【文献】
菊池 克城 ほか,金属メッシュ型コアレッサーを用いる油水分離,化学工学会第50回秋季大会(2018)研究発表講演要旨集,日本,2018年,PA371
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
この発明を実施するための一形態を、以下図面を用いて説明する。
【0014】
図1にコアレッサ11を備えた油水分離装置21の概略構成を示す。油水分離装置21は、例えば石油プラントや食品工場などにおける排水処理に用いられ、供給槽22と、ポンプ23と、処理槽24と、回収槽25を備えている。
【0015】
まず、油水分離装置21の概略を説明したのち、コアレッサ11について説明する。
【0016】
供給槽22は、被処理液26を溜める部分であり、不要な微細粒子をあらかじめ除去した後の被処理液26が貯留される。供給槽22の前段又は後段に微細粒子を除去するフィルタ(図示せず)を備えてもよい。
【0017】
ポンプ23は、供給槽22内の被処理液26を後段側に送るための装置である。ポンプ23には、油水分離装置21の規模に応じて適宜の能力のものが使用される。
【0018】
処理槽24は、被処理液26に対して油水分離のための加工を行う部分であり、下端に入口24aを、上端に出口24bを有しており、下方から上方へ向けて一方向に流れる流路24cが形成されている。この流路24cにコアレッサ11が内蔵される。コアレッサ11は、ポンプ23で送られて一方向に流動する被処理液26に対して、含まれている微細な油滴を合一させ、粗大化させて、粗大油滴粒子に加工して、容易に水と分離されるようにする。
【0019】
回収槽25は、処理槽24を通過した被処理液26を溜める部分であり、処理槽24で得られた粗大油滴粒子は水に対して浮くので、回収槽25内では油(O)と水(W)は分離された状態で貯留される。油(O)より下にたまる水(W)は、下に排出される。
【0020】
つぎに、コアレッサ11の詳細について説明する。
【0021】
コアレッサ11は、
図2に示したようにシート状をなす金属メッシュ12の集合体で構成されている。コアレッサ11を処理槽24内の流路24cに対して装着する際には、金属メッシュ12の面をなす方向が、被処理液26の流動方向、つまり流路24cの延びる方向と同じ方向に向けられる。
【0022】
具体的には、金属メッシュ12は、平面図である
図3の(a)に示したように、経線材13と、経線材13に交差する緯線材14を有するものであり、経線材13と緯線材14が直交する平織組織で構成されている。この金属メッシュ12からなるコアレッサ11は、その側面図である
図3の(b)に示したように、金属メッシュ12の面同士が対向する層間部15を、メッシュ層16と交互に有している。
【0023】
コアレッサ11の斜視図である
図2に示したように、コアレッサ11は、金属メッシュ12を積層により集合させて形成されている。コアレッサ11の外形は、処理槽24の流路24cに対応した形状であり、流路24cの断面形状に応じて適宜形成される。
図2に例示したコアレッサ11は直方体形状であり、複数の金属メッシュ12で構成され、これら金属メッシュ12が一方向の積層により集合されている。
図2中、白抜き矢印は被処理液26の流動方向を示している。このほか、コアレッサ11は、1枚又は複数枚の金属メッシュ12を九十九折りして、集合させて構成することもできる。
【0024】
コアレッサ11は、流路24cの断面形状に対応する形状であって、処理槽24の入口24aに対向する入口面11aと、処理槽24の出口24bに対向する出口面11bを相反する面に有している。このため、入口面11aと出口面11bには、被処理液26の流動方向と同じ方向に延びる経線材13又は緯線材14の端が露出することになる。ここでは、経線材13が被処理液26の流動方向と同じ方向に延びることとする。コアレッサ11の入口面11aと出口面11b以外の面は、流路24cの内面に接する側面11cである。
【0025】
このように構成されるコアレッサ11では、交互に並ぶメッシュ層16と層間部15は、同一の平面方向に広がるとともに、互いに平行である。
【0026】
コアレッサ11を構成する金属メッシュ12の種類は、被処理液26の種類に応じて設定されるが、高精細ステンレスメッシュやタングステンメッシュが好適に使用できる。高精細ステンレスメッシュのなかでも、一般的には例えば線径が0.01mm〜0.2mm程度の金属繊維を、目開きが0.02mm〜0.3mm程度になるように平織や綾織りおよび厚織り(「3D−mesh」(登録商標))等にて形成されたものであるとよい。また、上記の異なる種類のメッシュを適宜組み合わせて用いても良い。
【0027】
以上のような構成はコアレッサ11を備えた油水分離装置21では、ポンプ23を駆動して供給槽22内の被処理液26を処理槽24に送ると、次のようにして被処理液26中の油滴が粗大化され、粗大油滴粒子となる。
【0028】
すなわち、コアレッサ11の入口面11aから入って出口面11bに向かう流動過程において、被処理液26中の微細な油滴31は、
図4に模式的に示したように、金属メッシュ12を構成する線材である経線材13及び緯線材14の表面に形成された油膜に接する。
【0029】
油膜32は、
図4に示したように、白抜き矢印で示す被処理液26の流動に伴って主に流動方向に延びる経線材13または緯線材14またはその両方に沿って移動するとともに、経線材13及び緯線材14上の油膜32に後続の油滴31が接して合一する。緯線材14は経線材13に接しない油滴31を油膜32にするとともに、油膜32との合一をはかる。
【0030】
次々に油滴31が合一する油膜32は、メッシュ層16や層間部15を下流側へ移動する。メッシュ層16下端において粗大化する油膜32は、出口面11bを構成する経線材13または緯線材14またはその両方の端部においてさらに成長して粗大液滴33となり、被処理液26の流動に抗えなくなるまで成長してから、粗大液滴粒子34としてコアレッサ11から離脱する。
【0031】
処理槽24から流出した粗大液滴粒子34は、回収槽25内で容易に水に浮き、回収槽25内の上層にたまって、下層の水(W)の層の上に油(O)の層を形成することになる。
【0032】
このように被処理液26の中の油滴31は、コアレッサ11を通過する過程で凝集したり集積されたりすることなく速やかに金属メッシュ12の表面で合一し、油膜32としてメッシュ層16や層間部15を流れに従って流下する。油滴31は捕捉されて凝集・集積して塊となることはないうえに、油膜32の流下が層間部15でも自由に行われるので、圧力損失を小さくできる。このため、被処理液26を流動させるポンプ23の低能力化や小型化をはかることもできる。
【0033】
そのうえ、油滴31は速やかに合一して粗大化するので、被処理液26の油水分離が短時間で行え、流路24cを短くしてコアレッサ11の小型化もはかれる。
【0034】
また、前述のように油滴31は油膜32となって移動して凝集しないことから、コアレッサ11内の隙間・空間を確保でき、閉塞することを回避できる。このため、目詰まりの発生を抑制でき、メンテナンスの負担を大幅に低減できる。
【0035】
しかも、油滴31が粗大化されてなる粗大液滴粒子34は、コアレッサ11の出口面11bにできるので、たとえ離脱せずに残留したとしても、内部の隙間にできる場合と異なり、メンテナンスは容易である。
【0036】
また、コアレッサ11は、シート状をなす金属メッシュ12の集合体であるので、集合させることによって前述のような層間部15を容易に形成できる。
【0037】
さらにコアレッサ11は、金属メッシュ12を積層して構成するので、製造が容易である。
【0038】
以下、他の例について説明する。この説明において、前述の構成と同一の部位については同一の符号を付してその詳しい説明を省略する。
【0039】
図5は、他の例に係るコアレッサ11の斜視図である。このコアレッサ11は、1枚の金属メッシュ12で構成され、この金属メッシュ12が巻回により集合されて集合体を構成している。具体的には、1枚の金属メッシュ12は経線材が延びる方向を軸にして一方の端を心にするように巻回される。このため、入口面11aや出口面11bである端面から見ると螺旋を描くメッシュ層16の間に層間部15が形成されることになる。
【0040】
このように構成されたコアレッサ11においても、前述と同様の作用効果を有する。特に、コアレッサ11は1枚の金属メッシュ12を巻回して構成されるので、製造が容易である。なお、このような構成態様のコアレッサ11は、複数枚の金属メッシュ12を重ね合わせたうえで巻回して構成してもよい。
【0041】
図6は、他の例に係る油水分離装置21の概略構成を示している。この油水分離装置21では、
図1に示した油水分離装置21と異なり、処理槽24に、被処理液26の中の油滴を微細化する微細化部としてのミキサ部27を備えている。ミキサ部27は、被処理液26を撹拌することによって、被処理液26中の油滴を、例えば数百μm以下の大きさに微細化するものである。
【0042】
ミキサ部27は、適宜の撹拌翼28で構成され、コアレッサ11より上流側に設けられる。ミキサ部27は、処理槽24の外に備えられてもよい。
【0043】
このように構成された油水分離装置21では、コアレッサ11で油滴の合一と粗大化がなされる直前に、被処理液26が撹拌されて油滴が分断され、油滴の微細化がなさ
れるので、コアレッサ11での油膜の形成から合一が、より速やかに行われる。
【0044】
つまり、油滴の合一がより一そう促進され、粗大液滴粒子の生成が短い流路24cで実現できる。このため、前述の作用効果と併せて、更なるコアレッサ11のコンパクト化をはかれるという利点を有する。
【0045】
油滴の分離性能を検証するため、次の実験を行った。
【0046】
実験の内容は、油滴を含んだ試料をチューブポンプで送り出し、コアレッサに通して回収する。このときに、チューブポンプで送り出す前の試料、つまり供給液の吸光度と、回収した試料、つまり回収液の吸光度を測定して、これらの吸光度に基づいて可視光分離度を算出した。
【0047】
可視光分離度の演算式は、下記の数1のとおりである。
【0048】
【数1】
また、供給液の吸光度と回収液の吸光度の値から、指数近似曲線を算出し、この指数近似曲線を用いて、可視光分離度(分離度)について検討を行った。
【0049】
さらに、圧力トランスデューサを用いてコアレッサに入る前の圧力(入口側電圧)とコアレッサから出た後の圧力(出口側電圧)を測定して、これらに基づいて入口側圧力と出口側圧力を算出し、入口側圧力から出口側圧力を減算して圧力損失を求めた。
【0050】
試料は、脱イオン水1.5リットルにテトラデカン3ミリリットルを添加して、ホーン型超音波照射装置を用いて乳化させて調製した。
【0051】
この試料をポンプによって順次送り出し、乳化した直後からの時間の経過に伴う複数の段階で前述した測定を行った。複数の段階は、
表1に示す11の段階である。チューブポンプの能力は、最大80mL/min、173kPaである。
【0052】
コアレッサは、ステンレス製で平織の金属メッシュ(380メッシュ、20mm角)を平積み状態で層状に158枚積層して全体として直方体形状に構成し、縦横高さがそれぞれ20mm、20mm、3mmの直方体をなす流路に充填した。
【0053】
比較例として、同一の流路に次のようなコアレッサを充填した実験も行った。比較例1のコアレッサは、線径10〜50μmのテフロン(登録商標)(PTFE)繊維を、充填率0.4で充填したもの、比較例2のコアレッサは、平均線径16μmのポリプロピレン(PP)繊維を、充填率0.4で充填したもの、比較例3のコアレッサは、ポリウレタンフォーム(PU)を充填したものである。
【0054】
本発明のコアレッサを用いた実験結果は、表1に示すとおりである。
【0055】
なお、表1中、「Run」は前述した11の段階を示し、「C
in」は供給液の吸光度、「C
in.fitting」は指数、「C
out」は回収液の吸光度、「V
p1」は入口側電圧、「V
p2」は出口側電圧、「P
in」は入口側圧力、「P
out」は出口側圧力、「ΔP」は圧力損失を示している。
【0056】
【表1】
算出して得られた圧力損失を横軸に、分離度を縦軸にしてグラフにすると、
図7に示したようになる。なお、
図7中、破線は指数近似曲線である。
【0057】
すなわち、「Run」の1〜11まですべてにおいて、分離度は0.9を超えており、圧力損失に関わらず非常に高い値であった。
【0058】
図8に破線で示した供給液の吸光度の指数近似曲線を用いて、指数近似曲線上の値を算出してみると、表1に示したとおり、「Run」の1〜11までにおいて、分離度と曲線上の分離度はそれぞれ、分離度:曲線上の分離度は、0.953:0.9645、0.960:0.9702、0.979:0.9785、0.972:0.9709、0.970:0.9614、0.964:0.9519、0.947:0.9365、0.911:0.9231、0.964:0.9659、0.981:0.9815、0.986:0.9869であって、すべての絶対値割合は、大きいところでも0.013であった。すなわち、圧力損失に対する分離度の変化・ばらつきが小さいという特徴を有することが判る。絶対標準偏差を算出すると0.65%である。このため、広い運転範囲において高い性能を発揮するといえる。
【0059】
また、圧力損失が低い領域においても高い分離性能を実現していることから、本発明においては低流速においても油滴の粗大化が効果的になされているといえ、従来技術で発生していたような低流速において油滴が充填物を迂回し粗大化がなされないため分離度が低くなってしまう、という事象の発生を抑制できていることがわかる。
【0060】
これに対して、比較例では、本発明のコアレッサを用いた場合とは全く異なった結果が得られた。
【0061】
比較例の結果を、
図7のグラフに重ねて示すと、
図9のとおりである。比較例1、2の分離度は共に、0.5前後に集中している。これは0.9以上を示した本発明のコアレッサの場合に比して非常に低い値である。これは、比較例においては、低流速領域において油滴が充填物を迂回し粗大化されないまま外系へ排出されているためであり、従来技術の課題を示している。
【0062】
また比較例1、2では、圧力損失が10kPaから20kPaの間の特定の範囲に集中していることから、一定の運転範囲において分離性能が得られることが判る。
【0063】
比較例3は、分離度が0.2程度であって、比較例1、2と比べてもはるかに低かった。
【0064】
以上の実験から、本発明のコアレッサを用いると、非常に高い分離度を示す油水分離が広い運転範囲において得られることが判る。
【0065】
以上の構成は、この発明を実施するための一形態であって、この発明は前述の構成のみに限定されるものではなく、その他の構成を採用することができる。
【0066】
例えば、金属メッシュ12の集合体を複数の金属メッシュ12の積層により構成する場合において、積層方向は複数方向であってもよい。また、金属メッシュ12を巻回して集合体を構成する場合においては、巻回したものを複数束ねて構成してもよい。
【0067】
金属メッシュ12には、親油性を増すために例えばシリカコートなどの適宜の処理をしてもよい。