【実施例1】
【0012】
<構成>以下、この実施例の構成について説明する。
【0013】
図1に示すように、自動車などの車両1に対し、ヘッドアップディスプレイ装置2(車両用ヘッドアップディスプレイ装置)を設置する。このヘッドアップディスプレイ装置2は、情報を表示する表示装置3と、表示装置3の画像4を運転席5の前方に虚像6として表示可能な反射部7と、を備えている。
【0014】
ここで、車両1用のヘッドアップディスプレイ装置2の場合、表示装置3は、主に、運転を支援する情報を表示し得るようになっている。表示装置3には、液晶パネルや有機ELパネルを用いることができる。液晶パネルや有機ELパネルは、表面に偏光板11を有している。この偏光板11により、表示装置3からの出射光は偏光した光(偏光光)となる。
【0015】
反射部7は、フロントウィンドウガラス12(W/S:ウィンドウシールド)や車室内に設置した反射板(コンバイナ)などとすることができる。この実施例では、フロントウィンドウガラス12を反射部7としている。なお、フロントウィンドウガラス12は、楔形状断面のガラスを用いたり、反射膜を設けたりすることで表示装置3の画像4を反射して虚像6を映すことができるようになる。
【0016】
そして、表示装置3と反射部7との間には、表示装置3の画像4を運転席5の前方に設けた反射部7へ導くための光学部品13を単数または複数設けることができる。光学部品13には、光路を曲げたり、表示装置3から反射部7までの光路長を長くしたりするための平面鏡や、更に画像4を拡大するための凹面鏡などがある。
【0017】
表示装置3および光学部品13は、ケーシング14に収容した状態で、車室内の前部に設置したインストルメントパネル15の内部に設置することができる。インストルメントパネル15は、上面に表示装置3の画像4を反射部7へ導く開口部16を有している。開口部16には、必要に応じて、透明な保護カバー17を設けることができる。
【0018】
以上のような基本的な構成に対し、この実施例では、以下のような構成を備えるようにしている。
【0019】
(1)表示装置3の表示面上に、表示装置3からの出射光の偏光方向を変換可能な位相差板21を配置する。
【0020】
ここで、位相差板21は、表示装置3の表示面全体を覆うように、表示装置3の表示面と平行に設置する。位相差板21には、1/2波長板や1/4波長板などを用いることができる。位相差板21は、表示装置3の偏光板11とは別に設けたものとする。
【0021】
(2)
図2に示すように、表示装置3に対する位相差板21の軸31(透過軸)の角度を変更可能な軸角度変更手段32を備える。
図3に示すように、軸角度変更手段32は、偏光サングラス33(
図1参照)の非装着時に虚像6を視認可能な非装着用角度34と、偏光サングラス33の装着時に虚像6を視認可能な装着用角度35との間で位相差板21の軸31の角度を変更可能にする。
【0022】
ここで、軸角度変更手段32は、表示装置3の偏光板11の偏光軸に対して位相差板21の軸31の角度が変わるように位相差板21を表示装置3の表示面に沿って回転するものとなっている。軸角度変更手段32は、非装着用角度34と装着用角度35との間で連続的に回転するものとしても良いし、または、非装着用角度34と装着用角度35とのどちらかとなるように回転するものとしても良い。
【0023】
非装着用角度34は偏光サングラス33の非装着時に虚像6を最大輝度または最大に近い輝度で視認可能な角度にするのが好ましい。また、装着用角度35は偏光サングラス33の装着時に虚像6を最大輝度または最大に近い輝度で視認可能な角度にするのが好ましい。
【0024】
具体的には、例えば、液晶パネルや有機ELパネルのような偏光板11を有する表示装置3からの出射光をS波にする。この場合、裸眼での輝度が最大となるのは、表示装置3からの出射光の偏光方向が0°の時である。また、偏光サングラス33の装着時に輝度が最大となるのは、表示装置3からの出射光の偏光方向が90°になった時である。
【0025】
よって、位相差板21が1/2波長板の場合には、表示装置3からの出射光の偏光方向が0°になる非装着用角度34は0°であり、表示装置3からの出射光の偏光方向が90°回転するための装着用角度35は45°となる。この場合には、軸角度変更手段32は、1/2波長板の軸31の角度を少なくとも0°〜45°の範囲で変更できるようにする。
【0026】
また、位相差板21が1/4波長板の場合、表示装置3からの出射光の偏光方向が0°になる非装着用角度34は0°であり、表示装置3からの出射光の偏光方向が90°回転するための装着用角度35は22.5°となる。この場合には、軸角度変更手段32は、1/4波長板の軸31の角度を少なくとも0°〜22.5°の範囲で変更できるようにする。
【0027】
(3)軸角度変更手段32の具体的構成は、
図2に示すように、
位相差板21を表示装置3の面に沿って回動する回動ガイド部41と、
位相差板21を非装着用角度34となるように付勢する付勢手段42と、
付勢手段42の付勢力に抗して位相差板21を装着用角度35となるように回動する回動駆動部43と、を有するものとすることができる。
【0028】
ここで、例えば、位相差板21を表示装置3の表示面よりも大きい円形のものにする。そして、回動ガイド部41を、円形の位相差板21を回動自在に保持するガイド枠などとする。付勢手段42は、位相差板21を回動するように付勢可能なコイルバネなどとする。この付勢手段42は、位相差板21と回動ガイド部41との間に、装着用角度35から非装着用角度34へと角度変更可能となるように介装する。
【0029】
また、回動駆動部43は、位相差板21を位相差板21の付勢方向とは逆方向へ回動駆動可能なものとする。回動駆動部43には、例えば、モータやシリンダなどを用いることができる。回動駆動部43は、位相差板21と回動ガイド部41との間に、非装着用角度34から装着用角度35へと角度変更可能となるように介装する。
【0030】
(4)そして、好ましくは、回動駆動部43は、電磁石51としても良い。
【0031】
ここで、回動駆動部43を電磁石51とする場合、電磁石51は、ガイド枠に固定する。そして、位相差板21の周縁部に、電磁石51によって吸着される吸着部52を突設する。
【0032】
<作用>以下、この実施例の作用について説明する。
【0033】
ヘッドアップディスプレイ装置2は、表示装置3に液晶パネルや有機ELパネルを使用している。液晶パネルや有機ELパネルは、表面に設けた偏光板11によって、画像4を偏光した光(偏光光)として出射する。液晶パネルや有機ELパネルからの出射光は、
図4に示すように、反射部7に対して水平な方向に振動するS波や、反射部7に対して垂直な方向に振動するP波などに設定することができる。このうち、
図5に示すように、S波は反射部7(この場合は、フロントウィンドウガラス12などのガラスの傾斜角度に応じた入射角α)での反射率が比較的高く、P波は反射部7での反射率が比較的低くなる。
【0034】
一方、運転中に乗員が装着するような偏光サングラス33は、路面反射を低減するためにS波をカットするようになっている(
図4参照)。
【0035】
そのため、
図6に示すように、液晶パネルや有機ELパネルなどの表示装置3からの出射光を反射部7での反射率が高いS波にすると、偏光サングラス33を装着した時にヘッドアップディスプレイ装置2の表示がカットされてしまい、暗くなって全く見えなくなってしまう。
【0036】
反対に、液晶パネルや有機ELパネルなどの表示装置3からの出射光を反射部7での反射率が低いP波にすると、反射部7での反射率が低いために、例えば、雪や霧などのように車両1の周辺環境が明るくなっている時に、偏光サングラス33を装着していない裸眼などの状態であってもヘッドアップディスプレイ装置2の表示が暗くなって見え難くなる。
【0037】
<効果>この実施例によれば、以下のような効果を得ることができる。
【0038】
(効果1)
図7に示すように、表示装置3の表示面上に位相差板21を配置した。これにより、表示装置3からの出射光の偏光方向を、位相差板21を用いてS波やP波に変換することが可能になる。その結果、位相差板21を用いて表示装置3からの出射光の偏光方向を適宜変更・調整することにより、偏光サングラス33を装着していない裸眼などの時でも、また、偏光サングラス33を装着した時でも、ヘッドアップディスプレイ装置2の表示が良く見えるようにすることができる。例えば、位相差板21の軸31を
図3の角度36で固定することにより、裸眼などの時と偏光サングラス33を装着した時の両方でヘッドアップディスプレイ装置2の表示を良く見ることができる。
【0039】
(効果2)表示装置3に対する位相差板21の軸31の角度を変更可能な軸角度変更手段32を設けるようにしても良い。これにより、軸角度変更手段32を用いて位相差板21の軸31の角度を変更することで、表示装置3からの出射光の偏光方向をS波やP波に簡単確実に変換することが可能になる。
【0040】
そして、軸角度変更手段32を、必要に応じて、
図8に示すように、偏光サングラス33の非装着時に虚像6を視認可能な非装着用角度34と、偏光サングラス33の装着時に虚像6を視認可能な装着用角度35とのどちらかに位相差板21の軸31の角度を切り替え可能となるようにしても良い。これにより、偏光サングラス33の非装着時には位相差板21を非装着用角度34側へ回転し、偏光サングラス33の装着時には位相差板21を装着用角度35側へ回転することで、偏光サングラス33の非装着時および装着時のどちらにおいても虚像6を最も良い状態で視認できるようになり、切り替えも簡単に行うことが可能になる。非装着用角度34と装着用角度35との間の切り替えは、スイッチ操作などによって(電磁石51をON−OFFすることなどにより)ワンタッチで行うことができる。
【0041】
具体的には、液晶パネルや有機ELパネルなどの表示装置3からの出射光をS波にする。そして、位相差板21の軸31の角度(非装着用角度34)を0°にすることにより、位相差板21を通った光がほぼS波のままとなる。その結果、反射部7での反射率が最大になる。よって、車両1周辺環境が明るい時でも表示装置3の表示を裸眼などによって最大輝度で視認することができるようになる。
【0042】
そして、例えば、位相差板21、例えば、1/2波長板の軸31の角度(装着用角度35)を45°またはその近辺に変更することにより(1/4波長板の場合には22.5°)、液晶パネルや有機ELパネルなどの表示装置3からの出射光が位相差板21で90°回転してS波がP波に変換される。よって、偏光サングラス33を装着した状態で、表示装置3の表示を最も良く視認することができるようになる。
【0043】
なお、位相差板21の軸31の角度を変えることによって、反射部7での反射率と偏光サングラス33の透過率とのバランスが変わるので、装着用角度35は、P波とS波とがバランス良く混在した状態となるように設定することができる。
【0044】
また、上記した位相差板21は、温度によって変換効率が変わることがないので、どのような環境下であっても安定した特性を得ることができる。
【0045】
(効果3)軸角度変更手段32は、回動ガイド部41と、付勢手段42と、回動駆動部43とによって構成することができる。これにより、回動駆動部43をOFFにすると、付勢手段42の付勢力で位相差板21が非装着用角度34となり、回動駆動部43をONにすると、回動駆動部43の駆動力によって(付勢手段42の付勢力に抗して)位相差板21が装着用角度35になるので、回動駆動部43のON、OFFによって簡単確実に非装着用角度34と装着用角度35とを切り替えることができる。
【0046】
この際、通常時は、回動駆動部43がOFFで位相差板21が非装着用角度34となるようにし、偏光サングラス33の装着時には、回動駆動部43をONにして位相差板21が装着用角度35となるようにすることで、切り替えの手間を減らすことができる。
【0047】
(効果4)回動駆動部43には電磁石51を使うことができる。これにより、電磁石51をOFFにすると、付勢手段42の付勢力で位相差板21が非装着用角度34となり、電磁石51をONにすると、電磁石51の磁力によって(吸着部52が電磁石51に吸着されることで)位相差板21が装着用角度35となるようにできるので、電磁石51のON、OFFによって簡単確実に非装着用角度34と装着用角度35とを切り替えることが可能となる。また、電磁石51を用いることで、機械的な可動部分が少なくなるので、機械的な故障を減らすことができる。