特許第6957113号(P6957113)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6957113
(24)【登録日】2021年10月8日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】レーザ制御装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20211021BHJP
   B23K 26/0622 20140101ALI20211021BHJP
   H01S 3/00 20060101ALI20211021BHJP
   H01S 3/102 20060101ALI20211021BHJP
【FI】
   B23K26/00 M
   B23K26/00 N
   B23K26/0622
   H01S3/00 G
   H01S3/102
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-13218(P2018-13218)
(22)【出願日】2018年1月30日
(65)【公開番号】特開2019-130547(P2019-130547A)
(43)【公開日】2019年8月8日
【審査請求日】2020年8月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105887
【弁理士】
【氏名又は名称】来山 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】田中 研太
(72)【発明者】
【氏名】河村 譲一
(72)【発明者】
【氏名】萬 雅史
(72)【発明者】
【氏名】岡田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】田坂 泰久
【審査官】 山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−188560(JP,A)
【文献】 特開2015−153917(JP,A)
【文献】 特開2014−183153(JP,A)
【文献】 特開2002−299736(JP,A)
【文献】 特開2000−126879(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0298650(US,A1)
【文献】 米国特許第05339323(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 − 26/70
H01S 3/00 − 3/02、3/04 − 3/0959、3/098 − 3/102、3/105 − 3/131、
3/136 − 3/213、3/23 − 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルスレーザビームを出力するレーザ発振器の励起開始からレーザパルスの立ち上がりまでの経過時間であるビルドアップ時間を求めて測定値とし、
前記ビルドアップ時間の測定値が長くなるに従って、前記レーザ発振器から出力されているレーザパルスのパルス幅の指令値が長くなるように指令値を算出し、
現時点で出力されているレーザパルスのパルス幅が算出された指令値になるように前記レーザ発振器を制御するレーザ制御装置。
【請求項2】
さらに、前記レーザ発振器から出力されるパルスレーザビームの平均出力の測定値に基づいて、前記レーザ発振器の励振強度を調整する請求項1に記載のレーザ制御装置。
【請求項3】
レーザパルスのパルス幅の指令値を算出する際に、前記ビルドアップ時間の測定値を、前記ビルドアップ時間の基準値と比較し、比較結果に基づいてレーザパルスのパルス幅の指令値を算出する請求項1または2に記載のレーザ制御装置。
【請求項4】
レーザパルスのパルス幅の指令値を算出する際に、前記ビルドアップ時間の測定値に基づいて、前記ビルドアップ時間の基準値を更新する請求項3に記載のレーザ制御装置。
【請求項5】
前記ビルドアップ時間の基準値を周期的に更新し、前記ビルドアップ時間の基準値を、レーザパルスの前記ビルドアップ時間の測定値の直前の周期の平均値に更新する請求項4に記載のレーザ制御装置。
【請求項6】
レーザパルスのパルス幅の指令値を算出する際に、前記ビルドアップ時間の測定値が前記ビルドアップ時間の基準値より長くなるに従って、レーザパルスのパルス幅の指令値をパルス幅の基準値より長くし、前記ビルドアップ時間の測定値が前記ビルドアップ時間の基準値より短くなるに従って、レーザパルスのパルス幅の指令値をパルス幅の基準値より短くする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のレーザ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント配線板の穴明け加工等に、パルスレーザ光を利用した加工技術が用いられる。特許文献1に、所望のパルス幅を持つパルスレーザ光を出力することが可能なレーザ加工装置が開示されている。このレーザ加工装置においては、レーザ共振器にパルスレーザ光を出力させるパルス制御電源をオンにした後、レーザ共振器から実際に出力されたパルスレーザ光の出力タイミング及びパルス幅指令に基づいて、パルス制御電源をオフにする。パルス制御電源をオンにしてから実際にパルスレーザ光が出力されるまでの時間がばらついても、パルス幅を指令された値に維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2014/010046号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
パルスレーザビームを用いて加工を行う際には、1パルス当たりのエネルギ(パルスエネルギ)を一定にすることが重要である。本願の発明者らの評価実験によると、パルス幅を指令された値に維持しても、パルスエネルギのばらつきを抑制する効果が十分ではない場合があることが判明した。
【0005】
本発明の目的は、パルスエネルギのばらつきを抑制することが可能なレーザ制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一観点によると、
パルスレーザビームを出力するレーザ発振器の励起開始からレーザパルスの立ち上がりまでの経過時間であるビルドアップ時間を求めて測定値とし、
前記ビルドアップ時間の測定値が長くなるに従って、前記レーザ発振器から出力されているレーザパルスのパルス幅の指令値が長くなるように指令値を算出し、
現時点で出力されているレーザパルスのパルス幅が算出された指令値になるように前記レーザ発振器を制御するレーザ制御装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
ビルドアップ時間の測定値が長くなるにしたがって、レーザ発振器から出力されているレーザパルスのパルス幅の指令値を長くすることにより、パルス幅を一定にした場合と比べてパルスエネルギのばらつきを少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施例によるレーザ制御装置を搭載したレーザ加工装置の概略図である。
図2図2は、実施例によるレーザ制御装置からレーザ発振器に送信される発振指令信号S0、及び光検出器からレーザ制御装置に与えられる検出信号S1の波形を示すグラフである。
図3図3Aは、パルス幅が一定の条件下における放電電圧とパルスエネルギとの関係を示すグラフであり、図3Bは、放電電圧とビルドアップ時間との関係を示すグラフであり、図3Cは、パルス幅が一定の条件下におけるビルドアップ時間とパルスエネルギとの関係を示すグラフである。
図4図4Aは、実施例によるレーザ制御装置のブロック図の一例であり、図4Bは、実施例によるレーザ制御装置の記憶部に記憶されているビルドアップ時間の測定値とパルス幅の指令値との対応関係をグラフで示す図である。
図5図5は、実施例によるレーザ制御装置が実行する処理のフローチャートである。
図6図6は、ステップSA4(図5)の処理を示すフローチャートである。
図7図7Aは、ビルドアップ時間に依らずパルス幅を一定にした場合のビルドアップ時間の測定値とパルスエネルギの測定値との関係を示すグラフであり、図7Bは、実施例によるレーザ制御装置を用いた場合のビルドアップ時間の測定値とパルスエネルギの測定値との関係を示すグラフである。
図8図8Aは、他の実施例によるレーザ制御装置のブロック図であり、図8Bは、平均出力の測定値と放電電圧の指令値との対応関係を示すグラフである。
図9図9は、図8Aに示した実施例によるレーザ制御装置が放電電圧を制御する処理のフローチャートである。
図10図10は、図8Aに示した実施例によるステップSA4(図5)のフローチャートである。
図11図11は、ビルドアップ時間の基準値を不変とした場合における放電電圧の指令値、レーザ発振器20の平均出力の測定値、ビルドアップ時間の測定値、及びパルス幅の指令値の時間変化の一例を示すグラフである。
図12図12は、図8Aに示した実施例によるレーザ制御装置を用いた場合における放電電圧の指令値、レーザ発振器の平均出力の測定値、ビルドアップ時間の測定値、及びパルス幅の指令値の時間変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1図7Bを参照して、実施例によるレーザ制御装置について説明する。
【0010】
図1は、実施例によるレーザ制御装置30を搭載したレーザ加工装置の概略図である。レーザ発振器20が、レーザ制御装置30から発振指令信号S0を受けてパルスレーザビームを出力する。レーザ発振器20として、種々のパルスレーザ発振器、例えば、パルス発振する炭酸ガスレーザ発振器等を用いることができる。レーザ発振器20は、光共振器、放電電極、放電電極駆動回路等を含む。
【0011】
レーザ発振器20から出力されたパルスレーザビームが、第1光学系21を通過し、ベンディングミラー22で反射され、第2光学系23を通過して、ステージ24に保持された加工対象物25に入射する。加工対象物25は、例えばプリント配線基板であり、パルスレーザビームによって穴明け加工が行われる。
【0012】
ベンディングミラー22に入射したパルスレーザビームの一部はベンディングミラー22を透過して光検出器26に入射する。光検出器26は、入射したレーザパルスを検出し、レーザパルスの光強度に応じた電気信号である検出信号S1を出力する。光検出器26として、パルス波形の変化に追従することが可能な応答速度を持つ赤外線センサ、例えばテルル化カドミウム水銀センサ(MCTセンサ)等を用いることができる。なお、光検出器26は、レーザ発振器20のレーザ射出口の直後に配置してもよい。
【0013】
第1光学系21は、ビームエキスパンダ、非球面レンズ、アパーチャ等を含む。ビームエキスパンダは、レーザビームのビーム径及び広がり角を変化させる。非球面レンズは、ビームプロファイルをガウシアン形状からトップフラット形状に変化させる。アパーチャは、ビーム断面形状を整形する。
【0014】
第2光学系23は、ビーム走査器、fθレンズ等を含む。ビーム走査器は、例えば一対のガルバノミラーを含み、レーザ制御装置30からの指令によりレーザビームを二次元方向に走査する。fθレンズは、ビーム走査器で走査されたレーザビームを加工対象物25の表面に集光する。なお、アパーチャの位置を加工対象物25の表面に縮小投影する構成としてもよい。
【0015】
ステージ24は、例えば水平な保持面に加工対象物25を保持し、加工対象物25を水平面内の二方向に移動させることができる。レーザ制御装置30が、ステージ24の移動を制御する。ステージ24には、例えばXYステージが用いられる。
【0016】
レーザ制御装置30は、光検出器26によるレーザパルスの検出信号S1に基づいて、レーザ発振器20から出力されるパルスレーザビームのパルス幅を、パルスエネルギが一定になるように、レーザパルスごとに調整する。
【0017】
図2は、レーザ制御装置30(図1)からレーザ発振器20(図1)に送信される発振指令信号S0、及び光検出器26(図1)からレーザ制御装置30(図1)に与えられる検出信号S1の波形を示すグラフである。
【0018】
時刻t0において発振指令信号S0が立ち上がると、レーザ発振器20は、放電電極への高周波電力の供給を開始する。放電電極への高周波電力の供給を開始することにより、レーザ発振器20のレーザ媒質の励起が開始される。すなわち、発振指令信号S0の立ち上がりが、レーザ発振器20の発振開始指令に相当し、発振指令信号S0の立ち上がり時点が、レーザ発振器20の励起開始の時点に相当する。
【0019】
励起開始の時刻t0から遅れて、時刻t1においてレーザパルスが立ち上がる。レーザパルスの立ち上がりに対応して、検出信号S1も立ち上がる。励起開始の時刻t0からレーザパルスの立ち上がりの時刻t1までの経過時間をビルドアップ時間BUということとする。レーザパルスの立ち上がり時に、ゲインスイッチングによる極短時間のピーク波形が現れ、その後ほぼ一定の光強度が維持される。ほぼ一定の光強度が維持される部分を、パルス波形の主部ということとする。
【0020】
時刻t2において発振指令信号S0が立ち下がると、レーザ発振器20は、放電電極への高周波電力の供給を停止する。放電電極への高周波電力の供給を停止すると、レーザ発振器20のレーザ媒質の励起が行われなくなる。すなわち、発振指令信号S0の立ち下がりが、レーザ発振器20の励起停止の指令を意味する。レーザ発振器20の励起が停止されると、レーザ発振器20から出力されるレーザパルスの強度が急激に低下する。
【0021】
検出信号S1の1つのパルス波形を時間で積分した値は、1パルス当たりのエネルギ(パルスエネルギ)によって決まる。本明細書において、パルスエネルギによって決まるこの積分値を、「パルスエネルギ依存物理量」ということとする。
【0022】
ゲインスイッチングによる極短時間のピーク波形の時間幅は、全体のパルス幅に比べて十分短いため、パルス波形からゲインスイッチングによる極短時間のピーク波形を除いた部分の積分値を、パルスエネルギ依存物理量として採用してもよい。また、励起停止後のテール部分の時間幅も、レーザパルスのパルス幅に比べて十分短く、かつテール部分の光強度は、時間の経過とともに急激に低下するため、テール部分を除いたパルス波形の積分値をパルスエネルギ依存物理量として採用してもよい。このように、パルス波形の主部の積分値をパルスエネルギ依存物理量として採用してもよい。
【0023】
図3Aは、パルス幅が一定の条件下におけるレーザ発振器20の放電電圧とパルスエネルギとの関係を示すグラフである。放電電圧が高くなるとレーザ発振器20へ投入される高周波電力が大きくなる。放電電圧が高くなり、投入される高周波電力が大きくなると、レーザ媒質がより強く励起される。その結果、パルスエネルギが高くなる。このため、放電電圧、高周波電力等は、励起強度ということができる。
【0024】
図3Bは、放電電圧とビルドアップ時間との関係を示すグラフである。放電電圧が高くなると、レーザ媒質の励起状態がより早く発振閾値まで達するため、ビルドアップ時間が短くなる。
【0025】
図3Cは、パルス幅が一定の条件下におけるビルドアップ時間とパルスエネルギとの関係を示すグラフである。図3Aに示した放電電圧とパルスエネルギとの関係、及び図3Bに示した放電電圧とビルドアップ時間との関係から、ビルドアップ時間が長くなるに従って、パルスエネルギが低下することがわかる。逆に、ビルドアップ時間が短くなると、パルスエネルギが大きくなる。
【0026】
図3A図3Cでは、一例として、ビルドアップ時間が放電電圧によって変化する例を示したが、ビルドアップ時間を変化させる因子は放電電圧のみではない。その他の因子によってもビルドアップ時間が変化するが、パルス幅が一定の条件の下では、通常、図3Cに示したように、ビルドアップ時間が長くなるに従ってパルスエネルギが低下する傾向を示す。
【0027】
図4Aは、実施例によるレーザ制御装置30のブロック図の一例である。レーザ制御装置30は、レーザパルス検出部31、信号送信部32、パルス幅調整部33、及び記憶部34を含む。
【0028】
レーザパルス検出部31は、光検出器26からの検出信号S1を受けて、レーザパルスの立ち上がり時刻を検出する。信号送信部32は、レーザ発振器20に発振指令信号S0を送信する。
【0029】
記憶部34に、ビルドアップ時間の測定値とパルス幅の指令値との対応関係が記憶されている。
【0030】
図4Bは、記憶部34に記憶されているビルドアップ時間の測定値とパルス幅の指令値との対応関係をグラフで示す図である。ビルドアップ時間の測定値が基準値BUrefのとき、パルス幅の指令値が基準値PWrefに対応付けられている。ビルドアップ時間の測定値が基準値BUrefより長くなるに従って、パルス幅の指令値が基準値PWrefより長くなり、ビルドアップ時間の測定値が基準値BUrefより短くなるに従って、パルス幅PWの指令値が基準値PWrefより短くなるように、両者の対応関係が定義されている。
【0031】
パルス幅調整部33(図4A)は、信号送信部32から発振指令信号S0の立ち上がり時点(図2のt0)を示す情報を取得し、レーザパルス検出部31からレーザパルスの立ち上がり時点(図2のt1)を示す情報を取得する。パルス幅調整部33は、取得したこれらの情報からビルドアップ時間(図2)を求めて、ビルドアップ時間の測定値とする。さらに、ビルドアップ時間の測定値、及び記憶部34に記憶されている対応関係に基づいて、レーザパルスのパルス幅の指令値を算出する。
【0032】
信号送信部32は、パルス幅調整部33で算出されたパルス幅の指令値を取得する。さらに、信号送信部32は、現在出力されているレーザパルスのパルス幅が、パルス幅の指令値に一致するように、レーザ発振器20に送信している発振指令信号S0(図2)を立ち下げる。これにより、レーザ発振器20から出力されているレーザパルスのパルス幅が指令値にほぼ一致する。
【0033】
図5は、実施例によるレーザ制御装置30(図4A)が実行する処理のフローチャートである。
信号送信部32がレーザ発振器20に対して、発振開始指令を送信する(ステップSA1)。具体的には、発振指令信号S0(図2)を立ち上げる。これにより、レーザ発振器20から出力されるレーザパルスが立ち上がる。レーザパルス検出部31(図4)が検出信号S1(図2)を取得し、レーザパルスの立ち上がりを検出する(ステップSA2)。
【0034】
レーザパルスの立ち上がりが検出されると、パルス幅調整部33が、ビルドアップ時間の測定値を算出する(ステップSA3)。さらに、パルス幅調整部33は、ビルドアップ時間の測定値に基づいて、記憶部34に記憶されている対応関係を参照してパルス幅の指令値を算出する(ステップSA4)。その後、信号送信部32が、現時点のレーザパルスのパルス幅が指令値に一致するように、レーザ発振器20に対して発振停止指令を送信する(ステップSA5)。具体的には、発振指令信号S0(図2)を立ち下げる。
【0035】
ステップSA1からステップSA5までの処理を、レーザ加工が終了するまで繰り返す(ステップSA6)。
【0036】
図6は、ステップSA4(図5)の処理を示すフローチャートである。まず、パルス幅調整部33が、ビルドアップ時間の測定値を基準値BUref図4B)と比較する(ステップSA41)。さらに、パルス幅調整部33は、比較結果、及び記憶部34に記憶されている対応関係に基づいて、パルス幅の指令値を算出する(ステップSA42)。
【0037】
次に、上記実施例によるレーザ制御装置30でレーザ加工装置を制御することにより得られる優れた効果について説明する。
【0038】
炭酸ガスレーザ発振器等のパルスレーザ発振器においては、図3Cに示したように、パルス幅が一定であっても、ビルドアップ時間が長くなるに従ってパルスエネルギが低下する傾向を示す。実施例においては、図4Bに示したように、ビルドアップ時間の測定値が長くなるに従って、現在出力されているレーザパルスのパルス幅の指令値を長くすることにより、パルスエネルギの低下を補償している。このため、パルス幅が一定になるように制御する場合に比べて、パルスエネルギのばらつきを少なくすることができる。
【0039】
次に、図7A及び図7Bを参照して、上記実施例によるレーザ制御装置30を用いることにより得られる効果を評価実験により確認した結果について説明する。
【0040】
図7Aは、ビルドアップ時間に依らずパルス幅を一定にした場合のビルドアップ時間の測定値とパルスエネルギの測定値との関係を示すグラフである。横軸はビルドアップ時間を任意単位で表し、縦軸はパルスエネルギを任意単位で表す。1つのレーザパルスに関する測定値を1つの丸記号で表している。ビルドアップ時間が長くなるに従ってパルスエネルギが低下する傾向が得られていることがわかる。
【0041】
図7Bは、上記実施例によるレーザ制御装置30を用いた場合のビルドアップ時間の測定値とパルスエネルギの測定値との関係を示すグラフである。このときのパルスエネルギの分布の標準偏差は、図7Aに示したパルスエネルギの標準偏差より小さい。実施例によるレーザ制御装置30を用いることにより、パルスエネルギのばらつきが小さくなることが確認された。
【0042】
次に、図8A図12を参照して、他の実施例によるレーザ制御装置について説明する。以下、図1図7Bに示した実施例によるレーザ制御装置と共通の構成については説明を省略する。本実施例においては、レーザパルスのパルス幅のみならず、レーザ発振器20に与える励振強度を変化させる。励振強度を変化させるためには、例えば、放電電極に印加する放電電圧の大きさを変化させてもよいし、放電電極に供給する高周波電流のデューティを変化させてもよい。以下の説明では、放電電圧を変化させることによって励振強度を変化させている。
【0043】
図8Aは、本実施例によるレーザ制御装置30のブロック図である。本実施例によるレーザ制御装置30は、図4Aに示した実施例によるレーザ制御装置30の各部に加えて、平均出力算出部35及び平均出力調整部36を有する。さらに、記憶部34に、平均出力の測定値と励振強度の指令値との対応関係が記憶されている。
【0044】
図8Bは、平均出力の測定値と放電電圧の指令値との対応関係を示すグラフである。平均出力の測定値が基準値Prefのとき、放電電圧の指令値が基準値Vrefに対応する。平均出力の測定値が基準値Prefより高くなるに従って、放電電圧の指令値が低下する傾向を示す。逆に、平均出力の測定値が基準値Prefより低くなるに従って、放電電圧の指令値が高くなる傾向を示す。
【0045】
平均出力算出部35(図8A)は、光検出器26からの検出信号S1(図2)に基づいて、ある一定期間の平均出力を算出し、平均出力の測定値とする。平均出力は、一定期間に取得されたパルス波形の積分値の合計値を、一定期間の長さで除することにより算出することができる。
【0046】
平均出力調整部36は、平均出力の測定値と、記憶部34に記憶されている対応関係(図8B)とに基づいて、放電電圧の指令値を算出する。例えば、平均出力の測定値が基準値Prefより大きくなるに従って、放電電圧の指令値を基準値Vrefより小さくし、平均出力の測定値が基準値Prefより小さくなるに従って、放電電圧の指令値を基準値Vrefより大きくする。
【0047】
信号送信部32は、平均出力調整部36で求められた放電電圧の指令値に基づいて、レーザ発振器20に放電電圧を指令する信号S2を送信する。レーザ発振器20は、レーザ媒質の励起時に、信号S2で指令された放電電圧を放電電極に印加する。
【0048】
図9は、本実施例によるレーザ制御装置30(図8A)が放電電圧を制御する処理のフローチャートである。
【0049】
レーザ制御装置30が起動されると、放電電圧の指令値を基準値Vrefに設定する(ステップSB1)。レーザパルスを出力する際に、現時点の放電電圧の指令値に基づいて、レーザ発振器20を励振する(ステップSB2)。放電電圧の指令値は、一定期間固定される。放電電圧の指令値が固定される一定期間を「放電電圧固定期間」ということとする。放電電圧固定期間の間にも、図4に示したビルドアップ時間に基づくパルス幅の調整が、レーザパルスごとに行われる。
【0050】
放電電圧の指令値を設定してから放電電圧固定期間が経過すると、平均出力算出部35(図8A)が、放電電圧固定期間の平均出力を算出し、平均出力の測定値とする(ステップSB3)。平均出力調整部36(図8A)が、放電電圧の指令値を、平均出力の測定値と、記憶部34に記憶されている対応関係(図8B)とに基づいて更新する(ステップSB4)。信号送信部32が、更新された指令値をレーザ発振器20に送信する。ステップSB2からステップSB4までの処理を、レーザ加工が終了するまで繰り返す(ステップSB5)。
【0051】
図10は、図5のステップSA4のフローチャートである。ステップSA41及びステップSA42は、図6に示した実施例の対応するステップと同一である。図6に示した実施例では、ビルドアップ時間の基準値BUrefが不変であった。本実施例では、周期的にビルドアップ時間の基準値BUrefをビルドアップ時間の測定値に更新する。例えば、パルス幅の指令値を算出した後、ビルドアップ時間の基準値BUrefの直前の更新から更新周期が経過したら(ステップSA43)、ビルドアップ時間の基準値BUrefを、直前の1周期におけるレーザパルスのビルドアップ時間の平均値に更新する。ビルドアップ時間の基準値BUrefを更新した後、ステップSA5(図5)が実行される。
【0052】
次に、図8A図10の実施例によるレーザ制御装置30を採用することにより得られる優れた効果について説明する前に、図11を参照して、ビルドアップ時間の基準値を不変とした場合、すなわちステップSA43及びステップSA44(図10)を実行しない場合について説明する。
【0053】
図11は、ビルドアップ時間の基準値BUrefを不変とした場合における放電電圧の指令値、レーザ発振器20の平均出力の測定値、ビルドアップ時間の測定値、及びパルス幅の指令値の時間変化の一例を示すグラフである。なお、ビルドアップ時間の測定値及びパルス幅の指令値は、レーザパルスごとに変化するが、図11では、ビルドアップ時間の基準値BUrefの更新周期ごとの平均値を示している。初期状態では、放電電圧の指令値が基準値Vrefに設定されており、パルス幅の指令値が基準値PWrefに設定されている。平均出力の測定値は基準値Prefにほぼ一致し、ビルドアップ時間の測定値は基準値BUrefにほぼ一致しているとする。
【0054】
何らかの要因によって平均出力の測定値が基準値Prefより低下すると(t10)、放電電圧の指令値を上昇させる制御が行われる(t11)(図9のステップSB4)。放電電圧の指令値が上昇すると、レーザ発振器20の出力が高くなるため、平均出力の測定値が上昇する(t12)とともに、ビルドアップ時間の測定値が短くなる(t13)。
【0055】
ビルドアップ時間の測定値が基準値BUrefより短くなると、パルス幅の指令値を基準値PWrefより短くする制御が行われる(t14)(図5のステップSA4)。パルス幅の指令値が短くなることは、平均出力を低下させる方向に作用する。このため、平均出力の測定値が低下する(t15)。平均出力の測定値が低下すると、時刻t10のときと同様に、放電電圧の指令値が上昇する(t16)。その結果、平均出力の測定値は基準値Prefに戻る(t17)。放電電圧の上昇はビルドアップ時間を短くする方向に作用するため、ビルドアップ時間の測定値がさらに短くなる(t18)。ビルドアップ時間の測定値が短くなると、ビルドアップ時間の基準値BUrefと測定値との差が広がるため、パルス幅の指令値がさらに短くなる(t19)。
【0056】
このように、パルス幅の指令値を短くする処理が継続して実行されることにより、パルス幅の指令値が許容下限値PWminに達する。パルス幅の指令値が許容下限値PWminに達した後は、パルス幅の指令値が許容下限値PWminに固定されてしまう。このように、放電電圧の調整と、パルス幅の調整とを併用したとしても、パルス幅を調整する機能が働かなくなってしまう場合がある。これは、放電電圧の変化によるパルスエネルギの変化よりも、放電電圧の変化から、ビルドアップ時間の変化及びパルス幅の調整を介したパルスエネルギの変化までのゲインの方が大きいためである。パルス幅を調整する機能が働かなくなると、パルスエネルギのばらつきを抑制する効果が得られなくなってしまう。
【0057】
図12は、本実施例によるレーザ制御装置30を用いた場合における放電電圧の指令値、レーザ発振器20の平均出力の測定値、ビルドアップ時間の測定値、及びパルス幅の指令値の時間変化の一例を示すグラフである。時刻t10からt17までの放電電圧の指令値、レーザ発振器20の平均出力の測定値、ビルドアップ時間の測定値、及びパルス幅の指令値の時間変化は、図11に示した例と同一である。
【0058】
放電電圧が上昇すると(t16)、ビルドアップ時間の測定値が短くなる(t21)。この時で、ビルドアップ時間の基準値BUrefを、直前の周期の測定値の平均値に更新する(ステップSA44)。図12においてビルドアップ時間の基準値BUrefを破線で示す。ビルドアップ時間の基準値BUrefが更新されるため、例えば、時刻t21におけるビルドアップ時間の測定値と基準値BUrefとの差は、時刻t13におけるビルドアップ時間の測定値と基準値BUrefとの差とほぼ等しい。このため、パルス幅の指令値は実質的に変化しない(t22)。
【0059】
時刻t21からビルドアップ時間の基準値BUrefの更新周期が経過すると、ビルドアップ時間の基準値BUrefが更新され(t23)、ビルドアップ時間の測定値がビルドアップ時間の基準値BUrefとほぼ等しくなる。このため、パルス幅の指令値をほぼ基準値PWrefに戻す制御が行われる(t24)(ステップSA4)。パルス幅を長くする制御は、平均出力を高める方向に作用するため、平均出力の測定値が上昇する(t25)。
【0060】
平均出力の測定値が上昇すると、放電電圧の指令値を低下させる制御が行われる(t26)(図9のステップSB4)。放電電圧の指令値が低下すると、平均出力の測定値が低下する(t27)とともに、ビルドアップ時間の測定値が長くなる(t28)。ビルドアップ時間の基準値BUrefは直前の周期のビルドアップ時間の測定値の平均値に更新されるため、ビルドアップ時間の測定値が基準値BUrefより長くなる。このため、パルス幅の指令値を長くする制御が行われる(t29)(図10のステップSA42)。
【0061】
パルス幅の指令値が長くなると、時刻t24のときと同様に、平均出力の測定値が大きくなり(t30)、その後、放電電圧の指令値を低下させる制御が行われる(t31)。その結果、平均出力の測定値が低下する(t32)とともに、ビルドアップ時間の測定値が長くなる(t33)。ビルドアップ時間の基準値BUrefは直前の周期のビルドアップ時間の測定値の平均値に更新されるため、ビルドアップ時間の測定値と基準値BUrefとの差は、時刻t28のときのビルドアップ時間の測定値と基準値BUrefとの差とほぼ等しくなる。その結果、パルス幅の指令値は実質的に変化しない(t34)。
【0062】
このように、本実施例では、ビルドアップ時間の基準値BUrefを測定値に基づいて更新するため、パルス幅の指令値が許容下限値PWminに固定されてしまうことを防止することができる。このため、放電電圧の調整と、パルス幅の調整とを併用する場合でも、パルス幅を調整する機能を有効に働かせることができる。このため、出力の安定と、パルスエネルギのばらつきの低減との両方の効果が得られる。
【0063】
上述の各実施例は例示であり、異なる実施例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。複数の実施例の同様の構成による同様の作用効果については実施例ごとには逐次言及しない。さらに、本発明は上述の実施例に制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0064】
20 レーザ発振器
21 第1光学系
22 ベンディングミラー
23 第2光学系
24 ステージ
25 加工対象物
26 光検出器
30 レーザ制御装置
31 レーザパルス検出部
32 信号送信部
33 パルス幅調整部
34 記憶部
35 平均出力算出部
36 平均出力調整部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12