【文献】
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【文献】
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【文献】
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【文献】
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(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
このため、本発明は、炭素繊維と樹脂との界面接着性を向上させた炭素繊維強化プラスチック及びその製造に使用することができる炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記した目的を達成するために鋭意研究を重ねてきた結果、樹脂粒子又は無機粒子を含有するコロイド溶液中で、炭素繊維を正極又は負極として電気泳動を行うことで、極めて短時間の間に炭素繊維に多量の樹脂粒子を吸着させることができ、これにより樹脂との界面接着性を向上させることができることを見出した。本発明者らは、以上の知見をもとにさらに研究を重ね、本発明を完成した。即ち、本発明は、以下の項1〜項16に示す炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液、粒子吸着炭素繊維、粒子吸着炭素繊維の製造方法、炭素繊維強化プラスチック、吸着粒子量制御方法及び界面接着性制御方法に係る。
【0009】
項1. 炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液であって、
(1)樹脂粒子、非イオン性界面活性剤、電解質及び水を含有する、
(2)樹脂粒子、ラジカル重合開始剤、及び水を含有する、又は
(3)固体状の無機粒子、電解質及び水を含有する、
炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液。
項2. 前記樹脂粒子が熱可塑性樹脂粒子である、項1に記載の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液。
項3. 前記熱可塑性樹脂粒子が、アミド結合含有モノマーを含むモノマーの重合体粒子である、項2に記載の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液。
項4. 前記熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径が0.02〜0.5μmである、項2又は3に記載の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液。
項5. 前記熱可塑性樹脂粒子がポリアミド系樹脂粒子である、項2に記載の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液。
項6. 前記ポリアミド系樹脂粒子がナイロン粒子である、項5に記載の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液。
項7. 炭素繊維の表面に熱可塑性樹脂粒子が吸着している、粒子吸着炭素繊維。
項8. 前記熱可塑性樹脂粒子が、アミド結合含有モノマーを含むモノマーの重合体粒子である、項7に記載の粒子吸着炭素繊維。
項9. 前記熱可塑性樹脂粒子の平均粒子径が0.02〜0.5μmである、項7又は8に記載の粒子吸着炭素繊維。
項10. 前記熱可塑性樹脂粒子がポリアミド系樹脂粒子である、項7に記載の粒子吸着炭素繊維。
項11. 前記ポリアミド系樹脂粒子がナイロン粒子である、項10に記載の粒子吸着炭素繊維。
項12. 粒子吸着炭素繊維の製造方法であって、
項1〜6のいずれか1項に記載の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液中で炭素繊維を正極又は負極として電圧を印加して電気泳動を行う工程
を備える、製造方法。
項13. 項7〜11のいずれか1項に記載の粒子吸着炭素繊維が母材の樹脂中に含有されている、炭素繊維強化プラスチック。
項14. 前記粒子吸着炭素繊維中の樹脂粒子を構成する樹脂と、前記母材の樹脂とが同一又は類似の樹脂である、項13に記載の炭素繊維強化プラスチック。
項15. 粒子吸着炭素繊維の表面に吸着する粒子の量を制御する方法であって、
項1〜6のいずれか1項に記載の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液中で炭素繊維を正極又は負極として電圧を印加する際に、印加する電圧の大きさを制御することにより前記炭素繊維に吸着する前記粒子の量を制御する、制御方法。
項16. 炭素繊維の樹脂との界面接着性を制御する方法であって、
項1〜6のいずれか1項に記載の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液中で炭素繊維を正極又は負極として電圧を印加する際に、印加する電圧の大きさを制御して前記炭素繊維に吸着する前記粒子の量を制御することにより、前記炭素繊維の樹脂との界面接着性を制御する、制御方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、(1)樹脂粒子、非イオン性界面活性剤、電解質及び水を含有する、(2)樹脂粒子、ラジカル重合開始剤、及び水を含有する、又は(3)無機粒子、電解質及び水を含有する、炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液中に炭素繊維を正極又は負極として電気泳動を行うことで、極めて短時間の間に炭素繊維に多量の粒子を吸着させることができ、これにより樹脂との界面接着性を向上させることができる。また、本発明の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液を用いて粒子吸着炭素繊維を製造した場合、炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液は樹脂粒子、又は固体状の無機粒子を用い、かつ溶媒が水であるために、炭素繊維表面上に溶媒が残留しない。このため、得られた粒子吸着炭素繊維は炭素繊維強化プラスチックの母材となる樹脂との界面接着性に優れている。
【0011】
ここで、樹脂粒子、非イオン性界面活性剤、電解質及び水を含有する炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液は、電解質が含まれているために電気泳動の際に電流が流れ、効果的に(短時間で)炭素繊維に粒子を吸着させることができる点で有利である。また、樹脂粒子、ラジカル重合開始剤、及び水を含有する炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液は、界面活性剤を含まないため、コスト面で有利であるとともに、極微量であるが界面活性剤が不純物として残留しないために炭素繊維との界面接着性が向上する。また、固体状の無機粒子、電解質及び水を含有する炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液は、界面活性剤を含まないため、コスト面で有利であるとともに、炭素繊維強化プラスチックに含有させた場合に、無機粒子が融解しないで残存するため、従来にない高い強度の炭素繊維強化プラスチックを得ることができる。
【0012】
本発明の粒子吸着炭素繊維は、炭素繊維の表面に熱可塑性樹脂粒子が吸着している。このため、炭素繊維強化プラスチックの母材となる樹脂が熱可塑性樹脂である場合にも界面接着性に優れている。このようにして樹脂との界面接着性が向上した粒子吸着炭素繊維を使用することで、炭素繊維と樹脂(特に熱可塑性樹脂)とを容易に接着させることができる。
【0013】
本発明の粒子吸着炭素繊維の製造方法によれば、(1)樹脂粒子、非イオン性界面活性剤、電解質及び水を含有する、(2)樹脂粒子、ラジカル重合開始剤、及び水を含有する、又は(3)固体状の無機粒子、電解質及び水を含有する、炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液中に炭素繊維を正極又は負極として電気泳動を行うことで、極めて短時間の間に炭素繊維に多量の粒子を吸着させることができる。該製造方法によれば、従来炭素繊維に吸着させることが難しかった熱可塑性樹脂粒子、特にポリアミド系樹脂粒子、例えばナイロン粒子を炭素繊維表面に均一に吸着させることができる。また、電気泳動操作により粒子吸着炭素繊維を製造する際に、印加電圧を変化させることで炭素繊維に吸着する粒子の量を制御することができ、それにより界面接着性を制御することができる。
【0014】
本発明の炭素繊維強化プラスチックは、上記のように界面接着性に優れた粒子吸着炭素繊維が母材の樹脂中に含有されている。このため、粒子吸着炭素繊維と母材の樹脂とが高い強度で接着されているため、炭素繊維強化プラスチックは高い強度を有する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液
(1−1)炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液
本発明の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液は、(1)樹脂粒子、非イオン性界面活性剤、電解質及び水を含有する、(2)樹脂粒子、ラジカル重合開始剤、及び水を含有する、又は(3)固体状の無機粒子、電解質及び水を含有する。このような構成を採用することにより、様々な粒子で炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液を形成することができる。本発明の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液中で、炭素繊維を電極(正極又は負極)として電圧を印加することにより、炭素繊維を水中で正又は負に帯電させることができるため、コロイド粒子の正負の帯電にかかわらず、炭素繊維に吸着させることができる。このため、この炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液を用いて炭素繊維をいずれかの電極として電気泳動を行うことで、炭素繊維と母材の樹脂との界面接着性を著しく向上させることができる。また、電気泳動操作における印加電圧を変化させることで炭素繊維に吸着する粒子の量を制御することができ、それにより炭素繊維の樹脂との界面接着性を制御することができる。
【0017】
(1)樹脂粒子、非イオン性界面活性剤、電解質及び水を含有する、炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液(第1の態様)
本発明の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液の第1の態様は、樹脂粒子、非イオン性界面活性剤、電解質及び水を含有するコロイド溶液である。
【0018】
樹脂粒子としては、特に制限されず、種々様々な樹脂粒子を採用することができる。なお、本発明の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液中で炭素繊維を電極として電気泳動を行った場合、炭素繊維のほぼ全面にわたって当該粒子が吸着し、好ましくは、炭素繊維織物の内部にまで当該粒子が浸透する。特に、本発明の粒子吸着炭素繊維は、当該粒子と同一又は類似の樹脂との界面接着性を向上させることができる。例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂との接着性を向上させたい場合は、樹脂粒子として、ポリメチルメタクリレート粒子、ポリブチルアクリレート粒子、ポリイソブチルアクリレート粒子等のアクリル樹脂粒子を使用することが好ましく、ナイロン−6、ナイロン−12等のナイロン樹脂(ポリアミド系樹脂)との接着性を向上させたい場合は、樹脂粒子として、アミド結合含有モノマーを含むモノマーの重合体粒子、ナイロン−6、ナイロン−12等のナイロン樹脂粒子を使用することが好ましい。
【0019】
なお、炭素繊維を用いて炭素繊維強化プラスチックに加工する場合には、従来は炭素繊維と熱可塑性樹脂とを接着させることが困難であったが、本発明の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液中の樹脂粒子を熱可塑性樹脂粒子とすることで、母材の熱可塑性樹脂と炭素繊維との界面接着性を向上させることができる。熱可塑性樹脂粒子として、具体的には、アミド結合含有モノマーを含むモノマーの重合体粒子、ポリアミド系樹脂粒子、ポリフェニレンエーテル粒子、ポリオキシメチレン粒子、ポリブチレンテレフタレート粒子、ポリカーボネート粒子、ポリメチルメタクリレート(PMMA)粒子、ポリスチレン粒子、ポリプロピレン粒子、ポリエーテルイミド粒子、ポリエーテルサルホン粒子等が挙げられる。これらの中で、アミド結合含有モノマーを含むモノマーの重合体粒子、ポリアミド系樹脂粒子が好ましく、アミド結合含有モノマーを含むモノマーの重合体粒子がより好ましい。
【0020】
アミド結合含有モノマーを含むモノマーの重合体粒子は、アミド結合含有モノマーの重合体粒子、又はアミド結合含有モノマーと他のモノマーとの重合体粒子である限り、特に制限されない。
【0021】
アミド結合含有モノマーとしては、例えば、分子内にアミド結合を有し、単独で重合して、或いは他のモノマーと重合して重合体を形成可能なモノマーである限り特に制限されない。典型的には、アミド基と、末端に二重結合を有するアルケニル基(例えばビニル基、アリル基等)とを分子内に有するモノマーが挙げられる。該モノマーの分子量は、例えば80〜200、好ましくは80〜150、より好ましくは80〜100である。アミド結合含有モノマーの具体例としては、N−ビニルアセトアミドが挙げられる。
【0022】
アミド結合含有モノマーを含むモノマーの重合体粒子を形成し得る他のモノマーとしては、特に制限されない。他のモノマーとしては、例えばスチレンモノマー、プロピレンモノマー、メチルメタクリレートモノマー、酢酸ビニルモノマー、エチレンモノマー、芳香族ビニルモノマー、アクリルモノマー等が挙げられる。他のモノマーを用いる場合、アミド結合含有モノマーとのモル比(アミド結合含有モノマー/他のモノマー)は、例えば0.2〜20、好ましくは0.5〜15、より好ましくは1〜8、さらに好ましくは2〜5である。
【0023】
ポリアミド系樹脂粒子には、脂肪族ポリアミド粒子及び芳香族ポリアミド粒子が含まれる。脂肪族ポリアミドとして、脂肪族ナイロン及びその共重合体が挙げられる。具体的には、ポリカプラミド(ナイロン−6)、ポリラウリルラクタム(ナイロン−12)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン−6,6)、カプロラクタム/ラウリロラクタム共重合体(ナイロン−6/12)等のナイロン粒子が挙げられる。芳香族ポリアミドとして、例えば、ポリメタキシレンアジパミド等の結晶性芳香族ポリアミド粒子、ヘキサメチレンジアミン−テレフタル酸−ヘキサメチレンジアミン−イソフタル酸の共重合体等の非晶性芳香族ポリアミド粒子が挙げられる。ポリアミド系樹脂粒子として、上記のナイロン粒子が特に好ましい。なお、ナイロン粒子は、水中でマイナス(負)に帯電する。
【0024】
これらの樹脂粒子は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。また、樹脂粒子は、公知又は市販の樹脂粒子を用いることができるし、重合して用いてもよい。
【0025】
非イオン性界面活性剤は、樹脂粒子をコロイド状にできるものであれば特に制限されず、種々様々なものを使用することができる。具体的には、ラウリン酸グリセリン、モノステアリン酸グリセリン、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル等のエステル型界面活性剤;ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル等のエーテル型界面活性剤;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルポリアルキレングリコール等のエステルエーテル型界面活性剤;ラウリン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型界面活性剤;デシルグリコシド、ラウリルグリコシド等のアルキルグリコシド、セタノール、ステアリルアルコール等の高級アルコール等が挙げられる。これら非イオン性界面活性剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。また、非イオン性界面活性剤は、公知又は市販の非イオン性界面活性剤を使用することができる。樹脂粒子がナイロン粒子である場合には、エステル型界面活性剤、特にソルビタンモノラウレート等のソルビタン脂肪酸エステルを使用することが好ましい。
【0026】
電解質は、炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液を電気泳動しやすくするために添加される。電解質として、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム等が挙げられる。炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液中に電解質が含まれることで、該コロイド溶液中で電気泳動を行ったときにコロイド粒子の電気泳動移動度が向上し、炭素繊維へのコロイド粒子の吸着量が増加する。
【0027】
水としては、特に制限はなく、水道水、工業用水、イオン交換水、脱イオン水、純水等の各種の水を用いることができる。特に脱イオン水及び純水が好ましい。
【0028】
第1の態様においては、さらにラジカル重合開始剤を含有していてもよい。ラジカル重合開始剤として、カチオン重合開始剤を使用することが好ましい。カチオン重合開始剤(カチオン性ラジカル重合開始剤)としては、特に制限されず、種々様々なものを使用することができる。具体的には、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(V-50)、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]二塩酸塩(VA-044),2,2'-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル) プロパン] 二硫酸塩二水和物(VA-046B)等のアゾ化合物が挙げられる。これらラジカル重合開始剤は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。また、ラジカル重合開始剤は、公知又は市販のカチオン重合開始剤を使用することができる。
【0029】
(2)樹脂粒子、ラジカル重合開始剤、及び水を含有する、炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液(第2の態様)
本発明の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液の第2の態様は、樹脂粒子、ラジカル重合開始剤、及び水を含有するコロイド溶液である。
【0030】
樹脂粒子、水、及びラジカル重合開始剤としては、上記第1の態様と同様のものを使用することができる。
【0031】
第2の態様においては、さらに電解質を含有することが好ましい。電解質としては、上記第1の態様と同様のものを使用することができる。
【0032】
(3)固体状の無機粒子、電解質及び水を含有する炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液(第3の態様)
本発明の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液の第3の態様は、固体状の無機粒子、電解質及び水を含有するコロイド溶液である。
【0033】
固体状の無機粒子としては、特に制限されず、種々様々な無機粒子を採用することができる。無機粒子として、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子、酸化鉄粒子、酸化チタン粒子、炭素粒子等を挙げることができる。固体状の無機粒子を用いた場合には、炭素繊維強化プラスチックに含有させた場合にも融解せずに残留するため、従来にない強度の炭素繊維強化プラスチックを得ることができる。
【0034】
これらの固体状の無機粒子は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。また、無機粒子は、公知又は市販の無機粒子を用いることができる。
【0035】
固体状の無機粒子を用いてコロイド溶液を調製する場合には、界面活性剤を添加する必要はない。なお、シリカ粒子は、水中でマイナス(負)に帯電する。
【0036】
本発明で使用する樹脂粒子又は無機粒子は、より炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液を形成しやすくするとともに、炭素繊維に吸着しやすくする観点から、平均粒子径は0.02〜5μmが好ましく、0.02〜1μmがより好ましく、0.02〜0.5μmがさらに好ましい。樹脂粒子又は無機粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡観察で測定することができる。上記平均粒子径を有する樹脂粒子又は無機粒子が市販されている場合には、市販品を用いることができる。或いは、市販の樹脂製品又は無機粒子を適当な粉砕装置を用いて細かく粉砕し、上記平均粒子径を有する粉末にしてから使用することもできる。
【0037】
本発明の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液中の各成分の組成は特に制限されない。本発明の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液を調製しやすくし、炭素繊維表面に樹脂粒子又は無機粒子を吸着しやすくする観点からは、水の含有量は過剰量とすればよい。炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液の第1の態様の場合、樹脂粒子の濃度は0.1〜2重量%(特に0.1〜0.5重量%)、非イオン性界面活性剤の濃度は0.5〜30mmol/L(特に1〜10mmol/L)、電解質の濃度は0.5〜30mmol/L(特に1〜10mmol/L)となるように調整することが好ましい。第2の態様の場合、樹脂粒子の濃度は0.1〜2重量%(特に0.1〜0.5重量%)、ラジカル重合開始剤の濃度は2〜100mmol/L(特に2〜60mmol/L)となるように調整することが好ましい。第3の態様の場合、固体状の無機粒子の濃度は0.1〜2重量%(特に0.1〜0.5重量%)、電解質の濃度は0.5〜30mmol/L(特に1〜10mmol/L)となるように調整することが好ましい。
【0038】
本発明の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液には、本発明の効果を損なわない範囲(例えば0〜5重量%、特に0〜3重量%)において、必要に応じて、pH調整剤、酸化防止剤、粘度調整剤、防かび剤、消泡剤、可塑剤、安定剤等の添加剤を適宜添加することができる。これらの添加剤は、公知又は市販品を使用することができる。
【0039】
(1−2)炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液の製造方法
本発明の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液の製造方法としては、樹脂粒子又は無機粒子の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液を製造できる方法であれば制限されない。例えば、炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液が第1の態様であれば、樹脂粒子、非イオン性界面活性剤、電解質及び水を混合することにより、或いは樹脂粒子を形成するモノマー、ラジカル重合開始剤、及び水を混合して樹脂粒子を形成してからそこへ非イオン化性界面活性剤及び電解質を添加して混合することにより、炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液が第2の態様であれば、樹脂粒子を形成するモノマー、ラジカル重合開始剤、及び水を混合することにより、炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液が第3の態様であれば、固体状の無機粒子、電解質及び水を混合することにより、本発明の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液を得ることができる。混合は、攪拌下で行うことが好ましい。
【0040】
樹脂粒子又は無機粒子、非イオン性界面活性剤、ラジカル重合開始剤、電解質及び水としては、上記したものを使用することができる。
【0041】
混合は、通常、常温常圧下で、数秒間から30分間攪拌しながら行うことが好ましい。攪拌及び混合は、例えば、マグネチックスターラー等を用いて行うこともできるし、超音波又はマイクロウェーブを照射することにより行うこともできる。
【0042】
2.粒子吸着炭素繊維及びその製造方法
(2−1)粒子吸着炭素繊維
本発明の粒子吸着炭素繊維は、炭素繊維の表面に樹脂粒子又は無機粒子が吸着している。特に好適には、炭素繊維織物の内部に樹脂粒子又は無機粒子が含浸している。
【0043】
樹脂粒子又は無機粒子は、上記したものを使用することができる。炭素繊維強化プラスチックに用いられる母材の樹脂が熱可塑性樹脂である場合には、本発明の粒子吸着炭素繊維中の樹脂粒子も熱可塑性樹脂であることが好ましい。樹脂粒子の熱可塑性樹脂(熱可塑性樹脂粒子)については、上述の「1.炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液」における定義と同様である。母材の熱可塑性樹脂としては、ポリアミド系樹脂(例えば、ナイロン)、ポリフェニレンエーテル、ポリオキシメチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、メチルメタクリレート、スチレン、プロピレン、エーテルイミド、エーテルサルホン等が挙げられる。これらの中で、ナイロンが好ましい。
【0044】
炭素繊維としては、例えば、PAN(ポリアクリロニトリル)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等が挙げられる。これらの炭素繊維は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。
【0045】
炭素繊維の形態については、連続長繊維や連続長繊維をカットした短繊維、粉末状に粉砕したミルド糸、束等、いずれでもよい。これらは、織物、編み物、不織布等のシート状等に、用途や必要特性に応じて様々に選択することができる。
【0046】
炭素繊維束の場合、該束を構成する炭素繊維の本数は、特に制限されないが、好ましくは1000以上、より好ましくは1000〜50000、さらに好ましくは1500〜40000、よりさらに好ましくは2000〜30000である。上記した本発明の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液を用いることにより、このような多数の炭素繊維から構成される束に対して、束の内部(芯)の炭素繊維に対しても、より効率的に樹脂粒子を吸着させることができる。
【0047】
炭素繊維のサイズとしては、特に制限されず、平均直径が1,000〜30,000nm程度(特に1,000〜10,000nm程度)が好ましい。なお、炭素繊維の平均長は特に制限はなく、必要に応じて適宜設定することができる。
【0048】
本発明の粒子吸着炭素繊維は、樹脂との界面接着性をより向上させる観点から、炭素繊維の表面のほぼ全面に樹脂粒子又は無機粒子が吸着していることが好ましく、炭素繊維の表面だけでなく炭素繊維織物の内部に樹脂粒子又は無機粒子が浸透していることがより好ましい。具体的には、炭素繊維表面の面積の30〜100%、特に60〜99%に樹脂粒子又は無機粒子が吸着していることが好ましい。
【0049】
なお、上記したように、炭素繊維表面にはサイジング剤が付着していることがあるが、この場合、炭素繊維表面の樹脂粒子又は無機粒子の吸着性を向上させるために、炭素繊維表面のサイジング剤を除去することが好ましい。
【0050】
また、炭素繊維はその表面に水酸基が存在しておりマイナス(−)に帯電しているが、例えば、炭素繊維を正極として電圧を印加することによりプラス(+)に帯電することから、本発明では、樹脂粒子又は無機粒子がいずれに帯電していようとも樹脂粒子を引き付け、炭素繊維表面の全面に樹脂粒子又は無機粒子を吸着することができ、さらに好適には炭素繊維織物内部にまで樹脂粒子又は無機粒子を浸透させることができる。
【0051】
(2−2)粒子吸着炭素繊維の製造方法
本発明の粒子吸着炭素繊維の製造方法としては、前記炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液中で、炭素繊維を正極又は負極として電気泳動を行う工程を備える製造方法が挙げられる。
【0052】
炭素繊維としては、上記したものを使用することができる。ただし、上記のように、市販の炭素繊維は、ハンドリング性向上等のために、表面にサイジング剤が付着していることが多い。この場合、炭素繊維表面の樹脂粒子又は無機粒子の吸着性を向上させるために、まず、炭素繊維表面のサイジング剤を除去することが好ましい。
【0053】
炭素繊維表面に付着しているサイジング剤を除去する方法としては、特に制限されず、常法により行うことができる。例えば、アセトン、2−ブタノン(メチルエチルケトン)、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、ジクロロエタン等で処理することで、炭素繊維表面のサイジング剤を除去することができる。
【0054】
本発明の炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液中で炭素繊維を正極又は負極として電気泳動を行う方法は特に制限されず、常法にしたがって行うことができる。炭素繊維を正極にする場合には、負極として、白金、銅、金、銀、炭素等の電極を使用することができる。炭素繊維を負極にする場合には、正極として、白金、銅、金、銀、炭素等の電極を使用することができる。炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液の温度は特に制限されず、例えば、10〜30℃が好ましく、10〜25℃がより好ましい。また、印加する電圧は特に制限されず、例えば、5〜50Vが好ましく、10〜30Vがより好ましい。電圧印加時間は、特に制限されず、例えば、15秒間〜1時間が好ましく、20秒間〜3分間がより好ましい。
【0055】
また、電気泳動は、泳動溶液を撹拌しながら行うことが好ましい。これにより、炭素繊維束を用いても、束の内部(芯)の炭素繊維に対してより効率的に樹脂粒子を吸着させることができる。撹拌は通常は撹拌子を用いて行われ、この場合の回転数は、特に制限されないが、例えば50rpm〜500rpm、好ましくは100〜300rpmである。
【0056】
電気泳動操作により炭素繊維表面に接近した粒子は、炭素繊維との間にファンデルワールス力が働き、強固に炭素繊維に吸着して炭素繊維上に留まることになる。よって、このような方法を採用することにより、従来よりも極めて短時間で、より多量の樹脂粒子又は無機粒子が均一に吸着した粒子吸着炭素繊維を得ることができる。炭素繊維に付着している樹脂粒子又は無機粒子の量が多いことから、樹脂との界面接着性をより向上させることができる。
【0057】
3.炭素繊維強化プラスチック
本発明の炭素繊維強化プラスチックは、本発明の粒子吸着炭素繊維が母材の樹脂中に含有されている。本発明の粒子吸着炭素繊維は、上記のとおり、樹脂との界面接着性を向上させることができるため、本発明の炭素繊維強化プラスチックは、炭素繊維と母材の樹脂とが強固に接着している。このため、本発明の炭素繊維強化プラスチックは強度が向上されている。
【0058】
母材の樹脂としては、特に制限されず、種々様々な樹脂を採用することができる。なお、本発明の粒子吸着炭素繊維は、本発明の粒子吸着炭素繊維中の樹脂粒子と同一又は類似の樹脂との界面接着性を特に向上させることができるため、母材の樹脂は、本発明の粒子吸着炭素繊維中の樹脂粒子と同一又は類似の樹脂であることが好ましい。本発明の粒子吸着炭素繊維中の樹脂粒子として熱可塑性樹脂を用いる場合には炭素繊維強化プラスチックの母材として用いる樹脂も熱可塑性樹脂が好ましい。熱可塑性樹脂として、例えば、ポリアミド系樹脂(例えば、ナイロン)、ポリフェニレンエーテル、ポリオキシメチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリスチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルイミドやポリエーテルサルホン等が挙げられる。
【0059】
本発明の炭素繊維強化プラスチックにおいて、各成分の組成は特に制限されず、必要に応じて適宜設定することができる。
【0060】
この本発明の炭素繊維強化プラスチックは、常法にしたがって製造することができ、自動車、航空機、スポーツ関連製品、医療器具等を製造するための構造材料等、様々な用途において活用することができる。
【0061】
4.制御方法
電気泳動操作により粒子吸着炭素繊維の製造する際に、印加電圧を変化させることで炭素繊維に吸着する粒子の量を制御することができる。炭素繊維への粒子吸着量と炭素繊維強化プラスチックとの界面せん断強度は、炭素繊維に吸着する粒子量が増加するに従い、界面せん断強度が向上することが明らかになった(下記実施例参照)。よって、電気泳動操作における印加電圧を変化させて炭素繊維に吸着する粒子の量を制御することで界面接着性を制御することができる。
【0062】
これより、本発明は、前記炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液中で炭素繊維を正極又は負極として電圧を印加する際に、印加する電圧の大きさを制御することにより前記炭素繊維に吸着する前記粒子の量を制御する方法を提供する。また、本発明は、前記炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液中で炭素繊維を正極又は負極として電圧を印加する際に、印加する電圧の大きさを制御して前記炭素繊維に吸着する前記粒子の量を制御することにより、前記炭素繊維の樹脂との界面接着性を制御する方法を提供する。
【実施例】
【0063】
次に本発明における実施例を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、下記実施例において、各種物性の評価は、以下の方法で評価した。
【0064】
(1)炭素繊維表面の観察
炭素繊維の形態は、電界放出形走査電子顕微鏡(JSM−7500FA、日本電子株式会社製)で観察した。SEM観察用試料は、以下のように調製した。蒸着(オスミウムプラズマコーターOPC60A、フィルジェン株式会社製)により炭素繊維をオスミウム薄膜でコーティングした。
【0065】
(2)粒子吸着量の評価
熱重量測定装置(株式会社島津製作所製、DTG-60AH)を用いて炭素繊維表面上に吸着した粒子量を定量的に測定した。表1に実験条件を示す。粒子が吸着した炭素繊維を加熱することにより、粒子が溶けて炭素繊維だけが残る。この減少した重量を吸着粒子量(m
1)、残った重量を炭素繊維の絶乾質量(m
2)とし、炭素繊維の単位表面積あたりの粒子の吸着量M[g/m
2]を、以下の式(1)で算出した。
【0066】
【表1】
【0067】
【数1】
【0068】
(3)フラグメンテーション試験
フラグメンテーション試験は、炭素単繊維の界面せん断強度を評価する試験であり、塩谷正俊及び高久明、「繊維強化複合材料の繊維−マトリクス界面せん断強度の評価」、表面、vol33、No22、744−762(1995)の記載に従って行った。具体的には、引張試験機(10073B、ジャパンハイテック株式会社製)を用いて、顕微鏡(MS−804、株式会社モリテックス製)により試験を行った。試料は以下のようにして調製した。炭素単繊維を、ポリメチルメタクリレートを含有するフィルム2枚で挟み、熱プレス機(N4003−00、エヌピーエーシステム株式会社製)を用いて180℃で1分間ホットプレスし、2枚の鋼板の間にフィルムを設置して25℃の水で冷却することでクエンチした。その後、フィルムをゲージ長25mm及び幅4mmの短冊状に切断した。
【0069】
試料は、フラグメンテーションプロセスが飽和する引張歪15%まで試験した後、フラグメンテーション炭素繊維の平均長(<L>)を測定した。炭素単繊維のフラグメンテーション試験は、5サンプルで実施した。炭素繊維と樹脂との界面接着(τ
m)は、以下の式(2)により算出した。
【0070】
【数2】
【0071】
限界繊維長(l
c)は、以下のようにして得ることができる。
【0072】
【数3】
【0073】
炭素繊維の平均直径(D)は、繊維からのHe−Neレーザービームの回折により測定した。炭素繊維(長さ:l
c)の引張強度(f)は、単繊維の引張試験の結果を用いてWeibull分析により評価した。引張試験は、引張試験機(SDW−1000SS−E−SL、株式会社今田製作所製)を用いて行った。試験機は、ゲージ長25mm、クロスヘッドスピード1mm/minで操作した。
【0074】
実施例1
ソープフリー乳化重合により炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液を調製した。ソープフリー乳化重合に使用される水は、純水製造装置(オートスチルWG250、ヤマト科学株式会社製)で精製した後、水中に窒素ガスを20分間吹き込んで溶存酸素を除去したものを用いた。メチルメタクリレート(MMA、東京化成工業株式会社製)を重合用モノマーとして使用した。モノマーは、ポリメチルメタクリレートを含むフィルム(HBS006、三菱レイヨン株式会社製)の熱可塑性樹脂に応じて選択した。2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(V−50、シグマアルドリッチ社製)は、精製せずにラジカル開始剤として使用した。V−50により、樹脂粒子が正に帯電した。V−50の化学構造を以下に示す。炭素繊維(HTS40、東邦テナックス株式会社製)は、実施例1ではアセトンで処理してサイジング剤を除去した後に使用した。
【0075】
【化1】
【0076】
重合反応は、100mLのスクリュー管中で行った。該反応器に蒸留水、開始剤及びモノマーを入れ、攪拌しながら加熱し、6時間重合反応を行った。実験条件を表2に示す。
【0077】
【表2】
【0078】
樹脂粒子吸着炭素繊維は、以下のように製造した。内容量500mLのプラスチック容器に、上で調製した炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液約400mLを入れた。正極に白金電極、負極に炭素繊維を用い、電圧を印加させることで、炭素繊維を水中で負に帯電させた。電圧印加は、直流安定化電源(AD−8724D、株式会社エー・アンド・デイ製)を使用して30秒間行い、印加する電圧を0V、6.5V、10V、20V、又は30Vで変化させた。
【0079】
各炭素繊維表面をSEMで観察した。なお、比較のため、上で調製した炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液中にアセトン処理した炭素繊維を、電圧を印加しない状態(0V)で24時間浸漬し、水で洗浄し、室温で乾燥させた炭素繊維についても、同様に表面の観察を行った。SEM観察用試料は、以下のように調製した。蒸着(オスミウムプラズマコーターOPC60A、フィルジェン株式会社製)により炭素繊維をオスミウム薄膜でコーティングした。各炭素繊維表面のSEM画像を
図1に示す。
【0080】
図1より、印加する電圧が高くなるほど、炭素繊維表面に吸着する樹脂粒子が多くなることがわかる。また、30Vで30秒間電気泳動を行うことで、コロイド中に炭素繊維を24時間浸漬させた場合と同程度の樹脂粒子が吸着されることから、電気泳動を行うことにより30秒間という短時間で多量の樹脂粒子を吸着させることができることがわかる。
【0081】
さらに、30Vで30秒間電気泳動を行った炭素繊維について、粒子の浸透性を観察した。まず、エポキシ系強力接着剤(アラルダイト、ニチバン株式会社製)を用いて、30Vで30秒間電気泳動を行った炭素繊維を埋め込み硬化させた。それをカッターで、
図2に示す断面(1)又は断面(2)に切り、SEMで観察した。
図2の断面(1)の中心部付近(丸印)のSEM画像を
図3に、断面(2)のaからbに向かうSEM画像を
図4に示す。さらに、
図4のSEM画像を4分割し、それぞれ拡大したものを
図5に示す。
【0082】
図3より、電気泳動を行うことで、どの炭素繊維にも樹脂粒子が付着していることがわかる。また、
図5より、炭素繊維の端の方だけでなく、繊維織物の内部にも樹脂粒子が浸透していることがわかる。
【0083】
印加電圧を0V、6.5V、10V、20V、又は30Vとし、それぞれ30秒間電圧印加したときのPMMA粒子の炭素繊維への吸着量を算出した。印加電圧と粒子吸着量との関係を示すグラフを
図6に示す。また、印加電圧0V及び30VのときのSEM画像も
図6に示す。
【0084】
図6のグラフ及びSEM画像より、印加電圧を大きくすることで、より多量の粒子が炭素繊維表面上に吸着することがわかる。印加電圧と電気泳動の速度は比例し、印加電圧が大きくなるにつれて、より多量の粒子が炭素繊維に接近したことで粒子の吸着量が増えると考えられる。これより、電気泳動操作における印加電圧を変化させることで、粒子の吸着量を制御することが可能であるといえる。なお、
図6の下側のSEM画像より、印加電圧が0VのときにもPMMA粒子が炭素繊維に吸着しているのが確認できるが、これは炭素繊維が水中で負に帯電しているため、静電相互作用により正に帯電しているPMMA粒子が吸着されたと考えられる。
【0085】
印加電圧を0V、6.5V、10V、20V、又は30Vとし、それぞれ30秒間電圧印加して得られた各炭素繊維についてフラグメンテーション試験を行い、界面せん断応力を算出した。粒子吸着量と界面せん断応力との関係を示すグラフを
図7に示す。
【0086】
図7より、炭素繊維に吸着する粒子量の増加とともに、アクリル樹脂と炭素繊維との間の界面せん断強度が向上し、よって吸着粒子量を制御することで界面せん断強度を制御することができることがわかる。これより、樹脂成分で炭素繊維がコーティングされたことにより樹脂とのぬれ性が良好になり、界面接着性が改善されたと考えられる。
【0087】
実施例2
内容量100mLのスクリュー管に、ナイロン12真球状粒子(東レ株式会社製)230mg、水75g、非イオン性界面活性剤(Span20、東京化成工業株式会社製)、及び電解質(KCl、関東化学株式会社製)50mgを入れ、超音波洗浄機(株式会社エスエヌデイ製US−5KS)を用いて30秒間超音波照射し、ナイロン粒子を分散させて炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液を得た。なお、水は、純水製造装置(オートスチルWG250、ヤマト科学株式会社製)で調製した蒸留水を用いた。
【0088】
内容量500mLのプラスチック容器に、上で調製した炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液約400mLを入れた。正極に炭素繊維、負極に白金電極を用い、電圧を印加させることで、炭素繊維を水中で正に帯電させた。電圧印加は、直流安定化電源(AD−8724D、株式会社エー・アンド・デイ製)を使用して30Vで30秒間行った。電気泳動処理後の炭素繊維の表面を実施例1と同様にして観察した。その結果を
図8に示す。
【0089】
図8より、30Vで30秒間電気泳動を行うことで、炭素繊維表面にナイロン粒子が吸着することがわかる。これは、正に帯電した炭素繊維に、負に帯電したナイロン粒子が引き付けられ、吸着するからである。
【0090】
さらに、比較のために、上記ナイロン粉末を炭素繊維とともにチャック付ポリエチレン袋(ユニパック(登録商標)、120mm×85mm、株式会社生産日本社製)にいれ、数回振って、炭素繊維に直接ナイロン粉末を付着させた。
図9に30Vで30秒間電気泳動を行った炭素繊維のSEM画像(左上)及びその拡大画像(左下)、及びナイロン粉末を付着させた炭素繊維のSEM画像(右上)その拡大画像(右下)を示す。
【0091】
図9より、電気泳動操作でナイロン粒子を付着させたものの方が、粉末を直接付着させたものより付きがよいことがわかる。
【0092】
実施例2の電気泳動操作(30Vで30秒間)で得られた炭素繊維、及び比較のためにアセトンで処理してサイジング剤を除去した炭素繊維についてフラグメンテーション試験を行った。フラグメンテーション試験の結果を
図10に示す。
【0093】
図10より、炭素繊維に電気泳動操作でナイロン粒子を付着させることで、界面せん断強度が43.2MPaから73.4MPaとなり、約70%界面接着性が向上したことがわかる。
【0094】
実施例3
内容量100mLのスクリュー管に、水15g、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩(V−50、シグマアルドリッチ社製)2.03mM、及びN−ビニルアセトアミドモノマー(NVA、昭和電工社製)320mMを入れ、70℃、130rpmで6時間撹拌することにより、NVAモノマーを重合させた。そこへ、水60gを投入し全量75gにした。さらに、そこにKCl 50mg、及び非イオン性界面活性剤(Span20、東京化成工業株式会社製) 100mgを入れて、超音波洗浄機(株式会社エスエヌデイ製US−5KS)を用いて30秒間超音波照射し、炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液を得た。なお、水は、純水製造装置(オートスチルWG250、ヤマト科学株式会社製)で調製した蒸留水を用いた。
【0095】
内容量500mLのプラスチック容器に、上で調製した炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液約400mLを入れた。正極に炭素繊維束(東邦テナックス株式会社製、製品番号:HTS40、3k)、負極に白金電極を用い、電圧を印加させることで、炭素繊維を水中で正に帯電させた。電圧印加は、直流安定化電源(AD−8724D、株式会社エー・アンド・デイ製)を使用して30Vで30秒間行った。また、電圧印加中は、溶液を撹拌子により撹拌(200rpm)した。
【0096】
得られた樹脂吸着炭素繊維束、又は未処理の炭素繊維束をアセトンで処理してサイジング剤を除去して得られたサイジング剤除去済み炭素繊維束に、ナイロン樹脂を含浸させた。具体的には、下記1〜4の工程に従って行った。
1.PA6フィルムを80℃で24時間真空乾燥した。
2.10mm×150mmにPA6フィルムを切り出した。
3.PA6フィルムで炭素繊維束を挟み込み、ホットプレス機によって0.1MP程で5分間挟み樹脂を溶融させた。
4.その後、5MPaで1分間荷重を加えた。
【0097】
得られた炭素繊維−樹脂複合体を、炭素繊維の繊維方向に対して垂直に切断し、断面をSEMで観察した。SEM観察像を
図11(高倍率像)及び
図12(低倍率像)に示す。
【0098】
図11に示されるように、炭素繊維−樹脂複合体の断面中には、炭素繊維領域及び樹脂領域に加え、これらのいずれにも該当しない隙間領域が存在する。それぞれの領域の面積に基づいて、樹脂の含浸率(=樹脂領域の面積/樹脂領域の面積+隙間領域の面積)を算出した。含浸透率を
図11の下方に示す。また、炭素繊維領域の割合(=炭素繊維領域の割合/全領域)も算出した。炭素繊維領域の割合を
図12の下方に示す。
【0099】
図11及び12に示されるように、炭素繊維束に電気泳動操作でポリ−N−ビニルアセトアミドを付着させて得られた樹脂吸着炭素繊維束を用いることにより、密に配置された炭素繊維に対して効率的に樹脂を含浸させられることが分かった。
【0100】
実施例4
内容量100mLのスクリュー管に、水15g、アゾビスイソブチロニトリル 2.03mM、スチレンモノマー(東京化成) 320mM、及びN−ビニルアセトアミドモノマー(NVA、昭和電工社製) 1570mMを入れ、70℃、130rpmで6時間撹拌することにより、NVAモノマーとスチレンモノマーとの重合体を作製した。そこへ、水60gを投入し全量75gにした。さらに、そこにKCl 50mgを入れて超音波洗浄機(株式会社エスエヌデイ製US−5KS)を用いて30秒間超音波照射し、炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液を得た。なお、水は、純水製造装置(オートスチルWG250、ヤマト科学株式会社製)で調製した蒸留水を用いた。
【0101】
内容量500mLのプラスチック容器に、上で調製した炭素繊維強化プラスチック製造用コロイド溶液約400mLを入れた。正極に炭素繊維束[(東邦テナックス株式会社製、製品番号:HTS40、3k)(東邦テナックス株式会社製、製品番号:HTS40、24k)]、負極に白金電極を用い、電圧を印加させることで、炭素繊維を水中で正に帯電させた。電圧印加は、直流安定化電源(AD−8724D、株式会社エー・アンド・デイ製)を使用して10V、20V、又は30Vで30秒間行った。また、電圧印加中は、溶液を撹拌子により撹拌(200rpm)した。
【0102】
得られた樹脂吸着炭素繊維束、又は未処理の炭素繊維束をアセトンで処理してサイジング剤を除去して得られたサイジング剤除去済み炭素繊維束の単繊維の表面を、実施例1と同様にして観察した。その結果を
図13に示す。
【0103】
さらに、得られた樹脂吸着炭素繊維束及びサイジング剤除去済み炭素繊維束の単繊維について、フラグメンテーション試験を行った。フラグメンテーション試験の結果を
図14に示す。
【0104】
図13及び14より、炭素繊維束に電気泳動操作でポリ−N−ビニルアセトアミドを付着させることで、界面せん断強度が42.7から88.6となり、界面接着性が約2倍になったことがわかる。
【0105】
続いて、得られた樹脂吸着炭素繊維束、又はサイジング剤除去済み炭素繊維束に、ナイロン樹脂を含浸させた。具体的には、下記1〜4の工程に従って行った。
1.PA6フィルムを80℃で24時間真空乾燥した。
2.10mm×150mmにPA6フィルムを切り出した。
3.PA6フィルムで炭素繊維束を挟み込み、ホットプレス機によって0.1MP程で5分間挟み樹脂を溶融させた。
4.その後、5MPaで1分間荷重を加えた。
【0106】
得られた炭素繊維−樹脂複合体を、炭素繊維の繊維方向に対して垂直に切断し、断面をSEMで観察した。SEM観察像を
図15(高倍率像)及び
図16(低倍率像)に示す。
【0107】
実施例2と同様にして含浸透率及び炭素繊維領域の割合を算出した。含浸率を
図15の各写真の上方に、炭素繊維領域の割合を
図16の上方に示す。
【0108】
図15及び16に示されるように、炭素繊維束に電気泳動操作でポリ−N−ビニルアセトアミドを付着させて得られた樹脂吸着炭素繊維束を用いることにより、密に配置された炭素繊維に対して効率的に樹脂を含浸させられることが分かった。