特許第6956959号(P6956959)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6956959
(24)【登録日】2021年10月8日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】アルブミン−糖鎖複合体
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/76 20060101AFI20211021BHJP
   A61K 47/61 20170101ALI20211021BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20211021BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20211021BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20211021BHJP
   A61K 31/702 20060101ALI20211021BHJP
   A61K 31/715 20060101ALI20211021BHJP
   A61K 47/62 20170101ALI20211021BHJP
   C07K 1/13 20060101ALN20211021BHJP
【FI】
   C07K14/76
   A61K47/61
   A61K49/00
   A61K45/00
   G01N21/64 F
   A61K31/702
   A61K31/715
   A61K47/62
   !C07K1/13
【請求項の数】10
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2017-526430(P2017-526430)
(86)(22)【出願日】2016年6月30日
(86)【国際出願番号】JP2016069438
(87)【国際公開番号】WO2017002918
(87)【国際公開日】20170105
【審査請求日】2019年6月18日
(31)【優先権主張番号】特願2015-132002(P2015-132002)
(32)【優先日】2015年6月30日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度 国立研究開発法人科学技術振興機構の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】512088316
【氏名又は名称】株式会社糖鎖工学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】田中 克典
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 恭良
(72)【発明者】
【氏名】小椋 章弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 貴博
【審査官】 坂崎 恵美子
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0099071(US,A1)
【文献】 Biochimica et Biophysica Acta,1995年,Vol.1252,p.209-216
【文献】 The Journal of Biological Chemistry,1985年,Vol.260, No.11,p.6882-6887
【文献】 Bioorganic & Medicinal Chemistry,2013年,Vol.21,p.2037-2044
【文献】 Journal of Medicinal Chemistry,2002年,Vol.45,p.478-491
【文献】 Bioconjugate Chemistry,1997年,Vol.8,p.845-855
【文献】 Glycoconjugate Journal,2014年,Vol.31,p.273-279
【文献】 日本化学会第94春季年会講演予稿集IV,2014年,p.1457(2H6-08)
【文献】 日本農芸化学会誌,2004年,Vol.78,No.9,p.870-873
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 14/76
A61K 31/702
A61K 31/715
A61K 45/00
A61K 47/61
A61K 47/62
A61K 49/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アスパラギン結合型糖鎖が、アルブミン1分子当たり5分子以上結合しており、
下記一般式(I)
【化1】
[一般式(I)中、Aは、アスパラギン残基の側鎖のアミド窒素原子にアスパラギン結合型糖鎖が結合した基を表し;Zは、1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、又は1,4−フェニレン基を表し;Lは、前記A中のアスパラギン残基の糖鎖と結合していない窒素原子と結合する2価の連結基であり;Rは炭素数1〜6のアルキル基を表し;**は、アルブミンのリジン残基の側鎖のアミノ基に結合する炭素原子に結合する部位を示す。]
で表される構造を有しており、
前記Lが、下記一般式(II)
【化2】
[一般式(II)中、Rは炭素数1〜20のアルキレン基を表し;Lは任意の連結基を表し;*は、前記一般式(I)中のAと結合する部位を示し;**は、前記一般式(I)中のZと結合する部位を示す。]
で表される基であることを特徴とする、アルブミン−糖鎖複合体。
【請求項2】
前記アスパラギン結合型糖鎖の非還元末端の糖が、N−アセチルグルコサミン、ガラクトース、マンノース、及びシアル酸からなる群から選択される糖を含む、請求項1に記載のアルブミン−糖鎖複合体。
【請求項3】
前記アスパラギン結合型糖鎖が、下記式(a’)〜(f’)
【化3】
[前記式中、Neu5AcはN−アセチルノイラミン酸、Galはガラクトース、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン、Manはマンノースを意味する。]
からなる群より選択される1種以上の糖鎖である、請求項1又は2に記載のアルブミン−糖鎖複合体。
【請求項4】
生体内において標的組織へ選択的に機能性分子を送達するための担体であって、請求項1〜のいずれか一項に記載のアルブミン−糖鎖複合体を含む、機能性分子用担体。
【請求項5】
生体内において標的組織へ選択的に機能性分子を送達するための担体であって、前記標的組織が肝臓の星細胞であり、請求項1又は2に記載のアルブミン−糖鎖複合体を含み、前記アスパラギン結合型糖鎖の非還元末端がN−アセチルグルコサミンである、機能性分子用担体。
【請求項6】
生体内において標的組織へ選択的に機能性分子を送達するための担体であって、前記標的組織が肝臓のクッパー細胞であり、請求項1又は2に記載のアルブミン−糖鎖複合体を含み、前記アスパラギン結合型糖鎖の非還元末端がマンノースとN−アセチルノイラミン酸の2分岐型である、機能性分子用担体。
【請求項7】
生体内において標的組織へ選択的に機能性分子を送達するための担体であって、前記標的組織が肝臓又は脾臓であり、請求項1又は2に記載のアルブミン−糖鎖複合体を含み、前記アスパラギン結合型糖鎖の非還元末端がマンノースである、機能性分子用担体。
【請求項8】
生体内において標的組織へ選択的に機能性分子を送達するための担体であって、前記標的組織ががん細胞であり、請求項1又は2に記載のアルブミン−糖鎖複合体を含み、前記アスパラギン結合型糖鎖の非還元末端がα(2−3)シアル酸である、機能性分子用担体。
【請求項9】
前記機能性分子が、蛍光物質又は薬剤である、請求項のいずれか一項に記載の機能性分子用担体。
【請求項10】
請求項1〜のいずれか一項に記載のアルブミン−糖鎖複合体を有効成分とし、動物の生体内に投与されることを特徴とする、バイオイメージングプローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は2015年6月30日に出願した特願2015-132002の特許出願に基づき優先権を主張する。本願は、かかる基礎出願の内容及び引用した文献の内容を参照することにより本願に組み入れる。
本発明は、生体内で安定して存在し、1分子で糖鎖クラスター効果を発揮し得るアルブミン−糖鎖複合体に関する。
【背景技術】
【0002】
アスパラギン結合型糖鎖(以下、「N−型糖鎖」と略す場合がある。)は、アスパラギン(Asn)の側鎖のアミド窒素原子に糖鎖が結合した構造からなり、糖鎖を構成する単糖類(単糖又はその誘導体)の種類や配列、分岐の有無等によって多種多様な構造がある。N−型糖鎖は、タンパク質や脂質等の他の分子と相互作用することにより、免疫応答調節、細胞の増殖、がん化やがん細胞の転移等、様々な生物学的機能に深く関与しており、さらに、タンパク質の生体内における安定性にも寄与している。このN−型糖鎖の機能は、診断や治療のための医薬品への応用が期待できるため、N−型糖鎖の生体内における動態の解析が進められている。N−型糖鎖のタンパク質等との相互作用は、主に糖鎖構造に依存しているため、N−型糖鎖の機能を解析する方法として、特定の糖鎖構造をもつN−型糖鎖を、アルブミン等のタンパク質に結合させた糖タンパク質を動物に投与し、動態解析や組織への蓄積の有無等を解析する方法が行われている(例えば、非特許文献1又は2参照。)。また、特定の糖鎖構造のN−型糖鎖をもつ糖タンパク質にさらに蛍光物質を導入し、動物の体内動態をバイオイメージング解析等により非侵襲的に調べることも行われている(例えば、非特許文献3参照。)。
【0003】
1本の糖鎖とタンパク質の相互作用は弱いが、糖鎖が集積することにより、強い相互作用を発揮する(糖鎖クラスター効果)。このため、N−型糖鎖の機能解析に用いる糖タンパク質としては、糖鎖クラスター効果が得られるように、タンパク質1分子当たりにできるだけ多数のN−型糖鎖を結合させたものが好ましい。
【0004】
本発明者らは、これまでに、ポリリジン骨格に1分子当たり4〜16分子のN−型糖鎖を導入し、さらに末端に蛍光物質を修飾した糖鎖クラスターを合成し、これを動物に投与して動態解析を行ったことを報告している(非特許文献4参照。)。糖鎖は嵩高く、水酸基も多いことから、従来はタンパク質1分子当たりの糖鎖の結合分子数を増やすことは非常に困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2008/096760号
【特許文献2】特開2015−030702号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Andre, et al., Bioconjugate Chemistry, 1997, Vol. 8, p.845-855
【非特許文献2】Unverzagt, et al., Journal of Medicinal Chemistry, 2002, Vol.45, p.478-491
【非特許文献3】Ogura, et al., Glycoconjugate Journal, 2014, Vol. 31, p.273-279
【非特許文献4】Tanaka, et al., Angewandte Chemie International Edition, 2010, Vol. 49,p.8195-8200
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ポリリジンに1分子当たり16分子のN−型糖鎖を導入した糖鎖クラスターは、生体に投与すると、分解されやすい。また、実際にヒトへの診断や治療のための医薬品として使用する場合には、できるだけ天然のタンパク質を用いることがより望ましい。
【0008】
本発明は、糖鎖クラスター効果が得られるだけ充分な数の糖鎖が結合しており、かつ生体内で比較的安定的に存在し得るアルブミン−糖鎖複合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、アルブミンは、糖鎖修飾に適したリジン残基を多く有しており、かつ糖鎖修飾されたものも生体内で比較的安定して存在し得ること、新たに開発したRIKEN−CLICK反応(共役イミンの6π−アザ電子環状反応)(特許文献1、2参照。)を利用することにより、アルブミン1分子当たり多数のN−型糖鎖を導入できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体、機能性分子用担体、及びバイオイメージングプローブは、下記[1]〜[12]である。
[1] アスパラギン結合型糖鎖が、アルブミン1分子当たり5分子以上結合していることを特徴とする、アルブミン−糖鎖複合体。
[2] 前記アスパラギン結合型糖鎖の非還元末端の糖が、N−アセチルグルコサミン、ガラクトース、マンノース、及びシアル酸からなる群から選択される糖を含む、前記[1]のアルブミン−糖鎖複合体。
[3] 前記アスパラギン結合型糖鎖が、下記式(a’)〜(f’)
【0011】
【化1】
【0012】
[前記式中、Neu5AcはN−アセチルノイラミン酸、Galはガラクトース、GlcNAcはN−アセチルグルコサミン、Manはマンノースを意味する。]
からなる群より選択される1種以上である、前記[1]又は[2]のアルブミン−糖鎖複合体。
[4] アスパラギン結合型糖鎖が、アルブミンのリジン残基に連結している、前記[1]〜[3]のいずれかのアルブミン−糖鎖複合体。
[5] 生体内において標的組織へ選択的に機能性分子を送達するための担体であって、前記[1]〜[4]のいずれかのアルブミン−糖鎖複合体を含む、機能性分子用担体。
[6] 生体内において標的組織へ選択的に機能性分子を送達するための担体であって、前記標的組織が肝臓の星細胞であり、前記[1]又は[2]のアルブミン−糖鎖複合体を含み、前記アスパラギン結合型糖鎖の非還元末端がN−アセチルグルコサミンである、機能性分子用担体。
[7] 生体内において標的組織へ選択的に機能性分子を送達するための担体であって、前記標的組織が肝臓のクッパー細胞であり、前記[1]又は[2]のアルブミン−糖鎖複合体を含み、前記アスパラギン結合型糖鎖の非還元末端がマンノースとN−アセチルノイラミン酸の2分岐型である、機能性分子用担体。
[8] 生体内において標的組織へ選択的に機能性分子を送達するための担体であって、前記標的組織が肝臓又は脾臓であり、前記[1]又は[2]のアルブミン−糖鎖複合体を含み、前記アスパラギン結合型糖鎖の非還元末端がマンノースである、機能性分子用担体。
[9] 生体内において標的組織へ選択的に機能性分子を送達するための担体であって、前記標的組織ががん細胞であり、前記[1]又は[2]のアルブミン−糖鎖複合体を含み、前記アスパラギン結合型糖鎖の非還元末端がα(2−3)シアル酸である、機能性分子用担体。
[10] 前記機能性分子が、蛍光物質又は薬剤である、前記[5]〜[9]のいずれかの機能性分子用担体。
[11] 前記[1]〜[4]のいずれかのアルブミン−糖鎖複合体を有効成分とし、動物の生体内に投与されることを特徴とする、バイオイメージングプローブ。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体は、生体内で比較的安定的に存在し得、かつ糖鎖クラスター効果が発揮され、タンパク質等の他の生体分子との相互作用が強い。このため、当該アルブミン−糖鎖複合体は、N−型糖鎖の機能解析ツールとして有用であり、さらに、機能性分子を特定の細胞や組織に送達する機能性分子用担体や、特定の細胞や組織を標識するバイオイメージングプローブ、特定の細胞等を標的とする医薬品の有効成分としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】式(a’)〜(f’)で表される2分岐型糖鎖の模式図である。
図2】試験例1において、HL750−HSAを投与したマウス(A)、複合体2aを投与したマウス(B)、複合体2bを投与したマウス(C)、及び複合体2cを投与したマウス(D)の投与後0.5〜3時間経過時点のマウス個体の蛍光画像である。
図3】試験例1において、各マウスのアルブミン−糖鎖複合体又はHL750−HSAの尿中排泄量の測定結果(A)、各マウスのアルブミン−糖鎖複合体投与から3時間経過時点における胆嚢の蛍光強度の測定結果(B)、及び各マウスのアルブミン−糖鎖複合体投与から3時間経過時点における小腸の蛍光強度の測定結果(C)を、示した図である。
図4】試験例1において、複合体2dを投与したマウス(A)、複合体2eを投与したマウス(B)、及び複合体2fを投与したマウス(C)の投与後0.5〜3時間経過時点のマウス個体の蛍光画像である。
図5】試験例1において、各複合体投与後3時間経過時点のマウス個体から切除された肝臓と脾臓の蛍光画像(A)、肝臓の蛍光強度の測定結果を示した図(B)、及び脾臓の蛍光強度の測定結果を示した図(C)である。
図6】試験例2において、各マウスのアルブミン−糖鎖複合体の尿中排泄量の測定結果(A)、各マウスのアルブミン−糖鎖複合体投与から3時間経過時点における胆嚢の蛍光強度の測定結果(B)、及び各マウスのアルブミン−糖鎖複合体投与から3時間経過時点における小腸の蛍光強度の測定結果(C)を、示した図である。
図7】試験例3において、複合体2bを投与したマウスの投与後1時間経過時点のマウス個体の蛍光画像である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体は、N−型糖鎖が、アルブミン1分子当たり5分子以上結合していることを特徴とする。アルブミン1分子に1分子の糖鎖を結合させた糖鎖複合体では、当該糖鎖とタンパク質等の他の分子との相互作用が小さく、反応性が低い。これに対して、本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体は、1分子当たり5分子以上のN−型糖鎖を有しており、1分子のみで糖鎖クラスター効果が充分に発揮され、糖鎖と特定の生体分子との相互作用が強い。本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体としては、アルブミン1分子当たり、9分子以上のN−型糖鎖を有することが好ましい。N−型糖鎖の数の上限は特に限定されないが、N−型糖鎖の数は例えば30分子以下とすることができ、好ましくは20分子以下であり、より好ましくは15分子以下、さらに好ましくは11分子以下である。
【0016】
本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体は、N−型糖鎖を結合させるタンパク質としてアルブミンを用いる。N−型糖鎖は、アルブミンのリジン残基に連結させる。アルブミンは、生体内での安定性に優れており、かつ糖鎖修飾に適したリジン残基が多数存在している。例えば、ヒト血清アルブミンには、1分子当たりリジン残基が60個程度存在しており、このうち糖鎖修飾可能なリジン残基が10〜30個あると推察される。加えて、糖鎖修飾された場合でも、抗原性を獲得し難く、生体内で異物として代謝され難いという利点もある。
【0017】
本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体を構成するアルブミンは、動物から精製された天然型のタンパク質であってもよく、組み換え体であってもよい。また、いずれかの動物が本来有している野生型のアルブミンであってもよく、野生型アルブミンのうち、リジン残基以外の1又は数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加された変異型アルブミンであってもよい。
【0018】
本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体を構成するアルブミンとしては、血清アルブミンが好ましく、哺乳動物由来の血清アルブミンがより好ましい。当該哺乳動物としては、ヒトや、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、サル、ヒツジ、ウマ、ウシ、ブタ、ロバ、イヌ、ネコ等の家畜や実験動物が好ましく、ヒトが特に好ましい。
【0019】
本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体を構成するN−型糖鎖は、1種類のみであってもよく、2種類以上であってもよい。また、1分子のN−型糖鎖を構成する糖類は、グリコシド結合によって鎖状態構造を形成し得る単糖類(単糖又はその誘導体)であれば特に限定されるものではなく、1種類の単糖類のみからなる糖鎖であってもよく、2種類以上の単糖類からなる糖鎖であってもよい。当該単糖類としては、例えば、グルコース(Glu)、ガラクトース(Gal)、マンノース(Man)、N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)、N−アセチルガラクトサミン(GalNAc)、フコース(Fuc)、キシロース(Xyl)、グルクロン酸(GlcA)、イズロン酸(IdoA)、N−アセチルノイラミン酸(Neu5Ac)、N−グリコリルノイラミン酸(Neu5Gc)、デアミノノイラミン酸(KDN;2−ケト−3−デオキシ−D−グリセロ−D−ガラクト−ノノン酸)、及びこれらの誘導体等が挙げられる。
【0020】
グリコシド結合の形態は特に限定されず、α1,4結合、α1,6結合、α2,3結合、α2,6結合、β1,2結合、β1,4結合等であってよい。
本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体を構成するN−型糖鎖は、好ましくは、*−Man−GlcNAc−GlcNAc−**(**はアルブミン結合側を示す。)の共通配列を有する。
【0021】
本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体において、アルブミン1分子に結合しているN−型糖鎖は、糖鎖部分が直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体を構成する糖鎖としては、動物の体内に比較的多く存在している2分岐型糖鎖であることが好ましく、図1に示す式(a’)〜(f’)からなる群より選択される1種以上であることが好ましい。なお、式(a’)〜(f’)の糖鎖は、ヒトをはじめとする動物の生体内で多く存在する糖鎖である。
【0022】
【化2】
【0023】
例えば、特許文献1、2に記載の化合物を利用することにより、アルブミン1分子当たり5分子以上のN−型糖鎖を連結させることができる。具体的には、下記一般式(I−0)で表される、N−型糖鎖を含有するアルデヒド化合物を、下記反応によりアルブミンのリジン残基に連結させる。当該反応をアルブミン表面の少なくとも5個のリジン残基の側鎖に対して行う。こうして合成されたアルブミン−糖鎖複合体は、下記一般式(I)の構造を、アルブミン1分子当たり5個以上有する。
【0024】
【化3】
【0025】
一般式(I)及び一般式(I−0)中、Aは、N−型糖鎖−Asn−(Asn残基の側鎖のアミド窒素原子にN−型糖鎖が結合した基)を表す。A中の糖鎖としては、前記式(a’)〜(f’)の糖鎖であることが好ましい。また、Lは、A中のAsn残基の糖鎖と結合していない窒素原子と結合する。
【0026】
一般式(I)中、**は、アルブミンのリジン残基の側鎖のアミノ基に結合する炭素原子に結合する部位を示す。また、Alb−NHはアルブミンを表す。
【0027】
一般式(I)及び一般式(I−0)中、Rは炭素数1〜6のアルキル基を表す。当該アルキル基は、直鎖状であってもよく、分枝鎖状であってもよい。当該アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソアミル基、ヘキシル基等が挙げられる。本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体としては、一般式(I)中のRが、炭素数1〜3のアルキル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、又はプロピル基であることがより好ましく、エチル基であることがさらに好ましい。
【0028】
一般式(I)及び一般式(I−0)中、Zは1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、又は1,4−フェニレン基を表す。本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体としては、一般式(I)のZが1,4−フェニレン基であることが好ましい。
【0029】
一般式(I)及び一般式(I−0)中、Lは任意の連結基を表す。Lは、RIKEN−CLICK反応を阻害しない2価の基であれば特に限定されるものではないが、アルブミンに連結されたN−型糖鎖の動きの自由度が高いほうが、糖鎖クラスター効果が発揮されやすいことから、比較的長鎖である基や、環構造等の嵩高い基が好ましい。
【0030】
一般式(I)及び一般式(I−0)中のLとしては、下記一般式(II)で表される基が好ましい。一般式(II)中、Rは炭素数1〜20のアルキレン基を表し、Lは任意の連結基を表す。一般式(II)中、*は、前記一般式(I)中のAと結合する部位を示し、**は、前記一般式(I)中のZと結合する部位を示す。
【0031】
【化4】
【0032】
のアルキレン基は、直鎖状であってもよく、分枝鎖状であってもよい。アルブミンとN−型糖鎖を柔らかいアルキレン基によって連結することにより、N−型糖鎖の動きの自由度が高くなる結果、同じアルブミン分子に結合している複数のN−型糖鎖が互いに集積しやすくなる。当該アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基、ノニレン基、デシレン基、ウンデシレン基、ドデシレン基、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、ヘプタデシレン基、ノナデシレン基等が挙げられる。本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体としては、一般式(II)のRが、炭素数3〜10のアルキレン基であることが好ましく、炭素数3〜10の直鎖状のアルキレン基であることがより好ましく、炭素数4〜8の直鎖状のアルキレン基であることがさらに好ましい。
【0033】
一般式(II)中のLは、RIKEN−CLICK反応を阻害しない2価の基であれば特に限定されるものではない。具体的には、Lとしては、−O−CO−NH−(CH2n−CO−NH−、−O−CO−NH−(CH2n−NH−CO−、−(CH2n−、−(CH2n−O−(CH2m−、−(CH2n−CO−NH−、又は−(CH2n−NH−CO−(前記式中、n及びmは、それぞれ独立して1〜20の整数である。)が挙げられる。
【0034】
一般式(I−0)中のLが一般式(II)で表される基であるアルデヒド化合物(I’−0)は、例えば、下記一般式(III)で表されるアジドと、下記一般式(IV)で表されるアルデヒドとの環化反応(Alkyne -Azide Cyclization)により合成できる。一般式(III)及び(IV)中、A、Z、及びRは一般式(I)と同じであり、L及びRは一般式(II)と同じである。
【0035】
【化5】
【0036】
当該環化反応は、例えば、両物質を、窒素雰囲気下、極性溶媒中で混合することにより行うことができる。極性溶媒としては、例えば、水、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、シアン化メチル(アセトニトリル)、プロピオニトリル、ジエトキシエタン(DME)、及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。反応温度は、50℃以上で行うことが好ましく、60〜100℃で行うことがより好ましく、60〜80℃で行うことがさらに好ましい。
【0037】
本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体としては、下記一般式(V−1)〜(V−8)の構造を有するものが好ましい。一般式(V−1)〜(V−8)中、Rは、前記一般式(I)のRと同じであり、Rは、前記一般式(II)のRと同じであり、n1は1〜6の整数であり、「*」は、糖鎖との結合部位であり、「**」は、アルブミンのリジン残基の側鎖のアミノ基に結合する炭素原子に結合する部位である。「*」で結合する糖鎖としては、前記式(a’)〜(f’)のいずれかであることが好ましい。
【0038】
下記一般式(V−1)〜(V−8)で表される化合物としては、Rが炭素数1〜3のアルキル基であり、Rが炭素数3〜16のアルキレン基であり、n1が1〜3の整数であり、*において結合する糖鎖は前記式(a’)〜(f’)のいずれかである化合物が好ましく、Rが炭素数1〜3のアルキル基であり、Rが炭素数3〜10のアルキレン基であり、n1が1〜3の整数であり、*において結合する糖鎖は前記式(a’)〜(f’)のいずれかである化合物がより好ましい。
【0039】
【化6】
【0040】
【化7】
【0041】
前記一般式(I−0)で表されるアルデヒド化合物とアルブミンとのRIKEN−CLICK反応は、例えば、両物質を、極性溶媒中で混合することにより行うことができる。
極性溶媒としては、例えば、水、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、シアン化メチル、プロピオニトリル、ジエトキシエタン(DME)、及びこれらの混合溶媒等が挙げられる。反応温度は、アルブミンが変性しないよう、60℃以下で行うことが好ましく、50℃以下で行うことがより好ましく、15〜40℃で行うことがさらに好ましい。
【0042】
前記RIKEN−CLICK反応に供される前記一般式(I−0)で表されるアルデヒド化合物とアルブミンのモル比を調節することにより、アルブミン1分子に対して導入されるN−型糖鎖の分子数を調節することができる。アルブミンに対する前記アルデヒド化合物の量が多いほど、アルブミン1分子に対して導入されるN−型糖鎖の分子数を多くすることができる。
【0043】
アルブミン1分子に対して、2種類以上のN−型糖鎖を導入する場合、各N−型糖鎖を含有する一般式(I−0)で表されるアルデヒド化合物を、順次アルブミンと反応させる。アルブミン表面の複数のリジン残基のうち、アルデヒド化合物と反応しやすいものから順にN−型糖鎖が導入される。このため、アルブミンと反応させる順番により、アルブミン1分子当たりに結合している各N−型糖鎖の分子数が同じであっても、他のタンパク質との反応性が異なるアルブミン−糖鎖複合体が得られる場合がある。
【0044】
本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体としては、標識物質又は標識物質と結合するための結合部位を含有することも好ましい。標識物質により、アルブミン−糖鎖複合体を検出できる。標識物質としては、生体内に投与したアルブミン−糖鎖複合体を検出可能なものが好ましく、蛍光物質、放射性金属と配位する構造を有する物質、放射性同位体を含む物質、MRI用の常磁性金属と配位する構造を有する物質等が挙げられる。これらの標識物質は、アルブミン−糖鎖複合体中のN−型糖鎖以外の部分に結合していることが好ましい。
【0045】
本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体が有する蛍光物質としては、特に限定されるものではなく、タンパク質や糖等を蛍光標識する際に用いられる蛍光物質の中から適宜選択して用いることができる。タンパク質であってもよく、色素であってもよく、量子ドットであってもよい。本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体が含有する蛍光物質としては、生体内に比較的安全に投与可能なものが好ましく、生体内のアルブミン−糖鎖複合体を生体外からもより検出しやすいことから近赤外蛍光物質がより好ましい。近赤外蛍光物質としては、HiLyte Fluor(登録商標) 750、インドシアニングリーン、Alexa Flor(登録商標)647、AlexaFluor 680、AlexaFluor 790、Cy(登録商標)3.5、Cy5、 Cy5.5、Cy7等のインドシアニン骨格を有した有機蛍光色素、ブリリアントブルー、ブリリアントグリーン等のシアニン誘導体、Y蛍光ナノ粒子等の無機ナノ粒子等が挙げられる。
【0046】
本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体が有する標識物質のうち、放射性金属と配位する構造を有する物質としては、ポルフォリン、DOTA(1,4,7,10−テトラアザシクロデカン−1,4,7,10−テトラ酢酸)、DTPA(ジエチレントリアミンペンタ酢酸)等が挙げられる。前記放射性同位体を含む物質としては、18F、11C、13N、15O、及び99mTcからなる群より選択される1種以上を含む誘導体(例えば、トリフルオロ(18F)ボレート)等が挙げられる。前記MRI用の常磁性金属と配位する構造を有する物質としては、例えばガドリニウム等が挙げられる。
【0047】
本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体は、タグペプチドや、ビオチン等の低分子化合物を含有していてもよい。当該タグペプチドとしては、Hisタグ、Flagタグ、HAタグ等が挙げられる。特定の物質と特異的に結合するこれらの物質を含有することにより、混合物からの単離や精製を容易に行うことができる。
【0048】
本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体は、1分子中に多数のN−型糖鎖を有しているため、糖鎖と他の物質との特異的な相互作用が、1分子中に1個のN−型糖鎖しかない糖鎖複合体よりも顕著に表れる。そこで、この糖鎖と他の物質との親和性を利用し、本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体は、含まれる糖鎖と親和性の高い物質が表面に存在する細胞や組織を検出するためのプローブとして用いることができる。特に、本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体は、動物の生体内で比較的安定であることから、細胞や組織、又は個体レベルでタンパク質等の生体分子の分布又は局在を捉え、その動態を画像として解析するため、動物の生体内に投与されるバイオイメージングプローブの有効成分として有用である。
【0049】
例えば、本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体を動物に投与した場合、式(d’)のように非還元末端がN−アセチルグルコサミンであるN−型糖鎖を含有する複合体は、肝臓に集積し、特にDesminやVimentinとの相互作用により、星細胞に取り込まれる。このため、これらのアルブミン−糖鎖複合体は、肝臓、特に活性化された星細胞を検出するためのバイオイメージングプローブや、肝臓、特に星細胞へ選択的に機能性分子を送達するための機能性分子用担体として有用である。また、式(f’)のように非還元末端がマンノースとN−アセチルノイラミン酸の2分岐型であるN−型糖鎖を含有する複合体は、肝臓に集積し、特にクッパー細胞に取り込まれる。このため、これらのアルブミン−糖鎖複合体は、肝臓、特にクッパー細胞を検出するためのバイオイメージングプローブや、肝臓、特にクッパー細胞へ選択的に機能性分子を送達するための機能性分子用担体として有用である。また、式(e’)のように非還元末端がマンノースであるN−型糖鎖を含有する複合体は、クッパー細胞上のC−型レクチンとの相互作用により、主に肝臓や脾臓に集積する。このため、これらのアルブミン−糖鎖複合体は、肝臓や脾臓を検出するためのバイオイメージングプローブや、肝臓や脾臓へ選択的に機能性分子を送達するための機能性分子用担体として有用である。さらに、式(b’)のように非還元末端がα(2−3)シアル酸(シアル酸−ガラクトース結合を持つ)であるN−型糖鎖を含有する複合体は、がん細胞表面に高発現しているセレクチンとの相互作用により、がん細胞に集積する。このため、アルブミン1分子当たり、少なくとも1分子以上のN−型糖鎖がα(2−3)シアロ糖鎖であるアルブミン−糖鎖複合体は、がんを検出するためのバイオイメージングプローブや、がん細胞へ選択的に機能性分子を送達するための機能性分子用担体として有用である。なお、機能性分子としては、放射線治療薬剤、診断薬等が挙げられる。本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体を機能性分子用担体として用いる場合には、機能性分子は、アルブミン−糖鎖複合体中のN−型糖鎖以外の部分に結合していることが好ましく、アルブミンのリジン残基以外に結合していることがより好ましい。
【0050】
また、本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体は、医薬品の有効成分としても有用である。例えば、非還元末端がα(2−3)シアル酸であるN−型糖鎖を含有するアルブミン−糖鎖複合体中のアルブミンに抗がん剤を結合させたものは、がんの治療に用いる医薬品の有効成分とし得る。
【0051】
本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体では、糖鎖クラスター効果により、糖鎖構造の違いによる生理活性の相違がより強調される。このため、本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体は、糖鎖の生命現象における認識シグナルとしての機能の解析にも有用である。標識物質を含有させたアルブミン−糖鎖複合体を動物に投与し、当該標識物質を検出することにより、体内における当該アルブミン−糖鎖複合体の動態、例えば排出経路等を解析することができる。例えば、血液中の糖タンパク質のうち、非還元末端がシアル酸ではないアシアロ糖タンパク質は、肝細胞表面に存在するアシアロ糖タンパク受容体(AGCR)と結合して肝細胞内に取り込まれるが、非還元末端がシアル酸であるシアロタンパク質はAGCRと結合するものの、肝細胞へは取り込まれない。実際に、後記実施例に示すように、式(a’)や(b’)のように非還元末端が酸性シアル酸であるN−型糖鎖を含有するアルブミン−糖鎖複合体は、代謝を受けて腎臓を経て膀胱から速やかに排出されるが、式(c’)のように非還元末端がガラクトースであるN−型糖鎖を含有するアルブミン−糖鎖複合体は、肝臓、胆嚢を経て腸管排泄されることが解明された。その他の糖鎖が物質の排泄経路に与える影響も、本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体を用いて同様にして解析することができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例等を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0053】
なお、以降の実験に使用したもののうち、下記式(a)〜(f)で表されるN−型糖鎖のアジド誘導体は、いずれも株式会社糖鎖工学研究所によってAngew. Chem. Int. Ed. vol.49, p.8195-8200 (2010)に記載された方法で合成されたものであり、下記式(1)で表されるアルデヒド化合物は、Org. Biomol. Chem. vol.12, p.1412-1418 (2014)に記載された方法で合成されたものである。
【0054】
また、以降の実験において、逆相HPLCは、C18カラム(製品名:5C18−AR−300、4.6×250mm、ナカライテスク社製)を備えた高速液体クロマトグラフ(装置名:Prominence(登録商標)システム、島津製作所製)を用いて行った。高分解能マススペクトル(HRMS)は、質量分析器(製品名:micrOTOF−QIII(登録商標) spectrometer、Bruker社製)を用いたESI−TOF MSにより得た。タンパク質のマススペクトルは、質量分析器(製品名:autoflex(登録商標) spectrometer、Bruker社製)を用いたMALDI−TOF MSにより得た。
【0055】
[製造例1]HL750−HSAの合成
ヒト血清アルブミン(HSA、SIGMA社から購入)3.4mg(48nmol)を300μLのPBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4)に溶解させたHSA溶液に、近赤外蛍光色素HiLyte Fluor(登録商標) 750 acid SE(2×テトラエチルアンモニウム塩)0.25mg(0.19μmol)を10μLのDMSOに溶解させた溶液を添加して反応液を調製した。得られた反応液を37℃で10分間インキュベートしてHSAに近赤外蛍光色素を結合させた後、Amicon(登録商標) 10K(メルクミリポア社製)により遠心分離処理(15,000rpm、10分間)を行った。残渣はさらに3回、リン酸バッファーで洗浄した。得られたHL750−HSA(近赤外蛍光色素と結合したHSA)を800μLの超純水に溶解したものを、HL750−HSAストック溶液とした。MALDI−TOF MSで分析したところ、合成されたHL750−HSAの平均質量は70.5kDaであり、1分子当たり3.1分子の近赤外蛍光色素が結合していた。
【0056】
[実施例1]
式(a’)で表されるN−型糖鎖が結合したHL750−HSA(2,6−HLF−HSA、以下、「複合体2a」と称すことがある。)を合成した。
【0057】
<式(1a)で表されるアルデヒド化合物の合成>
式(a’)で表される糖鎖を有するN−型糖鎖のアジド誘導体(下記式(a)で表されるアジド誘導体)(株式会社糖鎖工学研究所作製)1.24mg(0.50μmol)を139μLのDMSOに溶解させた溶液に、窒素雰囲気下、シアン化メチルに溶解させた10mMの式(1)で表されるアルデヒド化合物の溶液を45μL(0.45μmol)添加した。得られた反応液を70℃で加熱し、HPLCで反応物をチェックした。最初に添加したアルデヒド化合物が消費された後、反応液を室温まで冷却し、下記式(1a)で表されるアルデヒド化合物がDMSOに溶解しているストック溶液(3.8mM)を得た。合成された式(1a)で表されるアルデヒド化合物は、ESI−TOF MSで検出できた(C1281831371 [M−2H]−2/2の検出値:1518.0509、算出値:1518.0482)。
【0058】
【化8】
【0059】
<複合体2aの合成>
製造例1で合成したHL750−HSAストック溶液132μL(7.5nmol)に、132μLの水、66μLのDMSO、及び32μL(0.12μmol、16eq)の式(1a)で表されるアルデヒド化合物のストック溶液(3.8mM)を混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて複合体2aを合成した。得られた反応物を、Amicon 10Kによりフィルター処理した後、水で3回洗浄した。その後、反応液をDurapore(登録商標) PVDF膜(0.45μm)によりフィルター処理した後、水で150μLに希釈し、複合体2a溶液を調製した。MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された複合体2aの平均質量は98.0kDaであり、1分子当たり9.2分子のN−型糖鎖(式(1a)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。
【0060】
[実施例2]
式(b’)で表されるN−型糖鎖が結合したHL750−HSA(2,3−HLF−HSA、以下、「複合体2b」と称すことがある。)を合成した。
【0061】
<式(1b)で表されるアルデヒド化合物の合成>
式(b’)で表される糖鎖を有するN−型糖鎖のアジド誘導体(下記式(b)で表されるアジド誘導体)(株式会社糖鎖工学研究所作製)1.48mg(0.59μmol)を144μLのDMSOに溶解させた溶液に、窒素雰囲気下、シアン化メチルに溶解させた10mMの式(1)で表されるアルデヒド化合物の溶液を54μL(0.54μmol)添加した。得られた反応液を70℃で加熱し、HPLCで反応物をチェックした。最初に添加したアルデヒド化合物が消費された後、反応液を室温まで冷却し、下記式(1b)で表されるアルデヒド化合物がDMSOに溶解しているストック溶液(3.8mM)を得た。合成された式(1b)で表されるアルデヒド化合物は、ESI−TOF MSで検出できた(C1281831371 [M−2H]−2/2の検出値:1518.0460、算出値:1518.0482)。
【0062】
【化9】
【0063】
<複合体2bの合成>
製造例1で合成したHL750−HSAストック溶液52.5μL(3.0nmol)に、52.5μLの水、26.2μLのDMSO、及び24μL(90nmol、30eq)の式(1b)で表されるアルデヒド化合物のストック溶液(3.8mM)を混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて複合体2bを合成した。得られた反応物を、Amicon 10Kによりフィルター処理した後、水で3回洗浄した。その後、反応液をDurapore PVDF膜(0.45μm)によりフィルター処理した後、水で60μLに希釈し、複合体2b溶液を調製した。MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された複合体2bの平均質量は102.1kDaであり、1分子当たり10.5分子のN−型糖鎖(式(1b)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。
【0064】
[実施例3]
式(c’)で表されるN−型糖鎖が結合したHL750−HSA(asialo−HLF−HSA、以下、「複合体2c」と称すことがある。)を合成した。
【0065】
<式(1c)で表されるアルデヒド化合物のストック溶液の調製>
式(c’)で表される糖鎖を有するN−型糖鎖のアジド誘導体(下記式(c)で表されるアジド誘導体)(株式会社糖鎖工学研究所作製)1.09mg(0.57μmol)を139μLのDMSOに溶解させた溶液に、窒素雰囲気下、シアン化メチルに溶解させた10mMの式(1)で表されるアルデヒド化合物の溶液を52μL(0.52μmol)添加した。得られた反応液を70℃で加熱し、HPLCで反応物をチェックした。最初に添加したアルデヒド化合物が消費された後、反応液を室温まで冷却し、下記式(1c)で表されるアルデヒド化合物がDMSOに溶解しているストック溶液(3.8mM)を得た。合成された式(1c)で表されるアルデヒド化合物は、ESI−TOF MSで検出できた(C1061471155 [M−2H]−2/2の検出値:1226.9545、算出値:1226.9527)。
【0066】
【化10】
【0067】
<複合体2cの合成>
前記式(c)で表されるアジド誘導体(株式会社糖鎖工学研究所作製)0.29mg(0.15μmol)を20μLのDMSOに溶解させた溶液に、窒素雰囲気下、シアン化メチルに溶解させた5mMの式(1)で表されるアルデヒド化合物の溶液を30μL(0.15μmol)添加した。得られた反応液を70℃で加熱し、HPLCで反応物をチェックした。最初に添加したアルデヒド化合物が消費された後、反応液を室温まで冷却し、44μLのDMSOと88μLの水を添加して希釈した。次いで、製造例1で合成したHL750−HSAストック溶液88μL(5.0nmol)を添加して充分に混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて複合体2bを合成した。得られた反応物を、Amicon 10Kによりフィルター処理した後、水で3回洗浄した。その後、反応液をDurapore PVDF膜(0.45μm)によりフィルター処理した後、水で100μLに希釈し、複合体2c溶液を調製した。MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された複合体2bの平均質量は92.6kDaであり、1分子当たり9.1分子のN−型糖鎖(式(1c)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。
【0068】
[実施例4]
式(d’)で表されるN−型糖鎖が結合したHL750−HSA(GlcNAc−HLF−HSA、以下、「複合体2d」と称すことがある。)を合成した。
【0069】
<式(1d)で表されるアルデヒド化合物の合成>
式(d’)で表される糖鎖を有するN−型糖鎖のアジド誘導体(下記式(d)で表されるアジド誘導体)(株式会社糖鎖工学研究所作製)0.24mg(0.15μmol)を20μLのDMSOに溶解させた溶液に、窒素雰囲気下、シアン化メチルに溶解させた5mMの式(1)で表されるアルデヒド化合物の溶液を30μL(0.15μmol)添加した。得られた反応液を70℃で加熱し、HPLCで反応物をチェックした。最初に添加したアルデヒド化合物が消費された後、反応液を室温まで冷却し、下記式(1d)で表されるアルデヒド化合物を合成した。合成された式(1d)で表されるアルデヒド化合物は、ESI−TOF MSで検出できた(C941291145 [M−2H]−2/2の検出値:1064.9041、算出値:1064.8999)。
【0070】
【化11】
【0071】
<複合体2dの合成>
次いで、室温に冷却した反応液に、44μLのDMSOと88μLの水を添加して希釈した。次いで、製造例1で合成したHL750−HSAストック溶液88μL(5.0nmol)を添加して充分に混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて複合体2dを合成した。得られた反応物を、Amicon 10Kによりフィルター処理した後、水で3回洗浄した。その後、反応液をDurapore PVDF膜(0.45μm)によりフィルター処理した後、水で100μLに希釈し、複合体2d溶液を調製した。MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された複合体2dの平均質量は91.9kDaであり、1分子当たり10.1分子のN−型糖鎖(式(1d)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。
【0072】
[実施例5]
式(e’)で表されるN−型糖鎖が結合したHL750−HSA(Man−HLF−HSA、以下、「複合体2e」と称すことがある。)を合成した。
【0073】
<式(1e)で表されるアルデヒド化合物の合成>
式(e’)で表される糖鎖を有するN−型糖鎖のアジド誘導体(下記式(e)で表されるアジド誘導体)(株式会社糖鎖工学研究所作製)0.18mg(0.15μmol)を20μLのDMSOに溶解させた溶液に、窒素雰囲気下、シアン化メチルに溶解させた5mMの式(1)で表されるアルデヒド化合物の溶液を30μL(0.15μmol)添加した。得られた反応液を70℃で加熱し、HPLCで反応物をチェックした。最初に添加したアルデヒド化合物が消費された後、反応液を室温まで冷却し、下記式(1e)で表されるアルデヒド化合物を合成した。合成された式(1e)で表されるアルデヒド化合物は、ESI−TOF MSで検出できた(C7810135 [M−2H]−2/2の検出値:861.8176、算出値:861.8206)。
【0074】
【化12】
【0075】
<複合体2eの合成>
次いで、室温に冷却した反応液に、44μLのDMSOと88μLの水を添加して希釈した。次いで、製造例1で合成したHL750−HSAストック溶液88μL(5.0nmol)を添加して充分に混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて複合体2eを合成した。得られた反応物を、Amicon 10Kによりフィルター処理した後、水で3回洗浄した。その後、反応液をDurapore PVDF膜(0.45μm)によりフィルター処理した後、水で100μLに希釈し、複合体2e溶液を調製した。MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された複合体2eの平均質量は88.5kDaであり、1分子当たり10.4分子のN−型糖鎖(式(1e)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。
【0076】
[実施例6]
式(f’)で表されるN−型糖鎖が結合したHL750−HSA(Half−HLF−HSA、以下、「複合体2f」と称すことがある。)を合成した。
【0077】
<式(1f)で表されるアルデヒド化合物の合成>
式(f’)で表される糖鎖を有するN−型糖鎖のアジド誘導体(下記式(e)で表されるアジド誘導体)(株式会社糖鎖工学研究所作製)0.28mg(0.15μmol)を20μLのDMSOに溶解させた溶液に、窒素雰囲気下、シアン化メチルに溶解させた5mMの式(1)で表されるアルデヒド化合物の溶液を30μL(0.15μmol)添加した。得られた反応液を70℃で加熱し、HPLCで反応物をチェックした。最初に添加したアルデヒド化合物が消費された後、反応液を室温まで冷却し、下記式(1f)で表されるアルデヒド化合物を合成した。合成された式(1f)で表されるアルデヒド化合物は、ESI−TOF MSで検出できた(C1031431153 [M−2H]−2/2の検出値:1189.9316、算出値:1189.9344)。
【0078】
【化13】
【0079】
<複合体2fの合成>
次いで、室温に冷却した反応液に、44μLのDMSOと88μLの水を添加して希釈した。次いで、製造例1で合成したHL750−HSAストック溶液88μL(5.0nmol)を添加して充分に混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて複合体2fを合成した。得られた反応物を、Amicon 10Kによりフィルター処理した後、水で3回洗浄した。その後、反応液をDurapore PVDF膜(0.45μm)によりフィルター処理した後、水で100μLに希釈し、複合体2f溶液を調製した。MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された複合体2fの平均質量は94.0kDaであり、1分子当たり9.9分子のN−型糖鎖(式(1f)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。
【0080】
[実施例7]
式(a’)で表されるN−型糖鎖と式(c’)で表されるN−型糖鎖が結合したHL750−HSA(Hetero3−HSA、以下、「複合体2g」と称すことがある。)を合成した。
【0081】
製造例1で合成したHL750−HSAストック溶液175μL(10nmol)に、175μLの水及び88μLのDMSOを添加した溶液に、実施例1で製造した式(1a)で表されるアルデヒド化合物のストック溶液(3.8mM)46.7μL(175nmol、17.5eq)を混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて、HL750−HSAに式(a’)で表されるN−型糖鎖が結合した中間体を合成した。当該反応液0.5μLを分取し、Amicon 10Kにより精製し、水で2回洗浄した後、MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された中間体の平均質量は96.9kDaであり、1分子当たり8.3分子の式(a’)で表されるN−型糖鎖(式(1a)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。
【0082】
次いで、残りの反応液(44μL、1.0nmol)に、実施例3で製造した式(1c)で表されるアルデヒド化合物のストック溶液(3.8mM)2.0μL(7.5nmol、7.5eq)を混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて、前記中間体に式(c’)で表されるN−型糖鎖が結合した複合体2gを合成した。得られた反応物を、Amicon 10Kによりフィルター処理した後、水で3回洗浄した。その後、反応液をDurapore PVDF膜(0.45μm)によりフィルター処理した後、水で希釈し、複合体2g溶液(50μM)を調製した。MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された複合体2gの平均質量は103.9kDaであり、1分子当たり2.6分子の式(c’)で表されるN−型糖鎖(式(1c)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。つまり、複合体2gは、アルブミンに対して式(a’)で表されるN−型糖鎖と式(c’)で表されるN−型糖鎖が約8:2で結合したヘテロ型のアルブミン−糖鎖複合体であった。
【0083】
[実施例8]
式(a’)で表されるN−型糖鎖と式(c’)で表されるN−型糖鎖が結合したHL750−HSA(Hetero2−HSA、以下、「複合体2h」と称すことがある。)を合成した。
【0084】
製造例1で合成したHL750−HSAストック溶液210μL(12nmol)に、210μLの水及び105μLのDMSOを添加した溶液に、実施例1で製造した式(1a)で表されるアルデヒド化合物のストック溶液(3.8mM)43.4μL(163nmol、13.6eq)を混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて、HL750−HSAに式(a’)で表されるN−型糖鎖が結合した中間体を合成した。当該反応液0.5μLを分取し、Amicon 10Kにより精製し、水で2回洗浄した後、MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された中間体の平均質量は87.1kDaであり、1分子当たり5.3分子の式(a’)で表されるN−型糖鎖(式(1a)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。
【0085】
次いで、残りの反応液のうち215μL(5.0nmol)に、実施例3で製造した式(1c)で表されるアルデヒド化合物のストック溶液(3.8mM)14.2μL(52nmol、10.4eq)を混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて、前記中間体に式(c’)で表されるN−型糖鎖が結合した複合体2gを合成した。得られた反応物を、Amicon 10Kによりフィルター処理した後、水で3回洗浄した。その後、反応液をDurapore PVDF膜(0.45μm)によりフィルター処理した後、水で希釈し、複合体2h溶液(50μM)を調製した。MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された複合体2hの平均質量は98.7kDaであり、1分子当たり4.7分子の式(c’)で表されるN−型糖鎖(式(1c)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。つまり、複合体2hは、アルブミンに対して式(a’)で表されるN−型糖鎖と式(c’)で表されるN−型糖鎖が約5:5で結合したヘテロ型のアルブミン−糖鎖複合体であった。
【0086】
[実施例9]
式(a’)で表されるN−型糖鎖と式(c’)で表されるN−型糖鎖が結合したHL750−HSA(Hetero1−HSA、以下、「複合体2i」と称すことがある。)を合成した。
【0087】
製造例1で合成したHL750−HSAストック溶液175μL(10nmol)に、175μLの水及び88μLのDMSOを添加した溶液に、実施例1で製造した式(1a)で表されるアルデヒド化合物のストック溶液(3.8mM)13.3μL(50nmol、5.0eq)を混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて、HL750−HSAに式(a’)で表されるN−型糖鎖が結合した中間体を合成した。当該反応液0.5μLを分取し、Amicon 10Kにより精製し、水で2回洗浄した後、MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された中間体の平均質量は78.9kDaであり、1分子当たり2.8分子の式(a’)で表されるN−型糖鎖(式(1a)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。
【0088】
次いで、残りの反応液のうち119μL(2.8nmol)に、実施例3で製造した式(1c)で表されるアルデヒド化合物のストック溶液(3.8mM)15.3μL(50nmol、20.9eq)を混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて、前記中間体に式(c’)で表されるN−型糖鎖が結合した複合体2iを合成した。得られた反応物を、Amicon 10Kによりフィルター処理した後、水で3回洗浄した。その後、反応液をDurapore PVDF膜(0.45μm)によりフィルター処理した後、水で希釈し、複合体2i溶液(50μM)を調製した。MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された複合体2iの平均質量は97.2kDaであり、1分子当たり6.3分子の式(c’)で表されるN−型糖鎖(式(1c)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。つまり、複合体2iは、アルブミンに対して式(a’)で表されるN−型糖鎖と式(c’)で表されるN−型糖鎖が約3:7で結合したヘテロ型のアルブミン−糖鎖複合体であった。
【0089】
[実施例10]
式(a’)で表されるN−型糖鎖と式(c’)で表されるN−型糖鎖が結合したHL750−HSA(Hetero4−HSA、以下、「複合体2j」と称すことがある。)を合成した。
【0090】
製造例1で合成したHL750−HSAストック溶液175μL(10nmol)に、175μLの水及び88μLのDMSOを添加した溶液に、実施例3で製造した式(1c)で表されるアルデヒド化合物のストック溶液(3.8mM)43μL(16nmol、16eq)を混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて、HL750−HSAに式(c’)で表されるN−型糖鎖が結合した中間体を合成した。当該反応液0.5μLを分取し、Amicon 10Kにより精製し、水で2回洗浄した後、MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された中間体の平均質量は83.5kDaであり、1分子当たり5.2分子の式(c’)で表されるN−型糖鎖(式(1c)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。
【0091】
次いで、残りの反応液のうち88μL(2.0nmol)に、実施例1で製造した式(1a)で表されるアルデヒド化合物のストック溶液(3.8mM)4.3μL(16nmol、8.0eq)を混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて、前記中間体に式(a’)で表されるN−型糖鎖が結合した複合体2jを合成した。得られた反応物を、Amicon 10Kによりフィルター処理した後、水で3回洗浄した。その後、反応液をDurapore PVDF膜(0.45μm)によりフィルター処理した後、水で希釈し、複合体2j溶液(50μM)を調製した。MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された複合体2jの平均質量は97.6kDaであり、1分子当たり4.7分子の式(a’)で表されるN−型糖鎖(式(1a)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。つまり、複合体2jは、アルブミンに対して式(a’)で表されるN−型糖鎖と式(c’)で表されるN−型糖鎖が約5:5で結合したヘテロ型のアルブミン−糖鎖複合体であった。
【0092】
[試験例1]
実施例1〜6で製造したアルブミン−糖鎖複合体をマウスに投与した場合の動態を、HL750から発される近赤外蛍光を検出することにより非侵襲的に調べた。
【0093】
<バイオイメージング画像の取得>
まず、30μL(1.5nmol)の各アルブミン−糖鎖複合体溶液又は製造例1で合成したHL750−HSAに、70μLの生理食塩水を添加して希釈した注射用溶液を調製した。当該注射用溶液を、8〜12週齢の雌のBALB/cヌードマウス(BALB/cAJcl−nu/nuマウス)の尾静脈へ注射した(n=4)。注射後のマウスは、ペントバルビタールで麻酔をかけた後、生体蛍光イメージング装置IVIS(登録商標) Kinetics fluorescence imager(Caliper Life Sciences社製)に静置し、アルブミン−糖鎖複合体投与後3時間までの間30分ごとに、個体全体の蛍光画像を取得した。取得した蛍光画像は、710nmの励起光画像から、バックグラウンド蛍光(640nm励起光)を除いた画像である。
【0094】
<尿中排泄量>
取得された蛍光画像中、膀胱及びその周囲の任意の関心領域について蛍光強度を測定し、膀胱及びその周囲の蛍光強度の増加から、半定量分析により、各アルブミン−糖鎖複合体及びHL750−HSAの尿中排泄量(蛍光強度値[count])を測定した。図中の尿中排泄量は、投与直後から3時間後までにおける単位時間当たりの膀胱への排出の平均値を示す。
【0095】
<各組織に蓄積したアルブミン−糖鎖複合体の蛍光強度>
アルブミン−糖鎖複合体投与から3時間経過した後のマウスから小腸を切除し、胆嚢と小腸の蛍光強度を測定し、アルブミン−糖鎖複合体の蓄積量(蛍光強度値[count])を測定した。
また、アルブミン−糖鎖複合体投与から3時間経過した後のマウスから肝臓と脾臓を切除して蛍光強度を測定し、アルブミン−糖鎖複合体の蓄積量(蛍光強度値[count])を測定した。
【0096】
<測定結果>
図2(A)〜(D)に、それぞれ、HL750−HSA、複合体2a、複合体2b、及び複合体2cを注射した各マウスの投与後0.5〜3時間経過時点のマウス個体の蛍光画像を示す。この結果、糖鎖を導入していないHL750−HSAは、投与後3時間経過時点においても、血管内を通じてマウス体内全体に拡散していた。これに対して、非還元末端が酸性のシアル酸である糖鎖が、アルブミン1分子当たり10分子程度も導入されている複合体2a及び複合体2bは、腎臓及び膀胱への蓄積が確認され、速やかに尿中に排泄されることがわかった。また、複合体2aを投与したマウスと複合体2bを投与したマウスでは、マウス個体全体の蛍光強度は徐々に低下し、投与から12時間経過時点では、蛍光強度はほとんど検出されなかった(結果は図示せず。)。また、式(a’)で表されるN−型糖鎖が、アルブミン1分子当たり1.8分子結合したHL750−HSA(2,6−few−HLF−HSA、以下、「複合体2SIa」と称すことがある。)を同様にマウスに投与した場合には、糖鎖を導入していないHL750−HSAは、投与後3時間経過時点においても、血管内を通じてマウス体内のほぼ全体に拡散していた(結果は図示せず。)。一方で、非還元末端がシアル酸ではないアシアロ糖鎖がアルブミン1分子当たり10分子程度も導入されている複合体2cは、腎臓や膀胱ではなく、腸への蓄積が観察され、肝臓や胆嚢を経て腸管に排出されていることが確認された。
【0097】
図3(A)に、各マウスのアルブミン−糖鎖複合体又はHL750−HSAの尿中排泄量の測定結果を示す。この結果、腎臓及び膀胱から排出される量は、HL750−HSAが最も多かった。また、複合体2aのほうが複合体2bよりも尿中排泄量が多く、尿中への排出速度が速かった。
【0098】
図3(B)に、投与から3時間経過時点における各マウスの胆嚢の蛍光強度の測定結果を、図3(C)に、投与から3時間経過時点における各マウスの小腸の蛍光強度の測定結果を、それぞれ示す。この結果、複合体2cが投与されたマウスでは、胆嚢と小腸の蛍光強度が極めて高く、複合体2cが、肝細胞表面のAGCRと結合し、肝臓や胆嚢を経て腸管排泄されることが確認された。また、複合体2aと複合体2bは、ほとんど腸管排泄されず、膀胱から選択的に排出されていた。
【0099】
図4(A)〜(C)に、それぞれ、複合体2d、複合体2e、及び複合体2fを注射した各マウスの投与後0.5〜3時間経過時点のマウス個体の蛍光画像を示す。図に示すように、これらの複合体は、主に肝臓や脾臓に蓄積することが確認された。
【0100】
図5(A)に、各複合体投与後3時間経過時点のマウス個体から切除された肝臓と脾臓の蛍光画像を示す。また、図5(B)に、投与から3時間経過時点における各マウスの肝臓の蛍光強度の測定結果を、図5(C)に、投与から3時間経過時点における各マウスの脾臓の蛍光強度の測定結果を、それぞれ示す。この結果、複合体2aを投与したマウスに比べて、複合体2d、複合体2e、及び複合体2fを投与したマウスはいずれも、肝臓と脾臓の蛍光強度が極めて高く、これらのアルブミン−糖鎖複合体は肝臓と脾臓に選択的に集積することがわかった。
【0101】
複合体2d、複合体2e、及び複合体2fが、肝臓のどの部分に集積しているかを調べるために、マウスから切除した肝臓を組織染色した。具体的には、マウスから切除した肝臓を、4%PFA溶液に4℃で24時間浸漬させて固定した後、15%ショ糖含有PBSに4℃で24時間浸漬させ、次いで30%ショ糖含有PBSに4℃で24時間浸漬させた。固定化された肝臓をOCT compound(登録商標)中、−78℃で凍結させた後、6〜8μmの切片を作製した。これらの切片は、ブロッキングバッファー(3% BSA、10% ヤギ血清、及び0.1M グリシンを含有するPBSTバッファー)中で30分間インキュベートした後、一次抗体液として、ラット抗Desmin抗体(製品番号:RB−9014、Thermo Fisher Scientific社製)の300倍希釈液、ラット抗LYVE−1抗体(製品番号:ab14917、abcam社製)の200倍希釈液、又はラット抗F4/80抗体(製品番号:MCA497GA、AbD serotec社製)の200倍希釈液に浸漬させて4℃で一晩インキュベートし、次いで二次抗体液として、Alexa Fluor 488標識抗ラットIgG抗体とAlexa Fluor 555標識抗ラットIgG抗体の両方を含有する200倍希釈液に浸漬させて室温で2時間インキュベートした。これらの切片は、その後さらに、Hoechst 33258の2500倍希釈液(同仁化学研究所社製)に浸漬させて室温で10分間インキュベートした後、マウント液(製品名:Fluoromount(登録商標)、Diagnostic BioSystems社製)でスライドにマウントした。切片を載せたスライドを、蛍光顕微鏡(製品名:BZ−X710 All−in−one Fluorescence Microscope(登録商標)、Keyence社製)に設置し、観察した。
【0102】
この結果、複合体2dと複合体2fは、肝臓のうち、実質細胞ではなく、非実質細胞に取り込まれていた。組織染色の結果、星細胞を特異的に染色する抗Desmin抗体と、類洞内皮細胞を特異的に染色する抗LYVE−1抗体は、複合体2dとよく共局在しており、クッパー細胞を特異的に染色する抗F4/80抗体は、複合体2dとはあまり共局在していなかった。これらの結果から、複合体2dは、DesminやVimentinとの相互作用により、活性化した星細胞に特異的に取り込まれている可能性が示唆された。
また、複合体2dと同様に、抗Desmin抗体及び抗LYVE−1抗体とよく共局在していることから、複合体2fも、星細胞に特異的に取り込まれている可能性が示唆された。一方で、複合体2eは、抗F4/80抗体とよく共局在しており、クッパー細胞に特異的に取り込まれている可能性が示唆された。
【0103】
このように、物質表面の糖鎖の種類により、当該物質の生体内における排出機構や、生体内における蓄積部位が変化することは、従来のバイオイメージングプローブでは解析できず、糖鎖を結合させるタンパク質としてアルブミンを用い、かつ一分子当たり複数の糖鎖を結合させた本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体をバイオイメージングプローブとすることによって初めて解明された。
【0104】
[試験例2]
試験例2において、複合体2aは主に腎臓から排泄され、複合体2cは主に腸管から排出されていたことから、複合体2aを構成するN−型糖鎖(式(1a))と複合体2cを構成するN−型糖鎖(式(1c))とを様々な割合で有するヘテロ複合体を用い、糖鎖の存在比と排出経路に対する影響を調べた。
具体的には、実施例1、3、7〜9で製造された複合体2a、2c、2g〜2jについて、試験例1と同様にしてマウスに投与した後、投与後3時間までの間30分ごとに、マウス個体全体の蛍光画像を取得した。さらに、試験例1と同様にして 各複合体の尿中排泄量と、胆嚢と小腸への蓄積量を調べた。なお、各複合体中の糖鎖の存在比(モル比)を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
図6(A)に、各マウスのアルブミン−糖鎖複合体の尿中排泄量の測定結果を、図6(B)に、投与から3時間経過時点における各マウスの胆嚢の蛍光強度の測定結果を、図6(C)に、投与から3時間経過時点における各マウスの小腸の蛍光強度の測定結果を、それぞれ示す。この結果、非還元末端がシアル酸ではない式(1c)の糖鎖の存在比が高くなるほど、複合体の排出経路は、腎臓よりも、胆嚢と小腸腸管へとシフトする傾向が観察された。これらの結果から、物質表面の糖鎖の種類、特に非還元末端がシアル酸か否かにより、生体内における物質の排出経路が影響されること、よって物質を生体に投与する場合に、物質表面の糖鎖を調節することにより、当該物質の動態を制御し得ることがわかった。
【0107】
なお、複合体2hと複合体2jは、いずれも式(1a)の糖鎖と式(1c)の糖鎖を1:1(モル比)で含有しているが、複合体2hは腎臓から排出されやすく、複合体2jは小腸へ排出されやすい、という差があった。これは、アルブミンに対して糖鎖修飾する順番が異なることから、アルブミン分子表面のいずれのリジン残基にどの糖鎖を連結させるかが重要であることが示唆された。
【0108】
[試験例3]
α(2−3)シアロタンパク質は、セクレチンとの相互作用により、がん細胞に特異的に取り込まれる。
そこで、実施例2で製造された複合体2bを、癌細胞由来の培養株A431細胞を移植したがんモデルマウスに投与し、個体内における動態を観察した。
8週齢の雌のBALB/cヌードマウスに、3×10個のA431細胞を、右肩付近に移植した後、2週間が経過したマウスをがんモデルとした。このがんモデルマウスに、試験例1と同様にして投与した後、投与後5時間までの間30分ごとに、マウス個体全体の蛍光画像を取得した。
【0109】
図7に、複合体2bを注射した各マウスの投与後1時間経過時点のマウス個体の蛍光画像を示す。図中の矢印で示した部分は、A431細胞を移植した位置である。複合体2bは、投与後1時間で速やかにA431細胞に取り込まれていた。また、投与後5時間ではほとんどが排泄されていた(図示せず。)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7