(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の供給流路は前記共通供給流路の延在方向と交差する方向に延在し、前記複数の回収流路は前記共通回収流路の延在方向と交差する方向に延在する、請求項1から3のいずれか1項に記載のライン型の液体吐出ヘッド。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、
図1〜
図18を参照して、本発明の各実施形態に係る液体吐出ヘッド、液体吐出装置、及び液体吐出方法について説明する。なお、本発明の液体吐出ヘッド及び液体吐出装置は、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に適用可能である。例えば、バイオチップ作製や電子回路印刷などの用途としても用いることができる。また、以下の実施形態では発熱素子により気泡を発生させて液体を吐出するサーマル方式が採用されているが、ピエゾ方式及びその他の各種液体吐出方式が採用された液体吐出ヘッドにも本発明を適用することができる。
本実施形態の液体吐出装置は、インク等の液体をインクタンクと液体吐出ヘッドの間で循環させる形態のインクジェット記録装置(記録装置)であるが、その他の形態であっても良い。例えば、インクを循環せずに、液体吐出ヘッドの上流側と下流側に2つのタンクを設け、一方のインクタンクから他方のインクタンクへインクを流すことで、圧力室内のインクを流動させる形態であっても良い。
また本実施形態の液体吐出ヘッドは、被記録媒体の幅に対応した長さを有する、所謂ライン型ヘッドであるが、被記録媒体に対してスキャンを行いながら記録を行う、所謂シリアル型の液体吐出ヘッドにも本発明を適用できる。シリアル型の液体吐出ヘッドとしては、例えばブラックインク用及びカラーインク用記録素子基板を各1つずつ搭載する構成が挙げられる。ただし、これに限らず、数個の記録素子基板を、吐出口列方向に吐出口をオーバーラップさせるように配置した、被記録媒体の幅よりも短い、短尺のラインヘッドを作成し、それを被記録媒体に対してスキャンさせる形態のものであっても良い。
このように、以下に述べる実施形態は本発明の適切な具体例であるので、技術的に好ましい様々の限定が付けられているが、本発明の思想に沿うものであれば、本発明は、本明細書の実施形態やその他の具体的方法に限定されるものではない。
【0014】
[実施形態1]
(インクジェット記録装置の説明)
本発明の、液体吐出装置、特にインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置1000(以下、記録装置とも称する)の概略構成を
図1に示す。記録装置1000は、被記録媒体2を搬送する搬送部1と、被記録媒体の搬送方向と略直交して配置されるライン型(ページワイド側)の液体吐出ヘッド3とを備えている。この記録装置1000は、複数の被記録媒体2を連続的もしくは間欠的に搬送しながら1パスで連続記録を行うライン型記録装置である。被記録媒体2はカット紙に限らず、連続したロール紙であってもよい。液体吐出ヘッド3はCMYK(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)インクによるフルカラー印刷が可能である。これは、後述するように液体を液体吐出ヘッドへ供給する供給路である液体供給手段、2つのインクタンク(メインタンク及びバッファタンク)(
図2)が流体的に接続される。また、液体吐出ヘッド3には、液体吐出ヘッド3へ電力及び吐出制御信号を伝送する電気制御部が電気的に接続される。吐出ヘッド3内における液体経路及び電気信号経路については後述する。
【0015】
(記録素子基板の構造の説明)
図19は、本発明の各実施形態の説明に先立ち、本発明のインク等の液体を吐出する液体吐出ヘッドの構成例について説明する。
図19(a)は液体吐出ヘッドの記録素子基板10の吐出口13が形成される側の面の平面図を示し、
図19(b)は
図19(a)のA−A’線における断面図を示す。
図19(a)に示すように、記録素子基板10には、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生する記録素子15が設けられている。さらに、記録素子基板10には、記録素子15を収容する圧力室23にインクを供給する個別供給流路17aと、圧力室23内のインクを回収するための個別回収流路17bが形成されている。記録素子基板10を形成している一つの部材である吐出口形成部材12には、インクを吐出する吐出口13が形成されている。尚、本明細書では、記録素子15としては熱エネルギーを発生可能な発熱素子であるヒーターについて説明するが、本発明はこれに限られない。例えば圧電素子といった電気機械変換素子やその他の吐出のためのエネルギーを発生する各種の記録素子が採用可能である。
【0016】
図19に示すように、記録素子基板10には複数の個別供給流路17a、個別回収流路17bが形成され、その間に複数の圧力室23が配置されている。各圧力室23は隔壁22によって区画され、その内部には記録素子15が配され、記録素子15に対面する位置に吐出口13が形成されている。記録素子15は記録データに応じて選択的に駆動され、吐出口13から所望の量のインクを吐出する。記録素子15が休止状態の場合、インクは個別供給流路17aから圧力室23に供給された後、個別回収流路17bを経由して記録素子基板から回収される。本実施形態において、このようなインクの流れ(循環流)は記録素子15の非駆動時に発生しており、さらに記録素子15を駆動してインクを吐出する際にも継続して循環流を発生させ続けている。つまり圧力室23内のインクが流れている状態で記録素子15の駆動を行ってインクを吐出させる。記録素子15は、記録素子基板10に設けられる電気配線(不図示)によって、
図13(a)の端子16と電気的に接続されている。そして、記録素子は、記録装置1000の制御回路から、電気配線基板90(
図4)及びフレキシブル配線基板40(
図8)を介して入力されるパルス信号に基づいて発熱して液体を沸騰させる。この沸騰による発泡の力で液体を吐出口13から吐出する。
【0017】
(循環構成の説明)
このように、記録素子15の駆動による熱がインクに伝わる系においては、記録素子15の休止状態、あるいは駆動してからある程度の時間が経過した後にはヘッド内の温度分布は安定する。しかしながら過渡状態のときには様相は異なり、インクに記録素子15からの熱がある時定数を持って伝わるので、過渡状態では圧力室23内のインク温度は時々刻々と変わり、吐出特性も変化する。そこで、圧力室23近傍の温度をモニタリングし、所定の閾値以下であると判定されれば記録素子15あるいは圧力室23近傍を温める熱源(不図示)をインクが沸騰しない程度に駆動する。これにより圧力室23内のインク温度を設定範囲内に維持し、吐出特性のバラツキを抑えることができる。
【0018】
図1から
図8を用いて本発明の実施形態1における液体吐出ヘッドについて説明する。
図2は本実施形態における液体吐出装置の一例である記録装置の流路系の全体構成の一例を示したものである。
図2は、本実施形態の記録装置に適用される循環経路の1形態である第1の循環経路を示す模式図である。
図2は、液体吐出ヘッド3を、第1循環ポンプ(高圧側)1001、第1循環ポンプ(低圧側)1002、及びバッファタンク1003等に流体的に接続した状態を示す。なお
図2では、説明を簡略化するために1色のインクが流動する経路のみを示しているが、実際には必要な色数分の循環経路が、液体吐出ヘッド3及び記録装置本体に設けられる。メインタンク1006と接続される、サブタンクとしてのバッファタンク1003は、タンク内部と外部とを連通する大気連通口(不図示)を有し、インク中の気泡を外部に排出することが可能である。バッファタンク1003は、補充ポンプ1005とも接続されている。補充ポンプ1005は、インク吐出による記録や吸引回復等、液体吐出ヘッドの吐出口からインクを吐出(排出)することによって液体吐出ヘッド3で液体が消費された際に、消費された分のインクをメインタンク1006からバッファタンク1003へ移送する。
2つの第1循環ポンプ1001,1002は、液体吐出ヘッド3の液体接続部111から液体を吸引してバッファタンク1003へ流す役割を有する。第1循環ポンプとしては定量的な送液能力を有する容積型ポンプが好ましい。具体的にはチューブポンプ、ギアポンプ、ダイヤフラムポンプ、シリンジポンプ等が挙げられるが、例えば一般的な定流量弁やリリーフ弁をポンプ出口に配して一定流量を確保する形態であってもよい。液体吐出ヘッド3の駆動時には第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002によって、それぞれ共通供給流路211、共通回収流路212内をある一定量のインクが流れる。
負圧制御ユニット230は、第2循環ポンプ1004と液体吐出ユニット300との間の経路中に設けられている。これは、記録を行うデューティ(Duty)の差によって循環系の流量が変動した場合でも、負圧制御ユニット230よりも下流側(即ち液体吐出ユニット300側)の圧力を予め設定した一定圧力に維持するように動作する機能を有する。負圧制御ユニット230を構成する2つの圧力調整機構としては、それ自身よりも下流の圧力を、所望の設定圧を中心として一定の範囲以下の変動に制御できるものであれば、どのような機構を用いても良い。一例としては所謂「減圧レギュレーター」と同様の機構を採用することができる。このような構成にすることにより、バッファタンク1003の液体吐出ヘッド3に対する水頭圧の影響を抑制できるので、記録装置1000におけるバッファタンク1003のレイアウトの自由度を広げることができる。
第2循環ポンプ1004としては、液体吐出ヘッド3の駆動時に使用するインク循環流量の範囲において、一定圧以上の揚程圧を有するものであればよく、ターボ型ポンプや容積型ポンプなどを使用できる。具体的には、ダイヤフラムポンプ等が採用可能である。また第2循環ポンプ1004の代わりに、例えば負圧制御ユニット230に対してある一定の水頭差をもって配置された水頭タンクも採用可能である。このように液体吐出ヘッド3にインクを供給する側のポンプを1つにまとめることにより、装置全体のポンプ数を削減でき、装置サイズを小さくすることが可能となる。
【0019】
図2に示したように負圧制御ユニット230は、それぞれに対して互いに異なる制御圧が設定された2つの圧力調整機構を備えている。2つの負圧調整機構の内、相対的な高圧設定側(
図2にHと記載)、相対的な低圧設定側(
図2にLと記載)は、それぞれ、液体供給ユニット220内を経由して、液体吐出ユニット300内の共通供給経路211、共通回収流路212に接続されている。液体吐出ユニット300には、共通供給流路211、共通回収流路212、及び各記録素子基板と連通する分岐供給流路213a及び分岐回収流路213bが設けられている。共通供給流路211には第1の流入口7aと第1の回収口8aが形成されている。第1の流入口7aは圧力調整機構Hと、第1の回収口8aは第1循環ポンプ(第1の回収ポンプ)1001とそれぞれ流体接続されている。共通回収流路212には第2の流入口7bと第2の回収口8bが形成されている。第2の流入口7bは圧力調整機構Lと、第2の回収口8bは第1循環ポンプ(第2の回収ポンプ)1002とそれぞれ流体接続されている。このとき、共通供給流路内の第1の流入口7a近傍の圧力値をPu_i、第1の回収口8a近傍の圧力値をPu_o、共通回収流路内の第2の流入口7b近傍の圧力値をPd_i、第2の回収口8b近傍の圧力値をPd_oとすると以下の不等式を満たす。
Pu_i>Pd_i 不等式1
Pu_o>Pd_o 不等式2
共通供給流路211には圧力調整機構Hが、共通回収流路212には圧力調整機構Lが接続されているため、2つの共通流路間に差圧が生じているから不等式1を満たす。また第1循環ポンプ1001、1002により共通供給流路と共通回収流路の内部に、不等式2を満足する一定量のインクが流されている。
この構成をとることにより、各記録素子基板に対して、共通供給流路211から分岐供給流路213aを通り記録素子基板内の複数の圧力室を介して分岐回収流路213bを通過し共通回収流路212へ至るインクの流れ(
図2の白矢印)が発生する。さらに2つの流入口から供給されたインクが各記録素子基板を介さずにそれぞれの共通流路に回収口へ至る流れが同時に発生する。そのため、比較的多量の流量のインクを供給させた場合においても液体吐出ヘッド3の内部の供給経路における圧力損失の増加を抑制することが可能となり、吐出を行っていない圧力室23内にインクの流れを発生させることができる。このため、各記録素子基板で発生する熱を共通供給流路211及び共通回収流路212の流れで液体吐出ヘッド3の外部へ排出することが出来る。また、動作状態によらず吐出口や圧力室においてもインクの流れを生じさせることが出来るので、その部位におけるインクの増粘を抑制できる。また増粘したインクやインク中の異物を共通回収流路212へと排出することができる。このため、本実施形態の液体吐出ヘッド3は、高速で高画質な記録が可能となる。
【0020】
(ヘッド構成の説明)
実施形態1に係る液体吐出ヘッド3の構成について説明する。
図3(a)及び
図3(b)は本実施形態に係る液体吐出ヘッド3の斜視図である。液体吐出ヘッド3は、1つでC/M/Y/Kの4色のインクを吐出可能な記録素子基板10を直線上に15個配列(インラインに配置)したライン型の液体吐出ヘッドである。
図3(a)に示すように、液体吐出ヘッド3には各記録素子基板10と、フレキシブル配線基板40及び電気配線基板90を介して電気的に接続された信号入力端子91と電力供給端子92とを備えている。信号入力端子91及び電力供給端子92は記録装置1000の制御部と電気的に接続され、それぞれ、吐出駆動信号及び吐出に必要な電力を記録素子基板10に供給する。電気配線基板90内の電気回路によって配線を集約することで、信号出力端子91及び電力供給端子92の数を記録素子基板10の数に比べて少なくできる。これにより、記録装置1000に対して液体吐出ヘッド3を組み付ける時又は液体吐出ヘッドの交換時に取り外しが必要な電気接続部の数が少なくて済む。
図3(b)に示すように、液体吐出ヘッド3の両端部に設けられた液体接続部111は、記録装置1000の液体供給系と接続される。これによりCMYK4色のインクが記録装置1000の供給系から液体吐出ヘッド3に供給され、また液体吐出ヘッド3を通ったインクが記録装置1000の供給系へ回収されるようになっている。このように各色のインクは、記録装置1000の経路と液体吐出ヘッド3の経路を介して循環可能である。
図4に液体吐出ヘッド3を構成する各部品またはユニットの分解斜視図を示す。液体吐出ユニット300、液体供給ユニット220、及び電気配線基板90が筺体80に取り付けられている。液体供給ユニット220には液体接続部111(
図3)が設けられるとともに、液体供給ユニット220の内部には、供給されるインク中の異物を取り除くため、液体接続部111の各開口と連通する各色別のフィルタ221(
図2、
図3)が設けられている。フィルタ221を通過した液体はそれぞれの色に対応して供給ユニット220上に配置された負圧制御ユニット230へ供給される。
【0021】
次に液体吐出ユニット300に含まれる流路部材210の構成について説明する。
図4に示したように、流路部材210は、液体供給ユニット220から供給された液体を各吐出モジュール200へと分配し、また吐出モジュール200から環流する液体を液体供給ユニット220へと戻すための流路部材である。流路部材210は液体吐出ユニット支持部81にネジ止めで固定されており、それにより流路部材210の反りや変形が抑制されている。
図5(a)〜(e)は流路部材210の流路部を理解しやすくするための分解図である。
図5(a)は吐出モジュール200が搭載される側の面を示し、
図5(e)は液体吐出ユニット支持部81と当接する側の面を示す。流路部材の長手方向に延在する8本の共通流路がそれぞれ色毎の共通供給流路211と共通回収流路212である。各流入口7及び各回収口8はジョイントゴム100の各穴と連通しており、液体供給ユニット220と流体接続している。さらに流路部材210には共通流路と交差する方向に複数の分岐流路213が形成されており、複数の吐出モジュール200と流体接続している。流路部材210は、液体に対して耐腐食性を有するとともに、線膨張率の低い材質からなることが好ましい。材質としては例えば、アルミナや、LCP(液晶ポリマー)、PPS(ポリフェニルサルファイド)やPSF(ポリサルフォン)を母材としてシリカ微粒子やファイバーなどの無機フィラーを添加した複合材料(樹脂材料)を好適に用いることができる。
【0022】
次に
図6を用いて流路部材210内の各流路の接続関係について説明する。
図6は流路部材210内の流路を、吐出モジュール200が搭載される面側から一部を拡大して見た透視図である。流路部材210には、色毎に液体吐出ヘッド3の長手方向に伸びる共通供給流路211(211a、211b、211c、211d)、及び共通回収流路212(212a、212b、212c、212d)が設けられている。各色の共通供給流路211には、分岐供給流路213aが連通口61を介して接続されている。また、各色の共通回収流路212には、複数の分岐回収流路213bが連通口61を介して接続されている。このような流路構成により、各共通供給流路211から分岐供給流路213aを介し、流路部材の中央部に位置する記録素子基板10にインクを集約することが出来る。また記録素子基板10から分岐回収流路213bを介して、各共通回収流路212にインクを回収することが出来る。
【0023】
図7は、
図6のE−E線における断面を示した図である。この図に示すように、それぞれの分岐回収流路213bは吐出モジュール200と連通している。
図7では分岐回収流路213bのみ図示しているが、別の断面においては、
図6に示すように分岐供給流路213aと吐出モジュール200とが連通している。各吐出モジュール200に含まれる記録素子基板10には複数の個別供給流路17aと複数の個別回収流路17bが形成されており、分岐供給流路213aは各個別供給流路17aと分岐回収流路213bは各個別回収流路17bとそれぞれ流体接続している。
【0024】
図8(a)に1つの吐出モジュール200の斜視図を、
図8(b)にその分解図を示す。フレキシブル配線基板40の記録素子基板10と反対側の端子42は、電気配線基板90の接続端子93(
図4参照)と電気接続される。支持部材30は、記録素子基板10を支持する支持体であるとともに、記録素子基板10と流路部材210とを流体的に連通させる流路部材である為、平面度が高く、また十分に高い信頼性をもって記録素子基板と接合できるものが好ましい。材質としては例えばアルミナや樹脂材料が好ましい。この支持部材は、供給流路及び回収流路が形成される第1の支持部材と、共通供給流路及び共通回収流路が形成される第2の支持部材との積層構成により形成されていてもよい。その場合、少なくとも第1の支持部材の熱拡散率が、記録素子基板の熱拡散率よりも小さい。
【0025】
以上説明したように、本実施形態は、各記録素子基板10での駆動状態によらず共通回収流路212への逆流を抑制でき、さらに循環(供給)流量の変動幅を抑えることができるため循環による効果を確保できる循環流を維持できるヘッド構成である。尚、本実施形態においては圧力発生源として圧力調整機構を採用したが、本発明はこれに限られない。例えば水位センサによる水頭差制御構成でも良い。この構成は以下の実施形態においても同様である。
【0026】
[実施形態2]
図9は、本実施形態の記録装置に適用される循環流路のうち、上述した第1の循環経路とは異なる循環形態である第2の循環経路を示す模式図である。前述の第1の循環経路との主な相違点は以下の通りである。負圧制御ユニット230を構成する2つの圧力調整機構が共に、負圧制御ユニット230よりも上流側の圧力を、所望の設定圧を中心として一定範囲内の変動に制御する機構(所謂「背圧レギュレーター」と同作用の機構部品)である。また、第2循環ポンプ1004が、負圧制御ユニット230の下流側を減圧する負圧源として作用するものである。そして、第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002が液体吐出ヘッドの上流側に配置され、負圧制御ユニット230が液体吐出ヘッドの下流側に配置されている。
実施形態2の負圧制御ユニット230は、液体吐出ヘッド3により記録を行う際の記録デューティの変化によって生じる流量の変動があっても、上流側(液体吐出ユニット300側)の圧力変動を、予め設定された圧力を中心として一定範囲内に安定させる。このようにすると、液体吐出ヘッド3に対するバッファタンク1003の水頭圧の影響を抑制できるので、記録装置1000におけるバッファタンク1003のレイアウトの選択幅を広げることができる。第2循環ポンプ1004の代わりに、例えば負圧制御ユニット230に対して所定の水頭差をもって配置された水頭タンクも採用可能である。本実施形態においても液体吐出ヘッド3からインクを回収する側のポンプを1つにまとめることにより装置全体のポンプ数を削減でき、装置サイズを小さくすることが可能となる。また、実施形態1と同様に、
図9に示したように負圧制御ユニット230は、それぞれに対して互いに異なる制御圧が設定された2つの圧力調整機構を備えている。2つの負圧調整機構の内、高圧設定側(
図9にHと記載)、低圧設定側(
図9にLと記載)はそれぞれ、液体供給ユニット220内を経由して、液体吐出ユニット300内の共通供給経路211、及び共通回収流路212に接続されている。また共通供給流路211には第1の流入口7aと第1の回収口8aが形成されており、第1の流入口7aは第1循環ポンプ(第1の送液ポンプ)1001と、第1の回収口8aは圧力調整機構Hとそれぞれ流体接続されている。共通回収流路212には第2の流入口7bと第2の回収口8bが形成されており、第2の流入口7bは第1循環ポンプ(第2の送液ポンプ)1002と、第2の回収口8bは圧力調整機構Lとそれぞれ流体接続されている。
2つの負圧調整機構及び2つの第1循環ポンプにより、共通供給流路211の圧力が共通回収流路212の圧力に対して相対的に制御される。それにより、共通供給流路211から分岐供給流路213a及び各記録素子基板10の内部流路を介して共通回収流路212へ至るインク流れが発生すると共に、各流入口から供給されたインクが各記録素子基板を介さずにそれぞれの共通流路の回収口へと流れる。このように、第2の循環経路では、液体吐出ユニット300内には第1の循環経路と同様のインク流れ状態が得られるが、第1の循環経路の場合とは異なる2つの利点がある。
【0027】
1つ目の利点は、第2の循環経路では負圧制御ユニット230が液体吐出ヘッド3の下流側に配置されているので、負圧制御ユニット230から発生するゴミや異物がヘッドへ流入する懸念が少ないことである。2つ目の利点は、第2循環経路では、バッファタンク1003から液体吐出ヘッド3へ供給する必要流量の最大値が、第1の循環経路の場合よりも少なくて済むことである。その理由は次の通りである。記録待機時にインクが循環している場合の、共通供給流路211及び共通回収流路212の内部の流量の合計をAとする。Aの値は、記録待機中に液体吐出ヘッド3の温度調整を行う場合に、液体吐出ユニット300内の温度差を所望の範囲内にするために必要な最小限の流量と定義される。また液体吐出ユニット300の全ての吐出口からインクを吐出する場合(全吐出時)の吐出流量をFと定義する。そうすると、第1の循環経路(
図2)の場合は、第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002の設定流量がAとなるので、全吐出時に必要な液体吐出ヘッド3への液体供給量の最大値はA+Fとなる。
一方で第2の循環経路(
図9)の場合は、記録待機時に必要な液体吐出ヘッド3への液体供給量は流量Aである。そして、全吐出時に必要な液体吐出ヘッド3への供給量は流量Fとなる。そうすると、第2の循環経路の場合、第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002の設定流量の合計値、即ち必要供給流量の最大値はA又はFの大きい方の値となる。このため、同一構成の液体吐出ユニット300を使用する限り、第2の循環経路における必要供給量の最大値(A又はF)は、第1の循環経路における必要供給流量の最大値(A+F)よりも必ず小さくなる。そのため第2の循環経路の場合、採用可能な循環ポンプの自由度が高まり、例えば構成の簡単な低コストの循環ポンプを使用したり、本体側経路に設置される冷却器(不図示)の負荷を低減したりでき、記録装置本体のコストを低減できるという利点がある。この利点は、A又はFの値が比較的大きくなるラインヘッドであるほど大きくなり、ラインヘッドの中でも長手方向の長さが長いラインヘッドほど有益である。
しかしながら一方で、第1の循環経路の方が、第2の循環経路に対して有利になる点もある。すなわち、第2の循環経路では、記録待機時に液体吐出ユニット300内を流れる流量が最大であるため、記録デューティの低い画像であるほど、各吐出口近傍に高い負圧が印加された状態となる。このため、特に共通供給流路211及び共通回収流路212の流路幅(液体の流れ方向と直交する方向の長さ)を小さくしてヘッド幅(液体吐出ヘッドの短手方向の長さ)を小さくすると、ムラの見えやすい低デューティ画像で吐出口近傍に高い負圧が印加される。そのため、サテライト滴の影響が大きくなる虞がある。一方、第1の循環経路の場合、高い負圧が吐出口近傍に印加されるのは高デューティ画像形成時であるため、仮にサテライトが発生しても視認されにくく、画像への影響は小さいという利点がある。2つの循環経路の選択は、液体吐出ヘッド及び記録装置本体の仕様(吐出流量F、最小循環流量A、及びヘッド内流路抵抗等)に照らして、好ましい方を採用することができる。
【0028】
以上説明したように、本実施形態も実施形態1と同様に各記録素子基板10での駆動状態によらず共通回収流路212への逆流を抑制でき、さらに循環(供給)流量の変動幅を抑えることができ、循環による効果を確保する循環流を維持できるヘッド構成である。
【0029】
[流路部材の熱拡散率]
図10は本発明の液体吐出ヘッドの特徴を説明するのに適した各記録素子基板での駆動時の温度分布を示す図であり、横軸に共通流路の延在方向をとり、縦軸に各記録素子基板の温度をとっている。本例における流路部材210の熱拡散率は記録素子基板10の熱拡散率よりも小さく、
図10には流路部材210の熱拡散率が7×10
−7m
2/sのヘッドを実線で図示している。
図10中には点線で、本例の効果と比較するために、流路部材210の熱拡散率が8×10
−6m
2/sのヘッドを示している。図からも明らかなように、流路部材210の熱拡散率が記録素子基板10の熱拡散率より高くなると、共通流路に連通している流入口から回収口に向けて温度差が生じてしまう。一方、流路部材210の熱拡散率が低いと、記録素子基板10の位置によらず温度が略一定に保たれている。このように、共通流路延在方向に記録素子基板10を複数配列し、各共通流路内をインクが流動する構成において、各記録素子基板からの熱を伝えにくくすることにより、吐出されるインク滴の体積のばらつきを抑制することが可能となる。なお、ここでは流路部材の熱拡散率の具体的数値を挙げて述べたが、記録素子基板10からの熱を共通流路のインクに伝えにくくさせるという機能を付加することが達成されるのであればその構成は限定されない。
【0030】
[実施形態3]
以下に
図11を用いて実施形態3について説明する。本実施形態においても実施形態1あるいは実施形態2と同様のインク流れ状態が得られている。また、前述した実施形態と同様の部分については、同一符号を付して説明を省略する。
図11は本実施形態の液体吐出ヘッドの断面を示した図で、多層の流路部材が形成されている。第2流路部材60及び第3流路部材70にて、各記録素子基板が配列される方向(流路部材の長手方向)に延在する各共通流路(211a~211d、212a~212d)が形成されている。また、第1流路部材50にて、各共通流路と交差する方向(流路部材の短手方向)に延在する複数の分岐流路213d(個別流路)が構成されている。この分岐流路溝と共通流路溝を別部材で構成することにより、長い溝とそれに交差する非常に細かい溝とが共存するような部材も、例えば樹脂の成形等で作成することが可能となり、製造コストを下げられるメリットがある。
本実施形態では流路部材50、60、70の3層の流路部材が記載してあるが、各共通流路と各分岐流路を別部材で構成するという思想が実現されるのであれば、層数に関する特段の限定はない。また分岐流路を形成する流路部材は、記録素子基板毎に形成されても、複数の記録素子基板毎に1つ形成されても、全ての記録素子基板に対して1つ形成されてもよい。いずれの場合であっても、各共通流路と分岐流路が別部材に形成されていることが達成されるのであればその構成は限定されない。
【0031】
[実施形態4]
本実施形態でも、共通流路と分岐流路及び複数の圧力室との接続関係は先に述べた実施形態と同じで、圧力室を介さない共通流路内だけのインク流れと共通供給流路から各圧力室を通過し共通回収流路へと流れるインク流れとが得られている。
図12は本実施形態の液体吐出ヘッドの断面を示した図である。本実施形態の液体吐出ヘッド3を構成する流路部材は、実施形態3と同様に多層構造であり、共通流路を形成する細長い流路部材は各記録素子基板の搭載精度を高精度に保つため線膨張係数が記録素子基板10とほぼ同等の材質からなる。第2流路部材60の材質としては、具体的にはシリコンやアルミナなどの無機材料やインバー等の線膨張係数が低い金属材料等が想定され、いずれも熱拡散率が記録素子基板10に近い値となっている。そこで本実施形態では、複数の分岐流路を形成する第1流路部材50の熱拡散率を記録素子基板10及び第2流路部材60よりも低くしている。そうすることにより、各記録素子基板から各共通流路を通過しているインクへ伝熱しにくくし、吐出されるインク滴の体積を揃えることが可能となる。
本実施形態では2層の流路部材50、60が記載してあるが、各共通流路と各分岐流路を別部材で構成するという思想が実現されるのであれば、層数に関する特段の限定はない。また図示されている共通流路は1色分のみだが、第2流路部材が熱や膨潤等の外乱による変形をせず、第1流路部材により記録素子基板と第2流路部材が熱的に伝熱しにくい構成であれば、複数の色数分の共通流路が形成されていてもいい。
【0032】
[記録素子基板の構成]
以下に
図13,14を用いて各実施形態に適用可能な記録素子基板の構成について説明する。
図13(a)に示すように、記録素子基板10の吐出口形成部材12に、各インク色に対応する4列の吐出口列が形成されている。なお、以後、複数の吐出口13が配列された吐出口列が延びる方向を「吐出口列方向」と呼ぶ。
図13(b)に示すように、各吐出口列に沿って、一方の側には液体供給路18が、他方の側には液体回収路19がそれぞれ延在している。液体供給路18及び液体回収路19は記録素子基板10に設けられた吐出口列方向に延びた流路であり、それぞれ供給口17a、回収口17bを介して吐出口13と連通している。
図13(c)及び
図14に示すように、記録素子基板10の、吐出口13が形成された面の裏面にはシート状のカバープレート20が積層されている。カバープレート20には、後述する液体供給路18及び液体回収路19に連通する開口21が複数設けられている。本例においては、1本の液体供給路18に対して3個の開口21、1本の液体回収路19に対して2個の開口21が、カバープレート20にそれぞれ設けられている。
図13(b)に示すようにカバープレート20の夫々の開口21は、複数の連通口と連通している。
図13のB−B線断面図である
図14に示すように、カバープレート20は、記録素子基板10の基板11に形成される液体供給路18及び液体回収路19の蓋部材としての機能を有する。カバープレート20は、液体に対して十分な耐食性を有している物が好ましく、また、混色防止の観点から、開口21の開口形状及び開口位置には高い精度が求められる。このためカバープレート20の材質として感光性樹脂材料やシリコンを用い、フォトリソプロセスによって開口21を設けることが好ましい。このようにカバープレートは開口21により流路のピッチを変換するものであり、圧力損失を考慮すると厚みは薄いことが望ましく、フィルム状の部材で構成されることが望ましい。
次に、記録素子基板10内でのインクの流れについて説明する。基板11とカバープレート20によって形成される液体供給路18及び液体回収路19はそれぞれ、分岐供給流路213aを介して共通供給流路211と、分岐回収流路213bを介して共通回収流路212と接続されている。従って2つの負圧調整機構により液体供給路18と液体回収路19との間には差圧が生じ、インクは液体供給路18から供給口17a、圧力室23、回収口17bを経由して液体回収路19へ流れる(
図14の矢印Cで示した流れ)。
続いて、液体吐出ヘッド3内でのインクの流れについて説明する。共通供給流路には第1の流入口7a及び第1の回収口8aが流体接続しており、共通回収流路には第2の流入口7bと第2の回収口8bが連通している。この構成においても実施形態1と同じ2つの不等式を満たしているので、液体吐出ヘッド3内でのインク流れは大まかに次の3経路からなっている。1つ目は第1の流入口から共通供給流路を通過して第1の回収口へ至る流れである。2つ目は第2の流入口から共通回収流路を通過して第2の回収口へ至る流れである。3つ目は第1の流入口から共通供給流路211、分岐供給流路213a、液体供給路18を介して圧力室23を通過し液体回収路19、分岐回収流路213b、共通回収流路212を通って第2の回収口へ至る流れである。これらの流れによって、記録を休止している吐出口13や圧力室23において、吐出口13からの蒸発によって生じる増粘インクや泡や異物などを液体回収路19へ回収することができる。また吐出口13や圧力室23のインクの増粘を抑制することが出来る。このように、記録素子基板10を経由することなく流動する経路を備えることで、本例のような微細で流路抵抗の大きい流路を備える記録素子基板10を有する場合であっても、液体の循環流の逆流を抑制することができる。このようにして、本例の液体吐出ヘッドでは、圧力室や吐出口近傍の液体の増粘を抑制できるので、吐出の方向ずれや不吐出を抑制でき、結果として高画質な記録を行うことができる。
【0033】
[液体吐出ヘッドに供給されるインク量]
各実施形態において、共通供給流路211及び共通回収流路212のそれぞれの流入口へ供給されるインクの総量は、流路部材上に配置される全記録素子基板から吐出されるインク量の総和より多い。これにより、吐出動作によらず各共通流路の流れは流入口から入り回収口へ至る一方向の流れとなり、吐出口13を通過した際にインク中の揮発性成分が蒸発したインクが再びヘッド内へ逆流してくることはなくなる。また、吐出されるインク量を一定に保つための保温手段により発せられた熱で加熱されたインクが液体回収路19、分岐回収流路213b、共通回収流路212を流れても、共通回収流路内のインクの昇温を抑制することができる。
【0034】
[インクの温調に関する説明]
各実施形態に適用できるインクの温調に関する構成及び効果について具体的な関係式をあげながら説明する。
第2の流入口7bにおけるインク温度をT
ini、分岐回収流路213bにおけるインク温度をT
outflow_branch、共通回収流路212に連通している連通口61でのインク温度をT
outflow_outとする。そして流入口7bから共通回収流路212に流入してくるインク流量をQ
outflow、圧力室23を通って分岐回収流路213bに流れるインク総流量をQ
branchとする。ここで、第1流路部材50の熱拡散率が比較的小さく、記録素子基板10で発生した熱が流路部材内のインクに伝わりにくい系の場合、熱平衡状態になったときのそれぞれの関係は以下の式を満たす。
T
outflow_out=(Q
outflow×T
ini+Q
branch×T
outflow_branch)/(Q
outflow+Q
branch) 式1
T
ini<T
outflow_branch 式2
上記の式1、式2に基づいて、バッファタンク1003から液体吐出ヘッド3の第2の流入口7bへ供給されるインク流量を第1の流入口への供給量より大きくすれば共通回収流路212内のインク温度上昇を抑制できる。
以上説明したように、吐出口13を通過した際に保温手段により加温されたインクが液体回収路19、分岐回収流路213b、共通回収流路212を流れても、共通回収流路内を流れるインクにより昇温を抑制でき、結果として高画質な記録を行うことができる。
【0035】
本発明の液体吐出ヘッドの一例に関してより具体的な数値を用いて説明する。例えば、幅30μm、高さ15μmの圧力室内を流速30mm/sでインクを流すには、圧力室23に比べ分岐流路及び共通流路部の流抵抗がほとんど無視できる程度に小さい場合、2つの圧力調整機構間の圧力差は1400Pa程度に設定すればよい。
仮に吐出量が5×10
−15m
3とすると、駆動周波数が2.7kHzよりも低周波数の場合は圧力差による供給量より吐出口からの吐出量が少なくなるため、マクロな時間スケールで見ると吐出時でもインクの流れは供給口17aを介し回収口17bに至る。吐出動作をしていない場合は圧力室内のインクを設定温度範囲に温めているため液体供給路、液体回収路、及びその近傍のインク温度は高めになっている。しかし、吐出動作時は、吐出されるインク量とほぼ同量のインクが流入してくるため、圧力室近傍のインク温度は非駆動時よりも低下する。つまり、供給口17aから流入し回収口17bを介し流出するというマクロな時間スケールにおけるインクの流れが同じでも、非駆動時と駆動時では熱の伝わり方が異なり、圧力室内のインク温度は過渡的に変化し、吐出特性のバラツキを誘発させる。吐出特性がばらつくことにより画像品位が低下するが、特に被記録媒体上をインクが埋めつくさない時の方が画像品位の低下が視認されやすい、つまり駆動周波数があまり高く無い時の吐出特性バラツキの影響が大きい。
本例はこの現象を抑制するために、共通供給流路211と繋がっている第1循環ポンプ(高圧側)の流量だけを多くして流量を増加させる構成である。分岐供給流路213a及び液体供給路18のインク温度をT
in-Ch(t)という時間関数、分岐回収流路213b及び液体回収路19のインク温度をT
out-Ch(t)という時間関数で表す。そして、吐出動作時に流入裏面流路を介してインク供給口に流入してくる流量をQ
in、インク排出口を介して排出裏面流路に排出される流量をQ
outと定義すると、駆動に伴う全吐出量Q
injeは以下の式で表される。
【数1】
さらに、吐出動作に伴うヒーターの発熱量をS
heaterとすると、吐出時の個別液室内のインク温度T
injeは以下の式を満たす。
【数2】
【数3】
【0036】
上記の等式、比例式、不等式から、バッファタンク1003からのインク供給量を増加させることと、供給口17aから流入してくるインクの温度を低下させることで、過渡的なインク温度上昇を抑制できることがわかる。しかしインク供給量を増加させると圧力室23及びそれに連通する流路内での圧力損失が大きくなるため弊害がおこる。したがって、過渡的なインク温度を抑制する為には、供給口17aから流入するインクの温度を低下させることが効果的である。さらに第1循環ポンプ(高圧側)の流量だけを変えているため、装置全体にかかる電力消費量の増加を最小限に抑えることもできる。
以上説明したように、本例において温度制御のための熱が伝播し温められてしまう流入側のインク温度を、共通供給流路211の流量を増加させインク温度上昇を抑制することにより、駆動状態の変化に伴うインクの昇温を低減することもできる。
【0037】
[実施形態5]
以下に
図15を用いて実施形態5について説明する。
図15に示すように、本実施形態においては、共通供給流路211と共通回収流路212を流れるインクの流動方向が逆方向になっている。本実施形態の各圧力室23にかかる負圧に関して共通流路の延在方向における分布をとったのが
図16(a)である。実線が共通供給流路211内の圧力分布、1点鎖線が共通回収流路212内の圧力分布、点線が圧力室23内の圧力分布をそれぞれ表している。共通供給流路211の流れ方向は図中の左側から右側に向かう方向であり、共通回収流路212の流れ方向は図中の右側から左側に向かう方向である。図からも明らかなように各圧力室内の圧力値がほぼ均一な状態に保たれる。例えば吐出口13のサイズが大きい場合、圧力室23にかかる静圧値に対して吐出口13から吐出されるインク量が敏感に変化してしまう。しかし、本実施形態の構成をとることにより、液体吐出ヘッド内のどの圧力室からでも均一なインク量を吐出することが可能となり高画質な印刷を得られる。また
図15に示しているように、負圧制御ユニット230を分割することが可能となるため、寸法を小さく、かつ配置箇所を別々にすることが可能となる。そうすることにより液体吐出ヘッド3内での負圧制御ユニット230の配置の自由度が格段にあがり、ユーザーにとって取り回しのしやすい形状にすることが可能となる。また本実施形態においても負圧制御ユニット230と連通するポンプを1つにまとめることにより装置全体のポンプ数を削減でき、装置サイズを小さくできる。
【0038】
一方、先の実施形態で述べているような共通供給流路211と共通回収流路212を流れるインクの流動方向が同方向になっているときの、各圧力室23にかかる負圧に関して共通流路の延在方向における分布をとったのが
図16(b)である。共通流路の流れ方向が図中の左側から右側に向かう方向である場合を図示している。この場合は、各圧力室での圧力値が流動方向に沿って低下しているが、共通供給流路211と共通回収流路212の間の圧力差はほぼ同じに保たれている。例えば吐出口13からインク中の揮発性溶媒が揮発することにより圧力室23内のインク物性が変化してしまうインク組成の場合、供給口17aから圧力室23を介し回収口17bへインクを流動させることにより物性の変化を抑制することが求められる。その場合、共通供給流路211と共通回収流路212の流動方向を同じにすることにより液体吐出ヘッド内のどの圧力室でもインク物性の変化を抑制し、所望の吐出特性を得ることができ結果として信頼性が高い印刷が可能になる。また、1つの流路部材210内に複数の共通供給流路211と共通回収流路212を形成する場合、共通流路内の圧力損失をある程度低く抑えるためには共通流路内の流路断面積を大きくしなければならない。しかしそのようにする場合、流路部材の短辺方向の長さは長くなってしまう。液体吐出装置においては、一般的に被記録媒体と液体吐出ヘッド3との間隔を所定の値に保つため、機械的に被記録媒体を押さえつける機構が採用されている。しかし被記録媒体を押さえつけている位置から搬送方向に離れれば離れるほど、液体吐出ヘッド3と被記録媒体との間隔を一定に保つことは難しくなる。そのため液体吐出ヘッド3の短辺方向(被記録媒体の搬送方向の長さ)は可能な限り小さい方が好ましく、共通流路の流動方向が同方向の方が好ましい場合もある。従って、液体記録ヘッド3の仕様に応じて共通流路の流動方向は逆方向が適している際には逆方向に、同方向が好ましい場合は同方向にすることにより、高信頼性かつ高画質な印刷が可能となる。
【0039】
[実施形態6]
本実施形態における共通供給流路211と共通回収流路212には、局所的に流路抵抗が他の流路よりも大きい抵抗部217a、217bが形成されている。具体的には、抵抗部217bの抵抗は、共通供給流路211の上流部の抵抗よりも大きく、抵抗部217aの抵抗は、共通回収流路212の下流部の抵抗より大きい。抵抗部217aは、回収口8と、この回収口8に最も近い分岐供給流路213aとの間に形成される。また抵抗部217bは、流入口7と、この流入口7に最も近い分岐回収流路213bとの間に形成されている。
【0040】
図17は本実施形態の液体吐出装置の流路系の全体構成、
図18は液体吐出ヘッドの内部流路の等価回路図を示したものである。流入口7はバッファタンク1003に、回収口8は第2循環ポンプ1004にそれぞれ接続されている。この構成により、抵抗部217a、217bでの圧力損失分だけ共通供給流路211と共通回収流路212の間に差圧が発生する。それにより、各記録素子基板の駆動状態によらず圧力室23内を通過する流れと、圧力室23を介さず流入口7から回収口8へと流れる流れを形成することができる。本実施形態では液体吐出ユニット300の流入口7と回収口8を1つずつにまとめることにより、液体吐出ヘッドの液体吐出ヘッドとの液体連通のためのジョイント部の数を減らすことができる。また抵抗部を設けることで装置全体のポンプ数を大幅に削減でき、装置サイズのダウンサイジングを実現できる。本実施形態の構成においても、先の各実施形態と同様に、共通供給流路211と共通回収流路212との双方に関して、液体の入口と出口を有するので圧力損失の増大を抑制しつつ、液体吐出ヘッドに対する液体の循環供給を行うことが可能となる。
【0041】
先の実施形態と同様に、共通供給流路211と共通回収流路212とを流れる液体の単位時間あたりの総流量は、共通供給流路211と連通する全ての吐出口から単位時間あたりに吐出される液体の総量より多い。これにより、共通供給流路211と連通する全ての吐出口が駆動しても共通供給流路211と共通回収流路212の流れ方向が変わることがない。
【0042】
本実施形態においては液体吐出ヘッド内で差圧を発生させているため、装置本体の構成を複雑にすることなく吐出口内を通過する循環流を発生させることができる。また本実施形態では流路抵抗を付加する手段は明記していないが、流路断面積を狭めたり、壁面粗さを粗くしたりするなど、流路抵抗を付加することが達成されるのであればその構成は限定されない。
【0043】
本実施形態における流路構成は、第1及び第2の流入口と流体接続している第1循環ポンプ(高圧側)と第1循環ポンプ(低圧側)、第1及び第2の回収口と接続している第2循環ポンプ(高圧側)と第2循環ポンプ(低圧側)を含む。先に述べた実施形態に比べ、本実施形態の構成をとることにより、共通供給流路211及び共通回収流路212における圧力または流量を高精度に制御することが可能となる。その結果、動作状態によらず一定した吐出特性を実現でき、より高精度な画像を出力することが可能となる。
【0044】
[実施形態7]
本実施形態によるインクジェット記録装置1000及び液体吐出ヘッド3の構成を説明する。なお以降の説明においては、主として実施形態1〜6と異なる部分のみを説明し、実施形態1と同様の部分については説明を省略する。
(インクジェット記録装置の説明)
本実施形態によるインクジェット記録装置を
図26に示す。本実施形態の記録装置1000はCMYKのインクごとに対応した単色用の液体吐出ヘッド3を4つ並列配置することで被記録媒体へフルカラー記録を行う点が実施形態1とは異なる。実施形態1において1色あたりに使用できる吐出口列数が2列だったのに対し、本実施形態において1色あたりに使用できる吐出口列数は20列である(
図25(a))。このため、記録データを複数の吐出口列に適宜振り分けて記録を行うことで、非常に高速な記録が可能となる。更に、不吐出になる吐出口があったとしても、その吐出口に対して被記録媒体の搬送方向に対応する位置にある、他列の吐出口から補間的に吐出を行うことで信頼性が向上し、商業印刷などに好適である。実施形態1と同様に、各液体吐出ヘッド3に対して、記録装置1000の供給系、バッファタンク1003及びメインタンク(インクタンク)1006(
図2)が流体的に接続される。また、それぞれの液体吐出ヘッド3には、液体吐出ヘッド3へ電力及び吐出制御信号を伝送する電気制御部が電気的に接続される。
【0045】
(液体吐出ヘッド構造の説明)
本実施形態に係る液体吐出ヘッド3の構造について説明する。
図20(a)及び20(b)は本実施形態に係る液体吐出ヘッド3の斜視図である。液体吐出ヘッド3は液体吐出ヘッド3の長手方向に直線上に配列される16個の記録素子基板10を備えたインクジェット式のライン型記録ヘッドである。液体吐出ヘッド3は、実施形態1と同様に、液体接続部111、信号入力端子91、及び電力供給端子92を備えている。しかしながら本実施形態の液体吐出ヘッド3は、実施形態1に比べて吐出口列が多いため、液体吐出ヘッド3の両側に信号出力端子91及び電力供給端子92が配置されている。これは記録素子基板10に設けられる配線部で生じる電圧低下や信号伝送遅れの低減のためである。
【0046】
図21は液体吐出ヘッド3の分解斜視図であり、液体吐出ヘッド3を構成する各部品またはユニットがその機能毎に分割されて表示されている。本実施形態における液体吐出ユニット支持部81は第2流路部材60の両端部に接続されており、この液体吐出ユニット300は記録装置1000のキャリッジと機械的に結合されて、液体吐出ヘッド3の位置決めを行う。負圧制御ユニット230を備える液体供給ユニット220と、電気配線基板90は、液体吐出ユニット支持部81に結合される。2つの液体供給ユニット220内にはそれぞれフィルタ(不図示)が内蔵されている。2つの負圧制御ユニット230は、それぞれ異なる圧力を設定するものであり、負圧であるが相対的に高い圧力にする負圧制御ユニット230と、負圧であって相対的に低い圧力にする負圧制御ユニット230である。この図のように液体吐出ヘッド3の両端部にそれぞれ、高圧側と低圧側の負圧制御ユニット230を設置した場合、液体吐出ヘッド3の長手方向に延在する共通供給流路211と共通回収流路212における液体の流れが互いに対向する。このようにすると、共通供給流路211と共通回収流路212の間で熱交換が促進されて、2つの共通流路内における温度差が低減されるので、共通流路に沿って複数設けられる各記録素子基板10における温度差が付きにくくなる。その結果、温度差による記録ムラが生じにくくなるという利点がある。
【0047】
次に液体吐出ユニット300の流路部材210の詳細について説明する。
図21に示すように、流路部材210は、第1流路部材50、第2流路部材60を積層したものであり、液体供給ユニット220から供給された液体を各吐出モジュール200へと分配する。また流路部材210は、吐出モジュール200から環流する液体を液体供給ユニット220へと戻すための流路部材として機能する。流路部材210の第2流路部材60は、内部に共通供給流路211及び共通回収流路212が形成された流路部材であるとともに、液体吐出ヘッド3の剛性を主に担うという機能を有する。このため、第2流路部材60の材質としては、液体に対する十分な耐食性と高い機械強度を有するものが好ましい。具体的にはステンレスやTiやアルミナなどを好ましく用いることができる。
【0048】
図22(a)は第1流路部材50の、吐出モジュール200がマウントされる側の面を示し、
図22(b)はその裏面である、第2流路部材60と当接される側の面を示した図である。実施形態1とは異なり、実施形態2における第1流路部材50は、各吐出モジュール200毎に対応した複数の部材を隣接して配列したものである。このように分割した構造を採ることで、複数のモジュールを配列させて、液体吐出ヘッドの長さに対応することが出来るので、例えばB2サイズ及びそれ以上の長さに対応した比較的ロングスケールの液体吐出ヘッドに特に好適に適用できる。
図22(a)に示すように、第1流路部材50の連通口51は吐出モジュール200と流体的に連通し、
図22(b)に示すように、第1流路部材50の個別連通口53は第2流路部材60の連通口61と流体的に連通する。
図22(c)は第2流路部材60の、第1流路部材50と当接される側の面を示し、
図22(d)は第2流路部材60の厚み方向中央部の断面を示し、
図22(e)は第2流路部材60の、液体供給ユニット220と当接する側の面を示す図である。第2流路部材60の流路や連通口の機能は、実施形態1の1色分の機能と同様である。第2流路部材60の共通流路溝71は、その一方が
図23に示す共通供給流路211であり、他方が共通回収流路212であり、夫々、液体吐出ヘッド3の長手方向に沿って、一端側から他端側に液体が供給される。本実施形態においては、実施形態1と異なり、共通供給流路211と共通回収流路212の液体の流れ方向は互いに反対方向である。
【0049】
図23は、記録素子基板10と流路部材210との液体の接続関係を示した透視図である。
図23に示したように、流路部材210内には、液体吐出ヘッド3の長手方向に延びる1組の共通供給流路211及び共通回収流路212が設けられている。第2流路部材60の連通口61は、各々の第1流路部材50の個別連通口53と位置を合わせて接続されており、第2流路部材60の連通口72から共通供給流路211を介して第1流路部材50の連通口51へと連通する液体供給経路が形成されている。同様に、第2流路部材60の連通口72から共通回収流路212を介して第1流路部材50の連通口51へと連通する液体供給経路も形成されている。
【0050】
実施形態1と同様に、各吐出モジュール200及び記録素子基板10には、各吐出口13に連通する流路が形成されており、供給した液体の一部または全部が、吐出動作を休止している吐出口13(圧力室23)を通過して、環流できるようになっている。また実施形態1と同様に、共通供給流路211は負圧制御ユニット230(高圧側)と、共通回収流路212は負圧制御ユニット230(低圧側)と、液体供給ユニット220を介してそれぞれ接続されている。従って、それらの差圧によって、共通供給流路211から記録素子基板10の吐出口13(圧力室23)を通過して共通回収流路212へ至る流れが発生する。
【0051】
(吐出モジュールの説明)
図24(a)に、1つの吐出モジュール200の斜視図を、
図24(b)にその分解図を示す。実施形態1と異なり、記録素子基板10の複数の吐出口列方向に沿った両辺部(記録素子基板10の各長辺部)に複数の端子16がそれぞれ配置され、それらに電気接続されるフレキシブル配線基板40も、1つの記録素子基板10に対して2枚配置される。これは、記録素子基板10に設けられる吐出口列数が例えば20列であり、実施形態1の8列よりも大幅に増加しているためである。即ち、端子16から、吐出口列に対応して設けられる記録素子15までの最大距離を短く抑制して、記録素子基板10内の配線部で生じる電圧低下や信号伝送遅れを低減することを目的としている。また支持部材30の液体連通口31は、記録素子基板10に設けられた全吐出口列に跨がって開口している。その他の点は、実施形態1と同様である。
【0052】
(記録素子基板の構造の説明)
図25(a)は記録素子基板10の吐出口13が配される側の面の模式図、
図25(c)は
図25(a)の面の裏面を示す模式図である。
図25(b)は、
図25(c)において記録素子基板10の裏面側に設けられているカバープレート20を除去した状態の記録素子基板10の面を示す模式図である。
図25(b)に示すように、記録素子基板10の裏面には吐出口列方向に沿って、液体供給路18と液体回収路19とが交互に設けられている。吐出口列数は実施形態1よりも大幅に増加しているものの、実施形態1との本質的な差異は、前述のように端子16が記録素子基板の吐出口列方向に沿った両辺部に配置されていることである。各吐出口列毎に一組の液体供給路18と液体回収路19が設けられていること、カバープレート20に、支持部材30の液体連通口31と連通する開口21が設けられていることなど、基本的な構成は実施形態1と同様である。
【0053】
[実施形態8]
本実施形態によるインクジェット記録装置1000及び液体吐出ヘッド3の構成を説明する。実施形態8の液体吐出ヘッドは、B2サイズの被記録媒体に対して1スキャンで記録を行うページワイド型である。実施形態8は上述した実施形態と異なる部分を説明し、同様の部分については説明を省略する。
(インクジェット記録装置の説明)
図27に本実施形態のインクジェット記録装置の模式図を示す。記録装置1000は、液体吐出ヘッド3から被記録媒体に直接記録を行わず、一度、中間転写体(中間転写ドラム1007)に液体を吐出し画像を形成した後に、その画像を被記録媒体2に転写する構成である。記録装置1000では、CMYKの4種類のインクに夫々対応した4つの単色用の液体吐出ヘッド3が、中間転写ドラム1007に沿って円弧状に配置されている。これによって中間転写体上にフルカラー記録が行われ、その記録画像は、中間転写体上で適切な乾燥状態にされた後、紙搬送ローラー1009によって搬送される被記録媒体2へ、転写部1008で転写される。上述した実施形態の紙搬送系は主にカット紙を意図した水平搬送であったのに対し、本実施形態においては本体ロール(不図示)から供給される連続紙にも対応可能である。このようなドラム搬送系では、紙に一定の張力をかけながら搬送することが容易なため、高速記録時においても搬送ジャムが少ない。このため装置の信頼性が向上し、商業印刷などに好適である。各液体吐出ヘッド3に対して、記録装置1000の供給系、バッファタンク1003及びメインタンク1006が流体的に接続される。また、それぞれの液体吐出ヘッド3には、液体吐出ヘッド3へ電力及び吐出制御信号を伝送する電気制御部が電気的に接続される。
【0054】
[実施形態9]
記録装置1000のタンクと液体吐出ヘッド3との間における液体循環経路としては、
図2又は
図9に示した循環経路も適用可能であるが、
図28に示す循環経路が好適である。上述した循環経路との主な差異は、第1循環ポンプ1001,1002及び第2循環ポンプ1004の各々の流路に連通するバイパス弁1010が付加されていることである。このバイパス弁1010は予め設定された圧力を超過すると弁が開くことで、バイパス弁1010の上流側の圧力を下げるという機能(第1の機能)を有する。また記録装置本体の制御基板からの信号によって、任意のタイミングで弁を開閉する機能(第2の機能)も有する。
第1の機能により、第1循環ポンプ1001,1002の下流側または第2循環ポンプ1004の上流側の流路に、過剰または過小な圧力が掛かることを抑制することができる。例えば、第1循環ポンプ1001,1002の機能に支障が発生した場合、過剰な流量や圧力が液体吐出ヘッド3に加わる場合がある。それにより液体吐出ヘッド3の吐出口から液体の漏洩が生じたり、液体吐出ヘッド3内の各接合部に破断が生じたりする虞がある。しかし本実施形態のように、第1循環ポンプ1001、1002にバイパス弁が追加されている場合、過剰な圧力が発生した場合でも、バイパス弁1010が開くことで各循環ポンプ上流側へと液体経路が開放されるため、上記のようなトラブルを抑制できる。
また第2の機能により、循環駆動停止時には、第1循環ポンプ1001,1002及び第2循環ポンプ1004の停止後に、本体側からの制御信号に基づいて、速やかに全てのバイパス弁1010を開放する。これにより、液体吐出ヘッド3の下流部(負圧制御ユニット230〜第2循環ポンプ1004の間)の高負圧(例えば、数kPa〜数十kPa)を短時間に開放することができる。循環ポンプとしてダイヤフラムポンプなどの容積型ポンプを使用した場合には、通常、ポンプ内に逆止弁が内蔵されている。しかしながら、バイパス弁を開くことで、下流側のバッファタンク1003側からも液体吐出ヘッド3の下流部の圧力解放を行える。上流側からだけでも液体吐出ヘッド3の下流部の圧力解放は行えるが、液体吐出ヘッドの上流側流路と液体吐出ヘッド内流路には圧力損失がある。そのため、圧力開放に時間が掛かり、過渡的に液体吐出ヘッド3内の共通流路内の圧力が下がり過ぎて、吐出口のメニスカスが破壊される恐れがある。液体吐出ヘッド3の下流側のバイパス弁1010を開くことで、液体吐出ヘッドの下流側の圧力解放が促進されるため、吐出口のメニスカス破壊のリスクが軽減される。
【0055】
(液体吐出ヘッド構造の説明)
本発明の実施形態9に係る液体吐出ヘッド3の構造についてさらに説明する。
図29(a)は本実施形態に係る液体吐出ヘッド3の斜視図、
図29(b)はその分解斜視図である。液体吐出ヘッド3は液体吐出ヘッド3の長手方向に直線状(インライン)に配列される36個の記録素子基板10を備え、1色の液体で記録を行うインクジェット式のページワイド型の記録ヘッドである。液体吐出ヘッド3は、信号入力端子91及び電力供給端子92を備える他、ヘッドの長手側面を保護するシールド板132が設けられている。
図29(b)は液体吐出ヘッド3の斜視分解図であり、液体吐出ヘッド3を構成する各部品またはユニットがその機能毎に分割されて表示されている(シールド板132は不図示)。各ユニット及び各部材の役割や、液体吐出ヘッド3内の液体流通の順は上述した実施形態と同様である。主な相違点は、複数に分割されて配置された電気配線基板90、負圧制御ユニット230の位置、および第1流路部材の形状である。本実施形態のように、例えばB2サイズの被記録媒体に対応した長さを有する液体吐出ヘッド3の場合、液体吐出ヘッド3の使用電力が大きいため、8枚の電気配線基板90が設けられる。各々の電気配線基板90は、液体吐出ユニット支持部81に取り付けられた長尺の電気配線基板支持部82の両側面に4枚ずつ取り付けられる。
図30(a)は、液体吐出ユニット300、液体供給ユニット220及び負圧制御ユニット230を備える液体吐出ヘッド3の側面図、
図30(b)は液体の流れを示す概略図、
図30(c)は
図30(a)のG−G線部における断面を示す斜視図である。理解を容易にするために、一部の構成は簡略化している。
液体供給ユニット220内には液体接続部111とフィルタ221が設けられるとともに、負圧制御ユニット230が液体供給ユニット220の下方に一体化して形成されている。これによって負圧制御ユニット230と記録素子基板10との高さ方向の距離が、上述した実施形態に比べて短くなっている。この構成により、液体供給ユニット220内の流路接続部の数が減り、記録液体の漏洩に対する信頼性が向上するだけでなく、部品点数や組み立て工程数も低減できるという利点がある。
また負圧制御ユニット230と吐出口が形成される面とにおける水頭差が相対的に小さくなるので、
図27に示すような、液体吐出ヘッド3の傾斜角度が、各液体吐出ヘッドごとに異なるような記録装置へ好適に適応できる。水等差が小さくできるため、複数の液体吐出ヘッド3を異なる傾斜角で用いても、それぞれの記録素子基板の吐出口に加わる負圧差を低減できるためである。また負圧制御ユニット230から記録素子基板10までの間の距離が小さくなることでその間の流抵抗が小さくなるので、液体の流量変化による圧損差も小さくなり、より安定な負圧制御が行える点でも好ましい。
【0056】
図30(b)は、液体吐出ヘッド3の内部の記録液体の流れを示す模式図である。
図28に示した循環経路と比べ、回路的には同じではあるが、
図30(b)では、実際の液体吐出ヘッド3の各構成部品内での液体の流れを示している。長尺状の第2流路部材60内には、液体吐出ヘッド3の長手方向に伸びる一組の共通供給流路211及び共通回収流路212が設けられている。共通供給流路211及び共通回収流路212は互いに対向する方向に液体が流れるように構成されており、夫々の流路の上流側にはフィルタ221が設けられ、接続部111等から侵入する異物をトラップする。このように共通供給流路211及び共通回収流路212は互いに対向する方向に液体を流すことで、液体吐出ヘッド3内の長手方向における温度勾配が軽減される点で好ましい。尚、
図28においては説明を簡略化するために共通供給流路211と共通回収流路212との流れを同じ方向で示している。
共通供給流路211及び共通回収流路212の下流側には、それぞれ負圧制御ユニット230が接続される。また、共通供給流路211の途中には複数の個別供給流路213aへの分岐部があり、共通回収流路212の途中には複数の個別回収流路213bへの分岐部がある。個別供給流路213a及び個別回収流路213bは複数の第1流路部材50内に形成されており、夫々の個別流路は、記録素子基板10の裏面に設けられた蓋部材20の開口21(
図19(c)参照)と連通している。
図30(b)にHとLで示した負圧制御ユニット230は、高圧側(H)と、低圧側(L)のユニットである。それぞれの負圧制御ユニット230は、相対的に高(H)、低(L)の負圧で、負圧制御ユニット230よりも上流側の圧力を制御するように設定された背圧型圧力調整機構である。共通供給流路211は負圧制御ユニット230(高圧側)と接続され、共通回収流路212は負圧制御ユニット230(低圧側)と接続されており、それにより共通供給流路211と共通回収流路212の間には差圧が発生する。その差圧によって、液体が、共通供給流路211から個別供給流路213a、記録素子基板10内の吐出口13(圧力室23)、個別回収流路213bを順に通過して共通回収流路212へと流れる。
図30(c)は
図30(a)のG−G線部における断面を示す斜視図である。本実施形態において個々の吐出モジュール200は、第1流路部材50、記録素子基板10、フレキシブル配線基板40から構成されている。本実施形形態においては上述した実施形態で説明した支持部材30(
図8)がなく、蓋部材20を備える記録素子基板10が直接第1流路部材50に接合される。第2流路部材に設けられる共通供給流路211は、その上面に形成される連通口61から、第1流路部材50の下面に形成される個別連通口53を介して、個別供給流路213aに供給される。その後液体は、圧力室23を経由して個別回収流路213b、個別連通口53、連通口61を順に経由して共通回収流路212へと回収される。
上述した実施形態とは異なり、第1流路部材50の下面(第2流路部材60側の面)にある個別連通口53は、第2流路部材50の上面に形成される連通口61に対して十分大きな開口となっている。この構成により、吐出モジュール200を第2流路部材60上にマウントする際に位置がズレた場合でも、第1流路部材と第2流路部材の間で確実に流体連通が行わるようになっている。従って、ヘッド製造時の歩留まりが向上しコストダウンが図れるようになっている。
【0057】
以上説明してきたように本明細書においては、圧力差発生源として2つの圧力調整機構や流路抵抗体を本明細書に挙げたが、本発明の思想に沿うものであれば別形態の構成でも良い。また流路抵抗が他の箇所より高くなっている構成は定常的な手段として開示しているが、課題を改善したいタイミングで流路抵抗を高く変える構成であっても有効である。
また本発明は各種吐出手段(例えば、圧電素子、発熱素子、静電方式)を用いた液体吐出ヘッドに適用可能であるが、液体吐出ヘッド内の流路部(圧力室23およびそれに連通する流路24)の抵抗が大きい液体吐出ヘッドについて特に好適に適用できる。例えば、圧力室に連通する流路24の高さhが8μm以下の液体吐出ヘッドに好適に適用できる。また、複数の記録素子基板10が配列されるフルライン型の液体吐出ヘッドで、吐出口の配列密度が600dpi以上の高密度の吐出口を備える液体吐出ヘッドにも好適に適用できる。
【0058】
本発明は上記した実施形態に制限されるものではなく、本発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義する。