(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1の実施形態の光記憶素子の構造を示す模式図である。
【
図2】アゾベンゼンの光異性化反応を説明するための模式図である。
【
図3】第1の実施形態の光記憶素子の光異性化反応を説明するための模式図である。
【
図4】第1の実施形態の光記憶素子のエネルギー準位を仮想的に示す図である。
【
図5】第2の実施形態の紫外線センサーの構造を説明するための図である。
【
図6】第3の実施形態の光記憶媒体の構造を説明するための図である。
【
図7】第3の実施形態の光記憶媒体に書き込みおよび読み出しをするための記録装置の概念図である。
【
図8】実施例1における異性化効率の光子エネルギー依存性を示すグラフである。
【
図9】比較例1における異性化効率の光子エネルギー依存性を示すグラフである。
【
図10】比較例2における異性化効率の光子エネルギー依存性を示すグラフである。
【
図11】比較例3における異性化効率の光子エネルギー依存性を示すグラフである。
【
図12】エタノール中のアゾベンゼンについて光異性化反応による初期化を説明するグラフである。
【
図13】カーボンナノチューブ中のアゾベンゼンについて光異性化反応による初期化を説明するグラフである。
【
図14】カーボンナノチューブ中のアゾベンゼンの吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図15】カーボンナノチューブ中のヨードアゾベンゼン(4’−ヨード−4−ジメチルアミノアゾベンゼン)の吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図16】カーボンナノチューブ中のスピロピラン(1,3,3−トリメチルインドリノ−6’−ニトロベンゾピリロスピラン)の吸収スペクトルを示すグラフである。
【
図17】アゾベンゼンの時定数を示すグラフである。
【
図18】ヨードアゾベンゼン(4’−ヨード−4−ジメチルアミノアゾベンゼン)の時定数を示すグラフである。
【
図19】スピロピラン(1,3,3−トリメチルインドリノ−6’−ニトロベンゾピリロスピラン)の時定数を示すグラフである。
【
図20】エタノール中のアゾベンゼンにおける光異性化反応の繰り返しについて測定したグラフである。
【
図21】カーボンナノチューブ中のアゾベンゼンにおける光異性化反応の繰り返しについて測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、具体的な実施形態について、光記憶素子および紫外線センサーおよび光記憶媒体を例に挙げて図を参照しつつ説明する。
【0015】
(第1の実施形態)
第1の実施形態について説明する。
【0016】
1.光記憶素子
図1は本実施形態の光記憶素子100の構造を示す模式図である。光記憶素子100は、カーボンナノチューブCNTと、アゾベンゼンABと、を有する。アゾベンゼンABは、カーボンナノチューブCNTの内部に配置されている。
【0017】
図2はアゾベンゼンABの光異性化反応を説明するための模式図である。
図2に示すように、アゾベンゼンABは、シス型とトランス型との間で光異性化反応を示す。トランス型のアゾベンゼンABは、特定の光子エネルギーの光hν1を受光することによりシス型のアゾベンゼンABに変化する。シス型のアゾベンゼンABは、特定の光子エネルギーの光hν2を受光することによりトランス型のアゾベンゼンABに変化する。特定の光子エネルギーの光hν1、hν2は、それぞれ、振動数ν1、ν2に対応する特定の波長をもつ。ここで、振動数ν1、ν2は特定の振動数ではなく、ある程度の幅を有する場合がある。
【0018】
図3は本実施形態の光記憶素子100の光異性化反応を説明するための模式図である。
図3に示すように、アゾベンゼンABは、カーボンナノチューブCNTの内部でシス型とトランス型との間で光異性化反応を生ずる。そのため、光記憶素子100のアゾベンゼンABは、カーボンナノチューブCNTの内部でシス型またはトランス型のいずれかの構造をとる。
【0019】
ここで、カーボンナノチューブCNTの内径は1.0nm以上3.0nm以下である。トランス型のアゾベンゼンABの長さは1.2nm程度である。シス型のアゾベンゼンABの長さは0.6nm程度である。
【0020】
2.カーボンナノチューブの内部のアゾベンゼン
アゾベンゼンは、通常の溶媒中においても光異性化反応を生ずる。カーボンナノチューブCNTの内部においては、アゾベンゼンABのπ電子はカーボンナノチューブCNTのπ電子と相互作用をする。また、アゾベンゼンABは、カーボンナノチューブCNTと上記以外の相互作用をする。そのため、アゾベンゼンのシス型およびトランス型のエネルギー準位が変化する。
【0021】
図4は、本実施形態の光記憶素子100のエネルギー準位を仮想的に示す図である。
図4において、破線はアゾベンゼンABの仮想的なエネルギー準位であり、実線はカーボンナノチューブCNTの内部のアゾベンゼンABの仮想的なエネルギー準位である。これらの比較のために、アゾベンゼンABの基底状態のエネルギー準位と、カーボンナノチューブCNTの内部のアゾベンゼンABの基底状態のエネルギー準位と、を揃えてある。
【0022】
図4に示すように、アゾベンゼンABをカーボンナノチューブCNTの内部に配置することにより、シス型とトランス型との間のポテンシャル障壁が非常に高くなっている。そのため、カーボンナノチューブCNTの内部では、シス型またはトランス型のアゾベンゼンABは、ポテンシャル障壁を容易に乗り越えることができない。つまり、カーボンナノチューブCNTの内部においては、シス型のアゾベンゼンABおよびトランス型のアゾベンゼンABは非常に安定である。その理由は、例えば、アゾベンゼンABのπ電子とカーボンナノチューブCNTのπ電子とが相互作用しているためであると考えられる。また、その他の相互作用が、ポテンシャル障壁を高くすることも考えられる。
【0023】
3.光異性化反応の波長依存性
光記憶素子100の光異性化反応には波長依存性がある。波長の異なる光に対して、光記憶素子100は異なる挙動を示す。つまり、光記憶素子100には(a)書き込みに有効な波長と、(b)読み出しに有効な波長と、(c)初期化に有効な波長と、が存在する。
【0024】
3−1.書き込みおよび読み出しおよび初期化
図3には、書き込み、読み出し、初期化に有効な光のエネルギーが示されている。書き込みには、例えば、3.9eV以上のエネルギーの光を用いればよい。読み出しには、例えば、3.8eVのエネルギーの光を用いればよい。初期化には、例えば、2.8eVのエネルギーの光を用いればよい。光子エネルギーは光の波長と一対一で対応している。つまり、波長の異なる3種類の光源を準備することにより、書き込みおよび読み出しおよび初期化について、好適に処理することができる。
【0025】
4.光記憶素子の製造方法
4−1.カーボンナノチューブの開環工程
まず、カーボンナノチューブCNTを開環させる。そのために、大気中でカーボンナノチューブCNTを加熱する。加熱温度は450℃以上650℃以下の程度である。加熱時間は30分以上3時間以下の程度である。
【0026】
4−2.カーボンナノチューブ薄膜の作製工程
開環したカーボンナノチューブCNTとコール酸ナトリウム水溶液とを混合する。その混合液中にカーボンナノチューブCNTを分散させる。その際に、超音波装置や遠心分離機を用いるとよい。
【0027】
その後、所定の溶媒に可溶性のメンブレンフィルターを用いてカーボンナノチューブCNTを濾過する。メンブレンフィルターの上に残留するカーボンナノチューブCNTを洗浄し、基板に貼り付ける。
【0028】
4−3.アゾベンゼンの内包工程
次に、気相化学反応法(昇華法)を用いてアゾベンゼン分子をカーボンナノチューブCNTに内包させる。カーボンナノチューブCNTを貼り付けた基板とアゾベンゼンとをガラス管の内部に真空封止する。そして、その状態で加熱処理する。加熱温度は50℃以上200℃以下の程度である。加熱時間は12時間以上150時間以下の程度である。
【0029】
4−4.洗浄工程
カーボンナノチューブCNTの外部のアゾベンゼンをトルエンを用いて洗浄する。
【0030】
5.本実施形態の効果
本実施形態の光記憶素子100においては、カーボンナノチューブCNTの内部でシス型のアゾベンゼンABおよびトランス型のアゾベンゼンABが非常に安定である。そのため、一度記憶した情報は好適に保持される。
【0031】
また、光記憶素子100の異性化反応には波長依存性がある。つまり、書き込みおよび読み出しおよび初期化に好適な波長の光が存在する。そのため、波長の異なる3種類の光を選択すれば、書き込みおよび読み出しおよび初期化といった操作をより確実に実施することができる。したがって、本実施形態の光記憶素子100は、記憶素子として優れた性能を有している。
【0032】
6.変形例
6−1.アゾベンゼン誘導体
本実施形態の光記憶素子100は、カーボンナノチューブCNTの内部にアゾベンゼンABを有する。アゾベンゼンABの代わりに、アゾベンゼンABを母体化合物とするその他の有機化合物を用いてもよい。つまり、アゾベンゼンABの代わりに、光異性化反応を生ずるアゾベンゼン誘導体を用いてもよい。
【0033】
6−2.スピロピラン
アゾベンゼンABの代わりにスピロピランを用いてもよい。スピロピランは、開環−閉環の光異性化反応を生ずる。スピロピランは、紫外光を受光するとメロシアニンに変化する。メロシアニンは、可視光を受光するか熱によりスピロピランに変化する。
【0034】
6−3.カーボンナノチューブ薄膜の作製工程
カーボンナノチューブCNTを分散させるために、その他の界面活性剤を用いてもよい。例えば、ドデシル硫酸ナトリウムを用いてもよい。もちろん、その他の界面活性剤を用いてもよい。
【0035】
6−4.組み合わせ
上記の変形例を自由に組み合わせてもよい。
【0036】
7.本実施形態のまとめ
本実施形態の光記憶素子100は、カーボンナノチューブCNTの内部にアゾベンゼンABを有する。アゾベンゼンABのπ電子はカーボンナノチューブCNTの表面のπ電子と相互作用する。また、その他の相互作用も生じる。そのため、カーボンナノチューブCNTの内部のアゾベンゼンABは、シス型とトランス型との間に大きなポテンシャル障壁を有する。したがって、カーボンナノチューブCNTの内部においてシス型のアゾベンゼンABとトランス型のアゾベンゼンABとはいずれも十分に安定である。
【0037】
(第2の実施形態)
第2の実施形態について説明する。
【0038】
1.紫外線センサー
図5は、本実施形態の紫外線センサー200の構造を説明するための図である。
図5に示すように、紫外線センサー200は、基板210と、薄膜220と、保護層230と、を有する。基板210は、例えば、ガラス基板である。基板210の材質は、薄膜220を貼り付けることができるものであれば、特に限定されない。薄膜220は、第1の実施形態の光記憶素子100を薄い膜状に成形したものである。保護層230は、紫外線を透過する材料であればよい。
【0039】
2.紫外線センサーの使用方法
2−1.紫外線の受光
紫外線センサー200は、紫外線を受光するとカーボンナノチューブCNTの内部のトランス型のアゾベンゼンABが、光異性化反応によりシス型のアゾベンゼンABに変化する。紫外線センサー200においては、一旦シス型のアゾベンゼンABに変化した後には、トランス型のアゾベンゼンABに自然に変化しにくい。ただし、シス型のアゾベンゼンABに吸収されやすい波長の光を受光した場合には、トランス型のアゾベンゼンに戻ることができる。
【0040】
2−2.紫外線の受光量の読取
紫外線センサー200が受光した紫外線量を読み取るために、例えば、3.5eVの光を紫外線センサー200に照射し、透過光量を測定する。これにより、紫外線センサー200がどの程度の紫外線を受光したかを判断することができる。
【0041】
また、紫外線センサー200が受光した後、シス型のアゾベンゼンABがトランス型のアゾベンゼンに自然に戻りにくい。そのため、紫外線センサー200は、紫外線センサー200に照射された紫外線の総量を測定することができる。
【0042】
3.変形例
3−1.波長選択材料
保護層230は、波長選択性のある材料であるとよい。例えば、UVAを吸収するとともにUVBおよびUVCを透過する材質が挙げられる。どのような波長の光を透過させるかについては適宜材料を選択すればよい。また、波長選択性のある材料を波長選択層として薄膜220と保護層230との間に設けてもよい。また、保護層を基板210と薄膜220との間に設けてもよい。もちろん、2層の保護層で薄膜220を挟んでもよい。
【0043】
3−2.初期化防止層
薄膜220と保護層230との間に光記憶素子100が初期化する波長を透過させない初期化防止層を設けるとよい。その場合には、紫外線センサー200の使用途中で、薄膜220中の光記憶素子100が初期化されないからである。初期化する場合には、基板210の側から初期化に適した波長の光を照射すればよい。もちろん、基板210は、初期化光を透過する材料である。
【0044】
(第3の実施形態)
第3の実施形態について説明する。
【0045】
1.光記憶媒体
図6は、本実施形態の光記憶媒体300の構造を説明するための図である。
図6に示すように、光記憶媒体300は、基板310と、第1誘電体層320と、記録層330と、第2誘電体層340と、反射層350と、保護層360と、を有する。
【0046】
基板310は記録層330等を支持する光透過性基板である。第1誘電体層320は、記録層330を保護するためのものである。記録層330は、レーザーにより書き込みおよび読み出しをするための層である。そのため、記録層330は、光を受光することにより状態を変化させる。より具体的には、記録層330のアゾベンゼンABは光異性化反応を生ずる。第2誘電体層340は、記録層330を保護するためのものである。第1誘電体層320および第2誘電体層340は、記録層330を挟んでいる。反射層350は、基板310から入射されるレーザーを反射して基板310からレーザーを出射させるためのものである。保護層360は、反射層350を保護するためのものである。
【0047】
記録層330は、第1の実施形態の光記憶素子100を層状にしたものである。そのため、記録層330のアゾベンゼンABは、光源から照射される光を受光することによりカーボンナノチューブCNTの内部でシス型とトランス型との間で光異性化反応を生ずる。例えば、3.8eVの光で記録層330の情報は読み出され、例えば、4.2eVの光で記録層330は書き込まれる。光記憶媒体300は、このように異なる波長の光により読み出しおよび書き込みを実施することができる。また、光により書き込まれた書き込み状態も、安定して保持される。そして、例えば、2.8eVの光を受光することにより、記録層330は初期化される。
【0048】
2.記録装置(レコーダー)
図7は、本実施形態の光記憶媒体300に書き込みおよび読み出しおよび初期化を実効するための記録装置400である。記録装置400は、光学系410と、ディスク支持部420と、を有する。光学系410は、レーザーを用いて光記憶媒体300への書き込みおよび読み出しおよび初期化を行う。ディスク支持部420は、光記憶媒体300を支持するとともに光記憶媒体300の回転および停止を行うためのものである。
【0049】
記録装置400の光学系410は、書き込み、読み出し、初期化のための3種類のレーザー光源を有する。これら3種類のレーザー光源は、互いに異なる波長を有する。従来においては、光源の種類は上記よりも少ない。本実施形態の記録装置400は、書き込み、読み出し、初期化を高い精度で行うことができる。
【実施例】
【0050】
1.異性化効率の光子エネルギー依存性
1−1.試料の作製
1−1−1.カーボンナノチューブの開環処理
10mg程度のカーボンナノチューブを石英ボードに載せ、その石英ボードごと石英管の内部に挿入した。石英管の内径は10mm程度であった。その石英管をセラミック電気管状炉(アサヒ理化製ARM−30M)に入れて大気中で加熱した。加熱温度は550℃であった。加熱時間は1時間であった。
【0051】
1−1−2.カーボンナノチューブ薄膜の作製
開環したカーボンナノチューブ10mgと1wt%のコール酸ナトリウム水溶液10mlを混合し、バス式超音波洗浄機(Branson社製1510)を用いて10分間程度分散した。その分散液にチップ式超音波ホモジナイザー(Branson社製Sonifier450)を用いて超音波を照射した。超音波の照射時間は20時間であった。ホモジナイザーの出力は10Wであった。その後、超遠心機(日立製70P−72)を用いて分散液を分散した。回転数は30000rpmであった。処理時間は4時間であった。超遠心機で処理した分散液から上澄み液80%を回収した。
【0052】
回収した上澄み液をアセトンに可溶なメンブレンフィルター(Millipore社製GSWP02500(孔径0.22μm、直径25mm))を用いて吸引濾過した。この吸引濾過によりカーボンナノチューブはフィルターの上に残留する。カーボンナノチューブの膜の色が所望の濃さになったところで大量の純水を注入し、カーボンナノチューブを覆っているコール酸ナトリウムを流した。カーボンナノチューブの膜を有するフィルターをアセトンに浸した状態で15時間程度放置した。フィルターがアセトンに溶け、カーボンナノチューブの膜のみがアセトンに浮くことになる。この膜を石英基板に貼り付け、ドライヤーで乾かすことによりカーボンナノチューブの膜を基板に貼り付けた。再びアセトンを基板に少しずつ滴下し、残留している可能性のあるフィルターを完全に除去した。
【0053】
1−1−3.アゾベンゼンの内包処理
気相化学反応法(昇華法)を用いてアゾベンゼン分子をカーボンナノチューブに内包した。カーボンナノチューブを貼り付けた基板とトランス型のアゾベンゼン(東京化成工業社製)の粉末をガラス管に挿入し、真空封止した。トランス型のアゾベンゼンの粉末は2mgであった。真空封止の圧力は1×10
-5torrであった。そのガラス管を電気炉(ISUZU社製ETR−11K)に入れて120℃で3日間だけ加熱処理した。その後、ガラス管の内部から基板を取り出した。
【0054】
余剰のアゾベンゼン分子を除去するため、基板の両面にトルエンを10秒間滴下した。吸収スペクトルに変化がなくなるまで、上記のトルエンによる洗浄を繰り返した。
【0055】
1−1−4.比較例の試料の作製
表1に示すように、比較例の試料を作製した。比較例1は、アゾベンゼンをエタノールに溶解させた試料である。比較例2は、アゾベンゼンをゼラチンに分散させた試料である。比較例3は、アゾベンゼンの多結晶膜である。
【0056】
[表1]
実施例1 azo/CNT
比較例1 azo/etha
比較例2 azo/gela
比較例3 azo film
【0057】
1−2.結果
図8は実施例1における異性化効率の光子エネルギー依存性を示すグラフである。ここでは、トランス型のアゾベンゼンからシス型のアゾベンゼンへの異性化反応の効率を示している。
図8の横軸は光子エネルギー(eV)である。
図8の縦軸は異性化効率である。
図8において実線はトランス型のアゾベンゼンの吸収スペクトルである。
【0058】
図8に示すように、3.9eV以上の領域においては、吸収スペクトルがそれほど大きくないにも関わらず、異性化効率が大きい。
【0059】
そのため、3.9eV以上の光子エネルギーの光を照射すれば、実施例1におけるトランス型アゾベンゼンをシス型アゾベンゼンに変化させることができる。つまり、3.9eV以上の光を書き込み用の光として採用することができる。そして、3.9eV未満の光を読み出し用の光として採用することができる。
【0060】
図9は比較例1における異性化効率の光子エネルギー依存性を示すグラフである。
図10は比較例2における異性化効率の光子エネルギー依存性を示すグラフである。
図11は比較例3における異性化効率の光子エネルギー依存性を示すグラフである。
図9から
図11までのいずれにおいても、吸収スペクトルと異性化効率とが対応している。つまり、比較例1から比較例3においては、書き込み用の光として好適な光子エネルギーが、測定領域に存在しない。
【0061】
2.初期化
2−1.エタノール中
図12は、エタノール中のアゾベンゼンについて光異性化反応による初期化を説明するグラフである。
図12の横軸は光子エネルギー(eV)である。
図12の縦軸は光の吸収量の変化量である。
図12には、破線、一点鎖線、実線が示されている。破線は、初期状態のスペクトルを示す。一点鎖線は、3.8eVの光を1時間継続して照射した場合(状態1)のスペクトルを示す。実線は、上記の状態1の状態から2.8eVの光を1時間継続して照射した場合(状態2)のスペクトルを示す。
【0062】
図12に示すように、3.8eVの光を受光することにより、トランス型のアゾベンゼン(初期状態)は、シス型のアゾベンゼン(状態1)に移行する。また、シス型のアゾベンゼン(状態1)は、2.8eVの光を受光することにより、トランス型のアゾベンゼン(状態2)に移行する。
【0063】
図12に示すように、初期状態のスペクトルと状態2のスペクトルとはほとんど等しい。また、初期状態のスペクトルと状態1のスペクトルとは明確に異なっている。そのため、3.8eVの光により一旦は光異性化反応が生じ、2.8eVの光によりエタノール中のアゾベンゼンは好適に初期化されたといえる。
【0064】
2−2.カーボンナノチューブ中
図13は、カーボンナノチューブ中のアゾベンゼンについて光異性化反応による初期化を説明するグラフである。
図13の横軸および縦軸は、
図12の横軸および縦軸と同様である。
図13の破線、一点鎖線、実線も、
図12の破線、一点鎖線、実線と同様である。
図13においても、
図12と同様の結果が得られた。
【0065】
3.時定数
光異性化する種々の材料について時定数を測定した。その際に、エタノール中およびカーボンナノチューブ中での時定数を測定した。
【0066】
図14は、カーボンナノチューブ中のアゾベンゼンの吸収スペクトルを示すグラフである。
図15は、カーボンナノチューブ中のヨードアゾベンゼン(4’−ヨード−4−ジメチルアミノアゾベンゼン)の吸収スペクトルを示すグラフである。
図16は、カーボンナノチューブ中のスピロピラン(1,3,3−トリメチルインドリノ−6’−ニトロベンゾピリロスピラン)の吸収スペクトルを示すグラフである。
図14から
図16の横軸は光子エネルギーである。
図14から
図16の縦軸は吸収の強度である。
図14から
図16において、2つの異性体における光の吸収スペクトルはある程度近い。
図14および
図15において、実線はシス型を破線はトランス型を示す。
図16において、実線はメロシアニン(MC)を破線はスピロラン(SP)を示す。
【0067】
図17は、アゾベンゼンの時定数を示すグラフである。
図18は、ヨードアゾベンゼン(4’−ヨード−4−ジメチルアミノアゾベンゼン)の時定数を示すグラフである。
図19は、スピロピラン(1,3,3−トリメチルインドリノ−6’−ニトロベンゾピリロスピラン)の時定数を示すグラフである。
図17から
図19の横軸は時間である。
図17から
図19の縦軸は光の吸収の変化量の絶対値である。
【0068】
表2は
図17から
図19までの時定数をまとめた表である。表2に示すように、カーボンナノチューブ中に光異性化物質を内包させることにより、光異性化物質の時定数は長くなる。また、カーボンナノチューブ中においては、アゾベンゼンの時定数は非常に大きい。これは、
図4の高いポテンシャル障壁を裏付ける結果である。
【0069】
[表2]
光異性化物質 エタノール中 CNT中
アゾベンゼン 177時間 417時間
ヨードアゾベンゼン 29秒 13.9時間
スピロピラン 17分 170分
【0070】
4.光異性化反応の繰り返し
He−Cdレーザー(金門光波社製IK5651R−G)から射出される波長325nm(光子エネルギー:3.81eV)と、波長442nm(光子エネルギー:2.74eV)と、の光をプリズムで分光し、それぞれの光をサンプルに照射した。また、波長325nmの光の一部を検出光として用いた。光検出器として光電子増倍管(浜松ホトニクス社製1P28)を用いた。
【0071】
波長325nmの光を試料に300秒間継続して照射し、波長442nmの光を試料に300秒間継続して照射した。波長の異なる光を交互に照射するサイクルを1サイクルとし、45サイクルにわたって透過光を測定した。透過光の測定間隔は3秒である。なお、45サイクルは27000秒間に相当する。
【0072】
図20はエタノール中のアゾベンゼンにおける光異性化反応の繰り返しについて測定したグラフである。
図20の横軸は時間である。
図20の縦軸は光の強度である。
図20に示すように、シス型のアゾベンゼンが多い状態と、トランス型のアゾベンゼンが多い状態と、が交互に繰り返し現れた。22000秒付近において、光異性化反応が生じなくなっている。これはエタノールが揮発したためである。
【0073】
図21はカーボンナノチューブ中のアゾベンゼンにおける光異性化反応の繰り返しについて測定したグラフである。
図21の横軸は時間である。
図21の縦軸は光の強度である。
図21に示すように、シス型のアゾベンゼンが多い状態と、トランス型のアゾベンゼンが多い状態と、が交互に繰り返し現れた。カーボンナノチューブ中のアゾベンゼンは固体である。そのため、上記のような溶媒の揮発により機能が失われるおそれがない。
【0074】
したがって、カーボンナノチューブ中のアゾベンゼンを紫外線センサーもしくは光記憶素子として用いる場合に、紫外線センサーもしくは光記憶素子は長寿命であると考えられる。
【0075】
5.実験のまとめ
5−1.書き込み光
図8に示すように、3.9eV以上の光子エネルギーに相当する波長の光を書き込み用の光として選択すればよい。例えば、4.3eVの光を選択することができる。エタノール中のアゾベンゼンでは、書き込みに適した波長の光は存在しない。
【0076】
5−2.読み出し光
図8に示すように、ある程度光を吸収しやすい3.8eV近傍の光子エネルギーに相当する波長の光を選択することができる。
【0077】
5−3.初期化光
図13に示すように、2.8eVの光子エネルギーに相当する波長の光を初期化用の光として選択すればよい。
【0078】
A.付記
第1の態様における光記憶素子は、カーボンナノチューブと、カーボンナノチューブの内部に配置されたアゾベンゼンまたはアゾベンゼン誘導体と、を有する。アゾベンゼンまたはアゾベンゼン誘導体が、カーボンナノチューブの内部でシス型またはトランス型のいずれかの構造をとるとともに、カーボンナノチューブの内部でシス型とトランス型との間で光異性化反応を生ずる。
【0079】
第2の態様における紫外線センサーは、カーボンナノチューブと、カーボンナノチューブの内部に配置されたアゾベンゼンまたはアゾベンゼン誘導体と、を有する。アゾベンゼンまたはアゾベンゼン誘導体が、カーボンナノチューブの内部でシス型またはトランス型のいずれかの構造をとるとともに、紫外線を受光することによりカーボンナノチューブの内部でシス型とトランス型との間で光異性化反応を生ずる。
【0080】
第3の態様における光記憶媒体は、光を受光することにより状態を変化させる記録層と、記録層を挟む第1誘電体層および第2誘電体層と、記録層を支持する基板と、を有する。記録層は、カーボンナノチューブと、カーボンナノチューブの内部に配置されたアゾベンゼンまたはアゾベンゼン誘導体と、を有する。アゾベンゼンまたはアゾベンゼン誘導体が、カーボンナノチューブの内部でシス型またはトランス型のいずれかの構造をとるとともに、光源から照射される光を受光することによりカーボンナノチューブの内部でシス型とトランス型との間で光異性化反応を生ずる。