(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0013】
本実施形態に係る金属加工油組成物は、下記式(1)で表される化合物と、硫黄系極圧剤と、を含有する。
【化2】
【0014】
上記式(1)中、X
1及びX
2はそれぞれ独立に酸素原子又は硫黄原子を表す。R
1〜R
4は、それぞれ独立にアルキル基を表す。
【0015】
式(1)で表される化合物は、下記式(1−1)〜(1−3)のいずれかで表される化合物である。
【化3】
【化4】
【化5】
[式(1−1)〜(1−3)中、R
1〜R
4は、それぞれ式(1)中のR
1〜R
4と同一の定義内容を示す。]
【0016】
R
1〜R
4で表されるアルキル基は、直鎖状でも分枝状でもよい。該アルキル基の炭素数は、1以上、2以上又は3以上であってよく、18以下、12以下又は10以下であってよい。該アルキル基の炭素数は、1〜18、1〜12、1〜10、2〜18、2〜12、2〜10、3〜18、3〜12又は3〜10であってもよい。
【0017】
式(1)で表される化合物の含有量は、加工性を更に向上させる観点から、金属加工油組成物全量基準で、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは3質量%以上である。式(1)で表される化合物の含有量は、費用対効果の観点から、好ましくは60質量%以下、より好ましくは55質量%以下、更に好ましくは50質量%以下である。式(1)で表される化合物の含有量は、加工性の更なる向上及び費用対効果の観点から、金属加工油組成物全量基準で、好ましくは、0.1〜60質量%、0.1〜55質量%、0.1〜50質量%、1〜60質量%、1〜55質量%、1〜50質量%、3〜60質量%、3〜55質量%又は3〜50質量%である。
【0018】
式(1)で表される化合物の含有量は、加工性を更に向上させる観点から、金属加工油組成物全量基準で、リン量換算で、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.15質量%以上である。式(1)で表される化合物の含有量は、費用対効果の観点から、金属加工油組成物全量基準で、好ましくは12.5質量%以下、より好ましくは11.5質量%以下、更に好ましくは10.4質量%以下である。式(1)で表される化合物の含有量は、加工性の更なる向上及び費用対効果の観点から、金属加工油組成物全量基準で、リン量換算で、好ましくは、0.005〜12.5質量%、0.005〜11.5質量%、0.005〜10.4質量%、0.05〜12.5質量%、0.05〜11.5質量%、0.05〜10.4質量%、0.15〜12.5質量%、0.15〜11.5質量%又は0.15〜10.4質量%である。
【0019】
硫黄系極圧剤としては、例えば、硫化オレフィン、硫化エステル(硫化油脂含む)及び硫化鉱油が挙げられる。硫黄系極圧剤は、加工性を更に向上させる観点から、好ましくは硫化オレフィンである。なお、本実施形態における硫黄系極圧剤には、式(1)で表される化合物が含まれないものとする。
【0020】
硫化オレフィンは、例えば下記式(2)で表される化合物である。
【化6】
【0021】
式(2)中、R
5及びR
6は、それぞれ独立に、炭素数3〜20の直鎖状又は分枝状のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基、炭素数7〜20のアルキルアリール基又は炭素数7〜20のアリールアルキル基を表す。R
5及びR
6は、それぞれ独立に、好ましくは、エチレン又はプロピレンから誘導された炭素数3〜18の分枝状アルキル基であり、より好ましくは、エチレン又はプロピレンから誘導された炭素数6〜15の分枝状アルキル基である。nは、2〜8の整数、好ましくは4〜8の整数を表す。
【0022】
硫化エステルとしては、具体的には、牛脂、豚脂、魚脂、菜種油、大豆油などの動植物油脂を任意の方法で硫化したいわゆる硫化油脂や、不飽和脂肪酸(オレイン酸、リノール酸又は上記の動植物油脂から抽出された脂肪酸類などを含む)と各種アルコールとを反応させて得られる不飽和脂肪酸エステルを任意の方法で硫化したもの、及び動植物油脂と不飽和脂肪酸エステルとの混合物を任意の方法で硫化したものが挙げられる。
【0023】
硫化鉱油とは、鉱油に単体硫黄を溶解させたものをいう。鉱油としては、特に制限されないが、原油に常圧蒸留及び減圧蒸留を施して得られる潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理などの精製処理を適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油などが挙げられる。
【0024】
硫黄系極圧剤の含有量は、加工性を更に向上させる観点から、金属加工油組成物全量基準で、好ましくは2質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上であり、更に好ましくは10質量%以上である。硫黄系極圧剤の含有量は、費用対効果の観点から、好ましくは70質量%以下であり、より好ましくは60質量%以下であり、更に好ましくは50質量%以下である。硫黄系極圧剤の含有量は、加工性の更なる向上及び費用対効果の観点から、金属加工油組成物全量基準で、好ましくは、2〜70質量%、2〜60質量%、2〜50質量%、5〜70質量%、5〜60質量%、5〜50質量%、10〜70質量%、10〜60質量%又は10〜50質量%である。
【0025】
硫黄系極圧剤の含有量は、加工性を更に向上させる観点から、金属加工油組成物全量基準で、硫黄量換算で、好ましくは0.24質量%以上、より好ましくは0.6質量%以上、更に好ましくは1.2質量%以上である。式(1)で表される化合物の含有量は、費用対効果の観点から、金属加工油組成物全量基準で、好ましくは27.5質量%以下、より好ましくは23.4質量%以下、更に好ましくは19.5質量%以下である。硫黄系極圧剤の含有量は、加工性の更なる向上及び費用対効果の観点から、金属加工油組成物全量基準で、硫黄量換算で、好ましくは、0.24〜27.5質量%、0.24〜23.4質量%、0.24〜19.5質量%、0.6〜27.5質量%、0.6〜23.4質量%、0.6〜19.5質量%、1.2〜27.5質量%、1.2〜23.4質量%又は1.2〜19.5質量%である。
【0026】
金属加工油組成物は、過塩基性有機酸金属塩を更に含有してもよい。
【0027】
過塩基性有機酸金属塩は、有機酸金属塩が炭酸塩、ホウ酸塩等で過塩基化された化合物である。有機酸金属塩としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属のスルホネート、フェネート又はサリシレートが挙げられる。
【0028】
炭酸塩で過塩基化された炭酸塩過塩基性有機酸金属塩は、例えば、炭酸ガスの存在下で中性(正塩)のスルホネート、フェネート又はサリシレートを、アルカリ金属の塩基又はアルカリ土類金属の塩基と反応させることにより得られる。ホウ酸塩で過塩基化されたホウ酸塩過塩基性有機酸金属塩は、例えば、有機酸金属塩と、水酸化カルシウム又は酸化カルシウムと、ホウ酸又は無水ホウ酸とを反応させることによって得られる。
【0029】
アルカリ金属は、ナトリウム、カリウムなどであってよい。アルカリ土類金属は、マグネシウム、カルシウム、バリウムなどであってよく、好ましくはカルシウムである。過塩基性有機酸金属塩は、好ましくは過塩基性カルシウムスルホネートである。過塩基性有機酸金属塩の金属成分がカルシウムであると、より高い加工性が得られる傾向にある。
【0030】
過塩基性有機酸金属塩の全塩基価は、加工性を更に向上させる観点から、好ましくは20mg/KOH以上、より好ましくは100mgKOH/g以上、更に好ましくは150mgKOH/g以上である。過塩基性有機酸金属塩の全塩基価は、入手が容易である観点から、好ましくは500mgKOH/g以下、より好ましくは470mgKOH/g以下、更に好ましくは410mgKOH/g以下である。本明細書における全塩基価は、JIS K 2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験方法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による全塩基価[mgKOH/g]を意味する。
【0031】
過塩基性有機酸金属塩の含有量は、加工性を更に向上させる観点から、金属加工油組成物全量基準で、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは2質量%以上である。過塩基性有機酸金属塩の含有量は、金属加工油組成物全量基準で、70質量%以下、60質量%以下、50質量%以下、40質量%以下、30質量%以下、20質量%以下、又は10%質量以下であってよい。
過塩基性有機酸金属塩の含有量は、金属加工油組成物全量基準で、0.5〜70質量%、0.5〜60質量%、0.5〜50質量%、0.5〜40質量%、0.5〜30質量%、0.5〜20質量%、0.5〜10質量%、1〜70質量%、1〜60質量%、1〜50質量%、1〜40質量%、1〜30質量%、1〜20質量%、1〜10質量%、2〜70質量%、2〜60質量%、2〜50質量%、2〜40質量%、2〜30質量%、2〜20質量%、又は2〜10質量%であってもよい。
【0032】
過塩基性有機酸金属塩の含有量は、加工性を更に向上させる観点から、金属加工油組成物全量基準で、有機酸金属塩を構成する金属量換算で、好ましくは0.013質量%以上、より好ましくは0.026質量%以上、更に好ましくは0.052質量%以上である。過塩基性有機酸金属塩の含有量は、金属加工油組成物全量基準で、有機酸金属塩を構成する金属量換算で、12.25質量%以下、10.5質量%以下、又は8.75質量%以下であってよい。過塩基性有機酸金属塩の含有量は、金属加工油組成物全量基準で、有機酸金属塩を構成する金属量換算で、0.013〜12.25質量%、0.013〜10.5質量%、0.013〜8.75質量%、0.026〜12.25質量%、0.026〜10.5質量%、0.026〜8.75質量%、0.052〜12.25質量%、0.052〜10.5質量%、又は0.052〜8.75質量%であってもよい。
【0033】
金属加工油組成物は、必要に応じて、粘度調整、加工の要求難易度、コスト等の観点から、潤滑油基油を更に含有してもよい。この場合、潤滑油基油の含有量は、例えば、金属加工油組成物全量基準で59.9質量%以下である。潤滑油基油は、鉱油、合成油、又は両者の混合物のいずれであってもよい。
【0034】
鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を適宜組み合わせて精製したパラフィン系鉱油又はナフテン系鉱油が挙げられる。
【0035】
鉱油の%Cpは、好ましくは40以上、より好ましくは45以上、更に好ましくは50以上であり、好ましくは80以下、より好ましくは75以下、更に好ましくは70以下である。本明細書における%Cpは、ASTM D−3238に規定する“Standard Test Method for Calculation Distribution and StructuralGroup Analysis of Petroleum Oils by the n-d-M Method”に準拠して測定される%Cpを意味する。
【0036】
合成油としては、具体的には、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、ポリイソブチレン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、エチレンとプロピレンとのコオリゴマー、エチレンと1−オクテンとのコオリゴマー、エチレンと1−デセンとのコオリゴマー等のポリα−オレフィン又はそれらの水素化物;イソパラフィン;モノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、ポリアルキルベンゼン等のアルキルベンゼン;モノアルキルナフタレン、ジアルキルナフタレン、ポリアルキルナフタレン等のアルキルナフタレン等が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは6mm
2/s以上、より好ましくは10mm
2/s以上であり、好ましくは1000mm
2/s以下、より好ましくは500mm
2/s以下である。本明細書における動粘度は、JIS K 2283に準拠して測定される動粘度を意味する。
【0038】
金属加工油組成物は、上記の成分に加えて、その他の添加剤を更に含有することができる。その他の添加剤としては、例えば、上記した硫黄系極圧剤以外の極圧剤;ジエチレングリコールモノアルキルエーテル等の湿潤剤;アクリルポリマー、パラフィンワックス、マイクロワックス、スラックワックス、ポリオレフィンワックス等の造膜剤;脂肪酸アミン塩等の水置換剤;セラミックナノ粒子(SiO
2、ZrO
2、Al
2O
3等)、グラファイト、フッ化黒鉛、二硫化モリブデン、窒化ホウ素、ポリエチレン粉末等の固体潤滑剤;アミン、アルカノールアミン、アミド、カルボン酸、カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸、リン酸塩、多価アルコールの部分エステル等の腐食防止剤;ベンゾトリアゾール、チアジアゾール等の金属不活性化剤;メチルシリコーン、フルオロシリコーン、ポリアクリレート等の消泡剤;アルケニルコハク酸イミド、ベンジルアミン、ポリアルケニルアミンアミノアミド等の無灰分散剤;アルコール、カルボン酸、不飽和カルボン酸の硫化物等の油性剤;フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤等の酸化防止剤等が挙げられる。その他の添加剤の合計含有量は、特に制限されないが、金属加工油組成物全量基準で0.1〜10質量%であってよい。
【0039】
金属加工油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは20mm
2/s以上、より好ましくは40mm
2/s以上、更に好ましくは50mm
2/s以上、特に好ましくは60mm
2/s以上であり、好ましくは700mm
2/s以下、より好ましくは600mm
2/s以下、更に好ましくは500mm
2/s以下、特に好ましくは400mm
2/s以下である。
【0040】
本実施形態に係る金属加工油組成物は、塑性加工、切削加工、研削加工といった金属加工に用いられる。塑性加工としては、絞り加工、しごき加工、引抜き加工、プレス加工、転造加工、鍛造加工、圧延加工などが挙げられる。金属加工油組成物は、塑性加工に好ましく用いられ、絞り加工、しごき加工といった難加工条件の塑性加工に特に好ましく用いられる。被加工物は、鋼板、ステンレス鋼板、表面処理鋼板、アルミ合金板、チタン合金などの難加工材料であってよい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0042】
実施例及び比較例においては、それぞれ以下の成分を用いて、表1〜2に示す組成(金属加工油組成物全量基準での質量%)を有する金属加工油組成物を調製した。表1〜2には、金属加工油組成物中の、リン含有量、硫黄系極圧剤由来の硫黄含有量及びカルシウム含有量(いずれも金属加工油組成物全量基準での質量%)も併せて示す。
【0043】
A1:式(1−1)で表される化合物であって、R
1〜R
4が炭素数8の直鎖状のアルキル基である化合物(リン含有量:8.8質量%)
A2:式(1−2)で表される化合物であって、R
1〜R
4が炭素数8の直鎖状のアルキル基である化合物(リン含有量:8.4質量%)
a1:下記式(3)で表される化合物であって、R
7〜R
10が炭素数8の直鎖状のアルキル基である化合物(リン含有量:8.0質量%)
【化7】
B1:下記式(4)で表され、nが3〜8の整数である硫化オレフィンの混合物(硫黄含有量:39質量%)
【化8】
C1:過塩基性カルシウムサリシレート(カルシウム含有量:12質量%、全塩基価350mgKOH/g)
C2:過塩基性カルシウムスルホネート(カルシウム含有量:15質量%、全塩基価400mgKOH/g)
D1:グループI鉱油(40℃動粘度:100.4mm
2/s、飽和分:62.2質量%、粘度指数:96)
【0044】
実施例及び比較例の各金属加工油組成物の加工性を評価するために、以下に示すバーリング試験を実施した。結果を表1,2に示す。
【0045】
図1は、本試験に用いたバーリング試験機の構成を示す模式断面図である。
図1に示したバーリング試験機は、内部が中空になっている支持体1と、支持体1上に配置されたダイス2と、支持体1の中空部に設けられたダイクッション3と、ダイス2の上方に配置されたしわ押さえ部材4と、ダイス2の上方に設けられたパンチ5とを備える。
【0046】
試験に際しては、まず、金属加工油組成物を含浸させたウエスを用いて、試験片6(材質SUS304材、外径80mm、内径4.2mm、厚さ2mm)の両面に、1〜2g/m
2となるように金属加工油組成物を塗布した。次に、ダイス2上に試験片6及び鋼球7(材質SUJ2、直径15mm)を配置し、これらをしわ押さえ部材4で保持しながら、パンチ5により上側から鋼球7を押しつけるとともに、ダイクッション3を上昇させて試験片6をしごいた。このときの試験温度は100℃、しごき率((変形前の試験片6の厚さ−しごいた後の変形部の厚さ)/試験前の試験片6の厚さ)は58.5%、加工速度は10mm/sであった。試験後の鋼球の損傷具合をそれぞれ目視で確認し、以下の基準で加工性を評価した。
S:傷がほとんどない
A:わずかに傷が発生する
B:表面に若干の曇り傷が発生する
C:凝着や焼付きがある
D:大きな凝着や焼付きがある
E:ボールが貫通する前に、試験片6が引きちぎれる(破断する)
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】