(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
アミノ基又はアミド基を有するラジカル重合性ビニルモノマーをイオン化したポリマーブロックからなる親水部が疎水ブロックの両末端に結合した両親媒性ポリマーと、層状無機化合物と、を溶媒に添加し、前記溶媒を撹拌して層を剥離させる剥離工程と、
前記剥離工程により得られた、層が剥離された無機化合物が含まれる剥離溶媒を真空凍結乾燥させるフリーズドライ工程と、
前記フリーズドライ工程により得られた、層が剥離された無機化合物を焼成する焼成工程と、
を有し、
前記層状無機化合物がベントナイトであること、
を特徴とする無機化合物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[1.構成]
以下、本発明に係る無機化合物の製造方法の実施形態について詳細に説明する。まず、無機化合物の製造方法に用いられる、各材料について以下に説明する。
【0013】
(無機化合物)
本実施形態の無機化合物は、層状構造を有する層状無機化合物において層が剥離されているものである。このような無機化合物は、層状無機化合物と両親媒性ポリマーを溶媒に分散させることで得られる。また、この溶液にフリーズドライ処理を施し、フリーズドライ処理の回収物に焼成処理を施すことで層が剥離された状態の無機化合物が固体として回収される。
【0014】
(層状無機化合物)
層状無機化合物としては、天然粘土や合成粘土を用いる。天然粘土としては、ベントナイト、モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、スチブンサイト、ソーコナイト、ノントロナイト等があげられる。合成粘土としては、バーミキュライト、ハロイサイト、膨潤マイカ等が挙げられる。層状無機化合物としては、特に、ベントナイトを好適に用いることができる。
【0015】
ベントナイトは、モンモリロナイト(以下、MMTと記載する場合もある)を主成分とする粘土鉱物である。また、ベントナイトは、石英、α-クリストバライト、オパールなどの珪酸鉱物を含む。このようなベントナイトは、長石、マイカ、ゼオライトなどの珪酸塩鉱物、カルサイト、ドロマイト、ジプサムなどの炭酸塩鉱物や硫酸塩鉱物、さらにパイライトなどの硫化鉱物を随伴する弱アルカリ性粘土岩の名称である。ベントナイトに含有する各鉱物を構成する元素は、地殻を構成する主要元素Si,Al,Fe,Mg,Ca,Na,K,O,H,S,Cからなっており、一般的な岩石の化学組成と類似している。
【0016】
ベントナイトの主成分であるモンモリロナイトは、スメクタイトに分類される粘土鉱物である。スメクタイトは、層状ケイ酸塩鉱物の一種である。モンモリロナイトは、アルミナ八面体層が2つのケイ酸四面体層に挟まれるようにして積み重なった3層を単位層としている。単位層は、厚みが1nm程度、各辺の長さが1μm程度の板状の結晶体である。
図1(a)に示す通り、モンモリロナイトは、単位層が空間を介して複数積層された状態で存在する。モンモリロナイトは、単位層表面の負電荷と層間の陽イオンが結合することで、複数の単位層が重なった状態で安定化している。
【0017】
安定化状態において、モンモリロナイトの各層は平面が負電荷を帯び、側面が正電荷を帯びている。そのためモンモリロナイトを溶媒に分散させると、
図1(b)に示す通り、負電荷を有する平面と正電荷を有する側面とが引き合うことで層状構造が崩れて立体的な構造(カードハウス構造)を呈する。カードハウス構造において、層状無機化合物の各層は、他の層から剥離された状態となる。モンモリロナイトを分散させる溶媒としては、純水等の水が好ましい。モンモリロナイトの層間の陽イオンと水分子が水和し、層間距離が増大するからである。ただし、アルコールやアセトンのような有機溶媒を用いた場合も、層間の陽イオンと溶媒和することにより、層間距離を増大させることができる。
【0018】
(両親媒性ポリマー)
本実施形態の両親媒性ポリマーは、疎水部と親水部を有し、疎水部の両端に親水部が結合している。疎水部は、例えばポリプロピレンやポリイソブチレンとすることができる。また、親水部としては、(メタ)アクリルアミド類を結合することができる。両親媒性ポリマーは、この親水部にイオン基が導入されているイオン性高分子、すなわちアイオノマーである。親水部は、疎水部の両端のそれぞれに、複数結合されている。そのため、イオン交換により、後述するように無機化合物の表面に付く部位が多い、という特性を有する。なお、両親媒性ポリマーについては、後述の調整方法にて詳述する。
【0019】
(アイオノマー)
本発明に係るアイオノマーは、ABA型トリブロック構造を有する。
【0020】
Aブロックは、アミノ基又はアミド基を有するラジカル重合性ビニルモノマーをイオン化したポリマーブロックである。このラジカル重合性ビニルモノマーは、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和二重結合を分子内に1つ以上有する化合物であればよく、特に限定されない。ラジカル重合性ビニルモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸アミノエチル、(メタ)アクリル酸アミノプロピル、(メタ)アクリル酸メチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸メチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸エチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸エチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノプロピル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノプロピル、(メタ)アクリルアミド、メチル(メタ)アクリルアミド、エチル(メタ)アクリルアミド、n−プロピル(メタ)アクリルアミド、i−プロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−(1,1−ジメチル−3−オキソブチル)アクリルアミド(ダイアセトンアクリルアミド)、ヒドロキシメチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリルアミド、メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、メトキシエチル(メタ)アクリルアミド、エトキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエタノール(メタ)アクリルアミド、N−(2−(ポリエチレングリコール)エチル)(メタ)アクリルアミド、N,N−(2,2’−(ポリエチレングリコール)ジエチル)(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類、(メタ)アクリル酸が挙げられる。これらの他のラジカル重合性ビニルモノマーは、単独でも複数を組み合わせて用いてもよい。好ましくは、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、i−イソプロピル(メタ)アクリルアミドである。
【0021】
Aブロック中における、ラジカル重合性ビニルモノマーのポリマーブロックの含有量は、1〜90質量%、特に10〜50質量%の範囲が好ましい。Aブロックを構成するイオン性ポリマーの数平均分子量としては、特に制限はないが、好ましくは300〜100000、特に500〜50000の範囲である。重量平均分子量としては、特に制限はないが、好ましくは500〜1000000、特に1000〜500000の範囲である。
【0022】
Bブロックは、オレフィン系(共)重合体ブロック、ジエン系(共)重合体ブロックからなる群から選択される非イオン性ポリマーブロックである。
【0023】
オレフィン系(共)重合体は、好ましくは下記一般式1を構成単位とする。
(一般式1)
−(CH
2−CHR)− ・・・(i)
【0024】
化学式1において、各Rは、H、−CH
3、−C
2H
5、および−CH
2CH(CH
3)
2からなる群から独立に選択される。すなわち、ポリエチレン(RがすべてH)、ポリプロピレン(Rがすべて−CH
3)、ポリ1−ブテン(Rがすべて−C
2H
5)、エチレン・プロピレン共重合体(RがH又は−CH
3)、プロピレン・1−ブテン共重合体(Rが、−CH
3又は−C
2H
5)、エチレン・1−ブテン共重合体(RがH又は−C
2H
5)又はポリ4−メチル−1−ペンテン(Rがすべて−CH
2CH(CH
3)
2)等が含まれる。また、オレフィン系(共)重合体は、ポリイソブチレンでもよい。なお、共重合体に関してはランダム共重合体およびブロック共重合体の両方を含む。好ましくは、ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン・エチレン共重合体、エチレン・1−ブテン共重合体又はポリイソブチレンである。耐熱性の点で、エチレン・1−ブテン共重合体がさらに好ましい。一般式(1)で表される構成単位の繰り返し数は、特に制限はないが、通常10〜3000の整数である。Bブロックを構成するオレフィン系(共)重合体の数平均分子量としては、特に制限はないが、好ましくは300〜100000、特に500〜50000の範囲である。重量平均分子量としては、特に制限はないが、好ましくは500〜500000、特に1000〜200000の範囲である。
【0025】
ジエン系(共)重合体は、例えば、ジエン系モノマーの重合により得られる。ジエン系モノマーとしては、1,3−ブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−エチル−1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ペンタジエン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、4−メチル−1,3−ペンタジエン及び2,4−ヘキサジエンが挙げられる。これらのジエン系モノマーは単独でも複数を組み合わせて用いてもよい。なお、共重合体に関してはランダム共重合体およびブロック共重合体の両方を含む。ジエン系モノマーとして、より好ましくは、1,3−ブタジエンである。Bブロックを構成するジエン系(共)重合体の数平均分子量としては、特に制限はないが、好ましくは300〜100000、特に500〜50000の範囲である。重量平均分子量としては、特に制限はないが、好ましくは500〜500000、特に1000〜200000の範囲である。
【0026】
本発明のアイオノマーの数平均分子量としては、特に制限はないが、好ましくは1000〜1000000、特に2000〜100000の範囲である。重量平均分子量としては、特に制限はないが、好ましくは2000〜5000000、特に3000〜500000の範囲である。
【0027】
(アイオノマーの製造方法)
本発明に係るアイオノマーは、例えば、両末端ヒドロキシ基含有ポリオレフィンから両末端ハロゲン化ポリオレフィンを製造し、得られた両末端ハロゲン化ポリオレフィンとラジカル重合性ビニルモノマーとで原子移動ラジカル重合反応を行うことによりトリブロック共重合体を製造し、得られたトリブロック共重合体を加水分解した後、アンモニウムイオン又は有機アンモニウムイオンを導入することにより製造できる。
【0028】
両親媒性ポリマーの一例として、以下の化1を示す。化1は、ポリイソブチレン(PIB)の両端にポリN-(3-ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド(PDMA)が結合した両親媒性ポリマーを、ヨードメタンを用いてイオン化したものである。
【化1】
【0029】
以上のような両親媒性ポリマーを、層状無機化合物とともに純水等の溶媒に分散させることで、層状無機化合物のみを添加した場合と比較して層間距離がさらに増加される。両親媒性ポリマーの添加量は、層状無機化合物1に対して0.2〜1.25とすることが好ましい。両親媒性ポリマーの添加量が0.2未満の場合、層状無機化合物中の金属イオンと、両親媒性ポリマーの用イオンとのイオン交換量が少なくなる。そのため、層状無機化合物の層間の剥離効果が認められない。また、両親媒性ポリマーの添加量が1.25を超えて添加したとしても、交換できる金属イオンの量は一定であるため、層の剥離効果に変化は生じない。
【0030】
両親媒性ポリマーと層状無機化合物を溶媒に添加し撹拌すると、
図1(a)に示す通り、両親媒性ポリマーと層状無機化合物が溶媒中に分散する。
図1(b)に示した通り、層状無機化合物を溶媒に分散させると、層状無機化合物の層間距離が増大しカードハウス構造を形成する。この際、層状無機化合物の金属イオンと、両親媒性ポリマーの陽イオンがイオン交換する。そのため、
図1(b)に示す通り、層状無機化合物の各層に隣接するように両親媒性ポリマーが存在し、両親媒性ポリマーを介して層と層がイオン結合されている状態となる。すなわち、両親媒性ポリマーの親水部が、層状無機化合物の各層の表面にインターカレーションする。これにより、無機化合物の層間距離が増大して剥離され、さらに両親媒性ポリマーの疎水部によって、層が剥離した状態が維持又は拡大される。
【0031】
両親媒性ポリマーと層が剥離された無機化合物が含まれる剥離溶液について、
図1(c)に示す通り、フリーズドライ処理を施すと、層状無機化合物の各層が固体として回収される。すなわち、層が剥離された無機化合物が回収される。フリーズドライ処理により得られた層が剥離された無機化合物については、焼成処理が施される。フリーズドライ処理により層が剥離された無機化合物であっても、再度水分が添加されると凝集体を形成する。焼成処理を施す両親媒性ポリマーが焼失するが、この焼成処理を施しておくと、無機化合物が吸湿等により凝集体を形成することが抑制される。以上のようにして、層状構造を有する層状無機化合物から、層が剥離された無機化合物が得られる。なお、フリーズドライ処理および焼成処理については、後ほど詳細に説明する。
【0032】
このような無機化合物は、以下に示すエラストマーおよび架橋剤等と混合され、加圧成形されることで封止材を形成する。封止材とは、例えば固体電解コンデンサにおいて、コンデンサ素子や電解液等が収納された外装ケースの開口部に装着され、外装ケースを密閉する部材である。無機化合物をエラストマーと混合する場合、無機化合物の添加量は、エラストマー100重量部に対して、0.01〜10重量部とすることが好ましい。
【0033】
(エラストマー)
エラストマーとしては、未架橋ブチルゴムを用いることができる。未架橋ブチルゴムとしては、イソブチレンと少量のイソプレンとの共重合体ゴムを用いる。イソプレンの含有量は、例えば、ゴム全体の0.6〜2.5モル%程度である。他にも、塩素化ブチルゴム、臭素化ブチルゴムなどのブチルゴムや、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)やフッ素ゴム(FKM)、スチレンブタジエンゴム(SBR)を用いることができる。
【0034】
(架橋剤)
架橋剤としては、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂を用いると良い。他にも、過酸化物、キノイド、およびイオウ等を架橋剤として用いることができる。過酸化物としては、例えば、ジクミルペルオキシド、1,1−ジ−(t−ブチルペルオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン等が挙げられる。キノイドとしては、p−キノンジオキシム、p,p’−ジベンゾイルキノンジオキシム等が挙げられる。架橋剤の添加量は、エラストマー100重量部に対して、0.01〜10重量部とすることが好ましい。
【0035】
なお、封止材を形成する際に、例えば、補強剤、増量剤、加工助剤、反応促進剤、加硫促進剤、加硫促進助剤、酸化防止剤、老化防止剤、難燃剤、カップリング剤等の配合剤を添加しても良い。例えば、加工助剤を添加することにより、後述する固相組成物を柔らかくし、加工性を向上することができる。また、無機化合物もより多量に添加できるようになる。加工助剤としては、例えばポリブテンオイル、パラフィン系オイル、パラフィン系ワックス、ナフテン系オイル、脂肪酸、脂肪酸塩等を使用できる。
【0036】
他にも、封止材を形成する際に、繊維を添加することもできる。繊維の添加により封止材の機械的強度を更に向上させることができる。繊維としては、例えば、ビニロン短繊維、ポリエステル短繊維、ナイロン短繊維等の短繊維が好ましく、特に長さ1〜5mm程度の短繊維が好ましい。
【0037】
(封止材)
封止材は、エラストマーに、無機化合物および架橋剤等の配合剤を混練し、加圧成形することにより得られる加硫化物を用いて形成される。加硫化物において、層状構造が剥離された無機化合物は、エラストマー内に含有され均一に分散している。ただし、剥離された層状構造は、混練・加硫工程において一部凝集体を形成する場合がある。本実施形態の無機化合物が、加硫化物において形成する凝集体の大きさは3μm以下である。
【0038】
得られた加硫化物は、電解コンデンサ、キャパシタ、および電池等の蓄電デバイスにおいて封止材として用いると良い。例えば、封止材の表面をテフロン(登録商標)等の樹脂でコーティングしたり、封止材の表面にベークライト等の板を貼り付けると溶媒蒸気の透過性が低減するのでさらに好ましい。ただし、得られた加硫化物の用途は封止材に限定さるものではない。
【0039】
蓄電デバイスの電解液としては、一般的に用いられている溶媒や電解質が使用できる。例えば、エチレングリコール、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルイソプロピルスルホン、エチルメチルスルホン、エチルイソブチルスルホンなどの鎖状スルホン、スルホラン、3−メチルスルホラン、γ−ブチロラクトン、アセトニトリル、1,2−ジメトキシエタン、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキソラン、ニトロメタン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、メタノール、クロロホルム、アセトン、テトラヒドロフラン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの有機溶媒、水、またはこれらの溶媒との混合物を用いることもできる。
【0040】
[3.無機化合物の製造方法]
上記のような本実施形態の無機化合物の製造方法は、以下の工程を含む。
(1)層状構造を有する層状無機化合物と、両親媒性ポリマーを溶媒に添加し、溶媒を撹拌して層を剥離させる剥離工程
(2)溶媒を真空凍結乾燥させるフリーズドライ工程
(3)フリーズドライ工程により得られた、層が剥離された無機化合物を焼成する焼成工程
【0041】
(1)剥離工程
剥離工程においては、まず、層状構造を有する層状無機化合物と両親媒性ポリマーを溶媒に添加する。層状無機化合物は、溶媒に対して0.01〜10wt%となるように添加すると良い。この溶液を撹拌すると層状無機化合物が溶媒に分散され、層状無機化合物において層間距離が増大する。そして、両親媒性ポリマーの親水部が、層状無機化合物の各層の表面にインターカレーションする。したがって、無機化合物の層間距離がさらに増大して剥離される。この層が剥離した状態は、両親媒性ポリマーの疎水部によって維持又は拡大される。なお、層状無機化合物が分散した溶媒と、両親媒性ポリマーが分散した溶媒とを混合しても良い。望ましくは、層状無機化合物の分散液に両親媒性ポリマーの分散液を攪拌しながら滴下する。滴下によると、両親媒性ポリマーの親水部が層状無機化合物の各層の表面へインターカレーションし易くなる。
【0042】
層状無機化合物と両親媒性ポリマーの分散溶液を、撹拌後静置することで層状無機化合物の層状構造が崩れてカードハウス構造が形成される。カードハウス構造においては、層状無機化合物の各層は、他の層から剥離された状態である。撹拌時間を0.5〜5時間程度とし、静置時間を静置無しを含む0〜3時間程度とすることで、層状無機化合物の層間距離を充分に増大した上で、カードハウス構造を形成することができて良い。
【0043】
(2)フリーズドライ工程
フリーズドライ工程においては、両親媒性ポリマーが付着し、層が剥離された無機化合物が含まれる剥離溶液について、フリーズドライ処理が施される。フリーズドライ処理に先立ち、凍結庫等を用いて大気中−45℃程度で剥離溶液の予備冷凍を行うと良い。予備冷凍を行うと、フリーズドライ処理において水分が均一に昇華される。予備冷凍を行う時間は、剥離溶液の体積により異なるが、剥離溶液が250mLであれば、大気中において例えば2〜3時間程度行う。
【0044】
予備冷凍された剥離溶液は、フリーズドライ処理において真空凍結乾燥機を用いて真空凍結乾燥される。真空凍結乾燥機の乾燥室において、予備冷凍された剥離溶液は、例えば−40℃で凍結状態が維持される。凍結と同時に乾燥室が真空排気されることにより、凍結された剥離溶液に含まれる水分および両親媒性ポリマーが昇華され、層が剥離したままの状態で無機化合物が乾燥される。フリーズドライ処理を行う時間は、凍結された剥離溶液の体積により異なるが、厚さ2〜3cm程度の氷であれば、2〜4日程度行う。以上のようなフリーズドライ工程において、層が剥離された無機化合物が含まれる剥離溶液から、層状無機化合物の各層が回収される。すなわち、層が剥離された無機化合物が回収される。
【0045】
(3)焼成工程
焼成工程では、フリーズドライ工程により回収された層が剥離された無機化合物について焼成処理を行う。焼成処理は、焼成温度700〜1000℃、焼成時間は3〜7時間程度行うことが好ましい。焼成処理を施しておくと、吸湿等により無機化合物が吸水したとしても、剥離された層が凝集して凝集体を形成することが抑制される。なお、フリーズドライ処理では、両親媒性ポリマーの全てが消化せず無機化合物に付着した状態で回収される可能性があるが、焼成処理により両親媒性ポリマーは焼失する。
【0046】
[4.封止材の製造方法]
以上のようにして形成された無機化合物を用いた封止材の製造方法は、以下の工程を含む。
(1)無機化合物とエラストマーを混練して、固相組成物を生成する混練工程
(2)固相生成物を加圧成形して、加硫化物を生成する加硫工程
【0047】
(1)混練工程
混練工程では、エラストマーに、無機化合物および架橋剤等が添加され、これらを混練することにより固相組成物が得る。混練手段としては、バンバリミキサーやインターナルミキサー等の密閉式ミキサーおよび2本ロールミル等のオープンロールミルを好適に用いることができる。混練手段としては、他にも、例えばニーダー、一軸押出機、二軸押出機が挙げられる。混練手段は、単独で用いても良いし、複数を組み合わせて利用しても良い。混合時間は、用いる混練手段により異なるが、30分〜1時間程度混合することで各材料が均一に混合される。混練温度は、20〜50℃とすると良い。
【0048】
(2)加硫工程
加硫工程では、得られた固形組成物を、PET(PolyEthylene Terephthalate)シートの型に入れ、ヒートプレスすることで加硫(架橋)させるとともに板状に加工する。プレスの条件は、温度を190℃以上、圧力を10Mpa、およびプレス時間を7〜8分とすることが好ましい。なお、PETシートの型ではなく、金型に入れて所定の圧力とプレス時間でプレスすることにより加硫させることもできる。加硫工程において得られた板状の加硫化物について、必要に応じて加工を行うことで封止材が形成される。
【0049】
[5.作用効果]
本実施形態の無機化合物が奏する作用効果は以下の通りである。
(1)本実施形態の無機化合物は、層状構造を有する層状無機化合物において層が剥離されている。
層が剥離された無機化合物をエラストマー等の高分子材料と混合することにより、無機化合物をエラストマーに均一に分散させることができる。このような加硫化物を封止材に用いることで、気体の透過を抑制し、気密性が向上された蓄電デバイスを提供することができる。すなわち、封止材のガスバリア特性を良好とすることができる。
【0050】
(2)層状無機化合物が、ベントナイトである。
ベントナイトは、層状構造を有するモンモリロナイトを主成分としているため、ベントナイトを用いることで層が剥離された無機化合物を効率的に得ることができる。
【0051】
また、本実施形態の封止材が奏する作用効果は以下の通りである。
(3)上記の無機化合物が、エラストマーに含有され、エラストマーにおいて無機化合物が形成する凝集体の大きさが、3μm以下であることを特徴とする。
【0052】
層が剥離された無機化合物がエラストマーに含有されると、一部凝集体を形成する場合がある。しかし、本実施形態の無機化合物が形成する凝集体の大きさは3μm以下であるため、エラストマーの一部に無機化合物が大きく凝集することがない。エラストマーにおいて大きな凝集体が存在することは、エラストマー内に無機化合物が均一に分散されていないことになる。よって、気体の通り道となる隙間が多数存在する。一方、凝集体の大きさが3μm以下の場合、無機化合物はエラストマー内に均一に分散している状態であるため、無機化合物により気体の通りが阻害される。よって、封止材のガスバリア特性を良好とすることができる。
【0053】
さらに、本実施形態の無機化合物の製造方法が奏する作用効果は以下の通りである。
(4)疎水部の両末端にアミノ基又はアミド基を有するラジカル重合性ビニルモノマーをイオン化したポリマーブロックからなる親水部が結合した両親媒性ポリマーと、層状構造を有する層状無機化合物を溶媒に添加し、溶媒を撹拌して層を剥離させる剥離工程と、剥離工程により得られた、層が剥離された無機化合物が含まれる剥離溶媒を真空凍結乾燥させるフリーズドライ工程と、フリーズドライ工程により得られた、層が剥離された無機化合物を焼成する焼成工程と、を有する。
【0054】
剥離工程において、疎水部の両末端にアミノ基又はアミド基を有するラジカル重合性ビニルモノマーをイオン化したポリマーブロックからなる親水部が結合した両親媒性ポリマーが添加されることにより、両親媒性ポリマーの親水部が、層状無機化合物の各層の表面にインターカレーションする。これにより、無機化合物の層間距離が増大して剥離され、さらに両親媒性ポリマーの疎水部によって、層が剥離した状態が維持又は拡大される。
【0055】
この層が剥離された無機化合物が含まれる剥離溶液を真空凍結乾燥することにより、層が剥離された状態で無機化合物を回収することができる。この回収物を焼成することにより、吸湿等により無機化合物が吸水したとしても、層が剥離された状態が維持される。よって、剥離された層が凝集して凝集体を形成することが抑制される。以上より、封止材のガスバリア特性を良好とする無機化合物を提供することができる。
【0056】
(5)剥離溶媒を、フリーズドライ工程の前に冷凍させる予備冷凍工程をさらに有する。
予備冷凍した剥離溶液にフリーズドライ処理を施すことで、凍結された溶媒に含まれる水分が均一に昇華される。そのため、得られる層が剥離された無機化合物の品質を向上させることができる。
【実施例】
【0057】
以下、実施例に基づいて本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0058】
(1)無機化合物の結晶構造解析
無機化合物の結晶構造を解析するために、以下の実施例1および比較例1を作成した。
【0059】
<実施例1の無機化合物>
層状無機化合物としてのモンモリロナイトを、純水100mLに対して1g添加した。層状無機化合物が添加された溶液を1時間撹拌することで、モンモリロナイトの分散液を得た。更に、この分散液にポリマー溶液を攪拌しながら混合し、剥離液を得た。ポリマー溶液は、ポリイソブチレン(PIB)の両端にポリN-(3-ジメチルアミノプロピル)メタクリルアミド(PDMA)が結合した両親媒性ポリマーを、純水100mLに対して1g添加して得た。
【0060】
この剥離溶液を大気中−45℃にて2時間予備冷凍した。予備冷凍後の剥離溶液を、−40℃にて凍結状態を維持するとともに乾燥室を真空排気することで、真空凍結乾燥を行った。真空凍結乾燥は、2日間に渡り行った。真空凍結乾燥により回収された層が剥離された無機化合物について、800℃で時間焼成処理を行い、層が剥離された無機化合物を得た。
【0061】
<比較例1の無機化合物>
比較例1の無機化合物としては、製造中に両親媒性ポリマーを添加せず、また剥離工程、フリーズドライ工程及び焼成工程を経ない未処理のモンモリロナイトを用いた。
【0062】
以上の実施例1および2のモンモリロナイトについて、XRD(X線回折法)による結晶構造解析を行った。XRD分析の結果を
図2に示す。
【0063】
図2の比較例1には、7度付近にモンモリロナイトの層間の結晶ピークが観察された。この結晶ピークは、モンモリロナイトを構成する単位層が、規則正しく空間を介して平行に積層されている場合に検出される。比較例1の7度付近のピークの強度が強いことから、積層構造の規則性が強いことが伺えた。一方、実施例1の無機化合物においては、7度付近にピークが検出されなかった。これは、実施例1の無機化合物では、層状構造を有するモンモリロナイトの各層がバラバラに剥離され、層状構造として規則性が失われていることを意味する。すなわち、実施例1の無機化合物は、層が剥離されていることが分かった。
【0064】
(2)加硫化物の特性評価
上記実施例1および比較例1の無機化合物と、エラストマーとを混合し加硫した際に得られる加硫化物の特性を評価するために、以下の実施例2、比較例2および3を作成した。
【0065】
<実施例2>
ブチルゴム3gに対して、実施例1の無機化合物を0.3gと、架橋剤としてアルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂(品名:タッキロール201、田岡化学工業製)を0.24g混合し、30℃において二軸混練押出機で30分間混練し固形組成物を得た。得られた固形組成物をPETシートの型に入れ、温度190℃、圧力10MPaの条件で、8分プレスして板状の加硫化物を得た。
【0066】
<比較例2>
ブチルゴム3gに対して、比較例1のモンモリロナイトを0.3gと、架橋剤としてのタッキロール201(田岡化学工業製)を0.24g混合し、30℃において二軸混練押出機で30分間混練し固形組成物を得た。得られた固形組成物をPETシートの型に入れ、温度190℃、圧力10MPaの条件で、8分プレスして板状の加硫化物を得た。
【0067】
<比較例3>
ブチルゴム3gに対して、架橋剤としてのタッキロール201(田岡化学工業製)を0.24g混合し、30℃において二軸混練押出機で30分間混練し固形組成物を得た。得られた固形組成物をPETシートの型に入れ、温度190℃、圧力10MPaの条件で、8分プレスして板状の加硫化物を得た。モンモリロナイトを含まない所謂ブランク対照物である。
【0068】
(a)加硫化物の結晶構造解析
実施例2および比較例2の加硫化物について、XRD(X線回折法)による結晶構造解析を行った。XRD分析の結果を
図3に示す。
【0069】
図3からも明らかな通り、層状構造を有するモンモリロナイトが混合された比較例2の加硫化物では、7度付近にモンモリロナイトの層間の結晶ピークが観察された。この結晶ピークは、モンモリロナイトを構成する単位層が、規則正しく空間を介して平行に積層されている場合に検出される。比較例2の7度付近のピークの強度が強いことから、積層構造の規則性が強いことが伺えた。一方、層が剥離されたモンモリロナイトか混合された実施例2の加硫化物では、7度付近にピークが検出されなかった。これは、実施例2では、層状構造を有するモンモリロナイトの各層がバラバラに剥離された状態が、加硫化物の状態においても維持されていることを意味する。
【0070】
(b)加硫化物の透過率測定
上記実施例2、比較例2および3について、波長200〜1500nmにおける透過率を分光光度計を用いて測定した。光透過率の測定結果を
図4に示す。
【0071】
図4からも明らかな通り、モンモリロナイトが混合されていないブランク対照物である比較例3では、透過光が検知おされた可視および近赤外の全ての領域において透過率が高かった。次に、層状構造を有するモンモリロナイトが混合された比較例2では、透過光が検知された可視および近赤外の全ての領域において、比較例3と比べて20%〜40%程度透過率が低くなった。これは、層状構造を有するモンモリロナイトがエラストマーにおいて凝集した結果、入射光が凝集体により吸収又は散乱された結果と考えられる。
【0072】
一方、層が剥離されたモンモリロナイトか混合された実施例2では、透過光が検知された可視および近赤外の全ての領域において、比較例3と透過率が同等であった。つまり、モンモリロナイトの層が剥離された状態で混合された実施例2では、層状構造を有するモンモリロナイトが混合された比較例2と比較して、透過率が上昇している。
【0073】
上記の通り、実施例2では、ブチルゴム3gに対して無機化合物が0.3g、すなわち10%混合されている。熱重量分析の結果より、混合物の加硫工程においてモンモリロナイトは消失せず、加硫化物においてもモンモリロナイトが含まれていることが実証された。この熱重量分析の結果と、上記(a)及び(b)の測定結果より、実施例2の加硫化物は、層が剥離されたモンモリロナイトを含む一方、このモンモリロナイトによる凝集体の形成は、製造工程に含まれる剥離工程、フリーズドライ処理工程及び焼成工程の存在と、両親媒性ポリマーの添加とが相俟って、良好に抑制されていることを意味すると考えられる。
【0074】
(c)加硫化物のSEM分析
上記実施例2および比較例2について、SEM画像にて無機化合物の分散性を確認した。
図5に各加硫化物の断面図のSEM像(×2.00k)を示し、(a)が実施例2の結果であり、(b)が比較例2の結果である。
【0075】
図5からも明らかな通り、層状構造を有するモンモリロナイトを含む比較例2では、モンモリロナイトの凝集体が白く大きな塊として確認され、白く大きな塊の発生によりモンモリロナイトの疎らな領域が多く見られた。一方、層が剥離されたモンモリロナイトを含む実施例2では、比較例2と比べて白い塊は極めて細く、また観察視野全体に均一に分散していた。よって、実施例2では、モンモリロナイトの凝集作用が抑制されていることが伺えた。換言すると、実施例2のSEM画像は、全体的にザラザラしているように観察され、この質感は、モンモリロナイトがブチルゴム内に均一に分散されていることによるものと考えられた。
【0076】
(d)加硫化物のTEM分析
そこで、実施例2について、TEM画像にて無機化合物の分散性を確認した、
図6に、実施例2の断面図のTEM像を示す。
図6の左側は、TEM像(×10k)であり、右側の2図は左側のTEM像の部分拡大像(×200k)である。
【0077】
図6からも明らかな通り、層が剥離されたモンモリロナイトを含む実施例2では、各層がブチルゴム内に均一に分散していることが分かった。これは、Area1および2の部分拡大像からも明らかな通り、モンモリロナイトの層状構造を形成していた単位層が剥離された状態で、ブチルゴム内に存在しているからである。Area2の部分拡大像では、モンモリロナイトの凝集体が黒い点として確認された。ただし、このような凝集体はいずれも3μm以下であり、モンモリロナイトがブチルゴム内に均一に分散されることを阻害する程の大きさではなかった。
【0078】
(e)メタノール透過試験
上記実施例2、比較例2および3について、メタノールの透過度の測定を行った。この試験における透過度は、温度40℃において揮発したメタノールが加硫化物を通過して放出されてしまうことにより、減少してしまったメタノールの質量(g)を、加硫化物1m
2当たりに換算し、また加硫化物の厚み(mm)による透過し難さを加味して加硫化物の厚みを乗じた値であり、負数をとる値が小さいほど、換言すると絶対値が大きいほど、透過する度合いは高いことになる。なお、透過度の測定については、JISZ0208の規格に沿って行われた。
図7に、透過度の測定結果を示す。
【0079】
図7からも明らかな通り、層状構造を有するモンモリロナイトを含む比較例2は、モンモリロナイトを含まない比較例3よりも、加硫化物を通り抜けてしまうメタノールが多く、透過する度合いが高くなった。上記(c)の結果より、比較例2の加硫化物では、モンモリロナイトが凝集体を形成している。そのため、モンモリナイトの疎らな領域が存在し、この疎らな領域ではメタノールが加硫化物を容易に通過してしまうため、透過する度合いが高くなっている。
【0080】
一方、層が剥離されたモンモリロナイトを含む実施例2では、モンモリロナイトを含まない比較例3よりも透過する度合いが低くなった。上記(c)および(d)の結果より、実施例2の加硫化物では、剥離してバラバラになったモンモリロナイトがブチルゴム内に均一に分散しているために、モンモリロナイトが疎らな領域が極めて少なく、加硫化物内にはモンモリロナイトが綿密に満たされている。すなわち、剥離したモンモリロナイト間の隙間は極めて狭く、メタノールが通り抜け難くなっている。そのため、剥離したモンモリロナイトによりメタノールがブロックされる確率が高まり、加硫化物を通過することが抑制され、透過する度合いが低くなっている。このように、両親媒性ポリマーを添加の上で層が剥離されたモンモリロナイトを含む実施例2は、ガスバリア特性が良好な封止材として機能することが確認された。