(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6957249
(24)【登録日】2021年10月8日
(45)【発行日】2021年11月2日
(54)【発明の名称】トリムカバー及び乗物用シート並びに保管搬送具
(51)【国際特許分類】
B60N 2/58 20060101AFI20211021BHJP
【FI】
B60N2/58
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-137192(P2017-137192)
(22)【出願日】2017年7月13日
(65)【公開番号】特開2019-18653(P2019-18653A)
(43)【公開日】2019年2月7日
【審査請求日】2019年12月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000133098
【氏名又は名称】株式会社タチエス
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中島 弘登
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 隆彦
【審査官】
望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−132411(JP,A)
【文献】
実開平06−077618(JP,U)
【文献】
特開2009−022164(JP,A)
【文献】
韓国公開実用新案第20−2007−0000483(KR,U)
【文献】
独国特許出願公開第10005090(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/58
A47C 31/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クッションパッドを覆うことにより乗物用シートを構成するトリムカバーであって、
トリムカバーの保管及び搬送に用いられる保管搬送具の吊り下げ具に引っ掛けられる少なくとも一つの引っ掛け部を、当該トリムカバーが前記クッションパッドを覆っている状態で外部に露出しない側である、当該トリムカバーの裏面側に備えるトリムカバー。
【請求項2】
請求項1記載のトリムカバーであって、
複数の表皮材が縫い合わされてなり、
前記引っ掛け部は、二枚の表皮材が縫い合わされている縫合部に設けられているトリムカバー。
【請求項3】
請求項2記載のトリムカバーであって、
前記引っ掛け部は、前記縫合部に形成された前記二枚の表皮材それぞれの縫い代のうち一方の縫い代に設けられており、前記一方の縫い代に形成された貫通孔を含むトリムカバー。
【請求項4】
請求項3記載のトリムカバーであって、
前記一方の縫い代は、他方の縫い代と重ね合された状態で、前記他方の縫い代から突出して配置される突出部を有し、
前記引っ掛け部は、前記突出部に設けられているトリムカバー。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項記載のトリムカバーであって、
前記引っ掛け部は、当該トリムカバーのシート幅方向の中央部に配置されているトリムカバー。
【請求項6】
請求項1から4のいずれか一項記載のトリムカバーであって、
前記引っ掛け部を複数備え、
複数の前記引っ掛け部は、当該トリムカバーのシート幅方向の中心線を挟んで対称に配置されているトリムカバー。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項記載のトリムカバーによって覆われた乗物用シート。
【請求項8】
請求項1から6のいずれか一項記載のトリムカバーの保管搬送具であって、
当該保管搬送具の設置面から離間して水平に配置されている一つ以上のレールを備え、
前記レールは、前記トリムカバーの前記引っ掛け部が引っ掛けられる複数の吊り下げ具を有する保管搬送具。
【請求項9】
請求項8記載の保管搬送具であって、
前記複数の吊り下げ具は、前記レールの延在方向に移動可能に前記レールに支持されており、且つ前記レールから取り外し不能に前記レールに取り付けられている保管搬送具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トリムカバー及び乗物用シート並びに保管搬送具に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に搭載されるシートのトリムカバーは、一般に、複数の表皮材が縫い合わされてなり、縫製工程の後工程にて、シートのクッションパッドがトリムカバーと一体に発泡成形され(例えば特許文献1参照)、又は別に成形されたクッションパッドにトリムカバーが被せられる(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−325680号公報
【特許文献2】特開2009−112611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
縫製されたトリムカバーは、典型的には、パレットに積み上げられた状態で保管され、上記後工程に搬送される。しかし、パレットに積み上げられたトリムカバーは、上に重なるトリムカバーの重量が負荷された状態で押し潰されており、トリムカバーにシワが付く場合がある。トリムカバーにシワが付いたままではシートの外観品質が損なわれる虞があり、シワをのばす作業には手間を要する。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みなされたものであり、シワの発生を抑制でき、外観品質を高めることができるトリムカバー及び乗物用シート並びに保管搬送具を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様のトリムカバーは、
クッションパッドを覆うことにより乗物用シート
を構成するトリムカバーであって、
トリムカバーの保管及び搬送に用いられる保管搬送具の吊り下げ具に引っ掛けられる少なくとも一つの引っ掛け部を、
当該トリムカバーが前記クッションパッドを覆っている状態で外部に露出しない側である、当該トリムカバーの裏面側に備える。
【0007】
また、本発明の一態様の乗物用シートは、前記トリムカバーによって覆われている。
【0008】
また、本発明の一態様の保管搬送具は、当該保管搬送具の設置面から離間して水平に配置されている一つ以上のレールを備え、前記レールは、前記トリムカバーの前記引っ掛け部が引っ掛けられる複数の吊り下げ具を有する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、シワの発生を抑制でき、外観品質を高めることができるトリムカバー及び乗物用シート並びに保管搬送具を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態を説明するための、乗物用シートの一例の斜視図である。
【
図2】
図1のシートのトリムカバーの単体の斜視図である。
【
図3】
図2のトリムカバーの変形例の斜視図である。
【
図4】
図2のトリムカバーの他の変形例の斜視図である。
【
図5】本発明の実施形態を説明するための、保管搬送具の一例の正面図である。
【
図6】
図2のトリムカバーが
図5の保管搬送具に保管されている状態の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本発明の実施形態を説明するための、乗物用シートの一例を示す。
【0012】
シート1は、自動車等の車両に搭載される乗物用シートであって、シートに着座した乗員の臀部及び大腿部を支持するシートクッション2と、乗員の腰部及び背部を支持するシートバック3と、シートバック3の上端部に設けられており、乗員の頸部及び頭部を支持するヘッドレスト4とを備える。
【0013】
シートクッション2、シートバック3、及びヘッドレスト4は、金属製のフレームと、フレームを覆うクッションパッドとを含み、クッションパッドはトリムカバーによって覆われている。クッションパッドは、例えばウレタンフォームなどの発泡材からなり、トリムカバーと一体に発泡成形されてもよいし、トリムカバーとは別に成形されていてもよい。
【0014】
本例では、シートクッション2のクッションパッドはトリムカバー5によって覆われており、シートバック3のクッションパッドとヘッドレスト4のクッションパッドとは、トリムカバー5とは別のトリムカバー6によって覆われている。なお、ヘッドレスト4がシートバック3に対して昇降可能に構成される場合などに、シートバック3のクッションパッドとヘッドレスト4のクッションパッドとが個別のトリムカバーによって覆われていてもよい。また、シートクッション2のクッションパッドとシートバック3のクッションパッドとが、一つのトリムカバーによって一体に覆われていてもよい。
【0015】
図2は、トリムカバー6を示す。なお、
図2では、トリムカバー6は裏返された状態で示されている。
【0016】
トリムカバー6は、乗員の腰部及び背部に接するシートバック3の前面を覆う前面表皮材10と、シートバック3の後面を覆う後面表皮材11と、シートバック3のシート幅方向両側の側面を覆う二枚の側面表皮材12(
図2には一方の側面表皮材12のみ示されている)と、シートバック3の下端面を覆う下端面表皮材13と、を含む複数の表皮材が縫い合わされて形成されている。表皮材としては、例えば皮革、織布、不織布等が用いられる。トリムカバーは、一種の表皮材によって形成されてもよいし、部位に応じて異なる複数種の表皮材によって形成されてもよい。
【0017】
前面表皮材10と、後面表皮材11と、二枚の側面表皮材12とは、互いに縫い合わされて筒体を構成している。下端面表皮材13は、前面表皮材10と、二枚の側面表皮材12と縫い合わされており、上記筒体の一端側の開口14を開閉可能に塞ぐフラップ状の蓋を構成している。シートバック3のフレームや、トリムカバー6とは別に成形されるシートバック3のクッションパッドは、開口14を通してトリムカバー6に収容される。
【0018】
そして、トリムカバー6は、吊り下げ具に引っ掛けられる引っ掛け部15を備える。トリムカバー6がシートバック3のクッションパッドを覆っている状態で、引っ掛け部15が外部に露出しないよう、引っ掛け部15はトリムカバー6の裏面側に設けられ、本例では、前面表皮材10と下端面表皮材13とが縫い合わされている縫合部16に設けられている。
【0019】
引っ掛け部15は、例えば前面表皮材10及び下端面表皮材13とは別に設けられ、且つ前面表皮材10及び下端面表皮材13と縫い合わされる小片によって構成されてもよいが、好ましくは、縫合部16に形成された前面表皮材10の縫い代17及び下端面表皮材13の縫い代18のうち一方の縫い代に設けられ、この縫い代に形成された貫通孔を含む。本例では、引っ掛け部15は、下端面表皮材13の縫い代18に設けられており、縫い代18に形成された貫通孔19を含んでいる。貫通孔19には吊り下げ具が挿通される。引っ掛け部15が、下端面表皮材13の縫い代18(又は前面表皮材10の縫い代17)に設けられることにより、前面表皮材10及び下端面表皮材13とは別の小片を前面表皮材10及び下端面表皮材13に縫い合わせる手間が省かれ、また部品点数も削減される。
【0020】
下端面表皮材13の縫い代18には突出部18aが設けられており、突出部18aは、前面表皮材10の縫い代17と重ね合わされた状態で、縫い代17から突出して配置される。引っ掛け部15は、この突出部18aに設けられている。引っ掛け部15が突出部18aに設けられていることにより、縫い代17と縫い代18とが重なり合っていても、貫通孔19が縫い代17によって塞がれず、吊り下げ具が貫通孔19に挿通される際に、縫い代17が作業の妨げとならない。
【0021】
引っ掛け部15の数及び配置は特に限定されないが、本例では、シート1が一人掛けのシートであってシート1の幅が比較的狭く、このような場合に、好ましくは、シート幅方向に延びる縫合部16のシート幅方向の中央部に一つの引っ掛け部15が配置される。縫合部16の中央部に配置された一つの引っ掛け部15にてトリムカバー6が吊り下げられることにより、トリムカバー6のシート幅方向両側の側部が垂れ下がるトリムカバー6の型崩れが表皮材の剛性によって抑制され、型崩れに起因するシワの発生が抑制される。また、吊り下げ具に対するトリムカバー6の着脱も容易となる。
【0022】
一方、シート1が、例えば後席シート等の複数人掛けのシートなどであって、シート1の幅が比較的広いような場合には、
図3に示すように、引っ掛け部15は、縫合部16に複数設けられてもよく、複数の引っ掛け部15が設けられる場合に、好ましくは、トリムカバー6のシート幅方向の中心線Aを挟んで対称に複数の引っ掛け部15が配置される。これにより、トリムカバー6の幅が比較的広い場合にも、トリムカバー6の型崩れが抑制され、型崩れに起因するシワの発生が抑制される。なお、
図4に示すように、複数の引っ掛け部15は、一方の側面表皮材12と下端面表皮材13との縫合部20と、他方の側面表皮材12と下端面表皮材13との縫合部21とに設けられてもよい。
【0023】
図5及び
図6は、トリムカバーの保管及び搬送に用いられる保管搬送具の一例を示す。
【0024】
保管搬送具30は、
図2に示したトリムカバー6の保管及び搬送に用いられるものである。保管搬送具30は、この保管搬送具30が設置される設置面Fから上方に離間して水平に配置されるレール31と、レール31の両端を支持するフレーム32とを備える。フレーム32は箱状に形成されており、レール31の延在方向と平行な前面及び後面のうち少なくとも一方の面は開放されている。本例では、二本のレール31が上下方向に間隔をあけて配置されているが、レール31は一本であってもよいし三以上の複数本であってもよく、複数本のレール31は、上下方向及び/又は前後方向に間隔をあけて配置されてもよい。
【0025】
レール31は、複数の吊り下げ具33を有し、吊り下げ具33は、トリムカバー6の引っ掛け部15に形成されている貫通孔19に挿通されるフック部34と、レール31に取り付けられる取付部35とを有する。取付部35は、環状に形成されており、レール31が取付部35に挿通されることにより、吊り下げ具33は、レール31に沿って移動可能にレール31に支持され、且つレール31から取り外し不能にレール31に取り付けられている。
【0026】
図6に示すように、吊り下げ具33のフック部34が引っ掛け部15の貫通孔19に挿通され、トリムカバー6はレール31に吊り下げられる。レール31に吊り下げられた複数のトリムカバー6は、レール31に沿って重なり合って配置されるが、水平方向に重なり合うため、各トリムカバー6に他のトリムカバー6の重量が負荷されることはなく、トリムカバー6のシワの発生が抑制される。これにより、トリムカバー6及びこのトリムカバー6によって覆われるシート1の外観品質が維持される。
【0027】
また、トリムカバー6が吊り下げ具33から取り外される際に、吊り下げ具33のフック部34が引っ掛け部15の貫通孔19から抜かれるが、吊り下げ具33がレール31から取り外し不能にレール31に取り付けられているため、吊り下げ具33がトリムカバー6と共にレール31から脱落することはなく、作業性が高まる。
【0028】
ここまで、シート1のシートバック3を覆うトリムカバー6を例にして本発明を説明したが、シートクッション2を覆うトリムカバー5もまた、トリムカバー6と同様に、トリムカバーの裏面側に引っ掛け部を設け、保管搬送具30のレール31に吊り下げることができる。また、自動車等の車両に搭載されるシート1に限らず、本発明は、航空機、船舶等の車両以外の乗物用のシートにも応用できる。
【0029】
以上、説明したとおり、本明細書に開示されたトリムカバーは、乗物用シートのトリムカバーであって、吊り下げ具に引っ掛けられる少なくとも一つの引っ掛け部を、当該トリムカバーの裏面側に備える。
【0030】
また、本明細書に開示されたトリムカバーは、複数の表皮材が縫い合わされてなり、前記引っ掛け部は、二枚の表皮材が縫い合わされている縫合部に設けられている。
【0031】
また、本明細書に開示されたトリムカバーは、前記引っ掛け部が、前記縫合部に形成された前記二枚の表皮材それぞれの縫い代のうち一方の縫い代に設けられており、前記一方の縫い代に形成された貫通孔を含む。
【0032】
また、本明細書に開示されたトリムカバーは、前記一方の縫い代が、他方の縫い代と重ね合された状態で、前記他方の縫い代から突出して配置される突出部を有し、前記引っ掛け部は、前記突出部に設けられている。
【0033】
また、本明細書に開示されたトリムカバーは、前記引っ掛け部が、当該トリムカバーのシート幅方向の中央部に配置されている。
【0034】
また、本明細書に開示されたトリムカバーは、前記引っ掛け部を複数備え、複数の前記引っ掛け部は、当該トリムカバーのシート幅方向の中心線を挟んで対称に配置されている。
【0035】
また、本明細書に開示された乗物用シートは、前記トリムカバーによって覆われている。
【0036】
また、本明細書に開示された保管搬送具は、前記トリムカバーの保管搬送具であって、当該搬送具の設置面から離間して水平に配置されている一つ以上のレールを備え、前記レールは、前記トリムカバーの前記引っ掛け部が引っ掛けられる複数の吊り下げ具を有する。
【0037】
また、本明細書に開示された保管搬送具は、前記複数の吊り下げ具が、前記レールの延在方向に移動可能に前記レールに支持されており、且つ前記レールから取り外し不能に前記レールに取り付けられている。
【符号の説明】
【0038】
1 乗物用シート
2 シートクッション
3 シートバック
4 ヘッドレスト
5 トリムカバー
6 トリムカバー
10 前面表皮材
11 後面表皮材
12 側面表皮材
13 下端面表皮材
14 開口
15 引っ掛け部
16 縫合部
17 縫い代
18 縫い代
18a 突出部
19 貫通孔
20 縫合部
21 縫合部
30 保管搬送具
31 レール
32 フレーム
33 吊り下げ具
34 フック部
35 取付部
A 中心線
F 設置面