【0027】
【化7】
【0028】
【化8】
【0029】
【化9】
【0030】
【化10】
【0031】
式(1)〜(5)で表されるヒドロキシイソフラボン及びそれらの塩
式(1)で表されるヒドロキシイソフラボンは、ダイゼインの誘導体であって、8位(A環の8位)炭素にヒドロキシル基を備える化合物であり、以下では8-OHダイゼインと称することもある。
【0032】
式(2)で表されるヒドロキシイソフラボンは、ゲニステインの誘導体であって、8位(A環の8位)炭素にヒドロキシル基を備える化合物であり、以下では8-OHゲニステインと称することもある。
【0033】
式(3)で表されるヒドロキシイソフラボンは、グリシテインの誘導体であって、8位(A環の8位)炭素にヒドロキシル基を備える化合物であり、以下では8-OHグリシテインと称することもある。
【0034】
式(4)で表されるヒドロキシイソフラボンは、ダイゼインの誘導体であって、6位(A環の6位)炭素にヒドロキシル基を備える化合物である。
【0035】
式(5)で表されるヒドロキシイソフラボンは、ダイゼインの誘導体であって、3'位(B環の3位)炭素にヒドロキシル基を備える化合物である。
【0036】
上記のようなヒドロキシイソフラボンは、イソフラボン配糖体(以下では配糖体と称することもある)からイソフラボンアグリコン(以下ではアグリコンと称することもある)を生成し、更に、このアグリコンをヒドロキシル化して得ることができる。ここで、ダイジン、グリシチン、ゲニスチンなどはA環7位に糖が結合した配糖体であり、この配糖体から糖を解離させることでダイゼイン、ゲニステイン、グリシテインなどのアグリコンが生成する。本明細書におけるイソフラボン類とは、イソフラボン配糖体、イソフラボンアグリコン及びヒドロキシイソフラボンを意味する。
【0037】
式(1)〜(5)で表されるヒドロキシイソフラボンの塩としては、例えば、ナトリウム、マグネシウム、カリウム、カルシウム、アルミニウム等の無機塩;メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン等の有機塩基との塩;リジン、オルニチン、アルギニン等の塩基性アミノ酸との塩及びアンモニウム塩が挙げられる。当該塩は、酸付加塩であってもよく、かかる塩としては、具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の鉱酸;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、リンゴ酸、酒石酸、フマル酸、コハク酸、乳酸、マレイン酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸等の有機酸;アスパラギン酸、グルタミン酸等の酸性アミノ酸との酸付加塩が挙げられる。また、式(1)〜(5)で表されるヒドロキシイソフラボンには、その水和物、溶媒和、結晶多形なども含まれる。
【0038】
本明細書において「式(1)〜(5)で表されるヒドロキシイソフラボン及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種」(以下では、これを本発明のヒドロキシイソフラボンと称することもある)とは、式(1)〜(5)で表されるヒドロキシイソフラボン及び式(1)〜(5)で表されるヒドロキシイソフラボンの塩の10種類の化合物から選択される少なくとも1種の化合物のことを意味する。
【0039】
本発明における式(1)〜(5)で表されるヒドロキシイソフラボン及びそれらの塩としては、単離又は精製された状態でない物(粗精製物)、及び単離又は精製された物のいずれも使用することができる。
【0040】
本発明における式(1)〜(5)で表されるヒドロキシイソフラボン及びそれらの塩は、自家調製品又は市販品を問わず使用することができる。自家調製する方法をとしては、発酵により生合成する方法、及び化学的に合成する方法が挙げられる。本発明の式(1)〜(5)で表されるヒドロキシイソフラボン及びそれらの塩は、中でも、イソフラボン含有組成物を発酵させて製造することが好ましい。本発明では、式(1)〜(5)で表されるヒドロキシイソフラボン及びそれらの塩を含む、イソフラボン含有組成物の発酵物それ自体を使用することもできる。
【0041】
本発明におけるイソフラボン含有組成物は、イソフラボン類を含有する組成物のことであり、通常、イソフラボン配糖体及びイソフラボンアグリコン、特にイソフラボン配糖体が多く含有する。イソフラボン含有組成物に含まれるイソフラボン類の量は、特に制限されず、好ましくは10〜100質量%、より好ましくは25〜99質量%、更に好ましくは35〜90質量%、特に好ましくは40〜80質量%である。このようにイソフラボン含有組成物中のイソフラボン類の含有量が高い場合は、発酵によりヒドロキシイソフラボンを高濃度で得ることができる。
【0042】
上記イソフラボン含有組成物としては、イソフラボン類が濃縮されて含有された植物抽出物が挙げられる。植物抽出物を得るための植物としては、豆科植物、バラ科植物、アヤメ科植物、桑科植物、ヒユ科植物などが挙げられ、これらの中では他の植物に比べてイソフラボン類の含有量が多いことから豆科植物が好ましい。
【0043】
イソフラボン含有組成物の発酵は、公知の方法、例えば、特許第5318339号公報に記載の方法に従い実施することができる。
【0044】
本発明におけるイソフラボン含有組成物の発酵物としては、発酵により得られた状態のままの物、及び発酵後に抽出処理、濃縮処理、濾過処理、乾燥処理、滅菌処理、pH調整、脱臭処理、脱色処理等の処理を行った物のいずれも使用することができる。
【0045】
本発明のヒドロキシイソフラボン及びこれを含む発酵イソフラボンは、炎症作用及び環境ホルモン様作用(性ホルモン作用、特にエストロゲン作用)を示さないため安全性において優れている。さらに、本発明のヒドロキシイソフラボン及びこれを含む発酵イソフラボンは、天然由来成分であるので安全性が高い。
【0046】
脱毛防止剤
本発明の脱毛防止剤は、本発明のヒドロキシイソフラボンにより脱毛防止作用を発揮するため、脱毛防止用外用剤、脱毛防止用経口剤、頭髪用化粧料、飲食品、脱毛防止作用を付与する添加剤等として、好適に使用することができる。
【0047】
脱毛防止用外用剤を調製する場合、本発明のヒドロキシイソフラボンを、公知の成分とともに、トニック、ローション、軟膏などの形態に調製して、外用の製剤にすることが可能である。
【0048】
脱毛防止用外用剤には、脱毛防止用外用剤に使用される公知の添加剤、例えば、抗菌剤、清涼剤、サリチル酸、亜鉛及びその誘導体、乳酸及びそのアルキルエステル、油分、酸化防止剤、界面活性剤、香料、紫外線吸収剤、色素、エタノール、水、保湿剤、増粘剤、可溶化剤などから選択される1種又は2種以上を配合することができる。
【0049】
脱毛防止用外用剤中に含まれる本発明のヒドロキシイソフラボンの割合は、特に制限されず、例えば、0.01〜99質量%の濃度を挙げることができる。
【0050】
脱毛防止用経口剤として調製する場合、本発明のヒドロキシイソフラボンを、医薬品において許容される無毒性の担体、希釈剤又は賦形剤とともに、タブレット(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠、トローチ剤などを含む)、カプセル剤、丸剤、粉末剤(散剤)、液剤、シロップ、ペースト、細粒剤、顆粒剤、懸濁液、乳濁液などの形態に調製して、経口用の製剤にすることが可能である。
【0051】
脱毛防止用経口剤中に含まれる本発明のヒドロキシイソフラボンの割合は、特に制限されず、例えば、0.01〜99質量%の濃度を挙げることができる。
【0052】
脱毛防止用経口剤の投与量は、患者の体重、年齢、性別、症状などの種々の条件に応じて適宜決定することができる。
【0053】
頭髪用化粧料の剤型は、水溶液系、可溶化系、乳化系、油液系、粉末系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水−油2層系、水−油−粉末3層系等の幅広い剤型を採り得る。
【0054】
頭髪用化粧料の用途も任意であり、例えば、シャンプー、リンス、ヘアートリートメント、ヘアーコンディショナー、整髪料、ヘアートニック、染毛剤、ヘアーマニキュア、ポマード、ヘアーリキッド、ヘアースプレー、ヘアークリーム等が挙げられる。
【0055】
頭髪用化粧料には、頭髪用化粧料に使用される公知の添加剤、例えば、油性成分、保湿剤、増粘剤、抗酸化剤、殺菌剤、防腐剤、紫外線吸収剤、色素、香料、溶剤、pH調整剤、血行促進剤などから選択される1種又は2種以上を配合することができる。
【0056】
頭髪用化粧料中に含まれる本発明のヒドロキシイソフラボンの割合は、特に制限されず、例えば、0.01〜99質量%の濃度を挙げることができる。
【0057】
飲食品としては哺乳動物(ヒトを含む)が摂取できるあらゆる飲食品が含まれ、例えば、乳製品;発酵食品(ヨーグルト、チーズ等);飲料類(コーヒー、ジュース、ココア、茶飲料、スポーツドリンク、栄養ドリンクのような清涼飲料、乳飲料、乳酸菌飲料、乳酸菌入り飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、日本酒、洋酒、果実酒のような酒等);スプレッド類(カスタードクリーム等);ペースト類(フルーツペースト等);洋菓子類(チョコレート、ドーナツ、パイ、シュークリーム、ガム、グミ、ゼリー、キャンデー、クッキー、ケーキ、プリン、ビスケット等);氷菓類(アイスクリーム、アイスキャンデー、シャーベット等);食品類(カレー、牛丼、雑炊、味噌汁、スープ、ミートソース、パスタ、漬物、ジャム、ハム、ソーセージ、ベーコン等);調味料類(ドレッシング、ふりかけ、旨味調味料、スープの素、味噌、醤油、ソース、ケチャップ、オイスターソース等)などが挙げられる。
【0058】
飲食品の製法も特に限定されず、適宜公知の方法に従うことができる。
【0059】
飲食品としては、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、保健用食品、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品なども挙げられる。サプリメントとして使用する際の投与単位形態については特に限定されず適宜選択できるが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、液剤、散剤等が挙げられる。
【0060】
飲食品には、必要に応じて、賦形剤、タミン類、ミネラル類、ビフラボノイド類、キノン類、ポリフェノール類、アミノ酸、核酸、必須脂肪酸、清涼剤、結合剤、甘味料、崩壊剤、滑沢剤、着色料、香料、安定化剤、防腐剤、徐放調整剤、界面活性剤、光沢剤、溶解剤、湿潤剤等を配合することができる。
【0061】
飲食品に含まれる本発明のヒドロキシイソフラボンは、例えば、0.01〜99質量%の濃度を挙げることができる。
【0062】
飲食品の摂取量は、摂取者の体重、年齢、性別、症状などの種々の条件に応じて適宜設定することができる。
【0063】
なお、本発明における経口剤及び化粧料には、医薬部外品も包含される。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を更に詳しく説明するため実施例を挙げる。しかし、本発明はこれら実施例等になんら限定されるものではない。
【0065】
<材料と方法>
・発酵イソフラボン(イソフラボン含有組成物の発酵物)の調製
(1)前培養
グルコース1質量%、イーストエキス0.5質量%、及び水98.5質量%を混合し、更にpHを5.4に調整し、前培養に用いる培地(前培養培地)を得た。この前培養培地50 mlを三角フラスコ(300 mL)に入れ、オートクレーブ内121℃の環境下で20分間滅菌を行った。その後、アスペルギルス・サイトイ(Aspergillus saitoi IAM2210)の胞子を保存用のPDA斜面培地から1白金耳取り出し、上記滅菌を行った前培養培地に植菌した。次いで、振とう培養装置を用いて、回転速度180rpm、温度30℃の環境下で24時間培養を行った。
【0066】
(2)本培養(イソフラボン含有組成物の発酵)
スクロース1質量%、イーストエキス0.5質量%、イソフラボン素材(すなわち、イソフラボン含有組成物) 1.6質量%、消泡剤(信越化学工業株式会社製、KM72F) 0.04質量%、及び水96.86質量%を混合し、更にpHを5.1に調整し、本培養に用いる培地(本培養培地)を得た。この本培養培地2.5Lを5Lのジャーファメンターに入れ、オートクレーブ内121℃の環境下で20分間滅菌を行った。その後、上記(1)で培養した培養液50 mlを上記滅菌した本培養培地に植菌した。次いで、通気量0.5L/分、撹拌速度300rpm、温度30℃の環境下で72時間培養を行った。
【0067】
なお、上記イソフラボン素材(すなわち、イソフラボン含有組成物)は、Soyben Isoflavones (Tianjin Jianfeng Natural Product R&D Co.,Ltd.製、イソフラボン類含有量40質量%以上)を用いた。
【0068】
(3)抽出及び粉末化
上記(2)の培養を終えた後、ジャーファメンターから培養液約2.4Lを回収し、撹拌羽付きタンクへ投入した。その後、7.5Lのエタノールをこの撹拌羽付きタンクへ更に投入し、25℃の環境下で3時間撹拌し、抽出を行った。その後、得られた抽出液を、ブフナーロートを設置した吸引瓶を用い、5A濾紙を介して固液分離した。次いで、固液分離により得られた抽出液約10Lをエバポレーターで減圧濃縮し、約2Lにまで濃縮した。その後、凍結乾燥法により粉末化し、発酵イソフラボン24.5 gを得た。
【0069】
以下の表に、未発酵イソフラボン及び発酵イソフラボンにおけるイソフラボン類の含有量のHPLC (高速液体クロマトグラフィー)による測定結果を示す。
【0070】
【表1】
【0071】
・ダイジン、ダイゼイン、ゲニスチン、ゲニステイン
市販試薬(和光純薬工業株式会社製)を使用した。
【0072】
・ヒドロキシイソフラボン(8-OHダイゼイン、8-OHゲニステイン、8-OHグリシテイン) 発酵イソフラボンより分取HPLCにより単離精製した物を使用した。
【0073】
・細胞培養
DPCsは8週齢、メスのC57BL/6マウスの髭から実体顕微鏡下で単離し、培養は抗生物質溶液(64μg/ml penicillin G (NACALAI TESQUE INC., Kyoto, Japan)、100μg/ml streptomycin (NACALAI TESQUE INC.))を含むPapilla Cell Growth Medium (TOYOBO CO., LTD., Osaka, Japan)を用いて行った。
【0074】
・CMLの調製
0.4 mmolグリオキシル酸、1.2 mmolシアノ水素化ホウ素ナトリウム、及び400 mgウシ血清アルブミン(bovine serum albumin; BSA)をそれぞれ8 mlのpH7.4のリン酸緩衝液に溶かし、37℃で24時間インキュベートした。PD-10カラム(GE Healthcare Ltd., Osaka, Japan)をスタンドに固定し、pH7.4リン酸緩衝液を2 ml流してカラムを共洗いした後、2.5 mlのCMLをカラムに通した。カラム精製した試料を、ナノドロップ2000 (Thermo Fisher Scientific Inc., Ltd. Tokyo, Japan)にてOD280の吸光度測定により、フラクションを精製した。さらに、Slide-A-Lyzer 10,000 MWCO (Thermo Fisher Scientific Inc., Ltd)を使用して透析によりCMLを精製した。
【0075】
・ウエスタンブロッティング及びCBB染色
精製したCML及びBSAを、SDS-10%ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって展開した。1次抗体としてAnti-Carboxymethyl Lysine antibody (Abcam CO., Ltd., Tokyo, Japan)、2次抗体としてgoat anti-rabbit IgG-HRP (Santa Cruz Biotechnology, Inc., Santa Cruz, CA)を用いた。ChemiLumi One Plus Reagent (NACALAI TESQUE INC.)で反応させ、LAS4000 system (FUJI film, Tokyo, Japan)で化学発光シグナルを捉え検出した。また、SDS-10%ポリアクリルアミドゲル電気泳動によって展開したCML及びBSAをクマシーブリリアントブルー(CBB)染色により検出した。
【0076】
・レポーターアッセイ
レポーターアッセイは、ONE-Glo luciferase system (Promega Corporation, Tokyo, Japan)を用いて行った。NF-κB-luc (Agilent tech., Santa Clara, CA)を安定強発現するATDC5を樹立し、これを48ウェルマイクロプレートに1×104 cells/wellで播種し、24時間培養後BSA又はCMLを濃度が1μg/mlになるように培地に加えた。DMSO、20μg/mlの濃度の発酵又は未発酵イソフラボンも、対照群BSA又はCMLと同時に添加した。更に24時間培養後、Passive lysis bufferを各ウェルに20μlずつ滴下し、イエロ−チップで細胞を剥し取ってから細胞懸濁液を調製した。この細胞懸濁液5μlを、ONE-Gloを20μl分注したエッペンチューブに加えてピペッティングし、TD20/20n Luninometer (Turner BioSystems, Sunnyvale, CA)を用いて発光強度を検出した。
【0077】
・急性毒性
10週齢、オスのddYマウスを使用し、腹腔内投与法により、発酵イソフラボン又は未発酵イソフラボンの急性毒性作用を評価した。それぞれの素材は、エタノールを溶媒として用いて調製し、1 mg/100μl (10 mg/ml)を腹腔内に投与し、24時間後に開腹、剖検した(対照としてエタノールを使用した)。
【0078】
・動物処置及び組織学的分析
8週齢、メスのC57BL/6マウスの背中の毛をセメダインバスコークN (セメダイン株式会社, Tokyo, Japan)を適量塗布し、24時間経過させ乾燥後に強制抜毛を行った。抜毛部位に27G×1/2注射針(NIPRO, Osaka, Japan)を用いて、コントロールとして1 mg/ml BSA 200μl、対照試験として1 mg/ml CML 200μlを皮内に10か所程度注射し、注射箇所のマーキングのために墨汁を同時に注射した。2日後にマウスを安楽死させ、背部皮膚を摘出し試料とした。試料を4%パラホルムアルデヒド・リン酸緩衝液(Wako Pure Chemical Industries Ltd., Osaka, Japan)で組織固定を行い、パラフィン包埋を行い、5μmの薄切によりパラフィン切片を得た。パラフィンは組織観察のためにヘマトキシリン-エオジン(HE)染色を行い、封入剤としてSoftmount (Wako Pure Chemical Industries Ltd.)を用いた。
【0079】
連続するパラフィン切片の蛍光免疫染色のために1次抗体にrabbit anti-Carboxymethyl Lysine antibody、2次抗体にAlexa Fluor 555 goat anti-rabbit IgG (Life Technologies Japan, Tokyo, Japan)を用い、封入剤としてFluore-KEEPER Antifade Reagent, Non-Hardening Type with DAPI (NACALAI TESQUE INC.)を用いた。HE染色画像はLeica実体顕微鏡システム(Leica microsystems, Tokyo, Japan)により、蛍光免疫組織化学的解析は蛍光顕微鏡EVOS fl (Life Technology, Tokyo, Japan)により取得した。蛍光免疫染色により得られた切片をDAPI染色した後、取得画像をImage J softwareにより2値化して、毛球部の核の凝集を相対比として示した。
【0080】
発酵又は未発酵イソフラボンの効果を確認する際には、BSA又はCMLを皮内注射した際に、エタノール、0.5%の濃度の発酵又は未発酵イソフラボンを1FTU外用塗布した。
【0081】
・エバンスブルーの静脈内注射
上記と同様に、抜毛処理、BSA、CML又はCELの皮内注射、及びエタノール、発酵又は未発酵イソフラボンの外用塗布を行った。2日後にEvans blue (NACALAI TESQUE INC.)を生理食塩水に溶かし、1% Evans blue溶液を調製した。マウスの尻尾を40℃のウォーターバスで温めて血管を拡張させた上で27G×1/2注射針を用いて1% Evans blue溶液を100μl尾静注した。血管透過性は10分後に背中の皮膚がEvans blueによって青く染まることにより確認した。
【0082】
・脱毛試験
上記と同様に、抜毛処理、BSA又はCMLの皮内注射、及びエタノール、発酵又は未発酵イソフラボンの外用塗布を行った。脱毛活性は脱毛テープEpilat (Kracie, Tokyo, Japan)を使用し、Leica実体顕微鏡システム(Leica microsystems, Tokyo, Japan)により可視化した。また、試料は、Keyence VE-8800走査型電子顕微鏡(Keyence Co., Osaka, Japan)を使用して観察した。
【0083】
・性ホルモン作用試験
HeLa細胞(Riken Cell Bank, Ibaraki, Japan)には、エストロゲンレセプター(ER)が発現しており、この細胞に3X ERE TATA luc (Addgene)とEGFP-1 (Takara clonetch, Shiga, Japan)をエレクトロポレーション法を用いて、遺伝子を導入した。Neomycinによる薬剤選別を行った後、60クローンを独立して培養し、5つの3X ERE TATA luc安定強発現細胞を得た。得られた細胞を用いて、各イソフラボン素材のレポーター活性をEstradiol: E2 (NACALAI TESQUE INC.)と比較し、測定した。各イソフラボン素材は20μg/mlで、E2は1 nMにて処置した。なお、E2 1μMでは約100万倍以上の活性を認めたが、グラフでは比較し難いため、1 nM E2のデータとの対比を示した
【0084】
・統計分析
有意差の検定はstudent's unpaird t-testを用いて行い、多検体比較はDunnett-testを行った。p<0.05の場合は有意に異なるものと判定した。
【0085】
<結果>
・CMLの精製
グリオキサールとBSAとを反応させると、糖化タンパクであるCMLが作製できる。まず、作製したCML及びネガティブコントロールとしてグリオキサールを含まない条件で作製したBSAをSDS-PAGEを行って展開し、CBB染色を行った。結果を図1に示す。
【0086】
検討の結果、BSAに糖修飾が起ったCMLは、やや高分子量側にシフトした泳動像が見られた(図1A)。抗CML抗体を用いて、調製したCMLの反応性をウエスタンブロットにより検討した結果、対照試験として行った精製BSAには反応せず、CMLをアプライしたウェルにおいて抗体陽性反応が見られた(図1B)。
【0087】
・Wound assay
Wound assayにより発酵イソフラボンの毛乳頭細胞のwound healingに対する影響を調べた。12ウェルマイクロプレートに髭由来毛乳頭細胞を播種し、ウェルに縦に傷を付けた上で1μg/mlのCML、又は1μg/mlのCMLと発酵イソフラボン若しくは未発酵イソフラボンとを含む培地に交換し、Wound assayを行った(対照としてDMSOを使用した)。結果を図2に示す。
【0088】
CMLはDPCsのWound healingを阻害し、これに対して未発酵イソフラボンは影響しないが、発酵イソフラボンは濃度依存的に改善効果を示した。
【0089】
・NF-κBの活性(1)
レポーターアッセイにより発酵イソフラボンのNF-κBの活性に及ぼす影響を調べた。結果を図3に示す。
【0090】
CMLは対照試験として行ったBSAに比べて、有意にNF-κBの活性を亢進させた。発酵イソフラボンは、ややNF-κBの活性を亢進する傾向を示したが、未発酵イソフラボンは強力にNF-κBの活性を亢進させた。発酵イソフラボンは、CMLによって誘導されたNF-κBの活性亢進作用に対して阻害効果が観察され、未発酵イソフラボンは、CMLによって誘導されたNF-κBの活性亢進作用を更に増強した。
【0091】
・急性毒性
1 mgの素材を腹腔内投与24時間後、解剖した。結果を図4に示す。
【0092】
各臓器の重量変化に際立った特徴はなかった。発酵イソフラボンによっては影響はなかったが、未発酵イソフラボンによって肝臓及び腎臓の黄変が認められ、精嚢もまた黄変した。最も顕著な未発酵イソフラボンの効果は、消化管に観察された。それは、腸管内腔が閉塞し、上皮構造は薄くなった。これにより、十二指腸から下位において膵液が滞留していた。未発酵イソフラボンにより消化管で炎症が生じることが強く推定された。
【0093】
・毛包形成に対する影響
マウス背部皮内にBSA又はCMLを注射することで、皮膚におけるCMLによる毛包形成への影響を調べた。背部の毛を強制脱毛することで毛包形成周期をリセットし、成長期に強制的に移行させることで、毛包の形成初期におけるCMLの影響を組織学的に観察した。結果を図5に示す。
【0094】
HE染色の結果、BSAによっては毛包形成が観察されたが、CMLによっては毛包がほとんど観察されなかった(図5A、B)。DAPIで核を染色したところ、BSAによっては毛包形成部位に核の凝集が観察されたが、CMLによっては同部位における核の凝集がわずかに観察された(図5C、D)。なお、連続パラフィン切片を用いて、作製した切片におけるCML抗体陽性反応部を示した(図5E、F)。
【0095】
・毛球部における核の凝集の定量
上記で得られた結果をもとに、画像解析ソフトImage Jを用いて、毛球部における核の凝集を定量した。Image JによってDAPI染色画像(図6A、B)を2値化し(図6C、D)、毛包の核の凝集に対する効果を数値化した。結果を図7に示す。
【0096】
検討の結果、CMLにより毛球部の核(毛乳頭細胞)の凝集が阻害された。このCMLによる作用に対して、発酵イソフラボンは改善効果を示し、未発酵イソフラボンは改善効果を示さなかった。
【0097】
・血管透過性試験
エバンスブルーを用いた血管透過性評価を行った。結果を図8に示す。
【0098】
経時的に観察した結果、BSAによってはおよそ10分で表皮に青色の色素が浮き出てくることが観察されたが、CMLによっては更に早い時間から表皮における青色色素が認められ、BSA投与と同じ10分経過時では、BSAより濃くなった。CMLによるエバンスブルー透過性亢進に対して、発酵イソフラボンは改善効果を示し、未発酵イソフラボンは更に強いエバンスブルー透過性亢進作用を示した。
【0099】
・脱毛試験
抜毛後14日目に行った脱毛試験の結果を図9に示す。
【0100】
14日後には全てのマウスにおいて発毛が生じたように見えた(図9左上)。しかしながら、脱毛テープで脱毛試験(毛包強度試験)を行ったところ、CMLはBSAより多くの毛が抜けた。CMLによる脱毛作用に対して、発酵イソフラボンは脱毛の抑制効果を示し、未発酵イソフラボンは著しい脱毛が観察された(図9下)。脱毛テープで脱毛した毛を光学顕微鏡で観察したところ、CMLにより脱毛した毛は細く、弱々しいものが多く観察された。CMLによる毛の脆弱化に対して、発酵イソフラボンは脆弱化の抑制効果を示し、未発酵イソフラボンは改善効果を全く示さなかった(図9右)。
【0101】
抜毛後11日目に行った脱毛試験の結果を図10−12に示す。
【0102】
抜毛した背中にBSA (脊柱の左側)及びCML (脊柱の右側)を注射した(図10A)、11日後にはBSA及びCMLを注射した両方の部位で発毛が生じたように見えた(図10B、C)。しかしながら、毛包強度試験により抜けた毛は、BSAに比べてCMLは太さが有意に低下した(図10D)。脱毛した毛を光学顕微鏡で観察したところ、CMLにより脱毛した毛はBSLと比べて細くなっていることが観察された(図10E:BSA、F:CML)。脱毛した毛を電子顕微鏡で観察したところ、CMLが毛の質(キューティクル)も悪化させていることが観察された(図10G:BSA、H:CML)。
【0103】
BL6マウス背側を除毛し、両側にCMLを皮内注射、同時に左側には50%エタノール(control)を、右側には0.5%の濃度の発酵又は未発酵イソフラボンを塗布した。生じた発毛を、脱毛テープで毛包強度試験を行った。脱毛テープにより脱毛した毛の本数を、実体顕微鏡下、単位視野あたりの脱毛本数を測定した(図11)。それぞれ6匹ずつ実施し、測定結果を統計学的に処理した結果、図9にある結果と相関し、発酵イソフラボンによって脱毛した毛の本数は、コントロールに比べて有意に減少したが、未発酵イソフラボンによっては脱毛した毛の本数に影響がなかった。
【0104】
図11で示した条件で、毛の太さを光学顕微鏡下、測定した(図12)。測定には、オリンパスソフトウェアcellSensを用いて測定した。脱毛した毛の太さについては、有意ではないものの、発酵イソフラボンによりCMLによって誘導された毛の太さに回復傾向が認められた。
【0105】
・NF-κBの活性(2)
上記と同様の方法で、レポーターアッセイによりダイジン、ダイゼイン、ゲニステイン、ゲニスチン、8-OHダイゼイン、8-OHゲニステイン、8-OHグリシテイン、発酵又は未発酵イソフラボンのNF-κBの活性に及ぼす影響を調べた。結果を図13に示す。
【0106】
発酵イソフラボンに含まれる化合物(8-OHダイゼイン、8-OHゲニステイン及び8-OHグリシテイン)は、ややNF-κBの活性を亢進する傾向を示したが、未発酵イソフラボンに含まれる化合物(ダイジン、ダイゼイン、ゲニステイン及びゲニスチン)は強力にNF-κBの活性を亢進させた。発酵イソフラボンに含まれる化合物は、CMLによって誘導されたNF-κBの活性亢進作用に対して阻害効果が観察され、未発酵イソフラボンに含まれる化合物は、CMLによって誘導されたNF-κBの活性亢進作用を更に増強した。
【0107】
・性ホルモン作用試験
HeLa細胞を用いた性ホルモン作用の評価を行った。結果を図14に示す。
【0108】
発酵イソフラボンに含まれる化合物(8-OHダイゼイン、8-OHゲニステイン及び8-OHグリシテイン)はエストロゲン活性を示さなかったが、未発酵イソフラボンに含まれる化合物(ダイジン、ダイゼイン、ゲニステイン及びゲニスチン)はエストロゲン活性を示した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14