【実施例】
【0052】
以下、実施例等を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0053】
なお、以降の実験に使用したもののうち、下記式(a)〜(f)で表されるN−型糖鎖のアジド誘導体は、いずれも株式会社糖鎖工学研究所によってAngew. Chem. Int. Ed. vol.49, p.8195-8200 (2010)に記載された方法で合成されたものであり、下記式(1)で表されるアルデヒド化合物は、Org. Biomol. Chem. vol.12, p.1412-1418 (2014)に記載された方法で合成されたものである。
【0054】
また、以降の実験において、逆相HPLCは、C18カラム(製品名:5C18−AR−300、4.6×250mm、ナカライテスク社製)を備えた高速液体クロマトグラフ(装置名:Prominence(登録商標)システム、島津製作所製)を用いて行った。高分解能マススペクトル(HRMS)は、質量分析器(製品名:micrOTOF−QIII(登録商標) spectrometer、Bruker社製)を用いたESI−TOF MSにより得た。タンパク質のマススペクトルは、質量分析器(製品名:autoflex(登録商標) spectrometer、Bruker社製)を用いたMALDI−TOF MSにより得た。
【0055】
[製造例1]HL750−HSAの合成
ヒト血清アルブミン(HSA、SIGMA社から購入)3.4mg(48nmol)を300μLのPBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4)に溶解させたHSA溶液に、近赤外蛍光色素HiLyte Fluor(登録商標) 750 acid SE(2×テトラエチルアンモニウム塩)0.25mg(0.19μmol)を10μLのDMSOに溶解させた溶液を添加して反応液を調製した。得られた反応液を37℃で10分間インキュベートしてHSAに近赤外蛍光色素を結合させた後、Amicon(登録商標) 10K(メルクミリポア社製)により遠心分離処理(15,000rpm、10分間)を行った。残渣はさらに3回、リン酸バッファーで洗浄した。得られたHL750−HSA(近赤外蛍光色素と結合したHSA)を800μLの超純水に溶解したものを、HL750−HSAストック溶液とした。MALDI−TOF MSで分析したところ、合成されたHL750−HSAの平均質量は70.5kDaであり、1分子当たり3.1分子の近赤外蛍光色素が結合していた。
【0056】
[実施例1]
式(a’)で表されるN−型糖鎖が結合したHL750−HSA(2,6−HLF−HSA、以下、「複合体2a」と称すことがある。)を合成した。
【0057】
<式(1a)で表されるアルデヒド化合物の合成>
式(a’)で表される糖鎖を有するN−型糖鎖のアジド誘導体(下記式(a)で表されるアジド誘導体)(株式会社糖鎖工学研究所作製)1.24mg(0.50μmol)を139μLのDMSOに溶解させた溶液に、窒素雰囲気下、シアン化メチルに溶解させた10mMの式(1)で表されるアルデヒド化合物の溶液を45μL(0.45μmol)添加した。得られた反応液を70℃で加熱し、HPLCで反応物をチェックした。最初に添加したアルデヒド化合物が消費された後、反応液を室温まで冷却し、下記式(1a)で表されるアルデヒド化合物がDMSOに溶解しているストック溶液(3.8mM)を得た。合成された式(1a)で表されるアルデヒド化合物は、ESI−TOF MSで検出できた(C
128H
183N
13O
71 [M−2H]
−2/2の検出値:1518.0509、算出値:1518.0482)。
【0058】
【化8】
【0059】
<複合体2aの合成>
製造例1で合成したHL750−HSAストック溶液132μL(7.5nmol)に、132μLの水、66μLのDMSO、及び32μL(0.12μmol、16eq)の式(1a)で表されるアルデヒド化合物のストック溶液(3.8mM)を混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて複合体2aを合成した。得られた反応物を、Amicon 10Kによりフィルター処理した後、水で3回洗浄した。その後、反応液をDurapore(登録商標) PVDF膜(0.45μm)によりフィルター処理した後、水で150μLに希釈し、複合体2a溶液を調製した。MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された複合体2aの平均質量は98.0kDaであり、1分子当たり9.2分子のN−型糖鎖(式(1a)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。
【0060】
[実施例2]
式(b’)で表されるN−型糖鎖が結合したHL750−HSA(2,3−HLF−HSA、以下、「複合体2b」と称すことがある。)を合成した。
【0061】
<式(1b)で表されるアルデヒド化合物の合成>
式(b’)で表される糖鎖を有するN−型糖鎖のアジド誘導体(下記式(b)で表されるアジド誘導体)(株式会社糖鎖工学研究所作製)1.48mg(0.59μmol)を144μLのDMSOに溶解させた溶液に、窒素雰囲気下、シアン化メチルに溶解させた10mMの式(1)で表されるアルデヒド化合物の溶液を54μL(0.54μmol)添加した。得られた反応液を70℃で加熱し、HPLCで反応物をチェックした。最初に添加したアルデヒド化合物が消費された後、反応液を室温まで冷却し、下記式(1b)で表されるアルデヒド化合物がDMSOに溶解しているストック溶液(3.8mM)を得た。合成された式(1b)で表されるアルデヒド化合物は、ESI−TOF MSで検出できた(C
128H
183N
13O
71 [M−2H]
−2/2の検出値:1518.0460、算出値:1518.0482)。
【0062】
【化9】
【0063】
<複合体2bの合成>
製造例1で合成したHL750−HSAストック溶液52.5μL(3.0nmol)に、52.5μLの水、26.2μLのDMSO、及び24μL(90nmol、30eq)の式(1b)で表されるアルデヒド化合物のストック溶液(3.8mM)を混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて複合体2bを合成した。得られた反応物を、Amicon 10Kによりフィルター処理した後、水で3回洗浄した。その後、反応液をDurapore PVDF膜(0.45μm)によりフィルター処理した後、水で60μLに希釈し、複合体2b溶液を調製した。MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された複合体2bの平均質量は102.1kDaであり、1分子当たり10.5分子のN−型糖鎖(式(1b)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。
【0064】
[実施例3]
式(c’)で表されるN−型糖鎖が結合したHL750−HSA(asialo−HLF−HSA、以下、「複合体2c」と称すことがある。)を合成した。
【0065】
<式(1c)で表されるアルデヒド化合物のストック溶液の調製>
式(c’)で表される糖鎖を有するN−型糖鎖のアジド誘導体(下記式(c)で表されるアジド誘導体)(株式会社糖鎖工学研究所作製)1.09mg(0.57μmol)を139μLのDMSOに溶解させた溶液に、窒素雰囲気下、シアン化メチルに溶解させた10mMの式(1)で表されるアルデヒド化合物の溶液を52μL(0.52μmol)添加した。得られた反応液を70℃で加熱し、HPLCで反応物をチェックした。最初に添加したアルデヒド化合物が消費された後、反応液を室温まで冷却し、下記式(1c)で表されるアルデヒド化合物がDMSOに溶解しているストック溶液(3.8mM)を得た。合成された式(1c)で表されるアルデヒド化合物は、ESI−TOF MSで検出できた(C
106H
147N
11O
55 [M−2H]
−2/2の検出値:1226.9545、算出値:1226.9527)。
【0066】
【化10】
【0067】
<複合体2cの合成>
前記式(c)で表されるアジド誘導体(株式会社糖鎖工学研究所作製)0.29mg(0.15μmol)を20μLのDMSOに溶解させた溶液に、窒素雰囲気下、シアン化メチルに溶解させた5mMの式(1)で表されるアルデヒド化合物の溶液を30μL(0.15μmol)添加した。得られた反応液を70℃で加熱し、HPLCで反応物をチェックした。最初に添加したアルデヒド化合物が消費された後、反応液を室温まで冷却し、44μLのDMSOと88μLの水を添加して希釈した。次いで、製造例1で合成したHL750−HSAストック溶液88μL(5.0nmol)を添加して充分に混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて複合体2bを合成した。得られた反応物を、Amicon 10Kによりフィルター処理した後、水で3回洗浄した。その後、反応液をDurapore PVDF膜(0.45μm)によりフィルター処理した後、水で100μLに希釈し、複合体2c溶液を調製した。MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された複合体2bの平均質量は92.6kDaであり、1分子当たり9.1分子のN−型糖鎖(式(1c)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。
【0068】
[実施例4]
式(d’)で表されるN−型糖鎖が結合したHL750−HSA(GlcNAc−HLF−HSA、以下、「複合体2d」と称すことがある。)を合成した。
【0069】
<式(1d)で表されるアルデヒド化合物の合成>
式(d’)で表される糖鎖を有するN−型糖鎖のアジド誘導体(下記式(d)で表されるアジド誘導体)(株式会社糖鎖工学研究所作製)0.24mg(0.15μmol)を20μLのDMSOに溶解させた溶液に、窒素雰囲気下、シアン化メチルに溶解させた5mMの式(1)で表されるアルデヒド化合物の溶液を30μL(0.15μmol)添加した。得られた反応液を70℃で加熱し、HPLCで反応物をチェックした。最初に添加したアルデヒド化合物が消費された後、反応液を室温まで冷却し、下記式(1d)で表されるアルデヒド化合物を合成した。合成された式(1d)で表されるアルデヒド化合物は、ESI−TOF MSで検出できた(C
94H
129N
11O
45 [M−2H]
−2/2の検出値:1064.9041、算出値:1064.8999)。
【0070】
【化11】
【0071】
<複合体2dの合成>
次いで、室温に冷却した反応液に、44μLのDMSOと88μLの水を添加して希釈した。次いで、製造例1で合成したHL750−HSAストック溶液88μL(5.0nmol)を添加して充分に混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて複合体2dを合成した。得られた反応物を、Amicon 10Kによりフィルター処理した後、水で3回洗浄した。その後、反応液をDurapore PVDF膜(0.45μm)によりフィルター処理した後、水で100μLに希釈し、複合体2d溶液を調製した。MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された複合体2dの平均質量は91.9kDaであり、1分子当たり10.1分子のN−型糖鎖(式(1d)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。
【0072】
[実施例5]
式(e’)で表されるN−型糖鎖が結合したHL750−HSA(Man−HLF−HSA、以下、「複合体2e」と称すことがある。)を合成した。
【0073】
<式(1e)で表されるアルデヒド化合物の合成>
式(e’)で表される糖鎖を有するN−型糖鎖のアジド誘導体(下記式(e)で表されるアジド誘導体)(株式会社糖鎖工学研究所作製)0.18mg(0.15μmol)を20μLのDMSOに溶解させた溶液に、窒素雰囲気下、シアン化メチルに溶解させた5mMの式(1)で表されるアルデヒド化合物の溶液を30μL(0.15μmol)添加した。得られた反応液を70℃で加熱し、HPLCで反応物をチェックした。最初に添加したアルデヒド化合物が消費された後、反応液を室温まで冷却し、下記式(1e)で表されるアルデヒド化合物を合成した。合成された式(1e)で表されるアルデヒド化合物は、ESI−TOF MSで検出できた(C
78H
101N
9O
35 [M−2H]
−2/2の検出値:861.8176、算出値:861.8206)。
【0074】
【化12】
【0075】
<複合体2eの合成>
次いで、室温に冷却した反応液に、44μLのDMSOと88μLの水を添加して希釈した。次いで、製造例1で合成したHL750−HSAストック溶液88μL(5.0nmol)を添加して充分に混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて複合体2eを合成した。得られた反応物を、Amicon 10Kによりフィルター処理した後、水で3回洗浄した。その後、反応液をDurapore PVDF膜(0.45μm)によりフィルター処理した後、水で100μLに希釈し、複合体2e溶液を調製した。MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された複合体2eの平均質量は88.5kDaであり、1分子当たり10.4分子のN−型糖鎖(式(1e)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。
【0076】
[実施例6]
式(f’)で表されるN−型糖鎖が結合したHL750−HSA(Half−HLF−HSA、以下、「複合体2f」と称すことがある。)を合成した。
【0077】
<式(1f)で表されるアルデヒド化合物の合成>
式(f’)で表される糖鎖を有するN−型糖鎖のアジド誘導体(下記式(e)で表されるアジド誘導体)(株式会社糖鎖工学研究所作製)0.28mg(0.15μmol)を20μLのDMSOに溶解させた溶液に、窒素雰囲気下、シアン化メチルに溶解させた5mMの式(1)で表されるアルデヒド化合物の溶液を30μL(0.15μmol)添加した。得られた反応液を70℃で加熱し、HPLCで反応物をチェックした。最初に添加したアルデヒド化合物が消費された後、反応液を室温まで冷却し、下記式(1f)で表されるアルデヒド化合物を合成した。合成された式(1f)で表されるアルデヒド化合物は、ESI−TOF MSで検出できた(C
103H
143N
11O
53 [M−2H]
−2/2の検出値:1189.9316、算出値:1189.9344)。
【0078】
【化13】
【0079】
<複合体2fの合成>
次いで、室温に冷却した反応液に、44μLのDMSOと88μLの水を添加して希釈した。次いで、製造例1で合成したHL750−HSAストック溶液88μL(5.0nmol)を添加して充分に混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて複合体2fを合成した。得られた反応物を、Amicon 10Kによりフィルター処理した後、水で3回洗浄した。その後、反応液をDurapore PVDF膜(0.45μm)によりフィルター処理した後、水で100μLに希釈し、複合体2f溶液を調製した。MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された複合体2fの平均質量は94.0kDaであり、1分子当たり9.9分子のN−型糖鎖(式(1f)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。
【0080】
[実施例7]
式(a’)で表されるN−型糖鎖と式(c’)で表されるN−型糖鎖が結合したHL750−HSA(Hetero3−HSA、以下、「複合体2g」と称すことがある。)を合成した。
【0081】
製造例1で合成したHL750−HSAストック溶液175μL(10nmol)に、175μLの水及び88μLのDMSOを添加した溶液に、実施例1で製造した式(1a)で表されるアルデヒド化合物のストック溶液(3.8mM)46.7μL(175nmol、17.5eq)を混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて、HL750−HSAに式(a’)で表されるN−型糖鎖が結合した中間体を合成した。当該反応液0.5μLを分取し、Amicon 10Kにより精製し、水で2回洗浄した後、MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された中間体の平均質量は96.9kDaであり、1分子当たり8.3分子の式(a’)で表されるN−型糖鎖(式(1a)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。
【0082】
次いで、残りの反応液(44μL、1.0nmol)に、実施例3で製造した式(1c)で表されるアルデヒド化合物のストック溶液(3.8mM)2.0μL(7.5nmol、7.5eq)を混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて、前記中間体に式(c’)で表されるN−型糖鎖が結合した複合体2gを合成した。得られた反応物を、Amicon 10Kによりフィルター処理した後、水で3回洗浄した。その後、反応液をDurapore PVDF膜(0.45μm)によりフィルター処理した後、水で希釈し、複合体2g溶液(50μM)を調製した。MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された複合体2gの平均質量は103.9kDaであり、1分子当たり2.6分子の式(c’)で表されるN−型糖鎖(式(1c)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。つまり、複合体2gは、アルブミンに対して式(a’)で表されるN−型糖鎖と式(c’)で表されるN−型糖鎖が約8:2で結合したヘテロ型のアルブミン−糖鎖複合体であった。
【0083】
[実施例8]
式(a’)で表されるN−型糖鎖と式(c’)で表されるN−型糖鎖が結合したHL750−HSA(Hetero2−HSA、以下、「複合体2h」と称すことがある。)を合成した。
【0084】
製造例1で合成したHL750−HSAストック溶液210μL(12nmol)に、210μLの水及び105μLのDMSOを添加した溶液に、実施例1で製造した式(1a)で表されるアルデヒド化合物のストック溶液(3.8mM)43.4μL(163nmol、13.6eq)を混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて、HL750−HSAに式(a’)で表されるN−型糖鎖が結合した中間体を合成した。当該反応液0.5μLを分取し、Amicon 10Kにより精製し、水で2回洗浄した後、MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された中間体の平均質量は87.1kDaであり、1分子当たり5.3分子の式(a’)で表されるN−型糖鎖(式(1a)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。
【0085】
次いで、残りの反応液のうち215μL(5.0nmol)に、実施例3で製造した式(1c)で表されるアルデヒド化合物のストック溶液(3.8mM)14.2μL(52nmol、10.4eq)を混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて、前記中間体に式(c’)で表されるN−型糖鎖が結合した複合体2gを合成した。得られた反応物を、Amicon 10Kによりフィルター処理した後、水で3回洗浄した。その後、反応液をDurapore PVDF膜(0.45μm)によりフィルター処理した後、水で希釈し、複合体2h溶液(50μM)を調製した。MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された複合体2hの平均質量は98.7kDaであり、1分子当たり4.7分子の式(c’)で表されるN−型糖鎖(式(1c)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。つまり、複合体2hは、アルブミンに対して式(a’)で表されるN−型糖鎖と式(c’)で表されるN−型糖鎖が約5:5で結合したヘテロ型のアルブミン−糖鎖複合体であった。
【0086】
[実施例9]
式(a’)で表されるN−型糖鎖と式(c’)で表されるN−型糖鎖が結合したHL750−HSA(Hetero1−HSA、以下、「複合体2i」と称すことがある。)を合成した。
【0087】
製造例1で合成したHL750−HSAストック溶液175μL(10nmol)に、175μLの水及び88μLのDMSOを添加した溶液に、実施例1で製造した式(1a)で表されるアルデヒド化合物のストック溶液(3.8mM)13.3μL(50nmol、5.0eq)を混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて、HL750−HSAに式(a’)で表されるN−型糖鎖が結合した中間体を合成した。当該反応液0.5μLを分取し、Amicon 10Kにより精製し、水で2回洗浄した後、MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された中間体の平均質量は78.9kDaであり、1分子当たり2.8分子の式(a’)で表されるN−型糖鎖(式(1a)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。
【0088】
次いで、残りの反応液のうち119μL(2.8nmol)に、実施例3で製造した式(1c)で表されるアルデヒド化合物のストック溶液(3.8mM)15.3μL(50nmol、20.9eq)を混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて、前記中間体に式(c’)で表されるN−型糖鎖が結合した複合体2iを合成した。得られた反応物を、Amicon 10Kによりフィルター処理した後、水で3回洗浄した。その後、反応液をDurapore PVDF膜(0.45μm)によりフィルター処理した後、水で希釈し、複合体2i溶液(50μM)を調製した。MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された複合体2iの平均質量は97.2kDaであり、1分子当たり6.3分子の式(c’)で表されるN−型糖鎖(式(1c)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。つまり、複合体2iは、アルブミンに対して式(a’)で表されるN−型糖鎖と式(c’)で表されるN−型糖鎖が約3:7で結合したヘテロ型のアルブミン−糖鎖複合体であった。
【0089】
[実施例10]
式(a’)で表されるN−型糖鎖と式(c’)で表されるN−型糖鎖が結合したHL750−HSA(Hetero4−HSA、以下、「複合体2j」と称すことがある。)を合成した。
【0090】
製造例1で合成したHL750−HSAストック溶液175μL(10nmol)に、175μLの水及び88μLのDMSOを添加した溶液に、実施例3で製造した式(1c)で表されるアルデヒド化合物のストック溶液(3.8mM)43μL(16nmol、16eq)を混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて、HL750−HSAに式(c’)で表されるN−型糖鎖が結合した中間体を合成した。当該反応液0.5μLを分取し、Amicon 10Kにより精製し、水で2回洗浄した後、MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された中間体の平均質量は83.5kDaであり、1分子当たり5.2分子の式(c’)で表されるN−型糖鎖(式(1c)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。
【0091】
次いで、残りの反応液のうち88μL(2.0nmol)に、実施例1で製造した式(1a)で表されるアルデヒド化合物のストック溶液(3.8mM)4.3μL(16nmol、8.0eq)を混合して反応液を調製した。得られた反応液を、大気雰囲気下、37℃で一晩、穏やかに振とうさせながらインキュベートして反応させて、前記中間体に式(a’)で表されるN−型糖鎖が結合した複合体2jを合成した。得られた反応物を、Amicon 10Kによりフィルター処理した後、水で3回洗浄した。その後、反応液をDurapore PVDF膜(0.45μm)によりフィルター処理した後、水で希釈し、複合体2j溶液(50μM)を調製した。MALDI−TOF MSで分析したところ、合成された複合体2jの平均質量は97.6kDaであり、1分子当たり4.7分子の式(a’)で表されるN−型糖鎖(式(1a)で表されるアルデヒド化合物)が結合していた。つまり、複合体2jは、アルブミンに対して式(a’)で表されるN−型糖鎖と式(c’)で表されるN−型糖鎖が約5:5で結合したヘテロ型のアルブミン−糖鎖複合体であった。
【0092】
[試験例1]
実施例1〜6で製造したアルブミン−糖鎖複合体をマウスに投与した場合の動態を、HL750から発される近赤外蛍光を検出することにより非侵襲的に調べた。
【0093】
<バイオイメージング画像の取得>
まず、30μL(1.5nmol)の各アルブミン−糖鎖複合体溶液又は製造例1で合成したHL750−HSAに、70μLの生理食塩水を添加して希釈した注射用溶液を調製した。当該注射用溶液を、8〜12週齢の雌のBALB/cヌードマウス(BALB/cAJcl−nu/nuマウス)の尾静脈へ注射した(n=4)。注射後のマウスは、ペントバルビタールで麻酔をかけた後、生体蛍光イメージング装置IVIS(登録商標) Kinetics fluorescence imager(Caliper Life Sciences社製)に静置し、アルブミン−糖鎖複合体投与後3時間までの間30分ごとに、個体全体の蛍光画像を取得した。取得した蛍光画像は、710nmの励起光画像から、バックグラウンド蛍光(640nm励起光)を除いた画像である。
【0094】
<尿中排泄量>
取得された蛍光画像中、膀胱及びその周囲の任意の関心領域について蛍光強度を測定し、膀胱及びその周囲の蛍光強度の増加から、半定量分析により、各アルブミン−糖鎖複合体及びHL750−HSAの尿中排泄量(蛍光強度値[count])を測定した。図中の尿中排泄量は、投与直後から3時間後までにおける単位時間当たりの膀胱への排出の平均値を示す。
【0095】
<各組織に蓄積したアルブミン−糖鎖複合体の蛍光強度>
アルブミン−糖鎖複合体投与から3時間経過した後のマウスから小腸を切除し、胆嚢と小腸の蛍光強度を測定し、アルブミン−糖鎖複合体の蓄積量(蛍光強度値[count])を測定した。
また、アルブミン−糖鎖複合体投与から3時間経過した後のマウスから肝臓と脾臓を切除して蛍光強度を測定し、アルブミン−糖鎖複合体の蓄積量(蛍光強度値[count])を測定した。
【0096】
<測定結果>
図2(A)〜(D)に、それぞれ、HL750−HSA、複合体2a、複合体2b、及び複合体2cを注射した各マウスの投与後0.5〜3時間経過時点のマウス個体の蛍光画像を示す。この結果、糖鎖を導入していないHL750−HSAは、投与後3時間経過時点においても、血管内を通じてマウス体内全体に拡散していた。これに対して、非還元末端が酸性のシアル酸である糖鎖が、アルブミン1分子当たり10分子程度も導入されている複合体2a及び複合体2bは、腎臓及び膀胱への蓄積が確認され、速やかに尿中に排泄されることがわかった。また、複合体2aを投与したマウスと複合体2bを投与したマウスでは、マウス個体全体の蛍光強度は徐々に低下し、投与から12時間経過時点では、蛍光強度はほとんど検出されなかった(結果は図示せず。)。また、式(a’)で表されるN−型糖鎖が、アルブミン1分子当たり1.8分子結合したHL750−HSA(2,6−few−HLF−HSA、以下、「複合体2SIa」と称すことがある。)を同様にマウスに投与した場合には、糖鎖を導入していないHL750−HSAは、投与後3時間経過時点においても、血管内を通じてマウス体内のほぼ全体に拡散していた(結果は図示せず。)。一方で、非還元末端がシアル酸ではないアシアロ糖鎖がアルブミン1分子当たり10分子程度も導入されている複合体2cは、腎臓や膀胱ではなく、腸への蓄積が観察され、肝臓や胆嚢を経て腸管に排出されていることが確認された。
【0097】
図3(A)に、各マウスのアルブミン−糖鎖複合体又はHL750−HSAの尿中排泄量の測定結果を示す。この結果、腎臓及び膀胱から排出される量は、HL750−HSAが最も多かった。また、複合体2aのほうが複合体2bよりも尿中排泄量が多く、尿中への排出速度が速かった。
【0098】
図3(B)に、投与から3時間経過時点における各マウスの胆嚢の蛍光強度の測定結果を、
図3(C)に、投与から3時間経過時点における各マウスの小腸の蛍光強度の測定結果を、それぞれ示す。この結果、複合体2cが投与されたマウスでは、胆嚢と小腸の蛍光強度が極めて高く、複合体2cが、肝細胞表面のAGCRと結合し、肝臓や胆嚢を経て腸管排泄されることが確認された。また、複合体2aと複合体2bは、ほとんど腸管排泄されず、膀胱から選択的に排出されていた。
【0099】
図4(A)〜(C)に、それぞれ、複合体2d、複合体2e、及び複合体2fを注射した各マウスの投与後0.5〜3時間経過時点のマウス個体の蛍光画像を示す。図に示すように、これらの複合体は、主に肝臓や脾臓に蓄積することが確認された。
【0100】
図5(A)に、各複合体投与後3時間経過時点のマウス個体から切除された肝臓と脾臓の蛍光画像を示す。また、
図5(B)に、投与から3時間経過時点における各マウスの肝臓の蛍光強度の測定結果を、
図5(C)に、投与から3時間経過時点における各マウスの脾臓の蛍光強度の測定結果を、それぞれ示す。この結果、複合体2aを投与したマウスに比べて、複合体2d、複合体2e、及び複合体2fを投与したマウスはいずれも、肝臓と脾臓の蛍光強度が極めて高く、これらのアルブミン−糖鎖複合体は肝臓と脾臓に選択的に集積することがわかった。
【0101】
複合体2d、複合体2e、及び複合体2fが、肝臓のどの部分に集積しているかを調べるために、マウスから切除した肝臓を組織染色した。具体的には、マウスから切除した肝臓を、4%PFA溶液に4℃で24時間浸漬させて固定した後、15%ショ糖含有PBSに4℃で24時間浸漬させ、次いで30%ショ糖含有PBSに4℃で24時間浸漬させた。固定化された肝臓をOCT compound(登録商標)中、−78℃で凍結させた後、6〜8μmの切片を作製した。これらの切片は、ブロッキングバッファー(3% BSA、10% ヤギ血清、及び0.1M グリシンを含有するPBSTバッファー)中で30分間インキュベートした後、一次抗体液として、ラット抗Desmin抗体(製品番号:RB−9014、Thermo Fisher Scientific社製)の300倍希釈液、ラット抗LYVE−1抗体(製品番号:ab14917、abcam社製)の200倍希釈液、又はラット抗F4/80抗体(製品番号:MCA497GA、AbD serotec社製)の200倍希釈液に浸漬させて4℃で一晩インキュベートし、次いで二次抗体液として、Alexa Fluor 488標識抗ラットIgG抗体とAlexa Fluor 555標識抗ラットIgG抗体の両方を含有する200倍希釈液に浸漬させて室温で2時間インキュベートした。これらの切片は、その後さらに、Hoechst 33258の2500倍希釈液(同仁化学研究所社製)に浸漬させて室温で10分間インキュベートした後、マウント液(製品名:Fluoromount(登録商標)、Diagnostic BioSystems社製)でスライドにマウントした。切片を載せたスライドを、蛍光顕微鏡(製品名:BZ−X710 All−in−one Fluorescence Microscope(登録商標)、Keyence社製)に設置し、観察した。
【0102】
この結果、複合体2dと複合体2fは、肝臓のうち、実質細胞ではなく、非実質細胞に取り込まれていた。組織染色の結果、星細胞を特異的に染色する抗Desmin抗体と、類洞内皮細胞を特異的に染色する抗LYVE−1抗体は、複合体2dとよく共局在しており、クッパー細胞を特異的に染色する抗F4/80抗体は、複合体2dとはあまり共局在していなかった。これらの結果から、複合体2dは、DesminやVimentinとの相互作用により、活性化した星細胞に特異的に取り込まれている可能性が示唆された。
また、複合体2dと同様に、抗Desmin抗体及び抗LYVE−1抗体とよく共局在していることから、複合体2fも、星細胞に特異的に取り込まれている可能性が示唆された。一方で、複合体2eは、抗F4/80抗体とよく共局在しており、クッパー細胞に特異的に取り込まれている可能性が示唆された。
【0103】
このように、物質表面の糖鎖の種類により、当該物質の生体内における排出機構や、生体内における蓄積部位が変化することは、従来のバイオイメージングプローブでは解析できず、糖鎖を結合させるタンパク質としてアルブミンを用い、かつ一分子当たり複数の糖鎖を結合させた本発明に係るアルブミン−糖鎖複合体をバイオイメージングプローブとすることによって初めて解明された。
【0104】
[試験例2]
試験例2において、複合体2aは主に腎臓から排泄され、複合体2cは主に腸管から排出されていたことから、複合体2aを構成するN−型糖鎖(式(1a))と複合体2cを構成するN−型糖鎖(式(1c))とを様々な割合で有するヘテロ複合体を用い、糖鎖の存在比と排出経路に対する影響を調べた。
具体的には、実施例1、3、7〜9で製造された複合体2a、2c、2g〜2jについて、試験例1と同様にしてマウスに投与した後、投与後3時間までの間30分ごとに、マウス個体全体の蛍光画像を取得した。さらに、試験例1と同様にして 各複合体の尿中排泄量と、胆嚢と小腸への蓄積量を調べた。なお、各複合体中の糖鎖の存在比(モル比)を表1に示す。
【0105】
【表1】
【0106】
図6(A)に、各マウスのアルブミン−糖鎖複合体の尿中排泄量の測定結果を、
図6(B)に、投与から3時間経過時点における各マウスの胆嚢の蛍光強度の測定結果を、
図6(C)に、投与から3時間経過時点における各マウスの小腸の蛍光強度の測定結果を、それぞれ示す。この結果、非還元末端がシアル酸ではない式(1c)の糖鎖の存在比が高くなるほど、複合体の排出経路は、腎臓よりも、胆嚢と小腸腸管へとシフトする傾向が観察された。これらの結果から、物質表面の糖鎖の種類、特に非還元末端がシアル酸か否かにより、生体内における物質の排出経路が影響されること、よって物質を生体に投与する場合に、物質表面の糖鎖を調節することにより、当該物質の動態を制御し得ることがわかった。
【0107】
なお、複合体2hと複合体2jは、いずれも式(1a)の糖鎖と式(1c)の糖鎖を1:1(モル比)で含有しているが、複合体2hは腎臓から排出されやすく、複合体2jは小腸へ排出されやすい、という差があった。これは、アルブミンに対して糖鎖修飾する順番が異なることから、アルブミン分子表面のいずれのリジン残基にどの糖鎖を連結させるかが重要であることが示唆された。
【0108】
[試験例3]
α(2−3)シアロタンパク質は、セクレチンとの相互作用により、がん細胞に特異的に取り込まれる。
そこで、実施例2で製造された複合体2bを、癌細胞由来の培養株A431細胞を移植したがんモデルマウスに投与し、個体内における動態を観察した。
8週齢の雌のBALB/cヌードマウスに、3×10
6個のA431細胞を、右肩付近に移植した後、2週間が経過したマウスをがんモデルとした。このがんモデルマウスに、試験例1と同様にして投与した後、投与後5時間までの間30分ごとに、マウス個体全体の蛍光画像を取得した。
【0109】
図7に、複合体2bを注射した各マウスの投与後1時間経過時点のマウス個体の蛍光画像を示す。図中の矢印で示した部分は、A431細胞を移植した位置である。複合体2bは、投与後1時間で速やかにA431細胞に取り込まれていた。また、投与後5時間ではほとんどが排泄されていた(図示せず。)。