特許第6956968号(P6956968)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6956968燃料電池用触媒、電極触媒層、膜電極接合体、固体高分子形燃料電池、および、燃料電池用触媒の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6956968
(24)【登録日】2021年10月8日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】燃料電池用触媒、電極触媒層、膜電極接合体、固体高分子形燃料電池、および、燃料電池用触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/90 20060101AFI20211021BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20211021BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20211021BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20211021BHJP
【FI】
   H01M4/90 X
   H01M4/86 M
   H01M8/10 101
   H01M4/86 B
   H01M4/88 K
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2020-108221(P2020-108221)
(22)【出願日】2020年6月23日
【審査請求日】2021年2月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】千坂 光陽
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕
(72)【発明者】
【氏名】盛岡 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】小澤 まどか
【審査官】 太田 一平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−225349(JP,A)
【文献】 特開2009−208062(JP,A)
【文献】 特表2019−503325(JP,A)
【文献】 特表2014−522375(JP,A)
【文献】 特開2015−233010(JP,A)
【文献】 国際公開第2018/117255(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/140612(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86 − 4/98
H01M 8/00 − 8/0297
H01M 8/08 − 8/2495
B01J 21/00 − 38/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素原子、窒素原子、および、遷移金属原子を含む繊維形状を有したルチル型酸化物であり、前記遷移金属原子は、チタン原子であり、
前記遷移金属原子をMで表す場合に、化学式MOによって表され、
前記化学式におけるxは、以下を満たす
x=2−(y+j)(j≧0)
燃料電池用触媒。
【請求項2】
固体高分子形燃料電池において固体高分子電解質層に接合する電極触媒層であって、
請求項1に記載の燃料電池用触媒と、
高分子電解質と、を含む
電極触媒層。
【請求項3】
固体高分子電解質膜と、
請求項に記載の電極触媒層と、を備え、
前記電極触媒層が、前記固体高分子電解質膜に接合されている
膜電極接合体。
【請求項4】
請求項に記載の膜電極接合体を備える固体高分子形燃料電池。
【請求項5】
酸化チタンと、2種以上の塩を混合することと、
前記酸化チタンと前記塩との混合物を前記塩の共融点よりも高い温度で加熱することによって、繊維形状を有したルチル型酸化チタンを得ること、
前記ルチル型酸化チタン、オキシ硫酸チタン、および、尿素を混合して分散液を生成すること、
前記分散液を加熱すること、
加熱した前記分散液を乾燥して、粉末を生成すること、および、
生成した前記粉末を熱分解してTiO触媒を得ること、を含み、
化学式TiOにおけるxは、以下を満たす
x=2−(y+j)(j≧0)
燃料電池用触媒の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池用触媒、電極触媒層、膜電極接合体、固体高分子形燃料電池、触媒担体用酸化チタンの製造方法、および、燃料電池用触媒の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池は、電解質の種類によって、アルカリ形、リン酸形、固体高分子形、溶融炭酸塩形、および、固体酸化物形などに分類される。固体高分子形燃料電池(PEFC)は、低温での作動が可能であり、かつ、高い出力密度を有する。また、固体高分子形燃料電池は、小型化および軽量化が可能であることから、携帯用電源、家庭用電源、および、車載用動力源としての応用が期待されている。
【0003】
固体高分子形燃料電池は、高分子電解質膜、燃料極(アノード)、および、空気極(カソード)を備えている。高分子電解質膜の厚さ方向において、燃料極と空気極とが、高分子電解質膜を挟んでいる。燃料極に水素を含む燃料ガスが供給され、空気極に酸素を含む酸化剤ガスが供給されることで、固体高分子形燃料電池は、以下の電気化学反応によって発電する。なお、以下の化学式のうち、式(1)はアノードにおいて生じる反応を示している。一方で、式(2)はカソードにおいて生じる反応を示している。
→ 2H + 2e … 式(1)
1/2O + 2H + 2e → HO … 式(2)
【0004】
アノードおよびカソードの各々は、電極触媒層とガス拡散層とが積層された構造を有している。アノードの電極触媒層は、電極触媒層に供給された燃料ガスからプロトンと電子とを生成する(式(1))。プロトンは、アノードの電極触媒層が含む高分子電解質、および、高分子電解質膜を通り、カソードに移動する。電子は、外部回路を通り、カソードに移動する。カソードの電極触媒層では、プロトン、電子、および、外部から供給された酸化剤ガスが反応することによって水が生成される(式(2))。
【0005】
アノード側の触媒層に含まれる触媒およびカソード側の触媒層に含まれる触媒は、式(1)および式(2)に示した酸化還元反応を促す。酸化還元反応に対する触媒活性が高い触媒を含む電極触媒層を備えた膜電極接合体は、高い発電特性を示す。例えば、触媒活性の高い触媒として、白金を含む触媒が用いられている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−219179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、白金は希少な金属であり、高価な金属でもある。そのため、燃料電池用の触媒には、白金の含有量が抑えられた構成でも触媒活性を有した触媒が求められている。
本発明は、白金の含有量が抑えられた構成でも触媒活性を有することを可能とした燃料電池用触媒、電極触媒層、膜電極接合体、固体高分子形燃料電池、触媒担体用酸化チタンの製造方法、および、燃料電池用触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための燃料電池用触媒は、酸素原子、窒素原子、および、遷移金属原子を含む繊維形状を有したルチル型酸化物である。前記遷移金属原子は、チタン原子、タンタル原子、ニオブ原子、および、ジルコニウム原子から構成される群から選択される少なくとも1つである。前記遷移金属原子をMで表す場合に、化学式MOによって表され、前記化学式におけるxは、以下を満たす。
x=2−(y+j)(j≧0)。
【0009】
上記課題を解決するための燃料電池用触媒は、酸素原子、窒素原子、5価のリン原子、および、遷移金属原子を含む繊維形状を有したルチル型酸化物である。前記遷移金属原子は、チタン原子、タンタル原子、ニオブ原子、および、ジルコニウム原子から構成される群から選択される少なくとも1つである。前記遷移金属原子をMで表す場合に、化学式Mによって表され、前記化学式におけるwおよびxは、以下を満たす。
w=1−(z+i)(i≧0)
x=2−(y+j)(j≧0)
【0010】
上記課題を解決するための電極触媒層は、固体高分子形燃料電池において固体高分子電解質層に接合する電極触媒層である。上記燃料電池用触媒と、高分子電解質とを含む。
【0011】
上記課題を解決するための膜電極接合体は、固体高分子電解質膜と、上記電極触媒層と、を備える。前記電極触媒層が、前記固体高分子電解質膜に接合されている。
上記課題を解決するための固体高分子形燃料電池は、上記膜電極接合体を備える。
【0012】
上記課題を解決するための触媒担体用酸化チタンの製造方法は、酸化チタンと、2種以上の塩を混合することと、前記酸化チタンと前記塩との混合物を前記塩の共融点よりも高い温度で加熱することによって、繊維形状を有したルチル型酸化チタンを得ることと、を含む。
【0013】
上記課題を解決するための燃料電池用触媒の製造方法は、上記触媒担体用酸化チタンの製造方法によって繊維形状を有したルチル型酸化チタンを得ること、前記ルチル型酸化チタン、オキシ硫酸チタン、および、尿素を混合して分散液を生成すること、前記分散液を加熱すること、加熱した前記分散液を乾燥して、粉末を生成すること、および、生成した前記粉末を熱分解してTiO触媒を得ること、を含む。化学式TiOにおけるxは、以下を満たす。
x=2−(y+j)(j≧0)
【0014】
上記課題を解決するための燃料電池用触媒の製造方法は、上記触媒担体用酸化チタンの製造方法によって繊維形状を有したルチル型酸化チタンを得ること、前記ルチル型酸化チタン、オキシ硫酸チタン、尿素、および、リン酸を混合して分散液を生成すること、前記分散液を加熱すること、加熱した前記分散液を乾燥して、粉末を生成すること、および、生成した前記粉末を熱分解してTi触媒を得ること、を含む。化学式Tiにおけるwおよびxは、以下を満たす。
w=1−(z+i)(i≧0)
x=2−(y+j)(j≧0)
【0015】
上記各構成によれば、白金の含有量が抑えられた構成でも酸化還元反応に対する触媒活性を有することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、白金の含有量が抑えられた構成でも酸化還元反応に対する触媒活性を有することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施形態における膜電極接合体の構造を示す断面図。
図2図1に示す膜電極接合体が備える電極触媒層の構造を模式的に示す模式図。
図3図1が示す膜電極接合体を備える固体高分子形燃料電池の構造を示す分解斜視図。
図4】実施例1および比較例1の触媒担体用酸化チタンのX線回折パターンを示す図。
図5】実施例1の触媒担体用酸化チタンを撮像したSEM画像。
図6】実施例2の触媒担体用酸化チタンを撮像したSEM画像。
図7】実施例3の触媒担体用酸化チタンを撮像したSEM画像。
図8】実施例4の触媒担体用酸化チタンを撮像したSEM画像。
図9】実施例の対流ボルタモグラムを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1から図9を参照して、燃料電池用触媒、電極触媒層、膜電極接合体、固体高分子形燃料電池、触媒担体用酸化チタンの製造方法、および、燃料電池用触媒の製造方法の一実施形態を説明する。
【0019】
[膜電極接合体]
図1を参照して、膜電極接合体の構造を説明する。図1は、膜電極接合体の厚さ方向に沿う断面の構造を示している。
【0020】
図1が示すように、膜電極接合体10は、高分子電解質膜11と、カソード側電極触媒層12Cと、アノード側電極触媒層12Aとを備えている。高分子電解質膜11は、固体状の高分子電解質膜である。高分子電解質膜11において対向する一対の面において、一方の面にカソード側電極触媒層12Cが接合し、他方の面にアノード側電極触媒層12Aが接合している。カソード側電極触媒層12Cは空気極(カソード)を構成する電極触媒層であり、アノード側電極触媒層12Aは燃料極(アノード)を構成する電極触媒層である。カソード側電極触媒層12Cの外周部およびアノード側電極触媒層12Aの外周部は、ガスケットなどによって封止されてもよい。
【0021】
[電極触媒層]
図2を参照して、電極触媒層の構成をより詳しく説明する。以下に説明する電極触媒層は、カソード側電極触媒層12Cおよびアノード側電極触媒層12Aの両方に適用される。なお、以下に説明する電極触媒層は、カソード側電極触媒層12C、および、アノード側電極触媒層12Aのいずれか一方のみに適用されてもよい。
【0022】
図2が示すように、電極触媒層12は、繊維状触媒21、および、高分子電解質22を含んでいる。繊維状触媒21は、燃料電池用触媒の一例である。
電極触媒層12の厚さは、5μm以上30μm以下であることが好ましく、10μm以上20μm以下であることがより好ましい。電極触媒層12の厚さが5μm以上であることによって、フラッディングが生じにくくなり、出力の低下が抑えられる。また、電極触媒層12の厚さが30μm以下であることによって、電極触媒層12の抵抗が大きくなることが抑えられ、出力の低下が抑えられる。
【0023】
電極触媒層12の密度は、1000mg/cm以上5000mg/cm以下であることが好ましく、1500mg/cm以上4000mg/cm以下であることがより好ましい。なお、電極触媒層12の密度は、電極触媒層12の体積(V)に対する不揮発性成分の質量(M)の比(M/V)である。電極触媒層12の体積(V)は、電極触媒層の厚さと電極面積の積から算出できる。
【0024】
電極触媒層12の密度が1000mg/cmよりも小さければ、電極触媒層12の構造が壊れやすく、電極触媒層12の耐久性が低い。一方、電極触媒層12の密度が5000mg/cmよりも大きければ、電極触媒層12の排水性およびガス拡散性が低下し、電極触媒層12の柔軟性が失われる。
【0025】
繊維状触媒21は、酸素原子、窒素原子、および、遷移金属原子を含む繊維状を有したルチル型酸化物である。遷移金属原子は、チタン原子、タンタル原子、ニオブ原子、および、ジルコニウム原子から構成される群から選択される少なくとも1つである。遷移金属原子をMで表す場合に、繊維状触媒21は、化学式MOによって表される。当該化学式におけるxは、以下を満たす。
x=2−(y+j)(j≧0)
【0026】
なお、繊維状触媒21では、ルチル型の金属酸化物における酸素原子の一部が窒素原子によって置換されている。金属酸化物において、酸素原子の一部は、酸素原子が窒素原子によって置換されることによって生じる電荷の不均衡を無くすために欠損する。そのため、繊維状触媒21における酸素原子の数は、上述の式によって表される。
【0027】
繊維状触媒21によれば、触媒が繊維形状を有するから、繊維状触媒21を有する電極触媒層12の機械的な強度が高められ、電極触媒層12の耐久性が高められる。例えば、電極触媒層12においてクラックが生じることが抑えられる。そのため、電極触媒層12を備える固体高分子形燃料電池の耐久性を高めることが可能である。また、燃料電池用触媒が粒子状を有する場合に比べて、電極触媒層12において生じた電子の通路において、電子伝導の抵抗となる界面が生じにくくなる。そのため、電極触媒層12を備える固体高分子電量電池において、抵抗を低くすることが可能である。結果として、固体高分子形燃料電池の性能を高めることが可能である。
【0028】
なお、電極触媒層12は、触媒能を有しない物質によって形成された繊維状物質を含むことが可能である。この場合には、電極触媒層12の機械的な強度を繊維状物質によって高めることは可能である。しかしながら、電極触媒層12が繊維状物質を含むことによって、繊維状物質を含まない場合に比べて、電極触媒層12内における触媒間の距離が拡張される。これによって、触媒間の距離が大きいために、電極触媒層12を備える固体高分子形燃料電池の性能が低下する場合がある。この点で、繊維状触媒21によれば、触媒間の距離が拡張されることに起因した固体高分子形燃料電池の性能における低下を抑え、かつ、電極触媒層12の耐久性を高めることが可能である。
【0029】
繊維状触媒21は、さらに5価のリン原子を含む繊維形状を有したルチル型酸化物であることが好ましい。遷移金属原子をMで表す場合に、繊維状触媒21は、化学式Mによって表される。当該化学式におけるwおよびxは、以下を満たす。
w=1−(z+i)(i≧0)
x=2−(y+j)(j≧0)
【0030】
なお、繊維状触媒21では、ルチル型の金属酸化物(MO)において、遷移金属原子の一部がリン原子によって置換されている。また、金属酸化物において、遷移金属原子の一部は、遷移金属原子がリン原子によって置換されたことによって生じる電荷の不均衡を無くすために欠損する。
【0031】
繊維状触媒21が5価のリン原子を含むことによって、ルチル型の金属酸化物にドープされた5価のリン原子そのもの、および、電荷の不均衡を埋め合わせるための5価のリン原子のドープによって形成された金属欠損の少なくとも一方が、酸素還元反応のための新しい活性部位を形成する場合があり、これによって、繊維状触媒21の触媒活性が高まる。
【0032】
遷移金属原子はチタン原子であることが好ましい。
繊維状触媒21において、チタン原子の数(NTi)に対するリン原子の数(N)の比(N/NTi)は、0.1以上2.0以下であることが好ましい。すなわち、Tiにおいて、以下の式が満たされることが好ましい。
0.1≦z≦2.0
【0033】
これにより、酸素還元反応に対する触媒活性を高めることが可能である。
また、繊維状触媒21において、Ti原子の数(NTi)に対する窒素原子の数(N)の比(N/NTi)は、1.0以上1.5以下であることが好ましい。すなわち、Tiにおいて、以下の式が満たされることが好ましい。
1.0≦y≦1.5
【0034】
これにより、酸素還元反応に対する触媒活性を高めることが可能である。
繊維状触媒21は、コア部と、コア部を覆う表層部とから形成される。コア部は、窒化チタン(TiN)格子を含む。表層部は、二酸化チタン(TiO)格子を含む。また、コア部と表層部との両方が、5価のリン原子を含む。これにより、酸素還元反応に対する高い触媒活性を有することが可能である。
【0035】
繊維状触媒21の長さは、500nm以上10μm以下であることが好ましい。繊維状触媒21の長さがこの範囲に含まれることによって、電極触媒層12にクラックが生じにくくなる。結果として、電極触媒層12の耐久性が高められる。繊維状触媒21の長さが500nm以上であることによって、繊維状触媒21が互いに絡み合いやすくなり、電極触媒層12にクラックが生じることが抑えられる。また、繊維状触媒21の長さが10μm以下であることによって、触媒層用インクの製造が可能であるから、電極触媒層12の形成が可能である。
【0036】
繊維状触媒21のアスペクト比は、10以上1000以下であることが好ましい。なお、アスペクト比は、繊維状触媒21の直径(D)に対する繊維状触媒21の長さ(L)の比(L/D)である。繊維状触媒21のアスペクト比がこの範囲に含まれることによって、膜電極接合体10は、良好な発電特性を有することが可能である。
【0037】
アスペクト比が10以上であることによって、電極触媒層12が、電極触媒層12を流れる電流の密度が高い領域において、良好な発電性能を有することが可能な密度を有することができる。また、アスペクト比が1000以下であることによって、触媒層用インクの製造が可能であり、これによって、電極触媒層12の形成が可能である。
【0038】
繊維状触媒21の体積抵抗率は、10Ωcm以下であることが好ましい。繊維状触媒21の体積抵抗率が10Ωcm以下であることによって、電極触媒層12内における電子の伝導が高められ、オーミック抵抗が低下する。結果として、膜電極接合体10の発電特性が高められる。
【0039】
[固体高分子形燃料電池]
図3を参照して、膜電極接合体を備える固体高分子形燃料電池の構造を説明する。以下に説明する構造は、固体高分子形燃料電池の構造における一例である。また、図3は、固体高分子形燃料電池が備える単セルの構造を示している。固体高分子形燃料電池は、複数の単セルを備え、かつ、複数の単セルが互いに積層された構造でもよい。
【0040】
図3が示すように、固体高分子形燃料電池30は、膜電極接合体10、一対のガス拡散層、および、一対のセパレーターを備えている。一対のガス拡散層は、カソード側ガス拡散層31Cおよびアノード側ガス拡散層31Aである。一対のセパレーターは、カソード側セパレーター32Cおよびアノード側セパレーター32Aである。
【0041】
カソード側ガス拡散層31Cは、カソード側電極触媒層12Cに接している。カソード側電極触媒層12Cとカソード側ガス拡散層31Cとが、空気極(カソード)30Cを形成している。アノード側ガス拡散層31Aは、アノード側電極触媒層12Aに接している。アノード側電極触媒層12Aとアノード側ガス拡散層31Aとが、燃料極(アノード)30Aを形成している。
【0042】
高分子電解質膜11において、カソード側電極触媒層12Cが接合された面がカソード面であり、アノード側電極触媒層12Aが接合された面がアノード面である。カソード面のなかで、カソード側電極触媒層12Cによって覆われていない部分が外周部である。外周部には、カソード側ガスケット13Cが位置している。アノード面のなかで、アノード側電極触媒層12Aによって覆われていない部分が外周部である。外周部には、アノード側ガスケット13Aが位置している。カソード側ガスケット13Cおよびアノード側ガスケット13Aによって、各面の外周部からガスが漏れることが抑えられる。
【0043】
カソード側セパレーター32Cとアノード側セパレーター32Aとは、固体高分子形燃料電池30の厚さ方向において、膜電極接合体10、および、2つのガス拡散層31C,31Aから構成される多層体を挟んでいる。カソード側セパレーター32Cは、カソード側ガス拡散層31Cに対向している。アノード側セパレーター32Aは、アノード側ガス拡散層31Aに対向している。
【0044】
カソード側セパレーター32Cにおいて対向する一対の面は、それぞれ複数の溝を有している。一対の面のなかで、カソード側ガス拡散層31Cと対向する対向面が有する溝は、ガス流路32Cgである。一対の面のなかで、対向面とは反対側の面が有する溝は、冷却水流路32Cwである。アノード側セパレーター32Aにおいて対向する一対の面は、それぞれ複数の溝を有している。一対の面のなかで、アノード側ガス拡散層31Aと対向する対向面が有する溝は、ガス流路32Agである。一対の面のなかで、対向面とは反対側の面が有する溝は、冷却水流路32Awである。各セパレーター32C,32Aは、導電性を有し、かつ、ガスに対する透過性が低い材料によって形成されている。
【0045】
固体高分子形燃料電池30では、カソード側セパレーター32Cのガス流路32Cgを通じて空気極30Cに酸化剤ガスが供給される。アノード側セパレーター32Aのガス流路32Agを通じて燃料極30Aに燃料ガスが供給される。これにより、固体高分子形燃料電池30が発電する。なお、酸化剤ガスには、例えば空気および酸素ガスなどを用いることができる。燃料ガスには、例えば水素ガスを用いることができる。
【0046】
[触媒担体用酸化チタンの製造方法]
触媒担体用酸化チタンの製造方法は、酸化チタンと、2種以上の塩を混合すること、および、酸化チタンと塩との混合物を塩の共融点よりも高い温度で加熱することによって、繊維状を有したルチル型酸化チタンを得ることを含む。
【0047】
ナトリウム原子およびリン原子が、互いに異なる塩に含まれることが好ましい。すなわち、触媒担体用酸化チタンの製造に2つの塩が用いられる場合には、ナトリウム原子を含む塩と、リン原子を含む塩とが用いられることが好ましい。例えば、塩化ナトリウム(NaCl)と、ヘキサメタリン酸ナトリウム((NaPO)とを用いることが好ましい。なお、塩化ナトリウムとヘキサメタリン酸ナトリウムとを質量比8:1で混合して用いた場合の共融点は、およそ785℃である。
【0048】
[燃料電池用触媒の製造方法]
繊維状触媒21の製造方法は、繊維形状を有したルチル型酸化チタンを得ること、ルチル型酸化チタン、オキシ硫酸チタン、および、尿素を混合して分散液を生成すること、分散液を加熱すること、加熱した分散液を乾燥して、粉末を生成すること、および、生成した粉末を熱分解してTiO触媒を得ること、を含む。化学式TiOにおけるxは、以下を満たす。
x=2−(y+j)(j≧0)
【0049】
また、繊維状触媒21の製造方法において、分散液を生成することは、ルチル型酸化チタン、オキシ硫酸チタン、尿素、および、リン酸を混合して分散液を生成してもよい。これにより、生成した粉末を熱分解してTi触媒を得ることができる。化学式Tiにおけるwおよびxは、以下を満たす。
w=1−(z+i)(i≧0)
x=2−(y+j)(j≧0)
【0050】
繊維状触媒21の製造において、繊維状触媒21の製造に用いられるチタン原子の数に対するリン原子の比が、リン/チタン比(R)である。すなわち、オキシ硫酸チタンに由来するチタン原子の数に対する、リン酸に由来するリン原子の数の比が、リン/チタン比(R)である。リン/チタン比(R)は、0.2以上0.5以下であることが好ましい。これにより、酸素還元反応に対する触媒活性が高められたTi触媒を得ることが可能である。
【0051】
分散液を生成する分散液生成工程では、数時間にわたってオキシ硫酸チタン(IV)の粉末と、リン酸とを混合してもよい。分散液を加熱する加熱工程では、分散液を掻き混ぜながら分散液を加熱してもよい。粉末生成工程において生成された粉末を熱分解する熱分解工程では、窒素ガスが供給されている環境において粉末を熱分解することが可能である。熱分解工程では、粉末を熱分解する温度を973K(700℃)よりも高い温度に設定することが好ましく、例えば1123K(850℃)に設定することが可能である。熱分解工程では、粉末を熱分解する期間を、例えば数時間に設定することが可能である。
【0052】
熱分解工程の後に、ポストアニール工程を行ってもよい。ポストアニール工程では、熱分解工程にて得られたTi触媒をアンモニア(NH)ガスが供給されている環境において加熱する。ポストアニール工程において、Ti触媒を加熱する温度を例えば923K(650℃)に設定することが可能である。
【0053】
[膜電極接合体の形成材料]
高分子電解質膜11は、例えば、プロトン伝導性を有する高分子によって形成されている。プロトン伝導性を有する高分子は、例えば、フッ素系樹脂、および、炭化水素系樹脂などであってよい。フッ素系樹脂は、例えば、Nafion(デュポン社製、登録商標)、Flemion(旭硝子社製、登録商標)、Gore−Select(ゴア社製、登録商標)などであってよい。炭化水素系樹脂は、例えば、エンジニアリングプラスチック、スルホン酸基が導入されたエンジニアリングプラスチックの共重合体などであってよい。
【0054】
高分子電解質22は、例えば、プロトン伝導性を有する高分子物質であってよい。高分子電解質22には、上述した高分子電解質膜11の形成に用いることが可能な材料を用いることが可能である。
【0055】
高分子電解質22において、プロトン供与性基1モル当たりの乾燥質量値(当量重量:EW)は、400以上1200以下の範囲内に含まれることが好ましく、600以上1000以下の範囲内に含まれることがより好ましい。当量重量EWが400以上であることによって、フラッディングに起因した発電性能の低下が抑えられ、当量重量EWが1200以下であることによって、プロトン伝導性の低下が抑えられ、これによって、発電性能の低下が抑えられる。
【0056】
カソード側電極触媒層12Cにおいて、繊維状触媒21の質量(MC)に対する高分子電解質22の質量(MH)の比(MH/MC)は、0.3以上4.0以下の範囲内に含まれることが好ましく、0.4以上2.5以下の範囲内に含まれることがより好ましい。当該比が0.3以上であることによって、プロトンの拡散速度における低下が抑えられ、これによって、発電性能の低下が抑えられる。また、当該比が0.3以上であることで電極触媒層12の機械的特性の低下が抑えられる。一方で、当該比が4.0以下であることによって、フラッディングに起因した発電性能の低下が抑えられる。
【0057】
[触媒層の製造方法]
電極触媒層12を製造する際には、まず、触媒層用インクを作製する。次いで、作製した触媒層用インクを基材または高分子電解質膜11などに塗工し、塗工によって形成された膜を乾燥することによって、電極触媒層12が製造される。
【0058】
触媒層用インクは、繊維状触媒21、高分子電解質22、および、溶媒を含む。溶媒は、高分子電解質22を分散または溶解する液体であってよい。溶媒は、例えば、水、アルコール、ケトン、エーテル、アミン、エステル、酢酸、プロピオン酸、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N‐メチルピロリドン、グリコール、および、グリコールエーテルなどであってよい。
【0059】
アルコールは、メタノール、エタノール、1‐プロパノール、2‐プロパノール、1‐ブタノール、2‐ブタノール、イソブチルアルコール、および、tert‐ブチルアルコールなどであってよい。ケトンは、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイゾブチルケトン、メチルアミルケトン、ペンタノン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、および、ジイソブチルケトンなどであってよい。エーテルは、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、ジオキサン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、アニソール、メトキシトルエン、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、および、ジブチルエーテルなどであってよい。アミンは、イソプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジエチアミン、および、アニリンなどであってよい。エステルは、蟻酸プロピル、蟻酸イソブチル、蟻酸アミル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、および、プロピオン酸ブチルなどであってよい。グリコール、および、グリコールエーテルは、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジアセトンアルコール、1‐メトキシ‐2‐プロパノール、1‐エトキシ‐2‐プロパノールなどであってよい。
【0060】
触媒層用インクの固形分濃度は、5質量%以上30質量%以下の範囲内に含まれることが好ましく、8質量%以上20質量%以下の範囲内に含まれることがより好ましい。固形分濃度が5質量%以上であることによって、触媒層用インクは、塗布量のばらつきを抑えることが可能な粘度を有することができる。固形分濃度が30質量%以下であることによって、触媒層用インクは、触媒層用インクの塗工によって形成された電極触媒層の外観の悪化を抑えることが可能な粘度を有することができる。
【0061】
触媒層用インクの塗工方法は、例えば、ドクターブレード法、ダイコーティング法、ディッピング法、スクリーン印刷法、ラミネータロールコーティング法、および、スプレー法などであってよい。
【0062】
触媒層用インクの乾燥方法は、例えば、温風乾燥、および、IR乾燥などであってよい。乾燥温度は、40℃以上200℃以下の範囲内に含まれることが好ましく、40℃以上120℃以下の範囲内に含まれることがより好ましい。乾燥温度が40℃以上であることによって、溶媒の残留を抑えることが可能である。乾燥温度が200℃以下であることによって、触媒層用インクの発火を抑えることができる。触媒層用インクの乾燥時間は、0.5分以上1時間以下の範囲内に含まれることが好ましく、1分以上30分以下の範囲内に含まれることがより好ましい。乾燥時間が0.5分以上であることによって、溶媒の残留を抑えることが可能である。乾燥時間が1時間以内であることによって、高分子電解質膜11の乾燥に起因した高分子電解質膜11の変形を抑えることができる。
【0063】
あるいは、電極触媒層12を形成するための触媒インクは以下の方法によって準備されてもよい。すなわち、触媒インクを準備する際には、まず第1触媒インクを調製し、次いで第2触媒インクを調製する。第1触媒インクは、触媒、第1高分子電解質、および、第1溶媒を含む。第2触媒インクは、第1触媒インクによって形成された触媒包埋体、第2高分子電解質、および、第2溶媒を含む。
【0064】
第1触媒インクを調製した後に、第1触媒インクを乾燥させることによって、第1高分子電解質によって触媒を包埋した触媒包埋体を生成する。次いで、生成した触媒包埋体を用いて第2触媒インクを調製する。
【0065】
第2触媒インクを調製する際には、触媒包埋体を第2溶媒と混合する前に、触媒包埋体を加熱することができる。触媒包埋体を加熱する際には、50℃以上180℃以下の範囲に含まれる温度で触媒包埋体を加熱することが好ましい。これにより、触媒包埋体における第1高分子電解質が溶媒に溶解せず、また、プロトン伝導性を阻害せずに、第2触媒インクを調製することができる。
【0066】
第1高分子電解質および第2高分子電解質には、プロトン伝導性を有する高分子の電解質を用いることができる。電極触媒層12A,12Cと高分子電解質膜11との密着性を高める上では、第1高分子電解質および第2高分子電解質は、高分子電解質膜11と同じ電解質、あるいは、類似の電解質であることが好ましい。第1高分子電解質および第2高分子電解質には、例えば、フッ素系樹脂および炭化水素系樹脂を用いることができる。フッ素樹脂には、例えば、Nafion(登録商標)(デュポン社製)などを用いることができる。炭化水素系樹脂には、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、および、スルホン化ポリフェニレンなどを用いることができる。
【0067】
第1溶媒および第2溶媒には、例えば、高分子電解質を分散することが可能な液体、または、高分子電解質を溶解することが可能な液体を用いることが好ましい。溶媒には、水、アルコール類、ケトン類、エーテル類、スルホキシド類、および、アミド類などを用いることができる。アルコール類は、メタノール、エタノール、1‐プロパノール、2‐プロパノール、1‐ブタノール、2‐ブタノール、3‐ブタノール、ペンタノール、エチレングリコール、ジアセトンアルコール、および、1‐メトキシ‐2‐プロパノールなどであってよい。ケトン類は、アセトン、メチルエチルケトン、ペンタノン、メチルイソブチルケトン、および、ジイソブチルケトンなどであってよい。エーテル類は、ジオキサン、および、テトラヒドロフランなどであってよい。スルホキシド類は、ジメチルスルホキシドなどであってよい。アミド類は、ジメチルホルムアミド、および、ジメチルアセトアミドなどであってよい。第1溶媒および第2溶媒には、上述した溶媒を単独で用いてもよいし、複数の溶媒を組み合わせて用いてもよい。第1溶媒および第2溶媒は、加熱によって除去しやすい溶媒であることが好ましい。
【0068】
第1触媒インクを調製する際、および、第2触媒インクを調製する際には、触媒などを含む溶媒に分散処理を施してよい。分散処理には、例えば、ボールミル、ビーズミル、ロールミル、剪断ミル、湿式ミル、超音波分散機、および、ホモジナイザーなどを用いることができる。
【0069】
第2触媒インクの塗布には、例えば、ロールコーター、エアナイフコーター、ブレードコーター、ロッドコーター、リバースコーター、バーコーター、コンマコーター、ダイコーター、グラビアコーター、スクリーンコーター、スプレー、および、スピナーなどを用いることができる。
【0070】
第1触媒インクを乾燥する方法、および、第2触媒インクを乾燥する方法は、温風乾燥、および、IR乾燥などであってよい。第1触媒インクおよび第2触媒インクを乾燥する際には、温風乾燥およびIR乾燥のいずれか一方のみを用いてもよいし、両方を用いてもよい。第1触媒インクを乾燥して触媒包埋体を生成するときには、30℃以上140℃以下の範囲に含まれる温度で第1触媒インクを乾燥させることが好ましい。これにより、第2触媒インクを調整する工程において、触媒包埋体が含む第1高分子電解質が溶媒に溶解せず、触媒の表面におけるプロトン伝導性の低下が抑えられる。
【0071】
触媒包埋体において、触媒の質量(C)と第1高分子電解質の質量(P)との比(C:P)が、1:0.01から1:30の範囲に含まれることが好ましい。これにより、酸素などの拡散性を阻害せず、触媒表面のプロトン伝導性が高くなり、反応活性点を増加させることができる。
【0072】
[膜電極接合体の製造方法]
膜電極接合体10は、例えば、転写基材またはガス拡散層31A,31Cに電極触媒層12A,12Cを直接形成した後、高分子電解質膜11に電極触媒層12A,12Cを熱圧着することによって製造される。または、膜電極接合体10は、高分子電解質膜11に電極触媒層12A,12Cを直接形成することによって製造される。
【0073】
転写用基材を用いる場合には、転写用基材の上に触媒インクを塗布した後に乾燥することによって、電極触媒層付き基材を作成する。その後、例えば、電極触媒層付き基材における電極触媒層12A,12Cの表面と、高分子電解質膜11とを接触させた状態で、加熱および加圧を行うことによって、電極触媒層12A,12Cと高分子電解質膜11とを接合させる。高分子電解質膜11の両面に電極触媒層12A,12Cを接合することによって、膜電極接合体10を製造することができる。
【0074】
転写用基材は、少なくとも片面に触媒インクを塗布すること、加熱によって触媒インクを乾燥させることが可能であること、および、電極触媒層12A,12Cを高分子電解質膜11に転写することが可能であることを満たす基材であればよい。転写用基材は、例えば、高分子フィルム、および、耐熱性を有したフッ素樹脂フィルムを含んでよい。高分子フィルムを形成する高分子は、例えば、ポリエチレンテレフタラート、ポリアミド、ポリイミド、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリアミドイミド、ポリアクリレート、ポリエチレンナフタレート、および、ポリパルバン酸アラミドなどであってよい。フッ素樹脂フィルムを形成する樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン‐ヘキサフルオロプロピレン共重合体、および、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体などであってよい。
【0075】
転写用基材は、上述した高分子フィルムまたはフッ素樹脂フィルムの表面に離型処理を施した基材、あるいは、上述したフィルムと離型層とが、共押出などによって一体に成形された基材であってよい。
【0076】
転写用基材は、単層構造を有してもよいし、多層構造を有してもよい。転写用基材が多層構造を有する場合には、最表面に位置する層が開口部を有していてもよい。開口部は、断裁や打ち抜きなどによって層の一部を取り除いた箇所である。また、触媒インクを乾燥した電極触媒層12A,12Cが、開口部に応じた形状を有してもよい。
【0077】
高分子電解質膜11に対して直に電極触媒層12A,12Cを形成する場合には、例えば、高分子電解質膜11の表面に触媒インクを塗布した後、触媒インクから溶媒を除去することによって電極触媒層12A,12Cを形成する。高分子電解質膜11に対して直に電極触媒層12A,12Cを形成する方法は、高分子電解質膜11と電極触媒層12A,12Cとの密着性が高く、かつ、電極触媒層12A,12Cが熱圧着に起因して潰れるおそれがない点で好ましい。
【0078】
固体高分子形燃料電池30がガスケット13A,13Cを備える場合には、高分子電解質膜11のなかで、電極触媒層12A,12Cによって覆われていない部分にガスケット13A,13Cを配置する。ガスケット13A,13Cは、少なくとも片面に粘着材を塗布することもしくは貼り合わせること、および、高分子電解質膜11に対する貼り合わせが可能であることを満たせばよい。ガスケット13A,13Cの形成材料には、上述した転写用基材の形成材料を用いることが可能である。1つのガスケット13A,13Cにおける厚さの平均値は、1μm以上500μm以下であることが好ましく、3μm以上200μm以下であることがより好ましく、5μm以上100μm以下であることがさらに好ましい。
【0079】
1つの高分子電解質膜11における厚さの平均値は、1μm以上500μm以下であることが好ましく、3μm以上200μm以下であることがより好ましく、5μm以上100μm以下であることがさらに好ましい。
【0080】
上述した製造方法によれば、燃料電池用触媒を第1高分子電解質によって包埋するため、触媒の表面におけるプロトン伝導性を高めることが可能である。
【0081】
[実施例]
図4から図9を参照して、実施例を説明する。
[触媒担体用酸化チタン]
[実施例1]
酸化チタン(TiO)(IV)(P25、日本アエロジル(株)製)2g、塩化ナトリウム(NaCl)8g、および、ヘキサメタリン酸ナトリウム((NaPO)1gを、メノウ乳鉢を用いて混合した。混合物をジルコニアるつぼに入れて、アルミナ製キャップを用いてジルコニアるつぼに蓋をした。そして、大気雰囲気において900℃で8時間にわたって、小型マッフル炉を用いてジルコニアるつぼを加熱した。なお、塩化ナトリウムとヘキサメタリン酸ナトリウムとを質量比8:1で混合した場合の共融点は、およそ785℃である。
【0082】
次いで、ジルコニアるつぼを室温まで冷却した後、温水を用いてジルコニアるつぼの内容物を繰り返し洗浄、および、遠心分離した。これによって、実施例1の触媒担体用酸化チタンを得た。
【0083】
[実施例2]
実施例1において、大気雰囲気における加熱温度を867℃に変更した以外は、実施例1に記載の方法を用いて、実施例2の触媒担体用酸化チタンを得た。
【0084】
[実施例3]
実施例1において、大気雰囲気における加熱温度を825℃に変更した以外は、実施例1に記載の方法を用いて、実施例3の触媒担体用酸化チタンを得た。
【0085】
[実施例4]
実施例1において、ヘキサメタリン酸ナトリウム((NaPO)1gをリン酸水素二ナトリウム(NaHPO)2gに変更した以外は、実施例1に記載の方法を用いて、実施例4の触媒担体用酸化チタンを得た。なお、塩化ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムとを質量比4:1で混合した場合の共融点は、およそ735℃である。
【0086】
[比較例1]
オキシ硫酸チタン(IV)(TiOSO)12gを、グリセリン(CH(OH)CH(OH)CH(OH))45mL、エタノール(CHCHOH)90mL、および、ジエチルエーテル((CHCHO)45mLの混合液に添加した。その後、混合液に対して超音波照射と攪拌とを同時に行い、得られた懸濁液をテフロン(登録商標)製のオートクレーブに移した。懸濁液に対して140℃において6時間にわたって攪拌し続けながら、ソルボサーマル処理を行った後、処理対象を自然冷却することによって粉末を得た。得られた粉末を、エタノールを用いて繰り返し洗浄、および、遠心分離を行った。次いで、オープンエンドの石英管状炉を用いて、洗浄した処理対象を12時間にわたって加熱し乾燥させた。これにより、比較例1の触媒担体用酸化チタンを得た。
【0087】
[評価方法]
[X線回折測定]
X線回折装置(MiniFlex600、(株)リガク製)を用いて、実施例1から実施例4の触媒担体用酸化チタン、および、比較例1の触媒担体用酸化チタンのX線回折パターンを得た。この際に、X線回折パターンを20°から80°の範囲において測定した。
【0088】
[走査型電子顕微鏡画像]
電界放出型電子顕微鏡(JSM−7000F、日本電子(株))を用いて、実施例1から実施例4の触媒担体用酸化チタン、および、比較例1の触媒担体用酸化チタンの走査型電子顕微鏡(SEM)画像を撮像した。この際に、測定倍率を5000倍に設定した。
【0089】
[評価結果]
実施例1および比較例1のX線回折パターンは、図4が示す通りであった。
図4が示すように、実施例1の触媒担体用酸化チタンはルチル型の酸化チタンであり、比較例1の触媒担体用酸化チタンはアナターゼ型の酸化チタンであることが認められた。このように、実施例1における製造方法によるように、溶融塩を用いることによって、繊維形状のルチル型酸化チタンを得ることができることが認められた。なお、実施例2から実施例4の触媒担体用酸化チタンについても、実施例1と同様のX線回折パターンが得られた。
【0090】
実施例1から実施例4の触媒担体用酸化チタンのSEM画像は、図5から図8が示す通りであった。なお、図5が実施例1の触媒担体用酸化チタンのSEM画像であり、図6が実施例2の触媒担体用酸化チタンのSEM画像であり、図7が実施例3の触媒担体用酸化チタンのSEM画像であり、図8が実施例4の触媒担体用酸化チタンのSEM画像である。
【0091】
図5から図8が示すように、実施例1から実施例4の触媒担体用酸化チタンは、繊維形状を有することが認められた。また、図5から図7が示すように、混合物の加熱温度を下げることにより、触媒担体用酸化チタンが有するアスペクト比の向上が可能であることが認められた。また、図5図8との比較から、NaClおよび(NaPOを用いることによって、NaClおよびNaHPOを用いた場合に比べて、触媒担体用酸化チタンのアスペクト比が大きくなることが認められた。このように、触媒担体用酸化チタンを製造する際の加熱温度や、酸化チタンに混合する塩の種類を選択することによって、繊維状酸化チタンのアスペクト比を制御することが可能であることが認められた。
【0092】
なお、比較例1の触媒担体用酸化チタンを電界放出型電子顕微鏡で観察したところ、比較例1の触媒担体用酸化チタンは繊維形状を有することが認められた。
【0093】
[燃料電池用触媒]
[実施例5]
実施例3の触媒担体用酸化チタン、オキシ硫酸チタン(IV)、尿素((NHCO)、および、塩酸(HCl)を混合し、蒸留水中において掻き混ぜることによって分散液を生成した。この際に、オキシ硫酸チタン(IV)に由来する酸化チタン(TiO)に対する、触媒担体用酸化チタンの質量比(R)を1に設定した。オキシ硫酸チタン由来の酸化チタンの質量に対する尿素の質量の比を100に設定した。また、塩酸の濃度を1.0mol/dmに設定した。分散液を掻き混ぜながら250℃で加熱した後、分散液を乾燥させることによって粉末を得た。乾燥によって得られた粉末を、窒素ガスが供給されている環境において、1123K(850℃)で2時間にわたって加熱した。これにより、実施例5のTiO触媒を得た。
【0094】
[実施例6]
実施例5において、Rを5に設定した以外は、実施例5に記載の方法を用いて、実施例6のTiO触媒を得た。
【0095】
[実施例7]
実施例5において、Rを20に設定した以外は、実施例5に記載の方法を用いて、実施例7のTiO触媒を得た。
【0096】
[評価方法]
[対流ボルタンメトリー測定]
対流ボルタンメトリーの1つである回転ディスク法によって、製造した燃料電池用触媒の活性を評価した。対流ボルタモグラムを得る際に、電極触媒層におけるナフィオン(ナフィオンは登録商標)の質量分率を0.05に設定し、触媒充填量mは0.86mg/cmで一定とした。0.1mol/dmの硫酸中での室温における電気化学測定に3電極セルを用いた。酸素ガスおよび窒素ガスを1800秒にわたって連続的にバブリングした後に、対流ボルタモグラムを記録した。この際に、可逆水素電極(RHE)に対するディスク電位(E)を0.05Vから1.2Vに設定し、掃引速度を5mV/sに設定し、回転ディスク電極の回転速度を1500rpmに設定した。酸素ガス飽和溶液中で測定した対流ボルタモグラムの電流密度(j)から、窒素ガス飽和溶液中で測定した対流ボルタモグラムの電流密度(j)を引いた値を用いて評価を行った。
【0097】
[評価結果]
実施例5,6,7の燃料電池用触媒について得られた対流ボルタモグラムは、図9が示す通りであった。
【0098】
図9が示すように、Rが1である場合に、燃料電池用触媒が最も高い触媒活性を有することが認められた。Rが小さいことによって、燃料電池用触媒の導電率が高められるために、Rが1である場合に燃料電池用触媒が最も高い触媒活性を有すると考えられる。
【0099】
以上説明したように、燃料電池用触媒、電極触媒層、膜電極接合体、固体高分子形燃料電池、触媒担体用酸化チタンの製造方法、および、燃料電池用触媒の製造方法の一実施形態によれば、以下に記載の効果を得ることができる。
【0100】
繊維状触媒21によれば、白金の含有量が抑えられた構成でも酸化還元反応に対する触媒活性を有することが可能である。
【0101】
[製造例]
以下、上述した燃料電池用触媒(TiO触媒)を用いた電極触媒層の製造例を説明する。
【0102】
[製造例1]
実施例5の燃料電池用触媒と、20質量%の高分子電解質溶液(商品名:Nafion(登録商標)、デュポン社製)を溶媒中で混合し、遊星型ボールミルを用いて燃料電池用触媒と高分子電解質とを含む溶媒に対して分散処理を行った。これにより、第1触媒インクを得た。第1触媒インクにおいて、燃料電池用触媒の質量と高分子電解質の質量との比を1:0.25に設定した。溶媒には超純水と1‐プロパノ−ルとの混合液を用いた。溶媒において、超純水の体積と1‐プロパノールの体積との比を1:1に設定した。第1触媒インクにおいて、固形分含有量を15質量%に設定した。
【0103】
第1触媒インクを乾燥させるための基材としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)シートを用いた。ドクターブレードを用いて、第1触媒インクをPTFEシート上に塗布し、そして、第1触媒インクを大気雰囲気において80℃で5分間乾燥させた。その後、高分子電解質で包埋された燃料電池用触媒である触媒包埋体を基材から回収した。次いで、触媒包埋体に対して、70℃にて熱処理を行った。
【0104】
加熱した触媒包埋体と、20質量%の高分子電解質溶液(商品名:Nafion(登録商標)、デュポン社製)を溶媒中で混合し、遊星型ボールミルを用いて、触媒包埋体を含む溶媒に対して分散処理を行った。これにより、第2触媒インクを得た。第2触媒インクにおいて、燃料電池用触媒の質量、および、高分子電解質の質量における比を1:0.8に設定した。溶媒には、超純水と1‐プロパノ−ルとの混合液を用いた。溶媒において、超純水の体積と1‐プロパノールの体積との比を1:1に設定した。また、第2触媒インクにおいて、固形分含有量を15質量%に設定した。
【0105】
転写用基材としてPTFEシートを用いた。ドクターブレードを用いて、第2触媒インクをPTFEシート上に塗布し、そして、第2触媒インクを大気雰囲気において80℃で5分間乾燥させた。この際に、電極触媒層の厚さを、触媒の担持量が5.0mg/cmになるように調節した。これにより、製造例1のカソード側電極触媒層を得た。
【0106】
[製造例2]
製造例1と同じ燃料電池用触媒、および、20質量%の高分子電解質溶液を溶媒中で混合し、遊星型ボールミルを用いて燃料電池用触媒、および、高分子電解質を含む溶媒に対して分散処理を行った。これにより、触媒インクを得た。触媒インクにおいて、燃料電池用触媒の質量、および、高分子電解質の質量の比を1:0.8に設定した。溶媒には、超純水と1‐プロパノ−ルとの混合液を用いた。溶媒において、超純水の体積と1‐プロパノールの体積との比を1:1に設定した。また、触媒インクにおいて、固形分含有量を15質量%に設定した。
【0107】
転写用基材として、製造例1と同様にPTFEシートを準備した。製造例1と同様の方法によって、PTFEシートに触媒インクを塗布し、触媒インクを乾燥させた。この際に、電極触媒層の厚さを、触媒の担持量が5.0mg/cmになるように調節した。これにより、製造例2のカソード側電極触媒層を得た。
【0108】
[アノード側電極触媒層]
白金の担持量が50質量%である白金担持カーボン触媒と、20質量%の高分子電解質溶液とを溶媒中で混合し、白金担持カーボ触媒と高分子電解質とを含む溶媒に対して遊星型ボールミルを用いて分散処理を行った。この際に、分散時間を60分間に設定した。これにより、アノード側電極触媒層用の触媒インクを得た。なお、触媒インクにおいて、白金担持カーボン中のカーボンの質量と、高分子電解質の質量との比を1:1に設定した。溶媒には、超純水と1‐プロパノ−ルとの混合液を用いた。溶媒において、超純水の体積と1‐プロパノールの体積との比を1:1に設定した。また、触媒インクにおいて、固形分含有量を10質量%に設定した。製造例1と同様の方法によって、転写用基材に触媒インクを塗布し、触媒インクを乾燥させた。この際に、電極触媒層の厚さを、触媒の担持量が0.1mg/cmになるように調節した。これにより、アノード側電極触媒層を得た。
【符号の説明】
【0109】
10…膜電極接合体
11…高分子電解質膜
12…電極触媒層
12A…アノード側電極触媒層
12C…カソード側電極触媒層
13A…アノード側ガスケット
13C…カソード側ガスケット
21…繊維状触媒
22…高分子電解質
30…固体高分子形燃料電池
30A…燃料極
30C…空気極
31A…アノード側ガス拡散層
31C…カソード側ガス拡散層
32A…アノード側セパレーター
32Ag,32Cg…ガス流路
32Aw,32Cw…冷却水流路
32C…カソード側セパレーター
【要約】
【課題】白金の含有量が抑えられた構成でも酸化還元反応に対する触媒活性を有することを可能とした燃料電池用触媒、電極触媒層、膜電極接合体、固体高分子形燃料電池、触媒担体用酸化チタンの製造方法、および、燃料電池用触媒の製造方法を提供する。
【解決手段】酸素原子、窒素原子、および、遷移金属原子を含む繊維形状を有したルチル型酸化物である。遷移金属原子は、チタン原子、タンタル原子、ニオブ原子、および、ジルコニウム原子から構成される群から選択される少なくとも1つである。遷移金属原子をMで表す場合に、化学式Mによって表される。化学式におけるwは、w=1−i(i≧0)を満たし、xは、x=2−(y+j)(j≧0)を満たす。
【選択図】なし
図1
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図9