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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6956977
(24)【登録日】2021年10月8日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】肝の糖取込み能評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/66 20060101AFI20211021BHJP
   G01N 33/58 20060101ALI20211021BHJP
【FI】
   G01N33/66 A
   G01N33/58 Z
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2018-550278(P2018-550278)
(86)(22)【出願日】2017年11月10日
(86)【国際出願番号】JP2017040585
(87)【国際公開番号】WO2018088521
(87)【国際公開日】20180517
【審査請求日】2020年11月2日
(31)【優先権主張番号】特願2016-220510(P2016-220510)
(32)【優先日】2016年11月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100138911
【弁理士】
【氏名又は名称】櫻井 陽子
(72)【発明者】
【氏名】稲田 睦
(72)【発明者】
【氏名】川田 恵子
(72)【発明者】
【氏名】首藤 公義
(72)【発明者】
【氏名】片桐 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】山田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 圭
【審査官】 赤坂 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/030650(WO,A1)
【文献】 特許第5901092(JP,B1)
【文献】 特開平11−171798(JP,A)
【文献】 BLASLOV, K et al.,Incretin based therapies: A novel treatment approach for non-alcoholic fatty liver disease,WORLD JOURNAL OF GASTROENTEROLOGY,2014年06月21日,20(23),7356-7365
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/48−33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖尿病発症の前段階にある対象動物において、糖尿病発症の前段階がインスリン分泌亢進段階または肝の糖取込み能低下段階であると判定するために
(1)13C標識グルコースを経口投与された前記対象動物から採取された血液を被験試料とし、被験試料中の13C標識グルコース濃度を測定する工程、
(2)前記濃度を指標値と比較する工程、
を含む方法。
【請求項2】
前記工程(2)における指標値が、前記対象動物と同種の肝の糖取込み能が正常である動物群において前記工程(1)に従って測定された濃度から得られる値である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
記濃度が前記指標値よりも低い場合に、糖尿病発症の前段階がインスリン分泌亢進段階であると判定するための、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
記濃度が前記指標値よりも高い場合に、糖尿病発症の前段階が肝の糖取込み能低下段階であると判定するための、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記対象動物が、
(a)13C標識グルコースを経口投与された前記対象動物から排出された呼気を被験試料とし、被験試料中の非標識CO量または総CO量に対する13CO量の割合を算出する工程、および
(b)前記割合を指標値と比較する工程、ここで、指標値は、前記対象動物と同種の糖代謝能が正常である動物群において工程(a)に従って測定された割合から得られる値である、
を含む方法により、前記割合が前記指標値よりも高いものである、請求項1ないし請求項のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法において使用するための、13C標識グルコースを含む組成物。
【請求項7】
経口投与用である、請求項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、日本国特許出願第2016−220510号について優先権を主張するものであり、ここに参照することによって、その全体が本明細書中へ組み込まれるものとする。
本願は、肝の糖取込み能を評価するための組成物、および、前記組成物を使用する、肝の糖取込み能を評価するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病など代謝性疾患は、全世界的に社会問題となっており、予防医学の観点から早期発見を可能にする評価方法が求められている。
【0003】
肝臓は、体内のエネルギー代謝において中心的な役割を担っている。例えば、食事により摂取されたグルコースを取込み、グリコーゲンに変換し、貯蔵し、必要時に分解して血液中にグルコースを供給する。糖尿病などのある種の代謝性疾患では、発症前または早期段階において肝臓における糖の取込みの調節に異常が生じることが知られており、この異常を検出することによる早期診断の可能性が期待されている。しかしながら、肝臓における糖の取込み能を評価することで、代謝性疾患の早期段階で起こる変化を抽出する方法は存在しない。
【0004】
これまでに、糖尿病等の代謝性疾患を早期発見するための様々な評価方法が開発されてきた。例えば、糖尿病の診断に、13Cで標識したグルコースを投与し、呼気中に排出される13COを測定する、いわゆる標識C−呼気試験を応用することが提案されている(特許文献1〜4参照)。具体的には、特許文献1には、特定位の炭素を13Cで置換したグルコースを用いて呼気試験を行い、呼気中に排泄される13CO濃度の増加率を測定することにより、糖尿病の有無およびその病型(1型糖尿病または2型糖尿病)を診断する方法が記載されている。また、特許文献2および3には、特許文献1と同様に13Cで標識したグルコースを用いて呼気試験を行い、呼気中に排泄される13CO濃度から算出した呼気中の13Cと12Cとの比(13C/12C)が、健常者のそれよりも低値であることを指標として、糖尿病、インスリン抵抗または耐糖能障害を診断できることが記載されている。さらに、特許文献4には、標識C−呼気試験を利用して患者の糖代謝能を測定し、糖尿病の病態ステージを検出できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−67689号公報
【特許文献2】特表2002−513911号公報
【特許文献3】特開2008−292506号公報
【特許文献4】国際公開第2014/030650号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、肝の糖取込み能を評価するための組成物、および、前記組成物を使用する、肝の糖取込み能を評価するための方法を提供することを目的とする。本発明はまた、肝の糖取込み能を評価するための方法を利用して、糖尿病発症の前段階にある対象動物において、糖尿病発症の前段階のステージを判定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、13Cで標識したグルコースを対象動物に投与し、その挙動を観察することにより、肝の糖取込み能を評価できることを見いだした。
【0008】
従って、ある態様では、本願は、対象動物の肝の糖取込み能を評価するための、13C標識グルコースを含む組成物を提供する。
【0009】
ある態様では、本願は、対象動物の肝の糖取込み能を評価する方法であって、
(1)13C標識グルコースを経口投与された前記対象動物から採取された血液を被験試料とし、被験試料中の13C標識グルコース濃度を測定する工程、
(2)前記濃度を指標値と比較し、前記対象動物の肝の糖取込み能を判定する工程、
を含む方法(以下、方法(I)と称する)を提供する。
【0010】
ある態様では、本願は、対象動物の肝の糖取込み能を評価する方法であって、
(1)13C標識グルコースを静脈投与された前記対象動物から排出された呼気を被験試料とし、被験試料中の非標識CO量または総CO量に対する13CO量の割合を算出する工程、
(2)13C標識グルコースを経口投与された前記対象動物から排出された呼気を被験試料とし、被験試料中の非標識CO量または総CO量に対する13CO量の割合を算出する工程、
(3)前記工程(1)で算出された割合と前記工程(2)で算出された割合の差異を算出する工程、
(4)前記工程(3)で算出された差異に基づいて、前記対象動物の肝の糖取込み能を判定する工程、
を含む方法(以下、方法(II)と称する)を提供する。
【0011】
ある態様では、本願は、糖尿病発症の前段階にある対象動物において、糖尿病発症の前段階のステージを判定する方法であって、
(1)13C標識グルコースを経口投与された対象動物から採取された血液を被験試料とし、被験試料中の13C標識グルコース濃度を測定する工程、
(2)前記濃度を指標値と比較し、糖尿病発症の前段階がステージAまたはステージBであると判定する工程、
を含む方法(以下、方法(III)と称する)を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、対象動物の肝の糖取込み能を評価することができる。このような評価は、糖尿病等の代謝性疾患の診断、例えば、予防的観点からの診断に寄与し得る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、13C−グルコースを投与された6週齢ZDF fattyラットおよびZDF leanラットにおける、血中13C−グルコース濃度および呼気△13Cの測定結果を示す。
図2図2は、13C−グルコースを投与された7週齢ZDF fattyラットおよびZDF leanラットにおける、血中13C−グルコース濃度および呼気△13Cの測定結果を示す。
図3図3は、13C−グルコースを投与されたiLIRKOマウスにおける、血中13C−グルコース濃度および呼気△13Cの測定結果を示す。
図4図4は、13C−グルコースを静脈投与または経口投与されたZDF fattyラット、ZDF leanラットおよびSDラットにおける、呼気△13Cの測定結果を示す。
図5図5は、図4における静脈投与および経口投与の各々の呼気△13Cの測定結果についてAUCを算出し、その差異を算出し、糖取り込み量(肝抽出量)としてグラフ化したものである。
図6図6は、ZDF fattyラット、ZDF leanラットおよびSDラットに13C−グルコースを経口投与し、門脈、肝静脈、下大静脈より採取した血液中の13C−グルコース濃度を測定した結果を示す。
図7図7は、図6の結果から各ラットにおける13C−グルコースの肝抽出率を算出した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
特に具体的な定めのない限り、本明細書で使用される用語は、有機化学、医学、薬学、分子生物学、微生物学等の分野における当業者に一般に理解されるとおりの意味を有する。以下にいくつかの本明細書で使用される用語についての定義を記載するが、これらの定義は、本明細書において、一般的な理解に優先する。
【0015】
本明細書では、数値が「約」の用語を伴う場合、その値の±10%の範囲を含むことを意図する。数値の範囲は、両端点の間の全ての数値および両端点の数値を含む。範囲に関する「約」は、その範囲の両端点に適用される。従って、例えば、「約20〜30」は、「20±10%〜30±10%」を含むものとする。
【0016】
13C標識グルコースを含む組成物
本発明のある態様では、対象動物の肝の糖取込み能を評価するための、13C標識グルコースを含む組成物が提供される。13C標識グルコースは、これから糖代謝経路を経て生成されるCOの少なくとも一部が13Cで標識されるように、標識されているものである。例えば、このようなグルコースとしては、グルコースの1位あるいは6位、2位あるいは5位、および3位あるいは4位のいずれか少なくとも1つの炭素原子が13Cである化合物、具体的には、1−13C標識グルコース、2−13C標識グルコース、3−13C標識グルコースを例示できる。またグルコースの1位、2位、3位、4位、5位および6位の複数または全ての炭素原子が13Cであってもよい。ある実施態様では、13C標識グルコース投与後、呼気中に13COとして排出される速さから、3位または4位の炭素原子が13Cであるグルコース、または、1位、2位、3位、4位、5位および6位の全ての炭素原子が13Cであるグルコースを用いる。
【0017】
グルコースを13Cで標識する方法は、特に制限されず、通常使用される方法が広く採用される(佐々木、「5.1安定同位体の臨床診断への応用」:化学の領域107「安定同位体の医・薬学、生物学への応用」pp.149-163(1975)南江堂;梶原、RADIOISOTOPES,41,45-48(1992)等)。13C標識グルコースはいずれも商業的に入手し得、このような市販品を使用し得る。
【0018】
前記組成物は、投与後、13C標識グルコースが体内に吸収され、代謝され、13C標識炭酸ガスとして呼気に排出されるものであればよく、それを満たすものである限り、その形態、13C標識グルコース以外の成分、各成分の配合割合、組成物の調製方法等は特に制限されない。
【0019】
例えば、組成物の形態は、経口投与形態であっても、静脈投与形態であってもよい。前者の場合、液剤(シロップ剤を含む)、懸濁剤および乳剤などの液状形態;錠剤(裸剤、被覆剤を含む)、チュアブル錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤(粉末剤)、細粒剤および顆粒剤などの固形形態など、任意の経口投与形態を採用することができる。後者の場合、例えば注射剤や点滴剤の投与形態(液状、懸濁状または乳液状)を採用できる。ある実施態様では、組成物は経口投与形態である。別の実施態様では、組成物は静脈投与形態である。
【0020】
また、組成物は、製剤形態を有するものに限らず、上記13C標識グルコースを含み、本発明の作用効果を妨げないものであればよく、上記13C標識グルコースを任意の食品素材と組み合わせて、固形食、流動食または液状食の形態を有するものであってもよい。
【0021】
組成物は、実質上、上記13C標識グルコースだけからなるものであってもよいが、本発明の作用および効果を損なわない限り、他の成分として、各製剤形態(投与形態)に応じて、通常当業界において用いられる薬学上許容される任意の担体および添加物を配合した形態であってもよい。
【0022】
この場合、配合する13C標識グルコースの量は、特に制限されることなく、例えば、組成物100重量%中1〜99重量%を挙げることができ、かかる範囲で適宜調整することができる。例えば、組成物に配合される13C標識グルコースの量は、後述の方法において1回あたりの投与量が適当な範囲になるように、適宜調節し得る。
【0023】
組成物を、例えば点滴または注射剤などの液体、懸濁液または乳液の形態に調製するに際しては、各種形態に応じて、精製水または注射用蒸留水のほか、各種の担体または添加剤を用いることができる。例えば、添加剤としては、等張化剤(例えば塩化ナトリウムなど)、pH調整剤(例えば塩酸、水酸化ナトリウムなど)、緩衝剤(例えばホウ酸、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウムなど)、保存剤(例えば塩化ベンザルコニウムなど)、増粘剤(例えばカルボキシビニルポリマーなど)のような通常用いられる添加剤を用いることができる。
【0024】
また、組成物を、例えば錠剤、チュアブル錠剤、カプセル剤、丸剤、散剤(粉末剤)、細粒剤、および顆粒剤などの固形形態に成形するに際しては、各種形態に応じて各種の担体または添加剤を用いることができる。
【0025】
担体または添加剤として、例えば乳糖、白糖、デキストリン、マンニトール、キシリトール、ソルビトール、エリスリトール、リン酸二水素カルシウム、塩化ナトリウム、ブドウ糖、尿素、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、結晶セルロース、ケイ酸等の賦形剤;水、エタノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、セラック、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、リン酸カリウム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、デキストリン、プルラン等の結合剤;乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、ラミナラン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、デンプン、乳糖、カルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポピドン等の崩壊剤;白糖、ステアリン酸、カカオバター、水素添加油等の崩壊抑制剤;ポリソルベート80、第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウム等の吸収促進剤;グリセリン、デンプン等の保湿剤;デンプン、乳糖、カオリン、ベントナイト、コロイド状ケイ酸等の吸着剤;精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ酸末、ポリエチレングリコール、コロイド状ケイ酸、ショ糖脂肪酸類、硬化油等の滑沢剤;クエン酸、無水クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム二水和物、無水リン酸一水素ナトリウム、無水リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等のpH調整剤;酸化鉄、βカロテン、酸化チタン、食用色素、銅クロロフィル、リボフラビン等の着色剤;およびアスコルビン酸、塩化ナトリウム、各種甘味料等の矯味剤等を使用できる。
【0026】
錠剤は必要に応じて通常の剤皮を施した錠剤、例えば糖衣錠、ゼラチン被包錠、フィルムコーティング錠、二重錠、多層錠等とすることができる。またカプセル剤は常法に従い、13C標識グルコースを上記で例示した各種の担体と混合して硬化ゼラチンカプセル、軟質カプセル等に充填して調製される。
【0027】
方法(I)
上記の組成物は、下記の方法(I):
対象動物の肝の糖取込み能を評価する方法であって、
(1)13C標識グルコースを経口投与された対象動物から採取された血液を被験試料とし、被験試料中の13C標識グルコース濃度を測定する工程、
(2)前記濃度を指標値と比較し、対象動物の肝の糖取込み能を判定する工程、
を含む方法に使用し得る。
【0028】
方法(I)に関して、「対象動物」は、いかなる哺乳動物であってもよい。例えば、ヒトおよびヒト以外の哺乳動物が挙げられる。ヒト以外の哺乳動物としては、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、サル、ブタ、ウシおよびウマなどが例示され、好ましくはマウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、サル等が例示される。ある実施態様では、対象動物はヒト、ラットまたはマウスである。
【0029】
方法(I)に関して、対象動物は、健康であってもよく、疾患、例えば、代謝性疾患を有してもよい。「健康である」とは、疾患の兆候および/または症状が認められていない状態を意味する。代謝性疾患には、例えば、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、脂肪肝、ウイルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎など)、アルコール性肝疾患、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、ヘモクロマトーシス、自己免疫性肝炎、肝硬変等の肝疾患、糖尿病、境界型糖尿病等の糖尿病前段階、インスリン抵抗性、高血糖症、高インスリン血症、肥満、脂質異常症、高血圧等が含まれる。対象動物は、これらの疾患を有することが疑われる対象動物であってもよい。
【0030】
方法(I)に関して、対象動物は、13C標識グルコースを投与する直前に絶食状態であってもよく、非絶食状態であってもよい。13C標識グルコースを投与する直前に対象動物を絶食状態とする場合、対象動物に13C標識グルコースを投与する少なくとも2時間以上前、好ましくは少なくとも4時間以上前から絶食であることが例示され、水分は摂取してもよい。13C標識グルコースを投与する直前に対象動物を絶食状態としない場合は、通常食を通常通り摂取すればよい。
【0031】
方法(I)に関して、「肝の糖取込み能」とは、経口摂取されたグルコースを肝臓が取り込む能力を意味する。肝臓は、空腹時などには肝静脈血にグルコースを供給し、栄養摂取時には門脈血からグルコースを取り込み、肝静脈血へのグルコース供給を減少させることにより、血糖値を一定に維持している。従って、門脈血から取り込まれるグルコースから肝静脈血へ供給されるグルコースを差し引いた量が、肝臓に取り込まれるグルコースの量である。方法(I)に関して、「肝の糖取込み能が低下する」とは、肝臓に取り込まれるグルコースの量が減少することを意味する。
【0032】
方法(I)の工程(1)では、13C標識グルコースを経口投与された対象動物から採取された血液を被験試料とし、被験試料中の13C標識グルコース濃度を測定する。方法(I)に関して、対象動物に投与される13C標識グルコースの量は、適宜調節し得る。例えば、対象動物がヒト(成人)である場合5mg/体〜50g/体、好ましくは10mg/体〜25g/体の範囲となるように調節し得る。
【0033】
方法(I)の工程(1)では、13C標識グルコースを投与された対象動物から投与後の任意の時点tにおいて採取された血液を被験試料とし得る。即ち、被験試料は、13C標識グルコースを対象動物に投与してからt時間後に採取された血液であり得る。方法(I)に関して、該t時間を血液採取時間tとも称する。
【0034】
血液採取時間tは、当業者が適宜決定できる。例えば、対象動物への13C標識グルコース投与後5分間〜360分間の間のいずれかの時間が例示され、該範囲内で任意の時間を選択することができる。例えば、対象動物と同種の哺乳動物に13C標識グルコースを経口投与し、複数の時点で血液を採取し、各時点で血液中の13C標識グルコース濃度を測定し、濃度が高い時点を選択し、血液採取時間tとすることができる。例えば、対象動物がラットである場合、血液採取時間tとしては、13C標識グルコース投与後約5〜120分間または約10〜60分間が例示される。例えば、対象動物がヒトである場合、呼気採取時間tとしては、13C標識グルコース投与後5〜240分間または10〜120分間が例示される。他の対象動物については、該範囲を参考にして当業者が適宜決定し得る。
【0035】
従来公知の方法に基づいて対象動物から血液を採取し得る。血液試料中の13C標識グルコース濃度の測定は、従来公知の手順に基づいて行えばよく、当業者に公知である。例えば、LS/MS/MS、GC/MS等の一般に使用される分析手法を用いて行うことができる。好ましくは、LC/MS/MSを用いる。
【0036】
対象動物から複数の時点で採取した血液試料中の13C標識グルコース濃度を測定し、血液中の13C標識グルコース濃度の経時的変化を示すグラフから、曲線下面積(Area under the curve;AUC)を算出してもよい。曲線下面積の算出は、従来公知の算出方法に従って行えばよく、当業者であれば容易に理解できる。例えば、縦軸を13C標識グルコース濃度とし、横軸を13C標識グルコース投与後の経過時間とした、13C標識グルコース濃度の経時的変化を示すグラフにおいて、その曲線下面積を算出する。例えば、縦軸を13C標識グルコース濃度とし、13C標識グルコースを対象動物に投与してから血液採取時間tまでの曲線下面積を、AUCt−0と表すことができる。また、縦軸を13C標識グルコース濃度とし、血液採取時間tから血液採取時間tの間における曲線下面積を、AUCt2−t1と表すことができる。
【0037】
方法(I)の工程(2)では、工程(1)で測定された濃度を指標値と比較し、対象動物の肝の糖取込み能を判定する。ある時点での濃度を比較してもよく、AUCを比較してもよい。この濃度は、対象動物の肝の糖取込み能を反映し、濃度が高いほど、肝臓に取り込まれるグルコースの割合は低い。指標値は、対象動物と同種の肝の糖取込み能が正常である動物群(対照群)において、対象動物と同等の条件下で、方法(I)の工程(1)を実施し、測定された濃度から得られる値であり得る。指標値は、被験値の測定と同時に、並行して、またはその前もしくは後に得られた値であってもよく、各被験動物種について予め定めた値であってもよい。肝の糖取込み能が正常である動物としては、代謝性疾患に罹患していない動物、通常の検査で肝臓の機能に異常が認められない動物、糖尿病、および、境界型糖尿病等の糖尿病発症の前段階のいずれでもない動物等が例示される。対象動物について工程(1)で測定された濃度が指標値よりも高い場合に、対象動物の肝の糖取込み能が低下していると判定し得る。
【0038】
方法(I)により、対象動物の肝の糖取込み能を評価できる。肝の糖取込み能の評価は、代謝性疾患などの疾患の処置および/または予防に役立ち得る。また、後述する通り、方法(I)を応用して、糖尿病発症の前段階にある対象動物において、糖尿病発症の前段階のステージを判定することができる。
【0039】
ある態様では、対象動物の肝の糖取込み能を評価する方法であって、
(1)対象動物に13C標識グルコースを経口投与する工程、
(2)前記対象動物から血液を採取する工程、
(3)前記血液中の13C標識グルコース濃度を測定する工程、
(4)前記濃度を指標値と比較し、対象動物の肝の糖取込み能を判定する工程、
を含む方法が提供される。
【0040】
ある態様では、方法(I)に従って対象動物の肝の糖取込み能を評価するための、13C標識グルコースの使用が提供される。
ある態様では、方法(I)に従って対象動物の肝の糖取込み能を評価するための組成物を製造するための、13C標識グルコースの使用が提供される。
【0041】
方法(II)
上記の組成物は、下記の方法(II):
対象動物の肝の糖取込み能を評価する方法であって、
(1)13C標識グルコースを静脈投与された対象動物から排出された呼気を被験試料とし、被験試料中の非標識CO量または総CO量に対する13CO量の割合を算出する工程、
(2)13C標識グルコースを経口投与された対象動物から排出された呼気を被験試料とし、被験試料中の非標識CO量または総CO量に対する13CO量の割合を算出する工程、
(3)工程(1)で算出された割合と工程(2)で算出された割合の差異を算出する工程、
(4)工程(3)で算出された差異に基づいて、対象動物の肝の糖取込み能を判定する工程、
を含む方法に使用し得る。
【0042】
方法(II)に関して、「対象動物」は、いかなる哺乳動物であってもよい。例えば、ヒトおよびヒト以外の哺乳動物が挙げられる。ヒト以外の哺乳動物としては、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、サル、ブタ、ウシおよびウマなどが例示され、好ましくはマウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、サル等が例示される。ある実施態様では、対象動物はヒト、ラットまたはマウスである。
【0043】
方法(II)に関して、対象動物は、健康であってもよく、疾患、例えば、代謝性疾患を有してもよい。「健康である」とは、疾患の兆候および/または症状が認められていない状態を意味する。代謝性疾患には、例えば、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)、脂肪肝、ウイルス性肝炎(B型肝炎、C型肝炎など)、アルコール性肝疾患、原発性胆汁性肝硬変、原発性硬化性胆管炎、ヘモクロマトーシス、自己免疫性肝炎、肝硬変等の肝疾患、糖尿病、境界型糖尿病等の糖尿病前段階、インスリン抵抗性、高血糖症、高インスリン血症、肥満、脂質異常症、高血圧等が含まれる。対象動物は、これらの疾患を有することが疑われる対象動物であってもよい。
【0044】
方法(II)に関して、対象動物は、13C標識グルコースを投与する直前に絶食状態であってもよく、非絶食状態であってもよい。13C標識グルコースを投与する直前に対象動物を絶食状態とする場合、対象動物に13C標識グルコースを投与する少なくとも2時間以上前、好ましくは少なくとも4時間以上前から絶食であることが例示され、水分は摂取してもよい。13C標識グルコースを投与する直前に対象動物を絶食状態としない場合は、通常食を通常通り摂取すればよい。
【0045】
方法(II)に関して、「肝の糖取込み能」とは、経口摂取されたグルコースを肝臓が取り込む能力を意味する。肝臓は、空腹時などには肝静脈血にグルコースを供給し、栄養摂取時には門脈血からグルコースを取り込み、肝静脈血へのグルコース供給を減少させることにより、血糖値を一定に維持している。従って、門脈血から取り込まれるグルコースから肝静脈血へ供給されるグルコースを差し引いた量が、肝臓に取り込まれるグルコースの量である。方法(II)に関して、「肝の糖取込み能が低下する」とは、肝臓に取り込まれるグルコースの量が減少することを意味する。
【0046】
方法(II)の工程(1)では、13C標識グルコースを静脈投与された対象動物から排出された呼気を被験試料とし、被験試料中の非標識CO量または総CO量に対する13CO量の割合を算出する。工程(2)では、13C標識グルコースを経口投与された対象動物から排出された呼気を被験試料とし、被験試料中の非標識CO量または総CO量に対する13CO量の割合を算出する。上記の組成物を静脈投与または経口投与することにより、13C標識グルコースを静脈投与または経口投与し得る。13C標識グルコースの静脈投与と経口投与は、少なくとも6時間の期間、例えば、12時間、1日、2日、3日、4日、5日の期間を隔てて実施することが好ましい。工程(1)と工程(2)のどちらを先に実施してもよい。
【0047】
方法(II)に関して、対象動物に投与される13C標識グルコースの量は、適宜調節し得る。例えば、対象動物がヒト(成人)である場合5mg/体〜50g/体、好ましくは10mg/体〜25g/体の範囲となるように調節し得る。工程(1)と工程(2)における投与量は同じであっても異なっていてもよい。
【0048】
方法(II)の工程(1)および(2)では、13C標識グルコースを静脈投与または経口投与された対象動物から投与後の任意の時点tにおいて排出された呼気を被験試料とし得る。即ち、被験試料は、13C標識グルコースを対象動物に投与してからt時間後に採取された呼気であり得る。本明細書において、該t時間を呼気採取時間tとも称する。
【0049】
呼気採取時間tは、当業者が適宜決定できる。例えば、対象動物への13C標識グルコース投与後5分間〜240分間の間のいずれかの時間が例示され、該範囲内で任意の時間を選択することができる。例えば、対象動物と同種の哺乳動物に13C標識グルコースを静脈または経口投与し、経時的に呼気を採取し、各時点で呼気中の総CO量に対する13CO量の割合を算出し、13CO量の割合が高い時点を選択し、呼気採取時間tとすることができる。例えば、対象動物がラットである場合、呼気採取時間tとしては、13C標識グルコース投与後約5〜120分間または約10〜60分間が例示される。例えば、対象動物がヒトである場合、呼気採取時間tとしては、13C標識グルコース投与後5〜240分間または10〜120分間が例示される。他の対象動物については、該範囲を参考にして当業者が適宜決定し得る。
【0050】
対象動物から排出された呼気は、従来公知の呼気試験の方法に基づいて採取し得る。呼気試料中に含まれる13CO、非標識CO、総COの測定、分析は従来公知の手順に基づいて行えばよく、当業者に公知である。例えば、13COの測定、分析は、通常、液体シンチレーションカウンター法、質量分析法、赤外分光分析法、発光分析法、磁気共鳴スペクトル法等の一般に使用される分析手法を用いて行うことができる。好ましくは、赤外分光分析法または質量分析法を用いる。
【0051】
方法(II)の工程(1)および(2)では、被験試料中の非標識CO量または総CO量に対する13CO量の割合を算出する。呼気中の炭酸ガスの割合を求める手順は従来公知の手順に従えばよく、例えば以下のように説明される(「13C−呼気試験の実際 基礎と実践的応用 第8項:13C−呼気試験データ解析法」、松林恒夫、松山渉、13C医学応用研究会、pp.102−111参照)。
【0052】
(1)δ13C値(‰)
同位体の存在比を表す場合、同一元素の中で最も組成比の高い元素を分母にした同位体比(R)を用いる。従って、炭素13(13C)のR値は、炭素12(12C)を分母とした次式で表される。
【数1】
【0053】
Rは非常に小さい数値であるため、直接測定することは困難である。より正確に定量するため、質量分析計を用いる場合には、常に標準物質との比較が行われ、測定結果は、次式で定義されるδ値で表される。
【数2】
【0054】
なお、標準ガスとして、石灰石由来の炭酸ガス(PDB)を使用する場合、RSTDは、RPDB=0.0112372である。
【0055】
(2)Δ13C値(‰)
Δ13C値(‰)は、下式で示すように、試薬投与前のδ13C値(すなわち天然に存在する13Cのδ値)をバックグラウンドとして、これを、試薬投与後のδ13C値から差し引いた値(Δ13C)を意味する。
【数3】
【0056】
(3)呼気中の13C濃度(%13C:atom%)
呼気中の13C濃度(%13C:atom%)は下式で定義される。
【数4】
【0057】
前記(1)で定義した相対値δ13C値を、一般的な濃度の概念である総炭素中の13C含量(%)の形に変換するには、下記の方法を用いることができる。
まず、上記式の右辺の分母子を12Cで割り、(式1)に基づいてRに変換すると、下記の通りになる。
【数5】
【0058】
このRに、(式2)で求めたRSAMを代入して整理すると、次式となり、δ13C値を用いて13C濃度(%13C)を表すことができる。
【数6】
【0059】
(4)13C濃度の変化量(Δ%13C)
呼気中の13C濃度(%13C)の変化量(Δ%13C)は、次式で定義されるように、試薬投与t時間後の13C濃度〔(%13C)〕から試薬投与前0時間の13C濃度〔(%13C)〕を差し引いて求められる。
【数7】
【0060】
(5)δ13C値(‰)と13C濃度変化量(Δ%13C)との関係
13Cの天然存在比(R)は約0.011であり、標識試薬を投与した場合でも呼気中への増加量はわずかに+0.001〜0.002程度である。そこで、天然存在比R→0とみなすことができ、%13CをRで表した(式4)は、次式で近似することができる。
【数8】
【0061】
この近似式を用いて、まずδ13Cの定義である(式2)よりRSAMを求めて上記式のRに代入して整理すると、13C濃度を求める近似(式7)が得られる。
【数9】
【0062】
これを(式6)に代入すると、下式(式8)に示すように、Δ13CからΔ%13Cを算出することができる。
【数10】
【0063】
方法(II)の工程(1)および(2)では、採取した呼気に含まれる炭酸ガスの存在比(非標識CO量または総CO量に対する13CO量の割合)を、下記の方法に従って13C濃度の変化量(Δ%13C)として算出し得る。
【0064】
具体的には、下式に従って、13C標識グルコースの対象動物への投与後の任意の時点tに採取された呼気に含まれる総炭素中の13C濃度(呼気中の13C濃度、13C濃度atom%、(%13C))を求める。同様に、13C標識グルコースの対象動物への投与前に予め採取された呼気、好ましくは投与前0時間に採取された呼気に含まれる総炭素中の13C濃度(呼気中の13C濃度、13C濃度atom%、(%13C))を求める。更に、上記式6に従って、(%13C)から(%13C)を差し引いて、13C濃度の変化量(Δ%13C(atom%))を求める。
【数11】
【0065】
なお、必要に応じて前記13C濃度の変化量(Δ%13C)は、上記式5および式3に基づいて、Δ13C(‰)(δ13C値変化量(‰)またはDOB(‰))に換算してもよい。
【0066】
また、呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する13CO量の割合は、Δ%13CまたはΔ13C(‰)の経時的変化を示すグラフにおける曲線下面積(Area under the curve;AUC)として算出してもよい。曲線下面積の算出は、従来公知の算出方法に従って行えばよく、当業者であれば容易に理解できる。例えば、縦軸をΔ%13CまたはΔ13C(‰)とし、横軸を13C標識グルコース投与後の経過時間とした、Δ%13CまたはΔ13C(‰)の経時的変化を示すグラフにおいて、その曲線下面積を算出する。例えば、縦軸をΔ%13CまたはΔ13C(‰)とし、13C標識グルコースを対象動物に投与してから呼気採取時間tの間における曲線下面積を、AUCt−0と表すことができる。また、縦軸をΔ%13CまたはΔ13C(‰)とし、呼気採取時間tから呼気採取時間tの間における曲線下面積を、AUCt2−t1と表すことができる。
【0067】
方法(II)の工程(3)では、工程(1)で算出された割合と工程(2)で算出された割合の差異を算出する。これらの割合は、同じ呼気採取時間tにおけるΔ%13C、Δ13C(‰)またはAUCt−0であってもよく、同じ呼気採取時間tから呼気採取時間tにおけるAUCt2−t1であってもよい。好ましくは、AUCt−0またはAUCt2−t1の差異を算出する。
【0068】
方法(II)の工程(4)では、工程(3)で算出された差異に基づいて、対象動物の肝の糖取込み能を判定する。この差異は、対象動物の肝の糖取込み能を反映し、差異が大きいほど、肝臓に取り込まれるグルコースの割合は高い。工程(4)では、この差異を指標値と比較して、対象動物の肝の糖取込み能を判定してもよい。指標値は、対象動物と同種の肝の糖取込み能が正常である動物群(対照群)において、対象動物における差異の算出と同等の条件下で、方法(II)の工程(1)ないし(3)を実施し、算出された差異から得られる値であり得る。指標値は、被験値の測定と同時に、並行して、またはその前もしくは後に得られた値であってもよく、各被験動物種について予め定めた値であってもよい。肝の糖取込み能が正常である動物としては、代謝性疾患に罹患していない動物、通常の検査で肝臓の機能に異常が認められない動物、糖尿病、および、境界型糖尿病等の糖尿病発症の前段階のいずれでもない動物等が例示される。対象動物について工程(3)で算出された差異が指標値よりも小さい場合に、対象動物の肝の糖取込み能が低下していると判定し得る。さらに、方法(II)の工程(4)では、対象動物の肝の糖取込み能を、グルコースの取込み量または取込み割合として、公知の方法により定量的に評価することもできる。
【0069】
後述する実施例で立証される通り、方法(II)により判定された肝の糖取込み能は、門脈、肝静脈および下大静脈から採取された血液の血糖値から算出された肝抽出率を反映するものである。門脈、肝静脈および下大静脈からの血液の採取には高度な技術が必要であり、対象動物の身体的負担が大きく、実際の医療の現場では採用しにくい。方法(II)では、対象動物は通常の静脈投与および経口投与および呼気採取を受ければよく、小さい負担で肝の糖取込み能を評価し得る。肝の糖取込み能の評価は、代謝性疾患などの疾患の処置および/または予防に役立ち得る。
【0070】
ある態様では、対象動物の肝の糖取込み能を評価する方法であって、
(1−1)対象動物に13C標識グルコースを静脈投与する工程、
(1−2)前記対象動物から排出された呼気を採集する工程、
(1−3)前記呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する13CO量の割合を算出する工程、
(2−1)対象動物に13C標識グルコースを経口投与する工程、
(2−2)前記対象動物から排出された呼気を採集する工程、
(2−3)前記呼気に含まれる非標識CO量または総CO量に対する13CO量の割合を算出する工程、
(3)工程(1−3)で算出された割合と工程(2−3)で算出された割合の差異を算出する工程、
(4)工程(3)で算出された差異に基づいて、対象動物の肝の糖取込み能を判定する工程、
を含む方法が提供される。
【0071】
ある態様では、方法(II)に従って対象動物の肝の糖取込み能を評価するための、13C標識グルコースの使用が提供される。
ある態様では、方法(II)に従って対象動物の肝の糖取込み能を評価するための組成物を製造するための、13C標識グルコースの使用が提供される。
【0072】
方法(III)
上記の組成物は、下記の方法(III):
糖尿病発症の前段階にある対象動物において、糖尿病発症の前段階のステージを判定する方法であって、
(1)13C標識グルコースを経口投与された対象動物から採取された血液を被験試料とし、被験試料中の13C標識グルコース濃度を測定する工程、
(2)前記濃度を指標値と比較し、糖尿病発症の前段階がステージAまたはステージBであると判定する工程、
を含む方法に使用し得る。
【0073】
方法(III)に関して、「対象動物」は、いかなる哺乳動物であってもよい。例えば、ヒトおよびヒト以外の哺乳動物が挙げられる。ヒト以外の哺乳動物としては、マウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、ネコ、サル、ブタ、ウシおよびウマなどが例示され、好ましくはマウス、ラット、モルモット、ウサギ、イヌ、サル等が例示される。ある実施態様では、対象動物はヒト、ラットまたはマウスである。
【0074】
方法(III)に関して、「糖尿病発症の前段階」とは、糖尿病の病態ステージにおいて、血糖値は正常の範囲内あるいはやや高めであるが、血中インスリン濃度が非常に高い段階あるいは肝での糖取込み能が低下している段階を意味する。糖尿病発症の前段階は、境界型糖尿病(血糖値が正常よりも高いが、糖尿病の診断基準には該当しない段階)も含む。糖尿病発症の前段階にある対象動物は、生活習慣を改善しなければ、糖尿病に至るリスクを有する。
【0075】
糖尿病発症の前段階は、さらに、ステージAとステージBに分類される。ステージAはインスリン分泌亢進段階であり、ステージBは糖の肝臓抽出率低下段階(即ち、肝での糖取込み能低下段階)である。ステージAからBに移行することもあり、ステージBからAに移行することもある。後述する実施例により立証される通り、方法(III)に従って測定した血中13C標識グルコース濃度は、ステージAにおいて低く、ステージBにおいて高い。下表は、糖尿病の各病態ステージにおける、各パラメーターの状態を示す。
【表1】
【0076】
表中、→は各パラメーターの値が正常範囲内にあることを示す。
→↑は、各パラメーターの値が正常範囲か正常範囲よりやや高いことを示す。
↑は、各パラメーターの値が正常範囲より高いことを示す。
↑↑は、各パラメーターの値が正常範囲より非常に高いことを示す。
↓は、各パラメーターの値が正常範囲より低いことを示す。
↓↓は、各パラメーターの値が正常範囲より非常に低いことを示す。
【0077】
各パラメーターの正常範囲は、各国で定められている糖尿病の診断基準に基づいて決定し得る。例えば、「糖尿病診療ガイドライン2016」によると、日本における血糖値の正常範囲は「空腹時で110mg/dL未満」とされており、これに基づいて、例えば、血糖値の正常範囲を110mg/dL未満とすることができる。あるいは、正常範囲は、対象動物と同種の糖尿病および境界型糖尿病等の糖尿病発症の前段階のいずれにも罹患していない動物群(対照群)において測定された各パラメーターの値に基づいて決定し得る。
【0078】
対象動物が糖尿病発症の前段階にあることは、いかなる方法によって判定されてもよい。例えば、国際公開第2014/030650号に記載の通り、13C標識グルコース投与後の呼気に含まれる13CO量により判定され得る。例えば、
(a)13C標識グルコースを経口投与された対象動物から排出された呼気を被験試料とし、被験試料中の非標識CO量または総CO量に対する13CO量の割合を算出する工程、
(b)前記割合を指標値と比較し、対象動物の糖代謝能を判定する工程、ここで、指標値は、対象動物と同種の糖代謝能が正常である動物群において工程(a)に従って測定された割合から得られる値である、
(c)工程(b)において、前記割合が指標値よりも高い場合に、対象動物が糖尿病発症の前段階にあると判定する工程、
を含む方法により判定され得る。
【0079】
工程(a)は、方法(II)の工程(2)に準じて実施し得る。工程(b)では、工程(a)で算出された割合を指標値と比較し、対象動物の糖代謝能を判定する。ある時点でのΔ%13CまたはΔ13C(‰)を比較してもよく、AUCを比較してもよい。この割合は、対象動物の肝の糖代謝能を反映し、割合が高いほど、糖代謝能は高い。指標値は、対象動物と同種の糖代謝能が正常である動物群(対照群)において、対象動物と同等の条件下で、工程(a)を実施し、測定された濃度から得られる値であり得る。指標値は、被験値の測定と同時に、並行して、またはその前もしくは後に得られた値であってもよく、各被験動物種について予め定めた値であってもよい。糖代謝能が正常である動物としては、代謝性疾患に罹患していない動物、通常の検査で肝臓の機能に異常が認められない動物、糖尿病、および、境界型糖尿病等の糖尿病発症の前段階のいずれでもない動物等が例示される。対象動物について工程(a)で測定された割合が指標値よりも高い場合に、対象動物が糖尿病発症の前段階にあると判定し得る。
【0080】
方法(III)の工程(1)では、13C標識グルコースを経口投与された対象動物から採取された血液を被験試料とし、被験試料中の13C標識グルコース濃度を測定する。この工程の詳細は、上記方法(I)の工程(1)と同様である。
【0081】
方法(III)の工程(2)では、工程(1)で測定された濃度を指標値と比較し、糖尿病発症の前段階がステージAまたはステージBであると判定する。ある時点での濃度を比較してもよく、AUCを比較してもよい。この濃度は、対象動物の肝の糖取込み能を反映し、濃度が高いほど、肝臓に取り込まれるグルコースの割合は低い。指標値は、対象動物と同種の肝の糖取込み能が正常である動物群(対照群)において、対象動物と同等の条件下で、方法(III)の工程(1)を実施し、測定された濃度から得られる値であり得る。指標値は、被験値の測定と同時に、並行して、またはその前もしくは後に得られた値であってもよく、各被験動物種について予め定めた値であってもよい。肝の糖取込み能が正常である動物としては、代謝性疾患に罹患していない動物、通常の検査で肝臓の機能に異常が認められない動物、糖尿病、および、境界型糖尿病等の糖尿病発症の前段階のいずれでもない動物等が例示される。対象動物について工程(1)で測定された濃度が指標値よりも低い場合に、糖尿病発症の前段階がステージAであると判定し得、前記濃度が指標値よりも高い場合に、糖尿病発症の前段階がステージBであると判定し得、前記濃度が指標値と同等である場合に、糖尿病発症の前段階がステージAからステージB、または、ステージBからステージAへの移行期にあると判定し得る。
【0082】
後述する実施例で立証される通り、方法(III)により、糖尿病発症の前段階のステージを判定し得る。これまで糖尿病発症の前段階のステージを判定する方法は存在しなかった。方法(III)は、糖尿病発症の前段階のステージを判定することを可能にし、より効果的な糖尿病の予防に役立つことが期待される。
【0083】
ある態様では、糖尿病発症の前段階にある対象動物において、糖尿病発症の前段階のステージを判定する方法であって、
(1)糖尿病発症の前段階にある対象動物に13C標識グルコースを経口投与する工程、
(2)前記対象動物から血液を採取する工程、
(3)前記血液中の13C標識グルコース濃度を測定する工程、
(4)前記濃度を指標値と比較し、糖尿病発症の前段階がステージAまたはステージBであると判定する工程、
を含む方法が提供される。
【0084】
ある態様では、方法(III)に従って糖尿病発症の前段階にある対象動物において糖尿病発症の前段階のステージを判定するための、13C標識グルコースを含む組成物が提供される。
ある態様では、方法(III)に従って糖尿病発症の前段階にある対象動物において糖尿病発症の前段階のステージを判定するための、13C標識グルコースの使用が提供される。
ある態様では、方法(III)に従って糖尿病発症の前段階にある対象動物において糖尿病発症の前段階のステージを判定するための組成物を製造するための、13C標識グルコースの使用が提供される。
【0085】
例えば、本願は下記の実施態様を提供する。
[1]対象動物の肝の糖取込み能を評価するための、13C標識グルコースを含む組成物。
[2]経口投与用である、第1項に記載の組成物。
[3]静脈投与用である、第1項に記載の組成物。
[4]対象動物の肝の糖取込み能を評価する方法であって、
(1)13C標識グルコースを経口投与された対象動物から採取された血液を被験試料とし、被験試料中の13C標識グルコース濃度を測定する工程、
(2)前記濃度を指標値と比較し、対象動物の肝の糖取込み能を判定する工程、
を含む方法。
[5]前記工程(2)における指標値が、対象動物と同種の肝の糖取込み能が正常である動物群において前記工程(1)に従って測定された濃度から得られる値である、第4項に記載の方法。
[6]前記工程(2)において、前記濃度が前記指標値よりも高い場合に、対象動物の肝の糖取込み能が低下していると判定する、第5項に記載の方法。
[7]対象動物の肝の糖取込み能を評価する方法であって、
(1)13C標識グルコースを静脈投与された対象動物から排出された呼気を被験試料とし、被験試料中の非標識CO量または総CO量に対する13CO量の割合を算出する工程、
(2)13C標識グルコースを経口投与された対象動物から排出された呼気を被験試料とし、被験試料中の非標識CO量または総CO量に対する13CO量の割合を算出する工程、
(3)前記工程(1)で算出された割合と前記工程(2)で算出された割合の差異を算出する工程、
(4)前記工程(3)で算出された差異に基づいて、対象動物の肝の糖取込み能を判定する工程、
を含む方法。
[8]前記工程(4)が、対象動物と同種の肝の糖取込み能が正常である動物群において前記工程(1)ないし(3)を実施し、算出された差異から得られる値を指標値とし、対象動物について前記工程(3)で算出された差異を指標値と比較することを含む、第7項に記載の方法。
[9]対象動物について前記工程(3)で算出された差異が前記指標値よりも小さい場合に、対象動物の肝の糖取込み能が低下していると判定する、第8項に記載の方法。
[10]前記工程(3)で算出された差異に基づいて肝の糖取込み量を算出する工程をさらに含む、第7項ないし第9項のいずれかに記載の方法。
[11]糖尿病発症の前段階にある対象動物において糖尿病発症の前段階のステージを判定するための、13C標識グルコースを含む組成物。
[12]糖尿病発症の前段階にある対象動物において、糖尿病発症の前段階のステージを判定する方法であって、
(1)13C標識グルコースを経口投与された対象動物から採取された血液を被験試料とし、被験試料中の13C標識グルコース濃度を測定する工程、
(2)前記濃度を指標値と比較し、糖尿病発症の前段階がステージAまたはステージBであると判定する工程、
を含む方法。
[13]前記工程(2)における指標値が、対象動物と同種の肝の糖取込み能が正常である動物群において前記工程(1)に従って測定された濃度から得られる値である、第12項に記載の方法。
[14]前記工程(2)において、前記濃度が前記指標値よりも低い場合に、糖尿病発症の前段階がステージAであると判定する、第13項に記載の方法。
[15]前記ステージAが、インスリン分泌亢進段階である、第14項に記載の方法。
[16]前記工程(2)において、前記濃度が前記指標値よりも高い場合に、糖尿病発症の前段階がステージBであると判定する、第13項に記載の方法。
[17]前記ステージBが、肝の糖取込み能低下段階である、第16項に記載の方法。
[18]前記対象動物が糖尿病発症の前段階にあることが、
(a)13C標識グルコースを経口投与された前記対象動物から排出された呼気を被験試料とし、被験試料中の非標識CO量または総CO量に対する13CO量の割合を算出する工程、
(b)前記割合を指標値と比較し、前記対象動物の糖代謝能を判定する工程、ここで、指標値は、前記対象動物と同種の糖代謝能が正常である動物群において工程(a)に従って測定された割合から得られる値である、
(c)前記工程(b)において、前記割合が前記指標値よりも高い場合に、前記対象動物が糖尿病発症の前段階にあると判定する工程、
を含む方法により判定される、第12項ないし第17項のいずれかに記載の方法。
【0086】
本明細書で引用するすべての文献は、出典明示により本明細書の一部とする。
上記の説明は、すべて非限定的なものであり、添付の特許請求の範囲において定義される発明の範囲から逸脱せずに、変更することができる。さらに、下記の実施例は、すべて非限定的な実施例であり、発明を説明するためだけに供されるものである。
【実施例】
【0087】
使用動物
Zucker Diabetic Fatty Rat (ZDF-Leprfa/CrlCrlj)(日本チャールスリバー株式会社、神奈川、日本)を用いた。
ZDF fatty ラット:肥満遺伝子であるレプチン受容体変異をホモで有する(Leprfa/Leprfa)ラット。8週齢程度で高脂血症と高血糖を呈し、12週程度で2型糖尿病を呈することから糖尿病モデル動物として用いた。
ZDF Lean ラット:優性遺伝子ホモ接合体(+/+)またはヘテロ接合体(Leprfa/+)を有するラット。正常血糖値を示す。ZDF fattyラットの対照として用いた。
【0088】
実施例1:糖尿病発症の前段階における13Cグルコース血中濃度および呼気△13Cによる肝の糖取込み能評価
実施例1−1;6週齢ZDF fattyラットの肝の糖取込み能評価
絶食ZDF fattyラット(6週齢;n=4)およびZDF leanラット(6週齢;n=4)に、13−グルコース(13C6-Glucose [D-GLUCOSE(U-13C6、99%)], Cambridge Isotope Laboratories, Inc(Andover, MA, USA))を10mg/kg経口投与し、投与前および投与後、経時的に血液および呼気を採取した。得られた呼気の△13CをGC/MSにて測定した。血中13−グルコース濃度をLC/MS/MSにて測定した。また、グルコース投与前に絶食中の各ラットの血糖値を測定した。
【0089】
結果を図1に示す。6週齢のZDF fattyラットの血糖値は88mg/dLであり、呼気の△13CがZDF leanラットより高く推移したことから、糖尿病の発症は認めないが糖代謝が亢進している状態、即ち、糖尿病発症の前段階にあると判定された。ZDF fattyラットの血中13グルコース濃度は、ZDF Leanラットよりも低く推移した。従って、6週齢のZDF fattyラットでは、肝の糖取込み能が低下しておらず、糖尿病発症の前段階のステージA、即ち、インスリン分泌亢進段階にあることが示唆された。
【0090】
実施例1−2;7週齢ZDF fattyラットの肝の糖取込み能評価
絶食ZDF leanラット(7週齢;n=4)およびZDF fattyラット(7週齢;n=4)に、13−グルコースを10mg/kg経口投与し、投与前および投与後、経時的に血液および呼気を採取した。得られた呼気の△13CをGC/MSにて測定した。血中13−グルコース濃度をLC/MS/MSにて測定した。また、グルコース投与前に絶食中の各ラットの血糖値を測定した。
【0091】
結果を図2に示す。7週齢のZDF fattyラットの血糖値は88mg/dLであり、呼気の△13CがZDF leanラットより高く推移したことから、糖尿病の発症は認めないが糖代謝が亢進している状態、即ち、糖尿病発症の前段階であると判定された。ZDF fattyラットの血中13グルコース濃度は、ZDF Leanラットよりも高く推移した。従って、7週齢のZDF fattyラットは、肝の糖取込み能が低下しており、糖尿病発症の前段階のステージB、即ち、肝臓抽出率低下段階にあることが示唆された。
【0092】
実施例1−3;iLIRKOマウスの肝の糖取込み能評価
iLIRKOマウス(誘導性肝臓特異的インスリン受容体欠損マウス:inducible Liver-specific insulin receptor KO mice)は、後天的に肝臓単独でインスリン受容体をノックアウトできるマウスであり、糖尿病発症の前段階のステージB(肝臓抽出率低下段階)のモデルとして使用できる(Michael MD, et al., Loss of insulin signaling in hepatocytes leads to severe insulin resistance and progressive hepatic dysfunction. Mol Cell 2000; 6(1): 87-97)。iLIRKOマウス(2〜3ヶ月齢、n=5)および対照であるIRfloxマウス(2〜3ヶ月齢、n=5)に、13−グルコースを10mg/kg経口投与し、投与前および投与後、経時的に血液および呼気を採取した。得られた呼気の△13CをGC/MSにて測定した。血中13−グルコース濃度はLC/MS/MSにて測定した。
【0093】
結果を図3に示す。iLIRKOマウスの呼気の△13Cおよび血中13−グルコース濃度は、IRfloxマウスよりも高く推移した。この結果は、実施例1−2の結果と合致する。iLIRKOマウスにおいては、肝臓以外の臓器の糖代謝は正常であり、呼気の△13Cは高いが、肝臓における糖の取り込み能は低く、血中13−グルコース濃度が対照に比べて上昇したものと考えられる。
【0094】
実施例2:13C標識グルコースのiv摂取およびpo摂取後の呼気△13Cによる糖取込み能評価
実施例2−1:13C標識グルコースのiv、po摂取後の呼気△13Cの推移
非絶食状態のZDF fattyラット(18週齢;n=6)、ZDF leanラット(18週齢;n=6)およびSDラット(14週齢;n=3)に、13−グルコースを10mg/kg経口投与し、投与前および投与後に、経時的に呼気を採取し、得られた呼気のΔ13CをGC/MSにて測定した。経口投与の3日後に、非絶食状態の同じラットに、13−グルコースを10mg/kg静脈投与し、投与前および投与後に、経時的に呼気を採取し、得られた呼気のΔ13CをGC/MSにて測定した。
【0095】
結果を図4に示す。糖尿病モデルであるZDF fattyラットでは、経口投与と静脈投与で呼気試験の結果にほとんど差はなかった。一方、対照であるZDF leanラットおよびSDラットでは、経口投与と静脈投与の呼気試験の結果に差が認められ、静脈投与の方が呼気のΔ13Cは高かった。経口投与されたグルコースは必ず肝臓を通過するが、静脈投与されたグルコースは肝臓を通過しないことから、呼気のΔ13Cの差異は肝臓における糖取り込みを反映すると考えられる。
【0096】
さらに、静脈投与および経口投与の各々の呼気△13Cの測定結果についてAUCを算出し、その差異を糖取り込み量(肝抽出量)としてグラフ化した(図5)。肝抽出量はSDラットで最も高く、次いでZDF leanラット、ZDF fattyラットの順であり、糖尿病モデルであるZDF fattyラットでは糖の肝抽出量が低いことが示された。また、ZDF fattyラットがホモで有する遺伝子変異をヘテロで有するZDF leanラットの肝抽出量は、この遺伝子変異を有さないSDラットの肝抽出量よりも低かった。
【0097】
実施例2−2:血中13C標識グルコース濃度による肝抽出率の測定
非絶食の各ラット(ZDF lean、ZDF fatty、SD、各n=12)に、13−グルコースを10mg/kg経口投与した。投与の5分、10分および30分後に、各群のラットを4匹ずつ安楽死させて開腹し、門脈、肝静脈、下大静脈より同時に採血した。血中13−グルコース濃度をLC/MS/MSにて測定した。結果を図6に示す。全てのラットにおいて、グルコース投与の5分および10分後の血中濃度は門脈で高く、次いで肝静脈、下大静脈の順であった。
【0098】
これらの血中濃度を下記の計算式にあてはめ、13−グルコースの肝抽出率を算出した。
【数12】
【0099】
結果を図7に示す。肝抽出率はSDラットで最も高く、次いでZDF leanラット、ZDF fattyラットの順であった。この結果は、実施例2−1の結果と合致し、実施例2−1における13C標識グルコースの静脈投与および経口投与の呼気△13Cによる糖取込み能評価が、実際の肝抽出率を反映するものであることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明により、対象動物の肝の糖取込み能を評価することができる。このような評価は、糖尿病等の代謝性疾患の診断、例えば、予防的観点からの診断に寄与し得、適切な対象動物における代謝性疾患の予防を促進することにより、医療経済に貢献し得る。
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