特許第6957033号(P6957033)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6957033
(24)【登録日】2021年10月8日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】ペプチド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/29 20060101AFI20211021BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20211021BHJP
   C07K 14/415 20060101ALI20211021BHJP
   A23J 3/16 20060101ALI20211021BHJP
   A23J 3/34 20060101ALI20211021BHJP
   A23L 33/18 20160101ALI20211021BHJP
   A23L 33/185 20160101ALI20211021BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20211021BHJP
   A61P 1/14 20060101ALI20211021BHJP
   A61P 5/00 20060101ALI20211021BHJP
【FI】
   C12N15/29ZNA
   C07K7/06
   C07K14/415
   A23J3/16
   A23J3/34
   A23L33/18
   A23L33/185
   A61K38/08
   A61P1/14
   A61P5/00
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-503338(P2018-503338)
(86)(22)【出願日】2017年2月28日
(86)【国際出願番号】JP2017007870
(87)【国際公開番号】WO2017150548
(87)【国際公開日】20170908
【審査請求日】2020年1月27日
(31)【優先権主張番号】特願2016-36599(P2016-36599)
(32)【優先日】2016年2月29日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、農林水産省、農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業委託事業、産業技術力強化法第19条に係る特許出願。
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大日向 耕作
(72)【発明者】
【氏名】中戸 絢也
(72)【発明者】
【氏名】青木 隼人
(72)【発明者】
【氏名】岩倉 浩
【審査官】 福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】 特表2012−502666(JP,A)
【文献】 特表2010−524471(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/129642(WO,A1)
【文献】 特開2005−082489(JP,A)
【文献】 American Journal of Physiology - Endocrinology and Metabolism,2012年,Vol.302,E433-E440
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
A23L 33/00−33/29
CA/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N末端にアミノ酸配列NKNPFLFGSNR(配列番号1)を有するペプチドを有効成分とするグレリン分泌促進剤。
【請求項2】
前記ペプチドが大豆のベータコングリシニンタンパク質のトリプシン消化物に由来する、請求項1に記載のグレリン分泌促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なペプチドに関する。
【背景技術】
【0002】
グレリンは、食欲促進作用と成長ホルモン分泌促進作用を有する消化管ホルモンである。超高齢化社会を迎える我が国では、加齢に伴う食欲不振や成長ホルモン分泌減少の改善に寄与する、グレリン分泌促進物質の開発が望まれている。
【0003】
特許文献1には、グレリン受容体を活性化する低分子ペプチドが記載されている。特許文献2には、大豆タンパク質由来の成長ホルモン分泌促進組成物が記載されている。しかしながら、グレリンの分泌を促進する食品由来のペプチドは知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-082489
【特許文献2】特開2006-347946
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、グレリンの分泌促進作用を有する新規なペプチド、並びに、該ペプチドを含む医薬及び食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意研究を重ねてきた。その結果、ベータコングリシニンタンパク質のトリプシン消化物中に、グレリンの分泌促進作用を有するペプチドを見出した。本発明はかかる知見に基づいて、さらに検討を重ねて完成されたものである。
【0007】
すなわち、本発明は以下の態様を包含する。
【0008】
項1、N末端にアミノ酸配列NKNPFLFGSNR(配列番号1)を有するペプチド。
【0009】
項2、大豆のベータコングリシニンタンパク質のトリプシン消化物に由来する、項1に記載のペプチド。
【0010】
項3、項1または2に記載のペプチドを有効成分とする医薬組成物。
【0011】
項4、項1または2に記載のペプチドを有効成分とするグレリン分泌促進剤。
【0012】
項5、項1または2に記載のペプチドを含有する食品。
【0013】
項6、項1または2に記載のペプチドを添加することを特徴とする食品。
【0014】
項7、食欲促進及び/または成長ホルモンの分泌促進のための、項5または6に記載の食品。
【0015】
項8、項1または2に記載のペプチドを必要とする患者または予備群に投与する工程を含む、食欲を促進及び/または成長ホルモンの分泌を促進する方法。
【0016】
項9、食欲を促進及び/または成長ホルモンの分泌を促進するための、項1または2に記載のペプチド。
【0017】
項10、食欲を促進及び/または成長ホルモンの分泌を促進するための医薬または食品を製造するための、項1または2に記載のペプチドの使用。
【発明の効果】
【0018】
本発明のペプチドを有効成分とする医薬組成物、食品は、グレリンの分泌促進作用に基づき、食欲促進や成長ホルモンの分泌促進の作用を発揮する。これらの作用に基づき、食欲不振、筋肉量低下、ロコモティブシンドロームの予防や治療に好適に使用することができる。本発明のペプチドは、副作用が低く長期の服用に適したものである。また、本発明の医薬組成物、食品は、経口投与で有効である。
【0019】
本発明のペプチドは、大豆ベータコングリシニンタンパク質の酵素消化物であるので、副作用は問題にならない。また、大豆ベータコングリシニンタンパク質は、大豆中に多量に含まれるので、低コストで製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】酵素消化物がグレリン分泌に与える影響。
図2】ペプチドがグレリン分泌に与える影響。
図3】ペプチドがグレリン分泌に与える影響。
図4】グレリン分泌量増加の作用機構の検証結果。
図5】グレリン分泌促進の作用機序の検証結果。
図6】経口投与による摂食行動への影響。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明のペプチドは、N末端にNKNPFLFGSNR(配列番号1)の11残基のアミノ酸配列を有するペプチドである。
【0022】
本発明のペプチドは、好ましくは11〜50アミノ酸残基、より好ましくは11〜25アミノ酸残基、さらに好ましくは11〜15アミノ酸残基、特に好ましくは11、12、13若しくは14アミノ酸残基を有する。配列番号1に示すアミノ酸配列のうち、1〜10番目のアミノ酸配列、1〜9番目のアミノ酸配列、1〜8番目のアミノ酸配列、1〜7番目のアミノ酸配列、1〜6番目のアミノ酸配列、1〜5番目のアミノ酸配列、1〜4番目のアミノ酸配列及び1〜3番目のアミノ酸配列からなるペプチドも本発明の別の態様として挙げられる。
【0023】
本発明のペプチドとしては、NKNPFLFGSNR(配列番号1)のアミノ酸配列を有するペプチド、NKNPFLFGSNRFETLFKNQYGR(配列番号2)のアミノ酸配列を有するペプチドが包含される。
【0024】
ペプチドを構成するアミノ酸は、L体のアミノ酸、D体のアミノ酸或いはDL体のアミノ酸(D体とL体が混合されたアミノ酸であればラセミ体といずれか一方のエナンチオマーが過剰なアミノ酸のいずれも含まれる)のいずれを使用することができる。好ましくはL体のアミノ酸のみ、或いはD体のアミノ酸のみからなるペプチド、特にL体のアミノ酸のみからなるペプチドが好ましい。
【0025】
また、本発明で使用するペプチドが2以上の不斉炭素を含む場合、各エナンチオマーないしジアステレオマー或いはこれらの任意の比率の混合物のいずれの形態でもあり得る。
エナンチオマーまたはジアステレオマーの分離は、通常のカラムで行う方法、光学活性カラムを使用したり、光学活性基を導入して誘導体の形態で光学分割した後、その光学活性基を除去する方法や、光学活性の酸または塩基との塩を形成して光学分割する方法などの公知のいずれの方法を用いることができる。
【0026】
ペプチドは、修飾を有することができる。ペプチドのアミノ末端(N末端)は、遊離のアミノ基(NH−)であっても、アセチル基(CHCO−)などの修飾を有するものであってもよい。ペプチドのカルボキシ末端(C末端)は、遊離のカルボキシル基(−COOH)であっても、アミド基などの修飾を有するものであってもよい。ペプチドのアミノ酸残基は、無修飾ものであっても、リン酸基、糖鎖などの修飾を有するものであってもよい。
【0027】
本発明のペプチドは、塩(酸付加塩又は塩基塩)であってもよい。酸付加塩としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸、過塩素酸などの無機塩、クエン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、リンゴ酸、酒石酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、メタンスルホン酸、トリフルオロ酢酸などの有機酸の塩が挙げられる。塩基塩としては、ナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属塩、カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属塩などが挙げられる。
【0028】
本発明のペプチドは、溶媒和物であってもよい。溶媒和物としては、水(水和物の場合)、メタノール、エタノール、イソプロパノール、酢酸、テトラヒドロフラン、アセトン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、アセトアミド、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジメトキシエタンなどの溶媒和物が挙げられる。
【0029】
本発明のペプチドは、天然のタンパク質ないしポリペプチドの加水分解により得ることもでき、化学合成により得ることもできる。
【0030】
例えば、本発明のペプチドは、大豆の主要貯蔵タンパク質ベータコングリシニン(β-conglycinin、β-CG)タンパク質の、トリプシンの加水分解により得ることができる。
【0031】
トリプシンは、ヒトなどの哺乳類の場合は膵臓由来の酵素であり、公知のタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)である(EC3.4.21.4)。トリプシンは、我が国において食品添加物として使用することができる。トリプシンは、試薬グレード、食品添加物グレードなどの市販されているものを使用することができる。
【0032】
トリプシンにより加水分解をする基質は、大豆β-CGタンパク質を含むものであればとくに限定されない。例えば、大豆それ自体、大豆から大豆油を抽出した搾りかす(ミール、脱脂大豆ともいう。)、精製したベータコングリシニンタンパク質などが挙げられる。
【0033】
トリプシンによる加水分解は、本発明のペプチドが得られる条件で行う。反応温度は30〜70℃、30〜40℃、40〜70℃、50〜65℃などから適宜選択することができる。反応時間は、30分〜48時間程度、1〜10時間程度、2〜8時間程度などから適宜選択することができる。反応を行うpHは、pH6.5〜8.5程度、pH7〜8程度から適宜選択することができる。一つの好適な態様においては、30〜40℃程度の温度、pH6.5〜8.5(特に、pH7.5程度)の条件下で、2〜8時間程度反応させることができる。
【0034】
加水分解が過度に行われる条件下では、本発明のペプチドが得られない場合がある。
【0035】
必要に応じて、トリプシンが失活する温度に加熱(例えば、80℃を超える温度で5〜60分程度での加熱)することで、トリプシンを失活させる。
【0036】
加水分解の反応生成物は、そのまま使用してもよく、精製により有効成分のペプチドを分離して使用してもよい。
【0037】
また本発明のペプチドは、ペプチド合成法で取得することもできる。即ち、ペプチド合成に通常用いられる方法である液相法または固相法で、反応性カルボキシル基を有する原料と、反応性アミノ基を有する原料とをHBTU等の活性エステルを用いた方法や、カルボジイミドなどのカップリング剤を用いた方法等のペプチド合成において通常の方法により縮合させることができる。生成する縮合物が保護基を有する場合、その保護基を除去することによっても製造し得る。
【0038】
この反応工程において反応に関与すべきでない官能基は、保護基により保護される。アミノ基の保護基としては、例えばベンジルオキシカルボニル(CBZ)、t−ブチルオキシカルボニル(Boc),9−フルオレニルメチルオキシカルボニル(Fmoc)等が挙げられる。カルボキシル基の保護剤としては例えばアルキルエステル、ベンジルエステル等を形成し得る基が挙げられるが、固相法の場合は、C末端のカルボキシル基はクロロトリチル樹脂、クロルメチル樹脂、オキシメチル樹脂、p−アルコキシベンジルアルコール樹脂等の担体に結合している。縮合反応は、カルボジイミド等の縮合剤の存在下にあるいはN−保護アミノ酸活性エステルまたはペプチド活性エステルを用いて実施する。
【0039】
縮合反応終了後、保護基は除去されるが、固相法の場合はさらにペプチドのC末端と樹脂との結合を切断する。更に、本発明のペプチドは通常の方法に従い精製される。例えばイオン交換クロマトグラフィー、逆相液体クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等が挙げられる。合成したペプチドの合成はエドマン分解法でC−末端からアミノ酸配列を読み取るプロテインシークエンサー、GC−MS等で分析される。
【0040】
本発明のペプチドは、酵素法によっても合成することが可能である(WO2003/010307参照)。
【0041】
本発明のペプチドは、グレリンの分泌を促進する作用を有する。グレリンは、下記の構造を有する生体由来のペプチドである。具体的には、アミノ酸残基28基からなり、3番目のセリン残基がn−オクタン酸で修飾されている。グレリンは、食欲促進作用と成長ホルモン分泌促進作用を示す。
【0042】
【化1】
【0043】
従って、グレリンの分泌を促進する本発明のペプチドは、食欲促進作用(摂食促進作用)、成長ホルモンの分泌促進作用等のグレリンの分泌促進に基づく作用をも有する。食欲促進作用(摂食促進作用)に基づいて、本発明のペプチドは、高齢者における食欲不振の治療のためなどに使用することができる。成長ホルモンの分泌促進作用に基づいて、筋肉量低下の予防、ロコモティブシンドローム(ロコモ)の予防若しくは治療のためなどに使用することができる。
【0044】
本発明のペプチドがグレリンの分泌量を促進することは、当業者に公知の手法で評価をすることができる。例えば、文献:Iwakura H et.al. Endocrinology. 2010 Jun;151(6):2940-5に記載のグレリン分泌細胞MGN3-1に試験物質を添加して、所定時間培養後に回収した培地中のグレリンを定量することで、グレリンの分泌量を測定することができる。グレリンの定量は、ELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbentAssay)などの免疫化学的手法により行うことができる。
【0045】
本発明のペプチドは、医薬組成物または食品(食品組成物)として提供されうる。
【0046】
本発明のペプチドまたはこれを含有する製品の投与経路は特に限定されるものではなく、経口投与、非経口投与、直腸内投与のいずれを採用することも可能であり、経口的あるいは非経口的に投与することができる。中でも、効果が高いとの観点から、経口投与が好ましい。
【0047】
本ペプチドの投与量は、投与方法、投与される者の状態や年齢等により異なるが、成人1日あたり通常は0.01mg/kg〜500mg/kg、好ましくは0.05mg/kg〜100mg/kg、より好ましくは0.1〜30mg/kgである。本発明のペプチド(有効成分)は、製剤用担体と混合して調製した医薬組成物の形で投与することができる。製剤用担体としては、製剤分野において常用され、かつ本発明のペプチドと反応しない物質が用いられる。
【0048】
本発明のペプチドはそれ自体医薬または食品として利用することができ、或いは単独で、もしくは適当な無毒性の経口摂取用担体、希釈剤または賦形剤とともに、タブレット(素錠、糖衣錠、発泡錠、フィルムコート錠、チュアブル錠など)、カプセル、トローチ、粉末、細粒剤、顆粒剤、液剤、懸濁液、乳濁液、ペースト、クリーム、注射剤(アミノ酸輸液、電解質輸液等の輸液に配合する場合を含む)、或いは腸溶性の錠剤、カプセル剤、顆粒剤などの徐放性製剤などの食品用もしくは医薬用の製剤にすることが可能である。食品中のペプチドの含有量は適宜選択が可能であるが一般に、0.01〜100重量%の範囲である。
【0049】
具体的には、医薬または食品に加えることができる製剤用担体ないし経口摂取用担体、希釈剤または賦形剤のような物質の例として乳糖、ブドウ糖、マンニット、デキストリン、シクロデキストリン、デンプン、蔗糖、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、合成ケイ酸アルミニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルデンプン、カルボキシメチルセルロースカルシウム、イオン交換樹脂、メチルセルロース、ゼラチン、アラビアゴム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、軽質無水ケイ酸、ステアリン酸マグネシウム、タルク、トラガント、ベントナイト、ビーガム、酸化チタン、ソルビタン脂肪酸エステル、ラウリル硫酸ナトリウム、グリセリン、脂肪酸グリセリンエステル、精製ラノリン、グリセロゼラチン、ポリソルベート、マクロゴール、植物油、ロウ、流動パラフィン、白色ワセリン、フルオロカーボン、非イオン性界面活性剤、プロピレングルコール、水等が挙げられる。
【0050】
剤型としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、懸濁剤、坐剤、軟膏、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤、吸入剤、注射剤等が挙げられる。これらの製剤は常法に従って調製される。尚、液体製剤にあっては、用時、水又は他の適当な溶媒に溶解または懸濁する形であってもよい。また錠剤、顆粒剤は周知の方法でコーティングしてもよい。注射剤の場合には、本発明のペプチドを水に溶解させて調製されるが、必要に応じて生理食塩水あるいはブドウ糖溶液に溶解させてもよく、また緩衝剤や保存剤を添加してもよい。
【0051】
これらの製剤は、本発明のペプチドを0.01%〜100重量%、好ましくは1〜90重量%の割合で含有することができる。これらの製剤はまた、治療上価値のある他の成分を含有していてもよい。
【0052】
経口投与用の固形製剤を製造するには、有効成分と賦形剤成分例えば乳糖、澱粉、結晶セルロース、乳酸カルシウム、無水ケイ酸などと混合して散剤とするか、さらに必要に応じて白糖、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドンなどの結合剤、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウムなどの崩壊剤などを加えて湿式又は乾式造粒して顆粒剤とする。錠剤を製造するには、これらの散剤及び顆粒剤をそのまま或いはステアリン酸マグネシウム、タルクなどの滑沢剤を加えて打錠すればよい。これらの顆粒又は錠剤はヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、メタクリル酸−メタクリル酸メチルポリマーなどの腸溶剤基剤で被覆して腸溶剤製剤、あるいはエチルセルロース、カルナウバロウ、硬化油などで被覆して持続性製剤とすることもできる。また、カプセル剤を製造するには、散剤又は顆粒剤を硬カプセルに充填するか、有効成分をそのまま或いはグリセリン、ポリエチレングリコール、ゴマ油、オリーブ油などに溶解した後ゼラチン膜で被覆し軟カプセルとすることができる。
【0053】
経口投与用の液状製剤を製造するには、有効成分と白糖、ソルビトール、グリセリンなどの甘味剤とを水に溶解して透明なシロップ剤、更に精油、エタノールなどを加えてエリキシル剤とするか、アラビアゴム、トラガント、ポリソルベート80、カルボキシメチルセルロースナトリウムなどを加えて乳剤又は懸濁剤としてもよい。これらの液状製剤には所望により矯味剤、着色剤、保存剤などを加えてもよい。
【0054】
本発明に係るペプチドを添加、配合して調製しうる食品の具体的形態としては、例えば、飲料類(コーヒー、ココア、ジュース、清涼飲料、ミネラル飲料、茶飲料、緑茶、紅茶、烏龍茶、乳飲料、乳酸菌飲料、ヨーグルト飲料、炭酸飲料、その他ノンアルコール飲料、アルコール飲料など)、菓子類(ハードキャンディー、ガム、グミ、ゼリー、プディング、ムース、ケーキ、キャンデー、クッキー、クラッカー、ビスケット、チョコレート、氷菓(アイスクリーム、アイスキャンディ、シャーベット、かき氷など)など)、ふりかけ、ドレッシング、調味料、大豆加工食品(豆腐、味噌、醤油、湯葉、きな粉、納豆など)、食肉加工食品(ハンバーグ、ミートローフ、ミートボール、つくねなど)、魚肉加工食品(かまぼこ、ちくわなど)、レトルト食品、ゼリー状食品(ゼリー、寒天、ゼリー状飲料等)、等を挙げることができる。本発明のペプチドを添加・配合して調製しうる食品としては、いわゆる健康食品、機能性食品、機能性表示食品、栄養補助食品、サプリメント、特定保健用食品、病者用食品・病者用組合せ食品(厚生労働省、特別用途食品の一種)又は高齢者用食品(厚生労働省、特別用途食品の一種)としてもよく、素錠、フィルムコート錠、糖衣錠、顆粒、粉末、タブレット、カプセル(ハードカプセルとソフトカプセルとのいずれも含む。)、チュアブルタイプ、シロップタイプ、ドリンクタイプ等とすることもできる。本発明に係るペプチドを添加・配合した食品の調製は、それ自体公知の方法で行うことができる。
【実施例】
【0055】
次に実施例により本発明を更に具体的に説明する。しかし下記の実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0056】
<方法>
(グレリン分泌活性の評価)
グレリン分泌細胞MGN3-1を96ウェルプレートに1 x 105 cells/well播種し、培地中24時間培養した。培養後、細胞をDPBSで洗浄し、試験物質100μL(Buffer:50 μM sodium octanoate/DMEM)を添加した。なお、試験物質を添加しないBufferのみをcontrolとした。さらに4時間培養をした後に、培地を回収し遠心分離処理により上清(supernatant)を得た。上清に1N HClを10μL添加し、-80℃で保存をした。
【0057】
試料中のグレリンの濃度をELISA法(Bertin Pharma社製、Ghrelin (Acylated) EIAKit A05117)により評価した。
【0058】
<製造例>
(酵素消化物)
精製したβコングリシニン(β-CG)タンパク質と消化酵素とを、酵素:β-CG=1:100(重量比、β-CGの終濃度:20 mg/ml)で混合し、添付のバッファー中で反応を行った。
【0059】
使用した酵素と反応条件は以下の通りとした:
(i)トリプシン(SIGMA社製、T1426);反応温度:37℃、反応時間:5時間、反応pH:7.5。
【0060】
上記の反応時間の経過後、試料をボイル(100℃、10分間)し、酵素反応を停止した。
【0061】
(ペプチド)
定法により、ペプチドNKNPFLFGSNR(配列番号1;実施例1)、ペプチドNKNPFLFGSNRFETLFKNQYGR(配列番号2;実施例2)、ペプチドFETLFKNQYGR(配列番号3;比較例1)ペプチドHKNKNPFLFGSNR(配列番号4;比較例2)及びNPFLFGSNR(配列番号5;比較例3)を合成した。
【0062】
(統計解析)
試験により得られたたデータを、試行数nの平均(Mean)と標準誤差(Standard error of the mean、SEM)との和(Mean±SEM)で表した。2群間の比較にはt検定を用いた。3群間以上の比較には、データを1方向ANOVAにより解析し、引き続いて多重比較のためのTukey-Kramer試験を行った。p<0.05の場合(図中、”*”)に、有意差ありと判定した。
【0063】
<試験例>
試験例1:β-CGのトリプシン消化物
β-CGのトリプシン消化物(β-CG Trypsin Digest)について、グレリン分泌細胞MGN3-1を用いて、グレリン分泌に与える影響を評価した。
【0064】
結果を図1に示す。図中、横軸「Ghrelin (% of control)」は、対照(Control, 試験物質を添加しないBufferのみ)をMGN3-1に添加した場合のグレリン分泌量の測定値に対する割合(質量百分率)を示す。
【0065】
β-CGのトリプシン消化物(β-CG Trypsin Digest)は、グレリン分泌量を増加させる、グレリン分泌を促進する活性を有することが明らかとなった。
【0066】
試験例2:ペプチド(1)
β-CGのトリプシン消化物に含まれるペプチドNKNPFLFGSNRFETLFKNQYGR(配列番号2)について、試験例1と同様にしてグレリン分泌に与える影響を評価した。
【0067】
さらに、ペプチドNKNPFLFGSNRFETLFKNQYGRのN末端側及びC末端側のそれぞれに対応する、ペプチドNKNPFLFGSNR(配列番号1)及びペプチドFETLFKNQYGR(配列番号3)についても、グレリン分泌に与える影響を評価した。
【0068】
結果を図2に示す(n=3-4)。ペプチドNKNPFLFGSNRFETLFKNQYGR(配列番号2)は、1000μMで強力なグレリン分泌を促進する活性有することが明らかとなった。また、ペプチドNKNPFLFGSNR(配列番号1)は、1μM以上で強力なグレリン分泌を促進する活性を有することが明らかとなった。
【0069】
試験例3:ペプチド(2)
ペプチドHKNKNPFLFGSNR(配列番号4)及びNPFLFGSNR(配列番号5)についても、グレリン分泌に与える影響を評価した。また、対象としてグレリンの分泌を促進することが知られている100μMノルアドレナリン(Noradrenaline)についても試験を行った。
【0070】
結果を図3に示す(n=3-4)。ペプチドNKNPFLFGSNR(配列番号1)の結果との対比から、NKNPFLFGSNRの11残基がグレリンの分泌促進において特に重要であることが明らかとなった。
【0071】
参考試験例
試験例2及び3で用いた各ペプチドが、β-CGのトリプシン消化物に含まれることを質量分析法により確認した。結果を表1に示す。表中、RTは保持時間(retention time)を示す。
【0072】
【表1】
【0073】
試験例4:グレリン分泌量増加の作用機構
本発明のペプチドによる作用が、グレリンの合成を促進するか、すでに合成されたグレリンの分泌を促進するのかを検証した。試験物質としては、β-CGのトリプシン消化物及びペプチドNKNPFLFGSNR(配列番号1)を用いた。
【0074】
培養液中のグレリンについては、試験例1及び2と同様にして評価した。
【0075】
細胞中のグレリンについては、培地を除去した後、グレリン分泌細胞MGN3-1にRIPA Buffer (ナカライテスク社製)を添加して溶解し、溶解液を遠心分離することにより上清(supernatant)を得た。上清に1N HClを10μL添加し、-80℃で保存をした。試料中のグレリンの濃度は試験例1及び2と同様にして評価した。
【0076】
結果を図4に示す(n=4-5)。図4Aには培養液中のグレリンの定量結果を示す。図4Bには細胞中のグレリンの定量結果を示す。細胞中のグレリンは増加していないため、本発明のペプチドはグレリン合成促進ではなく分泌を亢進する作用を有することが明らかとなった。
【0077】
試験例5:作用機構
グレリンの分泌促進に至る作用機構を検証した。ペプチドNKNPFLFGSNR(配列番号1)が、細胞内のcAMP濃度及び細胞内カルシウムイオン濃度([Ca2+])に与える影響を評価した。
【0078】
細胞内cAMP濃度の測定については、グレリン分泌細胞MGN3-1を96ウェルプレートに1 x 105 cells/well播種し、培地中で24時間培養した。培養後、細胞をDPBSで洗浄し、試験物質45μL(Buffer:0.5 mM IBMXを含むKrebs-Ringer-HEPES buffer)を添加した。さらに30分間培養をした後に、細胞内のcAMPをHitHunter cAMP Assay for small molecules (DiscoveRx社製)を用いて定量した。
【0079】
細胞内カルシウムイオン濃度については、文献:Kagebayashi T et.al. Mol. Nutr. Food Res. 2012 Sep;56(9):1456-63に記載の方法に従って測定した。
【0080】
結果を図5に示す。図5Aは、細胞内のcAMPの定量結果を示す。図5Bは、細胞内カルシウムイオン濃度の変化(Δ[Ca2+]i)を示す。ノルアドレナリンは、細胞内のcAMP濃度及び細胞内カルシウムイオン濃度の増加を介して、グレリンの分泌を促進することが知られている。Gs型の三量体Gタンパク質の関与が知られている。これに対して、本発明のペプチドは、細胞内のcAMP濃度及び細胞内カルシウムイオン濃度の変化を介さずにグレリンの分泌を促進するため、既知の経路とは異なる経路を介していると考えられる。
【0081】
試験例6:生体への投与
マウス(ddYマウス、雄、34〜42g)にβ-CGのトリプシン消化物(30 mg/kg)及びペプチドNKNPFLFGSNR(配列番号1)(0.3 mg/kg)を投与して、摂食行動への影響を評価した。
【0082】
単回投与については、生理食塩水に溶解したβ-CGのトリプシン消化物及びペプチドNKNPFLFGSNR(配列番号1)をマウスに経口投与した後、予め秤量した飼料(CE-2、日本クレア社製)を与え、6時間後に飼料重量を測定することにより摂食量(Food intake (g/6 hrs))を算出した。
【0083】
混餌投与については、粉末飼料(CE-2、日本クレア社製)にペプチドNKNPFLFGSNR(配列番号1)を混合した(飼料中0.0003%, 0.0003% of diet)。予め秤量しておいた混合飼料をマウスに与え、24時間後に飼料重量を測定することにより摂食量(Food intake (g/24 hrs))を算出した。
【0084】
結果を図6に示す。図6Aは単回投与の結果を示す(n=5-6又はn=10-12)。図6Bは混餌投与の結果を示す(n=5-6又はn=10-12)。β-CGのトリプシン消化物及びペプチドNKNPFLFGSNR(配列番号1)は、経口投与によりマウスの摂食を促進することが明らかとなった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]