特許第6957169号(P6957169)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6957169電子写真用回転体、定着装置、電子写真画像形成装置および回転体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6957169
(24)【登録日】2021年10月8日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】電子写真用回転体、定着装置、電子写真画像形成装置および回転体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/20 20060101AFI20211021BHJP
   B32B 1/08 20060101ALI20211021BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20211021BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20211021BHJP
【FI】
   G03G15/20 515
   B32B1/08 Z
   B32B27/30 D
   B32B27/20 Z
【請求項の数】14
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-42683(P2017-42683)
(22)【出願日】2017年3月7日
(65)【公開番号】特開2018-146835(P2018-146835A)
(43)【公開日】2018年9月20日
【審査請求日】2020年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】前田 松崇
【審査官】 小池 俊次
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−257862(JP,A)
【文献】 国際公開第01/036831(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/120787(WO,A1)
【文献】 特開2014−044401(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0298217(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
G03G 15/16
B32B 1/08
B32B 27/30
B32B 27/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材上の表層とを有する電子写真用の回転体であって、
該表層は、マトリックス樹脂と、該マトリックス樹脂中に分散されている酸化チタン粒子とを含み、
該マトリックス樹脂は、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)を含み、
該表層の、該回転体の周方向の引張降伏応力が、3.7MPa以上、5.0MPa以下であることを特徴とする電子写真用の回転体。
【請求項2】
前記表層に含まれる前記酸化チタン粒子の含有量が、該表層を基準として1質量%以上、40質量%以下である、請求項1に記載の回転体。
【請求項3】
前記回転体が、エンドレスベルト形状を有するベルトである、請求項1または2に記載の回転体。
【請求項4】
前記基材がエンドレスベルト形状を有し、該基材の厚みが、20μm以上、100μm以下である、請求項3に記載の回転体。
【請求項5】
前記回転体が、ローラである、請求項1または2に記載の回転体。
【請求項6】
前記基材が、円柱状または円筒状である、請求項5に記載の回転体。
【請求項7】
前記表層の、前記回転体の周方向の引張破断エネルギーが、30kJ/m以上、150kJ/m以下である、請求項1〜6のいずれか一項に記載の回転体。
【請求項8】
前記回転体が、前記基材と前記表層との間に弾性層を有し、該弾性層が、シリコーンゴムを含む、請求項1〜7のいずれか一項に記載の回転体。
【請求項9】
前記基材が、ポリイミド、ポリアミドイミドおよびポリエーテルスルホンからなる群より選択される少なくとも1つの樹脂を含む、請求項1〜8のいずれか一項に記載の回転体。
【請求項10】
前記基材が、ニッケルまたはステンレスを含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の回転体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の回転体と、該回転体の加熱装置と、該回転体に対向して配置されている加圧部材と、を有する定着装置。
【請求項12】
請求項11に記載の定着装置を具備している画像形成装置。
【請求項13】
請求項1〜10のいずれか一項に記載の電子写真用の回転体の製造方法であって、
基材上の、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体と、酸化チタン粒子とを含む樹脂層の表面に、酸素濃度が1000ppm以下の雰囲気下で、電離性放射線を照射して表層を形成する工程を有することを特徴とする回転体の製造方法。
【請求項14】
前記樹脂層を、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体と、酸化チタン粒子とを含む表層形成用塗料の塗膜を加熱し、該塗膜中のテトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体を溶融させて形成する工程をさらに有する請求項13に記載の回転体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真画像形成装置の定着装置に用いられる回転体、定着装置、電子写真画像形成装置および回転体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真画像形成装置(以下、単に「画像形成装置」と称す)の定着装置には、定着部材として、エンドレスベルト形状やローラ形状を有する回転体が用いられている。このような回転体としては、基材と、該基材上の、トナーに対して優れた離型性を有するフッ素樹脂を含む表層とを有する回転体が知られている。表層に含有されるフッ素樹脂としては、例えば、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以降、「PFA」ともいう)が用いられている。
特許文献1は、未定着トナー像を記録材上に定着画像として定着させる定着部材に関する。そして、静電オフセットの防止を目的として、離型性層の表面抵抗のみを下げるために、離型性層中に酸化チタンの如き中抵抗粒子または中抵抗ウィスカを含有させることを開示している。また、離型性層に用いる樹脂化合物として、フッ素樹脂化合物が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−40856号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、画像形成装置における印刷スピードの高速化に伴い、定着部材の表層に対しては、耐摩耗性のより一層の向上が求められている。ここで、本発明者らの検討によれば、特許文献1に記載されている、フッ素樹脂中に酸化チタンを含有させてなる表層は、酸化チタンを含まない場合と比較して耐摩耗性が低下する場合があることを見出した。
【0005】
本発明の一態様は、耐摩耗性に優れる表層を有する電子写真用の回転体およびその製造方法の提供に向けたものである。また、本発明の他の態様は、高品位な画像を安定的に得ることができる定着装置および画像形成装置の提供に向けたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、基材と、該基材上の表層とを有する電子写真用の回転体であって、該表層は、マトリックス樹脂と、該マトリックス樹脂中に分散されている酸化チタン粒子とを含み、該マトリックス樹脂は、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)を含み、該表層の、該回転体の周方向の引張降伏応力が、3.7MPa以上、5.0MPa以下である電子写真用の回転体が提供される。
【0007】
また、本発明の他の態様によれば、上記の回転体と、該回転体の加熱装置と、該回転体に対向して配置されている加圧部材と、を有する定着装置、および該定着装置を具備している画像形成装置が提供される。
【0008】
さらにまた、本発明の他の態様によれば、電子写真用の回転体の製造方法であって、基材上の、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体と、酸化チタン粒子とを含む樹脂層の表面に、酸素濃度が1000ppm以下の雰囲気下で、電離性放射線を照射して表層を形成する工程を有する回転体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、耐摩耗性に優れる表層を有する電子写真用の回転体を得ることができる。また、本発明の他の態様によれば、高品位な電子写真画像を安定的に得ることができる定着装置および画像形成装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る画像形成装置の概略図である。
図2】本発明の一実施形態に係る定着装置の側面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る回転体の部分断面図である。
図4】本発明の実施例1に係る表層の応力−歪み(S−S)曲線を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、回転体の表層の耐摩耗性の向上について検討を行った。その過程において、表層の引張降伏応力と表層の耐摩耗性とが相関しているとの知見を得た。すなわち、引張降伏応力が高い層は、耐摩耗性が高いことを見出した。
【0012】
ここで、一般に、樹脂やゴムなどの高分子材料に、酸化チタンの如き無機フィラーを配合した場合、無機フィラーの補強効果によって、引張降伏応力が上昇する。しかしながら、本発明者らの検討によれば、フッ素樹脂中に酸化チタンを分散してなる表層は、引張降伏応力が低下した。これは、フッ素樹脂の表面自由エネルギーが、他の高分子材料と比較して非常に小さいため、フッ素樹脂と酸化チタン粒子との相互作用が弱く、両者の界面で滑りが発生しているためであると推察される。
【0013】
そこで、本発明者らがさらなる検討を重ねた結果、フッ素樹脂と、該フッ素樹脂に分散してなる酸化チタン粒子とを含む層の表面に、酸素不存在下で電離性放射線を照射することによって、その層の引張降伏応力を大幅に向上させ得ることを見出した。これは、フッ素樹脂と酸化チタンとが電離性放射線の照射によって化学的に結合し、酸化チタンがフッ素樹脂中に固定化されたためであると考えられる。そして、このようにして引張降伏応力を向上させた層は、その表面の耐摩耗性の大幅な向上が観察された。
【0014】
以下、本発明の一実施形態に係る回転体とその製造方法について具体的に説明する。
すなわち、本発明の一態様に係る電子写真用の回転体は、基材と、該基材上の表層とを有し、該表層は、マトリックス樹脂と、該マトリックス樹脂中に分散されている酸化チタン粒子とを含み、該マトリックス樹脂は、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(以下、「PFA」ともいう)を含む。そして、該表層の、該回転体の周方向の引張降伏応力が、3.7MPa以上、5.0MPa以下である。
【0015】
ここで、表層の引張降伏応力とは、表層から切り出した試験片を、引張試験機を用いて、温度:200℃、引張速度:0.055mm/秒の条件で伸長させて、応力と歪みとの関係を測定し、当該測定によって得られる応力−歪み曲線(STRESS−STRAIN 曲線、以下、「S−S曲線」ともいう)から導かれる、5%耐力(MPa)のことである。
【0016】
具体的には、表層から、縦20mm、横5mmの試験片を切り出し、デジタル測長機(商品名:DIGIMICRO MF−501、ニコン社製)で厚みを計測する。なお、試験片の切り出しは、試験片の長手方向と回転体の周方向とが一致するように行う。試験片の長手方向の両端を引張試験機のクランプに固定し、温度200℃の環境に5分間放置後、同温度環境下で、引張速度0.055mm/秒にて試験片を伸長させる。こうして、当該試験片のS−S曲線を作成する。図4に、後述する実施例1に係る表層のS−S曲線を示す。5%耐力は、S−S曲線の歪み0〜3%部分を直線として近似線(図4における線分401)を引き、この近似線を、歪み5%分、正方向に平行移動した直線(図4における線分403)と、S−S曲線の交点の応力値をいう。ここで、引張試験機としては、例えば、「ReogelE4000」(商品名、UBM社製)を使用することができる。
【0017】
また、表層は、その周方向の引張破断エネルギーを、30kJ/m以上、150kJ/m以下とすることが、より一層の耐久性の向上を図る上で好ましい。引張破断エネルギーは、上記した表層のS−S曲線を積分することにより得られる。
【0018】
[回転体]
図3は、本発明の一実施形態に係るエンドレスベルト形状を有する定着ベルト23の部分断面図である。定着ベルト23は、基材231上の弾性層232と、弾性層232上の表層233とを有する積層構造を有する。なお、回転体は、基材231上に表層233が形成され、弾性層232を有さない構成や、複数の弾性層232を有する構成であってもよい。また、回転体は、エンドレスベルト形状を有するものに限定されず、例えば、ローラ形状を有するローラであってもよい。
【0019】
<表層>
表層233は、PFAをマトリックス樹脂として含み、該マトリックス樹脂中に酸化チタン粒子が分散されている。酸化チタン粒子の含有量は、表層を基準として、1質量%以上、40質量%以下であることが好ましい。酸化チタンとしては、アナターゼ型、ルチル型のどちらでもよく、また、導電性の点から、異種元素がドーピングされていてもよい。ドーピングされる異種元素としては、アンチモン、スズ、ニオブ、リンが挙げられ、これらは、酸化物として酸化チタン中に存在していてもよい。これらの異種元素を、1種または複数種含んでもよい。
【0020】
表層233の厚みは、耐摩耗性や伝熱性の観点から、5μm以上30μm以下であることが好ましい。
表層の厚みについて、予め押出成形により円筒状に作製したフッ素樹脂チューブを被覆する、チューブ法で表層を形成する場合は、デジタル測長機(商品名:DIGIMICRO MF−501、ニコン社製)の如き接触式の厚み測定機を用いて、事前にチューブの厚みを測定することができる。
また、表層が、表層形成用塗料をスプレーやディッピング等でコートして表層を形成するコート法によって形成されてなる場合は、レーザーや可視光を用いた非接触式の膜厚測定機を用いて測定することができる。かかる膜厚測定機としては、例えば、レーザー顕微鏡(商品名:Vk−9700、キーエンス社製)が挙げられる。また予め表層形成塗料の塗布重量と表層の厚みの関係性のデータを取得しておき、塗布重量から表層の厚みを算出することもできる。
【0021】
<基材>
基材231の材質としては、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、および、ポリエーテルスルホン(PES)の如き樹脂、ステンレス鋼、ニッケルおよび鉄の如き金属が挙げられる。
回転体がエンドレスベルト形状である場合、基材としては、エンドレスベルト形状のものが挙げられる。特に、エンドレスベルト形状の回転体の場合、基材には、優れた柔軟性と高い強度が求められる。かかる基材としては、ポリイミド、ポリアミドイミドおよびポリエーテルスルホンからなる群より選択される少なくとも1つの樹脂を含む基材が好適に用いられる。
回転体が、ローラ形状を有する場合、基材としては、円柱状や円筒状のものが挙げられる。
【0022】
また、熱容量を小さくし、定着装置6としてのクイックスタート性を向上させるために、基材の厚みは、20μm以上100μm以下であることが好ましく、20μm以上60μm以下であることがより好ましい。
【0023】
<弾性層>
弾性層232の材料としては、公知の弾性材料を使用することができる。具体的には、シリコーンゴム、フッ素ゴムが用いられる。これらの中でも、シリコーンゴムを使用することが好ましい。
シリコーンゴムの原料は、室温で流動性を有するポリマーであって、加熱により硬化が進行する液状シリコーンゴムであることが好ましい。かかる液状シリコーンゴムによって形成される弾性層232は、適度に低硬度であり、定着装置6で用いるために十分な耐熱性と変形回復力を有する。特に、加工性が良好で寸法精度の安定性が高く、かつ、硬化反応時に反応副生成物が発生せず生産性に優れることから、付加反応架橋型の液状シリコーンゴムを用いることが好ましい。
【0024】
付加反応架橋型の液状シリコーンゴム組成物は、基本的な構成成分として下記(a)、(b)および(c)成分を含む。
(a)不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサン;
(b)ケイ素原子に結合した活性水素を有するオルガノポリシロキサン;
(c)ヒドロシリル化触媒。
【0025】
上記(a)成分である、不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサンとしては、以下のものが挙げられる。
・分子両末端が(R1)R2SiO1/2で表され、中間単位が(R1)SiOおよびR1R2SiOで表される直鎖状オルガノポリシロキサン
・分子両末端が(R1)R2SiO1/2で表され、中間単位にR1SiO3/2および/またはSiO4/2が含まれる分岐状ポリオルガノシロキサン
【0026】
ここで、R1は、上記式中のケイ素原子に結合した、不飽和脂肪族基を含まない非置換または置換の1価の炭化水素基を表す。炭化水素基としては、具体的に、アルキル基(例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基)、アリール基(フェニル基、ナフチル基)等が挙げられる。該炭化水素基が有していてもよい置換基としては、フッ素原子や塩素原子等のハロゲン原子;メトキシ基やエトキシ基等のアルコキシ基;シアノ基等が挙げられる。置換炭化水素基としては、具体的に、クロロメチル基、3−クロロプロピル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、3−シアノプロピル基、3−メトキシプロピル基が挙げられる。
これらの中でも、合成や取扱いが容易で、優れた耐熱性が得られることから、R1の50%以上がメチル基であることが好ましく、すべてのR1がメチル基であることがより好ましい。
【0027】
また、R2は、上記式中のケイ素原子に結合した不飽和脂肪族基を表す。不飽和脂肪族基としては、ビニル基、アリル基、3−ブテニル基、4−ペンテニル基、5−ヘキセニル基が例示される。これらの中でも、合成や取扱いが容易で、シリコーンゴムの架橋反応が進行しやすいことから、ビニル基が好ましい。
【0028】
上記(a)成分である不飽和脂肪族基を有するオルガノポリシロキサンの数平均分子量は、5000以上10万以下が好ましく、重量平均分子量は、1万以上50万以下が好ましい。
【0029】
上記(b)成分である、ケイ素原子に結合した活性水素を有するオルガノポリシロキサンは、(c)成分であるヒドロシリル化触媒の作用により、上記(a)成分が有する不飽和脂肪族基と反応して架橋構造を形成する架橋剤である。
上記(b)成分において、ケイ素原子に結合した活性水素の数は、1分子中に平均して3個を越える数であることが好ましい。ケイ素原子に結合した有機基としては、(a)成分のR1と同じ、不飽和脂肪族基を含まない非置換または置換の1価の炭化水素基が例示される。特に、合成および取扱いが容易であることから、該有機基としてはメチル基が好ましい。ケイ素原子に結合した活性水素を有するオルガノポリシロキサンの分子量は特に限定されない。
【0030】
また、上記(b)成分の25℃における粘度は、10mm/s以上100,000mm/s以下が好ましく、15mm/s以上1,000mm/s以下がより好ましい。粘度が10mm/s以上であると、該オルガノポリシロキサンが保存中に揮発しにくく、得られるシリコーンゴムにおいて所望の架橋度や物性を得ることができる。また、粘度が100,000mm/s以下であると、該オルガノポリシロキサンの取扱いが容易であり、系中に均一に分散させやすくなる。
【0031】
上記(b)成分のシロキサン骨格は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよく、これらの混合物を用いてもよい。特に合成の容易性の観点から、直鎖状のものが好ましい。また、上記(b)成分において、Si−H結合は、分子中のどのシロキサン単位に存在してもよいが、少なくともその一部が、(R1)HSiO1/2単位のように、オルガノポリシロキサンの分子末端に存在することが好ましい。
【0032】
さらに、上記(a)成分および上記(b)成分は、付加硬化型シリコーンゴム組成物において、ケイ素原子数に対する不飽和脂肪族基数の割合が、0.001以上0.020以下、特には0.002以上0.010以下となるように配合されることが好ましい。また、不飽和脂肪族基数に対する活性水素数の割合が、0.3以上0.8以下となるように配合されていることが好ましい。不飽和脂肪族基数に対する活性水素数の割合が0.3以上であると、硬化後のシリコーンゴムにおいて安定して所望の硬度を得ることができる。また、不飽和脂肪族基数に対する活性水素数の割合が0.8以下であると、シリコーンゴムの硬度が過度に上昇することを抑制できる。なお、不飽和脂肪族基数に対する活性水素数の割合は、水素核磁気共鳴装置(1H−NMR、商品名:AL400型FT−NMR、日本電子社製)を用いて、不飽和脂肪族基数および活性水素数を定量することにより算出することができる。
【0033】
上記(c)成分であるヒドロシリル化触媒としては、白金化合物およびロジウム化合物の如き公知の物質が挙げられる。
【0034】
付加反応架橋型の液状シリコーンゴム組成物は、上記した(a)〜(c)成分の他に、インヒビターと呼ばれる反応制御剤(阻害剤)を含んでいてもよい。反応制御剤としては、メチルビニルテトラシロキサン、アセチレンアルコール類、シロキサン変性アセチレンアルコール、ハイドロパーオキサイドの如き公知の物質を用いることができる。
【0035】
また、弾性層232の熱伝導率を向上させるために、弾性層232を構成するシリコーンゴム中に高熱伝導性フィラー(以下、「フィラー」と称す)を添加することが好ましい。フィラーとしては、SiC、ZnO、Al、AlN、MgO、カーボンを用いることができる。また、これらのフィラーは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合物として用いてもよい。なお、これらのフィラーを弾性層232に添加することにより、弾性層232に導電性を付与することも可能である。
【0036】
弾性層232の厚みは、薄すぎると弾性が十分に発揮できないため高光沢で定着ムラの少ない良質な画像を得にくく、厚すぎると定着部材の熱容量が大きくなってしまい定着装置6のクイックスタート性が低下してしまう。そのため、弾性層232の厚みは、30μm以上500μm以下であることが好ましく、100μm以上300μm以下であることがより好ましい。
【0037】
<表層の形成方法>
表層233の一般的な形成方法としては、コート法と、予め押出成形により円筒状に作製したフッ素樹脂チューブを弾性層232の表面に被覆して接着する方法(以下、「チューブ法」と称す)がある。どちらの形成方法でもよいが、コスト的な観点からは、コート法が好ましい。以下に、コート法による表層の形成方法を説明する。
【0038】
(1)塗膜を形成する工程
まず、PFAと酸化チタン粒子とを含む表層形成用塗料を、基材231上または弾性層232上に塗布し、PFAと酸化チタン粒子とを含む塗膜(以下、単に「塗膜」と称す)を形成する。ここで、表層形成用塗料としては、PFAと酸化チタン粒子に加えて、成膜剤、界面活性剤、および粘度調整剤が水中に分散されたものを用いることもできる。表層形成用塗料中に含まれるPFAは、粒子形状であることが好ましい。PFA粒子の平均粒径(体積平均粒径)は、0.1μm以上、5μm以下であることが好ましい。PFA粒子の体積平均粒径は、光散乱法で測定したときの体積平均粒径である。
なお、表層形成用塗料を塗布する前に、基材231または弾性層232と表層233との接着性を高めるために、基材231または弾性層232に表面処理を行ってもよい。該表面処理としては、具体的には、シランカップリング剤の塗布、紫外線(UV)照射、プラズマ処理やフレーム処理が挙げられる。なお、紫外線照射処理の後にシランカップリング剤を塗布するなど、複数の表面処理を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
(2)塗膜を加熱して樹脂層を形成する工程
続いて、基材231上または弾性層232上の塗膜を加熱し、該塗膜中のPFAを溶融させて、樹脂層を形成する。PFAの融点は290℃以上310℃以下であるので、塗膜の加熱温度を330℃以上380℃以下とすることが好ましい。また、塗膜の加熱時間は、弾性層232の熱劣化を抑制するため、1分間以上、30分間以下とすることが好ましく、1分間以上、15分間以下とすることがより好ましい。
加熱装置としては、オーブン、マッフル炉、赤外線ランプ加熱装置、管状炉が挙げられるが、必ずしもこれらの手段に限定されるものではない。
【0040】
(3)樹脂層の表面に電離性放射線を照射して表層を形成する工程
次に、形成された樹脂層の表面に電離性放射線を照射して、表層233を形成する。
電離性放射線としては、γ線、電子線、X線、中性子線、または高エネルギーイオン等が挙げられる。装置の汎用性の観点から、電子線を用いることが好ましい。
電離性放射線の照射雰囲気は、酸素不存在下であることが好ましく、具体的には、酸素濃度が1000ppm以下であることが好ましい。酸素濃度が1000ppm以下であれば、真空下、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下のいずれでもよく、装置コストやランニングコストの面から、窒素雰囲気下が好ましい。
【0041】
PFAの如きフッ素樹脂は、常温下での電離性放射線照射によっては分解反応しか起こさない分解型の樹脂である。一方、フッ素樹脂を融点近傍まで加熱した状態で電離性放射線を照射すると、分解反応と並行して架橋反応が生じる。しかしながら、PFAと酸化チタン粒子とを含む層に対する電離放射線の照射による引張降伏応力の向上は、電離放射線の照射時の当該層の温度が、常温(温度25℃)からPFAの融点(温度290〜310℃)までの範囲で観察される。そのため、本態様における表層の引張降伏応力は、PFA自身の架橋のみに因るものではないと考えられる。
【0042】
電離性放射線の照射線量は、1kGy以上、1000kGy以下が好ましく、10kGy以上、600kGy以下がより好ましい。
また、電離性放射線の照射線量を、電離性放射線を照射する際の樹脂層の温度に応じて調整することは、表層の周方向の引張破断エネルギーを、前記した範囲内とすることが、より容易となるため好ましい。具体的には、樹脂層の温度が、25℃〜90℃である場合、電離性放射線の照射線量としては、10kGy〜50kGyとすることが好ましい。また、樹脂層の温度が、90℃〜280℃である場合、電離性放射線の照射線量としては、10kGy〜200kGyとすることが好ましい。さらに、樹脂層の温度が、280℃〜350℃である場合、電離性放射線の照射線量としては、10kGy〜400kGyとすることが好ましい。
【0043】
[画像形成装置]
図1は、本発明の一実施形態に係る回転体を搭載する画像形成装置の概略図である。この画像形成装置は、電子写真式のレーザービームプリンタ(以下、「プリンタ」と称す)である。図1に示すプリンタは、像担持体として回転ドラム型の電子写真感光体(以下、「感光ドラム」と称す)18を有する。
感光ドラム18は、プリント指令に応じて矢印方向に所定の周速度(プロセススピード)にて回転する。この回転過程で、感光ドラム18の外周面(表面)が、帯電手段としての帯電ローラ17により所定の極性・電位に一様に帯電処理される。そして、感光ドラム18の表面の一様帯電面に対して、レーザービームスキャナ3から出力される、画像情報に応じて変調制御(ON/OFF制御)されたレーザービームLBによる走査露光がなされる。このようにして、感光ドラム18の表面に、目的の画像情報に応じた静電潜像が形成される。該静電潜像が、現像手段としての現像装置4により、トナーTOを用いてトナー画像として現像され可視化される。
【0044】
一方、給送ローラ8の駆動により、給送カセット9内に積載収納されている記録材Pが一枚ずつ繰り出され、ガイド10を有するシートパスを通ってレジストローラ11に搬送される。レジストローラ11は、この記録材Pを、感光ドラム18の表面と転写ローラ5の外周面(表面)との間の転写ニップ部に、所定の制御タイミングにて給送する。この記録材Pは転写ニップ部で挟持搬送され、この搬送過程において転写ローラ5に印加される転写バイアスによって、感光ドラム18の表面のトナー画像が順次に記録材Pの面に転写されていく。このようにして、記録材Pは未定着のトナー画像(未定着画像)を担持する。
未定着画像を担持した記録材Pは、感光ドラム18の表面から順次に分離して転写ニップ部から排出され、搬送ガイド12を通じて定着装置6のニップ部に導入される。記録材Pが定着装置6のニップ部で熱と圧力を受けることによって、トナー画像が記録材Pの面に加熱定着される。定着装置6を出た記録材Pは、搬送ローラ13とガイド14と排出ローラ15とを有するシートパスを通って、排出トレイ16にプリントアウトされる。また、記録材Pを分離した後の感光ドラム18の表面は、クリーニング手段としてのクリーニング装置7により、転写残りトナー等の付着汚染物の除去処理を受けて清浄面化され、繰り返し作像に供される。
【0045】
[定着装置]
図2は、本発明の一実施形態に係る定着部材である回転体を有する定着装置6の側面図である。この定着装置6は、フィルム加熱方式の定着装置であり、回転体と、該回転体を加熱する加熱装置と、該回転体に対向して配置されている加圧部材とを有する。
以下の説明において、定着装置および該定着装置を構成する部材に関し、長手方向とは、記録材の面において記録材搬送方向と直交する方向である。短手方向とは、記録材の面において記録材搬送方向と平行な方向である。幅とは、短手方向の寸法である。
【0046】
フィルムガイド21は、横断面略半円弧状の樋型に形成されたフィルムガイドである。フィルムガイド21は、図面に対して垂直な方向を長手方向とする横長の部材である。フィルムガイド21の材料は、例えばPPS(ポリフェニレンサルファイト)や液晶ポリマー等の耐熱性樹脂の成形品である。
【0047】
ヒータ22は、フィルムガイド21の下面の略中央に長手方向に沿って形成された溝内に収容支持されている加熱体である。ヒータ22は、全体に低熱容量で、かつ長手方向に細長いセラミックス製のヒータである。このヒータ22は、長手方向に細長い薄板状のアルミナ製のヒータ基板221を有している。そして、このヒータ基板221の表面(後述のニップ部N側の面)には、ヒータ基板221の長手方向に沿って、線状あるいは細帯状のAg/Pdといった通電発熱体(抵抗発熱体)222が形成されている。そして、この通電発熱体222は、該通電発熱体222を覆うように薄いガラス層で形成された表面保護層223によって保護されている。ヒータ基板221の裏面(ニップ部N側の面とは反対側の面)には、温度検知部材としてサーミスタ224が設けられている。
【0048】
定着ベルト23は、本発明の一実施形態に係る定着部材であって、ここでは、エンドレスベルト形状(円筒状)を有している。定着ベルト23は、加熱体22を支持するフィルムガイド21にルーズに外嵌されている。
【0049】
加圧ローラ24は、ローラ形状を有する加圧部材である。この加圧ローラ24は、定着ベルト23の下方に、定着ベルト23と対向するように配置されている。そして、この加圧ローラ24は、所定の加圧機構(不図示)により、定着ベルト23を挟んでヒータ22に対し所定の加圧力で加圧させられている。この加圧力に応じて加圧ローラ24の外周面(表面)と定着ベルト23の外周面(表面)が接触し、加圧ローラ24が弾性変形する。これによって、加圧ローラ24表面と定着ベルト23表面との間に所定幅のニップ部N(定着ニップ部)が形成される。
【0050】
(定着装置の加熱定着動作)
プリント指令に応じて駆動源としての定着モータMが回転駆動されると、この定着モータMの回転力が動力伝達機構(不図示)を介して加圧ローラ24に伝達される。これにより、加圧ローラ24は矢印方向に所定の周速度(プロセススピード)で回転される。この加圧ローラ24の回転はニップ部Nを通じて定着ベルト23表面に伝わり、定着ベルト23は、加圧ローラ24の回転に従動して矢印方向に回転する。ニップ部Nに搬送された記録材P上の未定着トナーtが定着装置6のニップ部Nで熱と圧力を受けることによって、トナー画像が記録材Pの面に加熱定着される。
【実施例】
【0051】
[実施例1]
定着ベルトの基材として、外径30mm、肉厚40μm、軸方向の長さ400mmのステンレス製フィルムを用意した。
このステンレス製フィルム上に、プライマー(商品名:EK−1909S21L、ダイキン工業社製)を厚み2μmとなるように均一にスプレーコートし、乾燥させた。
次に、PFA(商品名:350−J、三井・デュポンフロロケミカル社製)90質量%、酸化チタン(商品名:ET−500W、石原産業社製)10質量%となるように調製した表層形成用塗料を、加熱後の膜厚が15μmとなるようにスプレーコートした。この塗膜を380℃に加熱し、この温度で15分間維持して塗膜中のPFA粒子を溶融させた。その後、得られたベルトを冷風により急冷し、基材上に樹脂層を有する定着ベルトを得た。
得られた定着ベルトの樹脂層の表面に、窒素雰囲気下(酸素濃度1000ppm以下)、25℃で電子線を均一に50kGy照射して、基材上に表層を有する定着ベルト1を得た。
【0052】
[実施例2〜5]
電子線の照射条件を、それぞれ表1に示すとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして定着ベルト2〜5を作製した。
【0053】
[実施例6]
表層形成用塗料を、PFA(商品名:350−J、三井・デュポンフロロケミカル社製)95質量%、酸化チタン(商品名:ET−500W、石原産業社製)5質量%となるように調製した以外は、実施例1と同様にして定着ベルト6を作製した。
【0054】
[実施例7]
表層形成用塗料を、PFA(商品名:350−J、三井・デュポンフロロケミカル社製)70質量%、酸化チタン(商品名:ET−500W、石原産業社製)30質量%となるように調製した以外は、実施例1と同様にして定着ベルト7を作製した。
【0055】
[実施例8]
基材を、外径23mm、軸方向の長さ315mmの鉄製の円柱状芯金に変更した以外は、実施例1と同様にして定着ローラ8を作製した。
【0056】
[実施例9]
定着ベルトの基材として、外径24mm、肉厚60μm、軸方向の長さ400mmのポリイミド製フィルムを用意した。
このポリイミド製フィルム上に、液状シリコーンゴム混合物(商品名:DY35−4097、東レ・ダウコーニング社製)を、プライマー(商品名:DY39−051、東レ・ダウコーニング社製)を介してリングコート法により厚み300μmとなるように塗膜し、その後、架橋させて弾性層を形成した。架橋は、温風循環式オーブンにより200℃にて4時間行った。なお、使用した液状シリコーンゴム混合物は、前述の(a)、(b)および(c)成分を含むものである。
次に、弾性層の表面に対してUV処理を行った。なお、本発明においてUV処理は必須ではないが、UV処理を行うことで、シリコーンゴム弾性層表面のタック性が低下し、かつ、シリコーンゴム弾性層の表面に親水性を付与することができる。
この弾性層上に、プライマー(商品名:EK−1909S21L、ダイキン工業社製)を厚み2μmとなるように均一にスプレーコートし、乾燥させた。
次に、PFA(商品名:350−J、三井・デュポンフロロケミカル社製)90質量%、酸化チタン(商品名:ET−500W、石原産業社製)10質量%となるように調製した表層形成用塗料を、加熱後の膜厚が15μmとなるようにスプレーコートした。この塗膜を360℃に加熱し、この温度で3分間維持して塗膜中のPFA粒子を溶融させた。その後、得られたベルトを冷風により急冷し、基材上に弾性層および樹脂層を有する定着ベルトを得た。
得られた定着ベルトの樹脂層の表面に、窒素雰囲気下(酸素濃度1000ppm以下)、25℃で電子線を均一に50kGy照射して、基材上に弾性層および表層を有する定着ベルト9を得た。
【0057】
[比較例1]
定着ベルトの基材として、外径30mm、肉厚40μm、軸方向の長さ400mmのステンレス製フィルムを用意した。
このステンレス製フィルム上に、プライマー(商品名:EK−1909S21L、ダイキン工業社製)を厚み2μmとなるように均一にスプレーコートし、乾燥させた。
次に、PFA(商品名:350−J、三井・デュポンフロロケミカル社製)のみを含む表層形成用塗料を、加熱後の膜厚が15μmとなるようにスプレーコートした。この塗膜を380℃に加熱し、この温度で15分間維持して塗膜中のPFA粒子を溶融させた。その後、得られたベルトを冷風により急冷し、基材上に樹脂層を有する定着ベルトC1を得た。
【0058】
[比較例2]
電子線を照射しなかったこと以外は、実施例1と同様にして定着ベルトC2を作製した。
【0059】
[比較例3]
比較例1で得た定着ベルトC1の樹脂層の表面に、照射温度:350℃、照射線量:200kGyの条件で電子線を照射し、定着ベルトC3を作製した。
【0060】
得られた各定着ベルト(または定着ローラ)について、以下の評価を行った。評価結果を表1にまとめて示す。なお、比較例1および2で作製した、樹脂層の表面に電子線を照射していない定着ベルトにおいては、表層に代えて樹脂層について以下の評価を行った。
【0061】
(1)表層の引張降伏応力、引張破断エネルギーの測定
上記各定着ベルトの表層を取り出し、幅5mm、長さ20mmに切断して引張試験用試験片を作製した。その試験片を、動的粘弾性測定装置(商品名:Reogel−E4000、UBM社製)の引張測定用治具に、チャック間距離が10mmとなるようにセットした。治具への試験片の固定にはトルクドライバーを用い、締め付けトルクが5cN・mとなるようにして固定した。引張試験は、温度:200℃、引張速度:0.055mm/秒の条件で、試験片が破断するまでS−S曲線を測定した。測定はチャック間で破断したデータのみを採用し、5回の測定の平均値から測定結果を算出した。引張降伏応力は前述のように5%耐力の値を採用し、引張破断エネルギーは、図4に示されるようなS−S曲線を積分することにより算出した。
【0062】
(2)耐久試験
上記各定着ベルト(または定着ローラ)について、表層の耐摩耗性を評価するために以下に示す耐久試験を行った。まず、図2に示す構成を有する定着装置に各定着ベルトを装着し、この定着装置を、60枚/分(プロセススピード350mm/sec)の高速定着が可能なレーザービームプリンタに組み込み、連続通紙モードでA4サイズの紙を連続して30万枚通紙した。定着時の各定着ベルトの表面温度は200℃に設定し、通紙は、温度15℃、湿度20%の環境下で行った。そして、連続通紙後に定着ベルトを取り外し、該定着ベルトの表面を目視で観察し、下記基準にて評価した。
ランク「A」:表層の摩滅が認められない。
ランク「B」:表層の紙のエッジが当接する部位(紙コバ部)に一部摩滅が認められる。
ランク「C」:表層の紙のエッジが当接する部位(紙コバ部)が全て摩滅する。
【0063】
【表1】
【0064】
表1に示すように、PFAのみからなる樹脂層を有する比較例1の定着ベルトC1に対して、酸化チタン粒子が配合された比較例2の定着ベルトC2では引張降伏応力が低下している。一方で、同じく酸化チタン粒子を配合した実施例1〜5においては、電子線を照射したことにより大幅に引張降伏応力が向上し、耐摩耗性が良化した。また、比較例1と比較例3、および比較例2と実施例1〜5との比較から、PFAのみからなる定着ベルトC1に電子線を照射した場合(定着ベルトC3)に比べ、酸化チタン粒子が配合された定着ベルトで引張降伏応力が大きく向上することがわかった。すなわち、引張降伏応力の向上がPFAの架橋によるものではなく、酸化チタンとPFAとの結合に由来するものであると推察される。
【符号の説明】
【0065】
6 定着装置
23 定着ベルト
231 基材
233 表層
図1
図2
図3
図4