(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0022】
<融合タンパク質>
本発明の融合タンパク質は、ホモ5量体を形成可能なタンパク質又はホモ6量体を形成可能なタンパク質と、逆平行型コイルドコイル構造を形成可能なタンパク質とを有する。
【0023】
本明細書において、ホモ5量体を形成可能なタンパク質又はホモ6量体を形成可能なタンパク質は、相互作用によりホモ5量体又はホモ6量体を構成するサブユニット(モノマー)である。逆平行型コイルドコイル構造を形成可能なタンパク質とは、逆平行型コイルドコイル構造を構成する2量体のサブユニット(モノマー)である。以下、本明細書において、ホモ5量体を形成可能なタンパク質、ホモ6量体を形成可能なタンパク質、逆平行型コイルドコイル構造を形成可能なタンパク質を、それぞれ「ホモ5量体モノマー」、「ホモ6量体モノマー」、「逆平行型コイルドコイル構造モノマー」と略称する場合がある。
【0024】
以下、本発明の融合タンパク質の一例、及び本発明の融合タンパク質により形成された構造体について模式図を用いて、説明する。
【0025】
図1は、本発明の融合タンパク質の模式図の一例である。
図1に示す実施形態における融合タンパク質は、ホモ5量体モノマー11と逆平行型コイルドコイル構造モノマー12と、リンカー13とを有する。
【0026】
図1における融合タンパク質により構造体が形成される流れを
図2に示す。
図2の(a)に示すように、ホモ5量体モノマー11が相互作用により5量体を形成して、
図2の(a)に示すように中心の5量体の部分が五角形の構造(14)となる。このように、
図2(a)における逆平行型コイルドコイル構造モノマー12が2量体を形成することで、
図2の(b)で示すように逆平行型コイルドコイル構造モノマー12を手として結合し、五角形の構造同士の間に6角形の空洞(15)が形成され、最終的に
図2の(c)で示すように、フラーレン構造を形成することができる。逆平行型コイルドコイル構造でなく、平行型コイルドコイル構造を用いると、このような構造を形成することができない。同様の原理により、ホモ5量体モノマーの代わりにホモ6量体モノマーを用いた場合、グラフェン構造を作製することができる。本発明の融合タンパク質は、これによって5量体又は6量体の種類によらず、同様の原理により構造体を設計できるので、構造体の作製が簡便にできる。
【0027】
図4の(A)に、ホモ5量体モノマーと逆平行型コイルドコイル構造モノマーとからフラーレン構造が形成される流れを示し、
図4の(B)にホモ6量体モノマーと逆平行型コイルドコイル構造モノマーとからグラフェン構造が形成される流れを示す。
図4の(A)、(B)において、(a)は、ホモ5量体モノマー11が相互作用により5量体を形成したもの又はホモ6量体モノマー16が相互作用により6量体を形成したものである。
図4の(A)、(B)における(b)は、(a)の模式図をより具体的なイメージとしたものである。また、
図4の(A)、(B)において、(c)は、各融合タンパク質が結合することにより得られる構造体の模式図を示す。
図4の(A)の(c)は、5量体を用いた場合のフラーレン構造を示し、(d)は一般的なフラーレン構造の立体構造である。
図4の(B)の(c)は、6量体を用いた場合のグラフェン構造を示し、(d)は一般的なグラフェン構造の立体構造である。なお、本明細書において、フラーレン構造、グラフェン構造とは、炭素原子のみにより形成されるフラーレン又はグラフェンと立体的に同じ又は類似の構造を有する構造を指し、フラーレン又はグラフェンそのもの(炭素からなる構造体)とは異なるものである。
【0028】
本発明のホモ5量体モノマーは、ホモ5量体を形成可能なアミノ酸配列を有するものであれば特に限定されず、目的(例えば、後述する捕集剤として用いた場合における対象物質の親和性等)に応じて適宜設定することができる。具体的には、配列番号1〜42のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質等が挙げられる。または、配列番号1〜42のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質に代えて、これらのタンパク質をコードするDNAの変異体やホモログがコードするタンパク質を用いてもよい。そのようなタンパク質としては、以下の(1)〜(3)のいずれに記載のいずれかに記載のDNAがコードするアミノ酸配列を有するものが挙げられる。
(1)配列番号1〜42のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(2)配列番号1〜42のいずれかに記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有し、かつホモ5量体を形成可能なDNA
(3)配列番号1〜42のいずれかに記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなり、かつホモ5量体を形成可能なDNA
【0029】
本発明のホモ5量体モノマーは、捕集剤の用途としても利用を考えた場合、例えば、金属又は核酸の回収に適している点では、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質又はこのタンパク質をコードするDNAの変異体もしくはホモログがコードするタンパク質が好ましい。
【0030】
本発明のホモ6量体モノマーは、ホモ6量体を形成可能なアミノ酸配列を有するものであれば特に限定されず、目的(例えば、後述する捕集剤として用いた場合における対象物質の親和性等)に応じて適宜設定することができる。具体的には、配列番号43〜48又は配列番号58〜72のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質等が挙げられる。または、配列番号43〜48又は配列番号58〜72のいずれかに記載のアミノ酸配列を有するタンパク質に代えて、これらのタンパク質をコードするDNAの変異体やホモログがコードするタンパク質を用いてもよい。そのようなタンパク質としては、以下の(4)〜(6)のいずれに記載のDNAがコードするアミノ酸配列を有するものが挙げられる。
(4)配列番号43〜48又は配列番号58〜72のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(5)配列番号43〜48又は配列番号58〜72のいずれかに記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有し、かつ、ホモ6量体を形成可能なDNA
(6)配列番号43〜48又は配列番号58〜72のいずれかに記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなり、かつホモ6量体を形成可能なDNA
【0031】
本発明のホモ6量体モノマーとしては、配列番号43に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質又は該タンパク質をコードするDNAの変異体もしくはホモログがコードするタンパク質が好適である。
【0032】
本発明のホモ5量体モノマー又はホモ6量体を形成可能なアミノ酸配列は、相互作用するためのアミノ酸配列が含まれており、例えば、ホモ5量体モノマーの場合、配列番号50と配列番号51のような配列を組み合わせて有することにより、ホモ5量体を形成する。また、配列番号50と配列番号51のアミノ酸配列の組み合わせのほか、配列番号50と配列番号51のアミノ酸配列に代えて、これらのアミノ酸をコードするDNAの変異体やホモログがコードするアミノ酸配列を用いてもよい。配列番号50のアミノ酸配列をコードするDNAの変異体やホモログとしては、以下の(7)〜(9)のいずれかに記載のDNAがコードするアミノ酸配列が挙げられる。また、配列番号51のアミノ酸配列をコードするDNAの変異体やホモログとしては、以下の(10)〜(12)のいずれかに記載のDNAがコードするアミノ酸配列が挙げられる。
(7)配列番号50に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(8)配列番号50に記載のアミノ酸配列において1、2又は3のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
(9)配列番号50に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNA
(10)配列番号51に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(11)配列番号51に記載のアミノ酸配列において1又は2のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNA
(12)配列番号51に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなるDNA
【0033】
本発明の逆平行型コイルドコイル構造モノマーは、逆平行型コイルドコイル構造を形成可能なアミノ酸配列を有するものであれば特に限定されず、従来の公知の逆平行型コイルドコイル構造を有するタンパク質を用いることができ、目的(例えば、後述する捕集剤として用いた場合における対象物質の親和性等)に応じて適宜設定することができる。具体的には、配列番号49に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。または、配列番号49に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質に代えて、これらのタンパク質をコードするDNAの変異体やホモログがコードするタンパク質を用いてもよい。そのようなタンパク質としては、以下の(13)〜(15)のいずれに記載のDNAがコードするアミノ酸配列を有するものが挙げられる。
(13)配列番号49に記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列に相補的な塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズできる塩基配列を有するDNA
(14)配列番号49に記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有し、かつ逆平行型コイルドコイル構造を形成可能なDNA
(15)配列番号49に記載のアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列をコードする塩基配列からなり、かつ逆平行型コイルドコイル構造を形成可能なDNA
【0034】
本発明の逆平行型コイルドコイル構造モノマーとしては、特に限定されないが、ロイシンジッパー構造を有するものが好ましい。より具体的には、6〜8個のアミノ酸残基、好ましくは7個のアミノ酸残基からなり、かつ、配列の真ん中付近に疎水性アミノ酸(ロイシン、イソロイシン等)を含むユニット配列を2〜9含むものが好ましい。例えば、配列番号49は、MENKQVEE「ILRLEKE」「IEDLQRM」KEQQE「LSLTEAS」「LQKLQER」RDQE「LRRLEEE」と示されるように、上記ユニット配列を5つ含む構造を有する。
【0035】
なお、本明細書において、「ホモ5量体を形成可能」、「ホモ6量体を形成可能」、「逆平行型コイルドコイル構造を形成可能」とは、塩基配列がコードするポリペプチドがホモ5量体形成能、ホモ6量体形成能又は逆平行型コイルドコイル構造形成能を有することを意味する。本発明において、「ストリンジェントな条件」としては、例えば、通常のハイブリダイゼーション緩衝液中、40〜70℃(好ましくは、50〜67℃、より好ましくは、60〜65℃)で反応を行い、塩濃度15〜300mM(好ましくは、15〜150mM、より好ましくは15〜60mM、さらに好ましくは、30〜50mM)の洗浄液中で洗浄を行う条件が挙げられる。
【0036】
本発明におけるホモ5量体モノマー、ホモ6量体モノマー、又は逆平行型コイルドコイル構造モノマーのアミノ酸配列をコードするDNAには、かかる配列番号1〜49のいずれか記載のアミノ酸配列において1もしくは複数のアミノ酸が置換、欠失及び/又は付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAも含まれる。ここで配列番号1〜49のいずれかにおいて、「1もしくは複数」とは、通常、20アミノ酸以内であり、好ましくは10アミノ酸以内であり、さらに好ましくは5アミノ酸以内(例えば、3アミノ酸以内、2アミノ酸以内、1アミノ酸)である。融合タンパク質のホモ5量体形成能、ホモ6量体形成能又は逆平行型コイルドコイル構造形性能を維持する場合、変異するアミノ酸残基においては、アミノ酸側鎖の性質が保存されている別のアミノ酸に変異されることが望ましい。例えばアミノ酸側鎖の性質としては、疎水性アミノ酸(A、I、L、M、F、P、W、Y、V)、親水性アミノ酸(R、D、N、C、E、Q、G、H、K、S、T)、脂肪族側鎖を有するアミノ酸(G、A、V、L、I、P)、水酸基含有側鎖を有するアミノ酸(S、T、Y)、硫黄原子含有側鎖を有するアミノ酸(C、M)、カルボン酸及びアミド含有側鎖を有するアミノ酸(D、N、E、Q)、塩基含有側鎖を有するアミノ酸(R、K、H)、芳香族含有側鎖を有するアミノ酸(H、F、Y、W)を挙げることができる(括弧内はいずれもアミノ酸の一文字標記を表す)。なお、あるアミノ酸配列に対する1又は複数個のアミノ酸残基の欠失、付加及び/又は他のアミノ酸による置換により修飾されたアミノ酸配列を有するタンパク質がその生物学的活性を維持することは公知である(Mark,D.F.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1984)81,5662−5666、Zoller,M.J.& Smith,M.Nucleic Acids Research(1982)10,6487−6500、Wang,A.et al.,Science 224,1431−1433、Dalbadie−McFarland,G.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA(1982)79,6409−6413)。
【0037】
配列番号1〜49のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するDNAの変異体やホモログには、配列番号1〜49のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列と高い相同性を有する塩基配列からなるDNAが含まれる。このようなDNAは、好ましくは、配列番号1〜49のいずれかに記載のアミノ酸配列をコードする塩基配列と90%以上、さらに好ましくは95%以上(96%以上、97%以上、98%以上、99%以上)の相同性を有する。アミノ酸配列や塩基配列の相同性は、Karlin and AltschulによるアルゴリズムBLAST(Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:5873−5877,1993)によって決定することができる。このアルゴリズムに基づいて、BLASTNやBLASTXと呼ばれるプログラムが開発されている(Altschul et al.J.Mol.Biol. 215:403−410,1990)。BLASTに基づいてBLASTNによって塩基配列を解析する場合には、パラメータは例えばscore=100、wordlength=12とする。また、BLASTに基づいてBLASTXによってアミノ酸配列を解析する場合には、パラメータは例えばscore=50、wordlength=3とする。BLASTとGapped BLASTプログラムを用いる場合には、各プログラムのデフォルトパラメータを用いる。これらの解析方法の具体的な手法は公知である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov.)。
【0038】
本発明の融合タンパク質は、
図1に示す実施形態のように、ホモ5量体モノマー又はホモ6量体モノマーと、逆平行型コイルドコイル構造モノマーとの間にリンカーを有してもよく、有さなくてもよい。かかるリンカーより、ホモ5量体により構成される5角形又はホモ6量体により6角形と逆平行型コイルドコイル構造モノマーとの角度を調整し、構造体を形成しやすくすることができる。ここで、上記「角度」とは、
図2の(c)を例として説明すると、5量体の中心を通る辺142と、逆平行型コイルドコイル構造モノマーに沿った辺152とのなす角度「r」に相当する。また、
図3に
図2の(c)のフラーレン構造を、サッカーボール(真ん中、右側の図)に見立てて説明したものを示す。
図3に示すように、フラーレン構造はサッカーボールに見立てて説明できるが、上述のrは、右側のサッカーボールにおいて(連続する5角形と6角形を一部切り取ったもの)において示されるとおりのものである。このrは、ホモ5量体モノマーの場合(構造体がフラーレン構造を形成する場合)は、0°超180°未満の範囲内(より好ましくは、130°以上160°以下の範囲内)であることが、構造体を形成しやすくなる点で好ましい。また、
図2では、ホモ5量体モノマーの場合について説明したが、ホモ6量体モノマーの場合(構造体がグラフェン構造を形成する場合)は、90°以上180°以下の範囲内(より好ましくは、180°)であることが、構造体を形成しやすくなる点で好ましい。角度の調整は、例えば、そのリンカーにより、該リンカーの両末端に付された要素がなす角度をどの程度変更又は調整できるかが既知であるリンカーを用いることで調整できる。例えば、このようなリンカーの数を調整することで、角度を変更することができる。
【0039】
本発明の融合タンパク質において、ホモ5量体モノマー又はホモ6量体モノマーと逆平行型コイルドコイル構造モノマーの位置は、いずれがN末端側に位置してもよく、いずれがC末端側に位置してもよい。例えば、融合タンパク質中、逆平行型コイルドコイル構造モノマーがN末端側に位置し、ホモ5量体モノマー又はホモ6量体モノマーがC末端側に位置してもよく、あるいは、ホモ5量体モノマー又はホモ6量体モノマーがN末端側に位置し、逆平行型コイルドコイル構造モノマーがC末端側に位置してもよい。
【0040】
本発明の融合タンパク質は、本発明における効果を損なわない程度に、必要に応じて、上述したアミノ酸配列以外のアミノ酸配列を有してもよく、有さなくてもよい。例えば、融合タンパク質の精製のために、タグとなるアミノ酸配列を加えてもよい。
【0041】
本発明における「DNA」は、センス鎖又はアンチセンス鎖(例えば、プローブとして使用できる)のいずれでもよく、その形状は一本鎖又は二本鎖のいずれでもよい。また、ゲノムDNAであっても、cDNAであってもよく、あるいは合成されたDNAであってもよい。
【0042】
本発明のDNAを取得する方法としては、特に限定されないが、mRNAから逆転写することでcDNAを得る方法(例えば、RT−PCR法)、ゲノムDNAから調整する方法、化学合成により合成する方法、ゲノムDNAライブラリーやcDNAライブラリーから単離する方法等の公知の方法(例えば、特開平11−29599号公報参照)が挙げられる。
【0043】
本発明の融合タンパク質は、公知のキメラタンパクの調製方法によって製造できる。キメラタンパク質の調製は、例えば、前述のキメラタンパク質をコードするDNAを含む発現ベクターが導入された形質転換体を使用することで行うことができる。例えば、まず、この形質転換体を適宜の条件で培養し、このDNAがコードするキメラタンパク質を合成させる。そして、合成されたタンパク質を形質転換体又は培養液から回収することにより、キメラタンパク質(本発明の融合タンパク質)を得ることができる。
【0044】
より具体的に説明すると、適当な発現ベクターに上述のキメラタンパク質をコードするDNAを挿入することにより、作製できる。「適当なベクター」とは、原核生物及び/又は真核生物の各種の宿主内で複製保持又は自己増殖できるものであればよく、使用の目的に応じて適宜選択できるものである。例えば、DNAを大量に取得したい場合には高コピーベクターを選択でき、ポリペプチド(融合タンパク質)を取得したい場合には発現ベクターを選択できる。その具体例としては、特に限定されず、例えば、特開平11−29599号公報に記載された公知のベクターが挙げられる。
【0045】
ベクターの導入方法は、ベクターや宿主の種類等に応じて適宜選択できる。その具体例としては、特に限定されないが、例えば、細菌を宿主とした場合、プロトプラスト法、コンピテント法等の公知の方法(例えば、特開平11−29599号公報参照)が挙げられる。
【0046】
発現ベクターを導入する宿主は、発現ベクターに適合し形質転換され得るものであればよく、その具体例としては、特に限定されないが、細菌、酵母、動物細胞、昆虫細胞等の、公知の天然細胞もしくは人工的に樹立された細胞(特開平11−29599号公報参照)、あるいは、ヒト、マウス等の動物が挙げられる。形質転換体の培養は、キメラタンパク質が大量にかつ容易に取得できるように、形質転換体の種類等に応じて、公知の栄養培地から適宜選択し、温度、栄養培地のpH、培養時間等を適宜調整して行うことができる(例えば、特開平11−29599号公報参照)。
【0047】
融合タンパク質の単離方法及び精製方法としては、特に限定されず、溶解度を利用する方法、分子量の差を利用する方法、荷電を利用する方法等の公知の方法(例えば、特開平11−29599号公報参照)が挙げられる。
【0048】
<構造体>
本発明の構造体は、上述の本発明の融合タンパク質の分子同士が互いに結合して形成されたものである。
【0049】
構造体としては、例えば、ホモ5量体モノマーを用いた場合、
図2の(c)、
図4の(A)の(c)で示すようなフラーレン構造を形成することができる。このフラーレン構造は、本発明の上述の融合タンパク質60分子により、1つのフラーレン構造を形成することができる。また、ホモ6量体モノマーを用いた場合、
図4の(B)の(c)で示すようなグラフェン構造を形成することができる。グラフェン構造の場合、1つの構造体あたりの本発明の上述の融合タンパク質の分子の数は、特に限定されない。
【0050】
本発明の構造体は、構造体1分子同士を結合させて、大きい構造体としてもよい。構造体同士の結合は、例えば、タンパク質の架橋に用いられる従来の架橋剤(グルタルアルデヒド等)により行うことができる。また、構造体を含む溶液のpHを等電点付近(等電点±1.5)に調整することによって構造体同士が集合体を形成し得る。このような集合体は、pHを中性近辺(例えば、pH7.0±1.0)にすると、構造体に解離する。構造体を含有させる溶液の溶媒としては、タンパク質を変性させるものではない限り任意のものが使用でき、例えば、メタノール、エタノール等が挙げられる。
【0051】
本発明の構造体は、後述の捕集剤として用いるのに適している。
【0052】
<捕集剤>
本発明の捕集剤は、上記の本発明の構造体に対して親和性を有する対象物質の捕集剤であって、該構造体を含有するものである。なお、本明細書において、「捕集」とは、結果的に捕集されるものであればどのような作用機序に基づくものであってもよく、例えば、親和性を有するものをフラーレン構造の内部に閉じ込めるようなものであってもよく、あるいは、同じようなサイズの物質同士で相互作用して凝集するようなものであってもよい。
【0053】
本発明の捕集剤は、捕集する対象物質に親和性を有する、適宜構造体を設計してもよい。例えば、金属等の正電荷を帯びている物質を対象物質とする場合、構造体は、正電荷を帯びている物質に親和性を有する性質、つまり、負電荷を有するものにすればよい。上述の本発明のホモ5量体モノマーが配列番号1に記載のアミノ酸配列を有するタンパク質や、このタンパク質をコードするDNAの変異体やホモログがコードするタンパク質である場合、金属、タンパク質(リゾチーム等の酵素等)又は核酸の捕集に適している。また、本発明の捕集剤は、光学活性な化合物の分離や該化合物の選択的捕集にも適している。
【0054】
本発明の捕集剤は、対象物質を捕集すると、対象物質とともに集合体を形成し得る。集合体は、捕集剤と対象物質との凝集体や、捕集体の空間内部に対象物質が内包された形態であり得る。かかる場合、得られた集合体に、塩(NaCl等)等の添加や、pHの調整によって、捕集剤と対象物質とに解離させることができる。したがって、本発明の捕集剤によれば、対象物質を自在に捕集及び放出できる。
【0055】
捕集剤は、種々の目的で使用してよく、例えば、カラムの担体として使用することで、分析又は分取に用いてもよく、また、フィルターとして用いて目的物質の単離(例えば、環境汚染物質の集団から目的の成分のみ単離すること)に用いてもよい。
【0056】
<捕集する方法>
本発明の方法は、上記の本発明の構造体に対して親和性を有する物質を捕集する方法であって、該構造体を対象物質に接触させる工程を有する方法である。
【0057】
本発明の方法において、構造体、対象物質は上記の本発明の捕集剤と同様のものを用いることができる。
【0058】
構造体と対象物質との接触させる方法は、構造体の使用方法(カラムの担体としての使用方法、フィルターとしての使用方法等)に応じて適宜設定してよい。
【0059】
<DNA>
本発明は、上述の本発明の融合タンパク質をコードするDNAを包含してもよい。
【0060】
<ベクター>
本発明は、上述の本発明のDNAが組み込まれたベクターを含んでもよい。ベクターは、発現ベクターであってもよく、それ以外のベクターであってもよい。
【実施例】
【0061】
<融合タンパク質の作製−1>
(フラーレン構造を有する構造体の設計)
フラーレン構造の切頂二十面体は、5角形12枚と6角形20枚で構成されるいわゆるサッカーボール型の多面体である。この構造を単一分子で構築するため、切頂二十面体の5角形面にホモ5量体モノマーを配置し、空いている6角形の辺に相当する部分に、2量体ペプチドである逆平行型コイルドコイル構造モノマー(2回対称)を配置する分子設計を行った。逆平行型コイルドコイル構造を形成する2量体とホモ5量体のプロトマーを遺伝子上で融合させれば、大腸菌を用いた発現系のみで切頂二十面体構造が自発的に形成される。ホモ5量体モノマーには、海洋微生物由来のSM/LSM−like RNA結合タンパク質(PDB ID=3BY7、配列番号1)を、2量体には、ヒト由来のMyo Xの逆平行コイルドコイル領域(PDB ID=2LW9、配列番号49)を用いた。
【0062】
(遺伝子設計)
5量体と2量体の単量体分子を遺伝子上で融合させた人工タンパク質は大腸菌での発現のためにコドンの最適化を行い、その遺伝子配列を設計した(配列番号52)。このとき、N末端にHistidine−Tagを付与することができるpET−Duet 1ベクターに組換えることができるように、N末端にはBamH I、C末端にはHind IIIの制限酵素認識配列を付与した。なお、配列番号52を以下に示す。
【0063】
【0064】
(発現用ベクターへの組換え)
上記の遺伝子配列はEscherichia coli XL10−Goldにヒートショック法により形質転換し、LB+Ampicillin培地で培養を行い、プラスミド抽出(VIOGENE)した。この増幅したプラスミドとpET−Duet 1ベクターをBamH I、Hind IIIを用いて制限酵素処理した。アガロースゲル電気泳動を行い、目的の挿入配列と切断したpET−Duet 1ベクターをそれぞれゲルから切り取り、精製(VIOGENE)した。それぞれの配列をT4 DNA Ligaseを用いてLigationを行った。作成したプラスミドは同様に形質転換し、培養、プラスミド抽出した。
【0065】
(リンカーの付加)
五量体を形成する面同士の二面角を調整するために、リンカーの付加を行った。配列は、NNK(縮重)コドンを用いたランダム変異導入により取得した。リンカー配列の長さは1〜3のアミノ酸残基となるようにした。
【0066】
(変異導入)
5量体と2量体を繋ぐリンカーを変異PCRによって挿入した。このとき、プライマーはリンカー領域に縮重コドンが含まれるよう設計し(表1)、上述の発現用ベクターを鋳型としてPCRを行った。PCR産物は、鋳型プラスミドを除去するため、10×T Buffer 5.6μL、Dpn I 1.0μL加え、1時間、37℃でインキュベートした。Dpn I処理を行ったPCR産物はアガロースゲル電気泳動を行い、増幅していることを確認した後、E. coli XL10−Goldにヒートショック法により形質転換した。LB+Amp寒天培地で16時間、37℃で培養して得た全てのコロニーは2mL LB+Amp液体培地で懸濁し、プラスミド抽出した後、発現株であるE. coli BL21 Star (DE3)にヒートショック法により形質転換し、リンカー配列を含む融合タンパク質(以下、「実施例に係る融合タンパク質」と呼称する場合がある。)を有する変異体を得た。なお、リンカー配列はArg−Val−Leu(RVL)(配列番号53)であった。以下、本明細書において、かかるリンカー配列を含む融合タンパク質を有する変異体(以下、「ins RVL変異体」と呼称する。)について、後述の複合化評価を行った。
【0067】
【表1】
【0068】
(複合化評価)
ins RVL変異体について、培養・発現、及び融合タンパク質の精製を行った。まず、ins RVL変異体をLB+Amp寒天培地で16時間、37℃で培養し、コロニーを得た。このコロニーを3mL LB+Amp液体培地に植菌し、8時間、37℃で前培養を行った。前培養を行った液体培地2mLを200mL LB+Amp液体培地に移し、2時間、37℃で本培養を行った後、isopropyl β−D−1−thiogalactopyranoside(IPTG)を終濃度1mMになるよう加え、O/N発現誘導を行った。
【0069】
発現誘導後の培養液を、遠心分離(10000×g,10min,4℃)して菌体を回収し、−30℃で一時保存した。培養液100mL分に相当する菌体に20mM Tris−HCl (pH 8)を10 mL加え、超音波破砕(Output3,Duty Cycle 30,20min)した。破砕後上清を遠心分離(10000×g, 10 min, 4℃)して上清を回収した。この上清をNi−NTAアフィニティーカラム(QIAGEN)に流し、発現した融合タンパク質を結合させた後、20 mM Imidazole+20 mM Tris−HCl (pH 8)で10 CV以上洗浄した。その後、500mM Imidazole+20mM Tris−HCl(pH8)を3mL加え、1時間インキュベートした後、溶出した。SDS−PAGEにより、溶出画分に予定していた融合タンパク質由来のアミノ酸配列(配列番号54)に相当する分子量(17.8kDa)のバンドを確認した(
図5)。なお、
図5中、「FT」が、精製前の菌体の抽出液のレーンであり、Washが、精製過程で洗浄した画分のレーンであり、Elutionが、精製後の溶出した融合タンパク質のレーンである。精製したタンパク質は限外濾過を行い、タンパク質濃度が2mg/mLになるまで濃縮を行った後、Blue Native−PAGEを行ったところ、予定していた融合タンパク質により形成されたフラーレン構造の分子量(約1000kDa)のほぼ単一なバンドを確認できた(
図6)。
図6の左側のレーンがマーカーであり、右側のレーンがタンパク質複合体のレーンである。この結果より、融合タンパク質によりフラーレン構造を有する構造体(以下、「実施例に係る構造体」と呼称する場合がある。)が作製できたことがわかった。
【0070】
<複合体の熱安定性の試験>
タンパク質濃度が2mg/mLになるまで濃縮を行ったins RVL変異体における実施例に係る構造体の熱安定性を検討するため、60℃、70℃、80℃、90℃で1時間インキュベートした後、Blue Native−PAGEを行った。その結果を
図7に示す。
図7に示すように、60℃〜80℃では約1000kDaのバンド強度は変化しておらず、フラーレン構造を有する実施例に係る構造体が高い熱安定性を有することがわかった。
【0071】
<粒子サイズ測定>
フラーレン構造を有する実施例に係る構造体の粒子サイズの測定を行う前に、まず、ins RVL変異体を精製後、塩等の小分子化合物を除去するためMWCO 3500の透析チューブ(Thermo Fisher Scientific)を用いて4℃で透析を行った。外液は、タンパク質溶液量に対して100倍量の20 mM Tris−HCl (pH 8)を用いて、2時間おきに2回交換し、2回目の交換後はO/Nインキュベートした。
【0072】
透析したins RVL変異体のタンパク質を、タンパク質濃度が0.10mg/mLになるまで希釈した後、動的光散乱法(DLS)によって粒子サイズを測定し、キュムラント法解析を行った。その結果を、
図8に示す。
図8に示すとおり、Z平均粒子径が11.75nm(半径、直径は23.4nm)、分子量が1070kDaであったことが示され、予定どおりの60量体を形成していることがさらに確認された。
【0073】
<フラーレン構造の切頂二十面体の拡大>
上記ins RVL変異体における実施例に係る構造体において、切頂二十面体の径を拡張するため、該構造体を形成する実施例に係る融合タンパク質のリンカー配列は変化させずに、2量体のN末端がαへリックスであることを利用して、これを伸長させた。挿入する配列はPDBsumにより、2量体のN末端を内部配列に含み、かつその領域が結晶構造解析によってαへリックスであることが既知のタンパク質を選別し、その結果、2量体のN末端4残基と共通した内部配列をもつcortexillin I/GCN4ハイブリッドペプチド(PDB ID=1P9I)を用いた。また、末端のαへリックスが伸びる向きをins RVL変異体と揃えるため、αへリックスが3.6残基/1ターンであることから、ハイブリッドペプチドのうち、7残基(配列番号55)の挿入を行った。
【0074】
ins RVL変異体に形質転換された上記融合タンパク質において、リンカーと2量体の間に、アミノ酸7残基分(配列番号55)をコードする塩基配列を変異PCRによって挿入した。鋳型のプラスミドをins RVL変異体に形質添加された発現ベクターとして7残基挿入を行った。PCR産物についてDpn I処理を行い、アガロースゲル電気泳動を行い、増幅していることを確認した後、E.coli XL10−Goldに対してヒートショック法により形質転換した。LB+Amp寒天培地で16時間、37℃で培養して得たコロニーを2mL LB+Amp液体培地に植菌し、16時間、37℃で培養してプラスミド抽出して、サンガーシーケンシングを行い、配列を確認した後、発現株であるE.coli BL21 Star (DE3)にヒートショック法により形質転換した。以下、得られた変異体を、「ins LLASLEARVL変異体」と呼称する。
【0075】
ins LLASLEARVL変異体を、上述のins RVL変異体と同様の方法で培養・発現、及びタンパク質の精製を行った。精製後、SDS−PAGEにより、溶出画分に融合タンパク質由来のアミノ酸配列に相当する分子量(18.5kDa)の単一のバンドを確認できた。精製したタンパク質について限外濾過を行い、タンパク質濃度が2mg/mLになるまで濃縮を行った後、Blue Native−PAGEを行ったところ、ins LLASLEARVL変異体においては、ins RVL変異体よりも高分子側に挿入したアミノ酸の数に相当する超分子の分子量増加が観察された。この結果から、リンカーの長さを調整することで、フラーレン構造の粒径等を調整できることがわかった。
【0076】
<金属結合能の試験>
報告されたタンパク質の結晶構造を元に、pymolを用いた表面電荷の観察により、5量体タンパク質の五角形平面部分の両面が負に帯電していることから、上記のフラーレン構造を有する構造体の電荷も負に帯電していることが推測された。そこで、金属イオン等の陽イオンに結合できるかを確認した。
【0077】
(二価の金属イオンとの結合試験)
上述した透析したins RVL変異体のタンパク質を、タンパク質濃度が10 mg/mLになるまで濃縮した後、二価の陽イオンであるMnCl
2、CoCl
2、NiCl
2、ZnCl
2を100 mMの濃度で1 mL調整した溶液に加えたところ、全てにおいて凝集を確認した。この結果より、このフラーレン構造を有する実施例に係る構造体のタンパク質は、金属結合能を有することが示された。
【0078】
(Ni2+イオンとの結合量測定)
切頂二十面体1分子にNi
2+イオンが結合する量を調べるため、タンパク質濃度が0.70 mg/mLの透析したins RVL変異体由来の実施例に係る構造体のタンパク質溶液1mLに、7mM NiCl
2を1μL(切頂二十面体1分子に対してNi
2+イオン10分子)ずつ加え、凝集量の指標として赤外分光光度計でベースラインの上昇を測定した。その結果、NiCl
2を6μL加えたとき、ベースラインの上昇が収束したことから、切頂二十面体1分子に対してNi
2+イオンが60分子結合することが示唆された。このins RVL変異体とNiCl
2の混合液に7mM EDTA(pH8)を1μLずつ加えたところ、凝集が再可溶化し、ベースラインが低下した。
【0079】
<金属結合担体としての利用法検討>
ins RVL変異体における融合タンパク質は、金属イオンと結合することで凝集し、EDTAにより金属イオンがキレートされることで再可溶化することから、水中の金属イオンを除去する担体としての利用応用法を検討した。また、ins RVL変異体の精製スケールの拡大を行った。また、ins RVL変異体における実施例に係る構造体が再利用できるよう、金属イオンと結合させて凝集させる際にグルタルアルデヒドによって架橋を行い、EDTAにより金属イオンを除去しても再可溶化しない担体の作製を行った。
【0080】
(タンパク質の大量精製)
まず、目的のタンパク質(実施例に係る構造体のタンパク質)を大量に精製するため、培養液1L分に相当する菌体に20mM Tris−HCl(pH8)を40mL加え、超音波破砕(Output 3, Duty Cycle 30,30min)した。破砕後上清を遠心分離(10000×g,10min,4℃)して上清を回収した。この上清をNi−NTAアフィニティーカラム(fast flow)に流速1.5mL/minで流し、発現したタンパク質を結合させた後、20mM Imidazole+20mM Tris−HCl(pH8)で10CV以上洗浄した。その後、500mM Imidazole+20mM Tris−HCl(pH8)を5CV流し、溶出した。SDS−PAGEにより、溶出画分に同様のバンドを確認した。さらに、タンパク質濃度が2mg/mLになるまで濃縮を行った後、Blue Native−PAGEを行ったところ、同様のバンドを確認した。
【0081】
(金属結合担体の作製)
タンパク質濃度が0.40mg/mLの精製したins RVL変異体における実施例に係る構造体のタンパク質溶液40mLに、1M NiCl2を5mLと25%グルタルアルデヒドを5mL(2.5% final)加えて転倒混和することで担体を作製した。その後、遠心分離(10000×g,10min,4℃)して担体を回収した。担体はNi
2+イオンを除去するため、10mM EDTA(pH8)を20mL加え、遠心分離(10000×g,10min,4℃)して上清を除去した。その後、EDTAを除去するため、20mM Tris−HCl(pH8)を20mL加え、遠心分離(10000×g,10min,4℃)して上清を除去した。洗浄した担体は4℃で保存した。
【0082】
(担体の金属結合量測定)
作製・洗浄した担体は60℃のインキュベーターで乾燥させた後、10mM NiCl
2を1mL加えて混和した。担体と結合していないNi
2+イオンを除去するため、遠心分離(15000rpm,4min,4℃)して上清を除去した。この上清を紫外−可視分光光度計でNi
2+イオンの最大吸収波長における吸光度(
図9における[2])を測定したところ、担体を含まないコントロールの10mM NiCl
2の吸光度(
図9における[1])比較して30%以上の減少が見られた。また、20mM Tris−HCl(pH8)を1mL加え、遠心分離(15000rpm,4min,4℃)して上清を除去することで洗浄を行った。その後、担体に結合した金属イオンを回収するため、10mM EDTA(pH8)を1mL加え混和した後、遠心分離(15000rpm,4min,4℃)して上清を回収した。この上清をNi
2+イオンの最大吸収波長における吸光度を測定したところ、担体とNi
2+イオンとの結合によって減少した吸光度に対応する吸収(
図9における[3])が見られた。
【0083】
(担体の金属濃縮)
作製・洗浄した担体は60℃のインキュベーターで乾燥させた後、1mM NiCl
2を1mL加えて混和した。担体と結合していないNi
2+イオンを除去するため、遠心分離(15000rpm,4min,4℃)して上清を除去した。この担体に再度NiCl
2を加えて上清を除去し、洗浄するという作業を計3サイクル行った。洗浄は、20mM Tris−HCl(pH8)を1mL加え、遠心分離(15000rpm,4min,4℃)して上清を除去することにより行った。上記作業を3サイクル行った後、担体に結合した金属イオンを回収するため、10mM EDTA(pH8)を1mL加え混和した後、遠心分離(15000rpm,4min,4℃)して上清を回収した。この上清を赤外分光光度計でNi
2+イオンの最大吸収波長における吸光度を測定した。その結果を
図10に示す。
図10中、[1]は上記のサイクルを3回行ったときのEDTA処理後の上清の吸光度を、[2]は担体を添加していない1mM NiCl
2(コントロール)の吸光度をそれぞれ示す。この結果から、1mM NiCl
2と比較して約2.5倍に濃縮されたことが確認された。
【0084】
<酵素結合能の試験>
上記<金属結合担体としての利用法検討>に示されるとおり、上記のフラーレン構造を有する構造体は、陽イオンである金属イオンに結合できたことから、負に帯電していることが確認された。そこで、金属イオン同様に正に荷電している酵素に結合できるかを確認した。酵素としては、リゾチームを用いた。
【0085】
(リゾチームとの結合試験)
上述の透析したins RVL変異体のタンパク質を0.05mg/mL以上用いて、該タンパク質1分子あたり、リゾチーム4分子以上となる割合でリゾチームを添加した。リゾチームを添加後、タンパク質の凝集を確認した。この結果より、フラーレン構造を有する構造体の上記タンパク質は、リゾチーム結合能を有することが示された。特に、上記タンパク質1分子あたり、リゾチーム6〜8分子となる割合でリゾチームを添加すると、平均径が150nm程度の均質性の高い凝集体が形成される傾向にあった。なお、ins RVL変異体のタンパク質の平均径は約22nmだった。
【0086】
また、リゾチームを添加後に得られた凝集体に100mMのNaClを添加すると、ins RVL変異体のタンパク質とリゾチームとに解離した。したがって、ins RVL変異体のタンパク質とリゾチームとの結合は制御でき、リゾチームを自在に捕集及び放出できることがわかった。
【0087】
<融合タンパク質の作製−2>
(グラフェン構造を有する構造体の設計)
フラーレンとともに炭素材料としてよく知られるグラフェンは、6角形で構成されるいわゆるハニカム構造を有する。フラーレン構造の設計においては、上記のとおり、海洋微生物由来のSM/LSM−like RNA結合タンパク質を用いたが、LSMタンパク質ファミリーにはホモ6量体(6角形)を形成するものが多い。そこで、グラフェン構造を有する構造体を得るべく、6量体を形成するArchaeoglobus Fulgidus由来のLSM−like RNA結合タンパク質(PDB ID=1LJO、配列番号43)と、Myo Xの逆平行コイルドコイル領域(PDB ID=2LW9、配列番号49)との融合タンパク質を設計した。
【0088】
(遺伝子設計)
6量体と2量体の単量体分子を遺伝子上で融合させた人工タンパク質は、大腸菌での発現のためにコドンの最適化を行い、その遺伝子配列を設計した(配列番号56)。このとき、N末端にHistidine−Tagを付与することができるpET−Duet 1ベクターに組換えることができるように、N末端にはBamH I、C末端にはHind IIIの制限酵素認識配列を付与した。なお、配列番号56を以下に示す。
【0089】
【0090】
(発現用ベクターへの組換え)
上記の遺伝子配列はEscherichia coli XL10−Goldにヒートショック法により形質転換し、LB+Ampicillin培地で培養を行い、プラスミド抽出(VIOGENE)した。この増幅したプラスミドとpET−Duet 1ベクターをBamH I、Hind IIIを用いて制限酵素処理した。アガロースゲル電気泳動を行い、目的の挿入配列と切断したpET−Duet 1ベクターをそれぞれゲルから切り取り、精製(VIOGENE)した。それぞれの配列をT4 DNA Ligaseを用いてLigationを行った。作成したプラスミドは同様に形質転換し、培養、プラスミド抽出した後、発現株であるE. coli BL21 Star (DE3)にヒートショック法により形質転換した。
【0091】
(培養及び発現)
上記で形質転換された発現株を、LB+Amp寒天培地で16時間、37℃で培養し、コロニーを得た。このコロニーを3mL LB+Amp液体培地に植菌し、8時間、37℃で前培養を行った。前培養を行った液体培地2mLを200mL LB+Amp液体培地に移し、2時間、37℃で本培養を行った後、isopropyl β−D−1−thiogalactopyranoside(IPTG)を終濃度1mMになるよう加え、O/N発現誘導を行った。
【0092】
(精製)
上記発現誘導後の培養液を、遠心分離(10000×g,10分間,4℃)して菌体を回収し、−30℃で一時保存した。培養液100mL分に相当する菌体に20mM Tris−HCl(pH 8)を10mL加え、超音波破砕(Output 3,Duty Cycle 30,20分間)した。破砕後上清を遠心分離(10000×g,10分間,4℃)して上清を回収した。この上清をNi−NTAアフィニティーカラム(QIAGEN)に流し、発現したタンパク質を結合させた後、20mM Imidazole+20mM Tris−HCl(pH 8)で10CV以上洗浄した。その後、500mM Imidazole+20mM Tris−HCl(pH 8)を3mL加え、1時間インキュベートした後、溶出した。SDS−PAGEにより、溶出画分に人工タンパク質由来のアミノ酸配列(配列番号57)に相当する分子量(16.3 kDa)のバンドを確認した。なお、配列番号57を以下に示す。
【0093】
【0094】
(複合化評価)
精製したタンパク質を電気泳動により可視化するため、Amicon Ultra 3K (Merck Milipore)で限外濾過を行い、タンパク質濃度が2mg/mLになるまで濃縮を行った。タンパク質複合体は、非変性条件下で泳動することが可能であるBlue Native−PAGEを行うことで評価した。その結果、設計したタンパク質が多量化したもの(グラフェン構造を有する構造体)とみられるバンドを確認した。